説明

別体板ばねの固定構造

【課題】板ばねが固定される嵌合筒部に強度を確保し易く、且つ、雌端子本体の成形性を向上させることができる別体板ばねの固定構造を提供すること。
【解決手段】雌端子本体10の嵌合筒部11は角筒状を形成する複数の側壁板部の内の1つとしてリベット用柱状体15が突設された第1側板部11aを備え、嵌合筒部11に固定される板ばね20はリベット用柱状体15が挿入可能なリベット挿入孔21aを有し、嵌合筒部11は、角筒状にプレス成形する前の展開形状において第1側板部11aに板ばね20をリベット止めした後に角筒状にプレス成形することで、内部に板ばね20が固定された構造を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形により形成される雌端子本体の嵌合筒部内に別体の板ばねが固定された構造の雌型端子金具を得る別体板ばねの固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図7及び図8は、下記特許文献1に開示された雌型端子金具における別体板ばねの固定構造を示したものである。
【0003】
ここに示した雌型端子金具101は、金属板のプレス成形により形成される雌端子本体110と、雌端子本体110とは別体に形成されて前記雌端子本体110に固定される金属板製の板ばね120と、を備える。
【0004】
雌端子本体110は、雄型端子が挿入可能な角筒状の嵌合筒部111と、この嵌合筒部111の後方に連なる電線圧着部112と、をプレス成形により形成する。嵌合筒部111は、底板部111aの両側に起立状態に折り曲げ成形される両側板部111bに、板ばね120を固定するための固定孔130が貫通形成されている。
【0005】
板ばね120は、嵌合筒部111内に固定装備されて、嵌合筒部111に挿入される雄型端子を押圧して、雄型端子と嵌合筒部111とを導通接続状態にする。
【0006】
板ばね120は、図7に示すように、その両側に、嵌合筒部111に結合させるための固定片121が設けられている。
【0007】
下記特許文献1に開示された別体板ばねの固定構造では、図7に示すように、底板部111aの両側に側板部111bを起立状態に成形する前に、底板部111a上に板ばね120を載置する。その状態で、底板部111aの両側の側板部111bを起立状態に折り曲げることで、板ばね120の両側の固定片121を両側板部111bの固定孔130に嵌入させることで、嵌合筒部111内に固定孔130が固定された状態を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−323217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1における別体板ばねの固定構造では、プレス成形の途中で板ばね120が位置ずれを起こすと、固定片121が固定孔130の縁と干渉して、板ばね120の破損等を招く。
【0010】
そのため、プレス成形の際に板ばねの位置ずれを防ぐための高精度な位置決め技術が要求される。そこで、特許文献1の場合は、図8に示すように、底板部111a上に板ばね120を高精度に位置決めするための位置決め片115を切り起こし形成している。位置決め片115は、底板部111aの上に載置される板ばね120の裏面に当接して、板ばね120の変位を規制する。
【0011】
しかし、特許文献1の別体板ばねの固定構造では、板ばね120の位置ずれ防止用の位置決め片115を切り起こし形成するために、嵌合筒部111に十分な強度を確保することが難しいという問題が生じた。
【0012】
また、位置決め片115を装備していても、側板部111bの折り曲げ時に作用する衝撃等のために板ばね120が微少変位すると、板ばね120の取り付け不良が発生するおそれがあった。そのため、板ばね120が位置ずれしないように、衝撃の少ない高精度なプレス成形が要求され、成形性の向上が難しいという問題も生じた。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解消することに係り、板ばねが固定される嵌合筒部に強度を確保し易く、且つ、雌端子本体の成形性を向上させることができる別体板ばねの固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の前述した目的は、下記の構成により達成される。
(1)雄型端子が挿入可能な角筒状にプレス成形される雌端子本体の嵌合筒部内に、前記雄型端子を押圧可能に、前記雌端子本体とは別体に形成された板ばねを固定する雌型端子金具における別体板ばねの固定構造であって、
