説明

加工残厚の測定方法及び測定装置

【課題】樹脂部材の加工残厚をリアルタイムで測定可能として作業時間を短縮させた加工残厚の測定方法及び測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】溝成形部材21によって樹脂部材10にティアライン11を形成し、ティアライン形成後により残された樹脂部材10の加工残厚を測定する加工残厚の測定方法であって、前記樹脂部材10のティアライン形成面10aの裏側に渦流センサ33を配置し、渦流センサ33により樹脂部材10に差し込まれた状態の前記溝成形部材21に渦電流を誘起して、誘起された渦電流に基づく出力電圧を検出する検出工程と、該検出工程によって検出された出力電圧から、該渦流センサ33と溝成形部材21との距離Dを演算して、樹脂部材10の溝加工部12の厚さLを求める測定工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工残厚の測定方法及び測定装置に関し、より詳細には、ティアライン形成により残された樹脂部材の加工残厚を測定する加工残厚の測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の運転室内には、例えば、インストゥルメントパネル等の樹脂部材が所定箇所に設けられており、中でも、エアバック装置を覆うようにして設けられた樹脂部材には、エアバックの展開時に破断し易いようにその裏面にティアラインと呼ばれる溝状の開裂線が形成されている。通常、このティアラインは、例えば、加熱された加工刃等の溝成形部材が、樹脂部材表面から内部に差し込まれ、次いで溝成形部材が上下方向若しくは水平方向に引き抜かれることによって形成されていた。
【0003】
ところで、ティアライン形成工程では、エアバック装置の展開性能や樹脂部材の外観品質を向上させるために、ティアライン形成により残される樹脂部材の残厚(加工残厚)、すなわち溝加工部の厚さが設定値の範囲内で一定ととなるように制御されることが重要となる。かかる観点から、従来、ティアラインが形成された樹脂部材の加工残厚を測定するための測定方法が多く提案されている。
【0004】
図9に示すように、例えば、レーザセンサ133を用いて、ティアライン形成後に樹脂部材110の溝加工部112の奥部にレーザを照射して加工残厚を測定する測定方法(図9(a)参照)や、さらに、ティアライン形成面110aの裏側から押上ピン113によって樹脂部材110を押し上げて、ティアライン111の溝加工部112を一時的に広げた状態で、溝加工部112の奥部にレーザを照射して加工残厚を測定する測定方法(図9(b)参照)等が提案されている。
また、特許文献1には、側面同士がほぼ接触するように接近しており、かつ側面同士が接触していないティアラインを有する樹脂部材の加工残厚を、超音波センサを用いて測定する測定方法が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−17130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来の測定方法では、レーザセンサ133からのレーザの照射位置が、溝加工部112の奥部からずれて測定値に誤差が生じやすく、また、押上ピン113によってティアライン111の溝加工部分を一時的に広げることで溝加工部112が変形してしまい、ティアライン111の外観品質に劣る場合があった。
そして何より、従来の測定方法では、ティアラインの形成工程を経た後でなければ樹脂部材の加工残厚を測定することができず、樹脂部材の加工残厚をティアラインの形成工程中にリアルタイムで測定することができなかったため、作業時間の短縮を図ることが困難であった。この点、上記特許文献1に記載される測定方法によっても、加工残厚をリアルタイムで測定することができず同様の課題があった。
【0006】
そこで、本発明では、加工残厚の測定方法及び測定装置に関し、前記従来の課題を解決するもので、樹脂部材の加工残厚をリアルタイムで測定可能として作業時間を短縮させた加工残厚の測定方法及び測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
