説明

加硫装置

【課題】タイヤとブラダーとの間の不要な空気をより確実に除くことが可能な加硫装置を提供する。
【解決手段】ブラダー14Aの外周面にバルブ機構42を取り付け、バルブ機構42に外気と連通するホース54を接続する。ブラダー14Aを拡張すると、未加硫のタイヤ63とブラダー14Aとの間の空気は、大部分はブラダー14Aに押されて未加硫のタイヤ63とブラダー14Aとの間を通して外部へ排出され、一部分が未加硫のタイヤ63とブラダー14Aとの間に残ってしまうことがあるが、バルブ機構42を介して未加硫のタイヤ63とブラダー14Aとの間の空気を外部へ排出することができ、エアトラップを生じさせることがない。これにより、ブラダー14Aの外面全体を未加硫のタイヤ63の内面に密着させることができ、適正な加硫成形を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの加硫装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現状のタイヤ製法において、各種未加硫ゴムと各種補強層(スチールコード、有機繊維コード)を組み合わせた未加硫タイヤ(通称:グリーンタイヤ)に対し、これに加硫ブラダーを挿入し成形型内にてブラダーを拡張している。その後、適切な圧力にてある一定時間の高温状態を維持する加硫工程を経て、最終的な製品タイヤにする方法を取るのが一般的である(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この場合、未加硫タイヤの内面に加硫ブラダーが隙間無く完全に密着して均等の圧力が掛かるのが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−020319
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、加硫工程初期の加硫ブラダーが拡張していく過程において、未加硫タイヤとブラダーの間に介在する空気の多くは外部に出されるが、拡張が進行してブラダーと未加硫タイヤとのビード部が密着しだすと空気は急激に抜け難くなり、エアトラップとして内部に取り残されることがある。エアトラップが起こった部位では、所期のタイヤ形状とならない原因になる。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、タイヤとブラダーとの間の不要な空気をより確実に除くことができる加硫装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の加硫装置は、タイヤを加硫成形する成形型と、前記成形型に設けられ、前記成形型のタイヤ成形面に前記タイヤを押圧する拡縮可能なブラダーと、一端が前記ブラダーに取り付けられて前記ブラダーの外周部で開口し、前記ブラダーと前記タイヤとの間の空気を排出可能な空気抜き通路部材と、を有する。
【0008】
未加硫タイヤとブラダーとの間の空気は、大部分はブラダーに押されて未加硫タイヤとブラダーとの間を通して外部へ排出されるが、一部分が未加硫タイヤとブラダーとの間に残ってしまうことがある。しなしながら、請求項1の加硫装置では、ブラダーの外周部で開口する空気抜き通路部材から未加硫タイヤとブラダーとの間の空気を排出することができ、エアトラップを生じさせることがない。これにより、ブラダーの外面全体を未加硫タイヤの内面に密着させて加硫を行うことができる。
また、加硫後の成形型からタイヤを取り出す際には、この空気抜き通路部材を介して外部に空気をタイヤとブラダーとの間に入り込み、タイヤとブラダーとの密着を防止することもできる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の加硫装置において、前記空気抜き通路部材は、ブラダー内の空気室とは隔離されている。
【0010】
