説明

制振遮音材料

【課題】優れた制振性と遮音性を発揮する制振遮音材料を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸成分構成単位とジオール成分構成単位からなるポリエステル樹脂(X)及び平均粒子径が3〜300μmである比重3.5以上の無機物を含む制振遮音材料であって、ポリエステル樹脂(X)の全ジカルボン酸成分構成単位数(A0)と全ジオール成分構成単位数(B0)の合計量に対する主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位数(A1)と主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位数(B1)の合計量の比率[(A1+B1)/(A0+B0)]が0.5〜1.0の範囲内であり、ポリエステル樹脂(X) の割合が10〜70質量%であり、平均粒子径が3〜300μmである比重3.5以上の無機物の割合が30〜90質量%であることを特徴とする制振遮音材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制振性と遮音性を発揮する制振遮音材料に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコン、OA機器、AV機器、携帯電話などの電気・電子機器、光学機器、精密機器、玩具、家庭・事務電気製品などの部品やハウジング、さらには自動車、航空機、船舶の部品に利用される成形材料には、耐衝撃性、耐熱性、強度、寸法安定性等の一般的な材料特性の他に、制振性(振動エネルギーを吸収する性質)が要求されている。制振性は成形品の形状に依存する部分も大きいが、使用する材料の弾性率や制振性にも依存する。これら多くの要求性能を単一の材料で全て満足させることは極めて困難であるため、複数の材料を複合化、例えば各種ポリマーのブレンドや、有機材料と無機材料の複合化、異種材料の積層等、して使用される。特に弾性率と制振性は互いに相反する性能であるため、弾性率の高い材料と制振材料を組み合わせて使用する必要がある。
【0003】
従来、制振材料のような振動エネルギーを吸収する材料として、塩化ビニル系樹脂に可塑剤を添加した軟質の塩化ビニル系樹脂が知られている。この軟質塩化ビニル系樹脂は、振動エネルギーを樹脂内部において摩擦熱として消費することで、振動エネルギーの減衰が計られるようになっていたが、十分な振動エネルギーの吸収、減衰ができなかった。
【0004】
また、加工性、機械的強度、材料コストの面から優れる制振材料としてブチルゴムやNBRブタジエンアクリルニトリルゴムなどのゴム材料が多く用いられている。ところがこれらのゴム材料は、一般の高分子材料の中では最も減衰性(振動エネルギーの伝達絶縁性能、あるいは伝達緩和性能)に優れてはいるものの、ゴム材料単独で制振材料として使用するには制振性が低く、例えば建造物や機器類の防振構造には、ゴム材料と鋼板とを積層した積層体、あるいはこれに塑性変形して振動エネルギーを吸収する鉛コアやオイルダンパーを組み合わせた制振構造体という複合形態で使用されていた。
【0005】
従来の制振材料としてのゴム材料は、上記の如く単独では使用できず、複合化を余儀なくされていたので、必然的にその防振構造も複雑なものとなってしまうことから、制振材料自身、ゴム材料自身の高制振性化が求められていた。
【0006】
また、制振材料として、主鎖のエステル結合間の炭素数が奇数である部分を持つポリエステル樹脂組成物が開示されている(特許文献1)。このポリエステル樹脂組成物は室温付近での制振性能に優れており、制振材料として有望な材料であるが、遮音性は有さず、固体振動と空気振動が混在する振動の抑制には使用し難いという問題がある。
【0007】
一方、高比重の金属、金属酸化物などの無機物を混合することで、遮音性を付与できることが開示されている(特許文献2)。この遮音材は比重4.0以上の無機物を使用し、優れた遮音性能を有しているが、損失係数が低く、制振性能は劣る問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−052377号公報
