説明

加飾シート

【課題】 射出成形同時加飾方法等の加飾成形にて、加飾シートの成形不良、成形性低下、艶消し感消失、及び白化、或いは更に成形型のコスト上昇等を起こさずに、樹脂成形品等の被着体に透明感を備えた艶消し意匠を付与する。
【解決手段】 表面から順に、艶消し剤を添加したフッ素樹脂からなる表面艶消しで透明な第1樹脂基材シート1と、艶消し剤無添加のアクリル樹脂からなる透明な第2樹脂基材シート2、更に適宜装飾層4及び接着剤層5を積層した加飾シートSを用いる。加飾成形は射出成形同時加飾等で樹脂成形物等の被着体を加飾し加飾成形品等の加飾物品を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種物品の表面への加飾技術に関する。より詳細には、射出成形同時加飾等の加飾成形に好適なラミネ−トタイプの加飾シートとして、加飾成形品の表面に艶消し意匠を付与できる加飾シートと、該シートを用いた射出成形同時加飾方法及び加飾成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂成形物等の物品の表面に加飾シートをラミネートして装飾した加飾品が各種用途で使用されている。そして、加飾シートを成形して用いる加飾法としては、例えば、特公昭50−19132号公報(例えば、特許文献1参照)、特開平11−91041号公報(例えば、特許文献2参照)等に開示される射出成形同時加飾方法があり、この方法では、樹脂成形物の成形と同時にその表面に加飾シートも成形した上で積層一体化する事で、表面が加飾された加飾成形品が得られる。
【0003】
そして、表面に艶消し感が求められる場合、例えば、次の様な方法で対処していた。(1)射出成形同時加飾方法の場合に於いて、加飾シート自体には艶消し剤は無添加とし、その射出成形型の型面に絞等の凹凸を設けておく。そして、成形時に型面の凹凸が該型面に接触する加飾シート表面に賦形される事から、加飾成形品(加飾シート)表面を凹凸面として艶消しにする。(2)表面に予めエンボス加工等で凹凸を賦形して艶消しとした艶消し剤無添加の加飾シートを用いる。(3)基材シートに艶消し剤を添加して加飾シート自体を艶消しとしておく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭50−19132号公報
【特許文献2】特開平11−91041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記(1)の方法では、射出成形同時加飾方法において、絞等の凹凸で表面艶調整(艶消し、低光沢)ができるが、艶消しの製品と鏡面の製品との2種類を製造する場合、射出成形型(少なくともキャビティ面部分)が少なくと2個必要となる為に、コストアップとなる問題があった。また、上記(2)の方法では、加飾シートが真空成形等で成形されるときに、シートを加熱軟化する熱で、加飾シート表面の凹凸が戻り、艶消しが消失して艶消し表面を付与出来なくなることがあった。更に、射出成形同時加飾の場合では、射出成形時の樹脂の熱圧でも凹凸が戻る為に、艶消し消失は更に起き易かった。また、上記(3)の方法では、表面が艶消しとなる様にする為には、基材シートへの艶消し剤の添加量(配合比率)は多くなる。しかし、そうすると、射出成形等に用いる加飾シートは、膜厚が100〜300μm程度と厚い為、厚み方向の積算拡散光量が多くなり、外観が白っぽくなったり(白化)、艶消し剤によってシートが脆くなって加飾シートの成形性が低下する。かといって、基材シートの厚みを極端に薄くすると、成形時に皺、或いは破れ等の成形不良が不足する問題が起きた。
【0006】
すなわち、本発明の課題は、加飾シートを成形して被着体を艶消しに加飾する場合に、加飾シート自体の白化(透明性低下)、成形不良(皺や破れ)、成形性低下、及び艶消し感消失を起こさないで、艶消し意匠を付与する事である。更に、加飾法が射出成形同時加飾の場合では、射出成形型のコスト上昇を起こさずに、艶消し意匠を付与する事である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、上記課題を解決すべく、本発明の加飾シートは、成形用の加飾シートにおいて、射出成形同時加飾に使用する加飾シートにおいて、表面から順に、艶消し剤を添加したフッ素樹脂からなる表面艶消しで透明な第1樹脂基材シートと、艶消し剤無添加のアクリル樹脂からなる透明な第2樹脂基材シートとを積層した積層体から成る構成とした。
