説明

加飾成形体

【課題】天然石を用いたような模様を有し、また色調の再現性が高く、さらに材料コストを抑えることができる加飾成形体を提供する。
【解決手段】半透明の熱硬化性樹脂からなる表面層と、この表面層の裏面に積層された加飾層と、この加飾層の裏面に積層され、着色された熱硬化性樹脂からなる色調調整層と、この色調調整層の裏面に積層され、繊維強化樹脂からなる補強層とを備えた加飾成形体において、前記加飾層は、ガラス破砕物を含有する熱硬化性樹脂からなることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴室などに使用される加飾成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユニットバスなどには、透明または半透明の表面層と、柄入りの加飾層と、繊維強化樹脂からなる補強層とで構成された加飾成形体が用いられている。この加飾成形体は、加飾層の柄を視認させることによって、高級感や深みを出すことができ、また、この加飾層によって補強層を隠蔽することもできる。
【0003】
このような加飾層としては、加飾成形体に天然石の高級感を与えることを目的として、天然破砕石と短繊維とを含有した砕石模様シートが用いられている(例えば、特許文献1)。この加飾層が積層された加飾成形体を量産するためには、この砕石模様シートに天然石を大量に必要とするが、天然石は自然物であるために同じ色調のものを大量入手することが困難であった。また、天然石の色を変えることはできないため、加飾層の色調を制御することができないという問題があった。
【0004】
これらの問題を解決するために、破砕した着色ゲルコートを熱硬化性樹脂中に混入させた加飾層が提案されている(例えば、特許文献2)。この加飾層に用いられる着色ゲルコートは、天然石と似たような質感を与えることができ、また天然石とは異なり人工的に製造でき、さらに着色具合によって色調を制御することができる。
【特許文献1】特開平1−257046号公報
【特許文献2】特開平7−108618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述した加飾成形体の着色ゲルコートを破砕して得られる破砕物は、大小様々な大きさになることから、加飾成形体の見栄えを良くするためには、一定粒度に選別して使用する必要がある。従って、破砕物のうち粒径の小さいものは、加飾成形体に使用することができない他、着色ゲルコートは、熱硬化特性を有するために、加熱溶融による再利用ができないといった問題があった。このように上記した粒径の小さな着色ゲルコートの破砕物は、再利用することが難しく、大部分が廃棄されることとなり、材料コストを上げる要因となっていた。
【0006】
また、製品によっては、破砕物の粒径が大きいものばかりを必要とすることもあり、この場合には、使用されない小さな破砕物の量は通常のものよりも増加してしまう。この結果、着色ゲルコートからとれる破砕物の歩留りがさらに低下して、材料コストを上げてしまっていた。
【0007】
本発明は係る実情に鑑みてなされたもので、その目的は、天然石を用いたような模様を有し、また色調の再現性が高く、さらに材料コストを抑えることができる加飾成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の加飾成形体は、半透明の熱硬化性樹脂からなる表面層と、この表面層の裏面に積層された加飾層と、この加飾層の裏面に積層され、着色された熱硬化性樹脂からなる色調調整層と、この色調調整層の裏面に積層され、繊維強化樹脂からなる補強層とを備えた加飾成形体において、前記加飾層は、ガラス破砕物を含有する熱硬化性樹脂からなることを特徴とする。
【0009】
このような本発明によれば、半透明の表面層と、ガラス破砕物を含有する加飾層と、着色された色調調整層と、補強層とで構成されたものであるから、天然石を用いたような模様にすることができるとともに、色調調整層の着色で色調を制御することができるため、色調再現性を高くすることができる。また、加飾層に用いられているガラス破砕物は、生産過程で発生した不要な破片を、再生ガラス原材料として再利用することができるため、材料コストを抑えることができる。
【0010】
また、前記表面層と前記加飾層との間に、透明または半透明の繊維強化樹脂からなる中間層が設けられたものであってもよい。
【0011】
この場合、加飾層を構成するガラス破砕物と熱硬化性樹脂とが熱膨張などの原因で剥離し、加飾層内に亀裂が発生したとしても、加飾層に隣接する中間層がこの亀裂の伝播を防ぐことで、加飾成形体の表面まで亀裂が成長することがない。また、表面層に傷が入ったとしても、その傷が加飾層に到達するのを防ぐことができる。このため、カビが加飾成形体の内部に侵入することがなく、衛生的な状態を維持することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の加飾成形体は、天然石を用いたような模様を有し、また色調の再現性が高く、さらに材料コストを抑えることができるといった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明における加飾成形体の一実施形態を示す断面図である。
