説明

前方層を使用して気相酸化するための触媒系及び方法

本発明は、芳香族炭化水素及び分子酸素を含んでなるガス状流を、2つの又はそれを上回る触媒層に通すことによって気相酸化する方法に関する。さらに、本発明は、前方層を使用して気相反応するための触媒系に関する。前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの直径×高さの積、又は前記体積は、少なくとも1つの後続の触媒層よりも小さいか、又は前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの体積当たりの表面積の指数は、少なくとも1つの後続の触媒層よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族炭化水素及び分子酸素を含んでなるガス状流を、2つの又はそれを上回る触媒層(Katalysatorlagen)に通すことによって気相酸化する方法に関する。さらに、本発明は、前方層(Vorlage)を使用して気相反応するための触媒系に関する。
【0002】
多数のカルボン酸及び/又は無水カルボン酸は、ベンゼン、キシレン類、ナフタレン、トルエン又はジュレンのような芳香族炭化水素を固定床反応器中で接触気相酸化することによって、工業的に製造される。このようにして、例えば安息香酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸又はピロメリト酸無水物を得ることができる。一般的に、含酸素ガスと酸化すべき出発物質との混合物を、触媒の床(Schuettung)が存在する管に通す。温度制御のために、前記管は、熱媒体、例えば溶融塩によって包囲されている。
【0003】
過剰の反応熱が熱媒体によって導出されるにも関わらず、触媒床中では、局所的な温度極大値(ホットスポット)の形成となりうるものであり、そこでは前記触媒床のその他の部分よりも高い温度に支配される。これらのホットスポットは、出発物質の完全燃焼のような副反応、又は反応生成物から、分離不可能な又は大きな費用を伴ってのみ分離可能な、望ましくない副生物の形成をまねく。
【0004】
そのうえ、前記触媒は、特定のホットスポット温度を上回ると不可逆的に損傷されうる。故に、この方法を開始する際に、酸化すべき炭化水素でのガス状流のローディング(Beladung)は、初めに極めて低く保持されなければならず、かつゆっくりとのみ上昇されることができる。最終的な生産状態はしばしば数週間後にはじめて達成される。
【0005】
近年、芳香族炭化水素の酸化には、多層触媒系が使用されてきた(例えば独国特許出願公開(DE-A)第40 13 051号明細書、独国特許出願公開(DE-A)第198 23 262号明細書、欧州特許出願公開(EP-A)第1 063 222号明細書、国際公開(WO)第2005/115616号、欧州特許出願公開(EP-A)第1 084 115号明細書、独国特許出願公開(DE-A)第103 23 818号明細書、独国特許出願公開(DE-A)第103 23 461号明細書、独国特許出願公開(DE-A)第103 23 817号明細書)。その場合の目的は、個々の触媒層の活性を反応進行に、反応器軸に沿って適合させることである。それにより、有用生成物の高い収率及び同時に望ましくない中間生成物又は副生物のできるだけ低い収率を達成することが可能である。通常、反応器入口の方にある第一の層の触媒は、最も低い活性を有する、それというのも、反応器入口近くの領域中で、最も高い出発物質濃度、ひいては最も大きい反応速度が生じるからである。前記化学反応の際に遊離する熱により、反応ガスは、反応により生成したエネルギーが冷却剤へ放出されるエネルギーとちょうど同じであるところまで加熱される。第一の触媒層中での高すぎる活性は、ホットスポット温度の制御されない上昇をまねき、これは通常、選択率減少又はそれどころか前記反応の制御不可能な進行をまねきうる。
【0006】
個々の触媒層の活性の設計の際に顧慮されなければならない別の局面は、第一の触媒層中のホットスポットの位置である。運転時間が増加するにつれて、触媒活性は低下するので、より高い割合の未反応炭化水素又は部分酸化された中間体が、前記触媒床のさらに下流にある領域へ達する。前記反応は、それゆえますます反応器出口へ移動し、かつホットスポットの位置は、ますますさらに反応器出口の方向へシフトする。このことは、それどころか、ホットスポットが、第一の触媒層から第二の触媒層又は後に続く触媒層へ移動することをまねきうる。ホットスポットのこの移動は、有用生成物収率が著しく低下する結果となる。
