制癌用組成物,医薬品および食品
【課題】 ツブ貝体腔粘液からの抽出液を有効成分とする制癌用組成物と、その制癌用組成物を有する食品および医薬品を提供する。
【解決手段】 ツブ貝体腔粘液からの抽出液を癌細胞に添加して培養したところ、癌細胞の増殖を抑制する効果が認められた。従って、ツブ貝体腔粘液からの抽出液を有効成分とする制癌用組成物,およびその制癌用組成物を含有する食品や医薬品は、癌細胞の増殖の抑制を期待できる。なお、上述したツブ貝と呼ばれるものの多くは、エゾバイ科に属する種である。
【解決手段】 ツブ貝体腔粘液からの抽出液を癌細胞に添加して培養したところ、癌細胞の増殖を抑制する効果が認められた。従って、ツブ貝体腔粘液からの抽出液を有効成分とする制癌用組成物,およびその制癌用組成物を含有する食品や医薬品は、癌細胞の増殖の抑制を期待できる。なお、上述したツブ貝と呼ばれるものの多くは、エゾバイ科に属する種である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制癌用組成物,医薬品および食品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在,制癌剤に関しては世界的に広く研究が行われている。しかしながら、癌の種類は多岐に亘り、数多くの癌に効果を示す制癌剤は出現していない。試験的には、ヒラタケのレクチンが肉腫S−180と肝細胞癌h−22のマウスにおいて強い抗腫瘍活性を示したという報告がある(非特許文献1参照)。また、コムギやダイズのレクチンが乳癌細胞系の細胞増殖を抑制したという報告がある(非特許文献2参照)。
【非特許文献1】Biochem.Biophys.Res.Commun.,275;810−816,2000
【非特許文献2】Anticancer Res.,23;1197−1206,2003 ここでいうレクチンとは、細胞膜複合糖質(糖たんぱく質や糖脂質)の糖鎖と結合することによって、細胞凝集,分裂誘発,機能活性化,細胞障害などの効果を及ぼす物質の総称である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の発明者らは、北海道産のオニコンブ抽出液が、北海道には生息しない本州のバフンウニの未受精卵に受精膜を形成させるという活性(レクチン様物質)を示すが、北海道産のエゾバフンウニに対しては活性を示さないので、その活性を持つ物質を探索した。その結果、巻貝エゾバイ体腔粘液抽出液が活性を持つことを見出した。エゾバイ科(Buccinidae)は巻貝類(腹足綱、Gastropoda)バイ目(新腹足類、Neogastoropoda)に属している。本発明の発明者らは、エゾバイ科のヒメエゾボラ(Neptunea arthritica)に着目し、ヒメエゾボラの体腔粘液抽出液の癌細胞に対する増殖性等を調査した。
【0004】
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、その目的は、ツブ貝体腔粘液からの抽出液を有効成分とする制癌用組成物と、その制癌用組成物を有する医薬品および食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、ツブ貝から抽出した体腔粘液を有効成分とする制癌用組成物である。
本発明の発明者らは、ツブ貝体腔粘液からの抽出液が癌細胞の増殖を抑制する効果があることを発見した。ツブ貝の体腔粘液に含まれるレクチン様物質などの組成物がどのように作用しているかは必ずしも明確ではないが、ツブ貝体腔粘液からの抽出液を有効成分とする制癌用組成物であれば癌細胞の増殖を抑制することができる。
【0006】
上述したツブ貝と呼ばれるものの多くは、エゾバイ科に属する種であり、請求項1に記載の制癌用組成物は、請求項2に記載したように、エゾバイ科の生物から抽出された体腔粘液を有効成分とするとよい。エゾバイ科には、カガバイ、ヒモマキバイ、シライトマキバイ、スルガバイ、エゾバイ、クビレバイ、アキタバイ、エッチュウバイ、オオエッチュウバイ、ツバイ、ヨーロッパエゾバイ、オオカラフトバイ、モロハバイ、ネジボラ、ヒメエゾボラ、チヂミエゾボラ、アツエゾボラ、エゾボラモドキ、ヒメエゾボラモドキ、クリイロエゾボラ、エゾボラ、カラフトエゾボラ、ウネエゾボラ、モスソガイなどの種がある。また、請求項3に記載したように、上述したエゾバイ科の生物の中から、ヒメエゾボラ,エゾバイ,エゾボラからなる群から選ばれる1種以上の体腔粘液からの抽出液を有効成分としてもよい。
