前立腺癌の代謝学的プロファイリング
本発明は、癌マーカーに関するものである。特に本発明は、癌(例えば、前立腺癌または乳癌)において特異的に存在する代謝物および代謝物パネルを提供する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願は、米国特許出願番号第61/289,206号(出願日2009年12月22日)に優先権を主張するものである。
【0002】
〔連邦政府によって後援を受けた研究または開発に関する声明〕
本発明は、米国国立衛生研究所からの政府の支援(交付番号U01 CA111275)により、なされたものである。政府は、本発明において特定の権利を有するものである。
【0003】
〔発明の分野〕
本発明は、癌マーカーに関する。特に、本発明は、癌(例えば、前立腺癌または乳癌)における存在が特異的な代謝物および代謝物パネルを提供する。
【0004】
〔発明の背景〕
65歳以上の男性の9人に1人が前立腺癌(PCA)を患っており、前立腺癌(PCA)は、肺癌に次いで、男性の癌関連死の主要な原因となっている(Abate-Shen and Shen, Genes Dev14:2410 [2000]; Ruijter et al., Endocr Rev, 20:22 [1999])。米国癌協会は、2001年において、アメリカ人男性の約184,500人が前立腺癌と診断され、39,200人が前立腺癌で死亡するだろうと推定している。
【0005】
前立腺癌は、典型的には、直腸内触診および/または前立腺特異抗原(PSA)スクリーニングによって診断される。血中のPSA濃度の上昇により、PCAの存在が示され得る。PSAは、前立腺癌用のマーカーとして使用される。これは、PSAが、前立腺細胞によってのみ分泌されるものだからである。健康な前立腺は、安定した量(典型的には、1ミリリットル当たり4ナノグラム以下、またはPSA度数が「4」またはそれ以下)のPSAを生成するが、癌細胞は、癌の重篤度に応じて段階的に増大した量のPSAを生成する。レベル4〜10の場合、医者は、患者が前立腺癌ではないかと疑いを抱く可能性があり、50よりも高いレベルの場合、腫瘍が体内のどこかに転移したことを示す可能性がある。
【0006】
PSAまたは指診により、癌が存在している可能性が高いことが示される場合、経直腸的超音波(TRUS)を用いて、前立腺をマッピングして、疑いのある部位を示す。前立腺の様々な部位に生検を行って、前立腺癌が存在するかどうかを判定する。治療の選択肢は、癌の段階に応じて異なる。推定余命が10年以下の、グリーソン数が低く、腫瘍が前立腺を超えて転移していない男性には、多くの場合、用心深く待機することが行われる(治療なし)。より悪性の癌の治療の選択肢には、外科治療が含まれる。外科治療の例には、前立腺を完全に除去する前立腺全摘除術(RP)(神経温存技術を含む、または含まない)や放射線が含まれる。放射線については、外部のビームで人体の外側から所定線量を前立腺に向けて直接照射する場合もあるし、または、低線量の放射性シードを前立腺内に移植して、癌細胞を局所的に死滅させる場合もある。抗アンドロゲンホルモン療法も、単独で、または、手術もしくは放射線と組み合わせて用いられる。ホルモン療法は、下垂体がテストステロンの生成を刺激するホルモンを生成することを阻止する、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH−RH)類似体を用いるものである。患者は、残りの人生においてずっとLH−RH類似体を注射し続けなければならない。
【0007】
多くの場合、外科治療およびホルモン治療は、局在性PCAには有効であるが、進行性癌を治癒することは難しい。進行性PCAの場合には、アンドロゲンの切除が最も一般的な治療法であり、アンドロゲンの切除により、アンドロゲン依存性の悪性細胞の大規模なアポトーシスおよび一時的な腫瘍の緩解が導かれる。しかし多くの場合、腫瘍は再発し、アンドロゲン信号に無関係に増殖してしまう。
【0008】
前立腺特異抗原(PSA)スクリーニングの出現により、PCAの早期検出がもたらされ、PCAに関連した致死率は、著しく低減された。しかし、PSAスクリーニングが癌特異的死亡率に与える影響については、将来のランダムスクリーニングの研究結果が出るまでは、依然として不明である(Etzioni et al., J. Natl. Cancer Inst., 91:1033 [1999]; Maattanen et al., Br. J. Cancer 79:1210 [1999]; Schroder et al., J. Natl. Cancer Inst., 90:1817 [1998])。血清PSA試験は、主に、PSA検出の特に中間範囲(4〜10ng/ml)における前立腺癌の有病正診率および無病正診率が不明であるために、制限される。高い血清PSA濃度は、良性前立腺肥大(BPH)および前立腺炎といった、非悪性の状態の患者において検出されることが多く、検出された癌の悪性度に関してほとんど情報を提供しない。血清PSA試験を多く行えば、同時に、前立腺の針生検の行う数も、著しく増大する(Jacobsen et al., JAMA 274:1445 [1995])。このため、前立腺の針生検の結果はあいまいになる場合が多い(Epstein and Potter J. Urol., 166:402 [2001])。従って、PSAスクリーニングを補完するためのさらなる血清および組織バイオマーカーの開発が求められている。
【0009】
〔発明の概要〕
本発明は、癌マーカーに関する。特に、本発明は、癌(例えば、前立腺癌または乳癌)において存在が特異的な代謝物および代謝物パネルを提供する。
【0010】
例えば、幾つかの実施形態において、本発明は、前立腺癌または乳癌を診断する方法を提供する。この方法は、被験体からの試料(例えば、組織(例えば生検)試料、血液試料、血清試料、または尿試料)において、1つ以上(例えば、マルチプレックスまたはパネルのフォーマットにおいて共に測定される、2またはそれ以上、3またはそれ以上、5またはそれ以上、10またはそれ以上、あるいはそれ以上など)の癌特異的代謝物(例えば、ピペコリン酸または脂肪酸(ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸を含むがこれらに限定されない)またはポリアミン(例えばプトレッシン、スペルミジン、スペルミン))の存在または非存在を検出するステップと、上記癌特異的代謝物の存在または非存在に基づいて、前立腺癌または乳癌を診断するステップとを含む。幾つかの実施形態において、癌特異的代謝物は、癌性試料には存在しているが、非癌性試料には存在していない。幾つかの実施形態において、癌特異的代謝物は、癌性試料には存在していないが、非癌性試料には存在している。幾つかの実施形態において、これらの癌特異的代謝物と共に、1つ以上のさらなる癌マーカーが検出される(例えば、パネルまたはマルチプレックス・フォーマットの中で)。
【0011】
幾つかの実施形態において、本発明は、前立腺癌を診断する方法を提供する。この方法は、被験体からの尿試料において、サルコシン、グルタミン酸、グリシン、および、システインのレベルを検出するステップと、サルコシン、グルタミン酸、グリシン、および、システインの上記レベルが癌でない被験体におけるレベルよりも高い場合、前立腺癌であると診断するステップとを含む。幾つかの実施形態において、本方法は、例えば、アセチルグルコサミン、キヌレニン、ウラシル、ホモシステイン、アスパラギン、グルタミン酸、スペルミジン、スペルミン、2−アミノアジピン酸、ロイシン、プロリン、スレオニン、マレイン酸塩、ヒスチジン、シトルリン、アデノシン、およびイノシンから選択される1つ以上の代謝物のレベルを検出するステップをさらに含む。
【0012】
本発明は、前立腺癌または乳癌を特徴づける方法をさらに提供する。この方法は、癌と診断された被験体からの試料(例えば、組織試料、血液試料、血清試料、尿試料、尿沈渣試料)において、高いレベルの癌特異的代謝物(例えば、ピペコリン酸もしくは脂肪酸(ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸を含むがこれらに限定されない)、またはポリアミン(例えば、プトレッシン、スペルミジン、スペルミン))の存在または非存在を検出するステップと、上記癌特異的代謝物の存在または非存在に基づいて、前立腺癌または乳癌を特徴づけるステップとを含む。幾つかの実施形態において、上記試料に高いレベルの脂肪酸(例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸)が存在することは、上記被験体が浸潤性前立腺癌であることを示すものである。幾つかの実施形態において、上記試料に高いレベルのピペコリン酸が存在することは、上記被験体が侵襲性前立腺癌であることを示すものである。幾つかの実施形態において、前立腺組織試料(例えば、前立腺生検試料)に低いレベルの1つ以上のポリアミン(例えば、プトレッシン、スペルミジン、スペルミン)が存在することは、前立腺癌であることを示すものである。幾つかの実施形態において、尿試料に高いレベルの1つ以上のポリアミン(例えば、プトレッシン、スペルミジン、スペルミン)が存在することは、前立腺癌であることを示すものである。
【0013】
特定の実施形態では、本発明は、乳癌を診断する方法を提供する。この方法は、被験体からの試料において、ピペコリン酸、セリン、ポリアミン、および脂肪酸といった1つ以上の癌特異的代謝物の存在または非存在を検出するステップと、上記癌特異的代謝物の存在または非存在に基づいて、乳癌を診断するステップとを含む。幾つかの実施形態において、ポリアミンは、プトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンなどのポリアミンである。幾つかの実施形態において、脂肪酸は、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、およびオレイン酸といった種類の脂肪酸である。幾つかの実施形態において、試料は、組織試料、血液試料、血清試料、および尿試料といった種類の試料である。幾つかの実施形態において、組織試料は、生検試料である。幾つかの実施形態において、1つ以上の癌特異的代謝物は、癌性試料には存在するが、非癌性試料には存在しない。幾つかの実施形態において、1つ以上の癌特異的代謝物は、癌性試料には存在しないが、非癌性試料には存在する。幾つかの実施形態では、本方法は、2つ以上の上記癌特異的代謝物の存在または非存在を同時に検出するステップを含む。
【0014】
特定の実施形態では、本発明は、乳癌を特徴づける方法を提供する。この方法は、被験体からの試料において、ピペコリン酸、セリン、ポリアミン、および脂肪酸といった1つ以上の癌特異的代謝物の存在または非存在を検出するステップと、上記癌特異的代謝物の存在または非存在に基づいて、乳癌を特徴づけるステップとを含む。幾つかの実施形態において、ポリアミンは、プトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンなどのポリアミンである。幾つかの実施形態において、脂肪酸は、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、およびオレイン酸などの脂肪酸である。幾つかの実施形態において、上記試料は、組織試料、血液試料、血清試料、および尿試料といった種類の試料である。幾つかの実施形態において、組織試料は生検試料である。幾つかの実施形態において、上記試料に高いレベルの1つ以上の癌特異的代謝物が存在することは、被験体が乳癌であることを示すものである。幾つかの実施形態において、上記試料に低いレベルの1つ以上の癌特異的代謝物が存在することは、被験体が乳癌であることを示すものである。幾つかの実施形態において、方法は、2つ以上の上記癌特異的代謝物の存在または非存在を同時に検出するステップを含む。
【0015】
特定の実施形態において、本発明は、前立腺癌を診断する方法を提供する。この方法は、被験体からの尿試料において、ピペコリン酸、セリン、ポリアミン、および脂肪酸といった、1つ以上の癌特異的代謝物の存在または非存在を検出するステップと、上記尿試料における上記癌特異的代謝物の存在または非存在に基づいて、前立腺癌を診断するステップとを含む。幾つかの実施形態において、ポリアミンは、プトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンなどのポリアミンである。幾つかの実施形態において、脂肪酸は、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、およびオレイン酸などの脂肪酸である。幾つかの実施形態において、上記尿試料は、尿沈渣試料である。幾つかの実施形態において、1つ以上の癌特異的代謝物は、癌性試料には存在するが、非癌性試料においては存在しない。幾つかの実施形態において、1つ以上の癌特異的代謝物は、癌性試料には存在しないが、非癌性試料には存在する。幾つかの実施形態において、本方法は、2つ以上の上記癌特異的代謝物の存在または非存在を同時に検出するステップを含む。
【0016】
特定の実施形態において、本発明は、前立腺癌を診断する方法を提供する。この方法は、前立腺組織試料において、1つ以上のポリアミンのレベルの減少を検出するステップと、上記前立腺組織試料における上記1つ以上のポリアミンのレベルの減少に基づいて、前立腺癌を診断するステップとを含む。幾つかの実施形態において、前立腺組織試料は、生検試料である。幾つかの実施形態において、ポリアミンは、プトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンなどの種類のポリアミンである。
【0017】
特定の実施形態において、本発明は、前立腺癌を診断する方法を提供する。この方法は、尿試料において、1つ以上のポリアミンのレベルの上昇を検出するステップと、尿試料における上記1つ以上のポリアミンのレベルの減少に基づいて、前立腺癌を診断するステップとを含む。幾つかの実施形態において、尿試料は、尿沈渣試料である。幾つかの実施形態において、ポリアミンは、プトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンなどの種類のポリアミンである。
【0018】
さらなる実施形態では、本発明は、代謝物のレベルを検出するために使用される組成物、キット、およびシステムを提供する。幾つかの実施形態において、キット、およびシステムは、代謝物のレベルを検出するために必要な、十分な、または有用な構成要素を含む。
【0019】
本発明のさらなる実施形態は、詳細な説明及び実施例の章に記載されている。
【0020】
〔図面の説明〕
図1は、グルタミン酸のレベルが、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【0021】
図2は、グリシンのレベルが、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【0022】
図3は、システインのレベルが、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【0023】
図4は、チミンのレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において高いことを示す図である。
【0024】
図5は、ピペコリン酸のレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【0025】
図6は、ウラシルのレベルが、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【0026】
図7は、セリンのレベルが、良性癌、局在性癌、および転移性前立腺癌の組織試料間で、変動しないことを示す図である。
【0027】
図8は、ピペコリン酸のレベルが、浸潤性前立腺癌の細胞株(VCAP、Du145、および2RVV1)において、非浸潤性の前立腺細胞株(RWPE)よりも高いことを示す図である。
【0028】
図9は、浸潤性前立腺癌の細胞株(LnCaP、Du145、PC3、2RVV1)が、非浸潤性の前立腺細胞株(RWPE)よりも、高いレベルのウラシルを有していることを示す図である。
【0029】
図10は、前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料が、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料よりも高いレベルのサルコシンを示すことを示す図である。
【0030】
図11は、前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料が、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料よりも高いレベルのグルタミン酸を示すことを示す図である。
【0031】
図12は、前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料が、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料よりも高いレベルのグリシンを示すことを示す図である。
【0032】
図13は、前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料が、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料よりも高いレベルのシステインを示すことを示す図である。
【0033】
図14は、前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料と、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料とは、同じレベルのメチオニンを示すことを示す図である。
【0034】
図15は、前立腺生検が陽性の尿沈渣試料のグルタミン酸、グリシン、およびシステインのレベルが、前立腺生検が陰性のコントロールよりも高いことを示すボックスプロットである。
【0035】
図16は、転移性前立腺の組織試料が、良性前立腺癌および局在性前立腺癌の試料よりも低いレベルのスペルミンを有していることを示す図である。
【0036】
図17は、転移性前立腺の組織試料が、良性前立腺癌および局在性前立腺癌の試料よりも低いレベルのプトレッシンを有していることを示す図である。
【0037】
図18は、転移性前立腺の組織試料が、良性前立腺癌および局在性前立腺癌の試料よりも低いレベルのスペルミジンを有していることを示す図である。
【0038】
図19は、良性、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料における、スペルミン、プトレッシン、およびスペルミジンのレベルを示すボックスプロットである。
【0039】
図20は、非浸潤性前立腺細胞株(RWPE)が、浸潤性前立腺癌の細胞株(VCAP、LnCaP、DU145、PC3、2RVV1)よりも高いレベルのスペルミン、プトレッシン、およびスペルミジンを示すことを示す図である。
【0040】
図21は、生検が陽性の前立腺癌患者からの尿沈渣試料の、スペルミン/メチオニンの比が、生検が陰性のコントロールからの尿沈渣試料と比べて高いことを示す図である。
【0041】
図22は、生検が陽性の前立腺癌患者からの尿沈渣試料の、スペルミジン/メチオニンの比が、生検が陰性のコントロールからの尿沈渣試料と比べて高いことを示す図である。
【0042】
図23は、生検が陽性の前立腺癌患者および生検が陰性のコントロールからの尿沈渣試料における、スペルミン/メチオニンの比およびスペルミジン/メチオニンの比を示すボックスプロットである。
【0043】
図24は、ミリスチン酸のレベルが、局在性前立腺癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【0044】
図25は、パルミチン酸のレベルが、局在性前立腺癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【0045】
図26は、アラキドン酸のレベルが、局在性前立腺癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【0046】
図27は、ステアリン酸のレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【0047】
図28は、ラウリン酸のレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【0048】
図29は、オレイン酸のレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【0049】
図30は、良性癌、局在性癌、および転移性前立腺癌の組織試料における、パルミチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、オレイン酸、およびラウリン酸のレベルを示すボックスプロットである。
【0050】
図31は、サルコシンのレベルが、乳癌の組織試料において、良性組織試料よりも高いことを示す図である。
【0051】
図32は、浸潤性乳癌細胞株(MDA−MB−231、BT−549、T578、SVM−245)が非浸潤性細胞株(HME)よりも、高いレベルのサルコシンを有していることを示す図である。
【0052】
図33は、浸潤性乳癌細胞株(MCF7、MDA−MB−231、T470、SKBR3)が、非浸潤性細胞株(MCF10A)よりも、高いレベルのプトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンを有していることを示す図である。
【0053】
図34は、70のDRE後の尿沈渣(35Bx−veおよび35Bx+ve)におけるGC−MS分析に基づいて、代謝物(サルコシン、グルタミン酸、グリシン、および、システイン)のレベルを示すボックスプロットである。
【0054】
図35は、4つの代謝物(サルコシン、グルタミン酸、グリシン、およびシステイン)から成る70の尿沈渣のトレーニングセットに対してロジスティック回帰を用いて展開されたマルチプレックス・パネルのROC曲線を示す図である。
【0055】
図36は、前立腺癌組織におけるGC−MS分析に基づいて、代謝物のレベルを示すボックスプロットである。
【0056】
図37は、前立腺癌組織が、高いレベルのロイシンを示すことを示す図である。
【0057】
図38は、前立腺癌組織が、高いレベルのアスパラギンを示すことを示す図である。
【0058】
図39は、前立腺癌組織が、高いレベルのトリプトファンを示すことを示す図である。
【0059】
図40は、前立腺癌組織が、高いレベルのキヌレニンを示すことを示す図である。
【0060】
図41は、前立腺癌組織が、高いレベルの3−アミノ酪酸を示すことを示す図である。
【0061】
図42は、生検陽性尿沈渣が、高いレベルのサルコシンを示すことを示す図である。
【0062】
図43は、生検が陽性の尿沈渣が、高いレベルのウラシル(ウラシル/アラニンの比)を示すことを示す図である。
【0063】
図44は、サルコシンの再現性(独立して調製)を示す図である。
【0064】
図45は、サルコシンの再現性(複製)を示す図である。
【0065】
図46は、DRE後の尿沈渣におけるサルコシンの安定性を示す図である。
【0066】
図47は、2つの独立した調製における、グルタミン酸、グリシン、およびシステインの再現性を示す図である。
【0067】
〔定義〕
本発明をよりよく理解するために、多数の用語および表現を以下に定義する。
【0068】
「前立腺癌」とは、癌が、男性の生殖器官の腺である前立腺に発現した疾患を指す。「悪性度が低い」または「悪性度がより低い」前立腺癌とは、転移の可能性が低い悪性腫瘍(例えば、あまり悪性でないと考えられる前立腺癌)を含む、非転移性前立腺癌を指す。「悪性度が高い」または「悪性度がより高い」前立腺癌とは、転移の可能性が高い悪性腫瘍(悪性であると考えられる前立腺癌)を含む、被験体内で転移した前立腺癌を指す。
【0069】
本明細書において用いられるように、「癌特異的代謝物」という用語は、癌細胞における存在が非癌細胞とは異なる代謝物を指す。例えば、幾つかの実施形態において、癌特異的代謝物は、癌細胞には存在するが、非癌細胞には存在しない。他の実施形態では、癌特異的代謝物は、癌細胞には存在しないが、非癌細胞には存在する。さらに他の実施形態では、癌特異的代謝物は、非癌細胞よりも癌細胞において、特異的なレベル(例えば、より高い、またはより低い)で存在する。例えば、癌特異的代謝物は、任意のレベルで特異的に存在してよいが、一般的には、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、もしくはそれ以上だけ高いレベルで存在するか、または、一般的には、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは100%(例えば存在しない)だけ少ないレベルで存在する。癌特異的代謝物は、好ましくは、統計的に有意なレベル(例えば、ウェルチのT検定またはウィルコクソン順位和検定のいずれかを用いて算出した、p値が0.05よりも低い、および/または、q値が0.10よりも低いレベル)で示差的に存在する。典型的な癌特異的代謝物については、後の詳細な説明および実施例の章に記載する。
【0070】
本明細書において用いられるように、「試料」という用語は、広い意味で用いられる。ある意味では、生物試料および環境試料だけでなく、任意の供給源から得た検体または培養菌を含むものと解釈される。生物試料は、動物(ヒトを含む)から得ることができ、流体、固体、組織、および気体を含む。生物試料は、血漿、血清などの血液製剤を含む。しかし、このような例は、本発明に適用可能な試料の種類を限定するものと解釈されるものではない。
【0071】
生物試料とは、動物(ヒトを含む)の流体、固体(例えば便)または組織だけでなく、液体および固体の食品や飼料製品、材料(日常品、野菜、肉、および肉副製品など)、並びに廃棄物であってよい。生物試料は、様々な属の家畜、野生動物または野獣(有蹄動物、クマ、魚、ウサギ科、齧歯目等の動物が含まれるが、これらに限定されない)の全てから得ることが可能である。生物試料は、所望のバイオマーカーを検出するために適した任意の生体物質を含んでいてよく、被験体からの細胞材料および/または非細胞材料を含んでいてよい。試料は、任意の好適な生物組織または流体(例えば、前立腺組織、血液、血漿、尿、または大脳髄液(CSF))から分離されていてもよい。
【0072】
代謝物の「基準レベル」とは、代謝物のレベルであって、特定の疾患の状態、表現型を示す、または特定の疾患が存在しないことを示すものであるだけでなく、特定の疾患の状態、表現型、または特定の疾患が存在しないことの組み合わせを示すものである。代謝物の「陽性」基準レベルとは、特定の疾患の状態または表現型を示すレベルを指す。代謝物の「陰性」基準レベルとは、特定の疾患の状態または表現型が存在しないことを示すレベルを指す。例えば、代謝物の「前立腺癌陽性基準レベル」とは、被験体が前立腺癌であるという陽性診断を示す、代謝物のレベルを意味しており、代謝物の「前立腺癌陰性基準レベル」とは、被験体が前立腺癌ではないという陰性診断を示す、代謝物のレベルを意味している。代謝物の「基準レベル」は、代謝物の絶対量もしくは絶対濃度、または相対量もしくは相対濃度、代謝物の存在または非存在、代謝物の量または濃度の範囲、代謝物の最小および/または最大の量もしくは濃度、代謝物の平均量または平均濃度、および/または、代謝物の中央量または中央濃度であってよく、さらに、代謝物の組み合わせの「基準レベル」は、2つ以上の代謝物の、絶対量もしくは絶対濃度、または、互いに対する相対量もしくは相対濃度の比率であってよい。特定の疾患の状態、表現型を示す、または特定の疾患が存在しないことを示す、代謝物の適切な陽性および陰性基準レベルは、1つ以上の適切な被験体における所望の代謝物のレベルを測定することによって決定され、このような基準レベルは、特定の母集団の被験体に合わせることが可能である(例えば、基準レベルは、代謝物のレベルが一定の年齢の被験体の試料において比較されるように、年齢に適合されていてよく、一定の年齢群における特定の疾患の状態、表現型を示す、または特定の疾患が存在しないことを示す基準レベルであってよい)。このような基準レベルは、生物試料中の代謝物のレベルを測定するために用いられる特定の技術(例えば、LC−MS、GC−MS等)に適合されていてもよい。この場合、代謝物のレベルは、用いられる特定の技術に基づき、異なっていてよい。
【0073】
本明細書において用いられるように、「細胞」という用語は、任意の真核細胞または原核細胞(例えば、大腸菌などのバクテリア細胞、酵母菌、哺乳類の細胞、鳥類の細胞、両生類の細胞、植物細胞、魚の細胞、および昆虫の細胞)を指す(インビトロに存在するものであっても、インビボに存在するものであってもよい)。
【0074】
「質量分析」(MS)とは、分子を測定および分析するための技術であり、標的分子を断片化して、その断片を、その質量/電荷比に基づいて分析して、「分子のフィンガープリント」として機能する質量スペクトルを生成することを含む。ある物体の質量/電荷比を算出することは、当該物質が電磁エネルギーを吸収する波長を算出する手段によって行われる。イオンの質量/電荷比を算出するために一般的に用いられる方法が幾つか存在する。そのうちの幾つかはイオンの軌道と電磁波との相互作用を測定する方法であり、また幾つかはイオンが所定の距離を移動するためにかかる時間を測定する方法であり、これらの方法を組み合わせた方法も存在する。断片質量分析のデータを、データベースで検索し、標的分子の識別を決定する。また、質量分析は、とりわけ、石油化学のような化学の分野、または医薬品の品質管理の分野において広く用いられている。
【0075】
「代謝」という用語は、生物の組織内で生じる化学変化(「同化作用」および「異化作用」を含む)を指す。同化作用とは、分子の生合成または集結を指し、異化作用とは、分子の分解を指す。
【0076】
「代謝物」とは、代謝に起因する中間体または生成物である。代謝物は、「低分子」と称されることが多い。
【0077】
「メタボロミクス」という用語は、細胞代謝物の研究を指す。
【0078】
「生体高分子」とは、1種類以上の反復単位による高分子である。生体高分子は、典型的には、生体系において見られ、特に、多糖類(炭水化物など)、並びに、ペプチド(この語は、ポリペプチドおよびタンパク質を含めた意味で用いられる)およびポリヌクレオチド、並びにその類似体(例えば、アミノ酸類似体もしくは非アミノ酸基、またはヌクレオチド類似体または非ヌクレオチド基から構成される、またはこれらを含む化合物)。これは、従来の主鎖が非自然に発生した主鎖または合成主鎖で置換されたポリヌクレオチド、および、1つ以上の従来の塩基がワトソン・クリック型水素結合の相互作用に参加することが可能な(自然または合成の)基で置換された核酸(または合成もしくは自然発生した類似体)を含む。ポリヌクレオチドは、単独のストランドで構成されていてもよいし、または多数のストランドで構成されていてもよい。多数のストランドで構成されている場合、1つ以上のストランドは、一列に揃えられていてもよいし、そうでなくてもよい。
【0079】
本明細書において用いられるように、「外科手術後の組織」という用語は、外科手術の間に、被験体から除去された組織を指す。この「外科手術後の組織」の例には、生検試料、摘出された器官、および摘出された器官の一部が含まれるが、これらに限定されない。
【0080】
本明細書において用いられるように、「検出する」、「検出すること」、または「検出」という用語は、検出可能な標識組成物を発見する、識別する、または特異的に観察するという一般的な動作を示していることが可能である。
【0081】
