説明

加工性の優れた耐時効冷延鋼板及びその製造方法

【課題】自動車、家電製品などの素材として用いられる冷延鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】該冷延鋼板は、重量%でC:0.003%以下、S:0.003〜0.03%、Al:0.01〜0.1%、N:0.02%以下、P:0.2%以下、さらにMn:0.03〜0.2%とCu:0.005〜0.2%の1種、または2種を含有し、上記Mn、Cu、Sが次の条件0.58×Mn/S≦10、0.5×Cu/S:1〜10、Mn+Cu≦0.3、0.5×(Mn+Cu)/S:2〜20を満足し、MnS、CuS、(Mn、Cu)Sの析出物の平均大きさが0.2μm以下に分布し、残部Fe及びその他の不可避的不純物から成る。該冷延鋼板は、微細なMnS、CuS、(Mn、Cu)Sの析出物によって結晶粒中の固溶炭素量が調節され耐時効特性とともに加工性が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電製品などの素材として用いられる冷延鋼板に関するものである。より詳しくは、結晶粒中の固溶炭素量の臨界値を微細な析出物によって調節することで、耐時効特性および加工性が改善された冷延鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電製品に用いられる冷延鋼板には、強度と成形性の確保、かつ耐時効特性が要求される。時効は、固溶元素(C、N)が転位に固着することにより硬化が起こりながらストレッチャーストレイン(Stretcher Strain)という欠陥を引き起こす、いわゆる変形時効現象である。
【0003】
冷延鋼板の耐時効性は、アルミニウムキルド鋼のバッチ焼鈍によって確保可能である。しかし、バッチ焼鈍は焼鈍時間が長いため生産性が低く、部位別に材質バラツキが激しいとの短所がある。そのため、Ti、Nbのような強力な炭、窒化物形成元素を添加して連続焼鈍するIF鋼(Interstitial Free Steel)を主に用いている。
【0004】
IF鋼を製造するためには、強力な炭、窒化物形成元素であるTi、Nbなどを添加しなければならない。これらの元素は、再結晶温度を上昇させるため、高温で焼鈍せざるを得ない。そのため、生産性が低くなり、エネルギーを過多に使用し原価が上昇するばかりでなく、種々の公害を引き起こす。また、高温で焼鈍すると、クラックや形状欠陥などの様々な欠陥が生じやすい短所がある。また、Ti、Nbは酸化性が強いため、製鋼中、多くの非金属介在物を生成して鋼板の表面欠陥を引き起こしてしまう。また、IF鋼は、結晶粒界が脆弱で、加工後に脆性が発生する、いわゆる2次加工脆性が生じるような短所がある。これを防ぐために、Bなどの元素を添加している。特に、IF鋼の場合、メッキ及び塗装などの表面処理を施す製品において多くの欠陥を引き起こす短所がある。
【0005】
かかる問題を解決すべく、TiやNbを添加しないTi、Nb非添加鋼が提案されている。その例として、日本公開特許公報平6-093376、6-093377、6-212354号は、Ti、Nbを添加しない代わりに、Bを0.0001〜0.003%添加した鋼にC:0.0001〜0.0015%となるように厳密に管理して耐時効性を改善する技術が開示されている。しかし、該先行技術では、耐時効性は十分ではなく、耐時効性確保のために焼鈍後に急冷を薦めている。この場合、殆どは水冷をするため、水冷時に発生する酸化被膜を除去するために再び酸洗処理を施し、そのため表面が不具合となり、追加費用がかかる。また、これらの鋼種は強度が低い短所がある。また、面内異方性が劣悪なためシワと耳(ear)が発生し、素材の浪費が多いとの短所がある。
【0006】
一方、本発明者は大韓民国公開特許公報2000-0039137号にTi、Nbを添加せずに延性を向上させ、張出し加工特性の優れた冷延鋼板の製造方法を提案した事がある。該冷延鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.0005〜0.002%以下、Mn:0.05〜0.3%、S:0.015%以下、P:0.015%以下、Al:0.01〜0.08%、N:0.001〜0.005%、上記C+N+S+Pが0.025%以下を満足し、残部Fe及びその他の不可避的に含有される元素を含んだ鋼スラブを、仕上げ圧延温度をAr変態点以上として熱間圧延し、その後750℃以下の温度で巻取った後、50〜90%の圧下率で冷間圧延し、650〜850℃範囲の温度で10秒以上連続焼鈍するものである。こうして得られた冷延鋼板は耐時効性を確保しつつ、延性が優れる。該冷延鋼板は、C+N+S+Pを0.025%以下に制御するため、製造工程で脱硫及び脱リン能力を強化しなければならず、生産性及び原価の側面において非常に不利である。また、材質の側面においては降伏強度が低すぎてより厚い素材を使用せざるを得ない問題点がある。また、加工時には面内異方性指数(Δr値)が高すぎてシワが過多発生し、破断される問題点がある。
【0007】
また、本発明者は大韓民国公開特許公報2002−0049667号に引長強度340MPa級の高強度鋼において降伏強度を向上させることのできる冷延鋼板の製造方法を提案した事がある。該冷延鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.0005〜0.003%、Mn:0.1%以下、 S:0.003〜0.02%、P:0.03〜0.07%、Al:0.01〜0.1%、N:0.005%以下、Cu:0.05〜0.3%、Cu/S原子比2〜10である鋼をAr変態点以上として熱間圧延し、50〜90%の圧下率で冷間圧延し、700〜880℃範囲の温度で10秒〜5分間連続焼鈍することである。こうして得られた冷延鋼板は、340MPa級の高強度鋼において降伏強度を240MPaレベルに増加されている。しかし、時効指数が30MPaより大きいため耐時効特性を確保することができず、また、塑性異方性指数(r)が1.8レベルで面内異方性指数も0.5以上と高く、シワが過多発生して破断されるような不具合がある。
【0008】
