説明

制癌剤の有効成分としての環状デプシペプチドおよび当該環状デプシペプチドを有効成分として含有する制癌剤。

【課題】制癌剤の有効成分として有用である新規な合成環状デプシペプチドを提供する。
【解決手段】有効成分として下記式(3)で表される新規な合成環状デプシペプチド。


(上記一般式(3)中、R〜R13は、水素原子または炭素原子数1個〜6個の分岐または直鎖のアルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性物質としての環状デプシペプチドに関し、より詳細には、制癌剤の有効成分として有用である新規な合成環状デプシペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然生物由来の環状デプシペプチドの生理活性に着目した制癌剤への応用が期待されており、生理活性物質としての利用を目的とした新規な環状デプシペプチドの単離が種々試みられている。特開平7−233084号公報(特許文献1)、特表2006−501291号公報(特許文献2)および特表2006−523214号公報(特許文献3)は、環状デプシペプチドの癌に対する薬理作用について開示する。癌に対してより強い薬理作用を奏することのできる新規な環状デプシペプチドであって、大量合成が可能な環状デプシペプチドの創出が求められている。
【特許文献1】特開平7−233084号公報
【特許文献2】特表2006−501291号公報
【特許文献3】特表2006−523214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、制癌剤の有効成分として有用である新規な合成環状デプシペプチドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、制癌剤として有用である新規な環状デプシペプチドの創出につき鋭意検討する中で、頭楯目の海洋肉食性軟体動物である Philinopsis speciosa に着目し、Philinopsis speciosa の抽出物の分画を進めたところ、純粋な活性ペプチドの単離に成功し、これをkulokekahilide-2と命名してJ.Nat.Prod.に報告した。天然由来のkulokekahilide-2の生理活性について検証したところ、ガン細胞株であるP388、SK-OV-3、MDA-MB-435、およびA-10に対してIC50の値が、それぞれ、4.2、7.5、14.6、及び59.1
nMという強い細胞毒性を示すことを発見した。さらに、この天然由来のkulokekahilide-2について高分解能質量分析および一次元および二次元NMRスペクトル(COSY、HMQC、HMBC、NOESY)の解析に基づいて構造解析を行った結果、当該ペプチドがC446710の組成式を有し、alanine(Ala)、Isoleucine
(Ile)、N-methylglycine (NMeGly)、N-methylphenylalanine (NMePhe)、および alanine の5つのアミノ酸、ならびに、2-
hydroxyisocaproic acid (leucic acid, Hica) および
5,7-dihydroxy-2,6,8-trimethyl-2,8-decadienoic acid (5S,6S,7S-Dtda) の2つのヒドロキシ脂肪酸から構成されている新規な環状デプシペプチドであることを導出し、また、その構成アミノ酸の立体配置についても推定した。さらに、この化合物のNMRスペクトルを詳細に検討したところ、NMeGlyとNMePheのアミド結合部分においてcis-体と
trans-体の2つの配座異性体が含まれていることが分かった( Y. Nakao, W. Y. Yoshida, Y. Takada, J. Kimura,
L. Yang, S. L .Mooberry, and P. J. Scheuer, J.Nat.Prod., 2004, 67 1332-1340 )。本発明者らは、上述した構造解析の結果、下記構造式(I)で表される環状デプシペプチドの合成を試みて、これに成功した。合成したkulokekahilide-2の構造式を下記式(I)に示す。なお、下記式(I)は原子省略法によって記載されている。したがって下記式(I)において省略された末端は全てメチル基である。
【0005】
【化4】

【0006】
合成したkulokekahilide-2の生理活性について測定したところ、Philinopsis speciosa から単離した天然由来のkulokekahilide-2について観察された強い細胞毒性が全く見られず、その生理活性が低いことがわかった。そこで、あらためて、天然由来のkulokekahilide-2のNMRスペクトルの解析結果と、合成物のそれとを比較したところ、その解析結果が一致しないという事態が生じ、天然由来のkulokekahilide-2とその合成物の同一性について一定の疑義が生じた。
【0007】
この結果を受け、本発明者らは、上述した合成kulokekahilide-2を基準物資として、種々の立体異性体の合成を試みた。そして合成に成功した全ての立体異性体について、それらの生理活性を検証したところ、そのうちの2つの立体異性体が非常に強い細胞毒性を示すことを発見した。さらに、本発明者らは、天然由来のkulokekahilide-2のスペクトルと全く同様なスペクトルを示す化合物を異性体合成物から見出した。また、当該合成物が天然物と同等の細胞毒性を示すことを確認した。この化合物の確認からkulokekahilide-2としてJ.Nat.Prod.に報告した構造式に誤りがあったことが明白となった。本発明者らは、以上の知見を得て本発明に至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、
一般式(1)
【0009】
【化5】

で表される化合物、又はその薬理上許容される塩若しくはエステル誘導体が提供される。(上記一般式(1)中、R〜R13は、水素原子または炭素原子数1個〜6個の分岐または直鎖のアルキル基を示す。)また、本発明によれば、
一般式(2)
【0010】
【化6】

で表される化合物、又はその薬理上許容される塩若しくはエステル誘導体が提供される。(上記一般式(2)中、R〜R13は、水素原子または炭素原子数1個〜6個の分岐または直鎖のアルキル基を示す。)さらに、本発明によれば、
一般式(3)
【0011】
【化7】

