説明

加工食品の保存方法および米飯の製造方法

【課題】 食材に含まれる澱粉の老化を防止して、その食味や食感等の品質を維持しつつ、保存性を向上させる加工食品の保存方法および米飯の製造方法を提供する。
【解決手段】 澱粉を含んだ加工食品用の食材を調理する際に、その食材の重量に対して0.1〜3.0重量%の醸造酢と、0.1〜1.0重量%の酢酸ナトリウムと、0.03〜0.2重量%のマルトースとを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食材に含まれる澱粉の老化を防止して、その食味や香り、食感等を、より長期間維持しつつ、保存性を向上させる加工食品の保存方法および米飯の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、製造業の海外展開や現地生産化の進行にともなって、人件費の安い海外の労働力を使って食品を加工し、その加工食品を輸入して、低価格で国内市場に供給することが一般的に行われている。また国内では、消費者の価値観の変化に伴って、共働きなど、働く女性が増えている。これにより、料理などの家事に時間をかけることが難しくなり、半調理済や調理済等のような加工食品への需要が高まっている。実際、スーパー等では素材の売り場面積が減少する反面、惣菜の売り場面積が増加するといった現象が起きている。
【0003】
このように、物流システムのグローバル化や消費者ニーズの変化から、加工食品の保存性向上に対する要望が高まっている。この要望を、食味・香り・食感などの品質を落とさずに満足すべく、様々な保存剤や製造方法等が提案されている。
【0004】
例えば、
1)ε−ポリリジン若しくはその塩や酢酸ナトリウム、および特定の有機酸を、所定比率で混合させている食品保存剤(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
2)食品の保存性を高めるため、殺菌作用のある醸造酢を添加する。
【0006】
3)酢酸ナトリウムと醸造酢とを、魚畜肉のねり肉に混和させてねり製品を製造することで、そのねり製品のしぶみ・にがみ・えぐみ等を除去し、風味を良くする品質改良剤(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
4)クエン酸塩と糖アルコール、およびマルトースとからなるチルド保存に適した米飯を製造できる米飯改良剤(例えば、特許文献3参照。)。
【0008】
5)炊飯時に、酢酸ナトリウムとマルトースとを添加する米飯の製造方法(例えば、特許文献4参照。)。
【特許文献1】特開平11−123070号公報(第2〜4頁)
【特許文献2】特許第1877956号公報(第1〜3頁)
【特許文献3】特許第2921747号公報(第2〜5頁)
【特許文献4】特開2000−333623号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のような保存剤や製造方法等にはそれぞれ、次のような問題点がある。
【0010】
その問題点は、
1)酢酸ナトリウムの添加量が0.3%以上になると、食品が酸味を帯びた味になるだけでなく、澱粉の老化が助長され、食品の食味や食感等の品質が低下する。
【0011】
2)醸造酢を添加すれば、味に酸味が感じられるようになるだけでなく、澱粉が老化したり蛋白質の変性が生じたりと、品質の劣化が起こる。
【0012】
3)酸性の醸造酢に、中性塩の酢酸ナトリウムを混合すると、食品のpH値(水素イオン濃度)を中性に近づけることができるので、酸臭や酸味等を抑え、食味や香り等の改善ができるものの、澱粉の老化は防止することはできない。したがって、長期間保存した場合には、澱粉が老化することによる食味や食感等の品質の低下が生じることがある。
【0013】
4)マルトース・クエン酸・糖アルコールはそれぞれ、澱粉の老化を防ぐ効果を有している。因みに、これらを比較した場合、マルトースが最も少ない添加量で有効な澱粉の老化防止効果を発揮する。しかしながら、マルトースと糖アルコールは抗菌作用を有しておらず、またクエン酸の抗菌力も酢酸の10分の1以下と低いため、これらを添加して調理しても、菌の繁殖を十分に抑えることができず、保存性をより向上させるという効果は期待できない。
【0014】
5)酢酸ナトリウムを添加することにより、保存性を良くするだけでなく、マルトースを加えて澱粉の老化を防ぎ、食味や食感等の品質の低下をも防いでいる。しかしながら、物流システムの変化や、消費者の趣向の変化等により求められている保存効果に対しては、十分なものとは言えない。
【0015】
