説明

副生炭成形物の製造方法

【課題】粉塵の発生を抑制でき、かつ強度に優れる副生炭成形物の製造方法を提供すること。
【解決手段】石炭と溶剤とを混合して前記溶剤に可溶な石炭成分を抽出した後、前記溶剤に可溶な成分を含む抽出液と前記溶剤に不溶な成分を含む残渣とに分離し、前記抽出液から前記溶剤を分離して無灰炭を回収するとともに、蒸留法又は蒸発法によって前記残渣から前記溶剤を分離して高温状態の粉状の副生炭を回収する改質炭製造工程と、前記回収された高温状態の副生炭をその温度が150℃以上で塊状に成形して副生炭成形物とする成形工程と、を含むことを特徴とする副生炭成形物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラー燃料、加炭材、コークス原料等に利用できる副生炭成形物を製造する方法に関し、石炭を溶剤で抽出処理して無灰炭を製造する過程で生じる副生炭を塊状に成形する副生炭成形物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、低灰分の炭素材料の原料という観点で、いわゆる、無灰炭(ハイパーコール)の開発が活発に進められている。無灰炭とは、石炭を溶剤で抽出処理し、この溶剤に溶ける成分だけを分離して、その後、溶剤を除去することによって、製造されたものである(例えば、特許文献1参照)。この無灰炭は、構造的には、縮合芳香環が2ないし3環の比較的低分子量の成分から、5、6環程度の高分子量成分まで広い分子量分布を有する。また、無灰炭は、灰分が溶剤には溶けないため、実質的に灰分を含まず、加熱下で高い流動性を示し、熱流動性に優れる。石炭の中には粘結炭のように400℃前後で熱可塑性を示すものもあるが、無灰炭は、一般的に、原料石炭の品位に関わらず200〜300℃で溶融する(軟化溶融性がある)。そこで、この特性を生かしてコークス製造用バインダーとしての応用開発が進められており、また、近年においては、この無灰炭を炭素材料原料として用いることで炭素材料を製造することが試みられている。
【0003】
この無灰炭の製造においては、石炭を溶剤で抽出処理し、溶剤に可溶な成分を含む溶液(抽出液)を分離することで、溶剤に不溶な成分を含む残渣(固形分濃縮液)が生じる。そして、この残渣から溶剤を除去し、副生炭を得ることもできる(例えば、特許文献2参照)。副生炭は、灰分が含まれるものの水分が微量であり、発熱量も十分に有している。従って、例えば、コークス原料の配合炭の一部として使用することができ、また、コークス原料炭とせずに、ボイラー燃料など各種の燃料用として利用することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−26791号公報
【特許文献2】特許第4061351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
副生炭は、保管や運搬等、取り扱いや利便性の観点から、粉状または粒状の副生炭を塊状に成形した副生炭成形物にして用いられることが考えられる。しかしながら、副生炭成形物においては、その強度が十分でない場合には、保管時や運搬時、使用時等に、表層が剥離や剥脱し、粉塵が発生しやすいという問題がある。よって、副生炭成形物においては、粉塵発生や強度の観点から改善の余地があり、粉塵の発生を抑制できるとともに、強度にも優れる安価な副生炭成形物製造方法の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、その課題は、粉塵の発生を抑制でき、かつ強度に優れる副生炭成形物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため、本発明は、石炭と溶剤とを混合して前記溶剤に可溶な石炭成分を抽出した後、前記溶剤に可溶な成分を含む抽出液と前記溶剤に不溶な成分を含む残渣とに分離し、前記抽出液から前記溶剤を分離して無灰炭を回収するとともに、蒸留法又は蒸発法によって前記残渣から前記溶剤を分離して高温状態の粉状の副生炭を回収する改質炭製造工程と、前記回収された高温状態の副生炭をその温度が150℃以上で塊状に成形して副生炭成形物とする成形工程と、を含むことを特徴とする副生炭成形物の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の副生炭成形物の製造方法は、改質炭製造工程で蒸留法又は蒸発法によって溶剤分離して得られた高温状態の粉状の副生炭をその温度が150℃以上で塊状に成形して副生炭成形物とするようにしている。