説明

加煙試験器

【課題】液状態で樹脂変質性のあるガスであっても使用することができる加煙試験器を得る。
【解決手段】本発明に係る加煙試験器1は、ガスボンベ3を収容する本体部5と、本体部5に収容されたガスボンベ3から排出されるガスを誘導して外部に噴射するノズル部7と、ノズル部7の周囲を覆いノズル部7における噴射口19から噴射されたガスが拡散するのを防止するカバー体9と、本体部5の上方に配置されて煙感知器11に当接するコンタクト部13とを有し、噴射口19におけるガス噴射方向の延長線が前記カバー体の内面と交わる点Aとコンタクト部13の上端面の延長線との最短距離が20mm以上になるように設定したことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煙感知器の加煙試験に用いられる加煙試験器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
煙感知器の加煙試験は、煙又は疑似的な煙を煙感知器に供給してその作動試験を行うというものである。このような加煙試験に用いられる加煙試験器の一例として特許文献1に煙感知器用試験器が開示されている。
特許文献1に開示された煙感知器用試験器は、試験用ガスが充填されているガスボンベと、ガスボンベを開閉せしめる開閉部と、開閉部を保持する煙霧質収容部と、ガスボンベから放出させたガスを煙検知器の吸気口付近まで送る送煙部とを備えて構成される(特許文献1の段落[0012]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−305874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においてはガスボンベ内に封入されるガスについては特に記載がないが、一般にフロンガス(HFC−134a)が用いられている。
フロンガスは地球温暖化係数が大きいために地球環境にとって好ましくない。
そこで、フロンガスに代えて地球温暖化係数の小さいガスを用いることが考えられる。
しかしながら、フロンガスの代用となるガス、例えばジメチルエーテルのようなものは液状態で樹脂に付着すると樹脂を変質させる性質(以下、「樹脂変質性」という)がある場合がある。そのため、特許文献1に開示された煙感知器用試験器のように、ガスを煙感知器に送る送煙部が煙感知器の煙導入口付近に配置されている場合、このようなものに樹脂変質性のあるガスを送煙部から噴射すると、噴射直後の液状態の飛沫が煙感知器の樹脂部に付着して、樹脂部を変質させる可能性がある。そのため、このような加煙試験器には樹脂変質性のあるガスを使用できないことになる。
【0005】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、液状態で樹脂変質性のあるガスであっても使用することができる加煙試験器を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る加煙試験器は、ガスボンベを収容する本体部と、本体部に収容されたガスボンベから排出されるガスを誘導して外部に噴射するノズル部と、該ノズル部の周囲を覆い前記ノズル部における噴射口から噴射されたガスが拡散するのを防止するカバー体と、前記本体部の上方に配置されて煙感知器に当接するコンタクト部とを有し、前記噴射口におけるガス噴射方向の延長線が前記カバー体の内面と交わる点と前記コンタクト部の上端面の延長線との最短距離が前記噴射口から出されたガスが十分に気化する距離になるように設定したことを特徴とするものである。
【0007】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記最短距離が20mm以上になるように設定したことを特徴とするものである。
【0008】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記ノズル部における噴射口の噴射方向が水平方向よりも下方に向くように設定されていることを特徴とするものである。
【0009】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記コンタクト部における前記ノズル部の噴射口側にある部位を外方に延出させたことを特徴とするものである。
【0010】
(5)また、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のものにおいて、前記ノズル部における噴射口に対向するように多孔質部材を設置したことを特徴とするものである。
