説明

加工性、めっき密着性、耐食性、および外観品位に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板

【課題】深絞り性と延性に優れたTiを含有する極低炭素鋼板を原板として、耐パウダリング性、耐食性に優れ、圧延方向に伸びた線状の合金化ムラが発生せず、自動車外板に適用可能な優れた特性を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を高い生産性で提供する。
【解決手段】Tiを含有する極低炭素鋼の少なくとも片面に、Znを主成分とし、Fe含有率が8〜13質量%であって、さらにAl,Niおよび不可避的不純物を含有するめっき層を有し、該めっき層におけるAl,Niの各付着量が、
190≦Al(mg/m)≦550
35≦Ni(mg/m)≦350−(1/2)Al
を満足する合金化溶融亜鉛めっき鋼板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深絞り性と延性に優れるTi含有極低炭素鋼板を原板とし、耐パウダリング性、耐食性に優れためっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関する。本発明は、自動車外板用としての優れた外観品位を有するとともに、比較的低い焼鈍温度で製造できるため、きわめて生産性が高い。
【背景技術】
【0002】
Ti含有極低炭素鋼板は、優れた深絞り性と延性が安定して得られるため、自動車用冷延鋼板あるいは自動車用電気亜鉛めっき鋼板の原板として、幅広く適用されてきた。しかしながら、近年、合金化溶融亜鉛めっき鋼板が自動車用鋼板の主流になると、Ti含有極低炭素鋼板をその原板として利用することが困難となってきた。これは、Ti含有極低炭素鋼板は結晶粒界が清浄であるために、合金化反応時にアウトバースト現象が起こって部分的に過合金化が進行し、自動車用に成型加工する際、パウダリングによるめっき剥離を起こすためである。
【0003】
合金化反応時のアウトバースト現象を抑制するためには、NbとTiを複合添加した極低炭素鋼を用いることが有効である(特許文献1、2)。この鋼板を用いれば、パウダリング性は良好となるが、Ti含有極低炭素鋼板に比べると成形性が劣り、また、焼鈍温度が高いため、生産性にも劣る。
【0004】
Ti含有極低炭素鋼板のアウトバーストを抑制する従来技術としては、たとえば特許文献3に、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度を通常より高めて、地鉄−めっき界面にAl濃度の高い初期合金層を局在させる方法が開示されている。また、非特許文献1には、めっき浴中Al濃度を高くすれば、初期合金層を構成するFe−Al系化合物の生成量が増加することが報告されている。
【0005】
低炭素冷延鋼板のパウダリング性を向上させる技術としては、特許文献4に、溶融亜鉛めっき浴中にAlおよびNiを微量添加することにより、低温で合金化してもζ相の生成を抑制可能とする方法が開示されている。熱延鋼板を原板とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の加工部耐食性向上技術として、特許文献5に、鋼板表面にNiプレめっきを行って清浄で活性な面を得た後に、溶融亜鉛めっきを施して合金化させる方法が開示されている。
【0006】
Nb,Ti複合添加極低炭素鋼を原板として、外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得る技術としては、特許文献6に、溶融亜鉛めっき浴内で地鉄界面にFe−Ni−Al−Zn合金層を形成させた後、加熱処理によってこれを消失させ、Ni,Alの分散したZn−Fe合金層を形成させる方法が開示されている。
【0007】
極低炭素鋼板を原板とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の耐食性、加工性、塗装性を向上させる従来技術としては、特許文献7に、焼鈍済みの鋼板にNiプレめっきを施したのち、Alを微量添加した溶融亜鉛めっき浴でめっきし、加熱合金化させることにより、めっき層中にAl,Niを特定比率(%)含有させる方法が開示されている。
