説明

前立腺癌の化学防御方法

【課題】
本発明は前立腺癌の化学防御、特には、被験体に有効用量の化学防御剤、トレミフェン及びそれらの類似体もしくは代謝物を投与して前立腺癌発症の再発を防止し、抑制し、又は阻止する方法を提供する。
【解決手段】
本発明は潜伏前立腺癌を抑制又は阻止するための安全かつ有効な方法を提供し、これは前立腺癌を発症する危険性が高い被験者、例えば、良性前立腺肥大、前立腺上皮内新形成(PIN)、又は異常に高い濃度の循環性前立腺特異的抗体(PSA)を有する者、又は前立腺癌の家族歴を有する者の治療に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は前立腺癌の化学防御に関し、特には、前立腺癌発症の再発予防、抑制又は阻止に有効な用量の薬剤を被験者に投与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は合衆国において男性の間で最も頻繁に発生する癌のうちの1つであり、毎年10万件の新たな症例が診断されている。不幸なことに、新たに診断される前立腺癌の症例の60パーセント超は病理学的に進行していることが見出され、治癒することなく陰鬱な予後が伴う。この問題に対するアプローチの1つは、スクリーニング・プログラムによって前立腺癌を早期に見出し、それにより進行した前立腺癌の患者の数を減少させることである。しかしながら、別の策略は、前立腺癌を予防する薬物を開発することである。50歳を超える全ての男性の1/3は潜伏形態の前立腺癌を有しており、これは活性化して生命を脅かす臨床的な前立腺癌形態になり得る。潜伏前立腺腫瘍の頻度は、50歳(5.3−14%)から90歳(40−80%)までの生涯の10年毎に実質的に増加することが示されている。潜伏前立腺癌を患う人々の数は全ての文化、民族グループ、及び人種を通して同じであるが、臨床的に活発な癌の頻度は著しく異なる。これは、環境因子が潜伏前立腺癌の活性化において特定の役割を果たす可能性があることを示唆する。したがって、前立腺癌に対する化学防御策の開発は、医学的及び経済的の両面で、前立腺癌に対して最も大きい全体的な衝撃を与える可能性がある。
【0003】
前立腺癌の発生率及び死亡率が高いため、この破滅的な疾患に対する化学防御策を開発することは避けることができない。前立腺癌の開始、促進、及び進行を含む前立腺癌発症に寄与する因子を理解することで、発癌プロセスを防止又は停止させる適切な介入点に関する分子機構的な手がかりがもたらされる。新たな革新的なアプローチが、基本科学及び臨床レベルの両者で、前立腺癌の発生率を低下させることはもちろん、潜伏前立腺癌を停止させ、又はそれを退行させるために緊急に必要とされる。男性を他の競合する死因と突き合わせた場合、同じ年齢で前立腺癌の頻度は劇的に増加するため、単に前立腺癌の進行を遅くすることがより適切で費用有効な健康方策であり得る。
【0004】
前立腺癌の化学防御に対して様々なアプローチがとられている。Greenwald, "Expanding Horizons in Breast and Prostate Cancer Prevention and Early Detection" in J. Cancer Education, 1993, Vol. 8, No. 2, pages 91-107 では、フィナステリド(finasteride)のような5α−レダクターゼ阻害剤を前立腺癌の予防について試験することが論じられている。Brawley et al., "Chemoprevention of Prostate Cancer" in Urology, 1994, Vol. 43, No. 5 でも、5α−レダクターゼ阻害剤に加えてジフルオロメチルオルニチン及びレチノイドが潜在的な化学防御剤として言及されている。
【0005】
Kelloff et al., "Introductory Remarks: Development of Chemopreventive Agents for Prostate Cancer" in Journal of Cellular Biochemistry, 1992, Supplement 16H:1-8 には、国立癌研究所(National Cancer Institute)の7種類の薬剤:全トランス−N−(4−ヒドロキシフェニル)レチナミド、ジフルオロメチルオルニチン、デヒドロエピアンドロステロン、リアロゾール(liarozole)、ロベスタチン(lovestatin)、オルチプラズ(oltipraz)及びフィナステリドの前臨床研究が記述されている。
【0006】
Lucia et al., "Chemopreventive Activity of Tamoxifen, N-(4-Hydroxyphenyl) retinamide, and the Vitamin D Analogue Ro24-553 1 for Androgen-promoted Carcinomas of the Rat Seminal Vesicle and Prostate" in Cancer Research, 1995, Vol. 55, pages 5621-5627 には、Lobound-Wistar ラットにおける、エストロゲン応答修飾因子であるタモキシフェンによる前立腺癌の化学防御が報告されている。
【0007】
Potter et al., "A mechanistic hypothesis for DNA adduct formation by tamoxifen following hepatic oxidative metabolism" in Carcinogenesis, 1994, Vol. 15, No. 3, pages 439-442 において論じられるように、タモキシフェンはラットにおいて肝臓の発癌性を引き起こし、これは共有結合性DNA付加物の形成によるものである。この参考文献は、タモキシフェンよりも肝臓DNA付加物を形成するレベルが非常に低いタモキシフェン類似体トレミフェンが非発癌性であることも報告している。
【0008】
トレミフェンは、Toivola らの米国特許第 4,696,949 号及び第 5,491,173 号に記載されるトリフェニルアルケン化合物の例であり、その開示は参照することによりここに組み込まれる。トレミフェンを含む配合物の哺乳動物被験体への非経口及び局所投与が Jalonen らの米国特許第 5,571,534 号及び DeGregorio らの米国特許第 5,605,700 号に記載されており、それらの開示は参照することによりここに組み込まれる。
【0009】