【0007】
上述した請求項1から請求項3のいずれかに記載の制癌用組成物は、請求項4に記載したように、膀胱癌に対する制癌を用途とする制癌用組成物であってもよい。
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の制癌用組成物を含有する医薬品である。ツブ貝体腔粘液からの抽出液には癌細胞の増殖を抑制する効果があるため、このような医薬品を投与することにより、癌細胞の増殖を抑制するという効果が期待できる。
【0008】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の制癌用組成物を含有する食品である。ツブ貝体腔粘液からの抽出液には癌細胞の増殖を抑制する効果があるため、このような食品を摂取することにより、癌細胞の増殖を抑制するという効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0010】
[体腔粘液抽出液の作製]
本実施例では、ヒメエゾボラ体腔粘液から制癌用組成物としての抽出液を作製した。ヒメエゾボラはバイ目エゾバイ科に属し、ツブと称して食用にされている。体腔粘液として、鰓と直腸の間にある鰓下腺の粘液を用いた。
【0011】
緩衝液として、以下の成分の混合液に1NのNaOHを加えてpH5.8に調整したものを使用した。
MES(2−morpholinoethanesulfonic acid,monohydrate):30mM(同仁化学研究所製)
glycerol:10〜20%(v/v)(ナカライテスク製)
PMSF(phenylmethylsulfonyl fluoride):0〜100μM(Sigma製)
次に、ヒメエゾボラ5個体分の体腔粘液を上記緩衝液50mlによく溶かした。混在している周辺組織等を取り除くため、14000rpm,2℃にて15分間遠心した後、この上澄み液(45ml)を80%飽和の硫安(硫酸アンモニウム,ammonium sulfate)で処理し、14000rpm,2℃にて15分間遠心した。沈殿物を上記緩衝液で溶かし、約6.5mlを得た。硫安除去のため、同緩衝液で透析(4℃、18時間)した。この液を濾過滅菌したものを、体腔粘液抽出液とした。
【0012】
なお、ヒメエゾボラを針等で刺激すると、逃避行動時に粘液様物質を放出する。この放出した物質をエゾバフンウニの未受精卵に処理すると、体腔粘液抽出液と同じように受精膜を形成する。このことから、体腔粘液は逃避行動時に放出される生体防御物質であると考えられる。
[試験例1]
ヒメエゾボラの体腔粘液抽出液が癌細胞の細胞増殖に与える影響を確認するため、癌細胞の培養中に体腔粘液抽出液を添加し、癌細胞の細胞増殖を確認した。再現性を確認するため、同様の実験を2回行った。
(1)癌細胞の培養
培養癌細胞は、ヒト膀胱癌細胞株JTC−32(日本組織培養学会登録株)を使用した。培養液は、DM−160(極東製薬製)に非働化した牛胎児血清(GIBCO社製)を13%(v/v)加えたものを用いた。4.4×104cells/ml(1回目)および3.9×104cells/ml(2回目)に調整した細胞浮遊液1mlを複数の1ml目盛りつき短試験管に分注し、各短試験管を5°に傾斜させたラックに差し込み静置(傾斜)培養した。
【0013】
癌細胞の培養開始4日後、各短試験管の培養液に体腔粘液抽出液を添加し、それぞれ2%,4%(v/v)のいずれかに調整したものと、体腔粘液抽出液を添加しないもの(control)と、の3つの実験群に分けて培養試験を行った。体腔粘液抽出液を添加する実験群では、体腔粘液抽出液を培養開始4日後から18日目までの14日間連続処理した。
(2)細胞増殖率の測定
培養日数0,4,5,7,9,11,および18日目での細胞核数を、ビュルケルチュルク血球計算盤で算出した。細胞核数の計測は、細胞を0.1Mクエン酸0.05%(v/v)クリスタルヴァイオレット(メルク株式会社製)溶液で30分間処理し、1500rpmにて5分間遠心した後、水流ポンプで1mlまで吸引して裸核の状態で行った。細胞核数は、各実験群3本の短試験管の平均値±S.Dで算出した。
