説明

加硫促進剤、ゴム組成物およびそれを用いたタイヤ

【課題】従来のスルフェンアミド加硫促進剤よりも加硫速度が遅く、かつ架橋度の高いゴム組成物を与える加硫促進剤、ゴム組成物およびそれを用いたタイヤを提供する。
【解決手段】下記一般式(1)、


(一般式(1)中、R〜Rは各々独立に,水素原子、または置換基を有してもよい炭素数1〜8の炭化水素基を示し、RおよびRは各々独立に、置換基を有してもよい炭素数1〜18の炭化水素基または置換基を有してもよい炭素数6〜18の芳香族基を示す)で表わされるスルフェンアミドを含有する加硫促進剤、ゴム組成物およびそれを用いたタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫促進剤、ゴム組成物およびそれを用いたタイヤに関し、詳しくは、従来のスルフェンアミド加硫促進剤よりも加硫速度が遅く、かつ架橋度の高いゴム組成物を与える加硫促進剤、それを用いたゴム組成物および該ゴム組成物を用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用タイヤ、コンベアベルト、ホース等、特に強度が要求されるゴム製品には、ゴムを補強し強度、耐久性を向上させる目的で、スチールコード等の金属補強材をゴム組成物で被覆した複合材料が用いられている。該ゴム−金属複合材料が高い補強効果を発揮し信頼性を得るためにはゴム−金属補強材間に安定した経時変化の少ない接着が必要である。また、ゴムと金属を接着する場合、ゴムと金属の結合を同時に行う方法、即ち、直接加硫接着法が知られているが、この場合、ゴムの加硫とゴムと金属の結合を同時に行う上で、加硫反応に遅効性を与えるスルフェンアミド系加硫促進剤を用いることが有用とされている。
【0003】
現在、市販されているスルフェンアミド系促進剤の中で、最も加硫反応に遅効性を与える加硫促進剤として、例えば、下記式、

で表されるN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドが挙げられ(以下、DCBSと称す)、DCBS以外のスルフェンアミド系促進剤としては、下記特許文献1記載のものが知られている。また、DCBSの加硫反応の遅効性よりも更に遅効性が必要な場合は、スルフェンアミド系加硫促進剤とは別に、加硫遅延剤を併用することが知られている。かかる加硫遅延剤としては、例えば、N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミド(以下、CTPと称す)が使用されている。
【0004】
一方、ピリジン構造を有する化合物として、特許文献2にはゴム組成物の硬化安定剤が開示され、特許文献3にはカーボンブラックカップリング剤が開示されている。また、ピラジン構造を有する化合物として、特許文献4にはスチールコード接着促進剤が開示されている。
【特許文献1】特開昭49−36744号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】国際公開第2001−16226号パンフレット(請求の範囲等)
【特許文献3】国際公開第2001−16227号パンフレット(請求の範囲等)
【特許文献4】国際公開第2003−070820号パンフレット(請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、DCBSあるいは特許文献1記載のスルフェンアミド系促進剤では、十分に加硫速度を遅くすることができず、また、得られるゴム組成物の架橋度が低いという問題点があり、その改良が望まれている。さらに、CTPなどの加硫遅延剤をゴムに多量に添加すると、加硫ゴムの物理的特性に悪影響を及ぼし、さらに加硫ゴムの外観の悪化および接着性に悪影響を及ぼすブルーミングの原因になるといった問題点がある。
【0006】
また、特許文献2〜4記載の化合物も十分に加硫速度を遅くすることができるものではなく、さらに、本発明のスルフェンアミド化合物がゴム用の加硫促進剤として新規に用いることについては全く記載も示唆もないものである。
【0007】
そこで、本発明の目的は、従来のスルフェンアミド加硫促進剤よりも加硫速度が遅く、かつ架橋度の高いゴム組成物を与える加硫促進剤、それを用いたゴム組成物および該ゴム組成物を用いたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記問題を解決するために鋭意検討した結果、特定のスルフェンアミドを含有する加硫促進剤とすることで前記問題を解決し得ることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の加硫促進剤は、下記一般式(1)、

