説明

前開き外衣

【課題】
前身頃の係止具を開閉することにより腰部の緊締強度を調節することのできる前開き外衣を提供する。
【解決手段】
表地の内側に、表地より伸長率の大きい補整用インナーを縫着した前開き外衣であって、該前開き外衣の係止具凸から係止具凹までの表地周長Aと、同じ位置の裏側の係止具凸から係止具凹までの裏側周長Bの比A:Bが1:0.90〜1:0.99であることを特徴とする前開き外衣。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用中に外衣の前を開閉することにより腰部の緊締強度を調整し、着用者が姿勢の崩れを防ぐよう意識付けできる前開き外衣に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長時間同じ姿勢を継続していると腰部に負担がかかり、前傾姿勢になることが多い。特にパソコンを使った長時間のデスクワークは腕を前方に押し出し、常に前側に重力の影響を受けて背中や腰部が丸くなり、徐々に姿勢が悪くなり、ひどくなると猫背と呼ばれる円背になることがあった。さらにオフィスではスーツやジャケットを着用することが多く、これらを着用した状態でのデスクワークは苦痛を伴うものであった。
【0003】
一方、従来の技術として、部分的に緊締部を設けた「増強されたボディポジションフィードバックを提供するアパレル製品」(特許文献1参照)、インナーの内側に背筋矯正布を設けた「上半身衣料」(特許文献2参照)、伸縮力の強い領域を後身頃に設けた「姿勢改善衣類」(特許文献3参照)等が提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1と特許文献3に記載された技術においては、本体生地よりも高い圧縮力を有する緊締部を衣料品本体に設けたものであるため、その衣服を着用している間はずっと圧迫された状態が継続するため窮屈なものであり、リラックスするために人前で脱ぐことはできず、長時間の着用は苦痛を伴うものであった。また、特許文献2に記載された技術においては、ウエアの内側に緊締部を設けたインナーを一体化させた衣料であるが、特許文献1、特許文献3に記載された技術と同様、緊張弛緩したいときにはウエア本体を着脱する必要があった。すなわち、従来のどの技術をつかった衣料品も、緊張したい時や、弛緩したい時にはウエア本体を着脱することで対応しなければならなく、着用者にとっては面倒なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−529311号公報
【特許文献2】実用新案登録第3143211号公報
【特許文献3】特開2010−42097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、かかる従来技術の欠点を改良し、日常生活において、前身頃の係止具を開閉することにより緊締強度を調節することのできる前開き外衣を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の前開き外衣は次の構成を有する。
【0008】
すなわち、表地の内側に、表地より伸長率の大きい補整用インナーを縫着した前開き外衣であって、該前開き外衣の係止具凸から係止具凹までの表地周長Aと、同じ位置の裏側の係止具凸から係止具凹までの裏側周長Bの比A:Bが1:0.90〜1:0.99であることを特徴とする前開き外衣、である。
【0009】
本発明の前開き外衣は、上記補整用インナーが、衣服の後衿ぐりから後身頃の一部を覆い、袖付け線より下を通り前身頃まで延在し、前身返し線に縫着されていることが好ましい。
【0010】
本発明の前開き外衣は、上記補整用インナーが、衣服の後衿ぐりから後身頃の一部を覆い、袖付け線より下を通り前身頃まで延在し、その左右端部に係止具が設置されていることが好ましい。
【0011】
本発明の前開き外衣は、上記補整用インナーが、袖付け線より下の位置で左右前身返し線に縫着されていることが好ましい。
【0012】
本発明の前開き外衣は、上記補整用インナーの下端はヒップラインより上方にあることが好ましい。
【0013】
本発明の前開き外衣は、上記補整用インナーは、2〜6枚の生地を接合してなることが好ましい。
【0014】
本発明の前開き外衣は、上記補整用インナーは伸長率の大きい緊締部と伸長率の小さい緊締部からなり、伸長率の小さい緊締部を腰部周辺に設置されていることが好ましい。
【0015】
