説明

加熱定着装置及び画像形成装置

【課題】 超音波振動により振動部材を共振させて加熱する画像形成装置の加熱定着装置において、振動節の影響で発生する不均一な温度上昇分布のムラを解消し、トナー画像の定着ムラを防止する。
【解決手段】 記録紙の搬送方向と直交する方向に伸びた振動部材を振動させることにより、記録紙を加熱して記録紙上にトナーを定着する加熱定着装置であって、振動部材を振動させるための振動制御手段を備えて構成され、この振動制御手段が、振動部材を振動させることにより振動部材に定常波を発生させるとともに、振動部材を振動させるために印加する定常波の周波数を変化させるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、ファクシミリ、プリンタ等の画像形成装置において現像したトナー画像を加熱溶融し、記録紙上に定着させる加熱定着装置に関し、より詳しくは超音波振動により振動部材を励振して記録紙を加熱する方法を用いた加熱定着装置及びその加熱定着装置を用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、実用化されている画像形成装置においては、主として電子写真方式により感光体上に形成した静電潜像にトナーを付与して現像し、そのトナー画像を記録紙上に転写した後、熱と圧力を加えて定着する加熱加圧方式を採用するものが多い。例えば、ヒータで加熱される加熱ローラと、加熱ローラに当接する加圧ローラの間に、トナー画像の転写された記録紙を通過させて伝導熱によってトナーを溶融し定着するような構成が採用されている。
【0003】
一方、記録紙上のトナー画像を加熱溶融する方法としては、せん断歪による摩擦エネルギーを利用する方法も知られている。例えば、記録紙等に接触した振動部材に超音波を付加して振動させ、その振動部材のもつ振動エネルギーにより記録紙を直接振動させて加熱し、トナーを溶融する方法や、ヒータの代わりに超音波振動を付加することによって加熱部材を加熱し、加熱部材を通して溶融する方法などが知られている。
【0004】
特許文献1には、記録紙を移動させつつ記録紙上のトナー画像に超音波振動を負荷して加熱溶融する定着装置が開示されている。この定着装置では、記録紙の移動方向と直交する幅方向に延びた複数の振動部材が記録紙に接触可能に配設されており、これら複数の振動部材が超音波により励振されて、その長手方向の縦波定常波で共振するように構成されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−162161
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、振動部材を超音波で励振する方法においては、定着させるトナー画像の画質及びエネルギー伝達効率を考慮して、振動部材の長手方向(記録紙の幅方向)に縦波を発生させて共振させているのが一般的である。このような共振周波数による振動部材の励振では、振動部材上の所定の場所にのみ振動節が生じ、加熱される記録紙の幅方向に振動の強弱が発生することになる。
【0007】
振動部材上にこのような振動節が発生すると、記録紙に伝達される熱は振動部材上の長手方向に不均一な熱エネルギー分布を形成し、記録紙の温度上昇に分布ムラができる。この分布ムラはトナーの定着ムラにつながり、画像品質の劣化を引き起こす原因となる。特許文献1では、この分布ムラを無くすために振動部材を複数設けて、各振動部材に生じる振動節の位置をずらして配置することで記録紙の温度上昇の分布ムラを防止する例が記載されている。このような構成ではトナーの定着ムラは軽減されるが、振動部材が複数必要となるため、コストアップ、大型化の問題が生じる。
【0008】
また、同文献の他の例として、振動部材の長手方向(記録紙の幅方向)に縦波を発生させて進行波とすることで固定的な振動節を生じさせないことが示されているが、しかし、この場合には振動エネルギーが振動部材に有効に蓄えられず無駄が多くなるため、エネルギー利用の非効率化を招き、記録紙の温度上昇にも時間を要することになる。このため、同文献では回生回路を設けて進行波を用いることによるエネルギーロスを低減させる方法をが記載しているが、それでもエネルギーロスは生じるとともに、回生回路等の設置によるコストアップや装置の複雑化、故障発生などの影響は避けられない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、振動部材に加える超音波周波数を可変とすることで、振動部材に複数の周波数の異なる定常波を発生させ、振動部材の振動節の位置を変化させる。それにより振動節の影響で発生する不均一な温度上昇の分布ムラを解消し、トナー画像の定着ムラを防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に記載の加熱定着装置は、記録紙の搬送方向と直交する方向に伸びた振動部材を振動させることにより、記録紙を加熱して記録紙上にトナーを定着する加熱定着装置であって、振動部材を振動させるための振動制御手段を有しており、振動制御手段は、振動部材を振動させることにより振動部材に定常波を発生させるとともに、振動部材を振動させるために印加する周波数を変化させることができるように構成されている。
