説明

切削流体および切削スラリーのためのポリアルキレングリコール−グラフトポリカルボキシレートサスペンションおよび分散剤

質量パーセント単位で、A.70〜99%のポリアルキレングリコール(PAG)(例えばポリエチレングリコール);B.0.01〜10%のPAG−グラフトポリカルボキシレート;およびC.0〜30%の水;を含む、脆性物質(例えばシリコンインゴット)のための切削流体である。これらの切削流体は研磨物質(例えば炭化ケイ素(SiC)とともに用いて切削スラリーを形成する。該スラリーを切削用具(例えばワイヤーソー)にスプレーして脆性工作片(例えばシリコンインゴット)を切削する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は切削流体および切削スラリーに関する。一側面において、本発明は、研磨粒子の懸濁および分散において用いて、脆性物質の切削または処理において使用するための切削スラリーを形成するための切削流体に関する。別の側面において、本発明は、ポリアルキレングリコール(PAG)サスペンションおよび分散剤を含む切削流体および切削スラリーに関する。更に別の側面において、本発明は、ポリカルボキシレートにPAG−グラフトされているPAGサスペンションおよび分散剤に関し、一方更に別の側面において、本発明は、PAG−グラフトされたポリカルボキシレートを含む切削スラリーで脆性物質を切削または処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
切削流体は研磨物質(例えば炭化ケイ素(SiC)とともに使用して、典型的には0.5〜1.5、一般的には約1の質量比で切削スラリーを形成する。このスラリーは切削工具(例えばワイヤーソー)上にスプレーして脆性工作片(例えばシリコンインゴット)を切削する。切削流体の理想的な性能のために、研磨物質は流体全体に亘って一様に懸濁および分散している必要があり、これは研磨物質のブラウン運動を防止するために流体が所定の粘度を有することを要求する。
【0003】
非水性切削流体(例えばポリエチレングリコール(PEG)等のPAGを基にするもの)は現在の市場で一般的である。しかし、SiC等の研磨物質はこの種の媒体中ではよく分散しない。ウエハ生産者はスラリーを常に撹拌する必要がある。一方、良好な冷却もまた、ウエハ上の熱応力を低減してワイヤーソー装置の種々の部品(例えば切削ワイヤー、ウエハを保持し導く治具等)の膨張を回避するために必要である。
【0004】
水は良好な冷却効率を有し、切削流体の主要な分散媒として、および水とPAGとの切削流体ブレンド物中の成分として、の両者で試されてきた。しかし、PAGを含む切削流体に水を添加することは、流体の粘度を劇的に低減し、よってPAGのサスペンションおよび分散体の特性を損なうのみでなく、研磨物質をサスペンションから沈降させる。
【0005】
第2の分散剤の添加は、研磨物質の懸濁および分散を補助できる。米国特許第6,673,754号は、そのような分散剤としてのポリカルボン酸を教示する。しかし問題は、この種の従来のポリカルボン酸が、従来の切削流体(PEGのような)との親和性に乏しいことである。切削流体の製造者および使用者の関心事項は切削流体中の研磨物質の懸濁および分散を改善する方法である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要約
一態様において、本発明は、質量パーセント単位で、
A.70〜99%のPAG;
B.0.01〜10%のPAG−グラフトポリカルボキシレート;および
C.0〜30%の水;
を含む切削流体である。
【0007】
水は、本発明の切削流体の任意成分である。水を含む切削流体は、一般的には、水を含まないこと以外の全ての側面が同様である切削流体と比べて、より良好な冷却効率を示す。他の任意の成分としては、これらに限定するものではないが、耐腐食剤、キレート剤、湿潤剤、pH調整剤および殺生剤が挙げられる。
【0008】
一態様において、本発明は、質量パーセント単位で
A.25〜75%,好ましくは28〜67%のPAG;
B.0.004〜5%,好ましくは0.05〜3.35%のPAG−g−ポリカルボキシレート;
C.0〜15%,好ましくは0〜10%の水;および
D.25〜75%,好ましくは33〜60%の研磨物質;
を含む切削スラリーである。
【0009】
切削流体中のPAG−g−ポリカルボキシレートの存在は、PAG−g−ポリカルボキシレートを有さない切削流体と比べて、PAGと研磨物質との親和性を改善する。更に、切削流体は、好適に粘性であり、スラリー中の研磨粒子のブラウン運動を減衰させる。これは、PAG−g−ポリカルボキシレートによって研磨粒子に与えられる立体的および静電的斥力との組合せで、スラリーの懸濁および分散の特性を改善する。
【0010】
一態様において、本発明は、脆性物質を処理する方法であり、該方法は、脆性物質を処理する際に研磨スラリーを脆性物質に適用するステップを含み、該研磨スラリーは、
