説明

加工装置、および打ち抜き加工用金型

【課題】シートへの打痕の形成が抑制された打ち抜き加工用の加工装置を提供する。
【解決手段】第1と第2の金型との間でセラミックグリーンシートなどの被加工物を挟持しつつ打ち抜き部により被加工物の周縁部に打ち抜き加工を行う加工装置において、第1の金型の挟持面側の略中央部に凹部を設けることにより、被加工物の第1の金型との接触面であって加工対象箇所である周縁部以外の部分に、第1の金型と接触しない領域が形成されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックグリーンシートなどの打ち抜き加工を行う加工装置に関し、特にその金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、NOxセンサや酸素センサその他のセラミックデバイスの作製方法として、ジルコニア(ZrO2)その他のセラミックスを主成分とする複数枚のセラミックグリーンシートに、種々の電極パターン等を印刷形成した後、これら複数枚のシートを積層して積層体を形成し、該積層体を焼成する方法が公知である。
【0003】
このようなプロセスに供されるに先立ち、セラミックグリーンシートには通常、印刷時や積層時の位置決め用の穴が形成される。あるいはさらに、デバイスにキャビティや内部空間を設けるための穴が形成される場合もある。このような穴は、通常、金型を用いてプレス装置により打ち抜き加工されるのが一般的である。係る打ち抜き加工が可能な装置が既に公知である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−102801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているような従来の加工装置は、概略的にいえば、上下の金型の間に被加工物(例えばセラミックグリーンシート)を挟んだ状態でパンチに圧力を作用させて打ち抜きを行うものであり、被加工物と接触する上下それぞれの金型の表面は、間に挟む被加工物を変形させることのないよう、パンチ部を除いては平坦に保たれている。
【0006】
係る加工装置を用いて、複数枚のセラミックグリーンシートの打ち抜き加工を連続的に行うような場合、先の打ち抜き加工により生じたシートかす等の異物が金型表面に付着したままの状態で次の打ち抜き加工を行うと、異物が介在したままの状態で上下の金型の圧接(つまりはプレス)が行われてしまうことになる。その結果、シート面のうち異物の存在する微小領域に意図しない塑性変形が生じて打痕(異物の形状がかたどられた局所的な凹凸)が形成されてしまうという問題がある。このような打痕がデバイス領域(シート面のうち、実際にデバイスを構成することになる領域)に形成されてしまったままのセラミックグリーンシートを後工程に供することは、製品不良を招来させる要因となる。従って、係る打痕の形成は、製造コスト抑制の観点からはできる限り抑制されることが必要である。
【0007】
好ましくは、このような異物を付着させたままの状態での加工を行うことがないよう、打ち抜きを繰り返す途中で頻繁に(あるいは打ち抜きを行う都度)金型表面が清掃されるが、係る清掃を行ったとしても、打痕が形成されてしまうことがある。
【0008】
また、特許文献1に開示された技術は、金型のメンテナンス性を向上させる効果を有するものの、金型表面への異物の付着を抑制するものではない。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、シートへの打痕の形成が抑制された打ち抜き加工用の加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、第1と第2の金型との間で被加工物を挟持しつつ被加工物に打ち抜き加工を行う加工装置であって、第1の金型に凹部を設けることにより、被加工物の前記第1の金型との接触面であって加工対象箇所以外の部分に、前記第1の金型と接触しない領域が形成されるようにしたことを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載の加工装置であって、前記加工対象箇所が前記接触面の周縁部であり、前記凹部が前記第1の金型の前記被加工物の挟持面側の略中央部に設けられてなる、ことを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、打ち抜き加工用金型であって、加工請求項1または請求項2に記載の加工装置において前記第1の金型として用いられる。
