説明

制御されたレオロジーのポリプロピレン

分断条件下で、溶融流量(MFR)の小さい非CRポリプロピレン樹脂を環状過酸化物と接触させるステップを含む方法によって、制御されたレオロジーの(CR)ポリプロピレン樹脂が調製される。本発明の方法によって製造されたCRポリプロピレン樹脂は、非環状過酸化物を用いる以外は同一の方法によって製造されたCRポリプロピレン樹脂と比べてVOC放出が低減されている物品の製造において有用である。そうした低VOC CRポリプロピレン樹脂は、自動車内装用の非金属構成部品の製造において特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年6月23日出願の米国仮出願第61/219,559号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、ポリプロピレンに関する。一態様では、本発明は、制御されたレオロジーの(CR)ポリプロピレンに関するものであり、別の態様では、本発明は、制御されたレオロジーのポリプロピレンを、環状過酸化物を使用して製造する方法に関する。さらに別の態様では、本発明は、環状過酸化物を用いて製造したCRポリプロピレンから製造される製品に関する。
【背景技術】
【0003】
有機過酸化物を、融解相にあるポリプロピレンと混合すると、ポリマーは分断される、すなわち、その分子量は低下する。得られるポリプロピレンは、出発材料より分子量分布も狭く、完成プラスチック製品を二次加工する際に流動性の向上を示す。
【0004】
有機過酸化物の存在下で生成される市販のポリプロピレンは、制御されたレオロジーの(CR)樹脂として知られている。非常に様々な過酸化物が入手可能であるが、脂肪族の直鎖状二過酸化物である2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンが最適な過酸化物である。この過酸化物は、Pennwalt CorporationのLucidol部門からLUPERSOL101として、Akzo NobelからTRIGONOX101として市販されている。
【0005】
脂肪族の直鎖状二過酸化物を用いて製造されたCR樹脂は、良好な加工性を示すが、特に、自動車産業向けの物品または構成部品の製造など、特定の最終用途には過剰な量の揮発性有機化合物(VOC)を含有し、また生成する。
【0006】
過酸化物化合物は通常、時には不活性ガス中で、ポリプロピレン(普通はペレット、粉体、フレークなどの粒状の形態である)と混合してからそれらを合わせて押出機に投入して、熱および/またはスクリューもしくは混合ブレードの機械エネルギーによって融解させる。次いで溶融物は、ペレット、リボン、フィルム、シートなどとして押し出され、制御された予測可能な流れ特性を示す。
【0007】
USP3,144,436では、過酸化物化合物がラジカル開始剤として言及されており、製品のメルトインデックスを変更するために押出機に入れて用いられる。
【0008】
USP3,887,534では、結晶性ポリプロピレン粉体の固有粘度および溶融流量を変更するために脂肪族過酸化物が用いられる。
【0009】
USP3,940,379では、特定の過酸化物を使用することで、ポリプロピレンの酸化分解が制御される。この特許は、熱分解を最小にすると共に酸化分解を最大にすることで得られる製品の、本質的に無色無臭の特性を強調している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態では、本発明は、CRポリプロピレン樹脂の製造方法であって、溶融流量(MFR)が小さい非CRポリプロピレン樹脂を、分断条件下で式Iの環状過酸化物
【0011】
【化1】

[式中、各R〜Rは、独立に、水素、または不活性に置換されているか非置換のC〜C20アルキル、C〜C20シクロアルキル、C〜C20アリール、C〜C20アラルキル、もしくはC〜C20アルカリールである]と接触させるステップを含む方法である。R〜Rに含まれる不活性置換基の代表例は、ヒドロキシル、C〜C20アルコキシ、直鎖状または分枝状のC〜C20アルキル、C〜C20アリールオキシ、ハロゲン、エステル、カルボキシル、ニトリル、およびアミドである。好ましくは、R〜Rは、それぞれ独立に、水素または低級アルキル、すなわちC〜C10アルキルであり、より好ましくはC〜Cアルキル、さらに好ましくはメチルまたはエチルである。
【0012】
