説明

制御装置および制御方法

【課題】制御動作が不安定化するパラメータ設定が行なわれてしまう恐れを低減する。
【解決手段】制御装置は、設定値SPの変更による過渡応答時に有効な操作量上限値OHsを記憶する過渡操作量上限値記憶部3と、定常運転時に有効な操作量上限値OHgを記憶する定常操作量上限値記憶部4と、設定値SPの変更を検出する設定値変更検出部5と、過渡応答の完了を検出する過渡応答完了検出部6と、設定値SPの変更時点から過渡応答の完了時点までの時間帯では操作量上限値OHsを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定し、それ以外の時間帯では操作量上限値OHgを操作量上限値OHとして設定する操作量上限値切り替え部7と、制御演算により操作量MVを算出し、操作量MVを操作量上限値OH以下に制限する上限処理を実行して出力する制御演算部8とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセス制御技術に係り、特に制御動作が不安定化するような制御パラメータ設定が行なわれてしまう恐れを低減することができる制御装置および制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
設定値SP変更時の追従特性と定常状態時の外乱抑制特性を独立(分離)して調整できるPID制御手法として、2自由度PID制御が知られている(例えば特許文献1参照)。例えば加熱炉の温度制御において、設定値SP変更時は昇温幅が大きいので、オーバーシュートが発生すると装置の稼動状態に移行するまでに時間のロスが発生する。したがって、オーバーシュートを抑制することを重視してPIDパラメータを調整する。一方、定常状態(稼動状態)では、加熱炉内の温度の乱れを最小限に抑制することを重視してPIDパラメータを調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−350503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような温度制御機能を有するPID制御装置である温度調節計は、温度調節計を製造する調節計メーカから、加熱炉などを製造する装置メーカへと販売され、さらに装置メーカから装置ユーザへと販売される。このような過程により、制御の専門知識のないオペレータが温度調節計のPIDパラメータを調整せざるを得ない状況が発生していく。本来、PIDパラメータ調整には少なからず専門的な知識が必要になるので、上記の状況では制御系の不安定化が発生するリスクを伴う。リスクが大きくなることは、制御技術の提供者側にとっても受領者側にとっても支障になる。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、制御の専門家側から制御の非専門家側へと制御装置が提供されていく過程において、制御動作が不安定化するようなパラメータ設定が行なわれてしまう恐れを低減することができる制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の制御装置は、設定値SPの変更による過渡応答時に有効な操作量上限値OHsを記憶する過渡操作量上限値記憶手段と、定常運転時に有効な操作量上限値OHgを記憶する定常操作量上限値記憶手段と、設定値SPの変更を検出する設定値変更検出手段と、制御量PVの過渡応答の完了を検出する過渡応答完了検出手段と、設定値SPの変更時点から過渡応答の完了時点までの過渡応答時間帯では前記操作量上限値OHsを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定し、前記過渡応答時間帯以外の定常運転時間帯では前記操作量上限値OHgを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定する操作量上限値切り替え手段と、設定値SPと制御量PVを入力として制御演算により操作量MVを算出し、この操作量MVを前記操作量上限値OH以下に制限する上限処理を実行して、上限処理後の操作量MVを制御対象に出力する制御演算手段とを備えることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の制御装置の1構成例において、前記過渡応答完了検出手段は、制御量PVが設定値SPの近傍に到達したときに、過渡応答が完了したと判定することを特徴とするものである。
また、本発明の制御装置の1構成例において、前記過渡応答完了検出手段は、前記制御演算手段から出力される操作量MVが前記操作量上限値OHs未満の値に下降したときに、過渡応答が完了したと判定することを特徴とするものである。
また、本発明の制御装置の1構成例において、前記過渡応答完了検出手段は、設定値SPの変更時点から一定時間が経過したときに、過渡応答が完了したと判定することを特徴とするものである。
また、本発明の制御装置の1構成例は、さらに、設定値SPの変更が検出されたときに、前記過渡操作量上限値記憶手段に記憶されている操作量上限値OHsの中から変更後の設定値SPに対応する操作量上限値OHsを選択する過渡操作量上限値選択手段を備え、前記過渡操作量上限値記憶手段は、設定値SPの範囲とこの設定値SPの範囲に対応する操作量上限値OHsとの組を複数組記憶し、前記操作量上限値切り替え手段は、前記過渡応答時間帯において前記過渡操作量上限値選択手段が選択した操作量上限値OHsを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定することを特徴とするものである。
