説明

加熱調理用油脂組成物

【課題】
トランス脂肪酸含量を低減することのできる加熱調理用油脂組成物及びその製造方法を提供することである。
また、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する加熱調理用油脂組成物及びその製造方法並びに食品を提供することである。
【解決手段】
ヨウ素価54〜70のパーム分別軟質油を25〜65質量%、及びヨウ素価10〜55のパーム分別硬質油を17質量%以上50質量%未満含有する油脂組成物を加熱調理用に用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス脂肪酸含量を低減することのできる加熱調理用油脂組成物に関するものである。
また、本発明は、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭(水添臭又は硬化臭と呼ばれることもある)の風味を有する加熱調理用油脂組成物に関するものである。
また、本発明は、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フライドチキン、フライドポテト、バターピーナッツ、ドーナツ等に用いられる加熱調理用の油脂には、耐熱性、酸化安定性、油にじみがない、カラッとした仕上がり、揚げたてでも油が手に付かない等の機能が求められるため、動植物油脂を部分水素添加して得られる硬化油(以下、部分水素添加して得られる硬化油は、部分水素添加油とする。)が従来から多く使用されている。
【0003】
動植物油脂の部分水素添加油は、水素添加によって生成するトランス脂肪酸を含有している。近年、トランス脂肪酸に関しては、ヒトをはじめ動物が長期間多量に摂取した場合には、血中総コレステロール値及び悪玉と呼ばれる低密度リポ蛋白質コレステロール値を高め、肥満や虚血性心疾患などの原因となりうるという学説が欧州や米国から出て来ており、一定水準以上のトランス脂肪酸を含有する食品については表示を義務化する等の対策をとる国が増えてきている。我が国においても世界的な流れを受け、食品中のトランス脂肪酸含量を低減させる試みが検討されており、加熱調理用油脂についても、トランス脂肪酸含量を低減することが求められている。
【0004】
動植物油脂の部分水素添加油中におけるトランス脂肪酸含量の低減化に関しては、水素添加反応の工程で、触媒や温度等の反応条件を工夫する試みがなされている(例えば、特許文献1、2)。
【0005】
一方、動植物油脂の部分水素添加油は、水素添加臭と呼ばれる独特の風味を有しており、例えば、フライドチキンやドーナツ等では、消費者が水素添加臭の独特の風味に慣れ親しんでいる。従って、水素添加臭は、商品の個性を特徴付ける重要な風味の一部として定着しているものも多い。
この動植物油脂の部分水素添加油の水素添加臭は、前述したトランス脂肪酸に起因することが知られている。
従って、前述のトランス脂肪酸含量を低減させる試みにより、トランス脂肪酸含量が低減すると、水素添加臭の独特な風味が失われるという問題があった。
【0006】
以上のような背景から、動植物油脂の部分水素添加油の独特な風味である水素添加臭の風味を維持したまま、トランス脂肪酸含量をできる限り低減した加熱調理用油脂の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開平7−316585号公報
【特許文献2】特開2006−320275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、トランス脂肪酸含量を低減することのできる加熱調理用油脂組成物及びその製造方法を提供することである。
また、本発明の目的は、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する加熱調理用油脂組成物及びその製造方法を提供することである。
また、本発明の目的は、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ヨウ素価54〜70のパーム分別軟質油を25〜65質量%、及びヨウ素価10〜55のパーム分別硬質油を17質量%以上50質量%未満含有する油脂組成物を加熱調理用の油脂に用いることで、トランス脂肪酸含量を低減した場合でも、水素添加臭の風味を有する油脂や食品が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明の第1の発明は、ヨウ素価54〜70のパーム分別軟質油を25〜65質量%、及びヨウ素価10〜55のパーム分別硬質油を17質量%以上50質量%未満含有する加熱調理用油脂組成物である。
