説明

加飾印刷方法

【課題】インクジェット印刷機の機構を複雑にしたり、複雑な制御を行なったりしなくても、被印刷面上においてインクの着弾位置がばらつく範囲を狭くして、加飾用の印刷皮膜を形成する。
【解決手段】加飾印刷方法では、曲面状に湾曲した板状の本体部13を少なくとも備える被印刷物12が印刷対象とされるとともに、本体部13の厚み方向についての一方の面(上面)の少なくとも一部が被印刷面21とされる。そして、インクジェット印刷機のインクジェットヘッド31からインクが被印刷面21に向けて噴射されて、その被印刷面21に加飾用の印刷皮膜が形成される。上記加飾印刷方法の実施に際しては、本体部13に外力が加えられることにより、被印刷面21が平面に近づく側へ本体部13が一時的に弾性変形させられる(図3(B))。この状態で、インクの噴射が行なわれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲面状に形成された板状の本体部を少なくとも備える被印刷物を印刷対象とするとともに、その本体部の厚み方向についての一方の面の少なくとも一部を被印刷面とし、インクジェット印刷により、被印刷面に加飾用の印刷皮膜を形成する加飾印刷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用内装品であるコンソールリッド、アームレストのパネル、センターコンソールのパネル等には、合成樹脂製の基材に木目調等の加飾が施されるものがある。この加飾を行なう方法の1つに、本杢と呼ばれる薄い板材を基材に貼付けるものがあるが、高価である。そこで、これに代わる加飾方法の1つとして、インクジェット印刷機を用いた加飾印刷方法(インクジェット印刷法)が考えられている。これは、インクジェットヘッドから各色のインクを被印刷面に向けて噴射させ、同インクを硬化させて被印刷面に加飾用の印刷皮膜を形成するものである。この加飾印刷方法によれば、上記本杢を基材に貼付けるものに比べて低コストで加飾を行なうことができる。
【0003】
上記加飾印刷方法は、周知のように、本来は、紙等、平面状の被印刷面に対し印刷を行なう場合を前提としている。この前提のもとでは、インクジェットヘッドを被印刷面に接近させた状態で移動させることができる。インクジェットヘッドから被印刷面までの距離は、被印刷面の部位に拘らず一定で短い。そのため、インクジェットヘッドから噴射されたインクの飛行距離・時間が短く、同インクが空気、風等といった周囲の影響を受けにくい。従って、インクを被印刷面の狙った箇所に比較的正確に着弾させることが可能である。
【0004】
ところが、非平面状の被印刷面を有する被印刷物の中には、インクジェットヘッドから被印刷面までの距離が短い部位と長い部位とで、その距離の差が大きなものがある。例えば、上述したコンソールリッド、アームレストのパネル、センターコンソールのパネル等の車両用内装品がこれに該当する。この場合、距離の短い部位では、インクが被印刷面に着弾するまでの距離・時間が短く、インクが空気の抵抗や風から受ける影響が小さく、被印刷面上において着弾位置がばらつく範囲は狭い。しかし、インクジェットヘッドから被印刷面までの距離が長くなるに従い、インクが被印刷面に着弾するまでの距離・時間が長くなり、インクが空気の抵抗や風から受ける影響が無視できないほど大きくなる。その結果、インクが被印刷面の狙いとする位置から大きくずれた箇所に着弾する。すなわち、着弾位置がばらつく範囲が許容範囲を越えて広くなる。インクが所定の印刷領域からはみ出して着弾し、印刷領域の見切り(非印刷領域や隣の印刷領域との境界部分)が不鮮明になるおそれがある。
【0005】
そこで、例えば特許文献1では、インクの噴射に際し、インクジェットヘッド及び被印刷物の両方を変位させて、インクジェットヘッドから被印刷面までの距離を略一定に保つことで、擬似的に平面に印刷する状態を作り出している。これにより、インクが被印刷面に着弾するまでの距離・時間のばらつきを小さくし、インクが空気の抵抗や風から受ける影響を小さくして、被印刷面上において着弾位置がばらつく範囲を狭くすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−246855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記特許文献1に記載された加飾印刷方法では、インクジェットヘッド及び被印刷物の両方を変位させながらインクジェットヘッドからインクを噴射するため、インクジェット印刷機の機構や制御が複雑になるという問題がある。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、インクジェット印刷機の機構を複雑にしたり、複雑な制御を行なったりしなくても、被印刷面上においてインクの着弾位置がばらつく範囲を狭くして、加飾用の印刷皮膜を形成することのできる加飾印刷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、曲面状に湾曲した板状の本体部を少なくとも備える被印刷物を印刷対象とするとともに、前記本体部の厚み方向についての一方の面の少なくとも一部を被印刷面とし、インクジェット印刷機のインクジェットヘッドからインクを前記被印刷面に向けて噴射して、同被印刷面に加飾用の印刷皮膜を形成する加飾印刷方法であって、前記インクの噴射は、前記本体部に外力を加えることにより、前記被印刷面が平面に近づく側へ前記本体部を一時的に弾性変形させた状態で行なわれることを要旨とする。
【0010】