【特許文献2】特開昭58−90700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、優れた制振性と遮音性を発揮する制振遮音材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成する為に鋭意検討した結果、特定のポリエステル樹脂に比重の大きい無機物を配合することにより、優れた制振性と遮音性を発揮する制振遮音材料が得られることを見出した。しかしながら配合する無機物によっては、制振遮音材料をシートに成形した場合にフクレが生じるという問題があることが分かり、さらに検討を進めた結果、平均粒子径が特定の値である比重の大きい無機物を使用することによりフクレの問題を解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、ジカルボン酸成分構成単位とジオール成分構成単位からなるポポリエステル樹脂(X) と平均粒子径が3〜300μmである比重3.5以上の無機物を含む制振遮音材料であって、ポリエステル樹脂(X)の全ジカルボン酸成分構成単位数(A0)と全ジオール成分構成単位数(B0)の合計量に対する主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位数(A1)と主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位数(B1)の合計量の比率[(A1+B1)/(A0+B0)]が0.5〜1.0の範囲内であり、ポリエステル樹脂(X) の割合が10〜70質量%であり、平均粒子径が3〜300μmである比重3.5以上の無機物の割合が30〜90質量%であることを特徴とする制振遮音材料に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の制振遮音材料によれば、良好な制振性と遮音性を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の制振遮音材料は、ジカルボン酸成分構成単位とジオール成分構成単位からなるポリエステル樹脂(X) と平均粒子径が3〜300μmである比重3.5以上の無機物を含む。
ポリエステル樹脂(X)については、ジカルボン酸成分構成単位とジオール成分構成単位からなり、全ジカルボン酸成分構成単位数(A0)と全ジオール成分構成単位数(B0)の合計量に対する主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位数(A1)と主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位数(B1)の合計量の比率[(A1+B1)/(A0+B0)]が0.5〜1.0の範囲内であることを要件とする。
ここで、“ジカルボン酸成分構成単位(又はジオール成分構成単位)の主鎖中の炭素原子数”とは、一つのエステル結合〔−C(=O)−O−〕と次のエステル結合に挟まれたモノマー単位において、ポリエステル樹脂の主鎖に沿った最短経路上に存在する炭素原子数である。なお、各成分の構成単位数は、後述するH−NMRスペクトル測定結果の積分値の比から算出できる。
【0013】
本発明において、ポリエステル樹脂(X)の全ジカルボン酸成分構成単位数(A)と全ジオール成分構成単位数(B)の合計量に対する主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位数(A)と主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位数(B)の合計量の比率〔(A+B)/(A+B)〕が0.5〜1.0の範囲であり、0.7〜1.0の範囲が好ましい。また、上記のジカルボン酸成分構成単位の主鎖中の炭素原子数及びジオール成分構成単位の主鎖中の炭素原子数は、1、3、5、7、9が好ましい。
【0014】
ポリエステル樹脂(X)の主鎖中の炭素原子数が奇数となるジカルボン酸成分構成単位の例としては、イソフタル酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ブラシル酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸などに由来する構成単位が挙げられる。中でも、イソフタル酸、アゼライン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸に由来する構成単位が好ましく、イソフタル酸、アゼライン酸に由来する構成単位がさらに好ましい。ポリエステル樹脂(X)は、上記ジカルボン酸に由来する1種または2種以上の構成単位を含んでいてもよい。また、2種以上の構成単位を含む際には、イソフタル酸及びアゼライン酸に由来する構成単位を含むことが好ましい。
【0015】
