説明

副生スラグからのマンガン系合金鉄の製造方法

【課題】フェロマンガンの製造時に副生する溶融スラグからマンガン系合金鉄を効率良く安定して製造することができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】フェロマンガンの製造時に副生する溶融スラグを反応容器に貯留し、前記溶融スラグ中に、ケイ素を含有する合金鉄と金属アルミニウムとを含む還元材を投入して撹拌し、前記溶融スラグ中に含まれるマンガン酸化物の少なくとも一部を還元することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気炉でフェロマンガンを製造した際に副生する溶融スラグから、炉外還元製錬によりマンガン系合金鉄を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェロマンガンは、主に電気炉において、マンガン鉱石をコークス等と共に加熱することにより溶融させ、鉱石を還元することによって製造される。一般的に、この溶融還元の製錬過程で副生するスラグは、質量%で15〜35%のマンガンを含有している。そのため、この溶融スラグからマンガンを回収してシリコマンガン等のマンガン系合金鉄を製造する方法が種々提案されている。
【0003】
それらの製造方法は何れも、副生する溶融スラグをマンガン原料として再使用する方法で、スラグ中のマンガン酸化物(主にMnO)をケイ素質還元材で還元することにより、シリコマンガン等のマンガン系合金鉄を製造する。これらの方法では、マンガン酸化物とケイ素との還元反応の反応熱を利用し、電力などのエネルギーを外部から供給すること無しに反応を進行させている。
【0004】
しかしながら、これら従来の方法では、実用的生産規模において還元反応を充分に進行させることができず、反応後のスラグ中には高濃度のマンガンが残留する。そのため、反応を充分に進行させるために、溶融スラグの組成を調整したり、還元材を予熱することが提案されているが、製造工程が増えるため生産効率が低下するという問題を生じる。
【0005】
このことから、例えば特許文献1では、マンガンを含有する溶融スラグとケイ素を含有する合金鉄を強力に撹拌することによって、マンガンの回収効率の向上と製錬時間の短縮とを図ることが提案されている。具体的には、溶融スラグ中に設置されたノズルから高速でガスを噴出させて撹拌を行い、溶融スラグとケイ素を含有する合金鉄との反応の進行を促進させている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、溶融スラグの温度が低かったり、粘性が高い組成であったりした場合には、撹拌が効率的に行なわれず、マンガンの回収効率を高くすることができなかった。特に、溶融スラグの温度が低い場合には、マンガンの回収効率が低くなるだけではなく、還元反応で生成したメタルや反応後のスラグの温度を高い温度に維持できないため、それぞれの排出口で凝固して排出が不可能になることもあり、安定した生産が行えなかった。
【0007】
一般的に、電気炉でのフェロマンガン製造時に副生する溶融スラグの温度は、炉内の反応状況に左右され、安定した状況ではおよそ1350℃程度であるが、およそ1250℃から1450℃の範囲で変動する。溶融スラグの温度が低い場合には、還元材を投入しても、還元反応による発熱だけでは撹拌中の溶融スラグと生成メタルの温度を長い時間保持できないため、製錬を中断する必要が生じる。また、溶融スラグの温度がさらに低い場合には、炉外製錬を実施できないこともある。
【0008】
また、前述の特許文献1には、溶融スラグの温度が低い場合には、発熱剤として、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)又は炭素(C)を一種又は二種以上含有する酸化発熱物質を反応容器内に装入し、酸素含有ガスを吹き込み、発熱剤と酸素ガスとの燃焼熱で装入物を昇温させている。
【0009】
