説明

分離膜の改質方法および装置、その方法により改質された分離膜、並びに分離膜の運転方法および装置

【課題】確実にかつ安定して分離膜に抗菌性能を付与するために、効果的に分離膜を改質可能な分離膜の改質方法および装置、および、その方法により改質された分離膜、並びに、改質中であっても所望の純水を安定して製造可能な分離膜の運転方法および装置を提供する。
【解決手段】分離膜に、ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を加圧通水し、分離膜に前記有機物質を介して銀イオンを固定化し、分離膜の抗菌性能を向上させることを特徴とする分離膜の改質方法および装置、その方法により改質された分離膜、およびその分離膜の改質装置の後段に紫外線酸化装置およびイオン交換樹脂装置を接続した運転方法および装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜、特に逆浸透膜(RO膜)またはナノろ過膜(NF膜)を改質し、抗菌性能を付与することによって、分離膜における菌類の発生を防ぎ、安定した長期運用を実現するための処理に関する方法および装置、並びにその方法により改質された分離膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、海水の淡水化や超純水、各種製造プロセス用水を得る方法として、例えばRO膜やNF膜を分離膜とするモジュールを用い、原水中からイオン成分や低分子成分を分離する方法が知られている。以前と比較すると、RO膜やNF膜の性能は格段に向上し、高阻止性能・低圧力運転が可能な膜も使われている。
【0003】
しかし、恒常的な問題として、分離膜モジュールにおいて、微生物をはじめとする生物汚染の発生がある。特にスライムの発生として知られている現象であるが、例えばスパイラル型膜エレメントにおいてスライムが発生すると、原水と濃縮水の圧力差、すなわち通水差圧が上昇し、特に複数のエレメントを直列に配置した装置の場合、後方のエレメントに行けば行くほど、圧力が低くなってしまい、所定の透過水量が得られなくなってしまう。さらに極端に通水差圧が上昇すると、エレメントそのものが破損する恐れすらある。また、スライムの発生までに至らなくても、エレメント内の汚染物質の腐敗が進行し、臭気が発生する場合もある。
【0004】
生物汚染の発生を抑止するために、酸化剤による殺菌をすることが考えられるが、現在主流のポリアミド系素材をスキン層に持つRO膜やNF膜は、酸化劣化しやすく、特に、原水中に次亜塩素酸ナトリウムをはじめとする酸化性の物質が含まれる場合や、原水のORPが高い場合、膜の劣化が早まり、寿命を短くする原因となっている。そのため、RO膜やNF膜を酸化剤によって殺菌をすることは事実上不可能である。酸化作用が比較的緩やかなクロラミンを用いる例もあるが、酸化剤であることには変わりなく、膜の劣化は避けられない。酸化劣化に比較的強い、ピペラジンアミド系の膜もあるが、性能が十分ではない。
【0005】
ところで、銀イオンは昔より抗菌作用を持つ物質として良く知られている物質であり、幅広い分野で利用されている。例えば、特許文献1や特許文献2には、高分子素材へ抗菌性金属を配位させる方法が示されており、タンニン酸などのポリフェノール類に金属イオンが配位することが知られている。一方本発明者らは、既に公開されている特許文献3において、分離膜にポリフェノール類を含む水を加圧通水し、分離膜の阻止性能を向上させる方法を提供している。
【0006】
特許文献4には、RO膜へ銀電解水を供給することで、膜を殺菌する方法が示されている。しかしこの方法では、規模の大きい装置では必要とされる銀電解水量も多量となってしまい、装置が大掛かりかつ高コストなものとなるし、銀イオンが分離膜に固定化されないため、銀電解水を供給していない間は菌類繁殖の懸念が残る。また、特許文献5には、RO膜の後段へ銀イオンを担持した活性炭を設置し殺菌する方法が示されている。しかしこの方法では、RO膜そのものを殺菌することはできず、RO膜における菌類繁殖の懸念がある。さらに、特許文献6には、0.1μm以下の細孔径を持つ分離膜に供給する水を、銀系無機抗菌剤を導入した配管を通した上で、分離膜へ供給する方法が示されている。しかしこの方法では、分離膜への供給水の殺菌はできるものの、銀イオンが分離膜に固定化されないため、分離膜そのものが抗菌作用を持つかどうかに疑問が残る。
【特許文献1】特開2000-73277号公報
【特許文献2】特開2000-204182号公報
【特許文献3】特開2006-223963号公報
【特許文献4】特開平8-294689号公報
【特許文献5】特開2000-288539号公報
【特許文献6】特開2005-313151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の課題は、このような実情に鑑み、より確実にかつ安定して分離膜に抗菌性能を付与できるようにし、効果的に分離膜を改質可能な分離膜の改質方法および装置、および、その方法により改質された分離膜、並びに、改質中であっても所望の純水、とくに超純水を安定して製造可能な分離膜の運転方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、分離膜にポリフェノールおよび銀イオンを供給することによって分離膜の抗菌性能を高めることができ、菌類やスライムの発生を著しく抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る分離膜の改質方法は、分離膜に、ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を加圧通水し、分離膜に前記有機物質を介して銀イオンを固定化し、分離膜の抗菌性能を向上させることを特徴とする方法からなる。ポリフェノールおよび銀イオンは双方が抗菌作用を持ち、両者を組み合わせることによって、分離膜に非常に強力な抗菌作用を持たせることが可能となる。ポリフェノール単独では抗菌作用が不十分であるし、銀イオン単独では分離膜に固定化されないため、この両者を組み合わせて処理することが重要な要素である。
【0010】
上記ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給する方法としては、ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを混合した混合液を、分離膜へ供給する方法を採用することができる。本方法により、1液で抗菌処理が可能となり、簡便な処理ができる。
