説明

前駆体溶液、酸化物薄膜の製造方法及び強誘電体光学素子

【課題】 製造時に金属アルコキシド等が析出することなく、光学的に透明な薄膜を得ることができる前駆体溶液、また、酸化物薄膜の製造時における熱処理中に薄膜にクラックの入りにくい酸化物薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 PbBO(ここでは、BはB′は+2価の金属、B″は+5価の金属を表している。)と表されるリラクサー型ペロブスカイト酸化物であって、ゾルゲル法、MOD法等の溶液法に用いる前駆体溶液に、2−エトキシエタノールの主溶媒に沸点が200℃以上の添加溶媒、とくに、1,3−プロパンジオールを添加する前駆体溶液であり、この前駆体溶液を用いて、スピンコーティング等の塗布方法で塗布し、熱処理することで酸化物薄膜を製造する製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物薄膜を形成するための前駆体溶液、及びこの前駆体溶液による酸化物薄膜の製造方法、強誘電体光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化物薄膜の一つである強誘電体薄膜は、自発分極、高誘電率、電気光学効果、圧電効果、および焦電効果などの多くの機能をもつことから、広範なデバイスへの応用が期待されている。それらの広範な開発の中でも、近年の薄膜形成技術の進展に伴って、半導体素子との組み合わせにより、高密度でかつ高速に動作する不揮発性強誘電体メモリの開発が進んでいる。強誘電体薄膜を用いた不揮発性メモリは、その高速書き込み/読み出し、低電圧動作、および書き込み/読み出し耐性の高さなどの特性から、従来の不揮発性メモリの置き換えだけでなく、SRAMやDRAMに対する置き換えも可能なメモリとして研究開発が盛んに行われている。その他にも、例えば、その焦電性を利用して赤外線リニアアレイセンサに、また、その圧電性を利用して超音波センサに、その電気光学効果を利用して導波路型光変調器に、その高誘電性を利用してDRAMにと、様々な方面で用いられている。
しかし、強誘電体は、残留分極が大きく、抗電場が小さいことが求められており、強誘電体材料の中でも誘電率等の大きいリラクサー型強誘電体材料の研究開発が盛んになっている。これらは、圧電効果も大きいことから、超音波振動子又はアクチュエータ素子として、また誘電率が非常に大きく温度変化も小さいことから大容量コンデンサ材料として利用する研究開発が進んでいる。また、光通信技術の普及に伴い、伝送情報量の増大に対応するため、光信号を切換える光交換機が必要とされており、透明で光透過性が高く、さらに、光信号の物理的経路を高速に切換えることのできる光スイッチとして利用する研究が進んでいる。
【0003】
一方、強誘電体薄膜の製造方法には、真空蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法などの物理的方法や、有機金属化合物を出発原料とし、これらを熱分解酸化して酸化物強誘電体を得るゾルゲル法、MOD法、MOCVD法などの溶液を用いた化学的方法が用いられている。
MOCVD法は、段差部へのカバレッジ性に優れ、低温成膜が可能なことから強誘電体素子の高集積化に有望であり、最近研究開発が盛んになってきている。ゾルゲル法、MOD法は、原子レベルの均質な混合が可能な原材料溶液を用いることが可能なので、組成制御が容易で、特別な真空装置が必要なく常圧で大面積の成膜が可能であることから製造におけるコスト低減が可能である。これらの溶液法は、被覆した後に結晶化処理を必要とし、多元系酸化物を所望の組成で、広い面積を均一に被覆できるという利点がある。しかし、溶媒によっては、スピンコート後や焼成後に膜中にクラックや白濁が発生するなどの不具合がある。
【0004】
特許文献1では、第1の原料液と、第2の原料液とを含む強誘電体の原料液を結晶化することにより、強誘電体膜を形成する工程を含み、前記第1の原料液と前記第2の原料液とは、種類が異なる関係にあり、前記第1の原料液は、Bi系層状ペロブスカイト構造を有する強誘電体を生成するための原料液であり、前記第2の原料液は、AサイトがPbであるABO系酸化物を生成するための原料液が開示されている。これらの原料液は、2−メトキシエタノール中に金属アルコキシドを混合している。しかし、2−メトキシエタノールの溶媒のみでは、特に、1層当たり100nm以上の膜厚を成膜するときのクラック耐性が悪いという問題がある。