ポリエステル樹脂(X)の主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位の例としては、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ペンタンジオール、1−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3−ヘキサンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2−エチル−1,5−ペンタンジオール、2−プロピル−1,5−ペンタンジオール、メタキシレングリコール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンなどに由来する構成単位が挙げられる。中でも、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、メタキシレングリコール及び1,3−シクロヘキサンジオールに由来する構成単位が好ましく、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール及びネオペンチルグリコールに由来する構成単位がさらに好ましい。ポリエステル樹脂(X)は、上記ジオールに由来する1種または2種以上の構成単位を含んでいてもよい。
【0016】
さらに、本発明の成形材料は、ポリエステル樹脂(X)の全ジカルボン酸成分構成単位数(A)に対する主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位数(A)の比率(A/A)が0.5〜1.0の範囲であることが好ましく、該比率(A/A)が0.7〜1.0の範囲であることが更に好ましい。
また、本発明の制振材料は、ポリエステル樹脂(X)の全ジオール成分構成単位数(B)に対するジオールに由来する構成単位数(B)の比率(B/B)が0.5〜1.0の範囲であることが好ましく、該比率(B/B)が0.7〜1.0の範囲であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明の成形材料においては、ポリエステル樹脂(X)は、(1)トリクロロエタン/フェノールの質量比40/60の混合溶媒中、25℃で測定した固有粘度が0.2〜2.0dL/gであり、且つ(2)示差走査熱量計で測定した降温時結晶化発熱ピークの熱量が5J/g以下であることが好ましい。上記(1)及び(2)を満足することにより、より高い制振性を得ることができる。
【0018】
本発明で用いられるポリエステル樹脂(X)は、前記したジカルボン酸成分構成単位及びジオール成分構成単位に加えて、本発明の効果を損なわない程度に他の構成単位が含まれていても良い。その種類に特に制限はなく、ポリエステル樹脂を形成し得るすべてのジカルボン酸及びそのエステル(これを「他のジカルボン酸類」と云う。)、ジオール(これを「他のジオール類」と云う。)或いはヒドロキシカルボン酸及びそのエステル(これを「ヒドロキシカルボン酸類」と云う。)に由来する構成単位を含むことができる。
【0019】
他のジカルボン酸類の例としてはテレフタル酸、オルトフタル酸、2−メチルテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸、イソホロンジカルボン酸、3,9−ビス(2−カルボキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどのジカルボン酸あるいはジカルボン酸エステル;トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリカルバリル酸などの三価以上の多価カルボン酸、或いはその誘導体が挙げられる。
【0020】
また、他のジオール類の例としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどの脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどのポリエーテル化合物類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコール類;1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン、ペンタシクロドデカンジメタノール、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンなどの脂環族ジオール類;4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’−スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)などのビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’―ジヒドロキシビフェニル、4,4’―ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’―ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物などが挙げられる。
【0021】
