説明

制御弁式鉛蓄電池用正極板の製造方法

【課題】薄型大型極板でも撓み難い極板の作製が可能であり、また、高容量で且つ、早期容量低下を起こし難い制御弁式鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】鉛を主成分とする鉛合金の基板にペースト状活物質を充填し、その後、熟成・乾燥して作製される制御弁式鉛蓄電池用正極板の製造方法において、該ペースト状活物質に鉛粉量に対してグラファイトを0.3〜0.95質量%添加すると共に、熟成・乾燥時に4塩基性硫酸鉛を75〜95質量%生成させることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池用正極板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量、工程流動改善を図った制御弁式鉛蓄電池用正極板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
制御弁式鉛蓄電池は、基板に活物質ペーストが充填された 正極板と負極板を微細ガラス繊維を主体としたマット状セパレータを介して交互に積層し極板群とした後、同極性同士の極板の耳部を溶接によって接続することにより極板群とし、これを電槽に収納し、この電槽に注液や排気用の開口部を有する蓋を溶着あるいは接着剤で接着し、この開口部から電解液を電解液量が極板群に含浸する程度として、電槽内に注入し、注液や排気用の開口部にゴム弁(制御弁)を覆い被せ製造されるものである。
【0003】
近年、制御弁式鉛蓄電池は通信・電力・防災等のバックアップ電源用や電力貯蔵用をはじめ様々な分野で使用されている。これら制御弁式鉛蓄電池においては10年を超える長寿命性能や容積エネルギー密度、利用率の向上などが要求されている。
【0004】
容積エネルギー密度、利用率を向上させるために、活物質に造孔材(例えば、グラファイト等)を入れて活物質中の多孔度を上げたり、極板厚みを薄くし、極板群構成を多枚数化して正負極活物質の利用率を上げたりする方法が知られているが、グラファイトを入れると活物質の体積変化により鉛合金からなる基板から活物質が剥離し、密着性が悪化し容量低下する問題点があった。
【0005】
そこで、密閉形鉛蓄電池を長寿命化や利用率向上する方法の1つとして、鉛粉、炭素粉末、希硫酸、水、樹脂繊維を含むペースト状活物質を作製し、該ペースト状活物質を鉛合金製の集電体に塗着した後に、熟成・乾燥して四塩基性硫酸鉛を50〜70質量%含む活物質層を有する正極板を作成し、該正極板を化成して用いる密閉形鉛蓄電池の製造方法において、前記鉛粉に対して1.0〜3.0質量%の炭素粉末を含有させること(特許文献1)が知られている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−229920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法は、四塩基性硫酸鉛を50〜70質量%含む活物質層を有する正極板を作製し、鉛粉に対して1.0〜3.0質量%の炭素粉末を含有させることで密閉形鉛蓄電池の長寿命化をはかるとともに、炭素粉末を含有させて活物質の利用率を向上させるものである。
しかしながら、特許文献1に記載の方法で得た極板は、工程流動時に極板が撓み、極板が懸垂台から落下したり、搬送ロボットの吸着部分に吸着しなかったりという不都合があるため、ある程度厚みのある極板で強度を持たせ構成されているのが現状である。
この現象は、基板の厚みにもよるが、厚さ1〜3mm程度の場合はその長さが300mm以上となる大型の極板格子を用いた場合に顕著となる。
また、グラファイトの添加量によっては、4塩基性硫酸鉛による基板−活物質の密着性強化効果よりも、グラファイトの膨張による基板−活物質の密着性悪化効果が上回り、早期容量低下を引き起こすことが確認された。
そこで、本発明者らは種々検討を行い、4塩基性硫酸鉛の生成量及びグラファイトの添加量を所望の範囲とすることで、撓み難い極板の作製が可能であり、また、高容量で且つ、早期容量低下を起こし難い極板を提供することができることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、鉛を主成分とする鉛合金の基板にペースト状活物質を充填し、その後、熟成・乾燥して作製される制御弁式鉛蓄電池用正極板の製造方法において、該ペースト状活物質に鉛粉量に対してグラファイトを0.3〜0.95質量%添加すると共に、熟成・乾燥時に4塩基性硫酸鉛を75〜95質量%生成させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
制御弁式鉛蓄電池の正極板において、鉛合金からなる基板に鉛粉量に対してグラファイトを0.3〜0.95質量%添加したペーストを充填した後、熟成・乾燥工程において4塩基性硫酸鉛を75〜95質量%生成させることにより、高容量で且つ、大型極板でも撓み難いため、工程流動しやすく、早期容量低下を起こし難い特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の制御弁式鉛蓄電池は、ペースト状活物質に鉛粉量に対してグラファイトを0.3〜0.95質量%添加すると共に、熟成・乾燥時に4塩基性硫酸鉛を75〜95質量%生成させることで、高容量化を図り極板の撓みを防止して工程流動性を改善し、更に、早期容量低下を起こし難い制御弁式鉛蓄電池である。
【0011】