特許文献2では、溶液塗布焼成法によって形成される誘電体層を、結晶化しない温度で仮焼した後、パターニングし、その後焼成して形成する誘電体層のパターニング方法が開示されており、さらに、有機物成膜助剤として、1,3−プロパンジオール等が挙げられている。しかし、添加する溶媒として主溶媒との組み合わせの中で適当な範囲で用いることが検討されていない。特許文献3では、PZTゾルゲル溶液及びBiSiOゾルゲル溶液を含み、その他に、C1−C10アルコキシアルコール間の還流結果物を含む強誘電性薄膜形成用組成物が開示されている。しかし、これらは、製造時に強誘電体膜にクラックを防止し、光透過性の高い酸化物薄膜を得るには不十分である。
【0005】
【特許文献1】特開2004−319995号公報
【特許文献2】特開2003−323981号公報
【特許文献3】特開2004−363083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その課題は、製造時に金属アルコキシド等が析出することなく、光学的に透明な薄膜を得ることができる前駆体溶液を提供することである。
また、酸化物薄膜の製造時における熱処理中に薄膜にクラック、白濁の入りにくい酸化物薄膜の製造方法を提供することである。さらに、これらの前駆体溶液を用いて強誘電体光学素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する手段である本発明の特徴を以下に挙げる。
本発明は、PbBO(ここでは、BはB′は+2価の金属、B″は+5価の金属を表している。)と表されるリラクサー型ペロブスカイト酸化物であって、ゾルゲル法、MOD法等の溶液法に用いる前駆体溶液に、2−エトキシエタノールの主溶媒に沸点が200℃以上の添加溶媒を加える。とくに、1,3−プロパンジオールを添加する。
また、本発明は、この前駆体溶液を用いて、スピンコーティング等の塗布方法で塗布し、熱処理することで酸化物薄膜を製造する製造方法である。さらに、この前駆体溶液を用いて製造することができる光偏向素子等の強誘電体光学素子である。
【発明の効果】
【0008】
上記解決するための手段によって、本発明の前駆体溶液では、溶媒の蒸発が少なく、製造時における製造条件の変動が少なくすることができる。さらに、塗布時の白濁を防止して、酸化物薄膜にする熱処理時にクラックが入ることを防止することができる。
また、本発明の酸化物薄膜の製造方法では、塗布時に白濁することを防止し、かつ、塗布時に適当に蒸発することで薄膜形成の熱処理時に酸化物薄膜にクラックが入ることを防止することができる。
また、本発明の強誘電体光学素子では、高誘電率で、圧電定数の大きいリラクサー型の強誘電体薄膜を用いることで、光透過性が高く、屈折率の大きい光偏向素子に応用できる強誘電体光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、いわゆる当業者は特許請求の範囲内における本発明を変更・修正をして他の実施形態をなすことは容易であり、これらの変更・修正は特許請求の範囲に含まれる。
【0010】
本発明の前駆体溶液は、Pb(B′1/3、B″2/3)O型リラクサー型ペロブスカイト酸化物(ここで、B′は+2価の金属、B″は+5価の金属を表す。)を製造するのに用いられる。
リラクサー型ペロブスカイト酸化物は強誘電体であり、一般式としてはABOと表される。リラクサー型の強誘電体が、誘電率が高く、誘電損失が小さく、さらに、圧電定数が非常に大きい。リラクサー型強誘電体としては、AがPb系のものが多く、その他に、Sr1−1.5xBi、Sr1−xCa、KTa1−xNb、K1−xLiTaO等のSr、K系がある。とくに、Pb系では、結晶中のB′とB″とを含むサイトには平均して+4価の電荷をもつ二種類のイオンが入ればよく、+2価と+5価のイオンが1:2の割合で入るタイプと、+3価と+5価又は+2価と+6価のイオンが1:1の割合で入るタイプとがある。具体的には、Pb(Mg1/3、Nb2/3)O(PMN)、Pb(Zn1/3、Nb2/3)O(PZN)、Pb(Sc1/2、Nb1/2)O(PSN)、Pb(Sc1/2、Ta1/2)O(PST)、Pb(Zr、Ti)O(PZT)、(Pb、La)(Zr、Ti)O(PLZT)等が挙げられるが、この中で、+2価と+5価のイオンが入るPb(B′1/3、B″2/3)O型が大きな誘電率と圧電定数とを有している。