ヒドロキシカルボン酸類としては、例えばヒドロキシ安息香酸、ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシ酢酸、2,4−ジヒドロキシアセトフェノン、2−ヒドロキシヘキサデカン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、4−ヒドロキシフタル酸、4,4’−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、3,4−ジヒドロキシ桂皮酸などが挙げられる。
【0022】
本発明で用いられるポリエステル樹脂(X)を製造する方法に特に制限はなく、従来公知の方法を適用することができる。一般的には原料であるモノマーを重縮合することにより製造できる。例えばエステル交換法、直接エステル化法などの溶融重合法または溶液重合法を挙げることができる。エステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、また重合に用いる重合触媒、熱安定剤、光安定剤などの各種安定剤、重合調整剤なども従来既知のものを用いることができる。エステル交換触媒として、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウムなどの金属を含む化合物、またエステル化触媒として、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウムなどの金属を含む化合物、またエーテル化防止剤としてアミン化合物などが例示される。重縮合触媒としてはゲルマニウム、アンチモン、スズ、チタンなどの金属を含む化合物、例えば酸化ゲルマニウム(IV);酸化アンチモン(III)、トリフェニルスチビン、酢酸アンチモン(III);酸化スズ(II);チタン(IV)テトラブトキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシド、チタン(IV)ビス(アセチルアセトナート)ジイソプロポキシドなどのチタン酸エステル類が例示される。また熱安定剤としてリン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸などの各種リン化合物を加えることも有効である。その他光安定剤、帯電防止剤、滑剤、酸化防止剤、離型剤などを加えても良い。また、原料となるジカルボン酸成分は、前記のジカルボン酸成分構成単位が由来するジカルボン酸の他にそれらのジカルボン酸エステル、ジカルボン酸塩化物、活性アシル誘導体、ジニトリルなどのジカルボン酸誘導体を用いることもできる。
【0023】
本発明の制振遮音材料におけるポリエステル樹脂(X)の割合は10〜70質量%であり、好ましくは10〜50質量%であり、より好ましくは10〜30質量%であり特に好ましくは12〜20質量%である。
制振遮音材料におけるポリエステル樹脂(X) の質量割合を上記のようにすることで、成形性が良好でかつ優れた制振性と遮音性を有する制振遮音材料となる。
【0024】
本発明の制振遮音材料は平均粒子径が3〜300μmである比重3.5以上の無機物を30〜90質量%含む。無機物の比重は4.0以上であることが好ましい。
本発明に用いられる比重3.5以上の無機物としては例えば、鉄、鉛、モリブデン、銅、亜鉛、等の金属単体、又はこれらの化合物、例えば、酸化鉄(第一鉄、第二鉄、四三酸化鉄)、酸化鉛、酸化銅(第一銅、第二銅)、酸化亜鉛、酸化モリブデン等の金属酸化物、あるいは硫酸バリウムなどの無機物であり、経済性及び入手容易性と制振性能への影響から硫酸バリウムが好ましい。
【0025】
本発明の制振遮音材料中の比重3.5以上の無機物の平均粒子径が小さいとシート表面にフクレが生じる。そのため、本発明では平均粒子径が3〜300μmである比重3.5以上の無機物を用いる。比重3.5以上の無機物の平均粒子径が3〜300μmである場合にフクレが生じず、良好な外観のシートが得られるが、好ましくは3〜200μmである。ここで平均粒子径はX線透過式 粒度分布測定装置セディグラフ により測定した値である。
【0026】
本発明の制振遮音材料中の比重3.5以上の無機物の含有割合が高くなると遮音性も高くなる。本発明では制振遮音材料として物性のバランスから比重3.5以上の無機物の含有割合は30〜90質量%であり、好ましくは40〜80質量%であり、より好ましくは50〜75質量%である。
【0027】
本発明の制振遮音材料はポリエステル樹脂(X)、平均粒子径が3〜300μmである比重3.5以上の無機物を混合することで得られるが、混合方法は既知の方法を用いることができる。例えば、熱ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、インターミキサー、二軸混練機、押出機などの装置を用いて溶融混合する方法が挙げられる。溶融混合する方法の中でも、バッチ式の混合装置を用いるのが好ましい。特に、ニーダー、バンバリーミキサー、インターミキサーのいずれかの装置で混合すると混練時間を自由に調整でき、樹脂組成物の分散状態が良好となるために好ましい。なおその他添加剤などの添加方法、添加順序などは特に限定されない。