【0011】
請求項2に記載の加熱定着装置では、本願発明における振動部材に印加する周波数が、振動部材に定常波を発生させるための複数の周波数を切替えて選択することにより、変化するように構成されている。
【0012】
また、請求項3に記載の加熱定着装置では、振動部材に印加された周波数の変化により定常波の振動節の位置が変化するように構成されている。
【0013】
請求項4に記載の加熱定着装置では、請求項1から請求項3のいずれかに記載の加熱定着装置において、振動部材の端部に振動子が配置されるとともに、振動制御手段が記録紙の搬送方向と直交する方向に沿って定常波を発生させるように構成されている。
【0014】
請求項5に記載の加熱定着装置では、請求項1から請求項4のいずれかに記載の加熱定着装置において、縦波の定常波を発生させるように構成されている。
【0015】
請求項6に記載の加熱定着装置では、請求項1から請求項5のいずれかに記載の加熱定着装置において、振動部材に発生する振動節の位置の異なる定常波は、連続した整数の振動節の数を有する定常波となるように構成されている。
【0016】
請求項7に記載の加熱定着装置では、請求項1から請求項6のいずれかに記載の加熱定着装置において、振動部材に印加する周波数は、その周波数帯域が20KHz以上の範囲内であるように構成している。
【0017】
請求項8に記載の加熱定着装置では、請求項1から請求項7のいずれかに記載の加熱定着装置において、振動制御手段が、定常波の振動節の数をN(Nは任意の整数)から2Nの範囲で切替わるように、周波数を変化させることができるように構成されている。
【0018】
請求項9に記載の加熱定着装置では、請求項1から請求項8のいずれかに記載の加熱定着装置において、振動部材が加圧ローラに押圧されてニップ部を形成し、記録紙がこのニップ部を通過してトナーが定着されるように構成されている。
【0019】
請求項10に記載の加熱定着装置では、請求項1から請求項8のいずれかに記載の加熱定着装置において、振動部材が記録紙に熱を伝達する熱伝達部材に押圧されて構成されている。特に、請求項11に記載の加熱定着装置では、請求項10に記載の熱伝達部材が加圧ローラに押圧されてニップ部を形成し、記録紙がこのニップ部を通過してトナーが定着されるように構成されている。
【0020】
請求項13に係る画像形成装置は、以上に記載の加熱定着装置を有した画像形成装置を提供するものである。上記手段構成によれば、以下のような作用・効果が得られる。
【発明の効果】
【0021】
本願発明に係る加熱定着装置によれば、振動部材を複数用いることなく、振動部材へ与える周波数を可変として振動部材の振動節の位置を変化させることにより振動節の影響で発生する不均一な温度分布ムラを防ぐように構成しているので、装置のコンパクト化を実現できる。また、振動部材に付加する振動はすべて定常波による励振であるので進行波によるよりも振動エネルギーの利用効率を高めることができるだけでなく、振動部材の数を最小とすることで、余分な熱容量を省くことになり、加熱部材自身から熱の放散が少なく、全体として有効な省エネ化を実現できる。
【0022】
また、振動部材に定常波を発生させるために、振動部材に印加する複数の周波数を切替えて選択するようにすれば、振動部材を複数設ける必要がなく、装置のコンパクト化を実現することができる。また、定常波を発生させる周波数を変化させるようにすれば、振動部材における定常波の振動節の位置が変化するので、振動節の影響で発生する不均一な温度の分布ムラを防ぐことができる。
【0023】
振動部材の端部に振動子を配置し、振動制御手段が記録紙の搬送方向に直交する方向に沿って定常波を発生させるようにすれば、振動部材に発生する熱の発生効率及び記録紙への熱の伝達効率を向上させることができる。特に振動部材を縦波の定常波で励振すれば、記録紙の垂直振動を防止することができ、垂直振動に起因する定着画像の品質の劣化を防止することができる。
【0024】
また、振動部材に発生させる定常波を、連続した整数の振動節の数を有する定常波となるように構成すれば、振動制御手段の構成を簡素化できるとともに、振動部材における定常波の振動節の位置を効果的に変化させて、温度分布ムラの軽減に効果を発揮することができる。
【0025】
