説明

副生成物の少ない脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの製造方法

【課題】本発明は、アルキレンオキシドの付加モル分布が狭く、かつ副生成物としてのポリアルキレングリコールの発生量を抑制できる、脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】アルカリ金属の炭酸塩、ケイ酸塩及びカルボン酸塩並びに分子量が1000未満の有機アミン及びその4級塩から選択される塩基性物質と共存させた焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒の存在下で、脂肪酸エステルにアルキレンオキシドを付加反応させる工程を含む脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属の炭酸塩、ケイ酸塩及びカルボン酸塩並びに分子量が1000未満の有機アミン及びその4級塩から選択される塩基性物質と共存させた焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒の存在下で、脂肪酸エステルにアルキレンオキサイドを付加させて、脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸エステルのアルキレンオキシド付加物は、エステル型の非イオン界面活性剤として知られており、各種工業分野において乳化剤、分散剤等として使われている。脂肪酸エステルにアルキレンオキシドを直接付加させる反応を行う固体触媒として、焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒が知られている。前記触媒を使用して脂肪酸エステルにアルキレンオキシドを付加させた場合、生成物のアルキレンオキシドの付加モル数分布が広くなり、多くの未反応の脂肪酸エステルが残存する。この付加モル数分布を狭くし、未反応分の残存を抑制する触媒として、前記触媒を金属水酸化物や金属アルコキシドで処理した触媒が知られている(特許文献1)。
このような、金属水酸化物や金属アルコキシドで処理した焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒を用いて脂肪酸エステルにアルキレンオキシドを直接付加させる反応を行った場合、狭い付加モル数分布のアルキレンオキシド付加物が得られるが、分子量数万のポリアルキレングリコールが多量に生成するという問題があった。この問題を解決するため、6A族、7A族および8族から選ばれる少なくとも1種の金属と、マグネシウムと、アルミニウムとを含有する球状の金属酸化物粒子であるアルコキシル化用触媒が検討されている(特許文献2)。
しかし、既存の触媒を用いて脂肪酸エステルにアルキレンオキシドを付加させる場合、副生成物であるポリアルキレングリコールの発生を充分に抑えつつ、アルキレンオキシドの付加モル分布の幅の狭い脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを得る事は難しく、特にプロピレンオキシドを付加反応させる場合には、副生したポリプロピレングリコールはろ過による除去ができないために問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−169861号公報
【特許文献2】特開2001−314765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、副生成物であるポリアルキレングリコールの発生量を抑制できる、アルキレンオキシドの付加モル分布が狭い脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの製造方法及びこの方法で使用する触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等が鋭意検討した結果、特定の塩基性物質と共存させたマグネシウム・アルミニウム触媒を用いることで、上記目的が達成できることを見出した。
すなわち、本発明は、
アルカリ金属の炭酸塩、ケイ酸塩及びカルボン酸塩並びに分子量が1000未満の有機アミン及びその4級塩から選択される塩基性物質と共存させた焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒の存在下で、脂肪酸エステルにアルキレンオキシドを付加反応させる工程を含む下記式(1)で表される脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの製造方法に関する;
1COO(AO)n2 ・・・(1)
(式中、R1は炭素数5〜21の一価の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐の炭化水素基であり、Aは炭素数2〜4のアルキレン基であってnが1より大きい場合は同一又は異なるものであって良く、R2は炭素数1〜8の一価の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐の炭化水素基であり、nは1≦n≦20である)。
