説明

創傷試料を解析する方法

創傷試料を解析する方法が提供される。解析は、典型的には、質量分析法を用いることを含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
創傷治癒は、生体恒常性、炎症、脈管形成、肉芽組織の形成、細胞外マトリックスの堆積、及び組織の再構築を含む一連の幾つかの重複過程を含む、高度に調整された生理学的過程である。創傷治癒は、健常者では正常に進行するが、血管不全又は糖尿病のような基礎症状を有する患者では、創傷治癒は、典型的には遅延する。創傷の微生物負荷もまた、治癒が遅延する重要な要因であることが知られている。
【0002】
多数の研究論文は、慢性創傷からの滲出液の諸成分を比較し、創傷を治療することを開示し、かつ慢性創傷が、全タンパク質とアルブミンとをより少なく含有し、インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−6(IL−6)、及び腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)のようなサイトカインと、表皮増殖因子(EGF)、形質転換増殖因子アルファ及びベータ(TGF−α及びTGF−β)並びにインスリン様増殖因子−1(IGF−1)のような増殖因子と、プラスミン及びウロキナーゼ様プラスミノゲン活性化因子(uPA)、コラゲナーゼ、並びにマトリックスメタロプロテイナーゼ2及び9(MMP−2及びMMP−9)のようなプロテアーゼとをより多く含有することを実証してきた。
【0003】
他の研究論文もまた、詳細な総括を含み、創傷の中に微生物が存在することを実証してきた。一般に、一部の微生物は、嫌気性細菌、β−溶血連鎖球菌、腸内細菌(Enterobacteriaceae)、及びシュードモナス(Pseudomonas)種のような他の生物と比べてより有害であることが認識されている。更に最近では、慢性創傷中の微生物叢を説明するために、分子法が用いられてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既刊の研究論文の例は、サイトカイン、増殖因子を測定するための酵素結合免疫吸着法(ELISA)、及びプロテアーゼを測定するためのザイモグラフィー法のような技術を用いてきた。しかし、これらの方法では、測定すべき検体の予選択が必要である。
【0005】
測定するための方法論を予め選択する必要のない他の方法論を用いて(例えば、創傷流体を用いて)創傷を解析することが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、創傷試料、特に創傷流体を解析する方法を提供する。好ましくは、本方法は、質量分析法を使用する工程を含み、より好ましくは、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析を使用する工程を含む。これらの方法は、微生物のタンパク質及び/又はペプチドの成分を含む、創傷試料のタンパク質及び/又はペプチドの成分に関する情報を提供する。これらの方法を用いて、創傷(特に、慢性創傷のような治癒障害を有する創傷)の診断及び処置を行うための新たなマーカーを同定することができる。
【0007】
1つの実施形態において、本発明は、被検者の創傷から流体を解析する方法を提供する。そのような方法を用いて創傷流体のタンパク質及び/又はペプチドの成分を同定することができ、特に、創傷治癒の生物学的マーカーを同定することができる。本方法は、被検者(好ましくは、ヒト)の創傷(好ましくは、慢性創傷)から流体試料を獲得する工程と、試料の特異的酵素消化を行って(好ましくは、トリプシンを用いて)、消化済み試料の中にペプチドを生じさせる工程と、質量分析法を用いて(好ましくは、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法を用いて)、消化済み試料のスペクトルを獲得する工程と、スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物(特に、細菌)の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、を含む。
【0008】
本方法のある実施形態において、質量分析法を用いて、消化済み試料のスペクトルを獲得する工程は、消化済み試料の質量分析スペクトルを獲得する工程を含み、スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、質量分析スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のペプチドマスフィンガープリントデータベースと比較する工程を含み、かつ、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、同一の質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の、1つ以上のペプチドマスフィンガープリントデータベースと比較する工程を含む。
【0009】
本方法の他のある実施形態において、質量分析法を用いて、消化済み試料のスペクトルを獲得する工程は、消化済み試料の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルを獲得する工程を含み、スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含み、かつ、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、同一の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含む。
【0010】
本明細書において、スペクトルの少なくとも一部分を、タンパク質同定データベースと比較する工程を含むかかる方法は、創傷流体試料の1種類以上のペプチド及び/又はタンパク質を同定する工程を更に含むことができる。創傷流体試料の1種類以上のペプチド及び/又はタンパク質を同定する工程は、タンパク質同定データベースに存在するタンパク質及び/又はペプチドを同定する工程と、タンパク質同定データベースの中に存在しないタンパク質及び/又はペプチドを同定する工程とを含むことができる。そのような分析は、典型的には、当業者に周知の標準的方法(例えば、MS/MS(質量分析/質量分析)解析)を用いることを含む。
【0011】
本明細書において、スペクトルの少なくとも一部分を、タンパク質同定データベースと比較する工程を含むかかる方法は、創傷治癒の1種類以上の生物学的マーカーを同定する工程を更に含むことができる。
【0012】
本解析方法は、被検者の創傷流体のプロテオミクスプロファイル(proteomic profile)を作る工程を更に含むことができる。本明細書において、創傷流体のプロテオミクスプロファイルは、被検者の種のタンパク質及び/又はペプチドのプロファイルと、任意的に創傷流体中に存在し得る1種類以上の微生物(特に、細菌)のタンパク質及び/又はペプチドのプロファイルとを含む。そのようなプロファイルには、必ずしも全てのタンパク質及び/又はペプチドは含まないが、但し、典型的には特徴付けている最小数を含む必要がある。
【0013】
本発明の解析方法は、慢性創傷からの創傷流体のプロテオミクスプロファイルを、正常回復期創傷と比較して、慢性創傷のマーカーを同定する工程を更に含むことができる。
【0014】
本発明の解析方法は、1つのタイプの慢性創傷からの創傷流体のプロテオミクスプロファイルを、他のタイプの慢性創傷と比較して、各々のタイプの慢性創傷に対する特異的マーカーを同定する工程を更に含むことができる。
【0015】
本解析方法は、被検者の創傷治癒における機能障害を診断する工程を更に含むことができる。
【0016】
本解析方法は、創傷を治療するための治療プロトコールを決定する工程と、加えて(任意的に)、治療プロトコールに対する応答を監視する工程とを更に含むことができる。
【0017】
本解析方法は、経時的な、プロファイルにおける変化を監視するために、タンパク質及び/又はぺプチドの時間系列を作る工程と、任意的に、創傷治癒過程(又はそれらの欠如)に関するかかる変化を関係付ける工程とを更に含むことができる。このことは、治療プロトコールに対する応答を監視することにも役立つであろう。
【0018】
他の実施形態において、本発明は、創傷流体のタンパク質及び/又はペプチドのライブラリーを作る方法を提供する。そのようなタンパク質及び/又はペプチドは、創傷に特異的な、創傷治癒の生物学的マーカーであるだろう。かかる方法は、同一種の複数の被検者から複数個の創傷流体試料を獲得する工程と、被検者の、関連する臨床的パラメータ(例えば、被検者の年齢、創傷の期間、被検者の基礎疾患(例えば、糖尿病、静脈不全)、創傷治癒の速度等を含む)を収集する工程と、試料の特異的酵素消化を行って、消化済み試料の中にペプチドを生じさせる工程と、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法を用いて、各々の消化済み試料のスペクトルを獲得する工程と、各々のスペクトルの少なくとも一部分を被検者の種のタンパク質の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、任意的に(しかし、好ましくは)、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物のタンパク質の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、各々の創傷試料中のペプチド及び/又はタンパク質を同定して、プロテオミクスプロファイルを作る工程と、のペプチド及び/又はタンパク質、並びに臨床的パラメータを解析して、プロテオミクスプロファイルを臨床的パラメータと関連付けて、ライブラリーを作る工程と、を含む。
【0019】
本方法のある実施形態において、質量分析法を用いて、各々の消化済み試料のスペクトルを獲得する工程は、各々の消化済み試料の質量分析スペクトルを獲得する工程を含み、各々のスペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、各々の質量分析スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のペプチドマスフィンガープリントデータベースと比較する工程を含み、かつ任意的に、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、任意的に、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のペプチドマスフィンガープリントデータベースと比較する工程を含む。好ましくは、これらの実施形態は、同一の質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のペプチドマスフィンガープリントデータベースと比較する工程を含む。
【0020】
本方法の他のある実施形態において、質量分析法を用いて、各々の消化済み試料のスペクトルを獲得する工程は、消化済み試料の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルを獲得する工程を含み、各々のスペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、各々の質量分析スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含み、かつ任意的に、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、任意的に、同一の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含む。好ましくは、これらの実施形態は、同一の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含む。そのような比較は、ペプチド及び/又はタンパク質が、タンパク質同定データベース中に存在しないことを理由として、創傷試料の1種類以上のペプチド及び/又はタンパク質を未同定のままにする場合がある。したがって、本発明の方法は、そのような「新たな(de novo)」解析を行うために、標準的方法(例えば、MS/MS(質量分析/質量分析)解析)の使用を含むことができる。
【0021】