本発明は、澱粉の老化を抑えて、食品の風味や食感等の品質低下を抑えつつ、より保存性を向上させることができる、新規な加工食品の保存方法および米飯の製造方法を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者達は、上記の問題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、澱粉を含む食材を調理する際に、醸造酢と酢酸ナトリウムおよびマルトースとを、それぞれ所定の割合で加えると、品質の低下が抑えられるとともに、食品の保存効果が向上することを見出した。
【0017】
本発明は、この知見に基づいてなされたもので、従来知られている食品の製造方法や保存剤などよりも高い保存効果を示し、しかも、品質低下を抑制できる加工食品の保存方法を提供するものである。
【0018】
本発明の加工食品の保存方法は、澱粉を含んだ加工食品用の食材を調理する際、その食材の重量に対して0.1〜3.0重量%の醸造酢と、0.1〜1.0重量%の酢酸ナトリウムと、0.03〜0.2重量%のマルトースとを添加することを特徴とするものである。
【0019】
酢酸を主成分とする醸造酢を添加することで、その殺菌作用により食品の保存性を向上させることができるが、醸造酢特有の酸味や酸臭によって、食品の食味や香りが損なわれることがあるため、有機酸の中性塩である酢酸ナトリウムを混合させ、その中和作用により醸造酢の酸味や酸臭を抑えている。また、酢酸ナトリウムは殺菌作用を有しているので、保存性も向上させることができるのである。
【0020】
しかし、醸造酢や酢酸ナトリウムを混合すると、食品中に含まれる澱粉の老化が助長されて品質が低下することがあるため、保水作用のあるマルトースを添加し、澱粉の老化を防止している。
さらに、マルトースを添加することで、保存性も向上させている。つまり、マルトースの保水作用により、食材から遊離水が生じるのを防いでいるのである。遊離水は、腐敗の原因となる微生物の繁殖に利用されるので、遊離水が抑えられている状態であれば、微生物が繁殖しにくく、食品の保存性が向上するのである。
【0021】
このように、醸造酢と酢酸ナトリウム、およびマルトースを添加することで、品質の低下を防ぎつつ、保存性を向上させることができるのである。
【0022】
各成分の添加量は、上記の割合で添加するのが良く、仮に、醸造酢と酢酸ナトリウムとを、上記割合の2倍添加した場合には、酸味が強くなり食品本来の食味を損なってしまう。一方、上記割合よりも少ない添加量であれば、菌の繁殖を抑制する働きが低下し、保存性が悪くなるのである。
【0023】
また、マルトースを上記の割合より多く添加すれば、マルトースの甘味が目立つようになり、食品本来の味を損なってしまう。一方、上記割合よりも添加量が少なければ、食品中の澱粉の老化を十分に抑えることができなくなり、品質が低下してしまうのである。
【0024】
したがって、加工食品の品質の低下を抑えつつ、保存性をより高めるためには、上記の添加量、つまり、醸造酢0.1〜3.0重量%、酢酸ナトリウム0.1〜1.0重量%、マルトース0.03〜0.2重量%が適しているのである。
【0025】
それから、醸造酢と酢酸ナトリウムおよびマルトースを水に混合し、水素イオン濃度(pH)を弱酸性の約5.5にした混合液を添加するようにしても良い。
【0026】
このように、醸造酢・酢酸ナトリウム・マルトースを、pH約5.5の一般生菌等が繁殖しにくい弱酸性混合液として添加するようにすれば、各成分を加工食品中に均一に混入させやすくなり、保存性や品質の安定したものとすることができる。また、酢酸ナトリウムはpH5.5では、遊離の酢酸が混在した状態となるため、この酢酸の抗菌作用によって加工食品の保存性をより効果的に向上させることができるのである。
【0027】
また、米を次のようにして製造すれば、食味や食感等の品質が良く、保存性に優れた米飯とすることができる。つまり、米と水との重量比を5:6とし、醸造酢20重量%・酢酸ナトリウム20重量%・マルトース5重量%・水55重量%の水素イオン濃度約5.5の混合液を、米の重量に対して2重量%添加して炊飯するのである。
【発明の効果】
【0028】
本発明にかかる加工食品の保存方法および米飯の製造方法には、次のような優れた効果がある。
【0029】
本発明にかかる加工食品の保存方法および米飯の製造方法は、
(1)調理の際に、醸造酢・酢酸ナトリウム・マルトースを適量ずつ組合わせて添加することで、出来上がり直後の品質を、菌の繁殖を抑えつつ維持することができるので、在庫として長期の保管が可能となる。したがって、品質の劣化や賞味期限切れ等による加工食品の廃棄量を減少させ無駄を省くことができる。
【0030】