また、本発明は、焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒をアルカリ金属の炭酸塩、ケイ酸塩及びカルボン酸塩並びに分子量が1000未満の有機アミン及びその4級塩から選択される塩基性物質で処理して成る脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの製造用触媒に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来の方法と比べて副生成物であるポリアルキレングリコールの発生量を抑制しつつ、アルキレンオキシドの付加モル数分布が狭い脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを製造できる。特に本発明では、プロピレンオキシドを使用した場合に発生するポリプロピレングリコールの発生量を抑制できる点で有利である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(A)焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒
本発明で用いる焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒とは、下記の式(2)で表わされる触媒、又は下記式(3)で示されるハイドロタルサイトを焼成して得られる触媒が好ましいものとしてあげられる。
nMgO・Al23・mH2O (2)
(nは2〜18、好ましくは2〜8、特に好ましくは2.5であり、mは0〜20であり、0〜12が好ましい)
〔Mg2+1-xAl3+x(OH)2X+〔An-1x/n・mH2O〕x- (3)
(xは0.1≦x≦0.5であり、0.25≦x≦0.45が特に好ましく、An-1は、CO32- 、 SO4-2、OH- 、 NO3- 、Fe(CN)63- 又はCH3COO- から選択される陰イオンを表す。)
焼成温度は400〜950℃が好ましく、400〜900℃がより好ましい。焼成時間は0.5〜12時間が好ましく、1〜5時間がより好ましい。
【0008】
焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒として、例えば特開平2−71841号公報に記載されているような焼成ハイドロタルサイト、特開平8−268919号公報に記載された水酸化アルミニウム・マグネシウム焼成物等のAl−Mg系複合酸化物触媒などが使用できる。
これらの触媒の内、Al/Mgモル比が0.1/0.9〜0.5/0.5、さらには0.25/0.75〜0.45/0.55である触媒を使用することが好ましい。Al/Mgモル比を0.1/0.9より高くすることにより反応性を高めることができ、0.5/0.5より小さくすることにより副生物の発生量を抑制できる。
【0009】
(B)塩基性物質
アルカリ金属の炭酸塩、ケイ酸塩及びカルボン酸塩並びに分子量が1000未満の有機アミン及びその4級塩から選択される塩基性物質であれば特に制限無く使用できる。アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウムなどが挙げられる。アルカリ金属のケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム、オルソケイ酸ナトリウム等が挙げられる。アルカリ金属のカルボン酸塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム等が挙げられる。分子量が1,000未満の有機アミンとしては、例えば、2−エチルヘキシルアミン、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、3−ラウリルオキシプロピルアミン、オクタデシルアミンなどの1級アミン類、ジイソブチルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、ジベンジルアミン、ジ−n−オクチルアミンなどの2級アミン類、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルラウリルアミンなどの3級アミン類、インドリン、ピロリドン、ピロール、ピラゾール、ピリジン、キノリン、4−ベンジルピリジン、キヌクリジン、イミダゾリンなどの環状アミン類、ポリオキシエチレンヤシアルキルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミンなどのポリオキシアルキレンアルキレンアミン類、N,N−ビス(3−アミノプロピル)ドデシルアミン、N−ヤシアルキル1,3−ジアミノプロパンなど複数のアミノ基を有するポリアミン類、リン原子を含むフォスファゼン型やプロアザフォスファトラン型のアミン類が挙げられる。前記アミンの4級塩は、例えば、塩化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウムなどが挙げられる。これら有機アミンの内でも、1〜3級アミン及び環状アミンを選択することが好ましい。
