説明

加硫缶、及び、タイヤの製造方法

【課題】圧力容器内における温度分布を均一化することが可能な加硫缶、及び、当該加硫缶を用いたタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】円筒状の圧力容器内部の一端側に設置された熱源及びファンと、圧力容器の延長方向に延長して内壁面円周上に配設され、ファンによって送風された空気を圧力容器の他端側で排出するダクトとを備え、ダクトの排出口がファンによって送風された空気を圧力容器の円周方向に向けて排出するように加硫缶を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤを加硫成形する際に好適に用いられる加硫缶に関し、特に内部の温度分布を均一化することが可能な加硫缶、及び、当該加硫缶によりタイヤを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リトレッドタイヤと呼ばれるタイヤの製造方法の一工程として、タイヤの基礎となる台タイヤと、当該台タイヤの円周方向に貼着されるトレッドゴムとをエンベロープ内に収容し、エンベロープ内の圧力を減圧した状態で加硫缶内に投入することにより、台タイヤとトレッドゴムとの間に介在する接着層としてのクッションゴムを加硫し、両者を強固に一体化する加硫工程が存在することが知られている。
加硫工程において用いられる加硫缶は、エンベロープに収容された複数組のタイヤ(台タイヤ及びトレッドゴム)を格納可能な円筒状の圧力容器と、円筒状の圧力容器の延長方向一側部に設けられ、圧力容器内の空気を加熱する熱源と、当該熱源の近傍に配設され、熱源によって加熱された空気を循環させるファンと、圧力容器の延長方向他側部に開閉自在に設けられた気密扉とを備える。
また、圧力容器の内壁面には、圧力容器の延長方向に沿って延長するダクトが配設され、熱源によって加熱された空気は、ファンによりダクト内に供給され、ダクト内を通る空気がファンとは反対側に設けられた気密扉側において排出される。
そして、気密扉側において排出された空気は、気密扉の壁面に衝突して圧力容器内をファン側に向かって流れ出し、圧力容器内に格納された複数組のタイヤを加熱しながら熱源に到達し、ファン及びダクトによって再び気密扉側から排出される。
つまり、加硫缶は、圧力容器内において加熱された空気を延長方向に向かって循環させることにより、内部に格納された複数組のタイヤを加熱する構成である。また、圧力容器内の圧力は、例えば6気圧から8気圧程度にまで加圧されており、格納された台タイヤ及びトレッドゴムは、エンベロープ内において加熱,加圧された状態で加硫が進行する。
【0003】
しかしながら、図8(a)に示す気流分布から明らかなように、従来の加硫缶においては、気密扉側において排出された空気が圧力容器内をファン側へ向けて流れ込む過程において上昇気流となり易く、圧力容器上部においては空気が活発に流動するものの、圧力容器下部においては空気の滞留が生じ易くなる。
また、図8(b)に示す温度分布から明らかなように、圧力容器内における気流分布の差は圧力容器内における温度分布の差として表れ、特に滞留部における温度上昇が遅くなり、結果として加硫時間が長くなるという問題が生じる。
さらに、圧力容器内には通常、複数組のタイヤを格納して加硫を行うが、温度分布が不均一であることに起因して、加熱された空気から各タイヤが受ける熱履歴が圧力容器内における位置によってそれぞれ異なることとなるため、同一の加硫缶によって加硫されたタイヤであっても熱履歴の違いによる品質のバラツキが生じることが懸念される。具体的には、熱履歴の違いがタイヤの転がり抵抗性に影響を及ぼすものと考えられるため、圧力容器内における位置によってタイヤの転がり抵抗性にバラツキが生じることが懸念される。
特許文献1には、温度分布を均一化するための設備として、成形物を格納する炉を二重構造とするとともに、炉内に複数の補助熱源を設け、さらに補助熱源の位置に対応するように炉内において回転する撹拌用のファンを設けることにより、炉内のガスを撹拌,混合し、炉内の温度差を均一化する構造が開示されているが、当該設備は、従来の加硫缶と比して大型であって、さらに複数の動力源が必要であることからエネルギー損失が極めて大きくなるという問題がある。