一方、降伏強度の高い耐時効冷延鋼板で極低炭素鋼にPの含量を高めつつ、0.3〜0.7%のMnとTiを添加した冷延鋼板が知られている。該冷延鋼板は、延性−脆性遷移温度が0〜30℃で常温でも衝撃時に破断が起こる程、耐2次加工脆性が良くない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、Ti、Nbを添加せず加工性および耐時効特性の改善された冷延鋼板及びその製造方法を提供することにその目的がある。さらに、本発明では降伏強度、強度−延性バランス特性、耐2次加工脆性が優れており、一定レベル以上の塑性異方性指数を有しながらも面内異方性の小さい冷延鋼板及びその製造方法を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の冷延鋼板は、重量%で、C:0.003%以下、S:0.003〜0.03%、Al:0.01〜0.1%、N:0.02%以下、P:0.2%以下、さらにMn:0.03〜0.2%とCu:0.005〜0.2%の1種または2種を含有し、上記Mn、Cu、Sが次の条件0.58×Mn/S≦10、0.5×Cu/S:1〜10、Mn+Cu≦0.3、0.5×(Mn+Cu)/S:2〜20を満足し、MnS、CuS、(Mn、Cu)Sの析出物の平均大きさが0.2μm以下であり、残部Fe及びその他の不可避的不純物から成るものである。
【0011】
かかる本発明の冷延鋼板は、MnとCuの添加形態によって3種類に分けられる。即ち、(1)Mn単独添加鋼(Cu無添加、以下、MnS析出鋼と表記する場合もある)、(2)Cu単独添加鋼(Mn無添加、以下、CuS析出鋼と表記する場合もある)、(3)MnとCu添加鋼(以下、MnCu析出鋼と表記する場合もある)がある。
【0012】
(1)MnS析出鋼は、重量%で、C:0.003%以下、S:0.005〜0.03%、Al:0.01〜0.1%、N:0.02%以下、P:0.2%以下、Mn:0.05〜0.2%、上記 Mn、Sが次の条件0.58×Mn/S≦10を満足し、MnS析出物の平均大きさが0.2μm以下で、残部Fe及びその他の不可避的不純物から成るものである。該鋼の製造方法は、重量%で、C:0.003%以下、S:0.005〜0.03%、Al:0.01〜0.1%、N:0.02%以下、P:0.2%以下、Mn:0.05〜0.2%、上記Mn、Sが次の条件0.58×Mn/S≦10を満足し、残部Fe及びその他の不可避的不純物から成るスラブを1100℃以上の温度で再加熱した後、仕上げ圧延温度をAr変態点以上として熱間圧延し、200℃/min以上の速度で冷却して700℃以下の温度で巻取ってから冷間圧延して連続焼鈍するものである。
【0013】
(2)CuS析出鋼は、重量%で、C:0.0005〜0.003%、S:0.003〜0.025%、Al:0.01〜0.08%、N:0.02%以下、P:0.2%以下、Cu:0.01〜0.2%、上記Cu、Sが次の条件0.5×Cu/S:1〜10を満足し、CuS析出物の平均大きさが0.1μm以下で、残部Fe及びその他の不可避的不純物から成るものである。該鋼の製造方法は、重量%で、C:0.0005〜0.003%、S:0.003〜0.025%、Al:0.01〜0.08%、N:0.02%以下、P:0.2%以下、Cu:0.01〜0.2%、上記Cu、Sが次の条件0.5×Cu/S:1〜10を満足し、残部Fe及びその他の不可避的不純物から成るスラブを1100℃以上の温度で再加熱した後、仕上げ圧延温度をAr変態点以上として熱間圧延し、300℃/min以上の速度で冷却して700℃以下の温度で巻取った後、冷間圧延して、連続焼鈍するものである。
【0014】
(3)MnCu析出鋼は、重量%で、C:0.0005〜0.003%、S:0.003〜0.025%、Al:0.01〜0.08%、N:0.02%以下、P:0.2%以下、Mn:0.03〜0.2% Cu:0.005〜0.2%を含有し、上記Mn、Cu、Sが次の条件Mn+Cu≦0.3、0.5×(Mn+Cu)/S:2〜20を満足し、MnS、CuS、(Mn、Cu)Sの析出物の平均大きさが0.2μm以下で、残部Fe及びその他の不可避的不純物から成るものである。該鋼の製造方法は、重量%で、C:0.0005〜0.003%、S:0.003〜0.025%、Al:0.01〜0.08%、N:0.02%以下、P:0.2%以下、Mn:0.03〜0.2% 、Cu:0.005〜0.2%を含有し、上記Mn、Cu、Sが次の条件Mn+Cu≦0.3、0.5×(Mn+Cu)/S:2〜20を満足し、残部Fe及びその他の不可避的不純物から成るスラブを1100℃以上の温度で再加熱した後、仕上げ圧延温度をAr変態点以上として熱間圧延し、300℃/min以上の速度で冷却して700℃以下の温度で巻取ってから、冷間圧延して、連続焼鈍するものである。
【0015】
上記した本発明の冷延鋼板らは、引長強度280MPa級の軟質冷延鋼板と、340MPa級以上の高強度冷延鋼板でも適用され得る。
【0016】
280MPa級の軟質鋼板の場合には、重量%で、C:0.003%以下、S:0.003〜0.03%、Al:0.01〜0.1%、N:0.004%以下、P:0.015%以下、さらにMn:0.03〜0.2%とCu:0.005〜0.2%の1種または2種を含有し、上記Mn、Cu、Sが次の条件0.58×Mn/S≦10、0.5×Cu/S:1〜10、Mn+Cu≦0.3、0.5×(Mn+Cu)/S:2〜20を満足し、MnS、CuS、(Mn、Cu)Sの析出物の平均大きさが0.2μm以下で、残部Fe及びその他の不可避的不純物から成るものである。
【0017】
340MPa級以上の高強度冷延鋼板の場合には、上記した軟質冷延鋼板で固溶強化元素であるP、Si、Crの1種または2種がさらに含有される鋼種と、析出強化元素であるNの含量を高めた鋼種に分けられる。即ち、上記した軟質冷延鋼板にP:0.2%以下、Si:0.1〜0.8%、Cr:0.2〜1.2%の1種または2種が含有されることが好ましい。Pが単独に含有される場合には、Pの含量は0.03〜0.2%が好ましい。若しくは、Nの含量を0.005〜0.02%に上げ、Pの含量を0.03〜0.06%としてAlN析出物により高強度特性を確保することができる。
【0018】
