説明

列車位置検知システム

【課題】 列車が地上マーカーの設置された地点を通過したときに得られる通過情報と、車上装置が記憶している当該地上マーカーの位置情報を組み合わせて使用することで、列車位置の検出を可能とする。
【解決手段】 車上装置11と、地上マーカー用受信器12と、軌道ディジタル電文受信器13を列車1に装備し、車上装置11に対して通過情報を送信する地上マーカー33を軌道回路3に設置しかつ、当該地上マーカーの位置情報(マーカー位置情報)を含んだ軌道ディジタル電文Tdiを車上装置11に伝達する地上装置31を設け、軌道ディジタル電文Tdiに含まれるマーカー位置情報を車上装置11に記憶させ、当該地上マーカー33からの通過情報を用いて車上装置11が記憶している当該地上マーカーの位置情報から、当該列車の位置検知を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車が存在する特定区間内における位置情報を検知する列車位置検知システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動列車制御システム(ATS:非特許文献1参照)などで利用される、速度発電機などによる車軸回転数を利用した位置検知手段においては、車輪の滑走や空転などに起因する列車の検出位置の誤差が生じるおそれがある。このような位置検知手段においては、前記検出誤差を修正する方式を具備することが望まれる。例えば、車輪の回転から求まる車輪軸速度を用いた列車位置検知において、車輪が空転したときには加速度検出装置の速度出力を用いて列車位置を高精度で検知するために、列車位置検出装置において、位置速度演算部と空転滑走検出部と加速度補正部を有する情報処理装置と、車軸回転数検出装置と、速度変換処理装置と、絶対位置補正手段と、加速度検出装置とを備え、速度変換処理装置の速度出力と、加速度補正部の加速度出力と、空転滑走検出部の空転滑走判断出力とをもとに、空転滑走時には加速度出力から列車の位置を求め、空転滑走なし時には速度出力から列車の位置を求め、地上の線路上に設置されるトランスポンダの情報を受信する絶対位置補正手段から絶対位置の入力があったときには列車位置を絶対位置で補正する処理を行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような方式においては、絶対位置を示す電文伝送可能なトランスポンダを線路上に設置することが必要となり、ATS−Sシステムのように電文伝送可能なトランスポンダを有さないシステムには適用することができなかった。すなわち、このような方式を適用するには、トランスポンダを新たに設置することが必要であった。
【特許文献1】特開2000−121658号公報
【非特許文献1】「鉄道技術者のための信号概論 ATS・ATC[改訂版]」 日本鉄道電気技術協会 2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が、解決しようとする課題は、列車位置検地システムにおいて、列車が地点を通過する際、車上装置が自列車位置の認識を行うための位置情報を送信する専用の地上子と、専用の地上子からの位置情報を受信する専用の車上子を設けることなく、従来のシステムにおける地上マーカーを用いて位置検出できるシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、地点通過情報を車上装置に伝達することのできる地上マーカーと、特定区間に在線する列車の車上装置に複数ビット情報を伝達することのできる設備を組み合わせて使用することで、列車位置を検出するシステムを提供する。
【0006】
すなわち、本発明は、列車が走行する区間内に、設置地点上を通過する車上装置に対して通過情報を送信する地上マーカーおよび複数ビット情報を持った電文を前記区間に対して送出することのできる地上装置とを有する地上信号設備と、前記地上マーカーからの地点通過情報を認識する手段および前記地上装置から送出された複数ビット情報を持つ電文を受信し当該電文の内容を記憶する手段とを持った車上装置を有する、列車の車上装置で当該列車の絶対位置を認識する列車位置検知システムにおいて、前記地上装置は、前記地上マーカーの前記区間内における絶対位置を表す複数ビット情報を持った電文を当該区間に対して送出し、前記車上装置は、当該車上装置を搭載した列車が当該区間を走行中に前記電文を受信し前記地上マーカーの当該区間内における絶対位置を記憶し、前記列車が当該地上マーカーを通過したときに受信する地点通過情報をトリガとし、前記地上マーカーの当該区間内における絶対位置を当該列車の絶対位置として認識することを特徴とする。
【0007】