しかしながら、酸化発熱物質と酸素ガスとを溶融スラグ中で撹拌して燃焼させると、激しい酸化反応が生じて局部的に高温になるため、反応容器内壁に設けられた耐火物や酸素ガス吹込み用ランスが急速に溶損される。更に、燃焼によって酸化ケイ素(SiO2)や酸化アルミニウム(Al23)が大量に発生するため、溶融スラグの組成が大きく変化し、次の工程である還元反応を阻害することになってマンガンの回収効率が低下するという問題も生じる。
【特許文献1】特公平3−49975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、フェロマンガンの製造時に副生する溶融スラグからマンガン系合金鉄を効率良く安定して製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る副生スラグからのマンガン系合金鉄の製造方法は、フェロマンガンの製造時に副生する溶融スラグを反応容器に貯留し、前記溶融スラグ中に、ケイ素を含有する合金鉄と金属アルミニウムとを含む還元材を投入して撹拌し、前記溶融スラグ中に含まれるマンガン酸化物の少なくとも一部を還元することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フェロマンガンの製造時に副生する溶融スラグからマンガン系合金鉄を効率良く安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者らが副生スラグからのマンガン系合金鉄の製造方法について鋭意研究した結果、以下の知見が得られた。
【0014】
すなわち、電気炉でフェロマンガンを製造した際に副生する溶融スラグから、炉外製錬によってマンガン系合金鉄を製造する技術においては、溶融スラグが有する熱エネルギー(顕熱)と、溶融スラグ中の酸化マンガン(MnO)と還元材との還元反応による熱エネルギー(発熱)とを利用して、効率良くマンガンを回収することが重要である。溶融スラグの温度(顕熱)は電気炉の状況で大きく変動するため、電気炉の状況によっては、反応容器に装入した際の溶融スラグ温度が低くなり、還元材との反応が効率良く安定して進行しないことがある。
【0015】
本発明者らは、還元材として、ケイ素を含有する合金鉄と共に、金属アルミニウムを複合添加することにより、溶融スラグからのマンガン回収率を向上させることが出来ると共に、安定した操業が可能になることを見出した。
【0016】
すなわち、溶融スラグの温度が低い場合や溶融スラグが少量の場合といった、電気炉内の反応状況が劣化した場合においても、ケイ素を含有する合金鉄と共に金属アルミニウムを還元材として用いることにより、還元材と溶融スラグとの反応による発熱量を大幅に増加させることができ、反応容器内における溶融スラグの温度を保持することが可能になる。このため、酸化マンガンの還元反応を安定して進行させることができ、優れたマンガン回収効率で、安定してマンガン系合金鉄を製造することができる。さらに、この方法に従えば、生成されるマンガン系合金鉄中に、酸化アルミニウムやアルミナといった金属アルミニウム由来の不純物を残留させることなく、マンガン系合金鉄中のケイ素含有量を所望の範囲に制御することができる。ここで、本発明方法で生成されるマンガン系合金鉄とは、特には、シリコマンガンと呼ばれる品種(鉄−マンガン−シリコンの合金)をいう。
【0017】
以下、本発明の種々の実施形態について説明する。
【0018】
本発明において、出発原料となる副生スラグは、例えば、高炭素フェロマンガン、中炭素フェロマンガン又は低炭素フェロマンガンを電気炉等にて製造する際に副生する溶融スラグを使用することが出来る。
【0019】
ケイ素を含有する合金鉄は、例えば、金属シリコン、フェロシリコン、シリコマンガン、カルシウムシリコン、アルミニウム−シリコン合金等を使用することが出来る。これらのケイ素を含有する合金鉄は、単独で使用することもできるし、2種類以上を混合して使用することもできる。
【0020】
溶融スラグとケイ素を含有する合金鉄及び金属アルミニウムを含む還元材とを攪拌することにより生じる還元反応は、主に、マンガン酸化物(例えば、MnO)とケイ素(Si)及び金属アルミニウム(Al)との発熱反応である。特に、マンガン酸化物と金属アルミニウムとの反応は、アルミテルミット反応としてよく知られており、大きな発熱を起こす。マンガン酸化物としてMnOと、Si及びAlとの熱化学方程式をそれぞれ以下に示す。
