説明

制振性樹脂組成物

【課題】制振特性、機械特性、成形時の熱安定性に優れ、ハロゲン化合物やアンチモン化合物を使用せずに難燃特性に優れた環境面でも好ましい制振性樹脂材料を提供する。
【解決手段】ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)またはポリフェニレンエーテル系樹脂(a)とスチレン系樹脂(b)からなる樹脂成分、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるランダム共重合体ブロックを水素添加して得られる水添ランダム共重合体ブロックを有し、且つカップリング構造を有する共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位から成る水添共重合体(c)およびリン系難燃剤(d)からなる樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテル系樹脂および特定の水添共重合体を必須成分とする制振性に優れた樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、水添共重合体として、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる非水添ランダム共重合体ブロックを有し、且つカップリング構造を有するブロック共重合体を水素添加して得られる水添共重合体を用いてなる制振性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、オーディオ、ゲーム等向けのCD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−R、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW、MD等光ディスクドライブ用機構部品において、軽量化、生産性向上、コストダウンを目的とした樹脂化の動きが進んでいる。
しかし、特に温度、振動等において厳しい使用環境となる車載用のCDプレーヤー,DVDプレーヤー,DVDビデオ,DVDナビゲーション等向けディスクチェンジャー用トレーに対しては、より優れた耐熱性、寸法精度、制振・制音性能が要求されるようになってきており、特に制振・制音性能については、走行時の振動によるストッカートレー同士やストッカートレーとストッカートレーを収納するボックス(マガジン)との接触等により発生するノイズの低減が課題として上げられ、これまでの材料においては、この課題に対応する事は難しかった。
【0003】
これらのように、車載用光ディスクチェンジャーを中心とした光ディスク向けトレーとしては、耐熱性、寸法精度、軽量性、及び制振・制音性能を兼ね備えた熱可塑性樹脂材料の開発要求が大きいのが現状である。
また、従来、住宅等の建築材料分野、自動車,船舶,航空機等の輸送分野、機械分野等では種々の制振材,防音材が用いられている。これらの制振、防音材料は主にアスファルト系,合成ゴム系,合成樹脂系からなる物である。アスファルト系はアスファルトにゴムや熱可塑性エラストマーを配合したものが主であるが、粘着性が高いことや、耐熱性、アスファルト中にゴムや熱可塑性エラストマーを均一に分散させることが難しい等の問題がある。また、合成ゴム系は複雑な配合や加硫工程を有するため加工性に問題がある。
【0004】
これらのうち合成樹脂系としては塩化ビニル樹脂が広く使用されてきた。塩化ビニル樹脂は、可塑剤、充填剤の添加量を調整することにより硬度、力学的物性を広範に設定可能であり、柔軟性、制振性、耐磨耗性、耐傷付き性に優れた材料を提供することができる。しかし材料の軽量化や、近年、該樹脂の焼却、分解時の環境に対する負荷が高いとする懸念等から、ポリ塩化ビニル系材料を他の材料で代替する要求が高まってきた。この様な代替材料の候補として、オレフィン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン系ブロック共重合体等を例示することができる。
【0005】
これらのうち、エチレン−α−オレフィン系共重合体等のオレフィン系樹脂は、その分子構造が非極性であるため表面に印刷、塗装を行うことが困難であるという問題を有していた。また、充填剤を添加する場合、充填可能な割合の上限値が低く、また充填剤の分散性が不十分となる場合があった。またエチレン−酢酸ビニル共重合体は、耐熱性が低く、また酢酸ビニルモノマーが製品中に残留した場合、特有の不快臭をもち、更に残留する酢酸ビニルモノマーの分解に起因するアセトアルデヒド発生の可能性がある等の問題点を有していた。スチレン系ブロック共重合体やその組成物は、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体が代表的であるが、これらは分子内に二重結合を有し、耐薬品性、耐候性が低いという欠点を有する。またこれらブロック共重合体には水素添加タイプもあるが、生産コストが高く、工業的な応用分野が限定される。また、いずれの重合体もポリ塩化ビニル樹脂の弾性率、制振性、耐磨耗性、耐傷付き性等の物理的な特性とは大きな違いがあった。
【0006】
一方、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、高軟化点を有する非晶性熱可塑性樹脂の代表であり、バランスのとれた機械的性質、優れた電気的性質を有し、しかもリン系難燃剤により難燃化されやすい樹脂である。しかしながらポリフェニレンエーテル系樹脂単独では、制振性、制音性に乏しいため、スチレン−イソプレンブロック共重合体の水素添加物を配合した制振材料(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4)、さらにはスチレン−ブタジエンランダム共重合体構造を有するブロック共重合体の水素添加物を配合した制振材料(特許文献5)が知られているが、制振性、機械特性、難燃特性、成形時の熱安定性等の面で更なる向上が求められていた。
【特許文献1】特開平03−181552号公報
【特許文献2】特開平11−12457号公報
【特許文献3】特開平11−35817号公報
【特許文献4】特開2003−217251号公報
【特許文献5】特開2001−139798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、制振特性、機械特性、成形時の熱安定性に優れた樹脂組成物、更にはハロゲン化合物やアンチモン化合物を使用せずに難燃特性に優れた環境面でも好ましい樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の研究を重ねた結果、ポリフェニレンエーテル系樹脂、スチレン系重合体、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる非水添ランダム共重合体ブロックを水添してなる水添ランダム共重合体ブロックを有する特定構造の水添共重合体、リン系難燃剤および無機充填剤を有する樹脂組成物が上記課題を解決することを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
[1] ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)、またはポリフェニレンエーテル系樹脂(a)とスチレン系樹脂(b)とからなる樹脂成分 20〜95重量部、
(c)カップリング構造を有する、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添共重合体であって、且つ共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる(非水添)ランダム共重合体ブロックを水素添加して得られる水添ランダム共重合体ブロックを有する水添共重合体 5〜50重量部、および
(d)リン系難燃剤 0〜40重量部からなり、
成分(a)+成分(b)+成分(c)+成分(d)=100重量部である樹脂組成物、
[2] 水添共重合体(c)が、ビニル芳香族単量体単位からなる少なくとも1つの重合体ブロック(A)、および共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるランダム共重合体ブロックを水素添加して得られる少なくとも1つの水添ランダム共重合体ブロック(B)からなり、且つカップリング構造を有する水添共重合体(c)であって、下記(1)〜(6)を満足する水添共重合体(c)である[1]に記載の樹脂組成物、
(1)該ビニル芳香族単量体単位の含有量が、該水添共重合体の重量に対して40〜90重量%。
(2)該重合体ブロック(A)の含有量が、該水添共重合体の重量に対して5〜50重量%。
(3)重量平均分子量が、3万〜100万。
(4)該共役ジエン単量体単位の二重結合の水添率が、75%以上。
(5)該水添共重合体に関して得られた動的粘弾性スペクトルにおいて、損失正接(tanδ)のピークが0℃以上、40℃未満の範囲に少なくとも1つ存在する。
(6)分子末端にビニル芳香族重合体ブロック(A)を有する構造。
[3] 水添共重合体(c)が、さらに共役ジエン単量体単位からなる重合体ブロックを水素添加して得られる水添重合体ブロック(C)を含有し、重合体ブロック(A)5〜50重量%、水添ランダム共重合体ブロック(B)40〜90重量%、および水添重合体ブロック(C)5〜40重量%とからなることを特徴とする[1]に記載の樹脂組成物、
[4] 水添共重合体(c)が、少なくとも2つの重合体ブロック(A)及び少なくとも1つの水添共重合体ブロック(B)を有し、
かつ下記特性(7)、(8)及び(9)を更に有する水添共重合体(c)であることを特徴とする[1]又は[3]に記載の樹脂組成物、
(7)該ビニル芳香族単量体単位の含有量が該水添共重合体の重量に対して50〜80重量%。
(8)該少なくとも2つの重合体ブロック(A)の含有量が該水添共重合体の重量に対して8〜40重量%である。
(9)水添ランダム共重合体ブロック(B)の水素添加前のランダム共重合体ブロックにおいて、共役ジエン単量体単位のビニル結合量が8〜20%である。
[5] (c)水添共重合体に基因する損失正接(tanδ)のピークが、5〜35℃の範囲にあることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の樹脂組成物、
[6] (d)リン系難燃剤として、ホスファゼン化合物を1〜40重量部含有する樹脂組成物であって、室温中、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が0.04以上であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の樹脂組成物、
[7] (d)リン系難燃剤として、下記一般式(1)または下記一般式(2)で示される縮合リン酸エステルを1〜40重量部含有する樹脂組成物であって、室温中、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が0.04以上であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の樹脂組成物、
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Q1、Q2、Q3、Q4は、各々置換基であって各々独立に炭素数1から6のアルキル基を表し、R1、R2は各々置換基であってメチル基を表し、R3、R4は各々独立に水素原子またはメチル基を表す。nは1以上の平均値を有し、n1、n2は各々独立に0から2の整数を示し、m1、m2、m3、m4は各々独立に1から3の整数を示す。)
【0012】
[8] 共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる、成分(c)の水添共重合体とは異なる構造の水添ブロック共重合体(e)を、成分(a)+成分(b)+成分(c)+成分(d)+成分(e)=100重量部に対し、1〜30重量部含有することを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載の樹脂組成物、