本発明の前開き外衣は、上記補整用インナーの後中心線から左右に1〜5cm離れた位置に伸長率の小さい緊締部が設置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、日常生活において、表地の内側に表地より伸長率の大きい補整用インナーを設置した前開き外衣を着用することにより、前身頃の係止具を着脱するだけで、緊締強度を変えることができる。すなわち前開き外衣の前身頃の係止具を止めると腰回りが緊締されて背筋が伸び姿勢を正す意識付けができるし、弛緩したい時には前開き外衣の前身頃の係止具を外すだけでリラックスできる。どちらも外観形状に変化がないので、密かに緊張弛緩を行える効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の前開き外衣の一態様を示す裏側からみた図である。
【図2】本発明の補整用インナーの一態様を示す図である。
【図3】本発明の補整用インナーを前開き外衣に縫着した一態様を示す図である。
【図4】本発明の補整用インナーを前開き外衣に縫着した別の一態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
【0019】
いずれも袖と裏地の付いた前開き上衣であるが、説明の便宜上全ての図において袖の記載は省略した。図1は、従来の一般的な前開き外衣の一態様を示す裏側からみた図であり、図2は、本発明の補整用インナーの一態様を示す図である。図3は、図2の補整用インナーを外衣の前身返し線に縫着し、その上に裏地をかぶせて本発明の前開き外衣が完成した状態を示す。補整用インナーの裏地に隠れた部分は一点破線で示した。図4は、本発明の前開き外衣の別の一態様を示す裏側からみた図で、補整用インナーの係止具を係止していない状態を示す。
【0020】
具体的には、図1の一般的な前開き外衣の内側に、図2のような形状の補整用インナー8を設置し、図3および図4に示すような前開き外衣とする。
【0021】
本発明の補整用インナー8は表地よりも伸長率の大きい素材を用いる。なお、ここで伸長率はJIS L 1096(2010年版)「織物及び編物の生地試験方法」の伸び率A法(定速伸長法)に従って測定、また、伸長回復率は同じくJIS L 1096(2010年版)「織物及び編物の生地試験方法」のA法(繰り返し定速定伸長法)に従って測定した値をいう。なお、詳細な試験方法については後述する実施例の項に記載した。
【0022】
本発明で使用する表地のヨコ方向の伸長率は10%〜30%、補整用インナーの伸長率は40%〜120%の範囲とすることにより、補整用インナーの身体へのフィット性が向上し、腰部への緊張強度を上げることができる。
【0023】
表地に使用する組成としては、天然繊維、合成繊維、半合成繊維等特に限定しないが、ヨコ方向に伸度を付与するため弾性糸を付与してもかまわないし、合成繊維の中では伸度の大きなポリトリメチレンテレフタレートを使用しても良い。
【0024】
なお、表地、裏地ともに80%以上の伸長回復率のある生地を使うことにより、着用型崩れや肘抜けなどの形態変化をおこさないため好ましい。
【0025】
本発明の前開き外衣は、図3に示すように、外衣の係止具5凸から係止具5凹までの表地周長Aと、内側の同じ位置の係止具5凸から係止具5凹までの裏側周長Bの比A:Bを1:0.90〜1:0.99とすることが必要である。表地周長Aに対して裏側周長Bを小さくすることにより表地の係止具5凸と係止具5凹を係止すると、その内側に設置された補整用インナー8が締め付けられ、身体にフィットして正しい姿勢を保持することができる。特にデスクワークなど前傾姿勢をとっている場合は、脊柱起立筋が圧迫され、背中をまっすぐにしようという意識付けができる。逆に長時間の緊張から解放されたい時には、係止具をはずすだけでリラックスできる。
【0026】
一方、裏地周長Bを表地周長Aに対して0.90より小さくすると体が締め付けられすぎて窮屈で長時間着用することに苦痛を感じるだけでなく、内蔵部分を圧迫するおそれもある。逆に裏側周長Bが表地周長Aよりも大きい時は、背中に緊張状態を作れないだけでなく、外衣の内側で補整用インナーを含んだ裏側が余り、余り分が表地にひびき外観美観を損ねることとなる。係止具の種類に制約はないが、本発明で使用する係止具は、前開き外衣にふさわしく、着脱もしやすいことから紐類、ボタン、ドットボタンやファスナー、面ファスナー等を使用することが好ましい。
【0027】
