説明

加熱調理用の容器

【課題】容器内の温度をより正確に把握でき、かつ、容器の底壁の焦げ付きや被調理物の焦げ付きを防ぐガス調理器用の加熱用容器を提供する。
【解決手段】本発明の加熱用容器20は、容器20を加熱するためのガスバーナ12と、容器20の外壁面に接触して容器20の温度を検知する温度センサ14とを備えるガス調理器用の加熱用容器20として使用される。容器20は、陶磁器製であるとともに、温度センサ14に接触するセンサ接触部23とガスバーナ12により加熱される加熱領域25とを有する底壁21と、底壁21から連なる筒状の側壁22とを備える。容器20の厚みは、センサ接触部23において最も小さく、加熱領域25において側壁22よりも大きく、底壁21の加熱領域25から側壁22にかけて連続的に小さくされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理用の容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス加熱調理器に用いられる加熱調理用容器としては、従来から、鉄鍋、アルミ合金鍋などの金属製の容器や土鍋などの陶磁器製の容器などが用いられているが、風味がよく保温性が高いという観点から、近年、土鍋などの陶磁器製の容器が注目されている。
【0003】
ガス加熱調理器の一種であるガス炊飯器に用いられる内釜においては、鉄又はアルミ合金等の金属製のものが多いが、おいしいご飯を炊くことができ、保温性が高いという観点から、鍋と同様に陶磁器製のものが注目されている(例えば特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2007−175095公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の内釜を使用するガス炊飯器を含め、一般的なガス炊飯器は、内部にガスバーナを有する炊飯器本体と、炊飯器本体に収容される内釜を備えており、ガスバーナを燃焼させて内釜が加熱されることにより、内釜の内部に入れられた食品の加熱を行うようになっている。
そして、一般的なガス炊飯器においては、ガスバーナによる加熱に伴い上昇した内釜の温度を検知するために、温度センサが設けられており、この温度センサにより、ガスバーナの燃焼が制御されている。
【0005】
近年、安全性の向上の観点から、ガスバーナによる加熱に伴い上昇した加熱調理用容器の温度を検知するための温度センサを、ガス炊飯器だけでなく、ガスコンロにも設けることが望まれており、このような温度センサを備えたガスコンロの需要が高まっている。
【0006】
しかし、一般的なガス調理器に設けられている温度センサは、鍋などの加熱調理用容器の底部の外壁面に接するように設けられているので、容器底部の温度を正確に検知できても、容器内部の温度を正確に検知できるかどうかは疑問である。特に、土鍋などの陶磁器製容器は熱伝導性が低いため、容器底部の温度と容器内部の温度との間に大きな温度差が生じることが懸念され、検知された容器底部の温度に基づきガスバーナを制御すると被調理物が十分に加熱されないことがある。
【0007】
また、ガスコンロやガス炊飯器などのガス調理器では、火を用いないで加熱する電磁誘導式の加熱調理器(以下、IH調理器という)とは異なり、ガスバーナにより容器底壁の外壁面を直接加熱するため、容器の底壁はガスバーナ炎の熱影響を受けやすい。そのため、容器底壁の厚みが小さいと、長時間の加熱や強火力の加熱により底部の加熱領域が焦げやすかったり、被調理物が焦げ付くという問題があった。
