説明

創傷治癒用の組成物及びその使用

本発明は創傷の治療方法に関し、こういった治療を必要とする患者にトロンボモジュリンのEGF様ドメインを有するアミノ酸配列又はその機能保存変異体を含む有効量のポリペプチドを投与することを含む。本発明は創傷の治癒を促進するために使用する組成物にも関し、この組成物はトロンボモジュリンのEGF様ドメインを有するアミノ酸配列又はその機能保存変異体を含むポリペプチドを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は創傷の治癒を加速するために使用する方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生及びトロンボモジュリン
その症状として主要血管においての異常血液凝固を生じる疾患及び障害の治療に有用な治療薬としては幾つかの分子が当該分野で知られているが、異常に高い又は異常に低い血管新生活性を症状とする疾患及び障害の治療のみならずこういった疾患の治療に有用な組成物や方法に対しての需要は当該分野において依然としてある。こういった疾患及び病状には以下の:低血圧、高血圧及びアテローム性動脈硬化等の心血管疾患及び症状;脳卒中、心臓発作及び血管形成ステント留置後等の血栓症状;血管新生障害;肺線維症及び喘息等の呼吸器疾患及び症状;腫瘍細胞湿潤、血管新生及び転移に関連した疾患及び障害;創傷治癒及び血液凝固障害、及び子宮収縮の早期発来及び性的不能等の生殖障害が含まれる。
【0003】
昨今、組織における血管新生を誘発又は促進する生体分子が数多く同定されている。これらの中で最も傑出しているのが血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGFs)、形質転換増殖因子(TGFs)等の増殖因子である。血液凝固調整因子であるトロンボモジュリンの欠如は、機能性心血管系が発達する前にマウスの胚性致死を引き起こす(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1995年;92:p850-854.(非特許文献1); および J P Cooke他, Circulation 105 (2002年) p2133(非特許文献2))。関連分野における血管新生促進を対象とした現在のアプローチは、3つの主要カテゴリに要約することができる。つまり(i)合成及び天然の重合性足場材(scaffold)を用いた血管新生増殖因子の送達、(ii)血管新生タンパク質をエンコードするDNAを含むプラスミドの送達、及び(iii)血管新生分子及び内皮細胞移植の複合的な送達である。
【0004】
関連する分野においては、送達系に増殖因子の代わりにヒト組み換えトロンボモジュリン分子を組み込むことが別の研究により提案されている(Shi CS他,「新規血管新生因子としてのヒトトロンボモジュリンドメインの証拠」2005年 4月 5;111(13):p1627-36(非特許文献3))。搭載したヒト組み換えトロンボモジュリンを生理学的条件下で放出させ、局所的かつ迅速な血管新生を促すことが提案されている。
【0005】
トロンボモジュリンは抗凝血性の内皮細胞膜糖タンパク質である。組み換えトロンボモジュリンタンパク質であるTMD2(6つのEGF様構造を含む)及びTMD23(TMD2及びセリン・トレオニンに富むドメインを含む)は有糸分裂誘発活性を示す。
【0006】
前述の研究(Shi CS他,「新規血管新生因子としてのヒトトロンボモジュリンドメインの証拠」2005年 4月 5;111(13):p1627-36(非特許文献3))は、試験管内及び生体モデルモデルを用いて組み換えドメインの新奇な血管新生効果を明らかにした。培養したヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)でのDNA合成の刺激においてTMD23がTMD2よりも高い活性を有していることが示されている。これに加え、TMD23は細胞外シグナル調節キナーゼ1/2及びp38分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼのリン酸化とフォスファチジルイノシトール3キナーゼ/Akt/内皮一酸化窒素合成酵素経路を介した効果であるHUVECsにおける走化性運動及び毛細血管様管の形成を刺激した。また、TMD23はマトリクスメタロプロテイナーゼ及びプラスミノゲン活性化因子の内皮細胞発現を刺激し、血管新生中の内皮細胞の湿潤及び遊走へとつながる細胞外タンパク質分解を仲介した。更に、ラットの角膜内のTMD23含有インプラントは角膜縁からの新生血管の内部成長を誘発した。マウスの血管新生アッセイを用い、マトリゲル及びヘパリンを同時注入したTMD23が新血管新生を誘発するだけでなく、ヌードマウスにおけるマトリゲル含有黒色腫A2058細胞における血管新生を増強することが判明した。つまり、組み換えトロンボモジュリンドメインTMD23は試験管内・生体内での血管新生反応を増強する。
【0007】
創傷治癒
創傷の治癒過程には3つの段階がある。つまり炎症期、増殖期、及び成熟期である。
【0008】
炎症期は止血及び炎症を特徴とする。創傷形成時に露出したコラーゲンが血液凝固カスケード(内因系及び外因系の経路の双方)を活性化し、炎症期が始まる。組織への損傷発生後、創傷の形成により損傷を受けた細胞膜はトロンボキサンA2及びプロスタグランジン2−αといった強力な血管収縮物質を放出する。この初期反応が出血を抑制する。ほどなくして局所的なヒスタミン放出に伴い毛細血管の拡張が起こり、炎症細胞が創面に遊走可能となる。
【0009】
一番最初に反応を示す細胞である血小板は上皮細胞増殖因子(EGF)、フィブロネクチン、フィブリノゲン、ヒスタミン、血小板由来増殖因子(PDGF)、セロトニン、及びフォン・ヴィレブランド因子を含む複数のケモカインを放出する。これらの因子は血塊形成を通して創傷の安定化を図る。これらの仲介物質は出血を制御し、損傷の程度を制限する。血小板の脱顆粒により、補体カスケード、具体的には好中球の強力な化学誘引物質であるC5aも活性化される。
