説明

加工装置

【課題】設置環境によって装置剛性を高くすることができない場合であっても、びびり振動の発生を抑制し得て、加工を行うことができる加工装置を提供する。
【解決手段】被加工物に対して所定の加工を行う工具10cが取り付けられる加工装置本体10aと、加工装置本体10aに取り付けられて被加工物への加工方向に周波数可変に振動を発生する慣性加振機15と、加工装置本体10aに取り付けられて振動状態を検出する振動状態検出部16,17と、振動状態検出部16,17による振動状態検出結果に基づいて振動発生に起因する特性値の少なくとも一つを振動発生減衰方向に調整するためのTMD20と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物の内面に対して固定されて被加工物の内面に所定の加工を行う加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、原子炉容器の管台内部での保守作業は、原子炉容器内部が通常時において冷却水で満たされたていることから、水中環境下で実施する必要があった。しかしながら、水中環境下での作業では全ての機器を防水仕様の設計とする必要があり、防水仕様とすることで機器の容積及び質量が増加し取扱いが困難となる。また、使用した機器は冷却水に含まれる放射線に曝されるため、引き上げ後に除染作業が必要となってしまう。このため、近年では、原子炉容器の管台内部での保守作業を気中環境で行う場合がある。
【0003】
具体的には、原子炉容器内部の冷却水の水位を管台よりも低下させた後に内部に架台を設置する。そして、この架台内部において、作業員が管台内部に検査装置を挿入して固定し、所望の範囲で超音波探傷検査(UT検査)を行う。
【0004】
さらに、このUT検査によって配管内部に欠陥部を発見した場合、エコーによって発見した内質欠陥の大きさや位置から、無人の加工装置を用いて配管の加工を行う。この際、配管を加工装置で行う場合、例えば、配管内面を切削加工する場合、装置振動等によってびびり振動が発生するため、このびびり振動に応じて工具による切込み量を可変制御することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−074568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した加工装置では、びびり振動の発生を根本的に抑制する技術ではなく、しかも、びびり振動に応じて工具による切込み量を可変制御するものである。従って、加工装置を用いた場合にびびり振動を発生させないためには、加工装置として剛性の高い旋削加工装置が必要であるが、旋削加工装置の剛性を高くすると寸法及び重量が大きくなり、配管内面への設置が困難となってしまう。
【0007】
そこで、配管内面への設置を容易にするため、旋削加工装置の重量を軽くすると、今度は旋削加工装置の剛性が低くなってびびり振動が発生し易くなり、旋削加工表面の荒れや旋削加工装置の工具損傷によって加工が困難となってしまう虞がある。しかも、上述した原子炉容器内部といった特殊な環境下では、旋削加工装置を配管に設置した状態の振動特性は実際には配管に設置しなければ取得することができないにも拘らず、配管位置(内質欠陥位置)に作業員が近づくことは難しく、びびり振動を効果的に抑制することが困難であるという問題が生じていた。
【0008】
そこで、本発明は、設置環境によって装置剛性を高くすることができない場合であっても、びびり振動の発生を抑制し得て、加工を行うことができる加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の加工装置は、被加工物の内面に対して固定されて被加工物の内面に所定の加工を行う加工装置であって、被加工物に対して所定の加工を行う工具が取り付けられる加工装置本体と、前記加工装置本体に取り付けられて被加工物への加工方向に周波数可変に振動を発生する加振部と、前記加工装置本体に取り付けられて振動状態を検出する振動状態検出部と、該振動状態検出部による振動状態検出結果に基づいて振動発生に起因する特性値の少なくとも一つを振動発生減衰方向に調整するための調整部と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、加工装置本体を駆動させて被加工物の内面に所定の加工を行う際に発生するびびり振動を振動状態検出部による振動状態検出結果に基づいて調整部で振動発生に起因する特性値の少なくとも一つを振動発生減衰方向に調整することにより、設置環境によって装置剛性を高くすることができない場合であっても、びびり振動の発生を抑制し得て、加工を行うことができる。
