説明

初期化操作方法

【課題】目標操作量まで滑らかに変化するように接続できるとともに応答性を改善し得る初期化操作方法を提供する。
【解決手段】積分器3からの出力が比例成分項を含む多項式で表わされる制御器1を用いて制御を開始する際、その時点での目標値rと制御量yとの差である制御偏差を無くすようにする初期化操作方法であって、初期化時に、多項式の内、少なくとも1つの比例成分項を積分バイアス量xとして分離し、独立した式として設定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初期化操作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
制御器では、たとえば、特許文献1に示されるように、目標値と制御量との差である制御偏差を無くすために比例制御に加えて積分制御が用いられている。
これらの制御器では、制御開始時や、制御ゲインを切り替えたときに、制御ロジックに、たとえば、その時の制御偏差である初期値を与える初期化を実施して制御を開始し、その後、与えられた制御偏差を無くすように制御対象が操作される(初期化操作)。
この初期化操作には、制御対象の操作量の変化を小さくして目標操作量まで滑らかに変化するように接続する方法と、初期化時に目標値応答を改良し、短時間で目標操作量まで変化させる方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−76098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、制御対象の操作量の変化を小さくして目標操作量まで滑らかに変化するように接続する方法では、初期化時に設定される制御偏差が大きい場合には、制御偏差をゼロにするまでに時間がかかるという課題(目標値応答が悪化する)がある。
一方、初期化時に目標値応答を改良し、短時間で目標操作量まで変化させる方法では、操作量が突変してしまい、切替時に操作量を滑らかにつなぐことができないという課題がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、目標操作量まで滑らかに変化するように接続できるとともに応答性を改善し得る初期化操作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明の一態様は、積分器からの出力が比例成分項を含む多項式で表わされる制御器を用いて制御を開始する際、その時点での目標値と制御量との差である制御偏差を無くすようにする初期化操作方法であって、初期化時に、前記多項式の内、少なくとも1つの比例成分項を積分バイアス量として分離し、独立した比例項式として設定する初期化操作方法である。
【0007】
本態様にかかる初期化操作方法では、初期化時に、積分器からの出力が表わされる比例成分項を含む多項式の内、初期化時に、少なくとも1つの比例成分項を積分バイアス量として分離し、独立した比例項式として設定するので、積分器からの出力は、積分ゲインの影響を受ない比例項式と、積分ゲインの影響を受ける項が存在する残余の多項式とに分離されて取り扱われる。
これにより、積分器は、たとえば、積分ゲインを調整して目標操作量まで滑らかに変化するように設定することができる。このように、積分器が目標操作量まで滑らかに変化するように設定されていたとしても、その出力の一部である比例項式は積分ゲインに関係なく調整することができるので、単独で減少させることができ、短時間で目標操作量まで変化させることができる。
【0008】
上記態様では、前記積分バイアス量は、絶対値が順次減少し、ゼロになるように操作されることとしてもよい。
【0009】
このようにすると、積分バイアス量が正であろうと負であろうと影響なく同様な条件で減少させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、目標操作量まで滑らかに変化するように接続できるとともに応答性を改善することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態にかかる初期化操作方法を用いる制御器の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる初期化操作方法のフローを示すフロー図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる初期化操作方法の動作を示すグラフである。
