説明

制御弁式鉛蓄電池

【課題】正極板枚数が負極板枚数より一枚多く用いた極板群を有した制御弁式鉛蓄電池は、端板部分の酸素吸収能がなくなり、負極板の酸素吸収は正極板からセパレータを通過するのみの酸素移動になり負極板における酸素吸収能が十分に発揮されずに電解液が減少して短寿命になる課題を有していた。
【解決手段】正極板枚数がnで負極板枚数がn−1で構成される極板群を有し、負極板にエキスパンド格子体を用いることで負極板の側面に露出負極活物質が存在するように構成し、実質的にフリー電解液が存在しない制御弁式鉛蓄電池とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御弁式鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に鉛蓄電池は、複数の正極板と負極板とをセパレータを介して積層し、同極同士を並列接続することで一体化して極板群を構成しており、極板群における負極板の枚数は正極板の枚数よりも一枚多く使用されており、制御弁式鉛蓄電池でも同様の構成である。このように、負極板が一枚多く使用されることで極板群の外側の端板は両面とも負極板が位置する。
【0003】
極板群の端板が負極板なのは、充放電による正極板の活物質の脱落を防止するため正極板の両面をセパレータで当接するためである。さらに、室外で使用する鉛蓄電池は低温特性が必要であり、低温になるにつれ正極に比べて容量特性が低下する負極板を多くする必要があった。さらに、制御弁式鉛蓄電池は、充電時に電解液中の水分が電気分解されることにより正極板から発生した酸素を負極板で吸収させ電解液の減少を抑制する方式を利用しており、酸素を効率良く吸収するために極板群の端板には負極板が配置されている。
【0004】
近年、出力特性の向上を図った鉛蓄電池が必要とされ、薄型の極板を用いて正極板と負極板の構成枚数を増やして極板反応面積を広くした極板群、正極板と負極板が同枚数の極板群および正極板が負極板より一枚多い極板群が使用されることがある。
【0005】
しかしながら、制御弁式鉛蓄電池に、正極板が負極板より一枚多い極板群を適用した場合、極板群の端板が正極板となるため負極板での酸素吸収を行う実質的な反応面積が少なくなり、充電時に正極で発生した酸素の吸収が十分に行われず、制御弁を通して外部に酸素および負極板で発生した水素ガスが放出され、電解液の消失による容量低下が早期に起こるという課題があった。
【0006】
正極板が負極板より多くした極板群を構成した鉛蓄電池としては、特許文献1のように正極板枚数mと負極板枚数nがm=nまたはm=n+1からなる極板群の周囲に高い多孔度および大きい比表面積を有する粉体を充填し、電池の充放電に必要十分な量の硫酸電解液を実質的に該当粉体および極板に含浸保持させた制御弁式鉛蓄電池が提案されており、容量の増加および寿命特性の向上を図るものである。
【0007】
この構成を有した鉛蓄電池で正極板枚数mと負極板枚数nがm=n+1の場合、前記のように極板群の端板が正極板であるため酸素吸収能が低下する。さらに、充電時に正極板で発生した酸素が負極板へ移行するのに極板周囲に存在する電解液中に存在する粉体の影響により拡散が遅く、負極における酸素吸収反応が遅くなる結果、電池外部に酸素とともに負極で発生する水素とともに放出されてしまい、電解液中の水分の消失により電解液濃度が上昇し短寿命になるという結果を生じた。
【特許文献1】特開平6−150961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
正極板枚数が負極板枚数より一枚多く用いた極板群を有した制御弁式鉛蓄電池は、極板群端板が正極板であるために従来の端板部分における酸素吸収能がなくなり、負極板の酸素吸収の実質的反応面積が減少するとともに、負極板の酸素吸収は正負極板間を通過するのみの酸素移動になり負極板における酸素吸収能が十分に発揮されず、電池外部に酸素のみならず負極板から発生した水素も制御弁を通過して外部に放出され、電解液が減少する結果、短寿命になるという課題を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、少なくとも負極板にエキスパンド格子体を用い、正極板枚数がnで負極板枚数がn−1によりガラス繊維を主体とするセパレータを介して構成された極板群を有し、実質的にフリー電解液が存在しないことを特徴とする制御弁式鉛蓄電池を示すものである。
【0010】
さらに、請求項2に係る発明は、正極板にエキスパンド格子体を用いることを特徴とする請求項1記載の制御弁式鉛蓄電池を示すものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の制御弁式鉛蓄電池は、前記の構成を有し、負極板にエキスパンド格子体を用いることにより負極板の側面に露出する負極活物質がセル内の空間に曝され、正極板で発生した酸素の吸収反応を行うことにより負極板が放電する結果、負極板からの水素の発生も防止できることにより電解液の減少を抑制し、長寿命の制御弁式鉛蓄電池にすることができるという顕著な効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の本発明における制御弁式鉛蓄電池のセル断面図を示したものである。図2は本発明におけるエキスパンド格子体を用いた負極板の部分断面図、図3は従来の説明用の鋳造格子体を示したものである。