【0011】
あるいは、上記ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給する方法として、ポリフェノールを含む有機物質を分離膜へ供給後、銀イオンを含む水を分離膜へ供給する方法を採用することもできる。本方法により、分離膜に対して、ポリフェノールおよび銀イオンの確実な固定化ができる。
【0012】
上記分離膜としては、改質処理前の500mg/L塩化ナトリウム水溶液の阻止率が、99%以下の性能を持つ分離膜を使用することが好ましい。より好ましい阻止率の範囲は98%以下、さらに好ましくは10%以上99%以下、さらに好ましくは20%以上98.5%以下、さらに好ましくは30%以上98%以下である。この方法を用いることで、分離膜の高い抗菌処理効果が得られる。阻止率99%を超える膜には、抗菌処理の効果が不十分となる恐れがある。阻止率は、測定時の温度や透過流束によって異なるので、メーカーがその膜の性能を測定する標準的な条件を適用するか、スパイラル型膜エレメントの場合には、25℃、1.0m/dayの透過流束を目安に測定を行なうのが良い。本願中で言う阻止率とは、特に断りのない限り、この方法で測定されたものを指している。
【0013】
なお、ここで言う「改質処理前」に阻止率99%以下の性能を持つ分離膜とは、新品時に上記性能を持つ膜の他、もともとは99%以上の阻止率を有していたが、使用した結果劣化して上記性能となった膜や、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を接触させて、強制的に酸化劣化させて上記性能とした膜なども含まれる。
【0014】
また、上記分離膜として、逆浸透膜またはナノろ過膜を使用することが好ましい。この方法を用いることによって、特に高い抗菌処理効果が得られる。
【0015】
また、上記分離膜として、スパイラル型膜エレメントを使用することが好ましい。スパイラル型膜エレメントは、コストも安く、汎用性も高いため、この構造の膜を用いるメリットは大きい。また、生物汚染によるトラブルが多いため、本発明方法の利点が特に活かされる。
【0016】
また、上記分離膜として、少なくとも芳香族ポリアミド系素材を含む膜を使用することが好ましい。より好ましくは全芳香族ポリアミド、さらに好ましくは架橋全芳香族ポリアミドである。ポリアミド系素材は、酸化剤による劣化が起こりやすく、通常は酸化剤による殺菌を行なうことができないため、特に生物汚染のトラブルが多い。本発明方法によると、従来不可能であった、ポリアミド系素材のRO膜やNF膜の殺菌が可能となるため、画期的な技術を提供できる。
【0017】
上記有機物質の平均分子量としては、200〜5000であることが好ましい。より好ましい平均分子量は200〜3000、さらに好ましくは200〜2000である。平均分子量200未満だと、有機物質が膜を透過してしまう場合があるため、抗菌処理効果が薄い。5000を超えると、膜のファウリングを引き起こして、透過流束の低下を招くため、好ましくない。
【0018】
上記有機物質としては、タンニン酸を用いることが好ましい。ポリフェノール類の中でもとりわけタンニン酸の効果が高く、この物質を用いるのが良い。
【0019】
タンニン酸としては、加水分解型タンニンを用いることが好ましい。タンニン酸には加水分解型と縮合型があり、とりわけ前者の方が効果が高い。
【0020】
また、上記タンニン酸として、五倍子を原料として作られたものを用いることが好ましい。五倍子から抽出されたタンニン酸は、一般に平均分子量が約1700程度のものが多く、抗菌処理に好適であるものと推定される。
【0021】
銀イオン源としては、硝酸銀、硫酸銀のうち、少なくともいずれか一つを含む物質を用いることができる。銀イオン源としては特に限定されないが、一般的に入手しやすいものとして、硝酸銀、硫酸銀などが挙げられ、これらを用いることが汎用性、コストの面でも望ましい。
【0022】
本発明は、上記のような分離膜の改質方法により改質された分離膜についても提供する。
【0023】
本発明では、分離膜の運転に際し、その運転中に連続的または断続的に、ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給し、阻止性能を安定させて運転することができる。本方法により、水処理システム中にて使用されている分離膜であっても、インライン処理にて抗菌処理を実施することが可能となる。
【0024】
また、本発明に係る分離膜の運転方法は、分離膜に原水を供給し原水を透過水と濃縮水とに分離する運転中に、上記のような分離膜の改質方法により、連続的または断続的にポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給することにより分離膜を改質し、改質処理中の分離膜の透過水を、後段に設けた紫外線酸化装置およびイオン交換樹脂装置を通し純水として(とくに、超純水として)送出することを特徴とする方法からなる。従来、特許文献3において公開されている方法では、供給したポリフェノールの一部が分離膜を透過し、改質処理中の分離膜の透過水の水質が低下することがあった。本発明者は、このような場合であっても、改質処理中の分離膜の透過水を、後段に設けた紫外線酸化装置およびイオン交換樹脂装置を通すことで、純水として送出することができることを見出し、本発明を創作するに至った。すなわち、本方法により、従来分離膜の阻止性能が経時的に低下してしまうシステムに対し、安定した運転を継続することが可能となる上、超純水中へのポリフェノールの漏えいを防止もしくは抑制し、超純水製造システムを停止することなく超純水の連続的な供給ができる、もしくは停止を最低限に留めることができる。
【0025】
この運転方法においては、上記改質処理中の分離膜の透過水を捨てることなく、後段の紫外線酸化装置およびイオン交換樹脂装置に供給し、分離膜の改質処理中であっても運転を停止することなく、連続的に純水を製造することができる。本方法により、従来分離膜の阻止性能が経時的に低下してしまうシステムに対し、安定した運転を継続することが可能となる上、超純水中へのポリフェノールの漏えいを防止し、超純水の連続的な供給が可能となる。したがって、超純水を連続的に使用し、停止することができないシステムにおいても、改質処理の実施が可能となる。さらに、分離膜透過水の排水量が減少するため、水回収率が向上する。
【0026】
