説明

加工装置および光学部材の製造方法

【課題】 形状精度の向上とうねり精度の向上の両立を可能とし、光学部材の表面を高精度に加工するための加工装置および光学部材の製造方法を提供する。
【解決手段】 研磨部材と被加工物との間に圧力を発生させて、前記研磨部材と前記被加工物とを相対的に移動させることにより被加工物を加工するための加工装置であって、
揺動運動を行う支持手段と、前記支持手段に回転自在に取り付けられた加工部と、を有し、前記加工部は、前記研磨部材と前記被加工物との間にそれぞれ異なる圧力を発生させるための複数の圧力発生手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に高精度な加工を実現する加工装置および光学部材の製造方法に関するものである。
【0002】
本発明が対象としている光学部材は、その形状が平面、球面、非球面等であり、その大きさは1mを超える大型のものまでを含む。また、光学部材を成形するための型も光学部材に含む。また、加工の対象となる主な光学部材の材料としては、ガラス材、セラミックス材、金属材、そして結晶材などである。
【背景技術】
【0003】
半導体露光装置用レンズや天体望遠鏡用ミラーのような高精度な非球面を有する光学部材の表面を加工する方法として、対象とする被加工物の加工面より小径の工具(例えば多くの場合は被加工物の加工面の1/10以下の直径)を用い、前記工具を走査して被加工物の加工面全域を研磨する方法が広く知られている。このような研磨方法を、以降、ローカル研磨方法と表記する。ローカル研磨方法では、予め単位時間あたりの工具の除去形状および除去体積(以降、単位除去形状と表記する)を把握し、前記単位除去形状が加工中に変化せず一定であるとして、被加工物の加工面上の各位置に工具が滞留する時間を制御して、被加工物の加工面全域を所望の除去量で研磨している。
【0004】
一般に、非球面を有する被加工物では、被加工物上の位置ごとに局所的な形状が異なる。そのため、ローカル研磨のように小径の工具で加工する場合、工具を被加工物上で走査すると、工具が当接している位置により被加工物の局所的な形状は変化する。通常工具の被加工物と当接している工具面にはポリウレタン等の研磨部材が取り付けられているが、工具面の形状や研磨部材の厚さは、工具が当接している位置によらず一定である。そのため、工具走査中つまり加工中は工具面が当接している被加工面の形状変化に起因して、工具と被加工物との接触状態が変化してしまい、それに伴って単位除去形状も変化してしまう。このような問題点に対して、加工中に工具面の形状を、被加工物の形状に応じて変化させることができる工具(以降、形状可変工具と表記する)を用いた加工方法が提案されている。
【0005】
このような形状可変工具に関する従来例として特許文献1がある。従来例では、工具内部に有したテンションバンドで工具面を変形させることで、工具断面のR形状を制御できる。なお、ここで工具面は、球面を基本形状とする。この工具を用いた加工方法では、図9に示すように、工具が当接する位置における被加工物の局所的な形状(ここでは被加工物のローカルR)の変化に倣って、工具面のR形状が変化する。これにより、加工中の工具と被加工物の接触状態を変化しづらくし、単位除去形状の変化を抑制する。そして、単位除去形状が一定という前提で、被加工物の加工面全域を所望の除去量により研磨することで、形状を修正し、形状精度を向上している。また、加工中の工具と被加工物の接触状態が変化しづらいので、工具の有するうねりの平滑化能力を維持したまま被加工物の加工面上のうねりを平滑化できる。なお、ここでいう「うねり」とは、一般的に従来例であげているような小径工具の工具径を基準として、波長の短い被加工物の成分のことである。また、逆に「形状精度」とは、前記工具径より波長の長い被加工物の成分の精度のことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】USP 7364493
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら従来例では、被加工物のうねり精度を向上させようとすると、一方で形状精度が悪化してしまうという問題点がある。
【0008】