本発明の方法によって製造されたCRポリプロピレン樹脂、およびそうした樹脂から製造された物品は、式(I)の環状過酸化物の代わりに非環状過酸化物、たとえばLUPERSOL101を用いることを除き同一の方法によって製造されたCRポリプロピレン樹脂(およびそうした樹脂から製造された物品)よりVOC放出が減少する。こうした低VOC CRポリプロピレン樹脂は、様々な低VOC物品、特に、様々な自動車の施工、たとえば自動車の内装および他の閉じられた領域において構成部品として使用される物品の製造に特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
そうでないと記載しない、文脈から示唆されない、または当業界の慣例でない限り、部およびパーセントはすべて重量ベースであり、試験方法はすべて、本開示の出願日の時点で通用しているものである。米国の特許手続きの趣旨で、特に、合成技術、定義(この開示において詳細に示すいかなる定義とも矛盾しない程度に)、および当業界における一般知識の開示に関して、参照文献として挙げたいかなる特許、特許出願、または刊行物の内容も、その全体が参照により本明細書に援用される(またはその同等の米国版が参照によりそのように援用される)。
【0014】
この開示における数の範囲は、おおよそのものであり、したがって別段指摘しない限り、範囲外の値を含む場合もある。数の範囲は、下方値および上方値を起点とし、かつこれらの値を含めたすべての値を1単位刻みで包含し、但し、任意の下方値と任意の上方値は、少なくとも2単位離れている。例として、たとえば分子量、溶融流量(MFR)といった組成、物性、または他の特性が100〜1,000である場合、100、101、102といった個々のすべての値、および100〜144、155〜170、197〜200といった部分範囲が明確に列挙されるものとする。1未満である値を含む、または1より大きい端数(たとえば1.1、1.5など)を含む範囲については、1単位は、適宜0.0001、0.001、0.01または0.1であるとみなす。10未満の一桁の数字を含む範囲(たとえば1〜5)では、1単位は通常、0.1であるとみなす。これらは、具体的に意図するものの例にすぎず、列挙する最低値と最高値の間にある数値の考えられるすべての組合せが、この開示において明確に述べられるものとみなす。数の範囲は、この開示においては、特に、MFR、分子量、ならびに種々の温度、および製造過程に関する他の範囲について提供する。
【0015】
「ポリマー」とは、同じ種類または異なる種類のどちらのものであろうと、単量体を反応させる(すなわち重合させる)ことにより調製される化合物を意味する。したがって、一般用語のポリマーは、用語「ホモポリマー」に等しく、普通は1種類のみの単量体から調製されるポリマーを指すのに用いられ、用語「インターポリマー」は、以下で定義するとおりである。
【0016】
「インターポリマー」および「コポリマー」は、少なくとも2種の異なる種類の単量体を重合させて調製されるポリマーを意味する。これらの一般用語は、古典的なコポリマー、すなわち、異なる2種類の単量体から調製されるポリマーと、異なる3種類以上の単量体から調製されるポリマー、たとえば、ターポリマー、テトラポリマーなどの両方を包含する。
【0017】
「プロピレンポリマー」、「ポリプロピレン」、および類似用語は、プロピレン由来の単位を含んでいるポリマーを意味する。プロピレンポリマーは通常、プロピレン由来の単位を少なくとも50モルパーセント(mol%)含む。
【0018】
「ポリプロピレンインパクトコポリマー」および類似用語は、通常は同様のMFRのホモポリマーと比べて高い衝撃強さを有する、異相プロピレンポリマーを意味する。ポリプロピレンインパクトコポリマーは、連続相のプロピレン系ポリマー、たとえば、プロピレンホモポリマーまたはプロピレンランダムコポリマーと、不連続相のゴムまたは同様のエラストマー、通常はプロピレン/エチレンコポリマーとを含む。
【0019】
「低MFR非CRポリプロピレン樹脂」および類似用語は、ASTM D−1238−04、手順B、条件230℃/2.16kgによって測定したMFRが、10グラム毎10分(g/10分)未満、通常は8g/10分未満、より典型的な例では5g/10分未満である非CRポリプロピレン樹脂を意味する。
【0020】
「非CRポリプロピレン樹脂」および類似用語は、分断条件下に置かれなかったポリプロピレン樹脂を意味する。
【0021】
「分断条件(scission conditions)」および類似用語は、低MFR非CRポリプロピレン樹脂のMFRが少なくとも2倍、好ましくは少なくとも3倍、より好ましくは少なくとも4倍に増大する条件を意味する。典型的な押出し分断条件は、過酸化物の熱安定性に応じて決まる。たとえば、TRIGONOX301は、LUPERSOL101より熱安定性が高いので、本質的に完全な過酸化物分解のためには、より高い融解温度が必要となる(TRIGONOX301が使用される押出機のダイ出口の典型的な融解温度は、約250℃であり、LUPERSOL101では約225℃である)。EP1244717B1には、典型的な押出し分断条件の実例が示されている。