【0007】
触媒失活に対して、熱媒体の温度を上昇させることによって限られた範囲内で対抗することができる。熱媒体の温度の上昇及び/又はホットスポットのシフトは、多層の触媒系の場合に、ガス混合物が後方にある触媒層中へ入る温度の上昇をまねく。後方にある触媒層は通例、確かにより活性であるが、しかしあまり選択的ではないので、望ましくない過剰酸化及び他の副反応が増加する。挙げた2つの作用は、運転期間と共に生成物収率もしくは選択率の低下を生じさせる。そのような場合に、完全な触媒交換は、さらなる運転と比較して経済的により意義深くなりうる。
【0008】
技術水準に記載された活性構造化された触媒系にとって不利であるのは、そのような構造化された触媒系の使用にも関わらず、前記触媒の寿命が、特に前記ガス流の方向へのホットスポットの移動が増加することに関して、満足できないことである。さらにガス出口側へのより活性な触媒層中でのホットスポットのポジショニングは、さらに、望ましくない副生物を回避するための前記触媒の選択率の精密調節の可能性を制限する。
【0009】
国際公開(WO)第2006/92305号、国際公開(WO)第2006/92304号及び出願番号 06112510.0を有する欧州特許出願明細書は、この問題を、常用の触媒層の前方の、ガス入口の方にある活性な触媒層の使用によって解決する。活性な前方層は、反応器ガスのより迅速な加熱及びそれゆえ前記化学反応のより早期の開始を引き起こすので、ホットスポットが技術水準からの系と比較してさらにガス入口の方へ形成される。
【0010】
しかしながら、より活性な前方層の欠点は、3つないし4つの後続の触媒層のための活性材料懸濁液に加えて、前方層のための別の活性材料懸濁液が調製されなければならないことにある。さらに、反応器入口での極めて活性な第一の層は、安全面のリスクが高まることを意味する、それというのも、前記反応は反応器入口での高い出発物質含分のために制御不可能になりうるからである。
【0011】
技術水準のさらなる欠点は、反応器入口でのガス温度が、塩浴温度をはるかに下回ることである。この範囲内で、塩浴温度調節が過剰の熱の除去に役立つのではなくて、むしろ逆に前記反応ガスを加熱するのに役立つ。通常、前記反応ガスを加熱するためには、充填されていない空の管、球状の不活性材料が充填された管又は触媒が充填された管が使用される。球状の不活性材料の欠点は、前記反応器を介しての高い圧力損失にある。
【0012】
本発明の課題はそれに応じて、芳香族炭化水素を気相酸化する方法及びこの方法を実施するための触媒系を提供することにあり、前記方法において、反応器入口での反応ガスの加熱が、技術水準におけるよりも迅速に行われるか、もしくは前記方法において、反応器入口での反応ガスの加熱が、国際公開(WO)第2006/92305号、国際公開(WO)第2006/92304号又は出願番号06112510.0を有する欧州特許出願明細書の発明を使用したのと匹敵しうる時間内に行われるが、しかしその際にこのより迅速な加熱の達成がより単純に実施されることができ、かつ高められた安全面のリスクを必然的に伴わない。より迅速な加熱により、前記反応のより迅速な"開始"が達成されることができ、その際にホットスポットはさらにガス入口の方へ形成される。さらなる課題はそれに応じて、ホットスポットが技術水準におけるよりもさらにガス入口の方へ形成される触媒系を示すことにあった。最後に、より長い運転時間を高い収率水準で達成する触媒系が示されるべきである。
【0013】
前記課題は、少なくとも1つの芳香族炭化水素及び分子酸素を含んでなるガス状流を、前記ガス状流の流れ方向に直列に配置され、その際に隣接した触媒層中の触媒の活性が互いに異なる少なくとも2つの触媒層に通すことによる気相酸化方法によって解決され、前記方法は、
触媒層及び/又は不活性層が前記ガスの流れ方向の反対側で隣接した触媒層の前方にあり、
ここで前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの直径×高さの積は、少なくとも1つの後続の触媒層よりも小さいか、又は