具体的に述べると、従来例で被加工物のうねり精度を向上させるには、工具径を大きくして、より空間波長(以降、波長と表記する)の長いうねりまで平滑化できるようにする必要がある。ところが、従来例では工具面の形状を制御しているため、工具径を大きくすると制御可能な工具面形状の波長も長くなる。そのため、波長の短い被加工物の形状については、工具が倣えなくなってくる。また、そもそも形状で工具面を制御すると、工具面の剛性に分布もしくは変化があった場合、工具面と被加工物の接触状態も変化してしまう。前記剛性の分布もしくは変化は、工具径が大きくなるほど発生しやすい。そのため、工具径を大きくすると、加工中に単位除去形状が変化しやすくなり、前記被加工物の形状精度を悪化させてしまう。
【0009】
本発明は前記問題点を鑑みてなされたものであり、「形状精度の向上」と「うねり精度の向上と」の両立を可能とし、平面、球面、非球面等を有する光学部材の表面を高精度に研磨する加工方法を提供するものである。具体的には、工具径によらず工具面と被加工物の接触状態を変化しづらくし、かつ同時に、被加工物の形状精度を向上させることを可能とする加工装置および光学部材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明における加工装置は、研磨部材と被加工物との間に圧力を発生させて、前記研磨部材と前記被加工物とを相対的に移動させることにより被加工物を加工するための加工装置であって、揺動運動を行う支持手段と、前記支持手段に回転自在に取り付けられた加工部と、を有し、前記加工部は、前記研磨部材と前記被加工物との間にそれぞれ異なる圧力を発生させるための複数の圧力発生手段を有することを特徴とする。
【0011】
本発明における光学部材の製造方法は、研磨部材と被加工物との間に圧力を発生させて、前記研磨部材と前記被加工物とを相対的に移動させて前記被加工物を加工する光学部材の製造方法において、前記研磨部材と前記被加工物との間にそれぞれ異なる圧力を発生させるための複数の圧力発生手段を有し、前記被加工物を計測して得た加工前の被加工物の形状と、目標とする前記被加工物の形状とから、前記被加工物の各位置における目標とする被加工物の除去量を求め、前記被加工物の各位置の前記目標とする被加工物の除去量に応じて、前記研磨部材と前記被加工物との間に発生する圧力を変化させて前記被加工物を加工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、形状精度の向上とうねり精度の向上の両立を可能とし、平面、球面あるいは非球面等を有する光学素子の表面を高精度に加工することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第一の実施形態を説明する図。
【図2】被加工物と工具を説明する図。
【図3】被加工物と工具との位置を説明する図。
【図4】第二の実施形態を説明する図。
【図5】他の実施形態を説明する図。
【図6】支持部材の例を説明する図。
【図7】簡略化した加工装置の一例を示す図。
【図8】加工フローの一例を説明する図。
【図9】従来技術を説明する図。
【図10】他の実施形態を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら説明する。ミラーやレンズ等、自由な曲面であってかつ高精度な形状を求められる光学部材の加工に対し本発明は好適である。本発明が対象としている光学素子は、その形状が平面、球面あるいは非球面等の自由な曲面であり、その大きさは1mを超える大型のものまでを含む。また、光学素子を成形するための型も光学素子に含む。加工の対象となる主な光学素子の材料としては、ガラス材、セラミックス材、金属材、そして結晶材などに適用できる。
【0015】
(第一の実施形態)
図1は、本発明に係る加工装置の一例であって、横振り研磨機に本発明を適用した第一の実施形態を示す。
【0016】
まず、加工装置の加工部20について説明する。加工部20は、基体1上に複数の圧力発生手段2が2次元的に配置されている。基体1には、高剛性かつ軽量なトラスフレームを用いることが好ましい。圧力発生手段2は圧電素子や電歪素子、ボイスコイルモータまたは空圧シリンダや油圧シリンダといったアクチュエータと、圧力センサまたはロードセルといった検知手段を直列に配置した構成からなる。圧力発生手段2の先端はフェースプレート3に当接している。フェースプレート3は基体1の外周に連結されている。フェースプレートの材質は、例えば、SUS316等のステンレス鋼を用いることができる。このフェースプレート3に研磨部材4が取り付けられ、この研磨部材表面が工具面として作用する。