説明

力伝達機構

【課題】従来の力伝達装置は、力伝達の為には所定形状の走行軌道を設けており、あらかじめ定められた方向にしか力伝達できない。力の伝達方向を柔軟に変えることができ、小型で簡易な力伝達機構を提供する。
【解決手段】外力により変形可能な筒状収納部1と、収納部内に並べられた複数の力伝達媒体2と、該収納部の一端側11に位置する、力伝達媒体2と接触可能な一方の棒状体4と、該収納部の他端側12に位置する、力伝達媒体2と接触可能な他方の棒状体5とを備え、力を一方の前記棒状部4から前記力伝達媒体2を介して他方の棒状部5へ伝達できることを特徴とする力伝達装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力の伝達方向を変えることができる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、力の入力方向と異なる方向の力を出力する目的で、流体(気体や液体)を伝達媒体として利用し、力を伝達する装置がある。このような力伝達装置は、力の方向を柔軟に変えることが可能であるが、媒体が漏れてしまうと、力の伝達効率が悪くなり、流体を使用する場合、環境汚染の虞もある。従って、流体を利用して力を伝達する装置の密封性を確保することが必要となる。
【0003】
この部分の改善の先行技術としては、特開2008−240773号公報、登録実用新案第3012495号公報があり、これは、流体の媒体を利用する場合の上記問題を解決する為に、機械要素のみを利用する構造を用い、運動方向を直線から一定な方向へ変え、ある作業を支援する装置が開示されている。
【0004】
例えば、文献1には、直線運動を曲線運動に変更できる自在走行アクチュエータを開示している。駆動スライダが直線運動を発生するボールねじに直線方向移動自在に取付けられ、駆動スライダの直線運動の力が、伝達部材により、曲線状の軌道レールに沿って移動可能なガイドブロックに伝達される。従って、この自在走行アクチュエータによれば、軌道レールの形状を変更することで、ガイドブロックに搭載した可動体を当該経路に沿って自在に案内することが可能となる。
【0005】
また、文献2には、ワイヤーで連結される複数の球状体を介して、直線方向の打撃力を斜めの方向へ伝達し、ある角度に傾斜した釘を打つことができる角度付き釘打機を開示している。これにより、建築現場等において、手の届かない狭い場所で、従来の真直状の釘打機が使用しにくい場所でも、釘打ち作業が容易に実施できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−240773号公報
【特許文献2】登録実用新案第3012495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この先行技術には、上述した文献1の自在走行アクチュエータは、一定な軌道に沿って走行するものなので、二次元又は三次元空間内の移動が可能であるが、一定な走行軌道に沿ってしか移動できない。また、文献2の角度付き釘打機も、所定形状に屈曲されたケーシングにより、伝達媒体である球状体の移動方向を予め規定するものである。
即ち、これらの装置には、予め定められた方向にしか力伝達を行うことができないという欠点がある。
しかし、工作工具や医療器械分野では、力伝達の方向を自在に変更でき、小型で簡易な力伝達機構における需要があり、このようなニーズに応えることができる装置は、未だ提案されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するために、外力により変形可能な筒状収納部と、収納部内に並べられた複数の力伝達媒体と、該収納部の一端側に位置する力伝達媒体と接触可能な一方の棒状体と、該収納部の他端側に位置する力伝達媒体と接触可能な他方の棒状体とを備え、力を一方の棒状体から他方の棒状体へ伝達できることを特徴とする力伝達装置を提供している。
上記の力伝達装置は、外力を受けると筒状収納部が弾性変形され、一列となる力伝達媒体は収納部の形状変化に応じて、並び形状を柔軟に変えることができる為、押し付け力が力伝達媒体を介して、一端の棒状部から他端の棒状部へ伝達される。従って、力の伝達方向は、筒状収納部に受ける外力の方向によって柔軟に変更することができる。
更に、上述の力伝達装置は、棒状部の移動を精度よく制御する為に、直線運動機構を利用することができる。直線運動機構として、リニアガイドとボールねじの組合せ機構を利用することができる。また、別の例として、直線運動機構は雄ねじを有するねじ部と、外径面に軸方向の溝を有し、かつ内径面に雌ネジを有し雄ねじと螺合可能なナット部と、ナット部の溝と対応する溝を有するナット案内部と、ナット溝とナット案内部の溝に形成される空間の中に軸方向移動可能な転動体と、を備え、ナットが一方の棒状体と一体化され若しくは連結される構成にしてもよい。