【図4】従来の初期化操作方法のフローを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明にかかる一実施形態にかかる初期化操作方法について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態にかかる初期化操作方法を用いる制御器1の一例を示すブロック図である。
制御器1には、積分器3と、積分器3の積分ゲインKiを設定する積分ゲイン設定部5、積分器3と並列され、第一比例ゲインKp1を設定する第一比例ゲイン設定部7と、制御対象部9と、第二比例ゲインKp2を設定する第二比例ゲイン設定部11と、信号を加減算する複数の演算器13,15,17とが備えられている。
【0013】
制御器1は、以下のような動作を行う。
演算器13は、目標値rから制御量yを減算する。この減算された値は、それぞれ一方は積分ゲインKiで積分され、他方は、第一比例ゲインKp1を乗算され、演算器15で加算される。演算器15で加算された値は、演算器17で、制御量yに第二比例ゲインKp2を乗算した値を減算され、制御対象部9を操作する操作量uが算出される。制御対象9は、操作量uで動作され、その結果として制御量yとなる。
【0014】
したがって、積分器3の出力をxとすると、操作量uは、u=x+Kp1*(r−y)−Kp2*yと表わされるので、出力xは、x=u−Kp1*(r−y)+Kp2*yとなる。
したがって、出力xは、積分ゲインKiに影響される項である操作量uと、積分ゲインKiに影響されない項であるKp1*(r−y)およびKp2*yとで構成される多項式である。Kp1*(r−y)およびKp2*yは、いずれも比例ゲインが乗算されているので、比例項と称することとする。
【0015】
このように構成された制御器1を用いた本実施形態にかかる初期化操作方法について図2および図3を用いて説明する。
初期化操作方法は、制御開始時や、制御ゲインを切り替えたときに、制御器1に初期値を与える初期化を実施して制御を開始し、その後、与えられた制御偏差を無くすように制御対象が操作されるものである。
図2は、本実施形態にかかる初期化操作方法のフローを示すフロー図である。図3は、本実施形態にかかる初期化操作方法の動作を例示するグラフである。
【0016】
本実施形態では、ある制御量y(操作量u)で手動操作を行っていた状態からある目標値rとなるように自動制御を行う場合について説明する。
制御が開始される(ステップS1)と、初期化オンされる(ステップS2)。
初期化オンされると、最初の設定である初期化であるかが判定される(ステップS3)。
初期化である(YES)場合、積分器3の出力xは、2つの多項式、に分割されて設定される(ステップS4)。すなわち、積分ゲインKiの影響を受ける項(u)が存在する多項式であるxold=u+Kp2*yで表わされる出力量xと、積分ゲインKiの影響を受ない比例項式であるxbold=−Kp1*(r−y)で表わされる積分バイアス量xと、に分割して算出され、算出されたその時点での値である出力量xoldおよび積分バイアス量xboldが設定される。
【0017】
ステップS4で、出力量xoldおよび積分バイアス量xboldが設定されると、その時点の出力量xが、x=xbold+Ki*(r−y)で算出される(ステップS5)。
このとき、積分バイアス量x(xbol)が正の値かが判定される(ステップS6)。
積分バイアス量xが正の値である(YES)場合、積分バイアス量xが、新たに、x=xbold−Kini*|r−y|と算出される(ステップS7)。
係数Kiniは、積分バイアス量xを低減させる割合であり、これを適当な値に設定することによって積分バイアス量xの低減割合を調整することができる。
【0018】
算出された積分バイアス量xが、ゼロ(0)以下、すなわち、0あるいは負であるかが判定される(ステップS8)。積分バイアス量xがゼロ未満(YES)の場合には、積分バイアス量xが負の値から正の値になったと判断し、積分バイアス量x,xoldはゼロと設定される(ステップS9)。
【0019】
ステップS6で、積分バイアス量xがゼロ未満の値である(NO)場合、積分バイアス量x(xbol)が負の値かが判定される(ステップS10)。
積分バイアス量xが負の値である(YES)場合、積分バイアス量xが、新たに、x=xbold+Kini*|r−y|と算出される(ステップS11)。
算出された積分バイアス量xが、ゼロ(0)以上、すなわち、0あるいは正であるかが判定される(ステップS12)。積分バイアス量xがゼロ以上(YES)の場合には、積分バイアス量x,xoldはゼロと設定される(ステップS13)。
【0020】
