説明

創傷清掃用具

【課題】治癒過程を停止又は後退させることなく、汚れを満足な程度に取り除くことができるように、無理のない実行性のある創傷清掃及び特にデブリードメントを実現する。
【解決手段】創傷清掃用具は、創傷清掃用布(1)を備え又は創傷清掃用布(1)により構成されている。創傷清掃用具は、支持層(2)と繊維群(3)とを備えている。繊維群(3)は、支持層(2)から突出している状態で支持層(2)に設けられ、合成繊維又は合成樹脂繊維のみにより構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創傷の清掃のための用具、創傷清掃用具及びパッケージからなる組み合わせ製品のほか、創傷清掃用具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
創傷治療において最初に必要なのは創傷の清掃である。従来、当該分野においてはさまざまな方法及び補助手段が用いられてきた。木綿球による創傷の清掃が広く知られている。外科的又はハイドロ外科的な清掃方法のほか、衝撃波治療又は超音波の使用も知られている。
【0003】
創傷清掃に関して、汚れが可能な限り完全に除去される一方、創傷が消滅した新たな無傷箇所の摩擦等の破壊によって治癒過程が後戻りしないことが主に要求される。これは、特に慢性的創傷の長期にわたる医師の治療をもたらす。
【0004】
急性の創傷及び特に慢性の創傷の治療にとって重要になるのがいわゆるデブリードメント(Debridment)である。これはウンドベッドプレパレーション(Wundbettpraparation)の進行にも関係する。ウンドベッドプレパレーションの進行により、身体からこれを構成する物質、換言すると、余剰の体液などの人体物質、繊維素苔(Fibrinbelage)、余剰の角質物又は壊死した角質細胞などの表皮の壊死組織又は死滅組織(Nekrosen)由来の苔などが取り除かれる。
【0005】
現時点まで、デブリードメントは、ハイドロ外科(Hydrochirurgie)、衝撃波治療又は外科的方法などの医療技術的手法のみによって行われている。さらに、現在の技術水準によれば、長時間の経過後にデブリードメントの効果が現われる、湿式の創傷用包帯の長期の使用は議論の余地がある。現在の技術水準では、公知手法はコストがかさみかつ負担が大きく、部分的に無謀なものである。
【0006】
デブリードメントの目標は、創傷治癒期間に、新生の皮膚領域のほか、肉芽組織の邪魔になった生体物質を、早期の上皮化まで可能な限り損なわずに保護し、死滅した物質のみを除去することである。現在の技術水準における公知手法によって、当該目的は十分に達成されていない。
【0007】
全体的に現在の技術水準の手法及び支援手段の大部分はコストがかかり、前記主目的は不十分にしか実現されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、治癒過程を停止又は後退させることなく、汚れを満足な程度に取り除くことができるように、無理のない実行性のある創傷清掃及び特にデブリードメント(デブリードメント)を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、創傷清掃用布を備えている又は創傷清掃用布である創傷清掃用具であって、支持層と、前記支持層から突出している状態で前記支持層に設けられている繊維群とを備え、前記繊維群は合成繊維又は合成樹脂繊維から構成されていることを特徴とする創傷清掃用具により達成される。
【0010】
合成繊維からなる繊維群を有する創傷清掃用布により、非常に簡易な方法で、効率的にかつ既に進行している創傷治癒過程を阻害することなく又は当該阻害を最小限に抑えながら、創傷が清掃されうる。合成繊維が、簡易かつ確実な滅菌と、合成繊維自体と創傷から除去される汚染物との静電引力による吸着という有利な効果をもたらす。創傷から除去された汚染物粒子は、創傷清掃用布の繊維の間に確実に捕らえられ、当該創傷に戻されることはない。
【0011】
「創傷清掃」は、身体が有する物質ではない異物又は異物粒子の除去のほか、ウンドベッドプレパレーションを進行させるデブリードメントをも概念的に包含する。ウンドベッドプレパレーションの進行により、身体からこれを構成する物質、換言すると、余剰の体液などの人体物質、繊維素苔(Fibrinbelage)、余剰の角質物又は壊死した角質細胞などの表皮の壊死組織又は死滅組織(Nekrosen)由来の苔などが取り除かれる。
【0012】