【0010】
これらの塩基性物質の中で、25℃の水中で生じるその共役酸の酸解離定数(pKa)が9〜12の範囲にある塩基性物質を選択することがより好ましい。このようにpKaの値が9〜12の範囲にある物質は、例えば、トリ−n−オクチルアミン(pKa=10.38)、キヌクリジン(pKa=10.65)、炭酸カリウム(pKa=10.2)、炭酸ナトリウム(pKa=10.2)が挙げられる。酸解離定数(pKa)の測定方法は、特に限定されないが、実験的に調べる方法としては通常の滴定法が挙げられる。また、化学便覧(日本化学会編<丸善株式会社>)等の文献から文献既知のpKaを調べることも可能であり、化合物の構造から、ACD/pKa DB等の計算ソフトにより算出することも可能である。
また後述する水分除去の工程を行う場合には、これらの塩基性物質のうち沸点150℃を超える塩基性物質を使用することが好ましく、このような塩基性物質として、例えば、炭酸カリウムや炭酸ナトリウム等の炭酸塩、嵩高いアルキル基(例えば、炭素数6〜18のアルキル基)を有するアミン、例えば、2−エチルヘキシルアミン、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、3−ラウリルオキシプロピルアミン、オクタデシルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、ジベンジルアミン、インドリン、ピロリドン、ジ−n−オクチルアミン、ピラゾール、トリ−n−オクチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルラウリルアミン、キノリン、4−ベンジルピリジン、トリエタノールアミン、キヌクリジン、ポリオキシエチレンヤシアルキルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、N,N−ビス(3−アミノプロピル)ドデシルアミン、N−ヤシアルキル1,3−ジアミノプロパンなどを選択することが好ましい。
【0011】
(C)脂肪酸エステル
出発原料として用いられる脂肪酸エステルは、下記式(4)で表される化合物である。
1COOR2 ・・・(4)
式中、R1は炭素数5〜21、好ましくは7〜19、より好ましくは11〜17の一価の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐の炭化水素基である。R2は炭素数1〜8、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4の一価の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐の炭化水素基である。 これら脂肪酸エステルとして、例えばヘプタン酸メチル、ヘプタン酸エチル、ヘプタン酸イソプロピル、ヘプタン酸イソブチル、ヘプタン酸−2−エチルヘキシル、カプリン酸メチル、カプリン酸エチル、カプリン酸イソプロピル、カプリン酸イソブチル、カプリン酸−2−エチルヘキシル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸イソブチル、ラウリン酸−2−エチルヘキシル、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソブチル、ミリスチン酸−2−エチルヘキシル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソブチル、パルミチン酸−2−エチルヘキシル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸イソプロピル、ステアリン酸イソブチル、ステアリン酸−2−エチルヘキシル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸イソブチル、オレイン酸−2−エチルヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソプロピル、リノール酸イソブチル、リノール酸−2−エチルヘキシル、リノレン酸メチル、リノレン酸エチル、リノレン酸イソプロピル、リノレン酸イソブチル、リノレン酸−2−エチルヘキシルが使用できる。またこれらの内、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸イソブチル、ラウリン酸−2−エチルヘキシル、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソブチル、ミリスチン酸−2−エチルヘキシル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソブチル、パルミチン酸−2−エチルヘキシル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸イソプロピル、ステアリン酸イソブチル、ステアリン酸−2−エチルヘキシル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸イソブチル、オレイン酸−2−エチルヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソプロピル、リノール酸イソブチル、リノール酸−2−エチルヘキシルを使用することが、入手の容易さ及び製造時に取り扱いが容易である点から好ましい。