[9] ポリオレフィン系重合体(f)を、成分(a)+成分(b)+成分(c)+成分(d)+成分(e)+成分(f)=100重量部に対し、1〜40重量部含有することを特徴とする[1]〜[8]のいずれかに記載の樹脂組成物、
[10] 無機充填剤(g)を、成分(a)+成分(b)+成分(c)+成分(d)+成分(e)+成分(f)+成分(g)=100重量部に対し、2〜100重量部含有することを特徴とする[1]〜[9]のいずれかに記載の樹脂組成物、
[11] 無機充填剤(g)が、ガラスフレーク、マイカ、タルクから選択される1種または2種以上である[10]に記載の樹脂組成物、
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、制振特性、機械特性、成形性に優れ、更にはハロゲン化合物やアンチモン化合物を使用せずに難燃特性に優れた環境面でも好ましい制振性樹脂材料を提供することを可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
<ポリフェニレンエーテル系樹脂(成分(a))>
本発明において、成分(a)のポリフェニレンエーテル系樹脂としては公知のものが使用できる。すなわち、ポリフェニレンエーテル系樹脂とは、下記一般式(3)で示される重合体の総称であって、一般式(3)で示される重合体の1種単独であっても、2種以上が組合わされた共重合体であってもよい。
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、置換炭化水素基、アルコキシ基、シアノ基、フェノキシ基またはニトロ基を表し、nは重合度を表わす整数である。)
R1、R2、R3およびR4の具体例としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチル、エチル、プロピル、アリル、フェニル、ベンジル、メチルベンジル、クロロメチル、ブロモメチル、シアノエチル、シアノ、メトキシ、エトキシ、フェノキシ、ニトロなどの基が挙げられる。
本発明において好ましいポリフェニレンエーテル系樹脂は、上記一般式(3)におけるR1およびR2 がアルキル基、特に炭素原子数1〜4のアルキル基であり、R3、R4は、水素原子もしくは炭素原子数1〜4のアルキル基であるポリマーである。nは通常50以上が好ましい。
【0017】
ポリフェニレンエーテル系樹脂の具体例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジメトキシ−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジクロロメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジブロモメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジトリル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジベンジル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,5−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルなどが挙げられる。中でも特に好ましいポリフェニレンエーテル系樹脂は、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルである。
【0018】
また、ポリフェニレンエーテル系の共重合体としては、上記ポリフェニレンエーテル繰返し単位中にアルキル3置換フェノール、たとえば2,3,6−トリメチルフェノールを一部含有する共重合体を挙げることができる。また、これらのポリフェニレンエーテル系樹脂に、スチレン系化合物がグラフトした共重合体であってもよい。スチレン系化合物グラフト化ポリフェニレンエーテルとしては、上記ポリフェニレンエーテル系樹脂にスチレン系化合物として、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレンなどをグラフト重合して得られる共重合体が挙げられる。
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、極性基を有する化合物により変性されていてもかまわない。該化合物としては、酸ハライド、カルボニル基、酸無水物、酸アミド、カルボン酸エステル、酸アジド、スルフォン基、ニトリル基、シアノ基、イソシアン酸エステル、アミノ基、イミド基、水酸基、エポキシ基、オキサゾリン基、チオール基を有する化合物などが挙げられる。
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂の分子量は、数平均分子量1000〜100000が好ましく、特に各種の物性のバランスを考慮すると6000〜60000の範囲のものが更に好ましい。
【0019】
<スチレン系重合体(成分(b))>
本発明での成分(b)スチレン系重合体は、通常のラジカル重合にて製造されるスチレン系重合体、およびシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体のどちらを用いてもよい。また、ゴム変性スチレン系樹脂も好適に用いられる。
通常のラジカル重合にて製造されるスチレン系重合体としては、スチレン化合物の単独重合物、あるいはスチレン化合物と共重合可能な単量体を含有したものが挙げられる。上記スチレン化合物の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどのアルキル置換スチレン、o−クロルスチレン、m−クロルスチレン、p−クロルスチレン、p−ブロモスチレン、ジクロルスチレン、ジブロモスチレン、トリクロルスチレン、トリブロモスチレンなどのハロゲン化スチレンなどが挙げられるが、これらの中ではスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。また、スチレン化合物と共重合可能な単量体の例としては、たとえばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、マレオニトリルなどのシアン化ビニルや、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸などが挙げられるが、これらの中では、アクリロニトリルが好ましい。
【0020】
また、本発明においては、より優れた耐薬品性を発現させる場合においては、シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を使用してもよい。上記シンジオタクチック構造とは、炭素−炭素結合から形成される主鎖に対してフェニル基あるいは置換フェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものであり、そのタクティシティーは同位体炭素による核磁気共鳴法(13C−NMR法)により定量される。13C−NMR法により測定されるタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合、たとえば2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドによって示すことができる。本発明において、シンジオタクチックポリスチレンとは、通常はダイアッド率75%以上、好ましくは85%以上、またはラセミペンタッド率30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するスチレン系重合体である。該スチレン系重合体は、ポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)およびこれらの混合物、あるいはこれらを主成分とする共重合体を包含する。なお、ここでポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソプロピルスチレン)、ポリ(ターシャリーブチルスチレン)などが挙げられる。また、ポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)などが挙げられる。これらの中、特に好ましいスチレン系重合体として、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−ターシャリーブチルスチレン)、さらにはスチレンとp−メチルスチレンとの共重合体を挙げることができる。このようなシンジオタクチックポリスチレンは、たとえば不活性炭化水素溶媒中または溶媒の不存在下に、チタン化合物、および水とトリアルキルアルミニウムの縮合生成物を触媒として、スチレン系単量体(上記スチレン系重合体に対応する単量体)を重合することにより製造することができ(たとえば特開昭62−104818号公報、特開昭63−268709号公報)、また市販のものを使用することもできる。
【0021】
本発明樹脂組成物において、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)、またはポリフェニレンエーテル系樹脂(a)とスチレン系樹脂(b)とからなる樹脂成分は、剛性、耐熱性、難燃性等の観点から成分(a)+成分(b)+成分(c)+成分(d)=100重量部に対して20重量部以上であり、制振性と成形流動性の点から95重量部以下である。好ましくは30〜95重量部、より好ましくは40〜90重量部、特に好ましくは50〜90重量部である。特に剛性が必要な構造部品用途、例えば光ディスクドライブ用機構部品、プロジェクターのなどの駆動部周辺部品などに用いる場合には55重量部以上が好ましい。
【0022】
成分(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂と成分(b)スチレン系重合体との併用比率は難燃性、機械特性、耐熱性、成形流動性および加工性により任意に併用可能であるが、一般には、(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂/成分(b)スチレン系重合体(重量比)は、100/0〜15/85の範囲が好ましく、好ましくは95/5〜20/80、より好ましくは90/10〜20/80、更に好ましくは80/20〜30/70の範囲である。(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂の割合は、成分(a)+成分(b)=100重量部に対して、耐熱性と難燃性の観点から15重量部以上が好ましく、成形流動性と加工性の観点からは95重量部以下が好ましい。スチレン系重合体としてポリスチレンを併用した場合は、成形流動性および加工性に優れる。スチレン系重合体としてゴム変性スチレン系樹脂を併用した場合は、機械特性特に耐衝撃性に優れる。
【0023】
<水添共重合体(成分(c))>
本発明での成分(c)水添共重合体は、カップリング構造を有する共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位からなるブロック共重合体を水素添加(以下、水添とも言う。)して得られる水添共重合体であって、且つ共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる(非水添)ランダム共重合体ブロックを水素添加して得られる水添ランダム共重合体ブロックを有する水添共重合体である。ここで、「ビニル芳香族単量体単位」とは、単量体であるビニル芳香族化合物を重合した結果生ずる重合体の構成単位を意味し、その構造は、置換ビニル基に由来する置換エチレン基の二つの炭素が結合部位となっている分子構造であり、「共役ジエン単量体単位」とは、単量体である共役ジエン化合物を重合した結果生ずる、重合体の構成単位を意味し、その構造は、共役ジエン単量体に由来するオレフィンの二つの炭素が結合部位となっている分子構造である。また、本発明で言うブロック共重合体のカップリング構造とは、一般に呼ばれているラジアルテレブロック構造、星形構造、放射型ブロック構造などの呼び方で表わされている構造を含むものであり、3次元構造、網目構造、かご型構造等の化学反応を介した架橋構造は本発明には含まれない。