請求項2に記載の加硫装置では、空気抜き通路部材がブラダー内の空気室と隔離されている。したがって、ブラダー内の空気が空気抜き通路部材を通過することは無い。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の加硫装置において、前記成形型、前記成形型内に装填された前記タイヤ、及び拡張して前記タイヤの内面に密着した前記ブラダーを、前記タイヤの回転軸に沿った断面で見たときの前記タイヤの内面と前記ブラダーのセンター面との交点を点C、前記タイヤのうちで前記ブラダーが接触するタイヤ径方向最内側接触部を点B、前記タイヤの内面で最も曲率半径の小さい部分の中心位置を点A、前記タイヤの内面において前記点Aと前記点Bとの中央位置を点P、前記タイヤの内面において前記点Aと前記点Cとの中央位置を点Qとしたときに、拡張した前記ブラダーにおける前記空気抜き通路部材の開口部は、前記点Pから前記点Qまでの範囲内に少なくとも1個配置される。
【0012】
拡張したブラダーにおける点Pと点Qとの中間部分は、加硫前のタイヤとブラダーとの間で最後に残り易い空気と面する部分であるため、点Pと点Qとの中間部分に拡張したブラダーの空気抜き通路部材の開口部を少なくとも1個対向させることで、ブラダーと未加硫タイヤとの間の空気を空気抜き通路部材を介して確実に排出することが出来る。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の加硫装置において、前記空気抜き通路部材のブラダー側の端部には、前記ブラダーの外周面から突出する第1の位置と前記ブラダーの外周面から突出しない第2の位置との間をスライドするスライド部材と、前記スライド部材を前記第2の位置から前記第1の位置へ向けて付勢する付勢手段と、前記スライド部材に設けられ、一端が前記空気抜き通路部材と連通され、他端が前記スライド部材のスライド方向と交差する方向の側部に開口し、前記スライド部材が前記第1の位置にあるときに前記ブラダーの外周面と前記タイヤとの間の空間と連通し、前記スライド部材が前記第2の位置にあるときに閉鎖される空気通路とを含んで構成されるバルブ機構が設けられている。
【0014】
請求項4に記載の加硫装置では、空気抜き通路部材のブラダー側の端部に設けられたバルブ機構がタイヤと接触しない状態では、スライド部材は付勢手段によって付勢されてブラダーの外周面から突出する第1の状態にある。このため、空気抜き通路部材と連結される空気通路は他端がスライド部材のスライド方向と交差する方向の側部に開口しているので、拡張過程にあるブラダーと加硫前のタイヤとの間に溜まった空気をバルブ機構及び空気抜き通路部材を介して外部へ排出することができる。
【0015】
一方、ブラダーが拡張して加硫前のタイヤの内面に密着すると、バルブ機構のスライド部材はタイヤの内面に押されて第1の位置からブラダーの外周面から突出しない第2の位置へスライドするので、スライド部材によってタイヤ内面に凹部が形成されることを防止することが出来る。また、加硫時は、ブラダーには内圧が付与されるが、この内圧はブラダーに設けられる空気抜き部材のスライド部材にも作用する。
なお、スライド部材がブラダーの外周面から突出しない第2の位置へスライドするので、空気通路の開口を塞ぐことが出来る。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の加硫装置において、前記空気抜き通路部材の開口は、前記ブラダーの赤道面を挟んで反対側にそれぞれ設けられている。
【0017】
請求項5に記載の加硫装置では、空気抜き通路部材の開口がブラダーの赤道面を挟んで反対側にそれぞれ設けられているので、ブラダーの軸方向中央部がタイヤ内面の軸方向中央部に接した後において、ブラダーの赤道面を挟んで一方側のタイヤ内面とブラダーとの間の空気と、ブラダーの赤道面を挟んで他方のタイヤ内面とブラダーとの間の空気とを排出することができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の加硫装置において、前記空気抜き通路部材には、前記ブラダーと前記タイヤとの間の空気を吸引する吸引装置が接続されている。
【0019】
請求項6に記載の加硫装置では、吸引装置でブラダーとタイヤとの間の空気を吸引することができる。このため、ブラダーを拡張する際に、ブラダータイヤとの間の空気を迅速、且つ確実に排出することができる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の加硫装置において、前記空気抜き通路部材は、前記ブラダー前記タイヤとの間へ空気を流入させる空気流入装置が接続されている。
【0021】