【0008】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、加熱容器内の温度をより正確に把握でき、かつ、容器の底部や被調理物の焦げ付きを防ぐガス調理器用の加熱容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するものとして、本発明の加熱調理用の容器は、容器を加熱するガスバーナと、前記容器の外壁面に接触して前記容器の温度を検知する温度センサとを備えるガス加熱調理器に用いられる加熱調理用の容器であって、前記容器は、陶磁器製であるとともに、前記温度センサに接触するセンサ接触部と前記ガスバーナにより加熱される加熱領域とを有する底壁と、前記底壁から連なる筒状の側壁とを備え、前記容器の厚みは、前記センサ接触部において最も小さく、前記加熱領域において前記側壁よりも大きく、前記底壁の加熱領域から前記側壁にかけて連続的に小さくされていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、加熱調理用の容器の厚みは、容器内の温度を検知する温度センサに接触する部分(センサ接触部)において最も小さくなっているから、容器内の温度をより正確に把握できる。
【0011】
ここで、容器内の温度を外部に伝わりやすくするには、容器全体の厚みを小さくするということも考えられるが、厚みを全体に小さくすると、陶磁器製材料の有する保温効果等の特性が減殺され、強度が低下し、ガスバーナにより加熱される加熱領域での容器の焦げ付きや被調理物が焦げ付くなどの問題が生じる。
【0012】
そこで、本発明においては、加熱調理用容器全体の厚みを薄くするのではなく、センサ接触部において厚みを最も小さくなるようにして、陶磁器製材料の有する特性を生かしつつ、容器内部の温度をより正確に把握できるようにしている。
【0013】
また本発明においては、容器の厚みはバーナにより加熱される加熱領域において側壁よりも大きくなっているから、容器の底壁の焦げ付きや被調理物の焦げ付きを防ぐことができる。
さらに、本発明によれば、底壁の加熱領域から側壁にかけて厚みが連続的に小さくなっているから、成形しやすいうえに、容器表面の凸凹を少なくすることができ、外観上、取り扱い上も好ましい。
【0014】
本発明の加熱調理用容器は以下の構成であってもよい。
前記容器は、ガス炊飯器用の内釜であってもよい。
このような構成とすると、ガス炊飯器用の内釜内部の温度をより正確に把握でき、内釜の焦げ付きやご飯の焦げ付きなどを防ぐことができるから好ましい。
【0015】
前記容器の底壁の外壁面には、前記センサ接触部を包囲する環状突部が突設されていてもよい。
このような構成とすると、センサ接触部に配される温度センサとガスバーナの炎との接触を防止することができ、さらに正確に温度検知を行うことができるので好ましい。
【0016】
前記容器は、熱膨張係数が1.0×10−7〜12.0×10−7/℃の陶磁器製の素地の表面に、前記容器の吸水率を0.1%以下とする釉薬層が形成されてなるものであってもよい。
一般的な陶磁器製の調理用容器においては、吸水率が5〜10%なので、調理の際に被調理物とともに入れる水を吸収し、被調理物に不具合が生じるという問題があった。そこで、上記の構成とすると、調理用容器をほとんど吸水のないものとし、かつ、機械的強度を向上させることができるので好ましい。
【0017】
前記釉薬層の表面には、親水性被膜が形成されていてもよい。
上記構成とすると、容器の表面に親水性皮膜が形成されているから、調理などにより付着した汚れや焦げ付きなどを容易に落とすことができるので好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、加熱容器内の温度をより正確に把握でき、かつ、加熱容器の底壁の焦げ付きや被調理物の焦げ付きを防いだ加熱調理用容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1および図2によって説明する。
本実施形態は、本発明の容器をガス炊飯器の内釜20に適用したものである。本実施形態の内釜20は、ガス炊飯器の炊飯器本体11内に収容されて、炊飯器本体11内に設けられているガスバーナ12により加熱して使用するものである。
【0020】
炊飯器本体11内の底部には、図1に示すように、バーナヘッド13を具備するガスバーナ12が設けられており、バーナヘッド13の中心部上方には内釜20の底壁21の外側面に接触して内釜20の温度を検知する温度センサ14が設けられている。炊飯器本体11には、温度センサ14が受信した温度データに基づきガスバーナ12の火力を制御するコントローラ(図示せず)が内蔵されている。