また、本発明の制御装置の1構成例において、前記操作量上限値切り替え手段は、前記操作量上限値OHgが前記操作量上限値OHsよりも低い値に設定されている場合は、前記過渡応答時間帯においても前記操作量上限値OHgを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定することを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の制御方法は、設定値SPの変更を検出する設定値変更検出ステップと、制御量PVの過渡応答の完了を検出する過渡応答完了検出ステップと、設定値SPの変更時点から制御量PVの過渡応答の完了時点までの過渡応答時間帯では、過渡応答時に有効な操作量上限値OHsを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定し、前記過渡応答時間帯以外の定常運転時間帯では、定常運転時に有効な操作量上限値OHgを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定する操作量上限値切り替えステップと、設定値SPと制御量PVを入力として制御演算により操作量MVを算出し、この操作量MVを前記操作量上限値OH以下に制限する上限処理を実行して、上限処理後の操作量MVを制御対象に出力する制御演算ステップとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、設定値SPの変更時点から過渡応答の完了時点までの過渡応答時間帯では、過渡応答時に有効な操作量上限値OHsを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定し、過渡応答時間帯以外の定常運転時間帯では、定常運転時に有効な操作量上限値OHgを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定することにより、過渡応答時間帯においてオーバーシュートの発生を抑制することができ、また定常運転時間帯において操作量上限値OHsが外乱抑制に悪影響を及ぼすことを回避することができる。したがって、本発明では、制御の専門家側から制御の非専門家側へと制御装置が提供されていく過程において、制御動作が不安定化するようなパラメータ設定が行なわれてしまう恐れを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】従来の制御装置および本発明の第1の実施の形態に係る制御装置による設定値追従動作を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る制御装置による設定値追従動作を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係る制御装置による設定値追従動作を示す図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態に係る制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明の第4の実施の形態に係る制御装置による設定値追従動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[発明の原理]
主に加熱炉などの温度制御では、昇温時にヒータ能力(操作量MV)を最大にして昇温し、その後、温度設定値SPに温度PVが整定した後に、加熱処埋などの本稼動状態に移行する。本稼動状態に移行後の制御の役割は外乱抑制である。
温度設定値SPを変更して昇温を行うステップ応答時においてはオーバーシュートを抑制することが重要であるが、ステップ応答は操作量MVが最大になるタイプの応答である。そこで、発明者は、この操作量MVの最大値を規定するパラメータである操作量上限値OHを調整パラメータに利用することが有効であり、かつPIDパラメータのように不安定化の要因にならないので、制御動作の不安定化の恐れも発生しないことに着眼した。
【0012】
そして、発明者は、操作量上限値OHを、ステップ応答のための操作量上限値OHsと、外乱抑制のための操作量上限値OHgとに分離し、ステップ応答のオーバーシュート抑制の局面ではPID演算は操作量上限値OHsを利用し、オーバーシュート抑制の局面が済んだらPID演算は操作量上限値OHgを利用するように自動的に切り替えることで、ステップ応答のために調整した操作量上限値OHが外乱抑制に不適合になり悪影響を及ぼすことを回避できることに想到した。