【特許文献1】特公昭61−32375号公報
【特許文献2】特開平5−106003号公報
【特許文献3】特開平8−269665号公報
【特許文献4】特開平4−13855号公報
【特許文献5】第2783452号公報
【特許文献6】特開2006−299341号公報
【特許文献7】特開2007−84913号公報
【非特許文献1】磯部 誠、安田 顕、大和康二:CAMP−SIJ、Vol.5,p1629(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの従来技術には課題がある。
特許文献3の技術は、地鉄−めっき界面に生成するAl濃度の高い初期合金層のバリア効果により、合金化時のアウトバーストを抑制するものであり一定の効果は有するが、Al濃度の高い相が局在化しているがゆえに効果が完全では無く、この方法単独ではパウダリングを抑制できない。また、後述する線状の合金化ムラに対しては全く効果が無い。
【0009】
非特許文献1に報告されている通り、初期合金層を構成するFe−Al系化合物生成量は浴中Al濃度が高くなるにつれて増加するが、めっき原板の種類による生成量の違いはほとんど無い。合金化速度の速いTi含有極低炭素鋼板のアウトバーストや線状合金化むらを抑制するのには、多量のFe−Al系化合物が必要であるため、高Al添加のめっき浴を用いることになる。しかし、この浴中では合金化速度の遅い他の鋼種でもほぼ同量のFe−Al系化合物が生成する。すると、もともと合金化速度の遅いP添加BH鋼板などでは、さらに合金化速度が遅くなり、実質的には工業生産できないレベルとなってしまう。また、NbTi−sulcの場合、合金化速度はP添加BH鋼よりは早いため、製造は可能であるが生産性が著しく落ちる。すなわち、高Al浴を追求しても、それはTi−sulcのみのためのめっき浴となってしまい、他の鋼種では低Al浴に交換せざるを得ず、経済的でない。
【0010】
特許文献4および5の技術は、そのまま極低炭素鋼に適用しても効果がない。特許文献6の技術は、Nb,Ti複合添加極低炭素鋼板の外観改善には有効であるが、Ti含有極低炭素鋼板のアウトバーストおよび線状合金化ムラを抑制することはできない。特許文献7の技術は、Ti含有極低炭素鋼板のアウトバースト抑制に一定の効果はあるが、厳しい成形加工を受けるとパウダリングが発生し、また、線状合金化ムラを抑制することはできない。
【0011】
ここで、Ti含有極低炭素鋼板の線状合金化ムラについて説明する。Ti含有極低炭素鋼板は、熱延仕上げ温度や焼鈍温度のばらつきによって、焼鈍後の地鉄組織に、圧延方向に線状に伸びた未再結晶粒が部分的に生じることが多い。このような場合、通常の方法で合金化溶融亜鉛めっきを製造すると、未再結晶粒上では合金化が早く、再結晶粒上では合金化が遅いため、目視で判別可能な線状の合金化むら(線状模様)が発生する。この結果、自動車用外板としての外観品位を落とす。これを防ぐためには、熱延仕上げ温度のばらつきを極限まで低減する(たとえば全幅・全長で20℃以内にする)か、焼鈍温度を上げて未再結晶粒の残存を防ぐといった方法が考えられるが、前者は工程能力を考えると困難もしくは経済的でなく、後者はTi含有極低炭素鋼板の製造上の利点である焼鈍温度の低さを犠牲にすることとなり、生産性を落とす。
【0012】
すなわち、従来技術においては、深絞り性と延性に優れたTiを含有する極低炭素鋼板を原板として、耐パウダリング性、耐食性に優れ、圧延方向に伸びた線状の合金化ムラが発生せず、自動車外板に適用可能な優れた特性を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を高い生産性で提供することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、従来技術の有する上記課題を解決すべく、特許文献7に開示された、焼鈍済みの鋼板にNiプレめっきを施したのち、Alを微量添加した溶融亜鉛めっき浴でめっきし、加熱合金化させる技術に着目して、鋭意、改善検討を重ねた。Niプレめっきの役割は従来、鋼板表面の酸化防止による不めっき抑制と考えられていたが、本発明者らは、溶融亜鉛めっきの浴中初期合金化反応におよぼすNiプレめっきの機能について深く考察した。その結果、Niプレめっき法では、初期合金層として、Fe−Al系化合物とNiAlの2種類が生成しうること、前者にはアウトバーストや線状合金化むらを抑制するバリア効果があるが、後者にはそれが無いこと、したがって、浴中初期合金化反応の結果、Fe−Al系化合物を一定量以上初期合金層内に生成させる必要があること、NiAlは初期合金層内には生成させず、めっき層内に生成させるべきであること等の指針を見出した。