【0021】
この炊飯器本体11内に収容される本実施形態の内釜20は、円形の底壁21と底壁21から上方に連なる筒状の側壁22とを備える。内釜20の側壁22の上端には、上から蓋が配置される蓋受け部27が、外周方向に張り出し形成されている。
【0022】
内釜20の底壁21の中心位置には、外壁面に、周囲よりも一段くぼませることにより厚みを薄くした凹部23が設けられている。この凹部23は、温度センサ14において内釜20の底壁21に接触する感熱部14Aの外径よりも一回り大きな円形に形成され、その内部に感熱部14Aを受入可能とされている。この凹部23は、内釜20を炊飯器本体11に収容し蓋(図示せず)を閉じた際に温度センサ14の感熱部14Aと接触するセンサ接触部23である。
【0023】
底壁21の外壁面には、凹部23を包囲するように環状突部24が突設されており、環状突部24よりも外周側の、ガスバーナ12の炎Fにより直接加熱される領域は加熱領域25とされる。また、底壁21の外壁面には、加熱領域25よりも外周寄りのところに、3つの釜足26が等間隔で突出形成されている。
【0024】
さて、本実施形態の内釜20の厚みは、センサ接触部23において最も小さくなっており、加熱領域25においては側壁よりも大きくされており、底壁21の加熱領域25から側壁22にかけて連続的に小さくなっている。
【0025】
内釜20の厚みは、凹部23(センサ接触部23)において、2mm〜4mm、加熱領域25において5mm〜8mm、底壁21から側壁22にかけては連続的に小さくなって、側壁22において4mm〜6mmであるのが好ましい。
【0026】
凹部23の形成されている領域の厚みは、温度センサ14によって検知される外壁面温度と内釜20の内部温度との差を炊飯動作の制御に支障をきたさない程度に小さくするために、4mm以下とすることが好ましい。しかし、あまり薄くしすぎると、内釜20の強度が低下し破損等が起こるおそれがあるので、2mm以上とすることが好ましい。
【0027】
加熱領域25の厚みは、ガスバーナ12の炎Fにより直接加熱されることによる焦げ付きを防止するために5mm以上であるのが好ましい。しかしあまり厚くしすぎると炊飯時間が長くなりすぎるおそれがあるので8mm以下であるのが好ましい。
【0028】
次に本実施形態の内釜20の材質について説明する。本実施形態の内釜20は、陶磁器製の素地(内釜基材)の全表面に釉薬層が形成されてなる。
内釜基材は、耐熱容器として要求される耐熱衝撃性を備えるという観点から、熱膨張率が低く、耐熱衝撃性を向上可能な多孔質のペタライトや粘土などの材料を用いて、鋳込み成形法や塑性成形法やローラマシン成形法などの公知の成形法により成形される。
本発明において、内釜基材の熱膨張係数は、具体的には1.0×10−7〜12.0×10−7/℃であるのが好ましい。
【0029】
内釜基材の材料として用いられる多孔質のペタライトや粘土としては、ムライト系、スポジュメン系、コ−ジェライト系などがあげられる。
内釜基材は上記の成形法により所定形状に成形したのち、例えば、1200℃〜1280℃で焼成すると得られる。
【0030】
内釜基材の表面には、全体を被覆する釉薬層が形成されている。このように内釜20の全表面を釉薬層で被覆することで、内釜20に均等な機械的強度を与え、吸水および吸臭などを有効に防止することができる。
【0031】
内釜20の表面に施釉される釉薬としては、加熱調理時に容器にひびが入ったり容器が割れたりするのを防ぐため、内釜基材より熱膨張率が小さくなるように調製したものを用いる。
釉薬はとして熱膨張係数が、内釜基材の熱膨張係数に近いものかそれ以下のものを用いると、内釜20の吸水率を低くすることができるので好ましい。
【0032】
本実施形態においては、内釜基材の材料として熱膨張率の小さいものを使用することから、熱膨張率の低い釉薬を調製して用いる。釉薬材料としては、ペタライト、スポジュメン、珪石粉末、亜鉛華、炭酸カルシウム、ジルコンなどがあげられ、これらのうちの2種以上を組み合わせて調製したものが釉薬として使用される。