また、特許文献2には、ダクトを開閉する複数のダクトバルブを設け、ダクトバルブを開閉動作させることにより炉内に乱流を発生させることが開示されているが、ダクトバルブを開閉させる駆動源や制御システムが別途必要となり、設備の大型化、エネルギー損失の増大といった問題点を避けることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−88049号公報
【特許文献2】特表2008−500898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、規模の大型化及びエネルギー損失の増大を避け、圧力容器内における温度分布を均一化することが可能な加硫缶、及び、当該加硫缶を用いたタイヤの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための加硫缶に係る構成として、円筒状の圧力容器内部の一端側に設置された熱源及びファンと、圧力容器の延長方向に延長して内壁面円周上に配設され、ファンによって送風された空気を圧力容器の他端側で排出するダクトとを備え、ダクトが圧力容器の内壁面円周上に配設され、ダクトの排出口がファンによって送風された空気を圧力容器の円周方向に向けて排出する構成とした。
本構成によれば、一端側に設置された熱源によって加熱され、ファン及び複数のダクトによって圧力容器の他端側に流れ込んだ空気が、ダクトの排出口から圧力容器の円周方向に向けて排出されるため、一端側から他端側へ流れ込む空気が圧力容器の円周方向に沿って旋回する旋回流となって、圧力容器内全体に強制的な対流を生じさせ、圧力容器内の停留がなくなることにより、熱源によって加熱された空気が圧力容器内に行き渡るので、圧力容器内における温度分布を均一化することが可能となる。よって、本発明の加硫缶によれば、圧力容器内部における位置にかかわらず、タイヤを均一に加硫することができる。
また、加硫缶に係る他の構成として、ダクトの排出口が、圧力容器の円周方向に延長するプレートを備える構成とした。
本構成によれば、排出口から排出される空気が圧力容器の円周方向に傾斜するプレートに沿って排出されるため、前記構成から生じる効果に加え、簡易な構成により圧力容器内に旋回流を発生させることができる。
また、加硫缶に係る他の構成として、ダクトが圧力容器の内壁面円周上において円周方向に均等分割された位置に複数配設され、各排出口のプレートが同一円周方向に延長する構成とした。
本構成によれば、各構成から生じる効果に加え、ダクトが圧力容器の内壁面円周上において円周方向に均等分割された位置に複数配設されたダクトの各排出口のプレートが同一円周方向に延長するため、各排出口のプレートに沿って排出された空気が圧力容器内において発生する旋回流を容易に生じさせるので、旋回流の流速を円周上において均一化することができ、圧力容器内における温度分布をより一層均一化することが可能となる。
また、加硫缶に係る他の構成として、ダクトが圧力容器の内壁面円周上において互いに対向して配設され、各排出口のプレートが同一円周方向に延長する構成とした。
本構成によれば、各構成から生じる効果に加え、ダクトが圧力容器の内壁面円周上において円周方向に互いに対向して配設されたダクトの各排出口のプレートが同一円周方向に延長するため、互いに対向して配設されるダクトの各排出口から排出された空気が、圧力容器内において発生する旋回流を容易に生じさせるので、旋回流の流速を円周上において均一化することができ、圧力容器内における温度分布をより一層均一化することが可能となる。
また、加硫缶に係る他の構成として、ダクトが圧力容器内部に敷設された床板下部を避けて配設される構成とした。
本構成によれば、ダクトを床板下部に設けた場合と比較して、ダクトを保護するために作業者や搬入台車が通る床板の耐久性を高める必要がなくなり、製造コストを抑制することができる。
また、加硫缶に係る他の構成として、ダクトの配置を圧力容器の内壁面円周上において2箇所とする構成とした。
本構成によれば、ダクトの配置が圧力容器の内壁面円周上において2箇所であることにより、製造コストを抑制しつつ、圧力容器内に確実に旋回流を発生させることができる。