このとき、上記純水のTOC濃度の変動幅を、ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を添加していない時の濃度に対して、添加中であっても2倍以下に抑制することが好ましい。変動幅は好ましくは1.5倍以下、さらに好ましくは1.3倍以下が良い。この範囲を外れてしまうと、変動が大きすぎ、水質が不安定となる。本方法により、超純水中に含まれるTOC濃度の変動を一定範囲に抑制することができ、安定した水質の超純水を供給することが可能となる。
【0027】
上記イオン交換樹脂装置に充填されるイオン交換樹脂としては、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を混合した、混床イオン交換樹脂を用いることができる。純水を超純水として仕上げる、いわゆるサブシステム(2次純水設備)において用いられるイオン交換樹脂は混床樹脂であることが多く、この樹脂を用いることが汎用性の観点から優れている。陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂の混合比は、特に限定されないが、体積比で5:1〜1:5の範囲、好ましくは3:1〜1:3の範囲とすることが良い。この範囲を外れてしまうと、水中の各種成分の除去性能が悪くなったり、イオン交換樹脂の寿命が短くなったりするため、好ましくない。
【0028】
また、上記イオン交換樹脂装置に充填されるイオン交換樹脂として、陰イオン交換樹脂を用いることもできる。ポリフェノール類の除去に関与するのは陰イオン交換樹脂であり、本方法により、効率的な除去が可能となる。
【0029】
本発明に係る分離膜の改質装置は、分離膜に、ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を加圧通水し、分離膜に前記有機物質を介して銀イオンを固定化し、分離膜の抗菌性能を向上させる手段を有することを特徴とするものからなる。
【0030】
上記ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給する手段としては、ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを混合した混合液を、分離膜へ供給する手段とすることができる。
【0031】
また、上記ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給する手段として、ポリフェノールを含む有機物質を分離膜へ供給後、銀イオンを含む水を分離膜へ供給する手段とすることもできる。
【0032】
上記分離膜としては、改質処理前の500mg/L塩化ナトリウム水溶液の阻止率が、99%以下の性能を持つ分離膜が使用されることが好ましい。
【0033】
また、上記分離膜として、逆浸透膜またはナノろ過膜が使用されることが好ましい。
【0034】
また、上記分離膜として、スパイラル型膜エレメントが使用されることが好ましい。
【0035】
また、上記分離膜として、少なくとも芳香族ポリアミド系素材を含む膜が使用されることが好ましい。
【0036】
上記有機物質の平均分子量としては、200〜5000であることが好ましい。
【0037】
また、上記有機物質として、タンニン酸が用いられることが好ましい。
【0038】
タンニン酸としては、加水分解型タンニンが用いられることが好ましい。
【0039】
また、タンニン酸として、五倍子を原料として作られたものが用いられることが好ましい。
【0040】
銀イオン源としては、硝酸銀、硫酸銀のうち、少なくともいずれか一つを含む物質が用いられることが好ましい。
【0041】
本発明に係る分離膜の運転装置は、上記のような分離膜の改質装置の後段に、連続的または断続的にポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給することにより改質処理中の分離膜からの透過水を、純水として送出する紫外線酸化装置およびイオン交換樹脂装置が設けられていることを特徴とするものからなる。
【0042】
この分離膜の運転装置においては、上記改質処理中の分離膜の透過水が捨てられることなく、後段の紫外線酸化装置およびイオン交換樹脂装置に供給され、分離膜の改質処理中であっても運転が停止されることなく、連続的に純水が製造されるようにすることができる。
【0043】
また、この分離膜の運転装置は、上記純水のTOC濃度を測定可能な水質計を有することが好ましい。
【0044】
また、上記イオン交換樹脂装置に充填されるイオン交換樹脂としては、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を混合した、混床イオン交換樹脂が用いられることが好ましい。
【0045】
あるいは、上記イオン交換樹脂装置に充填されるイオン交換樹脂として、陰イオン交換樹脂が用いられることも好ましい。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、市販の分離膜、特に従来殺菌剤を使用することができなかった、RO膜やNF膜を抗菌化することが可能となり、長年の懸案であった生物汚染のトラブルに対処することが可能となる。幅広い産業での利用価値が高く、特に医製薬産業や食品産業、浄水場、家庭用浄水器など、菌類の繁殖や臭気を確実に避けなければならない分野への適用が広がることが想定され、産業上の利用価値は極めて高い。
【0047】
また、ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を、連続的または断続的に分離膜へ供給することによって、分離膜の酸化劣化が起こりやすい原水においても、安定した性能で運転を継続することができ、かつその改質処理中であっても、後段への影響を最小限とし、超純水の給水を継続または停止を短時間とすることが可能となる。産業上の利用価値は、非常に高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を示すものであり、本発明の内容を制限するものではない。
【0049】
本発明の第1の実施の形態(オフライン処理)に係る分離膜の改質方法を図1を参照して説明する。図1は本例の処理方法を実施する、膜改質装置の機器系統図である(圧力計、流量計、弁などは適宜省略してある)。1は分離膜供給水タンク(原水タンク)、2は加圧ポンプ、3は分離膜モジュール、4は圧力調節弁、5〜9はボール弁からなる弁を、それぞれ示している。なお、分離膜モジュール3は、分離膜そのものである膜エレメント31と、膜エレメントを格納するための耐圧容器であるベッセル32から成る。
【0050】