【0033】
そして、釉薬層を形成するための釉薬としては、釉薬の全質量に対して、SiOを63〜73%、Alを14〜18%、LiOを3.5〜7%、ZnOを3〜7%、ZrOを0〜6%の割合で含有するものを使用すると内釜20の吸水率を0.1%以下とすることができるので好ましい。
【0034】
上記範囲が好ましいのは以下の理由による。
SiOの含有量が63%未満であると耐衝撃性が不十分となり、73%を超えると吸水率が高くなる。Alの含有量が18%を超えると吸水率が高くなる。LiOの含有量が3.5%未満であると耐熱衝撃性が不十分となり、7%を超えると釉薬層を形成困難(ガラス膜にならない)となる。ZnOの含有量が3%未満であると吸水率が高くなり、7%を超えると貫入が入りやすくなる。
【0035】
上記組成の釉薬を、内釜基材の全外表面にわたってスプレー吹き、あるいはディッピングなど公知の方法により150〜250μmの厚みとなるように均一に施釉し、1150℃〜1250℃で焼成すると、内釜の吸水率を0.1%以下とする釉薬層が形成される。
【0036】
なお、本発明において吸水率とは、乾燥重量(A)を測定しておいた容器を、満水状態にして、室温で16時間放置した後、容器内の水を捨て、容器の水滴を木綿布で拭い取った後の重さ(B)を測定して以下の式により算出される値のことをいう。
吸水率(%)=100×(B−A)/A
【0037】
次に本実施形態の作用・効果について説明する。
上記構成の内釜20を用いて炊飯を行う際には、内釜20の内部に米と水(図示せず)とを入れ、炊飯器本体11内にセットし、蓋部を閉じる。このとき、温度センサ14の感熱部14Aが凹部23の奥面に接触することで温度検知が可能な状態となる。このとき、感熱部14Aの先端が凹部23の内部に入り込むことで正確に位置合わせされ、感熱部14Aの外周面が凹部23の内周面に突き当たることで位置ずれ規制がなされるから、内釜20の底壁21において厚みが薄くされている部分に感熱部14Aが確実に接触する。
そして、ガス炊飯器のスイッチを入れると、ガスバーナ12の炎Fにより内釜20の底壁21が加熱され、この熱が内釜20の内部に伝わることにより炊飯が行われる。
【0038】
温度センサ14により検知された内釜20の釜底温度(凹部23の奥面の温度)は、炊飯器本体11に内蔵されているコントローラに送られ、コントローラは受信した温度データに基づいて、ガスバーナ12の火力を制御し、内釜20内部の温度が炊飯段階に応じた適切な温度となるように調整する。
【0039】
ここで、本実施形態の内釜20は金属等と比べて熱伝導性の低い陶磁器製材料により製造されたものであるから、温度センサ14が検知する釜底温度と内釜20の内部温度との間に温度差が生じることが懸念される。しかし、本実施形態では内釜20の底壁21において温度センサ14の感熱部14Aが接触する領域に凹部23を設けて厚みを小さくすることで内釜20の内部の温度が外部に伝わりやすいようにしているから、内釜20の内部温度のより正確な把握が可能となる。
【0040】
一方、内釜20において温度センサ14の感熱部14Aが接触する領域を除く領域においては、必要な壁厚が確保されているから、炊き上がり後の蒸らし効果や保温効果等、陶磁器製材料を使用することによって得られる効果を最大限に享受することができ、かつ、炊飯器の内釜20として必要な強度を確保することができる。
【0041】
センサ接触部の厚みを薄くするには例えば底壁21の内壁面に凹部23を設けることも考えられるが、内壁面側を凹ませるとご飯が凹部23内に入り込んで焦げ付くなどし、これを取り除くのに手間を要することが懸念される。しかし、本実施形態では外壁面側に凹部23を設け、内壁面側は平滑であるから、ご飯などがこびりつきにくく、内釜20の手入れが容易である。
【0042】
以上のように、本実施形態によれば、内釜20の底壁21には最も厚みが小さくされた凹部23を設け、ここに温度センサ14を接触させることにより内釜20の内部温度を検知できるようにしている。これにより、陶磁器製材料の特性を充分に活かしつつ、内釜20の内部温度のより正確な把握が可能となる。