さらに、これらの内でも、ラウリン酸メチル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸イソブチル、ラウリン酸−2−エチルヘキシル、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソブチル、ミリスチン酸−2−エチルヘキシル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソブチル、パルミチン酸−2−エチルヘキシル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸イソプロピル、ステアリン酸イソブチル、ステアリン酸−2−エチルヘキシルが、分子中に二重結合が少なく、酸化安定性に優れる化合物が得られるためより好ましい。このような脂肪酸エステルの市販品として、例えば、パステルM−12、パステルM−14、パステルM−16、パステルM−180、パステルM−181、パステルM−182、パステル2H−08、パステル2H−16(以上ライオン(株)製品)が使用できる。本発明においては、上記の様な脂肪酸エステルを単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0012】
(D)アルキレンオキシド
付加重合されるアルキレンオキシドとしては、炭素数2〜4(Aの炭素数2〜4)のものが好ましく、特に炭素数2〜3のエチレンオキシド、プロピレンオキシドが好ましい。上記アルキレンオキシドは、それぞれ単独で又は2種以上の混合物として使用できる。本発明の方法では、特にプロピレンオキシドを使用した場合に、副生成物であるポリプロピレングリコールの発生量を抑制できる点で有利である。
【0013】
(E)脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの製造方法
本発明の製造方法は、触媒とアルカリ金属の炭酸塩、ケイ酸塩及びカルボン酸塩並びに分子量が1000未満の有機アミン及びその4級塩から選択される塩基性物質を共存させてアルキレンオキシドの付加反応を行うことを特徴としている。このように触媒と塩基性物質を共存させる方法は、反応を行う容器中に触媒と塩基性物質を添加する方法を採用することができるが、以下に説明するように、触媒を前もってアルカリ金属の炭酸塩、ケイ酸塩及びカルボン酸塩並びに分子量が1000未満の有機アミン及びその4級塩から選択される塩基性物質で処理して、このような処理した触媒を付加反応において使用する方法も採用できる。
このような焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒の処理方法は、特に限定されないが焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒に、前記塩基性物質の水溶液(溶液濃度は、触媒に対する塩基性物質の量、使用する装置の種類その他条件により変わり得るが、例えば10〜60質量%の溶液を用いる)を噴霧した後、乾燥(100℃〜120℃で30〜180分)する方法が好適に使用しうる。尚、前記水溶液は、エタノール、メタノール及びプロパノール等のアルコール又はOH基を含まないアセトンなどのケトン系の溶媒を含んでいても良い。
【0014】
本発明の反応は、通常の操作手順および反応条件の下で容易に行なうことができる。反応温度は80〜230℃、好ましくは120〜180℃である。また、反応圧力は反応温度にもよるが0〜2MPa、好ましくは0.2〜0.8MPaである。触媒の使用量は、反応に供されるアルキレンオキシドと脂肪酸エステルとのモル比によっても変わるが、通常は脂肪酸エステル量の0.1〜10質量%が好ましい。
本発明の反応は、例えばオートクレーブ中に脂肪酸エステルと前記のように処理した触媒とを仕込み、脱ガス、脱水処理した後、窒素雰囲気中、所定の温度、圧力条件下でアルキレンオキシドを添加して反応させ、次いで反応液を冷却し、触媒を濾別することにより行なうことができる。
また、他の方法として、オートクレーブ中に脂肪酸エステル、焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒及び塩基性物質を添加、混合し、上記のように、脱ガス、脱水処理を行ない、次いで所定の反応温度、圧力、雰囲気下でアルキレンオキシドを付加重合し、さらに反応液を冷却、触媒を分離することによっても行なうことができる。この方法において、原料脂肪酸エステル、焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒並びに塩基性物質の添加順序は特に限定されない。この際、塩基性物質を低級アルコールや各種溶媒に塩基性物質を分散させた溶液として添加することが、触媒表面活性点をより均質に、かつより選択的に改質できるため好ましい。