前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの体積は、少なくとも1つの後続の触媒層よりも小さいか、又は
前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの体積当たりの表面積の指数は、少なくとも1つの後続の触媒層よりも大きい
ことによって特徴付けられる。
【0014】
前方にある触媒層及び/又は不活性層はそれに応じて、前記触媒系の第一の層(ガス入口の方にある)を表す。
【0015】
前方層中に、多様な不活性リング及び/又は触媒リングの混合物が存在していてもよい。前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの挙げられた記載は、それぞれ平均積、平均体積又は平均指数を基準としている。
【0016】
有利に、前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの直径×高さの積は、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、特に全ての後続の触媒層のそれよりも小さい。
【0017】
"直径"という概念は、本発明の範囲内で、前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの平均外径を意味している。
【0018】
"体積"という概念は、本発明の範囲内で、前記リングの幾何学的体積を意味している。
【0019】
有利に、前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの体積は、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、特に全ての後続の触媒層よりも小さい。
【0020】
前方にある触媒リングの体積は、例えば完全な触媒リング全体に延びているノッチ又はスリットによって、低下されることができる。特に好ましくは、前記体積は、前記リングの(各正面(Stirnseite)で)上側の複数のノッチ及び下側の複数のノッチによって低下される。極めて特に好ましくは、前記体積は、前記リングの(各正面で)上側の2つ、3つ、4つ又は5つの対称的に配置されるノッチ及び下側の2つ、3つ、4つ又は5つの対称的に配置されるノッチによって低下される。さらに極めて特に好ましくは、前記体積は、前記リングの(各正面で)上側の2つの対称的なノッチ及び下側の2つの対称的なノッチによって低下され、ここで上側のノッチ及び下側のノッチは同一であるが、90°だけ回転している。これらのノッチは図1aに説明されている。さらに極めて特に好ましくは、前記体積は、前記リングの(各正面で)上側の3つの対称的なノッチ及び下側の3つの対称的なノッチによって低下され、ここで上側のノッチ及び下側のノッチは同一である。これらのノッチは図1bに説明されている。
【0021】
有利に、前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの体積当たりの表面積の指数は、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、特に全ての後続の触媒層よりも大きい。
【0022】
有利に、前方にある不活性層及び/又は触媒層の後方に、少なくとも3つの別の触媒層、好ましくは3〜5つの別の触媒層が続く。
【0023】
触媒層として、本質的には均一な活性を有する、すなわち本質的には均一な、前記活性材料の組成、活性材料含分及び充填密度(前記反応器に充填する際の不可避のゆらぎを除く)を有する触媒の床が存在するとみなされる。連続した触媒層はそれゆえ、含まれている触媒の活性の点で相違する。当業者には、触媒活性を制御する多様な手段が知られている。
【0024】
有利に、前記触媒層の活性は、前方にある不活性層及び/又は触媒層の後の第一の触媒層から、連続的に最後の触媒層まで(流れ方向へ見て)増加する。しかしまた、低い活性を有する触媒からなるか又は不活性材料からなる中間層が、一体化されていてよい(例えば出願番号06008816.8を有する欧州特許出願明細書参照)。
【0025】