本発明の冷延鋼板で加工性をより改善したい場合は、Moを0.01〜0.2%さらに含むことができ、非時効特性を確保したい場合はVを0.01〜0.2%さらに含むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
本発明者らは、Ti、Nbを添加せず耐時効特性を改善するための研究過程において、次のような新知見を得た。即ち、微細なMnS、CuS、(Mn、Cu)Sの析出物が結晶粒中の固溶炭素量を好適に調節して、耐時効特性を改善するとのことである。これらの析出物は、析出強化による降伏強度の上昇と強度−延性バランス特性の改善、かつ面内異方性指数にも肯定的な影響を与える。
【0021】
図1に示しているように、MnS、CuS、(Mn、Cu)Sの析出物が微細に分布するほど結晶粒中の固溶炭素量が減っていることが判る。結晶粒中に残存する固溶炭素は、移動が比較的自在であるため、可動転位と結合して時効特性に影響を及ぼすこととなる。従って、結晶粒中の固溶炭素量を一定レベル以下に減らせば、耐時効特性が改善される。耐時効特性を確保するためには結晶粒中の固溶炭素量は、少なくとも20ppm以下、好ましくは、15ppm以下のレベルである。図1は、炭素含量が0.003%の鋼に関するものであって、MnS、CuS、(Mn、Cu)Sの析出物が約0.2μm以下で分布する場合、結晶粒中の固溶炭素量を20ppm以下に調節することができる。結晶粒中の固溶炭素量を最も好ましき条件である15ppm以下に調節するための析出物の大きさは、図1で見た時、MnS析出物の場合に約0.2μm以下、CuS析出物の場合に約0.1μm以下、MnS、CuS、(Mn、Cu)S析出物の場合に0.1μm以下である。
【0022】
このように、結晶粒中の固溶炭素量を20ppm以下のレベルに調節するためには鋼中に添加する炭素の含量を0.003%以下にしつつ、MnS、CuS、(Mn、Cu)S析出物を微細に分布させることが重要である。本発明では、微細なMnS、CuS、(Mn、Cu)Sを利用することによって、製鋼工程において鋼中の炭素含量を負荷の少ない0.003%まで拡大することができる。
【0023】
かかる新たな事実に注目して析出物を微細に分布させる方案について研究することに至った。その結果、Mn、Cu、Sの含量とこれらの成分比を調節することが必要であること、これと共に熱間圧延が終了したのち冷却速度を調節して微細な析出物を得ることができることを見出した。
【0024】
図2aは、0.0018%C−0.15%Mn−0.008%P−0.015%S−0.03%Al−0.0012%Nである鋼(0.58×Mn/S:5.8)を熱間圧延後、冷却速度による析出物の大きさを調査したグラフである。図2aを見れば、MnとSの成分比(0.58×Mn/S)が10以下を満足する鋼種に対して冷却速度を調節するとMnSの析出物大きさが0.2μm以下を満足することができることが確認できる。
【0025】
また、図3aは、0.0018%C−0.01%P−0.008%S−0.05%Al−0.0014%N−0.041%Cuである鋼(0.5×Cu/S:2.56)を熱間圧延後、冷却速度による析出物の大きさを調査したグラフである。図3aを見れば、CuとSの成分比(0.5×Cu/S)が10以下を満足する鋼種に対して冷却速度を調節するとCuSの析出物大きさが0.1μm以下を満足することができることが確認できる。
【0026】
また、図4aは0.0025%C−0.13%Mn−0.009%P−0.015%S−0.04%Al−0.0029%N−0.04%Cuである鋼(Mn+Cu:0.17、0.5×(Mn+Cu)/S:5.67)を熱間圧延後、冷却速度に応じた析出物の大きさを調べたグラフである。図4aを見れば、Mn、Cu、Sの成分比(0.5×(Mn+Cu)/S)が20以下を満足する鋼種に対して冷却速度を調節すると、MnS、CuS、(Mn、Cu)Sの析出物大きさが0.2μm以下を満足することができることが確認できる。
【0027】
本発明の冷延鋼板は、降伏強度が高く、鋼板の厚さを減らすことができ、かつ軽量化効果がある。また、面内異方性が低いため、加工時にシワ発生が少なく、かつ加工後には耳(ear)の発生が少ないとの長所がある。かかる本発明の冷延鋼板及びその製造方法を以下に具体的に説明する。
【0028】
[本発明の冷延鋼板]
炭素(C)の含量は、0.003%以下が好ましい。
炭素含量が0.003%以上の場合、鋼中の固溶炭素量が多くて耐時効性の確保が困難であり、焼鈍板の結晶粒が微細となり延性が著しく低くなる。より好ましくは、炭素(C)の含量が0.0005〜0.003%である。炭素(C)の含量が0.0005%未満の場合には熱延板の結晶粒が粗大なため強度が低くなり、面内異方性が高くなり得るからである。本発明では、結晶粒中の固溶炭素量を下げることができるので、炭素含量を0.003%まで上げることができる。従って、炭素含量を極力下げるための脱炭処理を省略することができる。そのための炭素の含量は、0.002%超〜0.003%以下の範囲である。
【0029】
硫黄(S)の含量は、0.003〜0.03%が好ましい。
硫黄(S)の含量が0.003%未満の場合にはMnS、CuS、(Mn、Cu)S析出量が少ないばかりでなく、析出物の大きさが極めて粗大なため耐時効性が良くない。硫黄含量が0.03%超の場合には固溶された硫黄の含量が多く延性及び成形性が著しく低くなり、赤熱脆性の恐れがある。本発明においてMnS析出鋼の場合に硫黄の含量は、0.005〜0.03%が好ましい。また、CuS析出鋼の場合に硫黄の含量は、0.003〜0.025%が好ましい。また、MnCu析出鋼の場合に硫黄の含量は、0.003〜0.025%が好ましい。
【0030】
アルミニウム(Al)の含量は、0.01〜0.1%が好ましい。
アルミニウムは、脱酸剤として添加する元素であるが、本発明では鋼中の窒素を析出して固溶窒素による時効を完全に防止するために添加する。アルミニウムの含量が0.01%未満の場合には、固溶窒素量が多くて時効現象を防止しにくく、アルミニウムの含量が0.1%超の場合には固溶状態で存在するアルミニウム量が多くて延性が低下する。CuS析出鋼とMnCu析出鋼で好ましきAlの含量は、0.01〜0.08%である。本発明において窒素(N)の含量が0.005〜0.02%と高くなる場合には、AlN析出物による強化効果により高強度鋼板を得ることができる。