(一般式(1)中、R〜Rは各々独立に,水素原子、または置換基を有してもよい炭素数1〜8の炭化水素基を示し、RおよびRは各々独立に、置換基を有してもよい炭素数1〜18の炭化水素基または置換基を有してもよい炭素数6〜18の芳香族基を示す)で表わされるスルフェンアミドを含有することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の加硫促進剤は、前記一般式(1)中のR〜Rが水素原子であり、かつRおよびRがシクロヘキシル基であることが好ましい。
【0011】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分に対して、前記加硫促進剤と加硫剤とを配合してなるものである。
【0012】
また、本発明のゴム組成物は、前記加硫剤が、硫黄であることが好ましく、前記ゴム成分が、ジエン系ゴム成分または天然ゴムであることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明のゴム組成物は、前記ゴム成分100質量部に対して、前記加硫促進剤を0.1〜10質量部配合してなることが好ましい。
【0014】
本発明のタイヤは、前記ゴム組成物を用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、従来のスルフェンアミド加硫促進剤よりも加硫速度が遅く、かつ架橋度の高いゴム組成物を与える加硫促進剤、それを用いたゴム組成物および該ゴム組成物を用いたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態について具体的に説明する。
本発明の加硫促進剤は、下記一般式(1)、

(一般式(1)中、R〜Rは各々独立に,水素原子、または置換基を有してもよい炭素数1〜8の炭化水素基を示し、RおよびRは各々独立に、置換基を有してもよい炭素数1〜18の炭化水素基または置換基を有してもよい炭素数6〜18の芳香族基を示す)で表わされるスルフェンアミドを含有するものである。かかる加硫促進剤は、DCHAの2−メルカプトベンゾチアゾール構造をピリジン構造とすることにより、CTP等を添加することなく、従来のスルフェンアミド加硫促進剤よりも加硫速度が遅く、かつ架橋度の高いゴム組成物を与えることができる。
【0017】
上記一般式(1)においてR〜Rが表す置換基を有してもよい炭素数1〜8の炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第二ブチル、第三ブチル、ペンチル、イソペンチル、第三ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、イソオクチル、2−エチルヘキシル、第三オクチル等のアルキル基、ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、3−ヒドロキシプロピル等の上記アルキル基の水酸基置換体であるヒドロキシアルキル基、上記アルキル基に対応するメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、オクトキシ、2−エチルヘキシルオキシ等のアルコキシ基、ビニル、プロペニル、ブテニル、ヘキセニル等の炭素数2〜30のアルケニル基等が挙げられ、かかる炭化水素基中の任意の−CH−は、−O−、−CO−、−COO−又は−SiH−で置換されていてもよく、一部あるいは全部の水素原子が、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、シアノ基、−SO等で置換されていてもよい。
【0018】
上記一般式(1)においてRおよびRが表す置換基を有してもよい炭素数1〜18の炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第二ブチル、第三ブチル、ペンチル、第二ペンチル、第三ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、イソオクチル、2−エチルヘキシル、第三オクチル、ノニル、イソノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル等のアルキル基、ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、3−ヒドロキシプロピル等の上記アルキル基の水酸基置換体であるヒドロキシアルキル基、上記アルキル基に対応するメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、オクトキシ、2−エチルヘキシルオキシ等のアルコキシ基、ビニル、プロペニル、ブテニル、ヘキセニル等の炭素数2〜30のアルケニル基等が挙げられ、かかる炭化水素基中の任意の−CH−は、−O−、−CO−、−COO−又は−SiH−で置換されていてもよく、一部あるいは全部の水素原子が、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、シアノ基、−SO等で置換されていてもよい。
【0019】
上記一般式(1)においてRおよびRが表す置換基を有してもよい炭素数6〜18の芳香族基としては、例えば、フェニル、オルトトリル、2,3−キシリル、1−ナフチル、2−ナフチル等のアリール基等が挙げられ、かかる芳香族基中、一部あるいは全部の水素原子が、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、シアノ基、−SO等で置換されていてもよい。
【0020】
また、本発明の加硫促進剤は、下記式(2)、