【0010】
炎症期は持続し、より多くの免疫応答細胞が創傷部に遊走される。創傷に遊走される第二の反応細胞である好中球は残屑の清浄化、補体媒介性の細菌のオプソニン化、及び活性酸素発生メカニズムを介した細菌の破壊(つまり、スーパーオキシド及び過酸化水素の生成)を担う。好中球は細菌を殺し、創傷から異物を排除する。
【0011】
創内に存在する次の細胞は白血球及びマクロファージ(単球)である。オーケストレータと称されるところのマクロファージは創傷の治癒に必須である。多数の酵素及びサイトカインがマクロファージにより分泌され、創傷を鮮創するコラゲナーゼ;線維芽細胞を刺激し(コラーゲンを産生する)、血管新生を促進するインターロイキン及び腫瘍壊死因子(TNF);及びケラチン生成細胞を刺激する形質転換増殖因子(TGF)が含まれる。この段階は組織の再構成工程、つまり増殖期への移行を示す。
【0012】
創傷治癒における第二段階は増殖期である。上皮形成、血管新生、肉芽組織の形成、及びコラーゲン沈着が創傷治癒のこの同化部における主要過程である。上皮形成は創傷修復の早期に生じる。基底膜が無傷で残っているならば、上皮細胞は通常のパターンに沿って上方に遊走する。これは1度の熱傷と同等である。上皮前駆細胞は創傷下方で無傷のまま残っており、通常の表皮層が2、3日で修復される。2度又は3度の熱傷と同様に基底膜が破壊されてしまっている場合、創傷はその周囲の正常な細胞及び、無傷なら皮膚付属器(例えば、毛包、汗腺)から再上皮形成される。
【0013】
TNF−αにより刺激される血管新生は、内皮細胞の遊走及び毛細管の形成を特徴とする。新生された毛細管は創内に栄養分を送達し、肉芽組織層の維持を補助する。毛細管の創面への拡張が適切な創傷治癒には重要である。肉芽組織形成期及び組織沈着は毛細管による栄養分の供給を必要とし、栄養供給の不全は慢性的な創傷の治癒不全につながる。血管新生を変えるメカニズムが研究されており、治癒過程を改善する可能性が高い。
【0014】
増殖期の最終局面は肉芽組織の形成である。線維芽細胞が分化し、基質、次にコラーゲンが産生される。基質は創面に沈着し、創傷が修復の最終局面に進むにつれ、コラーゲンが次に沈着する。創傷修復の増殖期には多種多様なサイトカインが関係してくる。制御の段階及び正確なメカニズムはまだ解明されていない。一部のサイトカインにはPDGF、インシュリン様成長因子、(IGF)及びEGFが含まれる。これらは全てコラーゲンの生成に必要なものである。
【0015】
創傷治癒の最終期は成熟期である。創傷は収縮し、最終的には目に見える瘢痕組織の量の減少へとつながる。全過程は各治癒期と継続的な再構築の重複を伴う連続的な活動である。創傷は1年で最大強度に達し、引張強度は正常な皮膚の30%となる。コラーゲンの沈着は長期間に亘って継続するが、コラーゲン沈着の純増加は21日後に横ばいとなる。
【0016】
現在、実際の臨床におけるサイトカインの役割は限られている。無作為二重盲検試験で有効であると証明されている、現在入手可能な唯一の市販品はPDGFであり、組み換えヒトPDGF−BBとして入手可能である。多くの研究で、組み換えヒトPDGF−BBが治癒期間を短縮し、段階III及IVの潰瘍における創傷完治率を向上することが立証されている。生体外実験で目下研究中のその他多くのサイトカインにはTGF−β、EGF及びIGF−1が含まれる。
【0017】
適切な創傷治癒には、細胞とサイトカインが連携した複雑な相互作用が伴う。近年、この過程に不可欠なより多くの化学伝達物質が同定されている。逐次段階及び具体的な過程は依然として十分に識別されていない。創傷の治癒過程を調査するにあたっては、主要な段階を同定し、重要な伝達物質を知らなくてはならない。
【0018】
熱傷及び創傷の治癒
熱傷とは、熱、電気、放射線(例えば、日焼けやレーザ手術)、又は腐食性の化学薬品への曝露により生じる損傷である。
【0019】
一般的には3段階の熱傷が認識されている。1度の熱傷では表皮と称される皮膚の外層が赤くなり、接触に敏感であり、多くの場合、腫れる。治療を必要とはしないが、軟膏の塗布により痛みは緩和される。2度の熱傷は表皮の変動的な破壊及び水膨れの形成を特徴とし、神経終末が露出する場合がある。より重症なケースでは医師による診察を受け、感染を回避するよう注意を払う必要がある。局所的な治療には硝酸銀等の化学物質を塗布し、軟性の痂皮を形成し感染の危険性を軽減し、痛みを緩和することが含まれる。3度の熱傷は皮膚の厚み全体及びその下の結合組織の破壊を伴う。より重症なケースでは、その下の骨までもが炭化している。影響を受けた表面積のほうが熱傷の深さよりもより重要である。ショック症状を防止又はショック症状に対処しなくてはならず、体液の喪失を元に戻すために輸血が必要となる場合もある。抗生物質及びその他の薬剤の投与により様々な細菌の侵入を防止又は治癒しなくてはならない。痛みの緩和にはモルヒネを使用する場合がある。長期間に亘る治療には天然又は人工の皮膚移植を伴う場合がある。
【0020】
真性糖尿病及び創傷の治癒
真性糖尿病は高血糖(グルコース)レベルを特徴とする代謝性疾患群であり、インシュリン分泌又は作用、又はその双方における異常により生じる。真性糖尿病は一般的には糖尿病と称され、「甘い尿」を意味する。血中グルコースレベルの上昇(高血糖)はグルコースの尿への流出につながることから、甘い尿の用語となった。通常、血中グルコースレベルは膵臓により産生されるホルモンであるインシュリンにより厳格に制御されている。血中グルコースレベルはインシュリンにより低下する。(例えば、食物摂取後に)血中グルコースレベルが上昇すると、インシュリンが膵臓から放出され、グルコースレベルを正常レベルに戻す。真性糖尿病の患者では、インシュリンが生成されない又は十分に生成されず、高血糖状態が引き起こされる。真性糖尿病は慢性的な病態であり、つまり生涯続く可能性があるということである。
【0021】
糖尿病は心臓・血管病、失明、腎不全、及び糖尿病性の足の潰瘍を含む幾つかの合併症をもたらす場合がある。
