説明

制御パラメータ調整装置及び制御パラメータ調整方法

【課題】簡便で、かつ、わかりやすい形で、フィードバック制御系の制御パラメータをより望ましい状態に調整する。
【解決手段】導出部20は、PID制御系の制御パラメータを含む制御則に従う目標値と操作量と制御量との関係式に基づいて、目標値と等価であり、操作量の時系列データと制御量の時系列データとの線形結合である一般化出力を導出する。参照モデル設定部21は、目標値を入力とし制御量を出力とする参照モデルの入力に対する応答が所望のものとなるように、参照モデルの伝達関数を設定する。最適化部22は、フィードバック制御系における実際の制御量が参照モデルの出力に追従するように、最適化手法を用いて一般化出力における線形結合の各係数を調整することにより、PID制御系の制御パラメータを最適化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィードバック制御系の比例ゲイン等の制御パラメータを調整する制御パラメータ調整装置及び制御パラメータ調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油・化学プロセスなどに代表されるプロセス制御系に対しフィードバック制御系の1つである比例積分微分(PID)制御系が広く適用されている。PID制御系におけるPIDゲインの決定及び調整は、制御系の性質に大きな影響を与えるため、重要な問題とされている。そこで、これまでにも多くのPIDゲイン調整法が提案されている。
【0003】
これまで、PIDゲイン調整法は、当初、その多くが制御対象のモデルを設定してから調整を行う、いわゆるモデルベースの調整法が主流であった。ところが、最近では、操業データを利用したモデルフリー型の制御系設計法が注目されている。この設計法は、化学プロセスなど、システムの構造や機能が十分に把握されていないシステムに対して特に有効であるとされている。
【0004】
このような設計法には、操業データ(操作量)と、望ましいステップ応答を用いて擬似参照入力を構成し、これに基づいて制御パラメータを直接算出する方法がある。このような方法として、例えばIFT(Iterative Feedback Tuning)法、VRFT(Virtual Reference Feedback Tuning)法、FRIT(Fictitious Reference Iterative Tuning)法などが提案されている(例えば、非特許文献1乃至3参照)。その中でも、FRIT法は、1回の閉ループ入出力データから、システム同定をすることなく制御パラメータを直接算出できる方法として注目されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H.Hjalmarsson, M.Gevers, S.Gunnarsson and O.Lequin: Iterative Feedback Timing :Iterative Feedback Tuning :Theory And Application, IEEE Control Systems Magazine, 18, pp.26-41(1998)
【非特許文献2】M.C.Campi, A.Lecchini and S.M.Savaresi : Virtual Reference Feedback Turning : A Direct Method for the Design of Feedback Controllers; Automatica, 38, pp.1337-1346(2002)
【非特許文献3】金子修、吉田恭子、松本和之、藤井隆雄:1回の閉ループ実験データを用いた最小二乗法に基づく制御器パラメータチューニング−FRITの拡張、システム制御情報学会論文誌、18, 11, pp.400-409(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、閉ループデータに基づいてPIDゲインを調整するFRIT法が提案されているが、この方法は必ずしも、簡便でないうえ、直感的でなくわかりにくいという不都合があった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、簡便で、かつ、わかりやすい形で、フィードバック制御系の制御パラメータをより望ましい状態に調整することができる制御パラメータ調整装置及び制御パラメータ調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る制御パラメータ調整装置は、
フィードバック制御系の制御パラメータを含む制御則に従う目標値と操作量と制御量との関係式に基づいて、前記目標値と等価であり、前記操作量の時系列データと前記制御量の時系列データとの線形結合である一般化出力を導出する導出部と、
前記目標値を入力とし前記制御量を出力とする参照モデルの前記入力に対する応答が所望のものとなるように、前記参照モデルの伝達関数を設定する参照モデル設定部と、
前記フィードバック制御系における実際の前記制御量が前記参照モデルの出力に追従するように、最適化手法を用いて前記一般化出力における前記線形結合の各係数を調整することにより、前記フィードバック制御系の制御パラメータを最適化する最適化部と、
を備える。
【0009】
前記最適化部は、
前記最適化手法として、進化計算法を用いる、
こととしてもよい。
【0010】
前記フィードバック制御系のコントローラは、
PID制御を行う、
こととしてもよい。
【0011】
本発明の第2の観点に係る制御パラメータ調整方法は、
フィードバック制御系の制御パラメータを含む制御則に従う目標値と操作量と制御量との関係式に基づいて、前記目標値と等価であり、前記操作量の時系列データと前記制御量の時系列データとの線形結合である一般化出力を導出する導出工程と、
前記目標値を入力とし前記制御量を出力とする参照モデルの前記入力に対する応答が所望のものとなるように、前記参照モデルの伝達関数を設定する参照モデル設定工程と、
前記フィードバック制御系における実際の前記制御量が前記参照モデルの出力に追従するように、最適化手法を用いて前記一般化出力における前記線形結合の各係数を調整することにより、前記フィードバック制御系の制御パラメータを最適化する最適化工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、実際のフィードバック制御系の制御量が、参照モデルの出力に近づくように、最適化手法を用いて一般化出力の各係数が調整される。これにより、制御対象のモデルを特定することなく、操作量を入力とし制御量を出力とする単純な伝達関数を用いて、最適な制御パラメータの設定値を見つけ出すことができる。この結果、簡便で、かつ、わかりやすい形で、制御系の制御パラメータをより望ましい状態に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る制御系の構成を示す制御ブロック図である。
【図2】参照モデルの伝達関数を示す制御ブロック図である。
【図3】制御パラメータ調整装置の構成を示すブロック図である。
【図4】最適化部において行われる制御パラメータの最適化処理のフローチャートである。
【図5】図5(A)及び図5(B)は、次世代の遺伝子の発生の様子を示す図である。
【図6】PID制御の制御結果の一例を示すグラフである。
【図7】最適化された制御パラメータによるPID制御の制御結果を示すグラフである。
【図8】参照モデルのパラメータを変更したときのシミュレーション結果の一例を示すグラフである。
【図9】高次遅れ系に対するPID制御の制御結果の一例を示すグラフである。
【図10】高次遅れ系に対する最適化された制御パラメータによるPID制御の制御結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1には、本実施形態に係る制御パラメータ調整装置10が適用される制御系の制御ブロック図が示されている。図1に示すように、この制御系は、典型的なフィードバック制御系であり、制御対象1の制御量y(t)を制御する。加算器2は、目標値r(t)と制御量y(t)との偏差e(t)を出力する。コントローラ3は、偏差e(t)を入力し、操作量u(t)を出力する。
【0016】
コントローラ3は、例えばPIDコントローラを採用することができる。PIDコントローラの連続時間PID制御則は次式の伝達関数によって与えられる。
【数1】