また、タイヤの製造方法に関する形態として、円筒状の圧力容器内部に当該圧力容器の延長方向に沿って複数のタイヤを格納し、圧力容器を密閉する工程と、圧力容器内部の一端側に設置された熱源及びファンを駆動し、ファンによって送風された空気を複数のダクトにより圧力容器の他端側で排出する工程とを備え、複数のダクトの各排出口から排出される空気を圧力容器の同一円周方向に向けて排出し、複数のタイヤを圧力容器の円周方向に旋回する旋回流内で加硫する形態とした。
本形態によれば、複数のタイヤが圧力容器の円周方向に旋回する旋回流内で加硫されることにより、複数のタイヤが受ける熱履歴が均一なものとなるため、圧力容器内における位置によらず、均一な性能を有するタイヤを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る加硫缶を示す概略図。
【図2】複数のダクトを示す正面図。
【図3】ダクトの排出口を示す拡大斜視図。
【図4】ダクトの位置関係を示す概略図(他の形態)。
【図5】タイヤを示す分解斜視図及び幅方向断面図。
【図6】旋回流を模式的に示す概略図。
【図7】従来の加硫缶及び本発明の加硫缶内部の温度変化示すグラフ。
【図8】従来の加硫缶内部の気流分布、及び、温度分布を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本発明に係る加硫缶1の内部構造を示す概略図である。
同図において加硫缶1は、一端が閉塞した円筒状に形成され、内部に複数のタイヤ10を格納可能な圧力容器2と、圧力容器2の他端部において開閉自在に設けられた気密扉3とを備える。
圧力容器2の周壁部は、内部に円周方向に沿って隙間なく配置された図外の断熱材等によるライニングが施されており、内部に複数のタイヤ10を格納,加硫可能な加硫領域R1が形成される。
【0009】
気密扉3は、圧力容器2の開口した端部において開閉自在に設けられる扉であって、円筒状の圧力容器2と同心に形成される。気密扉3は、周囲に配設された図外のシール材等を介して圧力容器2の開口部を閉塞し、圧力容器2内に供給される空気が外部に漏洩することを防止する。つまり、一端が閉塞した圧力容器2は、気密扉3が閉じられることにより密閉空間として維持される。
【0010】
圧力容器2の下側半部よりも下方には、圧力容器2の延長方向に沿って延長する床板4が敷設される。圧力容器2内への搬入に際しては、床板4上を走行可能な台車等を用いて複数のタイヤを気密扉3が設けられた開閉端側から閉塞端側へと搬入し、圧力容器2内に設けられた図外のフックに順に吊下げ、複数のタイヤ10を圧力容器2の延長方向に沿って並べて格納する。
【0011】
ここで、本実施形態に係る加硫缶1内に格納されるタイヤ10について概説する。図5は、加硫缶1によって加硫されるタイヤ10の一例としての未加硫のリトレッドタイヤを分解して示す斜視図及び幅方向断面図である。同図に示すように、タイヤ10は、土台となる台タイヤ11と、台タイヤ11の円周方向表面に貼着されるクッションゴム12、及び、クッションゴム12を介して台タイヤ11の円周方向表面に巻き付けられるトレッドゴム13とから構成される。
【0012】
台タイヤ11は、環状のスチールコード等の部材からなる一対のビード部11Aと、一対のビード部11Aを跨ぐようにトロイダル状に延長するサイド部11B及びクラウン部11Cを有する。クラウン部11Cの内部には、複数のベルトが半径方向に積層される。台タイヤ11は、例えば使用済みタイヤのトレッド部を切削(バフ掛け)することや、表面にトレッドパターンに対応する凹凸を有さない金型を備えるモールドによって加硫することにより得ることができる。また、台タイヤ11の加硫度は、製品タイヤに要求される加硫度以下の半加硫の状態であってもよい。
【0013】
クッションゴム12は、台タイヤ11及びトレッドゴム13と略同様の組成からなる未加硫のゴムであって、加硫缶1によって加硫されることにより、台タイヤ11とトレッドゴム13とを一体化させる接着層として機能する。トレッドゴム13は、台タイヤ11の周長に対応する長さを有する帯状であって、台タイヤ11のクラウン部11C上に巻き付けられた状態で加硫されることにより、製品タイヤのトレッド部となる部材である。帯状のトレッドゴム13は、例えば一方の金型に所望のトレッドパターンに対応する凹凸が形成されたプレス型の加硫装置にて加硫することにより得ることができる。
