説明

利用周波数チャネル選択方法および無線通信装置

【課題】複数ユーザ環境において自律分散的に周波数割当を行う。
【解決手段】送受信ノード間で位置情報・車速情報・利用可能周波数のリスト・送信データ量を交換し、利用可能な周波数チャネルのそれぞれについて通信可能時間および通信可能データ量を算出する。通信可能データ量が送信すべきデータ量のα倍(α>1)以上となるまで、周波数チャネルを利用するチャネルとして選択していく。このとき通信可能データ量が多い周波数チャネルから優先して選択する。閾値αは例えば1.1〜1.5程度とする。また、利用可能な周波数チャネルの全てを用いても送信すべきデータ量を送信できない場合には、他の送受信ペアに対して周波数チャネルを解放するように要求することも好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コグニティブ無線システムにおける周波数割当技術に関し、特に、特定の制御ノードを持たないアドホックコグニティブ無線ネットワークにおいて周波数割当を自律分散的に行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、未使用の周波数を検出して利用するコグニティブ無線システムの研究・開発が進められている。使用可能な周波数は、プライマリーユーザの通信や端末の移動などによって、時間的にも空間的にも随時変化する。したがって、通信に利用する適切な周波数を迅速に決定することが重要である。
【0003】
特に、複数のユーザが混在する環境において、データチャネルとして利用可能な複数の周波数を、これら複数のユーザ間でどのように利用するかを決定することは、効率的な通信を実現するために重要である。
【0004】
非特許文献1では、セカンダリーユーザがセンターを介して個々にデータチャネルを割り当てる方法や、プライマリーユーザの少ないチャネルを選択する方法、プライマリーユーザへの干渉が少ないチャネルを選択する方法、およびこれらの併用が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】L. Marin and L. Giupponi, "Performance evaluation of spectrum decision schemes for a Cognitive Ad-Hoc Network," IEEE CRNETS 2008, Sep. 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アドホック無線通信システムのようなインフラ(アクセスポイント等)を利用しない無線通信システムでは、中央集権的な制御部(センター)を利用できない。したがって、各ノードが自律分散的に適切な周波数チャネル割当を決定することが望まれる。
【0007】
本発明は、複数ユーザが混在する環境において、各送受信ペアがデータチャネルとして利用する周波数チャネルを自律分散的に決定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明では、以下の手段または処理によってデータチャネルとして利用する周波数チャネルを決定する。
【0009】
本発明の利用周波数チャネル選択方法は、データチャネル候補である各周波数チャネルについて、データレートおよびプライマリーユーザの利用率の情報を保持する無線通信装置が行うものであり、
通信相手ノードと制御チャネルを確立する制御チャネル確立ステップと、
制御チャネルを介して位置情報および車速情報を通信相手ノードと交換する情報交換ステップと、
通信相手ノードの位置情報および車速情報と自ノードの位置情報および車速情報とから、通信相手ノードと通信可能な時間を算出する通信可能時間算出ステップと、
データチャネル候補である各周波数チャネルについて、その周波数チャネルで送信可能なデータ量を、通信相手ノードと通信可能な時間、プライマリーユーザの利用率、および
データレートに基づいて算出する送信可能データ量算出ステップと、
データチャネルとして利用する周波数チャネルを、各周波数チャネルで送信可能なデータ量の和が通信相手ノードとの間で通信するデータ量を超えるように決定する利用周波数チャネル決定ステップと、
を含む。
【0010】
このように、無線通信装置は、予め保有する各周波数チャネルのデータレートおよびプライマリーユーザの利用率と、制御チャネルを介して得られる通信相手ノードの位置情報および走行情報から、各周波数チャネルで通信相手ノードに送信可能なデータ量を算出できる。そして、送受信ノード間で通信されるデータ量以上が送信可能なように、1つまたは複数の周波数チャネルをデータチャネルとして選択する。このようにすることで、各無線通信装置は、通信相手ノードとの通信に必要なデータ量を伝送可能なようにデータチャネルを自律的に選択できる。