で表される化合物、又はその薬理上許容される塩若しくはエステル誘導体が提供される。(上記一般式(3)中、R〜R13は、水素原子または炭素原子数1個〜6個の分岐または直鎖のアルキル基を示す。)
【0012】
さらに加えて、本発明によれば、上記一般式(1)〜(3)で表される化合物、又はその薬理上許容される塩若しくはエステル誘導体を有効成分として含有する制癌剤が提供される。
【発明の効果】
【0013】
上述したように、本発明によれば、制癌剤の有効成分として有用であり、大量合成が可能である新規な環状デプシペプチドが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施の形態をもって説明するが、本発明は、以下に述べる実施の
形態に限定されるものではない。本発明の環状デプシペプチドについて以下説明する。なお、これ以降、本明細書中においては、混乱を避けるため、誤った構造解析結果に基づいて合成された細胞毒性を示さない合成物については、kulokekahilide-2(誤)と標記し、本発明に係る、天然由来の構造を合成により明らかにし、強い細胞毒性をもつ正しい構造の化合物をkulokekahilide-2(正)と標記して区別するものとする。
【0015】
本明細書は、ガン細胞株について強い細胞毒性を示す新規な環状デプシペプチドの好適な実施形態として、合成したkulokekahilide-2(誤)の2つの立体異性体に相当する化合物を開示する。以下、本明細書中においては、上述した2つ立体異性体をそれぞれ、kulokekahilide-2A、及び、kulokekahilide-2Bとして参照する。さらに、本明細書は、好適な実施形態として天然由来のkulokekahilide-2の正しい構造に基づいたその合成物kulokekahilide-2(正)を開示する。kulokekahilide-2Aの構造式を下記式(4)に、kulokekahilide-2Bの構造式を下記式(5)に示す。さらに、kulokekahilide-2(正)の構造式を下記式(6)に示す。なお、下記式(4)〜(6)は原子省略法によって記載されている。したがって下記式(4)〜(6)において省略された末端は全てメチル基である。
【0016】
【化8】

