説明

前後輪駆動の電動二輪車

【課題】後輪駆動の電動二輪車との共用部品を極力多くして、製作コストを低減し得る前後輪駆動の電動二輪車を提供する。
【解決手段】前輪2及び後輪3のホイール4、5にモータ6及びブレーキ装置7を含む駆動手段8をそれぞれ組み込んだ前後輪駆動の電動二輪車1であって、前輪懸架装置9として、車体フレーム10の前部に、左右1対のアーム部11aを有するステアリングアーム11を回動自在に設け、左右のアーム部11aの途中部に下方へ延びるダンパー12をそれぞれ連結し、駆動手段8から左右両側へ突出する車軸25の両端部にリンクプレート13をそれぞれ固定し、駆動手段8のハウジング14の前側において左右のリンクプレート13の前端部に左右のアーム部11aの下端部をそれぞれ連結し、駆動手段8のハウジング14の後側において左右のリンクプレート13の後端部に左右のダンパー12の下端部をそれぞれ連結した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宅配用の二輪車として好適に利用可能な前後輪駆動の電動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電動二輪車が、ガソリンエンジンを搭載した自動二輪車と比較して、ランニングコストが安く、静粛性に優れ、しかも排気ガスを排出せず地球環境に優しいことから、自動二輪車に代わる輸送手段として注目されている。
【0003】
電動二輪車としては、ブラシレス直流モータをホイールに組み込んだ、所謂インホイール型のモータを後輪に備えさせた、後輪駆動の電動二輪車が実用化されている。また、このようなインホイール型のモータは、ホイールに組み込み可能なモータのサイズに限界があり、モータ出力の上限が制約される。このため、十分なパワーが得られるように、前輪及び後輪のホイールにモータをそれぞれ組み込んだ、前後輪駆動の電動二輪車も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
一方、二輪車における前輪の懸架方式としては、テレスコッピク型、アンチダイブ型、エアアシスト型、ボトムリンク型などの懸架方式が一般に知られている。ボトムリンク型の懸架装置は、車体フレームの前部に、左右1対のアーム部を有するステアリングアームを回動自在に設け、左右のアーム部の途中部に下方へ延びるダンパーをそれぞれ連結し、車軸の両端部に左右1対のリンクプレートをその一端部においてそれぞれ固定し、左右のアーム部の下端部を左右のリンクプレートの他端部にそれぞれ連結するとともに、左右のダンパーの下端部を左右のリンクプレートの途中部にそれぞれ連結したもので、高い性能を要求されない小排気量のスクーターや実用車などにおいて、広く採用されている。
【0005】
【特許文献1】実開昭62−14903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電動二輪車の駆動輪のボス部には、モータやブレーキ装置を覆うためのハウジングとして、大径で且つ左右方向(車軸方向)に厚肉な略円形のハウジングが設けられている。このため、前後輪駆動の電動二輪車を設計する際には、後輪の駆動系や懸架装置に関しては、後輪駆動の電動二輪車と同じに設定できるが、前輪懸架装置に関しては、例えばボトムリンク型の前輪懸架装置を用いる場合には、ダンパーや、ダンパーとリンクプレートの連結部などがハウジングに干渉することから、大幅な設計変更が必要となる。しかし、前輪懸架装置の構成を変更すると、後輪駆動の電動二輪車との共用部品が少なくなって、その分製作コストが高くなるという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、後輪駆動の電動二輪車との共用部品を極力多くして、製作コストを低減し得る前後輪駆動の電動二輪車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る前後輪駆動の電動二輪車は、モータを含む駆動手段を前輪及び後輪のホイールにそれぞれ組み込んだ前後輪駆動の電動二輪車であって、前記前輪の懸架装置として、車体フレームの前部に、左右1対のアーム部を有するステアリングアームを回動自在に設け、前記左右のアーム部の途中部に下方へ延びるダンパーをそれぞれ連結し、前記駆動手段から左右両側へ突出する車軸の両端部にリンクプレートをそれぞれ固定し、前記駆動手段のハウジングの前後両側において左右のリンクプレートの前後両端部に、左右のアーム部の下端部と左右のダンパーの下端部をそれぞれ連結したものを用いたものである。