また、プレス型の加硫装置によって得られた帯状のトレッドゴム13は、台タイヤ11のクッションゴム12が貼着された円周方向表面に沿って巻き付けられ、端部同士が接合されることにより台タイヤ11と予備的に一体化される。
なお、トレッドゴム13の成形装置は、プレス型に限られるものではなく、例えば円環状のトレッドゴム13を成形可能な専用のモールドによって加硫成形してもよい。当該専用のモールドによって成形された円環状のトレッドゴム13を台タイヤ11に巻き付けるためには、図外の拡径装置によってトレッドゴム13を拡径しつつ、トレッドゴム13を台タイヤ11の外周側に配置し、再び元の外径に縮径することにより行われる。また、トレッドゴム13の加硫度は、台タイヤ11と同様に、製品タイヤに要求される加硫度以下の半加硫の状態であってもよい。
【0014】
上述の構成を備えるタイヤ10は、エンベロープと呼ばれる図外の袋体に収容され、圧力容器2内に吊り下げられる。エンベロープ内の圧力は大気圧以下に減圧されており、エンベロープの内表面はトレッドゴム13の外表面に密着する。つまり、タイヤ10がエンベロープ内に収容されると、トレッドゴム13は、台タイヤ11の円周方向表面に対して押し付けられた状態のまま維持される。
なお、加硫缶1の圧力容器2内に格納されるタイヤ10の一例として、加硫済みの台タイヤ11、及び、加硫済みのトレッドゴム13とを備えるリトレッドタイヤについて説明したが、加硫缶1に格納されるタイヤ10は、上記構成に限られるものではなく、成形過程に加硫を工程を含むものであれば如何なるタイヤであってもよい。
【0015】
図1に戻り、再び圧力容器2の構造について説明する。
圧力容器2内の一端側である閉塞端側には、空気供給領域R2が形成される。空気供給領域R2は、加硫領域R1を仕切る隔壁7によって形成された領域であって、当該領域内には、加硫領域R1内の空気を加熱しつつ循環させる熱源5及びファン6が設置される。
【0016】
熱源5は、隔壁7内の中央に配置される。熱源5は、例えば電気的に加熱されるヒータであって、ヒータに供給する電力を制御することにより所定温度に発熱する。
ファン6は、熱源5よりも閉塞端側に配置され、モータ6Aとモータ6Aの駆動により回転する回転翼6Bとにより構成される。ファン6は、モータ6Aを駆動することにより回転翼6Bが回転し、加硫領域R1内の空気を空気供給領域R2内に取り込みながら熱源5によって加熱するとともに、空気供給領域R2内の空気を圧縮して、気密扉3側で開口する後述のダクト8の取り込み口9Aに空気を送出する。
つまり、ファン6が駆動することにより加硫領域R1側から空気供給領域R2側に流入する空気を熱源5によって加熱しながら空気供給領域R2の気圧を高めることにより、空気供給領域R2内に設けられた複数のダクト8の取り込み口9Aに空気を流入させて、気密扉3側で開口するダクト8の排出口9Bから加熱された空気を排出する構成である。
【0017】
図1に示すように、ダクト8は、圧力容器2の内周壁面2Aの延長方向に沿って空気供給領域R2から加硫領域R1を経て気密扉3側へと延長する配管である。また、図2の正面図に示すように、本実施例におけるダクト8は、圧力容器2の内周壁面2Aに対して2箇所配設される(以下、ダクト8A,8Bとする)。一方のダクト8Aと他方のダクト8Bとは、圧力容器2の内周壁面2Aの円周方向において互いに相対峙するように均等な間隔をもって配設される。
ダクト8A;8Bは、圧力容器2の延長方向に沿って延長する断面矩形の管体であって、熱源5によって加熱された空気を排出する排出口9Bが気密扉3側において開口する。
つまり、圧力容器2の一端側である閉塞端側に位置する熱源5及びファン6によって加熱,送出された空気は、ダクト8A;8Bを通って圧力容器2の他端側である開閉端側に位置する気密扉3に向けて排出される。
【0018】
図3は、気密扉3に向けて空気を排出するダクト8A;8Bの排出口9B近傍を示す拡大斜視図である。