圧力発生手段によって発生させた圧力によってこの研磨部材4を被加工物に押し付けて被加工物を加工する。つまり、被加工物と加工部とを相対的に移動させて、前記加工部の圧力発生手段を個別に制御することにより、前記研磨部材の前記被加工物の加工面との当接面で、前記被加工物に押し付ける圧力(押圧力)を、研磨部材の面内で変化させて被加工物を加工する。つまり、研磨部材の表面(工具面)の圧力の分布を変化させて被加工物を加工する。研磨部材の材質は、例えば、ポリウレタン等を用いることができる。図2(a)は、被加工物の一例を示す。図2(b)は、加工部20の一例であって、12個(a〜l)の圧力発生手段2とフェースプレートとの関係を示す。圧力発生手段2の数は、複数あれば本発明の効果は発現する。圧力発生手段2の数が多いほど加工精度を高めることができるが加工部に配置できるアクチュエータの数は物理的な寸法制約により、概ね数十個以下が好ましい。
【0017】
この加工部20は、揺動運動を行う支持手段(かんざし)6の先端にある球体5と基体(フレーム)1を介して取り付けられることによって、回転方向7の方向に、自在に回転する。この回転方向7で示される加工部20の支持手段6回りの回転、すなわち加工部20の位相変化は、工具回転角度センサ8で検知される。
【0018】
さらに、加工部20、基体1が球体5を介して支持手段(かんざし)6に取り付けられることにより、加工部20、基体1は被加工物の加工面の傾斜角にも対応して回動が可能である。
【0019】
また、ここで説明した支持手段(かんざし)6回りの回転と、加工面の傾斜角に対応した回動を可能にする装置の構成は、図1に示される支持手段(かんざし)に限定されるものではない。
【0020】
例えば、図10は特許2938593号にみられる回転・回動支持機構を本発明に適用した例である。加工部20は、加工部20を自転可能とする回転支持部105を介して、加工部保持体104に取り付けられる。加工部保持体104は軸受け面として作用する凸球面部103を有している。支持手段先端部100は軸受け面として作用する凹球面部101を有し、前記凸球面部103との間に球体102を介して加工部20を回動可能とする軸受部を支持手段6の先端に構成する。
【0021】
このような形態であっても、加工部20の自転ならびに被加工物の加工面の傾斜角に対応した回動を可能にすることができる。
【0022】
加工部20は、揺動ステージ10上に搭載され、ガイド9上を揺動方向11にそって移動し、揺動する。この加工部20の位置変化は、工具揺動位置センサ12で検知される。
【0023】
また、同図(b)のように支持手段(かんざし)6はアーム19の先端に取り付けられ、アーム19は揺動ステージ10に対して23で示される方向に旋回が可能となっている。これによって、加工部20が被加工物13上を揺動しても、支持手段(かんざし)6は被加工物13の高さに応じて上下動し、無理なく揺動運動を行える。
【0024】
ミラーやレンズ等の光学素子である被加工物13は、テーブル14に保持され、スピンドル15により図中16の方向にテーブル14を回転させることにより回転する。この回転方向16における被加工物13の位相変化は、ワーク回転角度センサ17で検知される。回転速度は、0.01rpm以上10rpm以下が好ましい。
【0025】
図3(a)は、加工前の被加工物と加工部の各圧力発生手段との関係を示した図であり、図3(b)は、加工開始直後の被加工物と加工部の各圧力発生手段との関係を示した図である。図3において、加工前(図3(a))では、加工部20は、被加工物13の中心より左寄りに位置しているが、揺動することにより加工開始直後(図3(b))では、被加工物の中心に位置していることがわかる。また、加工部20は、かんざし6の先端にある球体5によって回転自在に支持されているため、被加工物13が回転することにより加工前の位置より少し回転し、よって圧力発生手段の位置も移動する。
【0026】
このように移動する加工部20と被加工物13の位置および位相は、工具回転角度センサ8、工具揺動位置センサ12およびワーク回転角度センサ17で検出され、演算手段18に取り込まれる。そして、演算手段18により圧力発生手段2の制御を行う。具体的には、圧力発生手段2が例えば空圧シリンダの場合は、それぞれの空圧シリンダ21とフェースプレート3の間に配置した圧力センサ22の値が所望の値になるように、空圧シリンダへの空気の給排気量を求める。圧力発生手段2が例えば圧電素子の場合は、それぞれの圧電素子とフェースプレート3の間に配置した圧力センサの値が所望の値になるように圧電素子に印加する電荷量を求める。