【0021】
2MnO+Si→2Mn+SiO2+34kcal …(1)
3MnO+2Al→3Mn+Al23+124kcal …(2)
上記の反応で発生する熱量は、式(1)の反応ではSiの単位質量当たり1.2kcalであり、式(2)の反応ではAlの単位質量当たり2.3kcalである。これから、AlはSiと比較して単位質量当たり約2倍の熱量を発生させることが分かる。
【0022】
本発明者らが、更に詳細に上記反応について研究した結果、マンガン酸化物と金属アルミニウムとのテルミット反応は、1000℃以上の温度で急激に進行することが明らかとなった。従って、溶融スラグが1200℃以上であれば、室温の金属アルミニウムを投入した場合でも、酸素ガス等の燃焼剤を必要とせず瞬時にアルミテルミット反応が起こり、溶融スラグの温度を上昇させることができる。スラグ温度の上昇は、ケイ素を含有する合金鉄による還元反応を促進し、マンガン系合金鉄の生成効率を向上させることになる。
【0023】
金属アルミニウムの投入量は、次の要因を考慮して決定することができる。
【0024】
第一の要因は、製造するマンガン系合金鉄の品位である。還元材の投入量によって製造するマンガン系合金鉄中に含有されるケイ素の量を制御することが出来る。一般的には、ケイ素含有量がおよそ5質量%から30質量%のシリコマンガンが製造されている。ケイ素含有量を多くする場合には、室温、すなわち低温のケイ素を含有する合金鉄の投入量が多くなるため、発熱量の大きい金属アルミニウムの量を増やすことが好ましい。また、ケイ素含有量を少なくする場合には、高価な金属アルミニウムの量を減らすことが好ましい。
【0025】
第二の要因は、反応容器に装入された溶融スラグの温度である。温度が低い場合には、還元反応を効率よく進行させるために、金属アルミニウムの量を増やすことが好ましく、逆に、溶融スラグの温度が高い場合には、過度に温度が上昇することが無いように、金属アルミニウムの量を減らすことが好ましい。
【0026】
種々の製造条件で詳細な検討を行なった結果、金属アルミニウムの投入量を、還元材の総量の5質量%〜25質量%の範囲とすることが効果的であることが判明した。金属アルミニウムの投入量が5質量%未満の場合には、金属アルミニウムの反応による発熱効果が明確に発現しない恐れがある。一方、金属アルミニウムの投入量が25質量%を超える場合には、過度にスラグ温度が上昇し、反応容器内壁に設けられた耐火物や撹拌ガス噴出用のノズルを溶損させる恐れがある。また、酸化アルミニウム(Al23)の生成量が増加するため、スラグにこれが溶け込み、スラグの粘性が上昇し、生成したマンガン系合金鉄がスラグの中を沈降し難くなる。これにより、短時間で効率的にマンガン系合金鉄を回収できなくなる恐れがあるだけでなく、マンガン系合金鉄がスラグ中で攪拌されて球状となり、スラグ中に浮いたままスラグと共に廃棄される恐れもある。なお、酸化シリコン(SiO2)は、スラグの粘性を下げる傾向がある。金属アルミニウムの投入量のさらに好ましい範囲は、還元材の総量の8〜20質量%である。金属アルミニウムの投入量をこの範囲内とすれば、マンガン系合金鉄の生成効率を特に良好にすることができる。
【0027】
また、金属アルミニウムとして、廃棄物等から再生された粒子状のものを使用すると、反応の進行が速くなるだけでなく、低価格であることから製造コストを低減することができ、好適である。例えば、アルミニウム箔を焼いた後に機械加工で球状としたもの、アルミニウム缶を裁断後乾燥し機械加工で丸めたものなどは、球状で、かつ表面積が大きいため反応性が良く、特に好適である。また、再生アルミニウム塊を溶解後、粉砕して粒状化したものも、表面積が大きくなるため反応性が良い。粒子状金属アルミニウムの好ましい平均粒径の範囲は、1〜10mmである。
【0028】
さらに、金属アルミニウムとして、アルミニウムを溶解した時に発生するアルミ灰(アルミドロス)も使用することができる。アルミ灰は金属アルミニウムの含有量が低いものが多いが、金属アルミニウムを60質量%以上含有しているものであれば、還元材として使用することが出来る。また、金属アルミニウムとケイ素との合金や混合物も、ケイ素を含有する合金鉄と共に還元材として使用することが出来る。