【0008】
この様に、基材シートを、艶消し剤を含有させて艶消し意匠を付与する為の層(第1樹脂基材シート)と、艶消し剤を含有させずに成形性を維持する層(第2樹脂基材シート)とに分け、なお且つ艶消し剤を含有させる層(第1樹脂基材シート)は、その樹脂をフッ素樹脂としてあるので、該樹脂が持つ滑り性、耐久性によって、(第1樹脂基材シートが)薄膜でも艶消し剤の脱落や層自体の磨耗を防げる様になる。この為、成形性を維持する方の層(第2樹脂基材シート)は厚くして加飾シートとしての総厚の主体をこちらで確保出来できる様になり、この層の樹脂はアクリル樹脂として、その熱可塑性により成形性が維持される。しかもアクリル樹脂の持つ透明性、易接着性も活かせるので、艶消し剤を用いても加飾シートの外観を白化させない様にできる。また、艶消し付与は艶消し剤添加による為に、成形時に艶消しが消失する事も無い。以上の結果、加飾シートは、該シートを成形して被着体を加飾する時に、加飾シートの成形不良(皺や破れ)、成形性低下、及び艶消し感消失を起こさずに、艶消し意匠を付与できる。また、艶消しとした為に加飾シート自体が白化する事なく透明性が維持され、艶消しで透明感も備えた加飾が出来る。また、この加飾シートを射出成形同時加飾に適用すれば、加飾シート自体によって艶消し意匠を付与できるので、射出成形型で艶消し面を賦形する場合に比べて射出成形型のコスト上昇を回避して、艶消し意匠を付与できる。
【0009】
また、本発明の射出成形同時加飾方法は、上記加飾シートを、その第2樹脂基材シート側が射出樹脂側に面する向きにして、雌雄両型間に挿入した後、両型を型締めし、両型で形成されるキャビティ内に流動状態の樹脂を射出し、該樹脂を固化させた後、型開きして、樹脂成形物表面に前記加飾シートが積層された加飾成形品を得る様な方法とした。
【0010】
この様に、上記本発明の加飾シートを用いて成形するので、上述した加飾シートの効果が得られ、その結果、射出成形型のコスト上昇、成形不良(皺や破れ)、成形性低下、艶消し感消失、及び白化を起こさずに、透明感も備えられる艶消し意匠を付与できる。
【0011】
また、本発明の加飾成形品は、樹脂成形物上に、少なくとも、艶消し剤無添加のアクリル樹脂の透明な第2樹脂基材シートと、艶消し剤を添加したフッ素樹脂の表面艶消しで透明な第1樹脂基材シートとをこの順に積層して成る構成とした。
【0012】
この様な構成とすることで、加飾成形品は前記本発明の加飾シート、或いは上記本発明の射出成形同時加飾方法等を利用して得られる構成の物となり、上述した加飾シート乃至は射出成形同時加飾方法による効果が享受できる成形品となる。すなわち、製造時に発生する、射出成形型のコスト上昇、成形不良(皺や破れ)、成形性低下、艶消し感消失、及び白化(透明性低下)を防げる、透明感も備えられる艶消し意匠の成形品となる。
【発明の効果】
【0013】
(1)本発明の加飾シートによれば、成形不良(皺や破れ)、成形性低下、及び艶消し感消失を起こさずに、艶消し意匠を付与できる。また、艶消しとした為に加飾シート自体が白化する事なく透明性が維持され、艶消しで透明感も備えた加飾が出来る。また、この加飾シートを射出成形同時加飾に適用すれば、加飾シート自体によって艶消し意匠を付与できるので、射出成形型で艶消し面を賦形する場合に比べて射出成形型のコスト上昇を回避して、艶消し意匠を付与できる。
(2)また、本発明の射出成形同時加飾方法によれば、上記本発明の加飾シートによる効果が得られ、射出成形型のコスト上昇、成形不良(皺や破れ)、成形性低下、艶消し感消失、及び白化を起こさずに、透明感も備えられる艶消し意匠を付与できる。
(3)また、本発明の加飾成形品によれば、上記加飾シート乃至は射出成形同時加飾方法による効果を享受し得る。すなわち、製造時に発生する、射出成形型のコスト上昇、成形不良(皺や破れ)、成形性低下、艶消し感消失、及び白化(透明性低下)を防げる、透明感も備えられる艶消し意匠の成形品となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の加飾シートの一形態を例示する断面図。