【0027】
このように工具内部にある複数の圧力発生手段で工具面の圧力の分布を制御する。ここで、制御できる圧力の分布は、工具径ではなく前記圧力発生手段の設置間隔ならびに作用面積で決まる。また、圧力の分布の制御では、工具面の剛性に分布もしくは変化があっても、工具面と被加工物の接触状態は変化しない。そのため、工具径によらず工具面は被加工物の加工面全面に対して接触状態の変化が少ない状態を維持することが可能となる。よって、工具の大径化に伴う被加工物の形状精度悪化を抑制することが可能となる。このように、本発明では、従来例より工具径を大きくすることができるので、工具が一度に研磨できる被加工物の面積を増やし、加工能率を大幅に向上させることも可能となる。非球面を対象とした加工方法というと、前述したローカル研磨方法のように小径の工具を用いることが一般的であるが、本発明では、全面皿研磨方法で用いるような被加工物の加工面くらいの大きさをもった大径工具も使用できるため、その効果は極めて大きい。
【0028】
(第二の実施形態)
本発明を好適に実施した第二の実施形態である加工装置を図4に示す。図4(a)は図4(b)の線L1における断面を示している。図4(b)は、加工装置を被加工物と対向する加工面側からみた概念図である。本実施形態の加工装置は、A〜Gの工具ユニットを有している。この複数の工具ユニットにより加工部を形成している。図4(a)は、線L1における断面を示しているため、A,B,Cの工具ユニットの記載しかないが、他のD,E,F,Gの工具ユニットも同様の構成となっている。
【0029】
41a〜41cは研磨部材である。410は、加工装置を被加工物に当接させる支持部材である。本実施形態においては、研磨部材41a〜41cが、支持部材410の内部に配置され、支持部材410は研磨部材の周囲に、研磨部材を囲むように、輪帯状に配置されている。図4(a)において、41a〜41cは、ポリウレタンやアスファルトピッチ等からなる研磨部材であり、42a〜42cに示す工具シャンクに取り付けられている。研磨部材は、図4においては、工具ユニットごとに別体である例を示したが、各工具ユニットをまたがって研磨部材を取り付けても構わない。また、図4において支持部材は連続する輪帯状のものを示したが、分断されていても構わない。この研磨部材の表面が工具面として作用する。49a〜49cはハウジングであり、43a〜43cはハウジング49a〜49c内に研磨液等が浸入することを阻止する防水シートである。44a〜44cは、平行ばね機構やスライドユニットからなる工具案内機構である。45a〜45cは、工具案内機構44a〜44cに作用する圧力を検知する検知手段である圧力センサ、46a〜46cは、工具案内機構44a〜44cを駆動するアクチュエータである。工具案内機構と圧力センサとアクチュエータで研磨部材圧力発生手段を構成する。アクチュエータは、圧電素子や電歪素子、ボイスコイルモータまたは空圧シリンダや油圧シリンダなどを用いることができる。また、検知手段としては、圧力センサのほか、ロードセルといった検知手段を用いることができる。47a〜47cは、圧力センサ45a〜45cおよびアクチュエータ46a〜46cを動作させるアンプである。48a〜48cは、アンプ47a〜47cと、圧力センサ45a〜45cとアクチュエータ46a〜46cの駆動制御を行い、アンプ47a〜47cへ駆動指令値を出力するCPUである。
【0030】
工具シャンク42a〜42cは、防水シート43a〜43cを介して、工具案内機構44a〜44cに取り付けられる。圧力センサ45a〜45cは、アクチュエータ46a〜46cと直列に、工具案内機構44a〜44cとハウジング49a〜49cの間に取り付けられる。また、ハウジングには、アンプ47a〜47cと、圧力センサ45a〜45cとアクチュエータ46a〜46cの駆動制御を行い、アンプ47a〜47cへ駆動指令値を出力するCPU48a〜48cが取り付けられている。
【0031】
以上のように構成される工具ユニットは、フレーム412の内部に格納される。アクチュエータが配置されていないフレーム412の被加工物415と対向する面には、支持部材410が、支持部材取り付け部411を介して取り付けられている。フレームには、支持部材が被加工物に対して圧力を発生させるための支持部材圧力発生手段を有している(不図示)。支持部材圧力発生手段による圧力は、加工装置自体の重さによる圧力でもよいし、別途アクチュエータ等の圧力発生手段を用いてもよい。