【0029】
溶融スラグ及び還元材の攪拌方法としては、例えば、高速噴出される不活性ガスを用いる方法、回転する攪拌羽を用いる方法、反応容器を振動させる方法などを挙げることができる。中でも、溶融スラグ中に設けられたノズルから不活性ガスを高速で噴出させて溶融スラグと還元材とを攪拌する方法が好ましい。この不活性ガスを用いる方法は、撹拌羽を用いる方法に比べて反応容器内の装入物を均一に攪拌することができるため、マンガン系合金鉄の生成効率を向上させることができると共に、金属アルミニウムによる溶融スラグの局所的な過度の昇温を防ぎ、反応容器等の損傷を防止することができる。
【0030】
反応容器を振動させる方法は、不活性ガスを用いる方法に比べて貯留できる溶融スラグ量が少なくなるため、生成効率が低下する恐れがあると共に、反応容器内壁への負荷が大きくなる恐れもある。不活性ガスによる撹拌方法は、溶融スラグの表面を波立たせることができ、投入した還元材と溶融スラグとの速やかな反応を促進させることができるため、好適である。また、ガスの噴出量を変化させることにより状況に合わせて撹拌力を適正に制御できるという利点も有する。不活性ガスとしては、窒素ガスが最適である。不活性ガスの噴出量は、5〜15Nm3/分の範囲とすることが好ましく、不活性ガスの噴出圧力は、1〜2MPaの範囲とすることが好ましい。
【0031】
反応スラグ(反応容器内の装入物のうち、生成したマンガン系合金鉄を除く残部)の好ましい温度範囲は、1410〜1520℃程度である。ここで、反応スラグ温度とは、還元材と溶融スラグとを十分に攪拌した後、反応スラグの温度がほぼ一定になったときの温度である。溶融スラグと還元材とを攪拌したときの温度が高いほど反応速度は速くなり、反応スラグの温度が高くなると共に、粘性が低くなる。従って、反応スラグが高温の場合には、マンガン系合金鉄の生成が速くなるだけでなく、反応スラグと生成したマンガン系合金鉄とが比重差で速やかに上下に分離するため生産効率が向上し、またMn回収率も向上する傾向がある。しかし、反応スラグが1520℃を超える高温になるような反応を行うと、反応容器や攪拌ガス噴出用ノズルの耐火物が損傷し、安定した製造が行えなくなる恐れがある。特に、ストローのような形状の攪拌ガスのノズルは高温では損傷が激しく、寿命が極端に短くなることがある。このため、反応スラグの温度は、生産性と耐火物の耐久性とのバランスを考えて決定することが望ましい。反応スラグのさらに好ましい温度範囲は、1430〜1480℃程度である。この温度範囲とすると、生産効率を最も良好にすることができる。但し、生産するマンガン系合金鉄の品種によって、反応スラグの好ましい温度範囲は異なることから、この温度範囲に限定されるものではない。
【0032】
還元材の投入量(ケイ素を含有する合金鉄及び金属アルミニウムの合計量)は、溶融スラグ中のMn含有量、還元材中の金属アルミニウムの比率及びマンガン系合金鉄の目標品位に依存し、例えば、溶融スラグに対して8質量%〜20質量%の範囲とすることができる。しかしながら、還元材の投入量はこの範囲に限定されるものではなく、Mn含有量を計測し、金属アルミニウムの比率を規定し、これらの結果から所定の反応式に従って理論量を計算し、その結果の値に操業状況を加味した補正値を加えることにより、最終的な投入量を決定することができる。例えば、シリコン含有量の高いマンガン系合金鉄を製造する際には、ケイ素を含有する合金鉄及び金属アルミニウムの投入量が増加するため、還元材の投入量も増加する。また、マンガン回収率を特に向上させる必要がある際にも、還元材の投入量を増加させる傾向がある。一方、シリコン含有量の低いマンガン系合金鉄を製造する際や、シリコン価格が高騰した場合などに安価なマンガン系合金鉄を製造する必要がある場合には、還元材の投入量を減少させることが望ましい。
【0033】
本発明に従って副生スラグからマンガン系合金鉄を製造するために用いられるマンガン系合金鉄製造装置の一例を図1に示す。