で表されるように、上記一般式(1)中のR〜Rが水素原子であり、かつRおよびRがシクロヘキシル基であることが所望の効果を得る上で好ましい。
【0021】
本発明の加硫促進剤の合成方法は、上記一般式(1)で表される加硫促進剤が合成できれば特に限定されないが、例えば、上記式(2)の加硫促進剤の合成方法としては、ジシクロヘキシルアミンに2−プロパノールと水を加え、加熱後、55〜60℃に保ったまま5%次亜塩素酸ナトリウム溶液と2−メルカプトピリジンを滴下し、さらに同温度で1時間攪拌を続けた後、冷却し、結晶を析出させて合成する方法がある。
【0022】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分に対して、上記加硫促進剤と加硫剤とを配合してなるものである。
【0023】
本発明におけるゴム成分としては、天然ゴム、汎用合成ゴム、例えば、乳化重合スチレン−ブタジエンゴム、溶液重合スチレン−ブタジエンゴム、高シス−1,4ポリブタジエンゴム、低シス−1,4ポリブタジエンゴム、高シス−1,4ポリイソプレンゴム等、ジエン系特殊ゴム、例えば、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム等、オレフィン系特殊ゴム、例えば、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン等、その他特殊ゴム、例えば、ヒドリンゴム、フッ素ゴム、多硫化ゴム、ウレタンゴム等を挙げることができ、好ましくは、ジエン系ゴム成分または天然ゴムである。また、これらのゴム成分の1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。
【0024】
本発明における加硫剤としては、特に限定されるものではなく、硫黄、有機加硫剤等が挙げられるが、好ましくは硫黄である。また、かかる加硫剤の配合量としては、ゴム成分100質量部に対して、上記加硫剤を0.1〜10質量部配合してなることが好ましく、1〜5質量部配合してなることがさらに好ましい。
【0025】
さらに、本発明のゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、上記加硫促進剤を0.1〜10質量部配合してなることが好ましく、1〜5質量部配合してなることがさらに好ましい。0.1質量部未満では十分な加硫性能を得られない場合があり、一方、10質量部を超えて含有させても、所期の性能のさらなる向上効果は発現しにくく、混合や成型等における作業性が低下するため、好ましくない。
【0026】
さらにまた、本発明のゴム組成物には、上記加硫促進剤、ゴム成分および加硫剤の他、ゴム業界で通常用いられている各種添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜配合することができる。例えば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム等の無機充填剤、シランカップリング剤等のカップリング剤、軟化剤、N−シクロへキシル−2−ベンゾチアジル−スルフェンアミド、N−オキシジエチレン−ベンゾチアジル−スルフェンアミド等の老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、オゾン劣化防止剤、発泡剤、発泡助剤等が挙げられ、これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、これら各種添加剤としては、市販品を使用することができる。
【0027】
本発明のゴム組成物は、以上の各成分を適宜選択した装置、条件、手法等にて混練り、熱入れ、押出等することにより調製され、タイヤ等の各種ゴム製品に好適に適用することができる。
【0028】
混練りは、混練り装置への投入体積、ローターの回転速度、ラム圧等や、混練り温度、混練り時間、混練り装置等の諸条件について特に制限はなく、所望に応じ適宜選択することができる。混練り装置としては、例えば、ロールなどの開放式混練機やバンバリーミキサーなどの密閉式混練機等が挙げられ、市販品を好適に使用することができる。
【0029】
熱入れまたは押出についても、熱入れまたは押出の時間、熱入れまたは押出の装置等の諸条件について特に制限はなく、所望に応じ適宜選択することができる。また、熱入れまたは押出の装置についても、市販品を好適に使用することができる。
【0030】
また、本発明のタイヤは、カーカス、トレッド、ベルトなどのゴム部材に上記本発明のゴム組成物を用いたものであればよく、その具体的な構造や他の材料等については特に制限されるものではない。なお、本発明のタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例に基づき説明する。
【0032】
(実施例1、比較例1)
(加硫促進剤Aの合成)
窒素置換した200ml容量の四径フラスコに、ジシクロヘキシルアミン15.4g(0.09mol×0.95)、2−プロパノール56gおよび水80.0gを加えた。オイルバスで55℃まで加熱した後、55〜60℃に保ったまま5%次亜塩素酸ナトリウム溶液107.2g(0.09mol×0.85)と2−メルカプトピリジン10.0g(0.09mol)をそれぞれ30分かけて滴下し、さらに同温度で1時間攪拌を続けた。反応後、反応液を5℃以下まで冷却し結晶を析出させた。析出した結晶を濾取し、水、2−プロパノールの順で洗浄した。50℃で減圧乾燥すると白色粉末14.9g(収率60.0%)を得た。得られた白色粉末をH−NMR(CDCl)で同定し、下記式(2)で示される化合物(加硫促進剤A)であることを確認した。
【0033】