A.25〜75%,好ましくは28〜67%のPAG;
B.0.004〜5%,好ましくは0.05〜3.35%のPAG−g−ポリカルボキシレート;
C.0〜15%,好ましくは0〜10%の水;および
D.25〜75%,好ましくは33〜60%の研磨物質;
を含む。脆性物質の処理としては、限定するものではないが、切削、グラインディング、エッチングおよびポリッシングが挙げられる。脆性物質としては半導体のインゴットおよび結晶(例えばケイ素を含むもの)が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図面の説明
【図1】図1は、懸濁試験における沈降の測定を示す図である。
【図2】図2は、PAG−g−ポリカルボキシレートおよび従来のポリカルボキシレートとポリエチレングリコール(PEG)との親和性を比較する写真群である。
【図3】図3は、種々の本発明および比較の切削流体の懸濁特性および分散特性を報告するグラフ図である。
【図4】図4は、種々の本発明および比較の切削流体の粘度を報告するチャート図である。
【図5】図5は、本発明の切削流体の粘度に対するpH調整の効果を報告するチャート図である。
【図6】図6は、本発明の分散剤による、炭化ケイ素粒子の沈降に対するpH調整の効果を報告するグラフ図である。
【図7】図7は、本発明の切削流体の保持能力を報告するグラフ図である。
【図8】図8は、種々の本発明および比較の切削流体の粘度 対 削りくず量を報告するグラフ図である。
【図9】図9は、種々の本発明および比較の切削流体の粘度 対 温度を報告するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好ましい態様の詳細な説明
特記、内容の黙示、または当該分野での慣習がない限り、全ての部およびパーセントは質量基準であり、全ての試験方法は本開示の出願日現在のものである。米国特許実務の目的のために、任意の参照する特許、特許出願または公報の内容はその全部を、特に合成方法、定義(本開示で具体的に与える任意の定義と矛盾しない限りにおいて)および当該分野の一般的知識に関し、参照により本開示に組入れる(またはその同等の米国版を参照により組入れる)。
【0013】
本開示における数値範囲は近似であり、従って特記がない限り範囲外の値を包含してもよい。数値範囲は、下側値から上側値までのこれらを含む全ての値を、任意の下側値と任意の上側値との間が少なくとも2単位離れていることを条件に、1単位刻みで包含する。例としては、組成の、物理的なまたは他の特性,例えば分子量、粘度、メルトインデックス等が100〜1,000であると記載される場合、全てのそれぞれの値,例えば100,101,102等、および下位範囲,例えば100〜144,155〜170,197〜200等が、本明細書において明示的に列挙されることが意図される。1未満である値を含むか、または1超の端数を含む(例えば1.1,1.5等)範囲について、1単位は、それに見合って0.0001,0.001,0.01または0.1と考えられる。10未満の有効数字1桁を含む範囲(例えば1〜5)について、1単位は、典型的には0.1と考えられる。これらは具体的に意図されるものの例に過ぎず、そして列挙する下限値と上限値との間の数値の全ての可能な組合せは、本開示で明示的に記載されると考えるべきである。数値範囲は、本開示で、とりわけ、切削流体および切削スラリーの成分量ならびに種々のプロセスパラメーターについて与える。
【0014】
ポリアルキレングリコール(PAG)
本発明の実施において用いるポリアルキレングリコールは、公知の化合物であり、これらはアルキレンオキサイドモノマーまたはアルキレンオキサイドモノマーの混合物の重合により形成される。重合は、当該分野で公知(例えば"Alkylene Oxides and Their Polymers",Surfactant Science Series,Vol 35参照)の反応条件下で、水および1価、2価または多価の化合物の1種以上により開始され、塩基触媒によって促進される。重合が完了したら、反応混合物を放出し、次いで1種以上の酸の添加により中和する。任意に、中和に起因する塩は任意の手段で除去できる。中和されたポリアルキレングリコール生成物は、pH値4.0〜8.5を有する。本発明の目的のために、「ポリアルキレングリコール」としては、ジアルキレングリコール、具体的にはジエチレングリコールが挙げられる。
【0015】
一態様において、開始剤はエチレングリコールもしくはプロピレングリコールまたはこれらの1つのオリゴマーである。一態様において、開始剤は、式:
1O−(CHR2CH2O)m−R3
(式中、R1およびR3は独立に、1つ以上の不飽和結合を含有してもよい、直鎖または分岐の構造を有するC1〜C20の脂肪族基もしくは芳香族基、または水素であり、但しR1およびR3の少なくとも1つは水素であり;各R2は独立に水素、メチルまたはエチルであり;そしてmは0〜20の整数である)
