力触覚提示装置
【課題】オペレータの指先に対して力覚を提示するとともに、複数の指駆動により物体を把持した感覚や把持した物体の形状提示も行なう。
【解決手段】力覚提示装置は、基本的に、3自由度の位置提示用アームと、3自由度のジンバル機構と、1自由度の接触点提示用アームと、1自由度以上の指先部機構部指示保持から構成される、4つの能動自由度と3つの受動自由度を備えた構造体を1指向けの1ユニットとする。各指用のユニットを組み合わせて多指型の力覚提示装置を構成し、適切なオペレータに対して適切な力覚、接触覚の提示を通じて操作感を高め、操作上の違和感によるオペレータの疲労を低減する。
【解決手段】力覚提示装置は、基本的に、3自由度の位置提示用アームと、3自由度のジンバル機構と、1自由度の接触点提示用アームと、1自由度以上の指先部機構部指示保持から構成される、4つの能動自由度と3つの受動自由度を備えた構造体を1指向けの1ユニットとする。各指用のユニットを組み合わせて多指型の力覚提示装置を構成し、適切なオペレータに対して適切な力覚、接触覚の提示を通じて操作感を高め、操作上の違和感によるオペレータの疲労を低減する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理環境を精緻に演算したシミュレーション空間、物理環境を擬似的又は簡易的に演算したシミュレーション空間、あるいはマスタとスレーブの関係にある実物理空間において、オペレータに対して力覚若しくは触覚の提示を行なうための力触覚提示装置に係り、特に、オペレータの指先に対して把持感覚の提示を行なう力触覚提示装置に関する。
【0002】
さらに詳しくは、本発明は、オペレータの指先に対して力覚を提示するとともに、複数の指駆動により形状提示も行なう力触覚提示装置に係り、特に、固定された接触点に対する力覚若しくは触覚の提示を行なうだけでなく、接触状態を反映した、接触点の位置をも提示する力触覚提示装置に関する。
【背景技術】
【0003】
仮想現実(バーチャルリアリティ)や遠隔現実(テレリアリティ)といった技術分野では、視覚情報や聴覚情報に加えて操作者に力覚や触覚を提示するための力覚ディスプレイすなわち「ハプティクス・デバイス」が必須である。
【0004】
近年の計算機速度の向上とシミュレーション技術の進展により、複数の物体が共存し、それらの間で衝突や接触といった物理的相互作用が生じるという仮想環境を、実時間でシミュレートすることが可能となってきた。このように、物体間の衝突やそのときの接触力を、力学を考慮して精密且つ実時間で算出できるようになると、算出された力を実際にモータなどのアクチュエータで発生することで、ハプティクス・デバイスを介して仮想環境の物体に触れたり把持したりした際の感覚をリアルにユーザに提示することが可能となる。
【0005】
ハプティクス・デバイスのアプリケーションは幅広く、物理環境を精緻に演算したシミュレーション空間、物理環境を擬似的又は簡易的に演算したシミュレーション空間、あるいはマスタとスレーブの関係にある実物理空間において、オペレータに対して力覚若しくは触覚の提示を行なうために利用される。具体的には、医療やその他の特殊技能の習得、小宇宙や海洋などの仮想環境や、原子炉などの特殊若しくは危険な環境での遠隔作業などにおいて、実際に触手できない環境の物体への3次元の力覚若しくは触覚を提示することができる。実時間処理可能な仮想空間の規模や精度に伴い、将来的には力覚ディスプレイの需要拡大が見込まれる。
【0006】
例えば、図18に示すようなシリアル・リンクを用いたペン型のハプティクス・デバイスが一般的である。ユーザはペン型の先端部を把持し、ここに3軸力乃至6軸力のモーメントの提示が行なわれる(例えば、特許文献1、非特許文献1を参照のこと)。図示のハプティクス・デバイスは、オペレータがちょうどペン(若しくはプローブ)を持ったような操作系を有し、ペン先などの特定の部位に対して任意の空間位置とモーメントを提示するように3自由度アームと3自由度ジンバルが接続されている構造となっている。この種の装置によれば、原理的には、任意の場所に並進力とモーメントを発生させることが可能であるが、プロービングによる操作系が基調であるため、得られる感覚がペンで突付いたようなものであり、物を把持する感覚を与えることはできない。
【0007】
あるいは、シリアル・リンクの剛性不足を解消する構造として、図19に示すように、パラレル・リンク構造を用いて3軸力乃至6軸力モーメントの提示を行なうハプティクス・デバイスも提案されている(例えば、特許文献2、非特許文献2、非特許文献3を参照のこと)。
【0008】
これらのリンク機構を用いたハプティクス・デバイスはいずれも、把持位置の1点のみに対して力覚提示を行なうもので、言い換えれば、操作者の各指への独立な力覚提示を行なうものではない。このため、指で仮想物体を把持した感覚を提示することができない、という問題がある。
【0009】
ハプティクス・デバイスの機能として、力そのものを提示する力覚、接触状態を提示する接触覚が挙げられる。勿論、人間が通常行なう動触覚も含まれる。これらを実現するには、ハプティクスで必要な力制御能力のみならず、対象物体の形状を反映する位置提示性能の他、動触覚の実現には優れた応答性、つまり速度及び加速度制御性能が求められる。ペン(プローブ)型で力覚を鋭くしたりする方法もある。しかしながら、対象物の形状を知るには、多指で物体を把持する場合のように、複数の接触点がある方がより自然であると思料される。
【0010】
例えば、多指型のハプティクス・デバイスは、複数指の駆動によって、対象物の形状を提示できるという利点がある。ロボット・ハンドなどのスレーブ・ハンドを遠隔操作するマスタ・ハンドに適用することにより、マスタハンド(操作手段)の動きがスレーブハンド(作業手段)に伝えられ、且つ、スレーブ・ハンドの力覚がマスタ・ハンドに呈示される機能を有する。すなわち、マスタ側の操作者は、作業対象に対して直接的に作業をしているような感覚を得ることができる。すなわち、多指型のハプティクス・デバイスによれば、オペレータの指先に対して力覚を提示するとともに、複数の指駆動により形状提示も行なうことができる。
【0011】
多指への力提示を行なうべく、図20に示すように、指と遠隔のモータ間とをワイヤで接続し、ワイヤを介して各々の指に力を印加するハプティクス・デバイスが提案されている(例えば、非特許文献4を参照のこと)。しかしながら、このような装置構成では、常時ワイヤが弛まないよう制御する必要があり、制御が煩雑になる傾向がある。また、ワイヤ間の干渉が発生し易く、特に回転に関する可動範囲はあまり広くない。
【0012】
また、図21に示すような、対向型マニピュレータにハンド型力提示機構を付加するハプティクス・デバイスも提案されている(例えば、非特許文献5を参照のこと)。あるいは、これに類似した方法として、エグゾスケルトン先端にハンド型力提示機構を付加する方法も提案されている(例えば、非特許文献6を参照のこと)。
【0013】
また、上記シリアル・リンク先端に指サックを取り付け、指への3軸力提示を行なう方式も提案されている。
【0014】
例えば、人間の指を挿入する指サック、物体に触れる指カバー、及び上記指サックと上記指カバーの間にある歪みゲージの貼られた弾性構造体からなる6軸力覚センサを、小型マニピュレータを介してベースに連結して構成される力覚呈示装置について提案がなされている(例えば、特許文献3を参照のこと)。この力覚呈示装置によれば、人間の指先に力覚を呈示するとともに、人間が実際に物に触れたときの力覚データを記録・再生することができる。
【0015】
また、ユーザ(使用者)の手(指)に装着され、装着された手や各指に対して触覚(触った感覚、例えば、質感、形状、強さ等の接触強度の分布)や力覚(触ったときに加わる力の感覚)を与える一対のリアルグローブを備えた触覚・力覚提示システムについて提案がなされており(例えば、特許文献4を参照のこと)、ユーザの各指の第1関節(末節骨と中節骨との間の関節)から先の指先部分を覆う位置に触覚発生部がそれぞれ設けられている。
【0016】
また、複数の骨材を連結部で可動自在に連結するとともに、連結部をまたがり複数の骨材間に固定された弾性膨張収縮体を備え、骨材に連結されるとともに、少なくとも指又は手のひら又は手の甲を含む手の一部に係合される指サック又はグローブをさらに備え、弾性膨張収縮体を膨張又は収縮させることにより手の一部に疑似的な力を与える力覚ディスプレイ・ハンドについて提案がなされている(例えば、特許文献5を参照のこと)。
【0017】
しかしながら、上述した多指型のハプティクス・デバイスに関する従来技術はいずれも、指先に並進力しか提示できず、各指先のどこで接触しているのか、すなわち作用点を提示することはできない。このため、複数の指先に把持感覚を良好に提示するものとは言い難い。
【0018】
人間の指において物体を直接接触していることが、より接触覚を得る上で重要である。このような観点から、指先に球状の突起を当てて、その位置を変化させることにより操作者が接触点情報を獲得できる力触覚提示装置について提案がなされている(例えば、非特許文献7、非特許文献8を参照のこと)。この装置は、オペレータの指先に直接接触するローラを転がして接触点の位置を明確に提示するように構成されており、オペレータはより敏感に接触覚をえることができる。しかしながら、接触点提示ローラは常に指に接触しているため、提示力がゼロの状態であってもこのローラが動くことによって、不必要な接触情報がオペレータに伝わってしまう。しかも、直接触れていることによりさらに敏感に知覚してしまうため、違和感は一層大きく感じられると思料される。
【0019】
最も精緻な力覚と接触覚を提示するには、3つの並進自由度と、3つの回転自由度とも提示する必要があるが、すべての軸にアクチュエータを配置すると、設計上、力触覚提示装置は機構的に大掛かりになりがちであり、その結果、指先付近の自由度が懸念される。
【0020】
このとき、重力補償の他、慣性力の補償にもアクチュエータのトルクを使ってしまうと、実質的に提示できる力が小さくなり、あるいは過渡特性が悪くなる可能性も多大にある。
【0021】
また、多指型のハプティクス・デバイスにおいて、回転中心(接触点)が常に固定されている機構を用いると、把持対象物に対して各指の姿勢が変わる。すなわち、接触点が変化したであろう状態においてもその変化を反映できないので、フィードバックされる力触覚はオペレータにとって違和感に変わる。
【0022】
ペン型若しくはグリップ型のような把持から程遠い操作状態では、接触点の変化が適切に反映されないことに伴う違和感はさほど問題にはなりにくいと思われる。しかしながら、多指を用いてより精緻に力覚と接触覚提示しようとすると、むしろこの問題は大きくなる傾向とも言える。
【0023】
【特許文献1】特表2007−510232号公報
【特許文献2】特許第3329443号公報
【特許文献3】特開2002−182817号公報
【特許文献4】特開2003−323247号公報
【特許文献5】特開2004−29999号公報
【非特許文献1】http://www.sensable.com/haptic−phantom−desktop.htm(平成19年10月9日現在)
【非特許文献2】http://forcedimension.com/fd/avs/home/products/(平成19年10月9日現在)
【非特許文献3】http://www.quanser.com/industrial/html/products/fs_5dof.asp(平成19年10月9日現在)
【非特許文献4】http://sklab−www.pi.titech.ac.jp/frame_index−j.html(平成19年10月9日現在)
【非特許文献5】川崎晴久、堀匠、毛利哲也共著「対向型多指ハプティックインターフェース」(日本ロボット学会誌 Vol.23,No.4,pp449−456,2005)
【非特許文献6】http://www.immersion.com/3d/products/cyber_grasp.php(平成19年10月9日現在)
【非特許文献7】http://telerobotics.stanford.edu/publications/Provancher03−ISRR−Perception.pdf(平成19年10月9日現在)
【非特許文献8】http://bdml.stanford.edu/twiki/bin/view/Haptics/ContactLocationDisplay(平成19年10月9日現在)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、物理環境を精緻に演算したシミュレーション空間、物理環境を擬似的又は簡易的に演算したシミュレーション空間、あるいはマスタとスレーブの関係にある実物理空間において、オペレータに対して力覚若しくは触覚の提示を好適に行なうことができる、優れた力触覚提示装置を提供することにある。
【0025】
本発明のさらなる目的は、オペレータの指先に対して力覚を提示するとともに、複数の指駆動により物体を把持した感覚や把持した物体の形状提示も行なうことができる、優れた力触覚提示装置を提供することにある。
【0026】
本発明のさらなる目的は、固定された接触点に対する力覚若しくは触覚の提示を行なうだけでなく、接触状態を反映した、接触点の位置をも提示することができる、優れた力触覚提示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、上記課題を参酌してなされたものであり、オペレータの指先に対して力覚を提示する力触覚提示装置であって、
オペレータの指先を挿入する指サックと、
前記指サックに保持された指先に対して位置を提示する位置提示手段と、
前記指サックに保持された指先に対して指先接触点を提示する指先接触点提示手段と、
前記位置提示手段の先端部分において、不要なモーメントが発生しないように前記指先接触点提示手段を支持する不要モーメント除去手段と、
を具備することを特徴とする力触覚提示装置である。
【0028】
仮想現実や遠隔現実などの技術分野では、視覚情報や聴覚情報に加えて操作者に力覚や触覚を提示するためのハプティクス・デバイスが必須である。例えば、多指型のハプティクス・デバイスは、物体を把持するなど、作業対象に直接的に作業をしているような間隔を操作者に与えることができる。しかしながら、上述した多指型のハプティクス・デバイスに関する従来技術はいずれも、指先に並進力しか提示できず、各指先のどこで接触しているのか、すなわち作用点を提示することはできない。このため、複数の指先に把持感覚を良好に提示するものとは言い難い。
【0029】
また、精緻な力覚と接触覚を提示するには3つの並進自由度と3つの回転自由度とも提示する必要があるが、すべての軸にアクチュエータを配置すると、力触覚提示装置は機構的に大掛かりとなり、指先付近の自由度が懸念される。
【0030】
また、多指型のハプティクス・デバイスにおいて、指先の接触点を常に固定した機構を用いると、把持対象物に対して各指の姿勢が変わる状態であっても、その変化を反映することはできないので、フィードバックされる力触覚はオペレータにとって違和感に変わる。
【0031】
これに対し、本発明に係る力触覚提示装置は、1指向けの1ユニット当たりの能動自由度を削減するとともに、接触点における力覚若しくは触覚を提示する際に指先の接触状態に応じた接触点の位置を提示するものである。
【0032】
本発明に係る力触覚提示装置は、基本的に、3自由度の位置提示用アームと、3自由度のジンバル機構と、1自由度の接触点提示用アームと、1自由度以上の指先部機構部指示保持から構成される、1指向けの1ユニットである。このうち、位置提示用アームの3自由度と、指先部機構部指示保持の1自由度は能動自由度である。すなわち、1指向けとして構成された力触覚提示装置は、4つの能動自由度と3つの受動自由度を備え、ユニット当たりの能動自由度を低減しているので、多指型の力触覚提示装置を設計し易くなる。そして、各指用のユニットを組み合わせることで、多指型の力触覚提示装置を構成し、且つ、適切なオペレータに対して適切な力覚若しくは接触覚の提示を通じて操作感を高め、操作上の違和感によるオペレータの疲労を低減することができる。