【0014】
さらに検討を重ねた結果、これらの指針を満足するためには、プレNi付着量、めっき浴中Al濃度、めっき浴中Ni濃度、めっき浴中Fe濃度、めっき浴温、侵入板温をそれぞれ適正化する必要があり、この結果、初期合金層内にFe−Al系化合物を単独で一定量以上生成できることが分かった。また、これを合金化して得られる合金化溶融亜鉛めっきは、Al,Niを特定の付着量範囲で含有せしめたものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、以下の(1)〜(4)よりなる。
(1)Tiを含有する極低炭素鋼の少なくとも片面に、Znを主成分とし、Fe含有率が8〜13質量%であって、さらにAl,Niおよび不可避的不純物を含有するめっき層を有し、該めっき層におけるAl,Niの各付着量が、
190≦Al(mg/m)≦550
35≦Ni(mg/m)≦350−(1/2)Al
を満足することを特徴とする加工性、めっき密着性、耐食性、および外観品位に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(2)Tiを含有する極低炭素鋼の少なくとも片面に、Znを主成分とし、Fe含有率が8〜13質量%であって、さらにAl,Niおよび不可避的不純物を含有するめっき層を有し、該めっき層におけるAl,Niの各付着量が、
250≦ Al(mg/m) ≦500
50≦ Ni(mg/m) ≦325−(1/2)Al
を満足することを特徴とする加工性、めっき密着性、耐食性、および外観品位に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(3)めっき層のΓ層平均厚みが1.5μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の加工性、めっき密着性、耐食性、および外観品位に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(4)めっき層の付着量が30g/m以上、60g/m以下であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の加工性、めっき密着性、耐食性、および外観品位に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【発明の効果】
【0016】
本発明品は、粒界清浄度の高いTi添加極低炭素鋼を用いていながら、溶融めっき後、加熱合金化時のアウトバースト反応が抑制されているため、優れた成形性とめっき密着性とを同時に有する。また、原板の熱延仕上げ温度や焼鈍温度のばらつきによって、原板組織に未再結晶粒が部分的に生じた場合であっても、これらを原因とする線状の合金化むら(線状模様)が発生することが無い。この結果、自動車外板としての外観品位を有した鋼板を、比較的低い焼鈍温度で安定して製造できるため、歩留まり、生産性が高く、経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳述する。
本発明の対象であるTiを含有する極低炭素鋼としては、Tiを添加して固溶Cを無くしたもの、一部Nbを微量添加したものや、さらにP,Mn,Si,B等を添加して強度を向上させたもの、また、さらに微量のNi,Cu,Sn,Crなどのトランプエレメントを含有するもの等を使用できる。これらは、Ti−sulc,TiNb−sulc,P−Ti−sulc,B−Ti−sulcなどと呼ばれるものである。粒界の清浄度をex−Cで表せば、対象鋼のex−Cは、およそ−0.002以下である(後述の表1参照)。一方、特許文献1に開示されたいわゆるNbTi−sulc(表1中の「ex−C」:−0.0011)は、本発明の方法によらずに良好なめっき密着性、耐食性、および外観品位が得られるため、本発明の対象とはしない。なお、以下の説明で成分含有率の%は質量%を意味する。
