説明

制御弁式鉛蓄電池

【課題】 高温状態で長期間の使用をした場合において、正極極柱1の一部から生ずる剥離片3によって、正極板と負極板との短絡が起こりにくい制御弁式鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】 略格子状をしている多数の溝部9を有し、対向する溝部9の間隔を、極板群7の正極板と負極板との間隔よりも短くなるようにした正極極柱1を鋳造する。正極板と負極板とをセパレータを介して積層し、前記正極板と前記負極板の耳部を、鋳造した正極極柱1とともに溶接し、ストラップ6を形成して極板群7を製造する。次に、製造した極板群を電槽8に収納し、蓋5を被せ、電槽8と蓋5との対向部分を熱溶着をして一体化する。次に、安全弁部10から希硫酸電解液を注液し、図示されていない安全弁を取付け、密封して制御弁式鉛蓄電池を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御弁式鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
制御弁式鉛蓄電池は、安価で信頼性が高いという特徴を有するために、無停電電源装置等の産業機器用の蓄電池や、自動車用のバッテリとして広く使用をされている。最近、これらの制御弁式鉛蓄電池は、長期間にわたり、高温状態で使用される場合が多くなっている。
【0003】
図2、図3は、従来から使用されている一般的な制御弁式鉛蓄電池及び正極極柱1の概略図である。すなわち、正極板や負極板などの発電素子がセパレータを介して積層され、それぞれ正極板や負極板の図示されていない耳部が正極極柱1や負極極柱と溶接されて、ストラップ6を形成し、正極極柱1や負極極柱を有する極板群7を製造する。次に、極板群を電槽8内に収納をした後に、上方から蓋5を被せ、電槽8と蓋5との対向部分を接合、例えば、熱溶着をして一体化して制御弁式鉛蓄電池を製造する。
【0004】
ここで、正極極柱1の上方には、外部の負荷と接続をするための穴部11を有する正極端子2が形成されている。そして、正極端子2の穴部11部分に、圧着端子などの付いたリード線を、ボルト・ナットなどを用いて締め付けることによって、外部の負荷と電気的に接続をする。
【0005】
なお、長期間にわたり高温状態で制御弁式鉛蓄電池を使用することによって、正極用のストラップ6や正極極柱1などの鉛部品が腐食することが知られている。特に、図2に示すように、希硫酸電解液に全体が浸されていない正極極柱1は腐食がされやすい。
【0006】
正極極柱1が腐食をすると、その一部が剥離して剥離片3を形成し、その剥離片3の脱落によって制御弁式鉛蓄電池の極板群7の正極板と負極板とが短絡する現象が認められている。そして、この傾向は、制御弁式鉛蓄電池を高温状態で長期間の使用をする場合に顕著に表れることも確認されている。
【0007】
そこで、正極極柱1やストラップ6などの鉛部品の腐食を防止する手段として、それらの表面を耐酸性の樹脂で被覆をして使用をする手法が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
【特許文献1】特開平5−36399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、制御弁式鉛蓄電池を高温状態で長期間にわたって使用をすると、鉛部品の表面を被覆した樹脂が変質し、劣化して、ひびが入るなどによって、正極極柱1等の腐食を十分に防止できないという問題点が認められていた。その結果、正極極柱1の表面に、比較的大きな剥離片3が形成されて脱落し(図2)、その剥離片3によって制御弁式鉛蓄電池の極板群7の正極板と負極板とが短絡する現象が認められている。
【0010】
本発明の目的は、高温状態で長期間の使用をされた場合においても、正極極柱1の一部が腐食して生ずる剥離片3によって、正極板と負極板との短絡が起こりにくい制御弁式鉛蓄電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するために、本発明に係わる制御弁式鉛蓄電池は、あらかじめ正極極柱1の表面に略格子状をした多数の溝部9を形成しておく。さらに、対向する溝部9の間隔を、極板群7の正極板と負極板との間隔よりも短くなるようにし、腐食によって形成されて落下する剥離片3の寸法を小さくすることによって、制御弁式鉛蓄電池の電極間の短絡を起こりにくくしたものである。
【0012】
すなわち、請求項1の発明は、正極板と負極板とをセパレータを介して積層し、
前記正極板と前記負極板の耳部を、正極極柱とともに溶接し、ストラップを形成して極板群を製造する制御弁式鉛蓄電池において、
前記正極極柱の表面には、多数の溝部が形成されており、
該溝部の間隔を、前記極板群の前記正極板と前記負極板との間隔よりも短くすることを特徴とするものである。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記溝部は、略格子状に形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、剥離片の寸法を、極板群の正極板と負極板との間隔よりも小さくすることができ、その結果、制御弁式鉛蓄電池の電極間の短絡を起こりにくくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下において、本発明の実施をするための最良の形態を図1及び図3を用いて詳細に説明する。
【0016】
1.制御弁式鉛蓄電池の製造
制御弁式鉛蓄電池の製造方法を図3を用いて詳細に説明する。図3において、正極板や負極板などの発電素子がセパレータを介して積層されている。そして、積層されている正極板や負極板などの図示されていない耳部を、正極極柱1とともに溶接をして、ストラップ6を形成して極板群7を製造する。
【0017】
次に、製造した極板群を電槽8内に収納し、蓋5を被せ、電槽8と蓋5との対向部分を接合、例えば、熱溶着をして一体化する。次に、安全弁部10から希硫酸電解液を注液し、図示されていない安全弁を取付け、密封して制御弁式鉛蓄電池を製造する。なお、上述した制御弁式鉛蓄電池は、従来の手法で製造をしている。
【0018】
ここで、正極極柱1の上方には、あらかじめ外部の負荷に接続をするための穴部11の開けられている正極端子2が形成されている。そして、図示されていない圧着端子などの付いたリード線を、ボルト・ナットなどを用いて、正極端子2の穴部11の部分に締め付け、固定して外部の負荷に電力を供給する。
【0019】
2.本発明に係わる正極極柱の特徴
図1に本発明に係わる正極極柱1の概略図を示す。すなわち、本発明に係わる制御弁式鉛蓄電池の正極極柱1は、鉛を主成分とする合金を用い、その表面に略格子状をした溝部9を形成するように鋳造して製造をした。そして、対向する溝部9の間隔を、極板群7の正極板と負極板との間隔、いわゆる極板ピッチ、よりも短くなるようにした。
【0020】
ここで、多数の溝部9を形成するような掘込のある2個の割型に、鉛合金の溶湯を供給し、凝固をさせた後に、離型して取出して、表面に略格子状をした多数の溝部9を有する本発明に係わる正極極柱1を鋳造によって製造をした。
【0021】
本発明に係わる正極極柱1を用いた制御弁式鉛蓄電池では、正極極柱1の表面に略格子状をした多数の溝部9が形成されているために、腐食によって剥離した後に落下する、剥離片3の寸法を小さくすることができる(図1)。
【0022】
そして、本発明に係わる正極極柱1では、落下する剥離片3の寸法を小さく、すなわち、対向する溝部9の間隔を、極板群7の正極板と負極板との間隔よりも短くするようにした。したがって、通常の使用状態では、正極極柱1から剥離片3が落下をしたような場合でも、正極板と負極板との短絡がほとんど起こらなくすることができる。
【0023】
なお、上記した実施例では、金型の製造や、鋳造工程の容易性から、正極極柱1の表面に略格子状の溝部9を形成したものを用いたが、略菱形状や略円形状をした多数の溝部9を形成したような場合でも、同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、正極極柱がストラップに溶接されている制御弁式鉛蓄電池に使用をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係わる正極極柱の概略図である。
【図2】従来から使用されている正極極柱の概略図である。
【図3】制御弁式鉛蓄電池の切欠き断面斜視図である。
【符号の説明】
【0026】
1:正極極柱、2:正極端子、3:剥離片、4:負極端子、5:蓋、6:ストラップ、
7:極板群、8:電槽、9:溝部、10:安全弁部、11:穴部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板とをセパレータを介して積層し、
前記正極板と前記負極板の耳部を、正極極柱とともに溶接し、ストラップを形成して極板群を製造する制御弁式鉛蓄電池において、
前記正極極柱の表面には、多数の溝部が形成されており、
該溝部の間隔を、前記極板群の前記正極板と前記負極板との間隔よりも短くすることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池。
【請求項2】
前記溝部は、略格子状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の制御弁式鉛蓄電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−179203(P2006−179203A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368667(P2004−368667)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】