【0031】
窒素(N)の含量は、0.02%以下が好ましい。
窒素は、製鋼中に不可避的に添加される元素で、強化効果のためには0.02%の範囲まで添加することが好ましい。軟質の鋼板を得たい場合、窒素は0.004%以下が好ましい。高強度鋼板を得たい場合は0.005〜0.02%が好ましい。強化効果のためには、0.005%以上添加しなければならないが、その添加量が0.02%を超えると成形性が低下される。窒素により高強度鋼板を得ようとする場合、リンの含量は0.03〜0.06%が好ましい。
【0032】
本発明において、AlN析出物により高強度を確保しようとする場合には、AlとNの添加比、即ち、0.52×Al/N(AlとNは重量%)を1〜5とすることがより好ましい。AlとNの添加比(0.52×Al/N)が1未満では固溶Nによる時効が発生する恐れがあり、5超の場合には強度強化の効果が殆どない。
【0033】
リン(P)の含量は、0.2%以下が好ましい。
Pは固溶強化の効果が高く、かつr(塑性異方性指数)値の低下が小さい元素で、析出物を制御する鋼において高強度を確保する。従って、Pにより高強度を確保しようとする場合にPの含量は0.2%以下が好ましい。Pの含量が0.2%超の場合には延性が低下して好ましくない。P単独添加で高強度を確保する場合には、Pの含量は0.03〜0.2%が好ましい。軟質鋼板の場合には、Pの含量は0.015%以下が好ましい。AlN析出物により高強度を確保する鋼におけるPの含量は、0.03〜0.06%が好ましい。Pの含量が0.03%以上にならないと目標とする強度を確保することができず、0.06%超の場合には延性及び成形性が低下するからである。Si、Crの添加により高強度を確保する場合にPの含量は、0.2%以下の範囲で目標とする強度を得るためにPの含量を適切に調節しても良い。
【0034】
本発明では、マンガン(Mn)と銅(Cu)の1種または2種を添加する。これらは、硫黄(S)と結合してMnS、CuS、(Mn、Cu)Sの析出物を形成する。
【0035】
マンガン(Mn)の含量は、0.03〜0.2%が好ましい。
Mnは、鋼中の固溶硫黄をMnSで析出して固溶硫黄による赤熱脆性(Hot shortness)を防止する元素として知られている。本発明においてMnは、S及び/又はCuとの含量比及び冷却速度が好適となる場合に微細なMnS及び/又は(Mn、Cu)Sとして析出し、耐時効性を基本的に確保しつつ、降伏強度、面内異方性を改善する、重要な元素である。本発明において、このような効果を発揮するためにMnの含量が0.03%以上にならなければならなず、Mnの含量が0.2%超の場合にはMnの含量が高くて粗大な析出物が生成され、耐時効性が低下してしまう。本発明においてMnの含量は、Mn単独添加(Cu無添加)の場合には0.05〜0.2%が好ましい。
【0036】
銅(Cu)の含量は、0.005〜0.2%が好ましい。
本発明においてCuは、S及び/又はMnとの含量比、そして熱間圧延工程で巻取り前の冷却速度が好適となる場合、微細な析出物を形成して結晶粒中の固溶炭素を減らし耐時効特性、面内異方性、塑性異方性を改善する重要な元素である。Cuの含量が0.005%以上にならないと微細な析出を形成することができず、0.2%超えると析出が粗大となって、耐時効特性が良くない。本発明でCu単独添加(Mn無添加)の場合には、0.01〜0.2%で添加することが好ましい。
【0037】
本発明において、微細な析出物を得るためにMn、Cu、Sの含量及びその含量比を調節するが、これらはMnとCuの添加形態によって変わる。
【0038】
MnS析出鋼の場合には、MnとSの重量比が0.58×Mn/S≦10(ここで、MnとSは重量%)を満足することが好ましい。Mnは、Sと結合してMnSとして析出されるが、該MnS析出物は、MnとSの添加量によって析出状態が変わり、時効指数、降伏強度、面内異方性指数に影響を及ぼす。0.58×Mn/Sの値が10超の場合には、MnS析出物が粗大なため時効指数が大きくなり、降伏強度、面内異方性指数の特性が良くない。
【0039】
CuS析出鋼の場合には、0.5×Cu/S(Cu、Sは重量%)の値が1〜10であることが好ましい。Cuは、Sと結合してCuSで析出されるが、該CuS析出物はCuとSの添加量によって析出状態が変わり、時効指数、塑性異方性指数、面内異方性指数に影響を及ぼす。0.5×Cu/Sが1以上にならないと有効なCuS析出物が析出できず、10超の場合にはCuS析出物が粗大となって時効指数が大きくなり、塑性異方性指数、面内異方性指数の特性が良くない。0.1μm以下のCuSを安定的に確保するために、より好ましき0.5×Cu/S値は1〜3である。
【0040】
MnとCuを添加する場合には、MnとCuの和は0.3%以下が好ましい。MnとCuの和が0.3%を超えると析出物の大きさが大きくなり、そのため耐時効特性が確保しにくくなる。また、0.5×(Mn+Cu)/S(Mn、Cu、Sは重量%)の値が2〜20であることが好ましい。MnとCuは、Sと結合してMnS、CuS、(Mn、Cu)Sで析出されるが、このような析出物はMn、CuとSの添加量によって析出状態が変わり、時効指数、塑性異方性指数、面内異方性指数に影響を及ぼす。0.5×(Mn+Cu)/Sが2以上になれば有効な析出物が得られるが、20を超える場合には析出物が粗大なため時効指数が大きくなり、塑性異方性指数、面内異方性指数の特性が良くない。本発明において、0.5×(Mn+Cu)/Sの比は2〜20の範囲で、析出物の平均大きさは0.2μm以下と小さくなる。この場合、析出物は2×10個以上分布することが好ましい。上記した0.5×(Mn+Cu)/Sの比が7を基点にして析出物の種類とその分布数は確実に変わる。即ち、0.5×(Mn+Cu)/Sの比が7以下では(Mn、Cu)Sの複合析出物より非常に微細なMnS、CuSの単独析出物が均一に多く分布するのである。0.5×(Mn+Cu)/Sの比が7より大きくなると、析出物の大きさの差が小さいにもかかわらず分布数が減るのは、(Mn、Cu)Sの複合析出物量が多くなるからである。本発明において析出物の分布数が多くなると耐時効特性、面内異方性、耐2次加工脆性などがより向上される。このために析出物の分布は、2×10個以上であることが好ましい。本発明において、0.5×(Mn+Cu)/Sの比が同一な場合であってもMnとCuの添加量の多い方が析出物の分布数が少なくなる。MnとCuの含量が多くなると、析出物の大きさが大きくなり、分布数は少なくなる。