【0013】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。制御装置は、設定値SPを取得する設定値入力部1と、制御量PVを取得する制御量入力部2と、設定値SPの変更による過渡応答時に有効な操作量上限値OHsを記憶する過渡操作量上限値記憶部3と、定常運転時に有効な操作量上限値OHgを記憶する定常操作量上限値記憶部4と、設定値SPの変更を検出する設定値変更検出部5と、制御量PVの過渡応答の完了を検出する過渡応答完了検出部6と、設定値SPの変更時点から過渡応答の完了時点までの過渡応答時間帯では操作量上限値OHsを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定し、過渡応答時間帯以外の定常運転時間帯では操作量上限値OHgを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定する操作量上限値切り替え部7と、設定値SPと制御量PVを入力として制御演算により操作量MVを算出し、この操作量MVを操作量上限値OH以下に制限する上限処理を実行して、上限処理後の操作量MVを制御対象に出力する制御演算部8とを備えている。
【0014】
以下、本実施の形態の制御装置の動作を説明する。図2は制御装置の動作を示すフローチャートである。
設定値SPは、例えば加熱炉などの制御対象を使用するユーザによって設定され、制御装置の設定値入力部1を介して設定値変更検出部5と過渡応答完了検出部6と制御演算部8とに入力される。
制御量PVは、例えば加熱炉内の温度を計測する温度センサによって取得され、制御装置の制御量入力部2を介して過渡応答完了検出部6と制御演算部8とに入力される。
【0015】
設定値変更検出部5は、予め規定された設定値SPの変更幅ΔSPに基づいて、設定値SPに変更があったかどうかを判定する(図2ステップS100)。設定値変更検出部5は、設定値SPが直前の値に対して変更幅ΔSP以上変更された場合に、設定値SPが変更されたと判定する。
【0016】
操作量上限値切り替え部7は、設定値変更検出部5によって設定値SPの変更が検出されたときに(ステップS100においてYES)、過渡操作量上限値記憶部3に記憶されている操作量上限値OHsを、制御演算で使用する操作量上限値OH=OHsとして制御演算部8に設定する(ステップS101)。この設定により、以後の制御演算では、後述のように過渡応答完了が検出されるまで操作量上限値OH=OHsが継続して使用される。
【0017】
制御演算部8は、設定値入力部1から入力された設定値SPと制御量入力部2から入力された制御量PVとの偏差に基づいて周知のPID制御演算を行い、設定値SPと制御量PVとが一致するように操作量MVを算出する(ステップS102)。このとき、制御演算部8は、制御対象への操作量MVの出力に際して、操作量MVが操作量上限値OHより大きい場合、操作量MV=OHとして出力する上限処理を行う。
【0018】
このような制御演算部8による制御動作によって制御量PVは、設定値SPに近づく方向に変化する。
過渡応答完了検出部6は、制御量PVの過渡応答が完了したかどうかを判定する(ステップS103)。過渡応答完了検出部6は、設定値SPと制御量PVとの偏差の絶対値が予め規定された設定値近傍判定閾値Rp以内になったときに、制御量PVが設定値近傍に到達したと判定し、過渡応答が完了したと判定する。設定値近傍判定閾値Rpについては、操作量上限値OHとしてOH=OHsを採用して制御を予め試行し、制御演算部8で算出される操作量MVが操作量上限値OHsから十分に下降するときの設定値SPと制御量PVとの偏差に基づいて予め求めておけばよい。
【0019】
操作量上限値切り替え部7は、過渡応答完了検出部6によって過渡応答完了が検出されたときに(ステップS103においてYES)、定常操作量上限値記憶部4に記憶されている操作量上限値OHgを、制御演算で使用する操作量上限値OH=OHgとして制御演算部8に設定する(ステップS104)。この設定により、以後の制御演算では、設定値SPの変更が検出されるまで操作量上限値OH=OHgが継続して使用される。
以上のようなステップS100〜S104の処理を例えばユーザの指令によって制御が終了するまで(ステップS105においてYES)、制御周期dt毎に繰り返す。
【0020】
次に、本実施の形態の効果について説明する。本実施の形態は、操作量上限値を変更してもPID制御が不安定化することはない、という性質に基づいている。PID制御は、比例帯、積分時間、微分時間という3つのPIDパラメータを適切に調整することで良好な制御性を得ることができる。しかしながら、たとえばオーバーシュートを抑制しようとして、比例帯を小さくするとオーバーシュートは抑制できても同時にハンチングの危険性が高くなってしまう。積分時間や微分時間についても不用意に設定すると、ハンチングが発生する。
【0021】
一方、操作量上限値を変更するだけでは制御は不安定化しないので、オーバーシュートが発生する制御系に対して操作量上限値OHとしてOH=OHsを適用し操作量上限値OHを絞ることで、確実にオーバーシュートだけを抑制することができる。しかも、調整するパラメータは事実上OHsだけなので、仮に試行錯誤で操作量上限値OHsを決定する場合でも、PIDパラメータの調整よりもはるかに簡単に調整することができる。ただし、外乱応答時に操作量上限値OHを絞っていると、外乱抑制性能が低下してしまう。そこで、本実施の形態では、過渡応答が完了すると、操作量上限値OHgを利用するように自動的に切り替えるので、過渡応答のために調整されている操作量上限値OH=OHsが、外乱抑制に悪影響を及ぼすことを回避することができる。こうして、本実施の形態では、制御動作の不安定化を回避することができる。
【0022】