ここで、kcはゲインであり、Tiは積分時間であり、Tdは微分時間を示す。これらを総称して、制御パラメータともいう。
【0017】
制御パラメータ調整装置10は、制御量y(t)及び操作量u(t)を入力し、入力された制御量y(t)に基づいて、コントローラ3の上記制御パラメータを調整する。
【0018】
上記式(1)を離散時間速度型PID制御則(I−PD制御則)として書き換えると、次式のようになる。
【数2】


ここで、u(k)、y(k)及びr(k)はそれぞれ、操作量、制御量及び目標値である。また、KP(:=kC)、KI(:=kC×TS/TI)及びKD(:=kC×Td/TS)は、それぞれ比例ゲイン、積分ゲイン及び微分ゲインを示している。また、TSはサンプリング時間を示している。
【0019】
上記式(2)は、さらに次式に書き換えられる。
【数3】


ただし、ここでは、d(k)=u(k)−u(k−1)とする。
【0020】
次に、KI≠0と仮定し、式(3)の両辺をKIで割ると、次式が得られる。
【数4】

【0021】
さらに、次式で一般化出力Φ(k)を定義する。
【数5】


このように、一般化出力Φ(k)は、操作量u(k)、u(k−1)と、制御量y(k)、y(k−1)、y(k−2)の線形結合、すなわち、フィードバック制御系の制御則に従う目標値と操作量と制御量との関係式に基づく操作量の時系列データと制御量の時系列データとの線形結合である。ここで、一般化出力Φ(k)の各係数a1、a2、a3、a4は、それぞれ次式で表される。
【数6】