本明細書において用いられるように、「臨床的失敗」という用語は、前立腺摘除術の後のネガティブな結果を指す。臨床的失敗に関連する結果の例には、前立腺摘除術後の、PSAレベルの上昇(例えば、少なくとも0.2ng/ml−1の上昇)、または疾患(転移性前立腺癌など)の再発が含まれるが、これらに限定されない。
【0082】
本明細書において用いられるように、「マルチプレックス」という用語は、1つの試料において、2つ以上の物質(例えば検体、代謝物、化合物)を同時に検出することを指す。
【0083】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、癌マーカーに関する。特に、本発明は、癌(例えば、前立腺癌または乳癌)において存在が特異的な代謝物を提供する。本発明の実施形態を開発する過程において行った実験では、癌を患う被験体において存在が特異的な代謝物として、例えば、サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、アセチルグルコサミン、ホモシステイン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、n−アセチル−アスパラギン酸、マレイン酸塩、シトルリン、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、セリン、ウラシル、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、ピペコリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、アラキドン酸、メチオニン、スペルミン、トリプトファン、2−アミノアジピン酸、3−アミノイソ酪酸、スペルミジン、プトレッシン、ミリスチン酸、およびチミンを識別した。さらなるマーカーについては、本明細書、並びに、WO 2009/026152号およびWO 2008/036691号に記載されている。これら各文献は、列挙することで、文献の内容そのものが本明細書で援用されるものとする。
【0084】
開示されるマーカーは、診断、研究、スクリーニング、および治療の目的としての用途を有する。幾つかの実施形態において、本発明は、癌(例えば、前立腺癌または乳癌)を診断するための、組成物および方法を提供する。幾つかの実施形態において、本発明は、高いレベルの代謝物の存在に基づいて、浸潤性癌(例えば浸潤性前立腺癌、浸潤性乳癌)を識別する方法を提供する。
【0085】
本発明の実施形態は、診断、予後、スクリーニング、または治療用途において有効な、(例えば、2個以上、5個以上、10個以上、25個以上、または50個以上の)マーカーを含むパネルを提供する。
【0086】
〔I.診断およびスクリーニング用途〕
幾つかの実施形態において、本発明は、癌(例えば、前立腺癌または乳癌)を診断およびスクリーニングするための方法および組成物を提供する。この方法および組成物は、癌特異的代謝物またはその誘導体、前駆体、代謝物等の存在に基づいて、癌のリスク、存在または非存在、癌のステージ、癌の転移のリスクまたは存在、あるいは、浸潤性等を特徴づけるまたは診断する方法を含むが、これに限定されない。以下に、典型的な診断方法について説明する。
【0087】
〔A.試料〕
癌特異的代謝物を含有する疑いがある任意の患者の試料を、ここに記載する方法に従って試験する。例えば、非限定的な実施例では、試料は、組織(例えば、前立腺もしくは胸の生検試料、または外科手術後の組織)、血液、尿、またはその断片(例えば、血漿、血清、尿上清、尿細胞ペレット、尿沈渣、または前立腺細胞)であってよい。幾つかの実施形態において、試料は、生検またはその後の手術(例えば前立腺生検)によって得られた組織試料である。尿試料は、注意深く直腸内触診(DRE)を行い、前立腺の前立腺細胞が尿路の中に流れ出た後、直ちに採取されることが好ましい。
【0088】
幾つかの実施形態において、患者試料には、癌特異的代謝物または癌特異的代謝物を含有する細胞のための試料を単離または凝縮するために、予備的な処理が施される。当業者に公知の様々な技術を、このために用いてもよい。この技術には、遠心分離、免疫捕獲、および細胞溶解が含まれるが、これらに限定されない。
【0089】
〔B.代謝物の検出〕
代謝物は、任意の好適な方法を用いて検出することが可能である。この方法には、液相および気相クロマトグラフィーを、単独で用いること、または、質量分析(例えば、後の実施例の章を参照)、NMR(米国公開特許20070055456号(言及することで、文献の内容そのものが本明細書で援用されるものとする)を参照)、免疫学的アッセイ、化学アッセイ、分光法などを組み合わせて用いることが含まれるが、これに限定されない。幾つかの実施形態では、クロマトグラフィーおよびNMR分析用の市販のシステムが利用される。
【0090】
他の実施形態では、代謝物(例えば、バイオマーカーおよびその誘導体)を、光学的画像診断技術を用いて検出する。光学的画像診断技術の例には、磁気共鳴分光法(MRS)、磁気共鳴画像診断法(MRI)、CATスキャン、超音波検査法、MSベースの組織画像診断法、またはX線検出法(例えば、エネルギー分散型蛍光X線分析)が挙げられる。
【0091】
任意の好適な方法を用いて、生物試料を分析して、該試料中の1つ以上の代謝物の存在、非存在、またはレベルを判定することが可能である。好適な方法には、クロマトグラフィー(例えば、HPLC、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー)、質量分析(例えば、MS、MS−MS)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体リンケージ、他の免疫化学技術、生化学、または酵素反応、または酵素アッセイ、およびこれらの組み合わせが含まれる。さらに、1つ以上の代謝物のレベルを、間接的に、例えば、測定したいバイオマーカーのレベルに関連する化合物のレベルを測定するアッセイを用いることによって、測定してもよい。
【0092】
本発明の方法では、上述の代謝物のうちの1つ以上の代謝物のレベルを算出することが可能である。例えば、1つの代謝物、2つ以上の代謝物、3つ以上の代謝物、4つ以上の代謝物、5つ以上の代謝物、6つ以上の代謝物、7つ以上の代謝物、8つ以上の代謝物、9つ以上の代謝物、10以上の代謝物、またはそれ以上の代謝物(本明細書に記載の幾つかまたは全ての代謝物の組み合わせを含む)のレベルを算出し、本発明の方法において用いる。代謝物の組み合わせのレベルを判定することは、前立腺癌を診断する方法、および前立腺癌の診断を支援する方法などの方法において、有病正診率および無病正診率を著しく向上させると共に、(前立腺癌を有していない被験体よりも)前立腺癌を、他の前立腺の疾患(例えば、良性前立腺肥大(BPH)、前立腺炎など)、または、前立腺癌と類似または重複する代謝物を有する他の癌からより良好に区別または特徴づけることが可能である。例えば、生物試料中の特定の複数の代謝物のレベルの比は、前立腺癌を診断する方法、および前立腺癌の診断を支援する方法において、有病正診率および無病正診率を著しく向上させると共に、(前立腺癌を有していない被験体よりも)前立腺癌を、前立腺癌と類似または重複する代謝物を有する他の癌、または、他の前立腺疾患からより良好に区別または特徴づけることが可能である。幾つかの実施形態において、1つ以上の代謝物(例えば、ピペコリン酸または脂肪酸(ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸が含まれるが、これらに限定されない))のレベルは、乳癌の区別または特徴づけに使用することができる。
【0093】
〔C.データ分析〕
幾つかの実施形態では、コンピュータに基づいた分析プログラムを用いて、検出アッセイ法によって生成された生データ(例えば、癌特異的代謝物の存在、非存在、または量)を、臨床医用の予測値のデータに変換する。臨床医は、任意の好適な手段を用いて、予測データにアクセスすることが可能である。従って、幾つかの実施形態において、本発明は、代謝物分析の訓練を受けていないと思われる臨床医が生データを理解する必要がないというさらなる利点を提供する。データは、最も有用な形で、直接、臨床医に提示される。その後、臨床医は、直ちにこの情報を利用し、被験体の処置を最適化することが可能である。
【0094】
本発明は、アッセイを行う研究所に、および該研究所から、この情報を、受信、処理、および送信することが可能な任意の方法を想定可能である。情報は、医療関係者および被験体に提供される。例えば、本発明の幾つかの実施形態において、被験体から試料(例えば、生検または血液、尿、または血清試料)を得て、世界中の任意の場所(例えば、被験体が居住する国とは異なる国、または情報を最終的に用いる国とは異なる国)に位置するプロファイリングサービス(例えば、医療施設などの臨床研究所など)に提出し、生データを生成する。試料が組織または他の生物試料を含む場合、被験体は、病院に行って、試料を採取してもらい、これをプロファイリングセンターに送付してもらってもよいし、被験体は、試料(例えば、尿試料)を自身で採取して、これをプロファイリングセンターに直接送付してもよい。試料が、予め決定された生物情報を含む場合、この情報は、被験体によって、直接、プロファイリングサービスに送付され得る(例えば、この情報を含む情報カードが、コンピュータによってスキャンされ、このデータが、電気通信システムによって、プロファイリングセンターのコンピュータに送信され得る)。プロファイリングサービスによって受信されると、試料は処理され、プロファイル(例えば、代謝プロファイル)が作成される。このプロファイルは、被験体が望む診断用の情報または予後の情報に特化されたものである。
【0095】
プロファイルデータは、その後、治療を担当する臨床医が解釈するために適したフォーマットで用意される。例えば、生データを提供するのではなく、用意されたフォーマットにより、被験体の診断またはリスクの評価(例えば、癌が存在する可能性)が、特定の推奨される治療選択肢と共に示されることが可能である。データは、任意の好適な方法によって臨床医に表示され得る。例えば、幾つかの実施形態において、プロファイリングサービスは、報告書を作成する。この報告書は、臨床医用に(例えば治療時に)印刷されることが可能であるし、または、コンピュータのモニター上で臨床医に表示されることが可能である。
【0096】
幾つかの実施形態において、この情報は、まず、治療時にまたは地域の病院において分析される。生データは、その後、中央処理施設に送信され、さらに分析される、および/または、生データは、臨床医または患者が利用しやすい情報に変換される。中央処理施設は、プライバシー(全てのデータは、同じ形式の安全プロトコルで中央処理施設に保存される)、速度、およびデータ分析の均一性に関して、利点を提供する。中央処理施設は、その後、被験体の治療後のデータの処理を制御することが可能である。例えば、中央処理施設は、データを、電気通信システムを用いて、臨床医、被験体、または研究者に提供することが可能である。
【0097】
幾つかの実施形態において、被験体は、電気通信システムを用いてデータに直接アクセスすることが可能である。被験体は、この結果に基づいて、さらなる診断またはカウンセリングを選択することが可能である。幾つかの実施形態では、データは、研究用途に用いられる。例えば、データは、疾患の特定の状態またはステージを示す有効な指標であるマーカーを含めることまたは除去することを、さらに最適化するために用いられ得る。
【0098】
幾つかの実施形態において、代謝物のレベルが高いこと、または低いこと(例えば、通常の前立腺細胞内のレベルと比べて高いレベル、もしくは、以前のある時点と比べて高いレベル、または、予め設定された閾値と比べて高いレベルなど)は、試料における癌を示すものである。
【0099】
試料中の1つ以上の代謝物の量またはレベルが測定されると、この量またはレベルは、癌陽性および/または癌陰性基準レベルなどの、癌代謝物基準レベルと比較され、被験体が癌を有しているかどうかの診断またはこれを支援することが可能である。試料中の1つ以上の代謝物のレベルが、癌陽性基準レベル(例えば、基準レベルと同一のレベル、基準レベルとほぼ同一のレベル、基準レベルの最小値および/または最大値よりも高いおよび/または低いレベル、および/または、基準レベルの範囲内のレベル)に相当するならば、被験体が癌であるという診断を示すものである。試料中の1つ以上の代謝物のレベルが、癌陰性基準レベル(例えば、基準レベルと同一のレベル、基準レベルとほぼ同一のレベル、基準レベルの最小値および/または最大値よりも高いおよび/または低いレベル、および/または、基準レベルの範囲内のレベル)に相当するならば、被験体が癌でないという診断を示すものである。さらに、癌陰性基準レベルと比べて、試料中に1つ以上の代謝物が異なって(特に、統計的に有意なレベルにおいて)存在するレベルは、被験体が癌であるという診断を示すものである。癌陽性基準レベルと比べて、試料中に1つ以上の代謝物が異なって(特に、統計的に有意なレベルにおいて)存在するレベルは、被験体が癌でないという診断を示すものである。
【0100】
1つ以上の代謝物のレベルと、癌陽性および/または前立腺癌陰性基準レベルとの比較は、様々な技術を用いて行われる。これらの技術には、生物試料中の1つ以上の代謝物のレベルを、癌陽性および/または癌陰性基準レベルと単純に比較すること(例えば、手動による比較)が含まれる。この、生物試料中の1つ以上の代謝物のレベルと癌陽性および/または癌陰性基準レベルとを比較することに、1つ以上の統計的分析(例えば、t検定、ウェルチのT検定、ウィルコクソンの順位和検定、ランダムフォレスト)を用いてもよい。
【0101】
〔D.組成物およびキット〕
本発明の幾つかの実施形態における診断法、研究法、またはスクリーニング法において使用される(例えば、十分に使用される、使用に必須または有用な)組成物は、癌特異的代謝物の存在または非存在を検出するために必要な、十分な、または有用な試薬を含む。これらの組成物のうちの任意の組成物を、単独で、または、本発明の他の組成物と組み合わせて、キットの形で提供することが可能である。キットは、好適なコントロール、および/または、検出試薬をさらに含んでいてよい。
【0102】
〔E.パネル〕
本発明の実施形態は、本発明の1つ以上のマーカー(例えば、サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、n−アセチル−アスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、n−アセチルチロシンおよびチミン、ピペコリン酸、脂肪酸(ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸が含まれるが、これらに限定されない)、またはポリアミン(プトレッシン、スペルミジン、スペルミンが含まれるが、これらに限定されない))を、単独で、または、従来から公知のさらなる癌マーカーと一緒に、同時に検出するマルチプレックスアッセイまたはパネルアッセイを提供する。例えば、幾つかの実施形態において、単一のアッセイにおいて、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、15個以上、または20個以上のマーカーを検出する、パネルアッセイまたはコンビネーションアッセイが提供される。幾つかの実施形態において、アッセイは、自動化されるか、または高速処理される。
【0103】
幾つかの実施形態において、パネルは、サルコシン、グルタミン酸、グリシン、および、システインを含む。本発明の実施形態を開発する過程において行った実験では、サルコシン、グルタミン酸、グリシン、および、システインの1つのパネルが、個々のマーカーの曲線下で広い面積を示し、従って、前立腺癌を検出することにおいてより感度が高いことが分かった。幾つかの実施形態において、前立腺癌を検出するためのパネルは、さらに、アセチルグルコサミン、キヌレニン、ウラシル、ホモシステイン、アスパラギン、グルタミン酸、スペルミジン、スペルミン、2−アミノアジピン酸、ロイシン、プロリン、スレオニン、マレイン酸塩、ヒスチジン、シトルリン、アデノシン、またはイノシン、のうちの1つ以上を含む。
【0104】
幾つかの実施形態では、マルチプレックスアッセイまたはパネルアッセイには、さらなる癌マーカーが含まれている。マーカーは、その予測値のために、単独で、または、本明細書に記載の代謝マーカーと組み合わせて、選択される。典型的な前立腺癌マーカーには、AMACR/P504S(米国特許第6,262,245号)、PCA3(米国特許第7,008,765号)、PCGEM1(米国特許第6,828,429号)、prostein/P501S、P503S、P504S、P509S、P510S、prostase/P703P、P710P(米国公報第20030185830号)、および、米国特許第5,854,206号、第6,034,218号、米国公報第20030175736号に開示されるマーカーが含まれるが、これらに限定されない。これら各文献は、列挙することで、文献の内容そのものが本明細書で援用されるものとする。他の癌、疾患、感染症、および他の代謝状態のためのマーカーには、マルチプレックスまたはパネルのフォーマットに含まれるものも想定される。
【0105】
〔II.治療方法〕
幾つかの実施形態において、本発明は、治療方法(例えば、本明細書に記載の癌特異的代謝物を標的とする治療方法)を提供する。幾つかの実施形態において、治療方法は、本明細書に記載の癌特異的代謝物の酵素または経路成分を標的とする。
【0106】
例えば、幾つかの実施形態において、本発明は、本発明の癌特異的代謝物を標的とする化合物を提供する。この化合物は、例えば、癌特異的代謝物の合成に干渉することによって(例えば、代謝物の合成に関連する酵素の転写または翻訳を阻止することによって、代謝物の合成に関連する酵素を(例えば、翻訳後修飾によって、または不可逆的阻害剤に結合することによって)不活性化することによって、または、代謝物の合成に関連する酵素の活性を他の方法で阻止することによって)、癌特異的代謝物のレベルを減少させることが可能である。あるいは、この化合物は、癌特異的代謝物に結合してその機能を阻害することによって、癌特異的代謝物の標的(例えば、競合的または非競合的な阻害剤)に結合することによって、または、代謝物の分解またはクリアランスの割合を増大させることによって、癌特異的代謝物の前駆体もしくは代謝物のレベルを減少させることが可能である。化合物は、例えば、癌特異的代謝物の分解またはクリアランスを阻害することによって(例えば、代謝物の分解に関連する酵素を阻害することによって)、癌特異的代謝物の前駆体のレベルを増大させることによって、または、その標的のための代謝物の親和力を上昇させることによって、癌特異的代謝物のレベルを上昇させることが可能である。典型的な治療の標的には、グリシン−N−メチル転移酵素(GNMT)およびサルコシンが含まれるが、これらに限定されない。
【0107】
〔A.代謝経路〕
次に、典型的な癌特異的代謝物の代謝経路について説明する。本発明の組成物および方法では、さらなる代謝物の使用が想定されている。これについては、後述の、例えば実施例の説明の章に記載されている。
【0108】
〔i.サルコシン代謝〕
例えば、サルコシンは、肝臓のコリン代謝に関与している。哺乳類の肝臓におけるコリンからグリシンへの酸化的分解反応は、ミトコンドリアにおいて発生する。コリンは、特定のトランスポータによってミトコンドリアに入る。代謝経路における最後の2つのステップは、ジメチルグリシンをサルコシンに変換するジメチルグリシン脱水素酵素(Me2GlyDH)と、サルコシン(N−メチルグリシン)をグリシンに変換するサルコシン脱水素酵素(SarDH)とによって触媒される。両方の酵素は、ミトコンドリア基質に存在している。従って、幾つかの実施形態では、治療用の組成物は、Me2GlyDH、および/または、SarDHを標的とする。典型的な化合物は、例えば、本明細書に記載のドラッグスクリーニング法を用いることによって特定される。
【0109】
〔ii.グリシド酸代謝〕
コレステロール利用の最終産物は、肝臓内で合成される胆汁酸である。胆汁酸の合成は、過剰なコレステロールを排泄するための主なメカニズムである。しかし、コレステロールを胆汁酸の形で排泄することは、食事によるコレステロールの過剰摂取を補償するためには不十分である。ヒトの胆汁において最も多い胆汁酸は、ケノデオキシコール酸(45%)およびコール酸(31%)である。胆汁酸のカルボキシル基は、毛細胆管の中に分泌される前に、アミド結合を介してグリシンまたはタウリンに共役される。この共役反応によって、グリココール酸およびタウロコール酸がそれぞれ生成される。毛細胆管は、胆汁小導管と接合し、その後、胆管を形成する。胆汁酸は、肝臓から、これらの胆管を通って胆嚢に運ばれ、将来の使用に備えて、胆嚢内に貯蔵される。胆汁酸は、最終的に、腸の中に分泌され、腸内で、食事性脂質の乳化を支援する。グリシンおよびタウリンの残留物は、内蔵において除去され、胆汁酸は、(わずかな割合だけ)排泄されるか、または、内蔵に再吸収されて再び肝臓に戻される。このプロセスは、腸肝循環と呼ばれている。
【0110】
〔iii.スベリン酸代謝〕
スベリン酸(オクタン二酸とも呼ばれる)は、C6H12(COOH)2の化学式を有するジカルボン酸である。ジカルボン酸のペルオキシソーム代謝により、媒体鎖ジカルボン酸アジピン酸、スベリン酸、およびセバシン酸が生成される。これらは、尿において排泄される。
【0111】
〔iv.キサントシン代謝〕
キサントシンは、プリンヌクレオシド代謝に関与している。具体的には、キサントシンは、イノシンがグアノシンに変換する際の中間体である。キサンチル酸を、急性リンパ性白血病(ALL)の子供に最適なチオプリン療法を確保するために推奨される、プリン代謝におけるイノシンモノリン酸塩脱水素酵素活性の定量的測定において用いることが可能である。
【0112】
〔v.ポリアミン代謝〕
ポリアミンは、2つ以上の一次アミノ基を有しており、真核生物および原核生物において必須の分子である。ポリアミンが、細胞において、高度に調整された経路を介して合成されることは公知であるが、その実際の機能の全体は、明らかではない。ポリアミンは、陽イオンとして、規則的な間隔を置いてDNAに結合する。
【0113】
細胞のポリアミン合成が阻害されるならば、細胞増殖は、停止するか、または、著しく遅延される。外因性ポリアミンを供給することにより、これらの細胞の増殖は回復する。ほとんどの真核細胞は、その細胞膜上に、外因性ポリアミンの吸収を促進するポリアミントランスポータシステムを有している。ポリアミントランスポータシステムは、細胞を急速に増殖させることに極めてアクティブであり、幾つかの化学療法の標的である(例えば、DMFO、MGBG、BCNU、およびその類似体)。
【0114】
ポリアミンは、NMDA受容体およびAMPA受容体を含む、種々のイオンチャネルの重要な修飾因子でもある。ポリアミンは、内向き整流性カリウムチャンネルを阻止し、これによって、細胞エネルギーを保存する(細胞膜を横切るK+イオン勾配)。
【0115】
ポリアミンの例には、プトレッシン、カダベリン、スペルミン、およびスペルミジンが含まれるが、これらに限定されない。プトレッシンは、いずれもアルギニンから始まる異なる2つの経路を介して、生物学的に合成される。1つの経路では、アルギニンは、酵素アルギニン脱炭酸酵素(ADC)によって触媒反応し、アグマチンに変換される。その後、アグマチンは、アグマチンイミノヒドロキシラーゼ(AIH)によってカルバモイルプトレッシンに形質転換される。カルバモイルプトレッシンは、最終的に、プトレッシンに変換される。第2の経路では、アルギニンは、オルニチンに変換され、その後、オルニチンは、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)によってプトレッシンに変換される。カダベリンは、リジン脱炭酸酵素(LDC)との1ステップ反応において、リジンから合成される。スペルミジンは、炭酸基を除いたS−アデノシル−L−メチオニン(SAM)からのアミノプロピル基を用いて、プトレッシンから合成される。この反応は、スペルミジン合成酵素によって触媒作用が及ぼされる。スペルミンは、酵素スペルミン合成酵素の存在下で、スペルミジンとSAMとが反応することによって、合成される。
【0116】
〔vi.脂肪酸代謝〕
脂肪酸は、多くの場合、飽和または不飽和の、枝分かれしていない長い脂肪族テール(鎖)を有するカルボン酸を含む。脂肪酸の例には、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸(ドデカン酸としても知られる)、および、オレイン酸が含まれるが、これらに限定されない。
【0117】
ミリスチン酸(テトラデカン酸とも呼ばれる)または14:0は、分子化学式CH3(CH2)12COOHを有する一般的な飽和脂肪酸である。ミリスチン酸塩は、塩、またはミリスチン酸のエステルである。ミリスチン酸の名前は、ナツメグ(Myristica fragrans)に由来する。ナツメグバターは、75%トリミリスチン(ミリスチン酸の中性脂肪)である。ミリスチン酸は、ナツメグに加えて、パーム油、ヤシ油、バター脂肪、および、鯨蝋、マッコウクジラの油の結晶化断片にも見られる。またミリスチン酸は、通常、受容体に関連づけられたキナーゼ中の最後から2番目のN末端のグリシンに同時翻訳で加えられ、膜に酵素の局在性を与える。ミリスチン酸は、疎水性が非常に高いので、真核細胞の形質膜のリン脂質二重層の脂肪性アシルの核心に組み込まれる。このようにして、ミリスチン酸は、生体膜内の脂質アンカーとして機能する。
【0118】
IUPAC命名法では、パルミチン酸、CH3(CH2)14COOH、またはキサデカン酸は、動物および植物において見られる最も一般的な飽和脂肪酸の1つであり、ヤシの木の油の主な構成要素(パーム油およびパーム核油)である。「palmitic」という語は、フランス語の「palmitique」に由来し、ヤシの木の樹心を指す。パルミチン酸は、脂質生成(脂肪酸合成)の間に生成される最初の脂肪酸であり、このパルミチン酸から、より長い脂肪酸が生成され得る。パルミチン酸塩は、アセチルCoAをマロニルCoAに変換するために必要なアセチルCoAカルボン酸塩(ACC)にネガティブにフィードバックし、これによって、さらなるパルミチン酸塩の生成を阻止する。マロニルCoAは、増殖するアシル鎖に添加するために用いられるものである。
【0119】
アラキドン酸(AAまたはARAとしても知られている)は、オメガ−6脂肪酸20:4(ω−6)である。これは、ピーナッツ油に見られる飽和アラキン酸の対応物である(L.ラッカセイ属ピーナッツ)。アラキドン酸は、20個の炭素鎖と4つのシス二重結合を有するカルボン酸である。4つのシス二重結合のうちの最初の二重結合は、オメガ末端から6番目の炭素に位置している。「アラキドン酸」は、いずれかのエイコサトリエン酸を指すために用いられることがある。しかし、この語は、通常、全てのシス5,8,11,14−エイコサトリエン酸に限定される。アラキドン酸は、酵素ホスホリパーゼA2(PLA2)によって、リン脂質分子から遊離される。酵素ホスホリパーゼA2(PLA2)は、脂肪酸を開裂するが、DAGからもDAGリパーゼによって生成され得る。シグナリングの目的で生成されるアラキドン酸は、ホスファチジル基コリンに特異的な細胞質ホスホリパーゼA2(cPLA2、85kDa)の作用によって誘導されると思われるが、炎症性アラキドン酸は、低分子量分泌性のPLA2(sPLA2、14−18kDa)の作用によって生成される。アラキドン酸は、エイコサノイドの生成における前駆体である。すなわち、(1)酵素シクロオキシゲナーゼおよびペルオキシダーゼは、プロスタグランジンH2を生じさせ、次にプロスタグランジンH2は、プロスタグランジン、プロスタサイクリン、およびトロンボキサンを生成するために使用され、(2)酵素5−リポキシゲナーゼが、5−HPETEを生じさせ、5−HPETEは次に、ロイコトリエンを生成するために使用され、(3)アラキドン酸は、アナンダミドの生合成においても使用され、そして、(4)幾つかのアラキドン酸は、エポキシゲナーゼによって、ヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)およびエポキシエイコサトリエン酸(EET)に変換される。体内における、これらの誘導体の生成およびその作用は、集合的に、アラキドン酸カスケードとして知られている。
【0120】
ステアリン酸または18:0は、飽和脂肪酸である。これは、化学式C18H36O2、またはCH3(CH2)16COOHの蝋様の固体である。ステアリン酸は、典型的に飽和カルボン酸と反応し、特に、ステアリルアルコールに還元され、様々なアルコールとエステル化する。ヒトの同位体標識(Emken et al. (1994) Am. J. Clin. Nutr. 60:1023S-1328S)では、オレイン酸に酸化的に非飽和された食事性ステアリン酸の断片は、同様にパルミトレイン酸に変換されたパルミチン酸の断片よりも2.4倍も高いことを示している。また、ステアリン酸は、ほとんど、コレステロールエステルに組み入れられない。
【0121】
オレイン酸は、様々な動物および野菜の供給源において見られるモノ不飽和オメガ−9脂肪酸であり、ヒトの脂肪組織において最も多い脂肪酸である。オレイン酸は、CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOH)の化学式を有している。オレイン酸のトランス異性体は、エライジン酸と呼ばれる。
【0122】
〔B.低分子(小分子)治療法〕
いくつかの実施形態において、低分子治療が利用される。複数の実施形態において、低分子治療は癌特異的代謝物を標的にする。いくつかの実施形態において、低分子治療は、例えば本発明の薬物スクリーニング法を用いて特定される。
【0123】
〔C.核酸に基づく治療法〕
別の実施形態では、核酸に基づく治療が利用される。核酸に基づく治療の一例としては、アンチセンスRNA、siRNA、および、miRNAなどがあげられるが、これらの例に限定されるものではない。いくつかの実施形態において、核酸に基づく治療は、癌特異的代謝物(例えば、上述の代謝物)の代謝経路中における、酵素の発現を標的にする。
【0124】
いくつかの実施形態では、核酸に基づく治療はアンチセンスである。遺伝子特異的な治療薬としては、siRNAが使用される(Tuschl and Borkhardt, Molecular Intervent. 2002; 2(3):158-67、本明細書では、言及によって盛り込まれるものとする)。動物細胞へのsiRNAの形質移入の結果、特異的遺伝子の強力な、持続性を有する転写後のサイレンシングが起きる(Caplen et al, Proc Natl Acad Sci U. S. A. 2001; 98: 9742-7; Elbashir et al.,Nature. 2001; 411:494-8; Elbashir et al., Genes Dev. 2001;15: 188-200; および、Elbashir et al., EMBO J. 2001; 20: 6877−88、これら各文献は、列挙することで、文献の内容そのものが本明細書で援用されるものとする)。siRNAを用いてRNAiを実施するための方法および組成については、例えば、米国特許第6,506,559号に記載されている(言及することで、文献の内容そのものが本明細書で援用されるものとする)。
【0125】
別の実施形態では、癌特異的代謝物の代謝経路において起こる遺伝子の発現が、上記酵素をコード化する1つ以上の核酸と特異的にハイブリッド形成するアンチセンス化合物を用いて調節される(例えば、Georg Sczakiel, Frontiers in Bioscience 5, d194-201 January 1, 2000; Yuen et al., Frontiers in Bioscience d588−593, June 1, 2000; Antisense Therapeutics, Second Edition, Phillips, M. Ian, Humana Press, 2004を参照。なお、これら各文献は、列挙することで、文献の内容そのものが本明細書で援用されるものとする)。