【0018】
Ti−sulcとしては、詳しくは、C:0.005%以下、Si:0.02%以下、Mn:0.2%以下、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Ti:0.01〜0.1%、Nb:0.001%未満を含有するものを使用できる。
【0019】
TiNb−sulcとしては、詳しくは、C:0.005%以下、Si:0.02%以下、Mn:0.2%以下、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Ti:0.01〜0.1%、Nb:0.001〜0.01%を含有するものを使用できる。
【0020】
P−Ti−sulcとしては、詳しくは、C:0.007%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.05〜2.0%、P:0.02〜0.1%、S:0.02%以下、Ti:0.01〜0.1%、Nb:0.001%未満、B:1〜10ppmを含有するものを使用できる。
【0021】
B−Ti−sulcとしては、詳しくは、C:0.005%以下、Si:0.02%以下、Mn:0.2%以下、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Ti:0.01〜0.1%、Nb:0.001%未満、B:1〜10ppmを含有するものを使用できる。
【0022】
なお、本発明の対象外であるNbTi−sulcとは、詳しくは、C:0.005%以下、Si:0.02%以下、Mn:0.2%以下、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Ti:0.01〜0.1%、Nb:0.01%超、0.03%以下を含有するものである。
【0023】
本発明の合金化溶融亜鉛めっきのめっき層は、Znを主成分としてFe含有率が8〜13質量%であって、さらにAl,Niおよび不可避的不純物を含有したものである。Fe含有率が8質量%未満では、未合金のため塗装後耐食性が不良となり、またζ相が多いために摺動性が不良となって加工時にフレーキングを起こす。Fe含有率が13質量%を越えると、Γ相が厚くなってパウダリング性が劣化する。フレーキング性とパウダリング性、塗装後耐食性をより高度に満足するためには、Fe含有率は9〜12質量%であることが好ましい。パウダリング性を良好に保つためには、Γ相厚みが1.5μm以下であることが好ましい。より好適には1μm以下である。自動車用鋼板として用いる場合には、めっき層の付着量が30g/m以上、60g/m以下であることが好適である。30g/m未満では耐食性が不足する。60g/m超ではスポット溶接時の連続打点性が低下する。
【0024】
めっき層中に含有させるAl,Niの付着量には、図1に示すような好適範囲が存在する。この根拠を、以下に順次説明する。
本発明の対象であるTi含有極低炭素鋼板は結晶粒界が清浄であるために、合金化反応時にアウトバースト現象が起こりやすい。また、焼鈍後の地鉄組織に、圧延方向に線状に伸びた未再結晶粒が部分的に生じることが多く、線状の合金化むら(線状模様)が発生しやすい。これらを抑制するためには、溶融亜鉛めっきの浴中初期合金化反応を制御して、適切な初期合金層を形成させる必要がある。
【0025】
本発明者らは、焼鈍済みの鋼板にNiプレめっきを施したのち、Alを微量添加した溶融亜鉛めっき浴でめっきし、加熱合金化させる技術に着目して、溶融亜鉛めっきの浴中初期合金化反応について検討した。その結果、以下の知見が得られた。
1) 初期合金層中には、Fe−Al系化合物とNiAlの2種類が生成しうる。これはめっき浴中で、鋼板から溶出したFeとプレめっきから溶出したNiが、めっき浴中Alと競争的に反応するためである。
2) Fe−Al系化合物にはアウトバーストや線状合金化むらを抑制するバリア効果があるが、NiAlはその効果が無い。
3) NbTi−sulcを原板とした場合、初期合金層中に上記2種類の化合物が混在していても、アウトバーストや線状合金化むらは起こらない。これは、NbTi−sulcでは合金化時のFe拡散速度がゆるやかなためである。