【0041】
本発明において、MnS、CuS、(Mn、Cu)S析出物の平均大きさは、0.2μm以下が好ましい。本発明でMnS、CuS、(Mn、Cu)S析出物の大きさが0.2μm超の場合には、特に時効指数が急激に高くなり塑性異方性指数と面内異方性指数が良くない。本発明で好ましき析出物の大きさは、MnSの場合 に0.2μm以下、CuSの場合に0.1μm以下である。MnS、CuS、(Mn、Cu)Sが混在される場合には0.2μm以下、より好ましくは0.1μm以下である。これらの析出物の大きさは微細になるほど耐時効性特性の点で好ましい。
【0042】
本発明においては、340MPa級以上の高強度鋼板で適用する場合には上記 Pのような固溶強化元素、即ち、P、Si、Crの1種または2種以上を添加することができる。Pは予め開示されているので、重複記載は省略する。
【0043】
シリコン(Si)の含量は、0.1〜0.8%が好ましい。
Siは、固溶強化の効果が高く、かつ延伸率の低下の低い元素で、本発明により析出物を制御する鋼において高強度を確保する。Siの含量が0.1%以上であれば強度を確保することができ、0.8%超の場合には延性が低下する恐れがある。
【0044】
クロム(Cr)の含量は、0.2〜1.2%が好ましい。
Crは、固溶強化の効果が高く、かつ2次加工脆性温度を下げ、Cr炭化物により時効指数を下げる元素で、本発明により析出物を制御する鋼において高強度を確保し、面内異方性指数も低くする。Crの含量が0.2%以上であれば強度が確保でき、1.2%超の場合には延性が低下する恐れがある。
【0045】
本発明の冷延鋼板において、モリブデン(Mo)又は/及びバナジウム(V)が添加され得る。
モリブデン(Mo)の含量は、0.01〜0.2%が好ましい。
Moは、塑性異方性指数を上げる元素として添加されるが、その含量が0.01%以上であれば塑性異方性指数が大きくなり、0.2%を超えると塑性異方性指数はそれ以上大きくならず、熱間脆性を引き起こす恐れがある。
【0046】
バナジウム(V)の含量は、0.01〜0.2%が好ましい。
Vは、固溶Cを析出して非時効特性を確保するために添加されるが、その含量が0.01%以上であれば非時効特性を得ることができ、0.2%を超えると塑性異方性指数が低くなる恐れがある。
【0047】
上記VとCの重量比(0.25×V/C)は、1〜20を満足することがより好ましい。VとCの重量比が1未満では固溶Cの析出効果が大きくなく、20を超えると塑性異方性指数が低くなる恐れがある。
【0048】
[冷延鋼板の製造方法]
本発明は、上記した鋼組成を満足する鋼を熱間圧延と冷間圧延を通して冷間圧延板の析出物の平均大きさを微細にすることに特徴がある。析出物の大きさは、Mn、Cu、Sの含量とそれらの含量比及び製造工程に影響を受けるが、特に熱間圧延後の冷却速度に直接的な影響を受ける。
【0049】
[熱間圧延条件]
本発明では、上記した鋼組成を満足する鋼を再加熱して熱間圧延する。再加熱温度は1100℃以上が好ましい。再加熱温度が1100℃未満の場合には再加熱温度が低いため、連続鋳造中に生成された粗大な析出物が完全に溶解されない状態で残っており、熱間圧延後でも粗大な析出物が多く残存しているからである。
【0050】
熱間圧延は、仕上げ圧延温度をAr変態点以上とする条件で行うことが好ましい。仕上げ圧延温度がAr変態点未満の場合には圧延粒の生成により加工性が低下するばかりでなく、延性が著しく低下するからである。
【0051】
熱間圧延後の冷却速度は、200℃/min以上にすることが好ましい。具体的には、(1)MnS析出鋼、(2)CuS析出鋼、(3)MnCu析出鋼によってわずかな差がある。
【0052】
先ず、(1)MnS析出鋼の場合には、200℃/min以上にすることが好ましい。本発明によって、MnとSの成分比(0.58×Mn/S)を10以下にしても冷却速度が200℃/min未満であればMnSの析出物大きさが0.2μmを越えてしまう。即ち、冷却速度が早くなるほど多数の核が生成しMnS析出物が微細になるからである。MnとSの成分比(0.58×Mn/S)が10超の場合には、再加熱工程で完全に溶解されない粗大なMnS析出物が多く、冷却速度が早くなっても新たな核が生成される数が少なくて、析出物は微細にならない(図2b、0.024%C−0.43%Mn−0.011%P−0.009%S−0.035%Al−0.0043%N)。
【0053】
図2のグラフを見ると、冷却速度が早くなるほどMnS析出物の大きさが微細になるので冷却速度の上限を制限する必要はないが、冷却速度が1000℃/min以上では析出物の微細化効果がこれ以上大きくならないため、冷却速度は200〜1000℃/minがより好ましい。
【0054】
次に、(2)CuS析出鋼の場合には、熱間圧延後の冷却速度は、300℃/min以上にすることが好ましい。本発明により、CuとSの成分比(0.5×Cu/S)を10以下にしても冷却速度が300℃/min未満であればCuSの析出物の大きさが0.1μmを超えてしまう。即ち、冷却速度が早くなるほど多数の核が生成しCuS析出物が微細になるからである。CuとSの成分比(0.5×Cu/S)が10超の場合には再加熱工程で完全に溶解されない粗大なCuS析出物が多く冷却速度が早くなっても新たな核が生成される数が少なく、析出物は微細にならない(図3c、0.0019%C−0.01%P−0.005%S−0.03%Al−0.0015%N−0.28%Cu)。
【0055】
図3のグラフを見ると、冷却速度が早くなるほどCuS析出物の大きさが微細になるので冷却速度の上限を制限する必要はないが、冷却速度が1000℃/min以上では析出物の微細化効果がこれ以上大きくならないため、冷却速度は300〜1000℃/minがより好ましい。図3aないし3b(0.0018%C−0.01%P−0.005%S−0.03%Al−0.0024%N−0.081%Cu)は、0.5×Cu/Sの値が3以下の場合と3超の場合に対するもので、0.5×Cu/Sの値が3以下の時、より安定的に0.1μm以下のCuS析出物が得られることが判る。