前記嵌合筒部は、角筒状を形成する複数の側壁板部の内の1つとしてリベット用柱状体が突設された第1側板部を備え、
前記板ばねは、前記リベット用柱状体が挿入可能なリベット挿入孔を有して、前記リベット挿入孔に挿入されたリベット用柱状体の頂部を加締めるリベット止めにより前記第1側板部に固定されるリベット止め部を備え、
前記嵌合筒部は、角筒状にプレス成形する前の展開形状において前記第1側板部に前記板ばねをリベット止めした後に角筒状にプレス成形することで、内部に前記板ばねが固定された構造を得ることを特徴とする別体板ばねの固定構造。
【0015】
(2)前記板ばねは、前記リベット止め部に連なる固定用板部の両側に、前記第1側板部の両側縁に起立状態に折り曲げ成形される前記嵌合筒部の第2側板部に向かって突出した固定片を備え、
前記嵌合筒部の第2側板部は、前記嵌合筒部の展開形状から前記第1側板部の両側縁に起立した状態に成形されたときに、前記固定片が嵌入して前記固定用板部の両側を固定するばね固定孔を備えたことを特徴とする上記(1)に記載の別体板ばねの固定構造。
【0016】
上記(1)の構成によれば、雌端子本体の嵌合筒部を角筒状のプレス成形する時には、別体の板ばねは既にリベット止めにより第1側板部に固定されている。従って、雌端子本体の嵌合筒部のプレス成形時に板ばねの位置ずれを防ぐための高精度な位置決め片を嵌合筒部に切り起こし形成する必要がない。また、嵌合筒部のプレス成形時の衝撃等で板ばねの位置がずれることもない。
【0017】
従って、板ばねが固定される嵌合筒部に強度を確保し易い。また、衝撃の少ない高精度なプレス成形が要求されなくなるため、雌端子本体の成形性を向上させることができる。
【0018】
上記(2)の構成によれば、別体の板ばねの嵌合筒部への固定は、第1側板部へのリベット止めと、板ばねに装備した固定片が第2側板部のばね固定孔に嵌入する嵌合構造と、で、2重の固定構造となるため、別体の板ばねに対する固定の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明による別体板ばねの固定構造によれば、雌端子本体の嵌合筒部を角筒状のプレス成形する時には、別体の板ばねは既にリベット止めにより第1側板部に固定されている。従って、雌端子本体の嵌合筒部のプレス成形時に板ばねの位置ずれを防ぐための高精度な位置決め片を嵌合筒部に切り起こし形成する必要がない。また、嵌合筒部のプレス成形時の衝撃等で板ばねの位置がずれることもない。
【0020】
従って、板ばねが固定される嵌合筒部に強度を確保し易い。また、衝撃の少ない高精度なプレス成形が要求されなくなるため、雌端子本体の成形性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る別体板ばねの固定構造で板ばねが固定された雌型端子金具の一実施形態の斜視図である。
【図2】図1に示した雌型端子金具の縦断面図である。
【図3】図1に示した雌端子本体に形成する端子母材の展開形状と、雌端子本体に固定される別体の板ばねの斜視図である。
【図4】図3に示した複数の端子母材が連続形成された第1の打ち抜き板材と、複数の板ばねが連続形成された第2の打ち抜き板材の斜視図である。
【図5】図4に示した第2の打ち抜き板材上の板ばねが、第1の打ち抜き板材上の端子母材にリベット止めされた状態の斜視図である。
【図6】第1の打ち抜き板材上の端子母材にリベット止めされた板ばねが第2の打ち抜き板材から切り離された状態の斜視図である。
【図7】従来の雌型端子金具における別体板ばねの固定構造を示す斜視図である。
【図8】図7に示した雌型端子金具のプレス成形完了状態の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る別体板ばねの固定構造の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1〜図6は本発明に係る別体板ばねの固定構造の一実施形態を示したもので、図1は本発明に係る別体板ばねの固定構造で板ばねが固定された雌型端子金具の一実施形態の斜視図、図2は図1に示した雌型端子金具の縦断面図、図3は図1に示した雌端子本体に形成する端子母材の展開形状と、雌端子本体に固定される別体の板ばねの斜視図、図4は図3に示した複数の端子母材が連続形成された第1の打ち抜き板材と、複数の板ばねが連続形成された第2の打ち抜き板材の斜視図、図5は図4に示した第2の打ち抜き板材上の板ばねが、第1の打ち抜き板材上の端子母材にリベット止めされた状態の斜視図、図6は第1の打ち抜き板材上の端子母材にリベット止めされた板ばねが第2の打ち抜き板材から切り離された状態の斜視図である。
【0024】