また、これらの強誘電体は、PbTiOと混晶を形成することでリラクサー性が表れることが多く、PbTiOと混晶させることで強誘電体材料として用いる。
【0011】
また、前駆体溶液を用いる酸化物薄膜の製造方法である溶液法としては、ゾルゲル法、MOD法等がある。いずれも、所定の前駆体溶液を塗布して薄膜状態にして、それを熱処理して溶媒を蒸発させ、かつ、ペロブスカイト構造を有する酸化物薄膜を形成する。ゾルゲル法は、所望の組成になるように複数の金属アルコキシドのアルコール溶液を用い、これに適当量の水を添加して加水分解又は重縮合してできるM−O−M結合のゾルを、一定期間適当な温度で静置して前駆体溶液が形成される。また、MOD法は、M−O結合を有するカルボン酸等の金属塩を有機溶媒に溶かして前駆体溶液としている。この前駆体溶液は、前駆体溶液は基板全面に塗布するために、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング等で均一厚に塗布することができる。塗布後は、熱処理を施す。熱処理は、仮焼と本焼との2段階で行うことが好ましい。仮焼は、350℃〜500℃で行い、溶媒、HO等を蒸発させる。仮焼時の温度は、乾燥ゲル化膜中の有機溶媒成分を大部分、分解減少させることが好ましく、350℃以上である。ただし、500℃を超えるとクラックが入りやすくなる。次に、本焼では、600℃〜800℃程度で十分にペロブスカイト強誘電体相を形成することができる。本焼温度は特にその構成元素として酸化鉛と酸化チタンを含む強誘電体の場合、高温で鉛成分の揮発により強誘電体膜の特性が劣化し易いため焼成温度としては800℃以下である。
【0012】
また、酸化物薄膜の製造方法に用いる前駆体溶液は、主溶媒の2−メトキシエタノールに、添加される溶媒の沸点が200℃以上の溶媒を用いる。従来、主溶媒の2−メトキシエタノールに添加する溶媒としてブタノールを用いた溶媒のPMN−PT及びPMN−PZ−PT前駆体溶液は、スピンコーティングの際に、金属アルコキシドの反応生成物又は金属塩が析出しやすく、このために前駆体溶液が白濁し、光学スイッチに必要な透明薄膜が得られにくい。また、基板上に前駆体溶液を塗布した直後の溶液状態から、焼成後の酸化物固体状態に到る過程で極めて大きい体積収縮が発生するために乾燥、焼成時に膜にクラックや剥離が発生する。例えば、PLZT前駆体では、キレート剤である2,4−ペンタンジオンを用いてクラックの発生を防止することができる。しかし、PMN−PT及びPMN−PZ−PT前駆体溶液に2,4−ペンタンジオンを含有させても、クラックの発生を抑えることができない。
【0013】
このPb(B′1/3、B″2/3)O型酸化物を形成するのに、主溶媒の2−メトキシエタノールに、2,4−ペンタンジオンの沸点140℃より高い200℃以上の沸点を有する添加用溶媒を含有させた溶媒を用いる。最初に、この前駆体溶液は、酢酸鉛三水和物、マグネシウムエトキシド又は酢酸マグネシウム、ニオブエトキシド、i−プロポキシチタンと溶媒とを含有する。
主溶媒としては、炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒がある。とくに、有機溶媒としては、エーテル系の溶媒の中でアルコールエーテル系溶媒が好ましく、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、1−エトキシ−2−プロパノール等が挙げられる。主溶媒の沸点は、100℃以上が好ましく、特に、2−メトキシエタノールが好ましい。これによって、主溶媒の蒸発を防止して前駆体溶液の製造条件の変動を防止することができる。
また、この主溶媒に沸点が200℃以上の溶媒を添加する。沸点が200℃を越えると、蒸発する量が少なく、前駆体溶液の製造条件の変動を防止することができる。しかし、少なくとも300℃未満が好ましい。300℃を越えると溶媒の粘度が高くなり薄膜を製造するのに適さない。また、製造時における熱処理温度が高くなり、また、時間も長くなり生産性が低下する。例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、2,2,4−トリメチル−ペンタンジオールなどのグリコール類が挙げられる。これらの中で、特に、1,3−プロパンジオールが好ましい。
また、溶媒として、主溶媒と添加溶媒の割合は、2−メトキシエタノール/1,3−プロパンジオールにおいて1/99〜60/40の範囲にする。好ましくは、1/99〜50/50の範囲にする。1,3−プロパンジオールが60/40を超えると、コーティング中に蒸発しにくく、例えば、スピンコーティングでは基板の中心と周辺の膜厚が大きく異なってくる。1/99未満では、白濁化、クラックの発生を防止することができない。