【0015】
本発明の加飾成形体1は、表面層2と、この表面層2の裏面に積層された加飾層3と、この加飾層3の裏面に積層された色調調整層4と、この色調調整層4の裏面に積層された補強層5とを備えている。
【0016】
上記表面層2は、加飾成形体1の表面を傷などから保護するための層である。表面層2としては、熱硬化性樹脂であれば特に限定するものではなく、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂などを単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。また、熱硬化性樹脂は、シリカなどを配合することで増粘させてゲルコートとしてもよい。さらに、この熱硬化性樹脂には、屈折率を下げるためにメタクリル酸モノマーを含んだものが好ましい。この表面層2の熱硬化性樹脂の屈折率を下げて、水の屈折率に近い値に調節することによって、加飾成形体1の表面が乾いた状態と濡れた状態とで加飾層3の見え方を変えることができるため、それぞれの状態での意匠感を変えることができる。この熱硬化性樹脂に使用される硬化剤としては、従来公知のものが使用できる。
【0017】
表面層2の厚さとしては、特に限定されるものではないが、あまり薄すぎると、表面層2を通して視認される加飾層3の模様に深みがなくなり、また厚すぎると、コストアップをまねくことから、0.3〜10mmが範囲として好適である。
【0018】
表面層2を半透明にする方法は、特に限定するものではなく、例えば、表面層2の表面に凹凸を形成することで可視光を拡散反射させて半透明にする方法、または透明熱硬化性樹脂に不透明な熱硬化性樹脂を添加して半透明にする方法などがあげられる。上記後者のような不透明な透明熱硬化性樹脂としては、特に限定されず、例えば、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂に、充填剤、顔料、硬化促進剤などを混合したものが使用される。また、透明熱硬化性樹脂に添加する不透明熱硬化性樹脂の量は、1〜5重量%とするのが好ましい。表面層2における半透明の度合は、ヘイズ値にして30〜70の範囲が好ましく、後述する加飾層3および色調調整層4の色調、形状などが鮮明には見えない程度で、且つ、破砕物の存在が認識できるようにわずかに透けて見える程度とするのが好ましい。
【0019】
上記加飾層3は、加飾成形体1に砕石模様を施すための層で、透明な熱硬化性樹脂中にガラス破砕物31が分散された構造となっている。加飾層3に用いられる熱硬化性樹脂としては、特に限定しないが、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂およびウレタンアクリレート樹脂などを単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。また、この熱硬化性樹脂には、屈折率を下げるためにメタクリル酸モノマーを含んだものが好ましい。この加飾層3の熱硬化性樹脂の屈折率を下げて、水の屈折率に近い値に調節することによって、加飾成形体1の表面が乾いた状態と濡れた状態とで加飾層3の見え方を変えることができるため、それぞれの状態での意匠感を変えることができる。この熱硬化性樹脂に使用される硬化剤としては、従来公知のものが使用できる。
【0020】
上記ガラス破砕物31としては、特に限定しないが、アルカリ成分を含んでいないガラスを使用するとよく、これにより、ガラス破砕物31からアルカリ成分が溶出するおそれがなくなり、加飾層3内のガラス破砕物31と樹脂との界面での剥離を防止することができる。加飾層3に用いられるガラス破砕物31の大きさは、半透明の表面層2から視認できるように、2.5〜10mm程度のものを用いることが好ましく、また加飾層3に用いられる熱硬化性樹脂の厚さは、ガラス破砕物31が完全に埋没するように、ガラス破砕物31の大きさよりも厚くすることが好ましい。ガラス破砕物31にはシランカップリング処理を行うのが好ましく、この処理により樹脂とガラスとの初期密着強度を高めることができるだけでなく、長期にわたって強度を保持することができる。
【0021】
上記色調調整層4は、加飾成形体1の色調を調節するとともに、補強層5を隠蔽するための層であり、着色された熱硬化性樹脂が使用される。色調調整層4としては、熱硬化性樹脂であれば特に限定せず、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂およびウレタンアクリレート樹脂などを単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。この熱硬化性樹脂に使用される硬化剤としては、従来公知のものが使用できる。