同図に示すように、ダクト8A;8Bは、圧力容器2の内周壁面2Aから相対峙して立ち上がる一対の板片21;21と、一対の板片21;21と連接し、圧力容器2の内周壁面2Aと対向する導風板22とに囲まれた管体である。
ダクト8A;8Bにおける開閉端側で終端する排出口9Bには、複数の排出プレート20が設けられる。排出プレート20は、ダクト8A;8Bの延長方向に沿って長尺な板体であって、ダクト8A;8Bの内部に配設される。
より詳細には、排出プレート20は、圧力容器2の内周壁面2Aとダクト8の導風板22との間に図外の締結手段を介して、或いは、溶接により固定される。また、排出プレート20は、ダクト8A;8Bの内部から排出口9Bに向かうに従って、内周壁面2Aの矢印で示す円周方向の一方に向けて湾曲し、先端部20Aがダクト8の排出口9Bとほぼ同一位置で終端する。
【0019】
ダクト8A;8Bの排出口9Bに内周壁面2Aの円周方向の一方に向けて湾曲する排出プレート20が設けられたことにより、排出口9Bから吹き出す空気の流れは、排出プレート20の湾曲に沿った流れとなる。具体的には、図3の矢印に示すように、ダクト8A;8Bの排出口9Bからは、加熱された空気が内周壁面2Aの円周方向に沿って一方向となるように同一円周方向に向けて排出される。このように、内周壁面2Aに対して複数配設されたダクト8A;8Bの排出口9Bに、内周壁面2Aの同一円周方向に向けて延長する排出プレート20を設け、加熱された空気を排出口9Bから内周壁面2Aの同一円周方向に向けて排出することにより、圧力容器2内に旋回流を発生させることができる。
【0020】
図6は、圧力容器2内に発生する旋回流を模式的に示す図である。
同図に示すように、ダクト8A;8Bの排出プレート20を通過し、内周壁面2Aに沿うように排出された空気は、それぞれ気密扉3に衝突し、加硫領域R1を形成する気密扉3の裏面3Aを円周方向に沿って流れることで、内周壁面2Aに沿って回転する流れが生じる。そして、回転する空気は、気密扉3側から閉塞端側に内周壁面2Aに沿って円を描くように螺旋状に流れて、圧力容器2内における旋回流となって、隔壁7に設けられた熱源5を通過して空気供給領域R2に取り込まれる。具体的には、ダクト8Aの排出プレート20から排出された空気が、内周壁面2Aに沿って下向きに流れて図6に示す一方の旋回流F1となり、ダクト8Bの排出プレート20から排出された空気が内周壁面2Aに沿って上向きに流れて図6に示す他方の旋回流F2となり、ダクト8A;8Bが、互いに対向して均等に設けられているので、旋回流F2は旋回流F1に対してちょうど半周期ずれたように対向した位置を流れる旋回流となる。
【0021】
図7(a)は従来の加硫缶内部の温度変化を示すグラフを示し、図7(b)は本発明の加硫缶1の温度変化を示すグラフを示す。詳細には、図7(a)は従来の加硫缶の加硫領域内下部(図6のP1;Q1に相当する位置)における気密扉3側の温度及び空気供給領域R2側の温度の時間変化を示したグラフである。また、図7(b)は、図7(a)で温度を測定した同一の位置P1;Q1の温度変化と、位置P1;Q1に対向する上部の位置P2;Q2(図6参照)とにおける温度の時間変化を示したグラフである。
従来の加硫缶では、図7(a)に示すように、気密扉3側下部の位置P1の温度が空気供給領域側下部の位置Q1の温度に比べて急速に上昇し、加硫缶内の温度が一定となるまでに、約20℃の温度差が生じた状態で加熱されている。そして、位置P1の温度と位置Q1の温度とが最高温度に到達するまでに、およそ20分の差が生じている。一方、本実施形態にかかる加硫缶1では、図7(b)に示すように、気密扉3側上部及び下部の位置P1;P2の温度と、空気供給領域R2側上部及び下部の位置Q1;Q2の温度とが60℃近傍までほぼ同一の温度勾配で上昇した後に、気密扉3側の位置P1;位置P2の温度と、空気供給領域R2側の位置Q1;位置Q2との間に温度に差が生じるものの、再びほぼ同一の温度勾配で上昇している。気密扉3側の位置P1;P2の温度と、空気供給領域R2側の位置Q1;Q2との間での温度の差は約5℃程度のもので、従来の加硫缶で生じる温度差に比べて非常に小さなものとなる。つまり、本発明の加硫缶1は、加硫領域R1内に旋回流を発生させて、ファン6によって加熱された空気を循環させることにより、圧力容器2内をほぼ均一に温度上昇させることが可能となる。