【0011】
本発明の利用周波数チャネル決定ステップでは、送信可能なデータ量が多い周波数チャネルから優先的に選択することが好ましい。
【0012】
送信可能なデータ量が多い周波数チャネルから優先的に選択することで、利用する周波数チャネルの数を最小とすることができる。
【0013】
また、本発明の送信可能データ量算出ステップでは、各周波数チャネルで送信可能なデータ量を、
(通信可能時間)×(1−プライマリーユーザの利用率)×(データレート)
によって算出することが好ましい。
【0014】
また、本発明の利用周波数チャネル決定ステップでは、各周波数チャネルで送信可能なデータ量の和が、通信相手ノードとの間で通信するデータ量のα倍以上(αは1より大きい所定の実数)となるように、データチャネルとして利用する周波数チャネルを決定する、ことが好ましい。
【0015】
上記のようにして求めた各周波数チャネルで送信可能なデータ量は推定であり、必ずしもそれだけのデータ量が送信できるとは限らない。したがって、ある程度の安全係数αを考慮して、データチャネルとして利用する周波数チャネルを選択することで、より確実に通信可能時間内に通信を完了させることができるようになる。なお、αは例えば、1より大きく1.5以下、あるいは1.1以上1.3以下とすることができる。αを小さくするほど、不測の事態により通信が完了できなくなる可能性は高まるが、より効率的な周波数割当が実現できる。また逆に、αを大きくするほど、周波数利用の無駄が生じるが、不測の事態により通信が完了できなくなる可能性は低くできる。αの選択は、このようにトレードオフの関係にあり、アプリケーションの要求により適宜設定することが望ましい。
【0016】
また、本発明の利用周波数チャネル選択方法は、利用可能な全ての周波数チャネルを利用しても、送信可能なデータ量の和が通信相手ノードとの間で通信するデータ量未満となる場合に、他の送受信ペアに対して周波数チャネルの解放を要求する周波数チャネル解放要求ステップ、を含むことも好ましい。
【0017】
特に、上記の安全係数αを大きくしている場合には、他の送受信ペアにおいて周波数チャネルを1つ使用しなくても、必要な通信を十分に行える場合があり得る。このような場合に、他の送受信ペアに対して周波数チャネルの解放を要求することで、全体として効率的な周波数割当が実現できる。
【0018】
上記の周波数チャネル解放要求ステップでは、通信相手ノードとの間で通信するデータ量を確保できる範囲で、解放を要求する周波数チャネルにおいて送信可能なデータ量が最小となるように、解放を要求する周波数チャネルを決定する、ことが好ましい。
【0019】
解放を要求する周波数チャネルでの送信可能なデータ量が必要最小限とすることで、他の送受信ペアに与える悪影響を最小限とすることができる。
【0020】
また、上記の利用周波数チャネル決定ステップでは、他の送受信ペアから利用中の周波数チャネルの解放を要求された場合に、要求された周波数チャネル以外の周波数チャネルで送信可能なデータ量の和が、通信相手ノードとの間で通信するデータ量のβ倍以上(βは1≦β<αを満たす所定の実数)であれば、要求された周波数チャネルを解放する、ことが好ましい。
【0021】
このように、データチャネルの選択基準に安全係数αとβの2つの基準を使用する。周波数資源に余裕がある場合は必要なデータ量のα倍以上を送信できるように周波数チャネルを選択する。一方、周波数資源が枯渇してきた場合には必要なデータ量のβ(β<α)倍以上送信できる周波数チャネルを確保した上で、他の無線通信装置からの要求に従って周波数チャネルを解放する。これにより、周波数資源が豊富な場合により確実な通信が実現できる周波数割当が行える一方、通信を行う無線通信装置が増えた場合でも効率的な周波数割当が行える。このような2段階の基準を利用する方法は、αを大きく設定した場合に特に有効である。
【0022】
なお、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む周波数チャネル選択方法、またはこの方法を実現するためのプログラムとして捉えることもできる。また、本発明は、上記処理を実行するための各手段を有する無線通信装置として捉えることもできる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、固定された制御チャネルが存在しないコグニティブ無線通信システムにおいて、送受信ノード間で通信に適した周波数を選択して通信を確立するとともに、制御チャネルを専有せずに周波数資源を有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】無線通信装置の構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態の通信制御部の機能ブロックを示す図である。