【0011】
また、本発明の加工装置は、前記調整部として、錘と、該錘を前記加工装置本体に対して支持する弾性体と、から構成されたチューンドマスダンパを備え、その特性値が前記錘の重量値または前記弾性体の弾性率であることを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、調整部としての錘の重量値や弾性体の弾性率を調整することにより、加工装置本体で発生した慣性加振力を加振部とで相互に打ち消し合う際のずれを調整部としてのチューンドマスダンパによって調整することができ、びびり振動の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の加工装置は、設置環境によって装置剛性を高くすることができない場合であっても、びびり振動の発生を抑制し得て、加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る加工装置を示し、(A)は原子炉の概念図、(B)は加工装置としての旋削加工装置を原子炉内に設置した状態の説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る加工装置の実施例1を示し、(A)は旋削加工装置の説明図、(B)はチューンドマスダンパの側面図、(C)はチューンドマスダンパの正面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る加工装置の実施例1を示し、(A)はびびり振動抑制のための調整ルーチンのフロー図、(B)は調整概念の説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る加工装置の実施例2を示し、(A)は旋削加工装置の説明図、(B)はチューンドマスダンパの側面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る加工装置の実施例3を示す旋削加工装置の説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る加工装置の実施例4を示す旋削加工装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の一実施形態に係る加工装置について、図面を参照して説明する。尚、以下に示す実施例は本発明の加工装置における好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定を付している場合もあるが、本発明の技術範囲は、特に本発明を限定する記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。また、以下に示す実施形態における構成要素は適宜、既存の構成要素等との置き換えが可能であり、かつ、他の既存の構成要素との組合せを含む様々なバリエーションが可能である。したがって、以下に示す実施形態の記載をもって、特許請求の範囲に記載された発明の内容を限定するものではない。
【0016】
図1は本発明の一実施形態に係る加工装置を示し、図1(A)は原子炉の概念図、図1(B)は加工装置としての旋削加工装置を原子炉内に設置した状態の説明図である。
【0017】
本実施の形態においては、図1(A)に示すように、原子炉1の内部において、上部構造体である上蓋及び内部構造体である炉心構造物が取り外され、上部が開口した原子炉容器2を示している。また、原子炉容器2の下方には、配管として複数のノズル3が突出されている。さらに、原子炉容器2には、図1(B)に示すように、ノズル3に加工装置としての旋削加工装置10をノズル3の内部に設置するための設置台4が設置される。そして、図示を略すクレーンのワイヤ5によって旋削加工装置10が、設置台4に予め設置されている移送機構6に設置されたうえで、移送機構6によってノズル3の内部に移送される。また、ノズル3の内部に移送された旋削加工装置10は、加工装置本体10aの周壁から突出可能なクランプ機構10bを突出させることでノズル3の内部所定位置で固定される。
【0018】
加工装置本体10aは、クランプ機構10bが周壁に設けられた筒状の本体支持部11と、本体支持部11内に中心軸Lに沿う方向を送り方向Xとして進退可能に配設された送り方向可動部12と、中心軸L回りの回転方向Rに回転可能な旋回可動部13と、旋回可動部13に径方向を切込み方向Yとして進退可能に設けられた切込み方向可動部14とを備える。