【0024】
一般に、ポリフェニレンエーテル系材料は、酸素濃度指数が低く燃焼し易いジエン系化合物の非水添重合体および水添重合体を配合することにより、難燃性は著しく低下し易い。しかしながら、本発明において、当該水添共重合体(c)は、驚くべきことに難燃性の低下が小さく、特にこのカップリング構造を持つ水添共重合体(c)とリン系難燃剤(d)とを併用した場合には、難燃性を維持しながら抜群の制振性能が得られる。したがって、難燃性を要求される制振材料及びその用途においては特に有用である。
本発明での成分(c)の水添共重合体は、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる共重合体(以下、しばしば「ベース非水添共重合体」と称する)を水添して得られるものである。
【0025】
本発明における成分(c)水添共重合体としては、ビニル芳香族単量体単位からなる少なくとも1つの重合体ブロック(A)と、共役ジエン単量体単位およびビニル芳香族単量体単位からなる(非水添)ランダム共重合体ブロックを水添して得られる少なくとも1つの水添ランダム共重合体ブロック(B)とを含有する水添共重合体が好ましい。該成分(c)の水添共重合体は、共役ジエン単量体単位からなる(非水添)重合体ブロックを水添して得られる水添重合体ブロック(C)を含有することもできる。
上記重合体ブロック(A)及び水添重合体ブロック(C)は、物理架橋点のような役割を果たすので「拘束相」と称する。これに対して、上記水添ランダム共重合体ブロック(B)は、「非拘束相」と称する。
【0026】
本発明での成分(c)水添共重合体は、拘束相である重合体ブロックを2個以上有することが好ましい。また、本発明での水添共重合体が水添重合体ブロック(C)を有しない場合、水添共重合体は重合体ブロック(A)を少なくとも2個有することが好ましい。本発明で用いる成分(c)水添共重合体が拘束相である重合体ブロックを2個以上有する場合、水添共重合体の機械強度に優れる。
本発明での成分(c)水添共重合体が、水添重合体ブロック(C)を有しない場合、該水添共重合体に関して得られた示差走査熱量測定(DSC)チャートにおいて、−20〜80℃の範囲に水添ランダム共重合体ブロック(B)に起因する結晶化ピークが実質的に存在しないことが好ましい。ここで、「−20〜80℃の範囲に水添ランダム共重合体ブロック(B)に起因する結晶化ピークが実質的に存在しない」とは、この温度範囲において水添共重合体ブロック(B)の結晶化に起因するピークが現れないか、または、結晶化に起因するピークが認められるが、その結晶化による結晶化ピーク熱量が好ましくは3J/g未満、より好ましくは2J/g未満、更に好ましくは1J/g未満、特に好ましくは結晶化ピーク熱量が無いことを意味する。
【0027】
本発明の成分(c)水添共重合体が、水添重合体ブロック(C)を有する場合には、上記示差走査熱量測定(DSC)チャートにおいて、−20〜80℃の範囲に水添ランダム共重合体ブロック(B)に起因する結晶化ピークが実質的に存在しないことは必要とされない。しかし、水添重合体ブロック(C)を有する場合においても、上記示差走査熱量測定(DSC)チャートにおいて、−20〜80℃の範囲に水添ランダム共重合体ブロック(B)に起因する結晶化ピークが実質的に存在しないことが好ましい。
示差走査熱量測定(DSC)チャートにおいて−20〜80℃の範囲に水添ランダム重合体ブロック(B)に起因する結晶化ピークが実質的に存在しない成分(c)の水添共重合体は、柔軟性が良好であり、本発明においては好ましい。上記のような−20〜80℃の範囲に水添ランダム共重合体ブロック(B)に起因する結晶化ピークが実質的に存在しない成分(c)水添共重合体は、後述するようなビニル結合量調整剤や、共役ジエンとビニル芳香族化合物とのランダム共重合性を調整するための、後述するような調整剤を用いて後述するような条件下で重合反応を行うことによって得られる(非水添)ブロック共重合体を水添することによって得られる。
【0028】
水添重合体ブロック(C)を有する場合、示差走査熱量測定(DSC)チャートにおける、水添重合体ブロック(C)に起因する結晶化ピークに関しては、結晶化ピーク温度が30℃以上、好ましくは45〜100℃、更に好ましくは50〜90℃の温度範囲に結晶化ピークを有することが好ましい。また、この結晶化ピーク熱量は好ましくは3J/g以上、好ましくは6J/g以上、更に好ましくは10J/g以上である。
結晶化ピーク温度及び結晶化ピーク熱量は、示差走査熱量測定装置を用いて測定することができる。
本発明での成分(c)水添共重合体におけるビニル芳香族単量体単位の含有量は、水添重合体ブロック(C)を有しない場合、ポリフェニレンエーテル系樹脂との相溶性、得られた樹脂組成物の制振性と機械強度のバランスの観点から、成分(c)の水添共重合体に対して40〜90重量%であることが好ましい。本発明の成分(c)水添共重合体のビニル芳香族単量体単位の含有量は、更に好ましくは45〜85重量%、とりわけ好ましくは50〜80重量%、最も好ましくは55〜75重量%である。
【0029】
成分(c)の水添共重合体が水添重合体ブロック(C)を有する場合、ビニル芳香族単量体単位の含有量は、好ましくは35重量〜85重量%、より好ましくは40〜80重量%、更に好ましくは50〜80重量%である。
ビニル芳香族単量体単位の成分(c)水添共重合体に対する含有率は、ビニル芳香族単量体単位のベース非水添共重合体に対する含有率とほぼ等しいので、ビニル芳香族単量体単位の成分(c)水添共重合体に対する含有率は、ベース非水添共重合体に対する含有率として求める。ビニル芳香族単量体単位の成分(c)水添共重合体に対する含有率は、ベース非水添共重合体を検体として、紫外分光光度計を用いて測定する。
【0030】
本発明での成分(c)水添共重合体において、重合体ブロック(A)の含有量は成分(c)水添共重合体に対して5〜50重量%である範囲が好ましい。本発明の成分(c)水添共重合体の重合体ブロック(A)の含有量が上記範囲にあれば、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)とスチレン系樹脂(b)との混合性が良く、柔軟性に優れる。重合体ブロック(A)の含有量は、更に好ましくは5〜45重量%、とりわけ好ましくは8〜40重量%、最も好ましくは10〜35重量%である。
本発明において、重合体ブロック(A)の成分(c)水添共重合体に対する含有率は、重合体ブロック(A)のベース非水添共重合体に対する含有率とほぼ等しいので、重合体ブロック(A)の成分(c)水添共重合体に対する含有率は、重合体ブロック(A)のベース非水添共重合体に対する含有率として求める。具体的には、四酸化オスミウムを触媒としてベース非水添共重合体をターシャリーブチルハイドロパーオキサイドにより酸化分解する方法(I.M.KOLTHOFF,etal.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法、以下、しばしば「四酸化オスミウム分解法」と称する。)で求めたビニル芳香族重合体ブロック成分の重量(但し、平均重合度が約30以下のビニル芳香族重合体成分は除かれている。)を用いて、次の式から求める。
【0031】
ビニル芳香族単量体からなる重合体ブロック(A)の含有量(重量%)={(ベース非水添共重合体中のビニル芳香族単量体からなる重合体ブロック(A)の重量/ベース非水添共重合体の重量)}×100。
なお、重合体ブロック(A)の成分(c)水添共重合体に対する含有率を直接測定する場合には、成分(c)の水添共重合体を検体として、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて行うことができる(Y.Tanaka,et al.,RUBBER CHEMISTRY and TECHNOLOGY 54,685(1981)に記載の方法;以後、「NMR法」と称する)。
【0032】
なお、上記四酸化オスミウム分解法によって求めた重合体ブロック(A)の含有率(「Os値」と称する。)と、上記NMR法によって求めた重合体ブロック(A)の含有率(「Ns値」と称する。)には、相関関係がある。本発明者らが種々の共重合体を用いて検討した結果、その関係は次の式で表されることが分かった。
Os値=−0.012(Ns値)+1.8(Ns値)−13.0
従って、本発明においてNMR法によって重合体ブロック(A)の成分(c)水添共重合体に対する含有率(Ns値)を求めた場合には、上記式に基づいてNs値をOs値に換算する。
【0033】
本発明の成分(c)の水添共重合体における水添ランダム共重合体ブロック(B)の含有量に関しては、特に限定はない。しかし、本発明の成分(c)水添共重合体が水添重合体ブロック(C)を有しない場合には、制振特性と柔軟性の点から、水添ランダム共重合体ブロック(B)の含有量は、成分(c)の水添共重合体に対して好ましくは50〜95重量%、更に好ましくは55〜92重量%、特に好ましくは65〜90重量%である。
一方、本発明の成分(c)の水添共重合体が水添重合体ブロック(C)を有する場合には、水添ランダム共重合体ブロック(B)の含有量は、成分(c)の水添共重合体に対して好ましくは40〜90重量%、更に好ましくは45〜88重量%、とりわけ好ましくは50〜85重量%である。
【0034】
上記のように、水添ランダム共重合体ブロック(B)は、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる(非水添)ランダム共重合体ブロックを水添して得られる。水添ランダム共重合体ブロック(B)の含有量は、上記(非水添)ランダム共重合体ブロックを製造する際の共役ジエン単量体及びビニル芳香族単量体の添加量から求められる。なお、水添ランダム共重合体ブロック(B)の成分(c)水添共重合体に対する含有率は、上記(非水添)ランダム共重合体ブロックのベース非水添共重合体に対する含有率とほぼ等しいので、水添ランダム共重合体ブロック(B)の成分(c)水添共重合体に対する含有率は、上記(非水添)ランダム共重合体ブロックのベース非水添共重合体に対する含有率として求める。
【0035】
本発明での成分(c)水添共重合体における水添重合体ブロック(C)の含有量に関しては、特に限定はない。しかし、柔軟性と低温特性の点から、水添重合体ブロック(C)の含有量は、成分(c)の水添共重合体に対して好ましくは0〜50重量%、更に好ましくは5〜40重量%、更に好ましくは10〜35重量%、とりわけ好ましくは15〜30重量%である。
上記のように、水添重合体ブロック(C)は共役ジエン単量体単位からなる(非水添)重合体ブロックを水添して得られる。水添重合体ブロック(C)の含有量は、上記共役ジエン単量体単位からなる(非水添)重合体ブロックを製造する際の共役ジエン単量体の添加量から求められる。なお、水添重合体ブロック(C)の成分(c)水添共重合体に対する含有率は、上記(非水添)重合体ブロックのベース非水添共重合体に対する含有率とほぼ等しいので、水添重合体ブロック(C)の成分(c)水添共重合体に対する含有率は、上記(非水添)重合体ブロックのベース非水添共重合体に対する含有率として求める。
【0036】
本発明での成分(c)水添共重合体の重量平均分子量は、好ましくは3万〜100万である。本発明の成分(c)水添共重合体は、重量平均分子量が上記範囲にあることにより、機械的強度と成形加工性とのバランスに優れる。機械的強度や衝撃吸収性と成形加工性とのバランスの点からは、本発明の成分(c)水添共重合体の重量平均分子量は、より好ましくは5万〜80万、更に好ましくは10万〜50万、とりわけ好ましくは15万〜40万である。特に、本発明の成分(c)水添共重合体が水添重合体ブロック(C)を有する場合、成形加工性の点から、好ましくは10万を越え、100万以下、更に好ましくは12万〜80万、とりわけ好ましくは14万〜50万である。
【0037】