【図3】チャネル特性記憶部のテーブル構造を示す図である。
【図4】プライマリーユーザ利用情報記憶部のテーブル構造を示す図である。
【図5】第1の実施形態におけるデータチャネルの周波数チャネル選択方法の流れを示すフローチャートである。
【図6】第2の実施形態の通信制御部の機能ブロックを示す図である。
【図7】第2の実施形態におけるデータチャネルの周波数チャネル選択方法の流れを示すフローチャートである。
【図8】第2の実施形態における周波数解放要求を受け付けた際の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0026】
<第1の実施形態>
本実施形態にかかるコグニティブ無線通信システムは、複数の無線通信装置から構成さ
れる。無線通信装置は車両に搭載されており、車車間通信無線ネットワークを構成する。これらの端末間での通信は周囲の電波状況を検出して利用する周波数帯(周波数チャネル)を選択して行われる。本無線通信システムは、無線通信装置がアクセスポイント等のインフラの介在無しに相互に接続するアドホックネットワークである。したがって、通信に利用する周波数帯を割り当てる制御装置は存在しない。
【0027】
〈構成概要〉
図1は、本実施形態にかかるコグニティブ無線通信システムを構成する、無線通信装置の機能構成を示す概略図である。無線通信装置1は、アンテナ2、高周波部3、AD変換部4、通信制御部5、チャネル特性記憶部6、プライマリーユーザ(PU)利用情報記憶部7を備える。また無線通信装置1は、GPS装置8および車速センサ9と通信可能に接続されており、位置情報や車速情報を取得できる。高周波部3は、無線信号を受信してデジタル信号処理が行いやすい周波数帯に変換したり、送信信号を実際に送信する周波数に変換する。AD変換部4は、受信したアナログ信号をデジタル信号に変換し、送信するデジタル信号をアナログ信号に変換する。なお、無線通信装置1は、アンテナ2から受信した広帯域の信号(例えば、900MHz〜5GHz)を、一括してAD変換して、チャネル選択などを含めて復調処理等はデジタル信号処理部5で実現する。
【0028】
通信制御部5は、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ダイナミック・リコンフィギュラブルプロセッサなどによって構成さ
れるデジタル信号処理部である。図2に、通信制御部5のより詳細な機能ブロック図を示す。通信制御部5は、その機能部として、制御チャネル確立部51、電波状況検出部52、周波数リスト53およびデータチャネル確立部54を含む。通信制御部5は、その他にも変復調等のための機能部を要するが、これらは公知であるため詳しい説明は省略する。
【0029】
チャネル特性記憶部6には、データチャネル候補である各周波数チャネルについての特性が格納されている。本実施形態では、図3に示すように、各周波数チャネルについて、データレートと通信可能距離が格納されている。
【0030】
PU利用情報記憶部7には、図4に示すように、データチャネル候補である各周波数チャネルについて、プライマリーユーザがその周波数チャネルを利用する割合が格納されている。この利用率に関する情報は、たとえば、場所ごとや時間帯ごとなどによって異なっていても良い。プライマリーユーザのチャネル利用情報は、どのようにして入手するものであってもかまわない。たとえば、予め固定的なデータとして保持していても良いし、無線通信(例えば、電波ビーコン、光ビーコン、FM多重放送)によって、外部から取得しても良い。また、例えば、自ノードにおいてプライマリーユーザの利用状況を監視して、直近の所定時間内における利用状況から利用率を求めるようにしても良い。
【0031】
GPS装置8は、GPS衛星からの信号を受信して、位置情報および時刻情報を取得する。車速センサ9は、車両の走行速度や方向を取得する。
【0032】
以下、図2を参照して、通信制御部5を構成する各機能部をより詳細に説明する。制御チャネル確立部51は、通信相手のノードと制御チャネルを確立する機能部である。本実施形態においては、制御チャネルの確立方法は限定されない。利用可能な周波数チャネルの中から任意の周波数を選択して利用しても良いし、位置情報と時刻情報から定められる周波数を利用しても良いし、その他の方法により制御チャネルを決定しても良い。