【0033】
前記位置提示手段は、基本3自由度駆動系のシリアル・リンク型のアームからなり、前記指先接触点提示手段は、前記指サック上に配設された指先接触点駆動軸と、前記指先接触点駆動軸にて一端が回動可能に支持されている小アームと、前記小アームの他端に設けられた指先接触点を備えている。そして、前記不要モーメント除去手段は、前記位置提示手段を構成する前記アームの先端部分において、前記指先接触点回りに回動可能となる指先接触点提示軸にて前記小アームを支持している。
【0034】
前記指先接触点駆動軸は、アクチュエータによって駆動される能動的な指先接触点提示自由度を持ち、前記指先接触点駆動軸の駆動に伴う指先接触点駆動軸回りの前記小アームの回転動作によって、指先接触点は指の腹表面に沿って移動するようになっている。よって、能動的な指先接触点駆動軸による指先接触点提示自由度を制御することによって、指サック内の指先の腹の接触点位置を決定することができる。これによって、あたかも指先において接触点が変化したような力覚をオペレータに与えることができる。
【0035】
また、前記不要モーメント除去手段は、ヨー、ロール、及びピッチの3軸が互いに直交して1点で交わるとともに該交点が前記指先接触点と一致するように配設された3自由度ジンバルで構成される。そして、3軸のうちいずれか1軸が前記指先接触点提示軸と同軸状となるように組み立てられている。この3自由度ジンバルによれば、指先接触点を中心に指先の姿勢を変化させることができる。したがって、指先の接触点が固定されている場合とは異なり、指サックを介して力覚を与えたときの作用点とのオフセットはなく、不要なモーメントは発生しない。したがって、オペレータに対し操作上の違和感を与えることはないので、オペレータの疲労感を軽減することができる。
【0036】
なお、ジンバルには、軸毎の角度を計測する角度センサが配設されており、指先接触点の姿勢を計測することができるようになっている。
【0037】
既に述べたように、基本3自由度駆動系と、指先接触点駆動軸の4自由度が能動自由度であり、ヨー、ロール(指先接触点提示軸と同軸)、及びピッチからなるジンバルの3自由度は受動自由度である。すなわち、1指向けの1ユニット当たりの能動自由度が省自由度化されるので、機構が簡素化されて装置設計が容易になるとともに、指先付近の重量が軽減される。また、各指用のユニットを組み合わせて多指型の力触覚提示装置を構成した場合には、オペレータ操作の際に隣接する指先間で干渉を起こし難くなり、可動域が拡大する。
【0038】
また、本発明に係る力触覚提示装置は、前記アームの姿勢に拘らず、前記指先接触点提示軸と前記ジンバルのグローバル座標系に対する姿勢を変化させない姿勢保持自由度をさらに備えることができる。
【0039】
姿勢保持自由度を備えていないと、各指用のユニットを組み合わせることで多指型の力触覚提示装置を構成した場合、各指の間を保ったまま操作しようとすると、指先接触点提示軸とジンバルのグローバル座標系に対する姿勢グローバル座標系に対する変化に応じて、ジンバルが相互干渉を起こしてしまう危険がある。これに対し、本発明に係る力触覚提示装置は、姿勢保持自由度を備えているので、同様に各指の間を保ったまま操作したとしても、姿勢保持自由度によってジンバルの根元の姿勢が維持されることから、隣接するユニット間で相互干渉を起こし難くなり、結果として各ユニットの課操作空間を拡大することができる。
【0040】
既に述べたように、前記位置提示手段は、基本3自由度駆動系のシリアル・リンク型のアームからなり、3つの能動自由度を備えている。これらの能動自由度の駆動には間接駆動方式を適用することができる。例えば、シリアル・リンク型アームが一端の根元部において所定のベースに支持される場合、能動自由度を実現するための各アクチュエータをシリアル・リンクの根元部に集中して配置するようにして、自己干渉や駆動部自身の慣性モーメントを抑えることができる。
【0041】
根元部に配置された各アクチュエータで発生する動力を、例えばワイヤ・プーリ方式の動力伝達手段を用いることによって、途中でのロスを少なく、該当する関節へ伝達することができる。このような場合、充分なワイヤの張力を保つために、ワイヤ張力調整手段を備えていることが好ましい。
【0042】
また、動力伝達手段による動力の伝達先となる基本駆動系駆動部すなわち関節においてスパイラル・プーリを用いるようにしてもよい。スパイラル・プーリは、断面がほぼV字形状の溝が螺旋状に形成された機構部品であり、このV字溝に沿ってワイヤを複数回巻設することで、基本駆動系駆動部におけるワイヤの張力を大きくし、バックラッシュをごく小さくし、充分な駆動トルクの伝達を可能にすることができる。また、スパイラル・プーリであれば、省スペースにてワイヤの巻き数を確保することができる。
【0043】
また、位置提示手段は、基本3自由度駆動系の駆動に、複数のアクチュエータで複数の関節を干渉駆動するワイヤ干渉駆動機構を適用してもよい。ワイヤ干渉駆動方式では、各ワイヤの一端は、アームを構成するリンク部材の関節部と一体となったプーリに巻設されるとともに、その他端はアクチュエータの出力軸に固定されている。そして、先端側のリンク部材を駆動するためのワイヤは、より根元側の関節部プーリを介して関節部とアクチュエータの出力軸間を接続する格好となる。
【0044】
ワイヤ干渉駆動方式では、根元側の関節部プーリは、自身のワイヤの他に、より先端側の関節部プーリに接続されるワイヤからの干渉を受ける。すなわち、根元側の関節部プーリは、自身に巻き付いたすべてのワイヤから得られる張力の合計で駆動するので、この結果、根元側のリンク部ではより大きなトルクを得ることができ、より小さなアクチュエータで動作が可能となる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、オペレータの指先に対して力覚を提示するとともに、複数の指駆動により物体を把持した感覚や把持した物体の形状提示も行なうことができる、優れた力触覚提示装置を提供することができる。
【0046】
また、本発明によれば、固定された接触点に対する力覚若しくは触覚の提示を行なうだけでなく、接触状態を反映した、接触点の位置をも提示することができる、優れた力触覚提示装置を提供することができる。
【0047】
本発明によれば、力触覚の提示を行なう対象が仮想的な物理・力学シミュレーション空間又は実空間のいずれであれ、オペレータに対して適切な力覚並びに接触覚を提示することによって、オペレータにとって操作感を高め、対象物に対する危険な接触状態(若しくは把持状態)を避けるとともに、操作上の違和感によるオペレータの疲労を低減することができる。
【0048】
本発明に係る力触覚提示装置は、所定のベース上で支持される基本3自由度駆動系のシリアル・リンク型のアームからなる位置提示手段を備えるが、能動自由度を実現するための各アクチュエータをシリアル・リンクの根元部に集中して配置するようにして、自己干渉や駆動部自身の慣性モーメントを抑えることができる。
【0049】
また、ワイヤ・プーリ方式の動力伝達手段を用いて根元部に配置された各アクチュエータから各関節部へ動力を伝達するが、先端部ではスパイラル・プーリを用いてワイヤを関節部へ固定するとともに、ワイヤ張力調整手段を用いて充分なワイヤの張力を保つようにすることで、バックラッシュをごく小さくし、充分な駆動トルクの伝達を行なうことが可能となる。
【0050】
また、位置提示手段の基本3自由度駆動系の駆動に、ワイヤ干渉駆動機構を適用してもよい。ワイヤ干渉駆動方式によれば、根元側の関節部プーリは、自身に巻き付いたすべてのワイヤから得られる張力の合計で駆動するので、根元側のリンク部ではより大きなトルクを得ることができ、より小さなアクチュエータで動作が可能となる。
【0051】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
【0053】
本発明は、オペレータに対して力覚若しくは触覚の提示を行なう力触覚提示装置に関する。力触覚の提示を行なう対象が仮想的な物理・力学シミュレーション空間又は実空間のいずれであれ、オペレータに対して適切な力覚若しくは接触覚を提示することによって、オペレータにとって操作感を高め、対象物に対する危険な接触状態(若しくは把持状態)を避けるとともに、操作上の違和感によるオペレータの疲労を低減することができる、と本発明者らは考えている。
【0054】
力触覚提示装置の機能として、力そのものを提示する力覚の他に、接触状態を提示する接触覚が挙げられる。勿論、人間が通常行なう動触覚も含まれる。これらを実現するには、ハプティクスで必要な力制御を行なう能力のみならず、対象物体の形状を反映する位置提示性能の他、動触覚の実現には優れた応答性、つまり速度及び加速度制御性能が求められる。ペン(プローブ)型で力覚を鋭くしたりする方法もあるが、対象物の形状を知るには複数の接触点がある方がより自然であると思料される。例えば、多指型のハプティクス・デバイスは、複数指の駆動によって、対象物の形状を提示できるという利点がある。
【0055】
従来の多指型の力触覚提示装置の多くは、指先に並進力しか提示できず、各指先のどこで接触しているのか、すなわち作用点を提示することはできない構造となっており、複数の指先に把持感覚を良好に提示するものとは言い難い。最も精緻な力覚と接触覚を提示するには3つの並進自由度と3つの回転自由度とも提示する必要があるが、能動自由度の増加に伴い装置の機構が肥大化し、隣接する指間の干渉など指先付近の自由度が懸念される。また、指先の接触点を常に固定した機構を用いると、把持対象物に対して各指の姿勢の変化をフィードバックできないので、オペレータに違和感や操作に伴う疲労感を与える。
【0056】
これに対し、本発明に係る力触覚提示装置は、1指向けの1ユニット当たりの能動自由度を削減するとともに、接触点における力覚若しくは触覚を提示する際に指先の接触状態に応じた接触点の位置を提示するものである。
【0057】
本発明に係る力触覚提示装置は、基本的に、3自由度の位置提示用アームと、3自由度のジンバル機構と、1自由度の接触点提示用アームと、1自由度以上の指先部機構部指示保持から構成される、4つの能動自由度と3つの受動自由度を備えた構造体を1指向けの1ユニットとしている。そして、各指用のユニットを組み合わせることで、多指型の力触覚提示装置を構成し、且つ、適切なオペレータに対して適切な力覚、接触覚の提示を通じて操作感を高め、操作上の違和感によるオペレータの疲労を低減することができる。
【0058】
図1には、本発明の一実施形態に係る力触覚提示装置の自由度構成を概念的に示している。但し、同図は、1指向けの1ユニットであり、各指用のユニットを組み合わせることで、多指型の力触覚提示装置を構成することができる。以下の説明では、オペレータの片手当たり、親指と人差し指、中指の3指に対して力覚を提示する例を挙げて説明する。
【0059】
図示のユニット10は、オペレータの指先を挿入して保持する指サック11と、指サック11に保持された指先に対して空間における接触点位置及び力を提示する位置提示手段と、位置提示手段の先端部に取り付けられて、指サック11に保持された指先に対して指先接触点を提示する指先接触点提示手段と、位置提示手段を構成する前記アームの先端部分で、不要なモーメントが発生しないように指先接触点提示手段を支持する不要モーメント除去手段を備えている。
【0060】
位置提示手段は、図示の例では、基本3自由度駆動系12によって動作するシリアル・リンク型のアームからなり、その一端の根元部において所定のベースに支持されるものとする。アームを駆動する各関節自由度はアクチュエータ(図示しない)によって駆動される3つの能動自由度を持つ。但し、本発明の要旨は、シリアル・リンク型の基本3自由度駆動系に限定されるものではなく、等価の自由度を備えた他のリンクなどの機構で代替可能であることを理解されたい。
【0061】
また、指先接触点提示手段は、指サック11上に指先接触点駆動軸13にて一端が回動可能に支持されている小アーム14と、小アーム14の他端に設けられた指先接触点を備えている。指先接触点駆動軸13は指サック11が保持する指先の背に相当する部位に配設されるとともに、指先接触点は同指先の腹に相当する部位に配設され、指先接触点提示軸15は、指先接触点回りの回転自由度を備えている。そして、指先接触点駆動軸13はアクチュエータ(図示しない)によって駆動される能動的な指先接触点提示自由度を持ち、指先接触点駆動軸13の駆動に伴う指先接触点駆動軸回りの小アーム14の回転動作によって、指先接触点は指の腹に当接したままその表面に沿って移動する。これによって、能動的な指先接触点駆動軸13による指先接触点提示自由度を制御することによって、指サック11内の指先の腹の接触点位置を決定することができる。そして、オペレータに対しては、あたかも指先において接触点が変化したような力覚を与えることができる。
【0062】
図2には、指先接触点駆動軸13の駆動に伴う指先接触点駆動軸回りの小アーム14の回転動作によって、指先接触点は指の腹表面に沿って移動する様子を示している。但し、同図では、最も簡潔な円弧近似した駆動系を示している。
【0063】
また、不要モーメント除去手段は、位置提示手段を構成するアームの先端部分において、指先接触点回りに回動可能となるように、指先接触点提示軸15にて小アーム14を支持している。図1に示す例では、不要モーメント除去手段は、3自由度を持つジンバル16からなる。このジンバル16は、ヨー、ロール、及びピッチの3軸が互いに直交して1点で交わる構成の機構であり、この交点が指先接触点と一致するように配設されている。また、ジンバル16の機構先端のロール軸が指先接触点提示軸15と同軸状に組み立てられる。指先接触点を中心に指先の姿勢を変化させることができるので、指先の接触点が固定されている場合とは異なり、指サック11を介して力覚を与えたときの接触点と作用点とのオフセットはなく、不要なモーメントは発生しない。したがって、オペレータに対し操作上の違和感を与えることはないので、オペレータの疲労感を軽減することができる。
【0064】
シリアル・リンク型のアームを駆動する基本3自由度駆動系12と、指先接触点駆動軸13の4自由度が能動自由度であり、ヨー、ロール(指先接触点提示軸15と同軸)、及びピッチからなるジンバルの3自由度は受動自由度である。すなわち、3自由度並進及び3自由度回転ともに力覚提示するために全軸にアクチュエータを搭載する場合(前述)に比べると、1指向けの1ユニット当たりの能動自由度が省自由度化されるので、機構が簡素化されて装置設計が容易になるとともに、指先付近の重量が軽減される。また、各指用のユニットを組み合わせて多指型の力触覚提示装置を構成した場合には、オペレータが操作を行なう際に隣接する指先間で干渉を起こし難くなり、可動域が拡大する。
【0065】
ユニット10は、追加機能として、基本3自由度駆動系12からなるアームの姿勢に拘らず、指先接触点提示軸15とジンバル16のグローバル座標系に対する姿勢を変化させない機構、すなわち姿勢保持自由度を適宜備える必要がある。
【0066】
図3A並びに図3Bには、2指用に2基のユニット10を対向させた場合の動作例を示している。但し、各図では、指先接触点提示軸15とジンバル16の姿勢保持自由度を持たない場合のユニット10の動作例を示している。すなわち、アームが図3Aに示した初期姿勢から他の姿勢に移行したとき、指先接触点提示軸15とジンバル16のグローバル座標系に対する姿勢グローバル座標系に対して変化する。ここで、各指用のユニットを組み合わせることで多指型の力触覚提示装置を構成した場合、各指の間を保ったまま操作しようとすると、図3Bに示すように、ジンバル16が相互干渉を起こしてしまう危険がある。把持対象物体(提示対象物体)が小さい場合、往々にしてこのような問題を起こす可能性があると言える。
