説明

制振材料並びに制振塗料

【課題】例えば10〜100℃といった広い温度領域において良好な制振性が発揮される制振材料並びに制振塗料を提供する。
【解決手段】アクリル系樹脂のマトリックス中に1nm〜500nmの直径を有するカーボンナノチューブが分散しており、前記カーボンナノチューブ表面には分散剤がコーティングされていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば10〜100℃といった広い温度領域において良好な制振性が発揮される制振材料並びに制振塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、制振材料としては、合成樹脂マトリックス中にマイカや炭酸カルシウムなどの無機充填剤やベンゾチアジル基を持つ化合物、ベンゾトリアゾール基を持つ化合物、ジフェニルアクリレート基を持つ化合物、あるいはベンゾフェノン基を持つ化合物などの有機減衰材料を配合したものが知られている。これらの制振材料の中でも建物や自動車等に適用されるものについては、制振性能が発揮される温度領域を常温付近に調整し易いという点から、アクリル系樹脂をマトリックス成分としたものが多用されている(例えば特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−41443号公報
【特許文献2】特開平7−269648号公報
【特許文献3】WO01/040391
【特許文献4】特開2001−247744号公報
【特許文献5】特開2003−3125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、例えば20〜60℃の室温付近で優れた制振性を発揮するアクリル系樹脂を用いた制振材料にあっては、これを屋根用塗料や自動車用塗料に適用したとき、夏場にはその塗膜の表面温度が室温を遙かに上回る70〜80℃といった温度に達することがあり、この場合、十分な制振性能が得られないという不具合を生じていた。
【0005】
本発明は、このような技術的課題に鑑みなされたものであり、室温を超える60〜100℃の温度領域においても優れた制振性が発揮される制振材料について鋭意研究を重ねた結果、カーボンナノチューブ(以下、CNTという)を添加することで制振性が発揮される温度領域を広げることができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至ったものである。
【0006】
すなわち本発明は、例えば10〜100℃といった広い温度領域において良好な制振性が発揮される制振材料並びに制振塗料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、樹脂マトリックス中にCNTが分散していることを特徴とする制振材料をその要旨とした。
【0008】
請求項2に記載の発明は、樹脂マトリックスがアクリル系樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の制振材料をその要旨とした。
【0009】
請求項3に記載の発明は、CNTが3〜10重量%の割合で含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の制振材料をその要旨とした。
【0010】
請求項4に記載の発明は、CNT表面に分散剤がコーティングされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の制振材料をその要旨とした。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の制振材料を用いたことを特徴とする制振塗料をその要旨とした。
【発明の効果】
【0012】
本発明の制振材料並びに制振塗料にあっては、樹脂マトリックス中にCNTが分散していることから、例えば10〜100℃といった広い温度領域において良好な制振性が発揮される。このため、この制振材料を屋根用塗料や自動車用塗料に適用したとき、夏場にその塗膜の表面温度が室温を遙かに上回る70〜80℃といった温度に達することがあっても、十分な制振性能が発揮されるというメリットがある。
【0013】
本発明の制振材料並びに制振塗料において、樹脂マトリックス中にCNTを分散することで、良好な制振性が発揮される温度領域を広げることができるメカニズムは明らかではないが、CNTはアスペクト比が高いため、制振性能のレベルが向上しているからではないかと考えられる。また、CNTは導電性を有しているので、樹脂マトリックスに加わる振動が樹脂マトリックス中に分散しているCNTによって熱に変換され、制振性の底上げがなされ、この結果、制振性能が発揮される温度領域が広がっているのではないかとも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1〜4並びに比較例1〜3に係る材料について、10℃〜90℃の各温度におけるE′を測定した結果を示すグラフ。
【図2】実施例1〜4並びに比較例1〜3に係る材料について、10℃〜90℃の各温度におけるE”を測定した結果を示すグラフ。
【図3】実施例1〜4並びに比較例1〜3に係る材料について、10℃〜90℃の各温度におけるtanδを測定した結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の制振材料並びに制振塗料を更に詳しく説明する。本発明の制振材料は、樹脂マトリックス中にCNTが分散していることを特徴とするものである。
【0016】
樹脂マトリックスを構成する樹脂としては、例えばアクリル樹脂(PMMA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタラート(PET、PETE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ウレタン系樹脂(PU)、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂、ポリアセタール樹脂(POM)、フェノール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂などから選ばれる少なくとも1種若しくは2種以上の混合物が挙げられる。