上述の実施形態は、質量分析法を用いて、創傷流体を消化して解析する工程を含む。本明細書で用いられる「創傷流体(a wound fluid)」は、創傷から直接、又は創傷組織を抽出することによって得られる。創傷流体は、創傷滲出物及び/又は創傷組織抽出物すなわちホモジネート(homogenate)を含むことができる。しかし、組織試料を獲得し、例えばトリプシンを用いて、組織試料の酵素消化を直接行い、次いで質量分析法を用いて、消化済み試料の液体部分のスペクトルを獲得することも可能である。
【0022】
したがって、1つの実施形態において、被検者(好ましくは、ヒト)の創傷(好ましくは、慢性創傷)から創傷試料(例えば、組織試料)を獲得する工程と、創傷試料の特異的酵素消化を行って(好ましくは、トリプシンを用いて)、消化済み試料の中にペプチドを生じさせる工程と、質量分析法を用いて(好ましくは、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法を用いて)、消化済み試料の液体部分のスペクトルを獲得する工程と、スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物(特に、細菌)の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、を含む方法が提供される。
【0023】
別の実施形態において、同一種の複数の被検者から複数個の創傷試料(例えば、組織試料)を獲得する工程と、被検者の、関連する臨床的パラメータ(例えば、被検者の年齢、創傷の期間、被検者の基礎疾患(例えば、糖尿病、静脈不全)、創傷治癒の速度等を包含する)を収集する工程と、試料の特異的酵素消化を行って、消化済み試料の中にペプチドを生じさせる工程と、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法を用いて、各々の消化済み試料の液体部分のスペクトルを獲得する工程と、各々のスペクトルの少なくとも一部分を被検者の種のタンパク質の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、任意的に(しかし、好ましくは)、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物のタンパク質の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、各々の創傷試料中のペプチド及び/又はタンパク質を同定して、プロテオミクスプロファイルを作る工程と、のペプチド及び/又はタンパク質、並びに臨床的パラメータを解析して、プロテオミクスプロファイルを臨床的パラメータと関連付けて、ライブラリーを作る工程と、を含む方法が提供される。
【0024】
次の諸定義は、下記明細において用いられる特定の用語のために提供される。
【0025】
用語「含む(comprises)」及びそれの変形は、これらの用語が、明細書本文及び特許請求の範囲において出現する場合、限定的意味を持たないものである。
【0026】
本明細書で用いられる「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」、「少なくとも1つの(at least one)」及び「1つ以上の(one or more)」は、互換性を持って用いられる。したがって、例えば、ある微生物を含む試料は、その試料が「1種類以上の」微生物を含むことを意味するものと解釈され得る。用語「及び/又は」は、どちらか一方(タンパク質若しくはペプチド)、又は両方(タンパク質及びペプチド)を意味する。
【0027】
本明細書で用いられる「慢性創傷」は、類似の年齢及び健康状態の被検者と比べて、治癒の正常時間枠で治癒しない創傷である。典型的には、創傷は、それが数ヶ月又は数年で治癒しなかった場合、慢性であり、壊死組織、膿状滲出液、過剰な滲出液、又は悪臭の1つ以上によって特徴付けられ得る。
【0028】
本明細書で用いられる「正常な創傷」又は「非慢性創傷」、又は「正常な被検者」の創傷は、正常時間枠(例えば、数日又は数週間)で治癒する創傷である。
【0029】
本明細書で使用するとき、「創傷治癒の生物学的マーカー」には、それらの存在、それらの不存在、又はそれらの発現レベルの差異が、創傷治癒の特性(創傷治癒が損傷しているのか又は正常であるかどうかについて)を示すことができる、タンパク質及び/又はペプチドが包含される。そのようなマーカーは、創傷を持つ被検者由来であることもあり、若しくは創傷を汚染している微生物(例えば、細菌)由来であることもあり、又は両方であることもある。
【0030】
本明細書で使用するとき、「被検者(a subject)」は、ヒト被検者、又は他の哺乳類の非ヒト種(例えば、イヌ、ウマ、ネコ)を包含する。
【0031】
本明細書で使用するとき、「タンパク質同定データベース」は、質量分析(MS又はMS/MS)データのデータベースであり、実験的に得られたスペクトルに一致するように用いられるデータベースである。タンパク質同定データベースの例には、ペプチドマスフィンガープリンティング(peptide mass fingerprinting)データベースと、MSタンパク質配列データベース、バイオテクノロジー情報データベースのためのナショナルセンター(National Center)、及びスイスプロテオミクス(Swiss Proteomics)データベース(スイスプロット(Swiss-Prot))のようなMS/MS(質量分析/質量分析)イオン検索データベースとが包含される。
【0032】
本発明の上記概要は、本発明の開示された各々の具体例又はあらゆる実施形態を説明するようには意図されていない。以下の説明は、説明に役立つ実施形態をより詳細に例示する。本出願書類の全体にわたって幾つかの箇所で、実施例のリストによってガイダンスが提供されており、それら実施例は、様々な組み合わせで用いることができるどの場合にも、列挙されたリストは、典型的な群としてのみ役立ち、限定的なリストとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ヒト慢性創傷流体のために記録された、ペプチドイオンを示すMALDI−TOF質量スペクトル。
【図2】10人の慢性創傷患者において同定されたインターロイキン−4シグナル経路に関与するタンパク質を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、好ましくは質量分析法を用いて、より好ましくはマトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析法を用いて、創傷を分析する方法を提供する。この方法は、創傷からのタンパク質及び/又はペプチドの成分(例えば、創傷から直接採られた創傷流体)と、任意的に、創傷中に存在する微生物由来のタンパク質及び/又はペプチドの成分とに関する情報を提供する。本方法を用いて、創傷、特に慢性創傷の診断及び処置を行うための新たなマーカーを同定することができる。
【0035】
MALDI−TOFを用いて、創傷流体の成分は、代表的なペプチドの分子量に基づいて、公共のタンパク質同定データベースと比較することによって同定される。ヒトタンパク質のための公共のタンパク質データベースに問い合わせを行うことが可能であり、またヒト起源(例えば、創傷治癒を妨げることで知られている細菌種)のタンパク質以外のタンパク質のための公共のタンパク質データベースに問い合わせを行うことも可能である。感染症患者を除いて血漿試料に細菌が含有されていると見なされていないことから、これは創傷流体試料にとって関連性がある。加えて、本発明は、同一試料からヒト及び微生物(特に、細菌)のタンパク質を同時に調べる複合アプローチを提供して、創傷(特に、慢性創傷)の容態のより完全な状況を提供する。
【0036】
本発明の好ましい実施形態では、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析法を用いて、慢性創傷を持つ被検者由来の創傷流体(創傷滲出物及び/又は創傷組織抽出物すなわちホモジネートを挙げることができる)が分析される。この技術によって、試料のタンパク質及び/又はペプチドのプロフィールを同時に調べて、治癒障害のマーカーを同定することが可能となる。技術はまた、治療プロトコールを決定するのに役立ち得る情報を提供し、かつ長期にわたって創傷を監視して治療の有効性を評価し、同一の治療を継続すべきか又は治療法を変更すべきかどうかを決定することを可能にする。創傷流体の場合、方法は更に、様々なタンパク質同定データベースに問い合わせを行うことによって、ヒトタンパク質及び微生物(特に、細菌)タンパク質を調べる可能性を有する。
【0037】
特に好ましい実施形態において、本発明は、MALDI質量分析法を用いて創傷流体を高生産性である並行分析で分析する方法であって、タンパク質同定と、分子プロファイリングと、有望な薬剤標的の選定と、タンパク質発現データの仕分け及び優先順位付け(sorting and prioritizing)と、慢性創傷に関連する異常な生理学的過程の確認とを可能にする方法を提供する。
【0038】
物質が創傷治癒(特に、治癒障害)のマーカーであるかどうかを見出だす1つの方法は、それら物質が、慢性創傷を有していない被検者由来の試料(例えば、待機手術を受けている被検者由来の試料)と比べて、慢性創傷を示している被検者由来の生体試料に「異なった形で発現する」かどうかを決定することによるものである。例えば、慢性創傷を持つ被検者の群と健常者の群とを比較する、試料の質量スペクトルにおいて、質量対電荷比Aでの発生シグナルの平均強度は、健常者由来の試料よりも慢性創傷を持つ被検者由来の試料において高い。質量対電荷比Aで、マーカーは、マーカーの濃度が健常者由来の試料においてよりも慢性創傷を持つ被検者由来の試料において平均してより大きいことから、慢性創傷において「異なった形で発現する」といわれる。マーカーの濃度が、一般に、健常者由来の試料においてよりも、慢性創傷を持つ被検者由来の試料においてより大きいならば、マーカーは更に、慢性創傷に対して「アップレギュレーションを受けている(up-regulated)」ものと特徴付けられ得る。マーカーの濃度が、一般に、健常者由来の試料においてよりも、慢性創傷を持つ被検者由来の試料において、より小さいならば、マーカーは、慢性創傷に対して「ダウンレギュレーションを受けている(down-regulated)」ものと特徴付けられ得るであろう。
【0039】
物質が創傷治癒(特に、治癒障害)のマーカーであるかどうかを見出だすもう1つの方法は、同一被検者の同一創傷からの生体試料を、長期間にわたって監視し、次いで任意的に、これを創傷の臨床状態(進行状態、退行状態、又は定常状態)の情報と関係付けることによる方法である。
【0040】
加えて、様々なタイプの慢性創傷を持つ被検者の間には、差次的発現が生じると予想される。本発明の方法によって、これらの様々な発現プロフィールを確認することができる。
【0041】
多数の生体試料の多数の質量スペクトルが解析される場合、諸シグナルが示す、慢性状態と非慢性状態とを区別する可能性があるマーカーは、容易には発見できない。生体試料の典型的な質量スペクトルは、多数の潜在的マーカーシグナル(例えば、200より大きいもの)とかなりの量のノイズとを有する。このことによって、潜在的に重要なシグナルの識別と、平均的シグナルの差異の識別とが困難になることがある。結果として、潜在的マーカーを同定し定量化することは困難となる。潜在的マーカーが、強いアップレギュレーションも強いダウンレギュレーションも示さないならば、慢性被検者由来の試料と健常者由来の試料との間の平均シグナル差は、容易には識別できないかもしれない。
【0042】
しかし、マーカーがひとたび同定されれば、それらマーカーは、診断用手段として用いることができる。例えば、ライブラリーを作る間に見出された、創傷治癒(特に、損傷治癒障害)に関連付けられる特異的なタンパク質は、創傷治癒(特に、糖尿病患者における高確率の治癒障害)を診断するためのマーカーとなり得る。
【0043】
別の方法としては、本発明の方法を用いて、創傷治癒(特に、悪化した創傷治癒)の既知マーカーの存在を評価することができる。例えば、公表済みの科学文献から確認されるような創傷治癒のために関連することが知られている特異的なタンパク質を求めて、データセットを検索することができる。そのようなタンパク質には、プロテアーゼ(例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP−1、MMP−2、MMP−8、MMP−9)、プラスミン、ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA))、プロテアーゼインヒビター(例えば、TIMP−1、TIMP−2、TIMP−3、PAI−1、PAI−2)、一酸化窒素の合成及び代謝に関連する分子(例えば、内皮一酸化窒素合成酵素及び誘導型一酸化窒素合成酵素(eNOS、iNOS))、増殖因子(例えば、上皮細胞増殖因子(EGF)、形質転換増殖因子(TGF−α、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3)、インスリン様増殖因子(IGF−1)、血小板由来増殖因子(PDGF)、及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF−2))、並びに、炎症性サイトカイン(例えば、インターロイキン(IL−1、IL−6)及び瘍壊死因子(TNF−β))が包含される。本明細書に記述される解析方法の利点は、多くの種類のタンパク質及び/又はペプチドを、プロテオミクス手法で同定することができることである。