有利に、前方にある不活性リング又は触媒リングの直径×高さの積は、少なくとも1つの後続の触媒層の直径×高さの積よりも少なくとも5〜10%小さい。有利に、前記積は少なくとも10〜20%小さい。有利に、前方にある不活性リング又は触媒リングの直径×高さの積は45mm2以下、好ましくは40mm2以下である。前方にある不活性リング又は触媒リングの直径×高さの積は有利に、15〜45mm2、好ましくは25〜40mm2である。有利に、前方にある不活性リング又は触媒リングの直径は3〜8mm、好ましくは5〜7mmである。有利に、前方にある不活性リング又は触媒リングの高さは3〜8mm、好ましくは5〜7mmである。有利に、前方にある不活性リング又は触媒リングの内径は、1〜6mm、好ましくは3〜5mmである。
【0026】
有利に、前方にある不活性リング又は触媒リングの体積は、少なくとも1つの後続の触媒層の体積よりも少なくとも5〜10%小さい。有利に、前記体積は少なくとも10〜20%小さい。有利に、前方にある不活性リング又は触媒リングの体積は、170mm3以下、好ましくは110mm3以下である。前方にある不活性リング又は触媒リングの体積は、有利に25〜170mm3、好ましくは60〜110mm3である。
【0027】
有利に、前方にある不活性リング又は触媒リングの体積当たりの表面積の指数は、少なくとも1つの後続の触媒層の体積当たりの表面積の指数よりも少なくとも5〜10%大きい。有利に、体積当たりの表面積の指数は、少なくとも10〜20%大きい。有利に、前方にある不活性リング又は触媒リングの体積当たりの表面積の指数は、180mm-1以上、好ましくは200mm-1以上である。前方にある不活性リング又は触媒リングの体積当たりの表面積の指数は、有利に180〜500mm-1、好ましくは200〜300mm-1である。
【0028】
有利に、前方にある不活性リング及び/又は触媒リングは、ゼロの活性ないし後続の第一の触媒層の活性までを有する。特に好ましくは、前方にある不活性リング及び/又は触媒リングは、ゼロの活性又は後続の第一の触媒層の活性のいずれかを有する。
【0029】
触媒もしくは触媒層の活性は、同一の条件下に(特に触媒体積、体積基準の空間速度(gas hourly space velocity, GHSV)もしくは空気量、熱媒体の温度、ガス状流の炭化水素ローディングに関して)試験設備中で測定される転化率であると理解される。触媒もしくは触媒層の転化率が高ければ高いほどその活性も一層高くなる。この方法は、特に、活性の比較のためもしくは相対的な触媒活性の決定のために適している。
【0030】
当業者には、触媒層の活性を制御する方法は十分に知られている。例えば、前記触媒の活性/選択率は、前記活性材料への助触媒の添加により、前記触媒のBET表面積の調節により、前記活性材料含分により、すなわち管体積当たりの前記活性材料により、個々の触媒成形体間の空間により又は不活性物質の含量により変えることができる。
【0031】
不活性な前方層の場合に、これは、例えば触媒担体としても使用されるような不活性材料からなる。適した担体材料は、例えば石英(SiO2)、磁器、酸化マグネシウム、二酸化スズ、炭化ケイ素、ルチル、礬土(Al23)、ケイ酸アルミニウム、ステアタイト(ケイ酸マグネシウム)、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸セリウム又はこれらの担体材料の混合物である。不活性な前方層は、繊維又は金属線からなる織物、編物又はメリヤスも含むことができる。
【0032】
不活性材料及び/又は触媒材料の前方層を含めた全ての触媒層の全長は、通常2.5〜4m、好ましくは2.8〜3.4mである。前記前方層の長さは有利に0.05〜1m、好ましくは0.1〜0.5m、特に0.15〜0.4mである。それに応じて、前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの床長は有利に、全床長の1.5〜40%、好ましくは2.5〜20%、特に3.5〜15%である。
【0033】
有利に、前方にある不活性層及び/又は触媒層を有する三層触媒系中で、前記触媒床の全長を基準として、不活性層及び/又は触媒層は1〜40%、好ましくは5〜25%、特に10〜20%を有する。後続の第一の触媒層は有利に、前記触媒床の全長を基準として、15〜75%、好ましくは25〜60%、特に30〜50%を有する。後続の第二の触媒層は有利に、前記触媒床の全長を基準として、5〜45%、好ましくは10〜40%、特に15〜30%を有する。後続の第三の触媒層は同じように有利に、前記触媒床の全長を基準として、5〜45%、好ましくは10〜40%、特に15〜30%を有する。