【0017】
【化9】

【0018】
【化10】

【0019】
本実施形態のkulokekahilide-2Aは、上記式(I)に示した合成したkulokekahilide-2(誤)におけるアミノ酸の立体配置を一部変更したものであり、D-alanine(D-Ala)をL-alanine
(L-Ala)とし、L-methylphenylalanine (L-NMePhe)をD-methylphenylalanine (D-NMePhe)として構成した立体異性体である。同じく、本実施形態のkulokekahilide-2Bも、合成したkulokekahilide-2(誤)におけるアミノ酸の立体配置を一部変更したものであり、D-AlaをL-Alaとし、L-AlaをD-Alaとして構成した立体異性体である。本実施形態のkulokekahilide-2(正)も、合成したkulokekahilide-2(誤)におけるアミノ酸の立体配置を一部変更したものであり、D-AlaをL-Ala、L-AlaをD-Ala、そしてL-NMePheをD-NMePheとして構成した立体異性体である。本実施形態のkulokekahilide-2Aおよびkulokekahilide-2Bは、いずれも、P388マウス白血病細胞、およびヒト子宮がん由来HeLa細胞に対して強い細胞毒性を示し、特に、kulokekahilide-2Aは、上記2細胞に対して抗癌作用を示す抗生物質として知られるアドリアマイシンよりも強い細胞毒性を示す。さらに、本実施形態のkulokekahilide-2(正)に至っては、予期したようにヒト子宮がん由来HeLa細胞に対してkulokekahilide-2Aよりも強い細胞毒性を示す。
【0020】
すなわち、本実施形態によれば、新規な環状デプシペプチドである、kulokekahilide-2A、kulokekahilide-2B、およびkulokekahilide-2(正)のうち少なくともいずれか1つを有効成分として含有する新規な化学療法制癌剤が提供される。なお、本発明が開示する技術的思想は、例えば上述した実施形態を例にとれば、上記式(4)〜(6)に記載した構造式によって表される化合物の他、当該化合物の薬理上許容される塩若しくはエステル誘導体をも含む概念であることを理解されたい。すなわち、本発明は、ヒト又は動物の体内で代謝されることによって上記式(4)〜(6)に記載した構造式によって表される化合物に変化して薬理活性を示す生化学的前駆物質を含む。本発明において、薬理上許容される塩とは、常法に従って上記式(4)〜(6)に記載した構造式によって表される化合物を酸または塩基で処理することにより得られる塩であって、著しい毒性を有さず、医薬として使用され得る塩をいう。このような酸付加塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等の無機酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸等の有機酸等による付加塩があげられ、塩基による塩としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、グアニジン、トリエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の有機塩基による塩があげられる。また、本発明において、薬理上許容されるエステル誘導体とは、例えば上述した実施形態を例にとれば、上記式(4)〜(6)に記載した構造式によって表される化合物の水酸基が保護されたエステル誘導体をいう。本発明においては、上述した化合物の水酸基中の水素原子をアシル基で置換することによってエステル誘導体を形成することができる。以上、本実施形態のkulokekahilide-2A、kulokekahilide-2Bおよびkulokekahilide-2(正)をもって、本発明の化合物の構造およびその生理活性について説明してきたが、次にこれらの製造方法について以下説明する。
【0021】
本実施形態のkulokekahilide-2Aは、以下に示す手順で合成することができる。以下、順を追って説明する。まず、カルボキシル基をトリクロロエチル基
(Tce) で保護したL-イソロイシン(L-Ile-OTce)とアミノ基をt-ブチルオキシカルボニル基(Boc)で保護したN-メチルグリシン(Boc-N-MeGly)を、縮合剤としてN-エチル-N’-3-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)を用い、ジぺプチドを合成する。次いで、得られたジペプチドのN-末端側の保護基を除去したジペプチドをBoc-D-N-メチルフェニルアラニン
(Boc-D-NMePhe)と反応させ、トリペプチドを得る。同様な保護基操作により、L-アラニン(L-Ala)、D-2-ヒドロキシイソカプロン酸
(D-Hica)、5,7-ジヒドロキシ-2,6,8-トリメチル-2,8-デカジエン酸 (5S,6S,7S-Dtda)、 そして、最後にL-アラニン
(L-Ala)を縮合し、環化させることによってkulokekahilide-2Aを得ることができる。
【0022】
ここで、上述した本実施形態のkulokekahilide-2Aの合成におけるアミノ酸以外の要素である、D-Hica および 5S,6S,7S-Dtdaの合成方法について以下説明する。D-Hicaは、市販のL-Hicaのカルボキシル基をメチルエステル化し、水酸基の立体を、安息香酸を酸成分とした光延反応により反転させ、これをアルカリ加水分解することにより得ることができる。また、上述した5S,6S,7S-Dtdaは、市販の(S)-(+)-4-イソプロピル-3-プロピオニル-2-オキサゾリジノンを出発物質としたアンチ選択的アルドール縮合により、Dtdaの6〜10位に相当する炭素骨格を持つ化合物を得たのち、これをアルデヒドに変換し、向山アルドール反応により5位の水酸基の立体がR体である化合物を得て、この5位の水酸基の立体をS体へ反転後、メチルチオメチル基で保護し、これを加水分解することにより得ることができる。
る。
【0023】
なお、上述した合成工程における縮合剤としてEDCI・HClのほかに、ヘキサフルオロリン酸2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1, 1, 3, 3-テトラメチルウロニウム(HBTU)を用いることができ、添加剤として、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、そして1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)を用いることができる。以上、本実施形態のkulokekahilide-2Aの製造方法について説明してきたが、次に、本実施形態のkulokekahilide-2Bの製造方法について説明する。
【0024】
本実施形態のkulokekahilide-2Bは、以下に示す手順で合成することができる。以下、順を追って説明する。まず、カルボキシル基をトリクロロエチル基
(Tce) で保護したL-イソロイシン(L-Ile-OTce)とアミノ基をt-ブチルオキシカルボニル基(Boc)で保護したN-メチルグリシン(Boc-N-MeGly)
を、縮合剤としてN-エチル-N’-3-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)を用い、ジぺプチドを合成する。次いで、得られたジペプチドのN-末端側の保護基を除去したジペプチドをBoc-L-N-メチルフェニルアラニン
(Boc-L-NMePhe) と反応させ、トリペプチドを得る。同様な保護基操作により、L-アラニン(L-Ala)、D-2-ヒドロキシイソカプロン酸
(D-Hica)、5,7-ジヒドロキシ-2,6,8-トリメチル-2,8-デカジエン酸 (5S, 6S, 7S-Dtda)、 そして、最後にD-アラニン
(D-Ala)を縮合し、環化させることによってkulokekahilide-2Bを得ることができる。
【0025】
なお、縮合剤としてはEDCI・HClのほかに、ベンゾトリアゾール-1-イル-トリス(ピロリジノ)-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェイト(PyBOP)、テトラフルオロホウ酸2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,
1, 3, 3-テトラメチルウロニウム(TBTU)を用いることができ、添加剤として、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、そして1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)を用いることができる。また、アミノ酸でないD-Hica
および 5S,6S,7S-Dtdaの合成方法については、kulokekahilide-2Aの製造方法について上述したのと同様である。
【0026】
本実施形態のkulokekahilide-2(正)は、以下に示す手順で合成することができる。以下、順を追って説明する。まず、カルボキシル基をトリクロロエチル基
(Tce) で保護したL-イソロイシン(L-Ile-OTce)とアミノ基をt-ブチルオキシカルボニル基(Boc)で保護したN-メチルグリシン(Boc-N-MeGly)
を、縮合剤としてN-エチル-N’-3-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)を用い、ジぺプチドを合成する。次いで、得られたジペプチドのN-末端側の保護基を除去したジペプチドをBoc-D-N-メチルフェニルアラニン
(Boc-D-NMePhe) と反応させ、トリペプチドを得る。同様な保護基操作により、L-アラニン(L-Ala)、D-2-ヒドロキシイソカプロン酸
(D-Hica)、5,7-ジヒドロキシ-2,6,8-トリメチル-2,8-デカジエン酸 (5S, 6S, 7S-Dtda)を縮合させる。この操作までkulokekahilide-2A
と同様である。そして、最後にD-アラニン (D-Ala)を縮合し、環化させることによってkulokekahilide-2(正)を得ることができる。
【0027】
なお、縮合剤としてはEDCI・HClのほかに、ヘキサフルオロリン酸2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1, 1, 3, 3-テトラメチルウロニウム(HBTU)を用いることができ、この他ベンゾトリアゾール-1-イル-トリス(ピロリジノ)-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェイト(PyBOP)も利用できる。添加剤として、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、そして1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)を用いることができる。また、アミノ酸でないD-Hica
および 5S,6S,7S-Dtdaの合成方法については、kulokekahilide-2Aの製造方法について上述したのと同様である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の新規な環状デプシペプチドの好適な実施の形態である、kulokekahilide-2A、kulokekahilide-2B、およびkulokekahilide-2(正)について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)kulokekahilide-2Aの合成
(1−1)ジペプチド(Boc-NMeGly-L-Ile-OTce)
Boc-L-Ile (2.32 g, 10.0 mmol) のCH2Cl2 (20
mL) に溶液に、トリクロロエタノール (TceOH, 1.1 mL, 10.0 mmol)、DMAP (122 mg, 1.0 mmol)、縮合剤にEDCI・HCl
(2.30 g, 12.0 mmol) を加え、Boc-L-Ile-OTceを得た。これに4 M塩酸ジオキサン溶液 (20 mL) で処理し、L-Ile-OTce・HClとした。この塩酸塩をCH2Cl2-ジメチルホルムアミド
(DMF) (1:1) (20 mL) に溶解し、トリエチルアミン (Et3N, 1.4 mL, 10.0 mmol)、Boc-NMeGly
(2.1 g, 11.0 mmol)、HOBt (1.49 g, 10.0 mmol)、そしてEDC・HCl (4.22 g, 22.0 mmol) を加え、縮合し、Boc-ジペプチド
(3.71 g, 8.56 mmol, 86%) を得た。
【0030】
(1−2)トリペプチド (Boc-D-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
Boc-ジペプチド (3.71 g, 8.60 mmol) を、4 M塩酸-ジオキサン溶液 (20 mL)で処理し、ジペプチド塩酸塩を得た。この塩酸塩
(644 mg, 1.74 mmol) のCH2Cl2-DMF (1:1, 6 mL) 溶液に、ジイソプロピルエチルアミン(iPr2NEt,
935 μL, 5.2 mmol)、Boc-D-NMePhe (486 mg, 1.74 mmol) を加え、HBTU(792 mg, 2.09 mmol) を用いて縮合し、Boc-トリペプチド
(882 mg, 1.48 mmol, 85%)を得た。
(1−3)テトラペプチド (Boc-L-Ala-D-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
Boc-トリペプチド (2.62 g, 4.41 mmol)を、4 M塩酸-ジオキサン溶液 (10 mL)で処理し、この塩酸塩
(2.26 g, 4.25 mmol)のCH2Cl2-DMF (1:1, 14 mL) 溶液に、iPr2NEt
(2.3 mL, 12.8 mmol)、Boc-L-Ala (885 mg, 4.68 mmol)、HBTU (1.93 g, 5.1 mmol) を加え縮合し、Boc-テトラペプチド
(2.14 g , 3.21 mmol, 76%) を得た。
【0031】
(1−4)ペンタペプチド (D-Hica-L-Ala-D-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
Boc-テトラペプチド (2.14 g, 3.21 mmol) を、4 M塩酸-ジオキサン溶液 (10 mL) で処理し、その塩酸塩を得た。この塩酸塩
(1.93 g, 3.2 mmol) のDMF (6.4 mL) 溶液に、Et3N (449 μL, 3.2 mmol)、D-Hica(465
mg, 3.52 mmol)、HOBt (865 mg, 6.4 mmol)、EDCI・HCl (920 mg, 4.8 mmol)を加え縮合し、ペンタペプチド
(1.64 g, 2.41 mmol, 75%) を得た。
【0032】
(1−5)デプシヘキサペプチド(5S, 6S,
7S-5-O-MTM-7-O-TBS-Dtda-D-Hica- L-Ala-D-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
ペンタペプチド (340 mg,
0.5 mmol) のCH2Cl2 (2.0 mL) 溶液に、5位をメチルチオメチル基 (MTM)、7位をt-ブチルジメチルシリル基(TBS)で保護したジヒドロキシ酸
(5S, 6S, 7S-5-O-MTM- 7-O-TBS-Dtda , 208.4 mg, 0.5 mmol)、DMAP (61 mg, 0.5 mmol)、EDCI・HCl
(192 mg, 1.0 mmol)を加え、縮合し、デプシヘキサペプチド (449 mg, 0.42 mmol, 83%) を得た。
【0033】
(1−6)デプシヘプタペプチド(Fmoc-L-Ala-(5S,
6S, 7S)-5-O-MTM-Dtda-D-Hica- L-Ala-D-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
デプシヘキサペプチド (486.7
mg, 0.45 mmol) をフッ化水素-ピリジン塩 (1 g) のピリジン-テトラヒドロフラン (THF) (1:4, 5 mL) 溶液 (10 mL) に溶かし、40
oCで反応させ、7位のTBS基を除去した (383.3 mg, 0.40 mmol, 88%)。このアルコール (368.1 mg,
0.38 mmol) のCH2Cl2 (1.5 mL) 溶液に、Fmoc-L-アラニン(175.6 mg,
0.56 mmol)、DMAP (45.9 mg, 0.38 mmol)、EDCI・HCl (144.2 mg, 0.75 mmol)を加え、縮合し、デプシヘプタペプチド
(449.5 mg, 0.36 mmol, 95%)を得た。
【0034】
(1−7)セコ酸(L-H2N-Ala-(5S,
6S, 7S)-5-O-MTM-Dtda-D-Hica-L-Ala- D-NMePhe-
NMeGly-L-Ile-COOH)
デプシヘプタペプチド (434.1
mg, 0.35 mmol)のTHF (15 mL) 溶液に、1 M酢酸アンモニウム(3.0 mL)、および亜鉛粉末 (1.58 g, 24.2 mmol) を加え、C-末端側のTce基を脱離し、遊離カルボン酸
(320.0 mg, 0.28 mmol, 82%) を得た。このカルボン酸 (297.2 mg, 0.26 mmol) のアセトニトリル (15 mL) 溶液に、ジエチルアミン
(1.5 mL) を加え、N-末端側のFmoc基を除去し、セコ酸 (233.6 mg, 0.26 mmol, 98%) を得た。
【0035】
(1−8)kulokekahilide-2A
セコ酸 (218.1 mg, 0.24 mmol) のCH2Cl2 (220 mL)、DMF
(22 mL) 混合溶液に、HOAt (328.0 mg, 2.41 mmol)、EDCI・HCl (462.0 mg, 2.41 mmol) を加え、マクロラクタム化させ、環状化合物
(137.7 mg, 0.156 mmol, 65%) を得た。この環状化合物 (120.4 mg, 0.136 mmol)のTHF (3.2 mL)、水
(0.8 mL) 混合溶液に、2, 6-ルチジン (320 μL) および硝酸銀 (924.3 mg, 5.44 mmol) を加えて65oCでジヒドロキシ酸のMTM保護基を除き、kulokekahilide-2A
(109.9 mg, 0.133 mmol) を定量的に得た。上述した手順で合成したkulokekahilide-2Aの物理化学的性質を下記の表に示す。なお、kulokekahilide-2AのNMRスペクトルによる詳細な立体構造解析の結果、kulokekahilide-2(正)の構造と同様、NMeGlyとD-NMePheのアミド結合部でcis-
体とtrans−体の配座異性体が確認され、その割合はおよそ1:1.2であった。また、後述するkulokekahilide-2Bにおいては、NMeGlyとL-NMePheのアミド結合のほかに、L-NMePheとL-Alaのアミド結合部にも配座異性体が存在し、計4つの異性体が含まれていると考えられた。しかしながら、kulokekahilide-2A,
-2Bのスペクトルについては、kulokekahilide-2(正)のように cis- 体とtrans−体が明らかでないので、下記表1および後述する下記表2においてはスペクトルを一緒に記載してある。
【0036】
【表1】