【0022】
「不活性に置換されている」、「不活性置換基」、および類似用語は、製造過程条件下で、出発材料、触媒、および製造過程の生成物に対して本質的に反応性でない化合物または基にある置換基を意味する。本発明においては、「不活性に置換されている」および類似用語は、置換基が、ポリプロピレン樹脂または式Iの環状過酸化物上にあっても、分断条件下でのCRポリプロピレン樹脂の生成において妨げとならないことを意味する。
【0023】
プロピレンポリマー
本発明で使用するプロピレンポリマーは、ホモポリマー、インターポリマー、ランダムコポリマー(すなわち、コモノマーは2種以上であるが一相である)、またはインパクトコポリマー(すなわち、連続相がプロピレンホモポリマーまたはプロピレンランダムコポリマーであり、不連続相または分散相が通常、ゴム状の特徴を備えるのに十分な高いエチレン含有率を有するランダムプロピレン−エチレンコポリマーである二相系)でよい。コポリマーの場合、ランダムなもの(プロピレン由来の単位がアイソタクチックまたはシンジオタクチック配置を取っている)でよく、通常は、少なくとも50、好ましくは少なくとも60、より好ましくは少なくとも70、さらに好ましくは少なくとも80、より一層好ましくは少なくとも90モルパーセントのプロピレン由来の単位を含む。ブレンドされたポリマーの少なくとも1種がポリプロピレンであるポリマーブレンドは、本発明の範囲内に含まれる。そのようなブレンドは、少なくとも50、好ましくは少なくとも60、より好ましくは少なくとも70重量パーセント(wt%)のポリプロピレンを含有することが好ましい。
【0024】
本発明を実施する際に使用するプロピレンポリマーは、プロピレンインパクトコポリマーでよい。こうしたインパクトコポリマーは、当業界でよく知られており、USP5,258,464にあまねく記載されている。本発明で使用する好ましいプロピレンインパクトコポリマーは、ゴム分散相または不連続相と組み合わされたポリプロピレンマトリックス相または連続相を含む。ゴム含有量は、大きなばらつきがあってよいが、通常は10〜30重量パーセントである。マトリックス相は、プロピレンホモポリマーであることが好ましいが、プロピレンコポリマーでもよい。後者の場合、コポリマーは通常、この限りでないがCおよびC〜C12α−オレフィン、たとえばエチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのコモノマーを10wt%まで含む。
【0025】
本発明を実施する際に使用する非CRポリプロピレンの分子量は、ASTM D−1238(230℃/2.16kg)に従う溶融流量測定を使用して示すのが好都合である。溶融流量(MFR)は、ポリマーの分子量に反比例する。したがって、関係は線形ではないが、分子量が大きい程、MFRは小さい。本発明を実施する際に使用する非CRポリプロピレンのMFRは、通常は0.5〜15、より典型的な例では1〜10、さらに典型的な例では1〜5g/10分である。本発明の方法によって製造されたCRポリプロピレンのMFRは、通常は2〜100、より典型的な例では3〜60、さらに典型的な例では5〜30g/10分である。
【0026】
環状過酸化物
本発明を実施する際に使用する環状過酸化物は、次式のものである。
【0027】
【化2】

式中、各R〜Rは、独立に、水素、または不活性に置換されているか非置換のC〜C20アルキル、C〜C20シクロアルキル、C〜C20アリール、C〜C20アラルキル、もしくはC〜C20アルカリールである。R〜Rに含まれる不活性置換基の代表例は、ヒドロキシル、C〜C20アルコキシ、直鎖状または分枝状のC〜C20アルキル、C〜C20アリールオキシ、ハロゲン、エステル、カルボキシル、ニトリル、およびアミドである。好ましくは、R〜Rは、それぞれ独立に、低級アルキル、すなわちC〜C10アルキルであり、より好ましくはC〜Cアルキルである。
【0028】