【0056】
次に、(3)MnCu析出鋼の場合には、熱間圧延後の冷却速度は300℃/min以上にすることが好ましい。本発明により2≦0.5×(Mn+Cu)/S≦20にしても冷却速度が300℃/min未満であれば、析出物の平均大きさが0.2μmを超えてしまう。即ち、冷却速度が早くなるほど多数の核が生成して析出物が微細になるからである。0.5×(Mn+Cu)/Sが20超の場合には再加熱工程で完全に溶解されない粗大な析出物が多く冷却速度が早くなっても新たな核が生成される数が少なく、析出物は微細にならない(図4b、0.0025%C−0.4%Mn−0.01%P−0.01%S−0.05%Al−0.0016%N−0.15%Cu)。
【0057】
図4のグラフを見ると、冷却速度が早くなるほど析出物の大きさが微細になるので冷却速度の上限を制限する必要はないが、冷却速度が1000℃/min以上では析出物の微細化効果がこれ以上大きくならないので、冷却速度は300〜1000℃/minがより好ましい。
【0058】
[巻取条件]
上記のように熱間圧延した後には巻取りを行うが、巻取温度は700℃以下が好ましい。巻取温度が700℃を超える場合には析出物が粗大に成長しすぎて耐時効性が低下する。
【0059】
[冷間圧延条件]
冷間圧延は、所望の厚さで圧延するが、好ましくは50〜90%の圧下率で行う。冷間圧下率が50%未満の場合には焼鈍再結晶の核生成量が少ないため、焼鈍時に結晶粒が大きく成長し過ぎ、焼鈍再結晶粒の粗大化により強度及び成形性が低下する。冷間圧下率が90%超の場合には成形性は向上するが、核生成の量が多すぎるため、焼鈍再結晶粒はむしろ微細すぎて延性が低下する。
【0060】
[連続焼鈍]
連続焼鈍温度は、製品の材質を決める重要な役割を果たす。本発明では500〜900℃の温度範囲で行うことが好ましい。連続焼鈍温度が500℃未満の場合には、再結晶粒が微細過ぎて目標とする延性値を確保することができず、焼鈍温度が900℃超の場合には再結晶粒の粗大化により強度が低下する。連続焼鈍時間は再結晶が完了するよう保持するが、約10秒以上であれば再結晶が完了する。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を通じてより具体的に本発明を説明する。
【0062】
実施例において機械的特性は、冷延鋼板をASTM規格(ASTM E―8 standard)による標準試片に加工して測定した。降伏強度、引長強度、延伸率、塑性異方性指数(r値)、面内異方性指数(Δr値)及び時効指数(AI、Aging Index)は、引長試験機(INSTRON社、Model 6025)を利用して測定した。実施例において塑性異方性指数(r)と面内異方性指数(Δr)は次の式で求めた。r=(r+2r45+r90)/4、Δr=(r−2r45+r90)/2。
【0063】
また、試片における析出物の平均大きさと析出物の分布数は、基材内に存在する全析出物の大きさと分布数を測定して得たものである。
(実施例1‐1)
【0064】
軟質のMnS析出鋼
表1のスラブを1200℃で再加熱して仕上げ熱間圧延した後、200℃/minの速度で冷却して650℃で巻取ってから、75%の圧下率で冷間圧延して連続焼鈍処理した。仕上げ圧延温度は、Ar変態点以上である910℃であり、連続焼鈍は10℃/秒の速度で、750℃で40秒間加熱して行った。但し、表1で試料番号A8の場合には、1050℃で再加熱して仕上げ熱間圧延した後、50℃/minの速度で冷却して750℃で巻取った。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表2に示しているように、発明鋼は耐時効特性を有しながら降伏強度が高く、かつ加工性が優れる。
【0068】
一方、試料A5は、0.58×Mn/Sの比が23.2であって、析出物の大きさは0.62μmで粗大で、時効指数が34MPaで耐時効性の確保が困難である。試料A6の場合は炭素の含量が高く時効指数が49MPaで高すぎて、耐時効性の確保が困難である。試料A7の場合は0.58×Mn/Sの比が6.34で、本発明の範囲に属するが、MnとSの含量が本発明の範囲から外れ粗大なMnS析出物の析出により時効指数が38Mpaであり、耐時効性の確保が困難で、成形性も良くない。試料A8の場合に再加熱温度が1050℃で低すぎて再加熱中の析出物を完全に溶解することができず、完全に溶解されない析出物が多すぎて巻取温度も高すぎるため、析出物の平均大きさが0.34μmと粗大になり、耐時効性の確保が困難である。
(実施例1‐2)
【0069】
固溶強化による高強度MnS析出鋼
表3の鋼スラブを1200℃で再加熱して仕上げ熱間圧延した後、200℃/minの速度で冷却して650℃で巻取ってから、75%の圧下率で冷間圧延して連続焼鈍処理した。仕上げ圧延温度は、Ar変態点以上の910℃であり、連続焼鈍は10℃/秒の速度で750℃で40秒間加熱して行った。
【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
表3に示しているように、試料B1〜B3、B6〜B7の場合、降伏強度が 240MPa以上で、延伸率35%以上で、降伏強度-延性バランス(降伏強度×延性)が11300以上である。また、発明鋼の場合、優れた成形性を有し、時効指数も30MPa以下であり、耐時効性を確保することができる。また、延性-脆性遷移温度が−40℃以下であり、耐2次加工脆性が優れる。
【0073】
一方、試料B5(従来鋼)は、従来の高強度冷延鋼板であって、時効指数は優れるが、延性−脆性遷移温度が高く、常温でも衝撃時に破断が起こる危険性が高い。
(実施例1‐3)
【0074】
AlN析出強化によるMnS析出鋼
表5の鋼スラブを1200℃で再加熱して仕上げ熱間圧延した後、200℃/minの速度で冷却して650℃で巻取ってから75%の圧下率で冷間圧延して連続焼鈍処理した。仕上げ圧延温度は、Ar変態点以上である910℃であり、連続焼鈍は10℃/秒の速度で、750℃で40秒間加熱して行った。
【0075】
【表5】