【0067】
また、図4A並びに図4Bには、2指用に2基のユニット10を対向させた場合における他の動作例を示している。但し、各図では、指先接触点提示軸15とジンバル16の姿勢保持自由度を持つ場合のユニット10の動作例を示している。図4Aに示すような図3Aとほぼ同一となるアームの初期姿勢から他の姿勢に移行したとき、同様に各指の間を保ったまま操作したとしても、姿勢保持自由度によってジンバルの根元の姿勢が維持されることから、図4Bに示すように隣接するユニット間で相互干渉を起こし難くなり、結果として指毎に配設される各ユニットの可操作空間を拡大することができる。
【0068】
このような姿勢保持自由度は、例えば、基本3自由度駆動系としてのアームを平行リンクと等価的な機構を用いて構成することができる。平行リンクは、等直径のプーリとワイヤを用いて製作することができる。勿論、機構設計の制約などにより、アクチュエータによるサーボによって姿勢保持自由度を実現する方法も考えられる。
【0069】
図5及び図6には、指先保持機構周辺(図1中の、基本3自由度駆動系12の先端に取り付けられる部分に相当)の設計モデルを示している。但し、図5は分解図であり、図6はその組立図である。
【0070】
ジンバル機構は、3つのジンバル・アーム部材で構成され、ヨー、ロール、及びピッチの3軸が互いに直交して1点で交わるように組み立てられる。
【0071】
指サック11は図示を省略しているが、指先保持機構に取り付けられる。そして、指先接触点駆動軸13の駆動に伴う指先接触点駆動軸回りの小アーム14の回転動作によって、指先接触点は指の腹に当接したままその表面に沿って移動するようになっている。なお、各ジンバル・アームには、軸毎の角度を計測する角度センサが配設されており、指先接触点の姿勢を計測することができるようになっている。
【0072】
ジンバル16の機構先端のロール軸は指先接触点提示軸15と同軸状であるから、指先接触点を中心に指先の姿勢を変化させる際に、指先接触点と湯企画を与える作用点とのオフセットはなく、不要なモーメントは発生しない。したがって、オペレータに対し操作上の違和感を与えることはないので、オペレータに対し無用の疲労感を与えなくて済む。
【0073】
参考のため、図5及び図6に示した指先保持機構周辺が動作する様子を図7〜図12に示しておく。
【0074】
図13には、1指向けの1ユニット全体の設計モデルを示している。図示の例では、基本3自由度駆動系はシリアル・アーム型で構成される。
【0075】
各リンクのイナーシャを極力低減するために、能動自由度を実現する各アクチュエータ・モータなどはベース側に配設している。また、バックラッシュを僅少にするためのワイヤ駆動機構を適用している。
【0076】
さらに参考のため、図13に示したユニットが動作する様子を図14〜図17に示しておく。図13に示したユニットは、基本3自由度駆動系としてのアームを平行リンクと等価的な機構を用いて構成することによって姿勢保持自由度を備えている。したがって、図13に示したアームの初期姿勢から、図14〜図17に示したさまざまな姿勢に移行したときに、姿勢保持自由度によってジンバルの根元の姿勢が維持されることを理解されたい。
【0077】
既に述べたように、本実施形態に係る力触覚提示装置は、位置提示手段として、基本3自由度駆動系のシリアル・リンク型のアームを供えている。このシリアル・リンク型アームは、図1に示したように一端の根元部において所定のベースに支持されている。また、シリアル・リンク型アームは、3つの能動自由度を有するが、図13に示すように、能動自由度を実現するための各アクチュエータをシリアル・リンクの根元部に集中して配置するようにして、自己干渉や駆動部自身の慣性モーメントを抑えている。
【0078】
また、本実施形態では、根元部に配置された各アクチュエータで発生する動力を、ワイヤ・プーリ方式の動力伝達手段を用いることによって、途中でのロスを少なく、該当する関節へ伝達するようにしている。
【0079】
このような場合、充分なワイヤの張力を保つために、ワイヤ張力調整手段を備えていることが好ましい。図22には、ワイヤ張力調整手段の構成例を示している。図22Aにおいて、参照番号101が固定部、参照番号102がストッパ、参照番号103がスプリングであり、スプリング103の一端はワイヤ104と結合し、ストッパ102はワイヤ104に固定されている。
【0080】
図22Bには、ワイヤ張力調整手段にスプリング103が取り付けられていない状態を示しているが、この場合のワイヤ104は緩みっぱなしとなる。これに対し、一端が固定部101内の底部に取り付けられたスプリング103の他端にワイヤ104が結合していると、このスプリング103の復元力により、固定部101内に引き込む方向の張力がワイヤ104に加わるので、ワイヤ104が緩むことはない。
【0081】
ここで、ワイヤ104の緩みはなくなるが、スプリング103の影響により、ワイヤ104自体が伸縮してしまうおそれがある(図22C中の矢印)。これに対し、ワイヤ104が緩んだ再にはスプリング103により張力を保つ一方、ストッパ102によりスプリング103自体の伸縮を抑制するようにしている。
【0082】
ワイヤ104が緩んだ際には、ストッパ102が固定部101に対して隙間を発生しているため、オペレータは、ワイヤ104が緩んだことを目視により検知することが可能である。また、図22A中の矢印で示すように、ストッパ102がワイヤ104側に動作するワンウェイ・クラッチ構造を備えるようにすれば、スプリング103自体の伸縮の影響をさらに抑制することができる。
【0083】
また、動力伝達手段による動力の伝達先となる基本駆動系駆動部すなわち関節においてスパイラル・プーリを用いるようにしてもよい。スパイラル・プーリは、断面がほぼV字形状の溝が螺旋状に形成された機構部品であり、ワイヤをある程度V溝にある程度挟み込むようにして複数回巻設することで、基本駆動系駆動部におけるワイヤの張力を大きくし、バックラッシュをごく小さくし、充分な駆動トルクの伝達を可能にすることができる。また、スパイラル・プーリであれば、省スペースにてワイヤの巻き数を確保することができる。図23には、スパイラル・プーリを用いた駆動部の構成例を示している。図示の例では、アイドラ・プーリを適宜配置しているが、アイドラ・プーリは本発明の必須の構成要素ではない。
【0084】
スパイラル・プーリを用いた駆動系によれば、ワイヤに必要な初期張力が加わっていることで、充分な伝達トルクが発生する。逆に、ワイヤの初期張力が不足すると、V溝における摩擦力が極端に低下して、ワイヤとスパイラル・プーリの間で相対運動が発生して、やがてワイヤは螺旋の端部から脱落することになるであろう。このようなワイヤの脱落を防止するには、図22Aに示したようなワイヤ張力調整手段が必須になることを理解されたい。
【0085】
なお、スパイラル・プーリを用いた機構に関しては、例えば、広瀬茂男、内田康之、Richard Chu共著「新しいワイヤ駆動系についての考察」(ロボティクス・メカトロニクス講演会’98講演論文集、1C12−3(1−2)(1998))を参照されたい。
【0086】
また、基本3自由度駆動系の駆動に、複数のアクチュエータで複数の関節を干渉駆動するワイヤ干渉駆動機構を適用してもよい。ワイヤ干渉駆動方式では、各ワイヤの一端は、アームを構成するリンク部材の関節部と一体となったプーリに巻設されるとともに、その他端はアクチュエータの出力軸に固定されている。そして、先端側のリンク部材を駆動するためのワイヤは、より根元側の関節部プーリを介して関節部とアクチュエータの出力軸間を接続する格好となる。
【0087】
図24には、ワイヤ干渉駆動方式による動力伝達手段の構成例を示している。図示の例では、根元関節と中間関節を備えたリンク機構を想定し、各関節駆動用のアクチュエータA及びBは根元部に集中配置されている。根元関節において、リンクAを固定するスパイラル・プーリAには、アクチュエータAの出力軸と結合するワイヤAが巻設されている。また、アクチュエータBの出力軸と結合するワイヤBの他端は、根元関節に配設されたアイドラ・プーリB2を介して、中間関節においてリンクBを固定するスパイラル・プーリB2に巻設されている。
【0088】
中間関節部には、スパイラル・プーリB2に巻設されたワイヤBから張力TB2が加わり、これが先端リンクBを駆動するトルクとなる。一方、根元関節部には、スパイラル・プーリAに巻設されたワイヤAから受ける張力TAの他に、アイドラ・プーリB1に巻設されたワイヤBから請ける張力TB1も加わり、TA+TB1が根元リンクAを駆動するトルクとなる。
【0089】
ワイヤ干渉駆動は、根元側の関節リンクに大きなトクルを与えることができる動力伝達手段である。言い換えれば、駆動部のアクチュエータが出力の小さいものでも充分となり、概してイナーシャの小さい、応答性に優れた駆動系を実現することができる。
【0090】
図1に示した力触覚提示装置のようなハプティック・デバイスを設計する上で、アームの中間関節の駆動に関してはワイヤ干渉駆動方式が有効である、と本発明者らは思料する。何故ならば、中間関節にできる限り重量物であるアクチュエータ・モータを配置しない方が良いからである。
【0091】
なお、干渉駆動方式に関しては、例えば、広瀬茂男、佐藤幹夫共著「多自由度ロボットの干渉駆動」(日本ロボット学会誌、7、2、128−135(1989))、あるいは、広瀬茂男、馬書根共著「ワイヤ干渉駆動型多関節マニピュレータの開発」(計測自動制御学会論文集、26、11、1291−1298(1990))を参照されたい。
【0092】
上述したワイヤ干渉駆動方式を適用した駆動系においては、アームの根元部の各関節駆動用のアクチュエータの配置に応じて、適宜、ワイヤの干渉方法すなわち各々のワイヤの張設方法を変えて運用することが好ましい。以下では、この点について詳解する。
【0093】
ここでは、根元関節部と中間関節部でそれぞれリンクを連結し、当該リンク機構の先端部がオペレータに対して力触覚を提示するエンド・エフェクタになるとともに、各関節部の駆動用アクチュエータが根元部に集中配置されているシリアル・リンク構造のアームを想定する。また、中間関節で連結された2本のリンクはほぼ「く」の字の形状を保ち、アクチュエータの駆動により、根元関節部における「く」の字の床面(若しくは水平方向)に対する姿勢と、中間関節部における「く」の字の挟角が変化する(図25を参照のこと)。
【0094】
かかるシリアル・リンク構造では、エンド・エフェクタにおいて重力支持方向及び水平提示方向の力を印加する必要がある。このような場合、中間関節部においては、先端側のリンクを重力に抗う方向で支持するための中間関節重力支持トルクを発生させる必要がある。また、根元関節部においては、根元側以降のリンクを重力に抗う方向で支持するための根元関節重力支持トルクを発生させる必要がある。
【0095】
ここで、中間関節部において必要となる中間関節重力支持トルクの方向は、基本的には、水平提示方向の力を生成するための中間関節軸回りのトルクが必要である。図26A及び図26B中、並びに図27A及び図27B中で実線矢印にて示すように、水平提示方向が一定であれば、中間関節重力支持トルクの方向も一定である(図示の例では、紙面反時計回り)。
【0096】
他方、根元関節部において必要となる根元関節重力支持トルクの方向は、シリアル・リンク構造アームの姿勢に応じて反転し、アームの重心位置にて発生する重力に抗う力を生成するための根元関節軸回りのトルクが必要であり、具体的には、アームの重心位置に作用する重力が根元関節軸に対し反時計回りのトルクとなる場合には、図26A並びに図27A中で点線矢印にて示すように、根元関節重力支持トルクは時計回りとなる。また、アームの重心位置に作用する重力が根元関節軸に対し時計回りのトルクとなる場合には、図26B並びに図27B中で点線矢印にて示すように、根元関節重力支持トルクは反時計回りとなる。
【0097】
さらに、上述したワイヤ干渉駆動方式を適用する場合には、根元関節部には中間関節重力支持トルクが干渉する。根元関節部で干渉する中間関節重力支持トルクが作用する方向は、根元関節部と中間関節部間での干渉ワイヤの張設方法に応じて相違する。そして、根元関節部で根元関節重力支持トルク作用する方向はアームの姿勢に応じて切り替わることから、根元関節部では、中間関節重力支持トルクと根元関節重力支持トルクは、干渉ワイヤの張設方法とアームの姿勢に応じて、同じ方向又は反対方向のいずれかとなる。
【0098】
ここで言うワイヤの張設方法として、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させずに平行に巻回する張設方法(若しくは、根元関節部と中間関節部間で関節軸の回転方向が正転するような干渉ワイヤの張設方法)と、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させて巻回する干渉ワイヤの張設方法(若しくは、根元関節部と中間関節部間で関節軸の回転方向が反転するような干渉ワイヤの張設方法)の2通りに大別される。
【0099】
まず、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させずに平行に巻回する干渉ワイヤの張設方法(若しくは、根元関節部と中間関節部間で関節軸の回転方向が正転するような干渉ワイヤの張設方法)をしたときについて考察する。
【0100】
アームの重心位置に作用する重力が根元関節軸に対し時計回りのトルクとなる場合には、図26Bに示すように、根元関節部及び中間関節部の各々で作用する中間関節重力支持トルクは同じ方向となる。したがって、根元関節部では干渉作用により中間関節重力支持トルクと根元関節重力支持トルクの合計トルクが加わることから、エンド・エフェクタでは重力支持方向により大きな力を得ることができる。その代わり、引き付ける方向に発生する力は若干弱くなる。
【0101】
他方、アームの重心位置に作用する重力が根元関節軸に対し反時計回りのトルクとなる場合には、図26Aに示すように、根元関節部及び中間関節部の各々で作用する中間関節重力支持トルクは逆向きの方向となる。したがって、根元関節部に加わるトルクは干渉作用により中間関節重力支持トルクと根元関節重力支持トルクの差分となってしまい、得られる重力支持トルクは低下する。但し、図26Aに示した(「く」の字形状のアームが起き上がったような)姿勢状態では、要求トルクも小さいことが想定されるので、運用上は問題にならないものと思料される。
【0102】
続いて、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させて巻回する干渉ワイヤの張設方法(若しくは、根元関節部と中間関節部間で関節軸の回転方向が反転するような干渉ワイヤの張設方法)をしたときについて考察する。
【0103】
アームの重心位置に作用する重力が根元関節軸に対し反時計回りのトルクとなる場合には、図27Aに示すように、根元関節部及び中間関節部の各々で作用する中間関節重力支持トルクは同じ方向となる。したがって、根元関節部では干渉作用により中間関節重力支持トルクと根元関節重力支持トルクの合計トルクが加わることから、エンド・エフェクタでは重力支持方向により大きな力を得ることができる。その代わり、引き付ける方向に発生する力は若干弱くなる。但し、アームが描く「く」の字の挟角がより鋭利な姿勢(すなわち、アームがより屈曲した状態)では、図26Aに示したワイヤを平行に巻回させたワイヤ張設方法と比較すると、駆動トルクの負担が軽減されるので、有効であると言うこともできる。
【0104】