【0037】
(実施例2)kulokekahilide-2Bの合成
(2−1)ジペプチド(Boc-
NMeGly-L-Ile-OTce)
Boc-L-Ile (2.32 g, 10.0 mmol) のCH2Cl2 (20
mL) に溶液に、トリクロロエタノール (TceOH, 1.1 mL, 10.0
mmol)、DMAP (122 mg, 1.0 mmol)、縮合剤にEDCI・HCl (2.30 g, 12.0 mmol) を加え、Boc-L-Ile-OTceを得た。これに4 M塩酸ジオキサン溶液 (20 mL) で処理し、L-Ile-OTce・HClとした。この塩酸塩をCH2Cl2-ジメチルホルムアミド
(DMF) (1:1) (20 mL) に溶解し、トリエチルアミン (Et3N, 1.4 mL, 10.0 mmol)、Boc-NMeGly
(2.1 g, 11.0 mmol)、HOBt (1.49 g, 10.0 mmol)、そしてEDCI・HCl (4.22 g, 22.0 mmol) を加え、縮合し、Boc-ジペプチド
(3.71 g, 8.56 mmol, 85.6%) を得た。
【0038】
(2−2)トリペプチド
(Boc-L-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
Boc-ジペプチド (3.49 g, 8.04 mmol) を、4 M塩酸-ジオキサン溶液 (20 mL)で処理し、ジペプチド塩酸塩を得た。この塩酸塩
(1.85 g, 5.0 mmol) のCH2Cl2-DMF (1:1, 16 mL) 溶液に、ジイソプロピルエチルアミン(iPr2NEt,
2.7 mL, 15.0 mmol)、Boc-L-NMePhe (1.40 g, 5.0 mmol)、HOBt(810 mg, 6 mmol)を加え、TBTU(1.93
g, 6.0 mmol) を用いて縮合し、Boc-トリペプチド (2.37 mg, 3.98 mmol, 80%)を得た。
【0039】
(2−3)テトラペプチド
(Boc-L-Ala-L-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
Boc-トリペプチド (2.37 g, 3.98 mmol)を、4 M塩酸-ジオキサン溶液 (10 mL)で処理し、この塩酸塩 (1.05 g, 1.98 mmol)のCH2Cl2-DMF
(1:1,
6 mL) 溶液に、iPr2NEt (1.2
mL, 5.94 mmol)、Boc-L-Ala (412 mg, 2.78
mmol)、PyBOP (1.24 g, 2.38
mmol) を加え縮合し、Boc-テトラペプチド (844 g, 1.27 mmol, 64%) を得た。
【0040】
(2−4)ペンタペプチド (D-Hica-L-Ala-L-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
Boc-テトラペプチド (824 mg, 1.24 mmol) を、4 M塩酸-ジオキサン溶液 (10 mL) で処理し、その塩酸塩を得た。この塩酸塩
(751.5 mg, 1.25 mmol) のDMF (2.5 mL) 溶液に、Et3N (175 μL, 1.25 mmol)、D-Hica(182
mg, 1.38 mmol)、HOBt (338 mg, 2.5 mmol)、EDCI・HCl (359 mg, 1.88 mmol)を加え縮合し、ペンタペプチド
(582 mg, 0.86 mmol, 68%) を得た。
【0041】
(2−5)デプシヘキサペプチド
(5S,
6S, 7S-5-O-MTM-7-O-TBS-Dtda-D-Hica-L-Ala-L-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
ペンタペプチド (340 mg, 0.5 mmol) のCH2Cl2 (2.0
mL) 溶液に、5位をメチルチオメチル基 (MTM)、7位をt-ブチルジメチルシリル基(TBS)で保護したジヒドロキシ酸 (5S, 6S,
7S-5-O-MTM-7-O-TBS-Dtda , 208.4 mg, 0.5 mmol)、DMAP (61 mg, 0.5 mmol)、EDCI・HCl (192 mg, 1.0 mmol)を加え、縮合し、デプシヘキサペプチド (430 mg, 0.4 mmol, 80%) を得た。
【0042】
(2−6)デプシヘプタペプチド(Fmoc-D-Ala-(5S,
6S, 7S)-5-O-MTM-Dtda-D-Hica- L-Ala-L-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
デプシヘキサペプチド (385.2
mg, 0.36 mmol) をフッ化水素-ピリジン塩 (1 g) のピリジン-テトラヒドロフラン (THF) (1:4, 5 mL) 溶液 (8 mL) に溶かし、40
oCで反応させ、7位のTBS基を除去した (304.1 mg, 0.32 mmol, 88%)。このアルコール (289.4 mg,
0.30 mmol) のCH2Cl2 (1.2 mL) 溶液に、Fmoc-D-アラニン(137.8 mg,
0.44 mmol)、DMAP (36.0 mg, 0.30 mmol)、EDCI・HCl (113.1 mg, 0.59 mmol)を加え、縮合し、デプシヘプタペプチド
(361.4 mg, 0.29 mmol)を定量的に得た。
【0043】
(2−7)セコ酸(D-H2N-Ala-(5S, 6S, 7S)-5-O-MTM-Dtda-D-Hica-L-Ala- L-NMePhe-NMeGly-L-Ile-COOH)
デプシヘプタペプチド (347.6 mg, 0.28 mmol)のTHF (12 mL) 溶液に、1 M酢酸アンモニウム(2.4 mL)、および亜鉛粉末
(1.27 g, 19.3 mmol) を加え、C-末端側のTce基を脱離し、遊離カルボン酸 (254.0 mg, 0.23 mmol, 82%) を得た。このカルボン酸
(234.2 mg, 0.21 mmol) のアセトニトリル (12 mL) 溶液に、ジエチルアミン (1.2 mL) を加え、N-末端側のFmoc基を除去し、セコ酸
(179.7 mg, 0.20 mmol, 96%) を得た。
【0044】
(2−8)kulokekahilide-2B
セコ酸 (167.2 mg, 0.19 mmol) のCH2Cl2 (170 mL)、DMF
(17 mL) 混合溶液に、HOAt (251.8 mg, 1.85 mmol)、EDCI・HCl (354.6 mg, 1.85 mmol) を加え、マクロラクタム化させ、環状化合物
(115.0 mg, 0.13 mmol, 70%) を得た。この環状化合物 (99.6 mg, 0.112 mmol)のTHF (2.4 mL)、水
(0.6 mL) 混合溶液に、2, 6-ルチジン (260 μL) および硝酸銀 (761.2 mg, 4.48 mmol) を加えて65oCでジヒドロキシ酸のMTM保護基を除き、kulokekahilide-2B
(92.5 mg, 0.112 mmol) を定量的に得た。上述した手順で合成したkulokekahilide-2Bの物理化学的性質を下記の表に示す。この化合物のNMRスペクトルは、天然由来のkulokekahilide-2(正)と同様に、cis-体とtrans-体と考えられる配座異性体の他に、L-NMePheとL-Alaのアミド結合部においても配座異性体の存在を示した。
【0045】
【表2】