したがって、本発明の副生炭成形物の製造方法によると、高温成形により、副生炭成形物の表層が剥離や剥脱を起こしにくくなり、粉塵の発生を抑制でき、かつ、強度にも優れる副生炭成形物を得ることができる。また、前記高温状態の副生炭の持つ熱エネルギーを有効利用することができるため、製造プロセスの経済性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明で使用する副生炭を製造するための改質炭製造装置を模式的に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明に係る副生炭成形物の製造方法について詳細に説明する。本発明の副生炭成形物は、副生炭を塊状に成形して得られるものであるが、この副生炭は、無灰炭を製造する過程で生じる残渣から製造されるものである。よって、本発明では、無灰炭を製造することを前提とする。なお、無灰炭および副生炭は、石炭を改質することで得られた改質炭である。
【0011】
ここで、副生炭成形物の製造方法の各工程について具体的に説明する前に、図1に示す構成図を参照して、本発明に用いることができる改質炭製造装置の一例について簡単に説明する。
【0012】
図1に示すように、改質炭製造装置1は、溶剤を供給する溶剤供給槽2と、石炭を供給する石炭供給槽3と、溶剤供給槽2と石炭供給槽3とからの供給物を受けてスラリーを調製した後、当該スラリーから溶剤に可溶な石炭成分(溶剤可溶成分)を抽出する抽出槽4と、溶剤可溶成分を含む溶剤(抽出液)と溶剤に不溶な石炭成分を含む残渣とを分離する分離槽5と、分離槽5で分離した抽出液から溶剤を除去して無灰炭を回収する無灰炭回収槽6と、分離槽5で分離した残渣のスラリーから溶剤を除去して副生炭を回収する副生炭回収槽7と、を備えている。
【0013】
ここで、無灰炭回収槽6で抽出液から除去された溶剤は、再び溶剤供給槽2に戻して再利用してもよい。同様に、副生炭回収槽7で残渣から除去された溶剤は、再び溶剤供給槽2に戻して再利用してもよい。無灰炭回収槽6で回収された無灰炭は、灰分が溶剤に溶解されないため実質的に灰分を含んでおらず、水分は概ね0.5質量%以下であり、また原料石炭よりも高い発熱量を示す。この無灰炭は、各種炭素材料の原料や、製鉄コークスおよび成形炭のバインダー等として使用することができる。なお、本発明においては、無灰炭について(実質的に)灰分を含んでいないとしている。灰分の含有量はもちろん0質量%であることが望ましいが、溶剤抽出を経て無灰炭を回収する関係上、不可避的に灰分が含有されてしまう。したがって、本発明でいう無灰炭には、不可避的に含有される微量の灰分の含有は許容される。無灰炭に許容される灰分の含有量の上限は3質量%、好ましくは1.5質量%、より好ましくは1質量%である。
【0014】
一方、副生炭回収槽7で回収された副生炭は、溶剤に溶解しなかった灰分を含む。この副生炭は、灰分が含まれるものの水分が微量であり、発熱量も十分に有している。したがって、例えば、コークス原料の配合炭の一部として使用することができ、また、コークス原料炭とせずに、各種の燃料用として利用することも可能である。
【0015】
以下、このような構成の改質炭製造装置1を例にして、本発明に係る副生炭成形物の製造方法の一実施形態について説明する。本発明に係る副生炭成形物の製造方法は、改質炭製造工程と、成形工程と、を含むものである。以下、各工程について説明する。