細胞毒性薬物に対する癌細胞の多剤耐性を逆転させるためのトレミフェン含有製剤が Harris らの米国特許第 4,990,538 号に記載されており、その開示は参照することによりここに組み込まれる。Grainger らの米国特許第 5,595,722 号及び第 5,599,844 号(これらの開示は参照することによりここに組み込まれる)には、TGFP濃度を増加させる薬剤の同定方法並びにTGFP活性化剤及びTGFP産生刺激剤を含む製剤を経口投与して平滑筋細胞の異常増殖を特徴とする状態、例えば、血管外傷を予防又は治療するための方法が記載されている。TGFP濃度を高めるための開示される薬剤にはタモキシフェン及びその類似体トレミフェンが含まれる。
【0010】
Audia らの米国特許第 5,629,007 号及び第 5,635,197 号(これらの開示は参照することによりここに組み込まれる)には、オクタヒドロベンゾ[f]キノリン−3−オン化合物を患者に投与することによって前立腺癌の発症を、そのような癌を発症する危険があるところで、例えば、良性の前立腺肥大の患者において予防する方法が記載されている。
【0011】
Labrie の米国特許第 5,595,985 号(その開示は参照することによりここに組み込まれる)にも、5α−レダクターゼ阻害剤及びアンドロゲン受容体に結合してそこへの接近を遮断する化合物の組み合わせを用いて良性前立腺肥大を治療するための方法が記載されている。アンドロゲン受容体を遮断する化合物の例はフルタミドである。
【0012】
Neri らの米国特許第 4,329,364 号及び第 4,474,813 号(これらの開示は参照することによりここに組み込まれる)には、前立腺癌の発症を遅延及び/又は予防するための、フルタミドを含む医薬調製品が記載されている。この調製品はカプセル、錠剤、座剤、又はエリキシルの形態であり得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これらの開発にも関わらず、前立腺癌の予防に有効な薬剤及び方法に対する必要性が継続している。本発明はこの要求を満たすことに向けられている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は前立腺癌の化学防御を提供し、特には、有効用量の化学防御剤、トレミフェン及びそれらの類似体又は代謝物を被験者に投与し、前立腺癌発症の再発を予防し、治療し、抑制し、又は阻止する方法を提供する。
【0015】
本発明は前立腺癌の発症を予防するための方法に向けられている。本発明は、哺乳動物被験体に下記式を有する化学防御剤:
【0016】
【化1】

【0017】
(ここで、R及びRは同じであっても異なっていてもよく、かつH又はOHであり、RはOCHCHNRであり、ここで、R及びRは同じであっても異なっていてもよく、かつH又は1ないし約4個の炭素原子を有するアルキル基である。)
並びにそれらの薬学的に許容し得る担体、希釈剤、塩、エステル、N−酸化物、及びそれらの混合物を含む医薬調製品を投与することを含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明は潜伏前立腺癌を抑制又は阻害するための安全かつ有効な方法を提供し、特には、前立腺癌を発症する危険性が高まった被験者、例えば、良性前立腺肥大、前立腺上皮内新形成(PIN)、もしくは異常に高い濃度の循環性前立腺特異的抗体(PSA)を有する者、又は前立腺癌の家族歴を有する者の治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、前立腺化学防御剤、トレミフェン、それらの類似体及び代謝物を用いる、前立腺癌の発症を予防するための方法;2)前立腺癌を抑制又は阻害するための方法;3)前立腺癌を発症する危険性を低下させるための方法;及び4)被験者の生存率を高めるための方法を提供する。
【0020】
ここで示されるように、トレミフェンは前立腺化学防御剤である。ここで実施される実験においては、前立腺を実際に切断し、組織学的に、及び全標本化分析(wholemount analysis)により評価した。また、ヌードマウスにおいて、LNCaP異種移植片を処置することにより前立腺癌の治療についてトレミフェンを試験した。示されるようにデータは極めて劇的であり、トレミフェンは成長を阻害するだけではなく、実際に腫瘍を退行させることが可能であった。
【0021】
本発明は前立腺癌の発症を予防するための方法に向けられている。本発明は、哺乳動物被験体に、以下の式:
【0022】
【化2】

【0023】
(ここで、R及びRは同じであっても異なっていてもよく、かつH又はOHであり、RはOCHCHNRであり、ここで、R及びRは同じであっても異なっていてもよく、かつH又は1ないし約4個の炭素原子を有するアルキル基である。)
を有する化学防御剤並びにそれらの薬学的に許容し得る担体、希釈剤、塩、エステル、又はN−酸化物、及びそれらの混合物を含有する医薬調製品を投与することを含む。
【0024】
本発明は、下記式:
【0025】
【化3】

【0026】
(ここで、R及びRは同じであっても異なっていてもよく、かつH又はOHであり、RはOCHCHNRであり、ここで、R及びRは同じであっても異なっていてもよく、かつH又は1ないし約4個の炭素原子を有するアルキル基である。)
を有する化学防御剤並びにそれらの薬学的に許容し得る担体、希釈剤、塩、エステル、又はN−酸化物、及びそれらの混合物を含む医薬組成物の、前立腺癌発症の再発予防、抑制もしくは阻止、又は前立腺癌を患う被験体の生存率の増加への使用に対する備えがある。
【0027】
本発明は潜伏前立腺癌を抑制又は阻害するための安全かつ有効な方法を提供し、特には、前立腺癌を発症する危険性が高まった被験者、例えば、良性前立腺肥大、前立腺上皮内新形成(PIN)、もしくは異常に高い濃度の循環性前立腺特異的抗体(PSA)を有する者、又は前立腺癌の家族歴を有する者の治療に有用である。
【0028】
及びRが各々Hであり、かつR及びRが各々メチルである式(I)の化合物4−クロロ−1,2−ジフェニル−1−[4−[2−(N,N−ジメチルアミノ)エトキシ]フェニル]−1−ブテンはトレミフェンと命名される。トレミフェンは抗腫瘍化合物として安全かつ有効であることが示されており、用いられる投与量に応じてエストロゲン性作用因子又は抗エストロゲン性作用因子としてのホルモン効果を示す。投与により、トレミフェンはいくつかの代謝物を生じ、それらもまた生物学的に活性である。
【0029】