本発明の方法において、焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒100質量部に対する前記塩基性物質の量は、1から20質量部が好ましく、3〜15質量部がより好ましく、5〜12質量部がさらに好ましい。塩基性物質の量を1質量部以上にすることで、活性点であるAlに対して充分に作用し、ポリアルキレングリコールの生成を抑制できる。また塩基性物質の量を20質量部以下にすることで、活性点であるAlへの改質が過度になることを防ぎ、アルキレンオキシドの付加反応を過度に抑制することを防止できる。
【0015】
アルキレンオキシドを付加する前に、反応系の水分量を60ppm以下とすることで、副生成物(ポリアルキレングリコール)の生成と、不溶性であるポリアルキレングリコールによる液外観の濁りとをより効率的に抑制できる。本発明者等の検討により、水分量を調整するだけでもポリアルキレングリコールの生成量をある程度抑制できることがわかった。従って、本発明の製造方法に、水分量を調整する工程を加えることも、ポリアルキレングリコールの生成量を抑制するのに有効である。
アルキレンオキシドを付加させる前の反応系の水分量を200ppm以下、さらにより好ましくは水分量60ppm以下とすることで副生成物であるポリアルキレングリコールの発生量を抑制し、液外観の透明さを維持できる。
アルキレンオキシド付加前の水分量を60ppm以下とすることで、副反応の出発物質であるOH基を低減させ、副生物のより効率的な低減が可能となる。アルキレンオキシド付加前の水分量を60ppm以下にする脱水方法としては特に限定されないが、以下のようなものが好ましい。
(a)減圧度が0.4KPa以下の高減圧度での脱水方法。温度はできるだけ高温が好ましいが、例えば60℃以上で目標水分値となるまで実施する。
(b)160℃以上の高温での脱水方法。減圧度はできるだけ低い方が好ましいが、例えば1.3KPa以下で目標水分値となるまで実施する。
(c)エタノールを添加し、水との共沸混合物を形成した後に蒸留により脱水する方法。温度は共沸混合物の沸点付近、蒸留時の圧力は常圧が好ましいが、例えば温度は50℃〜120℃で目標水分値となるまで実施する。
(d)N2を用いたバブリングによる脱水方法。例えば温度は40℃〜150℃、圧力は+13.3KPa以下で目標水分値となるまで実施する。
(e)N2を0.1MPaまで導入し、続いて1.0KPa以下まで減圧する操作により、N2と水を同伴させて除去する脱水方法。例えば温度は60℃〜150℃、N2導入圧力は0.2MPa以下、減圧度は1.0KPa以下で目標水分値となるまで実施する。
これらの方法の内、(a)、(d)及び(e)の方法を使用することが、品質に影響を及ぼすことなく、比較的安価に目標水分量まで脱水させることが可能であるため、好ましい。
【0016】
(F)得られる脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテル
本発明の方法により、下記式(1)で表される化合物を得ることができる。

1COO(AO)n2 ・・・(1)

式中、R1は炭素数5〜21、好ましくは7〜19、より好ましくは11〜17の一価の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐の炭化水素基である。Aは炭素数2〜4、好ましくは炭素数2〜3、より好ましくは3のアルキレン基であり、nが1より大きい場合は同一又は異なるものであって良い。R2は炭素数1〜8、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4の一価の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐の炭化水素基である。
nは、1≦n≦20、好ましくは3≦n≦12、より好ましくは5≦n≦9である。nが1以上であることにより、未反応の脂肪酸エステルの残存量が少なく、臭気の問題を生じることも少ないので好ましい。nが20以下であることにより、生成物の分子量が過度に高くなる事による粘度の過度な上昇を抑えることができ、固体触媒を取り除く精製工程において、濾過時間を短縮し、ろ過回数を減らす事により、製造原価を抑えることができるので好ましい。
1が炭素数11〜17の一価の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐の炭化水素基であり、Aが炭素数2〜3のアルキレン基であってnが1より大きい場合は同一又は異なるものであって良く、R2が炭素数1〜8の一価の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐の炭化水素基であり、nが1≦n≦20であることが、原料である脂肪酸エステルおよびアルキレンオキシドの入手が容易であるため、より好ましい。また、R1が炭素11〜17の直鎖又は分岐の一価の飽和又は不飽和炭化水素基であり、Aが同一又は異なるものであって良い炭素数2〜3のアルキレン基であり、R2が炭素数1〜8の直鎖又は分岐の一価の飽和又は不飽和炭化水素基であり、nが3≦n≦12であることがより好ましい。