図1及び図2に示した雌型端子金具1は、金属板のプレス成形により形成される雌端子本体10と、雌端子本体10とは別体に形成されて雌端子本体10に固定される金属板製の板ばね20と、を備える。
【0025】
雌端子本体10は、雄型端子が挿入可能な角筒状の嵌合筒部11と、この嵌合筒部11の後方に連なる電線圧着部12と、をプレス成形により形成する。
【0026】
嵌合筒部11は、図2で上部を覆っている第1側板部11aと、この第1側板部11aの両側に垂直な起立状態に折り曲げ成形される一対の第2側板部11b,11cと、第1側板部11aに対向する下部を覆っている第3側板部11dと、第1側板部11aの一端の上に折り重なる形状に成形される第4の側板部11eの5つの板部によって、矩形の筒構造を形成している。
【0027】
電線圧着部12は、電線の導体を圧着する導体加締め片12aと、電線の被覆部を固定する電線加締め片12bと、を備えている。
【0028】
図3には、雌端子本体10に成形する前の材料である端子母材10Xを示している。端子母材10Xは、雌端子本体10の展開形状に金属板を打ち抜いたものである。端子母材10Xは、当初、図4に示すように、複数の端子母材10X相互が連結枠19により繋がった状態で、打ち抜かれる。なお、端子母材10Xに示す展開形状では、成形後の各部位と同じ符号を付すことで、各部位の配置を示している。
【0029】
上記の雌端子本体10の場合、図1及び図3に示すように、板ばね20を固定する手段として、リベット用柱状体15と、ばね固定孔16と、を備えている。
【0030】
リベット用柱状体15は、図3に示すように、嵌合筒部11を構成する側板部の1つである第1側板部11aの内面に、複数(図では2個)突設されている。
【0031】
ばね固定孔16は、板ばね20を固定するための孔で、図1及び図3に示すように、対向する一対の第2側板部11b,11cに貫通形成されている。
【0032】
板ばね20は、図2及び図3に示すように、リベット止め部21と、リベット止め部21の一端に連なる固定用板部22と、固定用板部22の先端からリベット止め部21側に折り返されたばね本体23と、固定用板部22の両側に延出形成された一対の固定片24と、を備える。
【0033】
リベット止め部21には、リベット用柱状体15が挿入されるリベット挿入孔21aが、第1側板部11aにおけるリベット用柱状体15の配列に対応して貫通形成されている。このリベット止め部21は、リベット挿入孔21aに挿入されたリベット用柱状体15の頂部を加締めるリベット止めにより、第1側板部11aに固定される。
【0034】
固定用板部22は、リベット止め部21と一緒に、第1側板部11aに面接触する板状部で、リベット止め部21の一側に延長形成されている。
【0035】
ばね本体23は、固定用板部22の先端に延長形成された舌状片で、嵌合筒部11に挿入される雄型端子に押圧接触する部位である。
【0036】
固定片24は、第2側板部11b,11cに形成されたばね固定孔16に嵌入することで、嵌合筒部11に固定される部位である。固定片24は、固定用板部22の両側に設けられている。
【0037】
本実施形態の板ばね20は、図1及び図2に示すように、リベット挿入孔21aに挿入されたリベット用柱状体15によるリベット止めと、固定片24のばね固定孔16への嵌入により位置規制により、嵌合筒部11の内部に固定される。嵌合筒部11内に固定された板ばね20は、嵌合筒部11に挿入される雄型端子をばね本体23により押圧して、雄型端子と嵌合筒部11とを導通接続状態にする。
【0038】
図4には、板ばね20に成形する前の材料であるばね母材20Xと、ばね母材20Xの一部を曲げ成形した二次ばね母材20Yとを示している。
【0039】
ばね母材20Xは、板ばね20の展開形状に金属板を打ち抜いたものである。ばね母材20Yは、ばね母材20Xにおけるばね本体23を最終の曲げ形状に成形したものである。ばね母材20Xや二次ばね母材20Yの状態では、複数の母材が連結枠29で繋がった形状で取り扱われる。なお、ばね母材20Xに示す展開形状では、成形後の各部位と同じ符号を付すことで、各部位の配置を示している。
【0040】
一実施形態の雌型端子金具1の場合、嵌合筒部11への板ばね20の固定は、次の手順により行われる。
【0041】
まず、図5に示すように、端子母材10X上のリベット用柱状体15と、ばね本体23の曲げ成形が完了した二次ばね母材20Yのリベット挿入孔21aとを嵌合させて、二次ばね母材20Yを端子母材10Xの第1側板部11aに位置決めする。
【0042】
次いで、リベット用柱状体15の頂部を加締めて、リベット止めによる固定を行うと共に、二次ばね母材20Yを連結枠29から切り離した状態にして、図6に示すように、端子母材10Xの第1側板部11aに板ばね20がリベット止めされた形態を得る。