すなわち、請求項1においては、成形部材によって樹脂部材にティアラインを形成し、ティアライン形成により残された樹脂部材の加工残厚を測定する加工残厚の測定方法であって、前記樹脂部材のティアライン形成面の裏側に渦流センサを配置し、該渦流センサにより樹脂部材に差し込まれた状態の前記溝成形部材に渦電流を誘起して、誘起された渦電流に基づく出力電圧を検出する検出工程と、該検出工程によって検出された出力電圧から、前記渦流センサと溝成形部材との距離を演算して、樹脂部材の加工残厚を求める測定工程とを有するものである。
【0009】
請求項2においては、前記測定工程は、前記渦流センサと前記溝成形部材に形成されたティアライン形成用の刃先部との距離を測定するものである。
【0010】
請求項3においては、前記測定工程は、前記溝成形部材の直下方位置に前記渦流センサを配置し、水平方向に直線移動される溝成形部材の移動に連動して渦流センサを移動させるものである。
【0011】
請求項4においては、溝成形部材によって樹脂部材にティアラインを形成し、ティアライン形成により残された樹脂部材の加工残厚を測定する加工残厚の測定装置であって、前記樹脂部材のティアライン形成面の裏側に配置される渦流センサを備え、該渦流センサにより樹脂部材に差し込まれた状態の前記溝成形部材に渦電流を誘起して、誘起された渦電流に基づく出力電圧を検出する検出部と、該検出部によって検出された出力電圧から、該渦流センサと溝成形部材との距離を演算して、樹脂部材の加工残厚を求める測定部とを有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
請求項1に示す方法としたので、ティアライン形成途中の溝成形部材に対して、渦流センサによって渦電流を誘起させて、渦流センサと溝成形部材との距離を測定することで、ティアライン形成中にリアルタイムで加工残厚を測定することができ、作用時間を効果的に短縮することができる。
【0014】
請求項2に示す方法としたので、樹脂部材の最奥部にまで到達される刃先部を基準として、加工残厚の測定精度を向上できる。
【0015】
請求項3に示す方法としたので、ティアラインの全長に渡ってリアルタイムで樹脂部材の加工残厚を測定することができ、ティアラインの製品精度を向上できる。
【0016】
請求項4に示す構成としたので、ティアライン形成途中の溝成形部材に対して、渦流センサによって渦電流を誘起させて、渦流センサと溝成形部材との距離を測定することで、ティアライン形成中にリアルタイムで加工残厚を測定することができ、作用時間を効果的に短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係るティアライン形成装置の全体的な構成を示した側面図。、図2はティアラインが形成された樹脂部材の平面図、図3は検出部にて溝加工部の厚さを測定する様子を示す断面図、図4は残厚測定部のブロック図、図5は測定部にて渦流センサと溝成形部材との距離を演算する手順を示すフローチャート、図6は検出部にて検出される出力電圧波形を表す図、図7は演算テーブルを示す図、図8は別実施例における溝加工部の厚さを測定する様子を示す側面図、図9は従来の樹脂部材の加工残厚を測定する様子を示す断面図である。
【0018】
まず、本実施例のティアライン形成装置1の全体構成について、以下に概説する。
図1に示すように、ティアライン形成装置1は、ティアライン形成部2と加工残厚測定装置としての残厚測定部3とが設けられており、樹脂部材10の表面にティアライン形成部2にてティアライン11を形成しながら、残された樹脂部材10の残厚(加工残厚)を残厚測定部3にてリアルタイムで測定することができるように構成されている。
【0019】
樹脂部材10は、ポリプロピレン等の樹脂素材より形成され、自動車等の運転室にインストゥルメンタルパネル表皮やハンドルパネル表皮を構成する部材として用いられる。以下の実施例では、樹脂部材10は、主に自動車助手席側のエアバック装置を覆うようにして取り付けられるインストゥルメンタルパネルの表皮に用いられる。そして、この樹脂部材10には、エアバック装置に対向する表面(以下、ティアライン形成面10aという)に複数の溝状の開裂線からなるティアライン11が形成されている。