【0022】
ここで、上記式(4)〜式(6)より、次の関係が得られる。
【数7】


すなわち、一般化出力Φ(k)は、目標値r(k)と等価である。
【0023】
ここで、図2、及び以下の式(8)、式(9)で与えられる参照モデルの伝達関数Gm(z-1)を導入する。参照モデルの伝達関数Gm(z-1)は、目標値r(k)を入力とし、制御量y(k+1)を出力とする。
【数8】


ただし、係数p1、p2は次式のように定義される。
【数9】


ここで、σは立ち上がり時間に相当する設計パラメータである。また、μは減衰振動特性に関するパラメータであり、δによって調整される。δ=0のときは、2項展開形式モデルに相当する応答形状を示しており、δ=1とすると、Butterworth形式モデルに相当する応答形状となる。実用的には、0≦δ≦2として設計することが望ましいとされ、δを大きくすればするほど応答形状は振動的になる。上記式(10)から明らかなように、P(z-1)の設計にあたっては、σとδを適切に設定する必要がある。
【0024】
このとき、
【数10】


となるように、Φ(k)の各パラメータai(i=1〜4)を調整することで、上記式(7)と式(11)の関係から、結果として、
【数11】


となる。ここで、現時刻はk+1であるので、各パラメータai(i=1〜4)の算出の際に用いる入出力データ(操作量u(k)、u(k−1)や制御量y(k+1)、y(k)、y(k−1)、y(k−2)、r(k))は、k+1の時点においてすべて既知となっている。
【0025】
制御パラメータ調整装置10は、制御量y(k+1)が、参照モデルの出力に追従するように、一般化出力Φ(k)の各係数ai(i=1〜4)を調整する。図3には、制御パラメータ調整装置10の構成が示されている。図3に示すように、制御パラメータ調整装置10は、導出部20と、参照モデル設定部21と、最適化部22とを備える。
【0026】
導出部20は、フィードバック制御系の制御則に従う目標値r(t)と操作量u(t)と制御量y(t)との関係式(式(1))に基づいて、目標値r(k)と等価であり、操作量u(t)の時系列データu(k)、u(k−1)と制御量y(t)の時系列データy(k)、y(k−1)、y(k−2)との線形結合である一般化出力Φ(k)を導出する。すなわち、コントローラ3の制御則が上記式(1)に示すPID制御則である場合には、上記式(3)に示す一般化出力Φ(k)が導出される。
【0027】
参照モデル設定部21は、目標値r(t)を入力とし制御量y(t)を出力とする参照モデルの入力に対する応答が所望のものとなるように、参照モデルの伝達関数Gm(z-1)を設定する。すなわち、参照モデル設定部21は、入力に対して望ましい出力を行う参照モデルの伝達関数Gm(z-1)を設定する。参照モデル設定部21は、操作入力部(不図示)からパラメータσ、δの値を設定することにより、上記式(8)〜式(10)に示すように、参照モデルの伝達関数Gm(z-1)が設定される。
【0028】
最適化部22は、フィードバック制御系における実際の制御量y(k+1)が参照モデルの出力に追従するように、最適化手法を用いて一般化出力Φ(k)における線形結合の各係数ai(i=1〜4)を調整することにより、フィードバック制御系の制御パラメータKP、KI及びKDを最適化する。
【0029】
フィードバック制御系における実際の制御量y(k+1)が、参照モデルの出力に追従するように、最適化手法を用いて一般化出力Φ(k)における線形結合の各係数を調整することにより、フィードバック制御系の制御パラメータを最適化する。最適化方法としては、例えば、進化計算法が用いられる。進化計算法には、例えば、遺伝的アルゴリズム(GA)等がある。
【0030】
GAは、生物の進化を模倣した学習アルゴリズムである。本実施形態では、上記式(2)における各ゲイン(制御パラメータ)KP、KI及びKDは、GAを用いて決定される。
【0031】
図4には、最適化部22において行われる制御パラメータの最適化処理が示されている。図4に示すように、まず、最適化部22は、初期個体を生成する(ステップS1)。
【0032】
より具体的には、最適化部22は、個体数をM、1個の中の遺伝子の数をR、世代数をGとして初期個体群を生成する。ここで、各個体の各遺伝子Pl(r)(l=1、2、…、M;r=1、2、…、R)は第l番目の個体の第r番目の遺伝子を示しており、各遺伝子は、ランダムな値を持つ制御パラメータKP、Kl、KDの実数値から構成される一般化出力Φ(k)の各係数aiがセットされる。
【0033】
続いて、最適化部22は、各個体の各遺伝子Pl(r)に該当する各係数aiに対応する制御パラメータKP、Kl、KDをコントローラ3に設定して、制御対象1に対するPID制御を実行する(ステップS2)。これにより、コントローラ3は、各遺伝子Pl(r)に該当する各係数aiに対応する制御パラメータKP、Kl、KDで、PID制御を実行する。すると、制御対象1から制御量y(t)の時系列データy(1)、y(2)、y(3)、・・・が出力される。最適化部22は、各個体ごとに制御量y(t)の時系列データy(1)、y(2)、y(3)、・・・を取得する。
【0034】
続いて、最適化部22は、各個体の性能を示す適応度を算出する(ステップS3)。適合度f(p)は、次式を用いて算出される。
【数12】