請求項7に記載の加硫装置では、空気流入装置がブラダーと未加硫タイヤとの間に空気を流入させることができる。このため、タイヤの加硫が終了してブラダーを縮小させる際に、空気流入手段でブラダーと未加硫タイヤとの間に空気を流入させることで、タイヤ内面に密着していたブラダーをタイヤの内面から迅速、且つ確実に離間させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように請求項1に記載の加硫装置によれば、ブラダーとタイヤとの間の不要な空気を無くし、所期形状のタイヤ成形ができる、という優れた効果を有する。
【0023】
請求項2に記載の加硫装置によれば、空気抜き通路部材がブラダー内の空気室と隔離されているので、ブラダー内の空気が空気抜き通路部材を通過することは無く、従来通りブラダーを拡縮することが出来る。
【0024】
請求項3に記載の加硫装置によれば、ブラダーと未加硫タイヤとの間の空気を空気抜き通路部材を介して確実に排出することが出来る、という優れた効果を有する。
【0025】
請求項4に記載の加硫装置によれば、ブラダーが拡張する前の加硫前のタイヤと接触しない状態ではブラダーと加硫前のタイヤとの空気を排出することができ、ブラダーが拡張して加硫前のタイヤの内面に密着するとスライド部材はブラダーの外面から突出しない第2の位置へスライドしてスライド部材によってタイヤ内面に凹部を形成することは無い。また、スライド部材が第2の位置へスライドすると空気通路の開口が塞がれてタイヤの未加硫ゴムが開口に入り込むことが防止される。
【0026】
請求項5に記載の加硫装置によれば、ブラダーの赤道面を挟んで一方側のタイヤ内面とブラダーとの間の空気と、ブラダーの赤道面を挟んで他方のタイヤ内面とブラダーとの間の空気とを排出することができるので、ブラダーの赤道面を挟んで一方側のタイヤ内面とブラダーとの間のエアトラップ、及びブラダーの赤道面を挟んで他方のタイヤ内面とブラダーとの間のエアトラップの発生を防止することができる。
【0027】
請求項6に記載の加硫装置によれば、請求項5に記載の加硫装置によれば、ブラダーを拡張する際に、ブラダータイヤとの間の空気を迅速、且つ確実に排出することができ、エアトラップの発生をより確実に防止できる。
【0028】
請求項7に記載の加硫装置によれば、加硫後、ブラダーを未加硫タイヤの内面から迅速、且つ確実に離間さてブラダー密着によるタイヤ変形不良の発生の防止することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】加硫装置の概略構成を示すタイヤ回転軸に沿った断面図である。
【図2】(A),(B)は図1に示すバルブ機構の拡大断面図である。
【図3】実施例1に係る加硫装置のバルブ機構付近を示すブラダ収縮時の拡大断面図(図1の矢印Aで示す部分に相当し、時計回りに90°回転して表示)である。
【図4】(A)〜(C)は、タイヤ、及び拡張する状態を示す図3に相当するブラダーの断面図である。
【図5】第2の実施形態に係る加硫装置の空気回路図である。
【図6】実施例2に係る加硫装置のバルブ機構付近を示す図3に相当する拡大断面図である。
【図7】実施例3に係る加硫装置のバルブ機構付近を示す図3に相当する拡大断面図である。
【図8】実施例4に係る加硫装置のバルブ機構付近を示す図3に相当する拡大断面図である。
【図9】比較例に係る加硫装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[第1の実施形態]
以下、図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。図1には、本発明が適用された加硫装置10の実施例が示されている。
【0031】
図1に示すように、加硫装置10は、成形型ユニット12と、拡縮可能な円筒状のブラダー14Aを有するブラダーユニット14とを備えている。
【0032】
成形型ユニット12は上側成形型12A及び下側成形型12Bで構成されている。成形型ユニット12の周囲は、ジャケット16によって覆われている。このジャケット16には、通路18が設けられ、パイプ20を介して加熱流体(例えば、蒸気やガス)が流動する構成となっている。このジャケット16によって成形型ユニット12のタイヤ周面に対応する側が加熱される。
