説明

加熱炉の開口部のシール機構

【課題】 扉を押さえるための格別の装置を必要とせず、炉体の摩耗を押さえ得る加熱炉開口部のシール機構を提供する。
【解決手段】 加熱炉1開口部2の昇降扉3を、偏心したスプロケット4により吊って、昇降扉の上昇による開口部の開放位置では昇降扉3を開口部2の前方に離して位置させ、昇降扉の下降による開口部の閉鎖位置では昇降扉3を炉体1に摺接させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加熱炉の装入側や抽出側の開口部を昇降する扉でシールする機構に関する。
【背景技術】
【0002】
連続式加熱炉においては、装入側と抽出側の開口部は扉で密閉されて放炎を防止する構造になっている。その、一般的な加熱炉の扉は、加熱炉の炉体に形成されたスラブの装入口又は抽出口をなす開口部を、吊り下げられた昇降扉を昇降させることにより開閉するものであって、前記開口部より上方に位置され且つ軸を開口部の上方で幅方向に沿って延在させたスプロケットと、スプロケットに巻回されるチェンとによって昇降扉を昇降させるようになっている。
【0003】
そして、従来の昇降扉は、炉体の開口部を密閉するために、扉をシリンダにより炉体に押さえつける構造のもの(特許文献1)や、前記の昇降扉ではないが、可撓性と耐熱性ある遮蔽カーテンで覆う構造のもの(特許文献2)がある。また、他に、昇降扉と炉体との隙間をマイナス、つまり昇降扉を炉体に押し付けた状態にして、昇降扉を炉体に摺りながら昇降するようにした構造のものや、扉の下部にガイドローラを設けてクランプすると共に、扉の上部はサンドシールでシールするものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭56−8810号公報
【特許文献2】実開昭61−137652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、扉をシリンダにより炉体に押さえつける構造のものや、扉の下部にガイドローラを設けてクランプすると共に扉の上部はサンドシールでシールするものは、扉を押さえたり固定するための動作をする機構を別に設ける必要があって構造と費用が嵩む欠点がある。また、前記遮蔽カーテンで開口部を覆うものは、遮蔽カーテンの熱による劣化が激しく、また可撓性のため内圧に耐えることが難しいから、炉圧を高く設定している加熱炉には使用できないという不具合がある。さらに、昇降扉を炉体に押し付けた状態で昇降扉を炉体に摺りながら昇降するようにした構造のものにおいては、炉体を構成する耐火物の摩耗が著しいため放炎による燃費の悪化と補修の頻度が高くなるという不具合がある。
そこで、この発明は、扉を押さえるための格別の装置を必要とすることなく、炉体の摩耗を押さえて燃費の向上と補修頻度の低下をはかり、さらに熱による劣化を押さえ且つ内圧を高めることができるシール機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の加熱炉の開口部のシール機構は、加熱炉の炉体に形成されたスラブの装入口又は抽出口をなす開口部を、吊り下げられた昇降扉を昇降させることにより開閉する加熱炉の開口部のシール機構において、軸を前記炉体の開口部より上方で且つ前記開口部が開口した炉体の前面より後方で炉体の幅方向に沿って延在させたスプロケットと、スプロケットに巻回されるとともに下部を昇降扉の上部に連結したチェンとを備え、前記スプロケットは前記軸をスプロケットの中心から偏心させた偏心スプロケットとし、昇降扉の上昇による開口部の開放位置では前記スプロケットの中心位置を前記軸よりも前記開口部の前方に位置させ、昇降扉の下降による開口部の閉鎖位置では前記スプロケットの中心位置を前記軸よりも前記開口部の後方に位置させて、前記閉鎖位置で前記昇降扉が開口部周囲の炉体に接し、前記開放位置で前記昇降扉が炉体から開口部前方に離れるようにしたことを特徴とする。
【0007】
前記のシール機構において、前記開放位置にある昇降扉の炉体側の面の位置から、前記閉鎖位置でこの面が接する前記炉体の開口部が開口した前面位置までの、当該開口部の前後方向の距離を、前記スプロケットの同方向における偏心距離の差より小さい距離に設定すると好適である。
また、前記スプロケットは前記炉体の上側に配置された前記軸に一体回転するように固定されたものを使用するとよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の前記態様においては、昇降扉を昇降させるスプロケットを偏心させたので、扉を押さえるための格別の装置を必要とすることなく扉を炉体に押さえることができる。また、昇降扉が開くとともに炉体から離れるから、炉体の摩耗を押さえて放炎を防止するから燃費の向上と補修頻度の低下をはかることができる。さらに扉を可撓性あるものにする必要がないから、十分に耐熱性と耐圧性のある扉とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態の正面図。
【図2】図1のX−X線断面図。