【0033】
電波状況検出部52は、自ノード周囲における電波状況を検出し、各周波数帯が使用中であるか未使用であるか(言い換えると、自ノードが利用可能であるか否か)を判断する。具体的なセンシング技術は既知の種々の手法を採用することができる。電波状況検出部
52は、検出する無線通信方式に応じて、エネルギー検出、ウェーブレット分解技法、パイロットベースのスペクトラムセンシング、固有値に基づくスペクトラムセンシング、特徴(feature)検出、マッチドフィルター(matched filter)方法などによって、周波数
帯が使用中であるか未使用であるかを判別する。
【0034】
周波数リスト53には、自ノードおよび通信相手ノードについての、各周波数の利用可能状況(他者の使用状況)が格納される。自ノードについての利用可能状況は電波状況検出部52の検出結果から更新できる。さらに、通信相手ノードの利用可能状況は、制御チャネル(初期制御チャネルおよび動的制御チャネル)を通じて取得して、更新できる。さらに、後述するようにプローブパケットを送信して、実際にその周波数を使って通信可能であることを確認できる。
【0035】
周波数リスト53には、各ノードが装備している(ハードウェアとして対応可能な)周波数について、他のノードが利用しているため利用不可能、他ノードが利用していないがプローブに対する応答がない(通信不可)、他ノードが利用しておらずプローブに対する応答がある(通信可能)、という3つの状態に分けて管理する。ただし、装備周波数の全てについて、利用状況を把握する必要は必ずしもなく、実際に使用する可能性のある周波数範囲に絞って利用状況を把握するようにしてもかまわない。
【0036】
データチャネル確立部54は、通信相手との間で行う通信のデータ量や利用周波数に関する特性を元に、データチャネルとして利用する周波数チャネルを自律分散的に決定する機能部である。データチャネル確立部54は、制御情報送受信部55、通信可能時間算出部56、データ通信寄与率算出部57、周波数チャネル選択部58を備える。
【0037】
制御情報送受信部55は、通信相手との間で接続された制御チャネルを介して、データチャネルを確立するために必要となる情報を交換する。本実施形態においては、通信相手に送信するアプリケーションデータ量、自ノードの位置情報および車速情報、そして、自ノードが利用可能なデータチャネル候補の周波数チャネルのリストを送信する。通信相手に送信するアプリケーションデータ量を送信することで、送受信ノードの間で送信される総データ量が算出できる。たとえば、ファイル転送を行う場合には送信データ量は多いが、テキストメッセージングを行う場合には送信データ量は少ない。また、位置情報および車速情報を交換することで、送受信ノードの相対位置および相対速度が算出できる。また、利用可能な周波数チャネルを交換することで、互いに利用可能なデータチャネル候補の周波数チャネルを把握することができる。
【0038】
通信可能時間算出部56は、通信相手との間で通信可能な時間を算出する。通信可能時間の算出は、通信相手との相対位置、相対速度および各周波数チャネルの通信可能距離に基づいて算出可能である。このように、通信可能時間は周波数チャネルの通信可能距離に依存するので、周波数チャネルごとに通信可能時間は異なる値となる。なお、通信可能時間の算出は、通信相手と自ノードの両方が利用可能な周波数チャネルについて行えば十分である。
【0039】
データ通信寄与率算出部57は、送受信ノードの両方で利用可能な各周波数チャネルを使って通信した場合に、送信するアプリケーションデータ量のどれくらいの割合をその周波数チャネルで上記通信可能時間内に送信可能かを算出する。ある周波数チャネルで送信可能なデータ量は、その周波数のデータレート、プライマリーユーザが利用していない時間の割合、通信可能な時間によって算出できる。そして、周波数チャネルで送信可能なデータ量のアプリケーションデータ量に対する比を算出することで、その周波数チャネルの寄与率を算出することができる。
【0040】
より具体的には、各周波数チャネルで通信可能時間内に送信可能なデータ量Ziは以下のように求まる。
=T×(1−PUtilization)×R
ここで、
:チャネル番号iを用いた際の最大通信可能時間、
:チャネル番号iのデータレート、
PUtilization=チャネル番号iのプライマリーユーザの統計的利用率、
:チャネル番号iで最大通信可能時間Tの間に転送可能なデータ量。
【0041】
したがって、各周波数チャネルの寄与率Contributionは、以下のように求まる。
Contribution=Z/W