【0044】
本発明の実施態様において、解析された質量スペクトルの中の各々の質量スペクトルは、飛行時間、飛行時間から計算された値(例えば、質量対電荷比、分子量等)、質量対電荷比、又は質量対電荷比から計算された値(例えば、分子量)の関数としてシグナル強度データを含むことができるだろう。当業者に知られているように、飛行時間型質量分析計(time-of-flight mass spectrometer)から得られる質量対電荷比の値は、飛行時間の値から得られる。質量対電荷比は、他の方法で得ることができる。例えば、飛行時間型質量分析計を用いて質量対電荷比を決定する代わりに、四重極解析器及びイオントラップ質量分析器を使用する質量分析計を用いて、質量対電荷比を決定することができる。
【0045】
好ましい実施態様において、各々の質量スペクトルは、質量対電荷比の関数としてシグナル強度データを含む。典型的なスペクトルビュータイプの質量スペクトル(spectral view-type mass spectrum)において、シグナル強度データは、質量対電荷比の関数として、シグナル強度のグラフの上に「ピーク」の形態で存在することができる。各々のピークは、基部及び頂点を有することができ、ピーク幅は、基部から頂点までで狭くなる。概してピークと関連する質量対電荷比は、ピークの頂点に対応する。ピークの強度もまた、概してピークの頂点と関連する。
【0046】
一般に、質量対電荷比は、潜在的マーカーの分子量と関連している。例えば、潜在的マーカーが+1の電荷を有するならば、質量対電荷比は、シグナルによって表される潜在的マーカーの分子量にほぼ等しい。このように、幾つかの質量スペクトルのプロットは、分子量の関数としてシグナル強度を示すことがあるが、分子量パラメータは、実際には、質量対電荷比から誘導される。
【0047】
本明細書で解説される、本発明の多くの具体的実施態様は、質量対電荷比を用いることに関するが、具体的に解説される典型的な諸実施態様のいずれにおいても、質量対電荷比に代えて、飛行時間の値、又は飛行時間の値から誘導される他の値を用いることができるものと理解される。
【0048】
本発明の諸実施態様において、気相イオン分光計による質量を用いて、質量スペクトルを作ることができる。「気相イオン分光計(gas phase ion spectrometer)」とは、試料が気相にイオン化されるときに形成されるイオンの質量対電荷比に転換され得るパラメータを測定する装置をいう。これには、例えば、質量分析計、イオン移動度分光計、又は全イオン電流測定装置が包含される。
【0049】
質量分析計は、適切なイオン化技術を用いることができる。イオン化技術には、例えば、高速原子/イオン衝突、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)、表面増強レーザー脱離/イオン化(SELDI)、又はエレクトロスプレーイオン化が包含されることがある。
【0050】
ある実施形態では、イオン移動度分光計を用いて、マーカーを検出し特徴付けることができる。イオン移動度分光分析の原理は、諸イオンの様々な移動度に基づく。具体的には、イオン化によって生成された、試料の諸イオンは、それらイオンの差異(例えば、質量、電荷、又は形状)に起因して、電界の影響下でチューブを通って様々な速度で移動する。それらイオン(典型的には、電流の形態のもの)は、検出器で記録され、次いで検出器の出力を用いて、試料中のマーカー又は他の物質を同定するために使用することができる。イオン移動度分光分析の1つの利点は、大気圧で実行し得ることである。
【0051】
ある実施態様において、レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析計(laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrometer)は、質量スペクトルを作るために用いられる。レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法は、タンパク質のような高分子量物質を分析するのに特に適している。例えば、MALDIのための実際的質量範囲は、最大で300,000ダルトン又はそれ以上である場合がある。更に、レーザー脱離/イオン化プロセスを、複合混合物を分析することために、かつ高感度を有するために用いることができる。加えて、MALDIのようなレーザー脱離/イオン化プロセスでは、タンパク質断片化の可能性が、多くの他の質量分析プロセスよりも低い。したがって、レーザー脱離/イオン化プロセスを用いて、タンパク質のような高分子量物質を精確に特徴付けてかつ定量化することができる。
【0052】
質量スペクトルを作るための典型的なプロセスにおいて、試料は、質量分光計の吸気系統の中に導入される。試料は、次いでイオン化される。イオンが発生した後、それらイオンは、イオン光学的組立体によって収集され、次いで質量分析器は、通過しているイオンを分散させて、分析する。質量分析器を出るイオンは、検出器によって検出される。
【0053】
MALDI解析のための試料は、典型的には、用いられるレーザーの波長で吸収されるマトリックスと混合される。マトリックスは、任意的な添加剤(例えば、トリフルオロ酢酸)と一緒に水及び/又は有機溶媒に溶解された適切な有機マトリックス化合物(例えば、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸、シナピン酸(3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシ桂皮酸)、又は2,5−ジヒドロキシ安息香酸)を含有する。マトリックスは、典型的には、モル過剰で(例えば、少なくとも1000倍モル過剰で、典型的には10,000倍以下のモル過剰で)用いられる。典型的には、試料及びマトリックスは、溶媒が蒸発した後、MALDIターゲットプレート上で共結晶化される。ターゲットプレート上の、結晶化された試料とマトリックスとの混合物を、典型的には、次いで質量分析計のイオン源の内側の高真空領域で激しい短波レーザーパルスに曝露し、次いで気相の中に荷電分子を放出して質量分析を行う。
【0054】
飛行時間型質量分析器の中で、短い高圧電界によって加速されたそれらイオンは、供給源を去った後、無電界のドリフト領域を通過する。高真空のドリフト領域の遠端において、それらイオンは、様々な時間に高感度検出器の表面に衝突する。イオンの飛行時間は、それらイオンの質量対電荷比の関数であるので、イオンの加速と検出器上での衝突との間の経過時間を用いて、固有の質量対電荷比の分子が存在するか不存在であるかを確認することができる。飛行時間データは、次いで質量対電荷比に変換されて、質量対電荷比の関数として、試料の諸成分(例えば、ペプチド及び/又はタンパク質)のシグナル強度を示すスペクトルを作り出すことができる。
【0055】
本発明の方法は、MS(質量分析)データ又はMS/MS(質量分析/質量分析)データを作ることを含む場合がある。MSデータは、試料の全質量範囲のスペクトルを獲得する工程によって得られる。MS/MS実験は、未知分子内部の特異的構造を検出するために用いられる。MS/MS実験は、MSモードで記録される1つのイオン(=親イオン)を選定する工程と、選定され分離された親イオンのための、フラグメントイオンスペクトル(=娘イオンスペクトル)を獲得する工程とを含む。選定された親イオンは、様々な方法、例えば、レーザー誘起フラグメンテーション(laser-induced fragmentation)、インソースフラグメンテーション(in-source fragmentation)、ポストソース分解(post-source decay)、又は衝突誘発フラグメンテーション(collision-induced fragmentation)、を用いて断片化され得る。
【0056】
諸試料成分のイオン化及び検出によって作られた質量スペクトルデータ(MS又はMS/MSデータ)は、質量スペクトルプロットを作った後又は作る前に、デジタルコンピューターを用いて予備処理をされることがある。データ解析は、検出された試料成分のシグナル強度(例えば、シグナルの高さ又は面積)を決定する工程と、「異常値」(既定の統計分布から逸脱しているデータ)を除去する工程とを含むことができる。例えば、観測されたシグナルを正規化することができる。正規化は、ある基準値と比べた各々のシグナルの高さが計算されるプロセスである。例えば、基準値は、計器及び薬品(例えば、エネルギー吸収分子)によって生じたバックグラウンドノイズであることがある。次いで、各々の試料成分又は他の物質に対して検出されたシグナル強度は、所望の尺度の相対強度の形態(例えば、0〜100)で表示され得る。別の方法としては、標準からのシグナルを対照として用いて、検出された各々の試料成分に対して観測されるシグナルの相対強度を計算することができるように、試料と共に標準を採用することができる。
【0057】
試料の調製
1つの態様において、試料は、創傷から直接得られる流体試料である。例えば、流体は、「ティーバッグ(tea bag)」のような試料獲得(すなわち、収集)手段、又は綿棒若しくは他の試料獲得手段、又はマイクロリットルの量の生体液を得るのに用いることができる他の流体収集手段を用いることによって、簡単に得ることができる。試料採取は、例えば、乾燥綿棒、又は適切な溶液で予備湿潤された綿棒を創傷の中に挿入し、次いで綿棒を回転させることによって行うことができる。そのような直接的な方法は、それらが創傷床に対して最小限に破壊的であるので、好ましい。
【0058】
多種多様な綿棒又は他の試料収集手段は、例えば、Puritan Medical Products社(Guilford,ME)からPURE−WRAPSという商品名で、又はのCopan Diagnostics社(Corona,CA)からmicroRheologicsのナイロン製フロック加工綿棒という商品名で市販されている。必要に応じて、例えば、米国特許第5,879,635号(ネイソン(Nason))に開示されているような試料収集手段も用いることができる。綿棒は、綿、レーヨン、アルギン酸カルシウム、ダクロン(Dacron)、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、等を包含する様々な材料で作られている場合がある。
【0059】
「ティーバッグ」と称される試料収集手段は、複数の正方形(例えば、1cm×1cm)であって、そのような正方形はそれぞれ、包帯材料(例えば、3M HealthCare社からのTEGAPORE非接着性包帯材料)の2つの層の間に取り囲まれている正方形に切断されたクロマトグラフィー用ペーパー(例えば、Whatman社からのBFC180)を用いて用意することが可能である。包帯材料は、ヒートシールされて、4つの全ての側面でペーパーの各々の正方形を密封することができ、結果として得られるティーバッグは、加圧滅菌器で処理される。
【0060】
手段のタイプに関係なく、試料を収集する前に、創傷は、典型的には食塩水及び滅菌ガ―ゼを用いて清浄化される。創傷流体の試料採取は、パッドが飽和されるまで、又は適切な試料が得られるまで、例えば、上述のように調製されたパッド又は綿棒を保持することによって行うことができる。追加のパッド又は綿棒を用いてこの手順を繰り返して、様々な分析方法のために試料を収集することができる。それらパッド又は綿棒は、試料採取の前後に秤量されて、収集された創傷流体の量を計算することができる。試料は、典型的には、それらを−70℃の冷凍庫に移せるようになるまで、氷上で保持される。全ての試料は、検査の終わりに一緒に分析することができる。
【0061】
試料収集手段(例えば、綿棒)は、次いで直接分析されるか、又は適切な試薬で抽出される。そのような抽出(すなわち、溶出)試薬には、典型的には、水、有機溶媒、又は緩衝液が包含される。溶出溶媒の例には、アセトニトリル、メタノール、トリフルオロ酢酸(TFA)及び水が包含される。抽出緩衝液の例には、典型的にはリン酸緩衝生理食塩水のような生理的緩衝液、又はHEPES緩衝液(例えば、3〜10mMのモル濃度のもの)が包含される。
【0062】