ベッセル32内に膜エレメント31を装填後、弁5を閉の状態でタンク1に水を十分量入れ、弁6、8、9を閉、弁5、7を開、弁4を適宜開として、ポンプ2を起動する。圧力がかからない状態でしばらく通水し、必要であればタンク1へ水を補給しながら、分離膜モジュール3を水洗する。なお、本発明でいう圧力がかからない状態とは、透過水が得られないほどの低圧の状態をいう。
【0051】
次にポンプ2停止後、弁5を閉として、タンク1に水を所定量入れ、改質薬品である有機物質および銀イオンを所定量加えて、十分に溶解する。弁7、9を閉、弁5、6、8を開、弁4を所定の圧力になるように開として、ポンプ2を起動する。
【0052】
所定時間経過後、ポンプ2を停止し、弁9を開けてタンク1内の薬液を排出する。水でタンク1を水洗後、弁9を閉として水を貯留する。弁6、8、9を閉、弁5、7を開、弁4を適宜開として、ポンプ2を起動する。圧力がかからない状態でしばらく通水し、必要であればタンク1へ水を補給しながら、分離膜モジュール3を水洗する。また弁6も開として、循環ラインの水洗も適宜行なう。
【0053】
本実施形態では、有機物質と銀イオンを混合して処理する場合を示したが、別々に用いることもできる。その場合には、有機物質→銀イオンの順番で用い、それぞれの処理の間に、水洗工程を設ける。
【0054】
水洗工程は、弁5を閉の状態でタンク1に水を十分量入れ、弁6、8、9を閉、弁5、7を開、弁4を適宜開として、ポンプ2を起動する。圧力がかからない状態でしばらく通水し、必要であればタンク1へ水を補給しながら、分離膜モジュール3を水洗する。
【0055】
改質処理後の分離膜は、水処理装置全体のシステム中で用いることができる。例えば、原水を凝集沈殿、砂ろ過、膜ろ過等の方法で除濁処理後、改質処理をした分離膜を用いたり、後段にEDIを用いたりすることもできる。
【0056】
タンク1に供給する水は、純水が好ましいが、純水が利用できない場合は、SDI値が5以下の除濁水を用いてもよい。
【0057】
処理時間は、特に限定されないが、有機物質と銀イオンの混合物による処理、または有機物質による処理、および銀イオンを含む水溶液による処理それぞれに、5分〜24時間、好ましくは30分〜6時間であることが、効率の良い処理をするために好ましい。5分未満では処理の効果が薄く、24時間を超えるとファウリングを起こしたり、抗菌処理効果のさらなる向上が望めなかったりする場合があり、好ましくない。
【0058】
本発明の第2の実施の形態(インライン処理)における分離膜モジュールの運転方法を図2を参照して説明する。図2は本例の運転方法を実施する、分離膜装置の機器系統図である(圧力計・流量計・弁などは適宜省略してある)。1は分離膜供給水タンク、2は加圧ポンプ、3は分離膜モジュール、4は圧力調節弁、5〜9はボール弁、10、20は薬液タンク、11、21は薬注ポンプを示している。なお、分離膜モジュール3は、分離膜そのものである膜エレメント31と、膜エレメントを格納するための耐圧容器であるベッセル32から成る。また、12は水質計、例えば導電率計からなり、検出した水質に応じて電気信号を薬注ポンプ11、21に送ることができるようになっている場合の例を示している。
【0059】
通常の運転時は、前段からの水、例えば除濁処理された原水を、供給水タンク1に受ける。弁5、7を開、弁4を所定の圧力になるように開、弁6、8、9を閉として、加圧ポンプ2にて加圧された原水を、分離膜モジュール3で濃縮水と透過水に分離し、濃縮水はブロー、透過水は後段の装置へ送水される。なお、ボール弁6および7を適宜調整し、濃縮水を一部循環する場合もある。
【0060】
薬液タンク10には、あらかじめ所定の濃度とした有機物質水溶液を、薬液タンク20には、あらかじめ所定の濃度とした銀イオン水溶液を貯留しておく。断続的に添加を行なう場合で、一定時間毎に添加を行なうケースでは、一定時間毎に、自動または手動で、薬注ポンプ11を起動し、所定時間経過後停止、続けて薬注ポンプ21を起動し、所定時間経過後停止すればよい。断続的に添加を行う場合で、水質計12からの電気信号によって添加を行うケースでは、水質計12がある基準値以下となったら、薬注ポンプ11へ電気信号が送られ、ポンプが起動する。注入開始後、水質計12がある基準値以上となったら、薬注ポンプ11へ電気信号が送られ、ポンプが停止する。続いてポンプ21が起動し、所定時間経過後にポンプ21が停止する。また、連続的に添加を行なう場合には、薬注ポンプ11、21は常に起動しておくか、所定時間毎に交互に起動すればよい。
【0061】
有機物質の添加中、後段への支障がなければ、通常の運転を停止する必要はない。有機物質の透過水への漏えいが見られる場合で、後段への支障が生じ得る場合は、添加中に弁5を閉、弁9を開として、透過水をブローすることもできるし、もしくは弁5を閉、弁8を開として、透過水を循環することもできる。循環とする場合には、弁7を閉、弁6を開として、濃縮水も循環しても良い。この場合には、薬液濃度が一定濃度に達した時点で、薬注ポンプ11、21を停止する。
【0062】
上記実施の形態では、1モジュールの形態を例示したが、クリスマスツリー配置、2段ROなど、複数エレメントを含む複数モジュールで構成される分離膜装置にも適用できる。例えば図3に示すように、分離膜モジュール3a〜3cを多段に(図示例では2段に)クリスマスツリー状に配置し、各モジュール3a〜3cを、分離膜そのものである膜エレメント31a〜31cと、膜エレメントを格納するための耐圧容器であるベッセル32a〜32cから成る構成とすることができる。
【0063】
また、上記図2に示した実施の形態では、薬液タンクを2つ用いる例を示したが、両者を混合し、1液として添加してもよい。1液として用いる場合は、処理を実施する現場にて2液を混合してもよいし、現場へ持ち込む前の段階、すなわち薬液の製造過程・製造工場にて混合し、その混合液を現場で使用してもよい。この場合には、例えば図4に示すように、1つの薬液タンク10と1つの薬注ポンプ11を備えていればよい。
【0064】
薬注時間は、特に限定されないが、有機物質と銀イオンの混合物の薬注、または有機物質の薬注、および銀イオンを含む水溶液の薬注それぞれに、5分〜24時間、好ましくは30分〜6時間であることが、効率の良い処理をするために好ましい。5分未満では処理の効果が薄く、24時間を超えるとファウリングを起こしたり、抗菌処理効果のさらなる向上が望めなかったりする場合があり、好ましくない。
【0065】