また、振動部材に付加する異なる周波数を、20KHz以上の範囲内にあるようにしているので、発振音を生じさせることなく、騒音防止に効果を発揮することができる。特に、振動制御手段が定常波の振動節の数を2倍の範囲内で選択可変とすれば、振動節の位置を適切に分散させることができ、記録紙の温度上昇の分布ムラを効果的になくすことができる。
【0026】
また、振動部材を直接または熱伝達部材を介して加圧ローラに押圧し、加圧ローラまたは熱伝達部材との間にニップ部を形成して記録紙を通過させるように構成すれば、記録紙への熱伝達を効率的に行うことができるだけでなく、加熱定着装置の構成を、より簡略化してコンパクトに実現することが可能となる。なお、本発明に係る加熱定着装置を備えた画像形成装置によれば、画像品質の劣化を効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本願発明に係る加熱定着装置及び画像形成装置の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本願発明の実施形態である画像形成装置100の全体構成図である。この画像形成装置100は、自動原稿搬送装置10、画像読取部20、図示しない画像処理部、画像形成部30、給紙部40、加熱定着装置50、排紙部60、自動両面コピーのための再搬送路70を備えて構成されている。画像形成装置100の本体上部には画像読取部20と、さらにその上に自動原稿搬送装置10が搭載されている。
【0028】
自動原稿搬送装置10は、原稿台11、排紙台19、給紙機構13を構成する原稿押圧板12と複数のローラ群14,15,16及び原稿搬送路から構成されている。給紙機構13のローラ群は、原稿を原稿台11から引出すピックアップローラ14、原稿搬送路に送り出すフィードローラ15及び原稿の重送を防止する分離ローラ16の3種類のローラから構成されている。
【0029】
原稿台11は、原稿を複数枚セット可能な給紙皿を有し、この給紙皿には原稿の幅方向に位置決めを行う一対の規制板18が幅方向に移動可能に設けられている。原稿台11上に複写面を上向きにして載置された原稿は、原稿押圧板12により上方に付勢されてピックアップローラ14に接触し、ピックアップローラ14の回転により原稿台11から給紙され、フィードローラ15及び分離ローラ16により一枚ずつ分離されて原稿搬送路に送り込まれる。
【0030】
原稿搬送路の先には画像読取部20との境にスリットガラス17が設けられ、原稿台11の下方には排紙台19が設けられている。給紙機構13により原稿搬送路に送り出された原稿はスリットガラス17上を通過する時に画像読取部20によってその画像が読み取られ、その後、排紙路上を搬送されて排紙台19上に載置される。
【0031】
画像読取部20は原稿を照射する光源Lとミラー22からなる走査ユニット21、反射光をガイドする二枚のルーフミラー23,24からなる走行体25、結像レンズ26及びCCDイメージセンサ27(以下、CCDセンサ27という)から構成されている。画像読取部20では、原稿が原稿搬送路中に設けられたスリットガラス17上を通過する際に、スリットガラス17の下方に停止した走査ユニット21の光源Lが原稿を照射することにより画像データを読み取り、その反射光が二枚のルーフミラー23,24からなる走行体25および結像レンズ26を経てCCDセンサ27上に導かれ結像する。
【0032】
CCDセンサ27では、読み取った光画像を電子画像データに変換してシステム基板上に形成される画像処理部に送る。画像処理部は、この電子画像データにアナログ処理、A/D変換、シェーディング補正、画像圧縮処理等を行った後、ディジタル化した画像情報のデータを画像形成部30へ搬送する。
【0033】
画像形成部30は、表面に潜像が形成されるドラム状の感光体1を中央に有しており、感光体1の外周面に沿って動作順に、この感光体1の表面をほぼ一様に帯電する帯電装置31と、感光体1の表面上に静電潜像の書き込みを行う露光装置32と、感光体1の表面に形成された潜像にトナーを転移させてトナー画像を形成する現像装置33と、感光体1が担持するトナー像を記録紙Pに転写し、記録紙Pを感光体から分離する転写分離装置34、及び転写後の感光体1の表面を清掃するクリーニング装置35が配設されている。
【0034】
画像形成部30の露光装置32では、ディジタル化された画像情報データをもとに、半導体レーザを電気的に変調し、コリメータレンズを通して多面体反射鏡36(ポリゴンミラー)とレンズ群によって主走査を行う。さらに感光体1を回転させることで副走査が行われ、原稿画像の静電潜像を感光体1上に再現する。
【0035】