他方、アームの重心位置に作用する重力が根元関節軸に対し時計回りのトルクとなる場合には、図27Bに示すように、根元関節部及び中間関節部の各々で作用する中間関節重力支持トルクは逆向きの方向となる。したがって、根元関節部に加わるトルクは干渉作用により中間関節重力支持トルクと根元関節重力支持トルクの差分となってしまい、得られる重力支持トルクは低下する。アームが描く「く」の字が深く倒れ込むような姿勢状態を利用する場合には、干渉ワイヤの張設方法を含め、運用方法を熟慮する必要がある。
【0105】
このように、シリアル・リンク型のアームにワイヤ干渉駆動方式を適用した場合には、アームの姿勢と干渉ワイヤの張設方法に応じて特性が変わることを理解することができよう。また、多指向けに複数基のユニット10を隣接して運用する場合にも、かかる特性を充分に考慮する必要がある。
【0106】
例えば、2指用に対向する2基のユニット10のアーム根元部の間隔を広くとった場合には(図28Aを参照のこと)、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させずに平行に巻回する干渉ワイヤの張設方法が適していると考えられる。何故ならば、各々のアーム姿勢が伸び気味となり、その重量を支持するのに適したく同系特性が必要となるからである(図28Bを参照のこと)。図28に示した配置の場合、広大な作業領域が得られ、また、アーム根元部の過大なヨー運動が少ないことが利点となる。
【0107】
また、例えば、2指用に対向する2基のユニット10のアーム根元部の間隔を狭くとった場合には(図29Aを参照のこと)、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させて巻回する干渉ワイヤの張設方法が適していると考えられる。何故ならば、図29Bに示すように、各アームが描く「く」の字が深く屈曲した姿勢となり、その分だけ自らの重量を支持し易くなるからである。
【0108】
最後に、本発明に係る力触覚提示装置の主な特徴について説明する。
【0109】
接触点位置の変化を提示可能
本発明に係る力触覚提示装置は各指における接触点の変化をオペレータに提示することができる。例えば、数mm〜20mm程度の物体を把持する場合は「摘む」動作であるため、概して指の先の方で把持する。他方、対象物体の大きさがそれ以上になってくると「掴む」動作になってくるため、指先における接触点は先端部から徐々に指の腹(第一関節寄り)に移動する。
【0110】
従来の力触覚提示装置の多くは指先接触点の位置が固定であるから、対象物体の把持状態の如何に拘らず変化しない指先接触点に対して力覚が提示されてしまうため、オペレータは違和感を覚えることがある。これに対し、本発明に係る力触覚提示装置は、対象物体の接触状態に応じてオペレータが想像でき得る位置に指先接触点を提示することができるので、違和感が少なくなり、且つ、対象物体の特性をより直感的に知覚し易いという効果がある。
【0111】
簡潔な機構による制御性の向上
従来の力触覚提示装置において最も精緻な力覚と接触覚を提示するには、3つの併進自由度と、3つの回転自由度とも提示する必要がある。したがって、一指あたり6軸のアクチュエータを用いる必要があり、設計上の工夫をしても装置は大掛かりになってしまい、重量(慣性モーメント)が増大せざるを得ないという問題がある。
【0112】
これに対し、本発明に係る力触覚提示装置は、能動自由度を省自由度化した簡潔な機構で実現することができる。よって、要求されるアクチュエータの出力を抑えることができるとともに、過渡特性も向上による制御性の改善が期待することができる。
【0113】
広範な可動範囲(作業領域)確保による多彩の把持対象
本発明に係る力触覚提示装置は、簡潔な機構が可能であり、且つ、指先の姿勢の保持を行なうことによって、さらに広大な作業空間を実現することが可能となる。これにより、各指の姿勢の選択性が向上し、さまざま物体を把持対象とすることができる。この結果、本発明に係る力触覚提示装置は、さまざまな産業分野や技術分野において幅広く適用することができる。
【0114】
擬似的に接触点回りのトルクを知覚可能
オペレータが接触点回りにおけるトルクを知覚する際、指毎に捻られたりする場合を除くと、指先の接触面における力分布に基づいてその回転中心を割り出していると推測される。そこで、本発明に係る力触覚提示装置は、指サック状の指先保持具を用いているので、実は回転中心だけを的確に提示できればよく、接触点位置を提示することによって、オペレータはそのトルクをあたかも知覚できていると感じ、且つ、違和感はない。
【0115】
対象物体形状の理解
オペレータが対象物体に接触する際、制御側による初期接触点位置予測を行なうことによって接触した瞬間の感触が的確になる。例えば、対象物体が多面体あったときなど、物体の各々の構成面を知覚し易くなり、そのため、把持した際に対象物体の形状を直感的に把握し易くなる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0117】
本発明に係る力触覚提示装置は、医療やその他の特殊技能の習得、小宇宙や海洋などの仮想環境や、原子炉などの特殊若しくは危険な環境での遠隔作業などを始めとしたさまざまなアプリケーションにおいて、実際に触手できない環境の物体への3次元の力覚や触覚をユーザにフィードバックするために適用することができる。
【0118】
また、本発明に係る力触覚提示装置は、複数の指に対し力覚を提示するが、操作内容若しくはアプリケーションに応じて提示する指の本数を適宜選択することができる。把持対象が小さい場合(摘むような動作)は、機構自体を小さくするほうが適しており、2乃至3指にて力覚を提示することができる。他方、把持対象がもう少し大きい場合(掴むような動作)は、3指以上のさらに多くの指を用いて力覚を提示する方が、物体の形状・大きさなどをより的確に提示することができる。
【0119】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る力触覚提示装置の自由度構成を概念的に示した図である。
【図2】図2は、指先接触点駆動軸13の駆動に伴う指先接触点駆動軸回りの小アーム14の回転動作によって、指先接触点は指の腹表面に沿って移動する様子を示した図である。
【図3A】図3Aは、指先接触点提示軸15とジンバル16の姿勢保持自由度を持たない場合のユニット10の動作例を示した図である。
【図3B】図3Bは、指先接触点提示軸15とジンバル16の姿勢保持自由度を持たない場合のユニット10の動作例を示した図である。
【図4A】図4Aは、指先接触点提示軸15とジンバル16の姿勢保持自由度を持つ場合のユニット10の動作例を示した図である。
【図4B】図4Bは、指先接触点提示軸15とジンバル16の姿勢保持自由度を持つ場合のユニット10の動作例を示した図である。
【図5】図5は、指先保持機構周辺(図1中の、基本3自由度駆動系12の先端に取り付けられる部分に相当)の設計モデルを示した図である。
【図6】図6は、指先保持機構周辺(図1中の、基本3自由度駆動系12の先端に取り付けられる部分に相当)の設計モデルを示した図である。
【図7】図7は、図5及び図6に示した指先保持機構周辺が動作する様子を示した図である。
【図8】図8は、図5及び図6に示した指先保持機構周辺が動作する様子を示した図である。
【図9】図9は、図5及び図6に示した指先保持機構周辺が動作する様子を示した図である。
【図10】図10は、図5及び図6に示した指先保持機構周辺が動作する様子を示した図である。
【図11】図11は、図5及び図6に示した指先保持機構周辺が動作する様子を示した図である。
【図12】図12は、図5及び図6に示した指先保持機構周辺が動作する様子を示した図である。
【図13】図13は、1指向けの1ユニット全体の設計モデルを示した図である。
【図14】図14は、図13に示したユニットが動作する様子を示した図である。
【図15】図15は、図13に示したユニットが動作する様子を示した図である。
【図16】図16は、図13に示したユニットが動作する様子を示した図である。
【図17】図17は、図13に示したユニットが動作する様子を示した図である。
【図18】図18は、シリアル・リンクを用いたペン型のハプティクス・デバイスの構成例を示した図である。
【図19】図19は、パラレル・リンク構造を用いて3軸力乃至6軸力モーメントの提示を行なうハプティクス・デバイスの構成例を示した図である。
【図20】図20は、指と遠隔のモータ間をワイヤで接続し、ワイヤを介して力を印加するハプティクス・デバイスの構成例を示した図である。
【図21】図21は、対向型マニピュレータにハンド型力提示機構を付加するハプティクス・デバイスの構成例を示した図である。
【図22A】図22Aは、ワイヤ張力調整手段の構成例を示した図である。
【図22B】図22Bは、ワイヤ張力調整手段の構成例を示した図である。
【図22C】図22Cは、ワイヤ張力調整手段の構成例を示した図である。
【図23】図23は、スパイラル・プーリを用いた駆動部の構成例を示した図である。
【図24】図24は、ワイヤ干渉駆動方式による動力伝達手段の構成例を示した図である。
【図25】図25は、根元関節部と中間関節部でそれぞれリンクを連結したシリアル・リンク構造のアームが動作する様子(姿勢の変化)を示した図である。
【図26A】図26Aは、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させずに平行に巻回する干渉ワイヤの張設方法をとった場合の、リンクが「く」の字をなすシリアル・リンク構造のアームの姿勢に応じて根元関節部及び中間関節部に加わるトルクの方向を示した図である。
【図26B】図26Bは、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させずに平行に巻回する干渉ワイヤの張設方法をとった場合の、リンクが「く」の字をなすシリアル・リンク構造のアームの姿勢に応じて根元関節部及び中間関節部に加わるトルクの方向を示した図である。
【図27A】図27Aは、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させて巻回する干渉ワイヤの張設方法をとった場合の、リンクが「く」の字をなすシリアル・リンク構造のアームの姿勢に応じて根元関節部及び中間関節部に加わるトルクの方向を示した図である。
【図27B】図267は、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させて巻回する干渉ワイヤの張設方法をとった場合の、リンクが「く」の字をなすシリアル・リンク構造のアームの姿勢に応じて根元関節部及び中間関節部に加わるトルクの方向を示した図である。
【図28A】図28Aは、2指用に対向する2基のユニット10のアーム根元部の間隔を広くとった様子を示した図である。
【図28B】図28Bは、2指用に対向する2基のユニット10のアーム根元部の間隔を広くとった場合には根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させずに平行に巻回する干渉ワイヤの張設方法が適していることを説明するための図である。
【図29A】図29Aは、2指用に対向する2基のユニット10のアーム根元部の間隔を狭くとった様子を示した図である。
【図29B】図29Bは、2指用に対向する2基のユニット10のアーム根元部の間隔を狭くとった場合には根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させて巻回する干渉ワイヤの張設方法が適していることを説明するための図である。
【符号の説明】
【0121】
10…ユニット
11…指サック
12…基本2自由度駆動系
13…指先接触点駆動軸
14…小アーム
15…指先接触点提示軸
16…ジンバル
101…固定部
102…ストッパ
103…スプリング
104…ワイヤ
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理環境を精緻に演算したシミュレーション空間、物理環境を擬似的又は簡易的に演算したシミュレーション空間、あるいはマスタとスレーブの関係にある実物理空間において、オペレータに対して力覚若しくは触覚の提示を行なうための力触覚提示装置に係り、特に、オペレータの指先に対して把持感覚の提示を行なう力触覚提示装置に関する。
【0002】
さらに詳しくは、本発明は、オペレータの指先に対して力覚を提示するとともに、複数の指駆動により形状提示も行なう力触覚提示装置に係り、特に、固定された接触点に対する力覚若しくは触覚の提示を行なうだけでなく、接触状態を反映した、接触点の位置をも提示する力触覚提示装置に関する。
【背景技術】
【0003】
仮想現実(バーチャルリアリティ)や遠隔現実(テレリアリティ)といった技術分野では、視覚情報や聴覚情報に加えて操作者に力覚や触覚を提示するための力覚ディスプレイすなわち「ハプティクス・デバイス」が必須である。
【0004】
近年の計算機速度の向上とシミュレーション技術の進展により、複数の物体が共存し、それらの間で衝突や接触といった物理的相互作用が生じるという仮想環境を、実時間でシミュレートすることが可能となってきた。このように、物体間の衝突やそのときの接触力を、力学を考慮して精密且つ実時間で算出できるようになると、算出された力を実際にモータなどのアクチュエータで発生することで、ハプティクス・デバイスを介して仮想環境の物体に触れたり把持したりした際の感覚をリアルにユーザに提示することが可能となる。
【0005】
ハプティクス・デバイスのアプリケーションは幅広く、物理環境を精緻に演算したシミュレーション空間、物理環境を擬似的又は簡易的に演算したシミュレーション空間、あるいはマスタとスレーブの関係にある実物理空間において、オペレータに対して力覚若しくは触覚の提示を行なうために利用される。具体的には、医療やその他の特殊技能の習得、小宇宙や海洋などの仮想環境や、原子炉などの特殊若しくは危険な環境での遠隔作業などにおいて、実際に触手できない環境の物体への3次元の力覚若しくは触覚を提示することができる。実時間処理可能な仮想空間の規模や精度に伴い、将来的には力覚ディスプレイの需要拡大が見込まれる。
【0006】
例えば、図18に示すようなシリアル・リンクを用いたペン型のハプティクス・デバイスが一般的である。ユーザはペン型の先端部を把持し、ここに3軸力乃至6軸力のモーメントの提示が行なわれる(例えば、特許文献1、非特許文献1を参照のこと)。図示のハプティクス・デバイスは、オペレータがちょうどペン(若しくはプローブ)を持ったような操作系を有し、ペン先などの特定の部位に対して任意の空間位置とモーメントを提示するように3自由度アームと3自由度ジンバルが接続されている構造となっている。この種の装置によれば、原理的には、任意の場所に並進力とモーメントを発生させることが可能であるが、プロービングによる操作系が基調であるため、得られる感覚がペンで突付いたようなものであり、物を把持する感覚を与えることはできない。
【0007】
あるいは、シリアル・リンクの剛性不足を解消する構造として、図19に示すように、パラレル・リンク構造を用いて3軸力乃至6軸力モーメントの提示を行なうハプティクス・デバイスも提案されている(例えば、特許文献2、非特許文献2、非特許文献3を参照のこと)。
【0008】
これらのリンク機構を用いたハプティクス・デバイスはいずれも、把持位置の1点のみに対して力覚提示を行なうもので、言い換えれば、操作者の各指への独立な力覚提示を行なうものではない。このため、指で仮想物体を把持した感覚を提示することができない、という問題がある。
【0009】
ハプティクス・デバイスの機能として、力そのものを提示する力覚、接触状態を提示する接触覚が挙げられる。勿論、人間が通常行なう動触覚も含まれる。これらを実現するには、ハプティクスで必要な力制御能力のみならず、対象物体の形状を反映する位置提示性能の他、動触覚の実現には優れた応答性、つまり速度及び加速度制御性能が求められる。ペン(プローブ)型で力覚を鋭くしたりする方法もある。しかしながら、対象物の形状を知るには、多指で物体を把持する場合のように、複数の接触点がある方がより自然であると思料される。