【0022】
色調調整層4に使用される着色剤としては、特に限定しないが、例えば、白色のために酸化チタン、赤色のためにキナクリドン、紫色のためにジオキサジン、および黒色のためにカーボンブラックなどを用いることができる。
【0023】
上記補強層5は、加飾成形体1の基体となる層であり、樹脂材に繊維材を混入させた繊維強化樹脂からなる。
【0024】
上記樹脂材としては、熱硬化性樹脂であれば特に限定するものではなく、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂およびウレタンアクリレート樹脂などを単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。この熱硬化性樹脂に使用される硬化剤としては、従来公知のものが使用できる。
【0025】
上記繊維材としては、特に限定するものではなく、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、セラミック繊維などがあげられ、特にガラス繊維を用いるのが好適である。繊維材には、一定長さのストランドをそのまま使用する場合の他に、マット状にしたものも使用することができる。例えば、ガラス繊維の場合、ストランドを一定長さに切断したチョップドストランドをバインダーで接着しマット状にしたチョップドストランドマットなどが使用される。また、繊維材は、樹脂材に対して1〜40重量%の範囲で混合されることが好ましい。ここで、繊維材の配合量が1重量%未満であると、繊維材による補強効果は得られず、40重量%を超えて多い場合には、配合の際、粘度が上昇して成形性が悪くなるので好ましくない。繊維材の長さは、1〜80mmのものが好ましく、1mm未満の短繊維の場合、繊維材による補強効果は得られず、また80mmを超えて長い場合、配合の際に粘度が上昇して成形性が悪くなるので好ましくない。
【0026】
なお、補強層5の厚さは、成形体に要求される強度に応じて任意に設定することができ、さらに加飾成形体1に強度が必要なときには、鋼材や合板などをその裏面に積層することで強度を上げることができる。
【0027】
次に、本発明における加飾成形体1の製造方法について具体的に説明する。
【0028】
まず、予め表面に凹凸が設けられた成形型上に、硬化剤を配合した透明な熱硬化性樹脂を、スプレー法によって塗布し、加熱硬化させることで、表面層2を形成する。このとき、熱硬化性樹脂の厚さは0.3〜0.5mmとなるように塗布するのが好ましい。
【0029】
次に、硬化剤を配合した熱硬化性樹脂を、スプレー法によって表面層2上に塗布し、この樹脂が未硬化状態のうちにガラス破砕物31をこの樹脂内に散布し、加熱硬化させることで、加飾層3を形成する。このとき、加飾層3の不飽和ポリエステル樹脂の厚さはガラス破砕物31が完全に埋没する程度が好ましい。
【0030】
次に、白色の顔料および硬化剤を熱硬化性樹脂に配合し、この熱硬化性樹脂をスプレー法によって加飾層3上に塗布し、加熱硬化させることで、色調調整層4が形成される。
【0031】
最後に、色調調整層4上に、ガラス繊維を含有する不飽和ポリエステル樹脂をスプレー法によって塗布し、加熱硬化させることで、補強層5が形成される。
【0032】
なお、加飾成形体1の強度を確保するために、必要に応じて補強層5の裏面に鋼材、合板等を積層してもよい。
【0033】
また、それぞれの層の積層方法としては、上記したスプレー法に限らず、ハンドレイアップ法などの従来公知の方法を用いることができる。
【0034】
以上のようにして、本実施の形態の加飾成形体1が製造される。
【0035】
図2には、本発明における加飾成形体1の変形例が示されている。
【0036】
本変形例の加飾成形体1は、表面層2と加飾層3との間に中間層6が積層されている。
【0037】
なお、本変形例の加飾成形体1は、前述した実施の形態の加飾成形体1と中間層6を除いて同じ構成であるので、同一部材には同一符号を付してその説明を省略し、相違点である中間層6についてのみ説明する。
【0038】
上記中間層6は、加飾層3や表面層2で発生した亀裂の成長を防ぐための層であり、樹脂材に繊維材が混入された繊維強化樹脂からなる。中間層6は、加飾層3および色調調整層4を表面から視認する障害とならないように、透過可能にする必要があるため、透明または半透明にされる。ここで、中間層6を透明にした場合には、中間層6を透過して加飾層3を視認させるのに影響がほとんどないことから、中間層6を任意の厚さにすることができる。しかし、中間層6を半透明にした場合には、中間層6を透過して加飾層3を視認させるのに影響が大きくなる。そのため、表面層2と中間層6とを併せたときのヘイズ値が適切な値となるように、それぞれの着色度合および厚さを設計することが必要である。中間層6を半透明にする方法としては、特に限定するものではないが、例えば、中間層6の透明熱硬化性樹脂に不透明な熱硬化性樹脂を添加して半透明にする方法などがあげられる。このような不透明な透明熱硬化性樹脂としては、特に限定されず、例えば、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂に、充填剤、顔料、硬化促進剤などを混合したものが使用される。また、透明熱硬化性樹脂に添加する不透明熱硬化性樹脂の量は、1〜5重量%とするのが好ましい。