本発明の創傷清掃用具は、デブリードメント及び特に急性の外科的創傷の治療に際して適用される。これにより、創傷治癒の進行を阻害する生体物質が、無理なくかつ効率的に創傷から取り除かれる。また、同時に粒状組織の形の新生の皮膚領域が保護された状態が維持される。デブリードメントは、これなしで創傷の治癒を進行させるための公知の治療完了後の治癒はありえないので、外科的創傷のほか急性創傷の管理に関する最重要の処置である。
【0013】
本発明の創傷清掃用具によれば、特にデブリードメントに際して、創傷清掃用布の使用により、前記阻害生体物質又は人体物質は創傷から効率的に除去され、創傷清掃用布の繊維群の間に保持され、当該創傷又は皮膚に付着することはない。換言すると、本発明の創傷清掃用具によれば、デブリードメントに際して除去された物質は、支持層から突出している繊維群の間に確実に捕らえられ、当該除去物質が当該創傷に再び戻ることはない。
【0014】
創傷清掃用布は湿った状態のほか乾燥した状態で使用され、これに代えて又は加えて、当該使用前において、薬品に用いられている又は知られている液体が吸収される。これに関して、滅菌製品又は薬品のために創傷清掃用布が用いられることにより、薬品に関する該当規格及び法律の基準が満たされる。
【0015】
本発明の創傷清掃用具によれば、創傷及び皮膚のうち一方又は両方の清掃、特にデブリードメントが実行される。これにより、身体由来ではない汚染物のほか、身体から生じた邪魔な生体物質又は人体物質が、創傷又は皮膚から取り除かれる。創傷は、支持層から突出している繊維群によって単に拭き取られる又は清掃されるだけである。
【0016】
本発明の創傷清掃用具は、前記のようにデブリードメントのほか、身体由来の生体物質又は人体物質を創傷、皮膚又は創傷及び皮膚から取り除くことに適用される。換言すると、本発明の創傷清掃用具により、皮膚、創傷又は皮膚及び創傷から人体物質が取り上げられる。
【0017】
本発明の創傷清掃用具によれば、特にデブリードメントに際して、創傷のコロニー化又は局所的な感染をもたらす細菌が、流動性のある生体膜の形で創傷に侵入することに対して処置することができるなどの適応が利用される。本発明の創傷清掃用具は、患者に対して体系的な伝染をもたらす、生体膜を有する細菌の創傷に対する侵入を回避するために適用される。
【0018】
さらに、創傷治癒の妨げとなり、治癒のために重要な創傷基礎又は創傷縁を制止する乾燥した繊維素苔が除去される。また、湿った状態と同様に乾燥した状態の死滅組織の形をとった板状の壊死組織を減少させるために有効である。創傷及び創傷縁から、余剰の角質生成物(角質増殖)及び死滅した角質細胞又は組織細胞が効率的かつ無理なく治療される。
【0019】
繊維群は比較的柔軟に構成されてもよく、その一方で比較的堅硬質の剛毛状に構成されてもよい。繊維群は理論的には合成繊維とは異なる構成要素を有していてもよい。繊維群は合成繊維のみから構成されてもよい。創傷清掃用布は、全体として、急性又は外科的創傷の医療的な創傷清掃又はデブリードメントに際して用いられうる織布の表面構造を構成する。合成繊維は、一般の天然繊維ではなく、特に合成樹脂繊維であることが理解される。
【0020】
複数又は50%以上の前記繊維群が、前記支持層から離れている側で自由に突出し、好ましくは切断されている端部を有することが好ましい。また、80%以上又は90%以上、さらに好ましくは全ての前記繊維群が、前記支持層から離れている側で自由に突出している又は切断されている端部を有することが好ましい。
【0021】
自由に突出している端部によって繊維群はかみそり効果を発揮し、これにより汚染物粒子及び余分な生体物質、特に身体由来の物質のうち一方又は両方が創傷から効果的に除去される。
【0022】
この意味で、前記繊維群が、その軸線に対して傾斜している又は切断されている端部又は端面を有することが好ましい。「傾斜」は、繊維の軸線に対して垂直又は直角ではなく、平行でもないあらゆる角度を有することを意味する。繊維の軸線は、直線状に伸びている状態における繊維の軸線を意味する。
【0023】
傾斜端部又は端面は繊維の軸線に対して70°〜80°の範囲の角度をなす。これは、創傷清掃用布の繊維群が常に直線状に伸びていることを意味するものではない。繊維群はさまざまな堅硬性素材又は柔軟性素材から構成されていてもよく、多少の柔軟性、好ましくは定常的な柔軟性を有する。所望の創傷清掃効果を迅速かつ円滑に奏させるため、前記繊維群が、前記支持層に設けられ、かつ、前記支持層から突出している刷毛(Flor)を構成している。
【0024】
前記支持層、好ましくは前記創傷清掃用布及び前記支持層が、合成繊維又は合成樹脂繊維を備え、或いは合成繊維又は合成樹脂繊維により構成されている。
【0025】