【0043】
また、凹部23が底壁21の外壁面に凹み形成されている。このような構成によれば、内釜20を炊飯器本体11にセットする際に、この凹部23が温度せンサの感熱部14Aに対する位置合わせ、位置ずれ防止としても機能するから、感熱部14Aを厚みが小さくされている部分に確実に接触させることができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、内釜20には凹部23を包囲する環状突部24が形成されているから、ガスバーナ12の燃焼中に炎Fが揺らいでも、ガスバーナ12の炎Fが、温度センサ14とは接触しないので、正確な温度検知が可能である。
【0045】
また、本実施形態によれば、内釜20の厚みはバーナにより加熱される加熱領域25において、センサ接触部23や側壁22よりも大きくなっているから、内釜20の底壁21の焦げ付きやご飯の焦げ付きを防ぐことができる。
【0046】
本発明によれば、底壁21の加熱領域25から側壁22にかけて厚みが連続的に小さくなっているから、成形しやすいうえに、内釜20表面の凸凹を少なくすることができ、外観上、取り扱い上も好ましい。
【0047】
さらに、本実施形態によれば、内釜20の吸水率を0.1%以下とする釉薬層が内釜20の全表面に形成されているから、内釜20を吸水がほとんどないに等しいものとすることができ、かつ、機械的強度を向上させることができる。
【0048】
本実施形態の内釜20のように吸水がほとんどないに等しい内釜20を用いて炊飯を行うと、炊飯の際に米とともに入れられる水を吸収しないので、水加減を安定させることができ、炊き上がりを良好なものとすることができる。そのうえ、内釜20の表面に汚れが染み込み難いため、洗浄も容易である。
【0049】
<実施形態2>
本発明の実施形態2を図3および図4によって説明する。実施形態1と共通する部分については同じ記号を付し、重複する記載は省略する。
本実施形態は、本発明の容器をガスコンロ41で用いる土鍋30に適用したものであるという点、および釉薬層30Aの表面にさらに親水性被膜層30Cを形成した点で実施形態1と相違する。
【0050】
本実施形態の土鍋30は、ガスコンロ41の五徳42上に載置されて、ガスコンロ41に設けられているガスバーナ42により加熱して使用するものである。
ガスコンロ41には、図3に示すように、バーナヘッド13を具備するガスバーナ12が設けられており、バーナヘッド13の中心部上方には土鍋30の底壁31の外側面に接触して土鍋30の温度を検知する温度センサ14が設けられている。ガスコンロ41には、温度センサ14が受信した温度データに基づきガスバーナ42の火力を制御するコントローラ(図示せず)が内蔵されている。
【0051】
本実施形態の土鍋30は、円形の底壁31と底壁31から上方に連なる筒状の側壁32とを備える。土鍋30の側壁32の上端には、上から蓋38が配置される蓋受け部37が、外周方向に張り出し形成されている。
土鍋30の底壁31の中心位置には、外壁面に、周囲よりも一段くぼませることにより厚みを薄くした凹部33が設けられている。この凹部33は、温度センサ14において内釜20の底壁21に接触する感熱部14Aの外径よりも大きな円形に形成され、その内部に感熱部14Aを受入可能とされている。この凹部33は、土鍋30をガスコンロ41に載置した際に温度センサ14の感熱部14Aと接触するセンサ接触部33である。
【0052】
底壁31の外壁面には、実施形態1の内釜20と同様に、凹部33を包囲するように環状突部34が突設されており、環状突部34よりも外周側の、ガスバーナ12の炎(図示せず)により直接加熱される領域は加熱領域35とされる加熱領域35よりも外周側には環状突部34と同心円状に糸尻36が形成されている。
【0053】
さて、本実施形態の土鍋30は、図4に示すように、素地30Bの表面に形成された釉薬層30Aの表面に、例えば、親水性イージークリーンコーティング液(住友大阪セメント(株)製)などの公知の材料を塗布することにより、親水性被膜30Cが形成されている。この親水性被膜30Cは、例えば、上記親水性材料を釉薬層30Aの表面にスプレー塗布等の方法により塗布した後、600〜900℃で焼成することにより形成される。