【0022】
糖尿病の人間は神経の損傷(糖尿病性神経障害)及び下肢への血流の低下によって生じる鈍化により、足に怪我をする危険性がある。最も深刻な損傷が糖尿病性の足の潰瘍である。糖尿病性の足の潰瘍は感染の危険性が非常に高く、治癒しない場合もある。治癒しない足の潰瘍が糖尿病患者における下肢切断の原因となることは多い。
【0023】
FDAは糖尿病性の足の潰瘍の治療薬として、あるゲル製品(ベカプレルミン(becaplermin)又はレグラネクス(Regranex)ゲル)を認可した。この製品は遺伝子操作をした、人体が新しい組織の成長を促進するために産生するタンパク質の一つである血小板由来増殖因子を含有する。この製品の臨床研究は、ベカプレルミンを使用した場合、治療後20週目までに潰瘍が完全に閉鎖する見込みが向上することを示している。
【0024】
糖尿病患者における、治癒の緩慢な潰瘍の創傷閉鎖を助ける別の製品としては、DERMAGRAFT(登録商標)と称される代用皮膚がある。これは溶解性メッシュ材料上に置かれた線維芽細胞として知られるヒトの細胞から成る。メッシュ材料を潰瘍上に貼ると徐々に吸収され、ヒト細胞は成長し、潰瘍中の損傷組織と置き換わる。
【特許文献1】米国特許出願番号第11/149378号
【非特許文献1】Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1995年;92:p850-854
【非特許文献2】J P Cooke 他, Circulation 105 (2002年) p2133
【非特許文献3】Shi CS他, 「新規血管新生因子としてのヒトトロンボモジュリンドメインの証拠」2005年4月5;111(13):p1627-36
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は創傷の治療方法に関し、こういった治療を必要とする患者にトロンボモジュリンのEGF様ドメインを有するアミノ酸配列又はその機能保存変異体を含む有効量のポリペプチドを投与することを含む。本発明は創傷の治癒を促進するために使用する組成物にも関し、この組成物はトロンボモジュリンのEGF様ドメインを有するアミノ酸配列又はその機能保存変異体を含むポリペプチドを含む。
【0026】
本発明の別の目的及び特徴は添付の図面と共に以下の詳細な説明を考察することで明らかとなる。当然ながら、図面は例示を目的としたものに過ぎず、本発明の限界を定義するものではなく、本発明の範囲に関しては付随する請求項を参照すること。また、図面は必ずしも正確な縮尺で描かれてはおらず、特に記載がない限り、本願に記載の構造と手順を概念的に説明することを意図にするにすぎないことを理解しなくてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0027】
トロンボモジュリンは抗凝血性の内皮細胞膜糖タンパク質である。6つの上皮細胞増殖因子様構造とセリン・トレオニンに富むドメインを含む組み換えトロンボモジュリンドメインは有糸分裂誘発活性を示す。
【0028】
先行の研究(米国特許出願番号第11/149378号(特許文献1))はTMD23が内皮細胞(HUVEC)の遊走と増殖を誘発し得ることを立証した。
【0029】
本発明において、TMD23が表皮における主要細胞タイプであるケラチン生成細胞(HaCaT)の遊走を効果的に増強し、かつTMD23に対する抗体がケラチン生成細胞の遊走を特異的に阻害し得ることが明らかとなった。従って、TMD23がケラチン生成細胞の遊走を刺激することで創傷治癒過程を増進し得ることが初めて立証された。
【0030】
更に、動物実験はTMD23が表皮の創傷領域への移動と拡張を増強することで、創傷の閉鎖を加速し得ることを示した。一方で、創傷開口部からの水分蒸散速度も同様に効果的に軽減された。
【0031】
要約すると、TMは創傷の治癒速度を効果的に増進可能である。
【0032】
本発明は創傷の治療方法に関し、こういった治療を必要とする患者にトロンボモジュリンのEGF様ドメインを有するアミノ酸配列又はその機能保存変異体を含む有効量のポリペプチドを投与することを含む。好ましい実施形態において、ポリペプチドはトロンボモジュリンのセリン・トレオニンの豊富なドメインのアミノ酸配列又は機能保存変異体を含む、作用可能に結合したポリペプチドを更に含む。
【0033】
本発明の方法は創傷の治癒促進に適用可能であり、創傷は切開傷、裂傷、擦り傷、刺創、水膨れ、皮膚離開、ドナー又は移植部位、座瘡、挫傷、血腫、圧迫性創傷及び皮膚剥離又はレーザー剥皮により生じる傷から成る群から選択される。
【0034】
本発明の方法は真性糖尿病患者にも使用可能である。好ましい実施形態において、患者は糖尿病性の潰瘍を患っている。
【0035】
本発明の方法は、創傷が火、熱、放射線、電気又は皮膚手術から生じた熱傷であっても適用可能である。
【0036】
本発明は再建手術にも適用可能である。
【0037】
好ましい実施形態において、本方法はゲル、クリーム、ペースト、ローション、スプレー、懸濁液、水溶液、分散膏薬、ヒドロゲル、及び軟膏製剤から成る群から選択される皮膚媒介型製品に適用される。より好ましい実施形態において、皮膚媒介型製品はこういった治療を要する患者に皮膚への塗布、注入、又はエレクトロポレーションにより投与される。
【0038】
本発明は創傷の治療方法にも関し、こういった治療を必要とする患者にトロンボモジュリンのEGF様ドメインを有するアミノ酸配列又はその機能保存変異体を含むポリペプチドをエンコードするDNAからなる有効量のプラスミドを投与することを含む。より好ましい態様において、この投与はプラスミドワクチンを用いて行う。更に好ましい実施形態において、投与は静脈(iv)、皮下(sc)、腹腔(ip)、又は筋肉(im)経路で行う。
【0039】
本発明は更に創傷の治癒を加速するために使用する組成物に関連し、トロンボモジュリンのEGF様ドメインを有するアミノ酸配列又はその機能保存変異体を含むポリペプチドを含む。より好ましい実施形態において、ポリペプチドはトロンボモジュリンのセリン・トレオニンの豊富なドメインのアミノ酸配列又は機能保存変異体を含む、作用可能に結合したポリペプチドを更に含む。