式Iの環状過酸化物は、いくつかが市販されているが、そうでない場合は、ケトンを過酸化水素と接触させて製造することができ、USP3,003,000;Uhlmann、第3版、第13巻、256〜57頁(1962年);論文「Studies in Organic Peroxides XXV Preparation,Separation and Identification of Peroxides Derived from Methyl Ethyl Ketone and Hydrogen Peroxide」、Milas, N.A.およびGolubovic, A.、J. Am. Chem. Soc.、第81巻、5824〜26頁(1959年);「Organic Peroxides」、Swern, D.編、Wiley-Interscience、ニューヨーク(1970年);およびHouben-Weyl Methoden der Organische Chemie、第13版、第1巻、736頁に記載のとおりである。
【0029】
式Iの環状過酸化物の例として、アセトン、メチルアミルケトン、メチルヘプチルケトン、メチルヘキシルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルオクチルケトン、メチルノニルケトン、メチルデシルケトン、およびメチルウンデシルケトンから得られる環式ケトン過酸化物が挙げられる。環状過酸化物は、単独で使用しても、または互いに組み合わせて使用してもよい。
【0030】
本発明で使用する好ましい環状過酸化物の1つは、Akzo Nobelから商品名TRIGONOX301で市販されている、3,6,9−トリエチル−3−6−9−トリメチル−1,4,7−トリペルオキソナンである。
【0031】
本発明で使用する環状過酸化物は、過酸化物の融点、およびこれを保持する希釈剤があればその融点に応じて、液体、固体、またはペーストでよい。液体配合物は通常、液体鈍化剤、液体可塑剤、および過酸化物を含む。特定の鈍化剤、すなわち、早期の活性化に対して過酸化物を安定化し、または感度を低下させる添加剤または薬品は、本発明の実施において有用な過酸化物のすべてとの使用には適さない場合もある。より詳細には、安全な組成物を得るためには、鈍化剤は、鈍化剤の除去、たとえば沸騰による除去によって、濃縮された安全でない過酸化物組成物を後に残すことができるような、過酸化物の分解温度を基準とした一定の最小限の引火点および沸点を有するべきである。したがって、たとえば、分解温度の低い本発明の特定の置換ケトン過酸化物では、以下で言及する沸点が低めの鈍化剤だけが有用であるといえる。
【0032】
式Iの環状過酸化物との使用に有用な液体鈍化剤の例として、様々な溶媒、希釈剤、および油類が挙げられる。より詳細には、有用な液体鈍化剤として、アルカノール、シクロアルカノール、アルキレングリコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、環状エーテル置換アルコール、環状アミド、アルデヒド、ケトン、エポキシド、エステル、炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、パラフィン系石油、ホワイト油、およびシリコーン油が挙げられる。
【0033】
製造過程プロトコール
式Iの環状過酸化物は通常、ポリプロピレン樹脂の重量ベースで50〜10,000、より典型的な例では100〜3,000、さらに典型的な例では300〜3,000百万分率(ppm)の濃度で、低MFR非CRポリプロピレンのペレット、粉体、フレークなどに加える。成分(すなわち、低MFR非CRポリプロピレン、過酸化物、および取捨選択可能な任意の添加剤)は通常、0〜120℃の範囲の温度で予備混合し、次いで押出機または同様の装置において、320℃を超えない、好ましくは290℃を超えない温度で溶融混練(melt-compound)する。あるいは、ポリプロピレンおよび添加剤を、室温、または粉体の良好な流れ特性をなお維持するより高い温度で予備混合し、環状過酸化物と同時に押出機に供給することもできる。混合物は、ポリプロピレンの融点を上回り、かつその分解温度を下回る175℃〜290℃の温度で処理すべきである。ブレンド、混合、および混練(compounding)はすべて、不活性雰囲気中、たとえば窒素中で実施することが好ましい。
【0034】
取捨選択可能な添加剤としては、発火防止添加剤(ignition resistant additives)、熱安定剤、UV安定剤、着色剤、酸化防止剤、静電防止剤、流れ促進剤(flow enhancer)、離型剤、金属ステアリン酸塩(たとえば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム)などの酸掃去剤、成核剤、トレーサー、および炭化水素溶媒、たとえば、Exxon Mobile Corporationから市販されているIsopar(登録商標)製品などのアルカンの水添オリゴマー(hydrogenated oligomers of alkanes)が挙げられるがこの限りでない。このような添加剤は、使用する場合、ポリプロピレンの重量ベースで少なくとも0.001、好ましくは少なくとも0.05、より好ましくは少なくとも0.1重量パーセントからの量で存在してよい。一般に、添加剤は、ポリプロピレンの重量ベースで3重量パーセント以下、好ましくは2重量パーセント以下、より好ましくは1重量パーセント以下の量で存在する。