【0033】
また、成形型ユニット12のタイヤ端面側を加熱するために、これらの上側及び下側には、上側プラテン22及び下側プラテン24が配設されている。
【0034】
上側プラテン22には通路22Aが形成され、下側プラテン24には通路24Aが形成されており、通路22A、24Aにはパイプ(図示省略)を介して加熱媒体を循環させるようになっている。
【0035】
ブラダー14Aは、円筒状の軸方向上端が上側リング28へ、及び下端が下側リング30に取付けられ、上側リング28はセンタポスト32に固着されている。このセンタポスト32は、スリーブ34によって移動自在に支持されている。このため、ブラダー14Aは、センタポスト32の上下動に応じて移動することができる。
【0036】
下側リング30には、スチーム、ガス及び温水等の加熱流体をブラダー14Aへ循環させるためのパイプ36、38が連結されている。これにより、ブラダー14Aが加熱される。
【0037】
図2(A)に示すように、ブラダー14Aには円形の孔40が貫通形成されていると共に、外面に孔40と同軸的に座グリ40Aが形成されている。
【0038】
孔40には、バルブ機構42が挿入されている。バルブ機構42は台座44を備えている。台座44は、孔40に挿入される円柱部44Aを備え、円柱部44Aの軸方向一端側(ブラダー14Aの外面側)には座グリ40Aに嵌め込むフランジ44Bが形成されており、円柱部44Aの軸方向他端側には外周部に雄ネジ46が形成されている。
【0039】
台座44の雄ネジ46はブラダー14Aの内面側に突出しており、雄ネジ46には内周に雌ネジが形成された締結リング47が捩じ込まれており、フランジ44Bと締結リング47とでブラダー14Aの孔40の周囲が挟持されている。なお、台座44及び締結リング47は、ブラダー14Aに接着剤を用いて接着されている。
【0040】
円柱部44Aには、貫通孔41が同軸的に形成されている。貫通孔41は、ブラダー外側が座グリ部41A、軸方向中間部分が大径孔部41B、ブラダー内側が小径孔部41Cとなっている。
【0041】
台座44の貫通孔41には、先端コア48が挿入されている。先端コア48は、円柱状の軸部48Aを備え、軸部48Aの一端側(ブラダー14Aの外面側)に大径部48Bが設けられ、大径部48Bの一端側にフランジ48Cが設けられ、軸部48Aの他端側には後述するホース54へ挿入するための挿入部52が形成されている。
【0042】
先端コア48のフランジ48Cは台座44の座グリ部41Aに嵌るように、フランジ48Cの径は座グリ部41Aの径よりも若干小さく形成されており、フランジ48Cの厚み寸法は座グリ部41Aの深さ寸法と同一寸法に設定されている。
【0043】
先端コア48の大径部48Bが台座44の大径孔部41Bにスライド可能なように、大径部48Bの外径は大径孔部41Bの内径よりも若干小さく形成されている。
【0044】
先端コア48の軸心部には、空気通路50が形成されており、空気通路50の一方の端部は挿入部52の他端側に開口しており、空気通路50の他方の端部は、大径部48Bの側面に開口している。
【0045】
軸部48Aの挿入部52にはホース54の一端側が挿入されている。ホース54の一端側は、挿入部52から抜けないように、図示しないホースバンド等で固定されている。なお、ホース54の他端側は、下側リング30(図1参照)に形成された図示しない通路を介して装置外部(大気)と連通している。
【0046】
ホース54は、耐熱性に優れた産業用耐圧ホースを用いることが好ましく、加硫時の圧力(例えば、乗用車用タイヤの加硫時においては約0.05Mpaの圧力が作用)によって潰れず、加硫中の温度(例えば、乗用車用タイヤの加硫時では、200°C以下の温度。)に耐えることを留意して選定される。
【0047】
また、ホース54は、ある程度の繰り返しの屈曲に耐えられるものが好適である。さらに、ホース54の長さは、上側リング28の上昇下降や、ブラダー14Aの拡張量を踏まえて十分なマージンを持った長さに設定される。
【0048】
台座44の大径孔部41Bには、先端コア48をブラダー外側方向へ付勢するコイルスプリング56が挿入されている。
【0049】