上記の加飾印刷方法では、インクジェットヘッドからインクが被印刷面に向けて噴射される際には、本体部に外力が加えられることにより、同本体部が一時的に弾性変形させられる。この弾性変形により、本体部の被印刷面が平面に近づく。これに伴い、インクジェットヘッドから被印刷面までの距離が最も短い部位でのその距離と、最も長い部位での距離との差は、弾性変形前よりも弾性変形後で小さくなる。従って、弾性変形前には、インクジェットヘッドから被印刷面までの距離が最も長い部位であっても、弾性変形後には、被印刷面をインクジェットヘッドに近づけ、上記距離を短くすることが可能となる。これを実施すると、弾性変形前には、インクジェットヘッドから被印刷面までの距離が長い部位であっても、同距離が短い部位と同様、弾性変形後には、インクが被印刷面に着弾するまでの距離・時間が短く、インクが空気の抵抗や風から受ける影響が小さくなる。インクが被印刷面の狙いとする位置の近くに着弾し、被印刷面上において着弾位置がばらつく範囲が狭くなる。
【0011】
その結果、被印刷面上においてインクの着弾位置がばらつく範囲を狭くして、加飾用の印刷皮膜を形成するために、インクジェット印刷機の機構を複雑にしたり、複雑な制御を行なったりしなくてもすむ。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記被印刷物は、前記本体部を被着体に取付けるための取付け脚部を、前記本体部の厚み方向についての他方の面側にさらに備えており、前記本体部の弾性変形は、前記取付け脚部を通じて前記本体部に外力が加えられることによりなされることを要旨とする。
【0013】
上記の加飾印刷方法では、インクの噴射時には、被印刷物に既設の取付け脚部を通じて本体部に外力が加えられる。この外力により本体部が一時的に弾性変形させられて、被印刷面が平面に近づく。このように既設の取付け脚部が利用されるため、外力を本体部に加える箇所を被印刷物に別途設ける手間が解消又は軽減される。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記被印刷面は、前記本体部の中央部側ほど前記インクジェットヘッドとの距離が短くなる凸状の曲面からなり、前記取付け脚部は複数設けられており、そのうちの2つは、前記本体部の中央部を挟んで対向する箇所において、前記インクジェットヘッドから遠ざかる側へ突設されており、前記本体部の弾性変形は、前記2つの取付け脚部に対し、それらの間隔が拡がる方向へ外力が加えられることによりなされることを要旨とする。
【0015】
被印刷面が、本体部の中央部側ほどインクジェットヘッドとの距離が短くなる凸状の曲面からなる請求項3に記載の発明では、2つの取付け脚部に対し、それらの間隔が拡がる方向へ外力が加えられる。この外力により、本体部の取付け脚部との連結部分において本体部が押圧され、被印刷面が平面に近づくように本体部が一時的に弾性変形させられる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記被印刷面は、前記本体部の中央部側ほど前記インクジェットヘッドとの距離が短くなる凸状の曲面からなり、前記取付け脚部は複数設けられており、そのうちの2つは、前記本体部の前記中央部を挟んで対向する箇所において、前記インクジェットヘッドから遠ざかる側へ突設されており、前記本体部の弾性変形は、前記2つの取付け脚部が、前記インクジェットヘッドから遠ざかる方向への移動不能に支持され、この状態で、前記本体部の前記中央部又はその周辺箇所に対し、前記インクジェットヘッドから遠ざかる方向へ外力が加えられることによりなされることを要旨とする。
【0017】
被印刷面が、本体部の中央部側ほどインクジェットヘッドとの距離が短くなる凸状の曲面からなる請求項4に記載の発明では、本体部において、中央部を挟んで対向する箇所に設けられた2つの取付け脚部が、インクジェットヘッドから遠ざかる方向への移動不能に支持される。この状態で、本体部の中央部又はその周辺箇所に対し、インクジェットヘッドから遠ざかる方向へ外力が加えられる。この外力により、本体部が中央部又はその周辺箇所においてインクジェットヘッドから遠ざかる方向へ引っ張られ、被印刷面が平面に近づくように本体部が一時的に弾性変形させられる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記被印刷面は、前記本体部の中央部側ほど前記インクジェットヘッドとの距離が長くなる凹状の曲面からなり、前記本体部の弾性変形は、前記本体部の外端部において、前記中央部を挟んで対向する箇所が、前記インクジェットヘッドに近づく方向への移動不能に支持され、この状態で、前記本体部の中央部又はその周辺箇所に対し、前記インクジェットヘッドに近づく方向へ外力が加えられることによりなされることを要旨とする。
【0019】
被印刷面が、本体部の中央部側ほどインクジェットヘッドとの距離が長くなる凹状の曲面からなる請求項5に記載の発明では、本体部の外端部において、中央部を挟んで対向する箇所が、インクジェットヘッドに近づく方向への移動不能に支持される。この状態で、本体部の中央部又はその周辺箇所に対し、インクジェットヘッドに近づく方向へ外力が加えられる。この外力により、本体部が中央部又はその周辺箇所においてインクジェットに近づく方向へ押圧され、被印刷面が平面に近づくように本体部が一時的に弾性変形させられる。
【0020】
なお、請求項5に記載の発明における被印刷物としては、例えば、透明な樹脂によって形成され、表面が意匠面とされ、裏面が被印刷面とされるものが挙げられる。この場合、被印刷面に印刷皮膜が形成された製品は、その表面(意匠面)側から被印刷物を通じて裏面の印刷皮膜が視認されることとなる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記本体部の前記外端部において、前記一方の面側の角部には、同一方の面よりも他方の面側へ偏倚した箇所に支持面を有する段差部が設けられており、前記本体部の前記外端部の支持は、押え治具の爪部が前記段差部に配置されて、前記支持面において前記本体部を前記一方の面側から受け止めることによりなされることを要旨とする。