本体支持部11には、図示しない送り方向駆動機構が設けられていて、該送り方向駆動機構により送り方向可動部12を送り方向Xに進退させることが可能である。送り方向可動部12には、中心軸Lに沿うようにして、先端側に開口する軸挿通孔12aが形成されている。
また、旋回可動部13は、軸挿通孔12aに挿入され、回転方向Rに回転可能な軸部13aと、軸部13aの先端に設けられた円盤状のディスク13bとを有している。送り方向可動部12には、図示しない旋回駆動機構が設けられていて、該旋回駆動機構により旋回可動部13を回転方向Rに所望の回転数で回転させることが可能となっている。旋回可動部13のディスク13bには、切込み方向可動部14が中心軸Lと直交する方向に進退可能に設けられている。切込み方向可動部14には、切込み方向可動部14が進退する方向に突出するようにして切削工具10cが取り付けられている。また、旋回可動部13のディスク13bには、図示しない切込み方向駆動機構が設けられていて、該切込み方向駆動機構により切込み方向可動部14を中心軸Lに直交する方向に進退させ、当該中心軸Lに直交する径方向の一方向を切込み方向Yとして切削工具10cを突出させて切削することが可能となっている。
尚、本実施の形態において、切削工具10cについて、その加工種類や工具種類、或いは、加工装置本体10aについて、駆動方式等の構成や条件は、公知の技術を適用することができる。また、例えば、切削工具10cで切削したノズル3の切り屑を回収する等、その他の各種構成等を装備させることも任意である。
【0019】
(実施例1)
図2は本発明の一実施形態に係る加工装置の実施例1を示し、図2(A)は旋削加工装置の説明図、図2(B)はチューンドマスダンパの側面図、図2(C)はチューンドマスダンパの正面図、図3は本発明の一実施形態に係る加工装置の実施例1を示し、図3(A)はびびり振動抑制のための調整ルーチンのフロー図、図3(B)は調整概念の説明図である。
【0020】
旋削加工装置10は、加工装置本体10aの後方(中心軸Lに沿って切削工具10cが取り付けられた側と反対側)に、加工装置本体10aに振動を発生させる慣性加振機15と、その際の振動特性を検出する力センサ(又は歪センサ)16及び加速度計17と、を備えている。また、加工装置本体10aの後方及び前方(の何れか一方でも良い)には、チューンドマスダンパ(以下、「TMD」と称する)20を備えている。図2においては、後方のTMD20は、送り方向可動部12の後端面に設けられ、また、前方のTMD20は、ディスク13bの前端面に設けられている。尚、TMD20は旋削加工装置10の前方または後方の片側に設置するよりも前後方設置したほうが振動抑制力は高い。
【0021】
慣性加振機15は、実際に図示しない旋回駆動機構を駆動させて切削工具10cにより切削加工を行う前に、旋削加工装置10をノズル3に設置した状態で旋削加工装置10を強制的に振動させることで、旋削加工装置10及び旋削加工装置10が固定されるノズル3などを含めた振動系に振動を発生させる。尚、予め旋削加工装置10が振動し易い方向が把握されていることから、慣性加振機15は、概ねその振動方向に振動させる。
【0022】
力センサ16及び加速度計17から出力される検出信号は、必要に応じてアンプ等(図示せず)で増幅した後にFFTアナライザ18に入力される。
【0023】
FFTアナライザ18は、力センサ16及び加速度計17から出力される検出信号を周波数解析することでモニタリングする。
【0024】
ここで、旋削加工装置10やノズル3の内壁に発生するびびり振動は、装置の固有振動数近傍で発生する振動であり、力センサ16及び加速度計17によって装置の固有振動数と対応する周波数の振動が検出され、その検出信号はFFTアナライザ18に出力される。
【0025】
FFTアナライザ18では、力センサ16及び加速度計17から出力される検出信号をモニタリングし、装置の固有振動数近傍で振動が検出されると、これを示す旨の信号を図示しないモニタやプリンタ等の出力装置(図示せず)に出力する。
【0026】
TMD20は、図2(B),(C)に示すように、加工装置本体10aに固定されたダンパ機能を有するゴム等の複数の粘弾性体21と、この粘弾性体21に保持された錘22と、この錘22に着脱可能な調整用錘23と、を備えている。尚、粘弾性体21は加工装置本体10aの錘22、23の重心を基準に三等分位置に配置されている。