薬注を断続的に実施する場合の薬注間隔は、特に限定されないが、有機物質と銀イオンの混合物の薬注、または有機物質の薬注、および銀イオンを含む水溶液の薬注それぞれにおいて、1年に1回以上1日に1回以下、好ましくは3ヶ月に1回以上1週間に1回以下とすることが、抗菌作用を維持するために好ましい。1年に1回を下回ってしまうと、抗菌効果が薄れる恐れがあり、1日に1回を超えると処理頻度が高すぎ、薬品コストが高くなってしまう。
【0066】
改質薬品である有機物質の濃度は、特に限定されないが、分離膜モジュール入口において0.1〜200mg/L、好ましくは0.5〜100mg/Lであることが、効率良い処理をするために好ましい。0.1mg/L未満では効果が薄く、200mg/Lを超えるとファウリングを起こす場合があり、好ましくない。
【0067】
銀イオンの濃度は、特に限定されないが、分離膜モジュール入口において0.01〜200mg/L、好ましくは0.02〜100mg/Lであることが、効率良い処理をするために好ましい。0.01mg/L未満では効果が薄く、200mg/Lを超えると、薬品コストがかさみ、好ましくない。
【0068】
加圧通水時の透過流束は、0.3〜5.0m/dayの範囲とすることが、好適な改質効果を得るために望ましい。好適な透過流束の範囲は、0.3〜5.0m/day、好ましくは0.5〜3.0m/day、さらに好ましくは0.7〜2.0m/dayである。 0.3m/day未満では、有機物質の吸着効果が低く、抗菌処理効果が見込めない。5.0m/dayを超えると、ファウリングを起こす場合があり、好ましくない。
【0069】
前記有機物質を含む水に酸を添加し、pHを1〜5としてもよい。pHを上記範囲にコントロールすることにより、有機物質の沈殿を防ぎ、処理を適切に実施することができる。酸としては、特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、クエン酸、シュウ酸、カルボン酸、などを用いることができ、特にクエン酸は入手が容易で、毒性も低いことから用いやすく、操作性が良い。
【0070】
改質処理を実施する前に、分離膜を薬品洗浄してもよい。特に分離膜に汚染が見られる場合には、改質効果が低減する場合があり、適切な薬品洗浄を実施することが望ましい。薬品洗浄の方法としては、特に限定されないが、酸またはアルカリを用いた洗浄方法を用いることができる。汚染の状態に応じて、どちらか一方のみを用いた洗浄を実施しても良いし、両者を順番に用いて洗浄を実施してもよい。酸としては、特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、クエン酸、シュウ酸、カルボン酸などを用いることができ、特にシュウ酸やクエン酸は洗浄効果が高く、望ましい。アルカリとしては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、亜硫酸ナトリウムなどを用いることができ、特に水酸化ナトリウムは、汎用性の観点から望ましい。
【0071】
本発明で言うポリフェノールとは、複数の水酸基が結合した芳香族化合物を総称した、一般的なポリフェノール類のことを指す。ポリフェノールとしては例えば、アントシアニン、カテキン、タンニン、ルチン、ケルセチン、イソフラボン、フラボノイド、フミン類、フルボ酸、などが挙げられるが、特に限定はされない。
【0072】
タンニンはタンニン酸、タンニン類とも呼ばれ、混同して用いられるが、本願中では全て同義で用いている。また、五倍子タンニンのことをガロタンニンと呼ぶこともある。なお五倍子とは、ヌルデ属植物の虫コブのことである。
【0073】
タンニン酸には、加水分解型と縮合型がある。前者の原料の例としては、五倍子、没食子、チェストナット(Chestnut)、オーク(Oak Wood)、ユーカリプタス(Eucalyptus)、ディビディビ(Divi-Divi)、タラ(Tara)、スマック(Sumac)、ミラボラム(Myrabolam)、アルガロビア(Algarobilla)、バロニア(Valonea)、胡桃、栗、木苺、グミ、ザクロ、アカメガシワ、ウルシ科、サンシュユ、ゲンノショウコなどが挙げられる。後者の原料の例としては、ケプラチョ(Quebracho)、ビルマカッチ(Burma Cutch)、ワットル(Wattle)、ミモザ(Mimosa)、スプルース(Spruse)、ヘムロック(Hemlock)、マングローブ(Mangrove)、カシワ樹皮(Oak bark)、アバラム、ガンビア(Gambier)、茶、柿渋、ユキノシタ、ブドウ、リンゴ、蓮根、コーヒー、しそ、ボケ、椿、ローズマリー、パセリ、サルビアの花、ヒマワリなどが挙げられる。なお、加水分解型はピロガロール型(Hydrolyzable Tannin)、縮合型はカテコール型(Condensel Tannin)とも呼ばれる。
【0074】
次に、本発明に係る分離膜の運転方法および装置についての具体的な例を、前述の図4に示した形態の分離膜装置の後段に図5に示す装置を接続した形態の超純水製造装置を例にとって説明する。図5は分離膜装置よりも後段に設置される、紫外線酸化装置41およびイオン交換樹脂装置42を示している。サブシステムに含まれるその他の装置は省略してある。
【0075】
通常の運転時は、前段からの水、例えば除濁処理された原水を、供給水タンク1に受ける。弁5、7を開、弁4を所定の圧力になるように開、弁6、8、9を閉として、加圧ポンプ2にて加圧された原水を、分離膜モジュール3で濃縮水と透過水に分離し、濃縮水はブロー、透過水は後段の装置へ送水される。なお、ボール弁6および7を適宜調整し、濃縮水を一部循環する場合もある。
【0076】
薬液タンク10には、あらかじめ所定の濃度とした有機物質を含む水溶液(本実施形態では、ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水溶液)を貯留しておく。水質計12がある基準値以下となったら、薬注ポンプ11へ電気信号が送られ、ポンプが起動する。薬注ポンプ11は、あらかじめ所定の注入量となるように設定しておく。
【0077】
注入開始後、水質計12がある基準値以上となったら、薬注ポンプ11へ電気信号が送られ、ポンプが停止する。
【0078】
なお、断続的に添加を行なう場合で、一定時間毎に添加を行なうケースでは、水質計からの電気信号は必要なく、一定時間毎に、自動または手動で、薬注ポンプ11を起動すればよい。また、連続的に添加を行なう場合には、薬注ポンプ11は常に起動しておく。本発明によれば、断続添加、連続添加にかかわらず、有機物質の添加中であっても、通常の運転を停止する必要はないか、断続添加の場合には、停止する場合でも短時間で済む。
【0079】