【0046】
(実施例3)kulokekahilide-2(正)の合成
(3−1)ジペプチド(Boc-NMeGly-L-Ile-OTce)
Boc-L-Ile (2.32 g, 10.0 mmol) のCH2Cl2 (20
mL) に溶液に、トリクロロエタノール (TceOH, 1.1 mL, 10.0 mmol)、DMAP (122 mg, 1.0 mmol)、縮合剤にEDCI・HCl
(2.30 g, 12.0 mmol) を加え、Boc-L-Ile-OTceを得た。これに4 M塩酸ジオキサン溶液 (20 mL) で処理し、L-Ile-OTce・HClとした。この塩酸塩をCH2Cl2-ジメチルホルムアミド
(DMF) (1:1) (20 mL) に溶解し、トリエチルアミン (Et3N, 1.4 mL, 10.0 mmol)、Boc-NMeGly
(2.1 g, 11.0 mmol)、HOBt (1.49 g, 10.0 mmol)、そしてEDCI・HCl (4.22 g, 22.0 mmol) を加え、縮合し、Boc-ジペプチド
(3.71 g, 8.56 mmol, 86%) を得た。
【0047】
(3−2)トリペプチド (Boc-D-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
Boc-ジペプチド (3.71 g, 8.60 mmol) を、4 M塩酸-ジオキサン溶液 (20 mL)で処理し、ジペプチド塩酸塩を得た。この塩酸塩
(644 mg, 1.74 mmol) のCH2Cl2-DMF (1:1, 6 mL) 溶液に、ジイソプロピルエチルアミン(iPr2NEt,
935 μL, 5.2 mmol)、Boc-D-NMePhe (486 mg, 1.74 mmol) を加え、HBTU(792 mg, 2.09 mmol) を用いて縮合し、Boc-トリペプチド
(882 mg, 1.48 mmol, 85%)を得た。
【0048】
(3−3)テトラペプチド (Boc-L-Ala-D-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
Boc-トリペプチド (2.62 g, 4.41 mmol)を、4 M塩酸-ジオキサン溶液 (10 mL)で処理し、この塩酸塩
(2.26 g, 4.25 mmol)のCH2Cl2-DMF (1:1, 14 mL) 溶液に、iPr2NEt
(2.3 mL, 12.8 mmol)、Boc-L-Ala (885 mg, 4.68 mmol)、HBTU (1.93 g, 5.1 mmol) を加え縮合し、Boc-テトラペプチド
(2.14 g , 3.21 mmol, 76%) を得た。
【0049】
(3−4)ペンタペプチド (D-Hica-L-Ala-D-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
Boc-テトラペプチド (2.14 g, 3.21 mmol) を、4 M塩酸-ジオキサン溶液 (10 mL) で処理し、その塩酸塩を得た。この塩酸塩
(1.93 g, 3.2 mmol) のDMF (6.4 mL) 溶液に、Et3N (449 μL, 3.2 mmol)、D-Hica(465
mg, 3.52 mmol)、HOBt (865 mg, 6.4 mmol)、EDCI・HCl (920 mg, 4.8 mmol)を加え縮合し、ペンタペプチド
(1.64 g, 2.41 mmol, 75%) を得た。
【0050】
(3−5)デプシヘキサペプチド(5S, 6S,
7S-5-O-MTM-7-O-TBS-Dtda-D-Hica- L-Ala-D-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
ペンタペプチド (340 mg,
0.5 mmol) のCH2Cl2 (2.0 mL) 溶液に、5位をメチルチオメチル基 (MTM)、7位をt-ブチルジメチルシリル基(TBS)で保護したジヒドロキシ酸
(5S, 6S, 7S-5-O-MTM- 7-O-TBS-Dtda , 208.4 mg, 0.5 mmol)、DMAP (61 mg, 0.5 mmol)、EDCI・HCl
(192 mg, 1.0 mmol)を加え、縮合し、デプシヘキサペプチド (449 mg, 0.42 mmol, 83%) を得た。