の化合物である。一態様において、開始剤化合物は、3個以上のヒドロキシル基を含有する炭化水素化合物,例えばグリセロールまたはソルビトールである。
【0016】
一態様において、触媒は塩基であり、典型的には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物もしくはカーボネート、脂肪族アミン、芳香族アミン、または複素環アミンの少なくとも1つである。一態様において、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムは塩基触媒である。
【0017】
重合においてモノマーとして用いるアルキレンオキサイドは、C2〜C8のオキサイド,例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、ヘキセンオキサイド、またはオクテンオキサイドである。一態様において、アルキレンオキサイドはエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドである。
【0018】
本発明の一態様において、ポリアルキレンオキサイドは、ポリエチレンオキサイド、もしくはエチレンオキサイド(EO)およびプロピレンオキサイド(PO)の水溶性コポリマー、またはこれらの1つのモノメチル、エチル、プロピル、もしくはブチルエーテル、またはポリエチレンオキサイドもしくはEOおよびPOのコポリマー(グリセロールで開始された)である。一態様において、ポリアルキレングリコールは分子量100〜1,000、より典型的には200〜600を有する。
【0019】
ポリカルボキシレート
本発明の実施において用いるポリカルボキシレート(ポリカルボン酸系ポリマーとしても知られる)は公知の化合物であり、例としては、アクリル酸、マレイン酸もしくはメタクリル酸のホモポリマーもしくはコポリマー;またはこれらの種々のコポリマーとエチレン、プロピレン、スチレン、メタクリレートエステル、マレエートモノエステル、マレエートジエステル、ビニルアセテート等との種々のコポリマー;が挙げられる。加えて、これらのポリマー化合物のアルカリ金属塩および/またはオニウム塩もまた使用できる。これらの塩としては:金属イオン,例えばナトリウム、カリウム、リチウム等の塩;ならびにオニウムイオン,例えばアンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、エチルジエタノールアミン等の塩が挙げられる。これらの塩の中でも、ナトリウム、カリウム、アンモニア、モノエタノールアミンおよびジエタノールアミンの塩が典型的である。
【0020】
上記のポリカルボン酸系ポリマー化合物の中でも、特に好適に用いる化合物としては、アクリル酸のホモポリマーならびに/またはアクリル酸およびマレイン酸のコポリマーのアルカリ金属塩ならびに/またはオニウム塩が挙げられる。
【0021】
ポリカルボン酸系ポリマー化合物および/または塩の重量平均分子量(Mw)は、典型的には500〜200,000、より典型的には、1,000〜50,000、および更により典型的には1,000〜10,000である。
【0022】
PAG−g−ポリカルボキシレート
本発明の実施において用いるPAG−グラフトポリカルボキシレートは、ポリカルボキシレート構造、およびポリカルボキシレート構造に共有結合しているポリアルキレンオキサイド単位を含むポリマー材料である。可能なポリカルボキシレート構造としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、もしくは2−アクリルアミド−2−メチルプロピルスルホン酸のホモポリマーもしくはコポリマー;または、エチレン、プロピレン、スチレン、メタクリレートエステル、マレエートモノエステル、マレエートジエステル、ビニルアセテート等を更に含むコポリマーが挙げられる。加えて、これらのポリマー化合物のアルカリ金属塩および/またはオニウム塩もまた使用できる。これらの塩としては:金属イオン,例えばナトリウム、カリウム、リチウム等の塩;ならびにオニウムイオン,例えばアンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、エチルジエタノールアミン等の塩が挙げられる。これらの塩の中でも、ナトリウム、カリウム、アンモニア、モノエタノールアミンおよびジエタノールアミンの塩が典型的である。
【0023】
上記ポリカルボキシレート構造に共有結合しているPAG単位は、一般式R1O−(CHR2CH2O)m−(式中、R1は独立に、1つ以上の不飽和結合を含有してもよい、直鎖または分岐の構造を有するC1〜C20の脂肪族基または芳香族基、または水素であり;各R2は独立に水素、メチル、エチル、ヘキシルまたはオクチルであり;そしてmは2〜200、または典型的には5〜100の整数である)で表すことができる。
【0024】
PAG−g−ポリカルボキシレート中の総ポリアルキレンオキサイド単位の質量%は、典型的には、少なくとも40%、またはより典型的には少なくとも50、60、70%、または更により典型的には80%超である。