本発明においての成分(c)の水添共重合体の分子量分布(Mw/Mn)(重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比)は、好ましくは10以下、さらに好ましくは1.01〜8.0、特に好ましくは1.1〜5.0である。成形加工性を重視する場合、好ましくは1.3〜5.0、さらに好ましくは1.5〜5.0、ことさら好ましくは1.6〜4.5、特に好ましくは1.8〜4.0である。成分(c)水添共重合体の重量平均分子量はベース非水添共重合体の重量平均分子量とほぼ等しいので、水添共重合体の重量平均分子量はベース非水添共重合体の重量平均分子量として求める。ベース非水添共重合体の重量平均分子量は、分子量が既知の市販の標準単分散ポリスチレンに関して得た検量線を使用して、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって求める。水添共重合体の数平均分子量も同様にして求める。分子量分布は、重量平均分子量の数平均分子量に対する比として、計算で求める。
【0038】
上記のように、本発明の成分(c)水添共重合体は共役ジエン単量体単位とビニル芳香族化合物単量体単位とを含む(非水添)共重合体(即ち、ベース非水添共重合体)を水添して得られる。本発明の成分(c)水添共重合体の該共役ジエン単量体単位の二重結合の水添率は、75〜100%が好ましい。水添率は、熱安定性の点から、より好ましくは80〜100%、更に好ましくは85〜100%、特に好ましくは90〜100%である。
なお、成分(c)水添共重合体におけるビニル芳香族単量体単位の二重結合の水添率に関しては特に限定はないが、水添率は好ましくは50%以下、更に好ましくは30%以下、特に好ましくは20%以下である。
【0039】
成分(c)の水添共重合体における上記水添率は、核磁気共鳴装置を用いて測定することができる。
本発明の成分(c)の水添共重合体は、該水添共重合体に関して得られた動的粘弾性スペクトルにおいて損失正接(tanδ)のピークが、好ましくは0℃以上40℃未満、より好ましくは5℃以上35℃未満、更に好ましくは5℃以上30℃未満の範囲に少なくとも1つ存在することが好ましい。0℃以上40℃未満の範囲に存在する損失正接のピークは、水添ランダム共重合体ブロック(B)(共役ジエン単量体単位とビニル芳香族化合物と単量体単位とからなる(非水添)ランダム共重合体ブロックを水添して得られる水添ランダム重合体ブロック)に起因するピークである。損失正接のピークが0℃以上40℃未満の範囲に少なくとも1つ存在することは、成分(c)水添共重合体の制振性、柔軟性、耐磨耗性、耐傷付き性、引っ張り強度等の機械特性のバランスの点でも好ましい。なお、本発明において、重合体ブロック(A)に起因する損失正接のピークの存在に関しては特に限定はないが、重合体ブロック(A)に起因する損失正接のピークは、通常、80℃を超え、150℃以下の温度範囲内に存在する。
【0040】
動的粘弾性スペクトルにおける損失正接(tanδ)のピークは、市販されている粘弾性測定解析装置を用いて測定される。
上記のように、水添ランダム共重合体ブロック(B)は、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる非水添ランダム共重合体ブロックを水添して得られる。上記非水添ランダム共重合体における共役ジエン単量体単位/ビニル芳香族単量体単位重量比に関しては、特に限定はない。しかし、上記のように、損失正接のピークが0℃以上、40℃未満の範囲に少なくとも1つ存在することを考慮すると、共役ジエン単量体単位/ビニル芳香族単量体単位重量比は、好ましくは55/45〜15/85、更に好ましくは50/50〜20/80、特に好ましくは45/55〜25/75であることが推奨される。
【0041】
上記のように、水添ランダム共重合体ブロック(B)は、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる(非水添)ランダム共重合体ブロックを水添して得られる。上記(非水添)ランダム共重合体ブロックにおける共役ジエン単量体単位のミクロ構造(シス、トランス、ビニルの比率)は、後述する極性化合物等の使用により任意に変えることができる。本発明において、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる(非水添)ランダム共重合体ブロック中の共役ジエン単量体単位のビニル結合量は、40%未満であることが好ましい。{以下、1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合との合計量(但し、共役ジエンとして1,3−ブタジエンを使用した場合には、1,2−ビニル結合量)を単にビニル結合量と称する。}。ビニル結合量は、取り扱い性(耐ブロッキング)と制振特性の点から、好ましくは5〜35%、さらに好ましくは8〜25%、特に好ましくは8〜20%である。
【0042】
本発明において、水添重合体ブロック(C)は、共役ジエン単量体単位からなるビニル結合量が30%未満の(非水添)重合体ブロックを水添して得られる。上記(非水添)重合体ブロックのビニル結合量は、取り扱い性(耐ブロッキング)の点から、好ましくは8〜25%、更に好ましくは10〜25%、とりわけ好ましくは12〜20%である。
上記のビニル結合量は、ベース非水添共重合体を検体として赤外分光光度計を用いて測定される。
本発明での成分(c)の水添共重合体は、カップリング構造を有することが必須である。
【0043】
このような成分(c)水添共重合体の例として、カップリング剤を介してカップリング結合された下記式で表されるような構造を有するものが挙げられる。
[(A−B−C)n]m−X、
[A−(B−C)n]m−X、[(A−B)n−C]m−X、
[(A−B−A)n−C]m−X、
[(B−A−B)n−C]m−X、[(C−B−A)n]m−X、
[C−(B−A)n]m−X、
[C−(A−B−A)n]m−X、
[C−(B−A−B)n]m−X
また、本発明の成分(c)水添共重合体として、少なくとも2個の重合体ブロック(A)と、少なくとも1個の水添ランダム共重合体ブロック(B)とからなる、カップリング構造を有する水添共重合体も好ましく用いられる。このような水添共重合体の例として、下記式で表されるような構造を有するものが挙げられる。
[(A−B)n]m−X、 [(B−A)n−B]m−X、
[(A−B)n−A]m−X、 [(B−A)n+1]m−X
【0044】
上記式において、各Aはそれぞれ独立してビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロックを表す。各Bはそれぞれ独立して共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる(非水添)ランダム共重合体を水添して得られる水添ランダム共重合体ブロックを表す。各Cはそれぞれ独立して、共役ジエン単量体単位からなる(非水添)重合体ブロックを水添して得られる水添重合体ブロックを表す。各ブロックの境界は必ずしも明瞭に区別されていなくてもよい。(非水添)ランダム共重合体を水添して得られる水添ランダム共重合体ブロック(B)中のビニル芳香族単量体単位は、均一に分布していてもよいし、テーパー状に分布していてもよい。また水添ランダム共重合体ブロック(B)には、ビニル芳香族単量体単位が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数個存在していてもよい。また水添ランダム共重合体ブロックBには、ビニル芳香族単量体単位含有量が異なるセグメントが複数個存在していてもよい。各nはそれぞれ独立して1以上の整数、好ましくは1〜5の整数である。各mはそれぞれ独立して2以上の整数、好ましくは2〜11の整数である。各Xはそれぞれ独立してカップリング剤の残基又は多官能開始剤の残基を表す。カップリング剤としては、後述の2官能以上のカップリング剤を用いることができる。多官能開始剤としては、ジイソプロペニルベンゼンとsec−ブチルリチウムとの反応生成物、ジビニルベンゼンとsec−ブチルリチウムと少量の1,3−ブタジエンとの反応生成物などを用いることができる。
【0045】
本発明での成分(c)水添共重合体は、上記式で表される構造を有するものの任意の混合物であってもよい。上記式で表される水添共重合体の中、本発明において、組成物の機械特性と相溶性の観点から特に好ましい成分(c)水添共重合体は、水添ランダム共重合体ブロック(B)とビニル芳香族重合体ブロック(A)との結合体をカップリングした構造を有し、且つ分子末端にビニル芳香族重合体ブロック(A)を有する構造のものである。
また、本発明においては、カップリング構造を有する水添共重合体(c)と、カップリングしていない構造の水添共重合体を併用することができ、上記式で表される構造を有する成分(c)水添共重合体と、ビニル芳香族単量体単位からなる重合体、A−B構造を有する共重合体、B−A−B構造を有する共重合体、及び下記式で表されるような構造を有する共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1つの重合体との混合物であってもよい。この場合、カップリングしていない構造の水添共重合体の混合割合は、カップリング構造を有する水添共重合体(c)とカップリングしていない構造の水添共重合体の合計量に対して40%以下、好ましくは5〜30%、より好ましくは5〜20%である。カップリングしていない構造の水添共重合体を併用することにより、低温衝撃性が改善され、混合割合が40%以下の場合に制振性が優れる。
【0046】
併用するのに好ましいカップリングしていない構造の水添共重合体の例としては、次の構造が挙げられる。
C−(B−A)n 、C−(A−B)n、
C−(A−B−A)n、C−(B−A−B)n 、
A−C−(B−A)n、A−C−(A−B)n 、A−C−(B−A)n −B、
(A−B)n+1 、A−(B−A)n、B−(A−B)n+1 、
上記式において、各Aはそれぞれ独立してビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロックを表す。各Bはそれぞれ独立して共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる(非水添)ランダム共重合体ブロックを水添して得られる水添ランダム共重合体ブロックを表す。各Cはそれぞれ独立して、共役ジエン単量体単位からなる(非水添)重合体ブロックを水添して得られる水添重合体ブロックを表す。各ブロックの境界は必ずしも明瞭に区別されていなくてもよい。(非水添)ランダム共重合体を水添して得られる水添共重合体ブロックB中のビニル芳香族単量体単位は、均一に分布していてもよいし、テーパー状に分布していてもよい。また水添共重合体ブロックBには、ビニル芳香族単量体単位が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数個存在していてもよい。また水添共重合体ブロックBには、ビニル芳香族単量体単位含有量が異なるセグメントが複数個存在していてもよい。各nはそれぞれ独立して1以上の整数、好ましくは1〜5の整数である。
【0047】
本発明での成分(c)水添共重合体は、該水添共重合体に関して得られた動的粘弾性スペクトルにおいて、損失正接(tanδ)のピークが0℃以上、40℃未満の範囲に少なくとも1つ存在することが好ましく、上記範囲に存在する損失正接のピークは、水添共重合体ブロック(B)(共役ジエン単量体単位とビニル芳香族化合物と単量体単位とからなる(非水添)ランダム共重合体ブロックを水添して得られる水添共重合体ブロック)に起因するピークである。上記範囲以外においては、損失正接(tanδ)のピークが存在しても存在しなくてもよい。たとえば、本発明の成分(c)水添共重合体は、上記範囲以外にピークを有する重合体ブロックを含んでいてもよい。
【0048】