また、本発明はトレミフェン、それらの類似体又は代謝物の使用に対する備えもあり、これらは当業者には公知である。式(I)の化学防御剤の他の例は以下のものである:4−クロロ−1,2−ジフェニル−1−[4−[2−(N−メチルアミノ)エトキシ]フェニル]−1−ブテン;4−クロロ−1,2−ジフェニル−1−[4−[2−(N,N−ジエチルアミノ)エトキシ]フェニル]−1−ブテン;4−クロロ−1,2−ジフェニル−1−[4−(アミノエトキシ)フェニル]−1−ブテン;4−クロロ−1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−[4−[2−(N,N−ジメチルアミノ)エトキシ]フェニル]−2−フェニル−1−ブテン;4−クロロ−1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−[4−[2−(N−メチルアミノ)エトキシ]フェニル]−2−フェニル−1−ブテン;及び4−クロロ−1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−[4−[2−(N,N−ジメチルアミノ)エトキシ]フェニル]−1−ブテン。
【0030】
本発明は、これらの化合物の純粋な(Z)−及び(E)−異性体並びにそれらの混合物に加えて、純粋な(RR,SS)−及び(RS,SR)−鏡像異性体対並びにそれらの混合物を包含する。
【0031】
式(I)の作用因子化合物は、前に引用した Toivola らの米国特許第 4,696,949 号及び第 5,491,173 号に記載される手順に従って調製することができる。
【0032】
本発明は、アミノ置換化合物と有機及び無機酸、例えば、クエン酸及び塩酸との薬学的に許容し得る塩を含む。また、本発明は、式(I)の化合物のアミノ置換基のN−酸化物も含む。薬学的に許容し得る塩は、これらのフェノール性化合物から、無機塩基、例えば、水酸化ナトリウムで処理することによって調製することもできる。また、脂肪族及び芳香族カルボン酸とのこれらのフェノール性化合物のエステル、例えば、酢酸及び安息香酸エステルを作製することもできる。
【0033】
ここで用いられる場合、“医薬組成物”は、適切な希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、アジュバント及び/又は担体と一緒になった治療上有効な量の薬剤を意味する。“治療上有効な量”は、ここで用いられる場合、所定の状態及び投与計画に治療上の効果をもたらす量を指す。このような組成物は液状の、又は凍結乾燥もしくは他の方法で乾燥された配合物であり、様々なバッファ内容(例えば、トリス−HCl、酢酸塩、リン酸塩)の希釈剤、pH及びイオン強度、表面への吸収を防止するためのアルブミン又はゼラチンのような添加物、洗浄剤(例えば、Tween 20、Tween 80、Pluronic F68、胆汁酸塩)、可溶化剤(例えば、グリセロール、ポリエチレングリコール)、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、保存剤(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール、パラベン)、バルク化物質もしくは張性改質剤(例えば、ラクトース、マンニトール)、ポリマーの共有結合、例えば、タンパク質に対するポリエチレングリコール、金属イオンとの錯体形成、又はポリアクト酸(polyactic acid)、ポリグリコール酸、ヒドロゲル等のポリマー化合物の粒状調製品の内部もしくは表面上への、あるいはリポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル、単層もしくは多層小胞、赤血球ゴースト、又はスフェロプラスト表面上への物質の組み込みを含む。このような組成物は物理的状態、溶解性、安定性、イン・ビボ放出速度、及びイン・ビボ・クリアランス速度に影響を及ぼす。制御もしくは持続放出組成物には親油性デポー(例えば、脂肪酸、ワックス、油)の形態の配合物が含まれる。ポリマー(例えば、ポロキサマー又はポロキサミン)でコートした特定の組成物も本発明が意図するものである。本発明の組成物の他の態様では、非経口、肺、鼻及び経口を含む様々な投与経路のための特定の形態の保護コーティング、プロテアーゼ阻害剤又は浸透賦活剤が組み込まれる。一態様においては、この医薬組成物は非経口、癌近傍(paracancerally)、経粘膜、経皮、筋肉内、静脈内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内、頭蓋内及び腫瘍内投与される。
【0034】
さらに、ここで用いられる場合、“薬学的に許容し得る担体”は当業者に公知であり、0.01−0.1M、好ましくは0.05Mリン酸バッファ又は0.8%生理食塩水が含まれるがこれらに限定されるものではない。加えて、このような薬学的に許容し得る担体は、水溶液もしくは非水溶液、懸濁液、及びエマルジョンであり得る。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、及びオレイン酸エチルのような注射用有機エステルである。水性担体には、生理食塩水及び緩衝媒体を含めて、水、アルコール/水溶液、エマルジョン又は懸濁液が含まれる。非経口用ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲル・デキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸化リンゲル又は不揮発性油が含まれる。静脈内用ビヒクルには、流動及び栄養補充液、電解質補充液、例えば、リンゲル・デキストロースをベースとするもの等が含まれる。保存剤及び他の添加物、例えば、抗菌剤、酸化防止剤、照合剤(collating agent)、不活性ガス等が存在していてもよい。
【0035】
“アジュバント”という用語は、抗原に対する免疫応答を高める化合物又は混合物を指す。アジュバントは、抗原を徐々に放出する組織デポーとしての役割を果たすことができ、かつ免疫応答を非特異的に高めるリンパ様系活性化因子としての役割も果たすことができる(Hood et al., Immunology, Second Ed., 1984, Benjamin/Cummings: Menlo Park, California, p. 384)。アジュバントの非存在下における抗原単独での一次抗原投与では、しばしば、体液性又は細胞性免疫応答の誘発に失敗することがある。アジュバントには、完全フロイント・アジュバント、不完全フロイント・アジュバント、サポニン、水酸化アルミニウムのような無機質ゲル、リゾレシチンのような表面活性化物質、プルロニック(pluronic)ポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油もしくは炭化水素エマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、並びに潜在的に有用なヒトアジュバント、例えば、BCG(カルメット・ゲラン菌(bacille Calmette−Guerin))及びコリネバクテリウム・パルブム(Corynebacterium parvum)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