分離膜装置より送水された水は、図5に示される各装置を含むサブシステムにより処理され、TOC濃度を所定濃度以下とした上で、ユースポイントへ超純水として供給される。有機物質の添加中に、所定濃度を超えてしまう場合には、その期間のみ排水をするが、本発明の方法では、この排水時間は従来よりも極めて短時間で済む。
【0080】
なお、本発明においては、改質処理後、長期間保存する場合には、十分に水洗を行ってから分離膜を保存することが望ましい。分離膜の処理後には使用するまで保存しなければならないケースがあるため、本方法により保存中の改質効果の変化を防止することができる。
【0081】
また、改質処理後、金属イオンを含む水溶液を通水してもよい。この方法を用いることで、分離膜の処理安定性が向上する。なお、金属イオンを含む水溶液は、膜表面と接する状態で供給されれば、透過水を得るための加圧はしてもしなくてもよいが、加圧通水した方が、より効果が大きいものと推定される。また、特に通水をせず、膜に水溶液が接した状態で静止していても、すなわち浸漬状態でも効果がある。
【0082】
金属イオンとしては、特に限定されないが、アンチモン、鉄、マンガン、銅、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、錫、モリブデン、クロム、チタンなどのイオンが挙げられる。
【0083】
改質処理に際しては、還元剤を併用してもよい。分離膜に供給している原水や、有機物質や銀イオンを溶解させる水が酸化性雰囲気である場合、有機物質が分離膜に到達する前に分解してしまい、改質の効果が得られない場合があった。この方法を用いることで、分離膜に供給している原水や、有機物質を溶解させる水が酸化性雰囲気である場合でも、良好な処理ができる。
【0084】
還元剤を併用する方法としては、特に限定されないが、有機物質を含む水、銀イオンを含む水のどちらかに混合してもよいし、別途添加してもよい。
【0085】
使用する還元剤としては、特に限定されないが、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムは、従来より用いられている汎用的な還元剤であり、コストも安いので、これらを用いるのが好ましい。
【実施例】
【0086】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0087】
実施例1、比較例1−1〜1−3
まず、以下の手順にて表1に示す4種類の膜(膜A〜D)を準備した。膜は日東電工社製LES90を、銀イオンは硝酸銀水溶液を、有機物質は五倍子タンニンを用いた。
【0088】
【表1】

【0089】
上記膜それぞれを純水で水洗後、105個の菌類を含む水へ膜を浸漬し、25℃で3日間放置した。その後、浸漬液の菌数を測定した。結果を表2に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
表2に示すように、有機物質および銀イオンで処理をした膜Dのみ高い殺菌作用を示した。したがって、本発明の分離膜の抗菌効果は非常に大きいものである。
【0092】
実施例2
有機物質として五倍子タンニンを、銀イオンとして硝酸銀水溶液用いて、図2に示す装置にて、第2の実施の形態に示す方法により連続運転および抗菌処理を行った。タンク1に受けた原水は、前段の膜除濁装置にて除濁処理された地下水であり、運転期間中の導電率は平均20mS/m前後、TOCは平均2mg/L程度で安定していた。膜は日東電工社製ES-10-D8を用いた。有機物質および銀イオン濃度は、分離膜モジュールの入口で10mg/Lとなるように調整し、添加間隔は2週間に1回、添加時間はそれぞれ1時間とした。
【0093】
比較例2−1
実施例2において、有機物質や銀イオンを用いずに、つまり抗菌処理を行わずに、実施例2と同じ方法にて連続運転を行った。
【0094】
比較例2−2
実施例2において、銀イオンを用いずに有機物質のみを用いた以外は、実施例2と同じ方法にて連続運転および抗菌処理を行った。
【0095】
比較例2−3
実施例2において、有機物質を用いずに銀イオンのみを用いた以外は、実施例2と同じ方法にて連続運転および抗菌処理を行った。
【0096】
上記条件にて連続運転および抗菌を実施し、運転初期、1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後それぞれの性能評価を行った。なお阻止率は、導電率を基準に計算した。透過水量は、運転初期を100とした相対値で示した。結果を表3に示す。
【0097】
【表3】

【0098】
表3に示すように、有機物質および銀イオンによる定期的な抗菌処理を実施した実施例2では、性能の変化がなく、安定した運用が可能であった。一方、抗菌処理を実施しなかった比較例2−1では、経時的な阻止率・透過水量の低下、通水差圧の上昇が発生し、分離膜のスライム汚染が推察された。有機物質または銀イオンいずれかの処理のみを実施した比較例2−2、2−3では、何も処理をしない比較例2−1よりは改善されたものの、不十分であった。
【0099】
実施例3
図4および図5に示した装置にて、ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を加圧通水したが、有機物質として五倍子タンニンを用いて、前記方法により連続運転を行い、主として図5に示した装置による後段処理の効果を確認した。タンク1に受けた原水は、前段の膜除濁装置にて除濁処理された地下水であり、運転期間中の導電率は、平均20mS/m前後で安定していた。また、ORPは平均+600mVであり、酸化傾向を持つ水であった。膜は日東電工社製ES-10-D8を用いた。薬液濃度は、分離膜モジュールの入口で10mg/Lとなるように調整した。後段のイオン交換樹脂装置には、混床樹脂であるオルガノ製ESG-2を用い、SV=50[/h]にて通水した。また、水質計にて、分離膜透過水の導電率を監視し、次の表4に示す条件で有機物質が添加されるよう設定した。
【0100】
【表4】

【0101】
比較例3−1
実施例3において、有機物質添加を実施しない以外は、実施例3と同じ方法にて処理を行った。
【0102】
比較例3−2
実施例3において、紫外線酸化装置を使用しない以外は、実施例3と同じ方法にて処理を行った。
【0103】
上記条件にて連続運転を実施し、有機物質添加中および添加停止中それぞれにおいて、分離膜の阻止率、イオン交換樹脂装置出口の導電率、およびTOC濃度の測定を実施した。測定は、運転初期および3ヵ月後に実施した。結果を表5に示す。
【0104】
【表5】

【0105】