そのような重合体ブロックの例として、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる(非水添)共重合体ブロック(ただし、ビニル芳香族単量体単位の含有量が50重量%を超える。)を水添して得られる水添共重合体ブロック、及び、ビニル結合量が30%以上である共役ジエン単量体単位からなる(非水添)重合体ブロックを水添して得られる水添重合体ブロックが挙げられる。但し、水添共重合体がこれらの重合体ブロックを含有するとき、該水添共重合体に関して得られた示差走査熱量測定(DSC)チャートにおいて、−20〜80℃、好ましくは−50〜100℃の範囲に結晶化ピークが実質的に存在しないことが推奨される。
【0049】
また、本発明での成分(c)水添共重合体として、共重合体ブロック(B)に関わる損失正接(tanδ)のピークが0℃以上、40℃未満の範囲に少なくとも1つ存在し、かつ重合体ブロック(C)や共役ジエン単量体単位が比較的多い共重合体ブロックに関わる損失正接(tanδ)のピークが−50以上、0℃未満の範囲に少なくとも1つ存在する水添共重合体は、本発明の特徴の一つである制振性と低温特性の温度依存性が少ない点で好ましい。かかる水添共重合体において、損失正接(tanδ)のピークが−40℃〜−10℃未満の範囲に少なくとも1つ、かつ5〜30℃の範囲と30℃を超えて、80℃以下の範囲にそれぞれ少なくとも1つ存在する水添共重合体が制振性と低温特性の温度依存性が少ないことから特に好ましい。
【0050】
本発明において、共役ジエンは1対の共役二重結合を有するジオレフィンである。共役ジエンの例として、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(即ちイソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンが挙げられる。これらのうち特に好ましいのは1,3−ブタジエン及びイソプレンである。これらは一種のみならず二種以上を使用してもよい。
また、ビニル芳香族化合物の例として、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルエチレン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレンが挙げられる。これらは一種のみならず二種以上を使用してもよい。
【0051】
本発明において好ましく用いられる、成分(c)水添共重合体の態様としては、水添共重合体(c)が、ビニル芳香族単量体単位からなる少なくとも1つの重合体ブロック(A)、および共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるランダム共重合体ブロックを水素添加して得られる少なくとも1つの水添ランダム共重合体ブロック(B)からなり、且つカップリング構造を有する水添共重合体(c)であって、下記(1)〜(6)を満足する水添共重合体(c)が挙げられる。
(1)該ビニル芳香族単量体単位の含有量が、該水添共重合体の重量に対して40〜90重量%。
(2)該重合体ブロック(A)の含有量が、該水添共重合体の重量に対して5〜50重量%。
(3)重量平均分子量が、3万〜100万。
(4)該共役ジエン単量体単位の二重結合の水添率が、75%以上。
(5)該水添共重合体に関して得られた動的粘弾性スペクトルにおいて、損失正接(tanδ)のピークが0℃以上、40℃未満の範囲に少なくとも1つ存在する。
(6)分子末端にビニル芳香族重合体ブロック(A)を有する構造。
【0052】
また、下記の成分(c)水添共重合体も好ましい成分(c)水添共重合体の一態様である。
水添共重合体(c)が、少なくとも2つの重合体ブロック(A)及び少なくとも1つの水添共重合体ブロック(B)を有し、かつ下記の特性(7)、(8)及び(9)を更に有する水添共重合体(c)である。
(7)該ビニル芳香族単量体単位の含有量が該水添共重合体の重量に対して50〜80重量%。
(8)該少なくとも2つの重合体ブロック(A)の含有量が該水添共重合体の重量に対して8〜40重量%である。
(9)水添ランダム共重合体ブロック(B)の水素添加前のランダム共重合体ブロックにおいて、共役ジエン単量体単位のビニル結合量が8〜20%である。
【0053】
上記のように、本発明の水添共重合体(c)は、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位からなる(非水添)ランダム共重合体を水添して得られる。該(非水添)ランダム共重合体の製造方法については特に限定はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、炭化水素溶媒中で有機アルカリ金属化合物等の重合開始剤を用いてアニオンリビング重合により製造することができる。炭化水素溶媒の例として、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘプタンなどの脂環式炭化水素類;及びベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素が挙げられる。
【0054】
重合開始剤の例としては、共役ジエン及びビニル芳香族化合物に対してアニオン重合活性を有する脂肪族炭化水素アルカリ金属化合物、芳香族炭化水素アルカリ金属化合物、有機アミノアルカリ金属化合物が挙げられる。アルカリ金属の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウムが挙げられる。好適な有機アルカリ金属化合物の例としては、炭素数1から20の脂肪族および芳香族炭化水素リチウム化合物であり、1分子中に少なくとも1個のリチウムを含む化合物(モノリチウム化合物、ジリチウム化合物、トリリチウム化合物、テトラリチウム化合物など)が挙げられる。具体的にはn−プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、n−ペンチルリチウム、n−ヘキシルリチウム、ベンジルリチウム、フェニルリチウム、トリルリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとsec−ブチルリチウムとの反応生成物、さらにジビニルベンゼンとsec−ブチルリチウムと少量の1,3−ブタジエンとの反応生成物等が挙げられる。さらに、米国特許第5,708,092号明細書、英国特許第2,241,239号明細書、米国特許第5,527,753号明細書等に開示されている有機アルカリ金属化合物も使用することができる。
【0055】
本発明において、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として共役ジエン単量体とビニル芳香族単量体とを共重合する際に、重合体に組み込まれる共役ジエン単量体単位に起因するビニル結合(1,2ビニル結合または3,4ビニル結合)の量の調整や共役ジエンとビニル芳香族化合物とのランダム共重合性を調整するために、調整剤として第3級アミン化合物またはエーテル化合物を添加することができる。
第3級アミン化合物の例として、式R1 R2 R3 N(ただし、R1、R2、R3はそれぞれ独立して炭素数1から20の炭化水素基または第3級アミノ基を有する炭化水素基である)で表される化合物が挙げられる。具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N−エチルピペリジン、N−メチルピロリジン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン、1,2−ジピペリジノエタン、トリメチルアミノエチルピペラジン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルエチレントリアミン、N,N’−ジオクチル−p−フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0056】
エーテル化合物の例としては、直鎖状エーテル化合物および環状エーテル化合物が挙げられる。直鎖状エーテル化合物の例としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等のエチレングリコールのジアルキルエーテル化合物類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のジエチレングリコールのジアルキルエーテル化合物類が挙げられる。また、環状エーテル化合物の例としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、2,5−ジメチルオキソラン、2,2,5,5−テトラメチルオキソラン、2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン、フルフリルアルコールのアルキルエーテルが挙げられる。
【0057】
本発明において有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として共役ジエン単量体とビニル芳香族単量体とを共重合する方法は、バッチ重合であっても連続重合であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。特に成形加工性の点で分子量分布を好ましい範囲に調整する上では、連続重合が推奨される。重合温度は、通常0〜180℃、好ましくは30〜150℃である。重合に要する時間は他の条件によって異なるが、通常は48時間以内であり、好ましくは0.1〜10時間である。又、重合系の雰囲気は窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気にすることが好ましい。重合圧力は、上記重合温度範囲で単量体及び溶媒を液相に維持するのに充分な圧力の範囲であれば特に限定はない。更に、重合系内は触媒及びリビングポリマーを不活性化させるような不純物(水、酸素、炭酸ガスなど)が混入しないように留意する必要がある。
【0058】
本発明の水添共重合体(c)は、前記の重合が終了した時点で2官能以上のカップリング剤を用いてカップリング反応を行う。2官能以上のカップリング剤には特に限定はなく、公知のものを用いることができる。2官能性のカップリング剤の例として、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジブロモシラン等のジハロゲン化合物;安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸フェニル、フタル酸エステル類等の酸エステル類が挙げられる。この中でジハロゲン化合物が好ましく用いられる。
3官能以上の多官能カップリング剤の例として、3価以上のポリアルコール類;エポキシ化大豆油、ジグリシジルビスフェノールA等の多価エポキシ化合物;式R4-n SiXn (ただし、各Rはそれぞれ独立して炭素数1から20の炭化水素基を表し、各Xはそれぞれ独立してハロゲン原子を表し、nは3または4を表す。)で表されるハロゲン化珪素化合物、例えばメチルシリルトリクロリド、t−ブチルシリルトリクロリド、四塩化珪素、及びこれらの臭素化物;式R4-nSnXn (ただし、各Rはそれぞれ独立して炭素数1から20の炭化水素基を表し、各Xはそれぞれ独立してハロゲン原子を表し、nは3または4を表す。)で表されるハロゲン化錫化合物、例えばメチル錫トリクロリド、t−ブチル錫トリクロリド、四塩化錫等の多価ハロゲン化合物が挙げられる。また、炭酸ジメチルや炭酸ジエチル等も多官能カップリング剤として使用できる。この中で、ハロゲン化珪素化合物が好ましく用いられる。
【0059】
上記の方法で製造した(非水添)共重合体を水添することにより、本発明での成分(c)水添共重合体が得られる。水添触媒に特に限定はなく、公知の水添触媒を用いることができる。水添触媒の例として次のものが挙げられる。
(1)Ni、Pt、Pd、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持した担持型不均一系水添触媒、
(2)Ni、Co、Fe、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩などの遷移金属塩を有機アルミニウム等の還元剤とともに用いる、いわゆるチーグラー型水添触媒、及び