制御もしくは持続放出組成物には親油性デポー(例えば、脂肪酸、ワックス、油)の形態の配合物が含まれる。ポリマー(例えば、ポロキサマー又はポロキサミン)でコートされた特定の組成物、及び組織特異的受容体、リガンドもしくは抗原に対する抗体に結合した化合物又は組織特異的受容体のリガンドに結合した化合物も本発明が意図するものである。本発明の組成物の他の態様では、非経口、肺、鼻及び経口を含む様々な投与経路のための粒状形態保護コーティング、プロテアーゼ阻害剤又は浸透賦活剤が組み込まれる。水溶性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールの共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン又はポリプロリンの共有結合によって修飾された化合物は、対応する非修飾化合物よりも、静脈内注射後に血液中で実質的に長期の半減期を示すことが知られている(Abuchowski ら、1981;Newmark ら、1982;及び Katre ら、1987)。このような修飾は、水溶液中での化合物の安定性を高め、凝集を排除し、化合物の物理的及び化学的安定性を高め、かつ化合物の免疫原性及び反応性を大きく低下させ得る。結果として、そのようなポリマー−化合物付加物を非修飾化合物よりも少ない頻度又は少ない用量で投与することで、所望のイン・ビボでの生物学的活性を達成することができる。
【0037】
さらに別の態様においては、この医薬組成物を制御放出系で送達することができる。例えば、この薬剤を、静脈内輸液、移植可能な浸透圧ポンプ、経皮パッチ、リポソーム、又は他の投与用式を用いて投与することができる。一態様においては、ポンプを用いることができる(Langer、前出;Sefton, CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14:201 (1987);Buchwald et al., Surgery 88:507 (1980);Saudek et al., N. Engl. J. Med. 321:574 (1989) を参照)。別の態様においては、ポリマー材料を用いることできる。さらに別の態様においては、制御放出系を治療標的の近傍、すなわち、脳に配置することができ、したがって全身用量の一部が必要となるだけである(例えば、Goodson, in Medical Applications of Controlled Release, supra, vol. 2, pp. 115-138 (1984) を参照)。好ましくは、被験者の不適切な免疫活性化又は腫瘍部位の近傍に制御放出装置を導入する。他の制御放出系は Langer による総説(Science 249:1527-1533 (1990))において論じられている。
【0038】
前立腺癌発症を防止するための本発明の方法は、哺乳動物被験体に、化学防御剤又はそれらの代謝物もしくは塩を含む医薬調製品を投与することを含む。この医薬調製品は化学防御剤を単独で含むか、又は薬学的に許容し得る担体をさらに含むことができ、かつ固体もしくは液体形態、例えば、錠剤、粉末、カプセル、ペレット、溶液、懸濁液、エリキシル、エマルジョン、ゲル、クリーム、又は直腸及び尿道座剤を含む座剤であり得る。薬学的に許容し得る担体には、ゴム、デンプン、糖、セルロース材料、及びそれらの混合物が含まれる。化学防御剤を含む医薬調製品は、例えば、ペレットの皮下移植により被験者に投与することができ;さらなる態様においては、このペレットは特定の期間にわたる化学防御剤の制御放出に備えたものである。また、この調製品は、液体調製品の静脈内、動脈内、もしくは筋肉内注射、液体もしくは固体調製品の経口投与、又は局所塗布によって投与することもできる。また、直腸座剤又は尿道座剤の使用によって投与を達成することもできる。この医薬調製品は非経口製剤であってもよく;一態様においては、この製剤は、前に引用される Jalonen らの米国特許第 5,571,534 号に記述されるように、化学防御剤の複合体、例えば、トレミフェン及びシクロデキストリンを含むリポソームを含有する。
【0039】
本発明の医薬調製品は公知の溶解、混合、顆粒化、又は錠剤形成プロセスによって調製することができる。経口投与に対しては、化学防御剤又はそれらの生理学的に許容される誘導体、例えば、塩、エステル、N−酸化物等をこの目的に通例の添加物、例えば、ビヒクル、安定化剤、又は不活性希釈剤と混合し、慣用法によって投与に適する形態、例えば、錠剤、コート錠、硬もしくは軟ゼラチンカプセル、水性、アルコール性もしくは油性溶液に変換する。適切な不活性ビヒクルの例は、アラビアゴム、コーンスターチ、ゼラチンのような結合剤との、又はコーンスターチ、ポテトスターチ、アルギン酸のような崩壊剤との、又はステアリン酸もしくはステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤との組み合わせにある通常の錠剤基剤、例えば、ラクトース、ショ糖、又はコーンスターチである。適切な油性ビヒクルもしくは溶媒の例は、植物油もしくは骨油、例えば、ヒマワリ油もしくは魚肝油である。調製品は乾燥及び湿潤顆粒のいずれとしてもたらすこともできる。非経口投与(皮下、静脈内、動脈内、又は筋肉内注射)に対しては、化学防御剤又はそれらの生理学的に許容される誘導体、例えば、塩、エステル、N−酸化物等を溶液、懸濁液、又はエマルジョンに、所望であれば慣用されるこの目的に適する物質、例えば、可溶化剤又は他の助剤と共に変換する。例は、表面活性剤及び他の薬学的に許容し得る補助剤を添加し、又は添加していない、無菌の液体、例えば、水及び油である。実例となる油は石油、動物、植物、又は合成起源のもの、例えば、ラッカセイ油、ダイズ油、又は鉱物油である。一般には、水、生理食塩水、水性デキストロース及び関連糖溶液、並びにグリコール、例えば、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールが、特には注射溶液に、好ましい液体担体である。
【0040】
活性成分を含む医薬組成物の調製は当該技術分野において公知である。典型的には、そのような組成物は上咽頭に送達されるポリペプチドのエアロゾルとして、又は液状溶液もしくは懸濁液のいずれかの注射液として調製されるが、注射に先立って液状の溶液又は懸濁液とするのに適する固体形態を調製することもできる。また、調製品を乳化することもできる。活性治療成分は、しばしば、薬学的に許容され、かつその活性成分に適合する賦形剤と混合される。適切な賦形剤は、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール等及びそれらの組み合わせである。加えて、所望であれば、この組成物は少量の補助物質、例えば、活性成分の有効性を高める湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤を含むことができる。