図3(A)は従来の制御装置による設定値追従動作を示す図、図3(B)は本実施の形態の制御装置による設定値追従動作を示す図である。従来の制御装置では、制御量PVにオーバーシュートが発生するのに対し、本実施の形態の制御装置では、オーバーシュートが発生していないことが分かる。
【0023】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図4は本発明の第2の実施の形態に係る制御装置の構成を示すブロック図であり、図1と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態の制御装置は、設定値入力部1と、制御量入力部2と、過渡操作量上限値記憶部3と、定常操作量上限値記憶部4と、設定値変更検出部5と、過渡応答完了検出部6aと、操作量上限値切り替え部7と、制御演算部8とを備えている。
【0024】
本実施の形態においても、制御装置の処理の流れは第1の実施の形態と同様であるので、図2を用いて制御装置の動作を説明する。ステップS100〜S102の処理は、第1の実施の形態と同じである。
次に、本実施の形態の過渡応答完了検出部6aは、制御演算部8から制御対象に出力される操作量MVが過渡応答時の操作量上限値OHs未満の値に下降したかどうかを判定し(ステップS103)、操作量MVが操作量上限値OHs未満の値になったときに、過渡応答が完了したと判定する。すなわち、過渡応答完了検出部6aは、図5に示すように操作量MVが操作量上限値OHsにはりついている状態が終わった時点を過渡応答の完了時点とする。
【0025】
ステップS104の処理は、第1の実施の形態と同じである。以上のようなステップS100〜S104の処理を例えばユーザの指令によって制御が終了するまで(ステップS105においてYES)、制御周期dt毎に繰り返す。
【0026】
従来の制御装置では、図3(A)に示したように制御量PVにオーバーシュートが発生するのに対し、本実施の形態の制御装置では、図5に示すようにオーバーシュートが発生しておらず、制御動作の不安定化を回避できていることが分かる。
こうして、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0027】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。図6は本発明の第3の実施の形態に係る制御装置の構成を示すブロック図であり、図1と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態の制御装置は、設定値入力部1と、制御量入力部2と、過渡操作量上限値記憶部3と、定常操作量上限値記憶部4と、設定値変更検出部5と、過渡応答完了検出部6bと、操作量上限値切り替え部7と、制御演算部8とを備えている。
【0028】
本実施の形態においても、制御装置の処理の流れは第1の実施の形態と同様であるので、図2を用いて制御装置の動作を説明する。ステップS100〜S102の処理は、第1の実施の形態と同じである。
次に、本実施の形態の過渡応答完了検出部6bは、設定値SPの変更から一定時間が経過したかどうかを判定し(ステップS103)、一定時間が経過したときに、過渡応答が完了したと判定する。すなわち、過渡応答完了検出部6bは、図7に示すように設定値SPの変更時点からの経過時間tが一定時間Tを上回ったときに過渡応答が完了したと判定する。一定時間Tは、操作量上限値OHとしてOH=OHsを採用して制御を予め試行して求めておけばよい。
【0029】
ステップS104の処理は、第1の実施の形態と同じである。以上のようなステップS100〜S104の処理を例えばユーザの指令によって制御が終了するまで(ステップS105においてYES)、制御周期dt毎に繰り返す。
【0030】
従来の制御装置では、図3(A)に示したように制御量PVにオーバーシュートが発生するのに対し、本実施の形態の制御装置では、図7に示すようにオーバーシュートが発生しておらず、制御動作の不安定化を回避できていることが分かる。
こうして、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0031】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。図8は本発明の第4の実施の形態に係る制御装置の構成を示すブロック図であり、図1と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態の制御装置は、設定値入力部1と、制御量入力部2と、過渡操作量上限値記憶部3cと、定常操作量上限値記憶部4と、設定値変更検出部5と、過渡応答完了検出部6と、過渡応答時間帯において後述する過渡操作量上限値選択部9が選択した操作量上限値OHsを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定する操作量上限値切り替え部7cと、制御演算部8と、設定値SPの変更が検出されたときに、過渡操作量上限値記憶部3cに記憶されている操作量上限値OHsの中から変更後の設定値SPに対応する操作量上限値OHsを選択する過渡操作量上限値選択部9とを備えている。
【0032】
以下、本実施の形態の制御装置の動作を説明する。図9は制御装置の動作を示すフローチャートである。ステップS100の処理は、第1の実施の形態と同じである。