【0051】
(3−6)デプシヘプタペプチド
[Fmoc-D-Ala-(5S,6S,7S)-5-O-MTM-Dtda-D-Hica- L-Ala-D-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce]
デプシヘキサペプチド (486.7 mg, 0.45 mmol) をフッ化水素-ピリジン塩 (1 g) のピリジン-テトラヒドロフラン (THF) (1:4,
5 mL) 溶液 (10 mL) に溶かし、40 oCで反応させ、7位のTBS基を除去した (383.3 mg, 0.40 mmol,
88%)。このアルコール (202 mg, 0.21 mmol) のCH2Cl2
(8.4 mL) 溶液に、Fmoc-D-Ala (98.1 mg, 0.315 mmol)、DMAP (26 mg, 0.21 mmol) およびEDCI・HCl
(80.5 mg, 0.42 mmol) を加え、縮合し、デプシヘプタペプチド (223 mg, 0.18 mmol, 86%) を得た。
【0052】
(3−7)セコ酸
[H2N-D-Ala-(5S,6S,7S)-5-O-MTM-Dtda-D-Hica-L-Ala-D-NMePhe-NMeGly-L-Ile-COOH]
デプシヘプタペプチド (210 mg, 0.17 mmol)
のTHF (7.0 mL) 溶液に、1 M酢酸アンモニウム (1.4 mL)、および亜鉛粉末 (763 mg, 11.7 mmol) を加え、C-末端側のTce基を脱離し、遊離カルボン酸とし、このカルボン酸のアセトニトリル
(7.0 mL) 溶液に、ジエチルアミン (0.70 mL) を加え、N-末端側のFmoc基を除去し、セコ酸 (124 mg, 0.14 mmol, 82%)
を得た。
【0053】
(3−8)kulokekahilide-2(正)
セコ酸
(111 mg, 0.12 mmol) のCH2Cl2-DMF
(10:1, 122 mL) 混合溶液に、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール (HOAt, 166.0 mg, 1.22 mmol)、EDCI・HCl
(233.9 mg, 1.22 mmol) を加え、マクロラクタム化させ、環状化合物 (83 mg, 0.094 mmol, 77%) を得た。この環状化合物
(69.5 mg, 0.078 mmol) のTHF-水 (4:1, 3.5 mL) 混合溶液に、2, 6-ルチジン (0.195 mL, 1.68
mmol) および硝酸銀 (571 mg, 3.36 mmol) を加え、65℃で反応させ、ジヒドロキシ酸のMTM保護基を除去し、kulokekahilide-2(正)(29 mg,
0.035 mmol, 45%) を得た。上述した手順で合成したkulokekahilide-2(正)の物理化学的性質を下記の表に示す。この合成物のNMRスペクトルは、天然由来の化合物と同様にcis-体とtrans-体の混合物を示したが、その各々の異性体の帰属を行うことが出来た。
【0054】
【表3】