【0126】
〔D.遺伝子治療〕
本発明では、本明細書に記載する癌特異的代謝物の代謝経路において起こる酵素の発現の調節における任意の遺伝子操作の使用について考察する。遺伝子操作の例としては、遺伝子ノックアウト(例えば、遺伝子を、組換えなどを利用して染色体から除去する)、誘導性プロモーターを用いた、または、誘導性プロモーターを用いないアンチセンスコンストラクトの発現などがあげられるが、これらの例に限定されるものではない。インビトロまたはインビボにおける核酸コンストラクトの細胞への送達は、任意の適切な方法を用いて実施されればよい。適切な方法の1つは、所望のイベント(例えば、アンチセンスコンストラクトの発現)が発生するような核酸コンストラクトを細胞に導入する方法である。遺伝子治療法を用いて、siRNA、または、(例えば、誘導性プロモーターによって刺激すると)インビボで発現する他の干渉分子を送達してもよい。
【0127】
遺伝情報を細胞内へ搬送する分子の導入は、裸のDNAコンストラクトの誘導された注入、該コンストラクトを担持する金粒子の衝突、リポソームや生体高分子を用いた巨大分子を媒介とする遺伝子導入などを含めた様々な方法のうちのいずれかによって達成されるが、これらに限定されるものではない。好ましい方法は、アデノウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルスなどを含めた、ウイルス由来の遺伝子送達媒体を使用するが、これらに限定されるものではない。アデノウイルスに由来するベクターは、レトロウイルスに比べて効率が高いので、核酸分子を宿主細胞へインビボで導入するためには好適な遺伝子送達媒体である。アデノウイルスベクターは、動物モデルにおける種々の固形腫瘍に対して、および、免疫欠損マウスにおけるヒトの固形腫瘍の異種移植片に対して、非常に効率的なインビボの遺伝子導入が実施できることが示されている。遺伝子導入のためのアデノウイルスベクターおよび方法の例は、国際特許出願公開第00/12738および第00/09675、ならびに、米国特許出願第6,033,908号、第6,019,978号、第6,001,557号、第5,994,132号、第5,994,128号、第5,994,106号、第5,981,225号、第5,885,808号、第5,872,154号、第5,830,730号、および、第5,824,544号に記載されている(これら特許出願は、列挙することで、内容そのものが本明細書で援用されるものとする)。
【0128】
ベクターは、被験体に対して種々の方法で投与可能である。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、ベクターは、直接注入を用いて、腫瘍または腫瘍に関連する組織に投与される。別の実施形態では、投与は、血液のの循環またはリンパ性の循環を介して実施される(例えば、国際特許出願公開第99/02685を参照。なお、この特許出願は、言及することによって、内容そのものが本明細書に援用されるものとする)。アデノウイルスベクターの投与量レベルの例としては、潅流液に108〜1011個のベクター粒子が添加されることが好ましい。
【0129】
〔E.抗体療法〕
いくつかの実施形態において、本発明は、癌特異的代謝物、または、その代謝経路において発現する酵素を標的とする抗体を提供する。任意の適切な抗体(例えば、単クローン性抗体、多クローン性抗体、または、合成抗体など)が、本明細書において開示する治療方法において使用可能である。好適な実施形態では、癌治療に使用される抗体はヒト化された抗体である。抗体をヒト化するための方法は、当該技術分野において周知である(例えば、米国特許第6,180,370号、第5,585,089号、第6,054,297号、第5,565,332号などを参照。なお、これら各文献は、列挙することで、文献の内容そのものが本明細書で援用されるものとする)。
【0130】
いくつかの実施形態では、後述するように、抗体に基づく治療が薬学的組成物として処方される。好適な実施形態では、本発明の抗体組成物の投与の結果、測定可能な程度の癌の減少が生じる(例えば、腫瘍の減少または消滅)。
【0131】
〔F.薬学的組成物〕
本発明は、さらに、薬学的組成物(例えば、癌特異的代謝物のレベルまたは活性を調節する医薬品など)を提供する。本発明のいくつかの実施形態の薬学的組成物は、局所的な治療が所望されているのか、または、全身的な治療が所望されているのかに応じて、また、治療対象となる領域に応じて、複数の方法で投与可能である。投与は、局所的(経眼投与、ならびに、経腟送達および経直腸送達を含めた粘膜への投与を含める)に実施されても、経肺的(例えば、噴霧器の使用を含めた、粉末またはエアロゾルの吸入またはガス注入、気管内投与、鼻腔内投与、上皮投与、経皮投与など)に実施されても、経口的または非経口的に実施されてもよい。非経口投与には、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、もしくは、筋肉内の注射もしくは注入、または、頭蓋内(例えば、くも膜下または脳室内)投与を含める。
【0132】
局所投与のための薬学的組成物および処方物としては、経皮パッチ、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、ドロップ、坐薬、噴霧、液体、および、粉末などを含めてもよい。従来の医薬品用キャリア、水性、粉末性、または、油性のベース、増粘剤などが必要となる、または、望ましいこともあり得る。
【0133】
経口投与のための組成物および処方物としては、粉末もしくは顆粒、水もしくは非水性の媒体を用いた懸濁液もしくは溶液、カプセル、小袋、または、錠剤などを含める。増粘剤、香味料、希釈液、乳化剤、分散補助剤、または、結合剤が望ましいこともあり得る。
【0134】
非経口投与、くも膜下投与、または、脳室内投与のための組成物および処方物としては、バッファ、希釈液、ならびに、例えば、浸透エンハンサーやキャリア化合物などの薬学的に許容可能なキャリアまたは補形剤(ただしこれらに限定されるものではない)などの、別の適切な添加剤も含有してかまわない無菌水溶液などを含めてもよい。
【0135】
本発明の薬学的組成物としては、溶液、乳濁液、リポソーム含有処方物などを含めるが、これらの例に限定されるものではない。これらの組成物は、調製済み液、自己乳化する固体、および、自己乳化する半流動物を含めた種々の成分(ただし、これらに限定されるものではない)から生成可能である。
【0136】
本発明の医薬品用処方物は、単位投与量の形態で投与すれば都合がよく、医薬品産業界において周知の従来の手法に合わせて調製されればよい。このような手法としては、有効成分を医薬品用キャリアまたは賦形剤に関連付けるステップを含めてもよい。一般に、上記処方物は、有効成分を液体キャリアおよび細分化された固体キャリアのいずれか一方、または、両方に一様および密接に関連付け、さらに、必要であれば生成物を整形することによって調製される。
【0137】
本発明の組成物は、例えば、錠剤、カプセル、液体シロップ、軟質ゲル、坐薬、浣腸薬などの多数の可能な剤形(ただし、これらに限定されるものではない)のうちのいずれかの形態で処方されればよい。本発明の組成物は、水性媒体、非水性媒体、または、混合媒体において懸濁液として処方されてもよい。水懸濁液は、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、および/または、デキストランなどの、該懸濁液の粘性を増加させる物質をさらに含有してもよい。上記懸濁液は、安定剤をさらに含有してもかまわない。
【0138】
本発明の一実施形態では、上記薬学的組成物は、発砲体として処方および使用されてもよい。医薬品用発砲体としては、例えば、乳濁液、マイクロ乳濁液、クリーム、ゼリー、リポソームなどの処方物を含めるが、これらに限定されるものではない。これらの処方物は、本質的には基本的に互いに類似しているが、最終生成物の成分および一貫性においてはばらつきがある。
【0139】
細胞レベルにおけるオリゴヌクレオチドの組み込みを促進する薬剤が、本発明の医薬品などの組成物にさらに添加されてもよい。例えば、リポフェクチン(米国特許第5,705,188号)などの陽イオン性脂質、陽イオン性グリセロール誘導体、および、ポリリジン(国際特許出願公開第97/30731号)などのポリカチオン性分子も、細胞へのオリゴヌクレオチドの組み込みを促進する。
【0140】
本発明の組成物は、従来薬学的組成物に含有される、別の補助剤成分をさらに含有してもよい。したがって、例えば、上記組成物が、鎮痒薬、収斂薬、局所性の麻酔薬、抗炎症薬などの、適合性および薬学的活性を有する物質をさらに含有してもよく、または、本発明の組成物を様々な剤形で物理的に処方する際に有用な、別の物質を含有してもよい。この別の物質の例としては、例えば、染料、香味料、保存料、抗酸化剤、乳白剤、増粘剤、安定剤などがあげられる。ただし、このような物質は、添加しても、本発明の組成物の各成分の生物活性に対して過度に干渉するものであってはならない。上記処方物は無菌化されてもよく、所望であれば、例えば、処方物の核酸と有害な相互作用を起こすことがない潤滑剤、保存料、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を及ぼすための塩、バッファ剤、着色剤、香味料、および/または、芳香剤などの補助的な薬剤と混合されてもよい。
【0141】
本発明の複数の実施形態において、(a)1つ以上の核酸化合物と、(b)異なるメカニズムによって機能する1つ以上の別の化学療法薬とを含有する薬学的組成物を提供する。このような化学療法薬の例としては、例えば、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン、メクロレタミン、クロラムブシル、メルファラン、シクロホスファミド、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、シタラビン(CA)、5−フルオロウラシル(5−FU)、フロクスウリジン(5−FUdR)、メトトレキサート(MTX)、コルヒチン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド、テニポシド、シスプラチン、ジエチルスチルベストロール(DES)などの、抗癌剤が挙げられるが、これらの例に限定されるものではない。本発明の組成物において、非ステロイド性の抗炎症薬や副腎皮質ステロイド薬など(ただし、これらに限定されるものではない)を含めた抗炎症薬と、リバビリン(ribivirin)、ビダラビン、アシクロビル、ガンシクロビルなど(ただし、これらに限定されるものではない)を含めた抗ウイルス薬とがさらに組み合わせられてもよい。その他の非アンチセンス化学療法薬も、本発明の技術的範囲内である。組み合わせた2つ以上の化合物を、同時に、または、順に使用してもかまわない。
【0142】
投薬は、治療しようとする疾患状態の重症度および応答性に依存し、治療期間は数日から数ヶ月にわたって継続するか、または、治療が効果を奏する、もしくは、疾患状態の減衰が達成されるまで継続する。最適な投薬スケジュールは、患者の体内における薬の蓄積量の測定結果から算出可能である。投与を行う医師は、最適な投与量、投薬方法、および、繰り返し率を容易に決定することができる。最適な投与量は、個々のオリゴヌクレオチドの相対的な効力によって異なる可能性があり、一般に、インビトロおよびインビボの動物モデルにおいて効果的であることがわかっているEC50に基づいて、または、ここに記載する例に基づいて、推定可能である。一般に、投与量は体重1kg当たり0.01μg〜100gであり、1日、1週間、1ヶ月、または、1年に1回以上投与される。治療を行う医師は、体液中または組織中における薬の滞留時間および濃度の測定結果に基づいて、投薬の繰り返し率を推定することができる。治療が成功した後は、被験体は、疾患状態の再発を防止するために、維持療法を受けることが望ましいと考えられる。維持療法においては、上記薬学的組成物が、体重1kg当たり0.01μg〜100g、および、1日に1回以上から20年ごとに1回の範囲の維持量で投与される。
【0143】
〔III.薬物スクリーニングへの応用〕
いくつかの実施形態において、本発明は、薬物スクリーニングアッセイ(例えば、抗癌剤を得るためのスクリーニング)を提供する。本発明のスクリーニング法は、本明細書に記載する癌特異的代謝物を利用する。上述のように、いくつかの実施形態において、試験化合物は、低分子、核酸、または、抗体である。いくつかの実施形態において、試験化合物は、癌特異的代謝物を直接的に標的にする。別の実施形態では、試験化合物は、癌特異的代謝物の代謝経路において発現する酵素を標的にする。
【0144】
好適な実施形態では、薬物スクリーニング法は、高スループット薬物スクリーニング法である。高スループットスクリーニングを実施する方法は、当該技術分野において周知であり、米国特許第6,468,736号、国際特許出願公開第06009903号、および、米国特許第5,972,639(これら各特許文献は、列挙することで、内容そのものが本明細書で援用されるものとする)に記載の方法を含めるが、これらに限定されるものではない。
【0145】
本発明のいくつかの実施形態の試験化合物は、当該技術分野において公知の、コンビナトリアルライブラリー法における多数の手法のいずれを用いても調製可能であって、このコンビナトリアルライブラリーとしては、例えば、生物学的ライブラリー、ペプトイドライブラリー(ペプチド機能を有するが新規な非ペプチド骨格を有し、酵素の劣化に対して耐性を有するが生理活性は維持する分子のライブラリー。例えば、Zuckennann et al., J. Med. Chem. 37: 2678−85 [1994] を参照)、空間的にアドレス可能な並列固相または溶液相ライブラリー(spatially addressable parallel solid phase or solution phase libraries)、逆重畳積分を必要とする合成ライブラリー法、“1ビーズ1化合物(one−bead one−compound)”ライブラリー法、および、アフィニティークロマトグラフィー選択を利用した合成ライブラリー法などがあげられる。上記生物学的ライブラリー法およびペプトイドライブラリー法が、ペプチドライブラリーと併用するには好ましく、残りの4つの手法が、ペプチドライブラリー、非ペプチドオリゴマーライブラリー、または、化合物の低分子ライブラリーに対して適用可能である(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145 )。
【0146】
分子ライブラリーの合成方法の例は、当該技術分野、例えば、DeWitt et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90: 6909 [1993]; Erb et al., Proc. Nad. Acad. Sci. USA 91: 11422 [1994]; Zuckermann et al., J. Med. Chem. 37:2678 [1994]; Cho et al., Science 261: 1303 [1993]; Carrell et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33.2059 [1994]; Carell et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061 [1994]; Gallop et al., J. Med. Chem. 37: 1233 [1994] に見い出すことができる。
【0147】
化合物のライブラリーは、溶液中(例えば、Houghten, Biotechniques 13: 412-421 [1992] )、ビーズ上(Lam, Nature 354: 82-84 [1991] )、チップ上(Fodor, Nature 364: 555-556 [1993] )、細菌上(米国特許第5,223,409号;言及することによって、明細書で援用されるものとする)、または胞子上(米国特許第5,223,409号)、プラスミド上(Cull et al., Proc. Nad. Acad. Sci. USA 89: 1865-1869 [1992] )、または、ファージ上(Scott and Smith, Science 249: 386-390 [1990]; Devlin Science 249: 404-406 [1990]; Cwirla et al., Proc. NatI.Acid. Sci. 87: 6378-6382 [1990]; Felici, J. Mol. Biol. 222: 301 [1991] )に提示され得る。
【0148】
いくつかの実施形態において、癌治療薬を特定するためのモデル系を発生させるために、本明細書に記載のマーカーが使用される。例えば、癌に特異的なバイオマーカーとなる代謝物(例えば、細胞増殖を活性化するサルコシン)を細胞株に添加して、細胞株の悪性の度合いを増加させることも可能である。こうすることによって、細胞株は、応答のダイナミックレンジ(例えば、“読み取り値”)が改善されることになり、スクリーニングによって抗癌剤を得る際に有用である。インビトロの例について記載したが、モデルアッセイ系は、インビトロ、インビボ、または、エキソビボのいずれであってもかまわない。
【0149】
〔VII.遺伝子導入動物〕
本発明では、外来性遺伝子を備えた(この結果、例えば、癌特異的代謝物のレベルが変化する)遺伝子導入動物の発生について考察する。好適な実施形態では、野生型動物と比較すると、遺伝子導入動物は変化した表現型(例えば、代謝物の存在量が増加または減少する)を示す。このような表現型の存在または非存在を分析するための方法としては、本明細書において開示するものなどがあげられるが、これらの例に限定されるものではない。好適な実施形態では、上記遺伝子導入動物は、増加または減少した、腫瘍の成長または癌の証拠をさらに示す。
【0150】
本発明の遺伝子導入動物は、薬(例えば、癌治療)のスクリーニングにおいて用途が見い出される。いくつかの実施形態において、試験化合物(例えば、癌の治療に有用ではないかと思われる薬)およびコントロール化合物(例えば、プラセボ)が遺伝子導入動物およびコントロール動物に投与され、効果が評価される。
【0151】
上記遺伝子導入動物は、種々の方法によって発生させることができる。いくつかの実施形態では、様々な発生段階にある胚的細胞を使用して導入遺伝子を導入し、遺伝子導入動物を発生させる。上記胚的細胞の発達の段階に応じて、異なる方法が使用される。マイクロ注入の場合には、接合体が最良の標的である。マウスでは、雄性前核が、1〜2ピコリットル(pl)のDNA溶液の再現可能な注入が可能となる、直径約20μmのサイズに到達する。接合体を遺伝子導入の標的として使用することには、大抵の場合に、注入されたDNAが最初の卵割の前に宿主であるゲノムに取り込まれるという主な効果がある(Brinster et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:4438-4442 [1985] )。この結果、遺伝子導入された非ヒトの動物の全ての細胞が、取り込まれた導入遺伝子を保有することになる。このことは、生殖細胞の50%が導入遺伝子を保有することになるので、一般に、初代細胞の子孫への導入遺伝子の効率的な伝達にも反映される。米国特許第4,873,191号には、接合体をマイクロ注入するための方法が記載されている。この特許文献は、言及することで、内容そのものが本明細書で援用されるものとする。
【0152】
別の実施形態では、レトロウイルス感染を使用して、導入遺伝子が非ヒトの動物に導入される。いくつかの実施形態では、レトロウイルスベクターを使用して、レトロウイルスベクターを卵母細胞の囲卵腔内に注入することによって、卵母細胞に形質移入する(米国特許第6,080,912号を参照。なお、この特許文献は、言及することで、文献の内容そのものが本明細書で援用されるものとする)。別の実施形態では、発達中の非ヒトの胚は、胚盤胞期までインビトロで培養可能である。この期間には、卵割球を、レトロウイルス感染の標的とすることができる(Janenich Janenich, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 73:1260 [1976] )。卵割球は、酵素処理によって透明帯を削除することで、効率的に感染させることができる(Hogan et al., Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y. [1986] )。導入遺伝子の導入に使用されるウイルスベクター系は、通常、当該導入遺伝子を保持する複製欠損を有するレトロウイルスである(Jahner et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA 82:6927 [1985] )。形質移入は、卵割球を単層のウイルス産生細胞の上で培養することによって、容易かつ効率よく達成される(Stewar, et al., EMBO J., 6:383 [1987] )。あるいは、感染を後の段階で実施してもかまわない。ウイルス、または、ウイルス産生細胞は胞胚腔内に注入されてもよい(Jahner et al., Nature 298:623 [1982] )。組み込みは、遺伝子導入動物を形成する細胞のあるサブセットにおいてのみ発生するので、大部分の初代細胞は、導入遺伝子に関してはモザイク状になる。さらに、初代細胞は、一般に子孫においては分離することになるゲノム内の異なる位置において、レトロウイルスによる導入遺伝子の様々な挿入を含有してもよい。さらに、妊娠中期胚を子宮内でレトロウイルスに感染させることによって、効率は低いが、導入遺伝子を生殖系列に導入することも可能である(Jahner et al.、前掲[1982] )。レトロウイルスまたはレトロウイルスベクターを用いて遺伝子導入動物を発生させる、当該技術分野における公知の他の手段としては、レトロウイルスの粒子を、または、受精卵または初期胚の囲卵腔内でレトロウイルスを生成する、マイトマイシンCで処理した細胞を、マイクロ注入するものがある(国際特許出願公開第90/08832[1990]、および、Haskell and Bowen, Mol. Reprod. Dev., 40:386 [1995] )。
【0153】
別の実施形態において、上記導入遺伝子は胚性幹細胞に導入され、形質移入された幹細胞を利用して、胚を形成する。ES細胞は、着床前の胚を適切な条件下でインビトロで培養することによって得られる(Evans et al., Nature 292:154 [1981]、Bradley et al,. Nature 309:255 [1984]、Gossler etal., Proc. Acad. Sci. USA 83:9065 [1986]、及び、Robertson et al., Nature 322:443 [1986])。導入遺伝子は、リン酸カルシウム共沈殿法、プロトプラストまたはスフェロプラスト融合法、リポフェクション法、および、DEAEデキストラン媒介形質移入法を含めた当該技術分野において公知の種々の方法によるDNA形質移入によって、ES細胞に効率よく導入することができる。導入遺伝子は、レトロウイルス媒介伝達によって、または、マイクロ注入によってES細胞に導入してもよい。このように形質移入されたES細胞は、その後、胚盤胞段階の胚の胞胚腔に導入されると、胚にコロニーを形成し、結果として発生するキメラ動物の生殖系列に寄与する(Jaenisch, Science 240:1468 [1988]を参照)。形質移入済みES細胞の胞胚腔内への導入に先立って、この形質移入済みES細胞を様々な選択プロトコルに供して、導入遺伝子を組み込んだES細胞の質を高めてもよい(ただし、該導入遺伝子がこのような選択のための手段を提供することが前提である)。あるいは、ポリメラーゼ連鎖反応を利用して、導入遺伝子を組み込んだES細胞についてスクリーニングしてもかまわない。この手法によって、形質移入済みES細胞を、胞胚腔への導入に先立って適切な選択的条件下で成長させることが不要になる。
【0154】
さらに別の実施形態では、相同組換えを利用して遺伝子機能をノックアウトする、または、欠失変異体(例えば、トランケーション変異体)を生成する。相同組換えの方法は、米国特許第5,614,396号(言及することで、本明細書に援用されるものとする)に記載されている。
【0155】
〔実験〕
以下の実施例は、ある好適な実施形態および本発明の態様を実証し、これらの実施形態および態様についてさらに説明するために提供するものであって、本発明の技術的範囲を限定するものであると解釈するべきものではない。
【0156】
〔実施例1〕
〔尿中に見い出されるバイオマーカー〕
〔I.一般的な方法〕
〔A.前立腺癌の代謝プロファイルの特定〕
各試料を分析して、数百種類の代謝物の濃度を求めた。これらの代謝物の分析には、例えば、GC−MS(ガスクロマトグラフィー質量分析)やUHPLC−MS(超高速液体クロマトグラフィー質量分析)などの分析的手法を用いた。複数の部分標本を同時および並列的に分析し、適切な品質管理(QC)を施した後に、各分析から得られた情報を再度組み合わせた。各試料を数千種類の特性によって特徴付けし、最終的に数百の化学種を特定した。使用した手法は、新規な、化学的に命名されていない化合物を特定することができた。
【0157】
〔B.統計解析〕
T検定を用いてデータを分析し、定義可能な集団または亜集団において特異的なレベルで存在する分子(例えば、コントロール生物学的試料と比較して、前立腺癌の生物学的試料を示すバイオマーカー)であって、定義可能な複数の集団と集団(例えば、前立腺癌の集団とコントロール集団、または、低度前立腺癌と高度前立腺癌)とを区別するために有用な分子(公知の命名されている代謝物、または、命名されていない代謝物のいずれか)を特定した。上記定義可能な集団または亜集団における別の分子(公知の命名されている代謝物、または、命名されていない代謝物のいずれか)も特定した。ある分析においては、上記データを上記試料中のクレアチニンレベルによって正規化し、別の分析では、上記試料を正規化しなかった。両方の分析結果をここに提示する。
【0158】
〔C.バイオマーカーの特定〕
統計学的に有意であると特定されたピーク含めた、各分析(例えばGC−MS、UHPLC−MS、MS−MS)において特定した様々なピークを、質量分析に基づく化学的特定プロセスに供した。バイオマーカーは、以下のような手順で見出した。すなわち、(1)異なるヒト被験体グループから得た尿試料を分析して試料内の代謝物レベルを求め、(2)結果を統計学的に分析して、この2つのグループにおいて異なって存在する代謝物を求めることによって、バイオマーカーを見出した。
【0159】
〔癌と癌以外のものとを区別するバイオマーカー〕
上記分析に使用した尿試料は、前立腺癌の生検が陰性である51人のコントロール被験体、および、前立腺癌を有する59人の被験体から得た。代謝物レベルを求めた後、ウィルコクソン検定を用いて上記データを分析して、2つの集団(例えば、前立腺癌を有するグループとコントロールグループ)間の平均代謝物レベルの差を求めた。
【0160】
下記の表1に列挙するように、前立腺癌を有する被験体から得た血漿試料と、前立腺生検が陰性である(例えば、前立腺癌を有しているとは診断されなかった)コントロールグループから得た血漿試料との間で異なって存在するバイオマーカーを見出した。表1には、表中に示した各バイオマーカーについて、該バイオマーカーに関するデータの統計解析において求めたp値、化合物を化学データベースにおいて追跡するために有用な化合物ID、および、該化合物を特定するために使用した分析プラットフォームを含めて示す(GCとはGC/MSの意味であり、LCとはUHPLC/MS/MS2の意味である)。表中において0.000であるとしたP値は、p<0.0001において有意である。LCposおよびLCnegは、バッファを用いたUHPLCによる分離を意味し、それぞれ、陽イオンまたは陰イオンを検出するために最適化されたパラメータである。
【0161】
【表1】
【0162】
表1は、癌と癌以外のものとを区別するために有用なバイオマーカーを示す。
【0163】
個々の被験体の癌の状態(例えば、癌ではない、または、癌である)を、バイオマーカーであるサルコシンおよびN−アセチルチロシンを用いて決定した。これら2つのマーカーを組み合わせて用いた結果、83%の有病正診率および49%の無病正診率で癌が診断できた。PSAが陽性である集団における癌の有病率が30%であると仮定すると、これらのバイオマーカーによって、87%の陰性的中率(NPV)および41%の陽性的中率(PPV)が得られたことになる。
【0164】
〔悪性度が比較的低い癌を悪性度が比較的高い癌から区別するバイオマーカー〕
分析に使用した尿試料は、前立腺癌を有すると診断され、生検スコアがGSmajor3またはGSmajor4以上であった個々の被験体から得た。GSmajor3は通常悪性度が低い低度の癌を示し、GSmajor4は通常悪性度が高い高度の癌を示す。この分析では、GSmajor3を示した被験体(N=45)をGSmajor4を示した被験体(N=13)と比較した。代謝物のレベルを求めた後に、ウィルコクソン検定を用いて上記データを分析して、2つの集団(例えば、前立腺癌を有するグループとコントロールグループ)間の平均代謝物レベルの差を求めた。
【0165】
下記の表2に列挙するように、悪性度が低い/低度の前立腺癌を有する被験体から得た尿試料と、これより悪性度が高い/高度の前立腺癌を有する被験体から得た尿試料との間で異なって存在するバイオマーカーを見出した。表2には、表中に示した各バイオマーカーについて、該バイオマーカーに関するデータの統計解析において求めたp値、化合物を化学データベースにおいて追跡するために有用な化合物ID、および、該化合物を特定するために使用した分析プラットフォームを含めて示す(GCとはGC/MSの意味であり、LCとはUHPLC/MS/MS2の意味である)。表中において0.000であるとしたP値は、p<0.0001において有意である。LCposおよびLCnegは、バッファを用いたUHPLCによる分離を意味し、それぞれ、陽イオンまたは陰イオンを検出するために最適化されたパラメータである。
【0166】
【表2】
【0167】
表2は、悪性度が比較的低い前立腺癌を悪性度が比較的高い前立腺癌から区別するバイオマーカーを示す。
【0168】
〔実施例2〕
〔前立腺の癌組織、細胞株、および、尿沈渣中の複数の代謝物の検証〕
〔物質および方法〕
Sigma社(St. Louis、MO、USA)から、アミノ酸を入手した。対応する標識されたアミノ酸を、Isotec社(Miamisburg、OH、USA)から入手した。イソブタノール、コロロホルム(choloroform)、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、エチルアセテートをSigma社から入手した。その他の分析試薬級の化学物質は全て、Fluka社およびSigma社から入手した。N−メチル−N−(tert−ブチルメチルシリルトリフルオロアセトアミド(MtBSTFA)+1%のt−ブチル−ジメチルクロロシラン、および、ヘプタフルオロブチリル無水物を、Regis Technologies Inc,社(IL、USA)から購入した。
【0169】
〔臨床試料〕
良性前立腺および局在性前立腺癌組織をミシガン大学病院における前立腺全摘除術シリーズから入手し、転移性前立腺癌の生物学的標本をRapid Autopsy Programから入手した。前立腺全摘除術シリーズも、Rapid Autopsy Programも、ミシガン大学のProstate Cancer Specialized Program of Research Excellence (S.P.O.R.E) Tissue coreの一部である。試料はインフォームドコンセントおよびミシガン大学の機関事前審査委員会の承認のもとで収集した。さらに、対応する尿試料を、DREの後および生検の前に収集した。これには、生検が陽性/陰性の患者を共に含め、さらに、癌には無関係の前立腺の病状を有する患者を含めた。全ての試料を使用するまで−80℃で保存した。