ここで、W:アプリケーションデータ量。
【0042】
周波数チャネル選択部58は、上記のようにして求めたデータチャネル候補の各周波数チャネルの寄与率に基づいて、データチャネルとして利用する周波数チャネルを選択する。ここで、寄与率の合計が「1」以上であれば、送受信ノード間で必要なアプリケーションデータの全量を送信可能である。したがって、寄与率の合計が「1」以上となるように周波数チャネルを選択すれば十分である。しかしながら、通信エラーやプライマリーユーザの利用が多い可能性を考慮すると、寄与率を「1」で選択すると実際には通信可能時間内に通信が完了しないことも考えられる。そこで、本実施形態では、寄与率がα(>1)以上となるように周波数チャネルを選択する。寄与率の閾値αは通信の確実性と周波数の効率的な利用のトレードオフを考慮して、設計者が適宜設計することが望ましい。一般的にαは1.5以下で十分であり、たとえば、1.1〜1.3程度の値とすることが考えられる。本実施形態においてはα=1.2を採用する。
【0043】
周波数チャネルの選択方法は、寄与率が閾値α以上となるように選択すればどのような方法であってもかまわないが、本実施形態では寄与率が大きな周波数チャネルから優先的に選択するようにする。このようにすれば、最も少ない周波数チャネルを利用することになり、より多くの周波数チャネルを他の送受信ペアに残すことができる。
【0044】
また、合計の寄与率が閾値α以上の最小値となるように周波数チャネルを選択しても良い。このようにすれば、より多くの周波数帯域を他の送受信ペアに残すことができる。
【0045】
(動作例)
以下、図5を参照して、本実施形態におけるデータチャネルの周波数チャネル選択方法の動作例を説明する。まず、通信を開始する無線通信機は、通信相手との間に制御チャネルを確立する(S2)。そして、この制御チャネルを介して、位置情報、車速情報、利用可能な周波数チャネルリスト、通信するアプリケーションデータ量を通信相手ノードとの間で交換する(S4)。なお、位置情報、車速情報、周波数の利用可能状況は適宜センシングがされていて、通信開始時の情報を相手ノードに通知する。
【0046】
次に、通信相手ノードとの相対位置および相対速度に基づいて、利用可能な周波数チャネルのそれぞれについて、通信可能な時間を算出する(S6)。そして、上記の式に基づいて、各周波数チャネルで送信可能なデータ量、言い換えると、その全アプリケーションデータ量に対する割合(寄与率)を算出する(S8)。
【0047】
このようにして求めた寄与率を元に、周波数チャネル選択部58がデータチャネルとして利用する周波数チャネルを選択する。より詳細には、最も寄与率(送信可能なデータ量)が多い周波数チャネルから順番に選択し(S10)、寄与率の合計が閾値α以上となる
まで周波数チャネルを選択する(S12)。
【0048】
ここでは、周波数チャネル1〜4の4つが送受信ノードの両方で利用可能で、それぞれの寄与率が0.6, 0.5, 0.4, 0.3である場合を例に説明する。また、寄与率の閾値はα=1.2とする。
【0049】
まず、寄与率(あるいは送信可能なデータ量)が最も大きいチャネル1(寄与率0.6)
を選択する。寄与率の合計は0.6でα=1.2未満なので、次に寄与率の大きいチャネル2(寄与率0.5)を選択する。寄与率の合計は1.1でありα=1.2未満なので、次に寄与率の大きいチャネル3(寄与率0.4)を選択する。寄与率の合計は1.5となりα=1.2以上となるので、チャネル1〜3をデータチャネルとして利用し、チャネル4は他の利用のために空けておく。
【0050】
(実施形態の作用・効果)
本実施形態に依れば、各無線装置は各々が利用可能な情報のみに基づいて、自律分散的にデータチャネルとして利用する周波数チャネルを選択することができる。本手法に依れば、マルチユーザ環境においても、高いデータ転送成功率を維持可能な周波数の割当が実現できる。
【0051】
(変形例)
なお、ここでは常に寄与率の大きい周波数チャネルから優先的に選択しているが、最後のチャネル選択においては閾値αを超える範囲で寄与率の最も小さいチャネルを選択しても良い。すなわち、チャネル1,2を選択した後に、チャネル4を選択しても合計の寄与率は1.4となりα=1.2以上となる。よって、このような場合には、チャネル3ではなくチ
ャネル4を選択して、チャネル1,2,4をデータチャネルとして利用するように選択しても良い。
【0052】