【0016】
<改質炭製造工程>
本発明の改質炭製造工程は、副生炭を回収する工程である。さらに、無灰炭を回収する工程でもある。すなわち改質炭製造工程は、副生炭回収工程と、無灰炭回収工程とからなる。具体的には、まず、石炭供給槽3から供給された石炭と、溶剤供給槽2から供給された溶剤とを混合して前記石炭から前記溶剤に可溶な石炭成分を抽出槽4で抽出する。その後、分離槽5で抽出液と残渣に分離し、副生炭回収槽7で蒸留法又は蒸発法によって前記残渣から前記溶剤を分離して副生炭を回収する。さらにここでは、無灰炭回収槽6で蒸留法又は蒸発法によって前記抽出液から前記溶剤を分離して無灰炭を回収する。ここで、抽出液とは、溶剤に抽出された石炭成分を含む溶液をいい、残渣とは、溶剤に不溶な石炭成分(灰分を含む石炭すなわち灰炭)を含む溶質をいう。
【0017】
改質炭(無灰炭および副生炭)を得る方法は、公知の方法を用いることができ、溶剤種や製造条件は、石炭の性状や、炭素材料等、使用用途の原料としての設計を鑑みて、適宜選択されるものである。典型的な方法は、石炭に対して大きな溶解力を持つ溶媒、多くの場合、芳香族溶剤(水素供与性あるいは非水素供与性の溶剤)と石炭を混合して、それを加熱し、石炭中の有機成分を抽出する、という方法である。しかし、より高効率、かつ安価に改質炭を得るため、例えば、次の方法により改質炭を製造することが好ましい。その方法では、まず、抽出槽4において、石炭供給槽3から供給された石炭と、溶剤供給槽2から供給された非水素供与性溶剤とを混合した混合物(スラリー)を加熱して、非水素供与性溶剤に可溶な石炭成分を抽出する。次に、分離槽5において、抽出後のスラリーを抽出液と残渣に分離する。そして、無灰炭回収槽6において、前記抽出液から、前記非水素供与性溶剤を分離することで無灰炭を回収する。また、副生炭回収槽7において、前記残渣から、前記非水素供与性溶剤を分離することで副生炭を回収する。
【0018】
原料とする石炭(以下、原料石炭ともいう)としては、特に制限はなく、抽出率(無灰炭回収率)の高い瀝青炭でもよいし、より安価な劣質炭(亜瀝青炭、褐炭)でもよい。なお、石炭はできるだけ小さい粒子に粉砕しておくのが好ましく、粒径(最大長さ)1mm以下とするのが好ましい。
【0019】
非水素供与性溶剤は、主に石炭の乾留生成物から精製した、2環芳香族を主とする溶剤である石炭誘導体である。この非水素供与性溶剤は、加熱状態でも安定であり、石炭との親和性に優れているため、溶剤に抽出される可溶成分(ここでは石炭成分)の割合(以下、抽出率ともいう)が高く、また、蒸留等の方法で容易に回収可能な溶剤である。非水素供与性溶剤の主たる成分としては、2環芳香族であるナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、トリメチルナフタレン等が挙げられ、その他、非水素供与性溶剤の成分としては、脂肪族側鎖をもつナフタレン類、アントラセン類、フルオレン類、また、これにビフェニルや長鎖脂肪族側鎖をもつアルキルベンゼンが含まれる。
【0020】
非水素供与性溶剤を使用して加熱抽出することにより、石炭の抽出率を高めることができる。また、極性溶剤とは違い、容易に溶剤を回収することができるため、溶剤を循環使用しやすい。さらに、高価な水素や触媒等を用いる必要がないため、安価なコストで石炭を可溶化して改質炭を得ることができ、経済性の向上を図ることができる。なお、本発明では、溶剤として、2環芳香族化合物を例とする非水素供与性溶剤に限定するものではない。すなわち、テトラリンや石炭液化油等の水素供与性溶剤は高価であるが一般に高い無灰炭収率を与えるので、溶剤として水素供与性溶剤を用いることも本発明の範囲内である。
【0021】
溶剤に対する石炭濃度は、原料石炭の種類にもよるが、乾燥炭基準で10〜50質量%の範囲が好ましく、20〜35質量%の範囲がより好ましい。溶剤に対する石炭濃度が10質量%未満では、溶剤の量に対し、溶剤に抽出する石炭成分の割合が少なくなり、経済的ではない。一方、石炭濃度は高いほど好ましいが、50質量%を超えると、調製したスラリーの粘度が高くなり、スラリーの移動や抽出液と残渣との分離が困難となりやすい。