【0010】
例えば、多指型のハプティクス・デバイスは、複数指の駆動によって、対象物の形状を提示できるという利点がある。ロボット・ハンドなどのスレーブ・ハンドを遠隔操作するマスタ・ハンドに適用することにより、マスタハンド(操作手段)の動きがスレーブハンド(作業手段)に伝えられ、且つ、スレーブ・ハンドの力覚がマスタ・ハンドに呈示される機能を有する。すなわち、マスタ側の操作者は、作業対象に対して直接的に作業をしているような感覚を得ることができる。すなわち、多指型のハプティクス・デバイスによれば、オペレータの指先に対して力覚を提示するとともに、複数の指駆動により形状提示も行なうことができる。
【0011】
多指への力提示を行なうべく、図20に示すように、指と遠隔のモータ間とをワイヤで接続し、ワイヤを介して各々の指に力を印加するハプティクス・デバイスが提案されている(例えば、非特許文献4を参照のこと)。しかしながら、このような装置構成では、常時ワイヤが弛まないよう制御する必要があり、制御が煩雑になる傾向がある。また、ワイヤ間の干渉が発生し易く、特に回転に関する可動範囲はあまり広くない。
【0012】
また、図21に示すような、対向型マニピュレータにハンド型力提示機構を付加するハプティクス・デバイスも提案されている(例えば、非特許文献5を参照のこと)。あるいは、これに類似した方法として、エグゾスケルトン先端にハンド型力提示機構を付加する方法も提案されている(例えば、非特許文献6を参照のこと)。
【0013】
また、上記シリアル・リンク先端に指サックを取り付け、指への3軸力提示を行なう方式も提案されている。
【0014】
例えば、人間の指を挿入する指サック、物体に触れる指カバー、及び上記指サックと上記指カバーの間にある歪みゲージの貼られた弾性構造体からなる6軸力覚センサを、小型マニピュレータを介してベースに連結して構成される力覚呈示装置について提案がなされている(例えば、特許文献3を参照のこと)。この力覚呈示装置によれば、人間の指先に力覚を呈示するとともに、人間が実際に物に触れたときの力覚データを記録・再生することができる。
【0015】
また、ユーザ(使用者)の手(指)に装着され、装着された手や各指に対して触覚(触った感覚、例えば、質感、形状、強さ等の接触強度の分布)や力覚(触ったときに加わる力の感覚)を与える一対のリアルグローブを備えた触覚・力覚提示システムについて提案がなされており(例えば、特許文献4を参照のこと)、ユーザの各指の第1関節(末節骨と中節骨との間の関節)から先の指先部分を覆う位置に触覚発生部がそれぞれ設けられている。
【0016】
また、複数の骨材を連結部で可動自在に連結するとともに、連結部をまたがり複数の骨材間に固定された弾性膨張収縮体を備え、骨材に連結されるとともに、少なくとも指又は手のひら又は手の甲を含む手の一部に係合される指サック又はグローブをさらに備え、弾性膨張収縮体を膨張又は収縮させることにより手の一部に疑似的な力を与える力覚ディスプレイ・ハンドについて提案がなされている(例えば、特許文献5を参照のこと)。
【0017】
しかしながら、上述した多指型のハプティクス・デバイスに関する従来技術はいずれも、指先に並進力しか提示できず、各指先のどこで接触しているのか、すなわち作用点を提示することはできない。このため、複数の指先に把持感覚を良好に提示するものとは言い難い。
【0018】
人間の指において物体を直接接触していることが、より接触覚を得る上で重要である。このような観点から、指先に球状の突起を当てて、その位置を変化させることにより操作者が接触点情報を獲得できる力触覚提示装置について提案がなされている(例えば、非特許文献7、非特許文献8を参照のこと)。この装置は、オペレータの指先に直接接触するローラを転がして接触点の位置を明確に提示するように構成されており、オペレータはより敏感に接触覚をえることができる。しかしながら、接触点提示ローラは常に指に接触しているため、提示力がゼロの状態であってもこのローラが動くことによって、不必要な接触情報がオペレータに伝わってしまう。しかも、直接触れていることによりさらに敏感に知覚してしまうため、違和感は一層大きく感じられると思料される。
【0019】
最も精緻な力覚と接触覚を提示するには、3つの並進自由度と、3つの回転自由度とも提示する必要があるが、すべての軸にアクチュエータを配置すると、設計上、力触覚提示装置は機構的に大掛かりになりがちであり、その結果、指先付近の自由度が懸念される。
【0020】
このとき、重力補償の他、慣性力の補償にもアクチュエータのトルクを使ってしまうと、実質的に提示できる力が小さくなり、あるいは過渡特性が悪くなる可能性も多大にある。
【0021】
また、多指型のハプティクス・デバイスにおいて、回転中心(接触点)が常に固定されている機構を用いると、把持対象物に対して各指の姿勢が変わる。すなわち、接触点が変化したであろう状態においてもその変化を反映できないので、フィードバックされる力触覚はオペレータにとって違和感に変わる。
【0022】
ペン型若しくはグリップ型のような把持から程遠い操作状態では、接触点の変化が適切に反映されないことに伴う違和感はさほど問題にはなりにくいと思われる。しかしながら、多指を用いてより精緻に力覚と接触覚提示しようとすると、むしろこの問題は大きくなる傾向とも言える。
【0023】
【特許文献1】特表2007−510232号公報
【特許文献2】特許第3329443号公報
【特許文献3】特開2002−182817号公報
【特許文献4】特開2003−323247号公報
【特許文献5】特開2004−29999号公報
【非特許文献1】http://www.sensable.com/haptic−phantom−desktop.htm(平成19年10月9日現在)
【非特許文献2】http://forcedimension.com/fd/avs/home/products/(平成19年10月9日現在)
【非特許文献3】http://www.quanser.com/industrial/html/products/fs_5dof.asp(平成19年10月9日現在)
【非特許文献4】http://sklab−www.pi.titech.ac.jp/frame_index−j.html(平成19年10月9日現在)
【非特許文献5】川崎晴久、堀匠、毛利哲也共著「対向型多指ハプティックインターフェース」(日本ロボット学会誌 Vol.23,No.4,pp449−456,2005)
【非特許文献6】http://www.immersion.com/3d/products/cyber_grasp.php(平成19年10月9日現在)
【非特許文献7】http://telerobotics.stanford.edu/publications/Provancher03−ISRR−Perception.pdf(平成19年10月9日現在)
【非特許文献8】http://bdml.stanford.edu/twiki/bin/view/Haptics/ContactLocationDisplay(平成19年10月9日現在)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、物理環境を精緻に演算したシミュレーション空間、物理環境を擬似的又は簡易的に演算したシミュレーション空間、あるいはマスタとスレーブの関係にある実物理空間において、オペレータに対して力覚若しくは触覚の提示を好適に行なうことができる、優れた力触覚提示装置を提供することにある。
【0025】
本発明のさらなる目的は、オペレータの指先に対して力覚を提示するとともに、複数の指駆動により物体を把持した感覚や把持した物体の形状提示も行なうことができる、優れた力触覚提示装置を提供することにある。
【0026】
本発明のさらなる目的は、固定された接触点に対する力覚若しくは触覚の提示を行なうだけでなく、接触状態を反映した、接触点の位置をも提示することができる、優れた力触覚提示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、上記課題を参酌してなされたものであり、オペレータの指先に対して力覚を提示する力触覚提示装置であって、
オペレータの指先を挿入する指サックと、
前記指サックに保持された指先に対して位置を提示する位置提示手段と、
前記指サックに保持された指先に対して指先接触点を提示する指先接触点提示手段と、
前記位置提示手段の先端部分において、不要なモーメントが発生しないように前記指先接触点提示手段を支持する不要モーメント除去手段と、
を具備することを特徴とする力触覚提示装置である。
【0028】
仮想現実や遠隔現実などの技術分野では、視覚情報や聴覚情報に加えて操作者に力覚や触覚を提示するためのハプティクス・デバイスが必須である。例えば、多指型のハプティクス・デバイスは、物体を把持するなど、作業対象に直接的に作業をしているような間隔を操作者に与えることができる。しかしながら、上述した多指型のハプティクス・デバイスに関する従来技術はいずれも、指先に並進力しか提示できず、各指先のどこで接触しているのか、すなわち作用点を提示することはできない。このため、複数の指先に把持感覚を良好に提示するものとは言い難い。
【0029】
また、精緻な力覚と接触覚を提示するには3つの並進自由度と3つの回転自由度とも提示する必要があるが、すべての軸にアクチュエータを配置すると、力触覚提示装置は機構的に大掛かりとなり、指先付近の自由度が懸念される。
【0030】
また、多指型のハプティクス・デバイスにおいて、指先の接触点を常に固定した機構を用いると、把持対象物に対して各指の姿勢が変わる状態であっても、その変化を反映することはできないので、フィードバックされる力触覚はオペレータにとって違和感に変わる。
【0031】
これに対し、本発明に係る力触覚提示装置は、1指向けの1ユニット当たりの能動自由度を削減するとともに、接触点における力覚若しくは触覚を提示する際に指先の接触状態に応じた接触点の位置を提示するものである。
【0032】
本発明に係る力触覚提示装置は、基本的に、3自由度の位置提示用アームと、3自由度のジンバル機構と、1自由度の接触点提示用アームと、1自由度以上の指先部機構部指示保持から構成される、1指向けの1ユニットである。このうち、位置提示用アームの3自由度と、指先部機構部指示保持の1自由度は能動自由度である。すなわち、1指向けとして構成された力触覚提示装置は、4つの能動自由度と3つの受動自由度を備え、ユニット当たりの能動自由度を低減しているので、多指型の力触覚提示装置を設計し易くなる。そして、各指用のユニットを組み合わせることで、多指型の力触覚提示装置を構成し、且つ、適切なオペレータに対して適切な力覚若しくは接触覚の提示を通じて操作感を高め、操作上の違和感によるオペレータの疲労を低減することができる。
【0033】
前記位置提示手段は、基本3自由度駆動系のシリアル・リンク型のアームからなり、前記指先接触点提示手段は、前記指サック上に配設された指先接触点駆動軸と、前記指先接触点駆動軸にて一端が回動可能に支持されている小アームと、前記小アームの他端に設けられた指先接触点を備えている。そして、前記不要モーメント除去手段は、前記位置提示手段を構成する前記アームの先端部分において、前記指先接触点回りに回動可能となる指先接触点提示軸にて前記小アームを支持している。
【0034】
前記指先接触点駆動軸は、アクチュエータによって駆動される能動的な指先接触点提示自由度を持ち、前記指先接触点駆動軸の駆動に伴う指先接触点駆動軸回りの前記小アームの回転動作によって、指先接触点は指の腹表面に沿って移動するようになっている。よって、能動的な指先接触点駆動軸による指先接触点提示自由度を制御することによって、指サック内の指先の腹の接触点位置を決定することができる。これによって、あたかも指先において接触点が変化したような力覚をオペレータに与えることができる。
【0035】
また、前記不要モーメント除去手段は、ヨー、ロール、及びピッチの3軸が互いに直交して1点で交わるとともに該交点が前記指先接触点と一致するように配設された3自由度ジンバルで構成される。そして、3軸のうちいずれか1軸が前記指先接触点提示軸と同軸状となるように組み立てられている。この3自由度ジンバルによれば、指先接触点を中心に指先の姿勢を変化させることができる。したがって、指先の接触点が固定されている場合とは異なり、指サックを介して力覚を与えたときの作用点とのオフセットはなく、不要なモーメントは発生しない。したがって、オペレータに対し操作上の違和感を与えることはないので、オペレータの疲労感を軽減することができる。
【0036】
なお、ジンバルには、軸毎の角度を計測する角度センサが配設されており、指先接触点の姿勢を計測することができるようになっている。
【0037】
既に述べたように、基本3自由度駆動系と、指先接触点駆動軸の4自由度が能動自由度であり、ヨー、ロール(指先接触点提示軸と同軸)、及びピッチからなるジンバルの3自由度は受動自由度である。すなわち、1指向けの1ユニット当たりの能動自由度が省自由度化されるので、機構が簡素化されて装置設計が容易になるとともに、指先付近の重量が軽減される。また、各指用のユニットを組み合わせて多指型の力触覚提示装置を構成した場合には、オペレータ操作の際に隣接する指先間で干渉を起こし難くなり、可動域が拡大する。
【0038】
また、本発明に係る力触覚提示装置は、前記アームの姿勢に拘らず、前記指先接触点提示軸と前記ジンバルのグローバル座標系に対する姿勢を変化させない姿勢保持自由度をさらに備えることができる。
【0039】
姿勢保持自由度を備えていないと、各指用のユニットを組み合わせることで多指型の力触覚提示装置を構成した場合、各指の間を保ったまま操作しようとすると、指先接触点提示軸とジンバルのグローバル座標系に対する姿勢グローバル座標系に対する変化に応じて、ジンバルが相互干渉を起こしてしまう危険がある。これに対し、本発明に係る力触覚提示装置は、姿勢保持自由度を備えているので、同様に各指の間を保ったまま操作したとしても、姿勢保持自由度によってジンバルの根元の姿勢が維持されることから、隣接するユニット間で相互干渉を起こし難くなり、結果として各ユニットの課操作空間を拡大することができる。
【0040】
既に述べたように、前記位置提示手段は、基本3自由度駆動系のシリアル・リンク型のアームからなり、3つの能動自由度を備えている。これらの能動自由度の駆動には間接駆動方式を適用することができる。例えば、シリアル・リンク型アームが一端の根元部において所定のベースに支持される場合、能動自由度を実現するための各アクチュエータをシリアル・リンクの根元部に集中して配置するようにして、自己干渉や駆動部自身の慣性モーメントを抑えることができる。
【0041】
根元部に配置された各アクチュエータで発生する動力を、例えばワイヤ・プーリ方式の動力伝達手段を用いることによって、途中でのロスを少なく、該当する関節へ伝達することができる。このような場合、充分なワイヤの張力を保つために、ワイヤ張力調整手段を備えていることが好ましい。
【0042】
また、動力伝達手段による動力の伝達先となる基本駆動系駆動部すなわち関節においてスパイラル・プーリを用いるようにしてもよい。スパイラル・プーリは、断面がほぼV字形状の溝が螺旋状に形成された機構部品であり、このV字溝に沿ってワイヤを複数回巻設することで、基本駆動系駆動部におけるワイヤの張力を大きくし、バックラッシュをごく小さくし、充分な駆動トルクの伝達を可能にすることができる。また、スパイラル・プーリであれば、省スペースにてワイヤの巻き数を確保することができる。
【0043】
また、位置提示手段は、基本3自由度駆動系の駆動に、複数のアクチュエータで複数の関節を干渉駆動するワイヤ干渉駆動機構を適用してもよい。ワイヤ干渉駆動方式では、各ワイヤの一端は、アームを構成するリンク部材の関節部と一体となったプーリに巻設されるとともに、その他端はアクチュエータの出力軸に固定されている。そして、先端側のリンク部材を駆動するためのワイヤは、より根元側の関節部プーリを介して関節部とアクチュエータの出力軸間を接続する格好となる。