【0020】
図2及び図3に示すように、ティアライン11は、樹脂部材10のティアライン形成面10aに開口されており、開口部において対向する側壁が、図3における紙面奥部に向けて略平行に形成されるように断面略U字状に形成され、樹脂部材10の内部方向に向けて樹脂部材10を貫通することなく凹設されて、その残部に溝加工部12が形成されている。そして、この溝加工部12の厚さLが樹脂部材10の加工残厚に相当し、本実施例では、後述する残厚測定部3によってこの溝加工部12の厚さLが算出される。
なお、本実施例のティアライン11は、開裂線が5箇所に形成されているが、ティアライン11の配置はこれに限定されず、エアバック装置の展開性能を考慮して適宜変更される。
【0021】
次に、ティアライン形成部2について、以下に詳述する。
図1に戻って、ティアライン形成部2は、樹脂部材10を載置固定する載置台20と、樹脂部材10のティアライン形成面10aにティアラインを形成する溝成形部材21と、溝成形部材21を三軸方向に移動可能に支持する可動アーム機構22等とで構成されている。
載置台20は、上面に形成された水平面に樹脂部材10がティアライン形成面10aを上方に向けるようにして載置される。本実施例の載置台20は、樹脂部材10が載置された状態で、樹脂部材10の載置面を水平面に引き付ける方向(図1において下方向)に吸引する図示せぬ吸引機構が内設されている。この吸引機構によって樹脂部材10が吸引されることで、ティアライン形成面10aが略水平面となるようにして固定でき、ティアライン11を形成する際の作業性及びティアライン11の品質等を向上できる。
【0022】
溝成形部材21は、高純度の刃物鋼より一体に形成され、一側辺にはティアライン形成用の刃先部21aが研削されている。溝成形部材21は、刃先部21aがティアライン形成面10aの垂直上方から樹脂部材10の内部に差し込まれ、刃先部21aが樹脂部材10の内部に差し込まれた状態で、可動アーム機構22によって水平方向に移動される(図3参照)。
なお、本実施例では、溝成形部材21は、刃先部21aが加熱されることなく常温で用いられる。また、溝成形部材21の形状、構成、及びティアライン11の刃先角度や刃形状等は特に限定されないが、後述するように少なくとも磁性材料より形成される。
【0023】
可動アーム機構22は、溝成形部材21が取り付けられる支持アーム24と、この支持アーム24を水平方向(X−Y方向)に移動可能に支持する連結部25と、連結部25を上下方向に昇降自在に支持固定する機台26等とで構成されている。
支持アーム24には、上述した溝成形部材21が刃先部21aを垂直下方に向けるようにして取り付けられており、この支持アーム24によって、溝成形部材21が載置台20に載置された樹脂部材10のティアライン形成面10aに対峙する状態で位置決めされている。
【0024】
連結部25は、一端が機台26に固設された連結軸部25aと、連結軸部25aに摺動自在に取り付けられた水平軸部25b等とで構成されている。連結軸部25a及び水平軸部25bは、断面略矩形の棒状部材より構成されており、水平軸部25bは、連結軸部25aに直交する方向に取り付けられ、一端が連結軸部25aに設けられた図示せぬレールに取り付けられて、軸方向に摺動自在とされている。この水平軸部25bには、上述した支持アーム24が軸方向に沿って摺動自在に取り付けられている。
【0025】
機台26は、上下方向に伸縮自在に固定された昇降部材26aが設けられており、この昇降部材26aに連結部25(連結軸部25a)の一端が連結されている。そして、昇降部材26aが機台26本体に対して上下昇降されることで、昇降部材26aと連動して連結部25及び支持アーム24が一体として上下昇降される。
なお、上述した水平軸部25b及び昇降部材26aは、図示せぬ駆動機構によって作動されて、所定の箇所にティアライン11が形成されるように制御される。
【0026】
以上のような構成とすることで、可動アーム機構22においては、溝成形部材21が三軸方向(X−Y−Z方向)に自在に移動可能とされ、載置台20に載置された樹脂部材10に対して溝成形部材21(刃先部21a)が相対移動されることで、ティアライン形成面10aに所定のティアライン11を形成することができるように構成されている。