【0022】
スラリーの加熱温度は、300〜450℃の範囲とするのが好ましい。加熱温度をこの範囲とすることにより、石炭を構成する分子間の結合が緩み、緩和な熱分解が起こり、抽出率が最も高くなる。加熱温度が300℃未満では、石炭を構成する分子間の結合を弱めるのに不十分となりやすく、抽出率が向上しにくい。一方、450℃を超えると、石炭の熱分解反応が非常に活発になり、生成した熱分解ラジカルの再結合が起こるため、抽出率が向上しにくく、また、石炭の変質が起こりにくくなる。なお、より好ましくは、350〜400℃である。
【0023】
加熱時間(抽出時間)は、溶解平衡に達するまでの時間が規準であるが、それを実現することは経済的に不利である。したがって、石炭の粒子径、溶剤の種類等の条件によって異なるので一概には言えないが、通常は10〜60分程度である。加熱時間が10分未満では、石炭成分の抽出が不十分となりやすく、一方、60分を超えても、それ以上抽出が進行しないため、経済的ではない。
【0024】
非水素供与性溶剤に可溶な石炭成分の抽出は、不活性ガスの存在下で行うことが好ましい。酸素に接触すると、発火する恐れがあるため危険であり、また、水素を用いた場合には、コストが高くなるためである。用いる不活性ガスとしては、安価な窒素を用いることが好ましいが、特に限定されるものではない。また、圧力は、抽出の際の温度や用いる溶剤の蒸気圧にもよるが、1.0〜2.0MPaが好ましい。圧力が溶剤の蒸気圧より低い場合には、溶剤が揮発して液相に閉じ込められず、抽出できない。溶剤を液相に閉じ込めるには、溶剤の蒸気圧より高い圧力が必要となる。一方、圧力が高すぎると、機器のコスト、運転コストが高くなり、経済的ではない。
【0025】
このようにして石炭成分を抽出した後のスラリーを抽出液と残渣に分離する。 スラリーを抽出液と残渣とに分離する方法としては、各種の濾過方法や遠心分離による方法が一般的に知られている。しかしながら、濾過による方法ではフィルタの頻繁な交換が必要であり、また、遠心分離による方法では未溶解石炭成分による閉塞が起こりやすく、これらの方法を工業的に実施するのは困難である。したがって、流体の連続操作が可能であり、低コストで大量の処理にも適している重力沈降法を用いることが好ましい。これにより、前記分離槽5に相当する重力沈降槽の上部からは、溶剤に抽出された石炭成分を含む溶液である抽出液(以下、上澄み液ともいう)を、重力沈降槽の下部からは溶剤に不溶な石炭成分を含む溶質である残渣(以下、固形分濃縮液ともいう)を得ることができる。なお、抽出液と残渣は、完全に分離するのが理想的であるが、わずかではあるものの、抽出液の一部に残渣が混入したり、残渣の一部に抽出液が混入したりする。
【0026】
そして、この上澄み液(抽出液)から、非水素供与性溶剤を分離することにより、無灰炭を得る。また、固形分濃縮液(残渣)から、非水素供与性溶剤を分離することにより、副生炭を得る。上澄み液や固形分濃縮液から溶剤を分離する方法は、一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)等を用いることができ、上澄み液からは、実質的に灰分を含まない無灰炭を得ることができる。また、固形分濃縮液からは、灰分を含む副生炭を得ることができる。なお、副生炭の回収と無灰炭の回収は、どちらを先に行なってもよく、同時に行なってもよい。そして、このようにして改質炭製造装置1で製造された副生炭は、成形工程に供される。
【0027】
ここで、固形分濃縮液(残渣)から非水素供与性溶剤を分離して副生炭を回収するに際し、非水素供与性溶剤の沸点以上の温度で行う蒸留法又は蒸発法によって非水素供与性溶剤を分離するようにしているため、固形分濃縮液から回収して得られた副生炭は、例えば、温度が150〜300℃程度の高温状態であり、水分量が0.2〜3.0質量%程度の乾燥状態である。