【0014】
培養癌細胞の増殖曲線を図1に示す。また、controlにおける細胞数を100%としたときの細胞増殖率を図2に示す。なお、18日目のcontrolに対する細胞数の増殖倍率と増殖抑制率(増殖抑制率[%]=100−増殖率)を表1に示す。
【0015】
【表1】
controlの18日目の細胞数は、細胞播種時に比べて1回目に10.8倍,2回目に9.8倍と増加した。
【0016】
それに対し、体腔粘液抽出液にて処理を行ったものは、各濃度においてcontrolに比べ増殖率を減少させることができた。また、体腔粘液抽出液の濃度が高いほど増殖率を減少させることが認められた。本試験では、体腔粘液抽出液2%濃度における増殖抑制率は約76.3%,53.1%、4%濃度における増殖抑制率は約99.9%,96.5%となった。
【0017】
このように、ヒメエゾボラの体腔粘液抽出液は明らかに癌細胞の増殖を抑制していると考えられる。特に、4%濃度では、体腔粘液抽出液を添加した翌日から短試験管壁から剥がれて浮遊してきた細胞(浮遊細胞)が見られ、14日目(培養開始18日目)には試験管壁に付着している細胞数は播種時よりも少なくなった。浮遊細胞の生存率も抽出液濃度に依存して低下した。このことから、ヒメエゾボラの体腔粘液抽出液が癌細胞膜の糖鎖と結合して膜に影響を与え、その結果として培養容器への付着性が弱まって浮遊したのではないかと考えられる。
[試験例2]
エゾバイ,エゾボラに関して、実施例1におけるヒメエゾボラの体腔粘液抽出液の精製と同様の手法にて体腔粘液抽出液を作製し、レクチン様物質の生理活性を調査したところ、ヒメエゾボラと同様の結果を得た。
【実施例2】
【0018】
[体腔粘液抽出液を含有する医薬品の製造]
本実施例では、実施例1の方法にて得られた体腔粘液抽出液を含有する経口投与用の液状製剤の製造例を挙げる。
【0019】
製造例としては、体腔粘液抽出液と、白糖,ソルビトール,グリセリンなどの甘味剤とを水に溶解したシロップ剤や、更に精油,エタノールなどを加えたエリキシル剤、アラビアゴム,トラガント,ポリソルベート80,カルボキシメチルセルロースナトリウムなどを加えた乳化剤などが考えられる。
【0020】
なお、本発明の医薬品の形態は上述したものに限定されず、経口投与用の固形製剤,注射剤,直腸投与剤など、公知の医薬品と同様の形態で公知の製造法にて製造することができる。上述した医薬品には、いわゆるサプリメントを含む。
【実施例3】
【0021】
[体腔粘液抽出液を含有する食品の製造]
本実施例では、実施例1の方法にて得られた体腔粘液抽出液を含有する食品の製造例を挙げる。
【0022】
製造例としては、製造工程において体腔粘液抽出液を混合したうどんや菓子などが考えられる。
なお、本発明の食品の形態は上述したものに限定されず、一般的な食品に体腔粘液抽出液を添加したものを本発明の食品として製造することができる。上述した食品には、いわゆるサプリメントを含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】培養癌細胞の増殖曲線を示す図
【図2】培養癌細胞の細胞増殖率を示す図
【技術分野】
【0001】
本発明は、制癌用組成物,医薬品および食品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在,制癌剤に関しては世界的に広く研究が行われている。しかしながら、癌の種類は多岐に亘り、数多くの癌に効果を示す制癌剤は出現していない。試験的には、ヒラタケのレクチンが肉腫S−180と肝細胞癌h−22のマウスにおいて強い抗腫瘍活性を示したという報告がある(非特許文献1参照)。また、コムギやダイズのレクチンが乳癌細胞系の細胞増殖を抑制したという報告がある(非特許文献2参照)。
【非特許文献1】Biochem.Biophys.Res.Commun.,275;810−816,2000