過渡操作量上限値記憶部3cには、設定値SPの範囲とこの設定値SPの範囲に対応する操作量上限値OHsとの組が複数組予め記憶されている。こうして、設定値SPの異なる範囲毎に操作量上限値OHsが予め登録されている。
【0033】
過渡操作量上限値選択部9は、設定値変更検出部5によって設定値SPの変更が検出されたときに(ステップS100においてYES)、過渡操作量上限値記憶部3cに記憶されている操作量上限値OHsの中から変更後の設定値SPに対応する操作量上限値OHsを選択する(図9ステップS106)。
操作量上限値切り替え部7cは、設定値変更検出部5によって設定値SPの変更が検出されたときに過渡操作量上限値選択部9が選択した操作量上限値OHsを、制御演算で使用する操作量上限値OH=OHsとして制御演算部8に設定する(ステップS107)。
【0034】
ステップS102〜S104の処理は、第1の実施の形態と同じである。なお、ステップS103の過渡応答検出処理は、第1〜第3の実施の形態で説明した過渡応答完了検出部6,6a,6bのいずれかによって実行すればよい。
以上のようなステップS100,S102〜S104,S106,S107の処理を例えばユーザの指令によって制御が終了するまで(ステップS105においてYES)、制御周期dt毎に繰り返す。
【0035】
図10は本実施の形態の制御装置による設定値追従動作を示す図である。図10の例では、設定値SPがSP1に変更された時点では、設定値SP1に対応する操作量上限値としてOHs1が選択され、設定値SPがSP1からSP2に変更された時点では、設定値SP2に対応する操作量上限値としてOHs2が選択され、設定値SPがSP2からSP3に変更された時点では、設定値SP3に対応する操作量上限値としてOHs3が選択されていることが分かる。設定値SP1への変更による過渡応答が完了した時点から設定値SP2へ変更されるまでの期間、設定値SP2への変更による過渡応答が完了した時点から設定値SP3へ変更されるまでの期間、および設定値SP3への変更による過渡応答が完了した後の期間については、操作量上限値OHgが選択されることは言うまでもない。
こうして、本実施の形態では、設定値SPの変更による過渡応答時に有効な操作量上限値として、変更後の設定値SPに応じた適切な操作量上限値OHsを設定することができ、オーバーシュートの抑制効果をより高めることができる。
【0036】
なお、第1〜第4の実施の形態では、オーバーシュート抑制のために、OHgとは別にOHsを用意するので、定常運転時に有効な操作量上限値OHgが、過渡応答時に有効な操作量上限値OHsよりも低い値として定常操作量上限値記憶部4に設定されている場合には、OHsを誤った設定と判断するのが好適である。したがって、操作量上限値切り替え部7,7cは、定常運転時に有効な操作量上限値OHgが、過渡応答時に有効な操作量上限値OHsよりも低い値に設定されている場合(OHs>OHg)、設定値変更時点から過渡応答完了時点までの過渡応答時間帯においても操作量上限値OHgを採用するようにしてもよい。
【0037】
第1〜第4の実施の形態において、操作量上限値OHgについては、装置の特性からくる制約(たとえば100%の出力を出すと装置に負担がかかるような場合)が無ければ、一般的な操作量上限値である100%に予め設定しておくのがよい。
一方、操作量上限値OHsについては、PV=SPで整定している時の操作量MVの値から操作量上限値OHgまでの値の範囲で予め設定しておけばよい。操作量上限値OHsの具体的な決定方法としては、試行錯誤で決定してもよいし、特開2004−38428号公報に開示されているようなシミュレーションを用いて決定してもよい。シミュレーションを利用すれば、試行回数を削減することができる。
【0038】
第1〜第4の実施の形態で説明した制御装置は、CPU、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って第1〜第4の実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、プロセス制御技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…設定値入力部、2…制御量入力部、3,3c…過渡操作量上限値記憶部、4…定常操作量上限値記憶部、5…設定値変更検出部、6,6a,6b…過渡応答完了検出部、7,7c…操作量上限値切り替え部、8…制御演算部、9…過渡操作量上限値選択部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定値SPの変更による過渡応答時に有効な操作量上限値OHsを記憶する過渡操作量上限値記憶手段と、
定常運転時に有効な操作量上限値OHgを記憶する定常操作量上限値記憶手段と、
設定値SPの変更を検出する設定値変更検出手段と、
制御量PVの過渡応答の完了を検出する過渡応答完了検出手段と、
設定値SPの変更時点から過渡応答の完了時点までの過渡応答時間帯では前記操作量上限値OHsを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定し、前記過渡応答時間帯以外の定常運転時間帯では前記操作量上限値OHgを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定する操作量上限値切り替え手段と、