【0054】
次に本実施形態の作用・効果について説明する。
上記構成の土鍋30を用いて調理を行う際には、土鍋30の内部に食品を入れ、ガスコンロ41の五徳42上にセットする。このとき、温度センサ14の感熱部14Aが凹部33の奥面に接触することで温度検知が可能な状態となる。このとき、感熱部14Aの先端が凹部33の内部に入り込むことで正確に位置合わせされ、感熱部14Aの外周面が凹部33の内周面に突き当たることで位置ずれ規制がなされるから、土鍋30の底壁31において厚みが薄くされている部分に感熱部14Aが確実に接触する。
そして、ガスコンロ41のスイッチを入れると、ガスバーナ12の炎Fにより土鍋30の底壁31が加熱され、この熱が土鍋30の内部に伝わることにより調理が行われる。
【0055】
温度センサ14により検知された土鍋30の底壁温度(凹部33の奥面の温度)は、ガスコンロ41に内蔵されているコントローラに送られ、コントローラは受信した温度データに基づいて、ガスバーナ12の火力を制御し、土鍋30内部の温度が適切な温度となるように調整する。
【0056】
本実施形態の土鍋30の厚みは、実施形態1の内釜20と同様に、センサ接触部33において最も小さくなっており、加熱領域35においては側壁32よりも大きくされているから、土鍋30の内部温度をより正確に把握でき、陶磁器製材料を使用することによって得られる効果を最大限に享受することができ、土鍋30として必要な強度を確保することができる。
【0057】
また本実施形態においても、土鍋30の厚みは底壁31の加熱領域35から側壁32にかけて連続的に小さくなっているから、成形しやすいうえに、内釜20表面の凸凹を少なくすることができ、外観上、取り扱い上も好ましい。
また、本実施形態においても、土鍋30の厚みはバーナにより加熱される加熱領域35において、センサ接触部33や側壁32よりも大きくなっているから、土鍋30の底壁31の焦げ付きや被調理物の焦げ付きを防ぐことができる。
【0058】
また、本実施形態でも外壁面側に凹部33が設けられており、内壁面側は平滑であるから、被調理物などがこびりつきにくく、土鍋30の手入れが容易である。
また、本実施形態でも、凹部33が底壁21の外壁面に凹み形成されている。このような構成によれば、土鍋30をガスコンロ41にセットする際に、この凹部33が温度せンサの感熱部14Aに対する位置合わせ、位置ずれ防止としても機能するから、感熱部14Aを厚みが小さくされている部分に確実に接触させることができる。
【0059】
また、本実施形態でも、土鍋30には凹部33を包囲する環状突部34が形成されているから、ガスバーナ12の燃焼中に炎が揺らいでも、ガスバーナ12の炎が、温度センサ14とは接触しないので、正確な温度検知が可能である。
【0060】
ところで、一般的な土鍋は、吸水性が高いという性質に起因して、においや汚れの吸着、水漏れなどが起こり易く、加熱調理中に調理物の汁が漏れ出てきたり、完全に乾燥させるのに長時間を要し、乾燥が不完全であるとカビが生えることがある。また、一般的な土鍋を用いてご飯を炊くと、水が土鍋本体に吸収されるため、水加減が不安定になり、炊き上がったご飯に不具合が生じるという問題があり、予め米のとぎ汁を吸水させてから、水を配合するなど、工夫が必要である。
【0061】
上記吸水性に起因する問題を緩和するために、従来から、例えば土鍋の使用を開始する際に、おかゆを炊くなどの方法により土鍋の内側面(調理物を入れる部分)にデンプンの皮膜を作る「目止め処理」が行われてはいるが、目止め処理を行っただけでは、その後の使用によりデンプンの皮膜が剥がれてしまうため、再度、上記問題が生じる懸念がある。
【0062】
そこで、本実施形態によれば、実施形態1と同様、陶磁器製の素地30B(土鍋基材)の全表面に、土鍋30の吸水率を0.1%以下とする釉薬層30Aが形成されているから、一般的な土鍋30が有する問題を解決することができる。
【0063】