(3)Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等の均一系水添触媒。
【0060】
具体的な水添触媒としては、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特公昭63−4841号公報(米国特許第4,501,857号に対応)、特公平1−37970号公報(米国特許第4,673,714号に対応)、特公平1−53851号公報、特公平2−9041号公報に記載された水添触媒を使用することができる。好ましい水添触媒の例としては、チタノセン化合物、及びチタノセン化合物と還元性有機金属化合物との混合物が挙げられる。
チタノセン化合物としては、特開平8−109219号公報に記載された化合物が使用できる。具体的には、ビスシクロペンタジエニルチタンジクロライド、モノペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリクロライド等の(置換)シクロペンタジエニル骨格、インデニル骨格あるいはフルオレニル骨格を有する配位子を少なくとも1つ以上有する化合物が挙げられる。また、還元性有機金属化合物の例としては、有機リチウム等の有機アルカリ金属化合物、有機マグネシウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機ホウ素化合物、有機亜鉛化合物が挙げられる。
【0061】
本発明での成分(c)水添共重合体を製造するための水添反応は、通常0〜200℃、好ましくは30〜150℃の温度範囲で実施する。水添反応に使用される水素の圧力は、通常0.1〜15MPa、好ましくは0.2〜10MPa、更に好ましくは0.3〜5MPaである。また、水添反応時間は通常3分〜10時間、好ましくは10分〜5時間である。水添反応は、バッチプロセス、連続プロセス、それらの組み合わせのいずれでも用いることができる。
上記の水添反応により、水添共重合体の溶液が得られる。水添共重合体の溶液から必要に応じて触媒残渣を除去し、水添共重合体を溶液から分離する。溶媒を分離する方法の例としては、水添後の反応液にアセトンまたはアルコール等の水添共重合体に対する貧溶媒となる極性溶媒を加えて重合体を沈澱させて回収する方法;反応液を撹拌下熱湯中に投入し、スチームストリッピングにより溶媒を除去して回収する方法;及び重合体溶液を直接加熱して溶媒を留去する方法、が挙げられる。
本発明での成分(c)水添共重合体は、成分(a)+成分(b)+成分(c)+成分(d)=100重量部に対して、5〜50重量部、好ましくは5〜45重量部、更に好ましくは10〜45重量部配合する。成分(c)の配合量は、制振性の観点から5重量部以上であり、難燃性および機械的特性の観点から50重量部以下である。また、成分(c)の配合量が10重量部以上であると、柔軟性、耐傷付性及び耐摩耗性が良好であり、好ましい。
【0062】
<リン系難燃剤(成分(d))>
本発明での成分(d)リン系難燃剤としては、赤リン、有機リン酸エステル化合物、ホスファゼン化合物、ホスホルアミド化合物等が挙げられる。
有機リン酸エステル化合物の具体例としては、トリフェニルフォスフェート、フェニルビスドデシルホスフェート、フェニルビスネオペンチルホスフェート、フェニル−ビス(3,5,5′−トリ−メチル−ヘキシルホスフェート)、エチルジフェニルホスフェート、2−エチル−ヘキシルジ(p−トリル)ホスフェート、ビス−(2−エチルヘキシル)p−トリルホスフェート、トリトリルホスフェート、ビス−(2−エチルヘキシル)フェニルホスフェート、トリ−(ノニルフェニル)ホスフェート、ジ(ドデシル)p−トリルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ジブチルフェニルホスフェート、2−クロロエチルジフェニルホスフェート、p−トリルビス(2,5,5′−トリメチルヘキシル)ホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、ビスフェノールA・ビス(ジフェニルホスフェート)、ジフェニル−(3−ヒドロキシフェニル)ホスフェート、ビスフェノールA・ビス(ジクレジルホスフェート)、レゾルシン・ビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシン・ビス(ジキシレニルホスフェート)、2−ナフチルジフェニルフォスフェート、1−ナフチルジフェニルフォスフェート、ジ(2−ナフチル)フェニルフォスフェート等が挙げられる。
この中で、下記一般式(1)または下記一般式(2)で示される芳香族系縮合リン酸エステル化合物が好ましい。
【0063】
【化4】

【0064】
【化5】

【0065】
(式中、Q1、Q2、Q3、Q4は、各々置換基であって各々独立に炭素数1から6のアルキル基を表し、R1、R2は各々置換基であってメチル基を表し、R3、R4は各々独立に水素原子またはメチル基を表す。nは1以上の平均値を有し、n1、n2は各々独立に0から2の整数を示し、m1、m2、m3、m4は各々独立に1から3の整数を示す。)
【0066】
これらの芳香族系縮合リン酸エステル化合物は、一般にn=1〜3が90%以上の混合物であり、n=4以上の多量体やその他の副生成物からなる混合物として入手できる。例えば、ビスフェノールA−ビス(ジフェニルホスフェート)を主成分とするリン酸エステル化合物(大八化学(株)製、CR741)やビスフェノールA−ビス(ジキシレニルホスフェート)を主成分とするリン酸エステル化合物などのビスフェノールA類の芳香族系縮合リン酸エステル、レゾルシン−ビス(ジキシレニルホスフェート)を主成分とするリン酸エステル化合物(大八化学(株)製、PX200)やレゾルシン−ビス(ジフェニルホスフェート)を主成分とするリン酸エステル化合物(大八化学(株)製、CR−733S)などのレゾルシン類の芳香族系縮合リン酸エステルが挙げられる。レゾルシン類およびビスフェノールA類の芳香族系リン酸エステル化合物は、揮発性、耐熱性面において好ましく、更に酸価が0.5以下、好ましくは0.1以下のレゾルシン類およびビスフェノールA類の芳香族縮合リン酸エステル化合物が耐水性および電気特性面からより好ましく、特にビスフェノールA類の芳香族縮合リン酸エステル化合物が好ましい。
ホスファゼン化合物は、下記一般式(4)で示される環状および直鎖状の構造を有するものであるが、環状構造化合物が好ましく、n=3および4の6員環および8員環のフェノキシホスファゼン化合物が特に好ましい。
【0067】
【化6】

【0068】
(ここで、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20の脂肪族基または芳香族基を表し、nは3以上の整数である。)
さらに、これらの化合物は、フェニレン基、ビフェニレン基および下記一般式(5)でに示される基からなる群より選ばれる架橋基によって架橋されていても良い。
【0069】
【化7】

【0070】
(式中Xは、−C(CH−、−SO−、−S−または−O−を示す。)
【0071】
一般式(4)で示されるホスファゼン化合物は、公知の化合物であり、例えばJames E. Mark, Harry R. Allcock, Robert West著、”Ino-rganic Polymers”Pretice-Hall International, Inc., 1992, p61-p140に記載されている。これらホスファゼン化合物を得るための合成例は、特公平3−73590号公報、特開平9−71708号公報、特開平9−183864号公報および特開平11−181429号公報等に開示されている。例えば非架橋環状フェノキシホスファゼン化合物の合成においては、H.R.Allcock著、“Phosphorus−NitrogenCompounds“,Academic Press,(1972)に記載の方法に準じて、ジクロルホスファゼンオリゴマー(3量体62%、4量体38%の混合物)1.0ユニットモル(115.9g)を含む20%クロルベンゼン溶液580gに、ナトリウムフェノラートのトルエン溶液を撹拌下で添加した後、110℃で4時間反応させ、精製後、非架橋環状フェノキシホスファゼン化合物が得られる。
【0072】
ホスファゼン化合物は、化合物中のリン含有量が通常のリン酸エステル化合物よりも高いため、少量の添加でも十分な難燃性を確保でき、加水分解性や熱分解性にも優れるため、その結果樹脂組成物の物性低下が抑えられるので、本発明でのリン系難燃剤としては特に好ましい化合物である。更に酸価が0.5以下のホスファゼン化合物が難燃性、耐水性および電気特性面からより好ましい。
本発明での成分(d)リン系難燃剤は、成分(a)+成分(b)+成分(c)+成分(d)=100重量部に対して、0〜40重量部、好ましくは1〜40重量部、より好ましくは2〜30重量部、更に好ましくは3〜25重量部配合する。成分(d)の配合量が、樹脂組成物100重量部中、3重量部以上であると、難燃性が特に良好である。また、機械強度及び耐加熱変形性等の観点から40重量部以下である。
【0073】
<水添ブロック共重合体(成分(e))>
本発明の樹脂組成物においては、耐寒性を向上させる目的で、成分(c)の水添共重合体と、成分(c)とは異なるランダム共重合体ブロックを有しない水添ブロック共重合体(e)とを併用することが好ましい。
水添ブロック共重合体(e)とは、少なくとも1個、好ましくは2個以上のビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロックと、少なくとも1個の共役ジエン単量体単位を主体とする重合体ブロックとを有するブロック共重合体の水素添加物であり、旭化成ケミカルズ(株)製の登録商標タフテック、クレイトン社の登録商標クレイトン、クラレ社の登録商標セプトン、JSR社のダイナロン等が市販されている。共役ジエン単量体としては、ブタジエン、イソプレン等が好ましい。ビニル芳香族単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−ターシャルブチルスチレン等のアルキルスチレン、パラメトキシスチレン、ビニルナフタレン等のうちから1種、または2種以上が選ばれ、中でもスチレンが好ましい。
水添ブロック共重合体(e)の配合量は、成分(a)+成分(b)+成分(c)+成分(d)+成分(e)=100重量部に対し1〜30重量部、好ましくは5〜30重量部、より好ましくは5〜20重量部である。(c)と(e)との合計量に対して50重量%以下、より好ましくは30重量%以下であり、10重量%以上併用することで効果が得られる。
【0074】
<ポリオレフィン系重合体(成分(f))>
本発明の樹脂組成物においては、さらに、成分(f)ポリオレフィン系重合体を添加することができる。結晶性のポリオレフィン樹脂は、耐油性や摺動性を向上させるのに有効であり、またポリオレフィン系エラストマーは、柔軟性や耐油性を向上させるのに有効である。
結晶性のポリオレフィン樹脂の例としては、エチレン、プロピレン、その他のオレフィン系炭化水素の単独重合体、およびそれらの共重合体が挙げられる。ポリオレフィン系エラストマーとしては、エチレンと各種α−オレフィンとの共重合体、エチレンとアクリル酸エステルとの共重合体やエチレンとメタクリル酸エステルとの共重合体などがが挙げられる。
ポリオレフィン系重合体(f)の配合量は、成分(a)+成分(b)+成分(c)+成分(d)+成分(e)+成分(f)=100重量部に対し、1〜40重量部、好ましくは1〜30重量部であり、10重量%でも有効である。
【0075】
<無機充填剤(成分(g))>
本発明の樹脂組成物においては、さらに、成分(g)無機充填剤を添加することができる。無機充填剤の具体例としては、ガラス繊維、ガラスフレーク、(スゾライト、クラライト)マイカ、ウォラストナイト、タルク、焼成クレーなどが挙げられるが、より好ましいのはガラスフレーク、マイカ、タルク等の板状の無機充填剤であり、特に好ましいのはマイカである。
上記無機充填剤は1種用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、本発明の目的を損なわない範囲で、所望に応じシラン系カップリング剤による表面処理や、集束剤による集束処理が施されたものも用いることができる。