【0034】
有利に、前方にある不活性層及び/又は触媒層を有する三層触媒系中で、前方にある触媒層の床長は5cm〜120cm、好ましくは15cm〜75cm、特に30cm〜60cmであり、後続の第一の触媒層の床長は45cm〜225cm、好ましくは75cm〜180cm、特に90cm〜150cmであり、後続の第二の触媒層の床長は15cm〜135cm、好ましくは30cm〜120cm、特に45cm〜90cmであり、かつ後続の第三の触媒層の床長は15cm〜135cm、好ましくは30cm〜120cm、特に45cm〜90cmである。
【0035】
三層触媒系の触媒組成は、例えば国際公開(WO)第2004/103561号のp.7に記載されている。
【0036】
有利に、前方にある不活性層及び/又は触媒層を有する四層触媒系中で、前方にある不活性層及び/又は触媒層は、前記触媒床の全長を基準として、1〜40%、好ましくは5〜25%、特に10〜20%を有する。後続の第一の触媒層は有利に、前記触媒床の全長を基準として、15〜75%、好ましくは25〜60%、特に30〜50%を有する。後続の第二の触媒層は有利に、前記触媒床の全長を基準として、5〜45%、好ましくは5〜30%、特に10〜20%を有する。後続の第三の触媒層は有利に、前記触媒床の全長を基準として、5〜45%、好ましくは5〜30%、特に10〜25%を有する。後続の第四の触媒層は同じように有利に、前記触媒床の全長を基準として、5〜45%、好ましくは5〜30%、特に10〜25%を有する。
【0037】
有利に、前方にある不活性層及び/又は触媒層を有する四層触媒系中で、前方にある不活性層及び/又は触媒層の床長は5cm〜120cm、好ましくは15cm〜75cm、特に30cm〜60cmであり、後続の第一の触媒層の床長は45cm〜225cm、好ましくは75cm〜180cm、特に90cm〜150cmであり、後続の第二の触媒層の床長は15cm〜135cm、好ましくは15cm〜90cm、特に30cm〜60cmであり、後続の第三の触媒層の床長は15cm〜135cm、好ましくは15cm〜90cm、特に30cm〜75cmであり、かつ後続の第四の触媒層の床長は15cm〜135cm、好ましくは15cm〜90cm、特に30cm〜75cmである。
【0038】
四層触媒系の触媒組成は、例えば、国際公開(WO)第2004/103561号のp.8に又は出願番号06114230.3を有する欧州特許出願明細書のp.5及び6に記載されている。
【0039】
有利に、前方にある触媒層中で、ホットスポットは形成されない。
【0040】
特に好ましくは、前方層は2つの領域へ区分される。ガス入口の方にある第一の領域は、不活性材料の床を有するのに対し、第二の領域は、流れ方向の下流に(他の触媒層の方にある)触媒材料の床を有し、
ここで前方にある不活性リング及び触媒リングの直径×高さの積は、少なくとも1つの後続の触媒層よりも小さいか、又は
前方にある不活性リング及び触媒リングの体積は、少なくとも1つの後続の触媒層よりも小さいか、又は
前方にある不活性リング及び触媒リングの体積当たりの表面積の指数は、少なくとも1つの後続の触媒層よりも大きい。
【0041】
有利に、前方層の不活性層の第一の領域は、5〜25cm、好ましくは10〜20cmを占める。前方層の触媒材料床の第二の領域は、有利に10〜75cm、好ましくは30〜50cmを占める。それに応じて、前方層の不活性層の第一の領域は、全ての前方層の有利に5〜70%、好ましくは15〜40%を占める。前方層の触媒材料床の第二の領域は、最後に全ての前方層の有利に30〜95%、好ましくは60〜85%を占める。前方にある触媒層の活性は有利に、後続の第一の触媒層の活性に相当する。
【0042】
前方層に加えて、場合により、前記管束反応器の個々の管を介しての圧力損失平衡化のために、別の不活性材料及び/又は触媒材料が使用されることができる。
【0043】
本発明による方法は、ベンゼン、キシレン類、トルエン、ナフタレン又はジュレン(1,2,4,5−テトラメチルベンゼン)のような芳香族C6〜C10−炭化水素を、無水マレイン酸、無水フタル酸、安息香酸及び/又はピロメリト酸二無水物のようなカルボン酸及び/又は無水カルボン酸に気相酸化するのに特に適している。本方法は、o−キシレン及び/又はナフタレンから無水フタル酸を製造するのに特に適している。
【0044】