【0009】
この電動二輪車では、駆動手段のハウジングの前後両側において、左右のリンクプレートの前後両端部が、左右のアーム部の下端部と左右のダンパーの下端部とにそれぞれ連結され、前輪のモータの左右両側には略平板状のリンクプレートが配置されるので、左右のリンクプレート間に駆動手段設置用の大きなスペースを確保することができる。このため、前輪懸架装置のアーム部やダンパーが駆動手段のハウジングに干渉することを防止しつつ、後輪駆動の電動二輪車における前輪のホイールに駆動手段を組み付けて、前後輪駆動の電動二輪車を製作できる。また、この電動二輪車は、前後輪駆動なので、後輪駆動の電動二輪車と比較して大きな出力が得られ、しかも重量物である駆動手段が前輪にも設けられ、車体前後の重量バランスが改善されるので、配達物を後部に収容するように構成した宅配用の二輪車として好適に利用できる。
【0010】
ここで、前記前輪及び後輪の駆動手段として同一構成のものを用いることができる。このように構成すると、共用部品を極力増やして、電動二輪車の製作コストを一層低減できる。
【0011】
また、操舵性や走行安定性を十分に確保するため、前記リンクプレートに対するアーム部の連結位置を車軸の固定位置よりも上側に設定し、ダンパーの連結位置を車軸の固定位置よりも下側に設定すること、前記リンクプレートに対するアーム部の連結位置と車軸の固定位置とを結ぶ線分と、ダンパーの連結位置と車軸の固定位置とを結ぶ線分とのなす角度を120°〜180°に設定すること、などが好ましい実施の形態である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る前後輪駆動の電動二輪車によれば、左右1対のリンクプレートを設けるという簡単な構成で、後輪駆動の電動二輪車における前輪に、前輪懸架装置の構成を変更することなく、駆動手段を組み付けることが可能となる。このため、後輪駆動の電動二輪車における前輪に代えて駆動手段を組み込んだ車輪を組み付けることで、前後輪駆動の電動二輪車を容易に製作することができ、後輪駆動の電動二輪車との共用部品を極力増やして、前後輪駆動の電動二輪車の製作コストを大幅に削減できる。また、この電動二輪車は、前後輪駆動なので、後輪駆動の電動二輪車と比較して無理なく大出力が得られるとともに、重量物である駆動手段が前輪にも設けられるので、車体前後の重量バランスを改善でき、一般用の電動二輪車として利用できることはいうまでもなく、宅配用の電動二輪車としても好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
図1〜図4に示すように、前後輪駆動の電動二輪車1は、前輪2及び後輪3のホイール4、5にモータ6及びブレーキ装置7を含む駆動手段8をそれぞれ組み込んだものであって、前輪懸架装置9として、車体フレーム10の前部に、左右1対のアーム部11aを有するステアリングアーム11を回動自在に設け、左右のアーム部11aの途中部に下方へ延びるダンパー12をそれぞれ連結し、駆動手段8から左右両側へ突出する車軸25の両端部にリンクプレート13をそれぞれ固定し、駆動手段8のハウジング14の前側において左右のリンクプレート13の前端部に左右のアーム部11aの下端部をそれぞれ連結し、駆動手段8のハウジング14の後側において左右のリンクプレート13の後端部に左右のダンパー12の下端部をそれぞれ連結したものである。尚、本実施の形態では、スクータータイプの電動二輪車1に本発明を適用したものであるが、スクータータイプの電動二輪車1以外の電動二輪車に対しても本発明を同様に適用できる。
【0014】

前輪2及び後輪3は、前輪懸架装置9及び後輪懸架装置15を介して電動二輪車1の図示外の車体フレーム10にそれぞれ支持され、またモータ6とヘッドライト16とウィンカー17等の電気機器への給電のための電池18は、シート19の下側のスペース内に収納されている。
【0015】
電池18としては、ニカド電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、小型制御弁式鉛蓄電池、鉛電池、アルカリ電池などの二次電池や、燃料電池など、任意の構成のものを採用できるが、急速充電が可能で蓄電容量が大きいことから、ニッケル水素電池を好適に利用できる。また、電池18として、二次電池と太陽電池を併用したものを採用することも可能である。