補整用インナー8の形状は、図2および図3に示すように後衿ぐり7から後身頃1の一部を覆い、袖付け線11より下を通り前身頃2まで延在し、前身返し線10で縫着することが好ましい。この時、補整用インナーを表地の背縫い目や脇縫い目に縫着しないことで、補整用インナーの伸びを止めることなく、身体に緊張感を与えることができる。さらに、補整用インナーの上辺を袖付け線11より下を通る形状とすることにより、腕の動きを阻害せず必要な箇所のみ緊張させることができる。
【0028】
すなわち、後衿ぐり7から後身頃1の一部を覆い、袖付け線11より下を通り前身頃2まで延在し、前身返し線10に縫着することにより、上半身の緩んだ贅肉を押さえ込み補整して身体のラインをすっきり見せる、いわゆるスムージング効果も期待することができ、好ましい。特に女性の場合、ブラジャーや補整下着で締め付けることが多く、この時、締め付けた部分と締め付けていない部分に段差ができて脇や背中のラインに凹凸ができることを気にする人が多かった。身体のラインは女性のみならず男性においても気になる人が多く、本願の前開き外衣を着用するだけで身体のラインがきれいに見えることは非常に喜ばれることである。
【0029】
該補整用インナー8の両端を前身返し線10に縫着してもよいが、別の態様として、補整用インナー8の左右端部に別途係止具12凸と12凹を設置することも好ましい。このようにすることで、補整用インナー8を外衣から離して単独で開閉できるようになる。この時、表地周長Aと補整用インナーの周長Bの比A:Bが1:0.9〜1:0.99の範囲にあることで同様の効果を得ることができる。
【0030】
さらに、該補整用インナー8の下端がヒップラインより上方にあることで、効率よく腰部を緊締することができ、着座姿勢の時、違和感を覚えたり動きにくい状態になったりすることがないので好ましい。
【0031】
また、該補整用インナー8は、2〜6枚の生地を接合してなることが、特に女性用の場合に身体の曲線にフィットしやすく、また、補整用インナーの伸びを止めたりせず、身体に触れて違和感を与えることもなく、接合箇所の凹凸が表地にひびいたりすることもないので好ましい。該補整用インナーは2〜4枚の範囲で接合することが伸長率、縫製コスト、耐久性、着用感の点でより好ましい。
【0032】
該補整用インナーにおける生地の接合方法は、縫製、融着、接着などいずれの方法でもよいが、縫製する場合は、伸度を下げない縫い方を採用することがよい。例えばミシンで縫い合わせる時には、伸びを止めない還縫いや千鳥縫いミシンなどを使用する、ケン縮のあるウーリー加工ミシン糸を使用するなどの方法をとることが好ましい。
【0033】
さらに、該補整用インナーには補整用インナーより伸長率の小さい緊締部9を付加することで腰部の緊締力を上げることができる。緊締部9が脊柱起立筋に圧迫を与えることにより、自然と腰部が起き上がる状態を作ることができる。
【0034】
該緊締部9の素材は、織物、編物、フィルム等いずれでも良いが、柔軟性、耐久性の点からフィルムを使用することがより好ましい。フィルムの組成としては、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルなどがあるが、柔軟性、耐久性の点からポリエステルフィルムにポリウレタン接着剤を含浸させたものが好ましい。補整用インナー本体への設置方法は、縫着、接着、融着等あるが、耐久性、風合い変化の少ない点から熱接着することが好ましい。さらに該素材の厚さは150〜300μmとすることが、身体に対する違和感がなく好ましい。
【0035】
該緊締部9を設置する箇所は、脊柱起立筋を圧迫することができる後中心線から左右に1〜5cm離れた位置に左右対称に設置することが好ましい。このように設置すると、違和感がなく着用快適性に優れ、腰部を立ち上がらせる効果を大きくすることができる。脊柱起立筋とは、脊柱の背中側に沿って走るインナーマッスル(深層筋)をいい、広背筋の下を走っている。三層の筋肉から成立しており、外側から「腸肋筋」、「最長筋」、「棘筋」と呼ばれている。なお、緊締部の大きさは、幅2〜15cm×長さ8〜20cm程度が、脊柱起立筋の巾寸法と合致し、なおかつ人間の掌指で指圧されているイメージを着用者がいだくことができ好ましい。なお、幅、長さは一定でなくてもよく、形状も限定されない。また、緊締部9に通気性のないフィルムを使用する場合は、形状を工夫することが必要である。全面フィルムの場合、通気性がない部分に熱がこもり着用時に暑く不快であるため、どのような形状でもかまわないが、緊締部の内側にいくつかの孔を設けるような形状とすることが好ましい。いくつかの孔を開けることにより、補整用インナーの伸びにもある程度追随することができるため、緊締部のはく離を防止し、耐久性を向上させることができる。