典型的には、溶出溶媒はティーバッグと一緒に用いられ、及び緩衝液はより高い収率の試料抽出を行うために、綿棒と一緒に用いられる。好ましい実施形態において、ティーバッグと一緒に用いられる抽出溶媒は、0.05容量%〜0.2容量%の範囲の濃度で水に入っているトリフルオロ酢酸(TFA)である。
【0063】
典型的な抽出時間としては、30分〜18時間が挙げられる。回収率は、遠心分離、渦動、及び採集手段から試料を取り外すための他の機械的方法を用いて改善されることがある。
【0064】
もう1つの態様において、試料は創傷組織の抽出物である。組織試料は、生体組織検査法によって創傷から得られ、次いで流体は、組織の均質化によって抽出され、次いで例えば、水、溶媒、又は緩衝液を用いて抽出されることがある。
【0065】
創傷流体は、更なる分析が行われる前に処理にかけられることがある。これには、濃縮、沈降、濾過、蒸留、透析、希釈、天然成分の不活性化、試薬の添加、化学処理等が包含される。すなわち、試験試料は、当業者に周知の様々な手段を使用して調製されることがある。
【0066】
好ましい実施形態において、流体試料は、試料から非常に多量のタンパク質を少なくとも部分的に除去することによって、更に処理されてもよい。そのような多量のタンパク質は、より少ない量で存在するタンパク質/ペプチドのシグナルの存在をマスキングする。典型的には、そのような多量のタンパク質には、哺乳類の創傷流体に存在するアルブミン及びIgGが包含される。そのような多量のタンパク質を少なくとも部分的に除去する工程は、標準的な「減損(depletion)」技術(「減損」は、必ずしもかかるタンパク質を完全に除去することを意味しない)を用いて行うことができる。例えば、アルブミン及びIgGを少なくとも部分的に除去することは、市販の減損カラム(depletion columns)を用いて行うことができる。
【0067】
流体試料には、好ましくは、特異的酵素消化を行って、消化された試料中にペプチドを生成させる。典型的には、このことは、試料をトリプシンと接触させることによって達成されるが、クロモトリプシン(chromotrypsin)又はペプシンのような他の酵素を用いることもできる。典型的には、トリプシンは緩衝液(例えば、重炭酸アンモニウム緩衝液又は他の重炭酸塩緩衝液)の中に提供される。好ましくは、緩衝液は、40mM〜60mM、より好ましくは50mMの濃度である。好ましくは、緩衝液のpHは、pH8.5に調整される。好ましくは、酵素濃度は、0.1μg/μL〜0.3μg/μLであり、より好ましくは0.2μg/μLである。典型的な消化時間には、4〜24時間(好ましくは、18時間)が挙げられる。そのような消化によって、質量分析法を用いるペプチドフィンガープリントのための特異的なタンパク質開裂(特異部位での開裂を意味する)が提供される。例えば、トリプシンは、主にアミノ酸のアルギニン及びリシンのカルボキシル基側でペプチド鎖を開裂する。特異的開裂は、ペプチドフィンガープリンティング質量分析データ(これは公開データベースを考慮している)を解釈する上で有用となる。
【0068】
本明細書における解説は、創傷流体試料の特異的酵素消化に焦点が当てられているが、組織試料であれば、例えば、トリプシンを用い、次いで質量分析法を用いて、消化された試料の液体部分のスペクトルを獲得する特異的酵素消化にかけられることが可能であろうことを、当業者は理解するであろう。この代替案は、本発明の範囲内にあるが、流体試料(それが、創傷滲出液であろうと、創傷組織抽出物すなわちホモジネートであろうとなかろうと、いずれにせよ)の消化及び後続の解析が好ましい。
【0069】
本発明の方法は、被検者の創傷流体由来の、被検者のタンパク質及び/又はペプチドの同定を含む。加えて、所望により、本発明の方法は、被検者の創傷流体中に存在する微生物(特に、細菌)のタンパク質及び/又はペプチドの同定を含むことができる。減損及び消化は、結果として、細菌タンパク質の部分的損失を生じることがあるが、本発明の方法は、同一方法を用いた同一試料由来の培養分離株の分析によって確認されるように、細菌に特異なピークを持つ、創傷流体試料の同定に役立つ。
【0070】
使用方法
本発明は、創傷中の特異的欠損を同定する創傷診断方法であって、治癒障害(特に、慢性創傷)を明らかにし、治療の選択を導く方法を提供する。創傷がより長く存在していれば、治癒するのはそれだけより困難であるということは、認識されている。最新の治療法は、経験に基づいており、簡単な湿気管理包帯剤から先端技術の抗菌性包帯剤、代用皮膚及び増殖因子まで、市場で入手できる多数の創傷ケア用製品を用いる、試行錯誤的アプローチにある。慢性創傷は、最適治療法が確認される前に数ヶ月にわたって処置されることがある。このことは、患者の生活水準(quality of life)にとって不利であり、かつ創傷の治療が高コストである一因となっている。本発明の分子診断アプローチは、治癒時間を短縮し、かつ全治療費用を削減することのできる、適切な処置のより迅速な選択を提供する。
【0071】
1つの態様においては、創傷治癒のための、タンパク質及び/又はペプチドである場合がある生物学的マーカーの発現及び/又は形態を、本発明によって解析された創傷流体試料を用いて分析する。本明細書で使用されるとき、「創傷治癒のための生物学的マーカー」は、タンパク質及び/又はペプチドであり、それらの存在、それらの不存在、又はそれらの様々な発現レベル(減少若しくは増大)は、創傷治癒(特に、慢性創傷によって生じる治癒障害)を特徴付けることができる。加えて、様々なタイプの慢性創傷は、そのような生物学的マーカーによって識別されることがある。
【0072】
本発明の更なる態様において、創傷治癒障害は、創傷治癒のための生物学的マーカーの活性度の発現を調べることによって検出及び/又は監視が行われ得る。例えば、1つの態様において、治癒障害と関連付けられることが既に知られている成分(例えば、マトリックスメタロプロテアーゼ)の活性度は、試料においてその場で(in situ)監視され得る。
【0073】
1つの態様において、診断解析は、創傷流体試料中のどのタンパク質及び/又はペプチドが、慢性創傷中に実質的に常に存在しており、かつ非慢性創傷中に実質的に常に不存在であるか、あるいは慢性創傷中に実質的に常に不存在であり、かつ非慢性創傷中に実質的に常に存在しているか、あるいは慢性創傷中にある形態若しくはある量で実質的に常に存在しており、かつ非慢性創傷中にある形態若しくはある量で実質的に常に存在しているかを決定することによって行われる。「実質的に常に」は、タンパク質/ペプチドの発現/形態、又は一連のタンパク質/ペプチドの発現/形態と、異常な生理学的過程の存在との間に、統計的に有意な相関関係が存在することを意味する。
【0074】
加えて、様々なタイプの創傷(例えば、慢性創傷)は、そのような生物学的マーカーによって識別され得る。1つの態様において、診断解析は、創傷流体試料中のどのタンパク質及び/又はペプチドが、特定のタイプの慢性創傷の中に実質的に常に存在しており、かつ他のタイプの慢性創傷の中に実質的に常に不存在であるか、あるいは特定のタイプの慢性創傷中に実質的に常に不存在であり、かつ他のタイプの慢性創傷中に実質的に常に存在しているか、あるいは特定のタイプの慢性創傷中にある形態若しくはある量で実質的に常に存在しており、かつ他のタイプの慢性創傷中にある形態若しくはある量で実質的に常に存在しているかを決定することによって行われる。「実質的に常に」は、タンパク質/ペプチドの発現/形態、又は一連のタンパク質/ペプチドの発現/形態と、異常な生理学的過程の存在との間に、統計的に有意な相関関係が存在することを意味する。
【0075】
1つの実施形態において、本発明は、被検者の創傷からの流体を解析する方法を提供する。方法は、被検者(好ましくは、ヒト)の創傷(好ましくは、慢性創傷)由来の流体試料を獲得する工程と、試料の特異的酵素消化(好ましくは、トリプシンを用いて)を行って、消化済み試料中にペプチドを生じさせる工程と、質量分析法を用いて(好ましくは、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法を用い、好ましくは、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法で用いられるマトリックスは、水及び/又は任意的添加物を含有する有機溶媒に溶解したα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸、3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシ桂皮酸、及び2,5−ジヒドロキシ安息香酸から選択される有機マトリックス化合物を含有する)消化済み試料のスペクトルを獲得する工程と、スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースの少なくとも一部分と比較する工程と、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物(特に、細菌)の1つ以上のタンパク質同定データベースの少なくとも一部分と比較する工程と、を含む。そのような比較を行って、創傷流体中のタンパク質及び/又はペプチドの諸成分を同定することができ、かつ/あるいはそのような比較を行って、創傷治癒の生物学的マーカーを同定することができる。
【0076】
本方法のある実施形態において、質量分析法を用いて、消化済み試料のスペクトルを獲得する工程は、消化済み試料の質量分析スペクトルを獲得する工程を含み、スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、質量分析スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のペプチドマスフィンガープリントデータベースと比較する工程を含み、かつ、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、同一の質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の、1つ以上のペプチドマスフィンガープリントデータベースと比較する工程を含む。
【0077】
本方法の他のある実施形態において、質量分析法を用いて、消化済み試料のスペクトルを獲得する工程は、消化済み試料の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルを獲得する工程を含み、スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含み、かつ、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、同一の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含む。
【0078】
微生物は、例えば、細菌、菌類、酵母菌であってもよく、好ましくは細菌であってもよい。特に適切な生物は、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科、又はミクロコッカス(Micrococcaceae)科、又はスタヒロコッカス(Staphylococcus)spp.属、シュードモナス(Pseudomonas)spp.属、エシェリキア(Escherichia)spp.属のメンバーを含む細菌である。特に強い病原性を持つ菌には、(メチシリン耐性スタヒロコッカスアウレウス(Staphylococcus aureus)(MRSA)のような耐性菌を包含する)スタヒロコッカスアウレウス、スタフィロコッカスエピデルミディス(S. epidermidis)、エンテロコッカスフィカリス(Enterococcus faecalis)、シュードモナスアエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、及び大腸菌(Escherichia coli.)が包含される。興味深い他の生物には、例えば、コリンストラチウム(Coryn stratium)、デルマバクターホミニス(Dermabecter hominis)、ストレプトコッカスディスガラクチエエクイシミリス(S. dysgalactiae equisimilis)、及びエンテロコッカスフェイカリス(E. faecalis)が包含される。
【0079】
本明細書において、タンパク質同定データベースと比較する工程を含む上記諸方法は、創傷治癒の1種類以上の生物学的マーカーを同定する工程を更に含むことができる。
【0080】