創傷清掃用布は簡単に製造されうる。例えば、本発明の創傷清掃用具又は用布の製造方法は、第1製造工程において2つの支持層が網目状製品、織物製品又は編物製品により形成されるとともに、当該2つの支持層の間に延在し、かつ、当該2つの支持層に連結されている繊維群により構成されている中間層が当該2つの中間層の間に形成され、第2製造工程において前記2つの支持層の真ん中において前記繊維群が分断又は切断されることを特徴とする。
【0026】
この製造方法によって同時に、繊維群の軸線に対して傾斜している又は切断されている端部又は端面を繊維群に持たせることができる。
【0027】
そのほかの創傷清掃用具又は用布の製造方法は、創傷清掃用布又は用布が、織物又は編物によって前記支持層とともに製造され、前記支持層から突出している前記繊維群を合成繊維から製造され、その後で当該突出している繊維群がその軸線に対して斜めに切断されることを特徴とする。
【0028】
これにより、繊維群は、所望の長さかつ所望の角度をもって切断されうる。現時点でさまざまな切断装置が知られている。
【0029】
前記繊維群及び前記支持層のうち一方又は両方、好ましくは前記創傷清掃用布の全体の合成樹脂の素材が、ポリエステル、ポリアミド及びポリアクリルのうち少なくとも1つから構成されていることが好ましい。
【0030】
当該合成樹脂として高品質のものが創傷清掃用布の全体に使用されうる。繊維群、支持層及び創傷清掃用布の全体のうち少なくとも1つが、ポリエステル、ポリアミド及びポリアクリルのうち少なくとも一部からなる合成繊維の混合物によって構成されていてもよい。例えば、繊維群に対して、80%のポリアクリルと20%のポリエステルとからなる合成繊維が用いられてもよい。支持層が例えば100%のポリエステルによって構成されていてもよい。その一方、繊維群が100%のポリエステルによって構成されていてもよい。
【0031】
本発明の創傷清掃用布は使い捨て製品であり、使用後に捨てられてもよい。この意味で、創傷清掃用布が高品質素材から構成されている場合、廃棄物処理が簡易化されるという利点がある。
【0032】
前記繊維群及び前記支持層のうち一方又は両方、好ましくは前記創傷清掃用布の全体が、90重量%以上又は全部が単一の合成素材若しくは合成樹脂、又はポリエステル、ポリアミド若しくはポリアクリルにより構成されていることが好ましい。また、前記繊維群及び前記支持層のうち一方又は両方が、被覆素材又は100%のポリアクリルによって被覆されていることが好ましい。
【0033】
被覆素材は、シリンダの助けにより繊維に塗布又はまぶされる。1[m2]当たり50〜70[g]の範囲の被覆素材が用いられ、その密度は例えば60[g/m2]である。
【0034】
本発明の範囲内において、支持層から突出している繊維群の少なくとも一部と、支持層を構成している繊維群の少なくとも一部とのうち一方又は両方が、好ましくは純銀繊維、純銅繊維及び銀又は銅により被覆されている合成繊維のうち少なくとも一部を有する又は当該繊維により構成されている。
【0035】
銀又は銅により一時的又は恒久的な抗菌効果が奏される。これは、純銀繊維又は純銅繊維のほか、製造可能な純度の範囲内の銀又は銅により構成されている繊維、或いは、銀又は銅を含有する繊維についても同様である。繊維又は製造された創傷清掃用布を銀若しくは銅溶液を浸漬する、又はこれに相当するスプレー噴射若しくは蒸着により合成樹脂が銀又は銅によって被覆加工される。繊維群は、支持層と、繊維群により構成されている刷毛とのうち一方又は両方に含まれている。
【0036】
一時的又は恒久的な抗菌効果を実現するため、支持層の合成繊維及び支持層から突出している繊維群の合成繊維がナノ粒子を保持している又は名の粒子が付着されている。繊維のほか、創傷清掃用布又は創傷清掃用具は、ナノ粒子の溶液に浸漬され、或いは、当該繊維等に対してナノ粒子が吹き付けられ又はナノ粒子が蒸着される。ナノ粒子は、抗菌効果を有する繊維の芯に受け入れられる。ナノ粒子の作用により、消毒のような付加的な性質がもたらされる。
【0037】
合成繊維、好ましくは合成樹脂繊維が利用されることにより、明らかなように当該繊維によってはアレルギー性の反応が引き起こされないというさらなる利点がもたらされる。
【0038】
さらに説明されるように、本発明は、創傷清掃用具又は創傷清掃用布として使用又は特別使用される用布に関する。また、本発明は、創傷又は皮膚の清掃、特にデブリードメントのための用布であって、支持層と、前記支持層から突出した状態で前記支持層に設けられている繊維群とを備え、好ましくは当該繊維群が合成繊維又は合成樹脂繊維のみによって構成されている用布に関する。
【0039】