【0055】
(参考例)合成したkulokekahilide-2(誤)
(4−1)ジペプチド(Boc-NMeGly-L-Ile-OTce)
Boc-L-Ile (2.32 g, 10.0 mmol) のCH2Cl2 (20
mL) に溶液に、トリクロロエタノール (TceOH, 1.1 mL, 10.0
mmol)、DMAP (122 mg, 1.0 mmol)、縮合剤にEDCI・HCl (2.30 g, 12.0 mmol) を加え、Boc-L-Ile-OTceを得た。これに4 M塩酸ジオキサン溶液 (20 mL) で処理し、L-Ile-OTce・HClとした。この塩酸塩をCH2Cl2-ジメチルホルムアミド
(DMF) (1:1) (20 mL) に溶解し、トリエチルアミン (Et3N, 1.4 mL, 10.0 mmol)、Boc-NMeGly
(2.1 g, 11.0 mmol)、HOBt (1.49 g, 10.0 mmol)、そしてEDCI・HCl (4.22 g, 22.0 mmol) を加え、縮合し、Boc-ジペプチド
(3.71 g, 8.56 mmol, 86%) を得た。
【0056】
(4−2)トリペプチド
(Boc-L-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
Boc-ジペプチド (1.8 g, 4.16 mmol) を、4 M塩酸-ジオキサン溶液 (8.3 mL)で処理し、ジペプチド塩酸塩を得た。この塩酸塩
(1.22 g, 3.3 mmol) のCH2Cl2-DMF (1:1, 3 mL) 溶液に、ジイソプロピルエチルアミン(iPr2NEt,
1.77 mL, 9.9 mmol)、Boc-L-NMePhe (1.11 g, 3.69 mmol) を加え、PyBOP (2.58 g, 4.95
mmol) を用いて縮合し、Boc-トリペプチド (1.73 g, 2.99 mmol, 91%)を得た。
【0057】
(4−3)テトラペプチド
(Boc-D-Ala-L-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
Boc-トリペプチド (2.03 g, 3.50 mmol)を、4 M塩酸-ジオキサン溶液 (7.0 mL)で処理し、この塩酸塩
(1.68 g, 3.25 mmol)のCH2Cl2-DMF (1:1, 12 mL) 溶液に、iPr2NEt
(1.75 mL, 9.75 mmol)、Boc-D-Ala (615 mg, 3.25 mmol)、PyBOP (2.03 g, 3.90 mmol) を加え縮合し、Boc-テトラペプチド
(1.47 g , 2.26 mmol, 69%) を得た。
【0058】
(4−4)ペンタペプチド
(D-Hica-D-Ala-L-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
Boc-テトラペプチド (1.20 g, 1.84 mmol) を、4 M塩酸-ジオキサン溶液 (3.7 mL) で処理し、その塩酸塩を得た。この塩酸塩
(880 mg, 1.5 mmol) のDMF (2.8 mL) 溶液に、Et3N (109 μL, 1.5 mmol)、D-Hica(218
mg, 1.65 mmol)、HOBt (405 mg, 3.0 mmol)、EDCI・HCl (860 mg, 4.5 mmol)を加え縮合し、ペンタペプチド
(909 mg, 1.36 mmol, 91%) を得た。
【0059】
(4−5)デプシヘキサペプチド (5S, 6S,
7S-5-O-MTM-7-O-TBS-Dtda-D-Hica- D-Ala-L-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
ペンタペプチド (909 mg, 1.36 mmol) のCH2Cl2 (3.1 mL) 溶液に、5位をメチルチオメチル基
(MTM)、7位をt-ブチルジメチルシリル基(TBS)で保護したジヒドロキシ酸 (5S, 6S, 7S-5-O-MTM- 7-O-TBS-Dtda, 568
mg, 1.5 mmol)、DMAP (83 mg, 0.68 mmol)、EDCI・HCl (520 mg, 2.72 mmol)を加え、縮合し、デプシヘキサペプチド
(1.12 g, 1.04 mmol, 77%) を得た。
【0060】
(4−6)デプシヘプタペプチド(Fmoc-L-Ala-(5S, 6S,
7S)-5-O-MTM-Dtda-D-Hica- D-Ala-L-NMePhe-NMeGly-L-Ile-OTce)
デプシヘキサペプチド (1.11
g, 1.04 mmol) をフッ化水素-ピリジン塩 (1 g) のピリジン-テトラヒドロフラン (THF) (1:4, 5 mL) 溶液 (27mL) に溶かし、40
oCで反応させ、7位のTBS基を除去した (767 mg, 0.80 mmol, 78%)。このアルコール (760 mg, 0.80
mmol) のCH2Cl2 (2.7 mL) 溶液に、Fmoc-L-アラニン(374 mg, 1.2 mmol)、DMAP
(48.8 mg, 0.4 mmol)、EDCI・HCl (521 mg, 2.4 mmol)を加え、縮合し、デプシヘプタペプチド (670 mg, 0.53
mmol, 67%)を得た。
【0061】
(4−7)セコ酸(L-H2N-Ala-(5S,
6S, 7S)-5-O-MTM-Dtda-D-Hica-D-Ala-L-NMePhe- NMeGly-L-Ile-COOH)
デプシヘプタペプチド (650 mg, 0.5 mmol)のTHF (25 mL) 溶液に、1 M酢酸アンモニウム(5.0 mL)、および亜鉛粉末 (2.3
g, 35 mmol) を加え、C-末端側のTce基を脱離し、遊離カルボン酸 (473 mg, 0.42 mmol, 84%) を得た。このカルボン酸
(183 mg, 0.16 mmol) のアセトニトリル (9 mL) 溶液に、ジエチルアミン (0.9 mL) を加え、N-末端側のFmoc基を除去し、セコ酸
(114 mg, 0.12 mmol, 77%) を得た。
【0062】
(4−8)kulokekahilide-2(誤)
セコ酸 (145 mg, 0.16 mmol) のCH2Cl2 (150 mL)、DMF (15
mL) 混合溶液に、HOAt (217 mg, 1.6 mmol)、EDCI・HCl (306 mg, 1.6 mmol) を加え、マクロラクタム化させ、環状化合物
(100 mg, 0.078 mmol, 70%) を得た。この環状化合物 (27.4 mg, 0.030 mmol)のTHF (0.6 mL)、水
(0.15 mL) 混合溶液に、2, 6-ルチジン (70.0 μL) および硝酸銀 (219 mg, 1.29 mmol) を加えて65oCでジヒドロキシ酸のMTM保護基を除き、kulokekahilide-2(誤)(20
mg, 0.023 mmol, 81%) を得た。上述した手順で合成したkulokekahilide-2(誤)の物理化学的性質を下記の表に示す。この化合物についても配座異性体が存在しており、その混合物のスペクトルを示す。
【0063】
【表4】