【0022】
上記の方法によれば、本体部の外端部がインクジェットヘッドに近づく方向への移動不能に支持される際には、押え治具の爪部が、本体部の外端部において一方の面(被印刷面)側の角部に設けられた段差部に配置される。そして、本体部は、支持面において爪部により一方の面側から受け止められる。
【0023】
ここで、本体部を受け止める爪部が段差部に配置されることから、こうした段差部のない場合に比べ、爪部において本体部の被印刷面よりもインクジェットヘッド側へ突出する部分が少なくなる。そのため、爪部がインクジェットヘッドの作動の妨げとなりにくい。
【0024】
上記本体部の弾性変形は、請求項7に記載の発明によるように、前記インクジェットヘッドから前記被印刷面までの距離が7mm未満となるように行なわれることが望ましい。この条件を満たすと、インクジェットヘッドから噴射されたインクが空気の抵抗や風から受ける影響が比較的小さく、被印刷面上において着弾位置がばらつく範囲が許容範囲に収まる。
【0025】
これに対し、インクジェットヘッドが被印刷面から7mm以上離れると、噴射されたインクが空気の抵抗や風から受ける影響が無視できないほど大きくなって、被印刷面上において着弾位置がばらつく範囲が許容範囲を越えて広くなる。インクが被印刷面の狙いとする位置から大きくずれた箇所に着弾する。すなわち、インクが所定の印刷領域からはみ出して着弾する。その結果、印刷領域の見切り(非印刷領域や隣の印刷領域との境界部分)が不鮮明になるおそれがある。
【発明の効果】
【0026】
本発明の加飾印刷方法によれば、インクジェット印刷機の機構を複雑にしたり、複雑な制御を行なったりしなくても、被印刷面上においてインクの着弾位置がばらつく範囲を狭くして、加飾用の印刷皮膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態を示す図であり、加飾印刷方法が適用されて被印刷物の本体部の表面に印刷皮膜が形成された車両用内装品の概略構成を示す斜視図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】第1実施形態を示す図であり、(A)は被印刷物を弾性変形させる前の状態を示す断面図、(B)は同被印刷物を弾性変形させた状態を示す断面図。
【図4】本発明を具体化した第2実施形態を示す図であり、加飾印刷方法が適用されて被印刷物の本体部の裏面に印刷皮膜が形成された車両用内装品の概略構成を示す斜視図。
【図5】図4のB−B線断面図。
【図6】第2実施形態における被印刷物を弾性変形させる前の状態を示す断面図。
【図7】第2実施形態における被印刷物を弾性変形させた状態を示す断面図。
【図8】第1実施形態の変更例を示す断面図。
【図9】第2実施形態の変更例を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1実施形態)
以下、本発明の加飾印刷方法を車両用内装品に適用した第1実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。
【0029】
まず、加飾印刷方法の適用対象となる車両用内装品11について、図1及び図2を参照して説明する。この車両用内装品11は、車両に設けられる内装品のうち、(i)比較的大型であること、(ii)表面及び裏面の少なくとも一方が曲面状に湾曲していること、(iii )表面及び裏面の一方に木目模様等の加飾が施されるものであること、といった条件を満たしているものである。これらの条件(i)〜(iii )を満たす車両用内装品としては、例えば、コンソールリッド(肘掛け、小物入れ等の蓋)、ドアに取付けられるアームレストのパネル、センターコンソールのパネル等が挙げられる。ここでは、センターコンソールのパネルを例に採って説明する。
【0030】
上記車両用内装品11について、印刷皮膜23が形成される前の状態のものが被印刷物12となる。被印刷物12の主要部は、板状をなす本体部13によって構成されている。
本体部13は長尺状をなし、シフトレバーを案内するガイド孔14、各変速レンジを示す文字の印刷されたパネルが組付けられる長孔15等を有している。本体部13は、その厚み方向が車両上下方向と合致し、長手方向が車両前後方向と合致し、短手方向が車幅方向と合致する姿勢で車両(センターコンソールの本体部分)に組付けられる。
【0031】
本体部13は曲面状に湾曲している。より詳しくは、本体部13(ただし、ガイド孔14、長孔15等を除く)の厚み方向についての両面である表面16(図2の上面)及び裏面17(図2の下面)は、本体部13の短手方向についての中央部18で高さが最も高く、中央部18から短手方向へ離れるに従い高さが徐々に低くなるように上方へ緩やかに膨らむ凸状の曲面となっている。上記高さは、本体部13の短手方向についての両外端部19において最も低くなっている。これに対し、上記本体部13の表面16及び裏面17の高さは、本体部13の長手方向については略均一となっている。
【0032】
ここで、図3(A),(B)に示すように、上記本体部13では、表面16が車両用内装品11の意匠面とされている。そして、この本体部13の意匠面のうち、短手方向についての外端部19を除く大部分が被印刷面21とされている。後述するインクジェット印刷機のインクジェットヘッド31を基準とすると、上記被印刷面21は、本体部13の短手方向については、同本体部13の中央部18側ほどインクジェットヘッド31との距離が短くなる凸状の曲面によって構成されている。
【0033】
なお、本体部13の表面16(意匠面)のうち、短手方向についての両外端部19を被印刷面21としないのは、次の理由による。従来技術として、本杢と呼ばれる薄い板材を基材(本体部13)に貼付けて木目調等の加飾を施す方法があることについては前述したとおりである。この加飾方法は、車両用内装品11を家具調にして高級感を付与する点で優れているが、本杢を撓ませるにも限度がある。基材に大きく湾曲した箇所(本実施形態では、本体部13の両外端部19がこれに該当する)があると、その湾曲面に追従させて本杢を撓ませて貼付けることが難しい。