【0013】
請求項4の発明は、被加工物に打ち抜き加工を行う加工装置において被加工物を挟持する一対の打ち抜き加工用金型であって、前記一対の金型の一方である第1の金型に凹部を設けることにより、被加工物の前記第1の金型との接触面であって加工対象箇所以外の部分に、前記第1の金型と接触しない領域が形成されるようにしたことを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明は、請求項4に記載の打ち抜き加工用金型であって、前記加工対象箇所が前記接触面の周縁部であり、前記凹部が前記第1の金型の前記被加工物の挟持面側の略中央部に設けられてなる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1ないし請求項5の発明によれば、金型の間に被加工物を挟んで該被加工物を前記金型に圧接させつつ打ち抜き加工を行う場合に、異物の存在によって被加工物に打痕が形成されることが抑制される。これにより、加工不良の発生をより確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る加工装置100の概略的な構成を模式的に示す断面図である。
【図2】加工装置100の動作中の様子を模式的に示す断面図である。
【図3】図1の図面視下方より見た場合の上型6の平面図である。
【図4】加工装置100において打ち抜き加工を行った後のシートSの打ち抜き面を例示する図である。
【図5】実施例および比較例における打痕不良率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<加工装置の概要>
図1は、本発明の実施の形態に係る加工装置100の概略的な構成を模式的に示す断面図である。図2は、加工装置100の動作中の様子を模式的に示す断面図である。加工装置100は、概略的には、上下2つの金型の間で被加工物を挟持しつつ該被加工物に打ち抜き加工を行うものである。
【0018】
加工装置100は、下型(下側金型)4が固定されるボルスター1と、上型(上側金型)6を保持し、案内部材10に案内されてボルスター1に対し鉛直上下方向(図面視上下方向)に往復自在なラム2とを備える。ボルスター1には、下型ホルダー3が固設されており、下型4は該下型ホルダー3によって固定される。ラム2には、上型ホルダー5が設けられている。上型ホルダー5は、ラム2に固設された固設部5aと、固設部5aの下面側に設けられ、上型6を保持する可動部5bとを有する。可動部5bには図示しない弾性部材が設けられている。ラム2が下降して、下型4の上に載置された被加工物であるセラミックグリーンシート(以下、単にシート)Sに上型6の下面が圧接されることで上型6に圧力が作用した場合に、該弾性部材が固設部5aの向きに付勢されるようになっている。これにより、上型6と下型4との間で挟持されるシートSに作用する圧力が略一定に保たれる。
【0019】
一方で、ラム2においては上型ホルダー5の固設部5aを貫通する態様にて打ち抜き部7が設けられるとともに、打ち抜き部7の上部には、弾性部材8が設けられている。図面に垂直な方向の打ち抜き部7の断面は、所望される打ち抜き形状に応じた形状となっている。弾性部材8は例えばコイルバネである。弾性部材8には、上型ホルダー5の可動部5bに用いられる弾性部材よりも弾性係数の強いものが用いられる。また、上型6も、打ち抜き部7が図面視上下方向に通過するように形成されている。さらには、下型4、下型ホルダー3、およびボルスター1にも打ち抜き部7に対応する位置に貫通口9が設けられている。
【0020】
係る構成を有する加工装置100においては、上述したようにシートSを下型4の上に載置した状態でラム2を下降させ、上型6の下面をシートSに圧接させて上型6と下型4との間でシートSを挟持させるようにすると、打ち抜き部7にも圧力が作用する。その際に付勢を受ける弾性部材8の反発力によって、図2に示すように、打ち抜き部7がシートSを打ち抜く。すなわち、打ち抜き加工が実現される。なお、打ち抜かれたシート片S1は、貫通口9を通じて除去される。
【0021】
なお、図1および図2においては便宜上、打ち抜き部7が1つの場合を例示しているが、打ち抜き部7は、シートSに求められる加工態様に応じて、適宜の個数および配置にて設けられる。また、加工装置100を構成する各部は、その用途および機能を実現するうえで好適な材料が適宜選択されて、形成されればよい。