本発明は、上記列車位置検知システムにおいて、前記地上信号設備は同一の区間内に複数の地上マーカーを有し、前記地上装置が当該区間に送出する電文は当該区間内に設置されている各々の地上マーカーの区間内における絶対位置を表す複数ビット情報を包含し、前記車上装置は前記電文に包含された前記複数の地上マーカーの各々の絶対位置と、前記地上マーカーの通過回数とを記憶する手段を有しており、前記車上装置を搭載した列車が前記地上マーカーを通過しトリガとなる地点通過情報を受信したときに、前記地上マーカーの通過回数を更新し、同時に前記記憶した複数の地上マーカーの位置情報と、前記更新した地上マーカー通過回数を用いて、当該列車が通過した当該地上マーカーの絶対位置情報を選択し、当該絶対位置情報を当該列車の絶対位置として認識する事を特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、地点通過情報を車上装置に伝達することのできる地上マーカーと、特定区間に在線する列車の車上装置に複数ビット情報を伝達することのできる設備が既設されている線区において、位置情報を送信する専用の地上子と、専用の地上子からの位置情報を受信する専用の車上子を新規に設置することなく、列車位置検知が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、地上マーカー用受信器とディジタル電文受信器と地上マーカーからの地点通過情報と、ディジタル電文に包含された地上マーカー位置情報から列車の位置を検知する射場装置とを列車に搭載し、地点通過情報を車上装置に伝達することのできる地上マーカーを軌道上に設けるとともに、前記軌道の特定区間に在線する列車に当該地上マーカーの位置情報を含むディジタル電文を送信する地上装置とを設けることにより、地点情報を送信する専用の地上子(トランスポンダ)と、専用の地上子からの地点情報を受信する専用の車上子を設置することなく、列車位置検知を実現する列車位置検知システムを構成する。
【実施例1】
【0010】
図1を用いて、本発明にかかる列車位置検知システムの第1の実施例のシステム構成を説明する。この実施例は、軌道回路3上に地点通過情報を車上装置に伝達することのできる地上マーカー33を設けるとともに、軌道回路3を用いて地上装置31からATC用の軌道ディジタル電文Tdiを送信するように構成された軌道回路システムに、本発明を適用した例である。
【0011】
列車1は、車上装置11と、地上マーカー用受信器12と、軌道ディジタル電文用受信器13を搭載している。軌道回路3には、軌道ディジタル電文Tdiを軌道回路3に送出する地上装置31と、地上マーカー33が設けられている。地上装置31は、軌道回路3に対し、軌道回路3の区間内に設置されている地上マーカー33の位置情報(マーカー位置情報)を包含したビット情報を持つ軌道ディジタル電文Tdiを送信する装置である。地上マーカー33は、列車1の地上マーカー用受信器12との間で地点通過情報を通知する手段である。
【0012】
車上装置11は、列車1が軌道回路3に在線しているときに、軌道ディジタル電文用受信器13が受信した軌道ディジタル電文Tdiに包含される地上マーカー33の位置情報を記憶する手段である。また、車上装置11は、列車1が地上マーカー33の直上を通過したとき、地上マーカー用受信器12が受信した地点通過情報をトリガとして、当該車上装置11が記憶している地上マーカー33の位置情報を、列車1の在線位置として認識することで、列車1の位置検知を実施する手段である。地上マーカー用受信器12は、地上マーカー33の直上に存在しているときに、地点通過情報を受信する手段である。軌道ディジタル電文用受信器13は、列車1が軌道回路3に在線しているときに、地上装置31が軌道回路3に送信した軌道ディジタル電文Tdiを受信する手段である。
【0013】
この実施例に拠れば、列車1が軌道回路3の区間に進入すると、軌道ディジタル電文受信器13が軌道回路3から地上マーカー位置情報を包含する軌道ディジタル電文Tdiを受信し、地上マーカー位置情報を取り出して図示を省略した記憶手段に記憶する。その後、列車が地上マーカー33の上を通過して地上マーカー用受信器12が地点通過情報を受信すると、前記記憶されたマーカー位置情報を列車1の在線位置として認識する。このようにして、地上マーカー33が設置された軌道回路3上を軌道ディジタル電文Tdiが送信されるシステムにおいて、軌道ディジタル電文Tdiにマーカー位置情報を包含させることにより、新たな装置を加えることなく、在線位置を検知することができる。
【実施例2】
【0014】
図2を用いて、本発明にかかる列車位置検知システムの第2の実施例のシステム構成を説明する。この実施例は、第1の実施例における軌道回路3を介して列車1へ送信するディジタル電文、を無線により列車1へ送信するようにした例である。列車1は、車上装置11と、地上マーカー用受信器12と、無線ディジタル電文受信器14を搭載している。
【0015】
車上装置11は、列車1が無線有効区間5に在線しているときに、無線ディジタル電文受信器14が受信した無線ディジタル電文Rdiに包含される複数の地上マーカー33の各々の位置情報を記憶する機能と、無線有効区間5における地上マーカー33の通過回数を記憶する機能(通過回数カウンタ)と、列車1が地上マーカー33の直上を通過したとき、地上マーカー用受信器12が受信した地点通過情報をトリガとして、前記記憶している複数の地上マーカー33の各々の位置情報のうち、記憶している無線有効区間5における地上マーカー33の通過回数個目の位置情報を、列車1の在線位置として認識して列車の位置検知を実施する機能と、列車1の位置検知を実施すると同時に、無線有効区間5における地上マーカー33の通過回数を1加算する機能とを有している。
【0016】
地上マーカー用受信器12は、地上マーカー33の直上に存在しているときに、地点通過情報を受信する手段である。無線ディジタル電文受信器14は、列車1が無線有効区間5に在線しているときに、地上装置31が無線有効区間5に送信した無線ディジタル電文Rdiを受信する手段である。この実施例における無線ディジタル電文Rdiは、無線有効区間5内に設置された複数の地上マーカー33の位置情報を包含している。
【0017】