【0010】
本発明の第2の発明は、前記パーム分別軟質油が、パームオレイン及び/又はパームスーパーオレインであり、前記パーム分別硬質油が、パームミッドフラクション及び/又はパームステアリンである第1の発明に記載の加熱調理用油脂組成物である。
【0011】
本発明の第3の発明は、前記加熱調理用油脂組成物の全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量が、0.5〜10質量%である第1又は第2の発明に記載の加熱調理用油脂組成物である。
【0012】
本発明の第4の発明は、部分水素添加油を含有する第3の発明に記載の加熱調理用油脂組成物である。
【0013】
本発明の第5の発明は、前記部分水素添加油が、菜種油の部分水素添加油又は大豆油の部分水素添加油である第4の発明に記載の加熱調理用油脂組成物である。
【0014】
本発明の第6の発明は、第1〜第5の発明に記載の加熱調理用油脂組成物を用いて加熱調理することで得られる食品である。
【0015】
本発明の第7の発明は、ヨウ素価54〜70のパーム分別軟質油を25〜65質量%、ヨウ素価10〜55のパーム分別硬質油を17質量%以上50質量%未満配合することを特徴とする加熱調理用油脂組成物の製造方法である。
【0016】
本発明の第8の発明は、さらに、部分水素添加油を0.5〜20質量%配合することを特徴とする第7の発明に記載の加熱調理用油脂組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、トランス脂肪酸含量を低減することのできる加熱調理用油脂組成物及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する加熱調理用油脂組成物及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の加熱調理用油脂組成物について説明する。
本発明の加熱調理用油脂組成物は、ヨウ素価54〜70のパーム分別軟質油を25〜65質量%、及びヨウ素価10〜55のパーム分別硬質油を17質量%以上50質量%未満含有することを特徴とする。
本発明の加熱調理用油脂組成物は、水素添加臭の風味を有する加熱調理用油脂において、トランス脂肪酸を低減するために配合される油脂として用いることができる。
【0019】
また、本発明の加熱調理用油脂組成物は、上記配合に加えて、部分水素添加油等を配合し、加熱調理用油脂組成物の全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量を0.5〜10質量%とすることで、トランス脂肪酸含量を低減し、かつ、水素添加臭の風味を有する加熱調理用油脂を得ることができる。
【0020】
本発明の加熱調理用油脂組成物は、パーム分別軟質油を含有する。
本発明において、パーム分別軟質油とは、パーム油やパーム油の分別油を分別処理(乾式分別、溶剤分別、界面活性剤分別等)して得られる軟質部(液状部又はオレイン部と呼ばれることもある)のことを意味する。また、パーム分別軟質油としては、パーム分別軟質油にエステル交換を行うことにより得られるパーム分別軟質油のエステル交換油を用いることもできる。
【0021】
パーム分別軟質油のヨウ素価は、54〜70であり、54〜67であることが好ましく、54〜64であることがより好ましい。
【0022】
パーム分別軟質油の具体例としては、パームオレイン(パーム油を分別処理して得られる軟質部)、パームスーパーオレイン(パームオレインをさらに分別処理して得られる軟質部であり、スーパーオレインを呼ばれることもある)、パームトップオレイン(パームスーパーオレインをさらに分別処理して得られる軟質部であり、トップオレインを呼ばれることもある)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
パーム分別軟質油としては、パームオレインを使用することが好ましい。パームオレインを使用すると、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する食品を提供することができる。
【0024】
パームオレインのヨウ素価は、54〜59であることが好ましく、55〜57であることがより好ましい。また、パームスーパーオレインのヨウ素価は、59〜64であることが好ましく、59〜62であることがより好ましい。また、パームトップオレインのヨウ素価は、64〜70であることが好ましく、65〜69であることがより好ましい。
【0025】