【図2】本発明の射出成形同時加飾方法をその一形態で説明する概念図。
【図3】本発明の加飾成形品の一形態を例示する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
加飾シート:先ず、加飾シートから説明する。
【0017】
〔概要〕図1の断面図で本発明の加飾シートの一形態を例示する。同図の加飾シートSは、表面から順に、艶消し剤aを添加したフッ素樹脂からなる表面艶消しで透明な第1樹脂基材シート1と、艶消し剤無添加のアクリル樹脂からなる透明な第2樹脂基材シート2とを積層した積層体から成り、更に裏面側の第2樹脂基材シート2の面に、装飾層4及び接着剤層5をこの順に積層して成る構成の加飾シートである。装飾層4、接着剤層5はそれぞれ必要に応じ適宜設けられる層である。本発明の加飾シートSは第1樹脂基材シート1及び第2樹脂基材シート2とを必須の層とする。表面側の第1樹脂基材シート1で艶消し意匠を付与し、裏面側の第2樹脂基材シート2で成形性等を維持する。上記特定の第1樹脂基材シート1と特定の第2樹脂基材シート2とで基材シート3が構成される。
【0018】
なお、本発明の加飾シートは、必須の層である第1樹脂基材シート1及び第2樹脂基材シート2以外に、更に適宜、装飾層4や接着剤層5等を設けても良いが、これら以外にも、図示は省くが、例えば、第1樹脂基材シート1と第2樹脂基材シート2間、第2樹脂基材シート2と装飾層4間等に、層間密着性向上の為のプライマー層等を設けた構成等としても良い。
【0019】
〔第1及び第2樹脂基材シート〕本発明では基材シート3は、第1樹脂基材シート1と第2樹脂基材シート2とから構成する。基材シート3の表面(被着体に積層した状態で最外面に露出する面)側に艶消し剤aを添加した透明なフッ素樹脂からなる第1樹脂基材シート1を配置する。これによって、表面への艶消しと、フッ素樹脂が持つ耐摩耗性及び耐熱耐薬品性によって、表面の艶消し意匠をより良好に維持できる様にした。この結果、他の樹脂を用いる場合に比べて、第1樹脂基材シートは艶消し意匠を維持したまま、より薄くできる様になる。そして、基材シート3の裏面側には、艶消し剤無添加の透明なアクリル樹脂から成る第2樹脂基材シート2を配置する。これによって、透明性、成形性(熱可塑性)、被着体との易接着性を付与する。また、上記第1樹脂基材シートがフッ素樹脂使用によって薄膜とできる分、こちらの第2樹脂基材シートで加飾シートとして必要な総厚を主体的に担わせることが可能なる。
【0020】
第1樹脂基材シートの厚みとしては、要求される艶消し度合いによって設定すれば良く、一般的には50μm以下にすれば性能を満足することが多い。なお、第1樹脂基材シートの最低厚みは、艶消し剤の平均粒径よりは大で、且つ成膜性、膜強度の点から10μm程度以上が好ましい。
【0021】
一方、艶消し剤を添加しない方の第2樹脂基材シートの厚みとしては、こちらで第1樹脂基材シート等の厚みと含めて加飾シートとしての成形性維持等に必要な総厚を確保すれば良く、一般的には50〜200μm程度の範囲である。
【0022】
なお、第1樹脂基材シートにて、そのフッ素樹脂に添加する艶消し剤aとしては、特に制限は無いが、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、アルミノシリケート、硫酸バリウム等の無機物、ポリエチレン、ウレタン樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド(ナイロン)等の有機高分子等、から成る粒子が用いられる。粒子の平均粒径は1〜10μm程度、添加量は5〜30質量%程度である。なお、粒子の形状は、多面体、球形、鱗片状等である。
【0023】