つまり、本発明の加硫缶1では、圧力容器2内の温度が延長方向においてほぼ均一に温度上昇するので、圧力容器2の延長方向に沿って並べて格納された複数のタイヤ10の加硫において、タイヤ10が格納される位置にかかわらず均一な温度上昇により加硫することができる。さらに、圧力容器2の上部,下部についても均一に温度上昇するので、個々のタイヤに対して円周方向から均一な温度上昇により均一に加熱することができ、タイヤ全体を均一に加硫することができる。
【0022】
また、ダクト8を加硫缶1に設ける他の形態として、図4(a)乃至図4(d)に示すように設けてもよい。
図4(a)は、ダクト8を内周壁面2A全域に設けた点で上記形態と異なる。それ以外の点については、上記形態と同様である。なお、以下の説明において、上記形態と同様の構成部分については、先に説明した図1,図2と同様の符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、上記形態と同様の構成部分について適用される変形例は、本実施形態についても同様に適用される。
本形態のダクト8は、図4(a)に示すように、導風板22を円筒状に形成して図外の方法によって圧力容器2内の内周壁面2Aに固定され、内周壁面2Aと導風板22との間に空気を流通させて空気供給領域R2から気密扉3側まで加熱された空気を送出するようにしたものである。ダクト8には、気密扉3側の内周壁面2Aと導風板22との間に、同一円周方向に延長する複数の排出プレート20が円周方向に複数設けられる。
即ち、本形態のダクト8の排出口9Bから排出された空気は、全体が内周壁面2Aを円周方向に沿うように排出され、気密扉3に衝突する。気密扉3に衝突した空気は、導風板22の内周面に沿って螺旋状の旋回流となって開閉端側から閉塞端側へ流れるので、加硫領域R1内に加熱された空気が停留することがなく、加硫領域R1全体を均等に温度上昇させることができる。
よって、本形態のようにダクト8を構成しても、上記形態と同様の効果を得ることができる。
【0023】
また、ダクト8を加硫缶1に配設する他の形態として、図4(b)に示す形態は、圧力容器2の内周壁面2Aの円周方向において均等な間隔をもって3箇所配設するようにした点で上記形態と異なる。
具体的には、本形態のダクト8A;8B;8Cは、図4(b)に示すように、圧力容器2の内周壁面2Aの円周方向において均等な間隔をもって3箇所配設される。各ダクト8A;8B;8Cが備える排出プレート20は、同一円周方向に延長するように構成される。
即ち、本形態のダクト8A;8B;8Cの各排出口9Bから排出された空気は、それぞれ内周壁面2Aを円周方向に沿うように排出され気密扉3に衝突する。気密扉3に衝突した空気は、それぞれ内周壁面2Aの円周上において均一化された流速の旋回流となって開閉端側から閉塞端側へ流れるので、加熱された空気が加硫領域R1内に停留することがなく、加硫領域R1全体を均等に温度上昇させることができる。よって、本形態のようにダクト8を構成しても、上記形態と同様の効果を得ることができる。
【0024】
また、ダクト8を加硫缶1に配設する他の形態として、図4(c)に示す形態は、ダクト8を圧力容器2の内周壁面2Aの円周方向において互いに対向するように均等な間隔をもって4箇所配設する点で上記形態と異なる。
具体的には、本形態のダクト8A;8B;8C;8Dは、図4(c)に示すように、圧力容器2の内周壁面2Aの円周方向において互いに対向するとともに均等な間隔をもって4箇所配設され、各ダクト8A;8B;8C;8Dが備える排出プレート20を同一円周方向に延長するように構成したものである。なお、ダクト8Aに対してダクト8Dが対向し、ダクト8Bに対してダクト8Cが対向する位置関係にある。