【0044】
ワイヤ干渉駆動方式では、根元側の関節部プーリは、自身のワイヤの他に、より先端側の関節部プーリに接続されるワイヤからの干渉を受ける。すなわち、根元側の関節部プーリは、自身に巻き付いたすべてのワイヤから得られる張力の合計で駆動するので、この結果、根元側のリンク部ではより大きなトルクを得ることができ、より小さなアクチュエータで動作が可能となる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、オペレータの指先に対して力覚を提示するとともに、複数の指駆動により物体を把持した感覚や把持した物体の形状提示も行なうことができる、優れた力触覚提示装置を提供することができる。
【0046】
また、本発明によれば、固定された接触点に対する力覚若しくは触覚の提示を行なうだけでなく、接触状態を反映した、接触点の位置をも提示することができる、優れた力触覚提示装置を提供することができる。
【0047】
本発明によれば、力触覚の提示を行なう対象が仮想的な物理・力学シミュレーション空間又は実空間のいずれであれ、オペレータに対して適切な力覚並びに接触覚を提示することによって、オペレータにとって操作感を高め、対象物に対する危険な接触状態(若しくは把持状態)を避けるとともに、操作上の違和感によるオペレータの疲労を低減することができる。
【0048】
本発明に係る力触覚提示装置は、所定のベース上で支持される基本3自由度駆動系のシリアル・リンク型のアームからなる位置提示手段を備えるが、能動自由度を実現するための各アクチュエータをシリアル・リンクの根元部に集中して配置するようにして、自己干渉や駆動部自身の慣性モーメントを抑えることができる。
【0049】
また、ワイヤ・プーリ方式の動力伝達手段を用いて根元部に配置された各アクチュエータから各関節部へ動力を伝達するが、先端部ではスパイラル・プーリを用いてワイヤを関節部へ固定するとともに、ワイヤ張力調整手段を用いて充分なワイヤの張力を保つようにすることで、バックラッシュをごく小さくし、充分な駆動トルクの伝達を行なうことが可能となる。
【0050】
また、位置提示手段の基本3自由度駆動系の駆動に、ワイヤ干渉駆動機構を適用してもよい。ワイヤ干渉駆動方式によれば、根元側の関節部プーリは、自身に巻き付いたすべてのワイヤから得られる張力の合計で駆動するので、根元側のリンク部ではより大きなトルクを得ることができ、より小さなアクチュエータで動作が可能となる。
【0051】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
【0053】
本発明は、オペレータに対して力覚若しくは触覚の提示を行なう力触覚提示装置に関する。力触覚の提示を行なう対象が仮想的な物理・力学シミュレーション空間又は実空間のいずれであれ、オペレータに対して適切な力覚若しくは接触覚を提示することによって、オペレータにとって操作感を高め、対象物に対する危険な接触状態(若しくは把持状態)を避けるとともに、操作上の違和感によるオペレータの疲労を低減することができる、と本発明者らは考えている。
【0054】
力触覚提示装置の機能として、力そのものを提示する力覚の他に、接触状態を提示する接触覚が挙げられる。勿論、人間が通常行なう動触覚も含まれる。これらを実現するには、ハプティクスで必要な力制御を行なう能力のみならず、対象物体の形状を反映する位置提示性能の他、動触覚の実現には優れた応答性、つまり速度及び加速度制御性能が求められる。ペン(プローブ)型で力覚を鋭くしたりする方法もあるが、対象物の形状を知るには複数の接触点がある方がより自然であると思料される。例えば、多指型のハプティクス・デバイスは、複数指の駆動によって、対象物の形状を提示できるという利点がある。
【0055】
従来の多指型の力触覚提示装置の多くは、指先に並進力しか提示できず、各指先のどこで接触しているのか、すなわち作用点を提示することはできない構造となっており、複数の指先に把持感覚を良好に提示するものとは言い難い。最も精緻な力覚と接触覚を提示するには3つの並進自由度と3つの回転自由度とも提示する必要があるが、能動自由度の増加に伴い装置の機構が肥大化し、隣接する指間の干渉など指先付近の自由度が懸念される。また、指先の接触点を常に固定した機構を用いると、把持対象物に対して各指の姿勢の変化をフィードバックできないので、オペレータに違和感や操作に伴う疲労感を与える。
【0056】
これに対し、本発明に係る力触覚提示装置は、1指向けの1ユニット当たりの能動自由度を削減するとともに、接触点における力覚若しくは触覚を提示する際に指先の接触状態に応じた接触点の位置を提示するものである。
【0057】
本発明に係る力触覚提示装置は、基本的に、3自由度の位置提示用アームと、3自由度のジンバル機構と、1自由度の接触点提示用アームと、1自由度以上の指先部機構部指示保持から構成される、4つの能動自由度と3つの受動自由度を備えた構造体を1指向けの1ユニットとしている。そして、各指用のユニットを組み合わせることで、多指型の力触覚提示装置を構成し、且つ、適切なオペレータに対して適切な力覚、接触覚の提示を通じて操作感を高め、操作上の違和感によるオペレータの疲労を低減することができる。
【0058】
図1には、本発明の一実施形態に係る力触覚提示装置の自由度構成を概念的に示している。但し、同図は、1指向けの1ユニットであり、各指用のユニットを組み合わせることで、多指型の力触覚提示装置を構成することができる。以下の説明では、オペレータの片手当たり、親指と人差し指、中指の3指に対して力覚を提示する例を挙げて説明する。
【0059】
図示のユニット10は、オペレータの指先を挿入して保持する指サック11と、指サック11に保持された指先に対して空間における接触点位置及び力を提示する位置提示手段と、位置提示手段の先端部に取り付けられて、指サック11に保持された指先に対して指先接触点を提示する指先接触点提示手段と、位置提示手段を構成する前記アームの先端部分で、不要なモーメントが発生しないように指先接触点提示手段を支持する不要モーメント除去手段を備えている。
【0060】
位置提示手段は、図示の例では、基本3自由度駆動系12によって動作するシリアル・リンク型のアームからなり、その一端の根元部において所定のベースに支持されるものとする。アームを駆動する各関節自由度はアクチュエータ(図示しない)によって駆動される3つの能動自由度を持つ。但し、本発明の要旨は、シリアル・リンク型の基本3自由度駆動系に限定されるものではなく、等価の自由度を備えた他のリンクなどの機構で代替可能であることを理解されたい。
【0061】
また、指先接触点提示手段は、指サック11上に指先接触点駆動軸13にて一端が回動可能に支持されている小アーム14と、小アーム14の他端に設けられた指先接触点を備えている。指先接触点駆動軸13は指サック11が保持する指先の背に相当する部位に配設されるとともに、指先接触点は同指先の腹に相当する部位に配設され、指先接触点提示軸15は、指先接触点回りの回転自由度を備えている。そして、指先接触点駆動軸13はアクチュエータ(図示しない)によって駆動される能動的な指先接触点提示自由度を持ち、指先接触点駆動軸13の駆動に伴う指先接触点駆動軸回りの小アーム14の回転動作によって、指先接触点は指の腹に当接したままその表面に沿って移動する。これによって、能動的な指先接触点駆動軸13による指先接触点提示自由度を制御することによって、指サック11内の指先の腹の接触点位置を決定することができる。そして、オペレータに対しては、あたかも指先において接触点が変化したような力覚を与えることができる。
【0062】
図2には、指先接触点駆動軸13の駆動に伴う指先接触点駆動軸回りの小アーム14の回転動作によって、指先接触点は指の腹表面に沿って移動する様子を示している。但し、同図では、最も簡潔な円弧近似した駆動系を示している。
【0063】
また、不要モーメント除去手段は、位置提示手段を構成するアームの先端部分において、指先接触点回りに回動可能となるように、指先接触点提示軸15にて小アーム14を支持している。図1に示す例では、不要モーメント除去手段は、3自由度を持つジンバル16からなる。このジンバル16は、ヨー、ロール、及びピッチの3軸が互いに直交して1点で交わる構成の機構であり、この交点が指先接触点と一致するように配設されている。また、ジンバル16の機構先端のロール軸が指先接触点提示軸15と同軸状に組み立てられる。指先接触点を中心に指先の姿勢を変化させることができるので、指先の接触点が固定されている場合とは異なり、指サック11を介して力覚を与えたときの接触点と作用点とのオフセットはなく、不要なモーメントは発生しない。したがって、オペレータに対し操作上の違和感を与えることはないので、オペレータの疲労感を軽減することができる。
【0064】
シリアル・リンク型のアームを駆動する基本3自由度駆動系12と、指先接触点駆動軸13の4自由度が能動自由度であり、ヨー、ロール(指先接触点提示軸15と同軸)、及びピッチからなるジンバルの3自由度は受動自由度である。すなわち、3自由度並進及び3自由度回転ともに力覚提示するために全軸にアクチュエータを搭載する場合(前述)に比べると、1指向けの1ユニット当たりの能動自由度が省自由度化されるので、機構が簡素化されて装置設計が容易になるとともに、指先付近の重量が軽減される。また、各指用のユニットを組み合わせて多指型の力触覚提示装置を構成した場合には、オペレータが操作を行なう際に隣接する指先間で干渉を起こし難くなり、可動域が拡大する。
【0065】
ユニット10は、追加機能として、基本3自由度駆動系12からなるアームの姿勢に拘らず、指先接触点提示軸15とジンバル16のグローバル座標系に対する姿勢を変化させない機構、すなわち姿勢保持自由度を適宜備える必要がある。
【0066】
図3A並びに図3Bには、2指用に2基のユニット10を対向させた場合の動作例を示している。但し、各図では、指先接触点提示軸15とジンバル16の姿勢保持自由度を持たない場合のユニット10の動作例を示している。すなわち、アームが図3Aに示した初期姿勢から他の姿勢に移行したとき、指先接触点提示軸15とジンバル16のグローバル座標系に対する姿勢グローバル座標系に対して変化する。ここで、各指用のユニットを組み合わせることで多指型の力触覚提示装置を構成した場合、各指の間を保ったまま操作しようとすると、図3Bに示すように、ジンバル16が相互干渉を起こしてしまう危険がある。把持対象物体(提示対象物体)が小さい場合、往々にしてこのような問題を起こす可能性があると言える。
【0067】
また、図4A並びに図4Bには、2指用に2基のユニット10を対向させた場合における他の動作例を示している。但し、各図では、指先接触点提示軸15とジンバル16の姿勢保持自由度を持つ場合のユニット10の動作例を示している。図4Aに示すような図3Aとほぼ同一となるアームの初期姿勢から他の姿勢に移行したとき、同様に各指の間を保ったまま操作したとしても、姿勢保持自由度によってジンバルの根元の姿勢が維持されることから、図4Bに示すように隣接するユニット間で相互干渉を起こし難くなり、結果として指毎に配設される各ユニットの可操作空間を拡大することができる。
【0068】
このような姿勢保持自由度は、例えば、基本3自由度駆動系としてのアームを平行リンクと等価的な機構を用いて構成することができる。平行リンクは、等直径のプーリとワイヤを用いて製作することができる。勿論、機構設計の制約などにより、アクチュエータによるサーボによって姿勢保持自由度を実現する方法も考えられる。
【0069】
図5及び図6には、指先保持機構周辺(図1中の、基本3自由度駆動系12の先端に取り付けられる部分に相当)の設計モデルを示している。但し、図5は分解図であり、図6はその組立図である。
【0070】
ジンバル機構は、3つのジンバル・アーム部材で構成され、ヨー、ロール、及びピッチの3軸が互いに直交して1点で交わるように組み立てられる。
【0071】
指サック11は図示を省略しているが、指先保持機構に取り付けられる。そして、指先接触点駆動軸13の駆動に伴う指先接触点駆動軸回りの小アーム14の回転動作によって、指先接触点は指の腹に当接したままその表面に沿って移動するようになっている。なお、各ジンバル・アームには、軸毎の角度を計測する角度センサが配設されており、指先接触点の姿勢を計測することができるようになっている。
【0072】
ジンバル16の機構先端のロール軸は指先接触点提示軸15と同軸状であるから、指先接触点を中心に指先の姿勢を変化させる際に、指先接触点と湯企画を与える作用点とのオフセットはなく、不要なモーメントは発生しない。したがって、オペレータに対し操作上の違和感を与えることはないので、オペレータに対し無用の疲労感を与えなくて済む。
【0073】
参考のため、図5及び図6に示した指先保持機構周辺が動作する様子を図7〜図12に示しておく。
【0074】
図13には、1指向けの1ユニット全体の設計モデルを示している。図示の例では、基本3自由度駆動系はシリアル・アーム型で構成される。
【0075】
各リンクのイナーシャを極力低減するために、能動自由度を実現する各アクチュエータ・モータなどはベース側に配設している。また、バックラッシュを僅少にするためのワイヤ駆動機構を適用している。
【0076】
さらに参考のため、図13に示したユニットが動作する様子を図14〜図17に示しておく。図13に示したユニットは、基本3自由度駆動系としてのアームを平行リンクと等価的な機構を用いて構成することによって姿勢保持自由度を備えている。したがって、図13に示したアームの初期姿勢から、図14〜図17に示したさまざまな姿勢に移行したときに、姿勢保持自由度によってジンバルの根元の姿勢が維持されることを理解されたい。
【0077】
既に述べたように、本実施形態に係る力触覚提示装置は、位置提示手段として、基本3自由度駆動系のシリアル・リンク型のアームを供えている。このシリアル・リンク型アームは、図1に示したように一端の根元部において所定のベースに支持されている。また、シリアル・リンク型アームは、3つの能動自由度を有するが、図13に示すように、能動自由度を実現するための各アクチュエータをシリアル・リンクの根元部に集中して配置するようにして、自己干渉や駆動部自身の慣性モーメントを抑えている。
【0078】
また、本実施形態では、根元部に配置された各アクチュエータで発生する動力を、ワイヤ・プーリ方式の動力伝達手段を用いることによって、途中でのロスを少なく、該当する関節へ伝達するようにしている。
【0079】
このような場合、充分なワイヤの張力を保つために、ワイヤ張力調整手段を備えていることが好ましい。図22には、ワイヤ張力調整手段の構成例を示している。図22Aにおいて、参照番号101が固定部、参照番号102がストッパ、参照番号103がスプリングであり、スプリング103の一端はワイヤ104と結合し、ストッパ102はワイヤ104に固定されている。
【0080】
図22Bには、ワイヤ張力調整手段にスプリング103が取り付けられていない状態を示しているが、この場合のワイヤ104は緩みっぱなしとなる。これに対し、一端が固定部101内の底部に取り付けられたスプリング103の他端にワイヤ104が結合していると、このスプリング103の復元力により、固定部101内に引き込む方向の張力がワイヤ104に加わるので、ワイヤ104が緩むことはない。
【0081】
ここで、ワイヤ104の緩みはなくなるが、スプリング103の影響により、ワイヤ104自体が伸縮してしまうおそれがある(図22C中の矢印)。これに対し、ワイヤ104が緩んだ再にはスプリング103により張力を保つ一方、ストッパ102によりスプリング103自体の伸縮を抑制するようにしている。
【0082】