また、本実施形態によれば、釉薬層30Aの表面には、さらに親水性被膜30Cが形成されているから、調理などにより付着した汚れや焦げ付きなどを容易に落とすことができる。
【実施例】
【0064】
以下本発明を実施例によりさらに説明する。
<実施例1の内釜20の作製>
上記実施形態1に示した内釜20を以下の方法により作製した。
内釜基材の材料としてペタライト、スポジューメン、珪石粉末、カオリン、粘土のうちの2種以上を組み合わせた素地土をローラマシン成形機[新栄機工(株)製、型式ACTM−1R−50DT]により所定形状に成形したのち、1200〜1270℃下で焼成し、内釜基材を作製した。
【0065】
次に、釉薬材料として、べライト、スポジューメン、珪石粉末、亜鉛華、炭酸カルシウム、ジルコンのうちの2種以上を組み合わせて、釉薬の全質量に対して、SiOを68%、Alを16%、LiOを4%、ZnOを5%、ZrOを4%の割合で含有する釉薬を調製した。
【0066】
上記のように調製した釉薬を、内釜基材の表面全体にスプレ−吹きにより厚みが150〜250μmとなるように均一に施釉し、焼成温度が1150〜1250℃となるように焼成して釉薬層を形成させ、実施例1の本発明の内釜を得た。
【0067】
<実施例2の土鍋の作製>
実施例1で使用した内釜基材の材料を用いて、実施例1と同様の方法により、実施形態2に示した形態の土鍋30を成形して焼成し、土鍋基材を作製した。
【0068】
この土鍋基材の表面に実施例1で使用した釉薬材料を用いて施釉し、実施例1と同様にして釉薬層を形成させた後、この釉薬層の表面に親水性イージークリーンコート液[住友大阪セメント(株)製、HE−SC91]を膜厚50nm〜150nmとなるようにスプレー塗布して乾燥させた後、電気炉を用いて600〜630℃で焼成し、親水性被膜30Cを有する土鍋30(本発明の加熱調理用容器)を得た。
【0069】
<試験例>
(1)吸水率の測定
(i)水張吸水率の算出
予め、乾燥重量(A)を測定しておいた上記実施例1の内釜、実施例2の土鍋および比較例1の陶磁器製内釜[大阪ガス(株)製:ガス炊飯器111−R520型 専用セラミックス製内釜]を、それぞれ満水状態にして、室温で16時間放置した後、内釜内の水を捨て、内釜の水滴を木綿布で拭い取った後、その重さ(B)を測定し、水張り吸水率を以下の式により算出した。
水張り吸水率(%)=100×(B−A)/A
結果:実施例1の内釜の水張り吸水率は0.1%
実施例2の土鍋の水張り吸水率は0.03%
比較例1の内釜の水張り吸水率は9.97%
【0070】
(2)強度試験
比較品として、釉薬が施釉されていない市販の内釜、実施例1の内釜基材に貫入釉薬(後述する)を施釉して焼成した内釜、および表面に吸水率5%の釉薬(Englobe 化粧掛け)が施釉されている四日市産の市販の土鍋を用いてそれぞれ比較例2、比較例3および比較例4とした。
なお、比較例2で用いた貫入釉薬は、釉薬の全質量に対して、SiOを67%、Alを16%、LiOを5%、ZnOを9%、その他の成分を3%の割合で含有する釉薬である。
【0071】
実施例1の内釜と、比較例2と3の内釜と、比較例4の土鍋とをそれぞれ10個ずつ用意し、日本セラミック協会JCRS 203「食器用強化磁器の曲げ強さ試験方法」に準拠して、3点曲げ強さ試験を行った。試験にはセラミックス曲げ試験装置[(株)東京試験機製作所製、型式:SC−5CSS)を用いた。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1から明らかなように、本発明の内釜は最も強度が高く、施釉したものと無施釉のものとでは施釉したもののほうが強度が高かった。このことから、上記組成の釉薬を施釉して形成される釉薬層表面を被覆した内釜では、内釜の強度が向上するということがわかった。
【0074】
(3)焦げ落ち試験
実施例1の内釜、実施例2の土鍋および比較例4の土鍋の内壁面に、市販の焼肉のたれ[エバラ食品工業(株)社製、商品名:エバラ焼肉のたれ(醤油味)]を2〜5ml刷毛で塗りつけて、電気オーブンで300℃、30分間加熱した後、土鍋をそのまま水に10分間浸した。その後、各容器を洗浄して焦げ落ちを比較した。