【0027】
従って、TMD20の固有振動数を測定すると共に、FFTアナライザ18でモニタリングした結果をTMD20の固有振動数に反映して調整することにより、旋削加工装置10のびびり振動を抑制することができる。
【0028】
この際、旋削加工装置10をノズル3に設置した状態で、切削前に慣性加振機15を駆動させて旋削加工装置10の動特性を測定し、TMD20の調整用錘23の質量を手動で調整(交換)する。尚、TMD20を調整する場合には、旋削加工装置10をノズル3の外部に出してから行う。
【0029】
以下、錘質量の具体的な調整を図3に基づいて説明する。
【0030】
(ステップS1)
ステップS1では、TMD20の初期設定を行う。
まず、予め当該旋削加工装置10のTMD20単体について、固有振動数fと、錘質量Mとの関数P(f)を求めておく。関数P(f)は、例えば近似式(1)として求めることができる。
M=P(f)=(f/a) ・・・・・(1)
ここで、a、bは定数である。
なお、関数Pは、粘弾性体21を構成するものとして選定した防振ゴムの特性に依存するものであり、上記は一例であり、必ずしも式(1)のような指数関数となるわけではない。
また、粘弾性体21を構成するものとして選定した防振ゴムの温度特性に基づいて、固有振動数に対する温度の影響を考慮するためのTMD20の固有振動数の補正係数Q(Qは雰囲気温度tの関数:以下、Q(t)とする)を求め、式(1)を温度補正した式(2)を求める。
M=(Q(t)×f/a) ・・・・・(2)
さらに、予めシミュレーション解析により、旋削加工装置10の固有振動数f1と、TMD20の最適な固有振動数f2とを求めておく。
そして、式(2)における固有振動数fに、求めたTMD20の最適な固有振動数f2を代入するとともに、推定される現地の雰囲気温度の値をQ(t)に代入することで、現地の推定温度tにおいて最適とされる固有振動数となる錘質量Mを求めることができる。
そして、求めた錘質量MをTMD20の錘質量の初期値として決定し、ステップS2に移行する。
【0031】
(ステップS2)
ステップS2では、現地における加振試験を行う。具体的には、旋削加工装置10をノズル3に設置し、慣性加振機15を駆動させる。そして、慣性加振機15による振動の周波数を変化させながら、力センサ16によって作用する力を計測し、また、加速度計17によって発生する加速度を計測する。また、上述した粘弾性体21の弾性力変化を考慮して現場温度を計測してステップS3へと移行する。
【0032】
(ステップS3)
ステップS3では、力センサ16及び加速度計17から出力される検出信号をFFTアナライザ18でモニタリングして、モニタリングされた検出信号に基づいて旋削加工装置10の振動特性を解析する。ここで、TMD20の推定のずれが小さい場合、旋削加工装置10の固有振動数の前後の周波数に2つのピークが発生するため、この場合にはステップS4へと移行する。また、TMD20の推定のずれが大きい場合、旋削加工装置10の実固有振動数にピークが発生するため、この場合にはステップS5へと移行する。
【0033】
(ステップS4)
ステップS4では、ステップS3の解析で得られた振動特性に基づいて、旋削加工装置10による旋削加工時におけるびびり振動発生に起因する特性値の一つである固有振動数について、びびり振動が発生しないように、固有振動数のパラメータとなる値の少なくとも一つについて変更すべき値を算出する。本実施形態では、固有振動数のパラメータとなる特性値としてTMD20の調整用錘23の質量を選択し、当該質量を算出する。
具体的には、まず、ステップS3で取得された振動特性で確認された周波数の2つのピークの高さの比Hを読み取る。次に、読み取った2つのピークの高さの比Hを以下の式(3)に代入して、現地に設置された旋削加工装置10のTMD20として実際に最適とされる固有振動数f3を求める。ここで、f2は、ステップS1で予めシミュレーション解析により求められたTMD20の最適な固有振動数である。
f3={Q(t0)/Q(t1)}・f2−ΔS(H) ・・・・・(3)
ここで、t0は、現地の推定温度、t1は、現地の実温度、ΔSは、TMD20の実際に最適とされる固有振動数f3と現在のTMD20の固有振動数f2に温度補正を掛けた値とのずれ量と、現在のTMD20の固有振動数で取得される振動特性で読み取られる2つのピークの高さの比との関係を表す関数であり、予めシミュレーション解析を実施することで求められる。