【0017】
上記樹脂の中でも、制振性能が発揮される温度領域を常温付近に調整することが容易であるという点からアクリル系樹脂が好ましい。アクリル系樹脂としては、アクリル酸、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸及び2−エチルヘキシルエステル、エトキシエチルエステルなどのメタクリル酸エステルの各単量体からなる単独重合体、これら単独重合体の混合物、あるいは前記単量体が複数重合した共重合体を挙げることができる。これらアクリル系樹脂の中でもアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルは、特に制振性能が発揮される温度領域を常温付近に調整し易く、より好ましい。
【0018】
上記樹脂マトリックス中に分散するCNTとしては、シングルウォールナノチューブ(SWNT)、マルチウォールナノチューブ(MWNT)のいずれでも良いが、入手容易性の点からマルチウォールナノチューブが好ましい。また、フラーレンを内包したカーボンナノバットも用いることができる。また、使用するCNTは、アーク法、レーザーアブレーション法、CDV法、DIPS法、CoMoCAT法、HiPCO法など、いずれの製法によって製造されたものでも良いが、入手容易性及び価格の点からアーク法によるものが好ましい。
【0019】
また、使用に適したCNTの直径としては、1nm〜500nmの範囲のものが好ましく、CNTの直径に対する長さの比、すなわち、アスペクト比は、特に限定されないが、例えば10〜10000の範囲のものが望ましい。また、CNTの長さは、例えば0.1μm〜100μmの範囲のものが好ましい。
【0020】
CNTの含有量としては、3〜10重量%の範囲が好ましく、より好ましくは5〜10重量%である。CNTの含有量としては、3重量%を下回る場合、制振性が発揮される温度領域を広げる効果を得ることができないか、或いは十分な効果を得ることができなくなる。10重量%を上回る場合には、上回った分だけの効果が得れず、不経済となる。
【0021】
上記効果を奏するCNTは、樹脂マトリックス中に均一に分散している必要がある。CNTが樹脂マトリックス中に均一に分散せずに、該樹脂マトリックスの一部に凝集している場合、制振性が発揮される温度領域を広げるという効果が系全体に発揮されず、結果として広い温度領域において良好な制振性が発揮される制振材料を得ることができなくなるからである。
【0022】
CNTを樹脂マトリックス中に均一に分散させる方法としては特に限定されないが、例えばCNTを樹脂マトリックス中に配合するのに先立って、CNT表面に分散剤をコーティングしておく方法を挙げることができる。この場合、樹脂マトリックス中に配合するCNTの表面には分散剤からなる層が形成されることから、凝集を生じたりする恐れが少なく、均質な性能を持つ制振材料を得ることができる。
【0023】
CNT表面にコーティングする分散剤としては特に限定されないが、カルボキシメチルセルロース(CMC)や、ポリカルボン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸アルキルアミン塩などのポリカルボン酸系分散剤を用いることができる。中でもCMCはCNT表面に吸着し易く、より安定な分散状態を実現できるというメリットがある。
【0024】
本発明の制振材料は、例えば制振塗料として用いることができる。この場合、上述の樹脂マトリックスを構成する樹脂は、CNTを配合した後、塗膜を形成する樹脂粒子の形態として、分散媒中に分散させるのである。分散媒としては、例えば水、及び水と一価アルコールとの混合液が挙げられる。一価アルコールとしては、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【実施例】
【0025】
下記表1に示す配合割合でアクリル樹脂、CNT及びCMCを配合した材料(実施例1〜4)と、比較としてアクリル樹脂のみからなる材料(比較例1)、アクリル樹脂に炭酸カルシウムを配合した材料(比較例2)並びにアクリル樹脂にマイカを配合した材料(比較例3)とについて、それぞれ周波数10Hzでの10℃〜90℃の各温度におけるE′(貯蔵弾性率)、E”(損失弾性率)及びtanδ(損失正接)を測定し、各材料の制振性能を評価した。その結果を図1〜図3に示した。
【0026】
【表1】

【0027】
図1〜図3から明らかなように、実施例1〜4に係る材料は、比較例1〜3に係る材料に比べてE′、E”及びtanδのいずれの数値も60℃を超える高温側がブロード化しており、低温域から高温域まで広い温度領域で良好な制振性能を有することが確認された。特に実施例1〜4に係る材料は、比較例1〜3に係る材料に比べたとき、60℃を超える高温側のE′及びE”の数値が高く、60℃を超える高温側で優れた制振性能を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂マトリックス中にカーボンナノチューブが分散していることを特徴とする制振材料。
【請求項2】
樹脂マトリックスがアクリル系樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の制振材料。
【請求項3】
カーボンナノチューブが3〜10重量%の割合で含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の制振材料。
【請求項4】
カーボンナノチューブ表面に分散剤がコーティングされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の制振材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の制振材料を用いたことを特徴とする制振塗料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−207168(P2012−207168A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75212(P2011−75212)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】