表5に示すように、改質剤としての有機物質を使用しない比較例3−1においては、超純水水質は安定していたものの、分離膜の阻止率が経時的に低下し、後段への負荷の増加・寿命の低下を引き起こす懸念があった。紫外線酸化装置を使用しない比較例3−2においては、有機物質の添加中にイオン交換樹脂出口水質の悪化が見られ、もはや超純水とは言えないレベルとなってしまったため、供給を止めざるを得なかった。紫外線酸化装置を使用した実施例3においては、有機物質の添加中であっても、イオン交換樹脂出口水質は良好に維持され、連続的な超純水の供給が可能であった。
【0106】
実施例4
実施例3と同様に、有機物質として五倍子タンニンを用いて、図4および図5に示した装置にて、前記方法により連続運転を行った。タンク1に受けた原水は、前段の膜除濁装置にて除濁処理された地下水であり、運転期間中の導電率は、平均15mS/m前後で安定していた。また、ORPは平均+500mVであり、酸化傾向を持つ水であった。膜は日東電工社製ES-20-D8を用いた。薬液濃度は、分離膜モジュールの入口で10mg/Lとなるように調整した。後段のイオン交換樹脂装置には、混床樹脂であるオルガノ製ESG-2を用い、SV=50[/h]にて通水した。水質計にて、分離膜透過水の導電率を監視し、次の表6に示す条件で有機物質が添加されるように設定した。
【0107】
【表6】

【0108】
比較例4−1
実施例4において、有機物質添加を実施しない以外は、実施例4と同じ方法にて処理を行った。
【0109】
比較例4−2
実施例4において、紫外線酸化装置を使用しない以外は、実施例4と同じ方法にて処理を行った。
【0110】
上記条件にて連続運転を実施し、有機物質添加前から添加を停止した後までのイオン交換樹脂装置出口のTOC濃度を測定した。なお、本システムにおけるTOC濃度の許容値は、1[mg/m3]であった。結果を表7に示す。
【0111】
【表7】

【0112】
表7に示すように、紫外線酸化装置を使用しない比較例4−2においては、有機物質添加中のTOC濃度が大幅に上昇した上、添加停止後も許容範囲まで復帰するのに50分程度かかった。一方、紫外線酸化装置を使用した実施例4では、有機物質添加中のTOC濃度の上昇が小さく、添加停止後も10分程度で許容範囲まで復帰したため、超純水の供給停止時間は大幅に短縮され、排水しなければならない量も低減した。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明に係る分離膜の改質方法および装置、その方法により改質された分離膜、並びに分離膜の運転方法および装置は、分離膜の抗菌性能の改善のための分離膜の効果的な改質が要求されるあらゆる用途に適用でき、とくに逆浸透膜やナノろ過膜を改質するのに好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る分離膜の改質装置の機器系統図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る分離膜の運転装置の機器系統図である。
【図3】本発明における分離膜の改質装置の別の形態例を示す機器系統図である。
【図4】本発明における分離膜の運転装置の別の形態例を示す機器系統図である。
【図5】本発明の分離膜の運転装置の後段装置の例を示す機器系統図である。
【符号の説明】
【0115】
1 分離膜供給水タンク(原水タンク)
2 加圧ポンプ
3 分離膜モジュール
4、5、6、7、8、9 弁
10、20 薬液タンク
11、21 薬注ポンプ
12 水質計
31、31a、31b、31c 膜エレメント
32、32a、32b、32c 耐圧容器としてのベッセル
41 紫外線酸化装置
42 イオン交換樹脂装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜に、ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を加圧通水し、分離膜に前記有機物質を介して銀イオンを固定化し、分離膜の抗菌性能を向上させることを特徴とする、分離膜の改質方法。
【請求項2】
前記ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給する方法として、ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを混合した混合液を、分離膜へ供給することを特徴とする、請求項1に記載の分離膜の改質方法。
【請求項3】
前記ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給する方法として、ポリフェノールを含む有機物質を分離膜へ供給後、銀イオンを含む水を分離膜へ供給することを特徴とする、請求項1に記載の分離膜の改質方法。
【請求項4】
前記分離膜として、改質処理前の500mg/L塩化ナトリウム水溶液の阻止率が、99%以下の性能を持つ分離膜を使用することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
【請求項5】
前記分離膜として、逆浸透膜またはナノろ過膜を使用することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
【請求項6】
前記分離膜として、スパイラル型膜エレメントを使用することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
【請求項7】
前記分離膜として、少なくとも芳香族ポリアミド系素材を含む膜を使用することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
【請求項8】
前記有機物質の平均分子量が、200〜5000であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
【請求項9】
前記有機物質として、タンニン酸を用いることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
【請求項10】
前記タンニン酸として、加水分解型タンニンを用いることを特徴とする、請求項9に記載の分離膜の改質方法。
【請求項11】
前記タンニン酸として、五倍子を原料として作られたものを用いることを特徴とする、請求項9または10に記載の分離膜の改質方法。
【請求項12】
銀イオン源として、硝酸銀、硫酸銀のうち、少なくともいずれか一つを含む物質を用いることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の分離膜の改質方法により改質された分離膜。