4) Ti含有極低炭素鋼板を原板とした場合、初期合金層中に上記2種類の化合物が混在していると、アウトバーストや線状合金化むらが起こりやすい。これはTi含有極低炭素鋼板では合金化時のFe拡散速度が極めて速いためである。
5) したがって、Ti含有極低炭素鋼板を原板として、アウトバーストや線状合金化むらを抑制するには、初期合金層としてFe−Al系化合物を単独で一定量以上生成させ、かつNiAlは初期合金層内には生成させずにめっき層内に生成させるべきである。
【0026】
そこで、上記5)を満足するためのプレNiめっき法における製造条件を鋭意検討した。その結果、プレNiめっき量、めっき浴中Al濃度、めっき浴中Ni濃度、めっき浴中Fe濃度、侵入板温、めっき浴温をそれぞれ、鋼種ごとのFe拡散速度に応じて適正化する必要があることを見出した。特許文献7に開示されたそれぞれの好適範囲と比較しながら、上記5)を満足する適正範囲とその理由を以下に述べる。
【0027】
a) プレNiめっき量:0.05〜0.25g/m が適正
上記1)よりプレNiめっき量を低減することで、めっき浴中の地鉄表面近傍において、鋼板から溶出したFeとめっき浴中Alとの浴中反応を優先的に起こさせることができる。この結果、初期合金層としてFe−Al系化合物を単独で生成させることができる。
b) めっき浴中Al濃度:0.185〜0.195質量% が適正
Ti含有極低炭素鋼板は、めっき浴中でのFe溶出速度も速い。したがって、浴中Al濃度を高くすることで、より多くのFe−Al系化合物を生成させることができる。
c) めっき浴中Ni濃度:0.05〜0.06質量% が適正
プレNiめっき後の鋼板を溶融めっき中に浸漬した際に、Niの溶出が急激に起こると、Fe−Al生成反応が阻害される。これを防ぐために、めっき浴中Ni濃度は高めに設定する。
d) めっき浴中Fe濃度:0.01〜0.02質量% が適正
上記c)とは逆に、プレNiめっき後の鋼板を溶融めっき中に浸漬した際に、Feの溶出を促進させるために、めっき浴中Fe濃度は低めに設定する。
e) 侵入板温 :405〜415℃ が適正
上記c)と同じ理由で、侵入板温は低めに設定する。侵入板温が高いとNiの溶出が急激に起こる。一方、侵入板温をめっき浴温よりもやや低く設定することで、Feの溶出を促進することができる。
f) めっき浴温:430〜440℃ が適正
上記c)と同じ理由で、めっき浴温も低めに設定する。浴温が高いとNiの溶出が急激に起こる。
【0028】
図2に本発明例と比較例のめっき浴中合金化反応と加熱後の合金化反応を模式的に示す。ワイピング後の状態で、めっき浴中での初期合金化反応が完了している。これを加熱合金化すると、本発明例では合金化が均一に起こり、Γ層厚みも均一になるのに対して、比較例では合金化が不均一に起こって、アウトバーストや線状合金化むらが発生し、Γ層が厚く不均一になる。
【0029】
ここで、ワイピング完了後の状態から加熱合金化完了までの間で、めっき層中のAl,Niの付着量(mg/m)に増減は無い。したがって、合金化完了後のAl,Niの付着量、および両者の量関係は、ワイピング完了後の状態、すなわち初期合金化完了時の状態を反映した値しかとり得ない。そこで本発明者らは、上記a)〜f)に留意しつつ、種々の製造条件でめっき実験を行った。この際、ワイピング完了後のサンプル(GI止め材)と合金化完了後のサンプル(GA材)の両方について、その組成・構造を分析するとともに、GA材の性能評価を行うことにより、上記5)を満足したGI止め材と、目標性能を満足したGA材の、Al,Ni付着量の好適範囲が一致することを確認した。以下にその好適範囲について説明する。
【0030】
GA材のめっき層中Al付着量は、GI止め材の初期合金層中Fe−Al系化合物の生成量と対応しており、190mg/m〜550mg/mが好適である。190mg/m未満では、Fe−Al系化合物の生成量が不足し、アウトバーストや線状合金化むらを抑制できない。熱延条件や焼鈍条件が大きくばらついた場合でも、線状合金化むらを生じさせないためには、Al付着量は250mg/m以上であることがより好適である。一方、550mg/mを越えると、Fe−Al系化合物のバリア効果によって合金化速度が著しく遅くなり、合金化温度を高温、例えば600℃以上にするか、もしくは通板速度を遅くしなければならず、経済的でない。より好適には、500mg/m以下である。