先端コア48の軸部48Aには、挿入部52側に雄ネジが形成されており、この雄ネジは台座44の他端よりもブラダー内側へ突出してナット62が取り付けられている。なお、軸部48Aには、ナット62と台座44との間にワッシャー60が挿通している。
【0050】
図2(A)は、ブラダー14Aが拡張していない通常時のバルブ機構42を示しており、先端コア48はコイルスプリング56で付勢されてナット62がワッシャー60を介して台座44の他端に押圧され、先端コア48の大径部48Bがブラダー外面側に突出して空気通路50の他方の端部が台座44の座グリ部41Aよりもブラダー外側に開口しているので、ブラダー14Aの外面側が空気通路50、及びホース54を介して装置外部(大気)と連通している。なお、空気通路50及びホース54の内部空間は、ブラダー14Aの内部空間と隔離されている。
【0051】
図2(B)に示すように、ブラダー14Aが拡張してブラダー14Aの外面が未加硫のタイヤ63の内面に接触すると、先端コア48のフランジ48Cが未加硫のタイヤ63の内面に押圧されて、台座44の座グリ部41Aに嵌り込み、フランジ48Cの軸方向外面とブラダー14Aの外面とが面一になると共に、空気通路50の他方の端部の開口が大径孔部41Bの内側面で塞がれる。
【0052】
本実施形態のバルブ機構42は、台座44、及び先端コア48が耐熱性樹脂で形成されているが、加硫中の高熱、高圧の繰り返しに耐えられるものであれば材質に制限はなく、金属で形成されていても良い。
【0053】
ここで、ブラダー14Aにバルブ機構42を取り付ける位置は、拡張するブラダー14Aの外面の内で未加硫のタイヤ63の内面に最も遅く接触する部分に設けることが好適である。
【0054】
ブラダー14Aや未加硫のタイヤ63に形状にもよるが、一般的にブラダー14Aが未加硫のタイヤ63とビード部で閉鎖領域が発生した後は、ブラダー14Aのセンター部が接触した後に、それがタイヤサイド方向に広がってゆくのが一般的である。これにより、未加硫タイヤ63とブラダー14Aとで囲まれる空間は、タイヤ63及びブラダー14Aの軸方向中間部で軸方向両側に分断される傾向があり、バルブ機構42は、ブラダー14Aの軸方向両側(上側成形型12A側、及び下側成形型12B側に設けることが好ましい。
【0055】
図3に示すように、成形型ユニット12を未加硫のタイヤ63の回転軸に沿った断面で見たときの未加硫のタイヤ63の内面と、未加硫のタイヤ63の内面に密着するブラダー14Aのセンター面(赤道面)CLとの交点を点C、未加硫のタイヤ63のうちでブラダー14Aが接触するタイヤ径方向最内側接触部を点B、未加硫のタイヤ63の内面で最も曲率半径の小さい部分の中心位置を点A、未加硫のタイヤ63の内面において点Aと点Bとの中央位置を点P、未加硫のタイヤ63の内面において点Aと点Cとの中央位置を点Qとしたときに、拡張したブラダー14Aにおけるバルブ機構42の位置(点X)は、点Pと点Qとの中間部分に対向するように設けることが好ましい。
【0056】
ブラダー14Aタイヤ63との間の空気はバットレス部63Aの内面側で最も曲率半径の小さい部位と面して残ることが多い。この様な場合には、ブラダー14Aには、未加硫のタイヤ63の内面の最も曲率半径の小さい部位と接触する部分にバルブ機構42を設けることが好ましい。図1に示すように、本実施形態のブラダー14Aでは、未加硫のタイヤ63の内面の最も曲率半径の小さい部位と接触する部分にバルブ機構42を設けている。
【0057】
図1に示すように、本実施形態のブラダー14Aでは、バルブ機構42は、ブラダー14Aの上側成形型12A側に2箇所、及びブラダー14Aの下側成形型12B側に2箇所に設けられている。ブラダー14Aの軸方向中間部分よりも図面上側に形成されている2個のバルブ機構42は、ブラダー14Aの軸心を挟んで両側に配置されている。同様に、ブラダー14Aの軸方向中間部分よりも図1の図面下側に形成されている2個のバルブ機構42は、ブラダー14Aの軸心を挟んで両側に配置されている。
なお、図1では、上側成形型12A側の2箇所のバルブ機構42と、下側成形型12B側の2箇所のバルブ機構42とが互いに対向するように記載されているが、実際には、上側成形型12A側の2箇所のバルブ機構42と、下側成形型12B側の2箇所のバルブ機構42とは、ブラダー14Aの周方向に90°ずらされて千鳥状に配置されている。