(2)輸入から消費者に提供するまで数日を要する輸入加工食品でも、高品質で、なお且つ、食中毒等の危険のない安全な状態で、国内で流通させることが可能となる。
【0031】
(3)加工食品の日持ち効果がより向上するので、夏場など食品の傷みやすい時期でも、お弁当や惣菜の材料として、安心して使用できるようになる。
【0032】
(4)醸造酢・酢酸ナトリウム・マルトースが混合されている、pH約5.5の弱酸性の混合液を添加し調理することで、加工食品の保存性がさらに向上するので、(1)や(2)に記載したような効果をより高めることができる。
【0033】
(5)炊き上がった米飯は、菌が繁殖しにくく高品質の状態を維持できるので、炊いた米飯をそのまま用いるような、おにぎり用やお弁当用として特に好適なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、本発明にかかる加工食品の保存方法および米飯の製造方法の実施の形態について説明する。
【0035】
本実施例では、醸造酢20重量%・酢酸ナトリウム20重量%・マルトース5重量%・水55重量%の割合で混合されている、水素イオン濃度5.5の水溶液を用いることとし、この水溶液を、調理の際、食材重量に対して適当量を添加する。この際、水溶液の各成分が、食材重量に対してそれぞれ、醸造酢0.1〜3.0重量%、酢酸ナトリウム0.1〜1.0重量%、マルトース0.03〜0.2重量%の範囲となるように、水溶液を添加する。
【0036】
そして、米飯と人参の煮付けについて、上記の水溶液を用いて調理したものと、醸造酢・酢酸ナトリウム・マルトースのうち少なくとも一つを添加して調理したものとの、保存性や食味や食感等の比較テストを行った。
【0037】
1)比較テスト1
実施例1
米と水との重量比を5:6とし、これに水溶液を米の重量に対して2重量%の割合で添加し炊飯する。したがって、米の重量に対する各成分の添加量は、醸造酢0.4重量%・酢酸ナトリウム0.4重量%・マルトース0.1重量%となっている。このようにして炊飯した米飯の一部を、30℃の温度で4日間保存し、保存後の一般生菌数を測定して、保存状態について調べた。
【0038】
そして、残りの米飯について、炊飯直後のものと、5℃の温度で4日間保存したものとを試食し、品質(風味・香り・食感)の変化について調べた。
【0039】
なお、5℃の温度で4日間保存した米飯の品質低下についての判断は、醸造酢や酢酸ナトリウムおよびマルトースなどを一切加えていない、いわゆる無添加で炊飯した米飯(後述する比較例1)を、5℃の温度で4日間保存したときの品質を基準とし、この品質と比べて違いがない場合、つまり品質低下が見られなかった場合を良好としている。これは、保存性を向上させるために添加する醸造酢や酢酸ナトリウムの量が多くなりすぎると、澱粉の老化が促されて品質の低下が著しくなるからである。
【0040】
その結果、測定された一般生菌の数は1500個/g程度であった。この数は、腐敗を示す10個/gを大幅に下回っており、保存状態が良好であることがわかる。
【0041】
また、炊飯直後の米飯は酸臭などの異臭がすることなく、味についても酸味等を感じることがない良好なものであった。さらに、食感についても、ほど良い弾力性を備えており良質の米飯であった。そして、5℃の温度で4日間保存した後の米飯の品質は、無添加の米飯(比較例1)のものと違いがなく、品質の劣化防止に対しても優れた効果を有していることを示している。
【0042】
比較例1
比較例1は、米と水との重量比を5:6とし、これに水溶液を添加することなく炊飯を行ったものである。そして、実施例1と同様に、炊飯した米飯の一部を、30℃の温度で4日間保存し、保存後の一般生菌数を測定して保存性について調べた。また、米飯の残りの一部について、炊飯直後のものと5℃の温度で4日間保存した後のものとを試食し、品質(風味・香り・食感)について調べた。
【0043】
その結果、保存性のテストでは、一般生菌数が10個/gを越えており、腐敗が確認された。そして、品質については炊飯直後のものは異臭がなく、食感も弾力性があって良質のものであった。
【0044】
また、5℃の温度で4日間保存した後の米飯は、澱粉の老化による品質の低下はほとんど見られなかった。なお、実施例1で述べたように、この米飯の品質を基準として、以下に述べる比較例2〜7の品質低下の有無を判断している。
実施例1との比較から、水溶液には保存性を向上させる効果とともに、品質の低下を防ぐ効果も有していることがわかる。
【0045】
比較例2
比較例2は、炊飯時に、酢酸ナトリウムを米の重量に対して0.2重量%添加したもので、それ以外は比較例1と同様である。そして、実施例1と同じ方法で、保存性と品質について調べた。