即ち、本形態のダクト8A;8B;8C;8Dの各排出口9Bから排出された空気は、それぞれ内周壁面2Aを円周方向に沿うように排出されて気密扉3に衝突する。気密扉3に衝突した空気は、それぞれ内周壁面2Aの円周上において均一化された流速の旋回流となって開閉端側から閉塞端側へ流れるので、加硫領域R1内に加熱された空気が停留することがなく、加硫領域R1全体を均等に温度上昇させることができる。よって、本形態のようにダクト8を構成しても、上記形態と同様の効果を得ることができる。
【0025】
また、ダクト8を加硫缶1に配設する他の形態として、図4(d)に示す形態は、床板4を避けてダクト8を圧力容器2の内周壁面2Aの円周方向において互いに対向するように4箇所配設した点で上記形態と異なる。
具体的には、本形態のダクト8A;8B;8C;8Dは、図4(d)に示すように、圧力容器2の内周壁面2Aの円周方向において互いに対向するとともに均等な間隔をもって4箇所配設され、各ダクト8A;8B;8C;8Dが備える排出プレート20を同一円周方向に延長するように構成したものである。なお、ダクト8Aに対してダクト8Dが対向し、ダクト8Bに対してダクト8Cが対向する位置関係にある。また、ダクト8A及びダクト8C、ダクト8B及び8Dの組み合わせは、円周方向に均等分割された位置に配置される。
即ち、本形態のダクト8A;8B;8C;8Dの各排出口9Bから排出された空気は、それぞれ内周壁面2Aを円周方向に沿うように排出されて気密扉3に衝突する。気密扉3に衝突した空気は、内周壁面2Aに沿ってそれぞれ螺旋状の旋回流となって開閉端側から閉塞端側へ流れるので、加硫領域R1内に加熱された空気が停留することがなく、加硫領域R1全体を均等に温度上昇させることができる。よって、本形態のようにダクト8を構成しても、上記形態と同様の効果を得ることができる。さらに、床板4を避けるようにダクト8A;8B;8C;8Dを圧力容器2の内周壁面2Aの円周方向において互いに対向する4箇所に配設したことにより、ダクト8A;8B;8C;8Dを保護するために作業者や搬入台車が通る床板の耐久性を高める必要がなくなり、製造コストを抑制することができる。
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、円筒状の圧力容器2内部に当該圧力容器2の延長方向に沿って複数のタイヤ10を格納し、圧力容器2を密閉して、圧力容器2内部の一端側である閉塞端側に設置された熱源5及びファン6を駆動し、ファン6によって送風された空気を複数のダクト8により圧力容器2の他端側である開閉端側で排出し、複数のダクト8の各排出口9Bから排出される空気を圧力容器2の同一円周方向に向けて排出して、複数のタイヤ10を圧力容器2の円周方向に旋回する旋回流内で加硫することにより、圧力容器2内部の温度を均一にしてタイヤ10を加硫することができる。
即ち、熱源5によって加熱され、ファン6及び複数のダクト8によって空気供給領域R2から圧力容器2の開閉端側に流れ込んだ空気が、ダクト8の排出口9B側に同一円周方向を向くように傾斜して設けられた排出プレート20から圧力容器2の内周壁面2Aに沿うように同一円周方向に向けて排出されるため、開閉端側から閉塞端側へ流れ込む空気が圧力容器2の円周方向に沿って旋回する旋回流となって、圧力容器2内全体に強制的な対流を生じさせ、圧力容器2内の停留をなくすことにより、熱源5によって加熱された空気が圧力容器2内に行き渡るので、圧力容器2内における温度分布を均一化することが可能となる。よって、本発明の加硫缶1によって加硫されたタイヤ10は、圧力容器2の延長方向における位置、及び、タイヤ10の円周方向の位置にかかわらず均一な温度によって加熱されるため、加硫缶1における位置にかかわらず均一な加硫度でタイヤ10を加硫することができる。
【0027】
また、排出プレート20をダクト8に設ける他の形態としては、図示しないが、排出プレート20を圧力容器2の気密扉3に設けてもよい。
具体的には、本形態の排出プレート20をダクト8の延長上の気密扉3に設け、圧力容器2の内周壁面2Aの円周方向に沿うように同一円周方向に延長するようにした。
即ち、ダクト8の排出口9Bから排出された空気は気密扉3に衝突し、気密扉3に衝突した空気が排出プレート20によって円周方向にガイドされることで内周壁面2Aに沿うように流れ、圧力容器2内において螺旋状の旋回流となって開閉端側から閉塞端側へ流れる。圧力容器2内に旋回流が生じることで加硫領域R1内に加熱された空気は停留することがなく、加硫領域R1全体を均等に温度上昇させることができる。よって、本形態のように排出プレート20を構成しても、上記形態と同様の効果を得ることができる。