また、個々の周波数チャネルの寄与率は考慮せずに、複数チャネルの組合せとして寄与率が閾値α以上となる最小値となるように、データチャネルを選択しても良い。閾値αを超える送信チャネルの選択方法としては、チャネル1,2,3,4の組合せ、チャネル1,2,3の組合せ、チャネル1,2,4の組合せ、チャネル2,3,4の組合せが考えられる。ここで、寄与率の合計は、それぞれ1.8, 1.5, 1.4, 1.2となる。したがって、これらの組合せのうちで寄与率が最も小さい、チャネル2,3,4の組合せをデータチャネルとして選択するようにしても良い。
【0053】
また、上記では「寄与率」を算出して、寄与率の合計が閾値αを超えるようにデータチャネルを選択している。このように、寄与率すなわち各チャネルで送信可能なデータ量をアプリケーションデータ量で正規化した値を用いて上記の算出を行っている。しかしながら、各チャネルで送信可能なデータ量に着目してデータチャネルの選択を行っても同様の結果が得られることは明らかであろう。この場合、各周波数チャネルで送信可能なデータ量の合計が、アプリケーションデータ量に所定の安全係数(例えば1.2)を乗じた量以上となるようにデータチャネルを選択すればよい。ここで、上記の安全係数と寄与率の閾値αは同等のものである。
【0054】
<第2の実施形態>
第1の実施形態において寄与率の閾値αは適宜設計できる。閾値αを大きくすると余裕を持ってデータチャネルが割り当てられるので、通信エラー等が発生しても通信可能時間内に通信が完了する可能性が高まる。しかし、閾値αを大きくすると必要以上のデータチャネルを占有するため、通信中に他のユーザが増加すると、それらのユーザがデータチャネルを確保できないという可能性が発生する。このように閾値αを大きくしてもあるいは
逆に小さくしてもそれぞれ利点がある。
【0055】
なお、閾値αを大きくすると、単位時間あたりに送信可能なデータ量が増え、アプリケーションデータ転送時間が短くなるため、長期間の観点でみると許容ユーザ数が増加する可能性もある。したがって、ユーザ数増加時における必要以上のデータチャネルの占有という問題が解決できれば、閾値を大きくすることは有利であるとも考えられる。
【0056】
本実施形態では、閾値αを大きくした場合に生じる、データチャネルの占有の問題を解決する。具体的には、通信を開始するときに十分なデータチャネルの空きがないときに、他の通信ペアに対して、一部の周波数チャネルを解放するように要求する。
【0057】
図6は、本実施形態にかかる無線通信装置における通信制御部5の機能ブロックを示す図である。本実施形態における通信制御部5は、第1の実施形態における構成に加えて、周波数チャネル解放要求部59と周波数チャネル解放判定部60を有する。なお、本実施形態では、上述の閾値αは1.5であるとして説明する。
【0058】
周波数チャネル選択部58がデータチャネルを選択する際に利用可能な周波数チャネルの全てを用いても送信可能時間内にアプリケーションデータの全量を送信できないと判定された場合に、周波数チャネル解放要求部59は他の通信ペアに対して使用中の周波数チャネルの一部を開放するように要求する。
【0059】
本実施形態では、利用可能な周波数チャネルの全てを用いてもアプリケーションデータの全量を送信できないと判断された場合は、他の通信ペアが利用中の周波数チャネルについても寄与率を算出する。そして、他の通信ペアが利用中の周波数チャネルの一部を利用することで、寄与率が1を超えるか(言い換えると、アプリケーションデータ量の全量を通信可能時間以内に送信可能であるか)を判断する。利用することで寄与率が1を超えるような周波数チャネルが存在する場合には、周波数チャネル解放要求部59は、この周波数チャネルを利用中の送受信ペアに対して、この周波数チャネルを解放するように要求する。この要求はどのような手段によって通知されても良い。例えば、全無線通信装置が利用可能な制御チャネルが存在している場合には、この制御チャネル上で通知すればよい。あるいは、新たに通信チャネルを確立して要求を送信するようにしても良い。
【0060】
周波数チャネル解放判定部60は、他の通信ペアから利用中の周波数チャネルの解放を要求された場合に、その周波数チャネルを解放可能であるか判定する。解放要求を受けた無線通信装置では、基本的に寄与率がα=1.5以上となるようなデータチャネルを利用している。このようにデータチャネルのデータ転送量には余裕があるので、一部を開放しても通信が行える。そこで、αよりも小さい寄与率の閾値β(1≦β<α)を利用して、解放要求された周波数チャネル以外の周波数チャネルの寄与率の合計が閾値β以上であるか判定する。解放要求された周波数チャネルを利用しなくても寄与率β以上が確保できるのであれば、解放要求を受け付けて周波数チャネルを解放し、その旨を要求元の無線通信装置に通知する。一方、解放要求された周波数チャネルを利用しないと寄与率β未満となる場合には、解放要求に応じない。