【0076】
【表6】

(実施例2‐1)
【0077】
軟質のCuS析出鋼
表7の鋼スラブを1200℃で再加熱して仕上げ熱間圧延した後、400℃/minの速度で冷却して650℃で巻取ってから75%の圧下率で冷間圧延して連続焼鈍処理した。仕上げ圧延温度は、Ar変態点以上である910℃であり、連続焼鈍は10℃/秒の速度で750℃で40秒間加熱して行った。但し、表7で試料番号D8の場合には、1050℃で再加熱して仕上げ熱間圧延した後、400℃/minの速度で冷却して650℃で巻取った。また、D14〜17の場合には1250℃で再加熱して仕上げ熱間圧延した後、550℃/minの速度で冷却して650℃で巻取った。
【0078】
【表7】

【0079】
【表8】

(実施例2‐2)
【0080】
固溶強化による高強度CuS析出鋼
表9の鋼スラブを1200℃で再加熱して仕上げ熱間圧延した後、400℃/minの速度で冷却して650℃で巻取ってから75%の圧下率で冷間圧延して連続焼鈍処理した。仕上げ圧延温度は、Ar変態点以上である910℃であり、連続焼鈍は10℃/秒の速度で、750℃で40秒間加熱して行った。
【0081】
【表9】

【0082】
【表10】

(実施例2‐3)
【0083】
AlN析出強化によるCuS析出鋼
表11の鋼スラブを1200℃で再加熱して仕上げ熱間圧延した後、400℃/minの速度で冷却して650℃で巻取ってから75%の圧下率で冷間圧延して連続焼鈍処理した。仕上げ圧延温度は、Ar変態点以上である910℃であり、連続焼鈍は10℃/秒の速度で750℃で、40秒間加熱して行った。但し、F8、F9、F10の場合には1200℃で再加熱して仕上げ熱間圧延した後 、550℃/minの速度で冷却して650℃で巻取った。
【0084】
【表11】

【0085】
【表12】

(実施例3‐1)
【0086】
軟質のMnCu析出鋼
表13の鋼スラブを1200℃で再加熱して仕上げ熱間圧延し、600℃/minの速度で冷却して650℃で巻取った。巻取った熱延板を75%の圧下率で冷間圧延して連続焼鈍処理した。仕上げ圧延温度は、Ar変態点以上である910℃であり、連続焼鈍は10℃/秒の速度で750℃で40秒間加熱して行った。但し、表13で試料G10は、1050℃で再加熱して仕上げ熱間圧延し、50℃/minの速度で冷却して750℃で巻取った。
【0087】
【表13】

【0088】
【表14】

(実施例3-2)
【0089】
固溶強化による高強度MnCu析出鋼
表15の鋼スラブを1200℃で再加熱して仕上げ熱間圧延し600℃/minの速度で冷却して650℃で巻取った。巻取った熱延板を75%の圧下率で冷間圧延して連続焼鈍処理した。仕上げ圧延温度は、Ar変態点以上である910℃であり、連続焼鈍は10℃/秒の速度で750℃で40秒間加熱して行った。
【0090】
【表15】

【0091】
【表16】

(実施例3‐3)
【0092】
AlN析出強化による高強度MnCu析出鋼
表17の鋼スラブを1200℃で再加熱して仕上げ熱間圧延し、400℃/minの速度で冷却して650℃で巻取った。巻取った熱延板を75%の圧下率で冷間圧延して連続焼鈍処理した。仕上げ圧延温度は、Ar変態点以上である910℃であり、連続焼鈍は10℃/秒の速度で、750℃で40秒間加熱して行った。
【0093】
【表17】