本発明による方法の実施は、当業者に知られており、かつ例えば国際公開(WO)第2004/103561号のp.6及び7に記載されている。
【0045】
本発明による方法は、触媒床の最初に反応ガスの迅速な加熱を引き起こす。
【0046】
国際公開(WO)第2006/92305号、国際公開(WO)第2006/92304号及び出願番号06112510.0を有する欧州特許出願明細書とは異なり、本発明において、反応ガスは確かに同じように塩浴温度を下回って加熱されるが、しかし前方層中のガス温度が塩浴温度を上回った場合に、安全面のリスクが高まることにはならない。
【0047】
さらに、本発明は、少なくとも1つの芳香族炭化水素及び分子酸素を含んでなるガス状流を気相酸化する方法を実施するための、但し触媒系がガス状流の流れ方向に直列に配置される少なくとも2つの触媒層を有し、その際に隣接した触媒層中の前記触媒の活性が互いに異なるが、但し触媒層及び/又は不活性層が前記ガスの流れ方向の反対側で隣接した触媒層の前方にある触媒系に関し、
ここで前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの直径×高さの積は、少なくとも1つの後続の触媒層よりも小さいか、又は
前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの体積は、少なくとも1つの次の触媒層よりも小さいか、又は
前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの体積当たりの表面積の指数は、少なくとも1つの後続の触媒層よりも大きい。
【0048】
本発明により、最初のホットスポットが反応器入口の極めて近くに形成される触媒系が提供される。反応器入口の方にある触媒床のより多くの利用により、より長い運転時間が達成されることができる。さらに、挙げられた望ましくない副反応は、ホットスポットがより活性な触媒層へ移動することにより、技術水準からの触媒系の場合よりもより後の時点ではじめて生じる。
【0049】
本発明は、添付した図1a及び1b及び以下の実施例によって、より詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】リングのノッチを示す図。
【実施例】
【0051】
触媒1:US 6586361による、例9(すなわち"触媒lie")、列8、8×6×5mm(外径×高さ×内径)の幾何学的形状を有する
触媒2:US 6586361による、例10(すなわち"触媒III")、列8、8×6×5mm(外径×高さ×内径)の幾何学的形状を有する。
【0052】
前方層:
前方層1:5×3×2mm(外径×高さ×内径)の幾何学的形状を有する不活性なステアタイトリング
前方層2:7×7×4mm(外径×高さ×内径)の幾何学的形状を有する不活性なステアタイトリング、これは各正面に図1aに記載の1.5mm×1.5mmの刻み目を有するノッチを有する。
前方層3:ステアタイトリング上の活性材料10.1%、その際に前記組成は触媒1の組成に相当し、7×7×4 mm(外径×高さ×内径)の幾何学的形状を有する
前方層4:8×6×5mm(外径×高さ×内径)の幾何学的形状を有する不活性なステアタイトリング。
【0053】
触媒系試験:
試験1:本発明による、流れ方向の触媒系:前方層1 10cm、触媒1 170cm、触媒2 130cm
試験2:本発明による、流れ方向の触媒系:前方層2 10cm、触媒1 170cm、触媒2 130cm
試験3:本発明による、流れ方向の触媒系:前方層2 10cm、前方層3 40cm、触媒1 170cm、触媒2 130cm
試験4:本発明によらない、流れ方向の触媒系:前方層4 10cm、触媒1 170cm、触媒2 130cm。
【0054】
触媒系試験の実施:
4つの触媒系を、o−キシレン70g/Nm3のローディングで試験した。355℃の同じ塩浴温度で、以下の、第1表にまとめられたホットスポット位置が測定された。
【0055】
【表1】

【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの芳香族炭化水素及び分子酸素を含んでなるガス状流を、前記ガス状流の流れ方向に直列に配置され、その際に隣接した触媒層中の触媒の活性は互いに異なる少なくとも2つの触媒層に通すことにより気相酸化する方法であって、