【0034】
一方、上記本杢を貼付ける加飾方法に代わるものとして採用している本実施形態のインクジェット印刷法では、この本杢を貼付けたものと同様の加飾を行なうことを目指している。そのため、上述したように、本実施形態では、短手方向についての両外端部19を被印刷面21の対象としていない。
【0035】
上記被印刷面21において、上記短手方向について高さが最も高い部位(中央部18)から、高さが最も低い部位(外端部19)までの距離をD1とすると、本実施形態では、この距離D1が、2mm〜15mmの範囲の値となっている。
【0036】
被印刷物12は、さらに、上記本体部13を被着体(センターコンソールの本体部分)に取付けるためのクリップ座等からなる複数の取付け脚部22を、本体部13の裏面17側に備えている。各取付け脚部22は、インクジェットヘッド31から遠ざかる方向である下方へ向けて突出している。これらの取付け脚部22は従来品と同様、既設のものであり、新たに設けられたものではない。これらの取付け脚部22及び本体部13は、合成樹脂を型成形することによって一体に形成されている。本実施形態では、上記複数の取付け脚部22のうちの少なくとも2つは、本体部13の短手方向についての中央部18を挟んで同短手方向に対向する箇所に設けられている。この2つの取付け脚部22は、本体部13の短手方向についての外端面19Aに近い箇所に位置している。この2つの取付け脚部22は、例えば、同外端面19Aから30mm離れた箇所よりも外端面19Aに近い箇所に位置していることが望ましい。各取付け脚部22が上記外端面19Aから30mm以上離れていると、両取付け脚部22に外力を加えても、被印刷面21が平面に近づく側へ本体部13を意図するだけ弾性変形させることが難しいからである。
【0037】
本実施形態では、上述したように被印刷物12の表面16を意匠面かつ被印刷面21とし、ここに加飾印刷方法を適用して印刷皮膜23を形成するようにしている。そのため、この印刷皮膜23よりも下側に位置するものは、意匠面側から視認されない。従って、被印刷物12の形成に用いられる樹脂は、透明であってもよいし、不透明であってもよい。
【0038】
本実施形態の加飾印刷方法の実施にはインクジェット印刷機が用いられる。インクジェット印刷機は、制御装置(図示略)からの指令信号に応じて作動する複数(図3(A),(B)では1つのみ図示)の噴射部32を有するインクジェットヘッド31を備えている。各噴射部32は、インクを微滴化して液滴にし、これを被印刷物12の被印刷面21に向けて噴射する。
【0039】
また、インクジェット印刷機は、インクジェットヘッド31の移動機構(図示略)を備えている。この移動機構は、本体部13の被印刷面21の外縁21Aから所定の距離だけ上方へ離れた水平面において、インクジェットヘッド31を本体部13の短手方向(図3(A),(B)の左右方向)に往復動させるとともに、同インクジェットヘッド31を本体部13の長手方向(図3(A),(B)の紙面に直交する方向)へ移動させるためのものである。この移動機構により、上記水平面上におけるインクジェットヘッド31の位置が可変とされることで、固定された被印刷物12の被印刷面21に、木目模様、銘石(大理石等)模様等の所定の模様を有する印刷皮膜23を形成可能である。
【0040】
さらに、上記インクジェット印刷機には、被印刷物12を移動不能に保持する保持部(図示略)が設けられている。
ここで、被印刷物12が上記の形態、すなわち、本体部13が上側となり、取付け脚部22が下側となる姿勢で配置され、距離D1が2mm〜15mmとなっている形態で保持部によって保持されているものと仮定する。そして、本体部13の短手方向について、インクジェットヘッド31から被印刷面21までの距離が最も長い部位(外縁21A)でのその距離を、距離D2とする。本実施形態では、この距離D2が7mm〜17mmの範囲の値となる箇所、すなわち、上記外縁21Aから距離D2だけ上方へ離れた水平面においてインクジェットヘッド31が水平方向へ移動(本体部13の短手方向への往復動、長手方向への移動)するように、インクジェットヘッド31の上下位置が設定されている。
【0041】
仮に、上記インクジェット印刷機を作動させて、インクジェットヘッド31の噴射部32からインクを被印刷物12の被印刷面21に向けて噴射すると、上述した従来技術と同様の現象が起こる。これは、インクジェットヘッド31から被印刷面21までの距離が最も短い部位(中央部18)と最も長い部位(外縁21A)とで、その距離の差が大きい(距離D2が長い)からである。
【0042】
すなわち、インクが空気の抵抗や風から受ける影響が無視できないほど大きくなって、インクが被印刷面21の狙いとする位置から大きくずれた箇所に着弾し、着弾位置がばらつく範囲が許容範囲を越えて広くなる。インクが所定の印刷領域からはみ出して着弾し、印刷領域の見切り(非印刷領域や隣の印刷領域との境界部分)が不鮮明になるおそれがある。
【0043】
そこで、本実施形態では、加飾印刷方法の一部について工夫することで、上記の問題に対処するようにしている。
次に、第1実施形態の作用として、上記インクジェット印刷機を用いて、被印刷物12の被印刷面21に加飾用の印刷皮膜23を形成する加飾印刷方法について説明する。
【0044】
この加飾印刷方法の実施に際しては、図3(A)に示すように、被印刷物12の厚み方向を上下方向に合致させる。この状態で、治具(図示略)を用いて、2つの取付け脚部22に対し、図3(B)に示すように、同両取付け脚部22の下端部間の間隔Aが拡がる方向へ外力を加える。この外力により、本体部13が、両取付け脚部22の設けられた箇所において押上げられる。この押上げにより、本体部13が一時的に弾性変形させられ、被印刷面21が平面に近づく。上記の押上げは、本体部13について、次の条件が満たされるまで行なわれる。