その結果、実施例1の内釜および実施例2の土鍋では、比較例4の土鍋よりも容易に焦げ付いた部分を落とすことができ、実施例2の土鍋では、実施例1の内釜よりも短時間で焦げ付きを落とすことができた。しかし、比較例4の土鍋では、基材の中まで、汚れがしみこんでしまった。
【0075】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)本発明の容器を使用するガス炊飯器としては、ガス炊飯器の本体に、電気式の加熱ヒータ等の炊飯後のご飯を保温するための手段や、保温の制御を行うための操作スイッチなどを備えるものであってもよい。
【0076】
(2)上記実施形態では、底壁部の外壁面に凹部を設けたが、センサ接触部において最も厚みが小さくされていればどのような形状であってもよく、例えば底壁部の内壁面を凹ませてもよく、外壁面側、内壁面側をともに凹ませてあってもうよい。あるいは、段付き状に凹部を設けるのでなく、周辺領域からセンサを接触させる部位に向かって厚みが徐々に薄くされていても構わない。
【0077】
(3)上記実施形態では、容器の全表面に釉薬層を形成したものを示したが、容器の内壁面だけに釉薬層を形成したものや、釉薬層が形成されていないものであってもよく、上述の組成以外の他の釉薬を用いて釉薬層を形成したものであってもよい。
【0078】
(4)上記実施形態では、凹部を包囲する環状突部を形成したものを示したが、例えば、凹部を包囲するような形状の金属などをはりつけてもよい。
【0079】
(5)上記実施形態2では、親水性被膜を釉薬層全体に形成した土鍋を示したが釉薬層の一部に親水性被膜を形成したものや、親水性被膜が形成されていないものであってもよいし、実施形態1の内釜の釉薬層に親水性被膜を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施形態1の内釜の断面図
【図2】実施形態1の内釜を下方から見た斜視図
【図3】実施形態2の土鍋の断面図
【図4】実施形態2の土鍋の部分拡大断面図
【符号の説明】
【0081】
11…炊飯器本体
12…ガスバーナ
13…バーナヘッド
14…温度センサ
20…内釜(加熱用容器)
21…底壁
22…側壁
23…凹部(センサ接触部)
25…加熱領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器を加熱するガスバーナと、前記容器の外壁面に接触して前記容器の温度を検知する温度センサとを備えるガス加熱調理器に用いられる加熱調理用の容器であって、
前記容器は、陶磁器製であるとともに、前記温度センサに接触するセンサ接触部と前記ガスバーナにより加熱される加熱領域とを有する底壁と、前記底壁から連なる筒状の側壁とを備え、
前記容器の厚みは、前記センサ接触部において最も小さく、前記加熱領域において前記側壁よりも大きく、前記底壁の加熱領域から前記側壁にかけて連続的に小さくされていることを特徴とする加熱調理用の容器。
【請求項2】
前記容器は、ガス炊飯器用の内釜であることを特徴とする請求項1に記載の加熱調理用の容器。
【請求項3】
前記容器の底壁の外壁面には、前記センサ接触部を包囲する環状突部が突設されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の加熱調理用の容器。
【請求項4】
前記容器は、熱膨張係数が1.0×10−7〜12.0×10−7/℃の陶磁器製の素地の表面に、前記容器の吸水率を0.1%以下とする釉薬層が形成されてなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の加熱調理用の容器。
【請求項5】
前記釉薬層の表面には、親水性被膜が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の加熱調理用の容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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