本明細書において、タンパク質同定データベースと比較する工程を含む上記諸方法は、創傷試料の1種類以上のペプチド及び/又はタンパク質を同定する工程を更に含むことができる。創傷試料の1種類以上のペプチド及び/又はタンパク質を同定する工程は、タンパク質同定データベースに存在するタンパク質及び/若しくはペプチドを同定する工程と、又はタンパク質同定データベースに存在しないタンパク質及び/若しくはペプチドを同定する工程とを含むことができる。
【0081】
したがって、本解析方法は、被検者の創傷流体のプロテオミクスプロファイル(proteomic profile)を作る工程を更に含むことができる。本明細書において、創傷流体のプロテオミクスプロファイルは、被検者の種のタンパク質及び/又はペプチドのプロファイルと、任意的に、微生物(特に、細菌)のタンパク質及び/又はペプチドのプロファイルとを含む。
【0082】
本発明の解析方法は、慢性創傷からの創傷流体のプロテオミクスプロファイルを、正常回復期創傷と比較して、慢性創傷のマーカーを同定する工程を更に含むことができる。本発明の解析方法は、1つのタイプの慢性創傷からの創傷流体のプロテオミクスプロファイルを、他のタイプの慢性創傷と比較して、各々のタイプに対する特異的マーカーを同定する工程を更に含むことができる。本解析方法は、被検者の創傷治癒における機能障害を診断する工程を更に含むことができる。本解析方法は、創傷を治療するための治療プロトコールを決定する工程と、加えて、所望により、治療プロトコールに対する応答を監視する工程とを更に含むことができる。
【0083】
本解析方法は、タンパク質及び/又はペプチドの時間系列を作って、プロファイルの変化を監視し(すなわち、ある成分の相対存在量を求めるために、長期にわたって創傷流体を解析し)、かつ任意的に、そのような変化を、創傷治癒過程又はそれらの欠如(進行状態、退行状態、又は定常状態)と関連付ける工程を更に含むことができる。このことは、更に、治療プロトコールに対する応答を監視する工程において役立つことがある。時間系列に対するそのような評価は、長期にわたって、同一被検者由来の同一創傷の消化済み試料のスペクトルを解析することを含むことができる。このことは、スペクトルを1つ以上のデータベースと比較する前、又は比較した後に行うことができる。何かそのような比較の前に行われならば、そのような比較において用いられるデータの量は、減少し得るであろう。また、そのような時間系列の解析を用いて、治癒過程をよりよく理解して、どのタンパク質及び/又はペプチドが治癒過程において重要であるのかを確認し、創傷治癒のためのマーカーを同定し、かつ/あるいは治療プロトコールに対する応答を監視することができる。
【0084】
他の実施形態において、本発明は、創傷流体のタンパク質及び/又はペプチドのライブラリーを作る方法を提供する。そのようなタンパク質及び/又はペプチドは、創傷に特異的な、創傷治癒の生物学的マーカーでありうる。本方法は、同一種の複数の被検者から複数個の創傷流体試料を獲得する工程と、被検者の、関連する臨床的パラメータ(例えば、被検者の年齢、創傷の期間、被検者の基礎疾患(例えば、糖尿病、静脈不全)、創傷治癒速度、等)を収集する工程と、試料の特異的酵素消化を行って、消化済み試料の中にペプチドを生じさせる工程と、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法(であって、好ましくは、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法で用いられるマトリックスは、水及び/又は有機溶媒に溶解した、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸、3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシ桂皮酸、並びに2,5−ジヒドロキシ安息香酸から選択される有機マトリックス化合物を、任意的添加物と共に含有する質量分析法)を用いて、各々の消化済み試料のスペクトルを獲得する工程と、各々のスペクトルの少なくとも一部分を被検者の種のタンパク質の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、任意的に(しかし、好ましくは)、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質のタンパク質同定データベースと比較する工程と、各々の創傷試料中のペプチド及び/又はタンパク質を同定して、プロテオミクスプロファイルを作る工程と、のペプチド及び/又はタンパク質、並びに臨床的パラメータを解析して、プロテオミクスプロファイルを臨床的パラメータと関連付けて、ライブラリーを作る工程と、を含む。
【0085】
本方法のある実施形態において、質量分析法を用いて、各々の消化済み試料のスペクトルを獲得する工程は、各々の消化済み試料の質量分析スペクトルを獲得する工程を含み、各々のスペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、各々の質量分析スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のペプチドマスフィンガープリントデータベースと比較する工程を含み、かつ任意的に、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、任意的に、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のペプチドマスフィンガープリントデータベースと比較する工程を含む。好ましくは、これらの実施形態は、同一の質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のペプチドマスフィンガープリントデータベースと比較する工程を含む。
【0086】
本方法の他のある実施形態において、質量分析法を用いて、各々の消化済み試料のスペクトルを獲得する工程は、消化済み試料の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルを獲得する工程を含み、各々のスペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、各々の質量分析スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含み、かつ任意的に、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、任意的に、同一の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含む。好ましくは、これらの実施形態は、同一の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含む。
【0087】
本明細書に記述される諸方法のいずれかにおいて、創傷試料の1種類以上のペプチド及び/又はタンパク質は、それらペプチド及び/又はタンパク質がタンパク質同定データベースの中に存在しないがために同定されないことがある。したがって、本発明の方法は、そのような未知のタンパク質及び/又はペプチドの同定を行うために、標準的技術(例えば、質量分析/質量分析解析)(「新規な(de novo)」解析)の使用を含むことができる。
【0088】
本明細書に記述される好ましい実施態様は、質量分析法を用いて、創傷流体を消化して解析する工程を含む。本明細書使用するとき、「創傷流体」は、創傷から直接得られるか、又は創傷組織を抽出することによって得られる。創傷流体には、創傷滲出物及び/又は創傷組織抽出物すなわちホモジネートを挙げることができる。しかし、組織試料を獲得し、例えばトリプシンを用いて、組織試料の特異的酵素消化を直接行い、次いで質量分析法を用いて、消化済み試料の液体部分のスペクトルを獲得することも可能である。したがって、本明細書に記述される各々の実施態様は、「創傷試料」(創傷流体、又は創傷組織試料)に関して、そのような創傷試料を消化し、次いで消化済み試料の液体部分のスペクトルを獲得することによって実施することができるであろう。
【0089】
例えば、1つの実施態様において、被検者(好ましくは、ヒト)の創傷(好ましくは、慢性創傷)から創傷試料(例えば、組織試料)を獲得する工程と、創傷試料の特異的酵素消化を行って(例えば、トリプシンを用いて)、消化済み試料の中にペプチドを生じさせる工程と、質量分析法を用いて(好ましくは、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法を用いて)、消化済み試料の液体部分のスペクトルを獲得する工程と、スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物(特に、細菌)の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、を含む方法が提供される。
【0090】
別の実施形態において、同一種の複数の被検者から複数個の創傷試料(例えば、組織試料)を獲得する工程と、被検者の、関連する臨床的パラメータ(例えば、被検者の年齢、創傷の期間、被検者の基礎疾患(例えば、糖尿病、静脈不全)、創傷治癒の速度等を含む)を収集する工程と、創傷試料(例えば、組織試料)の特異的酵素消化を行って、消化済み試料の中にペプチドを生じさせる工程と、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法を用いて、各々の消化済み試料の液体部分のスペクトルを獲得する工程と、各々のスペクトルの少なくとも一部分を被検者の種のタンパク質の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、任意的に(しかし、好ましくは)、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物のタンパク質の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、各々の創傷試料中のペプチド及び/又はタンパク質を同定して、プロテオミクスプロファイルを作る工程と、のペプチド及び/又はタンパク質、並びに臨床的パラメータを解析して、プロテオミクスプロファイルを臨床的パラメータと関連付けて、ライブラリーを作る工程と、を含む、方法が提供される。
【0091】
典型的な実施態様
1.創傷からの流体を解析する方法であって、方法が、
被検者の創傷から流体試料を獲得する工程と、
試料の特異的酵素消化を行って、消化済み試料の中にペプチドを生じさせる工程と、
質量分析法を用いて、消化済み試料のスペクトルを獲得する工程と、
スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、
同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、を含む、方法。
【0092】
2.質量分析法を用いて、消化済み試料のスペクトルを獲得する工程が、消化済み試料の質量分析スペクトルを獲得する工程を含み、
スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程が、質量分析スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のペプチドマスフィンガープリントデータベースと比較する工程を含み、かつ
同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程が、同一の質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のペプチドマスフィンガープリントデータベースと比較する工程を含む、実施態様1に記載の方法。
【0093】
3.質量分析法を用いて、消化済み試料のスペクトルを獲得する工程が、消化済み試料の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルを獲得する工程を含み、
スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程が、1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含み、かつ
同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程が、同一の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含む、実施態様1に記載の方法。
【0094】
4.創傷流体試料の1種類以上のペプチド及び/又はタンパク質を同定する工程を更に含む、実施態様1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【0095】