また、筒状収納部の他端と他方の棒状体との間には、他方の棒状体を力伝達媒体の方向へ付勢するための弾性部材を配置してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、筒状収納部が外力により弾性変形できるので、一方の棒状体に与える押し付け力は、固体の力伝達媒体を介して、他方の棒状体へ伝達され、押し付け力の方向は筒状収納部に作用する外力の方向の変化に応じて変更することができる。
従って、本発明の力伝達装置は、外力の方向に応じて、柔軟に力伝達の方向を変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態の力伝達装置の断面図である。
【図2】図1に示す力伝達装置が外力を受けない場合の力伝達動作を示す説明図である。
【図3】図1に示す力伝達装置が外力を受ける場合の力伝達動作を示す説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の力伝達装置の変形例を示す断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態の力伝達装置に設ける直線運動機構の断面図である。
【図6】図5に示す力伝達装置の動作を示す説明図である。
【図7】図5に示す力伝達装置のA−A’断面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態の力伝達装置の変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施形態]
第1の実施形態に係る力伝達装置は、図1に示すように、ゴム製円筒状の収納部1と、金属製または樹脂製の球体2(球状体)、コイルばね3(弾性部材)、金属製または樹脂製の押し子4(一方の棒状体)と押し子5(他方の棒状体)から構成されている。
【0012】
円筒状収納部1は、図3に示すように、外力Fにより弾性変形でき、外力Fの方向に応じて曲げることができる。
筒状収納部1の内部において、一列となる複数の球体2、及び一個のコイルばね3が収められている。球体2は力を伝達する為の媒体として用いられる。球体2は円柱体や長方体等の立体形状と比べて、収納部1の内壁との接触面積が小さく、媒体同士の接触面積も小さい。これによって、円筒状収納部1が外力を受け弾性変形された場合でも、球体列の並び形状が収納部1の形状に合わせて柔軟に変化することができる。さらに、球体2と収納部1の内壁との接触面積が小さい為、球体2と内壁との摩擦損失による力伝達の効率の低下を抑制できる。
円筒状収納部1の一端11には孔61、他端12には孔62が形成され、押し子4,5は、孔61,62を通して収納部1の内部と外部を貫通するように組み立てられている。押し子4,5は、棒の形状を有し、孔61,62から脱落することを防止する為のフランジ部41,51を備えている。押し子4のフランジ部41が円筒状収納部1の一端側に位置する球体2と接触可能とされ、押し子5のフランジ部51が円筒状収納部1の他端側に位置する球体2と接触可能とされている。
【0013】
次に、本実施形態の力伝達装置の作動について、図2、3を参照しながら説明する。
収納部1が外力を受けていない状態の力伝達については、図2(a),図2(b)に示している。押し付け力Pを押し子4に与えると、力が球体列の一端から、球体列の他端と接触する押し子5に伝達される。この際に、円筒状収納部1に対して、押し子5が軸方向に沿って前方(図2中の上方)へ移動される。押し付け力Pがなくなると、圧縮されていたコイルばね3の復元力により、押し子5が軸方向に沿って後方へ移動され、押し子4が元の位置へ戻る。
【0014】
収納部1が外力Fを受ける状態の力伝達については、図3(a),図3(b)に示している。外力Fを受けると、収納部1がたわみ、収納部1内の球体列は、収納部1の内部形状の変化に応じて、並び形状が柔軟に変化する。球体同士の接触であればほぼ点接触となるため、たわみが力伝達媒体の形状に左右されず、三次元空間を柔軟に変形できる。逆に二次元平面内の運動に限定したければ、円柱形状にすることが好ましい。
【0015】
なお、図4に示すように、球体2の個数と収納部1の長さは変更することができる。但し、収納部1の内部には、球体2が軸方向に移動可能な空間を設ける必要がある。また、収納部1に対して、押し子4、球体2及び押し子5が前方へ相対移動した後、元の位置へ戻る為に、コイルばね3を押し子5のフランジ51と収納部1の他端との間に配置する。コイルばね3のほかには、ゴムのような弾性材料を利用してもよい。好ましくは、一列となった球体2が、緊密に並ばれ、コイルばね3を介して、つねに入力押し子4と出力押し子5に当接する状態を保持する。この場合、コイルばね3は、自然長の状態又は少し縮められたような状態にしておくのが好ましい。これにより、コイルばね3の復元力を発生する為の所定の移動ストロークを確保することができる。
本実施形態の力伝達装置は、収納部1に与える外力の方向変化に応じて、力伝達の方向を柔軟に変更できる。