【0170】
〔試料調製、および、GC−MSを用いた臨床標本中の複数の代謝物の検証〕
標識内部標準物質をスパイク(spiking)した後に、生物学的試料(組織、尿、および、細胞株)をメタノール中で均質化し、4℃で一晩続けて撹拌した。モル比が1:1の水とクロロホルムとを用いて、抽出を室温で30分間実施した。水性メタノール層を収集し、窒素雰囲気下で完全に乾燥させた。代謝物を含有するメタノール性乾燥抽出物を、MtBSTFAを用いた誘導体化後に、GC−MSによってさらに分析した。100μLのジメチルホルムアミド(DMF)を添加し、ボルテックスし、さらに、高速真空遠心分離機内で30分間乾燥させることによって、乾燥させたメタノール性アミノ酸残留物を2回共沸混合した。100μLのDMF、および、N−メチル−N−(tert−ブチルメチルシリルトリフルオロアセトアミド(MtBSTFA)+1%のt−ブチル−ジメチルクロロシランを、上記乾燥試料に添加して蓋をし、60℃で1時間インキュベートし、そして酢酸エチルで再度懸濁させて、GC−MSに注入した。
【0171】
選択イオンモニタリング法(Selective Ion Monitoring;SIM)を用いて定量化を行った。同位体で標識された内部標準物質のピーク領域に対する自然界の代謝物のピーク領域を測定することによって、試料中の代謝物の量を算出した。
【0172】
〔試料調製、および、ガスクロマトグラフィー質量分析による組織中のポリアミンの検証〕
標識内部標準物質をスパイクした後に、メタノールを用いて組織を溶解させ、4℃で一晩続けて撹拌した。モル比が1:1の水とクロロホルムとを用いて、抽出を室温で実施した。ポリアミンを含有する水性層を収集し乾燥させた。ポリアミンを含有する乾燥抽出物を、HFBAを用いた誘導体化の後に、GC−MSによってさらに分析した。乾燥残留物に、200μLのアセトニトリルおよび100μLのHFBAを添加した。バイアルに蓋をし、65℃で60分間加熱した。次に、この反応混合物を窒素流下で乾燥するまで蒸発させ、1mlのジエチルエーテルに再び溶解した。得られたエーテル溶液を、等しい体積の飽和炭酸ナトリウム溶液で1回洗浄した。遠心分離機にかけた後に水相を捨て、GC−MS分析のために1μLのエーテル相を取り出した。選択イオンモニタリング法を用いて定量化を行った。同位体で標識された内部標準物質のピーク領域に対する自然界のポリアミンのピーク領域を測定することによって、試料中のポリアミンの量を算出した。
【0173】
〔試料調製、および、ガスクロマトグラフィー質量分析による尿中のポリアミンの検証〕
尿中におけるポリアミンの同位体希釈GC/MS分析には、サルコシンについて報告されている改善済みの方法を利用した。生物学的試料からのポリアミンを、液液抽出法(MeOH:H2O:CHCl3は1:1:1の比)によって抽出した。ポリアミンを含有するメタノール層を純粋窒素流下で乾燥するまで蒸発させた。得られたメタノール性乾燥抽出物に、300μLのイソブタノール/3N HClを添加した。この反応混合物をパイレックス(登録商標)製試験管に導入し、テフロン(登録商標)製隔膜で覆ったねじ蓋で封止した。管を砂浴で110℃で30分間加熱した後に、穏やかな窒素流を用いて試料を冷却・乾燥させた。さらに、150μLのアセトニトリルを添加した後に、該試料を再び乾燥させて残留している湿気を取り除いた。アセトニトリル(200μL)および100μLのヘプタフルオロブチリル無水物(HFBA)を添加し、管を封止して125℃で20分間加熱して、ヘプタフルオロブチレの誘導体を生成した。誘導体化した試料をGC−MSによって分析した。同位体で標識された内部標準物質のピーク領域に対する自然界のポリアミンのピーク領域を測定することによって、選択イオンモニタリング分析でポリアミンを定量化した。尿濃度を正規化するための内部標準物質としては、メチオニンを使用した。
【0174】
〔試料調製、および、ガスクロマトグラフィー質量分析による組織中の脂肪酸の検証〕
標識内部脂肪酸標準物質をスパイク(spiking)した後に、生物学的試料をメタノール中で均質化し、4℃で一晩続けて撹拌した。モル比が1:1の水とクロロホルムとを用いて、抽出を室温で30分間実施した。有機脂質層を収集し、窒素雰囲気下で完全に乾燥させた。代謝物(脂肪酸)を含有するクロロホルム性乾燥抽出物を、MtBSTFAを用いた誘導体化後に、GC−MSによってさらに分析した。100μLのジメチルホルムアミド(DMF)を添加し、ボルテックスを行い、さらに、高速真空遠心分離機内で30分間乾燥させることによって、乾燥させた有機脂肪酸残留物を2回共沸混合した。100μLのDMF、および、N−メチル−N−(tert−ブチルメチルシリルトリフルオロアセトアミド(MtBSTFA)+1%のt−ブチル−ジメチルクロロシランを、上記乾燥試料に添加して蓋をし、60℃で1時間インキュベートし、そして酢酸エチルで再度懸濁させて、GC−MSに注入した。
【0175】
〔結果〕
〔前立腺に特異的な代謝物を利用するマルチプレックスチパネルの開発〕
本発明のいくつかの実施形態を発展させる過程において実施した実験において見られたサルコシンの高いレベルは、サルコシンが癌(例えば、前立腺癌)の予後マーカーとなることを示している。本発明のいくつかの実施形態において、組織に由来する前立腺癌に特異的が、この疾患の早期発見のためのマルチプレックスバイオマーカーパネルとして使用可能である。
【0176】
〔組織中の複数の代謝物の検証〕
前立腺に由来する組織標本において、局在性前立腺癌に関連する代謝物(例えば、グルタミン酸、グリシン、システイン、チミン、ピペコリン酸、ウラシル、および、セリン)を定量化した。安定同位体希釈(Stable Isotope Dilution;SID)選択イオンモニタリングGC−MS法を利用して、対象とする代謝物を定量化した。まず最初に、試料を改質してt−ブチルジメチルシリル誘導体を生成し、アジレント社の5975MSD型質量検出器を用いて電子衝撃(Electron Impact; EI)イオン化法で分析した。グルタミン酸、システイン、グリシン、および、チミンを、前立腺に由来する52の試料において定量化した。この試料は、13の良性隣接領域(benign adjacent)(良性癌)、26の局在性前立腺癌(PCA)、および、13の転移性試料(メチオニン)を含んでいた。選択イオンモニタリング法による分析を実施するための、定量化の対象とする様々な代謝物の場合について、自然界の分子のピークおよび同位体で標識された分子のピークのm/zは、406および407(システイン)、432および437(グルタミン酸)、218および219(グリシン)、297および301(チミン)、198および207(ピペコリン酸)(n=30)、283および285(ウラシル)(n=30)、ならびに、390および392(セリン)(n=30)であった。各代謝物のレベルを組織の重量にしたがって正規化した。グルタミン酸、グリシン、システイン、チミン、ピペコリン酸、および、ウラシルのレベルが、良性前立腺の組織と比較すると、局在性PCAでは全て上昇する(図1〜図6)。セリンのレベルには変化がなく、癌が進行する間は一定である(図7)。
【0177】
組織のデータを検証するために、前立腺癌の細胞株も使用した。浸潤性前立腺癌の細胞株(LnCaP、Du145、PC3、および、2RVV1)は、非浸潤性の前立腺細胞株(RWPE)に比べて、ピペコリン酸のレベル(図8)およびウラシルのレベル(図9)が高かった。
【0178】
〔尿中の複数の代謝物の検証〕
非浸潤性前立腺癌マーカーとしての複数の代謝物の可能性を調べるために、組織に特異的な代謝物を使用して、生検が陽性の尿沈渣および生検が陰性の尿沈渣について検証した。さらに別の代謝物(例えば、グルタミン酸、グリシン、システイン、および、メチオニン)を測定するために、GC/MSを用いた方法を開発した。次に、これらの代謝物のレベルを、生検が陽性の尿沈渣および生検が陰性の尿沈渣において分析した。レベルは、サルコシン/アラニン、グルタミン酸/アラニン、グリシン/アラニン、システイン/アラニン、および、メチオニン/アラニンの各比として報告した。尿中のサルコシン、グルタミン酸、グリシン、システイン、および、メチオニンのレベルを正規化するための内部標準としては、アラニンを使用した。生検が陽性の尿沈渣のサルコシン/アラニン比、グルタミン酸/アラニン比(ウィルコクソンのP値=0.0003)、グリシン/アラニン比(ウィルコクソンのP値=0.0279)、および、システイン/アラニン比(ウィルコクソンのP値=0.0133)は、対応する生検が陰性の尿沈渣に比べて高いレベルを示した(図10〜図13)。メチオニンのレベルには変化がなく、癌が進行する間には一定であった(図14)。ボックスプロットは、生検が陽性の尿沈渣においては、生検が陰性のコントロール群より、グルタミン酸、グリシン、および、システインのレベルが高いことを示した(図15)。
【0179】
〔ポリアミン:悪性の前立腺癌に関する組織のバイオマーカー〕
組織、細胞株、および、尿中のポリアミン(プトレッシン、スペルミジン、および、スペルミン)を同時に決定する単純かつ感度の高い方法を開発した。GC−MSを選択イオンモニタリングモードで用いて、ポリアミンを対応するN−ヘプタフルオロブチル誘導体に転化することによって、ポリアミンを定量化した。この試料を改質して対応するヘプタフルオロブチル誘導体を生成し、アジレント社の5975MSD型質量検出器を用いて電子衝撃イオン化法で分析した。まず初めに、前立腺に由来する30の試料においてポリアミンを定量化した。この試料は、10の良性隣接領域(良性癌)、10の局在性前立腺癌(PCA)、および、10の転移性試料(メチオニン)を含んでいた。
【0180】
選択イオンモニタリング法による分析を実施するために、対象とする様々な代謝物の場合について、自然界のフラグメントイオンのピークおよび標識されたフラグメントイオンのピークのm/zを使用して定量化を実施した。選択した値は、プトレッシンの場合には267および269、スペルミジンの場合には323および331、および、スペルミンの場合には576および584であった。自然界のイオンのピーク領域および標識されたイオンのピーク領域を測定することによって、該レベルを正規化した。プトレッシン、スペルミジン、および、スペルミンのレベルを組織の重量にしたがって正規化した。良性前立腺の組織は、スペルミン(PCA vs. 良性 P=0.0018、PCA vs. Met P=0.0059、Met vs. 良性 P=5.3×10−4)、プトレッシン(PCA vs. 良性 P=0.0018、PCA vs. Met 3.9×10−6P=0.0059、Met vs. 良性 P=0.3×10−4)、および、スペルミジン(PCA vs. 良性 P=0.0731、PCA vs. Met P=1.3×10−5、Met vs. 良性 P=8.5×10−5)のレベルが、局在性前立腺の癌組織および転移性前立腺の癌組織より高かった(図16〜18)。ボックスプロットは、癌が進行する間にポリアミンのレベルが減少したことを示した(図19)。グループ同士を比較するために、両側ウェルチ二標本t検定(two−sided Welch two sample t−test)を用いて上記P値を算出した。前立腺癌の組織中のポリアミンのレベルは癌が進行する間に減少したが、これは、癌の悪性度の上昇に伴ってポリアミン代謝物が増加した他の多数の癌組織(例えば、乳房)とは対照的である。ヒトの前立腺の良性組織中のポリアミンレベルと悪性組織中のポリアミンレベルとを比較すると、良性かつ過形成性の前立腺組織の方が、腫瘍組織、特に転移をともなう前立腺癌に比べて、スペルミンのレベルが高いことが示される。よって、前立腺のスペルミン含有量が劇的に減少すれば、それは、良性の状態から悪性の状態へ前立腺の組織が表現型転化を起こしたことを示している。従って、本発明のいくつかの実施形態を発展させる過程において実施した実験は、ポリアミンが、前立腺癌の悪性の挙動に対するバイオマーカーとして使用可能であることを示している。本発明のいくつかの実施形態では、GC−MSに基づくポリアミンの検証によって、前立腺の癌組織におけるポリアミンの強力かつ非浸潤性のインビボ検出法が可能になる。
【0181】
細胞株のデータは、組織試料を用いて実施した観察が正しいことを示している。浸潤性(例えば、転移性)前立腺癌の細胞株(LNCaP、VCaP、DU145、PC3、および、2RVV1)は、正常な前立腺細胞株(RWPE)に比べて低いポリアミンレベルを示した(図20)。したがって、悪性の前立腺癌においてポリアミンのレベルが減少することは、予後マーカーとしてのポリアミンの有用性を実証している。
【0182】
〔ポリアミン:尿中の前立腺癌の非浸潤性代謝物マーカー〕
前記のように、組織中の各ポリアミンのレベルを定量化するために、GC−MSに基づく方法を開発した。改善されたGC/MSを用いた検証アッセイも開発し、生検が陽性の尿沈渣および生検が陰性の尿沈渣中のポリアミンレベルを分析するために使用した。まず初めに、代謝物をイソブタノールで処理することによって代謝物を転化してイソブチルエステルを生成し、次に、これを改質してヘプタフルオロブチルエステルを生成した。内在性メチオニンもポリアミンもどちらも誘導体化し、定量化した。メチオニンは、ポリアミンを正規化ためにコントロールとして使用する。尿沈渣中の上記レベルを定量化するために、GC−MSに基づく対象とする代謝物アッセイを使用した。まず初めに、20種類の尿沈渣(生検が陽性のカテゴリーおよび生検が陰性のカテゴリーから、それぞれ10種類ずつ)を、定量化するために使用した。該レベルは、スペルミジン/メチオニンの比およびスペルミン/メチオニンの比として報告した。平均のスペルミン/メチオニンの比(ウィルコクソンのP値=0.003)および平均のスペルミジン/メチオニンの比(ウィルコクソンのP値=0.002)は、生検が陰性のコントロール(n=10)と比較すると、生検が陽性の前立腺癌患者(n=10)の尿中では大幅に高かった(図21〜22)。ボックスプロットは、生検が陽性の個々の被験体から得た尿沈渣においては、スペルミンおよびスペルミジンのレベルが、生検が陰性の個々の被験体から得た尿沈渣より高いことを示した(図23)。本発明は、いかなる特定のメカニズムに限定されるものではなく、また、本発明の実施に際してメカニズムの理解は不要であるが、これは、癌が進行する間にポリアミンが前立腺組織から尿中へ分泌されることに起因すると思慮される。これらの結果は、ポリアミンが、前立腺癌を検出するための非浸潤性マーカーとして使用可能であることを示している。
【0183】
〔組織中の脂肪酸の検証〕
前立腺に由来する組織標本中の脂肪酸(ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、アラキドン酸、および、ラウリン酸)も、選択イオンモニタリング(SIM)GC−MS法を用いて定量化した。まず最初に、遊離脂肪酸を改質して、対応するt−ブチルジメチルシリル誘導体を生成し、アジレント社の5975MSD型質量検出器を用いて電子衝撃(EI)イオン化法で分析した。前立腺に由来する30の試料中の脂肪酸を定量化した。なお、30の試料の内訳は、良性隣接領域(良性癌)が10、局在性前立腺癌(PCA)が10、および、転移性試料(メチオニン)が10である。選択イオンモニタリング法による分析を実施するための、定量化の対象とする様々な代謝物の場合について、自然界の分子のピークおよび同位体で標識された分子のピークのm/zは、285および288(ミリスチン酸)、313および322(パルミチン酸)、341および359(ステアリン酸)、339および341(オレイン酸)、369および372(アラキドン酸)、ならびに、257および260(ラウリン酸)であった。各代謝物のレベルを、組織の重量にしたがって正規化した。ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、および、オレイン酸のレベルが、癌が進行する間に(図24〜図29)。ボックスプロットは、癌が進行する間に各脂肪酸のレベルが上昇したことを示した(図30)。図34〜図47には、本発明の各実施形態において有用なマーカーおよびマーカーのパネルの別の検証および特性特定を示す。
【0184】
表3は、本発明の各実施形態の個々のマーカーおよびマーカーのパネルのAUCを示している。
【0185】
【表3】
【0186】
〔実施例3〕
〔乳癌組織および細胞株中の代謝物の検証〕
〔1.乳癌組織中のサルコシンの検証〕
癌が進行する間に大幅に増加する特異的な代謝物として、サルコシンを特定した。GC−MSを用いた研究によれば、癌が進行して良性から局在性へ、さらに転移性疾患へと変化する際に、多数の代謝物のレベルが上昇することが示される。細胞株を用いた分析が、この観察結果を支持している。乳癌の試料にも同じ戦略を適用した。19の組織試料(10の良性乳癌組織、8の局在性乳癌組織、および、1の転移性乳癌組織)を分析した。乳癌組織は、対応する良性組織より高いサルコシンレベルを示した(図31)。
【0187】
〔2.浸潤性乳房細胞株および非浸潤性乳房細胞株中のサルコシンの検証〕
一連の浸潤性乳房細胞株(MDA−MB−231、BT−549、T578、SVM−245)および非浸潤性乳房細胞株(HME)を、サルコシンの検証のために使用した。浸潤性細胞株は、対応する非浸潤性細胞株より高いサルコシンレベルを示した(図32)。
【0188】
〔3.乳房細胞株中のポリアミンの検証〕
1組の乳癌細胞株中のポリアミン(プトレッシン、スペルミジン、および、スペルミン)を検証するために、GC−MSを用いた方法を開発した。浸潤性細胞株(MCF7、MDA−MB−231、T470、SKBR3)は、対応する正常な細胞株(MCF 10A)と比較すると、プトレッシン、スペルミジン、および、スペルミンのレベルが高いことが示された(図33)。
【0189】
以上の明細書において言及した全ての出版物、特許文献、特許出願、および、受託番号は、言及によって、内容そのものが本明細書で援用されるものとする。本発明については特定の実施形態との関連において説明してきたが、請求項に記載の本発明が、このような特定の実施形態に不当に限定されるべきものでないことは理解されるであろう。実際に、記載した本発明の組成や方法の様々な改良および変形については、当業者にとって自ずから明らかであり、以下に記す請求項が規定する範囲から逸脱するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0190】
【図1】グルタミン酸のレベルが、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【図2】グリシンのレベルが、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【図3】システインのレベルが、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【図4】チミンのレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において高いことを示す図である。
【図5】ピペコリン酸のレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【図6】ウラシルのレベルが、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【図7】セリンのレベルが、良性癌、局在性癌、および転移性前立腺癌の組織試料間で、変動しないことを示す図である。
【図8】ピペコリン酸のレベルが、浸潤性前立腺癌の細胞株(VCAP、Du145、および2RVV1)において、非浸潤性の前立腺細胞株(RWPE)よりも高いことを示す図である。
【図9】浸潤性前立腺癌の細胞株(LnCaP、Du145、PC3、2RVV1)が、非浸潤性の前立腺細胞株(RWPE)よりも、高いレベルのウラシルを有していることを示す図である。
【図10】前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料が、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料よりも高いレベルのサルコシンを示すことを示す図である。
【図11】前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料が、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料よりも高いレベルのグルタミン酸を示すことを示す図である。
【図12】前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料が、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料よりも高いレベルのグリシンを示すことを示す図である。
【図13】前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料が、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料よりも高いレベルのシステインを示すことを示す図である。
【図14】前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料と、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料とは、同じレベルのメチオニンを示すことを示す図である。
【図15】前立腺生検が陽性の尿沈渣試料のグルタミン酸、グリシン、およびシステインのレベルが、前立腺生検が陰性のコントロールよりも高いことを示すボックスプロットである。
【図16】転移性前立腺の組織試料が、良性前立腺癌および局在性前立腺癌の試料よりも低いレベルのスペルミンを有していることを示す図である。
【図17】転移性前立腺の組織試料が、良性前立腺癌および局在性前立腺癌の試料よりも低いレベルのプトレッシンを有していることを示す図である。
【図18】転移性前立腺の組織試料が、良性前立腺癌および局在性前立腺癌の試料よりも低いレベルのスペルミジンを有していることを示す図である。
【図19】良性、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料における、スペルミン、プトレッシン、およびスペルミジンのレベルを示すボックスプロットである。
【図20】非浸潤性前立腺細胞株(RWPE)が、浸潤性前立腺癌の細胞株(VCAP、LnCaP、DU145、PC3、2RVV1)よりも高いレベルのスペルミン、プトレッシン、およびスペルミジンを示すことを示す図である。
【図21】生検が陽性の前立腺癌患者からの尿沈渣試料の、スペルミン/メチオニンの比が、生検が陰性のコントロールからの尿沈渣試料と比べて高いことを示す図である。
【図22】生検が陽性の前立腺癌患者からの尿沈渣試料の、スペルミジン/メチオニンの比が、生検が陰性のコントロールからの尿沈渣試料と比べて高いことを示す図である。
【図23】生検が陽性の前立腺癌患者および生検が陰性のコントロールからの尿沈渣試料における、スペルミン/メチオニンの比およびスペルミジン/メチオニンの比を示すボックスプロットである。
【図24】ミリスチン酸のレベルが、局在性前立腺癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【図25】パルミチン酸のレベルが、局在性前立腺癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【図26】アラキドン酸のレベルが、局在性前立腺癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【図27】ステアリン酸のレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【図28】ラウリン酸のレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【図29】オレイン酸のレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【図30】良性癌、局在性癌、および転移性前立腺癌の組織試料における、パルミチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、オレイン酸、およびラウリン酸のレベルを示すボックスプロットである。
【図31】サルコシンのレベルが、乳癌の組織試料において、良性組織試料よりも高いことを示す図である。
【図32】浸潤性乳癌細胞株(MDA−MB−231、BT−549、T578、SVM−245)が非浸潤性細胞株(HME)よりも、高いレベルのサルコシンを有していることを示す図である。
【図33】浸潤性乳癌細胞株(MCF7、MDA−MB−231、T470、SKBR3)が、非浸潤性細胞株(MCF10A)よりも、高いレベルのプトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンを有していることを示す図である。
【図34】70のDRE後の尿沈渣(35Bx−veおよび35Bx+ve)におけるGC−MS分析に基づいて、代謝物(サルコシン、グルタミン酸、グリシン、および、システイン)のレベルを示すボックスプロットである。
【図35】4つの代謝物(サルコシン、グルタミン酸、グリシン、およびシステイン)から成る70の尿沈渣のトレーニングセットに対してロジスティック回帰を用いて展開されたマルチプレックス・パネルのROC曲線を示す図である。
【図36】前立腺癌組織におけるGC−MS分析に基づいて、代謝物のレベルを示すボックスプロットである。
【図37】前立腺癌組織が、高いレベルのロイシンを示すことを示す図である。
【図38】前立腺癌組織が、高いレベルのアスパラギンを示すことを示す図である。
【図39】前立腺癌組織が、高いレベルのトリプトファンを示すことを示す図である。
【図40】前立腺癌組織が、高いレベルのキヌレニンを示すことを示す図である。
【図41】前立腺癌組織が、高いレベルの3−アミノ酪酸を示すことを示す図である。
【図42】生検陽性尿沈渣が、高いレベルのサルコシンを示すことを示す図である。
【図43】生検が陽性の尿沈渣が、高いレベルのウラシル(ウラシル/アラニンの比)を示すことを示す図である。
【図44】サルコシンの再現性(独立して調製)を示す図である。
【図45】サルコシンの再現性(複製)を示す図である。
【図46】DRE後の尿沈渣におけるサルコシンの安定性を示す図である。
【図47】2つの独立した調製における、グルタミン酸、グリシン、およびシステインの再現性を示す図である。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願は、米国特許出願番号第61/289,206号(出願日2009年12月22日)に優先権を主張するものである。
【0002】
〔連邦政府によって後援を受けた研究または開発に関する声明〕
本発明は、米国国立衛生研究所からの政府の支援(交付番号U01 CA111275)により、なされたものである。政府は、本発明において特定の権利を有するものである。
【0003】
〔発明の分野〕
本発明は、癌マーカーに関する。特に、本発明は、癌(例えば、前立腺癌または乳癌)における存在が特異的な代謝物および代謝物パネルを提供する。
【0004】
〔発明の背景〕
65歳以上の男性の9人に1人が前立腺癌(PCA)を患っており、前立腺癌(PCA)は、肺癌に次いで、男性の癌関連死の主要な原因となっている(Abate-Shen and Shen, Genes Dev14:2410 [2000]; Ruijter et al., Endocr Rev, 20:22 [1999])。米国癌協会は、2001年において、アメリカ人男性の約184,500人が前立腺癌と診断され、39,200人が前立腺癌で死亡するだろうと推定している。
【0005】
前立腺癌は、典型的には、直腸内触診および/または前立腺特異抗原(PSA)スクリーニングによって診断される。血中のPSA濃度の上昇により、PCAの存在が示され得る。PSAは、前立腺癌用のマーカーとして使用される。これは、PSAが、前立腺細胞によってのみ分泌されるものだからである。健康な前立腺は、安定した量(典型的には、1ミリリットル当たり4ナノグラム以下、またはPSA度数が「4」またはそれ以下)のPSAを生成するが、癌細胞は、癌の重篤度に応じて段階的に増大した量のPSAを生成する。レベル4〜10の場合、医者は、患者が前立腺癌ではないかと疑いを抱く可能性があり、50よりも高いレベルの場合、腫瘍が体内のどこかに転移したことを示す可能性がある。
【0006】
PSAまたは指診により、癌が存在している可能性が高いことが示される場合、経直腸的超音波(TRUS)を用いて、前立腺をマッピングして、疑いのある部位を示す。前立腺の様々な部位に生検を行って、前立腺癌が存在するかどうかを判定する。治療の選択肢は、癌の段階に応じて異なる。推定余命が10年以下の、グリーソン数が低く、腫瘍が前立腺を超えて転移していない男性には、多くの場合、用心深く待機することが行われる(治療なし)。より悪性の癌の治療の選択肢には、外科治療が含まれる。外科治療の例には、前立腺を完全に除去する前立腺全摘除術(RP)(神経温存技術を含む、または含まない)や放射線が含まれる。放射線については、外部のビームで人体の外側から所定線量を前立腺に向けて直接照射する場合もあるし、または、低線量の放射性シードを前立腺内に移植して、癌細胞を局所的に死滅させる場合もある。抗アンドロゲンホルモン療法も、単独で、または、手術もしくは放射線と組み合わせて用いられる。ホルモン療法は、下垂体がテストステロンの生成を刺激するホルモンを生成することを阻止する、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH−RH)類似体を用いるものである。患者は、残りの人生においてずっとLH−RH類似体を注射し続けなければならない。
【0007】
多くの場合、外科治療およびホルモン治療は、局在性PCAには有効であるが、進行性癌を治癒することは難しい。進行性PCAの場合には、アンドロゲンの切除が最も一般的な治療法であり、アンドロゲンの切除により、アンドロゲン依存性の悪性細胞の大規模なアポトーシスおよび一時的な腫瘍の緩解が導かれる。しかし多くの場合、腫瘍は再発し、アンドロゲン信号に無関係に増殖してしまう。
【0008】
前立腺特異抗原(PSA)スクリーニングの出現により、PCAの早期検出がもたらされ、PCAに関連した致死率は、著しく低減された。しかし、PSAスクリーニングが癌特異的死亡率に与える影響については、将来のランダムスクリーニングの研究結果が出るまでは、依然として不明である(Etzioni et al., J. Natl. Cancer Inst., 91:1033 [1999]; Maattanen et al., Br. J. Cancer 79:1210 [1999]; Schroder et al., J. Natl. Cancer Inst., 90:1817 [1998])。血清PSA試験は、主に、PSA検出の特に中間範囲(4〜10ng/ml)における前立腺癌の有病正診率および無病正診率が不明であるために、制限される。高い血清PSA濃度は、良性前立腺肥大(BPH)および前立腺炎といった、非悪性の状態の患者において検出されることが多く、検出された癌の悪性度に関してほとんど情報を提供しない。血清PSA試験を多く行えば、同時に、前立腺の針生検の行う数も、著しく増大する(Jacobsen et al., JAMA 274:1445 [1995])。このため、前立腺の針生検の結果はあいまいになる場合が多い(Epstein and Potter J. Urol., 166:402 [2001])。従って、PSAスクリーニングを補完するためのさらなる血清および組織バイオマーカーの開発が求められている。
【0009】
〔発明の概要〕
本発明は、癌マーカーに関する。特に、本発明は、癌(例えば、前立腺癌または乳癌)において存在が特異的な代謝物および代謝物パネルを提供する。