【0014】
本発明の酸化物薄膜の製造方法により、Pb(Mg1/3、Nb2/3)O−PbTiO酸化物薄膜を製造し、この酸化物薄膜を備える強誘電体光学素子を得ることができる。
図1は、本発明の酸化物薄膜を製造方法の一実施形態を示すフローチャート図である。
まず、最初に、出発原料として、酢酸鉛水和物、マグネシウムエトキシド、ニオブエトキシド、チタン−iプロポオキシドを用いる。
はじめに、酢酸鉛水和物を減圧下、120℃で3時間脱水処理する(ステップS1)。2−メトキシエタノールを加え、窒素雰囲気下、125℃で3時間還流・蒸留処理をした後、鉛前駆体を得る(ステップS2)。
これに、一定量のマグネシウムエトキシド、ニオブエトキシド、チタン−iプロポオキシドと2−メトキシエタノールを加え混合し、125℃で3時間還流・蒸留処理を行う(ステップS3)。このときに、鉛は、熱処理等によって蒸発する量を考慮して、化学量論組成より10〜20%多めに添加する。
この前駆体を蒸留により濃度調整を行ったあと、1,3−プロパンジオールを添加して3時間還流を行い、PMN−PTゾルゲル法の前駆体溶液を得た(ステップS4)。このときに、PMN−0.33PT 0.6mol/Lに、2−メトキシエタノール/1,3−プロパンジオール=75/25の組成の溶媒にした。
この前駆体溶液を、基板を設けたスピンコーティング装置において、3000rpmの回転数でコーティングし(ステップS5)、150〜300℃で仮焼し(ステップS6)、これを複数回繰り返した(ステップS7)。
次に、600〜800℃で本焼成して、約100〜120nmのPMN−PT酸化物薄膜を製造した(ステップS8)。
また、Pb(Ni1/3、Nb2/3)O−PbZrO−PbTiO(PNN−PZ−PT)酸化物薄膜を製造する方法も、上記同様である。原料は、酢酸鉛、酢酸ニッケル、ニオブエトキシド、チタン−iプロポオキシド、ジルコニウムプロポキシドと2−メトキシエタノールである。ゾルゲル法によって、約100〜120nmのPNN−PZ−PT酸化物薄膜を製造した。
【0015】
本発明の前駆体溶液又は酸化物薄膜の製造方法としては、リラクサー型ペロブスカイト酸化物Pb(Mg1/3、Nb2/3)O−PbTiO(PMN−PT)に適している。強誘電体のリラクサー性は、PbTiO(PT)と混晶で存在させることで表れ、特に、正方晶系(tetoragonal system)と三方晶系(rhombohedral system)の境界領域であるMPB組成で誘電率が非常に大きく、したがって、光屈折率等の電気光学定数を大きくすることができる。この酸化物薄膜を形成するために前駆体溶液は、金属塩又は金属アルコキシドの状態でMg、Nbを含有する。この前駆体溶液を塗布に用いることでリラクサー型ペロブスカイト酸化物を製造することができる。
また、リラクサー型ペロブスカイト酸化物は、Pb(Ni1/3、Nb2/3)O−PbZrO−PbTiO(PNN−PZ−PT)であってもよい。PbTiOに、さらに、PbZrOと混晶させ、さらに、Pb(Ni1/3、Nb2/3)Oを混晶させる。正方晶系(tetoragonal system)と三方晶系(rhombohedral system)の境界領域であるMPB組成で誘電率が非常に大きく、したがって、光屈折率等の電気光学定数を大きくすることができる。この酸化物薄膜を形成するために前駆体溶液は、金属塩又は金属アルコキシドの状態でNi、Nbを含有する。この前駆体溶液を塗布に用いることでリラクサー型ペロブスカイト酸化物を製造することができる。
【0016】
また、強誘電体光学素子の一例である、光偏向素子について説明する。
図2は、光偏向素子の構成を示す概略図である。
まず、(100)面を主面とするNb1%ドープSrTiO基板11上に、PLZT(9/65/35)ゾルゲル前駆体を塗布した後、ホットプレート上で、例えば、180℃で5分間、次いで、400℃で、5分間の焼成を行ったのち、酸素雰囲気中において700℃で焼成することにより厚さが、例えば、3μmのPLZTクラッド層12を形成する。この場合、PLZT用のゾルゲル原料溶液としては、構成金属元素の有機化合物である酢酸鉛、ランタンイソプロポキシド、チタニウムイソプロポキシド、ジルコニウムプロポキシド安定剤としての添加される溶媒1,3−プロパンジオールを溶媒である2−メトキシエタノールで還流した。次いで、同様の手法で、PMN−PTゾルゲル前駆体溶液を塗布して、厚さが、例えば、4μmのPMN−PTコア層13を形成する。