【0028】
本発明の制振遮音材料にはさらに振動エネルギー吸収を向上させる目的でマイカ鱗片を配合することができる。マイカ鱗片の種類は特に限定されないが、振動エネルギー吸収効果の高い鱗片状のマイカである白マイカが好ましい。また、分散させたマイカ鱗片が制振遮音材料内部で配向し易いため、本発明の制振遮音材料中のマイカ鱗片の平均粒子径は25〜500μmのものが好適である。特に制振性能が高い制振遮音材料とするには、制振遮音材料中のマイカ鱗片の割合を10〜30質量%とすることが好ましい。
【0029】
本発明の制振遮音材料はポリエステル樹脂(X) 及び平均粒子径が3〜300μmである比重3.5以上の無機物を含む制振遮音材料であるが、前記したマイカ鱗片の他に、必要に応じて、1種以上の添加剤、例えば、分散剤、相溶化剤、界面活性剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、架橋剤、酸化防止剤、老化防止剤、耐候剤、耐熱剤、加工助剤、光沢剤、着色剤(顔料、染料)発泡剤、発泡助剤、導電性材料、無機充填材などを本発明の効果を阻害しない範囲で添加することができる。
【0030】
本発明の制振遮音材料は、パソコン、OA機器、AV機器、携帯電話などの電気・電子機器、光学機器、精密機器、玩具、家庭・事務電気製品などの部品やハウジング、さらには自動車、航空機、船舶などの部品に好適に利用することができる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を示すが本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
ポリエステル樹脂(X)及び制振遮音材料の評価は以下の方法によった。
(1)ポリエステル樹脂ポリエステルの各構成単位のモル比:〔(A+B)/(A+B)〕、(A/A)、(B/B):400MHz−H−NMRスペクトル測定結果の積分値の比から算出した。
【0032】
(2)ポリエステル樹脂(X)の固有粘度([η]):
ポリエステル樹脂(X)の固有粘度([η])は、トリクロロエタン/フェノール=40/60(質量比)混合溶媒にポリエステル樹脂を溶解させ25℃に保持して、キャノンフェンスケ型粘度計を使用して測定した。
【0033】
(3)ポリエステル樹脂(X)の降温時結晶化発熱ピークの熱量(ΔHc):
ポリエステル樹脂(X)の降温時結晶化発熱ピークの熱量(ΔHc)は、島津製作所製DSC/TA−50WS型示差走査熱量計を使用して測定した。試料約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス気流中(30ml/分)、昇温速度20℃/分で280℃まで昇温、280℃で1分間保持した後、10℃/分の降温速度で降温した際に現れる発熱ピークの面積から求めた。
【0034】
(4)損失係数:
ニーダーにより混合した試料(制振遮音材料)を熱プレスにより100℃で成型し、厚み2mmのシートとした。得られたシートを10mm×150mmに切り出して試験片とし、厚さ1mmの基板(アルミニウム合金5052材)上に熱プレスにより50℃で熱圧着あるいは二液硬化型エポキシ系接着剤(セメダイン株式会社製、商品名:セメダインSG−EPO、EP008)にて接着させて非拘束型制振材を作製した。得られた非拘束型制振材を損失係数測定装置(株式会社小野測器製)を用いて、測定温度範囲が0〜80℃の条件で中央加振法により500Hz反共振点での損失係数を測定した。上記の測定温度範囲において得られた損失係数のうち20℃における損失係数を比較することで制振性を評価した。なお、損失係数が大きいほど制振性が高い。
【0035】
(5)音響透過損失:
(4)と同様に得られたシートを300mm×300mmに切り出して試験片とし、厚さ1mmの基板(アルミニウム合金5052材)上に二液硬化型エポキシ系接着剤(セメダイン株式会社製、商品名:セメダインSG−EPO、EP008)にて接着させて試験片を作製し、125Hz〜16KHzの音響透過損失(dB)を測定した。測定温度は23℃。なお、音響透過損失が大きいほど遮音性が高い。
【0036】
(6)フクレ:
(4)と同様に得られたシートの外観を観察し、○(フクレ無し、外観良好)、△(わずかにフクレあり、外観やや不良)。×(フクレあり、外観不良)と評価した。
【0037】
実施例1