ここで、Nはデータのサンプル数である。より具体的には、最適化部22は、取得された制御量y(t)の時系列データy(1)、y(2)、y(3)、・・・に基づいて、上記式(14)を用いて、参照モデルの伝達関数Gm(z-1)と一般化出力Φ(k)との積とy(1)、y(2)、y(3)、・・・との偏差ε(k)を算出する。さらに、最適化部22は、算出された偏差ε(k)に基づいて、上記式(13)を用いて適応度f(p)を算出する。
【0035】
続いて、最適化部22は、α%の確率で、適応度に基づいたエリート選択を行い、次世代の遺伝子を選択する(ステップS4)。これにより、高い適応度を持つ個体は次世代の集団に残され、適合度の低い個体は淘汰される。
【0036】
続いて、最適化部22は、交叉を行う(ステップS5)。交叉は集団内から選ばれた2つの個体の間で部分列を交換する操作である。ここでは、(100−α)%の確率で、エリート選択によって選ばれた優良な個体集団に、交叉が適用される。本実施形態では、実数GAを扱うため、以下の式に基づいてランダムに選択した個体対のすべての遺伝子に対して交叉が行われる。
【数13】


ここで、Pc及びPdは次世代の遺伝子、Imaxは適応度の高い遺伝子、Pm及びPnはランダムに抽出された親世代の遺伝子である。この操作によって、より適応度の高い親の性質を受け継ぐ次世代の個体が生成される。
【0037】
図5(A)及び図5(B)には、上記式(15)に基づく次世代の遺伝子の発生の様子が示されている。図5(A)には、適応度f(ρ)の最高値がPm、Pnの間にある場合が示され、図5(B)には、適応度f(ρ)の最高値が2つの値の間にはない場合が示されている。上記式(15)、図5(A)及び図5(B)を参照するとわかるように、子個体はImaxを中心に両側に発生しており、図5(A)、図5(B)のいずれの場合でも発生した次世代の個体の一方は親の個体より適応度の高い遺伝子を持っていることがわかる。
【0038】
図4に戻り、続いて、最適化部22は、交叉により発生した個体のうち、β%の個体の遺伝子の1つを乱数に置き換えることにより、突然変異を発生させる(ステップS6)。選択、交叉の操作のみでは、初期集団の周辺に最適解が存在しない場合、局所解に陥る可能性がある。しかし、突然変異を行うことによって、解の探索範囲が広がるため、より最適な解を探索することができる。
【0039】
続いて、最適化部22は、遺伝子の世代GがGmaxに達したか否かを判定する(ステップS7)。Gmaxに達していなければ(ステップS7;No)、最適化部22は、世代Gを1インクリメントして(ステップS8)、ステップS2に戻る。以降、世代GがGmaxとなるまで(ステップS7;Yes)、上記ステップS2乃至S8が、繰り返し実行され、制御実行、適応度の算出、次世代遺伝子の選択、交叉、突然変異が繰り返される。
【0040】
世代GがGmaxに達すると(ステップS7;Yes)、最適化部22は、そのときの適応度が最も高い個体を最適解とし、最適解の遺伝子に相当する制御パラメータKP、KI、KDをコントローラ3に設定する(ステップS9)。その後、最適化部22は、処理を終了する。
【0041】
以上のような動作により、参照モデルの伝達関数Gm(z-1)の出力に追従するPID制御系を構成することができる。
【0042】
以下、本実施形態に係る制御パラメータ調整装置10の具体的な実施例について説明する。
【0043】
(実施例1)
まず、次式で示される離散時間確率モデルを制御対象1に対して制御パラメータ調整装置10を適用した実施例について説明する。
【数14】