【0040】
本発明の組成物は創傷の治癒加速の使用に適用可能であり、創傷は切開傷、裂傷、擦り傷、刺創、水膨れ、皮膚離開、ドナー又は移植部位、座瘡、挫傷、血腫、圧迫性創傷及び皮膚剥離又はレーザー剥皮により生じる傷から成る群から選択される。
【0041】
本発明の組成物は真性糖尿病の患者に使用可能である。好ましい実施形態において、患者は糖尿病性の潰瘍を患っている。
【0042】
本発明の組成物は、創傷が火、熱、放射線、電気又は皮膚手術から生じた熱傷であっても適用可能である。
【0043】
より好ましい実施形態において、本組成物は再建手術にも適用可能である。
【0044】
より好ましい実施形態において、本方法はゲル、クリーム、ペースト、ローション、スプレー、懸濁液、水溶液、分散膏薬、ヒドロゲル、及び軟膏製剤から成る群から選択される皮膚媒介型製品に適用される。より好ましい実施形態において、皮膚媒介型製品はこういった治療を要する患者に皮膚への塗布、注入、又はエレクトロポレーションにより投与される。
【0045】
用語の定義
以下の定義は以下の考察の理解を助けるための説明を目的としており、本発明を限定するものではない。
【0046】
本発明においては、従来の分子生物学、微生物学、及び当業者の知識範囲にある組み換えDNA技術を活用する。こういった技術は文献中で十分に説明される。
【0047】
「創傷」とは、開放創及び閉鎖創を特徴とする。開放創は(ナイフ又は剃刀等のなめらかで鋭利な物体により生じた)切開傷、裂傷(激しい又は引き裂くような力によって生じた粗く不規則な創)、表皮の剥脱及び擦過傷(皮膚の最上層が剥がれ落ちた表部の創傷。粗面に擦るように落下することで生じることが多い)、及び(爪、針等の皮膚を穿刺する物体により生じる)刺創を含む、各種タイプに分類することが可能である。閉鎖創の分類はこれよりもずっと少ないが、開放創と同じように危険である。閉鎖創とは(皮膚下の組織を損傷する鈍的外傷によって生じる)挫傷又は打撲傷、(血管が損傷されることで皮膚下に血液が集中することによって生じる)血腫及び(長期間に亘って加えられた大きな又は極端な量の力によって生じる)圧迫性創傷である。
【0048】
「創傷」の治癒過程には3つの段階がある。つまり炎症期、増殖期、及び成熟期である。
【0049】
炎症期は止血及び炎症を特徴とする。創傷形成時に露出したコラーゲンが血液凝固カスケード(内因系及び外因系の経路の双方)を活性化し、炎症期が始まる。組織への損傷発生後、創傷の形成により損傷を受けた細胞膜はトロンボキサンA2及びプロスタグランジン2−αといった強力な血管収縮物質を放出する。この初期反応が出血を抑制する。ほどなくして局所的なヒスタミン放出に伴い毛細血管の拡張が起こり、炎症細胞が創面に遊走可能となる。炎症期は持続し、より多くの免疫応答細胞が創傷部に遊走される。創傷に遊走される第二の反応細胞である好中球は残屑の清浄化、補体媒介性の細菌のオプソニン化、及び活性酸素発生メカニズムを介した細菌の破壊(つまり、スーパーオキシド及び過酸化水素の生成)を担う。好中球は細菌を殺し、創傷から異物を排除する。
【0050】
創傷治癒における第二段階は増殖期である。上皮形成、血管新生、肉芽組織の形成、及びコラーゲン沈着が創傷治癒のこの同化部における主要工程である。上皮形成は創傷修復の早期に生じる。基底膜が無傷で残っているならば、上皮細胞は通常のパターンに沿って上方に遊走する。これは1度の熱傷と同等である。上皮前駆細胞は創傷下方で無傷のまま残っており、通常の表皮層が2、3日で修復される。2度又は3度の熱傷と同様に基底膜が破壊されてしまっている場合、創傷はその周囲の正常な細胞及び、無傷なら皮膚付属器(例えば、毛包、汗腺)から再上皮形成される。増殖期の最終局面は肉芽組織の形成である。線維芽細胞が分化し、基質、次にコラーゲンが産生される。基質は創面に沈着し、創傷が修復の最終局面に進むにつれ、コラーゲンが次に沈着する。創傷修復の増殖期には多種多様なサイトカインが関係してくる。制御の段階及び正確なメカニズムはまだ解明されていない。一部のサイトカインにはPDGF、インシュリン様成長因子、(IGF)及びEGFが含まれる。これらは全てコラーゲンの生成に必要なものである。
【0051】
創傷治癒の最終期は成熟期である。創傷は収縮し、最終的には目に見える瘢痕組織の量の減少へとつながる。全過程は各治癒期と継続的な再構築の重複を伴う連続的な活動である。創傷は1年で最大強度に達し、引張強度は正常な皮膚の30%となる。コラーゲンの沈着は長期間に亘って継続するが、コラーゲン沈着の純増加は21日後に横ばいとなる。
【0052】
「血管新生」は、増殖因子及びその他のリガンドによって調整されることが大きいと一般的には考えられている。血管新生、及び同時に起こる組織の発達及び再生は内皮細胞増殖、遊走、分化、及び生存といった厳密に制御された過程に依存する。これらの過程の間、刺激物質及び阻害物質リガンドは直接的又は間接的に細胞受容体と相互作用するようである。血管新生は内皮細胞及び白血球により放出された酵素による基底膜の侵食から始まる。血管壁を覆う内皮細胞が次に基底膜を破る。血管新生刺激物質により、侵食された基底膜を通った内皮細胞の遊走が誘発される。次に遊走細胞により親血管から「発芽」が形成され、内皮細胞は有糸分裂を始め、増殖する。内皮細胞の発芽は互いに融合して毛細管ループを形成し、血管が新生される。
【0053】
ここで述べるところの「熱傷」とは、熱、電気、放射線(例えば、日焼けやレーザ手術)、又は腐食性の化学薬品への曝露により生じる損傷である。
【0054】