【0028】
また、固形分濃縮液から回収して得られた副生炭は、粉状であり、粒径(最大長さ)は0.2〜1.0mm程度である。ただし、副生炭の中には、粒径(一次粒径)が0.2〜1.0mm程度の粒子が凝集した二次粒子も合わせて存在する。この二次粒子の粒径(二次粒径)は、副生炭の回収条件にもよるが、例えば、0.2〜50mm程度である。また、副生炭の灰分濃度は10〜20質量%程度である。
【0029】
<成形工程>
成形工程は、前記回収された高温状態の副生炭をその温度が150℃以上で塊状に成形して副生炭成形物とする工程である。ここで、副生炭成形物とは、副生炭を塊状に成形することで得られた、所定の立体構造を持つ成形体のことである。副生炭成形物の成形は、例えば、圧縮成形や、2ロール式タブレット成形等の成形機を用いて副生炭成形物を成形することができる。本発明の特徴は、副生炭成形物の成形に際し、改質炭製造工程で粉状の副生炭が150〜350℃程度の高温状態で回収されることを利用して、この回収された高温状態の副生炭を、冷却を施さず(冷却工程を設けず)に高温状態のままで成形することにある。
【0030】
そして、副生炭成形物の成形は、回収された高温状態の副生炭をその温度が150℃以上で塊状に成形する。成形時における副生炭の温度が150℃以上であれば、副生炭の圧縮性(成形性)が高まり、副生炭成形物の表層が剥離や剥脱を起こし難くて粉塵の発生を抑制でき、かつ、強度にも優れる副生炭成形物を容易に得ることができる。
【0031】
なお、成形時における副生炭の温度は、400℃以下であることがよい。400℃を超えると、副生炭の熱分解が進むので好ましくない。
【0032】
そして、成形時における副生炭の温度は、より好ましくは、200〜300℃の範囲がよい。前述したように、改質炭製造工程においてスラリーを抽出液と残渣(固形分濃縮液)とに分離する際に、残渣にわずかに抽出液が混入し、その結果、副生炭に少量(5質量%以下程度)の無灰炭成分(無灰炭)が残留する。この残留した無灰炭成分の軟化温度は約250℃である。このため、副生炭成形物の成形に際し、成形時における副生炭の温度が前記無灰炭成分による粉状の副生炭同士をつなぐバインダー効果が生じる温度範囲では、前記無灰炭成分のバインダー効果により、強度に優れ、粉塵発生の少ない副生炭成形物を得ることが促進されることとなる。なお、副生炭成形物は、副生炭成形物の80質量%以上を副生炭が占めるように副生炭が主成分であることが好ましい。
【0033】
本発明では、副生炭成形物の成形に際し、改質炭製造工程で得られた副生炭を高温状態のままで粉砕や解砕して、副生炭の粒径調整を行い、この粒径調整された高温状態の副生炭を成形機に導くようにしてもよい。
【0034】
また、副生炭成形物の成形に際し、連続成形における粉状の副生炭の流れ性を改善する目的で、副生炭に対して粒径調整された他の石炭を加えて成形機に導くようにしてもよい。副生炭に前記他の石炭を添加する場合には、これらを含めた全体の質量に対する当該他の石炭の割合は、5〜20質量%が適正である。
【0035】
また、副生炭成形物の成形に際し、以下に述べるようなバインダーを使用することを妨げない。例えば、タール、ピッチ、糖蜜、樹脂等を使用することができる。副生炭にバインダーを添加する場合には、これらを含めた全体の質量に対するバインダーの割合は、1〜8質量%が適正である。なお、前述したように、副生炭中に5質量%以下の無灰炭が存在していることが好ましい。
【0036】
以上説明したように、本発明の副生炭成形物の製造方法は、改質炭製造工程、成形工程を含むものである。そして、本発明を行うにあたり、前記各工程に悪影響を与えない範囲において、前記各工程の間あるいは前後に、例えば、原料石炭を粉砕する石炭粉砕工程や、ごみ等の不要物を除去する除去工程等、他の工程を含めてもよい。
【実施例】
【0037】