【0010】
例えば、幾つかの実施形態において、本発明は、前立腺癌または乳癌を診断する方法を提供する。この方法は、被験体からの試料(例えば、組織(例えば生検)試料、血液試料、血清試料、または尿試料)において、1つ以上(例えば、マルチプレックスまたはパネルのフォーマットにおいて共に測定される、2またはそれ以上、3またはそれ以上、5またはそれ以上、10またはそれ以上、あるいはそれ以上など)の癌特異的代謝物(例えば、ピペコリン酸または脂肪酸(ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸を含むがこれらに限定されない)またはポリアミン(例えばプトレッシン、スペルミジン、スペルミン))の存在または非存在を検出するステップと、上記癌特異的代謝物の存在または非存在に基づいて、前立腺癌または乳癌を診断するステップとを含む。幾つかの実施形態において、癌特異的代謝物は、癌性試料には存在しているが、非癌性試料には存在していない。幾つかの実施形態において、癌特異的代謝物は、癌性試料には存在していないが、非癌性試料には存在している。幾つかの実施形態において、これらの癌特異的代謝物と共に、1つ以上のさらなる癌マーカーが検出される(例えば、パネルまたはマルチプレックス・フォーマットの中で)。
【0011】
幾つかの実施形態において、本発明は、前立腺癌を診断する方法を提供する。この方法は、被験体からの尿試料において、サルコシン、グルタミン酸、グリシン、および、システインのレベルを検出するステップと、サルコシン、グルタミン酸、グリシン、および、システインの上記レベルが癌でない被験体におけるレベルよりも高い場合、前立腺癌であると診断するステップとを含む。幾つかの実施形態において、本方法は、例えば、アセチルグルコサミン、キヌレニン、ウラシル、ホモシステイン、アスパラギン、グルタミン酸、スペルミジン、スペルミン、2−アミノアジピン酸、ロイシン、プロリン、スレオニン、マレイン酸塩、ヒスチジン、シトルリン、アデノシン、およびイノシンから選択される1つ以上の代謝物のレベルを検出するステップをさらに含む。
【0012】
本発明は、前立腺癌または乳癌を特徴づける方法をさらに提供する。この方法は、癌と診断された被験体からの試料(例えば、組織試料、血液試料、血清試料、尿試料、尿沈渣試料)において、高いレベルの癌特異的代謝物(例えば、ピペコリン酸もしくは脂肪酸(ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸を含むがこれらに限定されない)、またはポリアミン(例えば、プトレッシン、スペルミジン、スペルミン))の存在または非存在を検出するステップと、上記癌特異的代謝物の存在または非存在に基づいて、前立腺癌または乳癌を特徴づけるステップとを含む。幾つかの実施形態において、上記試料に高いレベルの脂肪酸(例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸)が存在することは、上記被験体が浸潤性前立腺癌であることを示すものである。幾つかの実施形態において、上記試料に高いレベルのピペコリン酸が存在することは、上記被験体が侵襲性前立腺癌であることを示すものである。幾つかの実施形態において、前立腺組織試料(例えば、前立腺生検試料)に低いレベルの1つ以上のポリアミン(例えば、プトレッシン、スペルミジン、スペルミン)が存在することは、前立腺癌であることを示すものである。幾つかの実施形態において、尿試料に高いレベルの1つ以上のポリアミン(例えば、プトレッシン、スペルミジン、スペルミン)が存在することは、前立腺癌であることを示すものである。
【0013】
特定の実施形態では、本発明は、乳癌を診断する方法を提供する。この方法は、被験体からの試料において、ピペコリン酸、セリン、ポリアミン、および脂肪酸といった1つ以上の癌特異的代謝物の存在または非存在を検出するステップと、上記癌特異的代謝物の存在または非存在に基づいて、乳癌を診断するステップとを含む。幾つかの実施形態において、ポリアミンは、プトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンなどのポリアミンである。幾つかの実施形態において、脂肪酸は、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、およびオレイン酸といった種類の脂肪酸である。幾つかの実施形態において、試料は、組織試料、血液試料、血清試料、および尿試料といった種類の試料である。幾つかの実施形態において、組織試料は、生検試料である。幾つかの実施形態において、1つ以上の癌特異的代謝物は、癌性試料には存在するが、非癌性試料には存在しない。幾つかの実施形態において、1つ以上の癌特異的代謝物は、癌性試料には存在しないが、非癌性試料には存在する。幾つかの実施形態では、本方法は、2つ以上の上記癌特異的代謝物の存在または非存在を同時に検出するステップを含む。
【0014】
特定の実施形態では、本発明は、乳癌を特徴づける方法を提供する。この方法は、被験体からの試料において、ピペコリン酸、セリン、ポリアミン、および脂肪酸といった1つ以上の癌特異的代謝物の存在または非存在を検出するステップと、上記癌特異的代謝物の存在または非存在に基づいて、乳癌を特徴づけるステップとを含む。幾つかの実施形態において、ポリアミンは、プトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンなどのポリアミンである。幾つかの実施形態において、脂肪酸は、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、およびオレイン酸などの脂肪酸である。幾つかの実施形態において、上記試料は、組織試料、血液試料、血清試料、および尿試料といった種類の試料である。幾つかの実施形態において、組織試料は生検試料である。幾つかの実施形態において、上記試料に高いレベルの1つ以上の癌特異的代謝物が存在することは、被験体が乳癌であることを示すものである。幾つかの実施形態において、上記試料に低いレベルの1つ以上の癌特異的代謝物が存在することは、被験体が乳癌であることを示すものである。幾つかの実施形態において、方法は、2つ以上の上記癌特異的代謝物の存在または非存在を同時に検出するステップを含む。
【0015】
特定の実施形態において、本発明は、前立腺癌を診断する方法を提供する。この方法は、被験体からの尿試料において、ピペコリン酸、セリン、ポリアミン、および脂肪酸といった、1つ以上の癌特異的代謝物の存在または非存在を検出するステップと、上記尿試料における上記癌特異的代謝物の存在または非存在に基づいて、前立腺癌を診断するステップとを含む。幾つかの実施形態において、ポリアミンは、プトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンなどのポリアミンである。幾つかの実施形態において、脂肪酸は、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、およびオレイン酸などの脂肪酸である。幾つかの実施形態において、上記尿試料は、尿沈渣試料である。幾つかの実施形態において、1つ以上の癌特異的代謝物は、癌性試料には存在するが、非癌性試料においては存在しない。幾つかの実施形態において、1つ以上の癌特異的代謝物は、癌性試料には存在しないが、非癌性試料には存在する。幾つかの実施形態において、本方法は、2つ以上の上記癌特異的代謝物の存在または非存在を同時に検出するステップを含む。
【0016】
特定の実施形態において、本発明は、前立腺癌を診断する方法を提供する。この方法は、前立腺組織試料において、1つ以上のポリアミンのレベルの減少を検出するステップと、上記前立腺組織試料における上記1つ以上のポリアミンのレベルの減少に基づいて、前立腺癌を診断するステップとを含む。幾つかの実施形態において、前立腺組織試料は、生検試料である。幾つかの実施形態において、ポリアミンは、プトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンなどの種類のポリアミンである。
【0017】
特定の実施形態において、本発明は、前立腺癌を診断する方法を提供する。この方法は、尿試料において、1つ以上のポリアミンのレベルの上昇を検出するステップと、尿試料における上記1つ以上のポリアミンのレベルの減少に基づいて、前立腺癌を診断するステップとを含む。幾つかの実施形態において、尿試料は、尿沈渣試料である。幾つかの実施形態において、ポリアミンは、プトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンなどの種類のポリアミンである。
【0018】
さらなる実施形態では、本発明は、代謝物のレベルを検出するために使用される組成物、キット、およびシステムを提供する。幾つかの実施形態において、キット、およびシステムは、代謝物のレベルを検出するために必要な、十分な、または有用な構成要素を含む。
【0019】
本発明のさらなる実施形態は、詳細な説明及び実施例の章に記載されている。
【0020】
〔図面の説明〕
図1は、グルタミン酸のレベルが、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【0021】
図2は、グリシンのレベルが、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【0022】
図3は、システインのレベルが、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【0023】
図4は、チミンのレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において高いことを示す図である。
【0024】
図5は、ピペコリン酸のレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【0025】
図6は、ウラシルのレベルが、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【0026】
図7は、セリンのレベルが、良性癌、局在性癌、および転移性前立腺癌の組織試料間で、変動しないことを示す図である。
【0027】
図8は、ピペコリン酸のレベルが、浸潤性前立腺癌の細胞株(VCAP、Du145、および2RVV1)において、非浸潤性の前立腺細胞株(RWPE)よりも高いことを示す図である。
【0028】
図9は、浸潤性前立腺癌の細胞株(LnCaP、Du145、PC3、2RVV1)が、非浸潤性の前立腺細胞株(RWPE)よりも、高いレベルのウラシルを有していることを示す図である。
【0029】
図10は、前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料が、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料よりも高いレベルのサルコシンを示すことを示す図である。
【0030】
図11は、前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料が、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料よりも高いレベルのグルタミン酸を示すことを示す図である。
【0031】
図12は、前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料が、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料よりも高いレベルのグリシンを示すことを示す図である。
【0032】
図13は、前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料が、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料よりも高いレベルのシステインを示すことを示す図である。
【0033】
図14は、前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料と、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料とは、同じレベルのメチオニンを示すことを示す図である。
【0034】
図15は、前立腺生検が陽性の尿沈渣試料のグルタミン酸、グリシン、およびシステインのレベルが、前立腺生検が陰性のコントロールよりも高いことを示すボックスプロットである。
【0035】
図16は、転移性前立腺の組織試料が、良性前立腺癌および局在性前立腺癌の試料よりも低いレベルのスペルミンを有していることを示す図である。
【0036】
図17は、転移性前立腺の組織試料が、良性前立腺癌および局在性前立腺癌の試料よりも低いレベルのプトレッシンを有していることを示す図である。
【0037】
図18は、転移性前立腺の組織試料が、良性前立腺癌および局在性前立腺癌の試料よりも低いレベルのスペルミジンを有していることを示す図である。
【0038】
図19は、良性、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料における、スペルミン、プトレッシン、およびスペルミジンのレベルを示すボックスプロットである。
【0039】
図20は、非浸潤性前立腺細胞株(RWPE)が、浸潤性前立腺癌の細胞株(VCAP、LnCaP、DU145、PC3、2RVV1)よりも高いレベルのスペルミン、プトレッシン、およびスペルミジンを示すことを示す図である。
【0040】
図21は、生検が陽性の前立腺癌患者からの尿沈渣試料の、スペルミン/メチオニンの比が、生検が陰性のコントロールからの尿沈渣試料と比べて高いことを示す図である。
【0041】
図22は、生検が陽性の前立腺癌患者からの尿沈渣試料の、スペルミジン/メチオニンの比が、生検が陰性のコントロールからの尿沈渣試料と比べて高いことを示す図である。
【0042】
図23は、生検が陽性の前立腺癌患者および生検が陰性のコントロールからの尿沈渣試料における、スペルミン/メチオニンの比およびスペルミジン/メチオニンの比を示すボックスプロットである。
【0043】
図24は、ミリスチン酸のレベルが、局在性前立腺癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【0044】
図25は、パルミチン酸のレベルが、局在性前立腺癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【0045】
図26は、アラキドン酸のレベルが、局在性前立腺癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【0046】
図27は、ステアリン酸のレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【0047】
図28は、ラウリン酸のレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【0048】
図29は、オレイン酸のレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【0049】
図30は、良性癌、局在性癌、および転移性前立腺癌の組織試料における、パルミチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、オレイン酸、およびラウリン酸のレベルを示すボックスプロットである。
【0050】
図31は、サルコシンのレベルが、乳癌の組織試料において、良性組織試料よりも高いことを示す図である。
【0051】
図32は、浸潤性乳癌細胞株(MDA−MB−231、BT−549、T578、SVM−245)が非浸潤性細胞株(HME)よりも、高いレベルのサルコシンを有していることを示す図である。
【0052】
図33は、浸潤性乳癌細胞株(MCF7、MDA−MB−231、T470、SKBR3)が、非浸潤性細胞株(MCF10A)よりも、高いレベルのプトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンを有していることを示す図である。
【0053】
図34は、70のDRE後の尿沈渣(35Bx−veおよび35Bx+ve)におけるGC−MS分析に基づいて、代謝物(サルコシン、グルタミン酸、グリシン、および、システイン)のレベルを示すボックスプロットである。
【0054】
図35は、4つの代謝物(サルコシン、グルタミン酸、グリシン、およびシステイン)から成る70の尿沈渣のトレーニングセットに対してロジスティック回帰を用いて展開されたマルチプレックス・パネルのROC曲線を示す図である。
【0055】
図36は、前立腺癌組織におけるGC−MS分析に基づいて、代謝物のレベルを示すボックスプロットである。
【0056】
図37は、前立腺癌組織が、高いレベルのロイシンを示すことを示す図である。
【0057】
図38は、前立腺癌組織が、高いレベルのアスパラギンを示すことを示す図である。
【0058】
図39は、前立腺癌組織が、高いレベルのトリプトファンを示すことを示す図である。
【0059】
図40は、前立腺癌組織が、高いレベルのキヌレニンを示すことを示す図である。
【0060】
図41は、前立腺癌組織が、高いレベルの3−アミノ酪酸を示すことを示す図である。
【0061】
図42は、生検陽性尿沈渣が、高いレベルのサルコシンを示すことを示す図である。
【0062】
図43は、生検が陽性の尿沈渣が、高いレベルのウラシル(ウラシル/アラニンの比)を示すことを示す図である。
【0063】
図44は、サルコシンの再現性(独立して調製)を示す図である。
【0064】
図45は、サルコシンの再現性(複製)を示す図である。
【0065】
図46は、DRE後の尿沈渣におけるサルコシンの安定性を示す図である。
【0066】
図47は、2つの独立した調製における、グルタミン酸、グリシン、およびシステインの再現性を示す図である。
【0067】
〔定義〕
本発明をよりよく理解するために、多数の用語および表現を以下に定義する。
【0068】
「前立腺癌」とは、癌が、男性の生殖器官の腺である前立腺に発現した疾患を指す。「悪性度が低い」または「悪性度がより低い」前立腺癌とは、転移の可能性が低い悪性腫瘍(例えば、あまり悪性でないと考えられる前立腺癌)を含む、非転移性前立腺癌を指す。「悪性度が高い」または「悪性度がより高い」前立腺癌とは、転移の可能性が高い悪性腫瘍(悪性であると考えられる前立腺癌)を含む、被験体内で転移した前立腺癌を指す。
【0069】
本明細書において用いられるように、「癌特異的代謝物」という用語は、癌細胞における存在が非癌細胞とは異なる代謝物を指す。例えば、幾つかの実施形態において、癌特異的代謝物は、癌細胞には存在するが、非癌細胞には存在しない。他の実施形態では、癌特異的代謝物は、癌細胞には存在しないが、非癌細胞には存在する。さらに他の実施形態では、癌特異的代謝物は、非癌細胞よりも癌細胞において、特異的なレベル(例えば、より高い、またはより低い)で存在する。例えば、癌特異的代謝物は、任意のレベルで特異的に存在してよいが、一般的には、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、もしくはそれ以上だけ高いレベルで存在するか、または、一般的には、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは100%(例えば存在しない)だけ少ないレベルで存在する。癌特異的代謝物は、好ましくは、統計的に有意なレベル(例えば、ウェルチのT検定またはウィルコクソン順位和検定のいずれかを用いて算出した、p値が0.05よりも低い、および/または、q値が0.10よりも低いレベル)で示差的に存在する。典型的な癌特異的代謝物については、後の詳細な説明および実施例の章に記載する。
【0070】
本明細書において用いられるように、「試料」という用語は、広い意味で用いられる。ある意味では、生物試料および環境試料だけでなく、任意の供給源から得た検体または培養菌を含むものと解釈される。生物試料は、動物(ヒトを含む)から得ることができ、流体、固体、組織、および気体を含む。生物試料は、血漿、血清などの血液製剤を含む。しかし、このような例は、本発明に適用可能な試料の種類を限定するものと解釈されるものではない。
【0071】
生物試料とは、動物(ヒトを含む)の流体、固体(例えば便)または組織だけでなく、液体および固体の食品や飼料製品、材料(日常品、野菜、肉、および肉副製品など)、並びに廃棄物であってよい。生物試料は、様々な属の家畜、野生動物または野獣(有蹄動物、クマ、魚、ウサギ科、齧歯目等の動物が含まれるが、これらに限定されない)の全てから得ることが可能である。生物試料は、所望のバイオマーカーを検出するために適した任意の生体物質を含んでいてよく、被験体からの細胞材料および/または非細胞材料を含んでいてよい。試料は、任意の好適な生物組織または流体(例えば、前立腺組織、血液、血漿、尿、または大脳髄液(CSF))から分離されていてもよい。
【0072】
代謝物の「基準レベル」とは、代謝物のレベルであって、特定の疾患の状態、表現型を示す、または特定の疾患が存在しないことを示すものであるだけでなく、特定の疾患の状態、表現型、または特定の疾患が存在しないことの組み合わせを示すものである。代謝物の「陽性」基準レベルとは、特定の疾患の状態または表現型を示すレベルを指す。代謝物の「陰性」基準レベルとは、特定の疾患の状態または表現型が存在しないことを示すレベルを指す。例えば、代謝物の「前立腺癌陽性基準レベル」とは、被験体が前立腺癌であるという陽性診断を示す、代謝物のレベルを意味しており、代謝物の「前立腺癌陰性基準レベル」とは、被験体が前立腺癌ではないという陰性診断を示す、代謝物のレベルを意味している。代謝物の「基準レベル」は、代謝物の絶対量もしくは絶対濃度、または相対量もしくは相対濃度、代謝物の存在または非存在、代謝物の量または濃度の範囲、代謝物の最小および/または最大の量もしくは濃度、代謝物の平均量または平均濃度、および/または、代謝物の中央量または中央濃度であってよく、さらに、代謝物の組み合わせの「基準レベル」は、2つ以上の代謝物の、絶対量もしくは絶対濃度、または、互いに対する相対量もしくは相対濃度の比率であってよい。特定の疾患の状態、表現型を示す、または特定の疾患が存在しないことを示す、代謝物の適切な陽性および陰性基準レベルは、1つ以上の適切な被験体における所望の代謝物のレベルを測定することによって決定され、このような基準レベルは、特定の母集団の被験体に合わせることが可能である(例えば、基準レベルは、代謝物のレベルが一定の年齢の被験体の試料において比較されるように、年齢に適合されていてよく、一定の年齢群における特定の疾患の状態、表現型を示す、または特定の疾患が存在しないことを示す基準レベルであってよい)。このような基準レベルは、生物試料中の代謝物のレベルを測定するために用いられる特定の技術(例えば、LC−MS、GC−MS等)に適合されていてもよい。この場合、代謝物のレベルは、用いられる特定の技術に基づき、異なっていてよい。
【0073】
本明細書において用いられるように、「細胞」という用語は、任意の真核細胞または原核細胞(例えば、大腸菌などのバクテリア細胞、酵母菌、哺乳類の細胞、鳥類の細胞、両生類の細胞、植物細胞、魚の細胞、および昆虫の細胞)を指す(インビトロに存在するものであっても、インビボに存在するものであってもよい)。
【0074】
「質量分析」(MS)とは、分子を測定および分析するための技術であり、標的分子を断片化して、その断片を、その質量/電荷比に基づいて分析して、「分子のフィンガープリント」として機能する質量スペクトルを生成することを含む。ある物体の質量/電荷比を算出することは、当該物質が電磁エネルギーを吸収する波長を算出する手段によって行われる。イオンの質量/電荷比を算出するために一般的に用いられる方法が幾つか存在する。そのうちの幾つかはイオンの軌道と電磁波との相互作用を測定する方法であり、また幾つかはイオンが所定の距離を移動するためにかかる時間を測定する方法であり、これらの方法を組み合わせた方法も存在する。断片質量分析のデータを、データベースで検索し、標的分子の識別を決定する。また、質量分析は、とりわけ、石油化学のような化学の分野、または医薬品の品質管理の分野において広く用いられている。
【0075】
「代謝」という用語は、生物の組織内で生じる化学変化(「同化作用」および「異化作用」を含む)を指す。同化作用とは、分子の生合成または集結を指し、異化作用とは、分子の分解を指す。
【0076】
「代謝物」とは、代謝に起因する中間体または生成物である。代謝物は、「低分子」と称されることが多い。
【0077】
「メタボロミクス」という用語は、細胞代謝物の研究を指す。
【0078】
「生体高分子」とは、1種類以上の反復単位による高分子である。生体高分子は、典型的には、生体系において見られ、特に、多糖類(炭水化物など)、並びに、ペプチド(この語は、ポリペプチドおよびタンパク質を含めた意味で用いられる)およびポリヌクレオチド、並びにその類似体(例えば、アミノ酸類似体もしくは非アミノ酸基、またはヌクレオチド類似体または非ヌクレオチド基から構成される、またはこれらを含む化合物)。これは、従来の主鎖が非自然に発生した主鎖または合成主鎖で置換されたポリヌクレオチド、および、1つ以上の従来の塩基がワトソン・クリック型水素結合の相互作用に参加することが可能な(自然または合成の)基で置換された核酸(または合成もしくは自然発生した類似体)を含む。ポリヌクレオチドは、単独のストランドで構成されていてもよいし、または多数のストランドで構成されていてもよい。多数のストランドで構成されている場合、1つ以上のストランドは、一列に揃えられていてもよいし、そうでなくてもよい。
【0079】
本明細書において用いられるように、「外科手術後の組織」という用語は、外科手術の間に、被験体から除去された組織を指す。この「外科手術後の組織」の例には、生検試料、摘出された器官、および摘出された器官の一部が含まれるが、これらに限定されない。
【0080】
本明細書において用いられるように、「検出する」、「検出すること」、または「検出」という用語は、検出可能な標識組成物を発見する、識別する、または特異的に観察するという一般的な動作を示していることが可能である。
【0081】
本明細書において用いられるように、「臨床的失敗」という用語は、前立腺摘除術の後のネガティブな結果を指す。臨床的失敗に関連する結果の例には、前立腺摘除術後の、PSAレベルの上昇(例えば、少なくとも0.2ng/ml−1の上昇)、または疾患(転移性前立腺癌など)の再発が含まれるが、これらに限定されない。
【0082】
本明細書において用いられるように、「マルチプレックス」という用語は、1つの試料において、2つ以上の物質(例えば検体、代謝物、化合物)を同時に検出することを指す。
【0083】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、癌マーカーに関する。特に、本発明は、癌(例えば、前立腺癌または乳癌)において存在が特異的な代謝物を提供する。本発明の実施形態を開発する過程において行った実験では、癌を患う被験体において存在が特異的な代謝物として、例えば、サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、アセチルグルコサミン、ホモシステイン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、n−アセチル−アスパラギン酸、マレイン酸塩、シトルリン、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、セリン、ウラシル、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、ピペコリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、アラキドン酸、メチオニン、スペルミン、トリプトファン、2−アミノアジピン酸、3−アミノイソ酪酸、スペルミジン、プトレッシン、ミリスチン酸、およびチミンを識別した。さらなるマーカーについては、本明細書、並びに、WO 2009/026152号およびWO 2008/036691号に記載されている。これら各文献は、列挙することで、文献の内容そのものが本明細書で援用されるものとする。
【0084】
開示されるマーカーは、診断、研究、スクリーニング、および治療の目的としての用途を有する。幾つかの実施形態において、本発明は、癌(例えば、前立腺癌または乳癌)を診断するための、組成物および方法を提供する。幾つかの実施形態において、本発明は、高いレベルの代謝物の存在に基づいて、浸潤性癌(例えば浸潤性前立腺癌、浸潤性乳癌)を識別する方法を提供する。
【0085】
本発明の実施形態は、診断、予後、スクリーニング、または治療用途において有効な、(例えば、2個以上、5個以上、10個以上、25個以上、または50個以上の)マーカーを含むパネルを提供する。
【0086】
〔I.診断およびスクリーニング用途〕
幾つかの実施形態において、本発明は、癌(例えば、前立腺癌または乳癌)を診断およびスクリーニングするための方法および組成物を提供する。この方法および組成物は、癌特異的代謝物またはその誘導体、前駆体、代謝物等の存在に基づいて、癌のリスク、存在または非存在、癌のステージ、癌の転移のリスクまたは存在、あるいは、浸潤性等を特徴づけるまたは診断する方法を含むが、これに限定されない。以下に、典型的な診断方法について説明する。
【0087】
〔A.試料〕
癌特異的代謝物を含有する疑いがある任意の患者の試料を、ここに記載する方法に従って試験する。例えば、非限定的な実施例では、試料は、組織(例えば、前立腺もしくは胸の生検試料、または外科手術後の組織)、血液、尿、またはその断片(例えば、血漿、血清、尿上清、尿細胞ペレット、尿沈渣、または前立腺細胞)であってよい。幾つかの実施形態において、試料は、生検またはその後の手術(例えば前立腺生検)によって得られた組織試料である。尿試料は、注意深く直腸内触診(DRE)を行い、前立腺の前立腺細胞が尿路の中に流れ出た後、直ちに採取されることが好ましい。
【0088】
幾つかの実施形態において、患者試料には、癌特異的代謝物または癌特異的代謝物を含有する細胞のための試料を単離または凝縮するために、予備的な処理が施される。当業者に公知の様々な技術を、このために用いてもよい。この技術には、遠心分離、免疫捕獲、および細胞溶解が含まれるが、これらに限定されない。
【0089】
〔B.代謝物の検出〕
代謝物は、任意の好適な方法を用いて検出することが可能である。この方法には、液相および気相クロマトグラフィーを、単独で用いること、または、質量分析(例えば、後の実施例の章を参照)、NMR(米国公開特許20070055456号(言及することで、文献の内容そのものが本明細書で援用されるものとする)を参照)、免疫学的アッセイ、化学アッセイ、分光法などを組み合わせて用いることが含まれるが、これに限定されない。幾つかの実施形態では、クロマトグラフィーおよびNMR分析用の市販のシステムが利用される。
【0090】
他の実施形態では、代謝物(例えば、バイオマーカーおよびその誘導体)を、光学的画像診断技術を用いて検出する。光学的画像診断技術の例には、磁気共鳴分光法(MRS)、磁気共鳴画像診断法(MRI)、CATスキャン、超音波検査法、MSベースの組織画像診断法、またはX線検出法(例えば、エネルギー分散型蛍光X線分析)が挙げられる。
【0091】
任意の好適な方法を用いて、生物試料を分析して、該試料中の1つ以上の代謝物の存在、非存在、またはレベルを判定することが可能である。好適な方法には、クロマトグラフィー(例えば、HPLC、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー)、質量分析(例えば、MS、MS−MS)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体リンケージ、他の免疫化学技術、生化学、または酵素反応、または酵素アッセイ、およびこれらの組み合わせが含まれる。さらに、1つ以上の代謝物のレベルを、間接的に、例えば、測定したいバイオマーカーのレベルに関連する化合物のレベルを測定するアッセイを用いることによって、測定してもよい。