【0032】
フレーム412の上部には、回転支持部413が備えられ、ここに先端部が略球状の支持手段414が取り付けられる。図中矢印の方向に揺動する支持手段414の動きに合わせて、フレーム412も揺動し、工具ユニット、支持部材410が一体の工具となって、同時に被加工物415に接触しながら加工が行われる。
【0033】
工具ユニットのアクチュエータを制御することによって、研磨部材41の被加工物と対向する面(工具面)で圧力に分布(圧力の強いところ弱いところ)が発生する。形成された圧力の分布によって、回転支持部413の回りのモーメントが発生する。そのモーメントをキャンセルするように支持部材圧力発生手段により支持部材410の被加工物と対向する面に圧力を発生させる。その結果、研磨部材41の被加工物と対向する面に発生する圧力の分布が維持され、高精度な加工を行うことができる。
【0034】
次に、モーメントのアンバランスを除去する(補償する)方法を、図7で説明する。
【0035】
図7は簡略化した加工装置の一例を示す。図7において、7A、7Bは工具ユニットであり、710は支持部材、71a、71bは研磨部材を示す。図7では、説明を簡単にするために、研磨部材71a、71bの中心に荷重がかかっているモデルで考える。730a、730bは、研磨部材71a、71bに作用する荷重、732は、研磨部材71a、71bに作用する荷重730a、730bの差であり、荷重に差が発生することによりモーメントがアンバランスとなってしまう。Lは、研磨部材に作用する荷重730a、730bの回転支持部713からの距離2Lは、支持部材の径方向の中心の回転支持部713からの距離である。
【0036】
そのうち荷重730aには荷重値Hとして10、荷重730bには荷重値2Hとして20が作用する状態を想定する。また、加工装置自体の重さを60と仮定する。同図は断面図で表しているため支持部材710が分離しているが、実際には図4(b)と同様、支持部材は輪帯形状であるとする。支持部材はある幅を有しているが、ここでは簡単のために、輪帯形状の径方向の中心に作用する状態を想定する。
【0037】
圧力を発生させる工具ユニット7A、7Bにかかる荷重730a、730bによって発生するモーメントを、支持部材で分散してキャンセル(補償)する。支持部材全体にかかる荷重は、加工装置自体の重さ60から荷重730aの10および荷重730bの20を差し引いた30となる。支持部材は輪帯状であるが、ここでは簡略化して回転支持部713から直線状であるとし、回転支持部713から支持部材の一方の径方向の中心731a、もう一方の径方向の中心731bまでの距離はそれぞれ2Lと仮定する。支持部材は直線状の2×2Lの領域全体で荷重を分散して支持することになる。
【0038】
これを計算すると、
【0039】
【数1】

【0040】
支持部材710の左側における荷重731aが0.45、支持部材710の右側における荷重731bが0.15となる。この分布荷重によって、荷重730a、730bのモーメントを補償することになる。
【0041】
研磨部材71a、71bの荷重値と支持部材710の荷重値を比較すると、支持部材710の荷重値は5%以下である。そのため、支持部材710が、圧力分布を形成する研磨部材71a、71bと同じ研磨部材で構成されていたとしても、荷重値が十分に小さいため、支持部材710は加工に影響を与えることない。
【0042】
以上のように、本発明によれば、研磨部材の表面(工具面)内に圧力分布を形成する加工において、研磨部材に発生するモーメントのアンバランスを、簡便な構造で補償することができ、さらに、工具面内の圧力の分布を維持した加工が可能となる。
【0043】
(第三の実施形態)
図5(a)は本発明による加工装置の第3の実施形態を示す図であり、被加工物と対向する加工面側からみた概念図である。図4と同一の作用を有する部分には同一符号を付し、説明を省略する。研磨部材41a〜41gに対して、各研磨部材を取り囲むように支持部材410が一体となって配置されている。このような配置であっても、第二の実施形態同様の効果が得られる。
【0044】
(第四の実施形態)