次いで、同様の手法で、再び、PLZTゾルゲル前駆体を塗布して、厚さが、例えば、3μmのPLZTクラッド層14を形成する。
この場合、PLZTクラッド層12,14の屈折率nは、1.55μmの波長に対してn=2.36となり、PMN−PTコア層13の屈折率nは、1.55μmの波長に対してn=2.43となるのでスラブ型光導波路15が構成される。
次いで、上部のPLZTクラッド層14上に、ITO膜を三角形状のマスク蒸着することによって偏向電極16を形成することによって偏向電極16を備えた光導波路素子が得られる。したがって、本発明の実施の形態においては、波形の伝送なまりが小さく、且つ、電気光学効果の大きな光導波路素子を実現することができ、それによって、高速の光偏光素子或いは高速の光スイッチモジュールを小型化することができる。
【0017】
以上が本発明の実施形態による説明であるが、発明として、例えば、下記のような特徴を抽出することができるので、ここで列挙しておく。
(付記1)本発明の前駆体溶液は、Pb(B′1/3、B″2/3)O型リラクサー型ペロブスカイト酸化物(ここで、B′は2価の金属、B″は5価の金属を表す。)を含む酸化物薄膜を製造する前駆体溶液において、主溶媒の2−メトキシエタノールに沸点が200℃以上の溶媒を含有することを特徴とする。
(付記2)本発明の前駆体溶液は、付記1において、前記200℃以上の溶媒は、1,3−プロパンジオールであることを特徴とする。
(付記3)本発明の前駆体溶液は、付記2において、2−メトキシエタノール/1,3−プロパンジオールとの含有比率が、1/99〜60/40であることを特徴とする。
(付記4)本発明の前駆体溶液は、付記1、2又は3において、前記リラクサー型ペロブスカイト酸化物は、Pb(Mg1/3、Nb2/3)O−PbZrO−PbTiOであって、前記前駆体溶液は、MgとNbの金属塩及び/又は金属アルコキシドを含有することを特徴とする。
(付記5)本発明の前駆体溶液は、付記1、2又は3において、前記リラクサー型ペロブスカイト酸化物は、Pb(Ni1/3、Nb2/3)O−PbZrO−PbTiOであって、記前駆体溶液は、NiとNbの金属塩及び/又は金属アルコキシドを含有することを特徴とする。
【0018】
(付記6)本発明の酸化物薄膜の製造方法は、Pb(B′1/3、B″2/3)O型リラクサー型ペロブスカイト酸化物(ここで、B′は2価の金属、B″は5価の金属を表す。)を含む酸化物薄膜を製造方法において、基板上に、主溶媒の2−メトキシエタノールに沸点が200℃以上の溶媒を含有するの前駆体溶液を塗布し、熱処理して酸化物薄膜を製造することを特徴とする。
(付記7)本発明の酸化物薄膜の製造方法は、付記6において、前記200℃以上の溶媒は、1,3−プロパンジオールであることを特徴とする。
(付記8)本発明の酸化物薄膜の製造方法は、付記7において、2−メトキシエタノール/1,3−プロパンジオールとの含有比率が、1/99〜60/40であることを特徴とする。
(付記9)本発明の酸化物薄膜の製造方法は、付記8において、MgとNbの金属塩及び/又は金属アルコキシドを含有する前駆体溶液を用いて、Pb(Mg1/3、Nb2/3)O−PbZrO−PbTiO酸化物薄膜を製造することを特徴とする。
(付記10)本発明の酸化物薄膜の製造方法は、付記8において、NiとNbの金属塩及び/又は金属アルコキシドを含有する前駆体溶液を用いて、Pb(Ni1/3、Nb2/3)O−PbZrO−PbTiO酸化物薄膜を製造することを特徴とする。
(付記11)本発明の酸化物薄膜の製造方法は、付記9又は10において、熱処理を2段階で行うことを特徴とする。
【0019】
(付記12)本発明の強誘電体光学素子は、基板上にPb(B′1/3、B″2/3)O型リラクサー型ペロブスカイト酸化物(ここで、B′は2価の金属、B″は5価の金属を表す。)を含む酸化物薄膜を備える強誘電体光学素子において、基板上に、主溶媒の2−メトキシエタノールに沸点が200℃以上の溶媒を含有するの前駆体溶液を塗布し、熱処理して得られる酸化物薄膜を備えることを特徴とする。
(付記13)本発明の強誘電体光学素子は、付記12において、前記200℃以上の溶媒は、1,3−プロパンジオールであることを特徴とする。
(付記14)本発明の強誘電体光学素子は、付記13において、2−メトキシエタノール/1,3−プロパンジオールとの含有比率が、1/99〜60/40であることを特徴とする。