【0011】
(6)また、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載のものにおいて、前記ガスボンベに封入されているガスがジメチルエーテルであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、ノズル部の噴射口におけるガス噴射方向の延長線がカバー体の内面と交わる点とコンタクト部の上端面の延長線との最短距離が噴射口から出されたガスが十分に気化する距離になるように設定したので、噴射口から噴射されたガス及び/又は液体の飛沫が煙感知器にかかることがない。そのため、ガスボンベに封入されているガスが、例えばジメチルエーテルのように液状で樹脂に対する変質性があるものであっても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1に係る加煙試験器の説明図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係る加煙試験器の説明図である。
【図3】本発明の実施の形態3に係る加煙試験器の説明図である。
【図4】本発明の実施の形態4に係る加煙試験器の説明図である。
【図5】他の実施態様に係る加煙試験器の説明図である。
【図6】他の実施態様に係る加煙試験器の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態1]
本実施の形態に係る加煙試験器1は、ガスボンベ3を収容する本体部5と、本体部5に収容されたガスボンベ3から排出されるガスを誘導して外部に噴射するノズル部7と、該ノズル部7の周囲を覆い前記ノズルから噴射されたガスの拡散を防止するカバー体9と、ノズル部7の上部に設けられて煙感知器11の煙流入部の底面11aに当接するコンタクト部13とを有している。
以下、各構成部分を詳細に説明する。
【0015】
<本体部>
本体部5はガスボンベ3を収容するものである。ガスボンベ3には煙霧質となるガスが液状で封入されている。ガスとしては、ジメチルエーテルのような樹脂変質性があるものであってもよい。
【0016】
<ノズル部>
ノズル部7は、本体部5に収容されたガスボンベ3から排出されるガスを誘導して外部に噴射する。ノズル部7は、本体部5から鉛直上方に立ち上がる棒状のノズル本体部15と、ノズル本体部15から横方向に延びる噴射部17とを備えている。ノズル本体部15と噴射部17の内部には流路が形成され、噴射部17の先端には噴射口19が設けられている。
本実施の形態のノズル部7は、ノズル本体部15を真上に向けたときには、ガスは水平方向に噴射されるようになっている。
本実施の形態では、ノズル部7における噴射口19の位置とコンタクト部13の上端面との距離が20mmになるように設定されている。その結果、図1に示すように、ガス噴射方向の延長線とカバー体9との交点Aと、コンタクト部13の上端面の延長線との最短距離Lは20mmになる。
【0017】
なお、詳細は図示されていないが、コンタクト部13を煙感知器11の煙流入部の底面11aに当接させて本体部5を押し上げることにより、ノズル部7内においてガスボンベ3の内のガスがノズル部7から噴射される。
【0018】
<カバー体>
カバー体9は、本体部5に近い側が樹脂性の円筒状の円筒部9aからなり、円筒部9aの上部にゴム製の蛇腹部9bが連続して設けられている。
カバー体9の直径は、煙感知器11の煙流入部より長く、煙感知器11の最大直径より短くなっているため、カバー体9は煙感知器11の煙流入部を覆うことができるようになっている。
【0019】
<コンタクト部>
コンタクト部13は、ノズル本体部15の上端側に取り付けられた円形板からなり、本体部5の上方に配置されて煙感知器11に当接する。コンタクト部13は煙感知器11の煙流入部の底面11aの面積よりも大きく設定して、煙流入部の底面11aを覆うようになっている。
コンタクト部13は、図1に示すように、コンタクト部13の上端面からノズル部7における噴射口19の位置までの距離が20mmに設定されている。試験時において、コンタクト部13の上面は煙感知器11の煙流入部の底面11aに当接するので、噴射口19から煙流入部の底面11aまでは距離が20mmになる。
【0020】
上記のように構成された本実施の形態の動作を説明する。