ワイヤ104が緩んだ際には、ストッパ102が固定部101に対して隙間を発生しているため、オペレータは、ワイヤ104が緩んだことを目視により検知することが可能である。また、図22A中の矢印で示すように、ストッパ102がワイヤ104側に動作するワンウェイ・クラッチ構造を備えるようにすれば、スプリング103自体の伸縮の影響をさらに抑制することができる。
【0083】
また、動力伝達手段による動力の伝達先となる基本駆動系駆動部すなわち関節においてスパイラル・プーリを用いるようにしてもよい。スパイラル・プーリは、断面がほぼV字形状の溝が螺旋状に形成された機構部品であり、ワイヤをある程度V溝にある程度挟み込むようにして複数回巻設することで、基本駆動系駆動部におけるワイヤの張力を大きくし、バックラッシュをごく小さくし、充分な駆動トルクの伝達を可能にすることができる。また、スパイラル・プーリであれば、省スペースにてワイヤの巻き数を確保することができる。図23には、スパイラル・プーリを用いた駆動部の構成例を示している。図示の例では、アイドラ・プーリを適宜配置しているが、アイドラ・プーリは本発明の必須の構成要素ではない。
【0084】
スパイラル・プーリを用いた駆動系によれば、ワイヤに必要な初期張力が加わっていることで、充分な伝達トルクが発生する。逆に、ワイヤの初期張力が不足すると、V溝における摩擦力が極端に低下して、ワイヤとスパイラル・プーリの間で相対運動が発生して、やがてワイヤは螺旋の端部から脱落することになるであろう。このようなワイヤの脱落を防止するには、図22Aに示したようなワイヤ張力調整手段が必須になることを理解されたい。
【0085】
なお、スパイラル・プーリを用いた機構に関しては、例えば、広瀬茂男、内田康之、Richard Chu共著「新しいワイヤ駆動系についての考察」(ロボティクス・メカトロニクス講演会’98講演論文集、1C12−3(1−2)(1998))を参照されたい。
【0086】
また、基本3自由度駆動系の駆動に、複数のアクチュエータで複数の関節を干渉駆動するワイヤ干渉駆動機構を適用してもよい。ワイヤ干渉駆動方式では、各ワイヤの一端は、アームを構成するリンク部材の関節部と一体となったプーリに巻設されるとともに、その他端はアクチュエータの出力軸に固定されている。そして、先端側のリンク部材を駆動するためのワイヤは、より根元側の関節部プーリを介して関節部とアクチュエータの出力軸間を接続する格好となる。
【0087】
図24には、ワイヤ干渉駆動方式による動力伝達手段の構成例を示している。図示の例では、根元関節と中間関節を備えたリンク機構を想定し、各関節駆動用のアクチュエータA及びBは根元部に集中配置されている。根元関節において、リンクAを固定するスパイラル・プーリAには、アクチュエータAの出力軸と結合するワイヤAが巻設されている。また、アクチュエータBの出力軸と結合するワイヤBの他端は、根元関節に配設されたアイドラ・プーリB2を介して、中間関節においてリンクBを固定するスパイラル・プーリB2に巻設されている。
【0088】
中間関節部には、スパイラル・プーリB2に巻設されたワイヤBから張力TB2が加わり、これが先端リンクBを駆動するトルクとなる。一方、根元関節部には、スパイラル・プーリAに巻設されたワイヤAから受ける張力TAの他に、アイドラ・プーリB1に巻設されたワイヤBから請ける張力TB1も加わり、TA+TB1が根元リンクAを駆動するトルクとなる。
【0089】
ワイヤ干渉駆動は、根元側の関節リンクに大きなトクルを与えることができる動力伝達手段である。言い換えれば、駆動部のアクチュエータが出力の小さいものでも充分となり、概してイナーシャの小さい、応答性に優れた駆動系を実現することができる。
【0090】
図1に示した力触覚提示装置のようなハプティック・デバイスを設計する上で、アームの中間関節の駆動に関してはワイヤ干渉駆動方式が有効である、と本発明者らは思料する。何故ならば、中間関節にできる限り重量物であるアクチュエータ・モータを配置しない方が良いからである。
【0091】
なお、干渉駆動方式に関しては、例えば、広瀬茂男、佐藤幹夫共著「多自由度ロボットの干渉駆動」(日本ロボット学会誌、7、2、128−135(1989))、あるいは、広瀬茂男、馬書根共著「ワイヤ干渉駆動型多関節マニピュレータの開発」(計測自動制御学会論文集、26、11、1291−1298(1990))を参照されたい。
【0092】
上述したワイヤ干渉駆動方式を適用した駆動系においては、アームの根元部の各関節駆動用のアクチュエータの配置に応じて、適宜、ワイヤの干渉方法すなわち各々のワイヤの張設方法を変えて運用することが好ましい。以下では、この点について詳解する。
【0093】
ここでは、根元関節部と中間関節部でそれぞれリンクを連結し、当該リンク機構の先端部がオペレータに対して力触覚を提示するエンド・エフェクタになるとともに、各関節部の駆動用アクチュエータが根元部に集中配置されているシリアル・リンク構造のアームを想定する。また、中間関節で連結された2本のリンクはほぼ「く」の字の形状を保ち、アクチュエータの駆動により、根元関節部における「く」の字の床面(若しくは水平方向)に対する姿勢と、中間関節部における「く」の字の挟角が変化する(図25を参照のこと)。
【0094】
かかるシリアル・リンク構造では、エンド・エフェクタにおいて重力支持方向及び水平提示方向の力を印加する必要がある。このような場合、中間関節部においては、先端側のリンクを重力に抗う方向で支持するための中間関節重力支持トルクを発生させる必要がある。また、根元関節部においては、根元側以降のリンクを重力に抗う方向で支持するための根元関節重力支持トルクを発生させる必要がある。
【0095】
ここで、中間関節部において必要となる中間関節重力支持トルクの方向は、基本的には、水平提示方向の力を生成するための中間関節軸回りのトルクが必要である。図26A及び図26B中、並びに図27A及び図27B中で実線矢印にて示すように、水平提示方向が一定であれば、中間関節重力支持トルクの方向も一定である(図示の例では、紙面反時計回り)。
【0096】
他方、根元関節部において必要となる根元関節重力支持トルクの方向は、シリアル・リンク構造アームの姿勢に応じて反転し、アームの重心位置にて発生する重力に抗う力を生成するための根元関節軸回りのトルクが必要であり、具体的には、アームの重心位置に作用する重力が根元関節軸に対し反時計回りのトルクとなる場合には、図26A並びに図27A中で点線矢印にて示すように、根元関節重力支持トルクは時計回りとなる。また、アームの重心位置に作用する重力が根元関節軸に対し時計回りのトルクとなる場合には、図26B並びに図27B中で点線矢印にて示すように、根元関節重力支持トルクは反時計回りとなる。
【0097】
さらに、上述したワイヤ干渉駆動方式を適用する場合には、根元関節部には中間関節重力支持トルクが干渉する。根元関節部で干渉する中間関節重力支持トルクが作用する方向は、根元関節部と中間関節部間での干渉ワイヤの張設方法に応じて相違する。そして、根元関節部で根元関節重力支持トルク作用する方向はアームの姿勢に応じて切り替わることから、根元関節部では、中間関節重力支持トルクと根元関節重力支持トルクは、干渉ワイヤの張設方法とアームの姿勢に応じて、同じ方向又は反対方向のいずれかとなる。
【0098】
ここで言うワイヤの張設方法として、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させずに平行に巻回する張設方法(若しくは、根元関節部と中間関節部間で関節軸の回転方向が正転するような干渉ワイヤの張設方法)と、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させて巻回する干渉ワイヤの張設方法(若しくは、根元関節部と中間関節部間で関節軸の回転方向が反転するような干渉ワイヤの張設方法)の2通りに大別される。
【0099】
まず、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させずに平行に巻回する干渉ワイヤの張設方法(若しくは、根元関節部と中間関節部間で関節軸の回転方向が正転するような干渉ワイヤの張設方法)をしたときについて考察する。
【0100】
アームの重心位置に作用する重力が根元関節軸に対し時計回りのトルクとなる場合には、図26Bに示すように、根元関節部及び中間関節部の各々で作用する中間関節重力支持トルクは同じ方向となる。したがって、根元関節部では干渉作用により中間関節重力支持トルクと根元関節重力支持トルクの合計トルクが加わることから、エンド・エフェクタでは重力支持方向により大きな力を得ることができる。その代わり、引き付ける方向に発生する力は若干弱くなる。
【0101】
他方、アームの重心位置に作用する重力が根元関節軸に対し反時計回りのトルクとなる場合には、図26Aに示すように、根元関節部及び中間関節部の各々で作用する中間関節重力支持トルクは逆向きの方向となる。したがって、根元関節部に加わるトルクは干渉作用により中間関節重力支持トルクと根元関節重力支持トルクの差分となってしまい、得られる重力支持トルクは低下する。但し、図26Aに示した(「く」の字形状のアームが起き上がったような)姿勢状態では、要求トルクも小さいことが想定されるので、運用上は問題にならないものと思料される。
【0102】
続いて、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させて巻回する干渉ワイヤの張設方法(若しくは、根元関節部と中間関節部間で関節軸の回転方向が反転するような干渉ワイヤの張設方法)をしたときについて考察する。
【0103】
アームの重心位置に作用する重力が根元関節軸に対し反時計回りのトルクとなる場合には、図27Aに示すように、根元関節部及び中間関節部の各々で作用する中間関節重力支持トルクは同じ方向となる。したがって、根元関節部では干渉作用により中間関節重力支持トルクと根元関節重力支持トルクの合計トルクが加わることから、エンド・エフェクタでは重力支持方向により大きな力を得ることができる。その代わり、引き付ける方向に発生する力は若干弱くなる。但し、アームが描く「く」の字の挟角がより鋭利な姿勢(すなわち、アームがより屈曲した状態)では、図26Aに示したワイヤを平行に巻回させたワイヤ張設方法と比較すると、駆動トルクの負担が軽減されるので、有効であると言うこともできる。
【0104】
他方、アームの重心位置に作用する重力が根元関節軸に対し時計回りのトルクとなる場合には、図27Bに示すように、根元関節部及び中間関節部の各々で作用する中間関節重力支持トルクは逆向きの方向となる。したがって、根元関節部に加わるトルクは干渉作用により中間関節重力支持トルクと根元関節重力支持トルクの差分となってしまい、得られる重力支持トルクは低下する。アームが描く「く」の字が深く倒れ込むような姿勢状態を利用する場合には、干渉ワイヤの張設方法を含め、運用方法を熟慮する必要がある。
【0105】
このように、シリアル・リンク型のアームにワイヤ干渉駆動方式を適用した場合には、アームの姿勢と干渉ワイヤの張設方法に応じて特性が変わることを理解することができよう。また、多指向けに複数基のユニット10を隣接して運用する場合にも、かかる特性を充分に考慮する必要がある。
【0106】
例えば、2指用に対向する2基のユニット10のアーム根元部の間隔を広くとった場合には(図28Aを参照のこと)、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させずに平行に巻回する干渉ワイヤの張設方法が適していると考えられる。何故ならば、各々のアーム姿勢が伸び気味となり、その重量を支持するのに適したく同系特性が必要となるからである(図28Bを参照のこと)。図28に示した配置の場合、広大な作業領域が得られ、また、アーム根元部の過大なヨー運動が少ないことが利点となる。
【0107】
また、例えば、2指用に対向する2基のユニット10のアーム根元部の間隔を狭くとった場合には(図29Aを参照のこと)、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させて巻回する干渉ワイヤの張設方法が適していると考えられる。何故ならば、図29Bに示すように、各アームが描く「く」の字が深く屈曲した姿勢となり、その分だけ自らの重量を支持し易くなるからである。
【0108】
最後に、本発明に係る力触覚提示装置の主な特徴について説明する。
【0109】
接触点位置の変化を提示可能
本発明に係る力触覚提示装置は各指における接触点の変化をオペレータに提示することができる。例えば、数mm〜20mm程度の物体を把持する場合は「摘む」動作であるため、概して指の先の方で把持する。他方、対象物体の大きさがそれ以上になってくると「掴む」動作になってくるため、指先における接触点は先端部から徐々に指の腹(第一関節寄り)に移動する。
【0110】
従来の力触覚提示装置の多くは指先接触点の位置が固定であるから、対象物体の把持状態の如何に拘らず変化しない指先接触点に対して力覚が提示されてしまうため、オペレータは違和感を覚えることがある。これに対し、本発明に係る力触覚提示装置は、対象物体の接触状態に応じてオペレータが想像でき得る位置に指先接触点を提示することができるので、違和感が少なくなり、且つ、対象物体の特性をより直感的に知覚し易いという効果がある。
【0111】
簡潔な機構による制御性の向上
従来の力触覚提示装置において最も精緻な力覚と接触覚を提示するには、3つの併進自由度と、3つの回転自由度とも提示する必要がある。したがって、一指あたり6軸のアクチュエータを用いる必要があり、設計上の工夫をしても装置は大掛かりになってしまい、重量(慣性モーメント)が増大せざるを得ないという問題がある。
【0112】
これに対し、本発明に係る力触覚提示装置は、能動自由度を省自由度化した簡潔な機構で実現することができる。よって、要求されるアクチュエータの出力を抑えることができるとともに、過渡特性も向上による制御性の改善が期待することができる。
【0113】
広範な可動範囲(作業領域)確保による多彩の把持対象
本発明に係る力触覚提示装置は、簡潔な機構が可能であり、且つ、指先の姿勢の保持を行なうことによって、さらに広大な作業空間を実現することが可能となる。これにより、各指の姿勢の選択性が向上し、さまざま物体を把持対象とすることができる。この結果、本発明に係る力触覚提示装置は、さまざまな産業分野や技術分野において幅広く適用することができる。
【0114】
擬似的に接触点回りのトルクを知覚可能
オペレータが接触点回りにおけるトルクを知覚する際、指毎に捻られたりする場合を除くと、指先の接触面における力分布に基づいてその回転中心を割り出していると推測される。そこで、本発明に係る力触覚提示装置は、指サック状の指先保持具を用いているので、実は回転中心だけを的確に提示できればよく、接触点位置を提示することによって、オペレータはそのトルクをあたかも知覚できていると感じ、且つ、違和感はない。
【0115】
対象物体形状の理解
オペレータが対象物体に接触する際、制御側による初期接触点位置予測を行なうことによって接触した瞬間の感触が的確になる。例えば、対象物体が多面体あったときなど、物体の各々の構成面を知覚し易くなり、そのため、把持した際に対象物体の形状を直感的に把握し易くなる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0117】
本発明に係る力触覚提示装置は、医療やその他の特殊技能の習得、小宇宙や海洋などの仮想環境や、原子炉などの特殊若しくは危険な環境での遠隔作業などを始めとしたさまざまなアプリケーションにおいて、実際に触手できない環境の物体への3次元の力覚や触覚をユーザにフィードバックするために適用することができる。
【0118】