用布若しくは創傷清掃用布又は創傷清掃用具の前記態様については説明されたが、図面に記載されている実施形態に基づいてもう一度詳細に説明される。本発明は、創傷又は皮膚の清掃又はデブリードメントのために前記特性を有する創傷清掃用具又はその創傷清掃用布を製造するため、合成繊維を利用する方法に関する。当該使用又は特別使用は医師による医療行為的使用のほか、創傷、特に急性又は外科的創傷の外科的又は医学的治療が重要になる。
【0040】
創傷清掃又はデブリードメントのため、滅菌された創傷清掃用布又は用布を適用することを可能とするため、本発明は、少なくとも1つの創傷清掃用布又はこれに相当する用布と、気密に封止されたパッケージ又は合成樹脂製パッケージとを備え、前記少なくとも1つの創傷清掃用用布又は用布が滅菌状態で前記パッケージに包装されている製品を提供する。
【0041】
本発明のさらなる詳細及び特徴は以下の図面に示されている本発明の実施形態によって説明される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の創傷清掃用具の側面図。
【図2】創傷清掃用具の要部拡大図。
【図3】創傷清掃用具の要部拡大図。
【図4】手袋様の形状とされた創傷清掃用具の説明図。
【図5】製造方法に関する説明図。
【図6】滅菌包装された創傷清掃用具の説明図。
【図7】手で持ちやすいように補強層及びループが設けられた創傷清掃用具の説明図。
【図8】補強層及び手を挿入するためのポケットが設けられた創傷清掃用具の説明図。
【図9】支持部材に取り付けられている創傷清掃用具の説明図。
【図10】同様に支持部材に取り付けられている創傷清掃用具の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1の側面図に示されているように、繊維群3は支持層2に固定されている。繊維群3は、支持層2から突出し、相互に密集して設けられることにより刷毛を構成する。繊維群3は、直線状にのびているように図示されているが、繊維群3が実際にはどの程度の堅硬性又は柔軟性を持って支持層2から剛毛状に突出しているかが最終的に問題となる。
【0044】
図示されている無荷重状態で、必ずしも全ての繊維3が直線状にのびた状態で支持層2から突出しているわけではない。繊維3の可撓性はさまざまな状況に応じて実現され、創傷清掃用布が創傷に押し付けられるとただちに相応に撓む。繊維3の堅硬性又は柔軟性は、その直径及び使用素材によって所望の程度に設定される。繊維3は0.5〜20[D−Tex](1[D−Tex]=1g/10000m)の可撓性を有する。本実施形態では、繊維3は6又は7[D−Tex]の可撓性を有する。
【0045】
刷毛高さ13又は繊維群3の長さは3〜30[mm]の範囲にあることが好ましく、3〜12[mm]の範囲にあることがさらに好ましい。刷毛高さ13は例えば8[mm]である。支持層2及び繊維群3のうち一方又は両方について、繊維の面密度は500〜900[g/m2]の範囲にあり、例えば約700[g/m2]である。
【0046】
支持層2は網目状に構成されている。支持層2は織物又は編物により構成される。支持層2から突出している繊維群3は、当該支持層2に織り込まれ又は編み込まれている。特に、繊維3は織物の網目に結び付けられている。繊維又は繊維3が支持層2により堅固に保持されていることにより、創傷清掃又はデブリードメントに際して予期せず支持層2から抜け落ちることがない。また、織物に毛羽又は毛玉が生じたり、繊維3の個々の繊維が抜けたりしない。
【0047】
特に織物はその定形性に応じて、補強層6とともに又は補強層6なしで構成される。銀繊維又は銅繊維が含まれていてもよい。支持層2は1cm2当たり7〜12個の目、例えば9個の目を有し、かつ、1cm2当たり10〜14個の配列、例えば12個の配列を有していることが好ましい。
【0048】
網状に形成された支持層2を安定化させるため、図1に示されているように、繊維群3が突出している側とは反対側において、網目に結び付けられ、好ましくは貫通する補強層6が設けられてもよい。補強層6は、織物として構成されている支持層2により代替されてもよい。支持層2の内側及び外側のうち一方又は両方において、好ましくは支持層2から突出している繊維群3とは反対側において、少なくとも1つの補強層6が設けられてもよい。
【0049】
一又は複数の補強層6が支持層2に設けられていてもよい。一又は複数の補強層6により、繊維群3が支持層2により堅固に保持されうる。また、支持層2の堅硬性又は定形性が高められるので、創傷又は患部の治療に際して、創傷清掃用布1から作用する圧力が均等に分散して創傷に作用する。補強層6は、通常は付加的な層を構成し、適当な措置によって支持層2に対して固定される。