真性糖尿病は高血糖(グルコース)レベルを特徴とする代謝性疾患群であり、インシュリン分泌又は作用、又はその双方における異常により生じる。真性糖尿病は一般的には糖尿病と称され、「甘い尿」を意味する。血中グルコースレベルの上昇(高血糖)はグルコースの尿への流出につながることから、甘い尿の用語となった。通常、血中グルコースレベルは膵臓により産生されるホルモンであるインシュリンにより厳格に制御されている。血中グルコースレベルはインシュリンにより低下する。(例えば、食物摂取後に)血中グルコースレベルが上昇するとインシュリンが膵臓から放出され、グルコースレベルを正常レベルに戻す。真性糖尿病の患者では、インシュリンが生成されない又は十分に生成されず、高血糖状態が引き起こされる。真性糖尿病は慢性的な病態であり、つまり生涯続く可能性があるということである。
【0055】
糖尿病は末梢部の神経障害を併発することがよくあり、特に血管の損傷と相まった場合、足の潰瘍へとつながり、壊死、感染症、壊疽へと進行する可能性があり、足の切断を必要とすることもある。
【0056】
「核酸」又は「ヌクレオチド配列」とは一本鎖形状又は二重螺旋構造のいずれかであるリボヌクレオシド(アデノシン、グアノシン、ウリジン、シジチン;RNA分子)又はデオキシリボヌクレオシド(デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシチミジン、又はデオキシシチジン;DNA分子)のリン酸エステルの高分子形を意味する。二重鎖のDNA−DNA、DNA−RNA及びRNA−RNA螺旋が考えられる。核酸という用語は、特定のDNA又はRNA分子中においては、分子の一次及び二次構造しか意味せず、特定の三次又は四次形に限定しない。従って、この用語はとりわけ線状又は環状DNA分子(例えば、制限酵素断片)、プラスミド、及び染色体で見られる二重鎖DNAを含む。特定の二重鎖DNA分子の構造について論じるにあたり、本願においては配列をDNAの非転写鎖(つまり、mRNAと相同の配列を有する鎖)に沿って5’から3’の方向にのみ配列を表記する通常の慣例に沿って記載する。「組み換えDNA」は分子を生物学的に操作したDNA分子である。
【0057】
DNAの断片に言及する際、「作用可能に結合」とは断片が協働するように配置されていることを示し、例えば、転写工程はRNAポリメラーゼがプロモータ断片に結合し、転写ターミネータ断片に遭遇してポリメラーゼが停止するまでコード断片を通過して転写を進めることで行われる。
【0058】
本願で称するところの「核酸フラグメント」とはcDNA、ゲノムDNA、合成DNA又はRNAを起点とする核酸分子全てを意味することを意図する。「フラグメント」という用語は、一本鎖又は二本鎖であり、かつ目的のポリプチドをエンコードする完全又は部分的な天然ヌクレオチド配列に基づいたものである核酸断片を意味することを意図する。フラグメントは任意でその他の核酸断片を含む。
【0059】
本発明のポリペプチドをエンコードする本発明の核酸断片は、適切にはゲノム又はcDNAを起点とし、例えば、ゲノム又はcDNAライブラリを調製し、標準的な技法に従って合成オリゴヌクレオチドプローブを用いたハイブリダイゼーションによりポリペプチドの全て又は一部をコードするDNA配列をスクリーニングすることで得られる。
【0060】
ポリペプチドはそのポリペプチドに特異的な当該分野で既知の方法で検出し得る。これらの検出法には特定の抗体の使用、酵素生成物の生成、又は酵素基質の消失が含まれる。例えば、酵素アッセイを用いて、ポリペプチドの活性を測定する。
【0061】
本発明のポリペプチドは当該分野で既知の多様な手順により精製することができ、クロマトグラフィ(例えば、イオン交換、親和性、疎水、クロマト分画、サイズ排除)、電気泳動手順(例えば、調製等電点電気泳動(IEF))、示差溶解度(例えば、硫酸アンモニウム沈殿)法、又は抽出を含むが、これらに限定はされない。
【0062】
本願で使用するところの用語「プラスミドワクチン」とは適切な宿主系における産生を可能な、構成に組み込まれた遺伝子のみならず、目的とするワクチン抗原用の遺伝子を含有するよう設計されたプラスミドDNAの精製調製物と定義される。
【0063】
以下の実施例は非制限的であり、本発明の様々な態様及び特徴を代表するにすぎない。
【実施例1】
【0064】
HaCaT上皮細胞の遊走にTMD23が与える影響
HaCaT細胞の遊走にTMD23が与える影響を直径6.5mmのポリカーボネートフィルタ(8μm細孔サイズ)のボイデンチャンバを用いて評価した。フィルタ下面はタイプIVコラーゲンでコーティングされている。TMD23(100ng/ml)又はTMD23(100ng/ml)+抗TM抗体(1μg/ml)を下部ウェルのDMEMに添加した。1x10細胞を含有する細胞懸濁液(50μL)を各上部ウェルに装填した。8時間の間に膜を通って遊走した細胞の数を、メタノールで固定し10%GIEMSAで染色後に顕微鏡下で数えた。図1に示すように、TMD23はHaCaT細胞における走化性遊走能を顕著に誘発した。
【実施例2】
【0065】
材料
DMApは20μlの0.5%CMC/PBS溶液中の100μgの組み換えTMD23精製タンパク質(SEQ ID NO.1)であった。pH7.4の0.5%のCMC(カルボキシメチルセルロース)/PBS(リン酸緩衝生理食塩水)を溶液形態のビヒクルとしてDMAp及びCGS−21680に用いた。CGS−21680塩酸塩(2−p−[2−カルボキシエチル]フェネチルアミノ−5’−N−エチルカルボキシアミドアデノシン)はGタンパク質活性化因子であり、Sigma-Aldrich社から購入した。
【0066】
DMAcゲルは20mgのベースゲル中の100μgの組み換えTMD23精製タンパク質(SEQ ID NO.1)であった。ベースゲルはDMAcゲルとレグラネクスゲルのネガティブコントロールとして使用した。ベースゲルはカルボキシメチルセルロースナトリウム、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム三水和物、氷酢酸、メチルパラベン、プロピルパラベン、m−クレゾール、L−塩酸リジン、ベンジルアルコール、メチルクロロイソチアゾリン、メチルイソチアゾリニン、アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP共重合体及び注射用水から成る。レグラネクスゲルはJohnson & Johnson社から購入した。