【0035】
低MFR非CRポリプロピレンをビスブレーキングにかけると、特定のMFRを実現することができる。しかし、ビスブレーキング率(すなわち、ビスブレーキング前のMFRに対するビスブレーキング後のMFR)は、50以下、好ましくは40以下、より好ましくは30以下に制限することが好ましい。
【0036】
本発明の方法は、式Iの環状過酸化物を低MFR非CRポリプロピレンと接触させて、VOC放出削減型CRポリプロピレン樹脂を生成することを含む。こうしたVOC放出削減型CRポリプロピレンは、非金属の自動車部品、特に自動車の内装に使用する部品の製造において使用される様々な構成部品など、VOC放出が削減された物品の生産に特に好適である。実際、こうしたVOC放出削減型CRポリプロピレン樹脂は、VOC放出削減が利益になるどんな物品の製造にも特に好適である。VOC放出削減型CRポリプロピレンから生産された物品は、以下の実施例で記載する、産業界で受け入れられている試験方法によって測定したVOCの放出が、式(I)の環状過酸化物以外の過酸化物を使用して製造されたCRポリプロピレンから生産される類似物品より、通常は少なくとも20、より典型的な例では少なくとも30、さらに典型的な例では少なくとも40パーセント少ない。「VOC放出」は、その意味の中に、固有の揮発性にかかわらず、「C放出」または「炭素放出」という関連した概念を包含する。
【0037】
本発明について、以下の実施例を通してより十分に説明する。別段言及しない限り、部および百分率は重量である。
【実施例】
【0038】
VOC測定プロトコール
このプロトコールを使用して、車両搭乗者区画に直接または間接的に影響を及ぼす、非金属材料からの有機化合物の放出を測定する。試験は、わずかに変更したVAG(Volkswagen Action Gesellshaft)法PV3341に従って実施する。潜在放出量は、ガスクロマトグラフィー分析および水素炎イオン化検出によって、放出された物質によってもたらされるすべての値の合計をもとに測定する。サンプル導入は、120℃に状態調節後、ヘッドスペース分析による。PV3341に対する変更は以下に示し、対応するPP3411項目を参照文献として載せる。
【0039】
試験片は、状態調節なしで受領したまま使用した、押し出されたペレットまたは粒体の形態とする。分析で使用する試料の量は、2.000±0.001グラムである。試験片パーツを20mlのヘッドスペースバイアルに量り入れる。テフロンコートされたセプタムを使用して、バイアルを気密密閉した。
【0040】
試験手順では、ヘッドスペース試料採取弁およびFID検出器を備えた毛管カラムを用いたガスクロマトグラフ(GC)を使用する。毛管カラムは、Varian CP−Sil 8 CB(5%のジメチルポリシロキサン)、25m、内径0.32mm、フィルム厚0.52μmとする。GCオーブン温度プログラムは以下のとおりである。
初期温度:50℃
最大温度:240℃
初期時間:0.00分
平衡時間:0.50分
10℃/分の速度で240℃に加熱
240℃で6分等温
注入温度:200℃
検出器温度:250℃
キャリヤガス:ヘリウム
平均キャリヤガス速度:35cm/秒
【0041】
測定の前に、ヘッドスペース試料採取弁において、バイアルの試料上の空気を約120℃で5時間±5分間調整して、バイアル内を試料中に含まれる物質で高濃度にした。その直後、バイアルの分析を行った。1種または2種の標準物質を使用して、計器の正常な機能を試した。
【0042】
校正は、アセトン標準物質で行う。アセトンは、総炭素放出の校正物質として役立つ。校正では、100μL、150μL、および200μLのアセトンを250μLのHamiltonシリンジで取る。アセトン溶液を、化学はかりを用いて50mlのメスフラスコに正確に量り入れ(0.1mg)、n−ブタノールで希釈して、標準溶液とする。各標準溶液4.0μLを、3通りに、20mlのGCバイアルに噴霧する。線形フィッティングによってピーク面積を炭素mgに対してプロットすることにより、校正を確立する。校正は、少なくとも毎年2回実施する。標準溶液の質量回収(mass recovery)が5%以上不足する場合、新たな校正を実施する。