本発明の加熱調理用油脂組成物中におけるヨウ素価54〜70のパーム分別軟質油の含量は、25〜65質量%であり、30〜60質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることがより好ましく、50〜60質量%であることが最も好ましい。
【0026】
本発明の加熱調理用油脂組成物におけるパーム分別軟質油が前記のものであり、その含量が前記範囲にあると、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する食品を提供することができる。
【0027】
本発明の加熱調理用油脂組成物は、パーム分別硬質油を含有する。
本発明において、パーム分別硬質油とは、パーム油やパーム油の分別油を分別処理(乾式分別、溶剤分別、界面活性剤分別等)して得られる硬質部(結晶部又はステアリン部と呼ばれることもある)のことを意味する。また、パーム分別硬質油としては、パーム分別硬質油にエステル交換を行うことにより得られるパーム分別硬質油のエステル交換油を用いることもできる。
【0028】
パーム分別硬質油のヨウ素価は、10〜55であり、20〜52であることが好ましく、30〜49であることがより好ましい。
【0029】
パーム分別硬質油の具体例としては、パームミッドフラクション(パームオレインをさらに分別処理して得られる硬質部であり、ソフトPMF、パーム油の中融点部、パーム油の中融点分別油と呼ばれることもある)(以下、パームミッドフラクションは、ソフトPMFとする)、パームステアリン(パーム油を分別処理して得られる硬質部)、ハードステアリン(パームステアリンをさらに分別処理して得られる硬質部)、ハードPMF(ソフトPMFをさらに分別処理して得られる硬質部)が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
パーム分別硬質油としては、ソフトPMFとパームステアリンの2種を組み合わせて使用することが好ましい。パーム分別硬質油におけるソフトPMFとパームステアリンとの配合比は、ソフトPMF:パームステアリンの質量比で2:1〜1:30であることが好ましく、3:2〜1:25であることがより好ましく、1:1〜1:5であることが最も好ましい。ソフトPMFとパームステアリンの2種を組み合わせたものを前記配合比で使用すると、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する食品を提供することができる。
【0031】
ソフトPMFのヨウ素価は、40〜50であることが好ましく、42〜48であることがより好ましく、43〜47であることが最も好ましい。また、パームステアリンのヨウ素価は、28〜48であることが好まし好ましく、30〜42であることがより好ましく、31〜35であることが最も好ましい。また、ハードステアリンのヨウ素価は、10〜20であることが好ましく、10〜18であることがより好ましく、10〜16であることが最も好ましい。また、ハードPMFのヨウ素価は、30〜40であることが好まし好ましく、32〜38であることがより好ましく、33〜37であることが最も好ましい。
【0032】
本発明の加熱調理用油脂組成物中におけるパーム分別硬質油の含量は、17質量%以上50質量%未満であり、20質量%以上50質量%未満であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましく、20〜37質量%であることが最も好ましい。
【0033】
本発明の加熱調理用油脂組成物におけるパーム分別硬質油が前記のものであり、その含量が前記範囲にあると、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する食品を提供することができる。
【0034】
本発明の加熱調理用油脂組成物の全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量は、0.5〜10質量%であることが好ましく、0.5〜7質量%であることがより好ましく、1〜7質量%であることがさらに好ましく、3〜7質量%であることが最も好ましい。加熱調理用油脂組成物の全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量が前記範囲にあると、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、得られる食品が水素添加臭の独特な風味を有するものとなる。
従来の部分水素添加油を含有する加熱調理用油脂には、全構成脂肪酸中に40質量%程度のトランス脂肪酸が含まれる。従って、本発明によると、大幅にトランス脂肪酸含量を低減することができる。
なお、トランス脂肪酸含量は、AOCS法(Celf−96)に準じてガスクロマトグラフィー法にて測定することができる。