加煙試験器1を試験対象となっている煙感知器11の下方から、コンタクト部13の上端面を煙感知器11の煙流入部の底面11aに当接させる。本体部5を押し上げるようにしてコンタクト部13を煙感知器11の煙流入部の底面11aに押し当てると、ノズル部7の噴射口19からガスボンベ3内のガスが噴射される。
噴射口19からは液体状の飛沫が混じったガスが噴射される。噴射されたガスは気化しやすく、噴射後液体状の飛沫は気化していく。しかし、噴射された液体状の飛沫の中には、気化する前にカバー体9に当たるものもある。カバー体9に当たった飛沫は跳ね返らずにカバー体9の内壁を伝うものもあるが、カバー体9に当たって跳ね返り、煙感知器11にかかるものもある。噴射口19の延長線とカバー体9との交点Aとコンタクト部13の上端面の延長線との最短距離が20mm離れているので、ガスの飛沫がカバー体9の内壁に当たり、跳ね返ったとしても、20mmの距離をガスの飛沫が飛散している間にガスの飛沫は気化するので、煙感知器11にかかることがない。そのため、ガスボンベ3に封入されているガスが、例えばジメチルエーテルのように液状で樹脂に対する変質性があるものであっても問題がない。
【0021】
以上のように、本実施の形態においては、噴射口19とコンタクト部13の上端面との距離を20mmに設定すると共に噴射方向を水平方向になるようにしたので、噴射口19におけるガス噴射方向の延長線とカバー体9の内面との交点Aとコンタクト部13の上端面の延長線との最短距離Lも20mmとなり、ガス噴射の際にカバー体9の内面に当たって跳ね返る液状の飛沫が煙感知器11にかかるのを防止することができる。そのため、ガスボンベ3に封入するガスとして、例えばジメチルエーテルのように液状で樹脂変質性を有しているものを使用することができ、広範囲のガスの使用が可能になる。なお、噴射口19の噴射方向の延長線とカバー体9の内面との交点Aと、コンタクト部13の上面との距離は、20mm以上離れていれば噴射口19から出されたガスが十分に気化するので、上記と同様の効果が得られる。
【0022】
[実施の形態2]
本実施の形態の加煙試験器21を図2に基づいて説明する。なお、図2において、図1と同一部分には同一の符号が付してある。
本実施の形態の加煙試験器21は、ノズル部7における噴射口19の噴射方向が水平方向よりも下方に向くように設定されている。つまり、噴射部17における噴射口19の向きを斜め下方に向け、ガス噴射方向の延長線とカバー体9の内面との交点Aと、コンタクト部13の上端面の延長線との最短距離Lが20mm以上になるようにしたものである。
【0023】
本実施の形態によれば、ガス噴射の際にカバー体9の内面に当たって跳ね返る液状の飛沫が煙感知器11にかかるのを防止することができ、実施の形態1と同様の効果を奏することができる。
また、本実施の形態では、噴射口19を下向きにするので、コンタクト部13と噴射口19の距離を実施の形態1よりも小さくでき、それ故に全体としてコンパクト化ができるという効果がある。
【0024】
[実施の形態3]
本実施の形態の加煙試験器23を図3に基づいて説明する。なお、図3において、図1と同一部分には同一の符号が付してある。
本実施の形態の加煙試験器23は、実施の形態1のものにおいて、コンタクト部13におけるノズル部7の噴射口19側にある部位を外方に延出させている。つまり、コンタクト部13における噴射口19側に外方に延出する延出部25を形成し、コンタクト部13の全体形状を楕円形にしたものである。
【0025】
本実施の形態によれば、コンタクト部13が煙感知器11の煙流入部の底面11aを確実に覆うことができるので、噴射口19からガス噴射の際にカバー体9の内面に当たって跳ね返る液状の飛沫が煙感知器11にかかるのをより確実に防止することができる。
【0026】
なお、ノズル部7の噴射口19を下向きにする実施の形態2の構成に加えてコンタクト部13における噴射口19側に延出部25を形成するようにしてもよい。
【0027】
コンタクト部13における外方に延び出すための形状は、全体形状が楕円形になるものに限られず、ノズル部7における噴射口19を上方から覆うような形状であればよい。
【0028】
[実施の形態4]
本実施の形態の加煙試験器27を図4に基づいて説明する。なお、図4において、図1と同一部分には同一の符号が付してある。
本実施の形態の加煙試験器27は、実施の形態1のものにおいて、噴射ノズルにおける噴射口19に対向するように多孔質部材29を設置したものである。
【0029】