【0025】
PAG単位は、ポリカルボキシレート構造またはカルボキシレート単位と、エーテル、エステル、C−C結合、アミドまたはイミドを介して結合していることができる。エーテルおよびC−C結合は、より良好な加水分解安定性を与えるために好ましい。
【0026】
PAG−g−ポリカルボキシレートは、ポリカルボキシレートの調製において上記で列挙した1種以上のモノマーと、ポリエチレンオキサイドまたはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのコポリマー(ランダムまたはブロック)(不飽和モノマーとラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合で結合しているもの)とを共重合させることにより形成できる。好適なマクロマーの例としては、ポリオキシエチレンまたはポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)アクリレート、メタクリレート、マレエート、フマレート、およびアリルエーテル等、ならびにこれらの化合物の2種以上の混合物が挙げられる。好適なマクロマーは、好ましくは、数平均分子量200〜10,000、およびより好ましくは500〜8,000の範囲を有する。ポリオキシエチレンまたはポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)アリルエーテルマクロマーは、例えば、アリルアルコールを開始剤として用いたアルコキシル化によって形成できる。ポリオキシエチレンまたはポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)(メタ)アクリレートマクロマーは、ポリアルキレングリコールのモノアルキルエーテルもしくはモノアリールエーテルと、(メタ)アクリル酸とを、公知技術を用いて反応させることによって生成でき、または、第EP1,012,203号に記載されるヒドロキシルアルキル(メタ)アクリレートをアルコキシル化することによって調製できる。PAG−g−ポリカルボキシレートはまた、ポリカルボキシレートをポリアルキレングリコールのモノアルキルエーテルまたはモノアリールエーテルで処理することによって形成できる。加えて、PAG−g−ポリカルボキシレートはまた、PAGを、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、または2−アクリルアミド−2−メチルプロピルスルホン酸と、ラジカル重合条件下で処理(第USP4,528,334号に記載されるように)することによって形成できる。
【0027】
切削流体
本発明の切削(cutting)流体は、ポリアルキレングリコールおよびPAG−g−ポリカルボキシレートを含む。切削流体中のポリアルキレングリコールの量は、典型的には70〜99質量%、より典型的には75〜97質量%、および更により典型的には85〜95質量%である。切削流体中のPAG−g−ポリカルボキシレートの量は、典型的には0.01〜10質量%、より典型的には0.05〜5質量%、および更により典型的には0.1〜3質量%(wt%)である。水は切削流体には任意であるが、存在する場合には、これは典型的には1〜30質量%、より典型的には5〜15質量%で存在する。
【0028】
切削流体は、他の含有成分,例えば極性溶媒(例えばアルコール、アミド、エステル、エーテル、ケトン、グリコールエーテルまたはスルホキシド)、増粘剤(例えばキサンタンガム、ラムサン(rhamsan)ガム、またはアルキルセルロース,例えばヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース)、界面活性剤、殺生剤、腐食防止剤、染料、香料等も含有できる。これらの他の含有成分は公知の様式および公知の量で使用される。切削流体中の添加剤(存在する場合)の総量は、典型的には0.01〜10質量%、より典型的には0.01〜5質量%および更により典型的には0.01〜3質量%(wt%)である。
【0029】
切削スラリー
最終的に、切削流体は研磨(abrasive)物質と混合して切削スラリーを形成する。本発明のこの態様の実施において使用できる研磨物質としては、ダイヤモンド、シリカ、炭化タングステン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウムまたは他の硬質グリット粉末もしくは同様の物質が挙げられる。最も好ましい研磨物質の1つは炭化ケイ素である。一般に、ミーンすなわち平均の粒子サイズは、グリット粉末の国際グレード規定に応じて約2〜50ミクロン;好ましくは5〜30ミクロンの範囲である。切削スラリー中の研磨物質の濃度は、典型的には、20〜70質量%、より典型的には25〜60質量%、および更により典型的には35〜60質量%である。
【0030】