【0076】
無機充填剤の配合割合は、成分(a)+成分(b)+成分(c)+成分(d)+成分(e)+成分(f)+成分(g)=100重量部に対して2〜100重量部、好ましくは2〜70重量部、より好ましくは3〜60重量部、更に好ましくは5〜50重量部の範囲である。剛性、制振性等の物性の観点及び寸法精度の向上の観点から配合量が2重量部以上であることが好ましく、成形性の観点から100重量部以下が好ましい。
本発明の樹脂組成物は、制振特性の尺度として、室温中、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が0.02以上、好ましくは0.04以上が好ましい。損失係数(η)は最大で0.3程度である。
【0077】
本発明の樹脂組成物には必要に応じ、難燃助剤として、ドリップ防止剤を含んでいてもよい。このドリップ防止剤とは、燃焼の際に、ドリップ(滴下)を抑制する働きのある添加剤であり、公知のものが使用できる。ドリップ防止剤は、成分(g)を除いた樹脂成分100重量部に対し、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部の範囲で添加される。
本発明では、特に、ポリテトラフルオロエ チレン(PTFE)などに代表されるポリフェニレンエーテル系樹脂中でフィブリル構造を形成するものがドリップの抑制効果が高いので好適である。このようなドリップ防止剤が含まれる樹脂組成物は特に難燃性に優れている。このようなポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の中でも、分散性に優れたもの、たとえば水などの溶液にPTFEを乳化分散させたもの、またアクリル酸エステル系樹脂、メタクリル酸エステル系樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂等でPTFEをカプセル化処理したものは、変性PPE樹脂からなる成形体に、よい表面外観を与えるので好ましい。
【0078】
水などの溶液にPTFEを乳化分散させたものの場合、特に制限はないが、PTFEが1μm以下の平均粒子径であるものが好ましく、特に0.5μm以下であることが好ましい。このようなPTFEとして市販されているものの具体例としては、テフロン(登録商標)30J(商標、三井デュポンフルオロケミカル(株))、ポリフロンD−2C(商標、ダイキン化学工業(株))、アフロンAD1(商標、旭硝子(株))などが挙げられる。
また、このようなポリテトラフルオロエチレンは、公知の方法によって製造することもできる(米国特許第2393967号明細書参照)。具体的には、ペルオキシ二硫酸ナトリウム、カリウムまたはアンモニウムなどの遊離基触媒を使用して、水性の溶媒中において、0.7〜7MPaの圧力下で、0〜200℃、好ましくは20〜100℃の温度条件のもと、テトラフルオロエチレンを重合させることによって、ポリテトラフルオロエチレンを白色の固体として得ることができる。
【0079】
このようなポリテトラフルオロエチレンは、分子量が10万以上、好ましくは20万〜300万程度のものが望ましい。ポリテトラフルオロエチレンが配合された樹脂組成物は、燃焼時のドリップが抑制される。さらに、ポリテトラフルオロエチレンとシリコーン樹脂とを併用すると、ポリテトラフルオロエチレンのみを添加したときに比べて、さらにドリップを抑制し、しかも燃焼時間を短くすることができる。
本発明の樹脂組成物においては、必要に応じて周知の熱可塑性樹脂をさらにブレンドしてもよい。熱可塑性樹脂としては、共役ジエンとビニル芳香族とのブロック共重合樹脂及びその水添物(但し、本発明の成分(c)および(e)とは異なる。)、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等が挙げられる。
【0080】
本発明の樹脂組成物には必要に応じ、各種添加剤を添加することが好ましい。添加剤は、プラスチックおよびゴム状重合体等の配合に一般的に配合されるものであれば特に限定はない。添加剤の例として、「ゴム・プラスチック配合薬品」(ラバーダイジェスト社編)などに記載された添加剤が挙げられる。具体例として、ゴム用軟化剤として用いられるナフテン系、パラフィン系、芳香族系のプロセスオイルや脂肪酸エステル類、脂肪族2塩基酸エステル類、フタル酸エステル類、エポキシ化大豆油等の可塑剤;酸化鉄等の顔料;ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤;離型剤;有機ポリシロキサン、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤;ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、リン系以外の難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤、着色剤などである。これらの添加剤は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0081】
本発明の難燃性樹脂組成物は、その製造方法には特に限定はなく、公知の溶融混練り方法が利用できる。例えば、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機等の一般的な混和機を用いた溶融混練方法等を用いることができる。
本発明の制振性に優れた樹脂組成物は、制振性、制音性が要求される用途、電子・電気機器、機械設備の振動部や騒音部、住宅や乗り物などの床材、壁材、天井材など、制振性と剛性のバランスが要求される用途に好適に用いることができる。具体例としては、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−R、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW、MD等光ディスクドライブ用機構部品、プロジェクションTV、液晶プロジェクターのファンやギヤなどの駆動部周辺部品、車載用のCDプレーヤー,DVDプレーヤー,DVDビデオ,DVDナビゲーション等向けディスクチェンジャー用トレー、スピーカーボックス、スピーカーグリルその他の各種音響機器部品等に好適である。
【実施例】
【0082】
以下、参考例、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら
の例によって何ら限定されるものではない。
(1)成分(a):ポリフェニレンエーテル系樹脂
(PPE−1):ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フエニレンエーテル(旭化成ケミカルズ(株)製、S202A)
(2)成分(b):スチレン系重合体
(PS−1):ハイインパクトポリスチレン(PSジャパン(株)製、ポリスチレンH9302)
(PS−2):ホモポリスチレン(PSジャパン(株)製、ポリスチレン685)
(3)成分(c):水添共重合体
【0083】
<水添触媒の調整>
水添反応に用いる水添触媒は、次のように製造した。
窒素置換した反応容器に乾燥、精製したシクロヘキサン2リットルを仕込み、ビス(η−シクロペンタジエニル)−ジ−p−トリルチタニウム40ミリモルと分子量が約1,000の1,2−ポリブタジエン(1,2−ビニル結合量約85%)150グラムとを溶解した後、n−ブチルリチウム60ミリモルを含むシクロヘキサン溶液を添加して、室温で5分反応させ、直ちにn−ブタノール40ミリモルを添加して攪拌することにより、水添触媒を得た。
【0084】
<ポリマー1>
内容積が10リットルの攪拌装置及びジャケット付き槽型反応器を用いて、共重合を以下の方法で行った。
シクロヘキサン10重量部を反応器に仕込んで温度70℃に調整した後、n−ブチルリチウムを全モノマー(反応器に投入するブタジエンモノマー及びスチレンモノマーの総量)の重量に対して0.076重量%、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(以下、TMEDAと称する。)をn−ブチルリチウム1モルに対して0.4モル添加し、その後モノマーとしてスチレン15重量部を含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22重量%)を約6分間かけて添加し、反応器内温を約70℃に調整しながら30分間反応させた。
次に、ブタジエン35重量部とスチレン50重量部とを含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22重量%)を60分間かけて一定速度で連続的に反応器に供給した。この間、反応器内温は約75℃になるように調整し、共重合体を得た。得られた共重合体のスチレン含有量は65重量%であり、スチレン重合体ブロックの含有量は15重量%、ブタジエン部のビニル結合量は22重量%、重量平均分子量は18万、分子量分布は1.2であった。次に、得られた共重合体に、上記水添触媒を共重合体の重量に対してチタンとして100重量ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度65℃で水添反応を行った。反応終了後にメタノールを添加し、次に安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを重合体の重量に対して0.3重量%添加し、水添ブロック共重合体を得た。水添率は99%、tanδ(損失正接)のピーク温度は15℃であった。また、示差走査熱量測定(DSC測定)の結果、結晶化ピークは無かった。
【0085】
<ポリマー2>
内容積が10リットルの攪拌装置及びジャケット付き槽型反応器を用いて、共重合を以下の方法で行った。
シクロヘキサン10重量部を反応器に仕込んで温度70℃に調整した後、n−ブチルリチウムを全モノマー(反応器に投入するブタジエンモノマー及びスチレンモノマーの総量)の重量に対して0.076重量%、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(以下、TMEDAと称する。)をn−ブチルリチウム1モルに対して0.4モル添加し、その後モノマーとしてスチレン7重量部を含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22重量%)を約6分間かけて添加し、反応器内温を約70℃に調整しながら30分間反応させた。
次に、ブタジエン35重量部とスチレン50重量部とを含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22重量%)を60分間かけて一定速度で連続的に反応器に供給した。この間、反応器内温は約75℃になるように調整した。
その後、更にスチレン8重量部を含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22重量%)を3分間かけて添加し、反応温度を約70℃に調整しながら30分間反応させ、共重合体を得た。得られた共重合体のスチレン含有量は65重量%であり、スチレン重合体ブロックの含有量は15重量%、ブタジエン部のビニル結合量は23重量%、重量平均分子量は15万、分子量分布は1.2であった。次に、得られた共重合体に、上記水添触媒を共重合体の重量に対してチタンとして100重量ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度65℃で水添反応を行った。反応終了後にメタノールを添加し、次に安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを重合体の重量に対して0.3重量%添加し、水添共重合体を得た。水添率は99%、tanδ(損失正接)のピーク温度は10℃であった。また、DSC測定の結果、結晶化ピークは無かった。
【0086】
<ポリマー3>