充填塔式精留塔、攪拌翼、分縮器、全縮器、コールドトラップ、温度計、加熱装置及び窒素ガス導入管を備えた内容積30リットル(L)のポリエステル製造装置に、イソフタル酸(エイ・ジイ・インターナショナル・ケミカル株式会社製)9950g(60.3モル)、アゼライン酸(コグニス社製、商品名:EMEROX1144、本商品はアゼライン酸を93.3モル%含み、ジカルボン酸の合計量は99.97%である。)5376g(29.7モル)、2−メチル−1,3−プロパンジオール(大連化学工業株式会社製)14600g(162モル)を加え、常圧、窒素雰囲気下で225℃迄昇温して3.0時間エステル化反応を行った。溜去される縮合水の量をモニターしながらイソフタル酸及びアゼライン酸の反応転化率が85モル%以上となった後、チタン(IV)テトラブトキシド・モノマー(和光純薬株式会社製)14.3g(総仕込み原料質量から縮合水質量を除いた初期縮合反応生成物の全質量に対するチタンの濃度が70.5ppm)を加え、昇温と減圧を徐々に行い、2−メチル−1,3−プロパンジオールを系外に抜き出しつつ、最終的に240〜250℃、0.4kPa以下で重縮合反応を行った。徐々に反応混合物の粘度と攪拌トルク値が上昇し、適度な粘度に到達した時点あるいは2−メチル−1,3−プロパンジオールの留出が停止した時点で反応を終了した。
得られたポリエステル樹脂の性状は[η]=0.71(dL/g)、ΔHc=0(J/g)、H−NMR〔400MHz,CDCl,内部標準TMS):δ(ppm)=7.5〜8.9(Ph−,4H);3.5〜4.6(−C−CH(CH)−C−,6H);1.0〜2.6(−CH(CH)CH−,−CHCH(C)CH−,−CO(CCO−,13H〕であった。
このポリエステル樹脂〔(A1+B1)/(A0+B0)=1.0;(A/A)=1.0;(B1/B)=1.0〕14.80質量%、マイカ鱗片(山口雲母株式会社製、商品名:CS−060DC;平均粒子径200μm、比重2.7〜3.1)18.45質量%、カーボン粉末(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製:ケッチェンブラックEC300J) 0.25質量%、硫酸バリウム(日本ソルベイ株式会社製:Gグレード;平均粒子径4.0μm、比重4.4)66.5質量%をニーダーを用いて混練して制振遮音材料を得た。得られた制振遮音材料の物性を第1表に示す。
【0038】
実施例2
実施例1で使用したポリエステル樹脂14.80質量%、マイカ鱗片(山口雲母株式会社製、商品名:CS−060DC;平均粒子径200μm、比重2.7〜3.1)17.25質量%、カーボン粉末(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製:ケッチェンブラックEC300J) 0.25質量%、硫酸バリウム(日本ソルベイ株式会社製:Gグレード;平均粒子径4.0μm、比重4.4)63.50質量%、臭素系難燃剤(Albermarle製saytex8010)3.00質量%、Sb2O3 1.20質量%をニーダーを用いて混練して制振遮音材料を得た。得られた制振遮音材料の物性を第1表に示す。
【0039】
実施例3
実施例1で使用したポリエステル樹脂14.80質量%、マイカ鱗片(山口雲母株式会社製、商品名:CS−060DC;平均粒子径200μm、比重2.7〜3.1)12.25質量%、カーボン粉末(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製:ケッチェンブラックEC300J)0.25質量%、造粒した酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製:JIS規格1種 比重5.6 平均粒子径100μm)68.50質量%、臭素系難燃剤(Albermarle製saytex8010)3.00質量%、Sb2O3 1.20質量%をニーダーを用いて混練して制振遮音材料を得た。得られた制振遮音材料の物性を第1表に示す。
【0040】
比較例1
実施例1で使用したポリエステル樹脂14.80質量%、マイカ鱗片(山口雲母株式会社製、商品名:CS−060DC;平均粒子径200μm、比重2.7〜3.1)84.95質量%、カーボン粉末(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製:ケッチェンブラックEC300J) 0.25質量%をニーダーを用いて混練して制振遮音材料を得た。得られた制振遮音材料の物性を第1表に示す。
【0041】
比較例2
使用する硫酸バリウムを日本ソルベイ株式会社製:HD80グレード;平均粒子径1.0μm、比重4.4)に変更した以外は実施例2と同様にして制振遮音材料を得た。得られた制振遮音材料の物性を第1表に示す。
【0042】
比較例3
使用する硫酸バリウムを日本ソルベイ株式会社製:Nグレード;平均粒子径1.7μm、比重4.4)に変更した以外は実施例2と同様にして制振遮音材料を得た。得られた制振遮音材料の物性を第1表に示す。
【0043】
比較例4
使用する酸化亜鉛を造粒しない酸化亜鉛 (堺化学工業株式会社製:JIS規格1種 比重5.6 平均粒子径0.6μm)に変更した以外は実施例2と同様にして制振遮音材料を得た。得られた制振遮音材料の物性を第1表に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