【図3】(a)は図1のY−Y線断面図。(b)は(a)の昇降扉が上昇した状態の断面図。
【図4】図3の各位置等の数値を示す表図。
【図5】パスラインの高さと扉の隙間との関係を示すグラフ。
【図6】スプロケットの偏心距離の差と扉の隙間とを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、連続式加熱炉の炉体1の正面図である。炉体1は主として耐火材を組み上げて形成されており、炉体1に形成されたスラブの装入口又は抽出口をなす開口部2の前面が、昇降扉3によって閉鎖された状態を示している。昇降扉3は鋼製であって炉体1側の面には耐火材が配設されており、複数のスプロケット4に巻回された各チェン5により吊り下げられている。各スプロケット4は1本の回転軸6に固定されて、この回転軸6の回転により各スプロケット4が一体に回転するようになっている。したがってこの回転軸6の軸心がスプロケット4の軸をなすため、以下においては原則として回転軸6とスプロケット4の軸とを区別しないで説明する。
【0011】
回転軸6は、炉体1ないし炉体1のある建屋に固定された図示しない梁などの定着物に軸受7を介して回転自在に支持されており、その一端は減速機8を介して、これも前記定着物に支持された駆動モータ9に連結されている。
前記回転軸6には別のスプロケット11がその中心軸を回転軸6に一致させて固定されて、このスプロケット11も回転軸6に一体に回転するようになっている。このスプロケット11には、炉体1や周辺機器に干渉しない位置にチェン12を介してカウンターウェイト13が吊り下げられている。このカウンターウェイト13は、前記昇降扉3とバランスするようになっていて、昇降扉3の昇降時及び静止時の駆動モータ9や減速機8の負荷を軽減している。
【0012】
回転軸6は炉体1の開口部2より上方で且つ前記開口部2が開口した炉体1の前面1aより後方に配置されており、また、回転軸6に固定されて前記チェン5を介して昇降扉3を吊っている前記スプロケット4は偏心スプロケットとなっている。つまり昇降扉3の上昇による開口部2の開放位置では、図3(b)に示すように、前記スプロケット4の中心4a位置を回転軸6よりも前記開口部2の前方に位置させるようになっている。また、昇降扉3の下降による開口部2の閉鎖位置では、図3(a)に示すように、前記スプロケット4の中心4a位置を前記回転軸6よりも前記開口部2の後方に位置させるようになっている。
【0013】
図3において、昇降扉3の閉鎖位置ではスプロケット4の偏心距離Aは小さく、昇降扉3の開放位置ではスプロケット4の偏心距離Aは大きくなって、偏心距離Aが大きいときには炉体1と昇降扉3との隙間Bが大きく、偏心距離Aが小さいときには前記隙間Bは小さく(ゼロに)なるようになっている。
この点をさらに説明すると、前記図3(b)の開放位置にある昇降扉3の炉体1側の面の位置と、この面が接する前記炉体1の開口部2が開口した前面1aとの、当該開口部の前後方向の距離(前記隙間Bに同じ)を、前記スプロケット4の同方向における偏心距離の差(図3(b)の偏心距離Aと図3(a)の偏心距離Aの差)より小さい距離に設定している。
【0014】
以上の構成により、この開口部のシール機構は次のように動作する。先ず、図3(b)に示した昇降扉3の開放位置では、スプロケット4の偏心距離Aが大きくなっているため、昇降扉3は炉体1の開口部2のある前面1aから前方に大きく離れていて、前記隙間Bが大きく開いている。この昇降扉3が回転軸6とスプロケット4の回転を伴って下降すると、スプロケット4の前記偏心距離Aが次第に小さくなり、従って前記隙間Bが次第に小さくなって、昇降扉3が炉体1の開口部2に近づく。そして昇降扉3の下降終了前に、昇降扉3は炉体1の開口部2のある前面1aに接し、そのまま炉体1の開口部2の前面1aを摺りながら下降して下死点に至る。
【0015】
ここでは、昇降扉3が開放位置にあるときと閉鎖位置にあるときの前記各偏心距離Aと前記各隙間Bとの関係があるから、昇降扉3が下死点に至る前の中途段階で炉体1の開口部2の前面1aに接し、そのまま摺動して下死点に至るようになっている。この摺動している間は、炉体1がなければ昇降扉3はさらに炉体1の奥方向に移動する、すなわち前記隙間Bがマイナスになることを意味している。そして、隙間Bがマイナスになるということは、存在する炉体1の開口部2の前面1aに昇降扉3が押し付けられて下降し開口部2が密閉されることを意味する。
逆に昇降扉3の上昇時には、下死点にある昇降扉3は上昇を開始して少しの間は炉体1の開口部2の前面1aに押し付けられて摺動する。しかし、その後は離れて、前記隙間Bがプラスになり、この隙間Bを次第に大きくしつつ昇降扉3は上昇して開口部2が開く。
【0016】