【0041】
活性成分は中和された薬学的に許容し得る塩の形態で組成物に配合することができる。薬学的に許容し得る塩には、(ポリペプチド又は抗体分子の遊離アミノ基で形成される)酸付加塩及び無機酸、例えば、塩酸もしくはリン酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸のような有機酸で形成されるものが含まれる。遊離カルボキシル基から形成される塩も、無機塩基、例えば、水酸化ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、もしくは第二鉄、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインのような有機塩基から誘導することができる。
【0042】
例えばクリーム、ゲル、液滴等を用いる体表面への局所投与に対しては、化学防御剤又はそれらの生理学的に許容される誘導体、例えば、塩、エステル、N−酸化物等を、医薬担体を含むか、もしくは含まない生理学的に許容し得る希釈剤中の溶液、懸濁液、又はエマルジョンとして調製し、塗布する。
【0043】
別の態様においては、ビヒクル、特にはリポソームに含めて活性化合物を送達することができる(Langer, Science 249:1527-1533 (1990);Treat et al., in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer, Lopez-Berestein and Fidler (eds.), Liss, New York, pp.353-365 (1989);Lopez-Berestein, 同書, pp.317-327 を参照;一般には、同書を参照)。
【0044】
本発明の医薬組成物は、前立腺癌を発症する危険性が増大した被験者の治療に特に有用である。危険性の高い被験者には、例えば、良性前立腺肥大、前立腺上皮内新形成(PIN)、もしくは異常に高い濃度の循環性前立腺特異的抗体(PSA)を有する者、又は前立腺癌の家族歴を有する者が含まれる。
【0045】
さらに、前立腺化学防御剤は他のサイトカイン又は成長因子と組み合わせて投与することができ、これらには:IFNγもしくはα、IFN−β、インターロイキン(IL)1、IL−2、IL−4、IL−6、IL−7、IL−12、腫瘍壊死因子(TNF)α、TNF−β、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球/マクロファージCSF(GM−CSF);インテグリン・スーパーファミリーのメンバー及びIgスーパーファミリーのメンバー、例えば、これらに限定されるものではないが、LFA−1、LFA−3、CD22、並びにB7−1、B7−2、及びICAM−1 T細胞同時刺激分子を含むアクセサリー分子が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
化学防御剤は、数分ないし数週間の間隔で、DNA損傷性作用因子の治療に先行してもそれに続いてもよい。プロトコル及び方法は当業者に公知である。DNA損傷性作用因子又は要素は当業者に公知であり、細胞に適用したときにDNAの損傷を誘発するあらゆる化合物又は治療方法を意味する。このような作用因子及び要素にはDNAの損傷を誘発する放射線及び波長、例えば、ガンマ線照射、X線、UV照射、マイクロ波、電子放射等が含まれる。“化学療法剤”とも記載される様々な化合物がDNAの損傷を誘発するように機能し、それらの全てがここに開示される組み合わせ治療方法において使用されるものであることが意図される。使用されるものであることが意図される化学療法剤には、例えば、アドリアマイシン、5−フルオロウラシル(5FU)、エトポシド(VP−16)、カンプトセシン、アクチノマイシン−D、ミトマイシンC、シスプラチン(CDDP)及び過酸化水素さえもが含まれる。また、本発明は、放射線ベースであろうと実際の化合物であろうと、1種類以上のDNA損傷性作用因子の組み合わせの使用、例えば、X線及びシスプラチンの使用又はシスプラチン及びエトポシドの使用も包含する。
【0047】
別の態様においては、局在化腫瘍部位にDNA損傷性放射線、例えば、X線、UV光、ガンマ線又はマイクロ波さえも照射することができる。その代わりに、被験者に治療上有効な量の、アドリアマイシン、5−フルオロウラシル、エトポシド、カンプトセシン、アクチノマイシン−D、ミトマイシンC、又は、より好ましくは、シスプラチンのようなDNA損傷性化合物を含む医薬組成物を投与することにより、腫瘍細胞をDNA損傷性作用因子と接触させることができる。DNAに損傷を与える作用因子にはDNAの複製、有糸分裂及び染色体分離を妨げる化合物も含まれる。このような化学療法化合物には、アドリアマイシン、別名ドキソルビシン、エトポシド、ベラパミル、ポドフィロトキシン等が含まれる。
【0048】
DNAの損傷を引き起こし、かつ広範に用いられている他の要素には、ガンマ線、X線、及び/又は腫瘍細胞への放射性同位体の指向性送達として知られるものが含まれる。マイクロ波及びUV照射のようなDNA損傷性要素の他の形態も意図される。これらの要素の全てが、十中八九、DNAの前駆体、DNAの複製及び修復、並びに染色体の組み立て及び維持に対して広範な損傷DNAをもたらす。
【0049】
当業者が容易に理解できるように、本発明の方法及び医薬組成物は哺乳動物、好ましくはヒトの被験者への投与に特に適する。
明らかな新形成の開始とその増殖との間に生じる中間終末点生物マーカーが組織における測定可能な生物学的変化である。化学防御剤による1つ以上の中間終末点生物マーカーの調節が発癌の真の阻害を反映し得るものと仮定される。生物マーカーは、その推定化学防御剤によって最終終末点である癌の発生も低下した場合に有効とされる。癌における中間生物マーカーは以下の群に分類することができる:組織学的、増殖、分化及び生化学マーカー。あらゆる化学防御策において、組織学的に認識可能かつ許容される前癌性病変の利用可能性が重要な出発点を構成する。前立腺については、可能性のある組織学的マーカーは前立腺上皮内新形成(PIN)であり、これは前立腺癌の前癌性前駆体である。PINは、間質浸潤を伴わない、前立腺管内部での細胞異形成及び癌の前悪性病巣の異常増殖としてその場に現れる。PIN及び組織学的前立腺癌は形態学的及び表現型的に類似する。したがって、高度のPINの発達は、正常な前立腺がPIN、組織学的前立腺癌、浸潤性臨床的前立腺癌、及び転移に発達する進行経路における重要な工程を表すものであり得る。
【0050】