【0035】
本発明の加熱調理用油脂組成物は、加熱調理用油脂組成物の全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量が前記範囲となるように、部分水素添加油を使用することができる。
部分水素添加油は、加熱調理用油脂組成物の全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量が前記範囲となれば、特に制限されることなく用いることができるが、植物油の部分水素添加油を用いることが好ましい。
植物油の部分水素添加油としては、例えば、大豆油、菜種油、ハイオレイック菜種油、パーム油、コーン油、綿実油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、ゴマ油及び米油等やこれらのエステル交換油、分別油の部分水素添加油が挙げられる。また、植物油の部分水素添加油としては、パーム分別軟質油の部分水素添加油やパーム分別硬質油の部分水素添加油を使用することもできる。特に、植物油の部分水素添加油としては、大豆油の部分水素添加油、菜種油の部分水素添加油を使用することが好ましく、菜種油の部分水素添加油を使用することがより好ましい。
これらの部分水素添加油は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
部分水素添加油は、常法に従い、例えば、植物油等の油脂にニッケル触媒を対油0.01〜0.3質量%添加し、温度120℃〜200℃、水素圧0.01〜0.3MPaの条件で水素添加反応を行うことにより得ることができる。
【0037】
部分水素添加油は、ヨウ素価が50〜90でトランス脂肪酸含量が20〜60質量%であることが好ましく、ヨウ素価が55〜85でトランス脂肪酸含量が25〜55質量%であることがより好ましく、ヨウ素価が60〜80でトランス脂肪酸含量が30〜50質量%あることが最も好ましい。
【0038】
部分水素添加油の市販品としては、例えば、大豆油の部分水素添加油(商品名:大豆硬化油34、日清オイリオグループ株式会社製、融点34℃、ヨウ素価75、トランス脂肪酸含量38.5質量%)、菜種油の部分水素添加油(商品名:菜種硬化油34、日清オイリオグループ株式会社製、融点34℃、ヨウ素価74.0、トランス脂肪酸含量37.3質量%)、綿実油の部分水素添加油(商品名:綿実硬化油36、日清オイリオグループ株式会社製、融点36℃、ヨウ素価64.2、トランス脂肪酸含量34.8質量%)及びコーン油の部分水素添加油(商品名:コーン硬化油40、日清オイリオグループ株式会社製、融点40℃、ヨウ素価65.9、トランス脂肪酸含量40.1質量%)等を例示することができる。
【0039】
本発明の加熱調理用油脂組成物中における部分水素添加油の含量は、0.5〜20質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましく、5〜15質量%であることが最も好ましい。
加熱調理用油脂組成物中における部分水素添加油の含量が前記範囲にあると、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する食品を提供することができる。
【0040】
本発明の加熱調理用油脂組成物は、本発明の効果を損なわない程度であれば、パーム分別軟質油、パーム分別硬質油、部分水素添加油以外の動植物油脂を適宜配合することができる。具体的には、大豆油、菜種油、ハイオレイック菜種油、パーム油、コーン油、綿実油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、ゴマ油及び米油等が挙げられ、これらは1種又は2種以上の組み合わせて用いることができる。
【0041】
本発明の加熱調理用油脂組成物は、必要に応じて通常の加熱調理用の油脂に用いられる添加剤を適宜配合することができる。具体的には、保存安定性向上、酸化安定性向上、熱安定性向上、低温化での結晶抑制等を目的としたポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ビタミンE、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、オリザノール、ジグリセリド、シリコーン、トコフェロール及びレシチン等が挙げられる。
【0042】