【0016】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係る力伝達装置を、図5〜7を参照しながら説明する。また、本実施形態の力伝達装置は、後述の直線運動機構7を備えること以外、第1の実施形態の力伝達装置の構成と同様なので、同様な構成については、同じ符号を付与し、説明を省略する。
【0017】
モータ8を駆動源とし、モータ8からの動力は、直線運動機構7を介して押し子4に伝達される。図7は、直線運動機構7の図5A−A’断面構造を示している。棒ねじ71は、外周に雄ねじが形成され、ナット72と螺合する。ナット72は、押し子4と連結又は一体化されている。ナット72の内径には雌ねじが形成され、その外径には軸方向溝91を有し、三条の溝91が周方向等間隔に設けられている。管状のナット案内部74は、ナット72の外径面の外側に配置され、ナット72の溝91に対応する溝92が形成されている。溝91と溝92の間には、一つ以上のボール73(転動体)が溝91と溝92に形成される空間に沿って軸方向に移動可能に配置される。これにより、ナット72は、軸方向にのみ移動自在となる。
【0018】
次に、モータ8を回転させた時、直線運動機構7の作動について説明する。モータ8の駆動により、棒ねじ71が回転され、駆動力は、棒ねじ71を介して、棒ねじ71と螺合するナット72に伝達される。ナット72に受けられた合力が回転方向の分力と軸方向の分力に分解されると、回転方向の分力は、ナット72の外径面に係合するボール73の抵抗力と相殺される為、ナット72は回転しない。一方、軸方向の分力は、ナット72を軸方向移動させる為、ナット72がその外径面溝91内のボール73を介して、押し子4に軸方向の力を与える。これにより、押し子4は、前述の第1の実施形態と同様に、球体2に押し付け力を与え、球体列が押し子5に力を伝達することで、力伝達装置の働きを果す。
【0019】
本実施形態の力伝達装置は、直線運動機構7を備えるので、直線上の進む距離を精確に制御することができる。更に、モータ8の駆動により、直線運動の速度を制御することができる。また、直線運動機構7は、リニアガイドとボールねじの組合せ機構と比べて、位置制御の精度を同程度とすることができるほか、装置の幅寸法を容易に小さく設計できるので、力伝達装置の小型化を図ることができる。
【0020】
[変形例]
図8には、本実施形態の力伝達装置の変形例を示す。L字型の収納部1に九個の球体2を収納しているほかは、上述の第2実施形態の力伝達装置の構成と同様である。
収納部1を彎曲のL字型にすることで、力の伝達方向は、水平から垂直へ変更することができるので、力伝達装置を水平方向に配置しても、垂直方向の力を発生でき、装置の設置や固定が簡単となる。
本発明の力伝達装置は、上記の本実施形態に限定するものではなく、本発明の技術的思想から、脱逸しない転用・改良された技術内容についても、本発明の権利範囲に属するものである。
【産業上の利用可能性】
【0021】
力伝達機構として利用できる。
【符号の説明】
【0022】
1 筒状収納部
11 筒状収納部の一端
12 筒状収納部の他端
2 球体(力伝達媒体)
3 コイルばね
4,5 押し子(棒状部)
41,51 押し子フランジ部
61,62 孔
7 直線運動機構
71 棒ねじ(雄ねじ)
72 ナット
73 ボール(転動体)
74 ナット案内部
8 モータ
91,92 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力により変形可能な筒状収納部と、
前記収納部内に並べられた複数の力伝達媒体と、
該収納部の一端側に位置する前記力伝達媒体と接触可能な一方の棒状体と、
該収納部の他端側に位置する前記力伝達媒体と接触可能な他方の棒状体とを備え、力を一方の前記棒状体から他方の棒状体へ伝達できることを特徴とする力伝達装置。
【請求項2】
前記力伝達装置は直線運動機構を有し、
該直線運動機構は、雄ねじを有するねじ部と、
外径面に軸方向の溝を有し、かつ内径面に雌ネジを有し前記雄ねじと螺合可能なナット部と、
前記ナット部の溝と対応する溝を有するナット案内部と、
前記ナット部の溝と前記ナット案内部の溝に形成される空間の中に軸方向移動可能な転動体とを備え、
前記ナット部は一方の前記棒状体と一体化され若しくは連結されることを特徴とする請求項1に記載の力伝達装置。
【請求項3】
前記筒状収納部の他端と他方の棒状体との間には、他方の棒状体を前記力伝達媒体の方向へ付勢するための弾性部材を有することを特徴とする請求項1又請求項2に記載の力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−13113(P2012−13113A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148431(P2010−148431)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】