【0016】
モータ6は、インホイール型のブラシレス直流で構成されている。モータ6の出力は任意に設定可能であるが、原動機付き自転車の免許証で運転できるように構成する場合には、運転可能な上限出力が600Wであることから、前後のモータにおける合計の出力が600Wになるように設定することになり、前後のモータとして同じ構成のものを採用する場合には、300Wのモータを採用することになる。また、前輪2及び後輪3に組付けられるモータ6は、前後輪2、3間における回転差によるスリップを防止するため、同期して回転駆動することが好ましい。更に、前後輪駆動時と後輪駆動時とに切り替え可能なスイッチング回路を設け、使用状況に応じて出力調整できるように構成することも好ましい実施の形態である。更にまた、直流モータに代えて、ステッピングモータを用いることも可能である。
【0017】
モータ6及びブレーキ装置7を含む駆動手段8のホイール4、5に対するの組付構造は、次のように構成されている。但し、前輪2及び後輪3に対する駆動手段8の組付構造は基本的に同じなので、前輪2の組付構造について説明する。
【0018】
図3、図4に示すように、ホイール4のスポーク部4aの中央部には左右両側へ突出する有底な収容筒部20が一体的に形成され、収容筒部20の開口部は側板21で閉鎖され、収容筒部20の側壁部20aには側方へ突出する筒状のドラム22が一体的に固定され、ドラム22の側部には開口部を閉鎖するブレーキドラム23が設けられている。収容筒部20と側板21とドラム22とブレーキドラム23とで駆動手段8のハウジング14が構成され、ハウジング14の略中央部には1対のベアリング24を介して回転自在に車軸25が挿通され、ホイール4、5は車軸25に対して回転自在に支持されている。
【0019】
モータ6の組付構造について説明すると、収容筒部20内において車軸25にはアーマチュア26が相対回転不能に設けられ、収容筒部20の内周面にはマグネット27が固定され、アーマチュア26とマグネット27とでモータ6が構成され、アーマチュア26のコイルに通電がなされると、マグネット27とともにホイール4が車軸25を中心に回転するように構成されている。
【0020】
ブレーキ装置7は、ドラム22とブレーキドラム23とブレーキシュー28と操作カム(図示略)等からなるドラム22式のブレーキ装置7で、ブレーキドラム23は車軸25に相対回転不能に取り付けられ、ドラム22内には1対のブレーキシュー28がドラム22の内面に沿って配置され、ブレーキシュー28の一端部はブレーキドラム23に対して左右方向の軸部材(図示外)を中心として微小回動自在に支持されている。両ブレーキシュー28間には他端部を相互に接近する方向へ付勢する引っ張りコイルバネ(図示略)が張設され、両ブレーキシュー28の他端部間には操作カムが配置され、引っ張りコイルバネの付勢力に抗して操作カムを回動させて、両ブレーキシュー28をドラム22の内面に圧接させることで、制動力が得られるように構成されている。但し、ドラム式のブレーキ装置7に代えて、ディスク式のブレーキ装置を設けることも可能である。
【0021】
後輪懸架装置15は、周知のスイングアーム形式の懸架装置で構成されている。但し、スイングアーム形式の懸架装置を採用することも可能である。
【0022】
前輪懸架装置9について説明すると、図1、図3、図5に示すように、車体フレーム10の前部にはヘッドパイプ30が設けられ、ヘッドパイプ30にはステアリングアーム11の上部が回動自在に支持されている。ステアリングアーム11の下半部は二股に分岐されて、前方斜め下側へ延びる左右1対のアーム部11aが形成され、アーム部11aの途中部には下方へ延びるダンパー12が連結されている。
【0023】
前輪2に組付けられた駆動手段8から左右両側へ突出する車軸25の両端部にはリンクプレート13が固定されている。リンクプレート13の前後両端部は、モータ6のハウジング14よりも前後両側へ延設され、左右のアーム部11aの下端部はモータ6のハウジング14の前側において左右のリンクプレート13の前端部に図示外のブッシュを介在させてそれぞれ連結され、左右のダンパー12の下端部はモータ6のハウジング14の後側において左右のリンクプレート13の後端部に図示外のブッシュを介在させてそれぞれ連結されている。
【0024】