【0039】
上記樹脂材としては、熱硬化性樹脂であれば特に限定するものではなく、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂などを単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。また、この熱硬化性樹脂には、屈折率を下げるためにメタクリル酸モノマーを含んだものが好ましい。この中間層6の熱硬化性樹脂の屈折率を下げて、水の屈折率に近い値に調節することによって、加飾成形体1の表面が乾いた状態と濡れた状態とで加飾層3の見え方を変えることができるため、それぞれの状態での意匠感を変えることができる。この熱硬化性樹脂に使用される硬化剤としては、従来公知のものが使用できる。
【0040】
上記繊維材としては、特に限定するものではなく、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、セラミック繊維などがあげられる。しかしながら、中間層6を透かして加飾層3などが視認できるように、中間層6は透明または半透明である必要があり、このため、繊維材には特にガラス繊維を用いるのが好適である。また、上記樹脂材の屈折率を繊維材の屈折率に合わせておくとよく、これにより中間層6内の樹脂材と繊維材とを表面から判別できないようにすることができる。また、繊維材は、一定長さのストランドをそのまま使用する場合の他に、マット状にしたものも使用することができる。例えば、ガラス繊維の場合、ストランドを一定長さに切断したチョップドストランドをバインダーで接着しマット状にしたチョップドストランドマットなどが使用される。また、繊維材は、樹脂材全体に対して1〜40重量%の範囲で混合されることが好ましい。ここで、繊維材の配合量が1重量%未満であると、繊維材による補強効果は得られず、40重量%を超えて多い場合には、配合の際、粘度が上昇して成形性が悪くなるので好ましくない。繊維材の長さは、1〜80mmのものが好ましく、1mm未満の短繊維の場合、繊維材による補強効果は得られず、また80mmを超えて長い場合、配合の際に粘度が上昇して成形性が悪くなるので好ましくない。
【0041】
次に、本変形例における加飾成形体1の製造方法について簡単に説明する。
【0042】
まず、成形型上に積層された表面層2上に、チョップドストランドマットを積層し、硬化剤を配合した熱硬化性樹脂をこのマットに含浸させて、加熱硬化させることで、中間層6を形成する。また、積層方法としては、上記したチョップドストランドマットを用いる方法に限らず、スプレー法やハンドレイアップ法などの従来公知の方法を用いることができる。
【0043】
この後、中間層6上に、先に説明したように、加飾層3、色調調整層4、および補強層5の順に積層することで、本変形例の加飾成形体1を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明における加飾成形体を示す断面図である。
【図2】本発明における加飾成形体の変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 加飾成形体
2 表面層
3 加飾層
31 ガラス破砕物
4 色調調整層
5 補強層
6 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半透明の熱硬化性樹脂からなる表面層と、
この表面層の裏面に積層され、ガラス破砕物を含有する熱硬化性樹脂からなる加飾層と、
この加飾層の裏面に積層され、着色された熱硬化性樹脂からなる色調調整層と、
この色調調整層の裏面に積層され、繊維強化樹脂からなる補強層とを備えたことを特徴とする加飾成形体。
【請求項2】
前記表面層と前記加飾層との間に、透明または半透明の繊維強化樹脂からなる中間層が積層されたことを特徴とする請求項1に記載の加飾成形体。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−289913(P2006−289913A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117263(P2005−117263)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(501362906)積水ホームテクノ株式会社 (89)
【Fターム(参考)】