本発明の加熱調理用油脂組成物は、前記したパーム分別軟質油及びパーム分別硬質油を前記した範囲で配合することで製造することができる。具体的には、ヨウ素価54〜70のパーム分別軟質油25〜65質量%、ヨウ素価10〜55のパーム分別硬質油を17質量以上50質量%未満、好ましくはヨウ素価54〜70のパーム分別軟質油30〜60質量%、ヨウ素価10〜55のパーム分別硬質油を20質量以上50質量%未満、より好ましくはヨウ素価54〜70のパーム分別軟質油40〜60質量%、ヨウ素価10〜55のパーム分別硬質油を20〜40質量%、最も好ましくはヨウ素価54〜70のパーム分別軟質油50〜60質量%、ヨウ素価10〜55のパーム分別硬質油を20〜37質量%配合することで製造することができる。
また、本発明の加熱調理用油脂組成物は、さらに前記した部分水素添加油を前記した範囲で配合することで製造することができる。具体的には、さらに部分水素添加油0.5〜20質量%、好ましくは部分水素添加油3〜20質量%、より好ましくは部分水素添加油5〜15質量%配合することで製造することができる。
【0043】
本発明の加熱調理用油脂組成物は、素揚げ、から揚げ、フライ、フリッター、天ぷら等の揚げ物や炒め物等の加熱調理に好適に用いることができる。
【0044】
また、本発明の加熱調理用油脂組成物は、可塑性等の加工性を付与することでショートニングの形態とすることもでき、該ショートニングは、フライ用ショートニングして用いることができる。ショートニングは、常法により製造することができるが、具体的には、原料油脂を混合後、窒素ガスを吹き込みながら、急冷練り合わせを行うことにより製造することができる。
【0045】
次に、本発明の食品について説明する。
本発明の食品は、本発明の加熱調理用油脂組成物を用いて加熱調理された食品であることを特徴とする。
【0046】
本発明において食品とは、本発明の加熱調理用油脂組成物を用い、揚げ物や炒め物等の加熱調理することにより得られる食品のことを意味する。本発明の食品は、水素添加臭の独特な風味を有するものである。
【0047】
本発明の食品の具体例としては、例えば、素揚げ、から揚げ、竜田揚げ、カツ、コロッケ、フライ、ナゲット、フリッター、天ぷら、ドーナツ、せんべい、あられ、ビスケット、クラッカー、クッキー、プレッツェル、コーンチップス、コーンパフ、コーンフレークス、ポップコーン、ポテトチップス、ナッツ、バターピーナツ、スナック菓子等の加熱調理食品が挙げられる。
【0048】
本発明の食品は、本発明による加熱調理用油脂組成物を用いること以外は、使用する素材や特別な条件を必要とせず、常法により製造する(調理する)ことができる。
【0049】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明について詳しく説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例の内容に、何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
(油脂組成物の調製)
表1及び表2に示した配合の原料油脂を混合後、窒素ガスを吹き込みながら、急冷練り合わせを行うことで実施例1〜5の油脂組成物、比較例1〜6の油脂組成物を得た。
また、一般的に水素添加臭を有する油脂として、表1に示した配合の原料油脂を用いて、実施例及び比較例の油脂組成物を同様の方法で、風味標準品の油脂組成物を調製した。
【0051】
表1及び2に示した原料油脂は、以下のものを使用した。なお、油脂A1〜3はパーム分別軟質油、油脂B1〜2はパーム分別硬質油、油脂C1〜3は植物油の部分水素添加油、油脂D1〜2はその他の油脂に相当するものである。
パーム油(ヨウ素価52、商品名:精製パーム油、日清オイリオグループ株式会社製)を分別することで軟質部のパームオレイン(ヨウ素価56、日清オイリオグループ株式会社社内製)を得て、油脂A1とした。
油脂A1を、さらに分別することで軟質部のパームスーパーオレイン(ヨウ素価65、日清オイリオグループ株式会社社内製)を得て、油脂A2とした。
油脂A1と油脂A2を、油脂A1:油脂A2=35:65の質量比で混合し、油脂A3(ヨウ素価60、日清オイリオグループ株式会社社内製)を得た。
油脂A1を、さらに分別することで硬質部のソフトPMF(ヨウ素価45、日清オイリオグループ株式会社社内調製品)を得て、油脂B1とした。
パーム油(ヨウ素価52、商品名:精製パーム油、日清オイリオグループ株式会社製)を分別することで硬質部のパームステアリン(ヨウ素価33、日清オイリオグループ株式会社社内調製品)を得て、油脂B2とした。
菜種油の部分水素添加油(商品名:菜種硬化油34、日清オイリオグループ株式会社製、ヨウ素価74、トランス脂肪酸含量37.3質量%)を油脂C1とした。
大豆油の部分水素添加油(商品名:大豆硬化油34、日清オイリオグループ株式会社製、ヨウ素価75、トランス脂肪酸含量38.5質量%)を油脂C2とした。