第1表に示すように、実施例の制振遮音材料は、フクレの問題が発生することなく、比較例の制振材料(比較例1)と比べて遮音性が高い。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の制振遮音材料は、パソコン、OA機器、AV機器、携帯電話などの電気・電子機器、光学機器、精密機器、玩具、家庭・事務電気製品などの部品やハウジング、さらには自動車、航空機、船舶などの部品として振動の発生する箇所に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分構成単位とジオール成分構成単位からなるポリエステル樹脂(X)及び平均粒子径が3〜300μmである比重3.5以上の無機物を含む制振遮音材料であって、ポリエステル樹脂(X)の全ジカルボン酸成分構成単位数(A0)と全ジオール成分構成単位数(B0)の合計量に対する主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位数(A1)と主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位数(B1)の合計量の比率[(A1+B1)/(A0+B0)]が0.5〜1.0の範囲内であり、ポリエステル樹脂(X)の割合が10〜70質量%であり、平均粒子径が3〜300μmである比重3.5以上の無機物の割合が30〜90質量%であることを特徴とする制振遮音材料。
【請求項2】
ポリエステル樹脂(X)の主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位が、イソフタル酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ブラシル酸及び1,3−シクロヘキサンジカルボン酸からなる群より選ばれた一種以上のジカルボン酸に由来する構成単位である請求項1に記載の制振遮音材料。
【請求項3】
ポリエステル樹脂(X)の主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位が、イソフタル酸及び/またはアゼライン酸に由来する構成単位である請求項1に記載の制振遮音材料。
【請求項4】
ポリエステル樹脂(X)の全ジカルボン酸成分構成単位数(A0)中の主鎖中の炭素原子数が奇数であるジカルボン酸成分構成単位数(A1)の割合(A1/A0)が0.5〜1.0の範囲内である請求項1〜3のいずれかに記載の制振遮音材料。
【請求項5】
ポリエステル樹脂(X)の主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位が、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、メタキシレングリコール及び1,3−シクロヘキサンジオールからなる群より選ばれた一種以上のジオールに由来する構成単位である請求項1〜4のいずれかに記載の制振遮音材料。
【請求項6】
ポリエステル樹脂(X)の主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位が、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール及びネオペンチルグリコールからなる群より選ばれた一種以上のジオールに由来する構成単位である請求項1〜4のいずれかに記載の制振遮音材料。
【請求項7】
ポリエステル樹脂(X)の全ジオール成分構成単位数(B0)中の主鎖中の炭素原子数が奇数であるジオール成分構成単位数(B1)の割合(B1/B0)が0.5〜1.0の範囲内である請求項1〜6のいずれかに記載の制振遮音材料。
【請求項8】
ポリエステル樹脂(X)が、トリクロロエタン/フェノールの質量比40/60の混合溶媒中、25℃で測定した固有粘度が0.2〜2.0dL/gであり、且つ示差走査熱量計で測定した降温度結晶化発熱ピークの熱量が5J/g以下である請求項1〜7のいずれかに記載の制振遮音材料。
【請求項9】
比重3.5以上の無機物が、硫酸バリウムおよび酸化亜鉛から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の制振遮音材料。
【請求項10】
さらに、マイカ鱗片を含む請求項1〜9のいずれかに記載の制振遮音材料。
【請求項11】
マイカ鱗片の割合が10〜30質量%である請求項10に記載の制振遮音材料。

【公開番号】特開2012−236907(P2012−236907A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106636(P2011−106636)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】