【0013】
図1において、正極板1の枚数が6枚と負極板2の枚数が5枚と正極板枚数を1枚多くすることで、正極板1の枚数がn枚と負極板2の枚数がn−1枚とがガラス繊維を主体とするセパレータ3を介して交互に積載され、これら極板の同極性同士を並列接続(図示はしてない)することにより極板群4を形成している。
【0014】
極板群4は合成樹脂で成型された電槽5により形成されるセル6の内部に収納され、ふた7により密閉化される。なお、ふた上部にはセル口8が設けられ製造の際の電解液注液に用い、その後はセル口8に制御弁9を取付けることにより、電池使用中における大気中の酸素のセル内への侵入を防ぐとともにセル内圧が上昇した際にガスを外気に放出する機能を有する。
【0015】
ガラス繊維を主体とするセパレータ3は負極板2の底部をU字状に囲んでおり、極板群4の幅方向に対する両側面のセパレータ3は開口している。U字状のセパレータ3の側面を封口すると、負極板側面における酸素との接触が抑制されるため、実質的に開口しておくのが効果的である。ここでは負極板2の底部をセパレータでU字状に囲んだが、正極板1の底部を包んでも同様な効果が得られる。
【0016】
電解液は、正極板活物質、負極板活物質10およびセパレータ3に全て含浸されており、含浸されていないフリーの電解液や電解液を吸収する充填剤がある場合は、負極板側面からの酸素吸収が抑制されるため、電解液を極板群4に吸収させておくのが効果的である。
【0017】
図2は本発明の負極板2を示したものであり、負極板2はエキスパンド格子体と負極活物質10からなり、エキスパンド格子体にはエキスパンド加工の際に形成された骨11に囲まれた網目12の部分に負極活物質10が保持されており、エキスパンド極板の幅は連続極板を切断することにより得るため、負極板の側面は切断面に相当し露出負極活物質10aが現れる。なお、負極板2の表面は、負極表面活物質10bで覆うことにより、セパレータ3との接触を良好にでき、硫酸分の移行や酸素ガスの通気性による吸収の促進を図ることができる。
【0018】
図3は従来方式における説明用鋳造格子体を示すものである。従来例の制御弁式鉛蓄電池の一般的な負極板は、鋳造格子および負極活物質からなり、鋳造格子体は、その周囲が枠骨13で構成され、極板の両側面の縦枠骨13aと極板上部と下部の横枠骨13bにより囲われており、さらに枠骨13に囲われた中には、中骨14が縦中骨14aと横中骨14bにて活物質を保持する部分を形成している。なお、図4は、図3におけるA−A´断面図であり、負極格子体の両側面に相当する部分は縦枠骨13aにより、活物質が露出しない状態である。
【実施例】
【0019】
(実験1)
供試電池は、正極板が6枚と負極板が5枚により構成された極板群を有し、20時間率容量が13.0Ahの制御弁式鉛蓄電池を用いた。極板群は、正極板および負極板は高さ67.0mm、幅44.5mmで、それぞれの極板厚みが正極板3.5mmで負極板3.0mmの極板とともにセパレータ厚は2.7mmを用いて構成した。
【0020】
本発明の負極板は、カルシウム0.08質量%、スズ0.8%の鉛合金を用いた鉛合金シートに、同様にエキスパンド加工して形成された連続な網目に活物質を充填して得られた連続充填極板を、極板1枚の幅44.5mmに相当するようにロータリーカッタで切断して、単体の負極板を作成した。これらの負極板はスタックされ12時間をかけ熟成乾燥を行い、未化成の負極板を作成した。
【0021】
従来例の負極板は、本発明と同一の鉛合金を用いて鋳造格子体により作成した。一つの鋳造型では鋳造格子をパネルで6枚得ることができ、パネル中の単位格子体の中骨に囲われた部分に活物質を充填した後にパネル状態で熟成乾燥され、単位極板へ切断することにより負極板を得た。なお、本発明のエキスパンド格子体を用いた負極板に用いた活物質と同様になるような鉛酸化物、添加剤と希硫酸ペーストを用い、活物質量も同じに設定して比較試験の影響が出ないようにした。
【0022】
なお、正極板は、カルシウム0.08質量%、スズ2.0%からなる鉛合金を冷間圧延した鉛合金シートをエキスパンド加工して形成した網目に活物質を充填して常法により極板を作成した。
【0023】
供試電池は、セル口に制御弁を取り付け大気中の酸素を閉塞し、電解液に密度1.25g/cm3の希硫酸を注液した後に充電を行い、セル室内の電解液を減少させて電解液濃度を上昇させるとともに実質的な電解液は正極板と負極板の活物質およびセパレータに全て含浸させた。前述の構成により20時間率容量が13.0Ahの制御弁式鉛蓄電池において、負極板にエキスパンド格子体を用いた本発明の電池No.1〜No.6と、負極板に鋳造格子体を用いた従来例による供試電池No.7〜No.12を用意し各種試験を実施した。
【0024】
供試電池を環境温度40℃中に24時間静置した後、各電池への充電電圧を2.25V/セル(13.5V/電池)〜2.7V/セル(16.20V/電池)変化させた場合のガス吸収能を評価するために密閉反応効率を測定した。この密閉反応効率は次式により算出する。
【0025】
密閉反応効率=(A−B)×100/A
A:充電電気量より理論的に発生するガス量
B:実測のガス発生量
【0026】