また、本発明に係る力触覚提示装置は、複数の指に対し力覚を提示するが、操作内容若しくはアプリケーションに応じて提示する指の本数を適宜選択することができる。把持対象が小さい場合(摘むような動作)は、機構自体を小さくするほうが適しており、2乃至3指にて力覚を提示することができる。他方、把持対象がもう少し大きい場合(掴むような動作)は、3指以上のさらに多くの指を用いて力覚を提示する方が、物体の形状・大きさなどをより的確に提示することができる。
【0119】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る力触覚提示装置の自由度構成を概念的に示した図である。
【図2】図2は、指先接触点駆動軸13の駆動に伴う指先接触点駆動軸回りの小アーム14の回転動作によって、指先接触点は指の腹表面に沿って移動する様子を示した図である。
【図3A】図3Aは、指先接触点提示軸15とジンバル16の姿勢保持自由度を持たない場合のユニット10の動作例を示した図である。
【図3B】図3Bは、指先接触点提示軸15とジンバル16の姿勢保持自由度を持たない場合のユニット10の動作例を示した図である。
【図4A】図4Aは、指先接触点提示軸15とジンバル16の姿勢保持自由度を持つ場合のユニット10の動作例を示した図である。
【図4B】図4Bは、指先接触点提示軸15とジンバル16の姿勢保持自由度を持つ場合のユニット10の動作例を示した図である。
【図5】図5は、指先保持機構周辺(図1中の、基本3自由度駆動系12の先端に取り付けられる部分に相当)の設計モデルを示した図である。
【図6】図6は、指先保持機構周辺(図1中の、基本3自由度駆動系12の先端に取り付けられる部分に相当)の設計モデルを示した図である。
【図7】図7は、図5及び図6に示した指先保持機構周辺が動作する様子を示した図である。
【図8】図8は、図5及び図6に示した指先保持機構周辺が動作する様子を示した図である。
【図9】図9は、図5及び図6に示した指先保持機構周辺が動作する様子を示した図である。
【図10】図10は、図5及び図6に示した指先保持機構周辺が動作する様子を示した図である。
【図11】図11は、図5及び図6に示した指先保持機構周辺が動作する様子を示した図である。
【図12】図12は、図5及び図6に示した指先保持機構周辺が動作する様子を示した図である。
【図13】図13は、1指向けの1ユニット全体の設計モデルを示した図である。
【図14】図14は、図13に示したユニットが動作する様子を示した図である。
【図15】図15は、図13に示したユニットが動作する様子を示した図である。
【図16】図16は、図13に示したユニットが動作する様子を示した図である。
【図17】図17は、図13に示したユニットが動作する様子を示した図である。
【図18】図18は、シリアル・リンクを用いたペン型のハプティクス・デバイスの構成例を示した図である。
【図19】図19は、パラレル・リンク構造を用いて3軸力乃至6軸力モーメントの提示を行なうハプティクス・デバイスの構成例を示した図である。
【図20】図20は、指と遠隔のモータ間をワイヤで接続し、ワイヤを介して力を印加するハプティクス・デバイスの構成例を示した図である。
【図21】図21は、対向型マニピュレータにハンド型力提示機構を付加するハプティクス・デバイスの構成例を示した図である。
【図22A】図22Aは、ワイヤ張力調整手段の構成例を示した図である。
【図22B】図22Bは、ワイヤ張力調整手段の構成例を示した図である。
【図22C】図22Cは、ワイヤ張力調整手段の構成例を示した図である。
【図23】図23は、スパイラル・プーリを用いた駆動部の構成例を示した図である。
【図24】図24は、ワイヤ干渉駆動方式による動力伝達手段の構成例を示した図である。
【図25】図25は、根元関節部と中間関節部でそれぞれリンクを連結したシリアル・リンク構造のアームが動作する様子(姿勢の変化)を示した図である。
【図26A】図26Aは、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させずに平行に巻回する干渉ワイヤの張設方法をとった場合の、リンクが「く」の字をなすシリアル・リンク構造のアームの姿勢に応じて根元関節部及び中間関節部に加わるトルクの方向を示した図である。
【図26B】図26Bは、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させずに平行に巻回する干渉ワイヤの張設方法をとった場合の、リンクが「く」の字をなすシリアル・リンク構造のアームの姿勢に応じて根元関節部及び中間関節部に加わるトルクの方向を示した図である。
【図27A】図27Aは、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させて巻回する干渉ワイヤの張設方法をとった場合の、リンクが「く」の字をなすシリアル・リンク構造のアームの姿勢に応じて根元関節部及び中間関節部に加わるトルクの方向を示した図である。
【図27B】図267は、根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させて巻回する干渉ワイヤの張設方法をとった場合の、リンクが「く」の字をなすシリアル・リンク構造のアームの姿勢に応じて根元関節部及び中間関節部に加わるトルクの方向を示した図である。
【図28A】図28Aは、2指用に対向する2基のユニット10のアーム根元部の間隔を広くとった様子を示した図である。
【図28B】図28Bは、2指用に対向する2基のユニット10のアーム根元部の間隔を広くとった場合には根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させずに平行に巻回する干渉ワイヤの張設方法が適していることを説明するための図である。
【図29A】図29Aは、2指用に対向する2基のユニット10のアーム根元部の間隔を狭くとった様子を示した図である。
【図29B】図29Bは、2指用に対向する2基のユニット10のアーム根元部の間隔を狭くとった場合には根元関節部と中間関節部間でワイヤを交差させて巻回する干渉ワイヤの張設方法が適していることを説明するための図である。
【符号の説明】
【0121】
10…ユニット
11…指サック
12…基本2自由度駆動系
13…指先接触点駆動軸
14…小アーム
15…指先接触点提示軸
16…ジンバル
101…固定部
102…ストッパ
103…スプリング
104…ワイヤ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オペレータの指先に対して力覚を提示する力触覚提示装置であって、
オペレータの指先を挿入する指サックと、
前記指サックに保持された指先に対して位置を提示する位置提示手段と、
前記指サックに保持された指先に対して指先接触点を提示する指先接触点提示手段と、
前記位置提示手段の先端部分において、不要なモーメントが発生しないように前記指先接触点提示手段を支持する不要モーメント除去手段と、
を具備することを特徴とする力触覚提示装置。
【請求項2】
前記位置提示手段は、基本3自由度駆動系のシリアル・リンク型のアームからなり、
前記指先接触点提示手段は、前記指サック上に配設された指先接触点駆動軸と、前記指先接触点駆動軸にて一端が回動可能に支持されている小アームと、前記小アームの他端に設けられた指先接触点を備え、
前記不要モーメント除去手段は、前記位置提示手段を構成する前記アームの先端部分において、前記指先接触点回りに回動可能となる指先接触点提示軸にて前記小アームを支持する、
ことを特徴とする請求項1に記載の力触覚提示装置。
【請求項3】
前記指先接触点駆動軸は、アクチュエータによって駆動される能動的な指先接触点提示自由度を持ち、前記指先接触点駆動軸の駆動に伴う指先接触点駆動軸回りの前記小アームの回転動作によって、指先接触点は指の腹表面に沿って移動する、
ことを特徴とする請求項2に記載の力触覚提示装置。
【請求項4】
前記不要モーメント除去手段は、ヨー、ロール、及びピッチの3軸が互いに直交して1点で交わるとともに該交点が前記指先接触点と一致するように配設された3自由度ジンバルで構成され、前記の3軸のうちいずれか1軸が前記指先接触点提示軸と同軸状となる、
ことを特徴とする請求項2に記載の力触覚提示装置。
【請求項5】
前記位置提示手段、前記指先接触点提示手段、前記不要モーメント除去手段の1組からなる構造体を1指向けの1ユニットとし、各指用のユニットを組み合わせることで、多指型の力触覚提示装置を構成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の力触覚提示装置。
【請求項6】
前記アームの姿勢に拘らず、前記指先接触点提示軸と前記ジンバルのグローバル座標系に対する姿勢を変化させない姿勢保持自由度をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の力触覚提示装置。
【請求項7】
前記3自由度ジンバルの軸毎の角度を計測する角度センサをさらに備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の力触覚提示装置。
【請求項8】
前記位置提示手段が備える前記の基本3自由度駆動系のシリアル・リンク型アームの各関節自由度は、アクチュエータによって駆動される能動自由度を持つ、
ことを特徴とする請求項2に記載の力触覚提示装置。
【請求項9】
前記シリアル・リンク型アームは一端の根元部において所定のベースに支持され、
前記シリアル・リンク型アームの各関節を駆動するアクチュエータは、前記シリアル・リンクの前記根元部に集中配置され、前記根元部に配置された各アクチュエータの動力を該当する関節へ伝達する動力伝達手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項8に記載の力触覚提示装置。
【請求項10】
前記動力伝達手段は、ワイヤ・プーリ方式からなり、前記ワイヤの張力を調整するワイヤ張力調整手段を備える、
ことを特徴とする請求項9に記載の力触覚提示装置。
【請求項11】
前記動力伝達手段による動力の伝達先となる関節においてスパイラル・プーリを用いる、
ことを特徴とする請求項10に記載の力触覚提示装置。
【請求項12】
前記位置提示手段は、複数のアクチュエータで複数の関節を干渉駆動するワイヤ干渉駆動機構を備える、
ことを特徴とする請求項8に記載の力触覚提示装置。
【請求項13】
オペレータの指先に対して力覚を提示する力触覚提示装置であって、
3自由度の位置提示用アームと、
3自由度のジンバル機構と、
1自由度の接触点提示用アームと、
1自由度以上の指先部機構部指示保持と、
を具備することを特徴とする力触覚提示装置。
【請求項1】
オペレータの指先に対して力覚を提示する力触覚提示装置であって、
オペレータの指先を挿入する指サックと、
前記指サックに保持された指先に対して位置を提示する位置提示手段と、
前記指サックに保持された指先に対して指先接触点を提示する指先接触点提示手段と、
前記位置提示手段の先端部分において、不要なモーメントが発生しないように前記指先接触点提示手段を支持する不要モーメント除去手段と、
を具備することを特徴とする力触覚提示装置。
【請求項2】
前記位置提示手段は、基本3自由度駆動系のシリアル・リンク型のアームからなり、
前記指先接触点提示手段は、前記指サック上に配設された指先接触点駆動軸と、前記指先接触点駆動軸にて一端が回動可能に支持されている小アームと、前記小アームの他端に設けられた指先接触点を備え、
前記不要モーメント除去手段は、前記位置提示手段を構成する前記アームの先端部分において、前記指先接触点回りに回動可能となる指先接触点提示軸にて前記小アームを支持する、
ことを特徴とする請求項1に記載の力触覚提示装置。
【請求項3】
前記指先接触点駆動軸は、アクチュエータによって駆動される能動的な指先接触点提示自由度を持ち、前記指先接触点駆動軸の駆動に伴う指先接触点駆動軸回りの前記小アームの回転動作によって、指先接触点は指の腹表面に沿って移動する、
ことを特徴とする請求項2に記載の力触覚提示装置。
【請求項4】
前記不要モーメント除去手段は、ヨー、ロール、及びピッチの3軸が互いに直交して1点で交わるとともに該交点が前記指先接触点と一致するように配設された3自由度ジンバルで構成され、前記の3軸のうちいずれか1軸が前記指先接触点提示軸と同軸状となる、
ことを特徴とする請求項2に記載の力触覚提示装置。
【請求項5】
前記位置提示手段、前記指先接触点提示手段、前記不要モーメント除去手段の1組からなる構造体を1指向けの1ユニットとし、各指用のユニットを組み合わせることで、多指型の力触覚提示装置を構成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の力触覚提示装置。
【請求項6】
前記アームの姿勢に拘らず、前記指先接触点提示軸と前記ジンバルのグローバル座標系に対する姿勢を変化させない姿勢保持自由度をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の力触覚提示装置。
【請求項7】
前記3自由度ジンバルの軸毎の角度を計測する角度センサをさらに備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の力触覚提示装置。
【請求項8】
前記位置提示手段が備える前記の基本3自由度駆動系のシリアル・リンク型アームの各関節自由度は、アクチュエータによって駆動される能動自由度を持つ、
ことを特徴とする請求項2に記載の力触覚提示装置。
【請求項9】
前記シリアル・リンク型アームは一端の根元部において所定のベースに支持され、
前記シリアル・リンク型アームの各関節を駆動するアクチュエータは、前記シリアル・リンクの前記根元部に集中配置され、前記根元部に配置された各アクチュエータの動力を該当する関節へ伝達する動力伝達手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項8に記載の力触覚提示装置。
【請求項10】
前記動力伝達手段は、ワイヤ・プーリ方式からなり、前記ワイヤの張力を調整するワイヤ張力調整手段を備える、
ことを特徴とする請求項9に記載の力触覚提示装置。
【請求項11】
前記動力伝達手段による動力の伝達先となる関節においてスパイラル・プーリを用いる、
ことを特徴とする請求項10に記載の力触覚提示装置。
【請求項12】
前記位置提示手段は、複数のアクチュエータで複数の関節を干渉駆動するワイヤ干渉駆動機構を備える、
ことを特徴とする請求項8に記載の力触覚提示装置。
【請求項13】
オペレータの指先に対して力覚を提示する力触覚提示装置であって、
3自由度の位置提示用アームと、
3自由度のジンバル機構と、
1自由度の接触点提示用アームと、
1自由度以上の指先部機構部指示保持と、
を具備することを特徴とする力触覚提示装置。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図20】
【図21】
【図23】
【図28A】
【図28B】
【図29A】
【図29B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図24】
【図25】
【図26A】
【図26B】
【図27A】
【図27B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図20】
【図21】
【図23】
【図28A】
【図28B】
【図29A】
【図29B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図24】
【図25】
【図26A】
【図26B】
【図27A】
【図27B】
【公開番号】特開2009−116848(P2009−116848A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143764(P2008−143764)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]