ここで、ξ(k)は、平均0、分散0.01のガウス白色ノイズである。また、多くのプロセス制御系が操作量u(k)に振幅制限を持つため、操作量u(k)を以下のように定める。
【数15】


上記式(16)のシステムに対し、PID制御系を構成する。
【0044】
次に、入出力データに基づいて制御パラメータ(PIDゲイン)KP、KI、KDの初期値を、それぞれKP=0.05、KI=0.50、KD=1.00とし、PID制御を実行した。ここで、目標値は、r(k)=10とする。このときの制御結果を図6に示す。振動的ではあるが、最終的に目標値に追従する制御結果が得られた。
【0045】
次に、このときに得られた入出力データを用いて、PIDゲインKP、KI、KDを算出する。ただし、設計方程式P(z-1)におけるパラメータはそれぞれσ=5、TS=1、δ=0.0とした。このとき、次式によりP(z-1)が得られる。
【数16】


また、この時のGAのパラメータは次のように設定した。
【数17】


最適化の結果得られたPIDゲインの最適値は、KP=0.994、KI=0.270、KD=0.0034であった。このPIDゲインによる制御結果を、図7に示す。図6と図7とを比較すると、PIDゲインKP、KI、KDが最適化されることにより、制御量y(t)が振動することなく良好に目標値に追従しているのがわかる。
【0046】
PIDゲインKP、KI、KDの初期値を変化させ、それぞれの入出力データに基づいて算出したPIDゲインKP、KI、KDを以下の表に示す。
【表1】


この表からわかるように、いずれの応答を入出力データとして与えても、同じ参照モデルを与えれば、若干の違いはあるものの、ほぼ等しいPIDゲインKP、KI、KDが得られていることが分かる。
【0047】
さらに、上記式(10)における参照モデルの伝達関数Gm(z-1)のパラメータσを変更して、シミュレーションを行った。図8は、σ=10のときのシミュレーション結果であり、以下の表は、σをそれぞれ3、5、10に変化させたときに得られるPIDゲインKP、KI、KDである。
【表2】


図8に示すように、立ち上がり時間が変われば、それに相当する制御結果が得られているのが分かる。また、上記表より、立ち上がり時間が変化すると、比例ゲインKPはほとんど変わることなく、積分ゲインKIが大きく変化しているのがわかる。
【0048】
(実施例2)
次に、制御対象1を高次遅れ系としたときの本実施形態に係る制御パラメータ調整方法の有効性について考察する。ここでは、次式に示すような連続時間4次遅れ系を対象とする。
【数18】


上記式(20)を、サンプリング周期TS=1で離散化した式を式(21)に示す。
【数19】


ここで、ξ(t)は平均0、分散0.012のガウス性白色ノイズである。
【0049】
まず、目標値r(k)=10として、PIDゲインをKP=1.0、KI=0.2及びKD=0.0としてPID制御を行った。その制御結果を図9に示す。
【0050】
次に、このときに得られる入出力データに基づいて、PIDゲインKP、KI、KDを算出する。ただし、P(z-1)に関するパラメータをσ=40、δ=0とし、P(z-1)は以下の式(22)に示すものとした。
【数20】