切削スラリーは、公知の方法で使用される。典型的には、これは工作片を切削ワイヤーと接触させる際に切削ワイヤー上にスプレーする。切削ワイヤーは、ワイヤーソーまたはワイヤーウエブとして一般に公知の切削装置の一部であり、これは通常、互いに平行に固定ピッチで配列された細いワイヤーの列を含む。工作片とワイヤーとの間に切削スラリーを供給しながら、同方向に互いに平行に走っているこれらの細いワイヤー(これは典型的には径0.1〜0.2ミリメートル(mm)を有する)に工作片を押付け、工作片は研磨グラインド動作によりウエハにスライスされる。ワイヤー−ウエブが工作片に当たる直前に、ウエブ上に切削スラリーのブランケットカーテンを落とす回転システムによって、動いているウエブまたはワイヤーの上に液体懸濁研磨粒子をコートする。よって、液体によって保持された研磨粒子は、コートされたワイヤーによって移されてグラインドおよび切削の作用を生成する。これらのワイヤーソーは、第USP3,478,732,3,525,324,5,269,275および5,270,271号でより完全に記載されている。
【0031】
本発明の切削スラリーは、硬い脆性物質,例えばケイ素、ガリウムヒ素(GaAs)またはガリウムリン(GaP)のインゴット、結晶またはウエハの他の処理で使用できる。これらの他の処理としては、非限定で、グラインディング、エッチングおよびポリッシングが挙げられる。
【0032】
以下の例は本発明の特定の態様の例示である。全ての部およびパーセントは特記がない限り質量基準である。
【0033】
具体的態様
化学物質および設備
表1は、以下の例の切削流体および切削スラリーを形成するのに用いる化学物質および設備を報告する。
【0034】
【表1】

【0035】
試験方法
親和性試験
10ミリリットル(ml)のPEG−200を5質量%(PEG−200の質量基準で)で、および他の添加剤(ある場合)と混合する。混合物をよく撹拌する(少なくとも5分間、磁気ミキサーで中速(約400rpm)にて)。21℃(実験室温度)で1時間静置し、次いで混合物の外観を検査する。
【0036】
懸濁試験
表3に示すような25mlの切削流体を準備する。混合物をよく撹拌する(少なくとも5分間、磁気ミキサーで中速(約400rpm)にて)。SiC粒子を切削流体中に質量比9:1(切削流体 対 SiC)で添加する。スラリーをIKA RW20ミキサーで400rpmにて10分間撹拌する。25mlのスラリーを目盛り付きフラスコ(容量25ml)にゆっくり(フラスコの壁のスラリーの汚染を防ぐ)注ぎ入れる。21℃(実験室温度)で1時間静置し、図1に示すように透明、移行および沈降層の高さを記録する。スケールL1およびL2を2、4および6時間後に別個に記録する。高さ(25−L2)(cm)を用いて懸濁安定性を測定する。短いほど良好である。
【0037】
粘度
250mlのスラリーを、懸濁試験について記載したのと同じ様式で準備する。切削流体 対 SiCの比は1:1(w/w)である。準備したスラリーの粘度をブルックフィールドDVメーター(スピンドル♯62)で21℃(実験室温度)にて測定する。
【0038】
pH調整
水酸化ナトリウム(NaOH)または塩酸(HCl)をゆっくり、懸濁試験について説明したようにして調製したスラリー中に、pHメーターで監視しながら添加する。
【0039】
試験結果
親和性試験結果
親和性試験結果を表2に報告し、そして図2の写真に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
従来のポリカルボキシレート(ACUSOL 445Nのような)はポリアクリル酸ホモポリマーである。このサンプルの外観は濁っており、これはACUSOL 445NのPEGとの親和性が悪いことを示している。ACUSOL 425は、アクリル酸/マレイン酸コポリマーである。このサンプルの外観もまた濁っており、これもまた、ACUSOL 425のPEGとの親和性が悪いことを意味する。PAG−g−ポリカルボキシレートは、PEG−g−ポリカルボキシレートである。このサンプルの外観は透明であり、これはPEG−g−ポリカルボキシレートのPEGとの親和性が良好であることを意味する(ポリカルボキシレートのエチレンオキサイド鎖に起因し)。
【0042】
沈降試験結果
表3は、沈降試験で用いる配合を報告し、表4および図3は結果を報告する。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
結果は、本発明例が、比較例(PEG−200)(これは現在の市場で切削流体として広く用いられる)よりも大幅により良好な懸濁/分散特性を有することを示す。表3における報告される本発明の配合物の全ては大幅に良好な性能を有し、これはPEG−g−ポリカルボキシレートおよびその誘導体が研磨物質(ここではSiC)の濃度1および3質量%で良好な性能を有することを示す。
【0046】
粘度試験結果
表5および図4は、例1および2ならびに比較例1における粘度試験の結果を報告する。スラリーは、切削流体およびSiCを、1:1質量比で含む。