【0036】
該補整用インナーが、着脱した時に目立たなくするために、図3に示すように補整用インナーの上に従来付けている裏地を覆うこともできる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例および比較例において用いた外衣表地および裏地の品質評価は次の方法で実施した。
(測定方法)
(1)伸長率
表地及び裏地の伸長率はJIS L 1096(2010年版)「織物及び編物の生地試験方法」の伸び率A法(定速伸長法)に従って測定した。
【0038】
すなわち、まず、5cm×30cmの試験片をタテ、ヨコ方向にそれぞれ3枚ずつ採取した。測定には自動記録装置付定速伸長形引張試験機を用い、つかみ間隔を20cmとし、試験片のたるみや張力を除いて、試験片をつかみに固定した。引張速度20cm/minで14.7N(1.5kg)まで伸ばし、その時のつかみ間隔を測り、次の式により伸長率L(%)を求め、3枚の平均で表した。
【0039】
伸長率L(%)={(L−L)/L}×100
L :つかみ間隔(mm)
:14.7Nまで伸ばした時のつかみ間隔(mm)
(2)伸長回復率
また、伸長回復率は同じくJIS L 1096(2010年版)「織物及び編物の生地試験方法」のA法(繰り返し定速定伸長法)に従って測定した。
【0040】
すなわち、まず、5cm×30cmの試験片をタテ、ヨコ方向にそれぞれ3枚ずつ採取した。測定には自動記録装置付定速伸長形引張試験機を用い、つかみ間隔を20cmとし、試験片のたるみや張力を除いて、試験片をつかみに固定した。引張速度20cm/minで別に求めた伸長率(前項L)の値の80%まで伸ばして、1分放置した後、同じ速度で元の位置まで戻し、3分間放置する。この操作を10回繰り返した後、再び同じ速度で初荷重以上の荷重まで引き伸ばす。記録した荷重−伸長曲線から残留伸びを測り次式により伸長回復率L(%)を求め、3枚の平均で表した。
【0041】
伸長回復率L(%)=[(Lb1−L)/L]×100
:伸長率Lの80%の伸びに相当するチャート上の長さ(mm)
b1:10回繰り返し伸長後の残留伸びに相当するチャートの長さ(mm)
(3)衣服圧の測定
(株)エイエムアイ製の接触圧測定器のエアパックセンサーを着用者の右肩胛骨上、左右腰部で背柱から3cm左右に離れた位置の合計3箇所に着用者の下着の上に貼り付ける。その上に前開き外衣を着用して緊張状態を静止して10秒、ゆっくり10秒かけて緊張から弛緩の姿勢へ移行し、弛緩の状態で静止して10秒の衣服圧を計測し、3回の衣服圧計測結果の平均値を求めた。補整用インナー有無のみ変えた同じ素材、サイズ、デザインの前開き外衣を同一人物が着用し、裏地の有無による衣服圧(kPa)の差寸を求め、肩胛骨上、腰部2カ所について表1に従い3段階評価した。
(4)姿勢外観変化、審美性、着心地、肌触りの状態評価
出来上がった前開き外衣をモニターに着用させ、姿勢外観変化、審美性、着用感および締め付け感、身体のスムージング効果について官能評価を実施した。その評価基準を表1に示す。モニターは年齢が20代から50代の女性5名男性5名である。着用した結果の平均点を各評価点数として示す。各評価点数の合計点数を総合評価とし、総合評価が大きいものほど優れていることを示す。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例1)
表地のタテ糸として綿20番手100%紡績糸を、ヨコ糸として弾性糸に綿糸をカバーリングした糸とポリエステル100%のフィラメント糸を用い、2/2ツイルに製織、染色仕上げした。こうして得られた織物のヨコ方向の伸長率は16.6%、伸長回復率は90%であった。
【0044】
一方、補整用インナーとして56デシテックスのポリエステル100%のフィラメント糸を用い、ハーフトリコットに製編、染色仕上げした。こうして得られたトリコット編地のヨコ方向の伸長率は48%、伸長回復率は88%であった。該トリコットを使い、補整用インナーとして、図2に示すような形状、すなわち、上辺は後衿ぐりから後身頃の一部を覆い、袖付け線より下を通り前身頃から前身返し線まで連続した形状に、下辺はヒップラインより5cm上を通るような形状に裁断した。該補整用インナーを左右対称に2枚裁断して背中心で縫い合わせた。