【0034】
図1に示すように、マンガン系合金鉄製造装置は、ケイ素を含有する合金鉄を収容するための貯槽10、金属アルミニウムを収容するための貯槽11及び炉外製錬を行なうための耐火物が内貼りされた反応容器14を具備している。反応容器14内には電気炉で副生した溶融スラグが貯留される。反応容器14の上部開口には蓋17が設けられており、この蓋17には排気口22が設けられている。
【0035】
反応容器14の下部には反応スラグ排出口16が設けられており、そのさらに下方にはマンガン系合金鉄排出口15が設けられている。窒素ガス供給装置18から伸びた窒素ガス噴出用ノズル18aが蓋17を貫通して反応容器14の内部に挿入されており、そのノズル18aの先端部は撹拌を行なうために溶融スラグ等の装入物の中に浸漬されている。窒素ガス噴出用ノズル18aは耐火物で被覆されたものであり、例えば、ランスを使用することができる。窒素ガス噴出用ノズル18aは、その噴出口が反応容器14内の底部近傍に位置するように設置することが好ましく、また、複数設置することもできる。
【0036】
反応容器14の蓋17には投入ホッパー13が備えられており、貯槽10に収容されたケイ素を含有する合金鉄及び貯槽11に収容された金属アルミニウムが投入コンベア12によって投入ホッパー13に送られ、投入ホッパー13から反応容器14内に投入されるようになっている。
【0037】
このようなマンガン系合金鉄製造装置を使用して、副生スラグからマンガン系合金鉄を製造する際には、例えば、以下に説明するように行うことができる。
【0038】
まず、図示しない電気炉から反応容器14へ溶融スラグを装入する。その際、溶融スラグの質量、温度及びマンガン含有量を計測する。これらの計測結果から必要な還元材の量を決定し、この量に応じてケイ素を含有する合金鉄と金属アルミニウムとをそれぞれの貯槽10,11から抜き出し、投入コンベア12により投入ホッパー13へと送給し、反応容器14内へと投入する。同時に、窒素ガス供給装置18から窒素ガスを供給し、スラグ中に浸漬されたノズル18aより窒素ガスを高速で噴出させる。これにより発生する窒素ガス泡沫21によって溶融スラグと還元材とを撹拌し、還元反応を進行させる。所定量の還元材を全て投入し終えてから、およそ5分間撹拌を続ける。撹拌時間は、狙いとするマンガン系合金鉄の品位と溶融スラグ量等の製造条件により決定される。通常は、還元材投入後、5分間〜10分間撹拌を続けることが好ましい。
【0039】
この反応により生成されたメタルは、溶融スラグと還元材との混合物(反応スラグ20)中を沈降し、反応容器14の底部にマンガン系合金鉄19として貯留する。撹拌が終了した後、排出口16から反応スラグ20を排出し、排出口15からマンガン系合金鉄19を回収する。
【0040】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【0041】
[実施例]
次に、本発明を実施例によってより詳細に説明する。
【0042】
(実施例1)
図1に示すマンガン系合金鉄製造装置を用いて、以下に説明するように、マンガン系合金鉄としてシリコマンガンを製造した。
【0043】
高炭素フェロマンガンを電気炉で製造した際に副生した溶融スラグ10,000kg(10トン)を、溶融スラグの貯留能力が20トンの反応容器に装入した。装入した溶融スラグの温度及びマンガン含有量を計測し、その結果を表1に示す。さらに、この反応容器に、還元材として室温の金属シリコン(Fe;0.8質量%,Si;96.8質量%)870kg及び金属アルミニウム(Al;97.0質量%)200kgを投入した。金属アルミニウムには、アルミニウム箔から再生された直径1〜2mmの粒子状のものを使用した。このときの還元材中の金属アルミニウムの比率を表1に示す。なお、金属シリコン投入量は目的とするシリコマンガン組成に合わせて決定し、金属アルミニウム投入量は決定された金属シリコン投入量に合わせて決定した。
【0044】