【0017】
本発明の方法により、アルキレンオキシドの付加モル数分布が狭い脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが製造できる。ここで、平均付加モル数が同一の場合、付加モル数分布が狭くシャープな分布となるほど、未反応の脂肪酸エステルの残存量が少なくなる。
【0018】
また、本発明の方法を使用することで、副生成物としてのポリアルキレングリコールの発生量を抑制することができる。本発明において、副生成物であるポリアルキレングリコールは、数平均分子量10,000以上のポリアルキレングリコールを意味する。なお、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、ポリエチレングリコールを基準として測定した値である。本発明の方法を使用することにより、副生成物であるポリアルキレングリコールの発生量を、アルキレンオキシドの付加反応後の反応液の全質量に対して、0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下まで抑制できる。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
2.5MgO・Al23・mH2Oのアルミナ・マグネシア複合酸化物(協和化学工業製キョーワード300)を窒素気流下、750℃で3時間焼成し、焼成アルミナ・マグネシア(Al/Mgモル比=0.44/0.56)複合酸化物触媒を得た。4Lオートクレーブに、ラウリン酸メチル(パーム油由来の炭素数12留分由来の脂肪酸メチルエステル、商品名パステルM12、ライオン株式会社製)617gと、前記触媒を14.4g、塩基性物質として、K2CO3粉末(純正化学製試薬、特級)0.80gを仕込み、窒素置換を行った。次いで、原料に含まれる水分を除去するため、100℃まで昇温し、0.4kPaで1h脱水処理を行った。脱水処理後、プロピレンオキシド(PO)付加反応前の水分量は48ppmであった。その後180℃まで昇温して、窒素により反応容器内を常圧に戻し、PO1169g(ラウリン酸メチル1モルに対して7モル相当)を徐々に容器内へ滴下した。滴下終了直後、0.34MPaであった圧力が反応進行とともに低下し、2時間後に圧力0.29MPaで一定となるまでPO付加反応を継続して行った。得られたろ過前の反応液を高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、ポリプロピレングリコール(PPG)はtraceであった。次いで、反応液1350gにハイフロスーパーセル(セライト社製:珪藻土)20.25g(反応液に対し1.5質量%)を添加し、均一に分散させた後、80℃で加圧ろ過を行った。得られたろ過後の反応液を高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、PPGはtraceであり、白濁沈殿物量は2mlであった。また、得られた精製物をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、未反応のラウリン酸メチル残存量は2.1質量%であった。
【0020】
(実施例2)
塩基性物質として、K2CO3粉末1.60gを用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。PO付加前の水分量は54ppmであった。ろ過前のPPGはtraceであり、ろ過後のPPGはtraceであり、白濁沈殿物量は3mlであった。また、未反応のラウリン酸メチル残存量は0.8質量%であった。
【0021】
(実施例3)
塩基性物質として、Na2CO3粉末(純正化学製試薬、特級)0.61gを用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。PO付加前の水分量は44ppmであった。ろ過前のPPGはtraceであり、ろ過後のPPGはtraceであり、白濁沈殿物量は2mlであった。また、未反応のラウリン酸メチル残存量は2.5質量%であった。
【0022】
(実施例4)
塩基性物質として、トリ−n−オクチルアミン(光栄化学工業試薬)2.04gを用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。PO付加前の水分量は53ppmであった。ろ過前のPPGはtraceであり、ろ過後のPPGはtraceであり、白濁沈殿物量は7mlであった。また、未反応のラウリン酸メチル残存量は3.8質量%であった。
【0023】
(実施例5)