【0067】
実施例で使用の化学物質については、10%中性緩衝ホルマリン溶液(Shiyak Kogyo社。日本)、カルボキシメチルセルロース(Sigma-Aldrich社。米国)、GCS−21680塩酸塩(Tocris社。米国)、ヘキソバルビタール(Sigma-Aldrich社。米国)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS。pH7.4。Sigma-Aldrich社。米国)及び塩化ナトリウム(Wako社。日本)を用いた。
【0068】
実施例で用いた器具については、動物ケージ(Allentown社、米国)、イメージプロプラス(Media Cybernetics社。バージョン4.5.29)、ピペットマン(Gilson社。ドイツ)及び内径12mmの鋭利な穿孔器具(Sinter社。R.O.C)を用いた。
【実施例3】
【0069】
動物
体重24±2gのオスのCD−1(Crl)誘導マウスをBioLasco Taiwan社(Charles River Laboratories Technologyライセンシー下)から入手した。マウス10頭の割り当てスペースは29x18x13cmであった。全てのマウスは制御された温度(22℃〜24℃)と湿度(50%〜60%)下の環境で、明暗サイクル12時間で少なくとも1週間、MDS Pharma Services-Taiwan Laboratoryで実験に先立って飼育された。標準的な実験マウス用飼料[MF-18(Oriental Yeast社。日本)]及びRO水は自由摂取とした。飼育環境、実験及びマウスの屠殺を含む本実験の全ての局面は実験動物の管理と使用に関する指針(the Guide for the Care and Use of Laboratry Animals: National Academy Press, Washington, D.C., 1996年)に概して沿って行った。
【0070】
体重50±5g(生後9週間)のインシュリン非依存性真性糖尿病(NIDDM)のオスのマウス(C57BLKS/J−m+/+Lepr db)は動物繁殖研究所(IAR。日本)から入手した。これらのマウスは高インシュリン血、高血糖、及び膵島萎縮を示している。実験中、マウスは個別換気式ケージラック(IVCラック、36ミニアイソレータシステム)内に特定病原体未感染(SPF)条件下で収容した。各APEC_ケージ(長さ26.7x幅20.7x14.0高さ。cm表記)をオートクレーブで殺菌して、7頭のマウスを収容し、次にマウスを制御された温度(22℃〜24℃)と湿度(50%〜60%)、12時間の明暗サイクル下の衛生環境内で飼育した。マウスは殺菌実験マウス用飼料及び殺菌蒸留水を不断自由給餌された。この実験の全ての局面、つまり飼育環境、実験及びマウスの屠殺は実験動物の管理と使用に関する指針(the Guide for the Care and Use of Laboratry Animals: National Academy Press, Washington, D.C., 1996年)に概して沿って行った。
【実施例4】
【0071】
TMD23によるマウスの創傷閉鎖の促進
体重各24±2gのオスのCD−1(Crl)誘導マウス5頭のグループを用いた。試験期間中、マウスは個別のケージに個々に収容された。ヘキソバルビタール(90mg/kg、IP)麻酔下で、各マウスの肩及び背領域の体毛を剃った。鋭利な穿孔器具(内径12mm)を適用して筋肉層及び付随する組織を含む皮膚を除去した。ポジティブコントロールとしてのビヒクル(0.5%CMC/PBS、pH7.4、20μl/マウス)及び10μ/マウスのCGS−21680のみならず20mg/マウスのDMAc、レグラネクス及びベースゲル及び100μg/マウスのDMApを、皮膚の損傷後すぐに各自局所的(TOP)に連続10日間に渡って1日1回投与した。透明なプラスチックシートにトレースした創傷の面積をイメージプロプラス(Media Cybernetics社、バージョン4.5.29)を用いて1、3、5、7、9、11日後に測定した。創傷閉鎖率(%)を計算し、創傷の半閉鎖時間(CT50)をグラフプリズム(Graph Software社。米国)を用いて線形回帰を用いて分析した。一元配置分散分析とそれに続くダネット試験を治療グループと、それに対応するビヒクルグループとを各計測時間点で比較するために適用した。P<0.05の場合、差異は統計的に有意であると見なした。ポジティブスタンダードとしてのCGS−21680(10μg/マウスx10)が、創傷の閉鎖において有意な上昇を見せ(P<0.05。3、5、7、9及び11日目)、CT50は対応するビヒクル制御値と相対して低下した。結果を図2(溶液相)、図3(ゲル相)、以下の表1にまとめた。
【0072】
試験品目がCD−1マウスにおける創傷閉鎖率と半閉鎖時間に与える影響
【表1】


創傷閉鎖率(%)及び創傷半閉鎖時間(CT50)を求め、一元配置分散分析とそれに続くダネット試験を用いて治療グループと、それに対応するビヒクルグループとを比較した。*P<0.05対ビヒクルコントロール
【0073】
実験を通してDMAp(100μ/マウス)が最も持続性の高い効果を創傷治癒に対して示し、CT50値は顕著に短縮された。DMAc及びレグラネクスは創傷の治癒を促進する傾向を示したが、CT50に有意な影響は与えなかった。ベースゲルは皮膚創傷マウスモデルにおいて何の影響も与えなかった。
【実施例5】
【0074】
TMD23による糖尿病マウスにおける創傷閉鎖の促進