【0022】
<上型の形状>
次に、加工装置100において用いられる上型6の形状について詳述する。図3は、図1の図面視下方より見た場合の、上型6の平面図である。また、図4は、加工装置100において打ち抜き加工を行った後のシートSの打ち抜き面を例示する図である。すなわち、以下の説明においては、もともとは矩形形状であったシートSが、図4に示すような平面形状を有するものとなるように、打ち抜き加工を行う場合を例として説明する。これは、種々の電極パターン等を印刷形成したシートSを積層して積層体を形成し、該積層体を焼成することによってNOxセンサなどのセラミックデバイスを作製するプロセスにあたって、プロセス途中におけるシートSの位置決め用の穴およびノッチを形成するような加工を行う場合に相当する。
【0023】
具体的には、図4に示すシートSには、長手方向周縁部の中央位置に貫通穴H1およびH2が形成されるとともに、角部には4つのノッチN1、N2、N3、およびN4が形成される。そして、加工装置100には、図示は省略するものの、係る打ち抜きを実現すべく、それぞれの貫通穴H1およびH2を形成するための打ち抜き部7と、ノッチN1〜N4を形成しつつシートSの外周部を打ち抜く打ち抜き部7とが、設けられてなる。一方で、シートSの中央部分に対しては、加工は施されないことになる。
【0024】
これに対応して、上型6においても、貫通穴H1、H2を形成するための打ち抜き部7の通過箇所に貫通部h1およびh2が設けられるとともに、シートSの外周部を打ち抜く打ち抜き部7に対応させて、切り欠き部n1、n2、n3、およびn4が設けられてなる。
【0025】
そして、本実施の形態においてはさらに、上型6の下面側であって、図3の図面視中央部分に、平面視矩形状の凹部6bが設けられている。これにより、その下面のうち貫通部および切り欠き部以外の全面が圧接面となっているのではなく、上型6の下面のうちの周縁部のみが、圧接面6aとなっている。図3においては、斜線部が圧接面6aとなっている。なお、係る凹部6bの形成は、例えば公知のザグリ加工技術などによって実現される。また、凹部6bの断面形状(図3の紙面に対して垂直な方向)の形状には特に制限はない。例えば、凹部6bを形成する手法に応じた形状を有していてもよい。
【0026】
係る形状を有する上型6を用いて打ち抜き加工を行うと、シートSはその周縁部においてのみ上型6の圧接面6aと下型4との間で圧接されるものの、凹部6bに隣接するシートSの中央部分は、加工の際に上型6に非接触のまま保たれる。すなわち、当該中央部分においては上型6の圧接を受けないので、仮にシートSの中央部分において下型4との間にシートかすなどの異物が存在していたとしても、該異物に起因した打痕が形成されることはないことになる。
【0027】
これにより、数枚のシートSの打ち抜き加工を連続的に行うような場合においても、異物の存在に起因した打痕の形成が、従来よりも確実に抑制されることになる。もちろん、適宜に清掃を行うことで、その確実性はより高まることになる。なお、係る場合においてもシートSの周縁部に打痕が形成される可能性は残るが、その形成箇所が従来に比して限定されること、および、形成されても最終製品に用いられる箇所でない限りは不良となりにくいことなどから、係る打痕が最終的に製品不良に結びつく可能性は極めて小さいと言える。よって、本実施の形態に係る上型を用いることは、十分に製品不良の抑制に資するものであるといえる。
【0028】
また、本実施の形態に係る上型6を、加工位置に対応する箇所以外を除く下面全面が略平坦な上型と比較すると、下面の外形面積および上型に印加される力が同じ場合、本実施の形態に係る上型6の方が圧接面の面積が小さいので圧接面における圧力は大きくなる。例えば、図3に示すように上型6の外形の幅X1が15.7cmであり、高さY1が12cmであり、凹部6bの幅X2が12cmであり、高さY2が8.5cmであり、加工時に加えられる力が10000kgであるとすると、シートSに作用する圧力は約116kg/cm2である。これに対して、上述の下面全面が略平坦な上型の場合、シートSに作用する圧力は約53kg/cm2である。これに伴うシートSの変形が問題となる場合には、上型に印加する力を適宜調整するようにしてもよい。
【0029】