図5(b)は本発明による加工装置の第4の実施形態を示す図であり、被加工物と対向する加工面側からみた概念図である。図4と同一の作用を有する部分には同一符号を付し、説明を省略する。研磨部材41a〜41gに対して、それぞれの研磨部材41a〜41gの外周それぞれに、支持部材410が配置されている。このような配置であっても、第二の実施形態同様の効果が得られる。
【0045】
(第五の実施形態)
図5(c)は本発明による加工装置の第5の実施形態を示す図であり、被加工物と対向する加工面側からみた概念図である。図4と同一の作用を有する部分には同一符号を付し、説明を省略する。研磨部材41a〜41gに対して、研磨部材と研磨部材の間に、支持部材410が複数配置されている。このような配置であっても、第二の実施形態同様の効果が得られる。
【0046】
(第六の実施形態)
図6は本発明による研磨装置における支持部材410の構成の例を示す図である。図4と同一の作用を有する部分には同一符号を付し、説明を省略する。
【0047】
図6(a)は支持部材410として研磨パッドを用いる例を示す。図6(b)は支持部材410として低摩擦材を用いる例を示す。図6(c)では支持部として静圧軸受420を用いる例を示す。これは、流体供給配管422から供給される流体で、被加工物の加工面との間に空気の膜を形成し、この膜によりかかる荷重を支持する。この構成は、非接触で支持することができるため、支持部材と被加工物の摩擦が全くないため、より高精度に加工することが可能である。
【0048】
また、本発明に係る研磨方法においては、上記で説明してきた研磨工具を用いるので、工具面内の圧力分布をより効果的に加工に反映でき、被加工物に対し、高精度な加工が実現できる。
【0049】
上記の各実施形態は、本発明の好適な実施の一例であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、様々な形態を取ることが可能である。
【0050】
次に、本発明の光学部材の製造方法について説明する。
【0051】
本発明の光学部材の製造方法は、前記被加工物を計測して得た加工前の被加工物の形状と、前記被加工物の目標とする被加工物の形状とから、前記被加工物上の各位置における目標とする被加工物の除去量を求める。そして、前記被加工物上の各位置の前記目標とする被加工物の除去量に応じて、前記圧力発生手段に発生させる圧力を変化させて前記被加工物を加工することを特徴とする。
【0052】
次に、具体的に本発明の光学部材の製造方法の一実施形態についてより具体的に説明する。
【0053】
図8は、加工フローの一例について示した図である。ここでは、事前に一定の時間、それぞれの圧力発生手段に発生させる圧力を一定にして加工することよって、基準となる被加工物の除去量を取得する場合を示す。
【0054】
図8に示した加工フローは、実際に加工対象となる被加工物を研磨する後半パート(ステップS6〜S9)と、それ以前の加工準備を行う前半パート(ステップS1〜S5)に大きく分けられる。最初に加工準備を行う前半パート(ステップS1〜S5)から、順を追って説明する。
【0055】
まず、ステップS1において、目標とする被加工物形状と被加工物の最低必要除去量Bを設定する。なお、被加工物の各位置の、目標とする被加工物形状は、例えばD(x、y)のように、被加工物の座標系でデータ化しておく。ここで用いる(x、y)は、図2(a)、図3に示すように、被加工物の座標を示す。加工開始時のx方向は、工具の揺動方向であると計算が簡略化できるため好ましい。
【0056】
次いで、ステップS2において、加工前の被加工物の形状を実測する。被加工物の各位置の、加工前の被加工物の形状も例えば、M(x、y)のように被加工物の座標系でデータ化しておく。
【0057】
そして、ステップS3において、ステップS1で設定したD(x、y)とB、およびステップS2で実測したM(x、y)から、下記式1を用いて、被加工物の各位置の、目標とする被加工物の除去量を算出する。そして、算出した目標とする被加工物の除去量を、例えばRt(x、y)のように座標系でデータ化しておく。
Rt(x、y)=M(x、y)−D(x、y)+B ・・・式1