(付記15)本発明の強誘電体光学素子は、付記11において、モルフォトロピック相境界(MPB)組成で構成されたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の酸化物薄膜を製造方法の一実施形態を示すフローチャート図である。
【図2】光偏向素子の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0021】
1 光偏向素子
12、14 クラッド層
13 コア層
15 光導波路
16 偏向電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pb(B′1/3、B″2/3)O型リラクサー型ペロブスカイト酸化物(ここで、B′は2価の金属、B″は5価の金属を表す。)を含む酸化物薄膜を製造する前駆体溶液において、
前記前駆体溶液は、主溶媒の2−メトキシエタノールに沸点が200℃以上の溶媒を含有する
ことを特徴とする前駆体溶液。
【請求項2】
請求項1に記載の前駆体溶液において、
前記200℃以上の溶媒は、1,3−プロパンジオールである
ことを特徴とする前駆体溶液。
【請求項3】
請求項2に記載の前駆体溶液において、
前記前駆体溶液は、2−メトキシエタノール/1,3−プロパンジオールとの含有比率が、1/99〜60/40である
ことを特徴とする前駆体溶液。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の前駆体溶液において、
前記リラクサー型ペロブスカイト酸化物は、Pb(Mg1/3、Nb2/3)O−PbZrO−PbTiOであって、
前記前駆体溶液は、MgとNbの金属塩及び/又は金属アルコキシドを含有する
ことを特徴とする前駆体溶液。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の前駆体溶液において、
前記リラクサー型ペロブスカイト酸化物は、Pb(Ni1/3、Nb2/3)O−PbZrO−PbTiOであって、
前記前駆体溶液は、NiとNbの金属塩及び/又は金属アルコキシドを含有する
ことを特徴とする前駆体溶液。
【請求項6】
Pb(B′1/3、B″2/3)O型リラクサー型ペロブスカイト酸化物(ここで、B′は2価の金属、B″は5価の金属を表す。)を含む酸化物薄膜を製造方法において、
前記酸化物薄膜の製造方法は、基板上に請求項1ないし3に記載の前駆体溶液を塗布し、熱処理して酸化物薄膜を製造する
ことを特徴とする酸化物薄膜の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の酸化物薄膜の製造方法において、
前記酸化物薄膜の製造方法は、請求項4に記載の前駆体溶液を用いて、Pb(Mg1/3、Nb2/3)O−PbZrO−PbTiO酸化物薄膜を製造する
ことを特徴とする酸化物薄膜の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の酸化物薄膜の製造方法において、
前記酸化物薄膜の製造方法は、請求項5に記載の前駆体溶液を用いて、Pb(Ni1/3、Nb2/3)O−PbZrO−PbTiO酸化物薄膜を製造する
ことを特徴とする酸化物薄膜の製造方法。
【請求項9】
基板上にPb(B′1/3、B″2/3)O型リラクサー型ペロブスカイト酸化物(ここで、B′は2価の金属、B″は5価の金属を表す。)を含む酸化物薄膜を備える強誘電体光学素子において、
前記強誘電体光学素子は、請求項6ないし7のいずれかに記載の酸化物薄膜の製造方法で得られる酸化物薄膜を備える
ことを特徴とする強誘電体光学素子。
【請求項10】
請求項9に記載の強誘電体光学素子において、
モルフォトロピック相境界(MPB)組成で構成された
ことを特徴とする強誘電体光学素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−248849(P2006−248849A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68656(P2005−68656)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「フォトニックネットワーク技術の開発事業」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】