【0094】
【表18】

【0095】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であって、本発明の特許請求範囲に記載した技術的思想と実質的に同じ構成を有し、同一な作用効果を成すものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】析出物の大きさに応じた結晶粒中の固溶炭素量の変化を示すグラフである。
【図2】冷却速度に応じたMnS析出物の大きさを示すグラフである。
【図3】冷却速度に応じたCuS析出物の大きさを示すグラフである。
【図4】冷却速度に応じたMnS、CuS、(Mn、Cu)S析出物の大きさを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.0005〜0.003%、S:0.003〜0.025%、Al:0.01〜0.08%、N:0.02%以下、P:0.2%以下、Mn:0.03〜0.2%、Cu:0.005〜0.2%を含み、上記 Mn、Cu、Sが次の条件 Mn+Cu≦0.3、0.5×(Mn+Cu)/S:2〜20を満足し、MnS、CuS、(Mn、Cu)Sの析出物の平均大きさが0.2μm以下で、残部Fe及びその他の不可避的不純物から成る加工性の優れた耐時効冷延鋼板。
【請求項2】
上記Pの含量は、0.015%以下であることを特徴とする請求項1に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板。
【請求項3】
上記Nの含量は、0.004%以下であることを特徴とする請求項1に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板。
【請求項4】
上記析出物は、2×10個以上であることを特徴とする請求項1に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板。
【請求項5】
上記0.5×(Mn+Cu)/Sは、2〜7であることを特徴とする請求項1に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板。
【請求項6】
上記析出物は、2×10個以上であることを特徴とする請求項5に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板。
【請求項7】
上記Pの含量は、0.03〜0.2%であることを特徴とする請求項1に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板。
【請求項8】
上記冷延鋼板には、Si:0.1〜0.8%、Cr:0.2〜1.2%の1種または 2種がさらに含有されることを特徴とする請求項1に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板。
【請求項9】
上記Nは、0.005〜0.02%で、上記Pは0.03〜0.06%であることを特徴とする請求項1に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板。
【請求項10】
上記Al、Nは次の関係0.52×Al/N:1〜5を満足することを特徴とする請求項9に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板。
【請求項11】
上記冷延鋼板には、Moがさらに0.01〜0.2%含有されることを特徴とする 請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板。
【請求項12】
上記冷延鋼板には、Vがさらに0.01〜0.2%含有されることを特徴とする 請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板。
【請求項13】
上記VとCは、次の関係0.25×V/C:1〜20を満足することを特徴とする請求項12に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板。
【請求項14】
上記冷延鋼板には、Vがさらに0.01〜0.2%含有されることを特徴とする請求項11に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板。
【請求項15】
上記VとCは、次の関係0.25×V/C:1〜20を満足することを特徴とする請求項14に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板。
【請求項16】
重量%で、C:0.0005〜0.003%、S:0.003〜0.025%、Al:0.01〜0.08%、N:0.02%以下、P:0.2%以下、Mn:0.03〜0.2%、Cu:0.005〜0.2%を含み、上記Mn、Cu、Sが次の条件Mn+Cu≦0.3、0.5×(Mn+Cu)/S:2〜20を満足し、残部Fe及びその他の不可避的不純物から成るスラブを1100℃以上の温度で再加熱した後、仕上げ圧延温度をAr変態点以上として熱間圧延し、300℃/min以上の速度で冷却して700℃以下の温度で巻取ってから冷間圧延して連続焼鈍する、加工性の優れた耐時効冷延鋼板の製造方法。
【請求項17】
上記Pの含量は、0.015%以下であることを特徴とする請求項16に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板の製造方法。
【請求項18】
上記Nの含量は、0.004%以下であることを特徴とする請求項16に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板の製造方法。
【請求項19】
製造した鋼板には2×10個以上の析出物が存在することを特徴とする請求項16に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板の製造方法。
【請求項20】
上記0.5×(Mn+Cu)/Sは、2〜7であることを特徴とする請求項16に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板の製造方法。
【請求項21】
製造した鋼板には2×10個以上の析出物が存在することを特徴とする請求項20に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板の製造方法。
【請求項22】
上記Pの含量は、0.03〜0.2%であることを特徴とする請求項16に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板の製造方法。
【請求項23】
上記冷延鋼板には、Si:0.1〜0.8%、Cr:0.2〜1.2%の1種または 2種がさらに含有されることを特徴とする請求項16に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板の製造方法。
【請求項24】
上記Nは、0.005〜0.02%で、上記Pは0.03〜0.06%であることを特徴とする請求項16に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板の製造方法。
【請求項25】
上記Al、Nは次の関係0.52×Al/N:1〜5を満足することを特徴とする請求項24に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板の製造方法。
【請求項26】
上記冷延鋼板にはMoがさらに0.01〜0.2%含有されることを特徴とする請求項16乃至請求項25のいずれか1項に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板の製造方法。
【請求項27】
上記冷延鋼板には、Vがさらに0.01〜0.2%含有されることを特徴とする請求項16乃至請求項20のいずれか1項に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板の製造方法。
【請求項28】
上記VとCは、次の関係0.25×V/C:1〜20を満足することを特徴とする請求項27に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板の製造方法。
【請求項29】
上記冷延鋼板には、Vがさらに0.01〜0.2%含有されることを特徴とする請求項26に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板の製造方法。
【請求項30】
上記VとCは、次の関係0.25×V/C:1〜20を満足することを特徴とする請求項29に記載の加工性の優れた耐時効冷延鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−77536(P2010−77536A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267038(P2009−267038)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【分割の表示】特願2006−539383(P2006−539383)の分割
【原出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(502258417)ポスコ (73)
【Fターム(参考)】