ただし、可動アーム機構22の構成は、これに限定されず、少なくとも溝成形部材21を樹脂部材10に対して自在に移動可能となるように構成される。
【0027】
ここで、ティアライン形成部2によるティアライン11の形成工程について詳述すると、まず、ティアライン形成部2は、樹脂部材10が載置台20に載置された状態で、溝成形部材21が樹脂部材10の上方に位置して停止されている。そして、可動アーム機構22の連結部25が作動されて、溝成形部材21が水平方向に移動されて、刃先部21aがティアライン形成面10aに対して水平方向における所定位置で位置決めされて停止される。次いで、可動アーム機構22の昇降部材26aが作動されて、支持アーム24及び連結部25が一体として垂直方向、すなわち、刃先部21aがティアライン形成面10aに近接する方向に下動される。やがて、刃先部21aがティアライン形成面10aの垂直上方から樹脂部材10の内部に差し込まれ、樹脂部材10を貫通しない位置で昇降部材26aが停止される。そして、刃先部21aが樹脂部材10の内部に差し込まれた状態で、可動アーム機構22の水平軸部25bが作動されて、溝成形部材21が水平方向に直線移動される。
【0028】
このようにして、ティアライン形成面10aの所定位置に所定のティアライン11が形成される。また、本実施例では、樹脂部材10のティアライン形成面10aの表面を刃先部21aによって引き切るようにしてティアライン11が形成されるため、ティアライン11を開口部において対向する側壁が紙面奥部に向けて略平行に形成されるように断面略U字状に形成することができ(図3参照)、ティアライン11の外観及び形状に優れ、外観品質を向上できる。
【0029】
次に、残厚測定部3について、以下に詳述する。
図1、図3及び図4に示すように、残厚測定部3は、樹脂部材10の加工残厚である溝加工部12の厚さLを算出する加工残厚測定装置であって、渦流センサ33を有し、樹脂部材10に差し込んだ状態の溝成形部材21に渦電流を誘起して、渦電流に基づく出力電圧を検出する検出部30と、検出部30によって得られた出力電圧から、渦流センサ33と溝成形部材21(刃先部21a)との距離Dを演算して、樹脂部材10に形成された溝加工部12の厚さLを算出する測定部31等とで構成されている。
【0030】
検出部30は、渦電流に基づく出力電圧の検出手段として渦流センサ33が設けられており、その他、渦流センサ33に設けられた励起コイルに所定値の電流を供給する図示せぬ発振回路や、渦流センサ33に設けられた検出コイルからの信号を受信する図示せぬ検出回路等等とが設けられている。検出部30では、渦流センサ33の励磁コイルに電流(交流電流)が供給されると、印加磁界(磁束)が発生される。かかる状態で、検出部30の磁界中に対象物が進入すると、対象物にこの磁界を打ち消す方向に渦電流が誘起され、この渦電流に基づく電圧(出力電圧)が渦流センサ33に設けられた検出コイルによって検出される。なお、本実施例では、この対象物が上述した溝成形部材21(刃先部21a)に相当する。
【0031】
検出部30は、ティアライン形成部2に設けられた載置台20の表面部に複数配置されるとともに、樹脂部材10のティアライン形成面10aとは反対側の裏面に当接されて、渦流センサ33と樹脂部材10の間に離間を有しないように配置されている。具体的には、検出部30は、樹脂部材10のティアライン形成面10aの裏側であって、樹脂部材10においてティアライン11が形成される予定の箇所(図2においては5箇所)の垂直下方位置にそれぞれ配置されている。
【0032】
なお、「樹脂部材10にティアライン11が形成される予定の箇所」とは、換言すると、平面視において溝成形部材21の移動経路と一致する箇所のことであって、検出部30は、垂直上方空間を溝成形部材21が直線移動して横切るような箇所に配置されている。そして、渦流センサ33と溝成形部材21との距離Dとは、渦流センサ33から樹脂部材10の最奥部に位置する刃先部21aまでの最短距離をいう。
【0033】