【0050】
少なくとも1つの補強層6による補強は、さまざまな手法によって実現される。例えば、補強層6は、耐性のある接着層の形で、支持層2において繊維群3とは反対側である後側に取り付けられる。
【0051】
補強層6は、加熱により液化する一方で冷却により固化する合成樹脂により被覆されてもよい。被覆素材としては例えばポリエステルが採用される。被覆素材の面密度は、40〜120[g/m2]の範囲にあることが好ましい。
【0052】
そのほか、補強層6は合成樹脂素材からなる薄膜として構成されてもよい。合成樹脂素材としては、例えばポリエステル樹脂が使用される。薄膜により、薄い外皮又はフィルムが構成される。特に、薄膜は遮断層としての役割を果たす。薄膜は、湿気又は液体を遮断若しくは部分的に通過させ、又は全体的に通過させるように構成されている。
【0053】
例えば柔軟性フィルムとしての薄膜は、特別な接着剤を用いたポイントラミネーションによって支持層2に対して取り付けられる。そのほか、柔軟性フィルムの形態の接着剤を用いた吹付けラミネーションにより、薄膜が支持層2に形成されてもよい。薄膜の適当な面密度は10〜60[g/m2]の範囲にある。
【0054】
補強層6は、ポリエステル樹脂等の合成樹脂又はカウチューク等の天然樹脂からなるガムの形態で構成されていてもよい。ラミネーションは通常のあらゆるシステムにおいて可能である。ガムの形態の補強層6の面密度は20〜60[g/m2]の範囲にあることが好ましい。
【0055】
補強層6は、ポリエステル等の合成樹脂からなる発泡樹脂により構成されていてもよい。発泡樹脂の面密度は10〜60[g/m2]の範囲にあることが好ましい。当該補強層6は、ラミネーションによって支持層2に対して取り付けられる。発泡樹脂からなる補強層6の厚さは5〜20[mm]の範囲に調節されうる。特に補強層6として発泡樹脂が採用された場合、湿気又は液体に対する遮断性を実現するために、薄膜又はガムのようなさらなる補強層6が設けられてもよい。
【0056】
他の実施形態の実現のため、補強層6が織り込まれた又は編み込まれた合成樹脂からなる繊維織物又は編物として構成されていてもよい。繊維織物は支持層2に貼り付けられてもよい。持ち易さを保証するために当該織布には、他方の補強層6又は支持層2のように、例えばゴム製の突起が設けられてもよい。
【0057】
所望の性質が実現されるように、一又は異なる補強層6が支持層2に取り付けられてもよい。支持層6が液体又は湿気を遮断又は通さないことにより、治療行為者が創傷又は患部から取り除かれた物質に接触することが防止される。補強層6により、創傷清掃用布1又は創傷清掃用具が強化されるというさらなる効果も奏される。
【0058】
図2には本発明の一実施形態としての用具の一部のみが示されている。当該実施形態によれば、繊維3の自由端4は、直線状にのびている繊維3の軸線5に対して垂直である又は直角をなしている。この自由端4により、創傷の優れた清掃効果が奏される。
【0059】
図3には本発明の他の実施形態としての用具の一部のみが示されている。当該実施形態によれば、自由端4又はその端面は繊維3の軸線5に対して垂直ではなく傾斜している。これにより、優れたかみそり効果が奏され、汚染物粒子及び余分な生体物質、特に身体由来の物質のうち一方又は両方が創傷から効果的に除去される。自由端4又はその端面と繊維3の軸線5とがなす角度23は好ましくは70〜80°の範囲にある。
【0060】
図1に戻り、繊維3のための合成繊維の使用によるさらに優れた性質に関して説明する。図示されているように、創傷から一度取り除かれた汚染物粒子14又は生体物質が、一方では繊維群3により構成されている刷毛の密度により、他方では繊維3の合成繊維の静電気による吸引力により当該刷毛の中に拘束される。これにより、創傷清掃用布1のさらなる使用に際して当該汚染物粒子14等が創傷に戻されることはない。
【0061】
前記実施形態において、支持層2の合成樹脂及び支持層2から突出している繊維群3の合成樹脂が熱処理され、好ましくは熱処理によって収縮していてもよい。熱処理は例えば100〜200[℃]で実行される。熱処理の実行により、合成樹脂ひいては繊維3の安定性が高められ、かつ、変色堅牢性が高められる。繊維3の高い安定性により、創傷清掃用具の効果が改善される。
【0062】
創傷清掃用布1の製造前に原料繊維が熱処理されてもよく、そうでなければ既に製造された創傷清掃用布1が熱処理されてもよい。熱処理により、繊維3又は繊維の元の長さが10〜20[%]の範囲で短縮される。
【0063】