5.創傷流体試料の1種類以上のペプチド及び/又はタンパク質を同定する工程が、タンパク質同定データベースの中に存在しないタンパク質及び/又はペプチドを同定する工程を含む、実施態様4に記載の方法。
【0096】
6.創傷治癒の1種類以上の生物学的マーカーを同定する工程を更に含む、実施態様1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【0097】
7.1種類以上の微生物が、1種類以上の細菌を含む、実施態様1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【0098】
8.創傷流体が、創傷から直接得られる、実施態様1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【0099】
9.創傷が、慢性創傷である、実施態様1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【0100】
10.被検者が、ヒトである、実施態様1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【0101】
11.創傷流体試料を獲得する工程が、収集装置を創傷に接触させて創傷流体を収集する工程と、収集装置から創傷流体を取り出す工程とを含む、実施態様1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【0102】
12.取り出す工程が、水、アセトニトリル、メタノール、トリフルオロ酢酸、リン酸緩衝生理食塩水、又はヘペス(HEPES)緩衝液で取り出す工程を含む、実施態様11に記載の方法。
【0103】
13.創傷流体試料を獲得する工程が、試料から高含量タンパク質を少なくとも部分的に除去する工程を更に含む、実施態様11又は12に記載の方法。
【0104】
14.高含量タンパク質が、アルブミン及びIgGを包含する、実施態様13に記載の方法。
【0105】
15.創傷流体試料の特異的酵素消化を行う工程が、試料をトリプシンに接触させる工程を含む、実施態様1〜14のいずれか1つに記載の方法。
【0106】
16.トリプシンが、重炭酸アンモニウム緩衝液中に提供される、実施態様14に記載の方法。
【0107】
17.質量分析法を用いて、消化済み試料のスペクトルを獲得する工程が、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法を用いて、消化済み試料のスペクトルを獲得する工程を含む、実施態様1〜16のいずれか1つに記載の方法。
【0108】
18.マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法で用いられるマトリックスが、任意的な添加物と共に水及び/又は有機溶媒に溶解したα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸、3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシ桂皮酸、並びに2,5−ジヒドロキシ安息香酸から選択される有機マトリックス化合物を含有する、実施態様17に記載の方法。
【0109】
19.被検者の創傷流体試料のプロテオミクスプロファイルを作る工程を更に含む、実施態様1〜18のいずれか1つに記載の方法。
【0110】
20.慢性創傷からの創傷流体試料のプロテオミクスプロファイルを、正常回復期創傷と比較して、慢性創傷のマーカーを同定する工程を更に含む、実施態様19に記載の方法。
【0111】
21.1つのタイプの慢性創傷からの創傷流体試料のプロテオミクスプロファイルを、他のタイプの慢性創傷と比較して、各々のタイプのための特異的マーカーを同定する工程を更に含む、実施態様19に記載の方法。
【0112】
22.同一創傷からの創傷流体試料のプロテオミクスプロファイルを、長時間にわたって監視する工程を更に含む、実施態様19に記載の方法。
【0113】
23.創傷治癒における機能障害を診断する工程を更に含む、実施態様1〜22のいずれか1つに記載の方法。
【0114】
24.創傷を治療するための治療プロトコールを決定する工程を更に含む、実施態様1〜23のいずれか1つに記載の方法。
【0115】
25.治療プロトコールに対する応答を監視する工程を更に含む、実施態様24に記載の方法。
【0116】
26.創傷試料の1種類以上の細菌ペプチド及び/又は細菌タンパク質を同定する工程を更に含む、実施態様1〜25のいずれか1つに記載の方法。
【0117】
27.1種類以上の細菌ペプチドが、AEANTGVSC(配列番号1)、KLGNAVLR(配列番号2)、VGGKNHLAP(配列番号3)、SSPGYEGPR(配列番号4)、LTHFYFDA(配列番号5)、TVALTWWTRLP(配列番号6)、IRFVNSGTEAVMTTIR(配列番号7)、NNQLTSTPFDEIFAESNRK(配列番号8)、GYNTIISHHPLIFKGVTSLK(配列番号9)、PLKPNLHLVNKALHLWCSR(配列番号10)、KFCNGLNCSKGYGVNLWWGT(配列番号11)、及びGGPPDTPRVNMGGGKWWMLVPRTFGTT(配列番号12)からなる群から選択される1種類以上のペプチドを含む、実施態様26に記載の方法。
【0118】
28.創傷流体のタンパク質及び/又はペプチドのライブラリーを作る方法であって、方法が、
同一種の複数の被検者から複数個の創傷流体試料を獲得する工程と、
被検者の、関連する臨床的パラメータを収集する工程と、
試料の特異的酵素消化を行って、消化済み試料の中にペプチドを生じさせる工程と、
マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法を用いて、各々の消化済み試料のスペクトルを獲得する工程と、
各々のスペクトルの少なくとも一部分を被検者の種のタンパク質の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、
任意的に、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物のタンパク質の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、
各々の創傷試料中のペプチド及び/又はタンパク質を同定して、プロテオミクスプロファイルを作る工程と、
ペプチド及び/又はタンパク質、並びに臨床的パラメータを解析して、プロテオミクスプロファイルを臨床的パラメータと関連付けて、ライブラリーを作る工程と、を含む、方法。
【0119】
29.質量分析法を用いて、各々の消化済み試料のスペクトルを獲得する工程が、各々の消化済み試料の質量分析スペクトルを獲得する工程を含み、
各々のスペクトルの少なくとも一部分を被検者の種のタンパク質の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程は、各々の質量分析スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のペプチドマスフィンガープリントデータベースと比較する工程を含み、かつ
任意的に、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程が、任意的に、同一の質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のペプチドマスフィンガープリントデータベースと比較する工程を含む、実施態様28に記載の方法。
【0120】
30.同一の質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のペプチドマスフィンガープリントデータベースと比較する工程を更に含む、実施態様29に記載の方法。
【0121】
31.質量分析法を用いて、各々の消化済み試料のスペクトルを獲得する工程が、消化済み試料の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルを獲得する工程を含み、
各々のスペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程が、1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含み、かつ
任意的に、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程が、任意的に、同一の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含む、実施態様28に記載の方法。
【0122】
32.同一の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を更に含む、実施態様31に記載の方法。
【0123】
33.1種類以上の微生物が、1種類以上の細菌を含む、実施態様28〜32のいずれか1つに記載の方法。
【0124】
34.創傷流体が、創傷から直接得られる、実施態様28〜33のいずれか1つに記載の方法。
【0125】
35.創傷が慢性創傷である、実施態様28〜34のいずれか1つに記載の方法。
【0126】
36.被検者が、ヒトである、実施態様28〜35のいずれか1つに記載の方法。
【0127】
37.試料を獲得する工程が、収集装置を創傷に接触させて創傷流体を収集する工程と、収集装置から創傷流体を取り出す工程とを含む、実施態様28〜36のいずれか1つに記載の方法。
【0128】
38.取り出す工程が、水、アセトニトリル、メタノール、トリフルオロ酢酸、リン酸緩衝生理食塩水、又はヘペス(HEPES)緩衝液で取り出す工程を含む、実施態様37に記載の方法。
【0129】
39.試料を獲得する工程が、試料から高含量タンパク質を少なくとも部分的に除去する工程を更に含む、実施態様37又は38に記載の方法。
【0130】
40.高含量タンパク質が、アルブミン及びIgGを包含する、実施態様39に記載の方法。
【0131】
41.試料の特異的酵素消化を行う工程が、試料をトリプシンに接触させる工程を含む、実施態様28〜40のいずれか1つに記載の方法。
【0132】
42.トリプシンが、重炭酸アンモニウム緩衝液中に提供される、実施態様41に記載の方法。
【0133】
43.創傷試料のペプチド及び/又はタンパク質を同定する工程が、タンパク質同定データベース中に存在しないタンパク質及び/又はペプチドを同定する工程を含む、実施態様28〜42のいずれか1つに記載の方法。
【0134】
44.創傷治癒の1種類以上の生物学的マーカーを同定する工程を更に含む、実施態様28〜43のいずれか1つに記載の方法。
【0135】
45.創傷治癒の生物学的マーカーが、慢性創傷に対して特異的である、実施態様28〜44のいずれか1つに記載の方法。
【0136】
46.マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法で用いられるマトリックスが、任意的な添加物と共に水及び/又は有機溶媒に溶解したα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸、3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシ桂皮酸、並びに2,5−ジヒドロキシ安息香酸から選択される有機マトリックス化合物を含有する、実施態様28〜45のいずれか1つに記載の方法。
【0137】
47.創傷試料を解析する方法であって、方法が、
被検者の創傷から試料を獲得する工程と、
創傷試料の特異的酵素消化を行って、消化済み試料の中にペプチドを生じさせる工程と、
質量分析法を用いて、消化済み試料の液体部分のスペクトルを獲得する工程と、
スペクトルの少なくとも一部分を被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、
同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、を含む、方法。
【0138】
48.創傷試料のタンパク質及び/又はペプチドのライブラリーを作る方法であって、方法は、
同一種の複数の被検者から複数個の創傷試料を獲得する工程と、
被検者の、関連する臨床的パラメータを収集する工程と、
創傷試料の特異的酵素消化を行って、消化済み試料の中にペプチドを生じさせる工程と、
マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法を用いて、各々の消化済み試料の液体部分のスペクトルを獲得する工程と、
各々のスペクトルの少なくとも一部分を被検者の種のタンパク質の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、