【0031】
GA材のめっき層中Ni付着量は、GI止め材の初期合金化反応完了後に生成したNiAlの量に対応している。同時に、浴侵入前のプレNiめっき量とも対応しており、プレNiめっき量から、浴中で沖合に溶解・拡散したNi量を引いた値が、GA材のめっき層中Ni付着量である。プレNiめっき量を0.05g/m以上とした場合、GA材のめっき層中Ni付着量は35mg/m以上となる。35mg/m未満では、プレNiめっき量が0.05g/m未満であり、ひきつづき溶融亜鉛めっきを行う際に、不めっきが発生する。一方、GA材のめっき層中Ni付着量が、350−(1/2)Al (mg/m)を越えた場合には、GI止め材の初期合金層中にNiAlが生成されており、Fe−Al系化合物単独ではなくなる。このようなGI止め材を加熱合金化すると、アウトバーストや線状合金化むらが起こりやすい。より好適には、50mg/m以上、350−(1/2)Al (mg/m)以下である。
【0032】
GA材のめっき層中Al付着量、Ni付着量は、GAの耐食性にも影響する。理由は明らかではないが、Al,Niを合金化の過程でめっき層中に一定量以上、均一分散させると、めっき層の耐食性を向上させる効果がある。しかしながら、Ni付着量が300mg/m以上の場合や、Ni付着量が190mg/m以上でNi/Al比率が1.45以上、すなわちNiAlのNi/Al比率よりもNiが過多になった場合には、合金化の過程でNiがめっき表層に濃化しやすく、耐食性への悪影響が見られるようになってくる。
また、Al付着量、Ni付着量がともに190mg/m未満の場合には、Al,Niによる耐食性向上効果が不十分である。
【0033】
なお、前記a)〜f)に示した操業条件の内、a)およびe)はめっき原板の鋼種によってチャンスフリーで変更することが可能である。そこで、めっき原板としてNbTi−sulcおよびP添加BH鋼板を用いて、b)〜d)およびf)の条件を前記の範囲で固定したまま、a)およびe)を変化させたところ、いずれについても、工業的に生産可能な合金化条件でGAを製造できる範囲を有することが確認された。すなわち、b)〜d)およびf)を満足する単一のめっき浴を用いて、a)およびe)の条件を鋼種に応じて最適化することにより、Ti添加極低炭素鋼板、NbTi−sulcおよびP添加BH鋼板のGAを作り分けることができる。
【実施例】
【0034】
次に、実施例によって本発明を詳細に説明する。
(1)供試鋼材
表1に供試した焼鈍済みの極低炭素鋼板の成分を示す。比較材として、NbTi−sulcを用いた。板厚はいずれも0.6mmである。
【0035】
【表1】

【0036】
(2)めっき条件
供試材をNaOH 50g/l、65℃のアルカリ水溶液中に10s浸漬して脱脂したのち、HSO 100g/l、30℃の水溶液中に5s浸漬して酸洗した。
そして、表2に示す組成のNiめっき浴(浴温60℃、pH2.7)を用いて電流密度30A/dmでNiプレめっきを行った。これを4%H−N雰囲気中で50℃/sの昇温速度で侵入板温まで加熱し、ただちに後述の表3に示す組成、浴温の溶融亜鉛めっき浴に浸漬した。浸漬時間は2.5〜3.5sであった。浴から出したあと、ワイピングで目付けを制御し、ただちに合金化した。昇温速度は50℃/s、合金化温度は表3に示す値、均熱時間無しで、5℃/sで15〜20s徐冷ののち、25℃/sで5〜7s冷却した。その後、0.3%の調質圧延を行った。また、浴から出したあと加熱合金化を行わないサンプル(GI止め材)も作成し、初期合金層の分析に供した。
比較例のめっき条件は以下のようにした。表3中の比較例35〜40は、特許文献7に記載のプレNiめっき法によるものである。焼鈍済みの極低炭素鋼板を用いて、アルカリ脱脂、酸洗、Niプレめっきののち、溶融亜鉛めっきおよび加熱・合金化を行った。一方、比較例41〜43は、プレNiめっきを行わずに、焼鈍前の極低炭素鋼板を、焼鈍炉つきの溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインにて、通常の方法で製造したものである。焼鈍条件は、5%H−N雰囲気中で740℃、60sである。焼鈍後ただちに溶融亜鉛めっきおよび加熱合金化を行った。
【0037】
【表2】

【0038】
(3)分析