【0043】
2.000±0.001グラムの試料を分析で使用する。試料の総VOC C放出は、ピーク面積から、アセトン校正曲線を使用して算出する。
【0044】
試料調製
The Dow Chemical Companyから入手可能なSHAC330触媒系を、これら実施例のインパクトコポリマーの調製で使用する。この系は、外部の立体制御剤(ジシクロペンチルジメトキシシランまたはDCPDMS)および活性化剤(トリエチルアルミニウム)と組み合わせたTiCl/MgClを含む。
【0045】
UNIPOLパイロットプラント気相反応器において、標準の気相重合条件下で、4種のインパクトコポリマーを調製する。重合は、2基の連続した反応器で実施する。プロピレンの単独重合は、第一の反応器で行う。水素を使用して所望のMFR値を得る。触媒系の成分は、所望の重合速度を実現する速度で加える。DCPDMSは、わずか1.5%のキシレン可溶性物質を実現する速度で加える。
【0046】
活性触媒残留物を含有するホモポリマー粉体を、減圧容器に断続的に移して、未反応のプロピレン単量体および他の気体成分を除去する。減圧容器を窒素で加圧して、ホモポリマー粉体を、エチレン−プロピレンゴム(EPR)を製造するためのエチレンとの重合用の第二の反応器へと運搬する。エチレンおよびプロピレン単量体を、所望のEPR組成が実現される比で加える。ここでも水素を使用して所望のMFR値を実現する。目標の組成物が得られ、反応器系をはずしたら、インパクトコポリマー粉体を、後続の混練に向けて第二の反応器から断続的に取り出す。
【0047】
インパクトコポリマー組成は、インパクトコポリマー中のエチレンの総量(wt%のEt)およびゴム画分中のエチレンの量(wt%のEc)を計測するフーリエ変換赤外(FTIR)手順によって測定した。この方法は、第一反応器成分が純粋なプロピレンホモポリマーであり、第二反応器成分が純粋なEPRであるインパクトコポリマーに使用する。ゴム画分の量(wt%のFc)は、
Et=EcFc/100
の関係から導かれる。Et、Ec、およびFcに相当する値は、ゴム画分の量を総エチレン含量と組み合わせることにより求められる。当業界でよく知られているように、ゴムの量は、反応器のマスバランスから、または第一および第二反応器生成物のチタンもしくはマグネシウム残留物の測定から、よく知られた解析法を用いて求めることができる。インパクトコポリマーの総エチレン含量は、以下のものを含めた様々な方法によって測定することができる。
1.ASTM D 5576−00によるFTIR、
2.S. Di MartinoおよびM. Kelchtermans、「Determination of the Composition of Ethylene-Propylene Rubbers Using 13C NMR Spectroscopy」、Journal of Applied Polymer Science、第56巻、1781〜1787(1995)による13C NMR、
3.J. C. Randall、「A Review of High Resolution Liquid 13C NMR Characterizations of Ethylene-Based Polymers」、Journal of Macromolecular Science-Reviews of Macromolecular Chemical Physics、第29章、201〜317(1989)、および
4.米国公開特許出願第2004/0215404号で詳述されている方法。
【0048】
表1に、これら実施例で用いたインパクトコポリマー組成物を報告する。
【0049】
【表1】

【0050】
表1の4種のインパクトコポリマー組成物は、1,000百万分率(ppm)のIRGANOX1010(Ciba Specialty Chemicals Corporationから入手可能なテトラキス−(メチレン−(3,5−ジ−(tert)−ブチル−4−ヒドロシンナメート))−メタン)、1,000PPMのIRGAFOS PEP−Q(これもCiba Specialty Chemicals Corporationから入手可能なテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’ジイルビスホスホナイト)、および250ppmのDHT−4A(協和化学工業から入手可能なハイドロタルサイト)を用いて安定化する。実施例および比較実施例の一部は、NA−11(Amfine Chemical Corporationから入手可能なメチレンビス−(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスフェートナトリウム塩)または安息香酸ナトリウムのいずれかを用いて核生成した。試料核生成の詳細は、表3に報告する。試料は、過酸化物を加えずに、また種々の濃度のLUPERSOL101およびTRIGONOX301を加えて混練する。ビスブレーキングにかけた試料については、過酸化物をアセトンで希釈し、シリンジで反応器の粉体に適用して、過酸化物の分布を相対的に広くする。