設定値SPと制御量PVを入力として制御演算により操作量MVを算出し、この操作量MVを前記操作量上限値OH以下に制限する上限処理を実行して、上限処理後の操作量MVを制御対象に出力する制御演算手段とを備えることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の制御装置において、
前記過渡応答完了検出手段は、制御量PVが設定値SPの近傍に到達したときに、過渡応答が完了したと判定することを特徴とする制御装置。
【請求項3】
請求項1記載の制御装置において、
前記過渡応答完了検出手段は、前記制御演算手段から出力される操作量MVが前記操作量上限値OHs未満の値に下降したときに、過渡応答が完了したと判定することを特徴とする制御装置。
【請求項4】
請求項1記載の制御装置において、
前記過渡応答完了検出手段は、設定値SPの変更時点から一定時間が経過したときに、過渡応答が完了したと判定することを特徴とする制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の制御装置において、
さらに、設定値SPの変更が検出されたときに、前記過渡操作量上限値記憶手段に記憶されている操作量上限値OHsの中から変更後の設定値SPに対応する操作量上限値OHsを選択する過渡操作量上限値選択手段を備え、
前記過渡操作量上限値記憶手段は、設定値SPの範囲とこの設定値SPの範囲に対応する操作量上限値OHsとの組を複数組記憶し、
前記操作量上限値切り替え手段は、前記過渡応答時間帯において前記過渡操作量上限値選択手段が選択した操作量上限値OHsを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定することを特徴とする制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の制御装置において、
前記操作量上限値切り替え手段は、前記操作量上限値OHgが前記操作量上限値OHsよりも低い値に設定されている場合は、前記過渡応答時間帯においても前記操作量上限値OHgを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定することを特徴とする制御装置。
【請求項7】
設定値SPの変更を検出する設定値変更検出ステップと、
制御量PVの過渡応答の完了を検出する過渡応答完了検出ステップと、
設定値SPの変更時点から制御量PVの過渡応答の完了時点までの過渡応答時間帯では、過渡応答時に有効な操作量上限値OHsを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定し、前記過渡応答時間帯以外の定常運転時間帯では、定常運転時に有効な操作量上限値OHgを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定する操作量上限値切り替えステップと、
設定値SPと制御量PVを入力として制御演算により操作量MVを算出し、この操作量MVを前記操作量上限値OH以下に制限する上限処理を実行して、上限処理後の操作量MVを制御対象に出力する制御演算ステップとを備えることを特徴とする制御方法。
【請求項8】
請求項7記載の制御方法において、
前記過渡応答完了検出ステップは、制御量PVが設定値SPの近傍に到達したときに、過渡応答が完了したと判定することを特徴とする制御方法。
【請求項9】
請求項7記載の制御方法において、
前記過渡応答完了検出ステップは、前記制御演算ステップで出力される操作量MVが前記操作量上限値OHs未満の値に下降したときに、過渡応答が完了したと判定することを特徴とする制御方法。
【請求項10】
請求項7記載の制御方法において、
前記過渡応答完了検出ステップは、設定値SPの変更時点から一定時間が経過したときに、過渡応答が完了したと判定することを特徴とする制御方法。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれか1項に記載の制御方法において、
さらに、設定値SPの変更が検出されたときに、予め記憶している操作量上限値OHsの中から変更後の設定値SPに対応する操作量上限値OHsを選択する過渡操作量上限値選択ステップを備え、
設定値SPの範囲とこの設定値SPの範囲に対応する操作量上限値OHsとの組が、予め複数組用意され、
前記操作量上限値切り替えステップは、前記過渡応答時間帯において前記過渡操作量上限値選択ステップで選択した操作量上限値OHsを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定することを特徴とする制御方法。
【請求項12】
請求項7乃至11のいずれか1項に記載の制御方法において、
前記操作量上限値切り替えステップは、前記操作量上限値OHgが前記操作量上限値OHsよりも低い値に設定されている場合は、前記過渡応答時間帯においても前記操作量上限値OHgを制御演算で使用する操作量上限値OHとして設定することを特徴とする制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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