このように検出部30が配置されることで、樹脂部材10に差し込まれた状態の溝成形部材21が移動されて、検出部30の垂直上方を通過する際に、溝成形部材21に渦電流が誘起され、この渦電流に基づく出力電圧を検出部30にて検出することができる。そして、残厚測定部3では、このようにして検出部30にて検出された出力電圧から、後述する測定部31にて、渦流センサ33と溝成形部材21との距離Dが演算されて、溝加工部12の厚さLが算出されるのである(図3参照)。
【0034】
図4に示すように、測定部31は、検出部30と配線32を介して接続されており、渦流センサ33に設けられた検出コイルからの信号を受信可能に構成されている。具体的には、測定部31には、各種処理が実行されるCPU41と、各種処理プログラム等が格納されるメモリ42と、UPU41に対する操作入力手段としての入力部43と、CRT若しくは液晶ディスプレイなどで構成される表示部44と、外部機器との出力インターフェースとしての出力部45等とにより構成されている。
【0035】
CPU41は、渦流センサ33に設けられた検出コイルからの信号が、図示せぬA/D変換回路によってデジタル化されて入力され、各種処理が実行されるように構成されている。具体的には、CPU41では、後述するようにメモリ42に格納された演算テーブルTに基づいて、入力された出力電圧から渦流センサ33と溝成形部材21との距離Dが演算され、さらにこの距離Dより溝加工部12の厚さLが算出される。
【0036】
メモリ42は、EEPROMのような不揮発性のメモリが用いられ、CPU41の処理に必要なプログラムや各種設定データの他、出力電圧のピーク振幅値Pと距離Dとの関係を示す演算テーブルT(図7参照)が格納されている。なお、この演算テーブルTは、本実施例では実測値とのずれを補正したものに上書きして書き替えることができるように構成されており、また、一種類に限らず、被検出物体の種類に応じて複数設けられてもよい。
【0037】
入力部43は、キーボード等の複数の操作キーを有する部材により構成され、上述した演算テーブルTの作成処理の開始を指定する操作や、測定処理の終了操作などが行われる。
表示部44では、上述したCPU41に入力された出力電圧波形の他に、演算テーブルT、ピーク振幅値P、距離D及び溝加工部12の厚さL等の値が表示可能とされる。
また、出力部45では、演算テーブルT等の値が、出力部45より図示しせぬ外部機器に出力される。なお、出力部45には、アナログ変換後の検出距離を増幅するための増幅回路や、外部出力のためのインターフェース回路などが含まれる。
【0038】
次に、本実施例における樹脂部材10の加工残厚の測定方法について、詳述する。
図5乃至図7に示すように、本実施例では、以上のように構成された残厚測定部3を用いて樹脂部材10の加工残厚の測定する方法であって、樹脂部材10のティアライン形成面10aの裏側に渦流センサ33を備えた検出部30を配置することで、樹脂部材10に刃先部21aが差し込まれた状態の溝成形部材21に渦電流を誘起して、渦電流に基づく出力電圧を検出する検出工程と、検出工程によって検出された出力電圧から、渦流センサ33と溝成形部材21との距離Dを演算して、樹脂部材10の加工残厚を求める測定工程とをそれぞれ有する方法を提案するものである。
【0039】
図5に示すように、検出工程では、樹脂部材10に溝成形部材21の刃先部21aが差し込まれてティアライン11の成形工程が開始されると(S100)、溝成形部材21が移動制御されることで樹脂部材10にティアライン11が形成され、やがて、樹脂部材10に差し込まれた状態の溝成形部材21が、ティアライン11が形成される予定の箇所の下方位置に配置された検出部30(渦流センサ33)の垂直上方を通過する(S101)。その際、渦流センサ33によって溝成形部材21に渦電流が誘起されて、この渦電流に基づく出力電圧が検出部30にて検出される(S102)。
【0040】
ここで、図6に示すように、検出部30(渦流センサ33)にて検出される出力電圧は、渦流センサ33と溝成形部材21との距離Dが近づくにつれ渦電流が大きくなって発振の振幅が小さくなり、一方で、渦流センサ33と溝成形部材21との距離Dが遠ざかるにつれて振幅が大きくなるという特性を有している。すなわち、図6において、範囲S1・S3では渦流センサ33と溝成形部材21との距離Dが遠く、範囲S2では渦流センサ33と溝成形部材21との距離Dが近いことを表している。そして、樹脂部材10に差し込まれた状態で移動されている溝成形部材21に対しては、溝成形部材21が渦流センサ33に最も近接した場合にその振幅値が最大となる(図3参照。以下、かかる場合の振幅値をピーク振幅値Pという)。