【0046】
その結果、保存性については、保存後の一般生菌数が10個/gとなり、腐敗している状態であることが確認された。また品質については、炊飯直後の米飯は異臭を感じることがなく、食感についても、ほど良い弾力性があり良好であった。そして、5℃の温度で4日間保存した後の米飯の品質は、無添加の米飯(比較例1)のものと違いがなく良好なものであった。
【0047】
このことから、酢酸ナトリウムを米の重量に対して0.2重量%添加しただけでは、品質の低下は抑えることができるものの、保存性を高めることはできない。
【0048】
比較例3
比較例3は、比較例2において、酢酸ナトリウムの添加量を0.4重量%としたこと以外は比較例2と同様である。そして、実施例1と同じ方法で、保存性と品質とについてのテストを行った。
【0049】
その結果、保存性のテストでは、測定された一般生菌数は96000個/gであり、腐敗はしていないものの高い菌数が確認された。また、品質のテストでは、炊飯直後は良好なものであったが、保存後のものは、無添加の米飯(比較例1)に比べて、食味が低下しているだけでなく、硬化していて食感の悪いものであった。これらのことから、米飯中に含まれている澱粉が老化していることがわかる。
【0050】
そして、実施例1との比較から、0.4重量%の酢酸ナトリウムを添加すれば、保存性を有しているものの、その効果は実施例1より低いものであった。また、実施例1のように、品質の低下を抑えることはできなかった。
比較例4
比較例4は、比較例3において、酢酸ナトリウムの代りに醸造酢を添加したもので、それ以外は比較例3と同様である。そして、実施例1と同じ方法で、保存性と品質とについてテストを行った。
【0051】
その結果、保存性のテストでは、640000個/gの一般生菌数が測定された。 また、品質のテストにおいて、炊飯直後のものには酸臭が感じられ、風味も酸味のあるものであった。保存後のものは、無添加の米飯(比較例1)に比べて食味が低下しているだけでなく、硬化していて食感の悪いものであった。このことから、澱粉の老化が進んでいることがわかる。
【0052】
そして、実施例1のものと比べると、0.4重量%の醸造酢を添加すれば、保存性を有しているものの、その効果は実施例1よりかなり低いものであった。また、実施例1のように、品質の低下を抑えることはできなかった。
【0053】
比較例5
比較例5は、比較例4において、0.4重量%の醸造酢の代わりに、0.1重量%のマルトースを添加した以外は、比較例4と同様である。そして、実施例1と同じ方法で、保存性と品質とについてテストを行った。
その結果、保存性については、保存後の一般生菌数が10個/gとなり、腐敗している状態であることが確認された。また、品質については、炊飯直後の米飯は異臭を感じることがなく、食感についても、ほど良い弾力性があり良好であった。そして、5℃の温度で4日間保存した後の米飯の品質は、無添加の米飯(比較例1)のものと違いがなく良好なものであった。
【0054】
このことから、マルトースを米の重量に対して0.1重量%添加しただけでは、品質の低下は抑えることができるものの、保存性を高めることはできない。
比較例6
米と水との重量比を5:6とし、これに酢酸ナトリウムと醸造酢とを、米の重量に対してそれぞれ、0.4重量%の割合で添加し炊飯する。そして、実施例1と同じ方法で、保存性と品質とについてテストを行った。
【0055】
すると、保存性のテストでは、一般生菌の数が2700個/g測定され、10個/gを大幅に下回った結果となった。また、品質のテストでは、炊飯食後のものは、食味・香り・食感のすべてが良好であったものの、保存後の米飯は、無添加の米飯(比較例1)に比べて硬くなっていて食感が悪く、食味もあじわいのないもので、澱粉の老化が進んでいることがわかる。
【0056】
そして、実施例1のものと比べると、比較例5は、保存性については同程度の効果を有しているものの、実施例1のように、品質の低下を抑えることはできなかった。
比較例7
比較例6において、醸造酢の代りにマルトースを0.1重量%添加したことを除けば、比較例6と同様である。そして、実施例1と同じ方法で保存性と品質とについてテストを行った。
【0057】
すると、保存後には83000個/gの一般生菌が測定された。この数は、腐敗状態の10個/gを下回ってはいるものの、実施例1の1500個/gに比較すれば、50倍以上の数である。したがって、実施例1の場合よりも菌が繁殖しやすく、保存性の低いことがわかる。
【0058】