次に、本発明に係る副生炭成形物の製造方法について、実施例、比較例を挙げて具体的に説明する。
【0038】
[副生炭の製造]
オーストラリア産瀝青炭を原料石炭とし、この原料石炭5kgに対し、4倍量(20kg)の溶剤(1−メチルナフタレン(新日鉄化学社製))を混合してスラリーを調製した。このスラリーを1.2MPaの窒素で加圧して、内容積30Lのバッチ式オートクレーブ中370℃、1時間の条件で抽出処理した(前述した図1の抽出槽4による処理に相当する)。このスラリーを同一温度、圧力を維持した重力沈降槽内で上澄み液(抽出液)と固形分濃縮液とに分離した(前述した図1の分離槽5による処理に相当する)。次いで、この固形分濃縮液から窒素気流を用いる蒸留法で溶剤を分離・回収して、1kgの副生炭を得た(前述した図1の副生炭回収槽7による処理に相当する)。得られた粉状の副生炭は、温度:190℃、粒径:0.1mm、水分量:0.1質量%、副生炭中に残存する無灰炭濃度:1.0〜5.0質量%の範囲内、であった。
【0039】
[成形工程]
前記得られた副生炭を表1に示す所定の温度に調整して、バインダーなど他に何も添加することなく、金型に入れ、円筒状のタブレット(副生炭成形物)の成形を行った。成形条件は、副生炭の温度:表1に示す温度、圧力:1.5トン/cm、金型:キャビティ直径20mm、充填量:6グラム、である。
【0040】
このようにして製造したタブレットについて、強度の指標として圧壊試験、及び、粉塵発生の抑制の指標としてアブレージョン試験を行った。
【0041】
圧壊試験は、円筒状のタブレットの中心軸に対して垂直の方向に圧縮荷重をかけて、破壊に至る荷重を測定することにより行なった。そして、圧壊荷重が30kg以上のものを、強度に優れるとして合格とした。また、アブレージョン試験は、まず、直径250mmの円筒容器に上記タブレット20個を入れ、30RPMで10分間回転させた。その後、このタブレッドを目開き5.66mmの篩いで篩って、篩い下に落下した粉体を秤量することにより行なった。そして、粉体がタブレッド全体の質量に対して10質量%以下のものを、粉塵の発生を十分に抑制できるとして合格とした。表1に、これらの試験結果を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すように、No.4〜11は、本発明の要件を満たすため、強度に優れ、かつ、粉体が少なかった(粉塵の発生を抑制できるものであった)。特に、No.8〜10は、前述した無灰炭成分(副生炭中に1.0〜5.0質量%存在)のバインダー効果が生じることもあって、100kgを超える高い強度が得られた。一方、No.1〜3は、成形時の副生炭の温度が本発明の規定を下回るため、強度に劣り、かつ、粉体が過剰であった(粉塵の発生が多いものであった)。
【符号の説明】
【0044】
1…改質炭製造装置
2…溶剤供給槽
3…石炭供給槽
4…抽出槽
5…分離槽
6…無灰炭回収槽
7…副生炭回収槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭と溶剤とを混合して前記溶剤に可溶な石炭成分を抽出した後、前記溶剤に可溶な成分を含む抽出液と前記溶剤に不溶な成分を含む残渣とに分離し、前記抽出液から前記溶剤を分離して無灰炭を回収するとともに、蒸留法又は蒸発法によって前記残渣から前記溶剤を分離して高温状態の粉状の副生炭を回収する改質炭製造工程と、前記回収された高温状態の副生炭をその温度が150℃以上で塊状に成形して副生炭成形物とする成形工程と、を含むことを特徴とする副生炭成形物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−112814(P2013−112814A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263522(P2011−263522)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】