【0051】
過酸化物を適用した後、反応器の粉体をポリエチレン袋に入れ、振盪して、過酸化物を粉体中に均等に分布させた。混練は、長さ対直径(L/D)比が24対1である30ミリメートル(mm)のWerner & Pfleiderer同時回転式二軸スクリュー押出機で行う。表2に、過酸化物を加えた混練および加えない混練の押出機条件を報告する。TRIGONOX301については、そのLUPERSOL101より高い分解温度を見込んで高めの押出機温度設定を使用する。
【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
表2にある結果からわかるように、T−301、すなわちTRIGONOX301を使用して得られた総炭素放出Eg(すなわちVOC)は、T−101、すなわちTRIGONOX101を用いてビスブレーキングにかけた同じポリプロピレンのEg総炭素の約2分の1である。この結果は、まったく意外であり、予想外である。取捨選択可能な酸化防止剤、酸掃去剤、および従来の成核剤を、ポリプロピレン系ポリマーと共に使用することができる。
【0055】
本発明について、前述の詳細な実施形態を通して特定の詳細と共に述べてきたが、その詳細は、例示を第一の目的としている。以下の特許請求の範囲に記載の意図および範囲から逸脱することなく、当業者によって多くの変更および改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御されたレオロジーの(CR)ポリプロピレン樹脂の製造方法であって、溶融流量(MFR)が小さい非CRポリプロピレン樹脂を、分断条件下で、次式の環状過酸化物と接触させるステップを含む方法
【化3】

[式中、各R〜Rは、独立に、水素、または不活性に置換されているか非置換のC〜C20アルキル、C〜C20シクロアルキル、C〜C20アリール、C〜C20アラルキル、もしくはC〜C20アルカリールである]。
【請求項2】
〜Rの1個または複数が、ヒドロキシル、C〜C20アルコキシ、直鎖状または分枝状のC〜C20アルキル、C〜C20アリールオキシ、ハロゲン、エステル、カルボキシル、ニトリル、およびアミドのうちの1つまたは複数で不活性に置換されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
〜Rが、それぞれ独立にC〜C10アルキルである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
環状過酸化物が、50〜10,000ppmの量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
分断条件が、175〜290℃の温度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
非CRポリプロピレン樹脂が、プロピレンホモポリマー、プロピレンランダムコポリマー、またはプロピレンインパクトコポリマーのうちの少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
非CRポリプロピレン樹脂の、ASTM D−1238−04、手順B、条件230℃/2.16kgによって測定されるMFRが10g/10分未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかの方法によって製造したCRポリプロピレン樹脂。
【請求項9】
請求項8に記載のCRポリプロピレン樹脂を含む物品。
【請求項10】
自動車の内装用構成部品の形状をした、請求項9に記載の物品。

【公表番号】特表2012−531492(P2012−531492A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517627(P2012−517627)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/039344
【国際公開番号】WO2010/151508
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】