【0064】
(生理活性測定)
上述した手順で合成したkulokekahilide-2A、kulokekahilide-2B、およびkulokekahilide-2(正)について下記に示す条件の下、生理活性測定を行った。あわせて、比較例として、抗癌作用を示す抗生物質として既知のアドリアマイシン(ADM)についても同様の条件下で生理活性測定を行った。
【0065】
ガン細胞株として、ヒト子宮がん由来HeLa細胞、およびP388マウス白血病細胞を選択し、これらの細胞株のそれぞれについて、上記化合物をサンプルとして下記の条件で細胞毒性(IC50)を測定した。なお、IC50値は、サンプルを加えていないコントロールの吸収値から各サンプル投与群の吸収値を差し引き、これをコントロールの吸収値で割り、100をかけて細胞増殖阻害率(%)としたうえで、各濃度での細胞増殖阻害率(%)を片対数グラフにプロットし、50%阻害を与える濃度を算出することにより求めた。
【0066】
(Hela細胞)
ヒト子宮がん由来HeLa細胞は、2μg/mLのゲンタマイシン、10%ウシ胎児血清、10μg/mLの抗生物質を添加し、1M HClでpH7.0-7.4に調節したMEM培地(GibcoBRL)中で、37度、5%の二酸化炭素存在下で培養を行った。96穴マクロプレートの各ウェルに細胞を含む200μL(1000細胞/mL)の培地を加えて24時間培養を行った後に、各濃度のサンプル溶液2μlを添加して96時間培養を行った。50μLの3-(4,5-dimethyl-
2-thiazoyl)-2,5-diphenyl-2H tetrazolium bromide (MTT) 生理食塩水溶液(1mg/mL)を各ウェルに加え3時間培養を続けた。上清を除去後、生じた沈殿にDMSOを加えて溶解し510
nmの吸収を測定した。
【0067】
(P-388細胞)
P388マウス白血病細胞(JCRB17)は、100μg/mLのカナマイシン、10%ウシ胎児血清、10μMの2-ヒドロキシエチルジスルフィドを添加したRPMI
1640培地(ニッスイ)中で、37度、5%の二酸化炭素存在下で培養を行った。96穴マクロプレートの各ウェルに100μLの細胞懸濁液(1x104細胞/mL)と100μLのサンプルを含む培地を加え、96時間培養を行った。50μLの3-(4,5-dimethyl-2-thiazoyl)-2,5-diphenyl-2H
tetrazolium bromide (MTT) 生理食塩水溶液(1 mg/mL)を各ウェルに加え3時間培養を続けた。上清を除去後、生じた沈殿にDMSOを加えて溶解し510
nmの吸収を測定した。
【0068】
以上、説明した条件で行った生理活性測定の結果を下記表に示す。なお、下記表において、K−2Aはkulokekahilide-2Aを、K−2Bはkulokekahilide-2Bを、K−2(正)はkulokekahilide-2(正)を、ADMはアドリアマイシンを示すものとする。なお、下記表においては、合成したkulokekahilide-2(誤)について上述したのと同様の条件で行った生理活性測定の結果をK−2(誤)として併記した。
【0069】
【表5】

【0070】
上述した結果より、本実施例の本発明kulokekahilide-2Aおよびkulokekahilide-2Bが、P388マウス白血病細胞、およびヒト子宮がん由来HeLa細胞に対して強い細胞毒性を示し、特に、kulokekahilide-2Aは、上記2細胞に対して抗癌作用を示す抗生物質として知られるアドリアマイシンよりも強い細胞毒性を示し、P388マウス白血病細胞に関していえばアドリアマイシンの数十倍の細胞毒性を示すことがわかった。また、本発明のkulokekahilide-2(正)に至っては、ヒト子宮がん由来HeLa細胞に対し、kulokekahilide-2Aよりも強い細胞毒性を示すことがわかった。なお、合成したkulokekahilide-2(誤)については、先に説明したとおり活性がないことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上、説明したように、本発明によれば、制癌剤の有効成分として有用であり、大量合成が可能である新規な環状デプシペプチドが提供される。本発明の新規な環状デプシペプチドを含有する制癌剤は、その普及によって公衆の衛生の増進に寄与することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

で表される化合物、又はその薬理上許容される塩若しくはエステル誘導体。
(上記一般式(1)中、R〜R13は、水素原子または炭素原子数1個〜6個の分岐または直鎖のアルキル基を示す。)
【請求項2】
一般式(2)
【化2】

で表される化合物、又はその薬理上許容される塩若しくはエステル誘導体。
(上記一般式(2)中、R〜R13は、水素原子または炭素原子数1個〜6個の分岐または直鎖のアルキル基を示す。)
【請求項3】
一般式(3)
【化3】

で表される化合物、又はその薬理上許容される塩若しくはエステル誘導体。
(上記一般式(3)中、R〜R13は、水素原子または炭素原子数1個〜6個の分岐または直鎖のアルキル基を示す。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物、又はその薬理上許容される塩若しくはエステル誘導体を有効成分として含有する制癌剤。

【公開番号】特開2008−266282(P2008−266282A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217370(P2007−217370)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】