なお、第1樹脂基材シートと第2樹脂基材シートとを積層するには、特にフッ素樹脂は化学的な易接着性に乏しい為、これら両シートとなる樹脂を各々加熱熔融した状態で、Tダイから共押出しして、成膜と同時に両シートを融着する方法が好ましい。また、この他、既に一旦成膜済みシートを用い、接着面をコロナ放電処理、プラズマ処理等の表面易接着処理によって、ヒドロキシル基、カルボキシル基等の極性官能基を接着面に生成させて濡れ性を高めた上で、2液硬化型ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の接着剤層を介して、ドライラミネーション法により積層することも出来る。
【0024】
なお、第1樹脂基材シートに用いるフッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、ポリ塩化3フッ化エチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体等を用いることができる。なお、耐摩耗性、耐熱耐薬品性を損なわない範囲で、最大20質量%程度までアクリル樹脂を添加し、アクリル樹脂の第2樹脂基材シートとの易接着性を向上させても良い。
【0025】
また、第2樹脂基材シートに用いるアクリル樹脂としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、エチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート−スチレン共重合体、メチル(メタ)アクリレート−2ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート−エチレン共重合体等のアルキル(メタ)アクリレートモノマーの単独重合体、又は他のモノマーとの共重合体からなる樹脂を、単独で、又はこれら二種以上を混合して、用いることができる。
【0026】
〔装飾層〕装飾層4は、必要に応じ適宜設ける。装飾層4は、例えば代表的には模様や文字等の絵柄を表現する層である。絵柄は任意であるが、例えば、木目、石目、布目、砂目、幾何学模様、文字、記号、全面ベタ等が、用途に合わせて、1種又は2種以上組み合わせて使用される。装飾層の形成は、グラビア印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷等の印刷法等の従来公知の形成方法、材料で形成すれば良い。また、アルミニウム、クロム等の金属を公知の蒸着法等で部分又は全面に形成した金属薄膜層等も装飾層として使用される。
【0027】
なお、装飾層形成用のインキは、バインダー等からなるビヒクル、顔料や染料等の着色剤、これに適宜加える各種添加剤からなるが、バインダーの樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、セルロース系樹脂、塩素化ポリプロピレン、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等より選択される1種単独の樹脂、又は2種以上の混合樹脂が用いられる。また、着色剤としては、例えば、チタン白、亜鉛華、カーボンブラック、鉄黒、弁柄、カドミウムレッド、群青、コバルトブルー、黄鉛、チタンイエロー等の無機顔料、フタロシアニンブルー、インダスレンブルー、イソインドリノンイエロー、ベンジジンイエロー、キナクリドンレッド、ペリレンレッド等の有機顔料、アルミニウム、真鍮等の金属の粉末又は鱗片等の金属顔料、二酸化チタン被覆雲母の粉末又は鱗片等の真珠光沢(パール)顔料、或いは染料等が用いられる。
【0028】
なお、第2樹脂基材シートに接して装飾層を印刷形成する場合、用いるインキのバインダーの樹脂としては、該第1樹脂基材シートがアクリル樹脂から成るので、アクリル樹脂は好ましい樹脂である。該アクリル樹脂としては、前記第1樹脂基材シートにて列記したものと同様のものの中から適宜選択する他、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等の分子中に水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルとを共重合させて得られるアクリルポリオールを用いることも出来る。
【0029】