そして、現地に設置された旋削加工装置10のTMD20として実際に最適とされる固有振動数f3を求めたら、当該固有振動数f3を式(2)における固有振動数fに、現地で計測される雰囲気温度を式(2)における温度tに代入することにより、現地に設置された旋削加工装置10のTMD20として最適な錘質量Mを求め、ステップS6へと移行する。
【0034】
(ステップS5)
ステップS5では、ステップS3の解析で得られた振動特性に基づいて、ステップS4同様に旋削加工装置10が旋削加工時にびびり振動が発生しない固有振動数となるようなTMD20の錘質量Mを算出する。具体的には、まず、ステップS3で取得された旋削加工装置10の固有振動数f4、すなわち振動特性で確認されたピークが発生する周波数を検出する。そして、以下の式(4)に検出された固有振動数f4を代入することにより、現地に設置された旋削加工装置10のTMD20として実際に最適とされる固有振動数f5を求める。
ここで、f1、f2は、ステップS1で予めシミュレーション解析により求められた旋削加工装置10の固有振動数と、TMD20の最適な固有振動数である。
f5=(f2/f1)×f4 ・・・・・(4)
そして、現地に設置された旋削加工装置10のTMD20として実際に最適とされる固有振動数f5を求めたら、当該固有振動数f5を式(2)における固有振動数fに、現地で計測される雰囲気温度を式(2)における温度tに代入することにより、現地に設置された旋削加工装置10のTMD20として最適な錘質量Mを求め、ステップS6へと移行する。
【0035】
(ステップS6)
ステップS6では、ステップS4またはステップS5で算出したTMD20の錘質量Mを決定してステップS7へと移行する。尚、算出された錘質量は、調整用錘23の重量で調整をする。
【0036】
(ステップS7)
ステップS7では、ステップS6で決定した錘質量Mとなるように、TMD20の調整用錘23の錘質量を現場調整する。具体的には、本実施例では、移送機構6によってノズル3から設置台4へと旋削加工装置10を引き戻し、クレーン(ワイヤ5)により旋削加工装置10を原子炉容器2から引き上げた後に、調整用錘23を決定された錘質量のものに手動で交換した後に、再びノズル3の内部に移送する。そして、調整が完了したら加工を開始する。
【0037】
このように、本発明の旋削加工装置10にあっては、びびり振動の発生を予め現場にて測定し、TMD20の錘質量を調整することによって旋削加工装置10の振動をTMD20の振動で相殺し、びびり振動の発生を抑制することができる。また、本発明の旋削加工装置10にあっては、切削加工前においてびびり振動の発生を抑制するようにTMD20の錘質量を調整することによって、びびり振動が生じうる状態で切削加工を行うことを抑制することができる。
【0038】
(実施例2)
図4は本発明の旋削加工装置10の実施例2を示す。上記実施例1では、実際の加工前に、旋削加工装置10による旋削加工時におけるびびり振動発生に起因する特性値の一つである固有振動数について、びびり振動が発生しないように、固有振動数のパラメータとなる値としてTMD20の錘質量を人為的に調整した例を示したが、この実施例2では、上記特性値の調整を自動で行うものである。また、実施例2においては、固有振動数のパラメータとなる値としてTMD20の錘質量のみならず、バネ定数kの調整も行う。
なお、上記実施例1と同一の構成には同一の符号を付してその詳細な説明を省略し、上記実施例1のTMD20と異なるTMD30を主として説明する。
【0039】
TMD30は、本実施例では旋削加工装置10の前後方(前後の一方でも可)に設置されており、図4(B)に示すように、加工装置本体10aに固定されたダンパ機能を有するゴム等の複数の粘弾性体31と、二種類の錘32及び調整用錘33と、を備えている。また、粘弾性体31は加工装置本体10aの錘32、33の重心を基準に三等分位置に配置されており、その軸線と同軸上には支持軸34が突出されている。
【0040】
支持軸34は、錘32及び調整用錘33を防振ゴム35,36を介して保持している。また、支持軸34は、TMD調整コントローラ19によって支持軸34の軸線方向に沿って進退動する直動機構37,38を備えている。
【0041】