以下の例は本発明の好ましい態様をより十分に説明するために提示されるものである。しかしながら、これらは本発明の広範な範囲を限定するものと決して解釈されるべきではない。
実験的な詳細の部
【実施例1】
【0051】
実施例1:トランスジェニック腺癌マウス前立腺
前立腺癌化学防御の研究は適切な動物モデルの欠如によって妨げられている。最近のトランスジェニック腺癌マウス前立腺(transgenic adenocarcinoma mouse prostate; TRAMP)モデルの開発は化学防御の研究を可能にしている。Greenberg et al., "Prostate cancer in a transgenic mouse," Proc. Natl Acad. Sci. USA, 1995, Vol. 92, pages 3439-3443 に記載されるこのTRAMPモデルにおいては、PB−SV40ラージT抗原(PB−Tag)導入遺伝子がマウス前立腺の上皮細胞において特異的に発現している。その結果、このモデルには現存のモデルを上回る幾つかの利点がある:1)マウスは、10週という早期に前立腺上皮肥大の進行性形態を、及び18週齢近辺で浸潤性腺癌を発症する;2)前立腺癌パターンの転移性の広がりはヒトの前立腺癌を模倣し、リンパ節、肺、腎臓、副腎、及び骨が転移の共通部位である;3)前立腺癌の発症はもちろん、その進行を10−30週の比較的短期間で追跡することができる;4)腫瘍が100%の頻度で生じる;及び5)これらの動物を臨床的前立腺癌発症の前に前立腺癌導入遺伝子の存在についてスクリーニングし、前立腺癌発症を変更し得る化学防御剤を用いる治療を直接試験することができる。
【0052】
このTRAMPトランスジェニックマウスモデルは、前立腺癌の開始及び促進の機構を決定し、かつ潜在的な化学防御剤の有効性を試験するのに優れたイン・ビボモデルである。これらのマウスは、前立腺上皮肥大、PIN、次いで前立腺癌を短期間(<17週)内に漸次発症する。
【0053】
ハイブリッドTRAMPマウスの化学防御治療を、生後30日で、化学防御剤を約0.5−50mg/被験体体重kg/日、好ましくは約6−30mg/被験体体重kg/日の濃度で用いて開始する。化学防御剤を都合よくは21日及び90日ペレット(Innovative Research of America、Sarasota、FL が調製)とし、皮下移植片として送達する。対照動物にはプラセボ移植片を与える。各々の薬物処置群において、明確な腫瘍が発症するまで動物を5、7、10、15、20、25、30、40、及び50週齢で犠牲にする。血液を採集し、処置時点毎にプールして血清中テストステロン及びエストラジオールの変化を評価する。形態学的、組織学的、及び分子研究のために前立腺組織を集める。
【0054】
以下の試験手順を用いる:
1)前立腺全標本化分析を連続的に行い、処置の有無での全期間にわたる前立腺管の形態における変化を検出する;例を図2に示す。組織断片をH&E及びマッソン−トリコーム(Masson-trichome)標準染色により組織学的に評価する。PINの発生を評価し、等級付けする(I−軽度からIII−重度)。
【0055】
2)血清中エストラジオール及び全テストステロン濃度を各年齢間隔について測定し(RIA)、これらのホルモンにおける化学防御剤の結果としてのあらゆる変化を評価する。
【実施例2】
【0056】
実施例2:免疫組織化学データの分析
各々の組織断片の顕微鏡像を、Nikon Microphoto-FX 顕微鏡に装着した Kodak DCS 460 カメラを用いるコンピュータ支援(Mac 9500-I 32 コンピュータ及びモニタ)画像定量化(NIH-Image 1.6 PPC)を用いることにより評価し、染色した組織切片の色の差を区別する色支援定量化システム画像分析(IPLab Spectrum 3.1、Scanalytics, Inc.、VA)を用いることにより定量化する。これらの組織成分の各々に対応する面積ピクセル濃度を、フルスクリーンのカラーモニタの各々について算出する。前立腺の切片当たり合計で5つのスクリーンを平均する。免疫組織化学的画像をデジタル化して定量し、試料の相関係数及び確率を決定することによる統計的評価を可能にすることができる。
【実施例3】
【0057】
実施例3:化学防御活性の研究
TRAMPトランスジェニック動物(PBTag×FVBwt)(Dr. Norman Greenberg、Baylor College of Medicine、TX による提供)における化学防御剤の効力を試験する研究を行った。これらのマウスは10週という早期に癌の初期徴候を示した。TRAMPトランスジェニック雄同腹子をラージTag導入遺伝子についてスクリーニングし、陽性の雄をこの研究において用いた。可能性のある化学防御効果を試験しようとする抗エストロゲン、トレミフェンをあつらえのペレット(Innovative Research of America、Sarasota、FL)に組み込み、マウスの化学防御処置を生後30日(平均マウス体重14g)に開始した。10−12匹の動物の4つの群の各々に90日放出トレミフェン含有ペレットを皮下移植した。この拡散性薬物の投与量(体重の成長関連の変化について調整済)は、低用量(6mg/kg)又は高用量(30mg/kg)のトレミフェンを送達するように設計した。対照動物(n=10)にはプラセボ移植片を与えた。この処置の効力を明確な腫瘍の形成が存在しないことによって測定した。ネズミの前立腺腫瘍を回収し、分子及び組織学的技術によって評価した。
【0058】
前立腺癌遺伝子を遺伝する全ての動物が前立腺癌を発症する前立腺癌のTRAMPトランスジェニックモデルを用いて、トレミフェンが前立腺癌の潜伏期を長期化させ、かつ出現率を低下させることが示された。
【0059】
図1に示されるように、低用量及び高用量のトレミフェンの効果は共に有効であった。TRAMPマウスの腹側前立腺における腫瘍の形成は、プラセボ群(n=10)については17週に、高用量トレミフェン処置群(n=12)については19週に、かつ低用量トレミフェン処置群(n=12)については28週に認められた。したがって、トレミフェンによる5処置はTRAMPマウスの腹側前立腺における癌の発症について潜伏期を11週まで実質的に長期化させた。
【0060】
トレミフェン処置動物が研究期間中に50%腫瘍発達点に到達しなかったため、25%の動物が腫瘍を得た時点を群の間で比較した。腫瘍は、プラセボ群においては23週で10匹の動物のうちの25%で、高及び低トレミフェン群においては30−31週で明白であり、7−8週の遅れであった。低トレミフェン及び高トレミフェンの両者対プラセボは、下記表1に示されるように、ログ・ランク(log rank)及びウィルコクソン(Wilcoxon)統計解析で有意であった。
【0061】
【表1】

【0062】