図4には、本発明の一実施形態としての手袋状に形成されている創傷清掃用布1が示されている。これは、2枚の図1に示されている創傷清掃用布が、繊維群3を外側に向けた状態で縫合されることにより製造される。
【0064】
図5には、前記した本発明の創傷清掃用布1又は用布の製造方法が示されている。当該方法によれば、第1製造工程において、2つの支持層2が全体的に網目状に構成され、当該2つの支持層2の間に中間層8が形成される。中間層8は、2つの支持層2の間に延在し、かつ、2つの支持層2に連結されている繊維群により構成されている。
【0065】
支持層2の形成に際して公知の織り込み又は編み込み手法が採用される。支持層2の織物又は編物と同様に、繊維群3が織り込まれる又は編み込まれる。当該織り込み及び編み込み手法は公知のものなのでこれ以上の説明は省略される。
【0066】
図5に示されているように、網状体が完成したら、第2製造工程において、繊維群3は例えば2つの支持層2の真ん中において分断、好ましくは切断される。図5には、切断装置又は切断工具10と、切断線9とが示されている。作業者が切断装置又は切断工具10押し付けることにより繊維群3が分断又は切断される。その結果、図3に示されているように繊維3の軸線5に対して傾斜している、繊維3の自由端4が形成される。
【0067】
前記製造工程に続いて、支持層2において繊維群3の反対側である後側に前記支持層6が取り付けられる。100%のポリアクリルからなる液状の前記被覆素材が繊維及び全ての繊維3に塗布又はまぶされる。
【0068】
その他の製造方法によれば、創傷清掃用布1が好ましくは織り込み又は編みこみにより、支持層2及び支持層2から突出している合成樹脂からなる繊維群3とは別個に製造される。その後、繊維3が、好ましくはその軸線5に対して斜めに切断される。繊維3は所望の長さ及び所望の角度で切断される。さまざまな切断装置が知られている。必要に応じて一又は複数の補強層6が、繊維3の切断前又は切断後に取り付けられる。
【0069】
図6には、パッケージ7及び本発明の創傷清掃用布1の組み合わせ製品が示されている。創傷清掃用布1は滅菌状態でパッケージ7に包装されている。パッケージ7として、例えば合成樹脂性パッケージ又は薄膜パッケージが用いられてもよい。図6に示されているように、製品は二重構造である。これは、被覆薄膜12及びその反対側に滅菌紙により構成され、被覆薄膜12及び滅菌紙が周囲を取り囲む溶接継ぎ目11によって相互に溶接されていてもよい。
【0070】
現時点で知られているその他のあらゆる滅菌包装が採用されてもよい。創傷清掃用布1は、包装前に蒸気殺菌、ガンマ線殺菌又は酸性薬品による殺菌等、公知の殺菌方法により殺菌されてもよい。創傷清掃用布1又はパッケージ7の縁の長さは、5〜20[cm]の範囲にあり、好ましくは10〜20[cm]の範囲にある。
【0071】
図7には、本発明の創傷清掃用具のさらに別の実施形態が示されている。支持層2には、繊維群3の反対側において補強層6が取り付けられている。補強層6の素材及び厚さが適当に選択されることにより、創傷清掃用布1の強度が増加する。補強層6は、湿気又は液体を通さない仕上げにより、創傷清掃者の手に、当該創傷から取り除かれた物質が接触することを防止することができる。
【0072】
図7に示されている実施形態では、手で持ちやすくするため、ループ15が支持層2の後側又は繊維群3と反対側に取り付けられている。治療行為者がループ15に手を挿入することにより、繊維群3による創傷の拭き取り又は清掃に際して当該創傷清掃用具が堅固に把持されうる。ループ15は柔軟性素材により構成されてもよく、非柔軟性素材により構成されていてもよい。
【0073】
図8に示されている実施形態によれば、ループ15に代えて、治療行為者がその手を挿入することができるポケット16が設けられている。創傷清掃用布1の繊維群3と反対側に、治療行為者がその手で掴むための突起が設けられてもよい。これにより、滑りに対する安定性が向上する。
【0074】
例えば図9及び図10に示されている本発明の他の実施形態によれば、創傷清掃用布1は、好ましくは剛性のある支持部材18に取り付けられ又は固定される。支持部材18は、小さい又は深い創傷の治療に際しては小さい外形寸法を有する。創傷清掃用布1の辺の長さが3〜6[cm]の範囲にあり、好ましくは5[cm]である。
【0075】
本実施形態において支持部材18は、プレート20と、そこに取り付けられた持ち手19とにより構成されている。支持部材18は本質的に堅固に構成されていることが好ましい。創傷清掃用布1の縁においてプレート20が挿入ポケット又はバンド17に挿入されることにより、支持部材18又はプレート20が固定される。このほか、対象物がそこに固定される面ファスナーのような他の固定手法が用いられてもよい。