【0041】
そこで、本実施例では、図7に示すように、予め、渦流センサ33と刃先部21aとを所定間隔(距離D)で離間させておき、各離間状態での出力電圧のピーク振幅値Pをそれぞれ実測することで、渦流センサ33と刃先部21aとの距離Dに対する出力電圧の減衰特性が測定されている。すなわち、この出力電圧の減衰特性より、渦流センサ33と溝成形部材21との距離Dが遠ざかるにつれてピーク振幅値Pが減少していく、そして、かかる測定結果が演算テーブルTとしてメモリ42に格納させている。
【0042】
なお、演算テーブルTは、渦流センサ33として用いられるコイルの形状、印加する電圧の周波数、対象物までの距離、溝成形部材21の電気伝導度、誘電率等によってピーク振幅値Pが変化するため、渦流センサ33の設置環境や計測の目的に応じて、適宜再作成されて、メモリ42に上書きして格納される。
【0043】
測定工程では、図5に示したように、測定部31に入力された出力電圧波形からピーク振幅値Pが検出され(S103)、検出されたピーク振幅値Pが演算テーブルTと対比されて(S104)、渦流センサ33と溝成形部材21との距離Dが演算される(S105)。具体的には、図7を参照すれば、例えば、ピーク振幅値PがP1の場合に、渦流センサ33と溝成形部材21との距離Dが0.2mmとして演算される。
【0044】
上述したように、渦流センサ33が樹脂部材10のティアライン形成面10aとは反対側の裏面に当接されるように配置されているため、このようにして演算された渦流センサ33と溝成形部材21との距離Dが、溝加工部12の厚さLに相当する。つまり、本実施例では、距離Dが演算されると自動的に溝加工部12の厚さLが算出される。そして、算出された溝加工部12の厚さLは、メモリ42に格納される。また、複数設けられた溝加工部12・12・・・のそれぞれの厚さLが算出され、各溝加工部12ごとにメモリ42に格納される。
【0045】
測定工程では、測定部31において、算出された溝加工部12の厚さLが設定値の範囲内(例えば、厚さLが0.35mm〜0.6mm)にあるか否かが判定されて、その判定結果に関する情報が、併せてメモリ42に格納されるとともに、表示部44に表示され、出力部45を介して外部接続器等に送られる。
なお、測定部31において、算出された溝加工部12の厚さLが設定値の範囲外であると判定された場合に、同時に上述したティアライン形成部2の各駆動機構を停止して、溝成形部材21が移動停止されるように制御したり、設定値の範囲内となるようにティアライン形成部2の各駆動機構がフィードバック制御したりするように構成されてもよい。
【0046】
以上のようにして樹脂部材10の加工残厚を測定することで、樹脂部材10の加工残厚をリアルタイムで測定可能として作業時間を短縮させることができる。すなわち、本実施例の測定方法によれば、ティアライン11を形成途中の溝成形部材21に対して、検出部30の渦流センサ33によって渦電流を誘起させて、渦流センサ33と溝成形部材21との距離Dを測定するため、ティアライン形成中にリアルタイムで加工残厚を測定することができる。そのため、従来のようにティアラインの形成工程と加工残厚の測定工程とを分ける必要がなく、作用時間を効果的に短縮することができる。
【0047】
特に、本実施例の測定方法によれば、渦流センサ33と溝成形部材21の刃先部21aとの距離Dが検出されるため、溝加工部12の最奥部に到達される刃先部21aが基準とすることができ、加工残厚を高精度で測定することができる。
【0048】
なお、上述した実施例では、検出部30(渦流センサ33)が樹脂部材10のティアライン形成面10aとは反対側の裏面に当接されて、樹脂部材10の間に離間を有しないように配置されているが、これに限定されず、検出部30が樹脂部材10と離間するように配置されてもよい。ただし、渦流センサ33が樹脂部材10と離間するように配置された場合には、測定工程では、渦流センサ33と溝成形部材21との距離Dが演算された後に、渦流センサ33と樹脂部材10との距離が差し引かれて補正されて、溝加工部12の厚さLが算出される。