全ての対照動物が腫瘍を発症した時点である33週で、低用量トレミフェン処置動物の72%及び高用量トレミフェン処置動物の60%に依然として腫瘍がなかった。したがって、低及び高投与量の両者でのトレミフェン処置はTRAMPマウスの腹側前立腺における腫瘍の発生率を大幅に減少させた。
【0063】
本発明に従って得られたこれらの結果は、開始因子及び促進因子の組み合わせでの処置によって前立腺癌を誘発した Lobund-Wistar ラットへの2投与量レベルのタモキシフェン(トレミフェンの非常に近い構造類似体)の投与が記載される前述の Lucia らの論文に報告されるものからは予測されていなかったものである。Lucia らの参考文献においては、低用量のタモキシフェンを投与された動物の僅か22−26%及び高用量を投与されたものの僅か32−50%のみが前側前立腺に腫瘍がないままであることが報告されている。齧歯類の前側前立腺には、その腹側前立腺とは異なり、ヒト被験者の前立腺に対応する区画がないことに注意すべきである。
【0064】
Lucia らにおいては、記載される手順において用いられる開始因子−促進因子の組み合わせが、試験動物の前側前立腺における癌の誘発には有効であるものの、腹側前立腺における腺癌の誘発には失敗したことがさらに述べられている。したがって、Lobund-Winstar ラット又はヒトにタモキシフェンを投与することによる腹側前立腺での腫瘍に対する化学防御効果を期待する根拠はない。
【0065】
既に論じられるように、トレミフェンを投与することでTRAMPマウスの腹側前立腺において腫瘍に対する実質的な化学防御効果が生じる。この結果は、前立腺に齧歯類の腹側前立腺に相当する区画が含まれるヒト患者に対する同様の有益な効果に希望を与えている。
【実施例4】
【0066】
実施例4:前立腺組織の組織学的検査
触診時に採取したプラセボ及び高トレミフェン処置群からの腫瘍を組織学的に評価した。図2Aは17週齢正常成体マウスの腹側前立腺のH&E切片である。プラセボ処置16週齢TRAMPマウスの腹側前立腺の断片である図2Bは、図2Aに示される正常な前立腺構造とは異なり、このTRAMPマウスの腹側前立腺が高有糸分裂指数を有する未分化細胞のシートを特徴とすることを示す。対照的に、図2Cに示されるように、トレミフェン処置30週齢TRAMPマウスの前立腺は多くの正常腺構造及びより分化した構造を有するha腫瘍を留め、有糸分裂指数はプラセボ処置動物よりも大幅に低い。これらの結果は、トレミフェンが、低投与量でさえ、TRAMPモデルにおいて前立腺癌の発症を抑制することが可能であることを示す。
【実施例5】
【0067】
実施例5:TRAMPマウスモデルにおける前立腺癌に対するトレミフェンの化学防御効力の使用
この実験ではトレミフェンの化学防御効力を確認して実証する。本研究は、対照動物における前立腺癌の発達に伴う組織学的変化及び分子変化、並びに飼育し、スクリーニングして徐放性薬物ペレットで処置したTRAMP動物に関するトレミフェン化学防御作用の機構に焦点を当てる。予め決定した時点で、5匹の動物の群を犠牲にし、それらの前立腺を分析用に取り出した。それらの前立腺を、組織学、全標本化分析、及びラージT抗原免疫組織化学によって腫瘍の存在について評価した。現在まで、プラセボ及びトレミフェン処置は7、10、15及び20週の時点まで完了しており、それらの結果を以下に記述する。
【0068】
結果:様々な群の7、10、15、及び20週の前立腺全標本化が完了している。全標本化分析により、プラセボ処置マウスが、前の試験的研究と同様に、15−20週齢で前立腺癌を発症したことが明らかとなった。さらに、トレミフェン処置動物は前立腺癌の発生に20週までの遅延があった(図3)。20週が経過して、トレミフェン処置群における腫瘍の発生に35週までの著しい遅延が存在する(図4)。これらのデータは、腫瘍形成能のより高感度の評価をもってしても、トレミフェンが化学防御活性を示したことを確証する。組織学的評価のため、組織試料を固定して処理し、パラフィン包埋した。切片(5pM厚)を切断し、定型的なH&E法によって染色した。トレミフェンは管の発達及び組織分化を阻害した(17週TRAMPマウスの前立腺腫瘍対野生型の比較(図4);b)15週でのトレミフェン処置前立腺の組織学対プラセボ(図5))。定量的に、プラセボ及びトレミフェン処置組織の免疫組織化学は腹側前立腺におけるT抗原の存在を示した。したがって、トレミフェンによって見られる化学防御活性はTRAMPモデルにおけるプロバシン(probasin)促進因子の抑制によるものとは考えられない。
【0069】
結論:TRAMPモデルにおいて前立腺癌の発生を防止するトレミフェンの能力が、腫瘍形成を評価するより高感度の技術を用いて確認されている。トレミフェンの化学防御効果の機構はラージT抗原タンパク質の導入遺伝子の損失によるものとは考えられない。
【実施例6】
【0070】
実施例6:トレミフェンはヌードマウスモデルにおける確立されたヒト前立腺癌の退行を誘発する
前立腺癌は、現時点で、米国人男性において最も一般的な診断された癌のままである。しかしながら、この疾患、特にはその進行形態の病因及び治療に関して疑問が残る。ホルモン難治性疾患の共通の発達にも関わらず、ホルモン治療が再発及び進行前立腺癌の標準的な治療方法のままである。したがって、前立腺癌を予防及び治療するための新たなアプローチが、この疾患を患うと診断された増大しつつある数の男性に対応するのに必要である。以下の実験及び結果は、トレミフェンが胸腺欠損ヌードマウスにおいてホルモン感受性LNCaP腫瘍の成長を抑制することを示す。
【0071】
材料及び方法:Matrigel 中に100万個のLNCaP細胞を胸腺欠損ヌードマウスの各々の脇腹に皮下注射した。合計で40匹のマウスに注射した。約3−4週間後、視認可能な腫瘍が発生した。腫瘍のサイズを2次元で記録した後、等しい腫瘍負荷を基準にしてマウスをプラセボ及び処置群に分割した。単一のペレット(プラセボ対トレミフェン35mg)を各々のマウスの肩甲骨の間に皮下移植した。腫瘍のサイズの毎週の測定を記録した。腫瘍容積を算出した(腫瘍容積=0.5(L+W)×L×W×0.5236、ここで、L=腫瘍の長さ及びW=幅)。ペレット移植時の腫瘍容積を腫瘍のサイズの変動を将来的に比較するための参照点として役立てた。各々の腫瘍容積の毎週の変動をペレット移植時の元の測定からの差分パーセントして記録した。
【0072】
結果:2匹のマウスが、他のマウスからの致命的な創傷のため、ペレット移植直後に死亡した。トレミフェンで治療したマウスの1匹は、過剰の腫瘍出血及び血腫発生のため研究から除外した。全てのマウスが片側又は両側に視認可能な腫瘍を発症した。研究の継続期間にわたって各々の腫瘍を独立に追跡した。24の腫瘍をプラセボで処置し、28の腫瘍をトレミフェンで処置した。それらの結果を表2並びに図6A及び6Bに示す。