なお、装飾層は、第1及び第2樹脂基材シートを保護シートとして利用できる点で、図1で例示の構成の如く、第1樹脂基材シート2の裏面側(樹脂成形物側)とする構成が一般的であるが、第1樹脂基材シート1の表面側、或いは第1樹脂基材シート1と第2樹脂基材シート2間等に設けても良い。例えば、図1の構成に対して更に、或いは第1樹脂基材シート1及び第2樹脂基材シート2のみからなる構成等に対して、第1樹脂基材シート1の表面に、その艶消しの為の凹凸を損なわない範囲で、薄く、或いはパターン状に、装飾層を設ける等である(図示略)。
【0030】
また、装飾層としては、単に絵柄や文字、図形等の目視可能な模様を表現する層以外に、目視不可能な模様、あるいは導電性等の機能性を付与する層でも良い。例えば、導電体、帯電防止剤、蛍光体、磁性体、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤等を含有する層である。上記着色剤の代わりにこれら物質を含有するインキを用いれば、これら層は形成できる。
【0031】
〔接着剤層〕加飾シートの裏面側は、必要に応じ適宜、樹脂成形物等の被着体との接着性を向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、プライマー塗工等の易接着処理の他、これら易接着処理を処理後或いは処理せずに、接着剤層5を設けても良い。接着剤層5としては、例えば感熱型の接着剤として熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の公知の樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂では、例えば、アクリル樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ウレタン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ゴム系樹脂等の1種又は2種以上の混合物が用いられる。また、熱硬化性樹脂では、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が用いられる。接着剤層は、これら樹脂による接着剤を、グラビア印刷、ロールコート等の公知の印刷又は塗工法により形成する。また、接着剤層の厚さは特に制限は無いが、通常は1〜100μm程度である。また、接着剤層中には、前記装飾層で列記した様な着色剤を添加しても良い。
【0032】
〔加飾シートの被着体への積層法〕本加飾シートを被着体へ積層する方法としては、積層時に熱及び圧が加飾シートに加わる方法が、本発明の加飾シートの特徴を活かせる方法として好適であるが、もちろん、これ以外の積層方法に本発明の加飾シートを用いても良い。なお、もちろん、いずれの場合も、第1樹脂基材シートに対して第2樹脂基材シート側が被着体側となる。加飾シートを被着体へ積層する事によって、被着体と加飾シートとの積層体として加飾物品が得られる。
【0033】
被着体に加飾シートを積層時に熱圧が加わる積層方法としては、例えば、(1)射出成形同時加飾方法、(2)真空成形積層方法、(3)弾性体ローラを用いた積層方法等が挙げられる。(1)は後で詳述するので、ここでは、(2)と(3)の積層法を更に説明しておく。
【0034】
(2)の真空成形積層方法は、特公昭56−45768号公報(オーバーレイ法)、特公昭60−58014号公報(真空プレス法)等に記載されるように、成形品等の立体形状の被着体の表面に加飾シートを間に接着剤を介して対向又は載置し、被着体側からの少なくとも真空吸引による圧力により加飾シートを被着体に積層する方法である。(3)の弾性体ローラを用いた積層方法は、板状の被着体に対しては、加飾シートを間に接着剤を介して対向又は載置し、加飾シート側から弾性体ローラで加圧して、加飾シートを被着体に積層する方法である。また、円柱、多角柱等の柱状の被着体に対しては、特公昭61−5895号公報、特公昭56−23771号公報等に記載されるように、柱状の被着体の長軸方向に、加飾シートを間に接着剤層を介して供給しつつ、複数の向きの異なるローラ(弾性体ローラを使用しない場合も含む)により、被着体を構成する複数の側面に順次加飾シートを加圧接着して加飾シートを積層してゆく、ラッピング加工方法もある。
【0035】