本実施の形態によれば、噴射口19から噴射されるガスの飛沫が多孔質部材29にあたることにより、一部のガスの飛沫は多孔質部材29に一旦飛沫を受け止められて、飛沫の跳ね返る距離が短くなる。他の一部のガスの飛沫は多孔質部材29に吸収され、ガスの飛沫が気化することで多孔質部材29からガスが出ていく。これにより噴射口19から噴射される飛沫が煙感知器11にかかるのを確実に防止することができる。
多孔質部材29としては、例えばスポンジのようなものが考えられる。
【0030】
なお、ノズル部7の噴射口19を下向きにする実施の形態2の構成に加えて噴射ノズルの噴射口19に対向するように多孔質部材29を配置するようにしてもよい。
【0031】
上記の説明においては、実施の形態3で採用した、コンタクト部13における噴射口19側を外方に延出させるような楕円形するという手段は、実施の形態1、2に付加するものであった。しかしながら、図5に示す加煙試験器31のように、噴射口19の位置が実施の形態1の要件を満たさない場合、つまりコンタクト部13と噴射口19の距離が短い場合においても、コンタクト部13における噴射口19側に外方に延出する延出部25を設けることで、ガス噴射の際にカバー体9の内面に当たって跳ね返る液状の飛沫が煙感知器11に付着するのを防止できることを確認している。
【0032】
また、上記と同様に、実施の形態4で採用した、噴射ノズルの噴射口19に対向するように多孔質部材29を配置するという手段は、実施の形態1、2に付加するものであった。しかしながら、図6に示す加煙試験器33のように、噴射口19の位置が実施の形態1の要件を満たさない場合においても、噴射ノズルの噴射口19に対向するように多孔質部材29を配置するという手段を採用することで、ガス噴射の際にカバー体9の内面に当たって跳ね返る液状の飛沫が煙感知器11に付着するのを防止できることを確認している。
【符号の説明】
【0033】
1 加煙試験器(実施の形態1)
3 ガスボンベ
5 本体部
7 ノズル部
9 カバー体
9a 円筒部
9b 蛇腹部
11 煙感知器
11a 底面
13 コンタクト部
15 ノズル本体部
17 噴射部
19 噴射口
21 加煙試験器(実施の形態2)
23 加煙試験器(実施の形態3)
25 延出部
27 加煙試験器(実施の形態4)
29 多孔質部材
31 加煙試験器(他の実施態様)
33 加煙試験器(他の実施態様)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスボンベを収容する本体部と、本体部に収容されたガスボンベから排出されるガスを誘導して外部に噴射するノズル部と、該ノズル部の周囲を覆い前記ノズル部における噴射口から噴射されたガスが拡散するのを防止するカバー体と、前記本体部の上方に配置されて煙感知器に当接するコンタクト部とを有し、
前記噴射口におけるガス噴射方向の延長線が前記カバー体の内面と交わる点と前記コンタクト部の上端面の延長線との最短距離が前記噴射口から出されたガスが十分に気化する距離になるように設定したことを特徴とする加煙試験器。
【請求項2】
前記最短距離が20mm以上になるように設定したことを特徴とする請求項1記載の加煙試験器。
【請求項3】
前記ノズル部における噴射口の噴射方向が水平方向よりも下方に向くように設定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の加煙試験器。
【請求項4】
前記コンタクト部における前記ノズル部の噴射口側にある部位を外方に延出させたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の加煙試験器。
【請求項5】
前記ノズル部における噴射口に対向するように多孔質部材を設置したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の加煙試験器。
【請求項6】
前記ガスボンベに封入されているガスがジメチルエーテルであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の加煙試験器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−208612(P2012−208612A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72419(P2011−72419)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】