【0045】
条件1:被印刷面21において、短手方向について高さが最も高い部位(中央部18)から、高さが最も低い部位(外縁21A)までの距離D1が5mm以下であること。
条件2:本体部13の短手方向について、インクジェットヘッド31から被印刷面21までの距離が最も長い部位(外縁21A)でのその距離D2が7mm未満であること。
【0046】
弾性変形により本体部13の被印刷面21が上記のように平面に近づくと、インクジェットヘッド31から被印刷面21までの距離が最も短い部位(中央部18)でのその距離と、最も長い部位(外縁21A)での距離との差は、弾性変形前よりも弾性変形後で小さくなる。表現を変えると、弾性変形前には、インクジェットヘッド31から被印刷面21までの距離が最も長い部位(外縁21A)であっても、弾性変形後にはその距離が短くなって、インクジェットヘッド31から被印刷面21までの距離が最も短い部位でのその距離に近づく。
【0047】
そして、上記被印刷物12と、両取付け脚部22の間隔Aが拡がる方向へ外力を加えた治具とを、インクジェット印刷機の保持部により移動不能に保持する。これにより、本体部13が弾性変形させられた上記の状態に保持される。
【0048】
次に、移動機構により、インクジェットヘッド31を本体部13の短手方向へ往復動させるとともに、これに直交する方向(本体部13の長手方向)へ移動させながら、インクジェットヘッド31の噴射部32から被印刷面21に向けてインクを噴射させる。
【0049】
従って、弾性変形前には、上記のように、インクジェットヘッド31から被印刷面21までの距離が長い部位(外縁21A)であっても、同距離が短い部位(中央部18)と同様、弾性変形後には、インクが被印刷面21に着弾するまでの距離・時間が短く、インクが空気の抵抗や風から受ける影響が小さくなる。インクが被印刷面21の狙いとする位置の近くに着弾し、被印刷面21上において着弾位置がばらつく範囲が狭くなる。
【0050】
なお、上述した条件2が満たされないと、すなわち、インクジェットヘッド31が被印刷面21から7mm以上離れていると、噴射されたインクが空気の抵抗や風から受ける影響が無視できないほど大きくなって、被印刷面21上において着弾位置がばらつく範囲が許容範囲を越えて広くなる。如何に、被印刷面21が平面状となるように本体部13が弾性変形させられても、インクが被印刷面21の狙いとする位置から大きくずれた箇所に着弾する。すなわち、インクが所定の印刷領域からはみ出して着弾する。その結果、印刷領域の見切り(非印刷領域や隣の印刷領域との境界部分)が不鮮明になるおそれがある。
【0051】
上記被印刷面21に着弾したインクが硬化することで、被印刷面21上に所望の厚みの印刷皮膜23が形成される。
印刷皮膜23の形成後、間隔Aを拡げる方向へ向かう外力が、両取付け脚部22に加えられなくなる。すると、本体部13は自身の弾性復元力により、上述した図3(A)の状態に戻る。これに伴い、両取付け脚部22も図3(A)の状態に戻る。
【0052】
以上詳述した第1実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)被印刷物12の本体部13に外力を加えることにより、被印刷面21が平面に近づく側へ本体部13を一時的に弾性変形させる(図3(B))。この状態で、インクジェットヘッド31からインクを被印刷面21に向けて噴射させるようにしている。
【0053】
そのため、弾性変形前には、インクジェットヘッド31から被印刷面21までの距離D2が長い部位(外縁21A)であっても、弾性変形後には、インクが被印刷面21に着弾するまでの距離・時間を短くし、インクが空気の抵抗や風から受ける影響を小さくすることができる。インクを被印刷面21の狙いとする位置の近くに着弾させ、被印刷面21上において着弾位置がばらつく範囲を狭くすることができる。
【0054】
従って、被印刷面21上においてインクの着弾位置がばらつく範囲を狭くして、加飾用の印刷皮膜23を形成するために、インクジェット印刷機の機構を複雑にしたり、複雑な制御を行なったりしなくてもすむ。
【0055】
(2)被印刷物12の本体部13の裏面17に元々取付け脚部22が設けられていることに着目し、この取付け脚部22を通じて本体部13に外力を加えることにより、本体部13を弾性変形させて、被印刷面21を平面に近づけるようにしている(図3(B))。
【0056】
このように既設の取付け脚部22を利用しているため、外力を本体部13に加える箇所を被印刷物12に別途設ける手間が解消又は軽減される。
(3)本体部13の短手方向について、被印刷面21が、同本体部13の中央部18側ほどインクジェットヘッド31との距離が短くなる凸状の曲面からなるものを被印刷物12とする。この被印刷物12の弾性変形に際し、本体部13の中央部18を挟んで同短手方向について対向する箇所に位置する両取付け脚部22に対し、同両取付け脚部22の間隔Aが拡がる方向へ外力を加えるようにしている(図3(B))。
【0057】
このように、両取付け脚部22に対し、それらの間隔Aが拡がる方向へ外力を加えるといった簡単な作業を行なうだけで、本体部13において両取付け脚部22との連結部分を押上げて、被印刷面21が平面に近づくように本体部13を一時的に弾性変形させることができる。
【0058】
(4)インクジェットヘッド31から被印刷面21までの距離が7mm未満となるように、本体部13を弾性変形させている(図3(B))。
このため、インクジェットヘッド31から噴射されたインクが空気の抵抗や風から受ける影響を比較的小さくし、被印刷面21上において着弾位置がばらつく範囲を許容範囲に収めることができる。