本発明において、大型基板に正極活物質ペーストを充填後、熟成・乾燥工程において4塩基性硫酸鉛の生成量を75〜95質量%とするのは、大型極板では4塩基性硫酸鉛を多く生成させることにより極板の撓み強度が上昇し、工程流動改善に繋がり、また、正極基板と活物質の密着性を良好とするためである。正極極板強度上昇や4塩基性硫酸鉛の基板−活物質間密着性改善の理由として、四塩基性硫酸鉛は三塩基性硫酸鉛と同様に、化成すると二酸化鉛化するが、四塩基性硫酸鉛は三塩基性硫酸鉛に比べて化成時における体積膨張率が小さいため、化成によっても格子−活物質間の密着性がほとんど損なわれることがないため、基板−活物質間や活物質同士間の密着性が良好である。
しかし、4塩基性硫酸鉛の生成量が75質量%未満の極板は、基板−活物質間や活物質同士間の密着性が不十分なため、グラファイトの体積膨張により基板−活物質間や活物質同士間にクラックが入り、早期容量低下を起こす。また、4塩基性硫酸鉛の生成量が95質量%超の極板は、熟成・乾燥後の活物質には純鉛や一酸化鉛、3塩基性硫酸鉛などが少なくとも5%程度含まれているため、いかなる熟成・乾燥条件でも極板を作製することは困難である。
更に、熟成・乾燥後の極板中の活物質形態が主として3塩基性硫酸鉛の場合、該3塩基性硫酸鉛自体の体積膨張率が大きく、それに加え、グラファイトの体積膨張により、基板−活物質間や活物質同士間の密着性が損なわれ、早期容量低下となる。
よって、4塩基性硫酸鉛の生成量は75〜95質量%が好ましい。
【0012】
また、本発明においてペースト状活物質にグラファイトを鉛粉量に対して0.3〜0.95質量%添加するのは、活物質内の多孔度が増加すると共に、制御弁式鉛蓄電池の反応電解液である硫酸の拡散が促進され、活物質の利用率が増加し、制御弁式鉛蓄電池の高容量化に繋がるためである。
しかし、グラファイトの添加量が0.3質量%未満では、グラファイトを添加しない場合と比べ活物質内の多孔度があまり変わらず、高容量化にならない。また、グラファイトの添加量が0.95質量%超過では、大きな体積膨張により、活物質内で大きなクラックが発生し、早期容量低下を起こす。
よって、正極活物質中のグラファイトの添加量は0.3〜0.95質量%が好ましい。
【0013】
なお、制御弁式鉛蓄電池の極板群は、正極板と負極板をセパレータを介して交互に積層して構成し、通常は両端に負極板を配置して負極板が1枚多い構成になっている。負極板の多枚数化に伴い必然的に正極板も薄肉化されて多枚数化される。
【実施例1】
【0014】
Ca系鉛合金の正極基板(寸法は縦400mm×横150mm×厚み2.1mm)に鉛粉量に対してグラファイトを0.5質量%添加した活物質ペーストを充填したのち、熟成・乾燥を行って未化成の正極板を得た。次に、作製した複数枚の未化成のペースト式正極板と公知の方法で作製した複数枚の未化成のペースト式負極板とをガラス長繊維を抄造してなるガラスマットを介して交互に積層し、この積層体の同極板同士をバーナー方式で溶接して極板群を得た。次いで、前記極板群の所要数をポリプロピレン製の電槽内に挿入し、前記電槽に蓋をヒートシールし、前記蓋の液口から電槽内に比重1.21(20℃)の希硫酸(電解液)を極板群に含浸する程度注入し、所定の条件で電槽化成を行って1300Ahの制御弁式鉛蓄電池を製造した(本発明1)。
なお、前記熟成・乾燥は、熟成を温度65℃、湿度95%の雰囲気で24時間行い、その後、乾燥を温度60℃、湿度10%の雰囲気で行った。
【実施例2】
【0015】
熟成温度を70℃とした以外は実施例1と同様に1300Ahの制御弁式鉛蓄電池を製造した(本発明2)。
【実施例3】
【0016】
熟成温度を80℃とした以外は実施例1と同様に1300Ahの制御弁式鉛蓄電池を製造した(本発明3)。
【0017】
(比較例1)
熟成温度を40℃とした以外は実施例1と同様に1300Ahの制御弁式鉛蓄電池を製造した(本発明3)。
(比較例2)
熟成温度を50℃とした以外は実施例1と同様に1300Ahの制御弁式鉛蓄電池を製造した(本発明3)。
なお、本発明において4塩基性硫酸鉛の生成量は熟成温度を変化させることでおこなったが、熟成時の湿度や時間を変化させても良く、また、極板の厚みによって熱伝達速度が異なるため、極板の厚みを変化させても良く、更にこれらを適宜変化させ4塩基性硫酸鉛の生成量を制御しても良い。
例えば、同一の基板を用いて熟成時の湿度や時間を同一とした場合、熟成温度を高くした方が4塩基性硫酸鉛の生成量を多くできることは周知であり、また、基板厚みが薄いものと厚いものとでは、厚い極板より薄い極板の方が熱伝達速度が速いため、熟成条件(熟成温度、湿度、時間)を同一とした場合、4塩基性硫酸鉛の生成量を多くできることは明白である。
【0018】
得られた各々の制御弁式鉛蓄電池(本発明1〜3、比較例1〜2)について4塩基硫酸量、極板撓み、工程流動性および容量低下サイクル数を調べた。
4塩基性硫酸鉛量は、夫々作製した正極板をX線回折法によって測定した。
極板撓みは、1枚の極板の長手方向の中心部を支点として固定し、両サイドが自重によりどれだけ下にたわむか変位を測定した。
工程流動性は、ペースト状活物質を充填した基板を懸垂台に乗せて熟成・乾燥した後、懸垂台から落下せず、かつ移送ロボットによる把持が良好に行えたものは工程流動性が優れる(○)と評価した。懸垂台からの落下やロボットによる把持不良が300枚中1枚でもあれば工程流動性が劣る(×)と評価した。なお、ペースト活物質を充填し、熟成・乾燥終了までは、極板数十枚毎に押え板を入れているため、極板が撓み難くなっている。
容量低下サイクル数は、初期容量の90%まで容量が低下したときのサイクル数を示したものである。サイクル試験条件は、放電電流130A(0.1CA)で、終止電圧1.8Vまで放電し、その後、回復充電では放電容量に対して110%充電を行った。放電容量の90%までは130A(0.1CA)で定電流充電し、放電容量の90%〜110%までは65A(0.05CA)で定電流充電を行った。
【0019】
【表1】