地上装置31は、無線有効区間5に対し、無線有効区間5の区間内に設置されている複数の地上マーカー33の各々の位置情報を包含したビット情報を持つ無線ディジタル電文Rdiを送信する装置である。
【0018】
無線ディジタル電文受信器14は、列車1が無線有効区間5に在線しているときに、地上装置31が無線有効区間5に送信した無線ディジタル電文Rdiを受信する。車上装置11は、列車1が無線有効区間5に進入した時に、無線有効区間5における地上マーカー33の通過回数をクリアする。また、車上装置11は、列車1が無線有効区間5に在線しているときに、無線ディジタル電文受信器14が受信した無線ディジタル電文Rdiに包含される複数の地上マーカー33の各々の位置情報を記憶する。さらに、車上装置11は、列車1が地上マーカー33の直上を通過したとき、地上マーカー用受信器12が受信した地点通過情報をトリガとして、当該車上装置11が記憶している複数の地上マーカー33の各々の位置情報のうち、当該車上装置11が記憶している無線有効区間5における地上マーカー33の通過回数個目の位置情報を、列車1の在線位置として認識することで、列車1の位置検知を実施すると同時に、無線有効区間5における地上マーカー33の通過回数を1加算する。
【0019】
この実施例によれば、車1が軌道回路3の無線有効区間5内に進入して、無線ディジタル電文受信器14が受信した無線有効区間内に設置された複数の地上マーカーに対応するマーカー位置情報を包含する無線ディジタル電文Rdiから複数の地上マーカー位置情報を取り出して図示を省略した記憶手段に記憶するとともに、通過回数カウンタをクリアし、その後、列車が一番目の地上マーカー33−1の上を通過して地上マーカー用受信器12が地点通過情報を受信すると通過回数カウンタを1カウントアップし、前記記憶された複数のマーカー位置情報のうち第1のマーカー位置情報を列車1の在線位置として認識する。その後2番目の地上マーカー33−2の上を通過して地上マーカー用受信器12が地点通過情報を受信すると通過回数カウンタを1カウントアップし、前記記憶された複数のマーカー位置情報のうち第12マーカー位置情報を列車1の在線位置として認識する。このようにして、軌道上に地上マーカー33が設置され、複数の値マーカー位置情報を包含する無線ディジタル電文Rdiが送信されるシステムにおいて、新たな装置を加えることなく、在線位置を検知することができる。
【0020】
以上のように、本発明は、自動列車制御システムなどで利用される、速度発電機などによる車軸回転数を利用した位置検知手段において、車輪の滑走、空転などに起因する列車の検出位置の誤差の修正手段として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の列車位置検知システムの第1の実施例の構成を説明する概念図。
【図2】本発明の列車位置検知システムの第2の実施例の構成を説明する概念図。
【符号の説明】
【0022】
1 列車
11 車上装置
12 地上マーカー用受信器
13 軌道ディジタル電文受信器
14 無線ディジタル電文受信器
3 軌道回路
31 地上装置
33 地上マーカー
5 無線有効区間
Rdi 無線ディジタル電文
Tdi 軌道ディジタル電文

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車が走行する区間内に、設置地点上を通過する車上装置に対して通過情報を送信する地上マーカーおよび複数ビット情報を持った電文を前記区間に対して送出することのできる地上装置とを有する地上信号設備と、前記地上マーカーからの地点通過情報を認識する手段および前記地上装置から送出された複数ビット情報を持つ電文を受信し当該電文の内容を記憶する手段とを持った車上装置を有する、列車の車上装置で当該列車の絶対位置を認識する列車位置検知システムにおいて、
前記地上装置は、前記地上マーカーの前記区間内における絶対位置を表す複数ビット情報を持った電文を当該区間に対して送出し、前記車上装置は、当該車上装置を搭載した列車が当該区間を走行中に前記電文を受信し前記地上マーカーの当該区間内における絶対位置を記憶し、前記列車が当該地上マーカーを通過したときに受信する地点通過情報をトリガとし、前記地上マーカーの当該区間内における絶対位置を当該列車の絶対位置として認識する事を特徴とした列車位置検知システム。
【請求項2】
請求項1の列車位置検知システムにおいて、前記地上信号設備は同一の区間内に複数の地上マーカーを有し、前記地上装置が当該区間に送出する電文は当該区間内に設置されている各々の地上マーカーの区間内における絶対位置を表す複数ビット情報を包含し、前記車上装置は前記電文に包含された前記複数の地上マーカーの各々の絶対位置と、前記地上マーカーの通過回数とを記憶する手段を有しており、前記車上装置を搭載した列車が前記地上マーカーを通過しトリガとなる地点通過情報を受信したときに、前記地上マーカーの通過回数を更新し、同時に前記記憶した複数の地上マーカーの位置情報と、前記更新した地上マーカー通過回数を用いて、当該列車が通過した当該地上マーカーの絶対位置情報を選択し、当該絶対位置情報を当該列車の絶対位置として認識する事を特徴とした列車位置検知システム。

【図1】
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【図2】
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