【0059】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態について、図4〜図7を参照して説明する。
第2実施形態では、被印刷物12における板状の本体部13が、ポリカーボネート等の透明な樹脂材料によって形成されている。この本体部13では表面16(図4及び図5の上面)が意匠面とされている。また、裏面17(図5の下面)のうち本体部13の短手方向についての両外端部19を除く大部分が被印刷面21とされて、ここに印刷皮膜23が形成されている。そして、被印刷物12を表面16(意匠面)側から見た場合に、透明な本体部13を通じて、裏面17の被印刷面21に形成された印刷皮膜23が見えるようにされている。
【0060】
被印刷物12は、第1実施形態とは異なり、本体部13の裏面17側に取付け脚部22を備えていない。これは、取付け脚部22があると、透明な本体部13を通じて取付け脚部22が透過して見えてしまい、見栄えが低下するためである。
【0061】
この被印刷物12の被印刷面21にインクジェット印刷機を用いて印刷する際には、同被印刷物12を第1実施形態とは上下逆に配置、すなわち、図6に示すように被印刷面21が上側となり、表面16(意匠面)が下側となるように被印刷物12が配置される。このとき、インクジェット印刷機のインクジェットヘッド31を基準とすると、上記被印刷面21は、本体部13の短手方向については、本体部13の中央部18側ほどインクジェットヘッド31との距離が長くなる凹状の曲面によって構成されている。
【0062】
また、上記の姿勢を採っている被印刷物12の短手方向について、被印刷面21中、高さが最も低い部位(中央部18)から、高さが最も高い部位(外縁21A)までの距離D1(図示略)は、第1実施形態と同様、2mm〜15mmの範囲の値となっている。
【0063】
ここで、被印刷物12が上記の形態、すなわち、裏面(被印刷面21)が上側となり、表面16(意匠面)が下側となる姿勢で配置され、距離D1が2mm〜15mmとなっている形態で、インクジェット印刷機の保持部によって保持されているものと仮定する。そして、本体部13の短手方向について、インクジェットヘッド31から被印刷面21までの距離が最も長い部位(中央部18)でのその距離を、距離D2とする。本実施形態では、この距離D2が7mm〜17mmの範囲の値となる箇所、すなわち、上記中央部18から距離D2だけ上方へ離れた水平面においてインクジェットヘッド31が水平方向へ移動(本体部13の短手方向への往復動、長手方向への移動)するように、インクジェットヘッド31の上下位置が設定されている。
【0064】
仮に、インクジェットヘッド31の噴射部32からインクを上記被印刷物12の被印刷面21に向けて噴射すると、インクジェットヘッド31から被印刷面21までの距離が最も短い部位(外縁21A)と最も長い部位(中央部18)とで、その距離の差が大きい(距離D2が長い)ことから、上述した従来技術と同様の現象が起こる。
【0065】
そこで、本実施形態では、加飾印刷方法の一部について第1実施形態に準じた工夫をすることで、上記の問題に対処するようにしている。
次に、第2実施形態の作用として、上記インクジェット印刷機を用いて、被印刷物12(本体部13)の被印刷面21に加飾用の印刷皮膜23を形成する加飾印刷方法について説明する。
【0066】
この加飾印刷方法の実施に際しては、図6に示すように、裏面17(被印刷面21)が上側となり、表面16(意匠面)が下側となるように被印刷物12が配置される。
本体部13の外端部19であって、その本体部13の短手方向についての中央部18を挟んで対向する箇所が、インクジェットヘッド31に近づく方向への移動不能に支持される。この支持には、例えば、図6に示す一対の押え治具33が用いられる。各押え治具33は、本体部13の短手方向についての外端部19の外側方に配置される本体部34と、その本体部34のインクジェットヘッド31側端部(上端部)から内側方へ突出する爪部35とを備えて構成されている。そして、各押え治具33の爪部35が本体部13の短手方向についての外端部19のインクジェットヘッド31側(上側)に配置される。両押え治具33の爪部35により、被印刷物12(本体部13)がインクジェットヘッド31側(上側)から受け止められる。
【0067】
この状態で、図7に示すように、本体部13の短手方向についての中央部18又はその周辺箇所に対し、インクジェットヘッド31に近づく方向へ外力が加えられる。この外力により、本体部13が、短手方向についての中央部18又はその周辺箇所において押上げられ、一時的に弾性変形させられる。これに伴い、被印刷面21が平面に近づく。上記の押上げは、本体部13について、上記条件1及び条件2に準ずる次の条件1A及び条件2Aが満たされるまで行なわれる。
【0068】
条件1A:被印刷面21において、短手方向について高さが最も低い部位(中央部18)から、高さが最も高い部位(外縁21A)までの距離D1(図示略)が5mm以下であること。
【0069】
条件2A:本体部13の短手方向について、インクジェットヘッド31から被印刷面21までの距離が最も長い部位(中央部18)でのその距離D2が7mm未満であること。
弾性変形により本体部13の被印刷面21が上記のように平面に近づくと、インクジェットヘッド31から被印刷面21までの距離が最も短い部位(外縁21A)でのその距離と、最も長い部位(中央部18)での距離D2との差は、弾性変形前よりも弾性変形後で小さくなる。従って、弾性変形前には、インクジェットヘッド31から被印刷面21までの距離が最も長い部位(中央部18)であっても、弾性変形後にはその距離が短くなって、インクジェットヘッド31から被印刷面21までの距離が最も短い部位でのその距離に近づく。
【0070】