コーン油の部分水素添加油(商品名:コーン硬化油40、日清オイリオグループ株式会社製、ヨウ素価66、トランス脂肪酸含量40.1質量%)を油脂C3とした。
パーム油(商品名:精製パーム油、日清オイリオグループ株式会社製、ヨウ素価52)を油脂D1とした。
菜種油(商品名:菜種白絞油、日清オイリオグループ株式会社製)を油脂D2とした。
トランス脂肪酸含量は、AOCS法(Celf−96)に準じてガスクロマトグラフィー法にて測定した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
(調理評価)
実施例1〜5の油脂組成物、比較例1〜6の油脂組成物及び風味標準品(水素添加臭の風味を有する)の油脂組成物を用いて、市販のから揚げ粉(日清製粉株式会社製)100質量部に対してガラムマサラを5質量部加えたものを適量塗付したとりもも肉を、180℃で4分間フライし、実施例6〜10のフライドチキン、比較例7〜12のフライドチキン及び風味標準品のフライドチキンを得た。
水素添加臭の風味を有する風味標準品のフライドチキンを標準とし、各フライドチキンを5名のパネルが食した時の標準との水素添加臭の風味の違いを以下の基準で点数化し、各パネルの評点の平均値を算出することにより、得られたフライドチキンの評価を行った。結果を表3〜5に示す。
評価基準
標準とほぼ変わらない水素添加臭の風味を有する 5点
標準より水素添加臭の風味がやや弱いが実際上問題なし 4点
標準より水素添加臭の風味が少し弱い 3点
標準より水素添加臭の風味が弱い 2点
標準より水素添加臭の風味が明らかに弱い 1点
【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
表3から分かるように、実施例1〜5の油脂組成物を用いてフライした実施例6〜10のフライドチキンは、トランス脂肪酸含量が大幅に低減された油脂組成物を用いてフライしたにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する風味標準品のフライドチキンと比較して、遜色のない程度の水素添加臭の風味を有していた。
【0059】
一方、表4及び5から分かるように、パーム分別軟質油が配合されていない比較例1〜3の油脂組成物、パーム分別軟質油の配合量が規定の範囲を外れる比較例4及び6の油脂組成物、パーム分別硬質油の配合量が規定の範囲を外れる比較例5の油脂組成物は、実施例1〜5の油脂組成物とトランス脂肪酸含量が同程度であるにもかかわらず、これらを用いてフライした比較例7〜12のフライドチキンは、水素添加臭の風味の発現が弱いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素価54〜70のパーム分別軟質油を25〜65質量%、及びヨウ素価10〜55のパーム分別硬質油を17質量%以上50質量%未満含有する加熱調理用油脂組成物。
【請求項2】
前記パーム分別軟質油が、パームオレイン及び/又はパームスーパーオレインであり、前記パーム分別硬質油が、パームミッドフラクション及び/又はパームステアリンである請求項1に記載の加熱調理用油脂組成物。
【請求項3】
前記加熱調理用油脂組成物の全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量が、0.5〜10質量%である請求項1又は2に記載の加熱調理用油脂組成物。
【請求項4】
部分水素添加油を含有する請求項3に記載の加熱調理用油脂組成物。
【請求項5】
前記部分水素添加油が、菜種油の部分水素添加油又は大豆油の部分水素添加油である請求項4に記載の加熱調理用油脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の加熱調理用油脂組成物を用いて加熱調理することで得られる食品。
【請求項7】
ヨウ素価54〜70のパーム分別軟質油を25〜65質量%、ヨウ素価10〜55のパーム分別硬質油を17質量%以上50質量%未満配合することを特徴とする加熱調理用油脂組成物の製造方法。
【請求項8】
さらに、部分水素添加油を0.5〜20質量%配合することを特徴とする請求項7に記載の加熱調理用油脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−99037(P2010−99037A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275099(P2008−275099)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】