【0020】
表1に示すように、極板中の4塩基性硫酸鉛の生成量を75質量%以上とした本発明1〜3は、極板撓み変位が少なく、工程流動性に優れていることが分かる。それに比し、極板中の4塩基性硫酸鉛の生成量を75質量%未満とした比較例1〜2は、極板撓み変位が多く、工程流動性に適さないことが分る。
また、極板中の4塩基性硫酸鉛の生成量を75質量%以上とした本発明1〜3は、基板−活物質間や活物質同士間の密着性が良好であり、容量低下サイクル数もすぐれていることが分る。それに比し、極板中の4塩基性硫酸鉛の生成量を75質量%未満とした比較例1〜2は、基板−活物質間や活物質同士間の密着性が不十分なため、グラファイトの体積膨張により基板−活物質間や活物質同士間にクラックが入り、早期容量低下を起こした。
【実施例4】
【0021】
次に、活物質ペーストに添加するグラファイトの量を、表2に示すように鉛粉量に対し0〜1.0質量%とし、その後の熟成温度を70℃とし夫々の正極板を作製し、実施例1と同様に1300Ahの制御弁式鉛蓄電池を製造した(本発明2、4〜5、比較例3〜6)。なお、この時の正極未化成時の4塩基性硫酸鉛の生成量は全て85%であった。
【0022】
得られた各々の制御弁式鉛蓄電池(本発明2、4〜5、比較例3〜6)について初期容量比、容量低下サイクル数を調べた。
初期容量比は、放電電流130Aで、終止電圧1.8Vまで放電した時の容量を実施例2の容量を100とした時の容量比率で表したものである。
容量低下サイクル数は、初期容量の90%まで容量が低下したときのサイクル数を示す。サイクル試験条件は放電電流130A(0.1CA)で、終止電圧1.8Vまで放電し、その後、回復充電では放電容量に対して110%充電を行った。放電容量の90%までは130A(0.1CA)で定電流充電し、放電容量の90%〜110%までは65A(0.05CA)で定電流充電を行った。
【0023】
【表2】

【0024】
表2に示すように、本発明2、4〜5は正極活物質中のグラファイトの添加量を0.3〜0.95質量%とすることで初期容量及び容量低下サイクル数共に優れるものであった。それに比し、比較例3〜4は正極活物質中のグラファイトを添加しない、又は添加量が少ないため、活物質内の多孔度が殆ど変わらず初期容量が出難いものであり、その反面、容量低下サイクル数は優れるものであった。また、比較例5〜6は、グラファイトの添加量が0.95質量%超過では、初期容量比は優れるものの、基板−活物質間や活物質同士間の密着性が、大きな体積膨張による大きなクラック発生で損なわれ、早期容量低下を起こし容量低下サイクル数が劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛を主成分とする鉛合金の基板にペースト状活物質を充填し、その後、熟成・乾燥して作製される制御弁式鉛蓄電池用正極板の製造方法において、該ペースト状活物質に鉛粉量に対してグラファイトを0.3〜0.95質量%添加すると共に、熟成・乾燥時に4塩基性硫酸鉛を75〜95質量%生成させることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池用正極板の製造方法。

【公開番号】特開2009−70668(P2009−70668A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237408(P2007−237408)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】