【0028】
また、上記形態では、圧力容器2内部の一端側である閉塞端側に熱源5及びファン6を設置,駆動することで、熱源5によって加熱されファン6によって送風された空気を複数のダクト8により圧力容器2の他端側である開閉端側で排出するとして説明したが、他端側である開閉端側の例えば気密扉3に熱源5及びファン6を設置し、ファン6によって送風された空気を複数のダクト8により圧力容器2の一端側である閉塞端側で排出するようにしてもよい。つまり、閉塞端側で開口するダクト8に、ダクト8の内部から排出口に向かうに従って、内周壁面2Aの図3の白抜き矢印で示すような円周方向の一方に向けて湾曲し、先端部20Aがダクト8の排出口とほぼ同一位置で終端するように排出プレート20を設ければよい。このように構成しても、複数のダクト8の各排出口から排出される空気を圧力容器2の同一円周方向に向けて排出して、複数のタイヤ10を圧力容器2の円周方向に旋回する旋回流内で加硫することにより、圧力容器2内部の温度を均一にしてタイヤ10を加硫することができる。
【0029】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態に多様な変更、改良を加え得ることは当業者にとって明らかであり、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0030】
1 加硫缶、2 圧力容器、2A 内周壁面、3 気密扉、4 床板、5 熱源、
6 ファン、6A モータ、6B 回転翼、7 隔壁、8;8A〜8D ダクト、
9A 取り込み口、9B 排出口、10 タイヤ、20 排出プレート、
20A 先端部、21 板片、22 導風板、F1;F2 旋回流、R1 加硫領域、
R2 空気供給領域。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の圧力容器内部の一端側に設置された熱源及びファンと、
前記圧力容器の延長方向に延長して内壁面円周上に配設され、前記ファンによって送風された空気を圧力容器の他端側で排出するダクトと、
を備え、
前記ダクトの排出口が前記ファンによって送風された空気を前記圧力容器の円周方向に向けて排出する加硫缶。
【請求項2】
前記ダクトの排出口が、前記圧力容器の円周方向に延長するプレートを備えた請求項1記載の加硫缶。
【請求項3】
前記ダクトが前記圧力容器の内壁面円周上において円周方向に均等分割された位置に複数配設され、各排出口のプレートが同一円周方向に延長する請求項2記載の加硫缶。
【請求項4】
前記複数のダクトが前記圧力容器の内壁面円周上において互いに対向して配設され、各排出口のプレートが同一円周方向に延長する請求項3記載の加硫缶。
【請求項5】
前記ダクトが前記圧力容器内部に敷設された床板下部を避けて配設された請求項1乃至請求項4いずれか記載の加硫缶。
【請求項6】
前記ダクトの配置を前記圧力容器の内壁面円周上において2箇所とした請求項1乃至請求項5いずれかに記載の加硫缶。
【請求項7】
円筒状の圧力容器内部に当該圧力容器の延長方向に沿って複数のタイヤを格納し、前記圧力容器を密閉する工程と、
前記圧力容器内部の一端側に設置された熱源及びファンを駆動し、前記ファンによって送風された空気を複数のダクトにより圧力容器の他端側で排出する工程とを備え、
複数のダクトの各排出口から排出される空気を前記圧力容器の同一円周方向に向けて排出し、前記複数のタイヤを前記圧力容器の円周方向に旋回する旋回流内で加硫するタイヤの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−22764(P2013−22764A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157048(P2011−157048)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】