ステップS10,S8,S12がNOの場合およびステップS9,S13で積分バイアス量xがゼロと設定された場合、出力量xは、x=xbold+Ki*(r−y)で算出される。算出された出力量xは出力量xoldとされる。そして、操作量uは、u=x+x+Kp1*(r−y)−Kp2*yで算出される(ステップS14)。
その後、初期化操作が終了しているかが判定され(ステップS15)、継続している場合には、ステップS3に戻って、上記した手順が繰り返し行われる。
【0021】
参考までに、図4に示される従来の初期化操作方法のフローについて説明する。
制御が開始される(ステップS21)と、初期化オンされる(ステップS22)。
初期化オンされると、最初の設定である初期化であるかが判定される(ステップS23)。
初期化である(YES)場合、積分器3の出力xは、xold=u−Kp1*(r−y)+Kp2*yで算出された値に設定される(ステップS24)。
ステップS23でNOの場合、あるいはステップS24で出力xが設定された場合、出力量xは、x=xold+Ki*(r−y)で算出される。算出された出力量xは出力量xoldとされる。そして、操作量uは、u=x+Kp1*(r−y)−Kp2*yで算出される(ステップS25)。その後、初期化操作が終了しているかが判定され(ステップS26)、継続している場合には、ステップS23に戻って、上記した手順が繰り返し行われる。
【0022】
図3には、本実施形態にかかる初期化操作方法と従来の初期化操作方法で初期化操作を行った場合の制御量y、操作量u、出力量x等の変化が例示されている。
図3では、本実施形態にかかる初期化操作方法にかかるものを太い実線で、従来のものを一点鎖線で示している。
【0023】
従来の場合、出力量xに含まれる比例項分pが減少するのであるが、この減少分は積分ゲインKiによって吸収され、出力量xの変化にほとんど寄与しない。このため、出力量xの変化は積分ゲインKiの設定に依存される。
したがって、目標操作量uまで滑らかに変化するように積分ゲインKiを設定すると、目標操作量u(制御量yの目標値r)まで到達する時間が長くなる。
【0024】
本実施形態の場合、積分バイアス量xが、第一比例ゲインKp1による変化量を打ち消すように設定される。積分バイアス量xは、係数Kiniによって設定された割合でゼロに近づくことになる。係数Kiniは積分ゲインKiとは独立して設定できるので、大きく設定することができる。
係数Kiniを大きく設定すると、操作量uを早く速く変化させることができるので、制御量yを速く目標値rに到達させることができる。
【0025】
なお、本実施形態では、制御器1が手動操作から自動制御に切り替えられ際の初期化操作について説明しているが、初期化操作が行われるケースは、これに限定されない。
たとえば、制御器1の積分ゲインKi、第一比例ゲインKp1および第二比例ゲインKp2が切り替えられて、目標値rが変更される場合、制御器1をオンオフする場合、複数の制御器1が備えられ、それらの制御器1が切り替えられ、目標値rが変化する場合等に用いられる。
【0026】
制御器1の制御対象部9としては、たとえば、無人潜水艦・潜水艇(UUV)における深度制御、方位制御、ピッチ制御、速度制御等、発電用ボイラの主蒸気温度制御、RH温度制御等、車両の方位制御、速度制御、姿勢制御、各種バルブ制御等が用いられる。
この場合、各制御を行うそれぞれの制御器1を備えていてもよく、それらを切り替えて用いる際に、初期化操作が行われる。
【0027】
また、本実施形態では、積分器3ならびに積分ゲインKi、第一比例ゲインKp1および第二比例ゲインKp2を備えている制御器1を対象としているが、制御器1としては、積分器3と比例ゲインを備えていればよく、制御器1の構成はこれに限定されない。
【符号の説明】
【0028】
1 制御器
3 積分器
r 目標値
積分バイアス量
y 制御量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積分器からの出力が比例成分項を含む多項式で表わされる制御器を用いて制御を開始する際、その時点での目標値と制御量との差である制御偏差を無くすようにする初期化操作方法であって、
初期化時に、前記多項式の内、少なくとも1つの比例成分項を積分バイアス量として分離し、独立した比例項式として設定することを特徴とする初期化操作方法。
【請求項2】
前記積分バイアス量は、絶対値が順次減少し、ゼロになるように操作されることを特徴とする請求項1に記載の初期化操作方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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