直動機構37,38は、軸線方向に沿って進退動することにより、防振ゴム35,36を圧縮・復帰させる。従って、防振ゴム35,36を圧縮させた場合には、その径が太くなることから、錘32及び調整用錘33が支持軸34に質量を直結させることができる。したがって、防振ゴム35,36が伸張している状態では、錘32及び調整用錘33はTMD30としての振動発生には寄与しないこととなる。また、防振ゴム35,36は、ゴムからなることから、歪に対してバネ定数kが非線形性を示すこととなり、これを利用して直動機構でゴムを潰してTMD20のバネ定数kも変化させることができる。
【0042】
このような構成においては、実施例1のステップS1と同様に、予めTMD30の錘質量及びバネ剛性を調整したうえで、ノズル3に旋削加工装置10を設置する。
【0043】
次に、実施例1のステップS2と同様に、現地において旋削加工装置10をノズル3に設置した状態で慣性加振機15を駆動させ、慣性加振機15による振動の周波数を変化させながら、力センサ16によって作用する力を計測すると共に加速度計17によって発生する加速度を計測し、さらに、現場温度を計測する。
【0044】
さらに、力センサ16及び加速度計17から出力されFFTアナライザ18で周波数分析がされた検出信号に基づいて、TMDコントローラ19は、旋削加工装置10の振動特性を解析する。具体的には、TMDコントローラ19は、FFTアナライザ18から出力される検出信号から、上記ステップS3のように旋削加工装置10の固有振動数の前後の周波数に2つのピークが発生しているか、旋削加工装置10の固有振動数となる位置に1つのピークが発生しているかを判定する。そして、2つのピークが発生していると判定された場合には、式(3)により現地でのTMD30の固有振動数を算出する。また、1つのピークが発生していると判定された場合には、式(4)により現地でのTMD30の固有振動数を算出する。
そして、TMDコントローラ19は、算出した固有振動数となるように直動機構37、38の位置を調整する。なお、予めTMD30の固有振動数と、直動機構37、38の位置関係を把握しておく。
【0045】
そして、図4(B)において、粘弾性体31、錘31及び防振ゴム35からなるユニットでは、直動機構37を動かして防振ゴム35を圧縮させることで防振ゴム35のバネ定数を大きくして、これによりTMD30の固有振動数を高くすることができる。また、錘33及び防振ゴム36からなるユニットでは、直動機構38を動かして防振ゴム36を圧縮させることで、TMD30の固有振動数を高くすることができる。なお、、TMD30の固有振動数の調整は、上記両ユニットの両方、またはいずれか一方で行うものとしても良い。
そして、調整が完了した後に、切削工具10cを駆動して加工を開始する。
【0046】
このように、実施例2の旋削加工装置10によれば、加工前においてびびり振動の発生を抑制するようにTMD30の錘質量及びバネ定数を調整することによって、びびり振動が生じうる状態で切削加工を行うことを抑制することができる。また、旋削加工装置10をノズル3から引き出して原子炉容器2から引き上げることなく、ノズル3の内部に固定したまま人が近づくことなくTMD30の加工前調整を自動で行うことができる。
【0047】
(実施例3)
図5は、本発明の実施例3を示す。上記各実施例では、TMD20,30を用いて振動発生に起因する特性値として固有振動数を調整して旋削加工装置10のびびり振動の発生を相殺するものを示したが、本実施例3では、TMD20,30を廃止し、振動発生に起因する特性値として切込み量を含む加工条件を変更することによりびびり振動の発生を抑制するものである。なお、上記実施例1と同一の構成には同一の符号を付してその詳細な説明を省略して説明する。
【0048】
この実施例3においては、ノズル3の内面に対する固定用のクランプ機構10b及び旋回軸方向(旋回速度)、送り軸方向(送り量)、切込軸方向(切込量)の駆動機構を有する加工装置本体10a、慣性加振機15、力センサ16、加速度計17を備えた構成となっている。
【0049】
このような構成において、ノズル3に旋削加工装置10を設置した状態で、実施例1と同様に実際に切削加工を行う前に、慣性加振機15を用いた加振試験により旋削加工装置10の振動特性を測定し、初期設定された切削条件でびびり振動が発生しうる場合には、びびり振動が発生しない切削条件(旋回速度、送り量、切込量)に再設定する。この際、びびり振動の限界は試験データまたは切削シミュレーションにより事前に予測しておく。
【0050】
ところで、この実施例3で示した加工条件の設定変更は、上記実施例1又は実施例2を併用し、実際の加工前に行うことも可能である。例えば、TMDの錘の重さやバネ定数の調整によって調整し、TMDのもつ調整幅で調整しきれない場合に、切削条件を変更するようにしても良い。