ところで、ここまでの説明では、被加工物たるシートSに位置決め用の貫通穴およびノッチを形成する加工を行うことを前提としているため、上型の下面側において周縁部以外の全域に凹部を形成することとしている。ただし、被加工物における打ち抜き加工の対象箇所は任意に定められるものである。それゆえ、凹部も、当該対象箇所の位置に応じて適宜の位置に適宜の形状にて設けられればよい。例えば、図4に示した態様に加えて、被加工物の中央部にも貫通穴を設けるような加工を行う場合には、上型の下面側において、該貫通穴の形成位置に対応する領域の近傍を除くように凹部を形成すればよい。また、凹部は1つに限られるものではなく、被加工物の加工対象箇所に応じて複数の凹部が設けられる態様であってもよい。
【0030】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、上型と下型との間に被加工物を挟んで該被加工物を上型と下型に圧接させつつ打ち抜き加工を行う場合に、上型の下面(被加工物との接触面)のうち、被加工物の加工対象箇所に対応する位置の近傍以外に凹部を設け、加工対象箇所の近傍のみを圧接面とすることで、異物の存在によって被加工物に打痕が形成されることが抑制される。これにより、加工不良の発生をより確実に抑制することができる。
【実施例】
【0031】
実施例として、上述の実施の形態に係る上型6及び加工装置100を用い、複数のシートSへの連続の打ち抜き加工を、33回繰り返した。一度の打ち抜き加工においては、950枚〜1000枚のシートSを連続的に加工した。一方、比較例として、凹部6bを設けないほかは同様の上型および加工装置を用いた連続加工を、44回繰り返した。なお、比較例においては、一度の打ち抜き加工においては、600枚〜650枚のシートSを連続的に加工した。実施例、比較例とも、金型の清掃は適宜のタイミングで行った。
【0032】
図5は、実施例および比較例における打痕不良率を示す図である。なお、打痕不良の有無の判断は、目視により行った。比較例においては、1回あたり最高で2%程度の打痕不良が生じており、トータルの打痕不良率は0.6%であった。これに対して、実施例では、1度を除いて全く打痕不良が生じなかった。トータルの打痕不良率は0.006%であった。すなわち、実施例では、比較例に比して打痕不良率が1/100に抑制された。
【符号の説明】
【0033】
1 ボルスター
2 ラム
3 下型ホルダー
4 下型
5 上型ホルダー
5a (上型ホルダーの)固設部
5b (上型ホルダーの)可動部
6 上型
6a 圧接面
6b 凹部
7 打ち抜き部
8 弾性部材
9 貫通口
10 案内部材
100 加工装置
H1、H2 貫通穴
N1〜N4 ノッチ
S シート
h1、h2 貫通部
n1〜n4 切り欠き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1と第2の金型との間で被加工物を挟持しつつ被加工物に打ち抜き加工を行う加工装置であって、
第1の金型に凹部を設けることにより、被加工物の前記第1の金型との接触面であって加工対象箇所以外の部分に、前記第1の金型と接触しない領域が形成されるようにしたことを特徴とする加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載の加工装置であって、
前記加工対象箇所が前記接触面の周縁部であり、
前記凹部が前記第1の金型の前記被加工物の挟持面側の略中央部に設けられてなる、
ことを特徴とする加工装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の加工装置において前記第1の金型として用いられる打ち抜き加工用金型。
【請求項4】
被加工物に打ち抜き加工を行う加工装置において被加工物を挟持する一対の打ち抜き加工用金型であって、
前記一対の金型の一方である第1の金型に凹部を設けることにより、被加工物の前記第1の金型との接触面であって加工対象箇所以外の部分に、前記第1の金型と接触しない領域が形成されるようにしたことを特徴とする打ち抜き加工用金型。
【請求項5】
請求項4に記載の打ち抜き加工用金型であって、
前記加工対象箇所が前記接触面の周縁部であり、
前記凹部が前記第1の金型の前記被加工物の挟持面側の略中央部に設けられてなる、
ことを特徴とする打ち抜き加工用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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