【0045】
該補整用インナーの背中心から左右に3cm離れた場所に緊締部材として巾6.4cm×長さ12.3cmのポリウレタンフィルムを熱接着した。接着剤としてポリエステルを微量入れたポリウレタン樹脂を使用し、150℃で圧力1kg /cm、時間10秒の条件で熱接着した。
【0046】
緊締部の形状はほぼ蝶の羽根のような形で、直径1cm程度の孔を9個空けておく。フィルム自体の伸長率は形状が均一ではないため測定することはできなく、補整用インナーに接着した部分のヨコ方向の伸長率を測定したところ14.3%であった。
【0047】
別途通常婦人服に使用するポリエステル100%のタフタ織物を裏地として図3に示すような形状、すなわち、袖、前身頃(前身返し布のない部分)と後身頃上半分に裁断した。
【0048】
この表地と補整用インナーと裏地を使い婦人用前開きジャケットを次の工程で縫製した。
【0049】
すなわち、表地の前身頃、後身頃、袖、衿は従来どおりに縫製し、衿付け位置で補整用インナーを挟み込み、前身返し線で補整用インナーの生地端を縫い込んだ。その上にタフタ裏地を補整用インナーを覆うように縫いつけた。ジャケットの前開き部は、ボタンとボタンホールを縫着し、開閉できるようにした。ボタンを係止具凸、ボタンホールを係止具凹とし、係止具凸から係止具凹までの距離を表地面で計測し表地周長Aとし、さらに裏返して裏面でも計測し裏地周長Bとした。A:Bは、1:0.94であった。
【0050】
この婦人用ジャケットの縫製仕様を表2に、縫製品を着用し、前開きを係止した時の姿勢外観変化、審美性、着用感および締め付け感、身体のスムージング効果、衣服圧評価をした結果を表3に示す。
【0051】
表3に示すように、該ジャケットの前を係止することにより脊柱起立筋を押さえることができ背筋が伸びて姿勢が良くなる感じが実感でき、表から見た目の身体のスムージング効果も認められるものであった。また、該ジャケットの係止具をはずすことによりリラックスすることができるものであった。
(実施例2)
表地のタテ糸として綿30番手100%紡績糸を、ヨコ糸として弾性糸に綿糸をカバーリングした糸とポリエステル100%のフィラメント糸を用い、1/3サテンに製織、染色仕上げした。こうして得られた織物のヨコ方向の伸長率は19.1%、ヨコ方向の伸長回復率は87%であった。
【0052】
一方、補整用インナーとして33デシテックスと56デシテックスのポリエステル100%のフィラメント糸を用い、ハーフトリコットに製編、染色仕上げした。こうして得られた編地のヨコ方向の伸長率は114%、伸長回復率は81%であった。該トリコットを使い、補整用インナーとして、上辺は後衿ぐりから後身頃の一部を覆い、袖付け線より下を通り前身頃から前身返し線まで連続した形状に、下辺はヒップラインより3cm上を通るような形状に裁断した。該補整用インナーを左右対称に2枚裁断して背中心で縫い合わせた。
【0053】
該補整用インナーの背中心から左右に2cm離れた場所に緊締部材として巾8.0cm×長さ17.0cmのポリウレタンフィルムを熱接着した。接着剤としてポリエステルを微量入れたポリウレタン樹脂を使用し、150℃で圧力1kg/cm、時間10秒の条件で熱接着した。
【0054】
緊締部の形状はほぼ手のひらのような形で、直径1.5cm程度の孔を10個空けておく。フィルム自体の伸長率は形状が均一ではないため測定することはできなく、補整用インナーに接着した部分のヨコ方向の伸長率を測定したところ12.5%であった。
【0055】
別途通常紳士服に使用するポリエステル100%のツイル織物を裏地として袖、前身頃(前身返し布のない部分)と後身頃上半分に裁断した。この表地と補整用インナーと裏地を使い紳士用前開きジャケットを次の工程で縫製した。
【0056】
すなわち、表地の前身頃、後身頃、袖、衿は従来どおりに縫製し、後衿付け位置で補整用インナーを挟み込み、前身返し線で補整用インナーの生地端を縫い込んだ。その上にツイル裏地を補整用インナーを覆うように縫いつけた。ジャケットの前開き部は、ボタンとボタンホールを縫着し、開閉できるようにした。ボタンを係止具凸、ボタンホールを係止具凹とし、係止具凸から係止具凹までの距離を表地面で計測し表地周長Aとし、さらに裏返して裏面でも計測し裏地周長Bとした。A:Bは、1:0.96であった。
【0057】