ポリマー1において、反応器に供給するモノマー量を変え、反応器内温度を約80℃に保ち、ジブロック構造のブロック共重合体を得た後、使用したn−ブチルリチウム1モルに対してジメチルジクロロシラン0.6モル添加し10分間カップリング反応した。更に、同様にして水添反応を行い、カップリング構造の水添共重合体、ポリマー3を得た。得られたポリマーの結果を表1に示す。また、DSC測定の結果、結晶化ピークは無かった。
<ポリマー4>
ポリマー3において、最初にブタジエンとスチレンとのランダム共重合を行い、その後にスチレンを供給してジブロック構造のブロック共重合体を得た後、ポリマー3と同様の操作によりカップリング反応した。更に、同様にして水添反応を行い、カップリング構造の水添共重合体、ポリマー4を得た。得られたポリマーの結果を表1に示す。また、DSC測定の結果、結晶化ピークは無かった。
【0087】
<ポリマー5>
ポリマー3において、反応器に供給するモノマー量を変え、反応器内温度を約80℃に保ち、ジブロック構造のブロック共重合体を得た後、四塩化珪素をn−ブチルリチウム1モルに対して0.3モル添加し10分間カップリング反応した。更に、同様にして水添反応を行い、カップリング構造の水添共重合体、ポリマー5を得た。得られたポリマーの結果を表1に示す。また、DSC測定の結果、結晶化ピークは無かった。
<ポリマー6>
ポリマー3において、反応器に供給するモノマー量を変え最後にブタジエンを供給し、反応器内温度を約65℃に保ち、各ブロック重合体(A)/(B)/(C)=10/85/5(重量比)のトリブロック構造のブロック共重合体を得た後、四塩化珪素をn−ブチルリチウム1モルに対して0.3モル添加し10分間カップリング反応した。更に、同様にして水添反応を行い、カップリング構造の水添共重合体、ポリマー6を得た。得られたポリマーの結果を表1に示す。また、DSC測定の結果、結晶化ピークは無かった。
【0088】
【表1】

【0089】
<比較水添共重合体;成分(e)>
成分(c)水添共重合体とは異なるランダム構造を有しない成分(e)として、以下の(ポリスチレンブロック)−(ポリブタジエンブロック)−(ポリスチレンブロック)の水添ブロック共重合体を用いた。
(e−1):タフテック(登録商標)H1272(旭化成ケミカルズ(株)製)
(e−2):クレイトンG1650(クレートンポリマー(株)製)
また、制振性に優れるエラストマーとして市販されている、(ポリスチレンブロック)−(ポリイソプレンブロック)−(ポリスチレンブロック)の水添ブロック共重合体(e−3)を比較として用いた。
(e−3):ハイブラー7125(クラレ(株)製:スチレン含量20%)
【0090】
(4)成分(d):リン系難燃剤
(FR−1):ビスフェノールA−ビス(ジフェニルホスフェート)を主成分とするリン酸エステル化合物(大八化学(株)製、CR741)
(FR−2):6員環および8員環のクロロホスファゼン混合物とナトリウムフェノラートを反応して得られたフェノキシホスファゼン((株)伏見製作所製、FP−100)
(5)成分(f)ポリオレフィン
(f−1):ポリプロピレン樹脂:チッソポリプロXF1932(チッソ(株)製)
(6)成分(g)無機充填剤
(g−1):板状無機充填剤:ガラスフレーク
マイクログラスフレカREFG−302(日本板硝子(株)製)
(g−2):板状無機充填剤:タルク
ハイトロンA(竹内化学工業(株)製)
(g−3):板状無機充填剤:マイカ
スゾライト・マイカ200HK(クラレ(株)製)
(g−4):繊維状無機充填剤:ガラス繊維
RES03−TPO30(日本板硝子(株)製)
【0091】
[実施例1〜18、比較例1〜5]
表2、3、4および5に示す組成で、25mmφ2軸押出機(Werner & Pfleiderer Corporation製、ZSK25)を用い、加熱筒設定最高温度300℃、回転数300rpmにて溶融混合して、ペレットを作成した。この際、無機充填剤は押出機バレル途中からサイドフィードし、難燃剤FR−1は押出機バレル途中から液状でフィードした。このペレツトを用いて、射出成形して試験片を作成し、以下の特性を測定した。結果を表2、3、4および5に示す。
(1)アイゾッド衝撃強度
ASTM−D−256に従い、測定温度23℃、ノッチ付きで試験し、アイゾッド衝撃強度を測定した。
(2)曲げ強度、曲げ弾性率
ASTM−D−790に従い、測定温度23℃、曲げ速度3mm/分で試験し、曲げ強度と曲げ弾性率を測定した。
(3)荷重撓み温度
ASTM−D−648に準じて、1.82MPa下で測定した。
(4)難燃性
UL−94に準じて、1.6mm厚みの燃焼性試験を行った。
(5)制振特性:損失係数η
常温(23℃)にて損失係数測定装置(松下インターテクノ社製)を用い、片端固定定常加振法により試験片を電磁加振させ、その応答速度を読み伝達関数を得た。次にその2次共振ピークの絶対値から3dB下がった点での周波数を読み、半値幅法から損失係数ηを求めた。尚、試験片は、127×12.7×3.2mmの短冊試験片を用いた。
(6)ガス、MD(成形性)
射出成形時に樹脂をパージした際のガスの発生程度およど金型表面の汚れ(MD)を目視判断した。ガス及びMD共に非常に少ないものから非常に多いものまで、◎、○、△、×でランク分け表示した。
【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の樹脂組成物は、制振性、制音性が要求される用途、電子・電気機器、機械設備の振動部や騒音部、住宅や乗り物などの床材、壁材、天井材など、制振性と剛性のバランスが要求される用途に好適に用いることができる。具体例としては、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−R、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW、MD等光ディスクドライブ用機構部品、プロジェクションTV、液晶プロジェクターのファンやギヤなどの駆動部周辺部品、車載用のCDプレーヤー,DVDプレーヤー,DVDビデオ,DVDナビゲーション等向けディスクチェンジャー用トレー、スピーカーボックス、スピーカーグリルその他の各種音響機器部品等に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)、またはポリフェニレンエーテル系樹脂(a)とスチレン系樹脂(b)とからなる樹脂成分 20〜95重量部、
(c)カップリング構造を有する、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添共重合体であって、且つ共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる(非水添)ランダム共重合体ブロックを水素添加して得られる水添ランダム共重合体ブロックを有する水添共重合体 5〜50重量部、および
(d)リン系難燃剤 0〜40重量部からなり、
成分(a)+成分(b)+成分(c)+成分(d)=100重量部である樹脂組成物。
【請求項2】
水添共重合体(c)が、ビニル芳香族単量体単位からなる少なくとも1つの重合体ブロック(A)、および共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるランダム共重合体ブロックを水素添加して得られる少なくとも1つの水添ランダム共重合体ブロック(B)からなり、且つカップリング構造を有する水添共重合体(c)であって、下記(1)〜(6)を満足する水添共重合体(c)である請求項1に記載の樹脂組成物。
(1)該ビニル芳香族単量体単位の含有量が、該水添共重合体の重量に対して40〜90重量%。
(2)該重合体ブロック(A)の含有量が、該水添共重合体の重量に対して5〜50重量%。
(3)重量平均分子量が、3万〜100万。
(4)該共役ジエン単量体単位の二重結合の水添率が、75%以上。
(5)該水添共重合体に関して得られた動的粘弾性スペクトルにおいて、損失正接(tanδ)のピークが0℃以上、40℃未満の範囲に少なくとも1つ存在する。
(6)分子末端にビニル芳香族重合体ブロック(A)を有する構造。
【請求項3】
水添共重合体(c)が、さらに共役ジエン単量体単位からなる重合体ブロックを水素添加して得られる水添重合体ブロック(C)を含有し、重合体ブロック(A)5〜50重量%、水添ランダム共重合体ブロック(B)40〜90重量%、および水添重合体ブロック(C)5〜40重量%とからなることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
水添共重合体(c)が、少なくとも2つの重合体ブロック(A)及び少なくとも1つの水添共重合体ブロック(B)を有し、
かつ次の特性(7)、(8)及び(9)を更に有する水添共重合体(c)であることを特徴とする請求項1又は3に記載の樹脂組成物。
(7)該ビニル芳香族単量体単位の含有量が該水添共重合体の重量に対して50〜80重量%、
(8)該少なくとも2つの重合体ブロック(A)の含有量が該水添共重合体の重量に対して8〜40重量%である。
(9)水添ランダム共重合体ブロック(B)の水素添加前のランダム共重合体ブロックにおいて、共役ジエン単量体単位のビニル結合量が8〜20%である。
【請求項5】
(c)水添共重合体に基因する損失正接(tanδ)のピークが、5〜35℃の範囲にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
(d)リン系難燃剤として、ホスファゼン化合物を1〜40重量部含有する樹脂組成物であって、室温中、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が0.04以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
(d)リン系難燃剤として、下記一般式(1)または下記一般式(2)で示される縮合リン酸エステルを1〜40重量部含有する樹脂組成物であって、室温中、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が0.04以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化1】

【化2】

(式中、Q1、Q2、Q3、Q4は、各々置換基であって各々独立に炭素数1から6のアルキル基を表し、R1、R2は各々置換基であってメチル基を表し、R3、R4は各々独立に水素原子またはメチル基を表す。nは1以上の平均値を有し、n1、n2は各々独立に0から2の整数を示し、m1、m2、m3、m4は各々独立に1から3の整数を示す。)
【請求項8】
共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる、成分(c)の水添共重合体とは異なる構造の水添ブロック共重合体(e)を、成分(a)+成分(b)+成分(c)+成分(d)+成分(e)=100重量部に対し、1〜30重量部含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
ポリオレフィン系重合体(f)を、成分(a)+成分(b)+成分(c)+成分(d)+成分(e)+成分(f)=100重量部に対し、1〜40重量部含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
無機充填剤(g)を、成分(a)+成分(b)+成分(c)+成分(d)+成分(e)+成分(f)+成分(g)=100重量部に対し、2〜100重量部含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
無機充填剤(g)が、ガラスフレーク、マイカ、タルクから選択される1種または2種以上である請求項10に記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−126520(P2007−126520A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318752(P2005−318752)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】