【0034】
δ(ppm)
1.07 {m,2H,シクロヘキシル環}
1.27 {m,4H,シクロヘキシル環}
1.46 {m,2H,シクロヘキシル環}
1.58 {m,4H,シクロヘキシル環}
1.73 {m,4H,シクロヘキシル環}
1.88 {m,4H,シクロヘキシル環}
2.94 {m,2H,シクロヘキシル環}
6.90 {t,1H,ベンゼン環}
7.55 {m,2H,ベンゼン環}
8.35 {d,1H,ベンゼン環}
【0035】
(未加硫のゴム組成物の作製)
下記表1に示す配合内容の各ゴム組成物を、ラボプラストミルを使用して混練り配合し、未加硫のゴム組成物を得た。
【0036】
(ゴム組成物の加硫特性試験)
各未加硫のゴム組成物について、キュラスト試験をオリエンティック製キュラストメーターで行い145℃で測定した。T10は加硫反応によるトルクの上昇が全体の10%に達した時間(分)、T90は加硫反応によるトルクの上昇が全体の90%に達した時間(分)を表し、T90−T10(分)が大きい程、加硫速度が遅いことを示す。また、Mはトルクの最大値(N・m)を表し、この数値が大きい程、架橋度が高いことを示す。結果を表1に併記する。
【0037】
【表1】

*1:ノクラックNS−6(大内新興化学工業(株)製)
*2:ノクセラーDZ(大内新興化学工業(株)製、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
*3:マノボンドC22.5(OMG製、コバルト含有量=22.5質量%)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)、

(一般式(1)中、R〜Rは各々独立に,水素原子、または置換基を有してもよい炭素数1〜8の炭化水素基を示し、RおよびRは各々独立に、置換基を有してもよい炭素数1〜18の炭化水素基または置換基を有してもよい炭素数6〜18の芳香族基を示す)で表わされるスルフェンアミドを含有することを特徴とする加硫促進剤。
【請求項2】
前記一般式(1)中のR〜Rが水素原子であり、かつRおよびRがシクロヘキシル基である請求項1記載の加硫促進剤。
【請求項3】
ゴム成分に対して、請求項1または2記載の加硫促進剤と加硫剤とを配合してなるゴム組成物。
【請求項4】
前記加硫剤が、硫黄である請求項3記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム成分が、ジエン系ゴム成分または天然ゴムである請求項3または4記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム成分100質量部に対して、前記加硫促進剤を0.1〜10質量部配合してなる請求項3〜5のうちいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
請求項3〜6のうちいずれか一項に記載のゴム組成物を用いたことを特徴とするタイヤ。

【公開番号】特開2010−59290(P2010−59290A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225219(P2008−225219)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】