体重50±5gのC57BLKS/J−m+/+Lepr dbの5頭のオスのマウスグループを用いた。実験中、マウスは個別換気式ケージラック(IVCラック、36ミニアイソレータシステム)内に個別に収容した。ヘキソバルビタール(90mg/kg、IP)麻酔下で、各マウスの肩及び背領域の体毛を剃った。鋭利な穿孔器具(内径12mm)を適用して筋肉層及び付随する組織を含む皮膚を除去した。1、3、5、7、9、11、13、15日目に透明なプラスチックシートにトレースした創傷面積を、画像解析装置(ProPlus。Media Cybernetics社、バージョン4.5.29)を用いて測定した。溶液又はゲル状の試験物質及びビヒクル、ポジティブコントロールCGS−21680又はレグラネクスを創傷後すぐに1日目から連続全14日間に亘って1日1回各自局所投与した。試験物質DMAp(100μg/マウス)、ビヒクル(0.5%、CMC/PBS、pH7.4)及びCGS−21680(10μg/マウス)は溶液状であり、20μl/マウスの投与量を用いた。その一方、DMAc、レグラネクス及びベースゲル(ビヒクルコントロールグループとして)はゲル状であり、20mg/マウスで投与した。創傷の半閉鎖時間(CT50)をグラフパッドプリズム(Graph Pad Software社。米国)を用いて線形回帰により求め、一元配置分散分析とそれに続くダネット試験を治療グループとビヒクルグループとを各計測時間点で比較するために適用した。P<0.05レベルの場合、差異は統計的に有意であると見なした。ポジティブコントロール物質としてのCGS−21680(10μg/マウスx14)及びレグラネクス(20mg/マウスx14)が、創傷の閉鎖率において有意な上昇(P<0.05)を見せ(3、5、7、9、11、13、15日目)、CT50は対応するビヒクルコントロール値と比較して顕著に低下した。結果を図4(溶液相)、図5(ゲル相)、以下の表2にまとめた。
【0075】
試験品目がLepr dbマウスにおける創傷閉鎖率と半閉鎖時間に与える影響
【表2】


創傷閉鎖率(%)及び創傷半閉鎖時間(CT50)を求め、一元配置分散分析とそれに続くダネット試験を用いて治療グループと、それに対応するビヒクルグループとを比較した。*P<0.05対ビヒクルコントロール
【0076】
実験を通してDMAp(100μg/マウス)、DMAC、レグラネクス(各20mg/マウス)及びCGS−21680(10μg/マウス)が持続性のある増強効果を創傷治癒に対して示し、CT50値は顕著に短縮された。初期相で、ベースゲルのビヒクルは、0.5%CMC/PBS、pH7.4と比較して創傷の治癒において若干の遅れを見せた模様である。
【実施例6】
【0077】
TMD23による創傷開口部からの蒸散速度の低下
上皮形成速度を測定するために、創傷領域からの水分蒸散速度をTM210皮膚水分蒸散量測定装置テヴァメータ(Courage+KHAZAKA electronic社。ケルン。ドイツ)を用いて測定した。水分蒸散速度は低いほど、高い上皮形成又は角質化レベルを表す。結果(図6)はTMD23が創傷の上皮形成速度を効果的に上昇させることを示している。
【0078】
本発明が元来のもののみならず、目的を達成し、記載の結果と利点を得るために高く適合されていることが当業者には容易に理解されるものである。これらを製造するための細胞株、動物及び処理及び方法は好ましい実施形態を代表し、例示であり、かつ本発明の範囲を制限することを意図していない。本発明における改変及びその他の用途は当業者の想定範囲内である。これらの改変は本発明の精神の範囲内にあり、請求項の範囲により規定される。
【0079】
本発明の範囲及び精神から逸脱することなく多様な代替及び改変を本願で開示の発明に加え得ることは当業者に容易に理解できる。
【0080】
明細書内で言及した全ての特許及び出版物は本発明が係る分野における当業者の水準を示す。全ての特許及び出版物は、各自出版物が参照により組み込まれることを特にかつ個別に意図されたがごとく、参照により同程度にまで本願に組み込まれる。
【0081】
本願で実例を挙げて説明した本発明はどの要素、制限事項が欠けても適切に実施することができ、本願では特に開示はしない。使用した用語及び表現は説明上の用語として用いたものであって限定的ではなく、こういった用語及び表現は図示及び記載した構成及びその一部の同等物を排除することを意図するものではなく、請求の本発明の範囲内で多様な改変が可能であると認識される。従って、本発明を好ましい実施形態及び任意の構成により具体的に開示してきたが、本願で開示の概念の改変及び変形が当業者により行われる場合もあり、またこういった改変及び変形は付随する請求項により規定される本発明の範囲内であると見なされる。
【0082】
その他の実施形態は以下の請求項内に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】TMD23のHaCaT上皮細胞遊走に対する効果を示す。
【図2】DMAp又はCGS−21680(溶液状)の局所適用により治療したCD−1マウスにおける創傷閉鎖の経時変化である。試験物質及びビヒクルを各自連続10日間に亘って1日1回局所投与した。ポジティブコントロールとしてのCGS−21680(10μg/マウス)を同じタイミングで局所投与した。創傷閉鎖率(%)及び創傷半閉鎖時間(CT50)を測定し、一元配置分散分析及びそれに続くダネット試験を3、5、7、9、11日目に行い、治療グループ及びその対応するビヒクルグループとで比較した。
【図3】DMAc又はレグラネクス(ゲル状)の局所適用により治療したCD−1マウスにおける創傷閉鎖の経時変化である。試験物質を各自連続10日間に亘って1日1回局所投与した。創傷閉鎖率(%)及び創傷半閉鎖時間(CT50)を測定し、一元配置分散分析及びそれに続くダネット試験を3、5、7、9、11日目に行い、治療グループ及びその対応するビヒクルグループとで比較した。
【図4】DMAp又はCGS−21680(溶液状)の局所適用により治療した糖尿病マウス(Lepr db)における創傷閉鎖の経時変化である。試験物質及びビヒクルを各自連続14日間に亘って1日1回局所投与した。ポジティブコントロールとしてのCGS−21680(10μg/マウス)を同じタイミングで局所投与した。創傷閉鎖率(%)及び創傷半閉鎖時間(CT50)を測定し、一元配置分散分析及びそれに続くダネット試験を3、5、7、9、11、13、15日目に行い、治療グループ及びその対応するビヒクルグループとで比較した。