露光に先立ち、感光体1上には、帯電装置31のコロナ放電により所定の表面電荷が付与されているが、レーザ光の照射により露光部分の電荷が露光量に応じて減じられ、結果として画像情報データに応じた静電潜像がそれぞれの感光体1上に形成される。静電潜像は、現像装置33から供給された現像剤トナーにより可視化されてトナー画像となる。
【0036】
画像形成装置100本体の下部には、給紙部40が設けられている。記録紙Pを収容する給紙カセット41の底部には持ち上げ手段により上方向に持ち上げられる可動板42が配置されている。記録紙Pの載置された可動板42は給紙開始信号を受けて上限検知センサで限定される上限位置まで記録紙Pを持ち上げる。同時にピックアップローラ43は落下し、載置された記録紙Pの最上位のものがピックアップローラ43に接触するように構成されている。
【0037】
ピックアップローラ43に接触した記録紙Pは給紙カセット41から給紙され、フィードローラ44、分離ローラ45によって一枚ずつ分離されて送り出された後、中間ローラ46にガイドされてレジストローラ47まで搬送される。記録紙Pはレジストローラ47により記録紙Pの曲がり矯正と給紙タイミングがとられて転写分離装置34に搬送され、感光体1の表面上に形成されたトナー画像が転写分離装置34において記録紙P上に一括転写される。
【0038】
トナー画像の転写分離された記録紙Pは、ほぼ垂直方向に形成された用紙搬送路Bを通って加熱定着装置50まで搬送されて定着処理される。定着処理のため加熱された記録紙Pは、図示しない冷却ファンにより冷却され、排紙ローラ61により排紙されて排紙台62上に載置される。或いは排紙路切換板63により再搬送路70に送り込まれた片面画像処理済みの記録紙Pは、再び画像形成部30において両面画像処理された後、排紙部60の排紙ローラ61により排紙台62上に排紙される。
【0039】
図2は本願発明に係る加熱定着装置50の第一の実施例を示す斜視図である。この加熱定着装置50では外周面に樹脂製弾性層を形成した加圧ローラ51と、円筒状に形成され、その回転中心軸を加圧ローラ51の回転軸と平行に配置された一の振動体52とが外周面で直接接触して相互に押圧され、ニップ部を形成している。記録紙Pは図示しない搬送手段により加圧ローラ51と振動体52によって形成されたニップ部に供給され、加圧ローラ51の回転摩擦力によりニップ部を通過するように構成されている。
【0040】
振動体52の一端部には圧電素子により構成された超音波振動子53が取り付けられている。超音波振動子53は可変周波数発振器54に接続され、可変周波数発振器54により所定の周波数の交番電界が超音波振動子53に加えられると、周期的に歪みが発生し振動体52を励振する。なお、振動体52は記録紙の搬送方向に直交する方向に沿って伸びており、振動体52による振動は記録紙の幅方向へ伝播する。
【0041】
この可変周波数発振器54は振動制御部57によってその発振周波数が可変制御されている。振動制御部57は、可変周波数発振器54の周波数を連続的に変化させて振動体52に供給する場合も含めて、振動体52の長さにより決定される種々の定常波を振動体52に生じさせる共振周波数を選択し、可変周波数発振器54に当該共振周波数での発振をさせるように構成されている。従って、可変周波数発振器54の発振周波数を振動制御部57が周期的に変化させると、振動体52は断続的に変化する種々の共振周波数で振動することになる。その結果、振動体52における振動節の位置が変化し、振動体52には振動エネルギーがほぼ均一に蓄えられ、その振動によって記録紙P及び記録紙P上のトナーが加熱され溶融される。
【0042】
振動体52に与える振動は、超音波振動子53の取り付け方に従って、発生する歪の方向を変えることができるので、横波でも縦波でも伝達させることが可能であり、いずれであっても記録紙P及びトナーにせん断歪を生じさせることができるので加熱作用を引き起こすことができるが、横波の場合には記録紙Pの紙面垂直方向に直接振動が伝わるので、品質劣化の原因ともなりうる。従って、縦波による振動を伝播させることが画像品質的には好ましい。
【0043】
図3は振動体52に発生する定常波の様子を表わした説明図である。図3は三つの連続した整数の振動節を有する場合として模式的に示したものであり、(a)は振動節の数が6、(b)は7、(c)は8の場合について例示している。実際の装置での振動節の数は以下の計算式で与えられる。なお、図3では図2と同一部分については同一の符号を付している。
【0044】
振動数の数=2L/(V×t)
ここで、「L」は振動体52の長さであり、「V」は振動体52を進む振動波の速さであり、「t」は振動の周期である。振動の周期「t」は発振周波数の逆数(t=1/f)で与えられる。
【0045】