【0047】
【表5】

【0048】
結果は、本発明例が、従来例よりも大幅に低い粘度を有することを示す。レオロジーの観点から、より高い濃度条件(例えばより高いSiCの固形分量)で、粘度を用いてPEG中の固体粒子の分散を測定できる。低粘度は良好な分散を示唆する。
【0049】
pH試験結果
図5および6は、例2および6の配合についての、粘度および沈降に対するpHの作用を報告する。より高いpHはより低い粘度(これはより良好な分散を意味する)をもたらす。高いpHはまた、より少ない沈降(これはより良好な懸濁を意味する)をもたらす。pH5〜7を有する配合物は好ましく、そしてpH7〜8を有する配合物はより好ましい。
【0050】
保持能力
図7および8は、SiCおよび削りくずの量の増大が、本発明の配合物の粘度に与える影響は、比較例の配合物に与える影響よりも少ないことを示す。これは、ひいては、本発明の配合物が比較例のものよりも保持能力を有することを意味する。図7において、例における分散剤の量はSiCの質量基準である。図8において、SiCおよび切削流体は、1:1質量比で存在し、分散剤はSiCの質量%で存在する。
【0051】
粘度 対 温度
図9は、温度の増大の結果として本発明の配合物によってもたらされる粘度の変化が、
比較切削スラリーで同様の条件下で見られるよりも少ないことを示す。本発明の配合物はまた、比較配合物よりも良好な安定性を示す。図9において、SiCおよび切削流体は、1対1質量比で存在し、分散剤はSiCの質量%で存在する。
【0052】
本発明を先の具体的態様を通じて特定の詳細とともに説明してきたが、この詳細は例示を主な目的とする。当業者は、特許請求の範囲に記載される本発明の精神および範囲から逸脱することなく多くの変形および変更をなすことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量パーセントで、
A.70〜99%のポリアルキレングリコール(PAG);
B.0.01〜10%のPAG−グラフトポリカルボキシレート;および
C.0〜30%の水;
を含む、切削流体。
【請求項2】
PAGがポリエチレングリコール(PEG)であり、PAG−g−ポリカルボキシレートがPEG−g−ポリカルボキシレートである、請求項1に記載の切削流体。
【請求項3】
水が存在する、請求項1または2に記載の切削流体。
【請求項4】
質量パーセントで、
A.25〜75%のPAG;
B.0.004〜5%のPAG−g−ポリカルボキシレート;
C.0〜15%の水;および
D.25〜75%の研磨物質;
を含む、切削スラリー。
【請求項5】
質量パーセントで、
A.28〜67%のPAG;
B.0.05〜3.35%のPAG−g−ポリカルボキシレート;
C.0〜10%の水;および
D.33〜60%の研磨物質;
を含む、請求項4に記載の切削スラリー。
【請求項6】
PAGがPEGであり、PAG−g−ポリカルボキシレートがPEG−g−ポリカルボキシレートである、請求項4または5に記載の切削スラリー。
【請求項7】
研磨物質が炭化ケイ素(SiC)である、請求項6に記載の切削スラリー。
【請求項8】
水が存在する、請求項7に記載の切削スラリー。
【請求項9】
切削ワイヤーで脆性物質を切削する方法であって、該脆性物質をワイヤーに接触させる際に研磨スラリーをワイヤーに適用することを含み、
該研磨スラリーが、
A.25〜75%のPAG;
B.0.004〜5%のPAG−g−ポリカルボキシレート;
C.0〜15%の水;および
D.25〜75%の研磨物質;
を含む、方法。
【請求項10】
研磨スラリーが、
A.28〜67%のPAG;
B.0.05〜3.35%のPAG−g−ポリカルボキシレート;
C.0〜10%の水;および
D.33〜60%の研磨物質;
を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
PAGがPEGであり、PAG−g−ポリカルボキシレートがPEG−g−ポリカルボキシレートである、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
研磨物質がSiCである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
水が存在する、請求項12に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2013−507489(P2013−507489A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533452(P2012−533452)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【国際出願番号】PCT/CN2009/001150
【国際公開番号】WO2011/044717
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】