【非特許文献2】Anticancer Res.,23;1197−1206,2003 ここでいうレクチンとは、細胞膜複合糖質(糖たんぱく質や糖脂質)の糖鎖と結合することによって、細胞凝集,分裂誘発,機能活性化,細胞障害などの効果を及ぼす物質の総称である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の発明者らは、北海道産のオニコンブ抽出液が、北海道には生息しない本州のバフンウニの未受精卵に受精膜を形成させるという活性(レクチン様物質)を示すが、北海道産のエゾバフンウニに対しては活性を示さないので、その活性を持つ物質を探索した。その結果、巻貝エゾバイ体腔粘液抽出液が活性を持つことを見出した。エゾバイ科(Buccinidae)は巻貝類(腹足綱、Gastropoda)バイ目(新腹足類、Neogastoropoda)に属している。本発明の発明者らは、エゾバイ科のヒメエゾボラ(Neptunea arthritica)に着目し、ヒメエゾボラの体腔粘液抽出液の癌細胞に対する増殖性等を調査した。
【0004】
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、その目的は、ツブ貝体腔粘液からの抽出液を有効成分とする制癌用組成物と、その制癌用組成物を有する医薬品および食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、ツブ貝から抽出した体腔粘液を有効成分とする制癌用組成物である。
本発明の発明者らは、ツブ貝体腔粘液からの抽出液が癌細胞の増殖を抑制する効果があることを発見した。ツブ貝の体腔粘液に含まれるレクチン様物質などの組成物がどのように作用しているかは必ずしも明確ではないが、ツブ貝体腔粘液からの抽出液を有効成分とする制癌用組成物であれば癌細胞の増殖を抑制することができる。
【0006】
上述したツブ貝と呼ばれるものの多くは、エゾバイ科に属する種であり、請求項1に記載の制癌用組成物は、請求項2に記載したように、エゾバイ科の生物から抽出された体腔粘液を有効成分とするとよい。エゾバイ科には、カガバイ、ヒモマキバイ、シライトマキバイ、スルガバイ、エゾバイ、クビレバイ、アキタバイ、エッチュウバイ、オオエッチュウバイ、ツバイ、ヨーロッパエゾバイ、オオカラフトバイ、モロハバイ、ネジボラ、ヒメエゾボラ、チヂミエゾボラ、アツエゾボラ、エゾボラモドキ、ヒメエゾボラモドキ、クリイロエゾボラ、エゾボラ、カラフトエゾボラ、ウネエゾボラ、モスソガイなどの種がある。また、請求項3に記載したように、上述したエゾバイ科の生物の中から、ヒメエゾボラ,エゾバイ,エゾボラからなる群から選ばれる1種以上の体腔粘液からの抽出液を有効成分としてもよい。
【0007】
上述した請求項1から請求項3のいずれかに記載の制癌用組成物は、請求項4に記載したように、膀胱癌に対する制癌を用途とする制癌用組成物であってもよい。
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の制癌用組成物を含有する医薬品である。ツブ貝体腔粘液からの抽出液には癌細胞の増殖を抑制する効果があるため、このような医薬品を投与することにより、癌細胞の増殖を抑制するという効果が期待できる。
【0008】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の制癌用組成物を含有する食品である。ツブ貝体腔粘液からの抽出液には癌細胞の増殖を抑制する効果があるため、このような食品を摂取することにより、癌細胞の増殖を抑制するという効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0010】
[体腔粘液抽出液の作製]
本実施例では、ヒメエゾボラ体腔粘液から制癌用組成物としての抽出液を作製した。ヒメエゾボラはバイ目エゾバイ科に属し、ツブと称して食用にされている。体腔粘液として、鰓と直腸の間にある鰓下腺の粘液を用いた。
【0011】
緩衝液として、以下の成分の混合液に1NのNaOHを加えてpH5.8に調整したものを使用した。
MES(2−morpholinoethanesulfonic acid,monohydrate):30mM(同仁化学研究所製)
glycerol:10〜20%(v/v)(ナカライテスク製)