【0058】
(作用)
以下に、加硫装置10を用いたタイヤ63の加硫工程を説明する。
成形型ユニット内に未加硫のタイヤ63を装填し、縮小されていたブラダー14Aを拡張してゆくと、先ず最初に、ブラダー14Aは、図4(A)に示すように、未加硫のタイヤ63のビード部のビードトウ(点B)に接触する。
【0059】
その後、ブラダー14Aは、ブラダー14Aのセンター部が径方向外側へ凸となるように拡張して行き、図4(B)に示すように、センター部が未加硫のタイヤ63の内面(センター部)に接触してから接触領域がタイヤサイド部方向へ広がって行く。なお、ビードトウに接触した接触領域もサイド部方向へ広がって行く。
【0060】
その後、図4(C)に示すように、未加硫のタイヤ63とブラダー14Aとの間の空気は、タイヤ63のバットレス部63Aの内面側へ向けて集まるが、ブラダー14Aにはバルブ機構42が設けられており、バルブ機構42の先端コア48と未加硫のタイヤ63との間に隙間が形成されている状態(図2(A)参照)、即ち、バルブ機構42の先端コア48が未加硫のタイヤ63の内面に接触して押圧されるまでは、先端コア48の空気通路が側面に開口してブラダー外側の空気と連通しているので、未加硫のタイヤ63とブラダー14Aとの間の空気は、バルブ機構42の空気通路50及びホース54を介して装置外の大気へと放出される。
【0061】
未加硫のタイヤ63とブラダー14Aとの間の空気が全て排出されると、未加硫のタイヤ63の内面がバルブ機構42の先端コア48が未加硫のタイヤ63の内面に押圧されて先端コア48のフランジ48Cが台座44の座グリ部41Aに嵌り込み、フランジ48Cの軸方向の外面とブラダー14Aの外面とが面一となると共に、先端コア48の大径部48Bが、台座44の大径孔部41Bに挿入されて空気通路50の端部が閉止される(図2(B)参照)、即ち、バルブ機構42が閉まる。
【0062】
これにより、未加硫のタイヤ63の内面全体に拡張したブラダー14Aが密着し、さらにブラダー14Aが拡張されることで、ブラダー14Aで押圧された未加硫のタイヤ63は外面全体が成形型内面(成形型ユニット12内面)に密着し、未加硫のタイヤ63の加硫が適切に行われる。
加硫中はバルブ機構42が閉まり、台座44を介してブラダー14Aの圧力が先端コア48に掛かるため、タイヤ63は、バルブ機構42と面する部分にもブラダー14Aと同様の押圧力が作用する。したがって、加硫中はバルブ機構42を含めブラダー14A全体に高圧が掛かり、適切な加硫を実施することが可能となる。

このように、未加硫のタイヤ63の内面全体に拡張したブラダー14Aが密着することで、エアトラップを生ずることはなく、タイヤコードの乱れや、タイヤ内面に凹凸が発生する等の外観不良が防止される。
【0063】
なお、図2(B)に示すように、先端コア48のフランジ48Cが台座44の座グリ部41Aに嵌り込むと、空気通路50の端部が閉止されるので、未加硫のタイヤ63の生ゴムが空気通路50に入り込むことは無い。
【0064】
また、先端コア48のフランジ48Cが台座44の座グリ部41Aに嵌り込むと、先端コア48のフランジ48Cの外面、台座44の外面、及びブラダー14Aの外面が面一となるので、バルブ機構42によってタイヤ内面に凹凸を形成することが無い。
【0065】
タイヤ63の加硫が終了すると、ブラダー14A内の空気が排出されてブラダー14Aが縮小され、ブラダー14Aの外面がタイヤの内面から離間する。これにより、バルブ機構42は、先端コア48がタイヤ内面から離れるので、バルブ機構内部のコイルスプリング56の作用によって先端コア48がブラダー外面から突出して空気通路50の端部が開口し、加硫済みのタイヤ63とブラダー14Aとの間に外気(大気)を流入させることができる。
このようにして外部の空気をバルブ機構42を介してタイヤ63とブラダー14Aとの間に流入させることができるので、タイヤ63とブラダー14Aとの密着によるタイヤ63の変形不良を防止することができ、タイヤ63やブラダー14Aに強い力を掛ける事無く成形型ユニット12からスムースにタイヤ63を取り出すことが出来る。
また、先端コア48の側部に空気通路50の端部が開口しているが、空気通路50に空気が出入りすることで、空気通路50に異物が詰まることも軽減される。