【0061】
なお、閾値βは1以上α未満の範囲で、システムの要求に応じた適切な値を用いればよい。例えば、β=1.1を採用することが考えられる。
【0062】
以下、図7のフローチャートを参照して本実施形態におけるデータチャネルの周波数チャネル選択方法を説明する。ステップS2〜S12は第1の実施形態と同様である。ステップS12で選択した周波数チャネルの寄与率の合計が閾値α未満の場合、利用可能な周波数チャネルが存在しているか判断し(S14)、利用可能な周波数チャネルがまだ残っ
ている場合にはステップS10へ進む。一方、それ以上利用可能な周波数チャネルが残っていない場合には、寄与率の合計が1以上であるか判定する(S16)。寄与率が1以上であれば、ここまでに選択した周波数チャネルをデータチャネルとして利用して通信を開始する。一方、寄与率の合計が1未満である場合には、他の通信ペアが利用中の周波数チャネルについても寄与率の算出を行い、利用することで寄与率の合計を1以上とできるような周波数チャネルを探して、その周波数チャネルの解放を要求する(S18)。
【0063】
周波数チャネルの解放要求受け付けた側の処理について図8のフローチャートを参照して説明する。周波数チャネル解放要求を受信する(S30)と、解放要求された周波数チャネル以外の周波数チャネルの寄与率の合計を算出する(S32)。算出した寄与率が、αよりも小さい閾値β(1≦β<α)以上であるか判定し(S34)、閾値β以上であれば解放要求された周波数チャネルを解放する(S36)。一方、算出した寄与率が閾値βよりも小さければ、解放要求には応じない。
【0064】
図7のフローチャートの説明に戻る。周波数チャネルの解放要求が受け入れられた場合(S20−YES)には、その周波数チャネルをデータチャネルとして利用して通信を開始する。一方、周波数チャネルの解放要求が受け入れられない場合(S20−NO)には、例えば、別の周波数チャネルについても解放要求を出すようにすればよい。最終的に全ての解放要求が受け入れられなかった場合には、アプリケーションデータ量を送信するだけに十分なデータチャネルが確保できないことになる。この場合、通信不可能として通信を行わないようにしても良いし、現在利用可能な周波数チャネルを用いて通信を開始して通信中に他の周波数チャネルを獲得するようにしてもかまわない。
【符号の説明】
【0065】
1 無線通信装置
5 通信制御部
6 チャネル特性記憶部
7 プライマリーユーザ利用情報記憶部
8 GPS装置
9 車速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データチャネル候補である各周波数チャネルについて、データレートおよびプライマリーユーザの利用率の情報を保持する無線通信装置が行う利用周波数チャネル選択方法であって、
通信相手ノードと制御チャネルを確立する制御チャネル確立ステップと、
制御チャネルを介して位置情報および車速情報を通信相手ノードと交換する情報交換ステップと、
通信相手ノードの位置情報および車速情報と自ノードの位置情報および車速情報とから、通信相手ノードと通信可能な時間を算出する通信可能時間算出ステップと、
データチャネル候補である各周波数チャネルについて、その周波数チャネルで送信可能なデータ量を、通信相手ノードと通信可能な時間、プライマリーユーザの利用率、およびデータレートに基づいて算出する送信可能データ量算出ステップと、
データチャネルとして利用する周波数チャネルを、各周波数チャネルで送信可能なデータ量の和が通信相手ノードとの間で通信するデータ量を超えるように決定する利用周波数チャネル決定ステップと、
を含む、利用周波数チャネル選択方法。
【請求項2】
前記利用周波数チャネル決定ステップでは、送信可能なデータ量が多い周波数チャネルから優先的に選択する、
請求項1に記載の利用周波数チャネル選択方法。
【請求項3】
前記送信可能データ量算出ステップでは、各周波数チャネルで送信可能なデータ量を、
(通信可能時間)×(1−プライマリーユーザの利用率)×(データレート)
によって算出する、請求項1または2に記載の利用周波数チャネル選択方法。
【請求項4】
前記利用周波数チャネル決定ステップでは、各周波数チャネルで送信可能なデータ量の和が、通信相手ノードとの間で通信するデータ量のα倍以上(αは1より大きい所定の実数)となるように、データチャネルとして利用する周波数チャネルを決定する、
請求項1〜3のいずれかに記載の利用周波数チャネル選択方法。
【請求項5】
利用可能な全ての周波数チャネルを利用しても、送信可能なデータ量の和が通信相手ノードとの間で通信するデータ量未満となる場合に、他の送受信ペアに対して周波数チャネルの解放を要求する周波数チャネル解放要求ステップ、
をさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の利用周波数チャネル選択方法。
【請求項6】
前記周波数チャネル解放要求ステップでは、通信相手ノードとの間で通信するデータ量を確保できる範囲で、解放を要求する周波数チャネルにおいて送信可能なデータ量が最小となるように、解放を要求する周波数チャネルを決定する、
請求項5に記載の利用周波数チャネル選択方法。
【請求項7】
前記利用周波数チャネル決定ステップでは、各周波数チャネルで送信可能なデータ量の和が、通信相手ノードとの間で通信するデータ量のα倍以上(αは1より大きい所定の実数)となるように、データチャネルとして利用する周波数チャネルを決定し、
他の送受信ペアから利用中の周波数チャネルの解放を要求された場合に、要求された周波数チャネル以外の周波数チャネルで送信可能なデータ量の和が、通信相手ノードとの間で通信するデータ量のβ倍以上(βは1≦β<αを満たす所定の実数)であれば、要求された周波数チャネルを解放する、
請求項5または6に記載の利用周波数チャネル選択方法。
【請求項8】
データチャネル候補である各周波数チャネルについて、データレートおよびプライマリーユーザの利用率の情報を格納するチャネル情報格納手段と、
通信相手ノードと制御チャネルを確立する制御チャネル確立手段と、
制御チャネルを介して位置情報および車速情報を通信相手ノードと交換する情報交換手段と、
通信相手ノードの位置情報および車速情報と自ノードの位置情報および車速情報とから、通信相手ノードと通信可能な時間を算出する通信可能時間算出手段と、
データチャネル候補である各周波数チャネルについて、その周波数チャネルで送信可能なデータ量を、通信相手ノードと通信可能な時間、プライマリーユーザの利用率、およびデータレートに基づいて算出する送信可能データ量算出手段と、
データチャネルとして利用する周波数チャネルを、各周波数チャネルで送信可能なデータ量の和が通信相手ノードとの間で通信するデータ量を超えるように決定する利用周波数チャネル決定手段と、
を備える、無線通信装置。
【請求項9】
前記利用周波数チャネル決定手段は、送信可能なデータ量が多い周波数チャネルから優先的に選択する、
請求項8に記載の無線通信装置。
【請求項10】
前記送信可能データ量算出手段は、各周波数チャネルで送信可能なデータ量を、
(通信可能時間)×(1−プライマリーユーザの利用率)×(データレート)
によって算出する、請求項8または9に記載の無線通信装置。
【請求項11】
前記利用周波数チャネル決定手段は、各周波数チャネルで送信可能なデータ量の和が、通信相手ノードとの間で通信するデータ量のα倍以上(αは1より大きい所定の実数)となるように、データチャネルとして利用する周波数チャネルを決定する、
請求項8〜10のいずれかに記載の無線通信装置。
【請求項12】
利用可能な全ての周波数チャネルを利用しても、送信可能なデータ量の和が通信相手ノードとの間で通信するデータ量未満となる場合に、他の送受信ペアに対して周波数チャネルの解放を要求する周波数チャネル解放要求手段、
をさらに備える、請求項8〜11のいずれかに記載の無線通信装置。
【請求項13】
前記周波数チャネル解放要求手段は、通信相手ノードとの間で通信するデータ量を確保できる範囲で、解放を要求する周波数チャネルにおいて送信可能なデータ量が最小となるように、解放を要求する周波数チャネルを決定する、
請求項12に記載の無線通信装置。
【請求項14】
前記利用周波数チャネル決定手段は、各周波数チャネルで送信可能なデータ量の和が、通信相手ノードとの間で通信するデータ量のα倍以上(αは1より大きい所定の実数)となるように、データチャネルとして利用する周波数チャネルを決定し、
他の送受信ペアから利用中の周波数チャネルの解放を要求された場合に、要求された周波数チャネル以外の周波数チャネルで送信可能なデータ量の和が、通信相手ノードとの間で通信するデータ量のβ倍以上(βは1≦β<αを満たす所定の実数)であれば、要求された周波数チャネルを解放する、
請求項12または13に記載の無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−66126(P2013−66126A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204815(P2011−204815)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】