射出成形同時加飾方法:本発明の射出成形同時加飾方法は、前述した本発明の加飾シートを用いて、所謂射出成形同時加飾方法によって、樹脂成形物の表面に加飾シートを成形して積層する事で、該加飾シートで艶消し意匠に加飾された加飾成形品を得る方法である。
【0036】
なお、射出成形同時加飾方法とは、特公昭50−19132号公報、特公昭43−27488号公報等に記載されるように、加飾シートを雌雄両型間に挿入した後、両型を型締めし、両型で形成されるキャビティ内に流動状態の樹脂を射出し固化させて、樹脂成形物の成形と同時にその表面に加飾シートを積層して加飾成形品を得る方法である。
【0037】
本発明の射出成形同時加飾方法は、用いる加飾シートとして前述した本発明の加飾シートを用いる事以外は、従来公知の射出成形同時加飾方法に於ける各種形態をとり得るものである。例えば、基本的には、加飾シートの予備成形を行う形態でも行わない形態でも、いずれでも良い。また、加飾シートの予熱を行っても良く、行わなくても良い。なお、予備成形時には通常は加飾シートは予熱する。但し、前記本発明の加飾シートによる効果を最大限に活用するには、加飾シートはいずれにしろ成形される形態が好ましい。
【0038】
なお、もちろんの事だが、加飾シートの絞りが大きい場合は、予備成形を行うのが好ましい。一方、加飾シートの絞りが少ない場合は、射出される流動状態の樹脂の樹脂圧のみで加飾シートを成形しても良い。この際、絞りが浅ければ、予備成形無しで樹脂射出と同時に型内に充填される流動状態の樹脂の樹脂圧のみで加飾シートを成形しても良い。また、樹脂圧で加飾シートを成形する場合でも、加飾シートは予熱せずに射出樹脂の熱を利用する事もある。また、加飾シートの予備成形は、通常は、射出成形型を真空成形型と兼用して行うが、型間に加飾シートを供給する前に、型外部で別の真空成形型で加飾シートを真空成形する様な予備成形(オフライン予備成形)でも良い。但し、予備成形は、射出成形型と真空成形型とを兼用して行う形態が効率的且つ精度良く加飾シートを積層できる点で好ましい。しかし、予備成形済みの加飾シートを予め別の場所で纏めて製造しておく場合等では、予備成形はオフライン予備成形の形態が好ましい。なお、本発明の説明に於いて真空成形とは真空圧空成形も包含する。
【0039】
図2の概念図によって、本発明の射出成形同時加飾方法を、その或る一形態で説明する。なお、ここで説明する形態は、型締めする前に、加飾シートを型間で加熱し軟化させて射出成形型で真空成形により予備成形した後に、型締めして樹脂を射出する形態である。また、この形態は、上記した加飾シートの予備成形、予熱の各種組合わせ形態の中で、加飾シートの絞りが深い場合に、より好ましい形態である。また、前記本発明の加飾シートの効果を活かせる形態の一つでもある。なお、本発明の射出成形同時加飾方法で用いる加飾シートは、枚葉、連続帯状のどちらでも良い事はもちろんである。
【0040】
先ず、図2(A)の如く、射出成形型としては、射出ノズルと連通する湯道(ランナー)及び湯口(ゲート)を有する型Maと、キャビティ面に吸引孔41を有しシートの予備成形型を兼用する型Mbの一対の成形型を用いる。これらの型は鉄等の金属、或いはセラミックスからなる。型開き状態に於いて両型Ma、Mb間に加飾シートSを供給し、型Mbに加飾シートSを平面視枠状のシートクランプ42で押圧する等して固定する。この際、加飾シートの(第1樹脂基材シートに対して)第2樹脂基材シート側は、図面右側の射出樹脂側を向く様にする事はもちろんである。次いで、適宜、両型間に挿入したヒータ(図示略)で加飾シートを加熱軟化させる。加熱は例えば非接触の輻射加熱とするが、接触による伝導加熱でも良い。そして、吸引孔から吸引して真空成形して、加飾シートを型Mbのキャビティ面に沿わせ予備成形する。次いで、ヒータを両型間から退避させ、図2(B)の如く両型を型締めし、両型で形成されるキャビティに加熱熔融状態等の流動状態の樹脂を充填する。そして、樹脂が冷却等によって固化した後、型開きして成形物を取り出す。そして、加飾シートの不要部分は適宜トリミングすれば、樹脂成形物に加飾シートが積層され構成の加飾成形品が得られる。
【0041】