【0066】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る加硫装置10を図5にしたがって説明する。なお、第1の実施形態と同一構成には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0067】
図5に示すように、本実施形態の加硫装置10では、ホース54の端部に、開閉弁(電磁弁)64及び切替弁(電磁弁)66を介して吸引ポンプ68、及びエアコンプレッサー70が接続されている。
【0068】
本実施形態では、ブラダー14Aを拡張する際に、開閉弁64を開け、切替弁66を吸引ポンプ68側に切り替え、吸引ポンプ68を作動させることで、ブラダー14Aと未加硫のタイヤ63との間に溜まる空気を迅速かつ確実に吸引し、排出することができる。
【0069】
また、加硫が終了してブラダー14Aを縮小する際には、切替弁66を切り替えてエアコンプレッサー70を作動させ、ブラダー14Aとタイヤ63との間にエアコンプレッサー70からの空気を強制的、且つ迅速に流入させる。これにより、ブラダー14Aをタイヤ内面から容易かつ確実に離間させることが出来る。
このため、加硫終了後のタイヤ63のクラウン部に強い力がかかり変形させてしまう不良の発生を防止することができる。さらに、従来では、タイヤ63とブラダー14Aとを離間させ易い様に特殊な離型剤(内面液)を加硫工程前のタイヤ内面全体に塗布していたが、本実施形態によれば、ブラダー14Aとタイヤ63との間にエアコンプレッサー70からの空気を強制的に流入させることでブラダー14Aをタイヤ内面から離間させることが出来るので、加硫工程前に行う離型剤の塗布を省略することも可能となる。
【0070】
(試験例)
本発明の効果を確かめるために、比較例の加硫装置を用いて加硫を行うと共に、本発明の適用された実施例1〜4の加硫装置を各々用いて加硫を行った。各加硫装置共に、20本のタイヤの加硫を行い、不良の発生したタイヤの数(不良本数)を調べた。
【0071】
評価方法
貫通孔の条件を変えた下表条件での各ブラダーにおいて、エアトラップによるタイヤ内面凹凸量(計測位置はタイヤのバットレス部、凹凸量はレーザー距離計にて測定。凹凸量はP−P値で、N=20個の平均値である。)、及びブラダーとタイヤとの密着によるタイヤ変形が生ずる頻度(各20本製造)を、通常実施するタイヤ内面への離型剤(内面液)塗布を実施しない条件にて確認した。内面凹凸量は、比較例のタイヤ内面の凹凸量を100とする指数で評価した。
【0072】
実施例1:図3に示す加硫装置である。
実施例2:図6に示す加硫装置である。
実施例3:図7に示す加硫装置である。
実施例4:図8に示す加硫装置である。
比較例:図9に示すブラダーにバルブ機構の設けられていない加硫装置である。
【0073】
貫通孔の位置は、下記インデックス(%)で示す。
貫通孔位置点Xが曲線AC上にある場合
→曲線AXの長さ/曲線ACの長さ(%) 0%は点Aに一致、100%は点Cに一致
貫通孔位置点Xが曲線AB上にある場合
→曲線AXの長さ/曲線ABの長さ(%) 0%は点Aに一致、100%は点Bに一致
【0074】
【表1】

【0075】
試験の結果から、本発明の適用された実施例の加硫装置を用いることで、不良(タイヤ内面凹凸量、及び密着によるタイヤ変形)を大幅に抑えられることが分かる。
【0076】
[その他の実施形態]
上記実施形態では、バルブ機構42をブラダー14Aの点A〜点Qの間に4個設けたが、バルブ機構42の配置位置、及び配置個数はこれに限らず、バルブ機構42はブラダー14Aに5個以上設けても良く、4個未満でも良く、点A〜点Q以外の位置に設けても良い。
上記実施形態では、ホース54のブラダー側の端部にバルブ機構42を取り付け、ブラダー14Aの拡張完了時にタイヤ63のゴムがホース内に入り込まないように構成したが、ホース内にゴムが入り込まないようにホース54を閉鎖できればバルブ機構42は設けなくても良く、ホース54の反対側に開閉バルブを設けても良い。
また、タイヤ63とブラダー14Aとの間の空気が抜ければバルブ機構42は必ずしも必要でなく、ホース54を直接ブラダ14Aへ接続しても良い。