【0073】
【表2】

【0074】
現在報告されている集団に対してはこれに続く間隔を延長し、かつ追加の動物に関するデータを現在集めている。
結論:トレミフェンは確立されたLNCaP腫瘍を阻害し、その退行を誘発する。トレミフェンがこの効果を発揮する機構は不明であるが、これらの効果を生じる能力は前立腺癌の治療としてのトレミフェンの使用を支持し、確立された前立腺癌の微小癌組織転移を伴う危険性の高い患者における前立腺癌の再発を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1:TRAMPモデルにおけるトレミフェンの化学防御効果を示すグラフ。
【図2】図2A−2C:正常マウスにおける腹側前立腺細胞及び本研究に含まれるTRAMPマウスにおける前立腺癌を示すH&E切片。
【図3】図3:TRAMPマウスにおける腹側前立腺の増殖に対するトレミフェンの効果。
【図4】図4:TRAMPマウスにおける腫瘍の発生に対するトレミフェンの効果。
【図5】図5:TRAMPモデルにおける腫瘍の増殖に対するトレミフェンの効果。
【図6】図6A−6B:プラセボ対トレミフェンの腫瘍の成長に対する効果の比較。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、R及びRは同じであっても異なっていてもよく、かつH又はOHであり;RはOCHCHNRであり、ここで、R及びRは同じであっても異なっていてもよく、かつH又は1ないし約4個の炭素原子を有するアルキル基である)で表される化合物の少なくとも1種、またはその薬学的に許容し得る塩、エステル、又はN−酸化物、またはそれらの混合物を有効成分として含む、哺乳動物の前立腺癌発症を予防するための医薬組成物。
【請求項2】
薬学的に許容し得る担体をさらに含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
担体がゴム、デンプン、糖、セルロース材料、及びそれらの混合物からなる群より選択される請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
哺乳類動物に皮下移植するための請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
特定の期間にわたる制御放出に対する備えがある請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
液体状態の医薬組成物であって、哺乳動物に、静脈内、動脈内、または筋肉内注射するための請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
液体または固体の医薬組成物であって、哺乳動物に経口投与するための請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
哺乳動物の皮膚表面に局所塗布するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
ペレット、錠剤、カプセル、溶液、懸濁液、エマルジョン、エリキシル、ゲル、クリーム、及び座剤からなる群より選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
座剤が、直腸座剤または尿道座剤である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
非経口製剤である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
非経口製剤が、有効成分及びシクロデキストリン化合物の複合体を含むリポソームを含有する請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
有効成分がトレミフェン、そのN−酸化物、薬学的に許容し得る塩、またはそれらの混合物を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項14】
有効成分を約0.5mg/被験体体重kg/日ないし約50mg/被験体体重kg/日の投与量で投与するための請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項15】
有効成分を約6mg/被験体体重kg/日ないし約30mg/被験体体重kg/日の投与量で投与するための請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前立腺癌の危険性が高い哺乳動物に投与するための請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項17】
良性前立腺肥大、前立腺上皮内新形成(PIN)、もしくは異常に高い濃度の循環性前立腺特異的抗体(PSA)を有する哺乳動物に投与するための請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
式(1):
【化2】

(式中、R及びRは同じであっても異なっていてもよく、かつH又はOHであり;RはOCHCHNRであり、ここで、R及びRは同じであっても異なっていてもよく、かつH又は1ないし約4個の炭素原子を有するアルキル基である)で表される化合物の少なくとも1種、またはその薬学的に許容し得る塩、エステル、又はN−酸化物、またはそれらの混合物を有効成分として含む、哺乳動物の前立腺癌発症の再発を予防し、抑制し、もしくは阻止し、または前立腺癌を有する哺乳動物の生存率を高めるための医薬組成物。
【請求項19】
式(1):
【化3】

(式中、R及びRは同じであっても異なっていてもよく、かつH又はOHであり;RはOCHCHNRであり、ここで、R及びRは同じであっても異なっていてもよく、かつH又は1ないし約4個の炭素原子を有するアルキル基である)で表される化合物の少なくとも1種、またはその薬学的に許容し得る塩、エステル、又はN−酸化物、またはそれらの混合物を有効成分として含む、哺乳動物の前立腺上皮内新形成(PIN)を治療するために用いる医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−163048(P2008−163048A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74318(P2008−74318)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【分割の表示】特願2000−546766(P2000−546766)の分割
【原出願日】平成11年5月7日(1999.5.7)
【出願人】(500296088)ユニバーシティ オブ テネシー リサーチ ファウンデーション (9)
【Fターム(参考)】