図3から、振動体52に付加される共振周波数が高くなるにつれ、振動節の位置が次第に左にシフトしていき、振動節の数が最小の場合(図3では(a))の振動節の位置にあたったために励振されなかった部分が、より高い周波数で励振されることになるので、振動エネルギー分布が振動体52の長さ方向でほぼ均一になることが分かる。
【0046】
また、振動体52に付加する周波数の異なる複数の定常波は、常に超音波周波数の下限である20KHzを超えたものであることが好ましい。それによって、振動体52を振動させても人間の可聴音ではないので、騒音の問題を回避することができる。
【0047】
同様の理由から、振動体52に発生させる振動節の位置の異なる定常波は、共振周波数による振動節の数(N)を基準として、その2倍の範囲内で選択された振動節の数を有する定常波であることが好ましい。2倍の範囲内としたのは2倍の周波数変化によって最小周波数のときの隣接した振動節の間隔内で、より高い周波数の定常波によって振動節の位置を自在に変化させることが可能となり、温度分布ムラの解消に効果を発揮できるからである。このように発生させるべき定常波の選択に当たっては、ある特定個所に定常波の腹又は節となる個所が溜まらないように選択することが求められる。
【0048】
図4は本願発明に係る加熱定着装置の第二の実施例を示す平面図である。この加熱定着装置80では外周面に樹脂製弾性層を形成した加圧ローラ81と、円筒状に形成され、その回転中心軸を加圧ローラ81の回転軸と平行に配置された一の振動体82が熱伝達部材である加熱ベルト85を挟んで互いに押圧してニップ部を形成している。加熱ベルト85は無端状に形成され、振動体82と支持ローラ86に張架されて周回駆動される。
【0049】
記録紙Pは図示しない搬送手段により加圧ローラ81と加熱ベルト85によって形成されたニップ部に供給され、加圧ローラ81の回転摩擦力と加熱ベルト85によってニップ部を通過するように構成されている。
【0050】
振動体82の一端には圧電素子により構成された超音波振動子(図示しない)が取り付けられている。超音波振動子は可変周波数発振器84に接続され、可変周波数発振器84は振動制御部87によって発振周波数が制御される。可変周波数発振器84により所定の周波数の交番電界が超音波振動子に加えられると、周期的に超音波振動子に歪みが発生して振動体82を励振する。振動体82の振動により加熱ベルト85が加熱されて記録紙P及び記録紙P上のトナーに熱を伝達する。この熱によりトナーは溶融されて記録紙Pに定着される。第二の実施例において、振動体82の励振方法は第一の実施例と同じであるので説明を省略する。
【0051】
図5は本願発明に係る加熱定着装置の第三の実施例を示す平面図である。この加熱定着装置90では熱伝達部材である無端状の加熱ベルト95が三つの支持ローラ96a,96b,96cにより張架され、三つの支持ローラ96a,96b,96cのうちのいずれか一の駆動ローラによって周回駆動される。また支持ローラ96aと96bとの間で加熱ベルト95が樹脂製弾性層を形成した加圧ローラ91と外周面で当接し、ニップ部を形成している。
【0052】
支持ローラ96aと96bとの間の加熱ベルト95を挟んで加圧ローラ91と対向する位置に、その回転中心軸を加圧ローラ91の回転軸と平行に配置された一の振動体92が加熱ベルト95を裏面から押圧するように配置され、ニップ部に圧力を与えている。記録紙Pは図示しない搬送手段により加圧ローラ91と加熱ベルト95によって形成されたニップ部に供給され、加圧ローラ91の回転摩擦力と加熱ベルト95によってニップ部を通過するように構成されている。
【0053】
振動体92の一端部には圧電素子により構成された超音波振動子が取り付けられている。超音波振動子は可変周波数発振器94に接続され、可変周波数発振器94は振動制御部97によって発振周波数が制御される。可変周波数発振器94により所定の周波数の交番電界が超音波振動子に加えられると、周期的に超音波振動子に歪みが発生し振動体92を励振する。振動体92の振動により加熱ベルト95が加熱されて記録紙P及び記録紙P上のトナーに熱を伝達する。この熱によりトナーは溶融されて記録紙Pに定着される。第三の実施例においても振動体92の励振方法は第一の実施例と同じであるのでその説明は省略する。
【0054】
以上述べたように、本願発明では振動部材(実施例では振動体52)へ与える超音波の共振周波数を変化させ、発生する定常波の振動節の位置を変化させることで特定個所の振動が小さくなることを防止するものであり、本願発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。従って、本願発明の加熱定着装置の構成は第一、第二、第三の実施例に限定したものではない。
【0055】