【0092】
本発明の方法では、上述の代謝物のうちの1つ以上の代謝物のレベルを算出することが可能である。例えば、1つの代謝物、2つ以上の代謝物、3つ以上の代謝物、4つ以上の代謝物、5つ以上の代謝物、6つ以上の代謝物、7つ以上の代謝物、8つ以上の代謝物、9つ以上の代謝物、10以上の代謝物、またはそれ以上の代謝物(本明細書に記載の幾つかまたは全ての代謝物の組み合わせを含む)のレベルを算出し、本発明の方法において用いる。代謝物の組み合わせのレベルを判定することは、前立腺癌を診断する方法、および前立腺癌の診断を支援する方法などの方法において、有病正診率および無病正診率を著しく向上させると共に、(前立腺癌を有していない被験体よりも)前立腺癌を、他の前立腺の疾患(例えば、良性前立腺肥大(BPH)、前立腺炎など)、または、前立腺癌と類似または重複する代謝物を有する他の癌からより良好に区別または特徴づけることが可能である。例えば、生物試料中の特定の複数の代謝物のレベルの比は、前立腺癌を診断する方法、および前立腺癌の診断を支援する方法において、有病正診率および無病正診率を著しく向上させると共に、(前立腺癌を有していない被験体よりも)前立腺癌を、前立腺癌と類似または重複する代謝物を有する他の癌、または、他の前立腺疾患からより良好に区別または特徴づけることが可能である。幾つかの実施形態において、1つ以上の代謝物(例えば、ピペコリン酸または脂肪酸(ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸が含まれるが、これらに限定されない))のレベルは、乳癌の区別または特徴づけに使用することができる。
【0093】
〔C.データ分析〕
幾つかの実施形態では、コンピュータに基づいた分析プログラムを用いて、検出アッセイ法によって生成された生データ(例えば、癌特異的代謝物の存在、非存在、または量)を、臨床医用の予測値のデータに変換する。臨床医は、任意の好適な手段を用いて、予測データにアクセスすることが可能である。従って、幾つかの実施形態において、本発明は、代謝物分析の訓練を受けていないと思われる臨床医が生データを理解する必要がないというさらなる利点を提供する。データは、最も有用な形で、直接、臨床医に提示される。その後、臨床医は、直ちにこの情報を利用し、被験体の処置を最適化することが可能である。
【0094】
本発明は、アッセイを行う研究所に、および該研究所から、この情報を、受信、処理、および送信することが可能な任意の方法を想定可能である。情報は、医療関係者および被験体に提供される。例えば、本発明の幾つかの実施形態において、被験体から試料(例えば、生検または血液、尿、または血清試料)を得て、世界中の任意の場所(例えば、被験体が居住する国とは異なる国、または情報を最終的に用いる国とは異なる国)に位置するプロファイリングサービス(例えば、医療施設などの臨床研究所など)に提出し、生データを生成する。試料が組織または他の生物試料を含む場合、被験体は、病院に行って、試料を採取してもらい、これをプロファイリングセンターに送付してもらってもよいし、被験体は、試料(例えば、尿試料)を自身で採取して、これをプロファイリングセンターに直接送付してもよい。試料が、予め決定された生物情報を含む場合、この情報は、被験体によって、直接、プロファイリングサービスに送付され得る(例えば、この情報を含む情報カードが、コンピュータによってスキャンされ、このデータが、電気通信システムによって、プロファイリングセンターのコンピュータに送信され得る)。プロファイリングサービスによって受信されると、試料は処理され、プロファイル(例えば、代謝プロファイル)が作成される。このプロファイルは、被験体が望む診断用の情報または予後の情報に特化されたものである。
【0095】
プロファイルデータは、その後、治療を担当する臨床医が解釈するために適したフォーマットで用意される。例えば、生データを提供するのではなく、用意されたフォーマットにより、被験体の診断またはリスクの評価(例えば、癌が存在する可能性)が、特定の推奨される治療選択肢と共に示されることが可能である。データは、任意の好適な方法によって臨床医に表示され得る。例えば、幾つかの実施形態において、プロファイリングサービスは、報告書を作成する。この報告書は、臨床医用に(例えば治療時に)印刷されることが可能であるし、または、コンピュータのモニター上で臨床医に表示されることが可能である。
【0096】
幾つかの実施形態において、この情報は、まず、治療時にまたは地域の病院において分析される。生データは、その後、中央処理施設に送信され、さらに分析される、および/または、生データは、臨床医または患者が利用しやすい情報に変換される。中央処理施設は、プライバシー(全てのデータは、同じ形式の安全プロトコルで中央処理施設に保存される)、速度、およびデータ分析の均一性に関して、利点を提供する。中央処理施設は、その後、被験体の治療後のデータの処理を制御することが可能である。例えば、中央処理施設は、データを、電気通信システムを用いて、臨床医、被験体、または研究者に提供することが可能である。
【0097】
幾つかの実施形態において、被験体は、電気通信システムを用いてデータに直接アクセスすることが可能である。被験体は、この結果に基づいて、さらなる診断またはカウンセリングを選択することが可能である。幾つかの実施形態では、データは、研究用途に用いられる。例えば、データは、疾患の特定の状態またはステージを示す有効な指標であるマーカーを含めることまたは除去することを、さらに最適化するために用いられ得る。
【0098】
幾つかの実施形態において、代謝物のレベルが高いこと、または低いこと(例えば、通常の前立腺細胞内のレベルと比べて高いレベル、もしくは、以前のある時点と比べて高いレベル、または、予め設定された閾値と比べて高いレベルなど)は、試料における癌を示すものである。
【0099】
試料中の1つ以上の代謝物の量またはレベルが測定されると、この量またはレベルは、癌陽性および/または癌陰性基準レベルなどの、癌代謝物基準レベルと比較され、被験体が癌を有しているかどうかの診断またはこれを支援することが可能である。試料中の1つ以上の代謝物のレベルが、癌陽性基準レベル(例えば、基準レベルと同一のレベル、基準レベルとほぼ同一のレベル、基準レベルの最小値および/または最大値よりも高いおよび/または低いレベル、および/または、基準レベルの範囲内のレベル)に相当するならば、被験体が癌であるという診断を示すものである。試料中の1つ以上の代謝物のレベルが、癌陰性基準レベル(例えば、基準レベルと同一のレベル、基準レベルとほぼ同一のレベル、基準レベルの最小値および/または最大値よりも高いおよび/または低いレベル、および/または、基準レベルの範囲内のレベル)に相当するならば、被験体が癌でないという診断を示すものである。さらに、癌陰性基準レベルと比べて、試料中に1つ以上の代謝物が異なって(特に、統計的に有意なレベルにおいて)存在するレベルは、被験体が癌であるという診断を示すものである。癌陽性基準レベルと比べて、試料中に1つ以上の代謝物が異なって(特に、統計的に有意なレベルにおいて)存在するレベルは、被験体が癌でないという診断を示すものである。
【0100】
1つ以上の代謝物のレベルと、癌陽性および/または前立腺癌陰性基準レベルとの比較は、様々な技術を用いて行われる。これらの技術には、生物試料中の1つ以上の代謝物のレベルを、癌陽性および/または癌陰性基準レベルと単純に比較すること(例えば、手動による比較)が含まれる。この、生物試料中の1つ以上の代謝物のレベルと癌陽性および/または癌陰性基準レベルとを比較することに、1つ以上の統計的分析(例えば、t検定、ウェルチのT検定、ウィルコクソンの順位和検定、ランダムフォレスト)を用いてもよい。
【0101】
〔D.組成物およびキット〕
本発明の幾つかの実施形態における診断法、研究法、またはスクリーニング法において使用される(例えば、十分に使用される、使用に必須または有用な)組成物は、癌特異的代謝物の存在または非存在を検出するために必要な、十分な、または有用な試薬を含む。これらの組成物のうちの任意の組成物を、単独で、または、本発明の他の組成物と組み合わせて、キットの形で提供することが可能である。キットは、好適なコントロール、および/または、検出試薬をさらに含んでいてよい。
【0102】
〔E.パネル〕
本発明の実施形態は、本発明の1つ以上のマーカー(例えば、サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、n−アセチル−アスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、n−アセチルチロシンおよびチミン、ピペコリン酸、脂肪酸(ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸が含まれるが、これらに限定されない)、またはポリアミン(プトレッシン、スペルミジン、スペルミンが含まれるが、これらに限定されない))を、単独で、または、従来から公知のさらなる癌マーカーと一緒に、同時に検出するマルチプレックスアッセイまたはパネルアッセイを提供する。例えば、幾つかの実施形態において、単一のアッセイにおいて、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、15個以上、または20個以上のマーカーを検出する、パネルアッセイまたはコンビネーションアッセイが提供される。幾つかの実施形態において、アッセイは、自動化されるか、または高速処理される。
【0103】
幾つかの実施形態において、パネルは、サルコシン、グルタミン酸、グリシン、および、システインを含む。本発明の実施形態を開発する過程において行った実験では、サルコシン、グルタミン酸、グリシン、および、システインの1つのパネルが、個々のマーカーの曲線下で広い面積を示し、従って、前立腺癌を検出することにおいてより感度が高いことが分かった。幾つかの実施形態において、前立腺癌を検出するためのパネルは、さらに、アセチルグルコサミン、キヌレニン、ウラシル、ホモシステイン、アスパラギン、グルタミン酸、スペルミジン、スペルミン、2−アミノアジピン酸、ロイシン、プロリン、スレオニン、マレイン酸塩、ヒスチジン、シトルリン、アデノシン、またはイノシン、のうちの1つ以上を含む。
【0104】
幾つかの実施形態では、マルチプレックスアッセイまたはパネルアッセイには、さらなる癌マーカーが含まれている。マーカーは、その予測値のために、単独で、または、本明細書に記載の代謝マーカーと組み合わせて、選択される。典型的な前立腺癌マーカーには、AMACR/P504S(米国特許第6,262,245号)、PCA3(米国特許第7,008,765号)、PCGEM1(米国特許第6,828,429号)、prostein/P501S、P503S、P504S、P509S、P510S、prostase/P703P、P710P(米国公報第20030185830号)、および、米国特許第5,854,206号、第6,034,218号、米国公報第20030175736号に開示されるマーカーが含まれるが、これらに限定されない。これら各文献は、列挙することで、文献の内容そのものが本明細書で援用されるものとする。他の癌、疾患、感染症、および他の代謝状態のためのマーカーには、マルチプレックスまたはパネルのフォーマットに含まれるものも想定される。
【0105】
〔II.治療方法〕
幾つかの実施形態において、本発明は、治療方法(例えば、本明細書に記載の癌特異的代謝物を標的とする治療方法)を提供する。幾つかの実施形態において、治療方法は、本明細書に記載の癌特異的代謝物の酵素または経路成分を標的とする。
【0106】
例えば、幾つかの実施形態において、本発明は、本発明の癌特異的代謝物を標的とする化合物を提供する。この化合物は、例えば、癌特異的代謝物の合成に干渉することによって(例えば、代謝物の合成に関連する酵素の転写または翻訳を阻止することによって、代謝物の合成に関連する酵素を(例えば、翻訳後修飾によって、または不可逆的阻害剤に結合することによって)不活性化することによって、または、代謝物の合成に関連する酵素の活性を他の方法で阻止することによって)、癌特異的代謝物のレベルを減少させることが可能である。あるいは、この化合物は、癌特異的代謝物に結合してその機能を阻害することによって、癌特異的代謝物の標的(例えば、競合的または非競合的な阻害剤)に結合することによって、または、代謝物の分解またはクリアランスの割合を増大させることによって、癌特異的代謝物の前駆体もしくは代謝物のレベルを減少させることが可能である。化合物は、例えば、癌特異的代謝物の分解またはクリアランスを阻害することによって(例えば、代謝物の分解に関連する酵素を阻害することによって)、癌特異的代謝物の前駆体のレベルを増大させることによって、または、その標的のための代謝物の親和力を上昇させることによって、癌特異的代謝物のレベルを上昇させることが可能である。典型的な治療の標的には、グリシン−N−メチル転移酵素(GNMT)およびサルコシンが含まれるが、これらに限定されない。
【0107】
〔A.代謝経路〕
次に、典型的な癌特異的代謝物の代謝経路について説明する。本発明の組成物および方法では、さらなる代謝物の使用が想定されている。これについては、後述の、例えば実施例の説明の章に記載されている。
【0108】
〔i.サルコシン代謝〕
例えば、サルコシンは、肝臓のコリン代謝に関与している。哺乳類の肝臓におけるコリンからグリシンへの酸化的分解反応は、ミトコンドリアにおいて発生する。コリンは、特定のトランスポータによってミトコンドリアに入る。代謝経路における最後の2つのステップは、ジメチルグリシンをサルコシンに変換するジメチルグリシン脱水素酵素(Me2GlyDH)と、サルコシン(N−メチルグリシン)をグリシンに変換するサルコシン脱水素酵素(SarDH)とによって触媒される。両方の酵素は、ミトコンドリア基質に存在している。従って、幾つかの実施形態では、治療用の組成物は、Me2GlyDH、および/または、SarDHを標的とする。典型的な化合物は、例えば、本明細書に記載のドラッグスクリーニング法を用いることによって特定される。
【0109】
〔ii.グリシド酸代謝〕
コレステロール利用の最終産物は、肝臓内で合成される胆汁酸である。胆汁酸の合成は、過剰なコレステロールを排泄するための主なメカニズムである。しかし、コレステロールを胆汁酸の形で排泄することは、食事によるコレステロールの過剰摂取を補償するためには不十分である。ヒトの胆汁において最も多い胆汁酸は、ケノデオキシコール酸(45%)およびコール酸(31%)である。胆汁酸のカルボキシル基は、毛細胆管の中に分泌される前に、アミド結合を介してグリシンまたはタウリンに共役される。この共役反応によって、グリココール酸およびタウロコール酸がそれぞれ生成される。毛細胆管は、胆汁小導管と接合し、その後、胆管を形成する。胆汁酸は、肝臓から、これらの胆管を通って胆嚢に運ばれ、将来の使用に備えて、胆嚢内に貯蔵される。胆汁酸は、最終的に、腸の中に分泌され、腸内で、食事性脂質の乳化を支援する。グリシンおよびタウリンの残留物は、内蔵において除去され、胆汁酸は、(わずかな割合だけ)排泄されるか、または、内蔵に再吸収されて再び肝臓に戻される。このプロセスは、腸肝循環と呼ばれている。
【0110】
〔iii.スベリン酸代謝〕
スベリン酸(オクタン二酸とも呼ばれる)は、C6H12(COOH)2の化学式を有するジカルボン酸である。ジカルボン酸のペルオキシソーム代謝により、媒体鎖ジカルボン酸アジピン酸、スベリン酸、およびセバシン酸が生成される。これらは、尿において排泄される。
【0111】
〔iv.キサントシン代謝〕
キサントシンは、プリンヌクレオシド代謝に関与している。具体的には、キサントシンは、イノシンがグアノシンに変換する際の中間体である。キサンチル酸を、急性リンパ性白血病(ALL)の子供に最適なチオプリン療法を確保するために推奨される、プリン代謝におけるイノシンモノリン酸塩脱水素酵素活性の定量的測定において用いることが可能である。
【0112】
〔v.ポリアミン代謝〕
ポリアミンは、2つ以上の一次アミノ基を有しており、真核生物および原核生物において必須の分子である。ポリアミンが、細胞において、高度に調整された経路を介して合成されることは公知であるが、その実際の機能の全体は、明らかではない。ポリアミンは、陽イオンとして、規則的な間隔を置いてDNAに結合する。
【0113】
細胞のポリアミン合成が阻害されるならば、細胞増殖は、停止するか、または、著しく遅延される。外因性ポリアミンを供給することにより、これらの細胞の増殖は回復する。ほとんどの真核細胞は、その細胞膜上に、外因性ポリアミンの吸収を促進するポリアミントランスポータシステムを有している。ポリアミントランスポータシステムは、細胞を急速に増殖させることに極めてアクティブであり、幾つかの化学療法の標的である(例えば、DMFO、MGBG、BCNU、およびその類似体)。
【0114】
ポリアミンは、NMDA受容体およびAMPA受容体を含む、種々のイオンチャネルの重要な修飾因子でもある。ポリアミンは、内向き整流性カリウムチャンネルを阻止し、これによって、細胞エネルギーを保存する(細胞膜を横切るK+イオン勾配)。
【0115】
ポリアミンの例には、プトレッシン、カダベリン、スペルミン、およびスペルミジンが含まれるが、これらに限定されない。プトレッシンは、いずれもアルギニンから始まる異なる2つの経路を介して、生物学的に合成される。1つの経路では、アルギニンは、酵素アルギニン脱炭酸酵素(ADC)によって触媒反応し、アグマチンに変換される。その後、アグマチンは、アグマチンイミノヒドロキシラーゼ(AIH)によってカルバモイルプトレッシンに形質転換される。カルバモイルプトレッシンは、最終的に、プトレッシンに変換される。第2の経路では、アルギニンは、オルニチンに変換され、その後、オルニチンは、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)によってプトレッシンに変換される。カダベリンは、リジン脱炭酸酵素(LDC)との1ステップ反応において、リジンから合成される。スペルミジンは、炭酸基を除いたS−アデノシル−L−メチオニン(SAM)からのアミノプロピル基を用いて、プトレッシンから合成される。この反応は、スペルミジン合成酵素によって触媒作用が及ぼされる。スペルミンは、酵素スペルミン合成酵素の存在下で、スペルミジンとSAMとが反応することによって、合成される。
【0116】
〔vi.脂肪酸代謝〕
脂肪酸は、多くの場合、飽和または不飽和の、枝分かれしていない長い脂肪族テール(鎖)を有するカルボン酸を含む。脂肪酸の例には、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸(ドデカン酸としても知られる)、および、オレイン酸が含まれるが、これらに限定されない。
【0117】
ミリスチン酸(テトラデカン酸とも呼ばれる)または14:0は、分子化学式CH3(CH2)12COOHを有する一般的な飽和脂肪酸である。ミリスチン酸塩は、塩、またはミリスチン酸のエステルである。ミリスチン酸の名前は、ナツメグ(Myristica fragrans)に由来する。ナツメグバターは、75%トリミリスチン(ミリスチン酸の中性脂肪)である。ミリスチン酸は、ナツメグに加えて、パーム油、ヤシ油、バター脂肪、および、鯨蝋、マッコウクジラの油の結晶化断片にも見られる。またミリスチン酸は、通常、受容体に関連づけられたキナーゼ中の最後から2番目のN末端のグリシンに同時翻訳で加えられ、膜に酵素の局在性を与える。ミリスチン酸は、疎水性が非常に高いので、真核細胞の形質膜のリン脂質二重層の脂肪性アシルの核心に組み込まれる。このようにして、ミリスチン酸は、生体膜内の脂質アンカーとして機能する。
【0118】
IUPAC命名法では、パルミチン酸、CH3(CH2)14COOH、またはキサデカン酸は、動物および植物において見られる最も一般的な飽和脂肪酸の1つであり、ヤシの木の油の主な構成要素(パーム油およびパーム核油)である。「palmitic」という語は、フランス語の「palmitique」に由来し、ヤシの木の樹心を指す。パルミチン酸は、脂質生成(脂肪酸合成)の間に生成される最初の脂肪酸であり、このパルミチン酸から、より長い脂肪酸が生成され得る。パルミチン酸塩は、アセチルCoAをマロニルCoAに変換するために必要なアセチルCoAカルボン酸塩(ACC)にネガティブにフィードバックし、これによって、さらなるパルミチン酸塩の生成を阻止する。マロニルCoAは、増殖するアシル鎖に添加するために用いられるものである。
【0119】
アラキドン酸(AAまたはARAとしても知られている)は、オメガ−6脂肪酸20:4(ω−6)である。これは、ピーナッツ油に見られる飽和アラキン酸の対応物である(L.ラッカセイ属ピーナッツ)。アラキドン酸は、20個の炭素鎖と4つのシス二重結合を有するカルボン酸である。4つのシス二重結合のうちの最初の二重結合は、オメガ末端から6番目の炭素に位置している。「アラキドン酸」は、いずれかのエイコサトリエン酸を指すために用いられることがある。しかし、この語は、通常、全てのシス5,8,11,14−エイコサトリエン酸に限定される。アラキドン酸は、酵素ホスホリパーゼA2(PLA2)によって、リン脂質分子から遊離される。酵素ホスホリパーゼA2(PLA2)は、脂肪酸を開裂するが、DAGからもDAGリパーゼによって生成され得る。シグナリングの目的で生成されるアラキドン酸は、ホスファチジル基コリンに特異的な細胞質ホスホリパーゼA2(cPLA2、85kDa)の作用によって誘導されると思われるが、炎症性アラキドン酸は、低分子量分泌性のPLA2(sPLA2、14−18kDa)の作用によって生成される。アラキドン酸は、エイコサノイドの生成における前駆体である。すなわち、(1)酵素シクロオキシゲナーゼおよびペルオキシダーゼは、プロスタグランジンH2を生じさせ、次にプロスタグランジンH2は、プロスタグランジン、プロスタサイクリン、およびトロンボキサンを生成するために使用され、(2)酵素5−リポキシゲナーゼが、5−HPETEを生じさせ、5−HPETEは次に、ロイコトリエンを生成するために使用され、(3)アラキドン酸は、アナンダミドの生合成においても使用され、そして、(4)幾つかのアラキドン酸は、エポキシゲナーゼによって、ヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)およびエポキシエイコサトリエン酸(EET)に変換される。体内における、これらの誘導体の生成およびその作用は、集合的に、アラキドン酸カスケードとして知られている。
【0120】
ステアリン酸または18:0は、飽和脂肪酸である。これは、化学式C18H36O2、またはCH3(CH2)16COOHの蝋様の固体である。ステアリン酸は、典型的に飽和カルボン酸と反応し、特に、ステアリルアルコールに還元され、様々なアルコールとエステル化する。ヒトの同位体標識(Emken et al. (1994) Am. J. Clin. Nutr. 60:1023S-1328S)では、オレイン酸に酸化的に非飽和された食事性ステアリン酸の断片は、同様にパルミトレイン酸に変換されたパルミチン酸の断片よりも2.4倍も高いことを示している。また、ステアリン酸は、ほとんど、コレステロールエステルに組み入れられない。
【0121】
オレイン酸は、様々な動物および野菜の供給源において見られるモノ不飽和オメガ−9脂肪酸であり、ヒトの脂肪組織において最も多い脂肪酸である。オレイン酸は、CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOH)の化学式を有している。オレイン酸のトランス異性体は、エライジン酸と呼ばれる。
【0122】
〔B.低分子(小分子)治療法〕
いくつかの実施形態において、低分子治療が利用される。複数の実施形態において、低分子治療は癌特異的代謝物を標的にする。いくつかの実施形態において、低分子治療は、例えば本発明の薬物スクリーニング法を用いて特定される。
【0123】
〔C.核酸に基づく治療法〕
別の実施形態では、核酸に基づく治療が利用される。核酸に基づく治療の一例としては、アンチセンスRNA、siRNA、および、miRNAなどがあげられるが、これらの例に限定されるものではない。いくつかの実施形態において、核酸に基づく治療は、癌特異的代謝物(例えば、上述の代謝物)の代謝経路中における、酵素の発現を標的にする。
【0124】
いくつかの実施形態では、核酸に基づく治療はアンチセンスである。遺伝子特異的な治療薬としては、siRNAが使用される(Tuschl and Borkhardt, Molecular Intervent. 2002; 2(3):158-67、本明細書では、言及によって盛り込まれるものとする)。動物細胞へのsiRNAの形質移入の結果、特異的遺伝子の強力な、持続性を有する転写後のサイレンシングが起きる(Caplen et al, Proc Natl Acad Sci U. S. A. 2001; 98: 9742-7; Elbashir et al.,Nature. 2001; 411:494-8; Elbashir et al., Genes Dev. 2001;15: 188-200; および、Elbashir et al., EMBO J. 2001; 20: 6877−88、これら各文献は、列挙することで、文献の内容そのものが本明細書で援用されるものとする)。siRNAを用いてRNAiを実施するための方法および組成については、例えば、米国特許第6,506,559号に記載されている(言及することで、文献の内容そのものが本明細書で援用されるものとする)。
【0125】
別の実施形態では、癌特異的代謝物の代謝経路において起こる遺伝子の発現が、上記酵素をコード化する1つ以上の核酸と特異的にハイブリッド形成するアンチセンス化合物を用いて調節される(例えば、Georg Sczakiel, Frontiers in Bioscience 5, d194-201 January 1, 2000; Yuen et al., Frontiers in Bioscience d588−593, June 1, 2000; Antisense Therapeutics, Second Edition, Phillips, M. Ian, Humana Press, 2004を参照。なお、これら各文献は、列挙することで、文献の内容そのものが本明細書で援用されるものとする)。
【0126】
〔D.遺伝子治療〕
本発明では、本明細書に記載する癌特異的代謝物の代謝経路において起こる酵素の発現の調節における任意の遺伝子操作の使用について考察する。遺伝子操作の例としては、遺伝子ノックアウト(例えば、遺伝子を、組換えなどを利用して染色体から除去する)、誘導性プロモーターを用いた、または、誘導性プロモーターを用いないアンチセンスコンストラクトの発現などがあげられるが、これらの例に限定されるものではない。インビトロまたはインビボにおける核酸コンストラクトの細胞への送達は、任意の適切な方法を用いて実施されればよい。適切な方法の1つは、所望のイベント(例えば、アンチセンスコンストラクトの発現)が発生するような核酸コンストラクトを細胞に導入する方法である。遺伝子治療法を用いて、siRNA、または、(例えば、誘導性プロモーターによって刺激すると)インビボで発現する他の干渉分子を送達してもよい。
【0127】
遺伝情報を細胞内へ搬送する分子の導入は、裸のDNAコンストラクトの誘導された注入、該コンストラクトを担持する金粒子の衝突、リポソームや生体高分子を用いた巨大分子を媒介とする遺伝子導入などを含めた様々な方法のうちのいずれかによって達成されるが、これらに限定されるものではない。好ましい方法は、アデノウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルスなどを含めた、ウイルス由来の遺伝子送達媒体を使用するが、これらに限定されるものではない。アデノウイルスに由来するベクターは、レトロウイルスに比べて効率が高いので、核酸分子を宿主細胞へインビボで導入するためには好適な遺伝子送達媒体である。アデノウイルスベクターは、動物モデルにおける種々の固形腫瘍に対して、および、免疫欠損マウスにおけるヒトの固形腫瘍の異種移植片に対して、非常に効率的なインビボの遺伝子導入が実施できることが示されている。遺伝子導入のためのアデノウイルスベクターおよび方法の例は、国際特許出願公開第00/12738および第00/09675、ならびに、米国特許出願第6,033,908号、第6,019,978号、第6,001,557号、第5,994,132号、第5,994,128号、第5,994,106号、第5,981,225号、第5,885,808号、第5,872,154号、第5,830,730号、および、第5,824,544号に記載されている(これら特許出願は、列挙することで、内容そのものが本明細書で援用されるものとする)。
【0128】
ベクターは、被験体に対して種々の方法で投与可能である。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、ベクターは、直接注入を用いて、腫瘍または腫瘍に関連する組織に投与される。別の実施形態では、投与は、血液のの循環またはリンパ性の循環を介して実施される(例えば、国際特許出願公開第99/02685を参照。なお、この特許出願は、言及することによって、内容そのものが本明細書に援用されるものとする)。アデノウイルスベクターの投与量レベルの例としては、潅流液に108〜1011個のベクター粒子が添加されることが好ましい。
【0129】
〔E.抗体療法〕
いくつかの実施形態において、本発明は、癌特異的代謝物、または、その代謝経路において発現する酵素を標的とする抗体を提供する。任意の適切な抗体(例えば、単クローン性抗体、多クローン性抗体、または、合成抗体など)が、本明細書において開示する治療方法において使用可能である。好適な実施形態では、癌治療に使用される抗体はヒト化された抗体である。抗体をヒト化するための方法は、当該技術分野において周知である(例えば、米国特許第6,180,370号、第5,585,089号、第6,054,297号、第5,565,332号などを参照。なお、これら各文献は、列挙することで、文献の内容そのものが本明細書で援用されるものとする)。
【0130】
いくつかの実施形態では、後述するように、抗体に基づく治療が薬学的組成物として処方される。好適な実施形態では、本発明の抗体組成物の投与の結果、測定可能な程度の癌の減少が生じる(例えば、腫瘍の減少または消滅)。
【0131】
〔F.薬学的組成物〕
本発明は、さらに、薬学的組成物(例えば、癌特異的代謝物のレベルまたは活性を調節する医薬品など)を提供する。本発明のいくつかの実施形態の薬学的組成物は、局所的な治療が所望されているのか、または、全身的な治療が所望されているのかに応じて、また、治療対象となる領域に応じて、複数の方法で投与可能である。投与は、局所的(経眼投与、ならびに、経腟送達および経直腸送達を含めた粘膜への投与を含める)に実施されても、経肺的(例えば、噴霧器の使用を含めた、粉末またはエアロゾルの吸入またはガス注入、気管内投与、鼻腔内投与、上皮投与、経皮投与など)に実施されても、経口的または非経口的に実施されてもよい。非経口投与には、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、もしくは、筋肉内の注射もしくは注入、または、頭蓋内(例えば、くも膜下または脳室内)投与を含める。
【0132】
局所投与のための薬学的組成物および処方物としては、経皮パッチ、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、ドロップ、坐薬、噴霧、液体、および、粉末などを含めてもよい。従来の医薬品用キャリア、水性、粉末性、または、油性のベース、増粘剤などが必要となる、または、望ましいこともあり得る。
【0133】
経口投与のための組成物および処方物としては、粉末もしくは顆粒、水もしくは非水性の媒体を用いた懸濁液もしくは溶液、カプセル、小袋、または、錠剤などを含める。増粘剤、香味料、希釈液、乳化剤、分散補助剤、または、結合剤が望ましいこともあり得る。
【0134】
非経口投与、くも膜下投与、または、脳室内投与のための組成物および処方物としては、バッファ、希釈液、ならびに、例えば、浸透エンハンサーやキャリア化合物などの薬学的に許容可能なキャリアまたは補形剤(ただしこれらに限定されるものではない)などの、別の適切な添加剤も含有してかまわない無菌水溶液などを含めてもよい。
【0135】
本発明の薬学的組成物としては、溶液、乳濁液、リポソーム含有処方物などを含めるが、これらの例に限定されるものではない。これらの組成物は、調製済み液、自己乳化する固体、および、自己乳化する半流動物を含めた種々の成分(ただし、これらに限定されるものではない)から生成可能である。
【0136】
本発明の医薬品用処方物は、単位投与量の形態で投与すれば都合がよく、医薬品産業界において周知の従来の手法に合わせて調製されればよい。このような手法としては、有効成分を医薬品用キャリアまたは賦形剤に関連付けるステップを含めてもよい。一般に、上記処方物は、有効成分を液体キャリアおよび細分化された固体キャリアのいずれか一方、または、両方に一様および密接に関連付け、さらに、必要であれば生成物を整形することによって調製される。
【0137】
本発明の組成物は、例えば、錠剤、カプセル、液体シロップ、軟質ゲル、坐薬、浣腸薬などの多数の可能な剤形(ただし、これらに限定されるものではない)のうちのいずれかの形態で処方されればよい。本発明の組成物は、水性媒体、非水性媒体、または、混合媒体において懸濁液として処方されてもよい。水懸濁液は、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、および/または、デキストランなどの、該懸濁液の粘性を増加させる物質をさらに含有してもよい。上記懸濁液は、安定剤をさらに含有してもかまわない。
【0138】
本発明の一実施形態では、上記薬学的組成物は、発砲体として処方および使用されてもよい。医薬品用発砲体としては、例えば、乳濁液、マイクロ乳濁液、クリーム、ゼリー、リポソームなどの処方物を含めるが、これらに限定されるものではない。これらの処方物は、本質的には基本的に互いに類似しているが、最終生成物の成分および一貫性においてはばらつきがある。
【0139】
細胞レベルにおけるオリゴヌクレオチドの組み込みを促進する薬剤が、本発明の医薬品などの組成物にさらに添加されてもよい。例えば、リポフェクチン(米国特許第5,705,188号)などの陽イオン性脂質、陽イオン性グリセロール誘導体、および、ポリリジン(国際特許出願公開第97/30731号)などのポリカチオン性分子も、細胞へのオリゴヌクレオチドの組み込みを促進する。
【0140】
本発明の組成物は、従来薬学的組成物に含有される、別の補助剤成分をさらに含有してもよい。したがって、例えば、上記組成物が、鎮痒薬、収斂薬、局所性の麻酔薬、抗炎症薬などの、適合性および薬学的活性を有する物質をさらに含有してもよく、または、本発明の組成物を様々な剤形で物理的に処方する際に有用な、別の物質を含有してもよい。この別の物質の例としては、例えば、染料、香味料、保存料、抗酸化剤、乳白剤、増粘剤、安定剤などがあげられる。ただし、このような物質は、添加しても、本発明の組成物の各成分の生物活性に対して過度に干渉するものであってはならない。上記処方物は無菌化されてもよく、所望であれば、例えば、処方物の核酸と有害な相互作用を起こすことがない潤滑剤、保存料、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を及ぼすための塩、バッファ剤、着色剤、香味料、および/または、芳香剤などの補助的な薬剤と混合されてもよい。
【0141】
本発明の複数の実施形態において、(a)1つ以上の核酸化合物と、(b)異なるメカニズムによって機能する1つ以上の別の化学療法薬とを含有する薬学的組成物を提供する。このような化学療法薬の例としては、例えば、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン、メクロレタミン、クロラムブシル、メルファラン、シクロホスファミド、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、シタラビン(CA)、5−フルオロウラシル(5−FU)、フロクスウリジン(5−FUdR)、メトトレキサート(MTX)、コルヒチン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド、テニポシド、シスプラチン、ジエチルスチルベストロール(DES)などの、抗癌剤が挙げられるが、これらの例に限定されるものではない。本発明の組成物において、非ステロイド性の抗炎症薬や副腎皮質ステロイド薬など(ただし、これらに限定されるものではない)を含めた抗炎症薬と、リバビリン(ribivirin)、ビダラビン、アシクロビル、ガンシクロビルなど(ただし、これらに限定されるものではない)を含めた抗ウイルス薬とがさらに組み合わせられてもよい。その他の非アンチセンス化学療法薬も、本発明の技術的範囲内である。組み合わせた2つ以上の化合物を、同時に、または、順に使用してもかまわない。
【0142】
投薬は、治療しようとする疾患状態の重症度および応答性に依存し、治療期間は数日から数ヶ月にわたって継続するか、または、治療が効果を奏する、もしくは、疾患状態の減衰が達成されるまで継続する。最適な投薬スケジュールは、患者の体内における薬の蓄積量の測定結果から算出可能である。投与を行う医師は、最適な投与量、投薬方法、および、繰り返し率を容易に決定することができる。最適な投与量は、個々のオリゴヌクレオチドの相対的な効力によって異なる可能性があり、一般に、インビトロおよびインビボの動物モデルにおいて効果的であることがわかっているEC50に基づいて、または、ここに記載する例に基づいて、推定可能である。一般に、投与量は体重1kg当たり0.01μg〜100gであり、1日、1週間、1ヶ月、または、1年に1回以上投与される。治療を行う医師は、体液中または組織中における薬の滞留時間および濃度の測定結果に基づいて、投薬の繰り返し率を推定することができる。治療が成功した後は、被験体は、疾患状態の再発を防止するために、維持療法を受けることが望ましいと考えられる。維持療法においては、上記薬学的組成物が、体重1kg当たり0.01μg〜100g、および、1日に1回以上から20年ごとに1回の範囲の維持量で投与される。
【0143】
〔III.薬物スクリーニングへの応用〕
いくつかの実施形態において、本発明は、薬物スクリーニングアッセイ(例えば、抗癌剤を得るためのスクリーニング)を提供する。本発明のスクリーニング法は、本明細書に記載する癌特異的代謝物を利用する。上述のように、いくつかの実施形態において、試験化合物は、低分子、核酸、または、抗体である。いくつかの実施形態において、試験化合物は、癌特異的代謝物を直接的に標的にする。別の実施形態では、試験化合物は、癌特異的代謝物の代謝経路において発現する酵素を標的にする。
【0144】
好適な実施形態では、薬物スクリーニング法は、高スループット薬物スクリーニング法である。高スループットスクリーニングを実施する方法は、当該技術分野において周知であり、米国特許第6,468,736号、国際特許出願公開第06009903号、および、米国特許第5,972,639(これら各特許文献は、列挙することで、内容そのものが本明細書で援用されるものとする)に記載の方法を含めるが、これらに限定されるものではない。
【0145】
本発明のいくつかの実施形態の試験化合物は、当該技術分野において公知の、コンビナトリアルライブラリー法における多数の手法のいずれを用いても調製可能であって、このコンビナトリアルライブラリーとしては、例えば、生物学的ライブラリー、ペプトイドライブラリー(ペプチド機能を有するが新規な非ペプチド骨格を有し、酵素の劣化に対して耐性を有するが生理活性は維持する分子のライブラリー。例えば、Zuckennann et al., J. Med. Chem. 37: 2678−85 [1994] を参照)、空間的にアドレス可能な並列固相または溶液相ライブラリー(spatially addressable parallel solid phase or solution phase libraries)、逆重畳積分を必要とする合成ライブラリー法、“1ビーズ1化合物(one−bead one−compound)”ライブラリー法、および、アフィニティークロマトグラフィー選択を利用した合成ライブラリー法などがあげられる。上記生物学的ライブラリー法およびペプトイドライブラリー法が、ペプチドライブラリーと併用するには好ましく、残りの4つの手法が、ペプチドライブラリー、非ペプチドオリゴマーライブラリー、または、化合物の低分子ライブラリーに対して適用可能である(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145 )。
【0146】
分子ライブラリーの合成方法の例は、当該技術分野、例えば、DeWitt et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90: 6909 [1993]; Erb et al., Proc. Nad. Acad. Sci. USA 91: 11422 [1994]; Zuckermann et al., J. Med. Chem. 37:2678 [1994]; Cho et al., Science 261: 1303 [1993]; Carrell et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33.2059 [1994]; Carell et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061 [1994]; Gallop et al., J. Med. Chem. 37: 1233 [1994] に見い出すことができる。
【0147】
化合物のライブラリーは、溶液中(例えば、Houghten, Biotechniques 13: 412-421 [1992] )、ビーズ上(Lam, Nature 354: 82-84 [1991] )、チップ上(Fodor, Nature 364: 555-556 [1993] )、細菌上(米国特許第5,223,409号;言及することによって、明細書で援用されるものとする)、または胞子上(米国特許第5,223,409号)、プラスミド上(Cull et al., Proc. Nad. Acad. Sci. USA 89: 1865-1869 [1992] )、または、ファージ上(Scott and Smith, Science 249: 386-390 [1990]; Devlin Science 249: 404-406 [1990]; Cwirla et al., Proc. NatI.Acid. Sci. 87: 6378-6382 [1990]; Felici, J. Mol. Biol. 222: 301 [1991] )に提示され得る。
【0148】
いくつかの実施形態において、癌治療薬を特定するためのモデル系を発生させるために、本明細書に記載のマーカーが使用される。例えば、癌に特異的なバイオマーカーとなる代謝物(例えば、細胞増殖を活性化するサルコシン)を細胞株に添加して、細胞株の悪性の度合いを増加させることも可能である。こうすることによって、細胞株は、応答のダイナミックレンジ(例えば、“読み取り値”)が改善されることになり、スクリーニングによって抗癌剤を得る際に有用である。インビトロの例について記載したが、モデルアッセイ系は、インビトロ、インビボ、または、エキソビボのいずれであってもかまわない。
【0149】
〔VII.遺伝子導入動物〕
本発明では、外来性遺伝子を備えた(この結果、例えば、癌特異的代謝物のレベルが変化する)遺伝子導入動物の発生について考察する。好適な実施形態では、野生型動物と比較すると、遺伝子導入動物は変化した表現型(例えば、代謝物の存在量が増加または減少する)を示す。このような表現型の存在または非存在を分析するための方法としては、本明細書において開示するものなどがあげられるが、これらの例に限定されるものではない。好適な実施形態では、上記遺伝子導入動物は、増加または減少した、腫瘍の成長または癌の証拠をさらに示す。
【0150】
本発明の遺伝子導入動物は、薬(例えば、癌治療)のスクリーニングにおいて用途が見い出される。いくつかの実施形態において、試験化合物(例えば、癌の治療に有用ではないかと思われる薬)およびコントロール化合物(例えば、プラセボ)が遺伝子導入動物およびコントロール動物に投与され、効果が評価される。
【0151】
上記遺伝子導入動物は、種々の方法によって発生させることができる。いくつかの実施形態では、様々な発生段階にある胚的細胞を使用して導入遺伝子を導入し、遺伝子導入動物を発生させる。上記胚的細胞の発達の段階に応じて、異なる方法が使用される。マイクロ注入の場合には、接合体が最良の標的である。マウスでは、雄性前核が、1〜2ピコリットル(pl)のDNA溶液の再現可能な注入が可能となる、直径約20μmのサイズに到達する。接合体を遺伝子導入の標的として使用することには、大抵の場合に、注入されたDNAが最初の卵割の前に宿主であるゲノムに取り込まれるという主な効果がある(Brinster et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:4438-4442 [1985] )。この結果、遺伝子導入された非ヒトの動物の全ての細胞が、取り込まれた導入遺伝子を保有することになる。このことは、生殖細胞の50%が導入遺伝子を保有することになるので、一般に、初代細胞の子孫への導入遺伝子の効率的な伝達にも反映される。米国特許第4,873,191号には、接合体をマイクロ注入するための方法が記載されている。この特許文献は、言及することで、内容そのものが本明細書で援用されるものとする。
【0152】
別の実施形態では、レトロウイルス感染を使用して、導入遺伝子が非ヒトの動物に導入される。いくつかの実施形態では、レトロウイルスベクターを使用して、レトロウイルスベクターを卵母細胞の囲卵腔内に注入することによって、卵母細胞に形質移入する(米国特許第6,080,912号を参照。なお、この特許文献は、言及することで、文献の内容そのものが本明細書で援用されるものとする)。別の実施形態では、発達中の非ヒトの胚は、胚盤胞期までインビトロで培養可能である。この期間には、卵割球を、レトロウイルス感染の標的とすることができる(Janenich Janenich, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 73:1260 [1976] )。卵割球は、酵素処理によって透明帯を削除することで、効率的に感染させることができる(Hogan et al., Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y. [1986] )。導入遺伝子の導入に使用されるウイルスベクター系は、通常、当該導入遺伝子を保持する複製欠損を有するレトロウイルスである(Jahner et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA 82:6927 [1985] )。形質移入は、卵割球を単層のウイルス産生細胞の上で培養することによって、容易かつ効率よく達成される(Stewar, et al., EMBO J., 6:383 [1987] )。あるいは、感染を後の段階で実施してもかまわない。ウイルス、または、ウイルス産生細胞は胞胚腔内に注入されてもよい(Jahner et al., Nature 298:623 [1982] )。組み込みは、遺伝子導入動物を形成する細胞のあるサブセットにおいてのみ発生するので、大部分の初代細胞は、導入遺伝子に関してはモザイク状になる。さらに、初代細胞は、一般に子孫においては分離することになるゲノム内の異なる位置において、レトロウイルスによる導入遺伝子の様々な挿入を含有してもよい。さらに、妊娠中期胚を子宮内でレトロウイルスに感染させることによって、効率は低いが、導入遺伝子を生殖系列に導入することも可能である(Jahner et al.、前掲[1982] )。レトロウイルスまたはレトロウイルスベクターを用いて遺伝子導入動物を発生させる、当該技術分野における公知の他の手段としては、レトロウイルスの粒子を、または、受精卵または初期胚の囲卵腔内でレトロウイルスを生成する、マイトマイシンCで処理した細胞を、マイクロ注入するものがある(国際特許出願公開第90/08832[1990]、および、Haskell and Bowen, Mol. Reprod. Dev., 40:386 [1995] )。
【0153】
別の実施形態において、上記導入遺伝子は胚性幹細胞に導入され、形質移入された幹細胞を利用して、胚を形成する。ES細胞は、着床前の胚を適切な条件下でインビトロで培養することによって得られる(Evans et al., Nature 292:154 [1981]、Bradley et al,. Nature 309:255 [1984]、Gossler etal., Proc. Acad. Sci. USA 83:9065 [1986]、及び、Robertson et al., Nature 322:443 [1986])。導入遺伝子は、リン酸カルシウム共沈殿法、プロトプラストまたはスフェロプラスト融合法、リポフェクション法、および、DEAEデキストラン媒介形質移入法を含めた当該技術分野において公知の種々の方法によるDNA形質移入によって、ES細胞に効率よく導入することができる。導入遺伝子は、レトロウイルス媒介伝達によって、または、マイクロ注入によってES細胞に導入してもよい。このように形質移入されたES細胞は、その後、胚盤胞段階の胚の胞胚腔に導入されると、胚にコロニーを形成し、結果として発生するキメラ動物の生殖系列に寄与する(Jaenisch, Science 240:1468 [1988]を参照)。形質移入済みES細胞の胞胚腔内への導入に先立って、この形質移入済みES細胞を様々な選択プロトコルに供して、導入遺伝子を組み込んだES細胞の質を高めてもよい(ただし、該導入遺伝子がこのような選択のための手段を提供することが前提である)。あるいは、ポリメラーゼ連鎖反応を利用して、導入遺伝子を組み込んだES細胞についてスクリーニングしてもかまわない。この手法によって、形質移入済みES細胞を、胞胚腔への導入に先立って適切な選択的条件下で成長させることが不要になる。
【0154】
さらに別の実施形態では、相同組換えを利用して遺伝子機能をノックアウトする、または、欠失変異体(例えば、トランケーション変異体)を生成する。相同組換えの方法は、米国特許第5,614,396号(言及することで、本明細書に援用されるものとする)に記載されている。
【0155】
〔実験〕
以下の実施例は、ある好適な実施形態および本発明の態様を実証し、これらの実施形態および態様についてさらに説明するために提供するものであって、本発明の技術的範囲を限定するものであると解釈するべきものではない。
【0156】
〔実施例1〕
〔尿中に見い出されるバイオマーカー〕
〔I.一般的な方法〕
〔A.前立腺癌の代謝プロファイルの特定〕
各試料を分析して、数百種類の代謝物の濃度を求めた。これらの代謝物の分析には、例えば、GC−MS(ガスクロマトグラフィー質量分析)やUHPLC−MS(超高速液体クロマトグラフィー質量分析)などの分析的手法を用いた。複数の部分標本を同時および並列的に分析し、適切な品質管理(QC)を施した後に、各分析から得られた情報を再度組み合わせた。各試料を数千種類の特性によって特徴付けし、最終的に数百の化学種を特定した。使用した手法は、新規な、化学的に命名されていない化合物を特定することができた。
【0157】
〔B.統計解析〕
T検定を用いてデータを分析し、定義可能な集団または亜集団において特異的なレベルで存在する分子(例えば、コントロール生物学的試料と比較して、前立腺癌の生物学的試料を示すバイオマーカー)であって、定義可能な複数の集団と集団(例えば、前立腺癌の集団とコントロール集団、または、低度前立腺癌と高度前立腺癌)とを区別するために有用な分子(公知の命名されている代謝物、または、命名されていない代謝物のいずれか)を特定した。上記定義可能な集団または亜集団における別の分子(公知の命名されている代謝物、または、命名されていない代謝物のいずれか)も特定した。ある分析においては、上記データを上記試料中のクレアチニンレベルによって正規化し、別の分析では、上記試料を正規化しなかった。両方の分析結果をここに提示する。
【0158】
〔C.バイオマーカーの特定〕
統計学的に有意であると特定されたピーク含めた、各分析(例えばGC−MS、UHPLC−MS、MS−MS)において特定した様々なピークを、質量分析に基づく化学的特定プロセスに供した。バイオマーカーは、以下のような手順で見出した。すなわち、(1)異なるヒト被験体グループから得た尿試料を分析して試料内の代謝物レベルを求め、(2)結果を統計学的に分析して、この2つのグループにおいて異なって存在する代謝物を求めることによって、バイオマーカーを見出した。
【0159】
〔癌と癌以外のものとを区別するバイオマーカー〕
上記分析に使用した尿試料は、前立腺癌の生検が陰性である51人のコントロール被験体、および、前立腺癌を有する59人の被験体から得た。代謝物レベルを求めた後、ウィルコクソン検定を用いて上記データを分析して、2つの集団(例えば、前立腺癌を有するグループとコントロールグループ)間の平均代謝物レベルの差を求めた。
【0160】
下記の表1に列挙するように、前立腺癌を有する被験体から得た血漿試料と、前立腺生検が陰性である(例えば、前立腺癌を有しているとは診断されなかった)コントロールグループから得た血漿試料との間で異なって存在するバイオマーカーを見出した。表1には、表中に示した各バイオマーカーについて、該バイオマーカーに関するデータの統計解析において求めたp値、化合物を化学データベースにおいて追跡するために有用な化合物ID、および、該化合物を特定するために使用した分析プラットフォームを含めて示す(GCとはGC/MSの意味であり、LCとはUHPLC/MS/MS2の意味である)。表中において0.000であるとしたP値は、p<0.0001において有意である。LCposおよびLCnegは、バッファを用いたUHPLCによる分離を意味し、それぞれ、陽イオンまたは陰イオンを検出するために最適化されたパラメータである。
【0161】
【表1】
【0162】
表1は、癌と癌以外のものとを区別するために有用なバイオマーカーを示す。
【0163】
個々の被験体の癌の状態(例えば、癌ではない、または、癌である)を、バイオマーカーであるサルコシンおよびN−アセチルチロシンを用いて決定した。これら2つのマーカーを組み合わせて用いた結果、83%の有病正診率および49%の無病正診率で癌が診断できた。PSAが陽性である集団における癌の有病率が30%であると仮定すると、これらのバイオマーカーによって、87%の陰性的中率(NPV)および41%の陽性的中率(PPV)が得られたことになる。
【0164】
〔悪性度が比較的低い癌を悪性度が比較的高い癌から区別するバイオマーカー〕
分析に使用した尿試料は、前立腺癌を有すると診断され、生検スコアがGSmajor3またはGSmajor4以上であった個々の被験体から得た。GSmajor3は通常悪性度が低い低度の癌を示し、GSmajor4は通常悪性度が高い高度の癌を示す。この分析では、GSmajor3を示した被験体(N=45)をGSmajor4を示した被験体(N=13)と比較した。代謝物のレベルを求めた後に、ウィルコクソン検定を用いて上記データを分析して、2つの集団(例えば、前立腺癌を有するグループとコントロールグループ)間の平均代謝物レベルの差を求めた。
【0165】
下記の表2に列挙するように、悪性度が低い/低度の前立腺癌を有する被験体から得た尿試料と、これより悪性度が高い/高度の前立腺癌を有する被験体から得た尿試料との間で異なって存在するバイオマーカーを見出した。表2には、表中に示した各バイオマーカーについて、該バイオマーカーに関するデータの統計解析において求めたp値、化合物を化学データベースにおいて追跡するために有用な化合物ID、および、該化合物を特定するために使用した分析プラットフォームを含めて示す(GCとはGC/MSの意味であり、LCとはUHPLC/MS/MS2の意味である)。表中において0.000であるとしたP値は、p<0.0001において有意である。LCposおよびLCnegは、バッファを用いたUHPLCによる分離を意味し、それぞれ、陽イオンまたは陰イオンを検出するために最適化されたパラメータである。
【0166】
【表2】
【0167】
表2は、悪性度が比較的低い前立腺癌を悪性度が比較的高い前立腺癌から区別するバイオマーカーを示す。
【0168】
〔実施例2〕
〔前立腺の癌組織、細胞株、および、尿沈渣中の複数の代謝物の検証〕
〔物質および方法〕
Sigma社(St. Louis、MO、USA)から、アミノ酸を入手した。対応する標識されたアミノ酸を、Isotec社(Miamisburg、OH、USA)から入手した。イソブタノール、コロロホルム(choloroform)、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、エチルアセテートをSigma社から入手した。その他の分析試薬級の化学物質は全て、Fluka社およびSigma社から入手した。N−メチル−N−(tert−ブチルメチルシリルトリフルオロアセトアミド(MtBSTFA)+1%のt−ブチル−ジメチルクロロシラン、および、ヘプタフルオロブチリル無水物を、Regis Technologies Inc,社(IL、USA)から購入した。
【0169】
〔臨床試料〕
良性前立腺および局在性前立腺癌組織をミシガン大学病院における前立腺全摘除術シリーズから入手し、転移性前立腺癌の生物学的標本をRapid Autopsy Programから入手した。前立腺全摘除術シリーズも、Rapid Autopsy Programも、ミシガン大学のProstate Cancer Specialized Program of Research Excellence (S.P.O.R.E) Tissue coreの一部である。試料はインフォームドコンセントおよびミシガン大学の機関事前審査委員会の承認のもとで収集した。さらに、対応する尿試料を、DREの後および生検の前に収集した。これには、生検が陽性/陰性の患者を共に含め、さらに、癌には無関係の前立腺の病状を有する患者を含めた。全ての試料を使用するまで−80℃で保存した。
【0170】
〔試料調製、および、GC−MSを用いた臨床標本中の複数の代謝物の検証〕
標識内部標準物質をスパイク(spiking)した後に、生物学的試料(組織、尿、および、細胞株)をメタノール中で均質化し、4℃で一晩続けて撹拌した。モル比が1:1の水とクロロホルムとを用いて、抽出を室温で30分間実施した。水性メタノール層を収集し、窒素雰囲気下で完全に乾燥させた。代謝物を含有するメタノール性乾燥抽出物を、MtBSTFAを用いた誘導体化後に、GC−MSによってさらに分析した。100μLのジメチルホルムアミド(DMF)を添加し、ボルテックスし、さらに、高速真空遠心分離機内で30分間乾燥させることによって、乾燥させたメタノール性アミノ酸残留物を2回共沸混合した。100μLのDMF、および、N−メチル−N−(tert−ブチルメチルシリルトリフルオロアセトアミド(MtBSTFA)+1%のt−ブチル−ジメチルクロロシランを、上記乾燥試料に添加して蓋をし、60℃で1時間インキュベートし、そして酢酸エチルで再度懸濁させて、GC−MSに注入した。
【0171】
選択イオンモニタリング法(Selective Ion Monitoring;SIM)を用いて定量化を行った。同位体で標識された内部標準物質のピーク領域に対する自然界の代謝物のピーク領域を測定することによって、試料中の代謝物の量を算出した。
【0172】
〔試料調製、および、ガスクロマトグラフィー質量分析による組織中のポリアミンの検証〕
標識内部標準物質をスパイクした後に、メタノールを用いて組織を溶解させ、4℃で一晩続けて撹拌した。モル比が1:1の水とクロロホルムとを用いて、抽出を室温で実施した。ポリアミンを含有する水性層を収集し乾燥させた。ポリアミンを含有する乾燥抽出物を、HFBAを用いた誘導体化の後に、GC−MSによってさらに分析した。乾燥残留物に、200μLのアセトニトリルおよび100μLのHFBAを添加した。バイアルに蓋をし、65℃で60分間加熱した。次に、この反応混合物を窒素流下で乾燥するまで蒸発させ、1mlのジエチルエーテルに再び溶解した。得られたエーテル溶液を、等しい体積の飽和炭酸ナトリウム溶液で1回洗浄した。遠心分離機にかけた後に水相を捨て、GC−MS分析のために1μLのエーテル相を取り出した。選択イオンモニタリング法を用いて定量化を行った。同位体で標識された内部標準物質のピーク領域に対する自然界のポリアミンのピーク領域を測定することによって、試料中のポリアミンの量を算出した。
【0173】
〔試料調製、および、ガスクロマトグラフィー質量分析による尿中のポリアミンの検証〕
尿中におけるポリアミンの同位体希釈GC/MS分析には、サルコシンについて報告されている改善済みの方法を利用した。生物学的試料からのポリアミンを、液液抽出法(MeOH:H2O:CHCl3は1:1:1の比)によって抽出した。ポリアミンを含有するメタノール層を純粋窒素流下で乾燥するまで蒸発させた。得られたメタノール性乾燥抽出物に、300μLのイソブタノール/3N HClを添加した。この反応混合物をパイレックス(登録商標)製試験管に導入し、テフロン(登録商標)製隔膜で覆ったねじ蓋で封止した。管を砂浴で110℃で30分間加熱した後に、穏やかな窒素流を用いて試料を冷却・乾燥させた。さらに、150μLのアセトニトリルを添加した後に、該試料を再び乾燥させて残留している湿気を取り除いた。アセトニトリル(200μL)および100μLのヘプタフルオロブチリル無水物(HFBA)を添加し、管を封止して125℃で20分間加熱して、ヘプタフルオロブチレの誘導体を生成した。誘導体化した試料をGC−MSによって分析した。同位体で標識された内部標準物質のピーク領域に対する自然界のポリアミンのピーク領域を測定することによって、選択イオンモニタリング分析でポリアミンを定量化した。尿濃度を正規化するための内部標準物質としては、メチオニンを使用した。
【0174】
〔試料調製、および、ガスクロマトグラフィー質量分析による組織中の脂肪酸の検証〕
標識内部脂肪酸標準物質をスパイク(spiking)した後に、生物学的試料をメタノール中で均質化し、4℃で一晩続けて撹拌した。モル比が1:1の水とクロロホルムとを用いて、抽出を室温で30分間実施した。有機脂質層を収集し、窒素雰囲気下で完全に乾燥させた。代謝物(脂肪酸)を含有するクロロホルム性乾燥抽出物を、MtBSTFAを用いた誘導体化後に、GC−MSによってさらに分析した。100μLのジメチルホルムアミド(DMF)を添加し、ボルテックスを行い、さらに、高速真空遠心分離機内で30分間乾燥させることによって、乾燥させた有機脂肪酸残留物を2回共沸混合した。100μLのDMF、および、N−メチル−N−(tert−ブチルメチルシリルトリフルオロアセトアミド(MtBSTFA)+1%のt−ブチル−ジメチルクロロシランを、上記乾燥試料に添加して蓋をし、60℃で1時間インキュベートし、そして酢酸エチルで再度懸濁させて、GC−MSに注入した。
【0175】
〔結果〕
〔前立腺に特異的な代謝物を利用するマルチプレックスチパネルの開発〕
本発明のいくつかの実施形態を発展させる過程において実施した実験において見られたサルコシンの高いレベルは、サルコシンが癌(例えば、前立腺癌)の予後マーカーとなることを示している。本発明のいくつかの実施形態において、組織に由来する前立腺癌に特異的が、この疾患の早期発見のためのマルチプレックスバイオマーカーパネルとして使用可能である。
【0176】
〔組織中の複数の代謝物の検証〕
前立腺に由来する組織標本において、局在性前立腺癌に関連する代謝物(例えば、グルタミン酸、グリシン、システイン、チミン、ピペコリン酸、ウラシル、および、セリン)を定量化した。安定同位体希釈(Stable Isotope Dilution;SID)選択イオンモニタリングGC−MS法を利用して、対象とする代謝物を定量化した。まず最初に、試料を改質してt−ブチルジメチルシリル誘導体を生成し、アジレント社の5975MSD型質量検出器を用いて電子衝撃(Electron Impact; EI)イオン化法で分析した。グルタミン酸、システイン、グリシン、および、チミンを、前立腺に由来する52の試料において定量化した。この試料は、13の良性隣接領域(benign adjacent)(良性癌)、26の局在性前立腺癌(PCA)、および、13の転移性試料(メチオニン)を含んでいた。選択イオンモニタリング法による分析を実施するための、定量化の対象とする様々な代謝物の場合について、自然界の分子のピークおよび同位体で標識された分子のピークのm/zは、406および407(システイン)、432および437(グルタミン酸)、218および219(グリシン)、297および301(チミン)、198および207(ピペコリン酸)(n=30)、283および285(ウラシル)(n=30)、ならびに、390および392(セリン)(n=30)であった。各代謝物のレベルを組織の重量にしたがって正規化した。グルタミン酸、グリシン、システイン、チミン、ピペコリン酸、および、ウラシルのレベルが、良性前立腺の組織と比較すると、局在性PCAでは全て上昇する(図1〜図6)。セリンのレベルには変化がなく、癌が進行する間は一定である(図7)。
【0177】
組織のデータを検証するために、前立腺癌の細胞株も使用した。浸潤性前立腺癌の細胞株(LnCaP、Du145、PC3、および、2RVV1)は、非浸潤性の前立腺細胞株(RWPE)に比べて、ピペコリン酸のレベル(図8)およびウラシルのレベル(図9)が高かった。
【0178】
〔尿中の複数の代謝物の検証〕
非浸潤性前立腺癌マーカーとしての複数の代謝物の可能性を調べるために、組織に特異的な代謝物を使用して、生検が陽性の尿沈渣および生検が陰性の尿沈渣について検証した。さらに別の代謝物(例えば、グルタミン酸、グリシン、システイン、および、メチオニン)を測定するために、GC/MSを用いた方法を開発した。次に、これらの代謝物のレベルを、生検が陽性の尿沈渣および生検が陰性の尿沈渣において分析した。レベルは、サルコシン/アラニン、グルタミン酸/アラニン、グリシン/アラニン、システイン/アラニン、および、メチオニン/アラニンの各比として報告した。尿中のサルコシン、グルタミン酸、グリシン、システイン、および、メチオニンのレベルを正規化するための内部標準としては、アラニンを使用した。生検が陽性の尿沈渣のサルコシン/アラニン比、グルタミン酸/アラニン比(ウィルコクソンのP値=0.0003)、グリシン/アラニン比(ウィルコクソンのP値=0.0279)、および、システイン/アラニン比(ウィルコクソンのP値=0.0133)は、対応する生検が陰性の尿沈渣に比べて高いレベルを示した(図10〜図13)。メチオニンのレベルには変化がなく、癌が進行する間には一定であった(図14)。ボックスプロットは、生検が陽性の尿沈渣においては、生検が陰性のコントロール群より、グルタミン酸、グリシン、および、システインのレベルが高いことを示した(図15)。
【0179】
〔ポリアミン:悪性の前立腺癌に関する組織のバイオマーカー〕
組織、細胞株、および、尿中のポリアミン(プトレッシン、スペルミジン、および、スペルミン)を同時に決定する単純かつ感度の高い方法を開発した。GC−MSを選択イオンモニタリングモードで用いて、ポリアミンを対応するN−ヘプタフルオロブチル誘導体に転化することによって、ポリアミンを定量化した。この試料を改質して対応するヘプタフルオロブチル誘導体を生成し、アジレント社の5975MSD型質量検出器を用いて電子衝撃イオン化法で分析した。まず初めに、前立腺に由来する30の試料においてポリアミンを定量化した。この試料は、10の良性隣接領域(良性癌)、10の局在性前立腺癌(PCA)、および、10の転移性試料(メチオニン)を含んでいた。
【0180】
選択イオンモニタリング法による分析を実施するために、対象とする様々な代謝物の場合について、自然界のフラグメントイオンのピークおよび標識されたフラグメントイオンのピークのm/zを使用して定量化を実施した。選択した値は、プトレッシンの場合には267および269、スペルミジンの場合には323および331、および、スペルミンの場合には576および584であった。自然界のイオンのピーク領域および標識されたイオンのピーク領域を測定することによって、該レベルを正規化した。プトレッシン、スペルミジン、および、スペルミンのレベルを組織の重量にしたがって正規化した。良性前立腺の組織は、スペルミン(PCA vs. 良性 P=0.0018、PCA vs. Met P=0.0059、Met vs. 良性 P=5.3×10−4)、プトレッシン(PCA vs. 良性 P=0.0018、PCA vs. Met 3.9×10−6P=0.0059、Met vs. 良性 P=0.3×10−4)、および、スペルミジン(PCA vs. 良性 P=0.0731、PCA vs. Met P=1.3×10−5、Met vs. 良性 P=8.5×10−5)のレベルが、局在性前立腺の癌組織および転移性前立腺の癌組織より高かった(図16〜18)。ボックスプロットは、癌が進行する間にポリアミンのレベルが減少したことを示した(図19)。グループ同士を比較するために、両側ウェルチ二標本t検定(two−sided Welch two sample t−test)を用いて上記P値を算出した。前立腺癌の組織中のポリアミンのレベルは癌が進行する間に減少したが、これは、癌の悪性度の上昇に伴ってポリアミン代謝物が増加した他の多数の癌組織(例えば、乳房)とは対照的である。ヒトの前立腺の良性組織中のポリアミンレベルと悪性組織中のポリアミンレベルとを比較すると、良性かつ過形成性の前立腺組織の方が、腫瘍組織、特に転移をともなう前立腺癌に比べて、スペルミンのレベルが高いことが示される。よって、前立腺のスペルミン含有量が劇的に減少すれば、それは、良性の状態から悪性の状態へ前立腺の組織が表現型転化を起こしたことを示している。従って、本発明のいくつかの実施形態を発展させる過程において実施した実験は、ポリアミンが、前立腺癌の悪性の挙動に対するバイオマーカーとして使用可能であることを示している。本発明のいくつかの実施形態では、GC−MSに基づくポリアミンの検証によって、前立腺の癌組織におけるポリアミンの強力かつ非浸潤性のインビボ検出法が可能になる。
【0181】
細胞株のデータは、組織試料を用いて実施した観察が正しいことを示している。浸潤性(例えば、転移性)前立腺癌の細胞株(LNCaP、VCaP、DU145、PC3、および、2RVV1)は、正常な前立腺細胞株(RWPE)に比べて低いポリアミンレベルを示した(図20)。したがって、悪性の前立腺癌においてポリアミンのレベルが減少することは、予後マーカーとしてのポリアミンの有用性を実証している。
【0182】
〔ポリアミン:尿中の前立腺癌の非浸潤性代謝物マーカー〕
前記のように、組織中の各ポリアミンのレベルを定量化するために、GC−MSに基づく方法を開発した。改善されたGC/MSを用いた検証アッセイも開発し、生検が陽性の尿沈渣および生検が陰性の尿沈渣中のポリアミンレベルを分析するために使用した。まず初めに、代謝物をイソブタノールで処理することによって代謝物を転化してイソブチルエステルを生成し、次に、これを改質してヘプタフルオロブチルエステルを生成した。内在性メチオニンもポリアミンもどちらも誘導体化し、定量化した。メチオニンは、ポリアミンを正規化ためにコントロールとして使用する。尿沈渣中の上記レベルを定量化するために、GC−MSに基づく対象とする代謝物アッセイを使用した。まず初めに、20種類の尿沈渣(生検が陽性のカテゴリーおよび生検が陰性のカテゴリーから、それぞれ10種類ずつ)を、定量化するために使用した。該レベルは、スペルミジン/メチオニンの比およびスペルミン/メチオニンの比として報告した。平均のスペルミン/メチオニンの比(ウィルコクソンのP値=0.003)および平均のスペルミジン/メチオニンの比(ウィルコクソンのP値=0.002)は、生検が陰性のコントロール(n=10)と比較すると、生検が陽性の前立腺癌患者(n=10)の尿中では大幅に高かった(図21〜22)。ボックスプロットは、生検が陽性の個々の被験体から得た尿沈渣においては、スペルミンおよびスペルミジンのレベルが、生検が陰性の個々の被験体から得た尿沈渣より高いことを示した(図23)。本発明は、いかなる特定のメカニズムに限定されるものではなく、また、本発明の実施に際してメカニズムの理解は不要であるが、これは、癌が進行する間にポリアミンが前立腺組織から尿中へ分泌されることに起因すると思慮される。これらの結果は、ポリアミンが、前立腺癌を検出するための非浸潤性マーカーとして使用可能であることを示している。
【0183】
〔組織中の脂肪酸の検証〕
前立腺に由来する組織標本中の脂肪酸(ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、アラキドン酸、および、ラウリン酸)も、選択イオンモニタリング(SIM)GC−MS法を用いて定量化した。まず最初に、遊離脂肪酸を改質して、対応するt−ブチルジメチルシリル誘導体を生成し、アジレント社の5975MSD型質量検出器を用いて電子衝撃(EI)イオン化法で分析した。前立腺に由来する30の試料中の脂肪酸を定量化した。なお、30の試料の内訳は、良性隣接領域(良性癌)が10、局在性前立腺癌(PCA)が10、および、転移性試料(メチオニン)が10である。選択イオンモニタリング法による分析を実施するための、定量化の対象とする様々な代謝物の場合について、自然界の分子のピークおよび同位体で標識された分子のピークのm/zは、285および288(ミリスチン酸)、313および322(パルミチン酸)、341および359(ステアリン酸)、339および341(オレイン酸)、369および372(アラキドン酸)、ならびに、257および260(ラウリン酸)であった。各代謝物のレベルを、組織の重量にしたがって正規化した。ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、および、オレイン酸のレベルが、癌が進行する間に(図24〜図29)。ボックスプロットは、癌が進行する間に各脂肪酸のレベルが上昇したことを示した(図30)。図34〜図47には、本発明の各実施形態において有用なマーカーおよびマーカーのパネルの別の検証および特性特定を示す。
【0184】
表3は、本発明の各実施形態の個々のマーカーおよびマーカーのパネルのAUCを示している。
【0185】
【表3】
【0186】
〔実施例3〕
〔乳癌組織および細胞株中の代謝物の検証〕
〔1.乳癌組織中のサルコシンの検証〕
癌が進行する間に大幅に増加する特異的な代謝物として、サルコシンを特定した。GC−MSを用いた研究によれば、癌が進行して良性から局在性へ、さらに転移性疾患へと変化する際に、多数の代謝物のレベルが上昇することが示される。細胞株を用いた分析が、この観察結果を支持している。乳癌の試料にも同じ戦略を適用した。19の組織試料(10の良性乳癌組織、8の局在性乳癌組織、および、1の転移性乳癌組織)を分析した。乳癌組織は、対応する良性組織より高いサルコシンレベルを示した(図31)。
【0187】
〔2.浸潤性乳房細胞株および非浸潤性乳房細胞株中のサルコシンの検証〕
一連の浸潤性乳房細胞株(MDA−MB−231、BT−549、T578、SVM−245)および非浸潤性乳房細胞株(HME)を、サルコシンの検証のために使用した。浸潤性細胞株は、対応する非浸潤性細胞株より高いサルコシンレベルを示した(図32)。
【0188】
〔3.乳房細胞株中のポリアミンの検証〕
1組の乳癌細胞株中のポリアミン(プトレッシン、スペルミジン、および、スペルミン)を検証するために、GC−MSを用いた方法を開発した。浸潤性細胞株(MCF7、MDA−MB−231、T470、SKBR3)は、対応する正常な細胞株(MCF 10A)と比較すると、プトレッシン、スペルミジン、および、スペルミンのレベルが高いことが示された(図33)。
【0189】
以上の明細書において言及した全ての出版物、特許文献、特許出願、および、受託番号は、言及によって、内容そのものが本明細書で援用されるものとする。本発明については特定の実施形態との関連において説明してきたが、請求項に記載の本発明が、このような特定の実施形態に不当に限定されるべきものでないことは理解されるであろう。実際に、記載した本発明の組成や方法の様々な改良および変形については、当業者にとって自ずから明らかであり、以下に記す請求項が規定する範囲から逸脱するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0190】
【図1】グルタミン酸のレベルが、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【図2】グリシンのレベルが、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【図3】システインのレベルが、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【図4】チミンのレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において高いことを示す図である。
【図5】ピペコリン酸のレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【図6】ウラシルのレベルが、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性前立腺の組織よりも高いことを示す図である。
【図7】セリンのレベルが、良性癌、局在性癌、および転移性前立腺癌の組織試料間で、変動しないことを示す図である。
【図8】ピペコリン酸のレベルが、浸潤性前立腺癌の細胞株(VCAP、Du145、および2RVV1)において、非浸潤性の前立腺細胞株(RWPE)よりも高いことを示す図である。
【図9】浸潤性前立腺癌の細胞株(LnCaP、Du145、PC3、2RVV1)が、非浸潤性の前立腺細胞株(RWPE)よりも、高いレベルのウラシルを有していることを示す図である。
【図10】前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料が、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料よりも高いレベルのサルコシンを示すことを示す図である。
【図11】前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料が、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料よりも高いレベルのグルタミン酸を示すことを示す図である。
【図12】前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料が、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料よりも高いレベルのグリシンを示すことを示す図である。
【図13】前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料が、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料よりも高いレベルのシステインを示すことを示す図である。
【図14】前立腺生検が陽性の患者からの尿沈渣試料と、前立腺生検が陰性の患者からの尿沈渣試料とは、同じレベルのメチオニンを示すことを示す図である。
【図15】前立腺生検が陽性の尿沈渣試料のグルタミン酸、グリシン、およびシステインのレベルが、前立腺生検が陰性のコントロールよりも高いことを示すボックスプロットである。
【図16】転移性前立腺の組織試料が、良性前立腺癌および局在性前立腺癌の試料よりも低いレベルのスペルミンを有していることを示す図である。
【図17】転移性前立腺の組織試料が、良性前立腺癌および局在性前立腺癌の試料よりも低いレベルのプトレッシンを有していることを示す図である。
【図18】転移性前立腺の組織試料が、良性前立腺癌および局在性前立腺癌の試料よりも低いレベルのスペルミジンを有していることを示す図である。
【図19】良性、局在性癌および転移性前立腺癌の組織試料における、スペルミン、プトレッシン、およびスペルミジンのレベルを示すボックスプロットである。
【図20】非浸潤性前立腺細胞株(RWPE)が、浸潤性前立腺癌の細胞株(VCAP、LnCaP、DU145、PC3、2RVV1)よりも高いレベルのスペルミン、プトレッシン、およびスペルミジンを示すことを示す図である。
【図21】生検が陽性の前立腺癌患者からの尿沈渣試料の、スペルミン/メチオニンの比が、生検が陰性のコントロールからの尿沈渣試料と比べて高いことを示す図である。
【図22】生検が陽性の前立腺癌患者からの尿沈渣試料の、スペルミジン/メチオニンの比が、生検が陰性のコントロールからの尿沈渣試料と比べて高いことを示す図である。
【図23】生検が陽性の前立腺癌患者および生検が陰性のコントロールからの尿沈渣試料における、スペルミン/メチオニンの比およびスペルミジン/メチオニンの比を示すボックスプロットである。
【図24】ミリスチン酸のレベルが、局在性前立腺癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【図25】パルミチン酸のレベルが、局在性前立腺癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【図26】アラキドン酸のレベルが、局在性前立腺癌および転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【図27】ステアリン酸のレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【図28】ラウリン酸のレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【図29】オレイン酸のレベルが、転移性前立腺癌の組織試料において、良性のコントロールよりも高いことを示す図である。
【図30】良性癌、局在性癌、および転移性前立腺癌の組織試料における、パルミチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、オレイン酸、およびラウリン酸のレベルを示すボックスプロットである。
【図31】サルコシンのレベルが、乳癌の組織試料において、良性組織試料よりも高いことを示す図である。
【図32】浸潤性乳癌細胞株(MDA−MB−231、BT−549、T578、SVM−245)が非浸潤性細胞株(HME)よりも、高いレベルのサルコシンを有していることを示す図である。
【図33】浸潤性乳癌細胞株(MCF7、MDA−MB−231、T470、SKBR3)が、非浸潤性細胞株(MCF10A)よりも、高いレベルのプトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンを有していることを示す図である。
【図34】70のDRE後の尿沈渣(35Bx−veおよび35Bx+ve)におけるGC−MS分析に基づいて、代謝物(サルコシン、グルタミン酸、グリシン、および、システイン)のレベルを示すボックスプロットである。
【図35】4つの代謝物(サルコシン、グルタミン酸、グリシン、およびシステイン)から成る70の尿沈渣のトレーニングセットに対してロジスティック回帰を用いて展開されたマルチプレックス・パネルのROC曲線を示す図である。
【図36】前立腺癌組織におけるGC−MS分析に基づいて、代謝物のレベルを示すボックスプロットである。
【図37】前立腺癌組織が、高いレベルのロイシンを示すことを示す図である。
【図38】前立腺癌組織が、高いレベルのアスパラギンを示すことを示す図である。
【図39】前立腺癌組織が、高いレベルのトリプトファンを示すことを示す図である。
【図40】前立腺癌組織が、高いレベルのキヌレニンを示すことを示す図である。
【図41】前立腺癌組織が、高いレベルの3−アミノ酪酸を示すことを示す図である。
【図42】生検陽性尿沈渣が、高いレベルのサルコシンを示すことを示す図である。
【図43】生検が陽性の尿沈渣が、高いレベルのウラシル(ウラシル/アラニンの比)を示すことを示す図である。
【図44】サルコシンの再現性(独立して調製)を示す図である。
【図45】サルコシンの再現性(複製)を示す図である。
【図46】DRE後の尿沈渣におけるサルコシンの安定性を示す図である。
【図47】2つの独立した調製における、グルタミン酸、グリシン、およびシステインの再現性を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺癌を診断する方法であって、
(a)被験体の尿試料における、サルコシン、グルタミン酸、グリシン、および、システインのレベルを検出するステップと、
(b)サルコシン、グルタミン酸、グリシン、および、システインの上記レベルが、癌でない被験体におけるレベルよりも高い場合、前立腺癌であると診断するステップとを含む方法。
【請求項2】
アセチルグルコサミン、キヌレニン、ウラシル、ホモシステイン、アスパラギン、グルタミン酸、スペルミジン、スペルミン、2−アミノアジピン酸、ロイシン、プロリン、スレオニン、マレイン酸塩、ヒスチジン、シトルリン、アデノシン、およびイノシンから成る群から選択される1つ以上の代謝物のレベルを検出するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
乳癌を診断する方法であって、
(a)被験体からの試料において、ピペコリン酸、セリン、ポリアミン、および脂肪酸から成る群から選択される1つ以上の癌特異的代謝物の存在または非存在を検出するステップと、
(b)上記1つ以上の癌特異的代謝物の存在または非存在に基づいて、乳癌を診断するステップとを含む方法。
【請求項4】
上記ポリアミンは、プトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンから成る群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記脂肪酸は、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、およびオレイン酸から成る群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
上記試料は、組織試料、血液試料、血清試料、および尿試料から成る群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
上記組織試料は生検試料である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記1つ以上の癌特異的代謝物は、癌性試料には存在するが、非癌性試料には存在しない、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
上記1つ以上の癌特異的代謝物は、癌性試料には存在しないが、非癌性試料には存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
2つ以上の上記癌特異的代謝物の存在または非存在を同時に検出するステップを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
前立腺癌を診断する方法であって、
(a)被験体からの尿試料において、ピペコリン酸、セリン、ポリアミン、および脂肪酸から成る群から選択される1つ以上の癌特異的代謝物の存在または非存在を検出するステップと、
(b)上記尿試料における上記癌特異的代謝物の存在または非存在に基づいて、前立腺癌を診断するステップとを含む方法。
【請求項12】
上記ポリアミンは、プトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンから成る群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記脂肪酸は、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、およびオレイン酸から成る群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
上記尿試料は尿沈渣試料である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
上記1つ以上の癌特異的代謝物は、癌性試料には存在するが、非癌性試料には存在しない、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
上記1つ以上の癌特異的代謝物は、癌性試料には存在しないが、非癌性試料には存在する、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
2つ以上の上記癌特異的代謝物の存在または非存在を同時に検出するステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項1】
前立腺癌を診断する方法であって、
(a)被験体の尿試料における、サルコシン、グルタミン酸、グリシン、および、システインのレベルを検出するステップと、
(b)サルコシン、グルタミン酸、グリシン、および、システインの上記レベルが、癌でない被験体におけるレベルよりも高い場合、前立腺癌であると診断するステップとを含む方法。
【請求項2】
アセチルグルコサミン、キヌレニン、ウラシル、ホモシステイン、アスパラギン、グルタミン酸、スペルミジン、スペルミン、2−アミノアジピン酸、ロイシン、プロリン、スレオニン、マレイン酸塩、ヒスチジン、シトルリン、アデノシン、およびイノシンから成る群から選択される1つ以上の代謝物のレベルを検出するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
乳癌を診断する方法であって、
(a)被験体からの試料において、ピペコリン酸、セリン、ポリアミン、および脂肪酸から成る群から選択される1つ以上の癌特異的代謝物の存在または非存在を検出するステップと、
(b)上記1つ以上の癌特異的代謝物の存在または非存在に基づいて、乳癌を診断するステップとを含む方法。
【請求項4】
上記ポリアミンは、プトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンから成る群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記脂肪酸は、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、およびオレイン酸から成る群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
上記試料は、組織試料、血液試料、血清試料、および尿試料から成る群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
上記組織試料は生検試料である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記1つ以上の癌特異的代謝物は、癌性試料には存在するが、非癌性試料には存在しない、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
上記1つ以上の癌特異的代謝物は、癌性試料には存在しないが、非癌性試料には存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
2つ以上の上記癌特異的代謝物の存在または非存在を同時に検出するステップを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
前立腺癌を診断する方法であって、
(a)被験体からの尿試料において、ピペコリン酸、セリン、ポリアミン、および脂肪酸から成る群から選択される1つ以上の癌特異的代謝物の存在または非存在を検出するステップと、
(b)上記尿試料における上記癌特異的代謝物の存在または非存在に基づいて、前立腺癌を診断するステップとを含む方法。
【請求項12】
上記ポリアミンは、プトレッシン、スペルミジン、およびスペルミンから成る群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記脂肪酸は、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、およびオレイン酸から成る群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
上記尿試料は尿沈渣試料である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
上記1つ以上の癌特異的代謝物は、癌性試料には存在するが、非癌性試料には存在しない、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
上記1つ以上の癌特異的代謝物は、癌性試料には存在しないが、非癌性試料には存在する、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
2つ以上の上記癌特異的代謝物の存在または非存在を同時に検出するステップを含む、請求項11に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
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【図11】
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【図15】
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【図18】
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【図20】
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【図24】
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【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【公表番号】特表2013−515270(P2013−515270A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546198(P2012−546198)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/061811
【国際公開番号】WO2011/087845
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(506277410)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン (19)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/061811
【国際公開番号】WO2011/087845
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(506277410)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン (19)
【Fターム(参考)】
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