発煙硝酸を用いてGI止め材のめっき層のみを溶解し、SEMにより過溶解が無かったことを確認後、残った初期合金層をX線回折で分析して、Fe−Al化合物(FeAlZn)およびNiAlの有無を判定した。Fe−Al化合物(FeAlZn)の判定には、d=3.80、NiAlの判定には、d=2.85の回折線を用い、その他の回折線も参考にしながら判断した。GA材をインヒビター入りの5%塩酸で溶解して、ICPにより、Zn,Fe,Al,Niの付着量を求めた。これらを合計したものを、めっき層の付着量とした。
(4)性能評価
Γ層厚みは、めっき断面をナイタール(アルコール+硝酸)等のエッチング剤でエッチングして、地鉄界面近傍を光学顕微鏡で観察することで求めた。サンプルはN=3とし、各サンプルごとに、十分離れた平均的な視野10箇所を観察して厚みを測定し、全体の平均をΓ層厚みとした。
めっき密着性の評価は以下のようにして行った。供試材を50mm×200mmに切り出し、プレス油を塗油したのち、荷重400kgf(約3922.66N)でドロービード試験を行った。ビード通過部をテープ剥離して、テープの黒化度を測定した。黒化度が大きいほどパウダリングが激しく、めっき密着性に劣る。
4:黒化度 2未満
3:黒化度 2以上、4未満
2:黒化度 4以上、6未満
1:黒化度 6以上
線状模様の評価は、供試材の幅方向100mm当たりに発生した、目視で確認できる模様の本数で以下のように評価した。
4:線状模様なし
3:1〜5本
2:6〜10本
1:10本超
耐食性の評価は以下のようにして行った。供試材を70mm×150mmに切り出し、アルカリ脱脂(日本パーカライジング製、FC−E2001)、化成処理(日本パーカライジング製、PB−SX35)、カチオン電着塗装(日本ペイント製、PN120M、膜厚20μm)を行ったのち、中央部に地鉄まで届くカット傷を入れた。これを、JASO M609−91法により腐食促進試験を4週間行い、カットからの塗膜膨れ幅を測定した。
4:塗膜膨れ幅 1mm未満
3:塗膜膨れ幅 1mm以上、2mm未満
2:塗膜膨れ幅 2mm以上、4mm未満
1:塗膜膨れ幅 4mm以上
生産性の評価は、供試材の用途(グレード)に合った材質を確保するのに必要な焼鈍温度によって、以下のように判断した。焼鈍温度が低いほど生産性に優れる。
4:焼鈍温度 750℃未満
3:焼鈍温度 750℃以上、760℃未満
2:焼鈍温度 760℃以上、770℃未満
1:焼鈍温度 770℃以上
【0039】
性能評価結果を表3に示す。
【表3】

【0040】
本発明品はいずれもGI止め材の初期合金層がFe−Al系化合物のみで形成され、GAのめっき層中Al,Niの付着量(mg/m)が図1の一点鎖線で囲まれた範囲内、または破線で囲まれた範囲内にある。その結果、深絞り性と延性に優れたTi含有極低炭素鋼板を原板としながら、めっき層のめっき密着性、外観品位、耐食性のいずれにも優れ、かつ高い生産性で製造することができる。
【0041】
これに対して、比較例35〜37、40は、Al,Niの付着量(mg/m)が図1の一点鎖線で囲まれた範囲内にないため、GI止め材の初期合金層中にFe−Al系化合物とNiAlが混在しており、その結果、めっき密着性や外観品位が本発明例よりも劣る。比較例38,39は、NbTi−sulcを用いた比較例である。Al,Niの付着量(mg/m)が図1の一点鎖線で囲まれた範囲内にあるかないかにかかわらず、優れためっき密着性や外観品位が得られるものの、焼鈍温度が高く生産性に劣る。また、深絞り性と延性においてTi含有極低炭素鋼板よりも劣る。
【0042】
比較例41は、プレNiめっき法ではなく、特許文献4の方法によりめっき浴中にNiを添加したものである。初期合金層はFe−Al系化合物のみであるが、その生成量が不足しており、加熱合金化によるアウトバーストや線状合金化むらを抑制することができない。また、浴中添加したNiが合金化の過程でめっき表層に濃化し、耐食性に悪影響を与える。
【0043】
比較例42,43もプレNi法ではなく、通常のゼンジミア法でめっき浴中のAl濃度を変化させたものである。比較例42は、NbTi−sulcをはじめとする多くの鋼種で採用されている浴組成、めっき条件であるが、Ti−sulcに適用すると、初期合金層のFe−Al系化合物生成量が他の鋼種と同程度しか得られず、加熱合金化によるアウトバーストや線状合金化むらを抑制することができない。比較例43は、めっき浴中Al濃度を高くした場合である。Fe−Al系化合物生成量は増えているが、まだ不足している。これ以上の高Al添加浴を追及しても、それはTi−sulcのみのためのめっき浴となってしまい、他の鋼種では低Al浴に交換せざるを得ず、経済的でない。