また、GAのパラメータは以下の式(23)のように設定した。
【数21】


図10には、最適化されたPIDゲインによる制御結果が示されている。ここで、得られたPIDゲインはKP=0.594、KI=0.078、Kd=0.994であった。図10に示すように、この制御パラメータ調整方法は、高次遅れのシステムに対しても有効であり、良好な過渡特性(目標値追従性)が得られている。
【0051】
以上詳細に説明したように、本実施形態によれば、実際のPID制御系の制御量y(k)が、参照モデルの出力に近づくように、最適化手法を用いて一般化出力の各係数が調整される。これにより、制御対象1のモデルを特定することなく、操作量r(k)を入力とし制御量y(k)を出力とする単純な伝達関数Gm(z-1)を用いて、最適な制御パラメータの設定値を見つけ出すことができる。この結果、簡便で、かつ、わかりやすい形で、制御系の制御パラメータKP、KI、KDをより望ましい状態に調整することができる。
【0052】
より具体的には、本実施形態に係る制御パラメータ調整装置10は、以下に示す効果を奏する。
(1)制御パラメータの算出方法がFRIT法などと比較して簡便で、かつ、わかりやすく、より望ましい状態に制御系の制御パラメータを調整することができる。
(2)制御パラメータの算出にシステムモデルを必要としない。
(3)フィードバック制御則から一般化出力Φ(k)を導出し、その係数を、システム出力(制御量)y(k+1)が、参照モデルの出力と等価になるように、最適化手法を用いて調整する。これにより、参照モデルの出力に追従するPID制御系を構築することができる。
(4)最適化手法における適応度を評価することで、算出した制御パラメータによる制御系の制御性能を予見することができる。
【0053】
なお、本実施形態では、最適化手法としてGAを採用したが、本発明はこれには限られない。例えば、進化計算法の1つであるPSO(Particle Swarm Optimization)法や、勾配法などを適用することも可能である。
【0054】
なお、本実施形態では、PIDコントローラの制御パラメータを調整したが、これには限られず、PI制御やP制御を行うコントローラにも本発明を適用することができる。また、この他のフィードバック制御系の制御パラメータにも本発明を適用することができる。
【0055】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲、実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、制御対象をモデル化することが困難な制御に好適であり、特に、プロセス制御に好適である。
【符号の説明】
【0057】
1 制御対象
2 加算器
3 コントローラ
10 制御パラメータ調整装置
20 導出部
21 参照モデル設定部
22 最適化部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィードバック制御系の制御パラメータを含む制御則に従う目標値と操作量と制御量との関係式に基づいて、前記目標値と等価であり、前記操作量の時系列データと前記制御量の時系列データとの線形結合である一般化出力を導出する導出部と、
前記目標値を入力とし前記制御量を出力とする参照モデルの前記入力に対する応答が所望のものとなるように、前記参照モデルの伝達関数を設定する参照モデル設定部と、
前記フィードバック制御系における実際の前記制御量が前記参照モデルの出力に追従するように、最適化手法を用いて前記一般化出力における前記線形結合の各係数を調整することにより、前記フィードバック制御系の制御パラメータを最適化する最適化部と、
を備える制御パラメータ調整装置。
【請求項2】
前記最適化部は、
前記最適化手法として、進化計算法を用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載の制御パラメータ調整装置。
【請求項3】
前記フィードバック制御系のコントローラは、
PID制御を行う、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の制御パラメータ調整装置。
【請求項4】
フィードバック制御系の制御パラメータを含む制御則に従う目標値と操作量と制御量との関係式に基づいて、前記目標値と等価であり、前記操作量の時系列データと前記制御量の時系列データとの線形結合である一般化出力を導出する導出工程と、
前記目標値を入力とし前記制御量を出力とする参照モデルの前記入力に対する応答が所望のものとなるように、前記参照モデルの伝達関数を設定する参照モデル設定工程と、
前記フィードバック制御系における実際の前記制御量が前記参照モデルの出力に追従するように、最適化手法を用いて前記一般化出力における前記線形結合の各係数を調整することにより、前記フィードバック制御系の制御パラメータを最適化する最適化工程と、
を含む制御パラメータ調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−190364(P2012−190364A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54850(P2011−54850)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り SCIS&ISIS 2010、 日本知能情報ファジィ学会、平成22年12月8日−12日
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】