【0076】
図10に示されている実施形態によれば、創傷清掃用布1が柄21に固定されている。柄21は、創傷清掃用具が取り付けられる持ち手19を有している。図10には、創傷清掃用布1の外側に突出している繊維群3は示されていない。図9及び図10に示されている実施形態において、創傷清掃用布1は支持部材18に対して取り外し可能に又は定常的に固定される。
【0077】
本質的に堅硬質の支持部材18は、所望の治療箇所又は創傷を押圧する際に用いられる。図10に示されている実施形態によれば、創傷又は患部の小さくかつ届きにくい領域を治療する際に特に有効である。用布1を支柱で支持するため、柄21は創傷清掃用布1の内側に連続してもよい。創傷清掃用布1は柄21に巻き付けられ又は柄21が挿入される適当なポケットを形成してもよい。
【0078】
本発明の多数の実施形態について説明したが、本発明の範囲は具体的に開示された実施形態に限定されない。本発明の創傷清掃用具のさらに好ましい変形例を実現するため、前記実施形態及び特徴点が組み合わせられてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1‥創傷清掃用布 2‥支持層 3‥繊維 4‥端部 5‥軸線 6‥補強 7‥パッケージ 8‥中間層 9‥切断線 10‥切断工具 11‥溶接継目 12‥被覆薄膜 13‥刷毛高さ 14‥汚染物粒子 15‥ループ 16‥ポケット 17‥挿入ポケット又はバンド 18‥支持部材 19‥持ち手 20‥プレート 21‥柄 22‥長さ 23‥角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷清掃用布(1)を備え又は創傷清掃用布により構成されている創傷清掃用具であって、
支持層(2)と、前記支持層(2)から突出している状態で前記支持層(2)に配列されている繊維群(3)とを備え、前記繊維群(3)は合成繊維又は合成樹脂繊維により構成されていることを特徴とする創傷清掃用具。
【請求項2】
請求項1記載の創傷清掃用具において、
前記繊維群(3)のうち複数又は50%以上が、前記支持層(2)から離れている側で自由に突出している又は切断されている端部(4)を有することを特徴とする創傷清掃用具。
【請求項3】
請求項2記載の創傷清掃用具において、
前記繊維群(3)が、その軸線(5)に対して傾斜している又は切断されている端部(4)又は端面を有することを特徴とする創傷清掃用具。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1つに記載の創傷清掃用具において、
前記繊維群(3)が、前記支持層(2)に配列され、かつ、前記支持層(2)から突出している刷毛を構成していることを特徴とする創傷清掃用具。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1つに記載の創傷清掃用具において、
前記支持層(2)又は前記創傷清掃用布(1)及び前記支持層(2)が、合成繊維又は合成樹脂繊維を備え、或いは合成繊維又は合成樹脂繊維により構成されていることを特徴とする創傷清掃用具。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1つに記載の創傷清掃用具において、
前記繊維群(3)及び前記支持層(2)のうち一方若しくは両方、又は前記創傷清掃用布(1)の全体が、ポリエステル、ポリアミド及びポリアクリルのうち少なくとも1つにより構成されていることを特徴とする創傷清掃用具。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか1つに記載の創傷清掃用具において、
前記繊維群(3)及び前記支持層(2)のうち一方若しくは両方、又は前記創傷清掃用布(1)の全体が、90重量%以上又は全部が単一の合成素材若しくは合成樹脂、又は、ポリエステル、ポリアミド若しくはポリアクリルにより構成されていることを特徴とする創傷清掃用具。
【請求項8】
請求項1〜7のうちいずれか1つに記載の創傷清掃用具において、
前記繊維群(3)及び前記支持層(2)のうち一方又は両方が、被覆素材又は100%のポリアクリルにより被覆されていることを特徴とする創傷清掃用具。
【請求項9】
請求項1〜8のうちいずれか1つに記載の創傷清掃用具において、
前記支持層(2)は網目状製品、織物製品又は編物製品であり、前記支持層(2)から突出している前記繊維群(3)は前記支持層(2)に織り込まれ又は編み込まれていることを特徴とする創傷清掃用具。
【請求項10】
請求項9記載の創傷清掃用具において、