還元材の投入中及び投入後、溶融スラグ中に挿入された撹拌用のノズルから窒素ガスを噴出させることによって、溶融スラグ及び還元材の撹拌を行なった。窒素ガスの噴出圧力は1.5MPaとし、噴出量は10Nm3/分とした。また、撹拌時間は、還元材の投入後10分間を標準としたが、反応が激しく、溶融スラグ温度が著しく上昇する様子が観察されたので時間を短縮し、還元材投入後5分間攪拌した後停止した。その後、生成されたシリコマンガンを反応容器から回収すると共に、反応スラグを回収した。
【0045】
(実施例2〜7)
表1に示す質量、温度及びMn含有量の溶融スラグを用いて、金属アルミニウムの投入量、金属シリコンの投入量、還元材中の金属アルミニウムの比率及び攪拌時間を表1に示す値とした以外には、実施例1と同様にしてシリコマンガンを製造した。
【0046】
(実施例8)
表1に示す質量、温度及びMn含有量の溶融スラグを用いて、金属アルミニウムの投入量、金属シリコンの投入量及び還元材中の金属アルミニウムの比率を表1に示す値とした。また、窒素ガスを用いて攪拌する代わりに、耐火物で作製された撹拌羽を溶融スラグ中に挿入し、一分間に50回転の速度で回転させて溶融スラグと還元材とを攪拌した。このとき、攪拌時間は表1に示す時間とした。これらのこと以外には、実施例1と同様にしてシリコマンガンを製造した。
【0047】
(比較例1)
表1に示す質量、温度及びMn含有量の溶融スラグを用い、金属シリコンの投入量及び攪拌時間を表1に示す値とし、金属アルミニウムを投入しなかったこと以外には、実施例1と同様にしてシリコマンガンを製造した。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1〜8及び比較例1で得られたシリコマンガンの質量、Mn含有量及びSi含有量を表2に示す。また、回収した反応スラグ中のMn含有量を測定し、この結果を表2に併記した。さらに、溶融スラグ中に含まれるマンガンの質量(kg)に対するシリコマンガン中に含まれるマンガンの質量(kg)の比を、Mn回収率として表2に併記した。
【0050】
また、攪拌終了後、回収前に反応スラグの温度を計測し、この結果を表2に示す。さらに、この反応スラグの温度(℃)から溶融スラグの温度(℃)を差し引いた値を、温度変化△T(デルタT)として表2に併記した。
【0051】
【表2】

【0052】
表1,2から明らかなように、本発明に従う実施例1〜8の方法は、Mn回収率が高く、溶融スラグ中のマンガンを効率良く回収してシリコマンガンを製造することができた。また、反応後のスラグ温度も1412℃〜1514℃と高く、安定した製造が可能であった。さらには、実施例1〜5から明らかなように、還元材(金属シリコン,金属アルミニウム)の投入量を調整することにより、シリコマンガン中のシリコン含有量を14質量%〜30質量%の範囲で制御可能であった。
【0053】
実施例1で用いた溶融スラグは、1350℃と標準的な温度であったものの、溶融スラグ量は10トンであり、反応容器の貯留能力の半分(通常操業の半分程度)と少なかった。それにも拘わらず、還元材の19%に相当する金属アルミニウムを投入することにより、溶融スラグ温度を十分に上げることができ、その結果、高いMn回収率を実現できた。
【0054】
実施例2〜4の結果から、温度が1342℃〜1375℃と広範囲にわたる溶融スラグを、12,040kg〜16,090kgの範囲で使用した際にも、金属アルミニウムを投入すれば十分な昇温が可能であり、優れたMn回収率を実現できることが確認できた。
【0055】
また、還元材中の金属アルミニウムの比率を5質量%〜25質量%の範囲内とした実施例1〜4の方法では、金属アルミニウムの比率がこの範囲から外れる実施例6,7に比較して高いMn回収率が得られた。これは、金属アルミニウムの比率をこの範囲内とすることにより、酸化アルミニウム(Al23)が過剰に生成するのを抑制しつつ、発熱量を高くすることができたためと考えられる。すなわち、実施例1〜4では、還元反応を十分に行わせる条件と生成したシリコマンガンを反応スラグから分離する条件の両方を最適にすることができたため、Mn回収率を向上することができたものと考えられる。
【0056】