PMSF(phenylmethylsulfonyl fluoride):0〜100μM(Sigma製)
次に、ヒメエゾボラ5個体分の体腔粘液を上記緩衝液50mlによく溶かした。混在している周辺組織等を取り除くため、14000rpm,2℃にて15分間遠心した後、この上澄み液(45ml)を80%飽和の硫安(硫酸アンモニウム,ammonium sulfate)で処理し、14000rpm,2℃にて15分間遠心した。沈殿物を上記緩衝液で溶かし、約6.5mlを得た。硫安除去のため、同緩衝液で透析(4℃、18時間)した。この液を濾過滅菌したものを、体腔粘液抽出液とした。
【0012】
なお、ヒメエゾボラを針等で刺激すると、逃避行動時に粘液様物質を放出する。この放出した物質をエゾバフンウニの未受精卵に処理すると、体腔粘液抽出液と同じように受精膜を形成する。このことから、体腔粘液は逃避行動時に放出される生体防御物質であると考えられる。
[試験例1]
ヒメエゾボラの体腔粘液抽出液が癌細胞の細胞増殖に与える影響を確認するため、癌細胞の培養中に体腔粘液抽出液を添加し、癌細胞の細胞増殖を確認した。再現性を確認するため、同様の実験を2回行った。
(1)癌細胞の培養
培養癌細胞は、ヒト膀胱癌細胞株JTC−32(日本組織培養学会登録株)を使用した。培養液は、DM−160(極東製薬製)に非働化した牛胎児血清(GIBCO社製)を13%(v/v)加えたものを用いた。4.4×104cells/ml(1回目)および3.9×104cells/ml(2回目)に調整した細胞浮遊液1mlを複数の1ml目盛りつき短試験管に分注し、各短試験管を5°に傾斜させたラックに差し込み静置(傾斜)培養した。
【0013】
癌細胞の培養開始4日後、各短試験管の培養液に体腔粘液抽出液を添加し、それぞれ2%,4%(v/v)のいずれかに調整したものと、体腔粘液抽出液を添加しないもの(control)と、の3つの実験群に分けて培養試験を行った。体腔粘液抽出液を添加する実験群では、体腔粘液抽出液を培養開始4日後から18日目までの14日間連続処理した。
(2)細胞増殖率の測定
培養日数0,4,5,7,9,11,および18日目での細胞核数を、ビュルケルチュルク血球計算盤で算出した。細胞核数の計測は、細胞を0.1Mクエン酸0.05%(v/v)クリスタルヴァイオレット(メルク株式会社製)溶液で30分間処理し、1500rpmにて5分間遠心した後、水流ポンプで1mlまで吸引して裸核の状態で行った。細胞核数は、各実験群3本の短試験管の平均値±S.Dで算出した。
【0014】
培養癌細胞の増殖曲線を図1に示す。また、controlにおける細胞数を100%としたときの細胞増殖率を図2に示す。なお、18日目のcontrolに対する細胞数の増殖倍率と増殖抑制率(増殖抑制率[%]=100−増殖率)を表1に示す。
【0015】
【表1】
controlの18日目の細胞数は、細胞播種時に比べて1回目に10.8倍,2回目に9.8倍と増加した。
【0016】
それに対し、体腔粘液抽出液にて処理を行ったものは、各濃度においてcontrolに比べ増殖率を減少させることができた。また、体腔粘液抽出液の濃度が高いほど増殖率を減少させることが認められた。本試験では、体腔粘液抽出液2%濃度における増殖抑制率は約76.3%,53.1%、4%濃度における増殖抑制率は約99.9%,96.5%となった。
【0017】
このように、ヒメエゾボラの体腔粘液抽出液は明らかに癌細胞の増殖を抑制していると考えられる。特に、4%濃度では、体腔粘液抽出液を添加した翌日から短試験管壁から剥がれて浮遊してきた細胞(浮遊細胞)が見られ、14日目(培養開始18日目)には試験管壁に付着している細胞数は播種時よりも少なくなった。浮遊細胞の生存率も抽出液濃度に依存して低下した。このことから、ヒメエゾボラの体腔粘液抽出液が癌細胞膜の糖鎖と結合して膜に影響を与え、その結果として培養容器への付着性が弱まって浮遊したのではないかと考えられる。
[試験例2]
エゾバイ,エゾボラに関して、実施例1におけるヒメエゾボラの体腔粘液抽出液の精製と同様の手法にて体腔粘液抽出液を作製し、レクチン様物質の生理活性を調査したところ、ヒメエゾボラと同様の結果を得た。
【実施例2】
【0018】