【請求項14】
分離膜に原水を供給し原水を透過水と濃縮水とに分離する運転中に、請求項1〜12のいずれかに記載の方法により、連続的または断続的にポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給することにより分離膜を改質し、改質処理中の分離膜の透過水を、後段に設けた紫外線酸化装置およびイオン交換樹脂装置を通し純水として送出することを特徴とする、分離膜の運転方法。
【請求項15】
前記改質処理中の分離膜の透過水を捨てることなく、後段の紫外線酸化装置およびイオン交換樹脂装置に供給し、分離膜の改質処理中であっても運転を停止することなく、連続的に純水を製造することを特徴とする、請求項14に記載の分離膜の運転方法。
【請求項16】
前記純水のTOC濃度の変動幅を、ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を添加していない時の濃度に対して、添加中であっても2倍以下に抑制することを特徴とする、請求項15に記載の分離膜の運転方法。
【請求項17】
前記イオン交換樹脂装置に充填されるイオン交換樹脂として、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を混合した、混床イオン交換樹脂を用いることを特徴とする、請求項14〜16のいずれかに記載の分離膜の運転方法。
【請求項18】
前記イオン交換樹脂装置に充填されるイオン交換樹脂として、陰イオン交換樹脂を用いることを特徴とする、請求項14〜16のいずれかに記載の分離膜の運転方法。
【請求項19】
分離膜に、ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を加圧通水し、分離膜に前記有機物質を介して銀イオンを固定化し、分離膜の抗菌性能を向上させる手段を有することを特徴とする、分離膜の改質装置。
【請求項20】
前記ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給する手段が、ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを混合した混合液を、分離膜へ供給する手段からなることを特徴とする、請求項19に記載の分離膜の改質装置。
【請求項21】
前記ポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給する手段が、ポリフェノールを含む有機物質を分離膜へ供給後、銀イオンを含む水を分離膜へ供給する手段からなることを特徴とする、請求項19に記載の分離膜の改質装置。
【請求項22】
前記分離膜として、改質処理前の500mg/L塩化ナトリウム水溶液の阻止率が、99%以下の性能を持つ分離膜が使用されることを特徴とする、請求項19〜21のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
【請求項23】
前記分離膜として、逆浸透膜またはナノろ過膜が使用されることを特徴とする、請求項19〜22のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
【請求項24】
前記分離膜として、スパイラル型膜エレメントが使用されることを特徴とする、請求項19〜23のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
【請求項25】
前記分離膜として、少なくとも芳香族ポリアミド系素材を含む膜が使用されることを特徴とする、請求項19〜24のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
【請求項26】
前記有機物質の平均分子量が、200〜5000であることを特徴とする、請求項19〜25のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
【請求項27】
前記有機物質として、タンニン酸が用いられることを特徴とする、請求項19〜26のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
【請求項28】
前記タンニン酸として、加水分解型タンニンが用いられることを特徴とする、請求項27に記載の分離膜の改質装置。
【請求項29】
前記タンニン酸として、五倍子を原料として作られたものが用いられることを特徴とする、請求項27または28に記載の分離膜の改質装置。
【請求項30】
銀イオン源として、硝酸銀、硫酸銀のうち、少なくともいずれか一つを含む物質が用いられることを特徴とする、請求項19〜29のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
【請求項31】
請求項19〜30のいずれかに記載の装置の後段に、連続的または断続的にポリフェノールを含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給することにより改質処理中の分離膜からの透過水を、純水として送出する紫外線酸化装置およびイオン交換樹脂装置が設けられていることを特徴とする、分離膜の運転装置。
【請求項32】
前記改質処理中の分離膜の透過水が捨てられることなく、後段の紫外線酸化装置およびイオン交換樹脂装置に供給され、分離膜の改質処理中であっても運転が停止されることなく、連続的に純水が製造されることを特徴とする、請求項31に記載の分離膜の運転装置。
【請求項33】
前記純水のTOC濃度を測定可能な水質計を有することを特徴とする、請求項32に記載の分離膜の運転装置。
【請求項34】
前記イオン交換樹脂装置に充填されるイオン交換樹脂として、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を混合した、混床イオン交換樹脂が用いられることを特徴とする、請求項31〜33のいずれかに記載の分離膜の運転装置。
【請求項35】
前記イオン交換樹脂装置に充填されるイオン交換樹脂として、陰イオン交換樹脂が用いられることを特徴とする、請求項31〜33のいずれかに記載の分離膜の運転装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−142596(P2008−142596A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330414(P2006−330414)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】