そして、上記被印刷物12、上記両押え治具33等を、インクジェット印刷機の保持部により移動不能に保持する。この保持により、本体部13が弾性変形させられた上記の状態に保持される。
【0071】
次に、移動機構により、インクジェットヘッド31を本体部13の短手方向へ往復動させるとともに、これに直交する方向(本体部13の長手方向)へ移動させながら、インクジェットヘッド31の噴射部32から被印刷面21に向けてインクを噴射させる。
【0072】
従って、弾性変形前には、上記のように、インクジェットヘッド31から被印刷面21までの距離が長い部位であっても、同距離が短い部位と同様、弾性変形後には、インクが被印刷面21に着弾するまでの距離・時間が短く、インクが空気の抵抗や風から受ける影響が小さくなる。インクが被印刷面21の狙いとする位置の近くに着弾し、被印刷面21上において着弾位置がばらつく範囲が狭くなる。
【0073】
上記被印刷面21に着弾したインクが硬化することで、被印刷面21上に所望の厚みの印刷皮膜23が形成される。
従って、第2実施形態によれば、上記(1),(4)と同様の効果が得られるほか、次の効果が得られる。
【0074】
(5)本体部13の短手方向について、被印刷面21が、同本体部13の中央部18側ほどインクジェットヘッド31との距離が長くなる凹状の曲面からなるものを被印刷物12とする。この被印刷物12の弾性変形に際し、本体部13の外端部19において、中央部18を挟んで対向する箇所を、インクジェットヘッド31に近づく方向への移動不能に支持し、この状態で、本体部13の中央部18又はその周辺箇所に対し、インクジェットヘッド31に近づく方向へ外力を加えるようにしている(図7)。
【0075】
このように、本体部13の外端部19を支持し、本体部13の中央部18又はその周辺箇所に外力を加えるといった簡単な作業を行なうだけで、本体部13を中央部又はその周辺箇所においてインクジェットヘッド31に近づく方向へ押上げて、被印刷面21が平面に近づくように本体部13を一時的に弾性変形させることができる。
【0076】
(6)被印刷物12(本体部13)を透明な樹脂によって形成し、その表面16を意匠面とし、かつ裏面17を被印刷面21としている。そのため、被印刷物12を表面16側(意匠面側)から見た場合、その被印刷物12を通じて、裏面側の被印刷面21に形成された印刷皮膜23を立体的に見えるようにすることができる。
【0077】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
<第1実施形態に関する事項>
・第1実施形態の変更例として、被印刷面21が平面に近づく側へ本体部13を弾性変形させる方法を変更してもよい。
【0078】
図8はその一例を示している。この図8では、本体部13において、短手方向についての中央部18を挟んで対向する箇所に設けられた2つの取付け脚部22が、インクジェットヘッド31から遠ざかる方向(図8の下方)への移動不能に支持される。この支持は、例えば治具36等を用いて取付け脚部22を押えることによってなされる。そして、この状態で、本体部13の短手方向についての中央部18又はその周辺箇所に対し、インクジェットヘッド31から遠ざかる方向へ外力が加えられる。例えば、本体部13の裏面17(図8の下面)であって短手方向についての中央部18又はその周辺箇所に突部24が設けられている場合には、この突部24がインクジェットヘッド31から遠ざかる方向へ引っ張られてもよい。
【0079】
このように外力が加えられると、本体部13が中央部18又はその周辺箇所においてインクジェットヘッド31から遠ざかる方向へ引っ張られ、被印刷面21が平面に近づくように本体部13が一時的に弾性変形させられる。
【0080】
そのため、このように変更した場合であっても上記第1実施形態と同様の効果が得られる。
・第1実施形態における加飾印刷方法は、その実施時に、本体部13の表面16が、同本体部13の中央部18で高さが最も高く、その中央部18から短手方向及び長手方向の少なくとも一方へ離れるに従い高さが徐々に低くなるように上方へ緩やかに膨らむ凸状の曲面となっている被印刷物12に適用可能である。
【0081】
<第2実施形態に関する事項>
・第2実施形態では、図6に示すように、押え治具33における爪部35が被印刷物12(本体部13)の裏面17(被印刷面21)からインクジェットヘッド31側へ少なからず突出する。この突出量によっては、爪部35が、水平方向への移動するインクジェットヘッド31と干渉するおそれがある。この干渉を避けるために、インクジェットヘッド31を、被印刷面21から爪部35の厚みT分遠ざかる箇所で移動させる必要が生じてくる。そして、このことが印刷品質の低下を招く一因となり得る。
【0082】
そこで、爪部35の突出量がインクジェットヘッド31との干渉を招くおそれのあるような量である場合には、図9に示すように、被印刷物12(本体部13)の外端部19であって裏面17側の角部25に、同裏面17よりも表面16側へ偏倚した箇所に支持面26を有する段差部27が設けられてもよい。
【0083】
このように変更された場合、本体部13の外端部19がインクジェットヘッド31に近づく方向への移動不能に支持される際には、押え治具33の爪部35が、被印刷物12(本体部13)の外端部19において段差部27に配置される。そして、被印刷物12(本体部13)は、支持面26において爪部35により裏面17側(インクジェットヘッド31側)から受け止められる。
【0084】
上述したように、本体部13を受け止める爪部35が段差部27に配置されることから、こうした段差部27のない場合に比べ、爪部35において被印刷物12(本体部13)の被印刷面21よりもインクジェットヘッド31側へ突出する部分が少なくなる。そのため、爪部35とインクジェットヘッド31との干渉が抑制され、爪部35がインクジェットヘッド31の作動の妨げとなりにくくなる。