また、品質テストにおいては、炊飯直後の米飯は、良好な食味・香り・食感を備えたものであった。そして、保存後の米飯の品質は、無添加の米飯(比較例1)のものと違いがなく良好なもので、実施例1と同様、品質の劣化防止に対しては効果のあることがわかる。
比較テスト1について、測定された一般生菌数と品質とについて、実施例と各比較例ごとに表1にまとめた。
【0059】
【表1】

2)比較テスト2
実施例2
人参と煮付け用のタレとを、重量比で1:1の割合で鍋等の容器に入れる。それに水溶液を、人参の重量に対して2重量%の割合で添加する。したがって、人参の重量に対する各成分の添加量は、醸造酢と酢酸ナトリウムとがそれぞれ0.4重量%、マルトースが0.1重量%となる。そして、容器を火にかけて、人参を数分間煮込む。
【0060】
こうして出来た人参の煮付けの一部を、30℃の温度で4日間保存し、保存後の一般生菌数を測定して、その保存状態について調べた。また、出来た人参の残りのものについて、出来上がり直後と、5℃で4日間保存した後のものとを試食し、品質(食味・食感)について調べた。
【0061】
なお、5℃で4日間保存した人参の品質低下についての判断は、醸造酢や酢酸ナトリウムおよびマルトースなどを一切加えていない、いわゆる無添加で調理した人参(後述する比較例8)を、5℃の温度で4日間保存したときの品質を基準とし、この品質と比べて違いがない場合、つまり品質低下が見られなかった場合を良好としている。これは、保存性を向上させるために添加する醸造酢や酢酸ナトリウムの量が多くなりすぎると、澱粉の老化が促されて品質の低下が著しくなるからである。
【0062】
その結果、30℃の温度で4日間保管した後の一般生菌数は1500個/g程度で、腐敗した状態を示す10個/gを大きく下回るものであった。したがって、菌の繁殖が効果的に抑えられ、高い保存性を有していることがわかる。
【0063】
品質については、出来上がり直後の人参は、酸臭等の異臭がなく、味も良いものであった。そして、保存後の人参の品質は、比較例8の人参と違いがなく、適度な水気を含んでいて、食味や、やわらかな食感を有した良好なものであった。
【0064】
比較例8
比較例8は、水溶液を添加することなく、煮付けようのタレのみで人参を煮込んだものである。こうして出来た人参の煮付けを、実施例2と同じようにして、保存状態と、食味や食感等の品質について調べた。
【0065】
その結果、測定された一般生菌数は、10個/gを越えており、腐敗した状態を示していた。また、5℃の温度で4日間保存した後の人参は、澱粉の老化による品質の低下はほとんど見られなかった。なお、実施例2で述べたように、この人参の品質を基準として、以下に述べる比較例9〜14の品質低下の有無を判断している。
【0066】
そして、実施例2との比較から、水溶液は、保存性の向上や品質低下の抑制に効果のあることがわかる。
【0067】
比較例9
比較例8において、人参の重量に対して0.2重量%の酢酸ナトリウムを添加して煮込んだことを除いては、比較例8と同様である。そして、実施例2と同じように、保存状態を調べるとももに、品質についても調べた。
【0068】
その結果、一般生菌数は10個/gを越えており、腐敗していることを示した。また、品質については、出来上がり直後の人参は、異臭がなくて風味も良く、良質のものであった。そして、5℃の温度で4日間保存した後の人参の品質は、無添加の人参(比較例8)のものと違いがなく良好なものであった。
【0069】
このことから、酢酸ナトリウムを米の重量に対して0.2重量%添加しただけでは、品質の低下は抑えることができるものの、保存効果については期待できないことがわかる。
【0070】
比較例10
比較例10は、比較例9の酢酸ナトリウムの添加量を、0.4重量%に増量したことを除いては、比較例9と同様である。
【0071】
そして、実施例2と同じように、一般生菌数を測定して保存状態について調べるとともに、試食を行ってその品質について調べた。
【0072】
その結果、一般生菌数は10個/gを越え、腐敗していることを示した。また、出来上がり直後の人参は、異臭がなく良質のものであったが、保存後のものは、無添加の人参(比較例8)に比べて食味が低下しており、その食感もやや乾燥してぱさぱさしたものであった。これは、人参に含まれている澱粉が老化していることを示している。
【0073】
そして、実施例2との比較から、0.4重量%の酢酸ナトリウムを添加しただけでは、保存性を向上させることはできないし、品質の低下も抑えることはできないことがわかる。
比較例11
比較例10において、酢酸ナトリウムの代わりに醸造酢を添加したもので、そのこと以外は比較10と同様である。つまり、醸造酢を0.4重量%添加したものである。そして、実施例2と同じように、一般生菌数と品質とについて調べた。