〔射出樹脂〕なお、本発明の射出成形同時加飾方法に於いては、射出成形する樹脂としては、基本的には特に制限はなく公知の樹脂で良い。製品の要求物性やコスト等に応じて選定すれば良い。熱可塑性樹脂であれば、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂等である。また、硬化性樹脂であれば、2液硬化型の樹脂、例えば、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の未硬化樹脂液等である。熱可塑性樹脂は加熱熔融して流動状態で射出し、また硬化性樹脂は(その未硬化物を)室温又は適宜加熱して流動状態で射出する。なお、射出樹脂は、用途に応じて適宜、着色剤を添加して着色した樹脂を使用しても良い。着色剤には、前述装飾層で述べた如き公知の着色剤を使用すれば良い。また、射出樹脂には、必要に応じ適宜、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の無機物粉末、ガラス繊維等の充填剤、安定剤、滑剤等の公知の各種添加剤を含有させる。
【0042】
加飾成形品:本発明の加飾成形品は、樹脂成形物上に、少なくとも、艶消し剤無添加のアクリル樹脂の透明な第2樹脂基材シートと、艶消し剤を添加したフッ素樹脂の表面艶消しで透明な第1樹脂基材シートとをこの順に積層することで、表面が艶消し意匠に加飾された成形品である。この様な構成の本発明の加飾成形品は、樹脂成形物上に、例えば好適には前述本発明の加飾シートを積層すれば得られる。また、その積層法としては、例えば上述本発明の射出成形同時加飾方法を利用できる。もちろん、本発明の加飾成形品は、前述本発明の加飾シート、或いは上述本発明の射出成形同時加飾方法を利用せずに、他の材料(例えば第1樹脂基材シートと第2樹脂基材シートとを別々に樹脂成形物に積層する)、他の方法(例えば真空成形積層方法)によって製造した物でも良い。但し、もちろん、本発明の射出成形同時加飾方法で製造するのが、成形と加飾とを同時に1工程で出来、生産効率も良い等の点で好ましい。
【0043】
図3の断面図で例示する本発明の加飾成形品Pは、その一形態を例示するものであり、樹脂成形物6上に、接着剤層5、装飾層4、第2樹脂基材シート2、及び第1樹脂基材シート1が、この順に積層された構成の成形品である。樹脂成形物6上の各層は、例えば図1の加飾シートSが積層された構成となっている。
【0044】
樹脂成形物6の樹脂は、前述本発明の射出成形同時加飾方法で述べた射出樹脂等であり、第2樹脂基材シート2及び第1の樹脂基材シート1は前述本発明の加飾シートで述べた基材シートであるので、ここでは更なる説明は省略する。なお、前述本発明の加飾シートで述べた同様に、本発明の加飾成形品においても、図3に例示の如く、必要に応じ適宜、装飾層、接着剤層等のその他の層を更に設けた構成としても良い。
【0045】
なお、加飾成形品は、通常、加飾シートの積層面が凹凸面等と非平面の立体物である。しかし、本発明の加飾成形品としては、加飾シートの積層面は平面だが他の面が非平面の立体物、積層面が平面となる板状物を排除するものではない。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳述する。
【0047】
〔実施例1〕図1の如き構成の加飾シートSを次の様にして作製した。ポリフッ化ビニリデンからなる透明フッ素樹脂100質量部に対して艶消し剤aとして平均粒径3μmのシリカ粒子20質量部を添加した樹脂組成物と、ポリメチルメタクリレート系の透明なアクリル樹脂とを熔融共押出しして、厚さ10μmの第1樹脂基材シート1と厚さ90μm第2樹脂基材シート2とが熔融接着した基材シート3を得た。次いで、この基材シート3の第2樹脂基材シート2側の面に、木目模様の絵柄を表現した装飾層4を3色のグラビア印刷で形成し、更に、アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体と1対1質量比からなる厚さ4μの接着剤層5を2色のグラビア印刷で全面に形成して、加飾シートを得た。なお、装飾層形成に用いたインキは、バインダーの樹脂はアクリル樹脂を主成分とし、着色剤はイソインドリノンイエロー、キナクリドンレッド及びカーボンブラックを主成分とするインキを使用した。また、接着剤層は、1色目は、チタン白、イソインドリノンイエロー及びキナクリドンレッドを主成分とする着色剤を添加したインキを使用し、2色目は着色剤無添加のインキを使用した。接着剤層の各色はそれぞれ厚さ2μmである。