そして、このようにハウジング14の左右両側にリンクプレート13を設け、ハウジング14の前後両側においてリンクプレート13にアーム部11aとダンパー12の下端部を固定することで、リンクプレート13間における前後方向及び左右方向のスペースを広く設定して、後輪駆動用の駆動手段8と同一構成の駆動手段8を前輪2に組み付けることができるように構成されている。
【0025】
リンクプレート13は、図5に示すように、略平板状の金属板で構成されている。リンクプレート13に対するアーム部11aの連結位置は、車軸25の固定位置よりも上側に設定され、ダンパー12の連結位置は、車軸25の固定位置よりも下側に設定されている。リンクプレート13に対するアーム部11aの連結位置と車軸25の固定位置とを結ぶ線分と、ダンパー12の連結位置と車軸25の固定位置とを結ぶ線分とのなす角度θ1は、120°以上、180°以下に設定されている。また、ダンパー12とアーム部11aの中心線のなす角度θ2は、50°以上、65°以下に設定されている。リンクプレート13に対するアーム部11aの連結位置と車軸25の固定位置の中心間距離L1と、ダンパー12の連結位置と車軸25の固定位置の中心間距離L2とは、L1/L2が71%以上、141%以下となるように設定されている。このように角度θ1を120°〜180°の範囲内に設定し、角度θ2を50°〜65°の範囲内に設定し、L1/L2を71%〜141%に設定することで、直進安定性及び操舵性が確保されている。試作機では、角度θ1を157°に設定し、角度θ2を56°に設定し、L1/L2を71%に設定したが、これにより十分な直進安定性と操舵性が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】スクータの側面図
【図2】スクータの正面図
【図3】前輪懸架装置要部の斜視図
【図4】前輪の駆動手段の縦断面
【図5】前輪懸架手段要部の側面図
【符号の説明】
【0027】
1 電動二輪車 2 前輪
3 後輪 4 ホイール
4a スポーク部 5 ホイール
6 モータ 7 ブレーキ装置
8 駆動手段 9 前輪懸架装置
10 車体フレーム 11 ステアリングアーム
11a アーム部 12 ダンパー
13 リンクプレート 14 ハウジング
15 後輪懸架装置 16 ヘッドライト
17 ウィンカー 18 電池
19 シート 20 収容筒部
20a 側壁部 21 側板
22 ドラム 23 ブレーキドラム
24 ベアリング 25 車軸
26 アーマチュア 27 マグネット
28 ブレーキシュー
30 ヘッドパイプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを含む駆動手段を前輪及び後輪のホイールにそれぞれ組み込んだ前後輪駆動の電動二輪車であって、
前記前輪の懸架装置として、
車体フレームの前部に、左右1対のアーム部を有するステアリングアームを回動自在に設け、
前記左右のアーム部の途中部に下方へ延びるダンパーをそれぞれ連結し、
前記駆動手段から左右両側へ突出する車軸の両端部にリンクプレートをそれぞれ固定し、
前記駆動手段のハウジングの前後両側において左右のリンクプレートの前後両端部に、左右のアーム部の下端部と左右のダンパーの下端部をそれぞれ連結した、
ものを用いたことを特徴とする前後輪駆動の電動二輪車。
【請求項2】
前記前輪及び後輪の駆動手段として同一構成のものを用いた請求項1記載の前後輪駆動の電動二輪車。
【請求項3】
前記リンクプレートに対するアーム部の連結位置を車軸の固定位置よりも上側に設定し、ダンパーの連結位置を車軸の固定位置よりも下側に設定した請求項1又は2記載の前後輪駆動の電動二輪車。
【請求項4】
前記リンクプレートに対するアーム部の連結位置と車軸の固定位置とを結ぶ線分と、ダンパーの連結位置と車軸の固定位置とを結ぶ線分とのなす角度を120°〜180°に設定した請求項1〜3のいずれか1項記載の前後輪駆動の電動二輪車。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−204008(P2007−204008A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28558(P2006−28558)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000211695)中西金属工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】