この昇降扉3の昇降はいずれの方向にもモータ9の駆動力を利用するものであるが、昇降のうち一方への回転軸6の回転は、昇降扉3とカウウンターウェイト13とのバランスによって、モータ9の駆動力によらないものとすることができる。例えば、昇降扉3の上昇にはモータ9の駆動力を用いるが、昇降扉3の下降には、昇降扉3の自重によるものであってもよい。この場合には、昇降扉3が低速で下降できるバランスにしておくものとする。そして、昇降扉3の上昇位置では図3(b)示すように偏心距離Aが大であるから、スプロケット4に加わる回転モーメントも大になって、最初は比較的早い速度で昇降扉3が下降する。しかし、やがてスプロケット4の回転により前記偏心距離Aが縮小するから、回転モーメントが次第に小になり、昇降扉3の下降速度が遅くなる。そこで、昇降扉3が炉体1の開口部2の前面1aに接するときには速度はかなり低下し、そのまま摺動して下死点に至る。
【0017】
このように、昇降扉3が自重で下降する場合には、隙間Bがある最初は早く、隙間Bがなくなる最後に低速で下降するから、昇降扉3が炉体1に摺動する距離は従来の技術よりも短くなるので、炉体1や昇降扉3の耐火材の摩耗を抑制することができる。また、前記昇降扉3が炉体1から離れている間の昇降扉3の下降は早いので、昇降扉3を閉じる速度は早くなる効果もある。
【実施例】
【0018】
図4は実施例のスプロケット4の条件と昇降扉3の高さ(パスラインレベル差)等との関係を示す表図であり、これによると、スプロケット4の直径は815mm,スプロケット4の偏心、つまりスプロケット4の軸6(回転中心)とスプロケット4の中心位置4aとの偏りは25mmとなっている。したがって図3、図6に示した偏心距離Aの最大値は432.5mm,同最小値は382.5mmで、その差(理論上の隙間B)は50mmとなる。
【0019】
一方、開放位置にある昇降扉3の炉体1側の面の位置と、この面が接する前記炉体1の開口部2のある前面1aの位置との、当該開口部の前後方向の距離を事実上の隙間Baとしたときに、この隙間Baを40mmとしている。そこで、前記理論上の隙間Bの寸法と、事実上の隙間Baの寸法との差の10mmが理論上の隙間Bのマイナス分になる。
だから、この実施例では、スプロケット4の回転により昇降扉3の各昇降位置(パスラインレベル差)における、前記偏心距離A、隙間Bのほか、スプロケット4へのチェン5の巻付角度、巻付長さの関係が図4に示された通りになっている。また、このときのパスラインレベル差(つまり昇降扉3の高さ位置)と隙間Bとの関係が、従来構造と比較しつつ図5のグラフに示されている。
【0020】
ここでは、前記のように理論上の隙間Bのマイナス分が最大10mmあり、このマイナス分は昇降扉3の昇降距離のうち下の4分の1程度の距離となっている。このため、昇降扉3が炉体1に摺接するのは、その昇降距離のうち4分の1程度になる。また閉じた状態ではマイナス分が10mmあるから、昇降扉3は自らの重量によって炉体1に押し付けられているから、開口部2は密閉されているので、他の格別の機器を使用することなく、放炎を抑制することができる。
なお、前記の実施形態や実施例での各数値は本発明を説明するための一例にすぎないから、本発明がこれらにより制約を受けるものではない。
【符号の説明】
【0021】
1 炉体
1a 前面
2 開口部
3 昇降扉
4 スプロケット(偏心スプロケット)
5 チェン
6 回転軸
A 偏心距離
B 隙間
Ba 事実上の隙間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉の炉体に形成されたスラブの装入口又は抽出口をなす開口部を、吊り下げられた昇降扉を昇降させることにより開閉する加熱炉の開口部のシール機構において、軸を前記炉体の開口部より上方で且つ前記開口部が開口した炉体の前面より後方で炉体の幅方向に沿って延在させたスプロケットと、スプロケットに巻回されるとともに下部を昇降扉の上部に連結したチェンとを備え、前記スプロケットは前記軸をスプロケットの中心から偏心させた偏心スプロケットとし、昇降扉の上昇による開口部の開放位置では前記スプロケットの中心位置を前記軸よりも前記開口部の前方に位置させ、昇降扉の下降による開口部の閉鎖位置では前記スプロケットの中心位置を前記軸よりも前記開口部の後方に位置させて、前記閉鎖位置で前記昇降扉が開口部周囲の炉体に接し、前記開放位置で前記昇降扉が炉体から開口部前方に離れるようにしたことを特徴とする加熱炉の開口部のシール機構。
【請求項2】
前記開放位置にある昇降扉の炉体側の面の位置から、前記閉鎖位置でこの面が接する前記炉体の開口部が開口した前面位置までの、当該開口部の前後方向の距離を、前記スプロケットの同方向における偏心距離の差より小さい距離に設定したことを特徴とする請求項1に記載の加熱炉の開口部のシール機構。
【請求項3】
前記スプロケットは前記炉体の上側に配置された前記軸に一体回転するように固定されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加熱炉の開口部のシール機構。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−112883(P2013−112883A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262724(P2011−262724)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】