触媒層及び/又は不活性層が前記ガスの流れ方向の反対側で隣接した触媒層の前方にあり、
ここで前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの直径×高さの積は、少なくとも1つの後続の触媒層よりも小さいか、又は
前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの体積は、少なくとも1つの後続の触媒層よりも小さいか、又は
前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの体積当たりの表面積の指数は、少なくとも1つの後続の触媒層よりも大きい
ことを特徴とする、気相酸化方法。
【請求項2】
前方にある不活性リング又は触媒リングの直径×高さの積が、少なくとも1つの後続の触媒層よりも少なくとも5〜10%小さいか、又は
前方にある不活性リング又は触媒リングの体積が、少なくとも1つの後続の触媒層よりも少なくとも5〜10%小さいか、又は
前方にある不活性リング又は触媒リングの体積当たりの表面積の指数が、少なくとも1つの後続の触媒層よりも少なくとも5〜10%大きい、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前方にある不活性リング又は触媒リングの直径×高さの積が45mm2以下であるか、又は
前方にある不活性リング又は触媒リングの体積が170mm3以下であるか、又は
前方にある不活性リング又は触媒リングの体積当たりの表面積の指数が180mm-1以上である、
請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記体積を、前記リングの各正面でのノッチにより低下させる、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの床長が、全床長の2.5〜20%である、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前方にある不活性層又は触媒層がゼロの活性又は後続の第一の触媒層の活性を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前方にある触媒層及び/又は不活性層が、不活性材料からなる領域及び触媒材料からなる領域を含み、その際に不活性材料からなる領域がガス入口の方にある、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
不活性材料領域が前方層の全長の15〜40%を構成する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
o−キシレン及び/又はナフタレンから無水フタル酸を製造する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの芳香族炭化水素及び分子酸素を含んでなるガス状流を気相酸化する方法を実施するための、但し触媒系がガス状流の流れ方向に直列に配置される少なくとも2つの触媒層に通し、その際に隣接した触媒層中の触媒の活性が互いに異なり、但し、触媒層及び/又は不活性層が前記ガスの流れ方向の反対側で隣接した触媒層の前方にある、触媒系であって、
ここで前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの直径×高さの積は、少なくとも1つの後続の触媒層よりも小さいか、又は
前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの体積は、少なくとも1つの後続の触媒層よりも小さいか、又は
前方にある不活性リング及び/又は触媒リングの体積当たりの表面積の指数は、少なくとも1つの後続の触媒層よりも大きい、
気相酸化方法を実施するための触媒系。

【公表番号】特表2010−513380(P2010−513380A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541994(P2009−541994)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063810
【国際公開番号】WO2008/077791
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】