【0049】
また、上述した実施例では、渦流センサ33は、樹脂部材10に対して位置固定されているが、これに限定されず、水平方向に直線移動される溝成形部材21に連動して移動されるように配置されるのが好ましい。
すなわち、図8に示すように、渦流センサ33は、樹脂部材10に差し込まれた状態の溝成形部材21に対して垂直下方に配置されるとともに、溝成形部材21が略水平方向に直線移動されると、これに連動して相対位置が変動しないように同じく略水平方向に直線移動される。このように、渦流センサ33を溝成形部材21に連動して移動させることで、溝成形部材21によるティアライン形成に伴って随時形成される溝加工部12の厚さLを測定することができ、ティアライン11の全長に渡ってリアルタイムで樹脂部材10の加工残厚を測定することができ、ティアライン11の製品精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施例に係るティアライン形成装置の全体的な構成を示した側面図。
【図2】ティアラインが形成された樹脂部材の平面図。
【図3】検出部にて溝加工部の厚さを測定する様子を示す断面図。
【図4】残厚測定部のブロック図。
【図5】測定部にて渦流センサと溝成形部材との距離を演算する手順を示すフローチャート。
【図6】検出部にて検出される出力電圧波形を表す図。
【図7】演算テーブルを示す図。
【図8】別実施例における溝加工部の厚さを測定する様子を示す側面図。
【図9】従来の樹脂部材の加工残厚を測定する様子を示す断面図。
【符号の説明】
【0051】
1 ティアライン形成装置
2 ティアライン形成部
3 残厚測定部
10 樹脂部材
10 ティアライン形成面
11 ティアライン
12 溝加工部
21 溝成形部材
21a 刃先部
30 検出部
31 測定部
33 渦流センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝成形部材によって樹脂部材にティアラインを形成し、ティアライン形成により残された樹脂部材の加工残厚を測定する加工残厚の測定方法であって、
前記樹脂部材のティアライン形成面の裏側に渦流センサを配置し、該渦流センサにより樹脂部材に差し込まれた状態の前記溝成形部材に渦電流を誘起して、誘起された渦電流に基づく出力電圧を検出する検出工程と、
該検出工程によって検出された出力電圧から、前記渦流センサと溝成形部材との距離を演算して、樹脂部材の加工残厚を求める測定工程とを有することを特徴とする加工残厚の測定方法。
【請求項2】
前記測定工程は、前記渦流センサと前記溝成形部材に形成されたティアライン形成用の刃先部との距離を測定することを特徴とする請求項1に記載の加工残厚の測定方法。
【請求項3】
前記測定工程は、前記溝成形部材の直下方位置に前記渦流センサを配置し、水平方向に直線移動される溝成形部材の移動に連動して渦流センサを移動させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加工残厚の測定方法。
【請求項4】
溝成形部材によって樹脂部材にティアラインを形成し、ティアライン形成により残された樹脂部材の加工残厚を測定する加工残厚の測定装置であって、
前記樹脂部材のティアライン形成面の裏側に配置される渦流センサを備え、該渦流センサにより樹脂部材に差し込まれた状態の前記溝成形部材に渦電流を誘起して、誘起された渦電流に基づく出力電圧を検出する検出部と、
該検出部によって検出された出力電圧から、該渦流センサと溝成形部材との距離を演算して、樹脂部材の加工残厚を求める測定部とを有することを特徴とする加工残厚の測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−271489(P2007−271489A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98424(P2006−98424)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】