【0048】
そして、図2の概念図に示した様な本発明の射出成形同時加飾方法によって、上記加飾シートを樹脂成形物の成形と同時にその表面に積層して、図3に示す如き構成となる本発明の加飾成形品Pを得た。なお、射出成形同時加飾方法は、射出成形の雌型を真空成形型として、加飾シートを型間に挿入後、加熱軟化して真空成形で予備成形する形態で行った。加飾シートの予備成形は、赤外線輻射加熱によりシート温度110℃に加熱した後、雌型側から真空吸引して加飾シートを雌型キャビティ面に沿わせる様にした。その後、射出樹脂温度240℃で耐熱ABS樹脂(耐熱温度95℃)を、型温度70℃の条件で射出し、加飾シートを樹脂成形物とを一体化して加飾成形品を成形した。なお、射出成形型には、キャビティ面が鏡面仕上げで、幅40mm、長さ400mmの車両内装用パネルを成形する型を用いた。
【0049】
射出成形同時加飾時に、加飾シートの皺や破れは無く、しかも、得られた加飾成形品の外観は木目模様の表面が艶消しとなっており、しかも木目模様の白く見える白化も認められなかった。
【0050】
〔比較例1〕実施例1に於いて、基材シート3として、ポリメチルメタクリレート系の透明なアクリル樹脂100質量部に対して艶消し剤として平均粒径3μmのシリカ粒子20質量部を添加した樹脂組成物から成膜した厚さ125μmの樹脂シートを用いて加飾シートを作製した。しかし、この加飾シートは、艶消し効果が強すぎて基材シートの白化により木目模様が白く見えてしまい意匠外観上不良であり、これ以上の成形品試作までの評価は不必要と判断した。
【0051】
〔比較例2〕実施例1に於いて、基材シート3として、ポリメチルメタクリレート系の透明なアクリル樹脂100質量部に対して艶消し剤として平均粒径3μmのシリカ粒子20質量部を添加した樹脂組成物から成膜した厚さ30μmの樹脂シートを用いて加飾シートを作製し、更に射出成形同時加飾にて加飾成形品を作製した。その結果、基材シートによる木目模様の白化は認められ無かった。しかし、射出成形同時加飾の際に、射出樹脂の樹脂圧により、加飾シートが伸ばされて皺がよってしまった。
【符号の説明】
【0052】
1 第1樹脂基材シート
2 第2樹脂基材シート
3 基材シート
4 装飾層
5 接着剤層
6 樹脂成形物
41 吸引孔
42 シートクランプ
a 艶消し剤
Ma 射出成形型(雄型)
Mb 射出成形型(雌型)
P 加飾成形品
S 加飾シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形用の加飾シートにおいて、
表面から順に、艶消し剤を添加したフッ素樹脂からなる表面艶消しで透明な第1樹脂基材シートと、艶消し剤無添加のアクリル樹脂からなる透明な第2樹脂基材シートとを積層した積層体から成る加飾シート。
【請求項2】
請求項1記載の加飾シートを、その第2樹脂基材シート側が射出樹脂側に面する向きにして、雌雄両型間に挿入した後、両型を型締めし、両型で形成されるキャビティ内に流動状態の樹脂を射出し、該樹脂を固化させた後、型開きして、樹脂成形物表面に前記加飾シートが積層された加飾成形品を得る、射出成形同時加飾方法。
【請求項3】
樹脂成形物上に、少なくとも、艶消し剤無添加のアクリル樹脂の透明な第2樹脂基材シートと、艶消し剤を添加したフッ素樹脂の表面艶消しで透明な第1樹脂基材シートとをこの順に積層して成る加飾成形品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−236421(P2012−236421A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−178621(P2012−178621)
【出願日】平成24年8月10日(2012.8.10)
【分割の表示】特願2000−386375(P2000−386375)の分割
【原出願日】平成12年12月20日(2000.12.20)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】