【0044】
本発明の進歩性を明らかにするため、鋼種の同じ実施例、比較例を横並びで比較してみる。ゼンジミア法による従来技術が比較例42、同じ鋼種のプレNi法による従来技術が比較例36、本発明例が実施例18である。Γ層厚みは、順に、2.5μm、1.7μm、0.7μmであり、これに伴って、めっき密着性や線状模様も大幅に改善されている。また、従来技術に比べて、耐食性も大きく向上している。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明により、優れた深絞り性と延性が安定して得られるため、自動車用冷延鋼板の原板として幅広く適用されてきたTi含有極低炭素鋼板を、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の原板としても利用することが可能となる。これは、自動車用鋼板の品質・性能を高めるのみならず、製鉄業においても、冷延鋼板の原板と合金化溶融亜鉛めっき鋼板の原板を統合できることを意味している。したがって、その産業上の利用価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例に係るめっき層におけるNiとAlとの付着量の関係を示すグラフである。ただし、グラフ中の一点鎖線内は、特許請求の範囲の請求項1に係る発明のNi,Alの各付着量の範囲を、破線内は請求項2に係る発明のNi,Alの各付着量の範囲をそれぞれ示している。
【図2】本発明例および比較例のめっき浴中初期合金化反応と加熱後合金化反応の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tiを含有する極低炭素鋼の少なくとも片面に、Znを主成分とし、Fe含有率が8〜13質量%であって、さらにAl,Niおよび不可避的不純物を含有するめっき層を有し、該めっき層におけるAl,Niの各付着量が、
190≦Al(mg/m)≦550
35≦Ni(mg/m)≦350−(1/2)Al
を満足することを特徴とする加工性、めっき密着性、耐食性、および外観品位に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
Tiを含有する極低炭素鋼の少なくとも片面に、Znを主成分とし、Fe含有率が8〜13質量%であって、さらにAl,Niおよび不可避的不純物を含有するめっき層を有し、該めっき層におけるAl,Niの各付着量が、
250≦ Al(mg/m) ≦500
50≦ Ni(mg/m) ≦325−(1/2)Al
を満足することを特徴とする加工性、めっき密着性、耐食性、および外観品位に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
めっき層のΓ層平均厚みが1.5μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の加工性、めっき密着性、耐食性、および外観品位に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
めっき層の付着量が30g/m以上、60g/m以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加工性、めっき密着性、耐食性、および外観品位に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。






















【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−280859(P2009−280859A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133539(P2008−133539)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】