任意的に、同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物のタンパク質の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、
各々の創傷試料中のペプチド及び/又はタンパク質を同定して、プロテオミクスプロファイルを作る工程と、
ペプチド及び/又はタンパク質、並びに臨床的パラメータを解析して、プロテオミクスプロファイルを臨床的パラメータと関連付けて、ライブラリーを作る工程と、を含む、方法。
【実施例】
【0139】
これらの実施例は単に説明目的のためのみに存在し、特許請求の範囲の範囲を限定するようには意図されていない。本明細書の実施例及びその他の部分におけるすべての部、百分率、比などは全て、別段の定めがない限り、重量による。更に、本明細書の実施例及びその他の部分における分子量は、別段の定めがない限り、重量平均分子量である。
【0140】
次の実施例は、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法(Matrix-Assisted Laser Desorption / Ionization Time-of-Flight(MALDI−TOF))を用いて、慢性創傷患者からの創傷流体のタンパク質組成物を解析するためのショットガンプロテオミクス法(shotgun proteomics method)を説明する。創傷流体試料は、レビンスワブ法(Levine swab technique)を用いて様々な慢性創傷を持つ13人の被検者から得られ、次いでMALDIを用いて解析された。並行して、更なるスワブを、微生物解析のために収集した。それら生体は、同定され、数を数えられ、次いで後で用いるために、冷凍保存された。12人の患者の被検者からの選定された隔離集団(isolates)は、MALDI解析のために生体外で(in vitro)再成長された。MALDIスペクトルは、Bruker Daltonics Flex解析と、Biotools software及びMascot softwareとを用いて解析された。NCBInr及びSwissprotのMS及びMS/MSデータベースは、創傷流体試料のための「ホモサピエンス」の分類学と、創傷流体試料のための「ファーミキューテス(Firmicutes)」(グラム陽性細菌)及び臨床分離株の分類学とを用いて探求された。タンパク質を同定するために、トリプシン酵素開裂の数値を用いた。
【0141】
タンパク質レベルで、様々な患者の被検者からの創傷流体の間の大きな変異性を観察した。次いで、Ingenuity Pathwaysソフトウェアを用いて、重複タンパク質を組み合わせ、かつ関連する代謝経路のタンパク質を分類した。IL−4シグナル経路及び抗原提示経路は、この群の患者において最も顕著に表現された。
【0142】
選択された群の臨床分離株のための、得られた質量スペクトルもまた、同一患者からの創傷流体のスペクトルと比較され、次いで以前ヒトタンパク質を検索した際に未確認であった幾つかのピークは、細菌タンパク質由来のピークとして同定された。創傷流体と臨床分離株との両方に存在する選定されたピークに対して、配列を確認するためにMS/MS解析を実行した。
【0143】
この方法は、創傷流体中に発現されたタンパク質のライブラリーを作り、その結果、創傷治癒の生物学的マーカーを同定するために有用である場合がある。これらのマーカーは、治癒を悪化させるかもしれない容態を持つ患者の治癒能力を評価し、創傷治癒における機能障害を診断し、かつ容態の漸進的変化だけでなく処置に対する応答をも監視するのに有用である。加えて、細菌タンパク質は、潜在的に同一の試料で同定され得る。
【0144】
下の表1は、選択された患者の被検者S1〜S10と、彼らの基礎病理と、悪化した創傷治癒を持つ被検者に関連する他の臨床的パラメータの一部とを示す。これらの被検者由来の創傷流体試料は、収集され、その後本発明の方法に従って解析された。
【0145】
【表1】

【0146】
省略形:NHS:非回復期外科創傷、VLU:静脈性下腿潰瘍;PU:圧迫潰瘍、Db:糖尿病;CAD:冠動脈疾患、PVD:末梢血管疾患、P/Q:対麻痺/四肢麻痺、S:より小さい、L:より大きい、Un:不変の、Dec:減少する、Inc:増大する
創傷試料の収集方法
試料は、Levineによって記述された、微生物負荷を解析するための定量的スワブ法(Levine NS,Lindberg RB,Mason AD,Pruitt BA. The quantitative swab culture and smear:A quick,simple method for determining the number of viable aerobic bacteria on open wounds.J Trauma 16:89−94,1976)を用いることによって、表1に記述される患者の被検者から収集された。要するに、被検者の創傷は、標準食塩水及び滅菌ガーゼを用いて清浄化された。単一の滅菌レーヨンスワブ(Copan Diagnostics社(Murrieta,CA))を、下層組織由来の流体を滲出させるのに十分な圧力を加えながら、創傷の面積1cm内で5秒間、回転させた。スワブは、Sigma−Aldrich社(St.Louis,MO)から入手可能なHEPES(ヘペス)緩衝液を含有しているチューブに入れられた。試料は、分析前、貯蔵のために3時間未満で氷上に保持され、次いで−70℃の冷凍室に移された。試料は全て、解凍の後、直ちに分析された。
【0147】
臨床分離株
選定された臨床分離株の一夜培養物は、血液寒天培地上で培養された。それらコロニー(研究された各々の患者の被検者からの1コロニーの反復試験試料)は、次いでSigma−Aldrich社(St.Louis,MO)から入手可能な)HEPES緩衝液100μLを含有するチューブに入れられた。それら微生物コロニーの試料は、次いで創傷流体試料と同様に処理され解析された。それら試料はまた、比較として、アルブミン/IgGを除去する工程なしで解析された。
【0148】
高含量タンパク質の除去−アルブミン/IgGの除去
高含量タンパク質を除去するために、PROTEOEXTRACT(CALBIOCHEM EMD Chemicals社(San Diego,CA))から入手可能なカタログ番号122642)として知られているアルブミン/IgG除去キットを用いた。キットは、「アルブミン/IgG除去カラム」及び「結合緩衝液」を有した。キット取扱説明書に従って、試料は、先ず、創傷液体溶液60μL、又は臨床分離株からの微生物コロニー試料60μLを、別個のチューブに入っている「結合緩衝液」540μLで希釈することによって調製された。「アルブミン/IgG除去カラム」は、末端部からキャップを取り外し、次いで貯蔵緩衝液を除去することによって調製された。次に、カラムから先端部を取り外して、カラムを適切な緩衝液収集チューブに入れた。カラムに0.85μLの量の「結合緩衝液」を添加し、次いで重力流により樹脂床を通って通過するようにした。緩衝液収集チューブを廃棄して、カラムを新たな試料収集チューブの中に入れた。次いで、次の諸工程によって、アルブミン/IgGを試料から除去した。予め別個のチューブで希釈された試料を、カラムに添加し、次いで重力流により樹脂床を通って通過するようにした。その貫流は収集された。同一の収集チューブを用いて、カラムは、重力流により樹脂床を通って通過するようにされた600μLの「結合緩衝液」で洗浄された。この第1の洗浄画分は、収集された。同一の収集チューブを用いて、別の600μLの「結合緩衝液」を、重力流により樹脂床を通って通過するようにした。第2の洗浄画分を収集した。組み合わされた画分は、アルブミン/IgGの枯渇した試料を含有した。タンパク質消化のために、それぞれ50μLの試料アリコートを用いた。
【0149】
創傷流体試料と臨床分離株由来の微生物コロニー試料とのタンパク質消化
水に重炭酸アンモニウム(ABC)50mMを含有するpH8.5の緩衝液を調製した(重炭酸アンモニウムは、Alfa Aesar社(Ward Hill,MA)から入手可能)。トリプシン貯蔵溶液は、トリプシン(Promega社(Madison,WI)から入手可能なシーケンスグレードの変性トリプシン)20μgを、ABC緩衝液25μL及び水75μLの中に溶解させることによって調製された。トリプシン貯蔵溶液は、氷上に保持された。上記で調製された試料溶液の50μLの量を、ポリプロピレンの無菌バイアル瓶の中にピペットで取った。pHは、水酸化アンモニウムで約8.5のpHに調整された。5μLの量のトリプシン原液を、試料溶液に添加した。試料は、ボルテックスによって5〜10秒間穏やかに混合し、次いで37℃で18時間にわたって消化を行った。18時間後、反応を停止させた。試料は、室温まで冷却し、次いで6000RPM(Clover Laboratories社(Waterville,OH)の遠心分離機モデルSD110)で5〜10秒間微小遠心で遠心脱水した。溶液のpHは、必要に応じ酢酸を0.1μLのアリコートで添加することによって、≦pH6に調整された。
【0150】
MALDI−TOF質量分析の解析
MALDI−TOF質量分析の測定は、ポジティブイオン化が行われ、反射体モードになっているUltraflex II BrukerMALDI−TOF/TOF機器を用いて行われた。加速電圧:25kV。測定された質量範囲:680〜8000ダルトン。機器は、Bruker Daltonics社(Billerica,MA.)から入手可能なペプチド基準混合物「ペプチド較正基準」を用いて較正された。MALDIマトリックス:アセトニトリル/水/トリフルオロ酢酸(60/40/0.1%)混合物に入っている飽和マトリックス溶液である、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(Sigma Aldrich社(St.Louis)からのシアノヒドロキシ桂皮酸)を、10mg/mLの濃度レベルで調製した。試料とマトリックス溶液とを混合する工程は、次のようにMALDI標的上で行われた。1.0μLの量の試料溶液をMALDI標的(Bruker Daltonics社(Billerica,MA)のMTP Anchor Chip800/384)の上に適用し、次いで、0.5μLのMALDIマトリックス溶液を、MALDI標的上に適用した。未加工のMALDI−TOF MS及びMS/MSデータは、先ず、Bruker Daltonics社から入手可能なフレックス解析ソフトウェア、バージョン2.4を用いて処理された。次いで、バイオツール3.0ソフトウェア(これもBruker Daltonics社から入手できる)を用いて、更なるデータ処理を行い、かつ英国ロンドンのMatrix Science Ltdから入手可能なMASCOT PROTEIN IDENTIFICATIONソフトウェア、バージョン2.1にデータを移した。MASCOTソフトウェアを用いて、米国国立生物工学情報センター(NCBI)NCBInrデータベース及びSwissProtpeptide mass fingerprintingデータベースは、「ホモサピエンス」及び「ファーミキューテス(グラム陽性菌)」の分類学、並びにトリプシン酵素開裂値(trypsin enzyme cleavage values)を用いて探求された。タンパク質IDのための検索パラメータは、±0.95Daのペプチドの許容誤差(peptide tolerance)、最大見逃し開裂(max missed cleavage)=1、及びタンパク質の質量は「無制限である」と定義された。NCBinr及びスイスプロット配列クエリー(SwissProt sequence query)並びにMS/MSイオン検索は、類似の分類学と、ペプチドマスフィンガープリンティング(MS)データベースと比べた酵素開裂値とを用いて調査された。ペプチド質量の許容誤差は、<0.2Daであった。陽性タンパク質同定基準は、確率ベース得点に基づいた。有意な確率得点(p<0.05)を有するタンパク質であって、アイデンティティ又は広範囲の同族関係を示すタンパク質は、有効な一致(valid matches)と見なされた。
【0151】
図1は、1つの慢性創傷の被検者(被検者番号7)の創傷流体試料に対して記録されたペプチドイオンを示すMALDI−TOF質量スペクトルを示す。表2は、図1に示されるMALDI−TOF質量スペクトルのためのピークの説明(質量対電荷の比)を示す。被検者番号7に対する上位50のピークの結果が示される。
【0152】
【表2】

【0153】
表3は、マスコットペプチドマスフィンガープリンティングソフトウェア(NCBInrデータベース)を用いたMALDI−TOFピーク同定を示す。結果は、被検者番号7に対する上位50のタンパク質ヒットである。