[体腔粘液抽出液を含有する医薬品の製造]
本実施例では、実施例1の方法にて得られた体腔粘液抽出液を含有する経口投与用の液状製剤の製造例を挙げる。
【0019】
製造例としては、体腔粘液抽出液と、白糖,ソルビトール,グリセリンなどの甘味剤とを水に溶解したシロップ剤や、更に精油,エタノールなどを加えたエリキシル剤、アラビアゴム,トラガント,ポリソルベート80,カルボキシメチルセルロースナトリウムなどを加えた乳化剤などが考えられる。
【0020】
なお、本発明の医薬品の形態は上述したものに限定されず、経口投与用の固形製剤,注射剤,直腸投与剤など、公知の医薬品と同様の形態で公知の製造法にて製造することができる。上述した医薬品には、いわゆるサプリメントを含む。
【実施例3】
【0021】
[体腔粘液抽出液を含有する食品の製造]
本実施例では、実施例1の方法にて得られた体腔粘液抽出液を含有する食品の製造例を挙げる。
【0022】
製造例としては、製造工程において体腔粘液抽出液を混合したうどんや菓子などが考えられる。
なお、本発明の食品の形態は上述したものに限定されず、一般的な食品に体腔粘液抽出液を添加したものを本発明の食品として製造することができる。上述した食品には、いわゆるサプリメントを含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】培養癌細胞の増殖曲線を示す図
【図2】培養癌細胞の細胞増殖率を示す図
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツブ貝体腔粘液からの抽出液を有効成分とする
ことを特徴とする制癌用組成物。
【請求項2】
前記ツブ貝とは、エゾバイ科の生物である
ことを特徴とする請求項1に記載の制癌用組成物。
【請求項3】
前記エゾバイ科の生物とは、ヒメエゾボラ,エゾバイ,エゾボラからなる群から選ばれる1種以上である
ことを特徴とする請求項2に記載の制癌用組成物。
【請求項4】
膀胱癌に対する制癌を用途とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の制癌用組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の制癌用組成物を含有する医薬品。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の制癌用組成物を含有する食品。
【請求項1】
ツブ貝体腔粘液からの抽出液を有効成分とする
ことを特徴とする制癌用組成物。
【請求項2】
前記ツブ貝とは、エゾバイ科の生物である
ことを特徴とする請求項1に記載の制癌用組成物。
【請求項3】
前記エゾバイ科の生物とは、ヒメエゾボラ,エゾバイ,エゾボラからなる群から選ばれる1種以上である
ことを特徴とする請求項2に記載の制癌用組成物。
【請求項4】
膀胱癌に対する制癌を用途とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の制癌用組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の制癌用組成物を含有する医薬品。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の制癌用組成物を含有する食品。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2009−91311(P2009−91311A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264485(P2007−264485)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000237112)富士シリシア化学株式会社 (38)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000237112)富士シリシア化学株式会社 (38)
【Fターム(参考)】
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