塩基性物質として、キヌクリジン(純正化学製試薬、特級)0.64gを用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。PO付加前の水分量は51ppmであった。ろ過前のPPGはtraceであり、ろ過後のPPGはtraceであり、白濁沈殿物量は6mlであった。また、未反応のラウリン酸メチル残存量は2.2質量%であった。
【0024】
(実施例6)
原料脂肪酸メチルエステルとして、オレイン酸メチル(ライオン株式会社製、商品名パステルM−182、ヨウ素価:91)755gとK2CO3粉末1.60g、POを1031g(オレイン酸メチル1モルに対して7モル相当)用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。PO付加前の水分量は51ppmであった。ろ過前のPPGはtraceであり、ろ過後のPPGはtraceであり、白濁沈殿物量は1mlであった。また、未反応のオレイン酸メチル残存量は1.4質量%であった。
【0025】
(実施例7)
原料脂肪酸メチルエステルとして、ラウリン酸メチル724gと、EOを1064g(ラウリン酸メチル1モルに対して7モル相当)用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。EO付加前の水分量は50ppmであった。ろ過前のPEG(ポリエチレングリコール)は0.27質量%であり、ろ過後のPEGはtraceであり、白濁沈殿物量は8mlであった。また、未反応のラウリン酸メチル残存量は1.0質量%であった。
【0026】
(比較例1)
2CO3粉末の代わりに、KOH(純正化学製試薬、特級)の40質量%水溶液0.82gを用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。PO付加前の水分量は50ppmであった。ろ過前のPPGは0.60質量%であり、ろ過後のPPGは0.61質量%であり、白濁沈殿物量は19mlであった。また、未反応のラウリン酸メチル残存量は2.0質量%であった。
【0027】
(比較例2)
2CO3粉末の代わりに、50質量%CsOH水溶液(関東化学製)を1.75g用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。PO付加前の水分量は52ppmであった。ろ過前のPPGは0.76質量%であり、ろ過後のPPGは0.63質量%であり、白濁沈殿物量は40mlであった。また、未反応のラウリン酸メチル残存量は0.4質量%であった。
【0028】
(比較例3)
2CO3粉末の代わりに、28質量%NaOMeメタノール溶液(純正化学製)を1.11g用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。PO付加前の水分量は54ppmであった。ろ過前のPPGは1.45質量%であり、ろ過後のPPGは0.78質量%であり、白濁沈殿物量は15mlであった。また、未反応のラウリン酸メチル残存量は5.2質量%であった。
【0029】
上記のように製造した各実施例及び比較例を、以下の評価方法で評価した。
(1)評価方法
(i)外観
各実施例及び比較例で得られたろ過後の反応液を80℃で30min加熱し、均一に溶解する。その後100mL容比色管(内径25mm×長さ200mm)に100ml採取、20℃に冷却し、72時間経過後の白濁沈殿物の量を比色管目盛りの値で読み取った。
点数 白濁沈殿物量(ml)
5点 0
4点 2〜10
3点 10〜20
2点 20〜50
1点 50以上
【0030】
(2)分析方法
(i)PPG/PEGの定量
反応により副生する高分子PPG(ポリプロピレングリコール)/PEG(ポリエチレングリコール)の定量は下記により行った。これらの高分子量体不純物は外観不良を引き起こすこと、目的物の収率を低下させることから、ゼロに近いことが望ましい。なお、100ppm以下をtraceとした。
(a)副生成物がPPGの場合
標準物質としてPPG10000(旭硝子株式会社製プレミノール、分子量10,000)0.25gを高速液体クロマトグラフィー用THF(純正化学製)25mlで希釈し、濃度1%PPG溶液とした。さらにTHFにより希釈して、濃度を変えたPPG溶液を用いて検量線を作成した。
試料0.25gをTHFで25mlにメスアップし、2000μl注入。得られたピーク高さと検量線から試料中に含まれるPPGの定量を行った。
【0031】
装置条件
高速液体クロマトグラム:PLC−561(GLサイエンス製)
検出器:RI−704(GLサイエンス製)、カラム:Diol(20φ×250mm)、温度:40℃、溶媒:THF(純正化学製 高速液体クロマト用)、流速:5ml/min
【0032】
(b)副生成物がPEGの場合
標準物質としてPEG(Poly ethylene oxide、東ソー製、分子量約45,000)0.15gを分析用アセトニトリル/H2O溶媒10mlで希釈し、濃度1.5%PEG溶液とした。さらに分析用溶媒により希釈して、濃度を変えたPEG溶液を用いて検量線を作成した。
試料0.2gを分析用溶媒10mlで希釈し、200μl注入。得られたピーク高さと検量線から試料中に含まれるPEGの定量を行った。
【0033】
装置条件