この紳士用ジャケットの縫製仕様を表2に、縫製品を着用し、前開きを係止した時の姿勢外観変化、審美性、着用感および締め付け感、身体のスムージング効果、衣服圧評価をした結果を表3に示す。
【0058】
表3に示すように、該ジャケットの前を係止することにより腰部がほどよい締め付け効果で姿勢外観変化が実感でき、表から見た目の身体のスムージング効果も認められるものであった。
【0059】
また、該ジャケットの係止具をはずすことによりリラックスすることができるものであった。
(実施例3)
表地としてポリエステルとレーヨンの混紡糸をタテヨコに用い、2/2ツイルに製織、染色仕上げした。こうして得られた織物のヨコ方向の伸長率は20.9%、ヨコ方向の伸長回復率は85%であった。
【0060】
一方、実施例1で使用したトリコット裏地を補整用インナーとして、上辺は後衿ぐりから後身頃の一部を覆い、袖付け線より下を通り前身頃端まで連続した形状に、下辺はヒップラインより5cm上を通るような形状に裁断した。該補整用インナーを左右対称に2枚裁断して背中心で縫い合わせた。補整用インナーの前両端は2cm折り返し、その上に面ファスナーを縫い付けた。
【0061】
該補整用インナーの背中心から左右に2cm離れた場所に緊締部材として巾10.0cm×長さ20.0cmのポリエステル不織布芯地を熱接着した。接着剤としてポリエステル樹脂を使用し、130℃で圧力0.8kg/cm、時間15秒の条件で熱接着した。
【0062】
緊締部の形状はほぼ楕円形で、直径1.5cm程度の孔を10個空けておく。補整用インナーに接着した部分の伸長率は3.5%であった。
【0063】
この表地と補整用インナーと裏地を使い婦人用前開きジャケットを次の工程で縫製した。
【0064】
すなわち、表地の前身頃、後身頃、袖、衿は従来どおりに縫製し、後衿付け位置で補整用インナーを挟み込んだ。ジャケットの前開き部には巾2cmの織テープを係止用紐として左右に縫着し、開閉できるようにした。左右の紐付け位置の距離を表地面で計測し表地周長Aとし、補整用インナーの左右面ファスナー間の距離を計測し裏地周長Bとした。A:Bは、1:0.92であった。
【0065】
この婦人用ジャケットの縫製仕様を表2に、縫製品を着用し、補整用インナーの前を係止し、さらにジャケット本体の前開きを係止した時の姿勢外観変化、審美性、着用感および締め付け感、身体のスムージング効果、衣服圧評価をした結果を表3に示す。
【0066】
表3に示すように、ジャケットおよび補整用インナーの前を係止することによりウエスト部分をほどよい締め付け効果で姿勢外観変化が実感でき、表から見た目の身体のスムージング効果も認められるものであった。
【0067】
また、該ジャケットおよび補整用インナーの係止具をはずすことによりリラックスすることができるものであった。
(比較例1)
実施例1で用いた織物を表地に使用して婦人用ジャケットを縫製した。裏地は付設しなかった。
【0068】
こうして得られた婦人用ジャケットの縫製仕様を表2に、縫製品を着用した時の姿勢外観変化、審美性、着用感および締め付け感、身体のスムージング効果、衣服圧評価をした結果を表3に示す。表3に示すように、該ジャケットは締め付け効果がなく、身体や下着のラインが表に露出して審美性に劣る、スムージング効果のないものであった。
(比較例2)
実施例2で用いた織物を表地を使用して婦人用ジャケットを縫製した。ジャケットの裏地としてタテ糸に54デシテックスのポリエステル100%のフィラメント糸、ヨコ糸に84デシテックスのポリエステル100%のフィラメント糸で平織物に製織した裏地を縫着した。ジャケットの前開き部は、ボタンとボタンホールを縫着し、開閉できるようにした。ボタンを係止具凸、ボタンホールを係止具凹とし、係止具凸から係止具凹までの距離を表地面で計測し表地周長Aとし、さらに裏返して裏面でも計測し裏地周長Bとした。A:Bは、1:1.02であった。
【0069】
こうして得られた婦人用ジャケットの縫製仕様を表2に、縫製品を着用し、前開きを係止した時の姿勢外観変化、審美性、着用感および締め付け感、身体のスムージング効果、衣服圧評価をした結果を表3に示す。表3に示すように、該ジャケットは特に背筋が伸びて姿勢が良くなる実感はなく、裏地に伸びがないため着心地が悪く、長時間着用していると窮屈感のあるものであった。
(比較例3)