【0043】
次いで、板ばね20がリベット止めされた端子母材10Xに対して、所定のプレス加工を加えることで、図1及び図2に示した雌型端子金具1を得る。
【0044】
即ち、本実施形態における別体板ばねの固定構造では、嵌合筒部11は、角筒状にプレス成形する前の展開形状において第1側板部11aに板ばね20をリベット止めした後に角筒状にプレス成形することで、内部に板ばね20が固定された構造を得る。
【0045】
また、板ばね20がリベット止めされた端子母材10Xを角筒状にプレス成形する工程では、嵌合筒部11の第2側板部11b,11cは、端子母材10Xに示した展開形状から第1側板部11aの両側縁に起立した状態に曲げ成形されたときに、固定片24がばね固定孔16に嵌入して、板ばね20の固定用板部22の両側を固定した状態が得られる。
【0046】
以上に説明した一実施形態における別体板ばねの固定構造によれば、雌端子本体10の嵌合筒部11を角筒状のプレス成形する時には、別体の板ばね20は既にリベット止めにより第1側板部11aに固定されている。従って、雌端子本体10の嵌合筒部11のプレス成形時に板ばね20の位置ずれを防ぐための高精度な位置決め片を嵌合筒部11に切り起こし形成する必要がない。また、嵌合筒部11のプレス成形時の衝撃等で板ばね20の位置がずれることもない。
【0047】
従って、板ばね20が固定される嵌合筒部11に強度を確保し易い。また、衝撃の少ない高精度なプレス成形が要求されなくなるため、雌端子本体10の成形性を向上させることができる。
【0048】
また、一実施形態における別体板ばねの固定構造によれば、別体の板ばね20の嵌合筒部11への固定は、第1側板部11aへのリベット止めと、板ばね20に装備した固定片24が第2側板部11b,11cのばね固定孔16に嵌入する嵌合構造とで、2重の固定構造となるため、別体の板ばね20に対する固定の信頼性を向上させることもできる。
【0049】
なお、本発明の別体板ばねの固定構造は、前述した各実施形態に限定されるものでなく、適宜な変形、改良等が可能である。
【0050】
例えば、前述した各実施形態では、別体の板ばねの嵌合筒部への固定手段として、板ばねに装備した固定片が嵌合筒部のばね固定孔に嵌入する嵌合構造も備えて、2重の固定構造としたが、リベット止めだけで十分な固定強度確保することができる場合には、固定片とばね固定孔との嵌合構造は省略するようにしても良い。
【符号の説明】
【0051】
1 雌型端子金具
10 雌端子本体
11 嵌合筒部
11a 第1側板部
11b,11c 第2側板部
15 リベット用柱状体
16 ばね固定孔
20 板ばね
21 リベット止め部
21a リベット挿入孔
24 固定片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄型端子が挿入可能な角筒状にプレス成形される雌端子本体の嵌合筒部内に、前記雄型端子を押圧可能に、前記雌端子本体とは別体に形成された板ばねを固定する雌型端子金具における別体板ばねの固定構造であって、
前記嵌合筒部は、角筒状を形成する複数の側壁板部の内の1つとしてリベット用柱状体が突設された第1側板部を備え、
前記板ばねは、前記リベット用柱状体が挿入可能なリベット挿入孔を有して、前記リベット挿入孔に挿入されたリベット用柱状体の頂部を加締めるリベット止めにより前記第1側板部に固定されるリベット止め部を備え、
前記嵌合筒部は、角筒状にプレス成形する前の展開形状において前記第1側板部に前記板ばねをリベット止めした後に角筒状にプレス成形することで、内部に前記板ばねが固定された構造を得ることを特徴とする別体板ばねの固定構造。
【請求項2】
前記板ばねは、前記リベット止め部に連なる固定用板部の両側に、前記第1側板部の両側縁に起立状態に折り曲げ成形される前記嵌合筒部の第2側板部に向かって突出した固定片を備え、
前記嵌合筒部の第2側板部は、前記嵌合筒部の展開形状から前記第1側板部の両側縁に起立した状態に成形されたときに、前記固定片が嵌入して前記固定用板部の両側を固定するばね固定孔を備えたことを特徴とする請求項1に記載の別体板ばねの固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−8571(P2013−8571A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140765(P2011−140765)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)