窒素ガスを用いて攪拌を行った実施例1〜4では、攪拌羽を用いた実施例8に比較してMn回収率を向上できた。これは、窒素ガスを用いることにより、より均一に溶融スラグと還元材とを攪拌することができ、溶融スラグ中のマンガン酸化物と金属シリコン及び金属アルミニウムとの反応を促進できたためと考えられる。
【0057】
実施例5では、溶融スラグの質量が10,090kgと少量で、その温度も実施例1〜4の溶融スラグよりも50℃近く低い1308℃であったにも拘わらず、高いMn回収率でシリコマンガンを製造できた。これは、還元材中の金属アルミニウムの比率を実施例1〜4に比較して高くしたため、十分に昇温して温度を維持させることができ、還元反応を促進できたことから、Mn回収率の向上と安定した製造が可能であったものと考えられる。
【0058】
これに対して、比較例1の方法では、実施例1〜8の方法に比較して反応後のスラグ温度が低く、Mn回収率が低下した。特に、比較例1では、温度が1300℃程度の溶融スラグの装入量を10トン程度として、実施例5と同等の製造条件としたにも拘わらず、比較例5に比べて温度上昇が小さく、大幅にMn回収率が低下していた。これは、比較例1では、反応容器内の総熱量が少なかったため、冷たい金属シリコンを投入することにより、スラグ温度がさらに低下し、還元反応が十分に進行しない状況になったため、反応熱によるスラグの昇温が十分に行われず、Mn回収率が低下したものと考えられる。比較例1のような場合、金属シリコンを更に増やしても、反応が進行し難くなっているため、反応スラグの温度が更に下がり、反応容器内で凝固することがある。また、比較例1のように還元反応が停滞した状態で攪拌を継続した場合にも、温度低下が促進されて上記のような問題が発生する恐れがある。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、フェロマンガンの製造時に副生する溶融スラグからマンガン系合金鉄を製造する際に、還元材としてケイ素を含有する合金鉄と共に金属アルミニウムを使用することにより、安定した操業が可能になると共に、溶融スラグ中のマンガンを効率よく回収することができることから、エネルギーや資源の有効活用を図ることができ、安価で高品質のマンガン系合金鉄を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に従って副生スラグからマンガン系合金鉄を製造するために用いられるマンガン系合金鉄製造装置の一例を示す図。
【符号の説明】
【0061】
10…ケイ素を含有する合金鉄の貯槽、11…金属アルミニウムの貯槽、12…投入コンベア、13…投入ホッパー、14…反応容器、15…マンガン系合金鉄排出口、16…反応スラグ排出口、17…蓋、18…窒素ガス供給装置、18a…窒素ガス噴出用ノズル、19…マンガン系合金鉄層、20…反応スラグ層、21…窒素ガス泡沫、22…排気口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェロマンガンの製造時に副生する溶融スラグを反応容器に貯留し、前記溶融スラグ中に、ケイ素を含有する合金鉄と金属アルミニウムとを含む還元材を投入して撹拌し、前記溶融スラグ中に含まれるマンガン酸化物の少なくとも一部を還元することを特徴とする副生スラグからのマンガン系合金鉄の製造方法。
【請求項2】
前記金属アルミニウムを、前記還元材の総量に対して5質量%〜25質量%の割合で投入することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属アルミニウムが、廃棄物から再生されたものであり、かつ粒子状の形態にあることを特徴とする請求項1又は2のいずれか一方に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応容器内の装入物中に設けられたノズルから不活性ガスを高速で噴出させることにより、前記溶融スラグと前記還元材とを攪拌することを特徴とする請求項1ないし3のうちのいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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