【0154】
【表3−1】

【0155】
【表3−2】

【0156】
共通タンパク質を同定するために、10人の選ばれた慢性創傷患者の被検者の群(表1)における創傷流体組成の比較を行った。これらの10人の被検者について、表3に示されるデータと類似するデータが得られた。各々の被検者について、全ての検出可能なタンパク質を同定した。この一連の10人の被検者において、合計928種類の異なるタンパク質が同定された。これらの内、22種類のタンパク質は、10人の被検者の少なくとも4人の中に存在し、かつ144種類のタンパク質は、2〜4人の被検者の中に存在した。少なくとも4人の被検者において同定されたそれら22種類のタンパク質のリストを、表4に示す。
【0157】
【表4】

【0158】
下記の表5は、表1に記述される同定された病状を有する10人の慢性創傷被検者の内少なくとも4人に見出だされた22種類のタンパク質を示す。これらの被検者の創傷タイプは、下記のものを含んだ。被検者S1、S3及びS10は、進行性外科創傷を有した。被検者S2、S8及びS9は、静脈性潰瘍創傷を有した。被検者S4、S5、S6及びS7は、圧迫潰瘍創傷を有した。
【0159】
【表5】

【0160】
表2は、10人の慢性創傷被検者の群において同定された生物学的な経路とネットワークとを示す。個々のタンパク質を同定することに加えて、それらタンパク質は、これらのタンパク質が含まれるインターロイキン−4シグナル経路と関連付けることによって同定された。このことは、2007年5月〜6月に、Ingenuity Systems社(Mountain View,CA)(Ingenuity Systems,www.ingenuity.com)から、入手可能なインジェニュイティパースウェイズ(Ingenuity Pathways)と称される市販のソフトウェアを用いることによって行われた。一連の試料において同定されたタンパク質は、このソフトウェアにアップロードされ、これによって、これらのタンパク質と既知の代謝経路及びシグナル経路との関係が示された。図2に示される合成図は、調査された群のいずれかの所与の被検者に見出だされた、IL−4経路からの強調された全てのタンパク質で表示する。
【0161】
下記の表6は、10人の慢性創傷被検者において同定されたインターロイキン−4シグナル経路に関与するタンパク質の詳細なリストを提供し、かつどのタンパク質がどの被検者に見出だされたかを強調している。各々の被検者に見出だされたタンパク質は、「X」で印が付けられている。
【0162】
【表6】

【0163】
下記の表7は、認識可能なより多くの名称と、図2と表6の欄1とにおいて示されるインターロイキン−4シグナル経路において用いられた遺伝子記号の説明とを示す。
【0164】
【表7】

【0165】
【表8】

【0166】
【表9】

【0167】
本明細書で引用される特許、特許文献、及び刊行物の完全な開示は、それぞれが個々に組み込まれているかのように、言及されることによってそっくりそのまま組み込まれる。本発明の様々な変更及び改変は、本発明の範囲及び趣旨を逸脱することなく、当業者には明らかにとなるであろう。本発明は、本明細書に開示される例示的実施態様によって不当に制限されるようには意図されていないこと、及びそのような実施態様は、ほんの一例としてのみ示されており、本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ制限されるように意図されていることを理解すべきである。
【配列表フリーテキスト】
【0168】
(配列番号1〜12)臨床分離株ペプチド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷からの流体を解析する方法であって、前記方法が、
被検者の創傷から流体試料を獲得する工程と、
試料の特異的酵素消化を行って、消化済み試料の中にペプチドを生じさせる工程と、
質量分析法を用いて、前記消化済み試料のスペクトルを獲得する工程と、
前記スペクトルの少なくとも一部分を前記被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、
前記同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、質量分析法を用いて、前記消化済み試料のスペクトルを獲得する工程が、前記消化済み試料の質量分析スペクトルを獲得する工程を含み、
前記スペクトルの少なくとも一部分を前記被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程が、質量分析スペクトルの少なくとも一部分を前記被検者の種の1つ以上のペプチド質量フィンガープリントデータベースと比較する工程を含み、
前記同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程が、同一の質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のペプチド質量フィンガープリントデータベースと比較する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
質量分析法を用いて、前記消化済み試料のスペクトルを獲得する工程が、前記消化済み試料の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルを獲得する工程を含み、
前記スペクトルの少なくとも一部分を前記被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程が、前記1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を前記被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含み、
前記同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程が、前記同一の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記創傷流体試料の1種類以上のペプチド及び/又はタンパク質を同定する工程を更に含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
創傷流体のタンパク質及び/又はペプチドのライブラリーを作る方法であって、前記方法が、
同一種の複数の被検者から複数個の創傷流体試料を獲得する工程と、
前記被検者の、関連する臨床的パラメータを収集する工程と、
前記試料の特異的酵素消化を行って、消化済み試料の中にペプチドを生じさせる工程と、
マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法を用いて、各々の消化済み試料のスペクトルを獲得する工程と、
各々のスペクトルの少なくとも一部分を前記被検者の種のタンパク質の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、
任意的に、前記同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物のタンパク質の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、
各々の創傷試料中のペプチド及び/又はタンパク質を同定して、プロテオミクスプロファイルを作る工程と、
前記ペプチド及び/又はタンパク質、並びに前記臨床的パラメータを解析して、前記プロテオミクスプロファイルを前記臨床的パラメータと関連付けて、前記ライブラリーを作る工程と、を含む、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、
質量分析法を用いて、各々の消化済み試料のスペクトルを獲得する工程が、各々の消化済み試料の質量分析スペクトルを獲得する工程を含み、
各々のスペクトルの少なくとも一部分を前記被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程が、各々の質量分析スペクトルの少なくとも一部分を前記被検者の種の1つ以上のペプチド質量フィンガープリントデータベースと比較する工程を含み、
任意的に、前記同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程が、任意的に、同一の質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のペプチド質量フィンガープリントデータベースと比較する工程を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記同一の質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のペプチド質量フィンガープリントデータベースと比較する工程を更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項5に記載の方法であって、
質量分析法を用いて、各々の消化済み試料のスペクトルを獲得する工程が、前記消化済み試料の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルを獲得する工程を含み、
各々のスペクトルの少なくとも一部分を前記被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程が、1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を前記被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含み、
任意的に、前記同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程が、任意的に、前記同一の1つ以上の質量分析/質量分析スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースの中の1つ以上の質量分析/質量分析イオン検索クエリーと比較する工程を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
創傷試料を解析する方法であって、前記方法が、
被検者の創傷から試料を獲得する工程と、
前記創傷試料の特異的酵素消化を行って、消化済み試料の中にペプチドを生じさせる工程と、
質量分析法を用いて、前記消化済み試料の液体部分のスペクトルを獲得する工程と、
前記スペクトルの少なくとも一部分を前記被検者の種の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、
前記同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、を含む、方法。
【請求項10】
創傷試料のタンパク質及び/又はペプチドのライブラリーを作る方法であって、前記方法が、
同一種の複数の被検者から複数個の創傷試料を獲得する工程と、
前記被検者の、関連する臨床的パラメータを収集する工程と、
前記創傷試料の特異的酵素消化を行って、消化済み試料の中にペプチドを生じさせる工程と、
マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法を用いて、各々の消化済み試料の液体部分のスペクトルを獲得する工程と、
各々のスペクトルの少なくとも一部分を前記被検者の種のタンパク質の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、
任意的に、前記同一スペクトルの少なくとも一部分を1種類以上の微生物のタンパク質の1つ以上のタンパク質同定データベースと比較する工程と、
各々の創傷試料中のペプチド及び/又はタンパク質を同定して、プロテオミクスプロファイルを作る工程と、
前記ペプチド及び/又はタンパク質、並びに前記臨床的パラメータを解析して、前記プロテオミクスプロファイルを前記臨床的パラメータと関連付けて、前記ライブラリーを作る工程と、を含む、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2011−506971(P2011−506971A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538118(P2010−538118)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/086204
【国際公開番号】WO2009/076425
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】