タテ糸に54デシテックスのポリトリメチレンテレフタレート糸100%を、ヨコ糸に94デシテックスのポリエステルフィラメント糸100%を用いて二重織物を製織、染色仕上した。該生地をジャケット表地として裁断、また同生地を補整用インナーとして、後身頃全面、前身頃全面に裁断して背中心と左右脇で縫い合わせた。
【0070】
この表地と補整用インナーを使い婦人用前開きジャケットを次の工程で縫製した。
【0071】
すなわち、表地の前身頃、後身頃、袖、衿は従来どおりに縫製し、後衿付け位置で補整用インナーを挟み込み、前身返し線で補整用インナーの生地端を縫い込んだ。補整用インナーの裾線はホツレ止め始末をしておく。ジャケットの前開き部は、ボタンとボタンホールを縫着し、開閉できるようにした。ボタンを係止具凸、ボタンホールを係止具凹とし、係止具凸から係止具凹までの距離を表地面で計測し表地周長Aとし、さらに裏返して裏面でも計測し裏地周長Bとした。A:Bは、1:1であった。
【0072】
この婦人用ジャケットの縫製仕様を表2に、縫製品を着用し、前開きを係止した時の姿勢外観変化、審美性、着用感および締め付け感、身体のスムージング効果、衣服圧評価をした結果を表3に示す。
【0073】
表3に示すように、該ジャケットは姿勢外観変化はなく、表地が二重に使用されているために逆に窮屈感があり着用感に劣るものであった。裏地も表地同様の伸長率があるために、身体や下着のラインが表に露出して審美性に劣る、スムージング効果のないものであった。
【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、着用中に外衣の前を開閉することにより腰部の緊締強度を調整し、着用者が姿勢の崩れを防ぐよう意識付けできる前開き外衣を提供することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 :後身頃
2 :前身頃
3 :前身返し布
4 :裏地
5凸、5凹 :外衣の係止具
6 :後衿
7 :後衿ぐり
8 :補整用インナー
9 :緊締部
10 :前見返し線
11 :袖付け線
12凸、12凹 :補整用インナーの係止具
A :前開き外衣の係止具凸から係止具凹までの表地周長
B :同じ位置の裏側の係止具凸から係止具凹までの裏側周長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表地の内側に、表地より伸長率の大きい補整用インナーを縫着した前開き外衣であって、該前開き外衣の係止具凸から係止具凹までの表地周長Aと、同じ位置の裏側の係止具凸から係止具凹までの裏側周長Bの比A:Bが1:0.90〜1:0.99であることを特徴とする前開き外衣。
【請求項2】
該補整用インナーが、衣服の後衿ぐりから後身頃の一部を覆い、袖付け線より下を通り前身頃まで延在し、前身返し線に縫着されていることを特徴とする請求項1記載の前開き外衣。
【請求項3】
該補整用インナーが、衣服の後衿ぐりから後身頃の一部を覆い、袖付け線より下を通り前身頃まで延在し、その左右端部に係止具が設置されていることを特徴とする請求項1記載の前開き外衣。
【請求項4】
該補整用インナーが、袖付け線より下の位置で左右前身返し線に縫着されていることを特徴とする請求項1記載の前開き外衣。
【請求項5】
該補整用インナーの下端がヒップラインより上方にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の前開き外衣。
【請求項6】
該補整用インナーが、2〜6枚の生地を接合してなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の前開き外衣。
【請求項7】
該補整用インナーが伸長率の大きい緊締部と伸長率の小さい緊締部からなり、伸長率の小さい緊締部を腰部周辺に設置されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の前開き外衣。
【請求項8】
該補整用インナーの後中心線から左右に1〜5cm離れた位置に伸長率の小さい緊締部が左右対称に設置されていることを特徴とする請求項7記載の前開き外衣。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−91873(P2013−91873A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234675(P2011−234675)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】