【0074】
その結果、一般生菌数は10個/gを越えており、腐敗していることを示した。また、出来上がり直後の人参に酸臭が感じられ、さらに保存後のものは、無添加の人参(比較例8)に比べて食味が低下しているだけでなく、口にした感触も乾燥してぱさぱさしていて食感の悪いもので、澱粉の老化が進んでいることがわかる。
【0075】
そして、実施例2との比較から、0.4重量%の醸造酢を添加しただけでは、保存性を向上させることはできないし、品質の良い煮付けを作ることができない。
比較例12
比較例12は、比較例9〜11において、酢酸ナトリウムや醸造酢の代りにマルトースを添加したものである。その添加量は、米の重量に対して0.1重量%とした。そして、実施例2と同じようにして、一般生菌数を測定して保存状態を調べるとともに、試食を行って品質についても調べた。
【0076】
その結果、一般生菌数は10個/gを越え、腐敗した状態であることを示した。また、品質については、出来上がり直後の人参は、異臭等を感じることがなく食味も良好で、食感についても、適度な水分を含みしっとりとしたものであった。そして、5℃の温度で4日間保存した後の人参の品質は、無添加の人参(比較例8)のものと違いがなく良好なものであった。
【0077】
そして、実施例2との比較から、0.1重量%のマルトースを添加すれば、品質の低下は抑えることができるものの、保存効果を高めることはできないことがわかる。
【0078】
比較例13
実施例2において、マルトースを添加していないことを除いては、実施例2と同様である。つまり、比較例13は、酢酸ナトリウムと醸造酢とをそれぞれ0.4重量ずつ添加し、人参を煮込んだものである。そして、実施例2と同じようにして、一般生菌数を測定し保存状態を調べるとともに、試食を行って品質について調べた。
【0079】
その結果、35000個/gの一般生菌数が測定されており、実施例1の1500個/gと比較すれば、菌が繁殖し易く保存効果が低いことがわかる。また、品質については、出来上がり直後のものは、異臭もなく食味・食感ともに良好なものであったが、保管後のものは、無添加の人参(比較例8)に比べて食味が低下しており、乾燥してぱさぱさしていて食感の悪いもので、澱粉の老化が進んでいることがわかる。
【0080】
比較例14
比較例13において、醸造酢の代りにマルトースを加えたもので、人参の重量に対して0.1重量%の割合で添加している。つまり、実施例14は、0.4重量%の酢酸ナトリウムと0.1重量%のマルトースとを添加し、煮込んだものである。そして、実施例2と同じように、一般生菌数を測定して保存状態を調べるとともに、試食を行なってその品質を調べた。
【0081】
その結果、一般生菌の数は10個/gを越えており、腐敗していることを示した。また、品質については、出来上がり直後のものは、異臭等を感じることなく、食味・食感ともに良質のものであった。そして、5℃の温度で4日間保存した後の人参の品質は、無添加の人参(比較例8)のものと違いがなく良好なものであった。
【0082】
実施例2との比較から、酢酸ナトリウムとマルトースとの組合わせでは、品質の低下は抑制することができるが、保存効果を高めることはできないことがわかる。
【0083】
比較テスト2について、測定された一般生菌数と品質とについて、実施例と各比較例ごとに表2にまとめた。
【0084】
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉を含んだ加工食品用の食材を調理する際に、その食材の重量に対して0.1〜3.0重量%の醸造酢と、0.1〜1.0重量%の酢酸ナトリウムと、0.03〜0.2重量%のマルトースとを添加することを特徴とする加工食品の保存方法。
【請求項2】
醸造酢と酢酸ナトリウム、およびマルトースとを水に混ぜ、水素イオン濃度を約5.5にした混合液を添加することを特徴とする請求項1記載の加工食品の保存方法。
【請求項3】
米と水との重量比を5:6とし、醸造酢20重量%・酢酸ナトリウム20重量%・マルトース5重量%・水55重量%の水素イオン濃度が約5.5の混合液を、米の重量に対して2重量%添加して炊飯することを特徴とする米飯の製造方法。

【公開番号】特開2006−6232(P2006−6232A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189457(P2004−189457)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(599044629)昭和商事株式会社 (4)
【Fターム(参考)】