【0051】
(実施例4)
図6は、本発明の実施例4を示す。上記実施例2では、TMD30を用いて旋削加工装置10のびびり振動の発生を加工前に相殺するものを示したが、本実施例4では、TMD30を廃止し、慣性加振機15によってびびり振動の発生を抑制するものである。なお、上記実施例2と同一の構成には同一の符号を付してその詳細な説明を省略して説明する。
【0052】
この実施例4においては、ノズル3の内面に対する固定用のクランプ機構10b及び旋回軸方向(旋回速度)、送り軸方向(送り量)、切込軸方向(切込量)の駆動機構を有する加工装置本体10a、慣性加振機15、力センサ16及び加速度計17とともに、慣性加振機15を制御する加振制御部40を備えた構成となっている。また、力センサ16、加速度計17は旋削加工装置10の前後方の両方に配置されている。また、慣性加振機15としては、加工装置本体10aの前方側となるディスク13bの前端面に設けられた慣性加振機15Aと、加工装置本体10aの後方側となる送り方向可動部12の後端面に設けられた2台の慣性加振機15B、15Cとを有する。慣性加振機15B、15Cは、互いの振動方向が直交するように設定されている。なお、慣性加振機15としては、必ずしも加工装置本体10aの前後に設けられている必要はなく、また、少なくとも直交する2方向に起振可能な構成であれば、1台の慣性加振機でも良い。また、旋回可動部13を回転させる図示しない旋回駆動機構は、例えば回転角度検出可能なエンコーダを有するモータを備え、検出された回転角度を加振制御部40に出力している。
【0053】
上記の構成においては、実施例1〜3と同様に切削加工前に慣性加振機15による加振試験によって振動特性を解析したうえで、実際の切削加工中においては、加振制御部40による制御のもと、びびり振動を相殺し得る周波数、振幅、振動の方向で慣性加振機15を振動させる。具体的には、加振制御部40は、図示しない旋回駆動機構から出力された回転角度に基づいて、慣性加振機15B、15Cの合成加振力が旋回と同期するように、慣性加振機15B、15Cによる振動の振幅及び周波数を制御する。これにより、旋削加工中のびびり振動を抑制することができる。また、実際の切削加工中においても、慣性加振機15を振動させて旋削加工装置10のびびり振動の発生を力センサ16と加速度計17とによってリアルタイムで監視し、FFTアナライザ18のモニタリング結果に応じて慣性加振機15による振動の振幅及び周波数を調整するようにしても良い。これにより、より精度良くびびり振動を抑制することができる。
【0054】
また、上述した実施例3に、この実施例4の慣性加振機15の一方(後方)又は双方を調整部として調整する技術を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0055】
10…旋削加工装置(加工装置)
10a…加工装置本体
10c…切削工具
15…慣性加振機(加振部/調整部)
16…力センサ(振動状態検出部)
17…加速度計(振動状態検出部)
18…FFTアナライザ(調整部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の内面に対して固定されて被加工物の内面に所定の加工を行う加工装置であって、
被加工物に対して所定の加工を行う工具が取り付けられる加工装置本体と、前記加工装置本体に取り付けられて被加工物への加工方向に周波数可変に振動を発生する加振部と、前記加工装置本体に取り付けられて振動状態を検出する振動状態検出部と、該振動状態検出部による振動状態検出結果に基づいて振動発生に起因する特性値の少なくとも一つを振動発生減衰方向に調整するための調整部と、を備えていることを特徴とする加工装置。
【請求項2】
前記調整部として、錘と、該錘を前記加工装置本体に対して支持する弾性体と、から構成されたチューンドマスダンパを備え、その特性値が前記錘の重量値または前記弾性体の弾性率であることを特徴とする請求項1に記載の加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−179662(P2012−179662A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42311(P2011−42311)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】