なお、本願発明における可変周波数発振器は、振動制御手段により振動部材の長さにより決定される種々の定常波の発生を可能とする共振周波数を選択し、その共振周波数を切替えて供給できるように構成されている。この共振周波数の切替えは不連続的な切替えだけでなく、特定の切替え周期を設けて行うこともできる。例えば、共振周波数1から周波数を増減し、次の共振周波数2に到達したところで発振周波数を固定する。その後、一定期間経過後、再度周波数を増減して次の共振周波数に到達した後、固定するといった制御を行うことも可能である。従って、振動部材は実質的に変化する種々の共振周波数で振動することになり、エネルギー利用の無駄が省かれている。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本願発明の実施の形態である画像形成装置の全体構成図である。
【図2】本願発明に係る加熱定着装置の第一の実施例を示す斜視図である。
【図3】振動体に発生する定常波の様子を表わした説明図である。
【図4】本願発明に係る加熱定着装置の第二の実施例を示す平面図である。
【図5】本願発明に係る加熱定着装置の第三の実施例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 感光体
30 画像形成部
50,80,90 加熱定着装置
51,81,91 加圧ローラ
52,82,92 振動体(振動部材)
53 超音波振動子
54,84,94 可変周波数発振器
57,87,97 振動制御部(振動制御手段)
60 排紙部
85,95 加熱ベルト
86,96 支持ローラ
100 画像形成装置
P 記録紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録紙の搬送方向と直交する方向に伸びた振動部材を振動させることにより、前記記録紙を加熱して前記記録紙上にトナーを定着する加熱定着装置であって、
前記振動部材を振動させるための振動制御手段を有し、
前記振動制御手段は、前記振動部材を振動させることにより前記振動部材に定常波を発生させるとともに、前記振動部材を振動させるために印加する周波数を変化させることを特徴とする加熱定着装置。
【請求項2】
前記振動部材に印加する周波数は、前記振動部材に定常波を発生させるための複数の周波数を切替えて選択することにより、変化することを特徴とする請求項1に記載の加熱定着装置。
【請求項3】
前記周波数の変化により前記定常波の振動節の位置が変化することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加熱定着装置。
【請求項4】
前記振動部材の端部に振動子が配置されるとともに、前記振動制御手段は前記記録紙の搬送方向に直交する方向に沿って定常波を発生させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の加熱定着装置。
【請求項5】
前記定常波は縦波であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の加熱定着装置。
【請求項6】
前記振動部材に発生させる振動節の位置の異なる定常波は、連続した整数の振動節の数を有する定常波であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の加熱定着装置。
【請求項7】
前記振動部材に印加する周波数は、その周波数帯域が20KHz以上の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の加熱定着装置。
【請求項8】
前記振動制御手段は、前記定常波の振動節の数をN(Nは任意の整数)から2Nの範囲で切替わるように、前記周波数を変化させることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の加熱定着装置。
【請求項9】
前記振動部材は加圧ローラに押圧されてニップ部を形成し、記録紙が前記ニップ部を通過するように構成されることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の加熱定着装置。
【請求項10】
前記振動部材は、記録紙に熱を伝達する熱伝達部材に押圧されていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の加熱定着装置。
【請求項11】
前記熱伝達部材は加圧ローラに押圧されてニップ部を形成し、前記記録紙が前記ニップ部を通過するように構成されることを特徴とする請求項10に記載の加熱定着装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれかに記載の加熱定着装置を有する画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate