説明

加熱調理品の製造方法

【課題】電子レンジ調理を行っても薄切り肉同士が結着することのない加熱調理品の製造方法を提供する。
【解決手段】粘度が10Pa・s以下の調味液が充填された容器内に、澱粉及び/又は穀粉をまぶした複数の薄切り肉を投入した後、該薄切り肉全体を前記調味液と接液処理し、次いで電子レンジ調理する加熱調理品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジを利用した加熱調理品の製造方法において、電子レンジ調理を行っても薄切り肉同士が結着することのない加熱調理品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、単身所帯や二人所帯等の小人数世帯や、共働き世帯が増加している。食べる量が少ないにも拘わらず調理する手間はさほど軽減されない小人数世帯や、調理に割ける時間が限られている共働き世帯は、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等で惣菜食品を購入したり、レストラン等での外食に頼らざるを得ず、結果、家庭で調理する機会が減り食生活を貧しいものにしがちである。そこで、手間や時間をかけずに調理できる加熱調理品の製造方法に対する需要がますます大きくなってきている。
【0003】
手間や時間をかけずに調理できる代表例として、電子レンジ調理が挙げられる。しかし、複数の薄切り肉を具材として電子レンジ調理を行った場合、薄切り肉同士が結着してしまい、非常にほぐしづらく調理適性を損ねていた。
【0004】
電子レンジ調理による肉の結着を防止する方法として、特開2001−178392号公報(特許文献1)にプロテアーゼを含有する肉料理用調味料組成物と肉を接液する方法が記載されている。しかしながら、プロテアーゼ活性の制御が難しいため、消費者の要望を十分に満足するものは得られていない。
【0005】
ところで、特開2006−44708号公報(特許文献2)には、ジッパーを備えた水蒸気透過性調理用袋に、生鮮食品等の料理食材を密閉した調理用バッグが提案されている。特許文献2の調理用バッグの技術を薄切り肉を具材とした加熱調理品に応用できれば、鍋等を用いず、薄切り肉を具材とした加熱調理品を電子レンジで簡単に製造することができ便利である。
【0006】
【特許文献1】特開2001−178392号公報
【特許文献2】特開2006−44708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、複数の薄切り肉を具材として電子レンジ調理を行うにも拘らず、薄切り肉同士が結着していない加熱調理品の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の粘度の調味液が充填された容器内に、特定の処理を施した複数の薄切り肉を投入した後、前記調味液と前記薄切り肉を接液処理し、次いで電子レンジ調理することにより、薄切り肉同士の結着を防止できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)粘度が10Pa・s以下の調味液が充填された容器内に、澱粉及び/又は穀粉をまぶした複数の薄切り肉を投入した後、該薄切り肉全体を前記調味液と接液処理し、次いで電子レンジ調理する加熱調理品の製造方法、
(2)容器内容物の合計300gあたり、600W×3分間相当以上の条件で電子レンジ調理調理する(1)の加熱調理品の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数の薄切り肉を具材として電子レンジ調理を行うにも拘らず、薄切り肉同士の結着を抑制することができる。そのため、電子レンジを利用して薄切り肉を具材とした加熱調理品を簡便に製造することができるようになり、食品市場の更なる活性化が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の加熱調理品の製造方法を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を表す。
【0012】
本発明の加熱調理品の製造方法は、粘度が10Pa・s以下の調味液が充填された容器内に、澱粉及び/又は穀粉をまぶした薄切り肉を投入した後、当該調味液と前記薄切り肉を接液処理し、次いで電子レンジ調理することに特徴を有する。前記製造方法では、10Pa・s以下の粘度に調整した調味液と澱粉及び/又は穀粉をまぶした薄切り肉を接液処理後、電子レンジ調理により加熱することで、澱粉及び/又は穀粉が薄切り肉同士の間隙で膨潤し、高い結着防止効果を発揮する。これに対して、薄切り肉に前記澱粉又は穀粉をまぶさない場合、あるいは、前記調味液と前記澱粉及び/又は穀粉をまぶした薄切り肉の接液処理を行わない場合は、薄切り肉同士が塊状になってしまい全く結着防止効果が得られない。
【0013】
以下に、順を追って本発明の加熱調理品の製造方法を説明する。
【0014】
まず、調味液を準備する。本発明に用いる調味液は、容器内に投入する薄切り肉を味付けするための調味料を含むものであればよく、例えば、食塩、砂糖、醤油、味噌、食酢、動植物等のエキス類、牛乳、豆乳、アミノ酸、グルタミン酸ナトリウム等を原料に調製した調味料が挙げられる。また、市販の調味液を用いることができ、例えば、レトルト品、あるいは、冷凍品を解凍した調味液を用いることができる。また、必要に応じ調味液に具材を配合してもよい。
【0015】
本発明に用いる調味液の粘度は、10Pa・s以下であり、好ましくは5Pa・s以下、より好ましくは2Pa・s以下である。前記範囲よりも粘度が高い場合、調味液が薄切り肉全体に行き渡らず、薄切り肉同士の結着を防止できない場合がある。下限は、調味液が流れ落ちず薄切り肉に付着した方が美味しく食することができることから、好ましくは0.1Pa・s以上である。
【0016】
なお、粘度の測定は、当該調味液をBH型粘度計で、品温25℃、回転数20rpmの条件で、粘度が0.375Pa・s未満の時ローターNo.1、0.375Pa・s以上1.5Pa・s未満の時ローターNo.2、1.5Pa・s以上3.75Pa・s未満の時ローターNo.3、3.75Pa・s以上7.5Pa・s未満の時ローターNo.4、7.5Pa・s以上の時ローターNo.5を使用し、測定開始後ローターが3回転した時の示度により求めた値である。また、調味液に具材が含まれる場合、10メッシュの篩に通して具材を取り除いたものを測定する。本発明で使用する篩はTyler規格によるものであり、10メッシュが目開き1.7mmに対応する。
【0017】
本発明に用いる容器は、電子レンジ調理が可能な種々の容器を用いることができる。例えば、耐熱性樹脂性の成形容器の他、底面にマチをもたせたスタンディングパウチ、底面及び側面にマチをもたせたガゼット袋、四方シール袋等が挙げられる。また、これら容器は、電子レンジ調理する前に当該容器を密閉するための密閉機能や、電子レンジ調理時に蒸気を容器外に排出する蒸気抜き機構を備えていることが好ましい。このような密閉機能や蒸気抜き機構を備えた容器は、電子レンジ調理可能な蒸気抜き及びジッパー付きスタンドパウチ等が挙げられ、市販されているもの等を用いればよい。
【0018】
また、本発明においては、電子レンジ調理可能な容器に調味液を充填し容器詰め調味液として保存して置くと、加熱調理品を製造する時に手間や時間がかからずに便利である。容器詰め調味液は、容器詰め後に殺菌処理や冷凍処理を施すことで長期保存が可能となる。
【0019】
次に、澱粉及び/又は穀粉をまぶした複数の薄切り肉を準備する。本発明に用いる澱粉は、特に限定されないが、具体的には例えば、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、うるち米澱粉、もち米澱粉、小麦澱粉、片栗粉澱粉、タピオカ澱粉等の生澱粉、湿熱処理澱粉、加工澱粉等が挙げられる。また、本発明に用いる穀粉も、特に限定されないが、具体的には例えば、小麦粉、米粉、トウモロコシ粉、そば粉、大豆粉等の穀類粉末が挙げられる。
【0020】
前記澱粉及び/又は穀粉のうち、片栗粉澱粉が特に高い結着防止効果を発揮し好ましい。片栗粉澱粉は、ユリ科の多年草カタクリの鱗形から得られる澱粉で、電子レンジ調理により沸騰直前まで加熱することで膨潤し、膨潤した片栗粉澱粉が薄切り肉同士の間隙に入り込み高い結着防止効果を発揮する。
【0021】
本発明に用いる薄切り肉は、特に限定されないが、牛肉、豚肉、鶏肉、鴨肉、羊肉、馬肉、又は家兎肉等の食用に適した家畜の薄切り肉が挙げられる。また、電子レンジ調理をむら無く行えるように、厚さ1〜5mm、面積1〜20cmにカットして用いることや、冷凍品は解凍して用いることが好ましい。
【0022】
本発明の薄切り肉の投入量は、本発明の効果を奏すれば特に限定されないが、調味液1部に対して0.2〜5部が好ましく、0.5〜2部がより好ましい。調味液1部に対する薄切り肉の投入量が前記範囲より多い場合、薄切り肉全体が調味液と十分に接液せず本発明の結着防止効果が得られ難い。前記範囲より少ない場合、味付けが濃くなり過ぎてしまう場合がある。
【0023】
前記澱粉及び/又は穀粉を薄切り肉にまぶしつける方法は、特に限定されず、澱粉及び/又は穀粉の1種又は2種以上を組合せて用いればよい。具体的には、例えば、バット等に澱粉及び/又は穀粉を入れ、その粉体の中に薄切り肉を入れて取り出し、手ではたいて余分な粉体を落とすようにして、薄切り肉の表面全体に澱粉や穀粉が付着するようにすればよい。薄切り肉にまぶしつける澱粉や穀粉の量は、薄切り肉の表面積にもよるが、薄切り肉100部に対して澱粉及び穀粉の合計量が好ましくは1〜30部、より好ましくは3〜10部である。澱粉や穀粉の量が前記範囲より少ない場合、澱粉及び/又は穀粉が薄切り肉同士の間隙に満遍なく入り込まないためか、本発明の結着防止効果が得られ難く、前記範囲より多い場合、加熱調理品全体に粘度がつき過ぎ食感や風味を損ねる場合がある。
【0024】
次いで、該薄切り肉全体を前記容器詰め調味液と接液処理する。接液処理の方法は、薄切り肉全体が調味液と接液処理されていれば特に限定されない。例えば、調味液を加えて揉み込む方法、静置する方法、掻き混ぜる方法等が挙げられ、揉み込む方法が短時間で簡便に本発明の効果を発揮でき好ましい。揉み込み方法は、特に限定されないが、例えば、両掌に挟んだり作業台上で混捏する等が挙げられる。
【0025】
最後に、前記調味液と前記薄切り肉を投入した容器を容器ごと電子レンジ調理する。電子レンジ調理により、薄切り肉の風味や食感の良さを引き出すと同時に、薄切り肉を加熱殺菌する必要があるため、少なくとも調味液が沸騰する加熱条件、具体的には、前記調味液、前記薄切り肉及びその他の食材を合計した容器内容物300gあたり、周波数2.45GHzのマイクロ波で600W、3分間相当以上の条件で加熱調理することが好ましい。ここで600W、3分間相当とは、300Wであれば6分間、出力400Wであれば4.5分間、出力800Wであれば2.25分間というように、出力ワット数と時間の積が同じになるように換算して計算した条件以上の電子レンジ調理を行うことである。また、容器内容物の合計が例えば600gであれば、出力ワット数と時間の積が300gの場合の2倍となるように電子レンジ調理を行う。前記電子レンジ調理条件の上限は、特に限定されないが、容器内容物の合計300gあたり、600W、30分間相当以下の加熱条件とすればよい。
【実施例】
【0026】
以下に本発明の加熱調理品の製造方法を実施例及び試験例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0027】
[実施例1]〈1〉調味液の調製鍋に醤油6%、みりん6%、上白糖6%、鰹エキス粉末3%、生姜ミンチ2%、食塩1%、キサンタンガム0.5%、清水75.5%を投入後、撹拌加熱を行い、品温90℃、10秒間加熱することにより調味液を調製した。調味液の粘度は0.2Pa・sであった。
【0028】
〈2〉容器詰め調味液の調製次に、前記調味液180gを弱化シール部と切欠とからなる蒸気抜き機構を有するジッパー付きスタンドパウチ(パウチサイズ:縦220mm×横140mm×折込(マチ)40mm、材質:(パウチ)ポリエステル/ポリアミド/無延伸ポリプロピレン、(ジッパー部)ポリプロピレン、最大密閉充填可能容量:800g)に充填密閉し、ジッパー付きスタンドパウチ内に調味液160gが充填されている容器詰め調味液を調製した。
【0029】
〈3〉加熱調理品(豚薄切り肉の生姜煮)の調製ジッパー付きスタンドパウチ内に加える具材として、豚薄切り肉(厚さ3mm、面積5〜20cmの生肉10切れ)140gを用意した。バットに用意した澱粉(片栗粉)の中に前記豚薄切り肉を入れ、手ではたいて余分な片栗粉を落とすようにして、豚薄切り肉の表面全体に片栗粉をまぶした。まぶした片栗粉の量は、豚薄切り肉100部に対して4部であった。続いて、〈2〉の容器詰め調味液のジッパーを開封し、片栗粉をまぶした豚薄切り肉146gを入れ、再度ジッパーを閉じ、接液処理(両掌に挟んで1分間揉み込み)後、電子レンジ調理を施した(600W、7分間)。最後に、ジッパー部を下にして皿に開け本発明の加熱調理品(豚薄切り肉の生姜煮)を調製した。
【0030】
[比較例1]豚薄切り肉に澱粉(片栗粉)をまぶさない以外は、実施例1に準じて加熱調理品(豚薄切り肉の生姜煮)を調製した。
【0031】
[比較例2]電子レンジ調理前に接液処理(両掌に挟んで1分間揉み込み)せずそのまま電子レンジ調理を施す以外は、実施例1に準じて加熱調理品(豚薄切り肉の生姜煮)を調製した。
【0032】
[実施例2]澱粉(片栗粉)に代えて穀粉(薄力粉)をまぶした以外は、実施例1に準じて加熱調理品(豚薄切り肉の生姜煮)を調製した。なお、まぶした薄力粉の量は、豚薄切り肉100部に対して4部であった。
【0033】
[試験例1]実施例1、2及び比較例1、2の加熱調理品(豚薄切り肉の生姜煮)について、下記評価基準に従い薄切り肉同士の結着防止効果を調べた。結果を表1に示す。
【0034】
<評価基準> A:全く結着していない。 B:僅かに結着しているが、品位上問題ない。 C:薄切り肉同士が結着しほぐすのに手間がかかり、適性を損ねる。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の結果、粘度が10Pa・s以下の調味液が充填された容器内に、澱粉及び/又は穀粉をまぶした複数の薄切り肉を投入した後、前記調味液と前記薄切り肉を接液処理し、次いで電子レンジ調理した場合、高い薄切り肉同士の結着防止効果がみられた。特に、薄力粉よりも片栗粉を用いた場合、より結着防止効果に優れ好ましかった(実施例1、2)。一方、薄切り肉に澱粉及び/又は穀粉をまぶさない場合、調味液と薄切り肉の接液処理を施さない場合は、いずれも薄切り肉同士の結着防止効果がみられず適性を損ね好ましくなかった(比較例1、2)。
【0037】
[実施例3]〈1〉調味液(クリームソース)の調製生クリーム20%、牛乳20%、白ワイン16%、バター10%、タマネギ(柵切り)8%、チキンブイヨン(顆粒)3%、湿熱処理澱粉3%、食塩2%、黒胡椒1%、清水17%を投入後、撹拌加熱を行い、80℃、10分間煮込むことにより調味液を調製した。調味液の粘度は2Pa・sであった。
【0038】
〈2〉容器詰め調味液の製造続いて、得られた調味液を、実施例1〈2〉と同様に充填密閉し、ジッパー付きスタンドパウチ内に(1)で調製した調味液(120g)が充填されている容器詰め調味液を調製した。
【0039】
〈3〉加熱調理品(牛薄切り肉のクリーム煮)の調製ジッパー付きスタンドパウチ内に加える具材として、牛薄切り肉(厚さ3mm、面積5〜30cmの生肉6切れ)180gを用意した。バットに用意した澱粉(片栗粉)の中に前記牛薄切り肉を入れ、牛薄切り肉の表面全体に片栗粉をまぶし、余分な片栗粉は手ではたいて落とすようにした。まぶした片栗粉の量は、牛薄切り肉100部に対して7部であった。続いて、〈2〉の容器詰め調味液のジッパーを開封し、片栗粉をまぶした牛薄切り肉193gを入れ、再度ジッパーを閉じ、接液処理(作業台上で混捏して10秒間揉み込み)後、電子レンジ調理を施した(600W、8分間)。最後に、ジッパー部を下にして皿に開け本発明の加熱調理品(牛薄切り肉のクリーム煮)を調製した。
【0040】
得られた牛薄切り肉のクリーム煮は、牛薄切り肉同士が全く結着しておらずほぐし易かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度が10Pa・s以下の調味液が充填された容器内に、澱粉及び/又は穀粉をまぶした複数の薄切り肉を投入した後、該薄切り肉全体を前記調味液と接液処理し、次いで電子レンジ調理することを特徴とする加熱調理品の製造方法。
【請求項2】
容器内容物の合計300gあたり、600W×3分間相当以上の条件で電子レンジ調理する請求項1記載の加熱調理品の製造方法。