負極板にエキスパンド格子体を用いた本発明の供試電池6個と、負極板に従来の鋳造格子体を用いた供試電池6個の密閉反応効率の平均値を測定し、その結果を5図に示した。図5より、密閉反応効率は、充電電圧の低い付近2.25V〜2.3Vでは本発明の電池は従来例と大きな差はないが、2.4V以上では約15%の効果が認められ、充電電圧を上昇させた2.7Vではその密閉反応効率を生じなくなる。
【0027】
充電電圧が2.25V〜2.3V付近では、セル室内の酸素ガス発生量が少なく、正極で発生した酸素ガスがセパレータ中を負極側に通過して行き負極活物質に還元される速度を有していたためであり、従来例の電池でも酸素ガス吸収速度は十分であった。
【0028】
一方、充電電圧が2.4V〜2.65V付近では、正極で発生する酸素ガス量は多くなり、セパレータ中を負極側に通過して行き、負極で吸収される酸素ガス量を超える発生量になる。本発明の供試電池が従来例の供試電池より密閉反応効率が良い結果が得られているのは、本発明の供試電池の負極板がエキスパンド格子体を用いているため負極板の側面に形成された露出負極活物質により酸素ガスを吸収できる部分が増加したことによるものである。
【0029】
充電電圧が2.65V以上では、酸素ガスの発生が負極で吸収される量をはるかに上回る量であるため、負極板から発生する水素ガスとともにセル室からセル口から制御弁を開放し大気中に放出されてしまい、密閉反応効率はともに低くなるためと考えられた。
【0030】
(実験2)
次に、上記実験1に用いた供試電池により環境温度40℃で充電電圧を2.45V(14.7V/電池)と加速試験の設定にて連続トリクル充電を行い、3ヶ月毎に容量確認を行い、容量が初期容量の10%になるまでの月数を測定した。これら供試電池の構成条件と供試電池のトリクル寿命結果の平均値を表1に示した。なお、本発明の供試電池の結果はNo.1〜No.4の結果であり、No.5およびNo.6は、従来例の電池が寿命に至った時点で原因調査の比較対照としての分解用として使用した。
【0031】
【表1】

【0032】
トリクル寿命試験より、本発明の供試電池が良好な結果を得ることができた。従来例の電池の試験終了後に本発明品とともに分解調査したところ、従来例の電池が寿命に至った原因は電解液が減少し、枯渇した状態になっていた。さらに、正極活物質は電解液濃度の向上とともに微細化による軟化現象も認められ、セパレータを貫通して負極板と短絡を生じているものも見られた。負極板の活物質は全体的にサルフェーションが進行しており、ガス吸収能を有する状態ではなかった。
【0033】
一方、本発明の供試電池No.4とNo.5はセパレータ中にも電解液を保持しており、正極活物質に若干の軟化減少は見られたが、性能を発揮するのに十分な状態であった。さらに負極板は底部の一部にサルフェーションが確認されたが、全体的に酸素ガスを吸収できる状態であった。
【0034】
上記のように、正極板枚数が負極板枚数より一枚多く用いた極板群の場合、極板群の両側が正極板になることで端板部分における酸素吸収能が減少することを負極板にエキスパンド格子体を用いることで、負極板の側面に露出活物質を形成することによりセル全体の酸素吸収能を向上させることができる。
【0035】
なお、本発明では負極板にエキスパンド格子体を用いて説明したが、製造上、正極板にもエキスパンド格子体を用いることで鋳造機が不要になり、両極板ともエキスパンド格子体の製造方式になるので、余分な設備投資が不要になる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、出力特性の向上を図る極板群において、正極板が負極板より一枚多く構成される制御弁式鉛蓄電池として有用であり、その工業的価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明における制御弁式鉛蓄電池のセル断面図
【図2】本発明におけるエキスパンド格子体を用いた負極板の部分断面図
【図3】従来方式における説明用鋳造格子体を示す図
【図4】図3の説明用鋳造格子体のA−A´断面図
【図5】密閉反応効率の平均値を示す図
【符号の説明】
【0038】
1 正極板
2 負極板
3 セパレータ
4 極板群
5 電槽
6 セル
7 ふた
8 セル口
9 制御弁
10 負極活物質
10a 露出負極活物質
10b 負極表面活物質
11 骨
12 網目
13 枠骨
13a 縦枠骨
13b 横枠骨

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも負極板にエキスパンド格子体を用い、正極板枚数がnで負極板枚数がn−1によりガラス繊維を主体とするセパレータを介して構成された極板群を有し、実質的にフリー電解液が存在しないことを特徴とする制御弁式鉛蓄電池。
【請求項2】
正極板にエキスパンド格子体を用いることを特徴とする請求項1記載の制御弁式鉛蓄電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−146727(P2009−146727A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322795(P2007−322795)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】