【0085】
・第2実施形態において、被印刷物12を形成する透明な樹脂として、アクリル樹脂等、同第2実施形態とは異なる種類の樹脂が用いられてもよい。
・第2実施形態において適用可能な被印刷物12としては、上述したもの以外にも、例えば、車両用のオーナメント、エンブレム、フロントグリルガーニッシュ等の車両用装飾部材が挙げられる。
【0086】
・第2実施形態において、被印刷物12(本体部13)の弾性変形に際し、本体部13の中央部又はその周辺箇所がインクジェットヘッド31から遠ざかる方向への移動不能に支持され、両押え治具33がインクジェットヘッド31から遠ざかる方向へ引っ張られてもよい。
【0087】
・第2実施形態における加飾印刷方法は、その実施時に、本体部13の裏面17が、同本体部13の中央部18で高さが最も低く、その中央部18から短手方向及び長手方向の少なくとも一方へ離れるに従い高さが徐々に高くなるように下方へ緩やかに凹む凹状の曲面となっている被印刷物12に適用可能である。
【0088】
<第1及び第2実施形態に関する事項>
・本体部13の外端部19についても他の箇所と同様、被印刷面21とされてもよい。
・一般に、車両用内装品では、剛性を高める目的でリブが設けられる。このリブによる剛性を高める機能を弱めることで、被印刷物12を弾性変形しやすくすることが可能である。例えば、リブに切欠きを形成したり、リブの高さや大きさを制限したりすることで、被印刷物12を弾性変形しやすくすることができる。
【0089】
・被印刷物12として、樹脂とは異なる材料、例えば、木材、金属、セラミックス等によって形成されたものが用いられてもよい。
・印刷皮膜23の耐摩性、耐候性(耐溶剤性、耐薬品性等を含む)等の向上を目的として、その印刷皮膜23上に表面保護層(トップコート)がさらに形成されてもよい。
【0090】
・本発明の加飾印刷方法は、車両用内装品とは異なる製品に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0091】
12…被印刷物、13…本体部、18…中央部、19…外端部、21…被印刷面、22…取付け脚部、23…印刷皮膜、25…角部、26…支持面、27…段差部、31…インクジェットヘッド、33…押え治具、35…爪部、A…間隔、D1,D2…距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面状に湾曲した板状の本体部を少なくとも備える被印刷物を印刷対象とするとともに、前記本体部の厚み方向についての一方の面の少なくとも一部を被印刷面とし、インクジェット印刷機のインクジェットヘッドからインクを前記被印刷面に向けて噴射して、同被印刷面に加飾用の印刷皮膜を形成する加飾印刷方法であって、
前記インクの噴射は、前記本体部に外力を加えることにより、前記被印刷面が平面に近づく側へ前記本体部を一時的に弾性変形させた状態で行なわれることを特徴とする加飾印刷方法。
【請求項2】
前記被印刷物は、前記本体部を被着体に取付けるための取付け脚部を、前記本体部の厚み方向についての他方の面側にさらに備えており、
前記本体部の弾性変形は、前記取付け脚部を通じて前記本体部に外力が加えられることによりなされる請求項1に記載の加飾印刷方法。
【請求項3】
前記被印刷面は、前記本体部の中央部側ほど前記インクジェットヘッドとの距離が短くなる凸状の曲面からなり、
前記取付け脚部は複数設けられており、そのうちの2つは、前記本体部の中央部を挟んで対向する箇所において、前記インクジェットヘッドから遠ざかる側へ突設されており、
前記本体部の弾性変形は、前記2つの取付け脚部に対し、それらの間隔が拡がる方向へ外力が加えられることによりなされる請求項2に記載の加飾印刷方法。
【請求項4】
前記被印刷面は、前記本体部の中央部側ほど前記インクジェットヘッドとの距離が短くなる凸状の曲面からなり、
前記取付け脚部は複数設けられており、そのうちの2つは、前記本体部の前記中央部を挟んで対向する箇所において、前記インクジェットヘッドから遠ざかる側へ突設されており、
前記本体部の弾性変形は、前記2つの取付け脚部が、前記インクジェットヘッドから遠ざかる方向への移動不能に支持され、この状態で、前記本体部の前記中央部又はその周辺箇所に対し、前記インクジェットヘッドから遠ざかる方向へ外力が加えられることによりなされる請求項2に記載の加飾印刷方法。
【請求項5】
前記被印刷面は、前記本体部の中央部側ほど前記インクジェットヘッドとの距離が長くなる凹状の曲面からなり、
前記本体部の弾性変形は、前記本体部の外端部において、前記中央部を挟んで対向する箇所が、前記インクジェットヘッドに近づく方向への移動不能に支持され、この状態で、前記本体部の中央部又はその周辺箇所に対し、前記インクジェットヘッドに近づく方向へ外力が加えられることによりなされる請求項1に記載の加飾印刷方法。
【請求項6】
前記本体部の前記外端部において、前記一方の面側の角部には、同一方の面よりも他方の面側へ偏倚した箇所に支持面を有する段差部が設けられており、
前記本体部の前記外端部の支持は、押え治具の爪部が前記段差部に配置されて、前記支持面において前記本体部を前記一方の面側から受け止めることによりなされる請求項5に記載の加飾印刷方法。
【請求項7】
前記本体部の弾性変形は、前記インクジェットヘッドから前記被印刷面までの距離が7mm未満となるように行なわれる請求項1〜6のいずれか1つに記載の加飾印刷方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−170876(P2012−170876A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34810(P2011−34810)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】