高速液体クロマトグラム:検出器:RID−10A(島津製作所製)、カラム:GF−310HQ(昭和電工製)、温度:30℃、溶媒:アセトニトリル/H2O=45/55、アセトニトリル(関東化学製 高速液体クロマトグラフィー用)、蒸留水(和光純薬工業製)、流速:0.6ml/min
【0034】
(ii)未反応脂肪酸メチルエステルの定量
各実施例及び比較例で使用したメチルエステル試料0.5gをアセトン5mlに均一溶解した後、マイクロシリンジを用いて1μl注入し、分析を行った。得られたクロマトグラムの各ピーク面積を用い、未反応脂肪酸メチルエステルを定量した。
【0035】
装置条件
ガスクロマトグラム:HP−5890(ヒューレットパッカード製)、検出器:FID(ヒューレットパッカード製)、カラム:ULTRA−2(長さ25m×ID0.2mm×膜厚0.11μm)、溶媒:アセトン(純正化学製、特級)、温度:初期80℃(2min保持)→昇温(5℃/min)→100℃→昇温(25℃/min)→320℃(20min保持)、スプリットベント流量:50ml/min、パージベント流量:3.5ml/min、スプリット比:1/50、INJECTION:300℃、DETECTOR:320℃
【0036】
(iii)アルキレンオキシドを付加する前の水分量の測定
装置電源を入れ、液を安定させるために約1時間攪拌した。その後、試料約2gを2mlポリスポイトを用いて注入し測定した。なお、測定はカール・フィシャー電量滴定法により行った。
【0037】
装置条件
微量水分測定装置:AQ−7(平沼産業製)、発生液:ハイドラナール アクアライトRO、測定モード:Medium
【0038】
上記の評価方法による、各実施例及び比較例の評価結果を以下の表1に示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属の炭酸塩、ケイ酸塩及びカルボン酸塩並びに分子量が1000未満の有機アミン及びその4級塩から選択される塩基性物質と共存させた焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒の存在下で、脂肪酸エステルにアルキレンオキシドを付加反応させる工程を含む下記式(1)で表される脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの製造方法;
COO(AO) ・・・(1)
(式中、Rは炭素数5〜21の一価の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐の炭化水素基であり、Aは炭素数2〜4のアルキレン基であってnが1より大きい場合は同一又は異なるものであって良く、Rは炭素数1〜8の一価の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐の炭化水素基であり、nは1≦n≦20である)。
【請求項2】
前記塩基性物質が、25℃の水中で生じるその共役酸の酸解離定数(pKa)が9〜12の範囲にある塩基性物質である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記有機アミンが、第1〜3級アミン又は環状アミンである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒100質量部に対して、1〜20質量部の前記塩基性物質を共存させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒のAl/Mgモル比が0.1/0.9〜0.5/0.5である請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒が、式(2)で示される触媒、又は(3)で示されるハイドロタルサイトを400〜950℃で0.5〜12時間焼成することにより得られる触媒である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法:
nMgO・Al・mHO (2)
(nは2〜18の数であり、mは0〜20の数である)

〔Mg2+1-xAl3+x(OH)2X+〔An-1x/n・mHO〕x- (3)
(0.1≦x≦0.5であり、An−1はCO32- 、 SO4-2、OH- 、 NO3- 、Fe(CN)63- 又はCH3COO- から選択される陰イオンを表し、mは0〜20である。)
【請求項7】
焼成アルミナ・マグネシア複合酸化物触媒をアルカリ金属の炭酸塩、ケイ酸塩及びカルボン酸塩並びに分子量が1000未満の有機アミン及びその4級塩から選択される塩基性物質で処理して成る脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの製造用触媒。

【公開番号】特開2010−265187(P2010−265187A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115755(P2009−115755)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】