【図5】DMAc又はレグラネクス(ゲル状)の局所適用により治療した糖尿病マウス(Lepr db)における創傷閉鎖の経時変化である。試験物質を各自連続14日間に亘って1日1回局所投与した。創傷閉鎖率(%)及び創傷半閉鎖時間(CT50)を測定し、一元配置分散分析及びそれに続くダネット試験を3、5、7、9、11、13、15日目に行い、治療グループ及びその対応するビヒクルグループとで比較した。
【図6】TMD23が創傷開口部からの蒸散速度を低下させることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷の治療方法であり、こういった治療を必要とする患者にトロンボモジュリンのEGF様ドメインを有するアミノ酸配列又はその機能保存変異体を含む有効量のポリペプチドを投与することを含む治療方法。
【請求項2】
前記ポリペプチドがトロンボモジュリンのセリン・トレオニンの豊富なドメインのアミノ酸配列又は機能保存変異体を含む、作用可能に結合したポリペプチドを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記創傷が切開傷、裂傷、擦り傷、刺創、水膨れ、皮膚離開、ドナー又は移植部位、座瘡、挫傷、血腫、圧迫性創傷及び皮膚剥離又はレーザー剥皮により生じる傷から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
真性糖尿病患者に用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記患者が糖尿病性の潰瘍を患っている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記創傷が火、熱、放射線、電気又は皮膚手術から生じた熱傷である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
再建手術に適用可能な、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ゲル、クリーム、ペースト、ローション、スプレー、懸濁液、水溶液、分散膏薬、ヒドロゲル、及び軟膏製剤から成る群から選択される皮膚媒介型製品に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記皮膚媒介型製品がこういった治療を要する前記患者に皮膚への塗布、注入、又はエレクトロポレーションにより投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
創傷の治療方法であり、こういった治療を必要とする患者にトロンボモジュリンのEGF様ドメインを有するアミノ酸配列又はその機能保存変異体を含むポリペプチドをエンコードするDNAからなる有効量のプラスミドを投与することを含む、創傷の治療方法。
【請求項11】
前記投与をプラスミドワクチンを用いて行う、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記投与を静脈(iv)、皮下(sc)、腹腔(ip)、又は筋肉(im)経路で行う、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
トロンボモジュリンのEGF様ドメインを有するアミノ酸配列又はその機能保存変異体を含むポリペプチドを含む、創傷の治癒に使用するための組成物。
【請求項14】
前記ポリペプチドがトロンボモジュリンのセリン・トレオニンの豊富なドメインのアミノ酸配列又は機能保存変異体を含む、作用可能に結合したポリペプチドを更に含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記創傷が切開傷、裂傷、擦り傷、刺創、水膨れ、皮膚離開、ドナー又は移植部位、座瘡、挫傷、血腫、圧迫性創傷及び皮膚剥離又はレーザー剥皮により生じる傷から成る群から選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
真性糖尿病患者に用いる、請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
前記患者が糖尿病性の潰瘍を患っている、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記創傷が火、熱、放射線、電気又は皮膚手術から生じた熱傷である、請求項13に記載の組成物。
【請求項19】
再建手術に適用可能である、請求項13に記載の組成物。
【請求項20】
ゲル、クリーム、ペースト、ローション、スプレー、懸濁液、水溶液、分散膏薬、ヒドロゲル、及び軟膏製剤から成る群から選択される皮膚媒介型製品に適用される、請求項13に記載の組成物。
【請求項21】
前記皮膚媒介型製品がこういった治療を要する前記患者に皮膚への塗布、注入、又はエレクトロポレーションにより投与される、請求項20に記載の組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2009−506981(P2009−506981A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515696(P2008−515696)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【国際出願番号】PCT/US2006/015662
【国際公開番号】WO2006/135493
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(508114340)
【出願人】(508114339)
【出願人】(508114351)
【出願人】(508114362)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
【Fターム(参考)】