前記支持層(2)は、前記繊維群(3)が突出している側とは反対側において、前記支持層(2)の網目に結び付けられ又は貫通されている補強層(6)により被覆されていることを特徴とする創傷清掃用具。
【請求項11】
請求項1〜10のうちいずれか1つに記載の創傷清掃用具において、
前記支持層(2)から突出している前記繊維群(3)の少なくとも一部及び前記支持層(2)を構成する前記繊維群(3)の少なくとも一部のうち一方又は両方が、純銀繊維、純銅繊維又は銀若しくは銅により被覆された合成繊維を含んでいる、或いは、純銀繊維、純銅繊維又は銀若しくは銅により被覆された合成繊維により構成されていることを特徴とする創傷清掃用具。
【請求項12】
請求項1〜11のうちいずれか1つに記載の創傷清掃用具において、
前記支持層(2)の合成繊維及び前記支持層(2)から突出している前記繊維群(3)の合成樹脂のうち一方又は両方に対して、ナノ粒子が付着している又は設けられていることを特徴とする創傷清掃用具。
【請求項13】
請求項1〜12のうちいずれか1つに記載の創傷清掃用具において、
前記支持層(2)の前記繊維群(3)が突出している側で、少なくとも1つの補強層(6)が設けられていることを特徴とする創傷清掃用具。
【請求項14】
請求項1〜13のうちいずれか1つに記載の創傷清掃用布において、
前記支持層(2)の合成繊維及び前記支持層(2)から突出している前記繊維群(3)の合成樹脂のうち一方又は両方が熱処理され又は熱処理により収縮していることを特徴とする創傷清掃用具。
【請求項15】
請求項1〜14のうちいずれか1つに記載の創傷清掃用具において、
前記創傷清掃用布(1)が、堅硬性の支持部材(18)に対して交換可能に設けられている又は固定されていることを特徴とする創傷清掃用具。
【請求項16】
創傷又は皮膚の清掃又はデブリードメントのための創傷清掃用具又は創傷清掃用具の創傷清掃用布(1)として使用される用布であって、
支持層(2)と、前記支持層(2)から突出している状態で前記支持層(2)に設けられている繊維群(3)とを備え、前記繊維群(3)は合成繊維又は合成樹脂繊維から構成されていることを特徴とする用布。
【請求項17】
請求項16記載の用布であって、請求項2〜15のうちのいずれか1つに記載の創傷清掃用具又は創傷清掃用布(1)であることを特徴とする用布。
【請求項18】
創傷又は皮膚のデブリードメントのための請求項1〜15のうちいずれか1つに記載の創傷清掃用具又は創傷清掃用布(1)の製造のために合成繊維を利用することを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1〜17のうちいずれか1つに記載の創傷清掃用具又は用布と、気密に封止されるパッケージ(7)又は合成樹脂製パッケージとを備え、前記創傷清掃用布(1)又は前記用布が前記パッケージ(7)によって滅菌状態で包装されていることを特徴とする組み合わせ製品。
【請求項20】
請求項1〜17のうちいずれか1つに記載の創傷清掃用具又は用布の製造方法であって、
第1製造工程において2つの支持層(2)が網目状製品、織物製品又は編物製品により形成されるとともに、当該2つの支持層(2)の間に延在し、かつ、当該2つの支持層(2)に連結されている繊維群(3)により構成されている中間層(8)が当該2つの支持層(2)の間に形成され、
第2製造工程において前記2つの支持層(2)の真ん中において前記繊維群(3)が分断又は切断されることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項1〜17のうちいずれか1つに記載の創傷清掃用具又は用布の製造方法であって、
創傷清掃用布又は用布が、織物又は編物によって前記支持層とともに製造され、前記支持層から突出している前記繊維群を合成繊維から製造され、その後で当該突出している繊維群がその軸線に対して斜めに切断されることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−516163(P2012−516163A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546524(P2011−546524)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【国際出願番号】PCT/AT2010/000027
【国際公開番号】WO2010/085831
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(511183766)
【出願人】(511183777)
【Fターム(参考)】