上記実施形態では、図1に示すように、未加硫のタイヤ63の内面の最も曲率半径の小さい部位と接触する部分にバルブ機構42を設けていたが、本発明はこれに限らず、例えば、特殊な形状のブラダーを用いてバットレス部63A以外の部位と最も遅く接触する部位がある場合には、この限りでは無い。このような場合には、拡張するブラダー14Aのうちで、タイヤ内面に対して最も遅く接触する部分に空気を抜くためのバルブ機構42を設けても良い。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0077】
10 加硫装置
12B 下側成形型(成形型)
12A 上側成形型(成形型)
14A ブラダー
48 先端コア(空気抜き通路部材)
54 ホース(空気抜き通路部材)
64 開閉弁(空気流入装置、吸引装置)
66 切替弁(空気流入装置、吸引装置)
68 吸引ポンプ(吸引装置)
70 エアコンプレッサー(空気流入装置)
A 点A
B 点B
C 点C
P 点P
Q 点Q

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを加硫成形する成形型と、
前記成形型に設けられ、前記成形型のタイヤ成形面に前記タイヤを押圧する拡縮可能なブラダーと、
一端が前記ブラダーに取り付けられて前記ブラダーの外周部で開口し、前記ブラダーと前記タイヤとの間の空気を排出可能な空気抜き通路部材と、
を有することを特徴とする加硫装置。
【請求項2】
前記空気抜き通路部材は、ブラダー内の空気室とは隔離されている、請求項1に記載の加硫装置。
【請求項3】
前記成形型、前記成形型内に装填された前記タイヤ、及び拡張して前記タイヤの内面に密着した前記ブラダーを、前記タイヤの回転軸に沿った断面で見たときの前記タイヤの内面と前記ブラダーのセンター面との交点を点C、前記タイヤのうちで前記ブラダーが接触するタイヤ径方向最内側接触部を点B、前記タイヤの内面で最も曲率半径の小さい部分の中心位置を点A、前記タイヤの内面において前記点Aと前記点Bとの中央位置を点P、前記タイヤの内面において前記点Aと前記点Cとの中央位置を点Qとしたときに、拡張した前記ブラダーにおける前記空気抜き通路部材の開口部は、前記点Pから前記点Qまでの範囲内に少なくとも1個配置される、請求項1または請求項2に記載の加硫装置。
【請求項4】
前記空気抜き通路部材のブラダー側の端部には、前記ブラダーの外周面から突出する第1の位置と前記ブラダーの外周面から突出しない第2の位置との間をスライドするスライド部材と、前記スライド部材を前記第2の位置から前記第1の位置へ向けて付勢する付勢手段と、前記スライド部材に設けられ、一端が前記空気抜き通路部材と連通され、他端が前記スライド部材のスライド方向と交差する方向の側部に開口し、前記スライド部材が前記第1の位置にあるときに前記ブラダーの外周面と前記タイヤとの間の空間と連通し、前記スライド部材が前記第2の位置にあるときに閉鎖される空気通路とを含んで構成されるバルブ機構が設けられている、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の加硫装置。
【請求項5】
前記空気抜き通路部材の開口は、前記ブラダーの赤道面を挟んで反対側にそれぞれ設けられている、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の加硫装置。
【請求項6】
前記空気抜き通路部材には、前記ブラダーと前記タイヤとの間の空気を吸引する吸引装置が接続されている、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の加硫装置。
【請求項7】
前記空気抜き通路部材は、前記ブラダー前記タイヤとの間へ空気を流入させる空気流入装置が接続されている、請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の加硫装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−35213(P2013−35213A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173184(P2011−173184)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】