続けて、ステップS4において、ステップS2で実測したミラーと同じ形状・材質をしたテストピースを、一定の時間、それぞれの圧力発生手段に発生させる圧力を一定にして、事前加工する。一定の時間は、例えば、一時間以上10時間以下が好ましい。それぞれの圧力発生手段2に発生させる圧力は、それぞれ異なる圧力であってもよいし、圧力が同じものがあってもよいし、全て同じ圧力であってもよい。例えば、それぞれの圧力発生手段2に発生させる圧力を100Pa以上300Pa以下に設定し、一定時間、事前加工する。事前加工後、被加工物の各位置の除去量を、基準となる被加工物の除去量として設定する。この基準となる被加工物の除去量も、例えばRs(x、y)のように被加工物の座標系でデータ化しておく。また、それぞれの圧力発生手段に発生させた圧力を、基準となる工具面圧力として、工具面座標系でデータ化しておく。ここでは、Ps(v、w)で示す。ここで用いる(v、w)は、図2(b)、図3に示すように、工具面座標系を示す。加工開始時のv方向は、工具の揺動方向であると計算が簡略化できるため好ましい。
【0058】
そして、ステップS5において、ステップS3で算出したRt(x、y)とステップS4で設定したRs(x、y)から、下記式2を用いて工具面圧力の補正値C(x、y)を算出する。
C(x、y)=Rt(x、y)÷Rs(x、y) ・・・式2
つまり、被加工物の各位置において、基準となる被加工物の除去量に対して、目標とする被加工物の除去量が、どのくらいの割合であるかを補正値(圧力補正係数)として算出する。
前半パートについての説明は、以上である。
【0059】
次いで、実際に加工対象となる被加工物を研磨する後半パート(ステップS6〜S9)について説明する。後半パートの主な特徴は、被加工物の各位置に位置した前記圧力発生手段に、事前加工で発生させた圧力に、前半パートで求めた圧力補正係数を乗じた圧力を発生させて、事前加工で加工した一定の時間、研磨することである。
【0060】
後半パートはステップS6から順に行い、ステップS9で終了もしくはステップS6に戻るループ構造をとっている。上記ループは、ミラー等の被加工物を加工装置に搭載し、工具を被加工物に当接させつつ相対運動を始めると同時に開始し、ループの終了をもって加工が終了する。
【0061】
まず、ステップS6において、工具回転角度センサ8、工具揺動位置センサ12およびワーク回転角度センサ17の検知手段により被加工物と工具面の位置・位相を測定する。具体的には、工具回転角度センサ8により工具面の位相θt、工具揺動位置センサ12により工具面の位置ρt、ワーク回転角度センサ17により被加工物の位相θwを測定する。ここで加工開始時のθt、ρt、θwは、全て0とする。
【0062】
次いで、ステップS7において、ステップS5で算出したC(x、y)の座標系を、ステップS6で測定したθt、ρt、θwと下記式3、4を用いて工具面座標系の値に変換し、工具面圧力補正値C(v、w)を算出する。
x=v×cos(θt−θw)+w×sin(θt−θw)+ρt×cos(θw) ・・・式3
y=−v×sin(θt−θw)+w×cos(θt−θw)+ρt×sin(θw) ・・・式4
そして、ステップS8において、ステップS4の事前加工で用いたPs(v、w)とステップS6で算出したC(v、w)から、下記式5を用いて工具面の圧力指令値分布Pt(v、w)を算出し、前記指令値で工具面の圧力分布を制御する。
Pt(v、w)=C(v、w)×Pt(v、w) ・・・式5
最後にステップS9において、ループ開始からの経過時間Tnを事前加工の加工時間Tpと比較し、Tn≧Tpであれば加工を終了し、そうでなければステップS6に戻り、Tn≧Tpとなるまでループを繰り返す。
【0063】
本実施形態においては、事前加工により、基準となる被加工物の除去量を算出し、圧力の補正値である補正係数をもとめることにより被加工物の各位置の前記目標とする被加工物の除去量に応じた前記圧力発生手段に発生させる圧力を求めたが、これに限ることはない。たとえば、目標となる被加工物の除去量の大小によって、各圧力発生手段に発生する圧力を被加工物の位置に対応して決定しておき、各圧力発生手段が指令値通りの圧力を発生するように各圧力発生手段を制御する。圧力と工具位置データの履歴から除去量を予測あるいは実測し、目標精度に到達するまで加工する方法を用いてもよい。
【0064】
また、被加工物と工具の相対的な移動は、工具を被加工物の上をラスタ走査させることにより行なってもよい。
【0065】
本発明により、非球面を有するミラー等の光学部材の表面を高精度に加工することができる。また、前記加工を高い加工能率で短時間に終えることができる。
【0066】
さらに本発明では、既存の安価な装置に位置・角度センサを追加するだけで、非球面を対象とした加工が可能となる。そのため、新たに高価な専用装置を導入しなくとも、高精度な非球面光学素子を生産できる環境を整えることが可能となる。
【0067】
加えて本発明では、従来例より工具径を大きくすることができるので、工具が一度に研磨できる被加工物の面積を増やし、加工能率を大幅に向上させることも可能となる。非球面を対象とした加工方法というと、前述したローカル研磨方法のように小径の工具を用いることが一般的であるが、本発明では、全面皿研磨方法で用いるような被加工物の加工面と同等の大きさをもった大径工具も使用できるため、その効果は極めて大きい。
【符号の説明】
【0068】
1 工具の基体
2 圧力発生手段
20 加工部
21 空圧シリンダ
22 圧力センサ
3 フェースプレート
4 研磨パッド
5 球体
6 かんざし
7 加工部20の回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨部材と被加工物との間に圧力を発生させて、前記研磨部材と前記被加工物とを相対的に移動させることにより被加工物を加工するための加工装置であって、
揺動運動を行う支持手段と、
前記支持手段に回転自在に取り付けられた加工部と、を有し、
前記加工部は、前記研磨部材と前記被加工物との間にそれぞれ異なる圧力を発生させるための複数の圧力発生手段を有することを特徴とする加工装置。
【請求項2】
前記加工部は、フレームを介して前記支持手段に取り付けられ、
前記フレームには、前記フレームの前記被加工物と対向する面に支持部材が取り付けられ、
前記フレームは、前記支持部材と、前記被加工物との間に圧力が発生するように配置されていることを特徴とする請求項1記載の加工装置。
【請求項3】
前記研磨部材は、前記圧力発生手段ごとに複数配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の加工装置。
【請求項4】
前記支持部材は、前記研磨部材を囲むように輪帯状に配置されていることを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項記載の加工装置。
【請求項5】
前記支持部材は、前記研磨部材と前記研磨部材の間に配置されていることを特徴とする請求項3記載の加工装置。
【請求項6】
前記複数の圧力発生手段ごとに工具ユニットが形成され、前記工具ユニットのそれぞれに前記圧力発生手段を制御するためのCPUを有することを特徴とする請求項1乃至5いずれか一項記載の加工装置。
【請求項7】
研磨部材と被加工物との間に圧力を発生させて、前記研磨部材と前記被加工物とを相対的に移動させて前記被加工物を加工する光学部材の製造方法において、前記研磨部材と前記被加工物との間にそれぞれ異なる圧力を発生させるための複数の圧力発生手段を有し、
前記被加工物を計測して得た加工前の被加工物の形状と、目標とする前記被加工物の形状とから、前記被加工物の各位置における目標とする被加工物の除去量を求め、
前記被加工物の各位置の前記目標とする被加工物の除去量に応じて、前記研磨部材と前記被加工物との間に発生する圧力を変化させて前記被加工物を加工することを特徴とする光学部材の製造方法。
【請求項8】
前記圧力発生手段に発生させる圧力は、
前記複数の圧力発生手段のそれぞれに、基準となる圧力を発生させて、一定の時間、加工した時、前記被加工物の各位置において除去される基準となる被加工物の除去量を求め、
前記被加工物の各位置ごとに、前記目標とする被加工物の除去量と前記基準となる被加工物の除去量とから、前記被加工物の各位置ごとの圧力補正係数を求め、
前記被加工物の各位置に前記圧力発生手段が位置した時に、前記圧力発生手段の圧力を前記基準となる圧力に前記圧力補正係数によって補正された圧力を発生させることを特徴とする請求項7記載の光学部材の製造方法。
【請求項9】
前記研磨部材の周囲に支持部材を配置し、
前記支持部材と前記被加工物との間に発生する圧力によって、前記研磨部材と前記被加工物との間に発生する圧力の変化に応じて発生するモーメントを補償することを特徴とする請求項7または8記載の光学部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−66997(P2013−66997A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−188789(P2012−188789)
【出願日】平成24年8月29日(2012.8.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】